(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】リップコータ型の塗工装置とその塗工方法
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20240515BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240515BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20240515BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B05C5/02
B05C11/10
B05D1/26 Z
B05D7/00 N
(21)【出願番号】P 2020138970
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000240341
【氏名又は名称】株式会社ヒラノテクシード
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 春樹
(72)【発明者】
【氏名】戸倉 康裕
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 文生
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-219400(JP,A)
【文献】特開2004-050157(JP,A)
【文献】特開平02-152574(JP,A)
【文献】特開2006-198554(JP,A)
【文献】特開2012-075978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00-21/00
B05D 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方へ走行するウエブを下周面に抱きかかえて、所定の回転速度で回転するバックアップロールと、
前記バックアップロールの下方に配されたノズルヘッドと、
前記ノズルヘッドの上面に突設されたドクターエッジと、
前記ノズルヘッド内部の幅方向に設けられた塗工液の第1液溜め室と、
前記第1液溜め室と前記ドクターエッジの後方に位置する前記ノズルヘッドの上面との間に形成された前記塗工液の流出路と、
前記ノズルヘッドの上後部で、かつ、前記ウエブの走行用の間隙を残して前記バックアップロールの前記下周面まで立設された液溜め壁と、
前記ノズルヘッドと前記バックアップロールとの間の左右両側部に配された左右一対の隔壁と、
前記バックアップロールの前記下周面、前記ドクターエッジ、前記液溜め壁、左右一対の前記隔壁、及び前記ノズルヘッドの上面とより囲まれた第2液溜め室と、
前記ノズルヘッドの前記第1液溜め室に前記塗工液を給液する給液ポンプと、
前記ノズルヘッドと前記給液ポンプとの間に設けられ、かつ、前記第1液溜め室、前記流出路、前記第2液溜め室に溜まった前記塗工液を吸引するサックバック装置と、
前記ノズルヘッドを上下動させる上下動シリンダと、
制御部とを有し、
前記制御部は、
前記ウエブの継目部が前記ノズルヘッドの上方を通過するときに、前記給液ポンプの給液量を基準給液量から時間に比例して減少させ始めると共に、前記サックバック装置によって、前記第2液溜め部において前記塗工液の液面が前記ドクターエッジの刃先の高さよりも低い位置になるまでの量を吸引して前記第2液溜め部から前記塗工液が溢れないようにしてから前記給液ポンプを停止させ、その後に前記上下動シリンダによって前記ノズルヘッドを下降させ、
前記ウエブの前記継目部が前記ノズルヘッドの上方を通過した後に、前記上下動シリンダによって前記ノズルヘッドを上昇させた後に、前記給液ポンプの前記給液量を前記基準給液量まで時間に比例して増加させると共に、前記サックバック装置によって吸引した前記塗工液を前記ノズルヘッドに全て押し出す、
ことを特徴とするリップコータ型の塗工装置。
【請求項2】
前記サックバック装置の吸引量と押出し量が等しい、
請求項1に記載のリップコータ型の塗工装置。
【請求項3】
前方へ走行するウエブを下周面に抱きかかえて、所定の回転速度で回転するバックアップロールと、
前記バックアップロールの下方に配されたノズルヘッドと、
前記ノズルヘッドの上面に突設された
ドクターエッジと、
前記ノズルヘッド内部の幅方向に設けられた
塗工液の第1液溜め室と、
前記第1液溜め室と前記ドクターエッジの後方に位置する前記ノズルヘッドの上面との間に形成された前記塗工液の流出路と、
前記ノズルヘッドの上後部で、かつ、前記ウエブの走行用の間隙を残して前記バックアップロールの前記下周面まで立設された液溜め壁と、
前記ノズルヘッドと前記バックアップロールとの間の左右両側部に配された左右一対の隔壁と、
前記バックアップロールの前記下周面、前記液溜め壁、前記ドクターエッジ、左右一対の前記隔壁、及び前記ノズルヘッドの上面とより囲まれた第2液溜め室と、
前記ノズルヘッドの前記第1液溜め室に前記塗工液を給液する給液ポンプと、
前記ノズルヘッドと前記給液ポンプとの間に設けられ、かつ、前記第1液溜め室、前記流出路、前記第2液溜め室に溜まった前記塗工液を吸引するサックバック装置と、
前記ノズルヘッドを上下動させる上下動シリンダと、
を有したリップコータ型の塗工装置の塗工方法であって、
前記ウエブの継目部が前記ノズルヘッドの上方を通過するときに、前記給液ポンプの給液量を基準給液量から時間に比例して減少させ始めると同時に、前記サックバック装置によって、前記第2液溜め部において前記塗工液の液面が前記ドクターエッジの刃先の高さよりも低い位置になるまでの量を吸引して前記第2液溜め部から前記塗工液が溢れないようにしてから前記給液ポンプを停止させ、その後に前記上下動シリンダによって前記ノズルヘッドを下降させ、
前記ウエブの前記継目部が前記ノズルヘッドの上方を通過した後に、前記上下動シリンダによって前記ノズルヘッドを上昇させた後に、前記給液ポンプの前記給液量を前記基準給液量まで時間に比例して増加させると共に、前記サックバック装置によって吸引した前記塗工液を前記ノズルヘッドに全て押し出す、
ことを特徴とするリップコータ型の塗工装置の塗工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙、布帛、フィルム、金属箔などの長尺状のウエブに塗工液を塗工するリップコータ型の塗工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リップコータ型の塗工装置は、ウエブを搬送するバックアップロールの下方にドクターエッジを有するノズルヘッドが配され、バックアップロールの下周面を前方へ走行するウエブにドクターエッジによって塗工液を塗工する。
【0003】
このノズルヘッドの上部には、塗工液の液溜め部が形成されている。この液溜め部は、バックアップロールの下周面、ウエブに塗工液を塗工するドクターエッジ、ノズルヘッドの後部にある液溜め壁、ノズルヘッドの左右両側部に配された左右一対の隔壁によって囲まれている。
【0004】
長尺状のウエブには、古いウエブと新しいウエブとの継目部が存在する。この継目部は、他の部分よりも厚くなっているのでバックアップロールとドクターエッジの間隙を通過する際には、この間隙を大きくする必要がある。そのため、継目部が通過するときに、ノズルヘッドを下方に移動させ上記間隙を大きくし、継目部が通過すると再びノズルヘッドを上昇させる継目処理(ジャンピング動作)を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、継目処理は、次のような動作を行っている。
【0007】
まず、ノズルヘッドを下降させる前に、液溜め部から塗工液が溢れるのを防止するため、塗工液の給液ポンプを停止させると共に、液溜め部から塗工液を抜いて、抜いた塗工液をリリーフバルブから廃棄している。
【0008】
次に、ノズルヘッドを下降させて間隙を大きくし、ウエブの継目部を通過させる。
【0009】
次に、ノズルヘッドを元の高さに上昇させ、給液ポンプを運転して塗工液を液溜め部に給液してから、ウエブに塗工を開始する。
【0010】
しかし、この継目処理の方法であると、高価な塗工液を廃棄するという問題点があった。
【0011】
そこで本発明は上記問題点に鑑み、ウエブの継目処理において、塗工液の廃棄をなくすことができるリップコータ型の塗工装置とその塗工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前方へ走行するウエブを下周面に抱きかかえて、所定の回転速度で回転するバックアップロールと、前記バックアップロールの下方に配されたノズルヘッドと、前記ノズルヘッドの上面に突設されたドクターエッジと、前記ノズルヘッド内部の幅方向に設けられた塗工液の第1液溜め室と、前記第1液溜め室と前記ドクターエッジの後方に位置する前記ノズルヘッドの上面との間に形成された前記塗工液の流出路と、前記ノズルヘッドの上後部で、かつ、前記ウエブの走行用の間隙を残して前記バックアップロールの前記下周面まで立設された液溜め壁と、前記ノズルヘッドと前記バックアップロールとの間の左右両側部に配された左右一対の隔壁と、前記バックアップロールの前記下周面、前記ドクターエッジ、前記液溜め壁、左右一対の前記隔壁、及び前記ノズルヘッドの上面とより囲まれた第2液溜め室と、前記ノズルヘッドの前記第1液溜め室に前記塗工液を給液する給液ポンプと、前記ノズルヘッドと前記給液ポンプとの間に設けられ、かつ、前記第1液溜め室、前記流出路、前記第2液溜め室に溜まった前記塗工液を吸引するサックバック装置と、前記ノズルヘッドを上下動させる上下動シリンダと、制御部とを有し、前記制御部は、前記ウエブの継目部が前記ノズルヘッドの上方を通過するときに、前記給液ポンプの給液量を基準給液量から時間に比例して減少させ始めると共に、前記サックバック装置によって、前記第2液溜め部において前記塗工液の液面が前記ドクターエッジの刃先の高さよりも低い位置になるまでの量を吸引して前記第2液溜め部から前記塗工液が溢れないようにしてから前記給液ポンプを停止させ、その後に前記上下動シリンダによって前記ノズルヘッドを下降させ、前記ウエブの前記継目部が前記ノズルヘッドの上方を通過した後に、前記上下動シリンダによって前記ノズルヘッドを上昇させた後に、前記給液ポンプの前記給液量を前記基準給液量まで時間に比例して増加させると共に、前記サックバック装置によって吸引した前記塗工液を前記ノズルヘッドに全て押し出す、ことを特徴とするリップコータ型の塗工装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ウエブの継目処理を行っている場合は、サックバック装置によって塗工液をノズルヘッドから吸引し、継目処理が終わった場合には吸引している塗工液を押し出してノズルヘッドに戻すため、塗工液を廃棄することがない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態を示すリップコータ型のノズルヘッドの縦断面図である。
【
図5】塗工装置の継目処理におけるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態のリップコータ型の塗工装置10について
図1~
図6を参照して説明する。本実施形態の塗工装置10によって塗工液が塗工されるウエブWは、例えば、紙、布帛、フィルムなどである。
【0016】
(1)塗工装置10の要部の構成
塗工装置10の要部の構成について
図1と
図2を参照して説明する。リップコータ型の塗工装置10は、バックアップロール12とノズルヘッド14とを有している。
【0017】
バックアップロール12は、回転することによって、下周面に抱きかかえたウエブWを前方へ一定の走行速度Vで走行させる。
図1と
図2では、時計回りの方向に回転する。
【0018】
図1と
図2に示すように、ノズルヘッド14は、バックアップロール12の下方に配されている。ノズルヘッド14は、ヘッド本体16、ヘッド本体16の後部に取り付けられる蓋体22とより構成されている。ノズルヘッド14は、バックアップロール12とほぼ同じ幅を有している。
【0019】
図1に示すように、ヘッド本体16の前面16bの上部は傾斜し、その上端部にドクターエッジ18が突設されている。このドクターエッジ18は、縦断面円弧型に形成されたコンマ型のドクターエッジ18である。このドクターエッジ18の前先端にある刃先と、バックアップロール12との間隙をウエブWが走行する。
【0020】
図1と
図2に示すように、ヘッド本体16の後面16aは、フラットな垂直面に形成されている。ヘッド本体16の幅方向における中央部には、前後方向に給液口20が前後方向に貫通している。
【0021】
図1に示すように、蓋体22は、ヘッド本体16の後面16aに不図示のボルトによって固定されている。蓋体22の前面には、幅方向に凹部24が形成されている。そして、ヘッド本体16と蓋体22とを組み合わせたときに、ヘッド本体16の後面16aと蓋体22の凹部24によって、幅方向に延びた第1液溜め部26が形成されている。
【0022】
図1に示すように、ヘッド本体16の後面16aと蓋体22との隙間によって流出路28が第1液溜め部26と連続して幅方向に延びて形成されている。この流出路28は、第1液溜め部26から上方に延びている。流出路28の上端は、ドクターエッジ18の後方において塗工液のスリット状の流出口29を形成している。
【0023】
図1に示すように、蓋体22の後面上端部は傾斜面が形成され、この傾斜面に液溜め壁30がボルト31によって固定されている。液溜め壁30の幅は、蓋体22と同じ幅を有している。液溜め壁30の上端部とバックアップロール12の下周面との間に、ウエブWの走行用の間隙が形成されている。
【0024】
図示は省略するが、ノズルヘッド14の左右両端部には、左右一対の隔壁が立設され、この左右一対の隔壁の上端部は、バックアップロール12の下周面に、一定の間隙を配して位置している。
【0025】
図1に示すように、ドクターエッジ18、ヘッド本体16の上面後部、蓋体22の上面、液溜め壁30の前面、左右一対の隔壁、バックアップロール12の下周面によって囲まれ、閉塞された空間が、第2液溜め部32を構成している。液溜め壁30の前面には液圧センサ34が設けられ、第2液溜め部32内に満たされた塗工液の液圧を検出する。
【0026】
図1に示すように、ドクターエッジ18の下方におけるヘッド本体16の傾斜した前面16bの上部には、幅方向にスリット36が設けられている。このスリット36の一端は、ヘッド本体16の前面16bの上部に幅方向に延びて開口し、スリット36は、後方に行くほど下方に傾斜して設けられている。ヘッド本体16の上部には、スリット36と直交して貫通するように調整ボルト38が幅方向に複数本等間隔に設けられている。調整ボルト38の頭は、ノズルヘッド14の前面16bから突出し、この調整ボルト38のヘッド本体16に対する羅合具合を調整することによって、スリット36の間隙を調整できる。スリット36の間隙が変化すれば、ドクターエッジ18の刃先が上下動して、2μm~3μmの寸法でバックアップロール12との間隙が調整できる。
【0027】
図2に示すように、ノズルヘッド14の下方にはベンド装置40が設けられている。このベンド装置40は、塗工液を塗工するときの圧力により、ノズルヘッド14が中央部ほど下方に湾曲するのを防止するため、ベンド装置40の上面にある押圧部42で、ノズルヘッド14の下面の中央部を上方に押圧し、その撓みを防止する。
【0028】
図2に示すように、ベンド装置40は、上下動シリンダ44と背圧シリンダ46によって支持されている。この上下動シリンダ44は、ノズルヘッド14とベンド装置40を上下動させるものである。背圧シリンダ46は、上下動シリンダ44によってノズルヘッド14とベンド装置40が下降するときに(
図1の二点鎖線を参照)、背圧を上方にかけることにより、ノズルヘッド14とベンド装置40が急激に下降するのを防止し、ゆっくりと下降できるようにするものである。
【0029】
図2に示すように、上下動シリンダ44には、ノズルヘッド14のドクターエッジ18を上下動させた距離に合わせてON/OFFする刃先上限スイッチ48が設けられている。この刃先上限スイッチ48は、ノズルヘッド14のドクターエッジ18の刃先が最も上端に位置するときにON状態となり、その位置より下降したときにOFF状態となる。
【0030】
(2)塗工装置10の全体的構成
次に、塗工装置10の全体的構成について
図2を参照して説明する。
【0031】
バックアップロール12は、モータ60によって所定の回転速度で回転する、
図2においては時計回りの方向に回転する。この回転速度は、ウエブWの走行速度Vに合わせたものである。
【0032】
タンク52に溜められている塗工液は、給液ポンプ54によってノズルヘッド14に圧送される。また、給液ポンプ54とノズルヘッド14の給液口20との間には、サックバック装置70が設けられている。給液ポンプ54から圧送された塗工液は、第1給液管56を通ってサックバック装置70の入口76に入り、サックバック装置70の出口74から第2給液管58を通ってノズルヘッド14の給液口20に送られる。給液ポンプ54は、定量ポンプであり、ポンプモータの回転数によって、単位時間当たりに給液される量が決定される。サックバック装置70については、後から詳しく説明する。
【0033】
ウエブ接続装置62が、塗工装置10によってウエブWに塗工を行う前の工程に設けられている。長尺状のウエブWは、巻芯に巻かれた状態から巻き出されて塗工装置10に至る。ウエブ接続装置62は、古い巻芯から巻き出された古いウエブWが殆ど無くなった場合に、その古いウエブWの終端と、満巻状態の新しい巻芯から巻き出された新しいウエブWの始端とを両面テープ64で接続し、両面テープ64より後方にある古いウエブWの不要な部分をカッタによって切断する。この両面テープ64によって接続された古いウエブWと新しいウエブWの重なった位置が継目部66である。
【0034】
ウエブ接続装置62と塗工装置10との間には、継目部66を検出するための継目センサ68が設けられている。
【0035】
(3)サックバック装置70
次に、サックバック装置70について
図3と
図4を参照して説明する。
【0036】
図3と
図4に示すように、サックバック装置70は、筒型シリンダ72を有し、筒型シリンダ72の前端部には塗工液の出口74が開口している。筒型シリンダ72の外周面一側部には、筒型シリンダ72と直交するように塗工液の入口76が開口している。
【0037】
図3と
図4に示すように、筒型シリンダ72には、支持板78が取り付けられている。支持板78は、コ字状であって、前板78a、後板78b、前板78aと後板78bと間隔を開けて平行な状態で連結する連結板78cよりなり、筒型シリンダ72の後部が、支持板78の前板78aに固定されている。
【0038】
図3と
図4に示すように、支持板78の後板78bにはエアーシリンダ80が取り付けられている。エアーシリンダ80の前部と後部からはシャフト86が軸方向(前後方向)にそれぞれ突出し、エアーシリンダ80によって往復移動する。
【0039】
図3と
図4に示すように、筒型シリンダ72の後端部と、支持板78の後板78bとの間には、リニアブッシュ82が設けられ、シャフト86を軸方向に直線移動自在に支持している。
【0040】
図3に示すように、シャフト86の前端部は筒型シリンダ72に挿入され、その前端部にはピストン84が取り付けられている。ピストン84の周囲には、オムニシール87(登録商標)が設けられている。シャフト86が軸方向に直線移動することにより、筒型シリンダ72内部でピストン84がA点(吸引状態)とB点(押出し状態)との間を直線移動する。
【0041】
図3と
図4に示すように、リニアブッシュ82の後方であって、支持板78の後板78bの前面には、第1ストローク調整用カラー88がシャフト86に取り付けられている。ピストン84によって塗工液を入口76と出口74から筒型シリンダ72内に吸引する場合には、シャフト86に取り付けられた第1ストローク調整用カラー88が支持板78の後板78bに当たるまで移動することにより、ピストン84をB点まで移動させて塗工液を吸引する。
【0042】
図3と
図4に示すように、エアーシリンダ80の後部から突出したシャフト86の後端部には、エアーシリンダ80とは所定間隔を開けて第2ストローク調整用カラー90が設けられている。ピストン84で筒型シリンダ72の出口74から塗工液を押し出す場合に、シャフト86の後端部に取り付けられた第2ストローク調整用カラー90がエアーシリンダ80の後端部に当たるまで移動することにより、ピストン84をA点まで移動させて塗工液を押し出す。
【0043】
サックバック装置70の吸引量S1と押出し量S2は等しく、これらの量はA点からB点までの軸方向の移動距離Mと筒型シリンダ72の内径Rで決定される。すなわち、S1=S2=M*2*π*R2となる。そして、第1ストローク調整用カラー88の軸方向の長さと、第2ストローク調整用カラー90の軸方向の長さを調整することによって、ピストン84が移動する距離が調整でき、サックバック装置70の吸引量S1と押出し量S2を調整できる。すなわち、第1ストローク調整用カラー88の軸方向の長さを短く、かつ、第2ストローク調整用カラー90の軸方向の長さが短くすると、ピストン84のA点が後方に移動し、ピストン84のB点が前方に移動して、移動距離Mが長くなり、吸引量S1と押出し量S2が大きくなる。
【0044】
図3と
図4に示すように、エアーシリンダ80には、引き込み用空気入口80aと押出し用空気入口80bが設けられている。エアーシリンダ80に空気を送るコンプレッサ92の出口には、引き込み用空気入口80aに空気を送る出口と押出し用空気入口80bに空気を送る出口を有する流路切り替え電磁弁(三方弁)94が接続されている。流路切り替え電磁弁94の2つの出口には、空気の流速を調整するためにスピードコントローラ96とスピードコントローラ98がそれぞれ設けられている。流路切り替え電磁弁94によって、引き込み用空気入口80a又は押出し用空気入口80bの何方かへ空気が流れるように選択し、その流速はスピードコントローラ96又はスピードコントローラ98によって調整する。この調整された流速に合わせてピストン84が軸方向に移動する速度が決まるため、塗工液を吸引する時間と押出す時間を調整できる。
【0045】
(4)塗工装置10の電気的構成
次に、塗工装置10の電気的構成について
図2を参照して説明する。
【0046】
塗工装置10の制御部50は、コンピュータより構成され、作業員によって操作される。
【0047】
制御部50には、バックアップロール12のモータ60、ノズルヘッド14に設けられた液圧センサ34、上下動シリンダ44、背圧シリンダ46、刃先上限スイッチ48、サックバック装置70のエアーシリンダ80に空気を送るコンプレッサ92、流路切り替え電磁弁94、給液ポンプ54、継目センサ68が接続され、さらにウエブ接続装置62に内蔵されている古いウエブWを切断するときのカッタの動作信号が入力する。
【0048】
なお、上下動シリンダ44、背圧シリンダ46もコンプレッサ92から空気が送られる。
【0049】
(5)塗工処理の制御方法
次に、塗工装置10が、ウエブWに塗工液を塗工するときの塗工処理の制御方法について
図1~
図4を参照して説明する。
【0050】
図1と
図2に示すように、一定の走行速度Vで走行するウエブWが、バックアップロール12の下周面に抱きかえられて前方に走行している。
【0051】
図1に示すように、塗工装置10のノズルヘッド14は、走行するウエブWの下方であって、かつ、ドクターエッジ18の刃先が所定の間隙(塗工間隙)を開けてウエブWの下方に位置している。このときの塗工間隙は、
図2に示すように、ノズルヘッド14を上下動シリンダ44で上昇させて刃先上限スイッチ48がON状態であり、
図1に示すように、ヘッド本体16にある調整ボルト38によって塗工間隙が微調整されている。
【0052】
給液ポンプ54は、
図2に示すように、サックバック装置70を経てノズルヘッド14の給液口20から第1液溜め部26に塗工液を予め定められた基準給液量で圧送する。この場合に、
図3に示すように、サックバック装置70におけるピストン84は、最も塗工液を押し出した状態のB点に位置している。塗工液は第1液溜め部26から流出路28、流出口29を通り、第2液溜め部32に至る。塗工液で満たされた第2液溜め部32の液圧を液圧センサ34で検出し、制御部50は、この液圧センサ34からの液圧値が常に基準液圧値になるように、バックアップロール12とドクターエッジ18の刃先との塗工間隙を拡げたり狭めたりしてフィードバック制御している。そして、ウエブWへの塗工液の厚みは、バックアップロール12とドクターエッジ18の刃先との塗工間隙と第2液溜め部32の内圧(基準液圧値)によって決定される。基準液圧値は、塗工液が第2液溜め部32を満たした状態で、かつ、液溜め壁30とバックアップロール12との間隙からオーバーフローしないように設定しておく。ウエブWは塗工液が満たされた第2液溜め部32を通過してドクターエッジ18まで走行し、ドクターエッジ18の刃先による線圧によって塗工液が塗工される。
【0053】
この場合に、塗工液が狭い流出路28を通過することにより塗工液の圧力が均一化され、また、第2液溜め部32は、流出口29より前方に膨らまして流出路28の容積より大きく形成されているため、第2液溜め部32内部を大気の圧力より高い基準液圧値に保持し易い。そのため、ウエブWが液溜め壁30とバックアップロール12との間隙から第2液溜め部32内部に搬入される際に、第2液溜め部32内部に空気が侵入することが無く、それによりウエブWの塗工部分に気泡が生じることがない。
【0054】
また、ドクターエッジ18はコンマ型であるため、ドクターエッジ18の刃先に接近するほど第2液溜め部32の容積が次第に小さくなり、それに伴ってウエブWにかかる圧力は次第に高くなり、また、圧力の調整により塗工液を第2液溜め部32外にオーバーフローさせない構造となっている。
【0055】
(6)継目処理の制御方法
塗工装置10が、上記のようにウエブWに塗工液を塗工している場合に、古いウエブWと新しいウエブWとの継目部66が通過するときの継目処理の制御方法について、
図5のフローチャートと
図6のタイミングチャートを参照して説明する。
【0056】
ステップS1において、ウエブ接続装置62が動作して古いウエブWと新しいウエブWとを両面テープ64で接着し、古いウエブWの不要な終端の部分をカッタで切断すると、そのカッタの動作信号(以下、「第1継目信号」という)が制御部50に入力する。このとき、カッタの切断位置からドクターエッジ18の刃先までの距離をL1とすると、ウエブWの走行速度Vであるので、切断位置からドクターエッジ18の刃先まで、継目部66が到達する時間は、T1(秒)=L1/Vとなる。
【0057】
そして、継目部66が走行し、継目センサ68の位置に到達すると、継目センサ68から制御部50にセンサ信号(以下、「第2継目信号」という)が入力する。継目センサ68からドクターエッジ18の刃先までの距離をL2とすると、継目センサ68からドクターエッジ18まで、継目部66が到達する時間は、T2(秒)=L2/Vとなる。そしてステップS2に進む。
【0058】
ステップS2において、制御部50は、第1継目信号と第2継目信号が入力してから所定時間後に第2液溜め部32内の塗工液の液圧を基準液圧値に維持するフィードバック制御による液圧制御を停止する。そしてステップS3に進む。
【0059】
ステップS3において、制御部50は、液圧制御を停止させると、給液ポンプ54のポンプモータの回転速度を通常の速度(RUN)から落とし、ノズルヘッド14に対する給液量を基準給液量から次第に減少させる。この場合には、制御部50は、給液量を時間に比例して減少させていく。
【0060】
また、制御部50は、給液ポンプ54の給液量を減少させ始めたと同時に、サックバック装置70によって、ノズルヘッド14(第1液溜め部26、流出路28、第2液溜め部32)に溜まっている塗工液を瞬時に吸引する。この吸引量は、第2液溜め部32において、
図1に示すように、塗工液の液面がドクターエッジ18の刃先の高さよりも低い位置になるまでの量を瞬時に吸引する。この理由は、ノズルヘッド14が下がり、今までバックアップロール12で閉塞されていた第2液溜め部32の上面が開口すると、第2液溜め部32の上面から塗工液が溢れることとなり、特にドクターエッジ18の刃先の位置が最も低い位置にあるため、この位置より液面を低くくして塗工液が溢れないようにする。そしてステップS4に進む。
【0061】
ステップS4において、制御部50は、給液ポンプ54を完全に停止(STOP)させ、ノズルヘッド14に対する給液を停止する。そしてステップS5に進む。
【0062】
ステップS5において、制御部50は、ステップS3における給液ポンプ54における給液量の減少開始時刻及びサックバック装置70による塗工液の給液を吸引した時刻からTjp秒後にノズルヘッド14の下降を上下動シリンダ44で開始する。この場合に下降と同時に背圧シリンダ46によって上方への背圧をかけ、ノズルヘッド14が急激に下降しない。Tjp秒後したのは、給液ポンプ54を急激に停止させた場合には、給液ポンプ54に負荷がかかり寿命が短くなるため、次第に給液量を減少させるためのは猶予時間である。そしてステップS6に進む。
【0063】
ステップS6において、ノズルヘッド14が下降を開始すると、制御部50は、上下動シリンダ44にある刃先上限スイッチ48がOFF状態を検出する。これにより制御部50は、ノズルヘッド14にあるドクターエッジ18の刃先が上限位置から下降したことを検出できる。なお、上下動シリンダ44の下降開始時刻と、刃先上限スイッチ48がOFFになる時刻がずれているのは、刃先の上限位置の誤差を考慮したためである。そしてステップS7に進む。
【0064】
ステップS7において、第1継目信号が入力してからT1秒後、第2継目信号が入力してからT2秒後、ノズルヘッド14が下降開始時刻からTjl秒後に、ノズルヘッド14が、所定の位置まで下降し、ドクターエッジ18の刃先と、位置が固定されているバックアップロール12との間隙が大きく開くと、制御部50は上下動シリンダ44によるノズルヘッド14の下降を停止する。このときまで間隙を大きくしないと継目部66が刃先に当たるからである。なお、背圧シリンダ46による背圧はかけたままとする。そしてステップS8に進む。
【0065】
ステップS8において、ドクターエッジ18の刃先とバックアップロール12との間隙が大きく開いた状態を、ウエブWの継目部66が、完全に通過するまで維持する。継目部66は、両面テープ64の前端部から、古いウエブWの終端までの長さを有しているため、予め設定したT3秒間は待機状態とする。そしてステップS9に進む。
【0066】
ステップS9において、継目部66が完全に通過すると、制御部50は、上下動シリンダ44によってノズルヘッド14の上昇を開始する。このとき背圧シリンダ46による背圧は停止する。そしてステップS10に進む。
【0067】
ステップS10において、ノズルヘッド14が上昇すると、刃先上限スイッチ48がOFF状態からON状態となる。そしてステップS11に進む。
【0068】
ステップS11において、制御部50は、刃先上限スイッチ48がON状態になってから所定時間後に、ノズルヘッド14の上昇を停止させる。刃先上限スイッチ48がON状態になってから所定時間後にノズルヘッド14の上昇を停止させるのは、ノズルヘッド14の上昇を確実に確認するためである。そして、ステップS12に進む。
【0069】
ステップS12において、制御部50は、給液ポンプ54による給液を再開し、このとき給液量は時間に比例して増加させ、Thd秒に基準給液量まで引き上げる。急激に基準給液量まで上昇させないのは給液ポンプ54に負荷がかかるのを防止するためである。それと同時にサックバック装置70が、吸引していた塗工液をノズルヘッド14に全て瞬時に押し出す。そしてステップS13に進む。
【0070】
ステップS13において、給液ポンプ54の給液量が、基準給液量に到達するとステップS14に進む。
【0071】
ステップS14において、第2液溜め部32は、サックバック装置70からの押し出された塗工液と給液ポンプ54から給液された塗工液によって満たされるため、制御部50は液圧センサ34によって第2液溜め部32内の塗工液の液圧が基準液圧値になるようにフィードバック制御を行う液圧制御を再開する。これにより、継目処理が終了する。継目処理の時間Tは、液圧制御を停止してから再開するまでのT0秒である。
【0072】
(7)効果
本実施形態によれば、継目部66が通過するために、ノズルヘッド14を下降させた場合に、ノズルヘッド14の第2液溜め部32の塗工液をサックバック装置70で吸引して液面をドクターエッジ18の刃先より下げるため、塗工液がドクターエッジ18の刃先から溢れたり、ウエブWに不要な塗工液が付くことがない。また、サックバック装置70は、瞬時に塗工液を吸引するため、継目処理の時間を短くできる。
【0073】
また、この継目処理において給液ポンプ54の制御を急に停止させたり、停止状態から急に動作させないため、機械的な負荷が少なくなり、給液ポンプ54の寿命を延ばすことができる。
【0074】
また、サックバック装置70により、給液した全ての塗工液は、塗工を再開するときにノズルヘッド14に押出して戻すため、塗工液を破棄する必要がない。
【変更例】
【0075】
上記実施形態では、サックバック装置70のピストン84の移動をエアーシリンダ80で行ったが、これに代えてサーボモータによって行ってもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、給液ポンプ54を継目処理中は完全に停止させたが、これに代えて一定量の塗工液を給液する制御にしてもよい。但し、サックバック装置70による吸引量が第2液溜め部32から差し引く量と継目処理中に給液ポンプが給液した量の合計を吸引する必要がある。この場合であると給液ポンプ54を完全に停止させる必要がないため、給液ポンプ54に機械的な負荷がよりかからなくなり、給液ポンプ54の寿命を延ばすことができる。
【0077】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
10・・・塗工装置、12・・・バックアップロール、14・・・ノズルヘッド、16・・・ヘッド本体、18・・・ドクターエッジ、20・・・給液口、26・・・第1液溜め部、32・・・第2液溜め部、34・・・液圧センサ、44・・・上下動シリンダ、46・・・背圧シリンダ、48・・・刃先上限スイッチ、50・・・制御部、54・・・給液ポンプ、62・・・ウエブ接続装置、64・・・両面テープ、66・・・継目部、68・・・継目センサ、70・・・サックバック装置