(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】緩和スペクトル算出方法、物性値算出方法、システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20240515BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20240515BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/10
(21)【出願番号】P 2020142503
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】唐津 秀一
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-076280(JP,A)
【文献】特開2004-160700(JP,A)
【文献】国際公開第2019/199173(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0032029(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/20
G06F 30/10
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
所定解析条件下において高分子モデルを用いた分子動力学計算を行い、各解析時点における応力データを算出するステップと、
前記応力データに基づき各解析時点の第1緩和弾性率を算出するステップと、
前記第1緩和弾性率を微分処理して第1緩和スペクトルを算出するステップと、
前記第1緩和スペクトルを積分処理して第2緩和弾性率を算出するステップと、
前記第2緩和弾性率を微分処理して第2緩和スペクトルを算出するステップと、
を含む、緩和スペクトル算出方法。
【請求項2】
前記高分子モデルは、架橋ゴムモデルであり、
次の式(3)を用いて前記第1緩和スペクトルから前記第2緩和弾性率を算出する、請求項1に記載の方法。
【数1】
ただし、tは解析時点、H
1(τ)は第1緩和スペクトル、G
2(t)は第2緩和弾性率である。Cは、平衡弾性率であり、第1緩和弾性率G
1(t)の収束値である。
【請求項3】
解析開始時点から全解析時間の40%の時間が経過した時点以降の第1緩和弾性率の平均値を算出して、前記平均値を前記Cと決定する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記高分子モデルは、未架橋ゴムモデルであり、
次の式(8)を用いて前記第1緩和スペクトルから前記第2緩和弾性率を算出する、請求項1に記載の方法。
【数2】
ただし、H
1(τ)は第1緩和スペクトルであり、G
2(t)は第2緩和弾性率であり、tは解析時点である。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の方法と、
前記第2緩和スペクトルに基づき、貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接のうち少なくとも1つの物性値を算出するステップと、
を含む、物性値算出方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の方法を実行する1又は複数のプロセッサを備える、システム。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の方法を1又は複数のプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、緩和スペクトル算出方法、物性値算出方法、システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
分子動力学シミュレーションを用いて、高分子モデルの貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接などの物性値を計算する手法が、特許文献1に開示されている。その手順は、分子動力学計算を実行し、応力データを取得し、応力データから緩和弾性率を算出し、緩和弾性率から緩和スペクトルを算出し、緩和スペクトルから、貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接(以下、単にtanδとも表記する場合がある)などの物性値を算出する、とのことである。
【0003】
特許文献1でも述べられるように、緩和スペクトル及び物性値の算出精度を向上させることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、算出精度を向上させた、緩和スペクトル算出方法、物性値算出方法、システム、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の緩和スペクトル算出方法は、1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、所定解析条件下において高分子モデルを用いた分子動力学計算を行い、各解析時点における応力データを算出するステップと、前記応力データに基づき各解析時点の第1緩和弾性率を算出するステップと、前記第1緩和弾性率を微分処理して第1緩和スペクトルを算出するステップと、前記第1緩和スペクトルを積分処理して第2緩和弾性率を算出するステップと、前記第2緩和弾性率を微分処理して第2緩和スペクトルを算出するステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】システムが実行する処理を示すフローチャート。
【
図3】架橋ゴムモデルについて応力を出力する時間幅を異ならせた3パターンの緩和弾性率を示す図。
【
図4】架橋ゴムモデルについて従来手法により算出した損失正接を示す図。
【
図5】架橋ゴムについて実験データに基づく損失正接の形状を示す図。
【
図6】架橋ゴムモデルについて、従来手法及び本手法により算出した緩和弾性率、緩和スペクトル、損失正接を対比して示す図。
【
図7】未架橋ゴムモデルについて、従来手法及び本手法により算出した損失正接を対比して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0009】
[緩和スペクトル算出システムおよび物性値算出システム]
本実施形態のシステム1(装置)は、予め設定された高分子モデルデータを用いた分子動力学計算を行い、緩和スペクトルを算出する。また、システム1は、算出した緩和スペクトルを用いて物性値(貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接)を算出する。勿論、緩和スペクトルのみを算出するように構成してもよいし、貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接のうち少なくとも1つを算出するように構成してもよい。
【0010】
図1に示すように、システム1は、設定部10と、分子動力学計算実行部11と、応力算出部12と、第1緩和弾性率算出部13と、第1緩和スペクトル算出部14と、第2緩和弾性率算出部15と、第2緩和スペクトル算出部16と、物性値算出部17と、を有する。物性値算出部17は省略可能である。
【0011】
これら各部10~17は、プロセッサ1a、メモリ1b、各種インターフェイス等を備えたコンピュータにおいて予め記憶されている
図2に示す処理ルーチンをプロセッサ1aが実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。本実施形態では、1つの装置におけるプロセッサ1aが各部を実現しているが、これに限定されない。例えば、ネットワークを用いて分散させ、複数のプロセッサが各部の処理を実行するように構成してもよい。すなわち、1又は複数のプロセッサが処理を実行する。
【0012】
図1に示す設定部10は、キーボードやマウス等の既知の操作部を介してユーザからの操作を受け付け、解析対象となる高分子モデル(架橋ゴムモデル、未架橋ゴムなど)に関する情報の設定、温度・体積などの分子動力学計算に用いる各種解析条件の設定を実行し、これらをメモリに記憶する。
【0013】
図1に示す分子動力学計算実行部11は、予め設定された高分子モデルデータを用いて予め設定された解析条件下において分子動力学計算を行い、各粒子の座標及び速度の時系列データを算出する。一例として、ランジュバン動力学のアルゴリズムによる定温における分子動力学計算などが挙げられる。分子動力学計算は、所定圧力および所定温度において静置された高分子モデルが平衡化するまで実行される。
【0014】
図1に示す応力算出部12は、分子動力学計算実行部11の算出結果(時系列データ)に基づき、各解析時間における応力データを算出する。具体的には、各解析時点における応力テンソルを算出する。
【0015】
図1に示す第1緩和弾性率算出部13は、応力データに基づき各解析時点毎の第1緩和弾性率G
1(t)を算出する。本明細書において、説明の便宜上、下記の第2緩和弾性率算出部15が算出した第2緩和弾性率G
2(t)と区別するために、第1緩和弾性率G
1(t)と表記する。具体的には、時系列データから、せん断応力テンソルの自己相関関数を計算し、式(1)に示すグリーン・久保公式に代入して第1緩和弾性率G
1(t)を算出する。第1緩和弾性率G
1(t)は、各解析時点に緩和弾性率の値が存在する離散的な時系列データである。
【数1】
σ(t)は解析時点tのせん断応力テンソル、Vは体積、Tは温度、K
Bはボルツマン定数である。
【0016】
図3は、鎖長100(モノマー粒子100が連なる)のポリマー100本と架橋粒子300個とを架橋させた架橋ゴムモデル(高分子モデル)を用いて算出した緩和弾性率G
1(t)を示す。
図3の上グラフは、縦軸及び横軸ともにログスケールである。
図3の下グラフは、上グラフの短時間側を拡大して示し、横軸がログスケールである。架橋ゴムモデルは、分子動力学計算において、モノマーと架橋粒子が所定距離近づいた場合に所定確率で固定(架橋)する架橋反応処理を、全ての架橋粒子がいずれかのモノマーに固定されるまで繰り返し実行して生成した。
図3は、応力を出力する時間幅を異ならせて3パターン(ケース1、ケース2、ケース3)を算出した緩和弾性率G
1(t)を示す。本実施形態では、Δt=0.005で2×10
9ステップ算出し、1ステップに応力を出力した例をケース1とした。ケース1の応力を出力する時間幅は0.005である。10ステップ毎に応力の平均値を出力した例をケース2とした。ケース2の応力を出力する時間幅は0.05である。100ステップ毎に応力の平均値を出力した例をケース3とした。ケース3の応力を出力する時間幅は0.5である。勿論、時間幅を異ならせる方法は、これに限定されない。なお、時間の単位は、レナード・ジョーンズ(LJ)単位系であるため、無次元量である。
【0017】
[課題]
図3に示すように、分子シミュレーションにて単位時間Δtを小さくして緩和弾性率G
1(t)を算出したところ、短時間側(高周波数側)に振動(脈動)が見られることを本発明者が発見した。これは、高分子モデルの結合長の緩和に由来すると考えられる。
図4は、振動を含む緩和弾性率に基づき算出した損失正接(tanδ)を示す。
図4は横軸がログスケールである。
図4に示すように、振動は、tanδにおける肩のような突起(図中で矢印で示す)として現れることが分かった。
図5は、実験データに基づく損失正接(tanδ)の形状を示す。
図5に示すように、実験データに基づく損失正接(tanδ)には、肩のような突起がなくなだらかに変化する。なお、
図5の横軸は温度であり、
図4の横軸は周波数であるので、対応させるには、左右を反転させればよい。
よって、緩和スペクトル及び物性値の算出精度に改善の余地があることがわかった。なお、特開2017-76280では、一例として応力データの容量は、応力を出力する時間幅0.005で150GBあり、同時間幅0.05で15GBあり、同時間幅0.5で1.5GBに及び、計算機に必要な容量の問題で、応力を平均して出力していた。そのために、緩和弾性率G
1(t)に脈動が存在するという課題を認識できていなかった。
そこで、算出精度を向上させるために、下記のように、本実施形態のシステム1を構成している。
【0018】
図1に示す第1緩和スペクトル算出部14は、第1緩和弾性率算出部13が算出した第1緩和弾性率G
1を微分処理して第1緩和スペクトルH
1(τ)を算出する。具体的には、式(2)を用いる。
【数2】
【0019】
図1に示す第2緩和弾性率算出部15は、第1緩和スペクトルH
1(τ)を積分処理して第2緩和弾性率G
2(t)を算出する。積分処理をすれば、脈動を除去できるからである。具体的には、式(3)を用いる。
【数3】
ただし、高分子モデルが架橋ゴムモデルである場合には、Cは、平衡弾性率であり、第1緩和弾性率G
1(t)の収束値を示す。高分子モデルが未架橋ゴムモデルである場合には、Cは0である。
【0020】
Cの算出方法は種々あるが、本実施形態では、解析開始時点から全解析時間の40%の時間が経過した時点以降の第1緩和弾性率G1(t)の平均値を算出して、平均値を式(3)のCに決定する。例えば、2×109ステップ計算した場合には、時間スケールにおける全解析時間は2×109×0.005=10.0×106となる。この場合、4.0×106の時点から、終了時点の10.0×106までの第1緩和弾性率G1(t)の平均値がCとなる。もちろん、これに限定されず、4.0×106の時点以降の所定範囲の第1緩和弾性率G1(t)の平均値(収束値)をCとしてもよい。
【0021】
図1に示す第2緩和スペクトル算出部16は、第2緩和弾性率G
2(t)を微分処理して第2緩和スペクトルH
2(τ)を算出する。具体的には、式(4)を用いる。
【数4】
【0022】
図1に示す物性値算出部17は、第2緩和スペクトルH
2(τ)に基づき、貯蔵弾性率G’(ω)、損失弾性率G’’(ω)及び損失正接tanδのうち少なくとも1つの物性値を算出する。具体的には、貯蔵弾性率G’(ω)を式(5)で、損失弾性率G’’(ω)を式(6)で算出する。損失正接tanδは式(7)で算出する。ωは周波数であり、δは歪と応力の位相差を示す。なお、物性値算出部17は実装に応じて省略可能である。
【数5】
【0023】
[緩和スペクトル算出方法および物性値算出方法]
上記システム1が実行する、緩和スペクトル算出方法および緩和スペクトルを用いて物性値を算出する方法を、
図2を用いて説明する。
【0024】
まず、ステップST1において、初期設定部10は、解析対象となる分子モデルデータ、温度・体積などの分子動力学計算に用いる各種解析条件の設定を実行し、これらをメモリに記憶する。
【0025】
ステップST2において、
図1に示す分子動力学計算実行部11は、メモリに記憶されている分子モデルデータを用いて予め設定された解析条件下において分子動力学計算を行い、各粒子の座標及び速度の時系列データを算出する。
【0026】
次のステップST3において、応力算出部12は、時系列データに基づき各解析時間における応力データを算出する。次のステップST4において、第1緩和弾性率算出部13は、応力データに基づき第1緩和弾性率G1(t)を算出する。
【0027】
次のステップST5において、第1緩和スペクトル算出部14は、第1緩和弾性率G1(t)を微分処理して第1緩和スペクトルH1(τ)を算出する。
【0028】
次のステップST6において、第2緩和弾性率算出部15は、第1緩和スペクトルH1(τ)を積分処理して第2緩和弾性率G2(t)を算出する。この積分処理によって緩和弾性率の振動(脈動)が除去される。
【0029】
次のステップST7において、第2緩和スペクトル算出部16は、第2緩和弾性率G2(t)を微分処理して第2緩和スペクトルH2(τ)を算出する。
【0030】
次のステップST8において、物性値算出部17は、第2緩和スペクトルH2(τ)に基づき、貯蔵弾性率G’(ω)、損失弾性率G’’(ω)及び損失正接tanδのうち少なくとも1つの物性値を算出する。
【0031】
[架橋ゴムモデルの算出結果]
本手法の有効性を示すために、
図3に示す緩和弾性率の脈動が見られ且つ
図4に示す損失正接(tanδ)の肩が見られたモデルと同じモデルを用いて、本手法により緩和弾性率、緩和スペクトルおよび損失正接(tanδ)を算出した。その結果を
図6に示す。使用したモデルは、鎖長100(モノマー粒子100が連なる)のポリマー100本と架橋粒子300個とを架橋させた架橋ゴムモデルである。
図6に示すように、第1緩和弾性率G
1(t)は、短時間側に振動(脈動)が見られる。第1緩和弾性率G
1(t)を微分処理して算出された第1緩和スペクトルH
1(τ)も振動していることが分かる。
図6の下部において「tanδ_old」と示すように、第1緩和スペクトルH
1(τ)に基づき算出された損失正接(tanδ)は、周波数ω=10に肩のような突起があることが分かる。
一方、第1緩和スペクトルH
1(τ)を積分処理して算出された第2緩和弾性率G
2(t)は、積分処理によって振動が除去され、振動の中心あたりを通る形状になっていることが分かる。第2緩和弾性率G
2(t)を微分処理して算出された第2緩和スペクトルH
2(τ)も振動が除去されていることが分かる。
図6の下部において「tanδ_new」と示すように、第2緩和スペクトルH
2(τ)に基づき算出された損失正接(tanδ)は、周波数ω=10に存在した突起がなくなっていることが分かる。これは、
図5に示す実験値の滑らかな形状に合致しており、損失正接(tanδ)の算出精度を向上させていることが理解できる。
【0032】
[未架橋ゴムモデルの算出結果]
上記実施形態では、架橋ゴムモデルを用いて第2緩和弾性率及び物性値を算出しているが、高分子モデルであれば、これに限定されない。例えば、未架橋ゴムモデルであってもよい。
図7に示す算出結果は、鎖長100(モノマー粒子100が連なる)のポリマー100本を有する未架橋ゴムモデルを用いた例である。
図7は、未架橋ゴムモデルの損失正接(tanδ)を算出した結果を示す。
図7の下部において「tanδ_old」と示すように、従来手法で算出された損失正接(tanδ)は、周波数ω=10に肩のような突起があることが分かる。
図7の下部において「tanδ_new」と示すように、本手法により、第2緩和スペクトルH
2(τ)に基づき算出された損失正接(tanδ)は、周波数ω=10に存在した突起がなくなっていることが分かる。よって、架橋ゴムモデルでも、未架橋ゴムモデルでも同様に算出精度が向上していることがいえる。
【0033】
なお、ゴムモデルに対して強制的に周期的な歪を与えて応力を算出する強制振動方法も考えられるが、強制振動方法では、応力データが自己相関関数で表現できずに時間軸で連続していないので、本手法が適用できない。本手法は、応力データを用いた自己相関関数で緩和弾性率を表現できる手法に適用可能である。
【0034】
以上のように、本実施形態の緩和スペクトル算出方法は、1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、所定解析条件下において高分子モデルを用いた分子動力学計算を行い、各解析時点における応力データを算出するステップ(ST2,ST3)と、応力データに基づき各解析時点の第1緩和弾性率G1(t)を算出するステップ(ST4)と、第1緩和弾性率G1(t)を微分処理して第1緩和スペクトルH1(τ)を算出するステップ(ST5)と、第1緩和スペクトルH1(τ)を積分処理して第2緩和弾性率G2(t)を算出するステップ(ST6)と、第2緩和弾性率G2(t)を微分処理して第2緩和スペクトルH2(τ)を算出するステップ(ST7)と、を含む。
本実施形態の緩和スペクトル算出システムは、所定解析条件下において高分子モデルを用いた分子動力学計算を実行する分子動力学計算実行部11と、各解析時点における応力データを算出する応力算出部12と、応力データに基づき各解析時点の第1緩和弾性率G1(t)を算出する第1緩和弾性率算出部13と、第1緩和弾性率G1(t)を微分処理して第1緩和スペクトルH1(τ)を算出する第1緩和スペクトル算出部14と、第1緩和スペクトルH1(τ)を積分処理して第2緩和弾性率G2(t)を算出する第2緩和弾性率算出部15と、第2緩和弾性率G2(t)を微分処理して第2緩和スペクトルH2(τ)を算出する第2緩和スペクトル算出部16と、を含む。
【0035】
このように、第1緩和スペクトルH1(τ)を積分処理して第2緩和弾性率G2(t)を算出するので、積分処理によって第1緩和弾性率G1(t)に含まれる振動が平滑化され、振動が平滑化された第2緩和弾性率G2(t)に基づき第2緩和スペクトルH2(τ)を算出するので、第1緩和弾性率G1(t)に含まれていた不要の振動成分を除去でき、算出精度を向上させた緩和スペクトルを得ることが可能になる。また、特開2017-76280に開示される補間関数による近似をしなくてもよく、補間手法による精度悪化の可能性を回避可能となる。
【0036】
特に限定されないが、本実施形態のように、高分子モデルは、架橋ゴムモデルであり、
次の式(3)を用いて第1緩和スペクトルH
1(τ)から第2緩和弾性率G
2(t)を算出する、としてもよい。第2緩和弾性率G
2(t)を適切に算出可能となる。
【数6】
Cは、平衡弾性率であり、第1緩和弾性率G
1(t)の収束値を示す。
【0037】
特に限定されないが、本実施形態のように、第2緩和弾性率算出部15は、解析開始時点から全解析時間の40%の時間が経過した時点以降の第1緩和弾性率の平均値を算出して、前記平均値を前記Cと決定する、としてもよい。第2緩和弾性率G2(t)を適切に算出可能となる。
【0038】
特に限定されないが、本実施形態のように、前記高分子モデルは、未架橋ゴムモデルであり、次の式(8)を用いて第1緩和スペクトルH
1(τ)から第2緩和弾性率G
2(t)を算出する、としてもよい。第2緩和弾性率G
2(t)を適切に算出可能となる。
【数7】
【0039】
特に限定されないが、本実施形態のように、物性値算出部17は、第2緩和スペクトルH2(τ)に基づき、貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’及び損失正接tanδのうち少なくとも1つの物性値を算出する、としてもよい。
これにより、従来よりも精度のよい第2緩和スペクトルH2(τ)を用いるので、物性値の算出精度を向上させることが可能となる。
【0040】
本実施形態に係るプログラムは、上記方法を1又は複数のコンピュータに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。
【0041】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0042】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0043】
例えば、特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書、および図面中のフローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【0044】
図1に示す各部は、所定プログラムを1又は複数のプロセッサで実行することで実現しているが、各部を専用メモリや専用回路で構成してもよい。上記実施形態のシステム1は、一つのコンピュータのプロセッサ1aにおいて各部が実装されているが、各部を分散させて、複数のコンピュータやクラウドで実装してもよい。すなわち、上記方法を1又は複数のプロセッサで実行してもよい。
【0045】
システム1は、プロセッサ1aを含む。例えば、プロセッサ1aは、中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ、またはコンピュータ実行可能命令の実行が可能なその他の処理ユニットとすることができる。また、システム1は、システム1のデータを格納するためのメモリ1bを含む。一例では、メモリ1bは、コンピュータ記憶媒体を含み、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたはその他のメモリ技術、CD-ROM、DVDまたはその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージまたはその他の磁気記憶デバイス、あるいは所望のデータを格納するために用いることができ、そしてシステム1がアクセスすることができる任意の他の媒体を含む。
【符号の説明】
【0046】
1a…プロセッサ、11…分子動力学計算実行部、12…応力算出部、13…第1緩和弾性率算出部、14…第1緩和スペクトル算出部、15…第2緩和弾性率算出部、16…第2緩和スペクトル算出部、17…物性値算出部。