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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】杭打機
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/10 20060101AFI20240515BHJP
   B62D 25/18 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B62D55/10 B
B62D25/18 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020142600
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2022038221
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 愛斗
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-131446(JP,A)
【文献】特開昭55-101628(JP,A)
【文献】特開平10-025766(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0354168(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/10
B62D 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部旋回体を旋回可能に支持するセンタフレームと、該センタフレームの左右両側に位置して前後方向に延び、外周にクローラが巻回された遊動輪及び駆動輪を連結する左右のサイドフレームと、前記センタフレームの前側と両サイドフレームの前側との間を連結する左右の前脚部と、前記センタフレームの後側と両サイドフレームの後側との間を連結する左右の後脚部とからなるトラックフレームを備えた杭打機において、
前記センタフレームは、
旋回ベアリングが取り付けられる円筒体と、
前記円筒体が立設される下中央板部と該下中央板部から延びて前記前脚部の下面を構成する左右の前脚部下板及び前記後脚部の下面を構成する左右の後脚部下板とからなる下板と、
前記下板の前部側に立設されて前記左前脚部下板から前記右前脚部下板へと左右方向に延びる脚部前側板と、
前記下板の後部側に立設されて前記左後脚部下板から前記右後脚部下板へと左右方向に延びる脚部後側板と、
前記脚部前側板と脚部後側板との間で前記下板に立設されて前記左前脚部下板から前記左後脚部下板へと延びる脚部左側板と、
前記脚部前側板と脚部後側板との間で前記下板に立設されて前記右前脚部下板から前記右後脚部下板へと延びる脚部右側板と、
前記下板と対面した状態で前記脚部前側板,前記脚部後側板,前記脚部左側板,前記脚部右側板の上端側に接合され、前記円筒体を挿通する挿通孔が設けられた上中央板部と該上中央板部から延びて前記前脚部の上面を構成する左右の前脚部上板及び前記後脚部の上面を構成する左右の後脚部上板とからなる上板とを備え、
前記脚部前側板,前記脚部後側板,前記脚部左側板,前記脚部右側板の各側板の長さ方向の中間部は、前記下板と上板との間で前記円筒体の一部を構成してなり、
前記サイドフレームの前部側には、接続フランジが固着されるとともに該接続フランジの前面に前記遊動輪の軸を支承する遊動輪ブラケットが設けられ、
前記センタフレームは、前記円筒体を前記上中央板部及び前記下中央板部に接合するための上下のセンタ接合部を備え、前記上センタ接合部の上下方向の位置が前記サイドフレームの上端の位置よりも上方に位置され、前記下センタ接合部の上下方向の位置が前記遊動輪ブラケットに支承された前記遊動輪の軸の位置よりも下方に位置され
前記上部旋回体に旋回中心と同心の被制動板を、前記トラックフレームに前記被制動板を挟持する挟持装置をそれぞれ備え、前記挟持装置の作動により前記トラックフレームに対して前記上部旋回体を任意の位置に固定可能な構成とし、
前記円筒体の一部には、前記挟持装置が取り付く取付ブラケットが径方向に突出して設けられ、該取付ブラケットは、前記径方向に垂直な断面の上下端の位置が、前記上中央板部の上面と前記下中央板部の下面とにそれぞれ一致していることを特徴とする杭打機。
【請求項2】
前記下板は、前記下中央板部,前記前脚部下板及び前記後脚部下板が単一の板材からなり、板面の全域が平坦をなしていることを特徴とする請求項1記載の杭打機。
【請求項3】
前記接続フランジは、前記センタフレーム側に突出する突出部を有し、前記前脚部は、前記脚部前側板,前記前脚部上板及び前記前脚部下板のそれぞれの前端を前記突出部の後面に当接した状態で前記サイドフレームに接合されていることを特徴とする請求項1又は2記載の杭打機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭打機のトラックフレーム及び杭打機に関し、詳しくは、走行装置としてクローラを備えた杭打機のトラックフレーム及び杭打機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、装軌式車両の代表例としての油圧ショベルは、クローラ(履帯)を備えた自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に設けられた上部旋回体と、該上部旋回体前側に上下動可能に設けられた作業装置とによって大略構成されている。そして、油圧ショベルは、最低地上高を確保した上方凸状のトラックフレームによって不整地での走行安定性を得ながら、作業装置を用いて土砂の掘削作業などを行っている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
こうした油圧ショベルに使用されるトラックフレームは、前端部の遊動輪と後端部の駆動輪との距離を最大限確保してこれらの回りにクローラが巻回され、その長い接地長による優れた走行性及び安定性を発揮している。特に小型のトラックフレームは、量産によって低コストで供給できることから、汎用品として杭打機などの他の建設機械にも広く流用されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-236346号公報
【文献】特開2011-252312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献2に記載された小型杭打機は、通常、整地された場所で使用するため、最低地上高を高くしたフレーム構造は本来的に不要であり、むしろ、走行安定性よりも静止状態での作業性に力点を置きたいところである。また、各種作業のうち、杭の引抜作業を行うと、トラックフレームに強力な負荷が作用し、その負荷は左右の遊動輪を支点として最大になる。こうした杭打機特有の作業負荷がかかると、トラックフレームの左右前側脚部には弾性域での変形が生じ、杭の引抜性能を低下させているのが実情である。とりわけ、近年は、小型杭打機においても作業装置の高出力化のニーズが高まってきており、更に大きな引抜力を必要とする傾向にあることからも、かかる汎用品のフレーム構造では、小型杭打機が目指している杭打ち機能の最大化が達成できないという課題があった。
【0006】
そこで本発明は、シンプルな構造でありながら作業負荷に対して剛性を高め、杭打機の用途に適したトラックフレーム及びこれを備えた杭打機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の杭打機は、上部旋回体を旋回可能に支持するセンタフレームと、該センタフレームの左右両側に位置して前後方向に延び、外周にクローラが巻回された遊動輪及び駆動輪を連結する左右のサイドフレームと、前記センタフレームの前側と両サイドフレームの前側との間を連結する左右の前脚部と、前記センタフレームの後側と両サイドフレームの後側との間を連結する左右の後脚部とからなるトラックフレームを備えた杭打機において、前記センタフレームは、旋回ベアリングが取り付けられる円筒体と、前記円筒体が立設される下中央板部と該下中央板部から延びて前記前脚部の下面を構成する左右の前脚部下板及び前記後脚部の下面を構成する左右の後脚部下板とからなる下板と、前記下板の前部側に立設されて前記左前脚部下板から前記右前脚部下板へと左右方向に延びる脚部前側板と、前記下板の後部側に立設されて前記左後脚部下板から前記右後脚部下板へと左右方向に延びる脚部後側板と、前記脚部前側板と脚部後側板との間で前記下板に立設されて前記左前脚部下板から前記左後脚部下板へと延びる脚部左側板と、前記脚部前側板と脚部後側板との間で前記下板に立設されて前記右前脚部下板から前記右後脚部下板へと延びる脚部右側板と、前記下板と対面した状態で前記脚部前側板,前記脚部後側板,前記脚部左側板,前記脚部右側板の上端側に接合され、前記円筒体を挿通する挿通孔が設けられた上中央板部と該上中央板部から延びて前記前脚部の上面を構成する左右の前脚部上板及び前記後脚部の上面を構成する左右の後脚部上板とからなる上板とを備え、前記脚部前側板,前記脚部後側板,前記脚部左側板,前記脚部右側板の各側板の長さ方向の中間部は、前記下板と上板との間で前記円筒体の一部を構成してなり、前記サイドフレームの前部側には、接続フランジが固着されるとともに該接続フランジの前面に前記遊動輪の軸を支承する遊動輪ブラケットが設けられ、前記センタフレームは、前記円筒体を前記上中央板部及び前記下中央板部に接合するための上下のセンタ接合部を備え、前記上センタ接合部の上下方向の位置が前記サイドフレームの上端の位置よりも上方に位置され、前記下センタ接合部の上下方向の位置が前記遊動輪ブラケットに支承された前記遊動輪の軸の位置よりも下方に位置され、前記上部旋回体に旋回中心と同心の被制動板を、前記トラックフレームに前記被制動板を挟持する挟持装置をそれぞれ備え、前記挟持装置の作動により前記トラックフレームに対して前記上部旋回体を任意の位置に固定可能な構成とし、前記円筒体の一部には、前記挟持装置が取り付く取付ブラケットが径方向に突出して設けられ、該取付ブラケットは、前記径方向に垂直な断面の上下端の位置が、前記上中央板部の上面と前記下中央板部の下面とにそれぞれ一致していることを特徴としている。
【0008】
また、前記下板は、前記下中央板部,前記前脚部下板及び前記後脚部下板が単一の板材からなり、板面の全域が平坦をなしていることを特徴としている。さらに、前記接続フランジは、前記センタフレーム側に突出する突出部を有し、前記前脚部は、前記脚部前側板,前記前脚部上板及び前記前脚部下板のそれぞれの前端を前記突出部の後面に当接した状態で前記サイドフレームに接合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、杭打機のトラックフレームを構成するセンタフレームが、旋回ベアリングの取付座となる円筒体と、上下板間に介在されるとともに中間部が円筒体の一部を構成して延びる前後左右の脚部側板とを備え、円筒体と上下の中央板部とを接合する上下のセンタ接合部の位置を、上センタ接合部はサイドフレームの上端の位置よりも上方に、下センタ接合部は遊動輪の軸の位置よりも下方にそれぞれ位置させたので、上部旋回体の旋回中心と同心の円筒体を下板まで到達するように貫通したセンタパイプ構造が達成され、杭の引抜時に旋回ベアリングを介して伝達される荷重を、上下方向にパイプの長さ分広げたフレーム断面をもって上下板に適切に分散させることができる。これにより、上下方向への曲げに対する剛性と強度が大きく向上し、杭打機特有の作業負荷に対して有効なトラックフレームの構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一形態例を示すトラックフレームが適用される杭打機の側面図である。
図2】同じく旋回ベアリングを装着した状態の下部走行体の側面図である。
図3】同じく平面図である。
図4】同じく正面図である。
図5】同じくトラックフレームの側面図である。
図6】同じく平面図である。
図7図6のVII-VII断面図である。
図8図6のVIII-VIII断面図である。
図9】同じくセンタフレームの側面図である。
図10】同じく平面図である。
図11図9のXI-XI断面図である。
図12】同じく正面図である。
図13図10のXIII-XIII断面図である。
図14】トラックフレームの前部側に作用する力を説明する図である。
図15図3のXV-XV断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至図15は、本発明を杭打機に適用した一形態例を示すものである。杭打機11は、図1に示すように、自走可能な下部走行体12の上部に、旋回ベアリング13を介して上部旋回体14が旋回可能に設けられており、上部旋回体14の前部中央には、リーダ15や該リーダ15の前面に沿って昇降するオーガ(回転駆動装置)16などの杭打用の作業装置が設けられている。また、上部旋回体14のメインフレーム14a上には、右側部に運転室17が、左側部にエンジンや油圧ポンプを収納したエンジン室18がそれぞれ設けられている。さらに、上部旋回体14の前後左右の4箇所にジャッキ19が設けられるとともに、上部旋回体14の後端部には車体のバランスをとるためのカウンタウエイト20が搭載されている。
【0013】
下部走行体12は、図2乃至図4に示すように、トラックフレーム21の左右両側にクローラ式の走行装置を備えている。下部走行体12は地面に接する部分であり、車体を安定的に支持できるように前後方向に長く、左右方向(車幅方向)に広く形成されることが望ましい。もっとも、車幅を広くしすぎると輸送する際にトレーラの荷台からはみ出してしまうおそれがあることから、単に広くすればよいというものでもない。こうした観点から、本発明が適用される杭打機11は、分解しないで容易に輸送荷台に積載可能なサイズ、例えば、トレッド(左右のクローラ中心間距離)でいえば2m程度に抑えたトラックフレーム21を使用する比較的に小型の杭打機である。
【0014】
前記トラックフレーム21は、下部走行体12のベースとなる製缶部品であって、センタフレーム22の左右両側に位置して前後方向に延び、外周にクローラ23が巻回された遊動輪24及び駆動輪25を連結する左右のサイドフレーム26,26と、センタフレーム22の前側と両サイドフレーム26,26の前側との間を連結する左右の前脚部27,27と、センタフレーム22の後側と両サイドフレーム26,26の後側との間を連結する左右の後脚部28,28とで大略構成されている。
【0015】
下部走行体12と上部旋回体14との間に配置された旋回ベアリング13は、トラックフレーム21中央の取付座にボルト止めされる内輪側の内ケース13aと、上部旋回体14のメインフレーム14a中央下面にボルト止めされる外輪側の外ケース13bとが相対回転可能に組み付けられたものである。また、内ケース13aの内周には内歯歯車が形成され、上部旋回体14に搭載した旋回駆動モータ(図示せず)の歯車を内歯歯車に歯合させ、旋回駆動モータの回転によって上部旋回体14は下部走行体12に対して水平方向に旋回する。
【0016】
杭打機11を鋼管杭の埋設を目的として使用する場合には、リーダ15を起立させた杭打ち作業姿勢で、オーガ16から駆動力を得て地中に鋼管杭を回転圧入させる。こうした杭打ち作業は、回転する杭の推進力を受けてリーダ15に軸方向(上下方向)の圧縮と捩りとの複合的な荷重が加わり、これにより、上部旋回体14の全荷重を超える荷重が旋回ベアリング13を介してトラックフレーム21に作用する。特に、杭を引き抜く際には、杭自体の重量に土圧も加わって極めて大きな引抜力が必要となる。このような事情から、杭打機11には、車体の静止安定状態を作り出すために、上部旋回体14を任意の位置で固定可能な旋回位置固定装置29が備わっている。
【0017】
前記旋回位置固定装置29は、上部旋回体14に設けられた旋回中心と同心の被制動板30と、トラックフレーム21に設けられ、前記被制動板30を挟持する挟持装置31とで構成されている。被制動板30は、同一形状からなる一対の半割部材を組み合わせてリング状に形成したもので、旋回ベアリング13の外ケース13bの下面にボルト止めされている。
【0018】
挟持装置31は、旋回ベアリング13を挟んで前後の2箇所に対向して設けられ、トラックフレーム21の壁部にボルト止めされるベース部材31aと、該ベース部材31aに回動ピン31bで支持されるシザース状の上下一対のチャックレバー31c,31cと、両チャックレバー31c,31cを開閉するチャックシリンダ31dとで構成され、油圧によってチャックシリンダ31dを作動させると、チャックレバー31cの両先端部が閉じて被制動板30の外側縁部を挟持するようになっている。
【0019】
以下では、トラックフレーム21の具体的な構造について、図5乃至図15を参照しながら説明する。図5乃至図8はトラックフレーム21の完成状態を示し、図9乃至図13はセンタフレーム22の部品状態(サブアッセンブリ状態)を示している。また、図14及び図15はトラックフレーム21に対してクローラ式走行装置、旋回位置固定装置29の各装置を取り付けた状態を示している。
【0020】
トラックフレーム21の中央部を構成するセンタフレーム22は、上方からみて略X字状に形成され、旋回ベアリング13が取り付けられる大径な円筒体32と、該円筒体32が立設される下中央板部33aと該下中央板部33aから延びて前脚部27の下面を構成する左右の前脚部下板33b,33c及び後脚部28の下面を構成する左右の後脚部下板33d,33eとからなる下板33と、該下板33の前部側に立設されて左前脚部下板33bから右前脚部下板33cへと左右方向に延びる脚部前側板34と、下板33の後部側に立設されて左後脚部下板33dから右後脚部下板33eへと左右方向に延びる脚部後側板35と、脚部前側板34と脚部後側板35との間で下板33に立設されて左前脚部下板33bから左後脚部下板33dへと延びる脚部左側板36と、脚部前側板34と脚部後側板35との間で下板33に立設されて右前脚部下板33cから右後脚部下板33eへと延びる脚部右側板37と、下板33と対面した状態で脚部前側板34,脚部後側板35,脚部左側板36,脚部右側板37の上端側に接合され、前記円筒体32を挿通する挿通孔38fが設けられた上中央板部38aと該上中央板部38aから延びて前脚部27の上面を構成する左右の前脚部上板38b,38c及び後脚部28の上面を構成する左右の後脚部上板38d,38eとからなる上板38とを備えている。
【0021】
下板33は、下中央板部33a,前脚部下板33b,33c及び後脚部下板33d,33eが1枚の鋼板材からなり、板面の全域が平坦をなして形成され、前脚部下板33b,33cと後脚部下板33d,33eとが下中央板部33aからサイドフレーム26の内側面に向けてそれぞれ延びている。また、下中央板部33aには、これに立設される円筒体32の径よりもやや小径の中心孔33fが設けられている。上板38は、上中央板部38a,前脚部上板38b,38c及び後脚部上板38d,38eが1枚の鋼板材からなり、該鋼板材を曲げ加工することによって前脚部上板38b,38cと後脚部上板38d,38eとが上中央板部38aからサイドフレーム26の上端に向けてそれぞれ下向きに傾斜して延びている。
【0022】
円筒体32は、全長に亘って一様な断面形状を有するとともに、他の部位よりも厚肉に形成されて強度が高められ、上端部には旋回ベアリング13を取り付けるためのベースリング(取付座)32aが設けられている。また、脚部前側板34,脚部後側板35,脚部左側板36,脚部右側板37の各側板の長さ方向の中間部は、下板33と上板38との間で円筒体32の一部を構成している。具体的には、円筒体32の前後左右4箇所の周壁部Pを間に介在させるように配置した8枚の連結板34a,34b,35a,35b,36a,36b,37a,37bにより、円筒体32と一体化した支持構造が形成される。
【0023】
また、円筒体32の一部である前後2箇所の周壁部Pには、前記旋回位置固定装置29の挟持装置31が取り付く取付ブラケット39が径方向(前後方向)に突出して設けられている。取付ブラケット39は、主に挟持装置31のベース部材31aがボルト止めされる取付フランジ39aと、該取付フランジ39aと円筒体32との間に介在して上下端が上中央板部38a及び下中央板部33aの一側端部にそれぞれ固着した左右一対の立板39b,39bとを有している。これにより、円筒体32の径方向に垂直な断面の上下端の位置が上中央板部38aの上面と下中央板部33aの下面とにそれぞれ一致し、上下の中央板部33a,38aと左右の立板39b,39bとからなる矩形断面(先端側コの字型断面)が形成される。こうして、円筒体32の周方向の荷重、すなわち、上部旋回体14の旋回方向の荷重に対して強度を高めたブラケット構造が形成される。
【0024】
トラックフレーム21の左右両側部を構成するサイドフレーム26は、図5乃至図8に示すように、前後方向(長さ方向)の中央部に位置するサイドフレーム本体40と、該サイドフレーム本体40の前端部に接続フランジ41を介して設けられた遊動輪ブラケット42と、サイドフレーム本体40の後端部に他の接続フランジ43を介して設けられた駆動輪ブラケット44とで大略構成されている。
【0025】
サイドフレーム本体40は、前部側にセンタフレーム22の前脚部27が、後部側に後脚部28がそれぞれ連結され、前脚部下板33b,33c及び後脚部下板33d,33eが接合される内面板40aと、該内面板40aと左右方向で対面する外面板40bと、両内外面板40a,40bの上端部間を連結する上面板40cとにより、下端側が開口した逆U字状の断面をもって前後方向に延びている。
【0026】
遊動輪ブラケット42は、接続フランジ41の前面から前方に延びる左右の側板42a,42aと、この側板42a,42aから左右内向きに屈曲して遊動輪24側へと延びる左右の上屈曲板42b,42b及び下屈曲板42c,42cと、前記上屈曲板42b,42bの基端側同士を互いに一体に連結した補強板42dとからなる略コ字状の枠体として形成されている。前記枠体における遊動輪24と対面する面には、略L字状の断面をもって前後方向に延びる上下左右のガイド枠42e,42fが設けられている。また、図14に示すように、各ガイド枠42e,42f間に設けられた隙間には、ヨーク(図示せず)の先端側に取り付けられた左右一対の軸受45,45が前後方向に移動可能に配置され、遊動輪24の軸(車軸)46の両端が軸受45,45に支持されている。
【0027】
こうして遊動輪ブラケット42には遊動輪24が取り付けられるとともに、駆動輪ブラケット44には減速機付き油圧モータを備えた駆動輪25が取付けられ、回転駆動される駆動輪25によって遊動輪24と駆動輪25とに巻回されたクローラ23が周回動作する。また、遊動輪24とサイドフレーム本体40との間には前記ヨークが連結される張力調整装置(図示せず)が設けられ、杭打機11の走行時にクローラ23が路面の起伏などによって変形した場合でも、張力調整装置が作動して遊動輪24と駆動輪25との間隔を変化させ、これにより、クローラ23の張力が調整されるようになっている。
【0028】
このように形成した杭打機11のトラックフレーム21は、各種オーガ作業のうち、杭の引抜作業を行うと、旋回ベアリング13を介して強力な負荷が作用し、その負荷は左右の遊動輪24,24を支点として最大になる。こうした杭打機特有の作業負荷は、トラックフレーム21の左右前脚部27,27間の部位に湾曲形状の変形をもたらし、杭の引抜性能を低下させる要因となる。そこで、トラックフレーム21には、作業負荷による悪影響を小さくするためのフレーム接合構造が備わっている。
【0029】
前記フレーム接合構造は、前脚部27及び後脚部28に対し、上下方向の曲げ荷重に抗し得る高さのあるフレーム断面を作りながら、同時にセンタフレーム22と左右のサイドフレーム26,26との間の荷重の伝達を円滑に行うことが可能な溶接構造であり、円筒体32を上中央板部38a及び下中央板部33aに接合するための上下のセンタ接合部と、前脚部27及び後脚部28を左右のサイドフレーム26にそれぞれ接合するための前後左右のサイド接合部とを備えている。
【0030】
上下のセンタ接合部47,48は、図13などに示すように、円筒体32の板厚寸法が上中央板部38a及び下中央板部33aの板厚寸法よりも大きい差厚鋼板からなる接合部であり、これにより、所望の旋回体支持機能が発揮される。施工順から言えば、まず、下中央板部33aの上面中央に円筒体(素材)32を固定した状態で、円筒体32と下中央板部33aとを互いに全周隅肉溶接によって強固に接合した下センタ接合部48が形成される。次いで、脚部前側板34,脚部後側板35,脚部左側板36,脚部右側板37の各側板を構成する8枚の連結板34a,34b,35a,35b,36a,36b,37a,37bと、取付ブラケット39の構成部材とをそれぞれ円筒体32の周壁に突当てた仮組み(仮溶接)状態とする。その後、上板38と下板33とを対面させた状態で、言い換えると、上中央板部38aの挿通孔38fに円筒体32を挿通して、上板38の下面を各脚部側板34,35,36,37の上端に当接させた状態で、ボックス構造の本溶接がなされる。このとき、円筒体32と上中央板部38aとを互いに全周隅肉溶接によって強固に接合した上センタ接合部47が形成される。
【0031】
また、上下のセンタ接合部47,48は、上センタ接合部47の位置を旋回ベアリング13の近くに、下センタ接合部48の位置を走行の妨げにならない程度の地面近くにそれぞれ位置するように各部の板構成がとられている。具体的には、上センタ接合部47はベースリング32aを含めた支持部のすぐ下に位置される。これをサイドフレーム本体40との比較でみれば上面板40cの頂部(上端)よりも上方に位置される。一方、下センタ接合部48はサイドフレーム本体40の内面板40a下半部に対応する高さに位置される。これを遊動輪ブラケット42との比較でみれば下ガイド枠42fと同等の高さに位置される。すなわち、下センタ接合部48は、杭打機11の完成状態で、遊動輪ブラケット42に支承された遊動輪24の軸46の位置よりも下方に位置される(図14)。
【0032】
前後左右のサイド接合部49,50は、図6図7などに示すように、センタフレーム22の前後脚部27,28と左右のサイドフレーム26との間の接合部であって、特に、サイドフレーム本体40の前後端部において、センタフレーム22側に突出させた突出部41a,43aを有する前記接続フランジ41,43を介して、前脚部27を遊動輪ブラケット42に、後脚部28を駆動輪ブラケット44にそれぞれ繋げる形で構成した溶接構造を含む接合部である。
【0033】
前後の突出部41a,43aは、旋回中心から遊動輪24及び駆動輪25の中心(反力点)へ直線状に延びる略X字状の仮想垂直平面Sに到達する長さ(幅)を有し、上端部が前脚部上板38b,38c及び後脚部上板38d,38eの曲げ(傾斜)に沿ってセンタフレーム22側へ延びている。また、前後の脚部側板34,35(34a,34b,35a,35b)は、円筒体32の周壁からサイドフレーム26へと仮想垂直平面Sを斜めに横切るように延び、先端部が再び仮想垂直平面Sと交わる方向、すなわち、突出部41a,43aの板面に向き合う方向(前後方向)に緩やかな(曲率の大きい)曲げが施されている。さらに、左右の脚部側板36,37(36a,36b,37a,37b)は、円筒体32の周壁からサイドフレーム26へと仮想垂直平面Sに略平行に延び、先端部が旋回中心と接続フランジ41,43との間の前後方向の距離を2等分する位置にてサイドフレーム本体40の内面板40aに向き合う方向(左右方向)に折り曲げが施されている。こうして、前後の脚部側板34,35(34a,34b,35a,35b)に曲げを施したセンタフレーム22は、サイドフレーム26との間で接合される部材が互いにT字状に突き合わされる。
【0034】
センタフレーム22と左右のサイドフレーム26とを接合する場合、前脚部27については、サイドフレーム本体40の前側頂部を前脚部上板38b,38cの側端に、内側面を前脚部下板33b,33c,脚部側板36,37(36a,37a)の側端にそれぞれ当接し、脚部前側板34(34a,34b),前脚部上板38b,38c及び前脚部下板33b,33cのそれぞれの前端を接続フランジ41の突出部41aの後面に当接した状態とする。一方、後脚部28については、サイドフレーム本体40の後側頂部を後脚部上板38d,38eの側端に、内側面を後脚部下板33d,33e,脚部側板36,37(36b,37b)の側端にそれぞれ当接し、脚部後側板35(35a,35b),後脚部上板38d,38e及び後脚部下板33d,33eのそれぞれの後端を接続フランジ43の突出部43aの前面に当接した状態とする。こうしてセンタフレーム22の全領域を閉断面にした仮組み状態で、前後脚部27,28とサイドフレーム26とを互いに隅肉溶接によって強固に接合したサイド接合部49,50が形成される。
【0035】
このように形成した杭打機11のトラックフレーム21を使用して杭の引抜作業を行う場合、図15に示すように、あらかじめ挟持装置31を作動させて上部旋回体14の旋回位置を固定する。こうした杭打機11の静止安定状態は、任意の旋回位置で作り出されることから、例えば、左右クローラ23,23の幅間中央にオーガ16の駆動軸を位置させた旋回0°の位置では、杭の引抜力を受けると、旋回ベアリング13の前部側に、図15の矢印Fで示した方向に圧縮荷重が作用する。一方、遊動輪ブラケット42には、遊動輪24からの反力を受けて、両側のガイド枠42e,42eを押し上げる方向に力が作用する。ここで、例えば右旋回90°の位置では、図14の矢印Mで示した方向にモーメントが付与され、遊動輪ブラケット42の一方側のガイド枠42e,42fを押し上げ、他方側のガイド枠42e,42fを押し下げる方向、すなわち、矢印M1及びM2方向の力が作用する。
【0036】
ここで、剛性や強度の観点からみると、接続フランジ41の前面で遊動輪ブラケット42が捻られるという問題は実質的に生じないが、前脚部27については、センタフレーム22とサイドフレーム26との間で水平に延びた構成がとられていることから、そこに曲げ荷重が作用して撓みが生じやすくなる。しかしながら、互いに間隔を広げた上下のセンタ接合部47,48とこれに対応して上下方向に領域を広げたサイド接合部49とにより、縦曲げ方向に抗する断面を増大させたボックス構造が形成されているため、左右前脚部27,27間の部位は、伝達された荷重にほとんど変形することなく耐えることが可能である。
【0037】
このように、杭打機11のトラックフレーム21を構成するセンタフレーム22が、旋回ベアリング13の取付座となる円筒体32と、上下板33,38間に介在されるとともに中間部が円筒体32の一部を構成して延びる前後左右の脚部側板34,35とを備え、円筒体32と上下の中央板部33a,38aとを接合する上下のセンタ接合部47,48の位置を、上センタ接合部47はサイドフレーム26の上端の位置よりも上方に、下センタ接合部48は遊動輪24の軸46の位置よりも下方にそれぞれ位置させたので、上部旋回体14の旋回中心と同心の円筒体32を下板33まで到達するように貫通したセンタパイプ構造が達成され、杭の引抜時に旋回ベアリング13を介して伝達される荷重を、上下方向にパイプの長さ分広げたフレーム断面をもって上下板33,38に適切に分散させることができる。これにより、上下方向への曲げに対する剛性と強度が大きく向上し、杭打機特有の作業負荷に対して有効なトラックフレーム21の構造が得られる。
【0038】
また、シンプルなセンタパイプ構造と相俟って、トラックフレーム21の一部である下板33が、下中央板部33a,前脚部下板33b,33c及び後脚部下板33d,33eの各部を単一の板材で形成し、これにより、板面の全域が平坦をなしているので、安価で製作性に優れたフレーム構造が得られるだけでなく、溶接性にも優れていることから、量産に適した杭打機11のトラックフレーム21が達成される。
【0039】
さらに、接続フランジ41がセンタフレーム22側に突出する突出部41aを有し、前脚部27が、脚部前側板34,前脚部上板38b,38c及び前脚部下板33b,33cのそれぞれの前端を突出部41aの後面に当接した状態でサイドフレーム26に接合しているので、前脚部27とサイドフレーム26との間で荷重の伝達が円滑に行われ、前脚部27の負荷低減に大きく貢献するものである。とりわけ、脚部前側板34が、旋回中心から遊動輪24の中心へ延びる仮想垂直平面Sと関連付けて配置され、先端部に突出部41aの板面に向き合う方向の緩やかな曲げを施しているので、X型フレームの優れた支持機能を得ながら、脚部前側板34と接続フランジ41との間の接合を、突合わせT継手構造をもって強固に接合することができる。
【0040】
加えて、センタパイプ構造をなす円筒体32の一部に旋回位置固定装置29の挟持装置31が取り付く取付ブラケット39を径方向に突出して設け、該取付ブラケット39において、径方向に垂直な断面の上下端の位置が、上中央板部38aの上面と下中央板部33aの下面とにそれぞれ一致する構成をとったので、トラックフレーム21の一部を活用したブラケット構造をもって、杭引抜作業時の高い静止安定性を発揮することが可能となり、小型杭打機11が目指している杭打ち機能の最大化に資するものである。
【0041】
なお、本発明は、前記形態例に限定されるものではなく、旋回ベアリングの取付座となる円筒体は、トラックフレームの上板から下板まで延びて脚部と繋がるように形成すればよく、部材取りや加工などの製作上の変更を適宜加えることができる。また、下センタ接合部の位置を低くすることはトラックフレーム全体の剛性や強度の向上に寄与するものであるが、走行や輸送の妨げにならない範囲で更に低くすれば、これに従って下板の位置も低くなり、車体の更なる低重心化が図れるという利点がある。さらに、下板は平坦形状に限定されず、脚部下板に曲げを加えるなどの種々の態様が考えられる。
【符号の説明】
【0042】
11…杭打機、12…下部走行体、13…旋回ベアリング、13a…内ケース、13b…外ケース、14…上部旋回体、14a…メインフレーム、15…リーダ、16…オーガ、17…運転室、18…エンジン室、19…ジャッキ、20…カウンタウエイト、21…トラックフレーム、22…センタフレーム、23…クローラ、24…遊動輪、25…駆動輪、26…サイドフレーム、27…前脚部、28…後脚部、29…旋回位置固定装置、30…被制動板、31…挟持装置、31a…ベース部材、31b…回動ピン、31c…チャックレバー、31d…チャックシリンダ、32…円筒体、32a…ベースリング、33…下板、33a…下中央板部、33b,33c…前脚部下板、33d,33e…後脚部下板、33f…中心孔、34…脚部前側板、34a,34b…連結板、35…脚部後側板、35a,35b…連結板、36…脚部左側板、36a,36b…連結板、37…脚部右側板、37a,37b…連結板、38…上板、38a…上中央板部、38b,38c…前脚部上板、38d,38e…後脚部上板、38f…挿通孔、39…取付ブラケット、39a…取付フランジ、39b…立板、40…サイドフレーム本体、40a…内面板、40b…外面板、40c…上面板、41…接続フランジ、41a…突出部、42…遊動輪ブラケット、42a…側板、42b…上屈曲板、42c…下屈曲板、42d…補強板、42e,42f…ガイド枠、43…接続フランジ、43a…突出部、44…駆動輪ブラケット、45…軸受、46…軸、47,48…センタ接合部、49,50…サイド接合部
図1
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