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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】信号制御システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/08 20060101AFI20240515BHJP
   G08G 1/07 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
G08G1/08 A
G08G1/07 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020149451
(22)【出願日】2020-09-04
(65)【公開番号】P2022043926
(43)【公開日】2022-03-16
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181146
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄一
(72)【発明者】
【氏名】田中 博之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 史典
【審査官】増子 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-191728(JP,A)
【文献】特開2010-009299(JP,A)
【文献】特開2016-045830(JP,A)
【文献】特開平01-065699(JP,A)
【文献】特開2019-067234(JP,A)
【文献】特開平07-282389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部環境について状況を検知する状況検知部と、
信号制御に関する3以上の異なる優先パターンを格納する優先パターン格納部と、
前記状況検知部での検知結果と優先条件とに基づいて、前記3以上の優先パターンから一を選択するに際し、先に選択された優先パターンを、後の選択において選択肢として再度組み入れる選択部と
を備え
前記状況検知部は、車両の交互通行区間の一端側と他端側とに設けた双方向通行可能区間における通行状況を検知する、信号制御システム。
【請求項2】
前記優先パターン格納部は、前記3以上の優先パターンとして、交互通行での制御に際して車両通行の優先方向を互いに異なる基準でそれぞれ定める優先パターンを含み、
前記選択部は、前記状況検知部による通行状況に関する前記検知結果と前記優先条件とに基づいて、前記3以上の優先パターンから一を選択する、請求項1に記載の信号制御システム。
【請求項3】
前記優先パターン格納部は、前記3以上の優先パターンの一つとして、前記検知結果と前記優先条件とに基づく優先度が前記車両通行の優先方向に関して同等である場合に選択される既定優先パターンを含む、請求項2に記載の信号制御システム。
【請求項4】
前記選択部は、優先パターンの切替タイミングを調整する切替調整部を備え、前記切替調整部によるタイミング制御にしたがって、先に選択された優先パターンから新たに選択された優先パターンへの選択切替を行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の信号制御システム。
【請求項5】
前記優先パターン格納部は、前記3以上の優先パターンの一つとして、前記交互通行区間の一端側と他端側とにおける車両の待ち時間の長さに応じて優先方向を定める待ち時間優先パターンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の信号制御システム。
【請求項6】
前記優先パターン格納部は、前記3以上の優先パターンの一つとして、前記交互通行区間の一端側と他端側とにおける停車可能な車両台数に応じて優先方向を定める車両台数優先パターンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の信号制御システム。
【請求項7】
前記選択部は、前記交互通行区間の一端側と他端側とのうち一方において停車可能な車両台数を超えている場合、前記3以上の優先パターンのうち、前記車両台数優先パターンを優先的に選択する、請求項6に記載の信号制御システム。
【請求項8】
前記状況検知部は、前記交互通行区間の一端側と他端側とに設けた前記双方向通行可能区間としてのすれ違い区間における通行状況を検知する、請求項~7のいずれか一項に記載の信号制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種車両等の通行のための信号制御を行う信号制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、交通制御システムとして、片側交互通行区間での信号機の切替えを行うに際して、待機車両台数の情報に基づいて制御しているものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に示す交通制御システムでは、例えば、遅延発生等の種々の交通状況に応じて通行の優先方向をどのように定めるべきか、あるいは、適切な優先方向を選べているか、といったことについてまでは、言及がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-9299号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、種々の交通状況に応じて適した信号制御を可能にする信号制御システムを提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するための信号制御システムは、外部環境について状況を検知する状況検知部と、信号制御に関する3以上の異なる優先パターンを格納する優先パターン格納部と、状況検知部での検知結果と優先条件とに基づいて、3以上の優先パターンから一を選択するに際し、先に選択された優先パターンを、後の選択において選択肢として再度組み入れる選択部とを備える。
【0007】
上記信号制御システムでは、検知された外部環境についての状況と、優先条件すなわち通行状況に関して予め閾値等で定めた各種条件とに応じて、3以上の優先パターンから一を選択するものとし、かつ、当該3以上の優先パターンから一を選択するに際し、先に選択された優先パターンを、後の選択において選択肢として再度組み入れる態様としている。これにより、種々の交通状況に応じて適した通行の優先方向の選択を行って、信号制御を適正に維持可能としている。
【0008】
本発明の具体的な側面では、選択部は、優先パターンの切替タイミングを調整する切替調整部を備え、切替調整部によるタイミング制御にしたがって、先に選択された優先パターンから新たに選択された優先パターンへの選択切替を行う。この場合、切替調整部によってタイミング制御を行うことで、一の優先パターンから他の優先パターンへの切替えに際して、例えば適度な時間取り等を行うことが可能になる。
【0009】
本発明の別の側面では、優先パターン格納部は、3以上の優先パターンの一つとして、検知結果と優先条件とに基づく優先度が同等である場合に選択される既定優先パターンを含む。この場合、一の優先パターンの選択が確実に行える。
【0010】
本発明のさらに別の側面では、状況検知部は、車両の交互通行区間の一端側と他端側とにおける通行状況を検知する通行検知部であり、優先パターン格納部は、3以上の優先パターンとして、交互通行での制御に際して車両通行の優先方向を互いに異なる基準でそれぞれ定める優先パターンを含み、選択部は、状況検知部による通行状況に関する検知結果と優先条件とに基づいて、3以上の優先パターンから一を選択する。この場合、車両の交互通行区間における優先方向の選択を的確に行って、円滑な車両の通行を維持できる。
【0011】
本発明のさらに別の側面では、優先パターン格納部は、3以上の優先パターンの一つとして、交互通行区間の一端側と他端側とにおける車両の待ち時間の長さに応じて優先方向を定める待ち時間優先パターンを含む。この場合、渋滞待ち等による遅延の影響を加味した交通整理が可能になる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、優先パターン格納部は、3以上の優先パターンの一つとして、交互通行区間の一端側と他端側とにおける停車可能な車両台数に応じて優先方向を定める車両台数優先パターンを含む。この場合、交互通行区間の一端側や他端側におけるデッドロックの発生を回避して、安定した通行状態に維持できる。
【0013】
本発明のさらに別の側面では、選択部は、交互通行区間の一端側と他端側とのうち一方において停車可能な車両台数を超えている場合、3以上の優先パターンのうち、車両台数優先パターンを優先的に選択する。この場合、交互通行区間の一端側や他端側におけるデッドロックの発生回避のための対応を、他の事項よりも優先して行うことができる。
【0014】
本発明のさらに別の側面では、状況検知部は、交互通行区間の一端側と他端側とに設けたすれ違い区間における通行状況を検知する。この場合、すれ違い区間における車両の状態に応じた信号制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る信号制御システムについて一構成例を示す概略図である。
図2】処理装置について一構成例を示すブロック図である。
図3】優先パターンの選択について一態様を説明するための図である。
図4】(A)~(J)は、一の優先パターンについて説明するための概念図である。
図5】(A)~(K)は、他の一の優先パターンについて説明するための概念図である。
図6】(A)~(C)は、待ち時間の算出に基づく優先方向の決定について一例を説明するための概念図である。
図7】(A)~(J)は、さらに他の一の優先パターンについて説明するための概念図である。
図8】BRTに設けた信号制御システムについて一構成例を示す概略図である。
図9図8に示す信号制御システムについて一構成例を示すブロック図である。
図10】優先パターン格納部について一構成例を示すブロック図である。
図11】信号制御システムにおける一連の処理動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1等を参照して、本発明の一実施形態に係る信号制御システムについて説明する。図1は、本実施形態の信号制御システム500の一例を説明する概略図である。図示のように、信号制御システム500は、例えば信号設備を有する交通路に組み込まれるシステムであり、サーバー等で構成されて信号機SIa,SIbや車両VE等と直接的又は間接的に通信を行って通行の状況を把握するとともに、把握した状況に応じた信号制御をするための各種処理を担う処理装置100を備える。なお、信号制御システム500については、上記処理装置100に加え、例えば処理装置100と情報通信を行う信号機SIa,SIbや車両VE等のうち、情報の提供を行う各部まで含めたものと捉えることもできる。
【0017】
信号制御システム500は、種々の交通路において配備可能であるが、図示では典型的な一例として、交互通行を行う区間(交互通行区間AT)を含む交通路における交通整理を行うべく、交互通行区間ATの一端側と他端側とに設けられた信号機SIa,SIbや交互通行区間ATを通過しようとする車両VEとの通信を行って、信号制御に必要な情報収集をする。図示の一例の場合、信号制御システム500の処理装置100が、各車両VEから位置情報PIを取得し、また、取得した情報に基づいて、信号機SIa,SIbや車両VEに対して、灯色情報CIを配信している。すなわち、交互通行区間ATにおける通行の可否についての情報を提供している。
【0018】
なお、図示の例では、交互通行区間ATの一端側と他端側にある双方向通行可能な区間を、すれ違い区間α,βとしている。つまり、信号制御システム500は、すれ違い区間α,βとこれらを繋ぐ交互通行区間ATにおける交通整理を行うべく、交互通行区間ATの一端側と他端側とのそれぞれ配置された信号機SIa,SIbの信号制御を行っている。より具体的には、処理装置100は、交互通行区間ATにおいて、すれ違い区間αからすれ違い区間βへ向かう方向(X方向)への通行を優先させるか、これと反対のすれ違い区間βからすれ違い区間αへ向かう方向(Y方向)への通行を優先させるかを決定している。
【0019】
以下、図2のブロック図を参照して、処理装置100の一構成例の概要について説明し、上述した交通において優先させる通行方向の決定処理について大まかに説明する。
【0020】
まず、処理装置100は、例えばCPUや各種ストレージデバイス等で構成され、図示のように、状況検知部SDと、優先パターン格納部PTと、選択部SEとを備える。つまり、CPUが必要に応じて、各種ストレージデバイス等に格納されたデータプログラムについて読み書きの処理を行って、これらのものとして機能する。
【0021】
状況検知部SDは、例えば、すれ違い区間α,βの区間内に存在する車両VEや、すれ違い区間α,βに向かう車両VEから情報を取得することで、外部環境について状況を検知する。すなわち、状況検知部SDは、車両の交互通行区間ATの一端側と他端側とを構成するすれ違い区間α,βやその周辺における通行を検知する通行検知部TDとして機能する。また、状況検知部SDは、例えばさらに広域な範囲で管理等を行う管制センター等といった信号制御システム500の外部から情報を収集してもよい。
【0022】
優先パターン格納部PTは、信号制御に関する優先パターンを格納する。ここで、優先パターンとは、予め定められた規則に従って、交互通行区間ATにおいて通行を優先させる方向をX方向とするかY方向とするかを定めるための一連のパターン化された処理を意味するが、ここでは、特に、優先パターン格納部PTにおいて、3以上の互いに異なる優先パターン(例えば、優先パターンA,B,C,…とする。)が、データとして格納されている。
【0023】
選択部SEは、状況検知部SDでの検知結果と、優先条件とに基づいて、上記3以上の優先パターンから一を選択する。ここで、優先条件とは、通行状況に関して予め閾値等で定めた各種条件を意味する。選択部SEは、状況検知部SDでの検知結果として得られたある地点に到着した車両の時刻や、渋滞による遅延度合等の情報と、これらに対応する優先条件(判断基準)PDとを比較して、3以上の優先パターンから最適な一の優先パターンを選択する。なお、処理装置100は、選択部SEでの決定に従って、選択された優先パターンに基づく信号制御をすべく、灯色情報CIを、信号機SIa,SIbに送信する。つまり、X方向とY方向とのうち、いずれの方向を青(進行可)とし、他の方向を赤(進行不可)とするかについての決定結果を送信する。また、処理装置100は、灯色情報CIを、例えばすれ違い区間α,βに存在する、あるいは各区間α,βに進入しようとする車両VEに対して送信してもよい。
【0024】
また、選択部SEは、上記のような優先パターンの切替えを行うタイミング(切替タイミング)を調整する切替調整部SAを備える。切替調整部SAは、例えば状況検知部SDでの検知結果として、車両VEのうち優先的に通行させる対象となったものの通過が確認されたり、所定の時間が経過したりしたことを契機として、優先パターンの見直しを行うタイミングであるか否かを判定する。これにより、選択部SEでは、切替調整部SAによるタイミング制御にしたがって、先に選択された優先パターンから新たに選択された優先パターンへの選択切替が行われる。
【0025】
以下、図3を参照して、選択部SEによる優先パターンの選択について一態様を説明する。まず、初期の選択すなわち第1回選択においては、優先パターン格納部PTに格納されたすべての優先パターンが選択肢(最初の選択肢)として挙げられる。選択部SEは、既述のように、状況検知部SDでの検知結果と、優先条件とに基づいて、これらの選択肢から一の優先パターンを選択する。図示の例では、優先パターンBが選択されている。また、優先パターンBが選択された後の状態として、優先パターンBが選択肢から除外されたように示している。しかし、後の選択すなわち第2回以降の選択においては、第1回選択で選択された優先パターンBも、選択肢として再度組み入れられる。つまり、選択部SEは、3以上の優先パターンA,B,C,…から一を選択するに際し、先に選択された優先パターン(第1回選択で選択された優先パターンB)を、後の選択(第2回以降の選択)において選択肢として再度組み入れる構成としている。これにより、種々の交通状況に応じて適した通行の優先方向の選択を行って、信号制御を適正に維持可能としている。
【0026】
ここで、上記のような態様の信号制御システム500が制御対象とする信号機及び当該信号機が設置された交通路すなわち交互通行区間ATについては、例えば道路の工事区間や土砂災害等により一時的に片側通行を行う必要が生じた区間における信号制御を行う場合等、種々の態様が考えられる。以下では、信号制御システム500が管轄対象とするものの一例として、いわゆるBRT(Bus Rapid Transit)の専用路において交互通行がなされる場合を、交互通行区間ATの一例として取り上げる。BRTの場合、専用路においては、例えば道路の特性等に応じて走行速度が適正に定められており、安定的な定刻通りの走行が可能であると想定される。しかしながら、BRTは、経路全体としては、専用路と一般路とが混在した状態となっており、例えば通勤ラッシュ時の混雑あるいは天候等といった種々の要因により、特に一般道を通ることで、定時制が守れず、運行の遅延が発生する等の可能性がある。また、BRTの場合、例えば複数の交互通行区間ATの間に、すれ違い区間α,β(例えば図8参照)等を駅の停留所等として設けることが想定されるが、これらの区間に停車できる車両(バス)の台数には、限りがある、といった場合も想定される。そこで、本実施形態では、これらの状況を加味して定めた複数の優先パターンを設定し、状況に応じて、一の優先パターンに基づく信号制御すなわち交通整理を行うことで、円滑な通行を安定的に行うことを可能にしている。
【0027】
以下、図4図7を参照して、複数の優先パターンについての一例を、より具体的に説明する。
【0028】
まず、図4を参照して、第1の優先パターンとして、先優先(先着車両優先)のパターンの考え方について説明する。
【0029】
:先優先(先着車両優先)
ここでは、まず、図4(A)を参照して、信号制御システム500において対象とする交互通行区間AT及び交互通行区間ATの一端側と他端側とであるすれ違い区間α,β、さらには、これらを含む区間として、信号制御のために信号制御システム500(処理装置100)が情報取得を行う範囲等について説明する。
【0030】
なお、図示のように、すれ違い区間αには、X方向への進行可否を示す信号灯器SXαと、Y方向への進行可否を示す信号灯器SYαとが設けられている。同様に、すれ違い区間βには、X方向への進行可否を示す信号灯器SXβと、Y方向への進行可否を示す信号灯器SYβとが設けられている。これらの信号灯器SXα等は、破線で囲んで示す拡大図にあるように、例えば赤と青との点灯切替がなされる。また、信号灯器SXα等は、信号制御システム500からの灯色情報CIに基づき信号の現示表示を行う信号機SIa,SIb(図1参照)に相当するものであるが、既述のように、信号制御システム500(処理装置100)から各車両に対して灯色情報CIを送信する等も可能であり、灯色情報CIの伝達が可能であれば、物理的に信号灯器SXα等を設置することは必ずしも要しない。したがって、信号灯器SXα等は、仮想的なものであってもかまわない。
【0031】
以下、交互通行区間ATの一端側として、すれ違い区間αを含む側の対象区間について説明する。図示のように、すれ違い区間αを含む範囲として、第1区間T1を規定している。また、同じくすれ違い区間αを含み、かつ、第1区間T1よりも狭い範囲(第1区間T1に包含される範囲内)として、第2区間T2を規定している。
【0032】
第1区間T1は、交互通行区間ATの一端側において、信号制御システム500が通行状況について監視する最大範囲を示しており、ここでは、交通需要の確認区間とする。例えば、信号制御システム500は、第1区間T1に進入した車両について、区間の存在時間の計測を行う。つまり、第1区間T1に進入した時点を起点として、対象車両の滞在時間の計測を開始する。
【0033】
第2区間T2は、交互通行区間ATの一端側において、進入した車両がすれ違い区間αが接近してきており、当該車両に対して、進行方向上にある信号灯器SXα,SYαの現示表示をどうするかを決定するタイミングであることを確認するための範囲を示しており、ここでは、バス接近の確認区間とする。
【0034】
さらに、図示の例では、上記のほか、第3区間T3及び第4区間T4を規定している。第3区間T3は、第1区間T1のうち、X方向について第2区間T2よりも手前の区間を示しており、第4区間T4は、第1区間T1のうち、Y方向について第2区間T2よりも手前の区間を示している。言い換えると、第3区間T3は、第1区間T1のうち、第2区間T2以外の区間であって、交互通行区間ATから遠い側の区間であり、第4区間T4は、第1区間T1のうち、第2区間T2以外の区間であって、交互通行区間AT内の区間である。
【0035】
さらに、図示の例では、上記各区間の規定に基づき定まる各位置を、位置Xa~Xfとしている。例えば、図示のように、X方向に進む車両X1についてであれば、車両X1が第1区間T1への進入位置である位置Xaに到達すると、信号制御システム500は、車両X1のすれ違い区間αにおける滞在時間の計測を開始し、さらに、車両X1が位置Xbに到達すると、信号制御システム500は、車両X1に対して、進行方向上にある信号灯器SXαの現示表示をどうするかを決定するための各種処理を行い、すれ違い区間αの範囲を示す位置Xcから位置Xdに車両X1を停留させるか否かが定まる。一方、Y方向に進む車両Y1についてであれば、車両Y1が第1区間T1への進入位置である位置Xfに到達すると、信号制御システム500は、車両Y1のすれ違い区間αにおける滞在時間の計測を開始し、さらに、車両Y1が位置Xeに到達すると、信号制御システム500は、車両Y1に対して、進行方向上にある信号灯器SYαの現示表示をどうするかを決定するための各種処理を行う。
【0036】
次に、交互通行区間ATの他端側として、すれ違い区間βを含む側の対象区間について説明する。すれ違い区間β側についても、図示のように、第1~第4区間T1~T4や、位置Ya~Yfが規定されており、すれ違い区間α側と同じ符号のものは、同様に規定されている。ただし、各区間は、交互通行区間ATを中心に鏡対称となっている。したがって、例えば、第3区間T3及び第4区間T4についてであれば、すれ違い区間βにおいても、第3区間T3は、第1区間T1のうち、第2区間T2以外の区間であって、交互通行区間ATから遠い側の区間であり、第4区間T4は、第1区間T1のうち、第2区間T2以外の区間であって、交互通行区間AT内の区間である、という観点において、すれ違い区間αと同様である。
【0037】
なお、各区間T1~T4,α,βへの車両の進入検知あるいは各位置Xa~Xf,Ya~Yfでの車両の位置検知については、例えば地上に設けたテープセンサー等の各種車両検知手段や、車載のGPS等を利用することで実現可能である。
【0038】
:先着車両優先
上記を前提として、具体的一例を示しつつ、第1の優先パターンとしての先優先(先着車両優先)のパターンの考え方について詳細に説明する。ここでは、Y方向に進む車両Y1が、X方向に進む車両X1に対して先着する場合について説明する。
【0039】
まず、車両Y1がY方向に進み、図4(A)に示すように、車両Y1が位置Yaに到達すると、信号制御システム500は、車両Y1のすれ違い区間βにおける滞在時間の計測を開始し、図4(B)に示すように、車両Y1が位置Yaを通過した状態において、滞在時間についての計測を継続する。その後、図4(C)に示すように、車両X1が位置Xaに到達あるいは通過すると、信号制御システム500は、車両X1のすれ違い区間αにおける滞在時間の計測を開始あるいは継続する。
【0040】
その後、図4(D)に示すように、車両Y1が、さらに進んで、位置Ybに到達あるいは通過する一方、車両X1がまだ位置Xbに未到達であると、信号制御システム500は、車両Y1の交互通行区間ATへの進入すなわちY方向についての通行を、X方向についてよりも優先させるべく、図4(E)に示すように、信号灯器SYβを青とするとともに、信号灯器SXαを赤のまま維持する信号制御を行う。つまり、図4(E)及び図4(F)に示すように、車両Y1が、すれ違い区間βを通過して交互通行区間ATへ進入する一方、車両X1が、すれ違い区間αに停留する。なお、車両Y1がすれ違い区間βを通過完了したことがテープセンサー等での位置検知により確認されると、信号制御システム500は、信号灯器SYβを赤に戻す。
【0041】
その後、図4(G)及び図4(H)に示すように、車両Y1が交互通行区間AT内を進んで、位置Xfさらには位置Xeに到達すると、信号制御システム500は、信号灯器SYαを青とするとともに、信号灯器SXαについては引き続き赤のまま維持する信号制御を行う。これにより、図4(I)に示すように、車両Y1がすれ違い区間αを通過し、これが確認されると、図4(J)に示すように、信号制御システム500は、信号灯器SXαを青として、車両X1の交互通行区間ATへの進入を促す。
【0042】
以上のようにして、先優先(先着車両優先)のパターンに基づく信号制御がなされる。
【0043】
次に、図5及び図6を参照して、第2の優先パターンとして、車両の待ち時間の長さに応じて優先方向を定める待ち時間優先のパターンの考え方について説明する。
【0044】
例えば、既述のように、種々の事情により運行の遅延が発生した場合には、上記のような先優先(先着車両優先)のパターンを適用せず、遅延車両を優先させたい、という要請がある。待ち時間優先のパターンは、かかる状況において適用されるものとなっている。
【0045】
以下、具体的一例を示しつつ、第2の優先パターンとしての待ち時間優先のパターンの考え方について詳細に説明する。ここでは、Y方向に進む車両Y1が、X方向に進む車両X1に対して先着するが、さらに、車両Y1の後続の車両Y2(車両X1よりも降着)に大きな遅延が発生しているものとし、車両Y2への対処を行う場合について説明する。
【0046】
:待ち時間優先
図4を参照して説明した場合と同様に、図5(A)~図5(C)に示すように、この場合、車両Y1の通行を優先すべく、まず、信号灯器SYβを青とする一方、信号灯器SXαについては赤に維持する信号制御が行われる(なお、車両Y1がすれ違い区間βを通過した後、信号灯器SYβは赤に戻る。)。その後も、図5(D)~図5(H)に示すように、車両Y1のY方向への通行については、優先される一方、車両X1は、すれ違い区間αに停留する(図5(D)~図5(H)参照)。
【0047】
ここで、図5(D)~図5(F)に示すように、車両Y1の後続車両であってY方向へ進む車両Y2が、車両Y1がすれ違い区間βや交互通行区間ATを通過する間に、すれ違い区間βに接近した場合、X方向に進む車両X1とY方向へ進む車両Y2とのうち、どちらを優先すべきかが問題となる(図5(D)~図5(F)参照)。先に示した第1の優先パターンのみに従えば、この場合、車両X1の通行を優先することになる。しかし、ここでは、車両Y1の通行を優先する事象が完了する前に、ともに第2区間T2に達している車両X1と車両Y2とは、第1の優先パターン(先優先パターン)の観点では、同等の優先度合を有しているものと捉えることもでき、ここでは、同等であるとみなし、別の優先条件からどちらを優先させるかを決定する。すなわち、第2の優先パターンである「待ち時間優先」のパターンを適用する。
【0048】
待ち時間優先の考えでは、予め定められた規則に従って車両ごとの待ち時間を算出し、算出された待ち時間の大きな車両を優先的に通行させるものとする。例えば、車両X1の待ち時間をTM1、車両Y2の待ち時間をTM2とした場合に、TM1>TM2ならば、車両X1を優先し、TM1<TM2ならば、車両Y2を優先する。なお、待ち時間の算出に関しては、図6を参照して一例を後述する。
【0049】
図5(G)に示す一例では、ともに第2区間T2に達している車両X1と車両Y2とにおいて、車両X1の待ち時間が5であるのに対して、車両Y2の待ち時間が6である、つまり車両Y2のほうが待ち時間の値が大きいため、車両Y2の通行を優先させる、すなわち、Y方向についての通行を優先させるように信号制御を行う。
【0050】
この場合、図5(G)及び図5(H)に示すように、信号灯器SYβを青として車両Y2の交互通行区間ATへの進入を促し、さらに、図5(I)~図5(K)に示すように、車両Y2についてすれ違い区間αを通過させるべく、信号灯器SYαを青とする信号制御を行う。一方、X方向について、すなわち車両X1の通行については、車両Y2が通行する間、留めておき、図5(J)及び図5(K)に示すように、車両Y2が交互通行区間ATの通過を完了した後、信号灯器SXαを青として、車両X1の交互通行区間ATへの進入を促す。
【0051】
以上のようにして、待ち時間優先のパターンに基づく信号制御がなされる。なお、この場合、待ち時間優先が発生した際には、先優先(先着車両優先)のパターンよりも、待ち時間優先のパターンを優先的に選択する態様になっていることになる。
【0052】
以下、図6を参照して、待ち時間の算出に関して、一例を説明する。図6(A)は、同じタイミングで、すれ違い区間α,βの第2区間T2に進入した車両の様子について一例を示す概念図であり、図6(B)は、各車両の待ち時間を示す表データであり、図6(C)は、待ち時間の算出や算出した結果に基づく優先方向の決定について一連の処理を説明するためのフローチャートである。ここで、待ち時間の数値については、種々の設定が可能であるが、例えば1単位と5分相当の遅れと設定することが考えられる。
【0053】
図6(A)に示す一例では、すれ違い区間α側の第2区間T2に2台の車両X1,X2が存在し、すれ違い区間β側の第2区間T2に3台の車両Y1,Y2,Y3が存在している。すなわち、合計5台の車両X1,X2,Y1,Y2,Y3が待ち時間優先のパターンに基づく優先を決定するための対象となっており、また、それぞれの状況は図6(B)のデータ表に示す通りとなっているものとする。
【0054】
以上のような場合における待ち時間の算出から待ち時間の算出に基づく優先方向の決定についての信号制御システム500(処理装置100)での一連の処理について、図6(C)のフローチャートを参照して説明する。
【0055】
まず、処理装置100は、処理装置100あるいは信号制御システム500外の装置(外部装置)との通信から、対象となっている車両X1,X2,Y1,Y2,Y3についての待ち時間の情報が得られているかを確認する(ステップS1)。ステップS1において、外部から待ち時間の情報が得られている場合(ステップS1:Yes)、当該情報を待ち時間の算出結果とみなす取り扱いをする(ステップS2)。すなわち、図6(B)のデータ表の待ち時間の欄に該当する車両の待ち時間の数値を書き込む。
【0056】
一方、ステップS1において、外部から待ち時間の情報が得られていない場合(ステップS1:No)、処理装置100は、各車両について第1区間T1の滞在時間taを算出し(ステップS3)、さらに、予め定められている第1区間T1の設定走行時間tiを抽出する(ステップS4)。なお、設定走行時間tiとは、第1区間T1の起点である位置Xa,Xbからすれ違い区間α,βに到達するのに通常の走行でかかる時間として想定される時間である。また、滞在時間ta及び設定走行時間tiは、待ち時間として規定する値で数値化されている。
【0057】
次に、処理装置100は、滞在時間taから設定走行時間tiを引くことで、該当車両の待ち時間を算出する(ステップS5)。
【0058】
処理装置100は、以上のような各車両についての待ち時間の算出を行い、全ての対象車両(ここでの例では5台の車両)についての待ち時間の算出完了を確認すると(ステップS6)、算出された待ち時間の大小を比較して、待ち時間が最大である車両を抽出する(ステップS7)。図6(B)に示す一例の場合、待ち時間が最も大きい(待ち時間:10)車両X1が抽出されることになる。この結果、処理装置100は、抽出した車両すなわち遅延が最も大きい車両について、優先して通行させるように信号処理を行う(ステップS8)。なお、図6(B)の場合、車両X1の進行方向であるX方向についての通行が優先されることになる。
【0059】
次に、図7を参照して、第3の優先パターンとして、停車可能な車両台数に応じて優先方向を定める車両台数優先パターンの考え方について説明する。
【0060】
:車両台数優先
BRT等において、すれ違い区間α,βのように、車両が双方向通行可能な区間を設ける場合、長さの制約等から、1つの区間内に停車(停留)できる車両の台数に限りあることが想定される。例えば、仮に、すれ違い区間で停車可能な台数を超える車両が、続けて当該すれ違い区間に進入し、かつ、当該区間で優先されずに待つことになってしまうと、どちらの方向にも通行ができないデッドロックが発生してしまうおそれがある。そこで、ここでは、かかる事態の発生を回避して、安定した通行状態に維持すべく、停車可能な車両台数に応じて優先方向を定める車両台数優先パターンを適用している。
【0061】
以下、具体的一例を示しつつ、第3の優先パターンとしての車両台数優先パターンの考え方について詳細に説明する。ここでは、すれ違い区間α,βにおいて、ともに双方向について1台ずつのみ停車(停留)可能であるものとする。また、通行する車両については、Y方向に進む車両Y1が、X方向に進む車両X1に対して先着するが、さらに、車両Y1の後続として3台の車両Y2,Y3,Y4が連続して進んでいる(ただし、車両X1よりも降着)ものとし、車両Y2,Y3,Y4への対処を行う場合について説明する。なお、図示において、すれ違い区間α,β中に示している各数字は、停車可能台数を示しており、図中上側の数字がX方向についての停車可能台数であり、下側の数字がY方向についての停車可能台数である。
【0062】
図4等を参照して説明した場合と同様に、図7(A)~図7(D)に示すように、この場合、車両Y1の通行を優先すべく信号制御が行われ、その後も、車両Y1のY方向への通行については、図7(D)~図7(G)に示すように優先される一方、車両X1は、すれ違い区間αに停留する。
【0063】
ここで、図7(E)~図7(G)に示すように、車両Y1の後続車両であってY方向へ進む車両Y2,Y3,Y4が、車両Y1がすれ違い区間βや交互通行区間ATを通過する間に、すれ違い区間βに接近した場合、X方向に進む車両X1とY方向へ進む車両Y2,Y3,Y4とのどちらを優先すべきかが問題となる。先に示した第1の優先パターンのみに従えば、この場合、車両X1の通行を優先することになる。さらに、第1の優先パターンに加え、第2の優先パターンを加味した場合、遅延の度合いで優先方向が確定することになる。例えば図7(H)に示すように、車両X1の待ち時間が5であるのに対して、車両Y2,Y3,Y4の待ち時間が2,1,1であった場合、第2の優先パターンを加味しても、待ち時間が最大である車両X1の通行を優先することになる。しかし、ここでは、第1の優先パターンや第2の優先パターンよりも、駐車可能台数に関する第3の優先パターンを優先適用する態様とする。
【0064】
図7(H)に示す一例では、ともに第2区間T2に達している車両X1と車両Y2,Y3,Y4とにおいて、まず、すれ違い区間αにおけるX方向側の駐車可能台数が1であり、すれ違い区間αを含む第2区間T2に存在する車両も車両X1の1台のみであるので、駐車可能台数を超えていない。一方、すれ違い区間βにおけるY方向側の駐車可能台数も1であるが、すれ違い区間βを含む第2区間T2に存在する車両は、車両Y2,Y3,Y4の3台であり、駐車可能台数を超えている。この場合、信号制御システム500(処理装置100)は、車両Y2,Y3,Y4の通行を優先させる、すなわち、Y方向についての通行を優先させるように信号制御を行う。こうしないと、車両Y2,Y3,Y4のうち、車両Y3,Y4がすれ違い区間βに進入できず、例えばY方向についてすれ違い区間βの手前に設けられた交互通行区間内にとどまってデッドロックの状態を引き起こしてしまうからである。
【0065】
上記した車両Y2,Y3,Y4の通行優先について、具体的には、図7(H)に示すように、信号灯器SYβを青として車両Y2,Y3,Y4の交互通行区間ATへの進入を促し、さらに、図7(I)及び図7(J)に示すように、車両Y2,Y3,Y4についてすれ違い区間αを通過させるべく、信号灯器SYαを青とする信号制御を行う。一方、X方向について、すなわち車両X1の通行については、車両Y2,Y3,Y4が通行する間、留めておき、図7(J)に示すように、車両Y2,Y3,Y4が交互通行区間ATの通過を完了した後、信号灯器SXαを青として、車両X1の交互通行区間ATへの進入を促す。
【0066】
以上のようにして、車両台数優先パターンに基づく信号制御がなされる。なお、この場合、車両台数を超える数の車両進入が発生した際には、先優先(先着車両優先)のパターンや待ち時間優先のパターンよりも、車両台数優先パターンを優先的に選択する態様になっていることになる。
【0067】
以下、図8図9等を参照して、上記のような優先パターンを利用してBRTにおける交通信号制御を行う信号制御システム500のより具体的な一構成例について説明する。
【0068】
図示の信号制御システム500は、処理装置100に加え、すれ違い区間αに設置される現場制御装置200αと、すれ違い区間βに設置される現場制御装置200βとを備える。
【0069】
なお、図8に例示するように、BRTにおける走行区間は、ハッチングで示すブロック区間BBを繋ぎ合わせて構成されている。つまり、これらのブロック単位で、すれ違い区間α,βや交互通行区間AT等をはじめとする各区間の範囲が設定されている。
【0070】
以下、図9として示すブロック図を参照して、信号制御システム500の各部の詳細について説明する。
【0071】
まず、現場制御装置200αは、例えばPC等で構成され、すれ違い区間αやその周辺の情報を取得するとともに、取得した情報を処理装置100へ送信し、また、処理装置100から配信される優先パターンに基づく灯色情報等の各種情報を受信して、信号機SIa(信号灯器SXα,SYα)や車両VEに送信するデータ処理装置である。現場制御装置200αは、CPUあるいは各種演算回路で構成されて各種動作を司る主制御部201と、各種ストレージデバイス等で構成される記憶部202と、車両VEに搭載された車載装置MTや、処理装置100との通信を行う通信部203とを備える。また、現場制御装置200αは、すれ違い区間αやその周辺に配置される信号機SIa(信号灯器SXα,SYα)、車両検知センサーSS等と有線接続による通信又は無線通信が可能となっている。車両検知センサーSSとしては、種々の態様が考えられるが、例えば経路地面上にテープセンサーを取り付けることで、必要な個所で車両通過を捉えるようにすること等が考えられる。
【0072】
なお、車両VEに搭載された車載装置MTは、例えば車載のカーナビゲーションシステムや搭乗者が所持するスマートフォン(スマホ)等で構成され、各種動作処理を行う主制御部MTpや、取得した情報を記憶する記憶部MTmのほか、GPSセンサーMTsや通信部MTcを有する。車載装置MTは、自己の位置情報を抽出して現場制御装置200αに対して送信する一方、現場制御装置200αを介して処理装置100から配信される優先パターンに基づく灯色情報等の各種情報を受信する。
【0073】
また、現場制御装置200βは、現場制御装置200αと同様の構成を有し、すれ違い区間βやその周辺に関して、現場制御装置200αがすれ違い区間α等に関して行う役割と同様の役割を担う。
【0074】
処理装置100は、既述のように、例えばサーバー等で構成され、図示のように、主制御部101と、記憶部102と、通信部103とを備える。通信部103は、現場制御装置200α,200βと通信して、各種処理を行う上で必要となる外部環境についての状況収集を行う。
【0075】
処理装置100のうち、主制御部101は、状況検知部である通行検知部TDと、切替調整部SAを含む選択部SEとのほか、先着方向判定部FCと、遅延算出部DCと、停車台数比較部NCとを備える。なお、上記のうち、通行検知部TDと、切替調整部SAを含む選択部SEとについては図2等を参照して、既に説明しているため、再度の説明を省略する。
【0076】
先着方向判定部FCは、X方向からすれ違い区間αに向かう車両VEと、Y方向からすれ違い区間βに向かう車両VEとのうち、先着する車両はどちらの方向からのものであるかについて判定する。すなわち、第1の優先パターンである先優先(先着車両優先)パターンに基づく信号制御のために必要な判定を行う。具体的には、先着方向判定部FCは、図4等に示す位置XbにおけるX方向についての車両通過と位置YbにおけるY方向についての車両通過とについて、どちらが先かを検知する。
【0077】
遅延算出部DCは、すれ違い区間α,βや、これを含む区間T1,T2(図4等参照)に進入する車両(バス)について、遅延の度合を算出する。すなわち、第2の優先パターンである待ち時間優先パターンに基づく信号制御のために必要な待ち時間の算出を行う。
【0078】
停車台数比較部NCは、すれ違い区間α,βにおいて停車可能な台数と、各区間α,βに向かう車両台数との比較を行い、併せて必要な判定を行う。すなわち、第3の優先パターンである車両台数優先パターンに基づく信号制御のために必要な比較及び判定を行う。
【0079】
記憶部102は、主制御部101において、上述のような各種処理を実行するために必要なプログラムやデータを格納している。具体的には、記憶部102は、例えば車両データVHdや、運行管理データOMd等の各種データを格納している。車両データVHdは、例えば車両の進行する方向ごとに、X方向車両データVXdとY方向車両データVYdとに分けて、対象となる車両に関する各種データが格納されている。また、運行管理データOMdには、例えばBRTのダイヤグラムや、設定走行時間ti(図6参照)等の運行管理に関する各種情報等の遅延度合を算出するためのデータが含まれる。
【0080】
また、処理装置100のうち、記憶部102は、選択部SEでの選択に際して必要となる優先条件(判断基準)PD(図2参照)のデータを格納する優先条件(判断基準)データ格納部PJdが設けられている。このほか、優先パターン格納部PTが記憶部102の一部として設けられている。優先パターン格納部PTについては、図2を参照して説明したように、3以上の互いに異なる優先パターンA,B,C,…が設けられているが、ここでは、一例として、図10に示すように、4つの優先パターンA,B,C,Zが用意されているものとする。つまり、ここでの一例では、4つの優先パターンA,B,C,Zのうち、3つの優先パターンA,B,Cとして、上述した第1~第3の優先パターンを適用し、さらにこれらに加えて第4の優先パターンとして、既定の優先パターンZを設けている。図中に例示する既定優先パターンZは、図示にある通り、時間帯によってX方向を優先するかY方向を優先するかを決定している。つまり、通行の状況に依らず機械的に判定を行うことを可能にするものである。このようなものを設けることで、例えば通行の状況からはいずれの観点からも優先度合が同等となってしまう、というような場合であっても、いわば強制的にどちらを優先するかを決定できる。なお、本実施形態の場合、第1の優先パターンA(先優先パターン)において、X方向とY方向とから同時に到達したと判断されるような場合に、既定優先パターンZを利用することが考えられる。
【0081】
また、図中の例示のように、時間帯によってX方向を優先するかY方向を優先するかを決定する場合、例えば通勤通学ラッシュの影響等で、朝方はX方向について混雑が生じやすく、夕方以降はY方向について混雑が生じやすい、といった場合に適した優先方向の選択ができると考えられる。
【0082】
以下、図11のフローチャートを参照して、図8等を参照して示した信号制御システム500(処理装置100)における一連の処理動作を説明する。
【0083】
まず、処理装置100の主制御部101は、優先パターンの最初の選択あるいは切替調整部SAによるタイミング制御にしたがった新たな優先パターンへの選択切替において、まず、すれ違い区間α,βに向かうあるいは存在する車両に関して、すれ違い区間α,βで停車可能な合計数を超える車両(バス)が存在するか否かを、停車台数比較部NCにより確認する。つまり、X方向とY方向とについて、停車可能な合計数を超える車両(バス)が存在するか方向があるか否かを確認する(ステップS101)。
【0084】
ステップS101において、いずれかの方向で停車可能な合計数を超える車両(バス)が存在すると判定された場合(ステップS101:Yes)、主制御部101は、当該方向を優先する、つまり当該方向が青となるように信号制御を行う(ステップS102)。
【0085】
以上について言い換えると、この場合、主制御部101は、第3の優先パターンCである車両台数優先パターンにより信号制御を行う。また、この態様では、選択部SEとしての主制御部101が、交互通行区間ATの一端側と他端側とのうち一方において停車可能な車両台数を超えている場合、上記3以上の優先パターンA,B,C,Zのうち、第3の優先パターンCである車両台数優先パターンを優先的に選択している、ということになる。
【0086】
主制御部101は、上記態様により優先させた車両の通過を確認すると(ステップS103)、再びステップS101からの動作を繰り返す。つまり、該当車両の通過を確認することで、第3の優先パターンCによる信号制御の事象が完了したものとし、切替調整部SAは、次の優先パターンの選択のタイミングであると判断する。
【0087】
一方、ステップS101において、いずれの方向においても、存在する車両(バス)の台数が停車可能な合計数を超えていないと判定された場合(ステップS101:No)、主制御部101は、対象となる車両において、最も待ち時間が大きいものが存在する否かを、遅延算出部DCでの待ち時間の算出結果に基づき確認する(ステップS104)。
【0088】
ステップS104において、いずれかの最も待ち時間が大きいものが存在する、すなわち他の車両より大きな遅延が発生しているものが存在すると判定された場合(ステップS104:Yes)、主制御部101は、当該方向を優先する、つまり当該方向が青となるように信号制御を行う(ステップS105)。
【0089】
以上について言い換えると、この場合、主制御部101は、第2の優先パターンBである待ち時間優先パターンにより信号制御を行う。
【0090】
主制御部101は、上記態様により優先させた車両の通過を確認すると(ステップS106)、再びステップS101からの動作を繰り返す。つまり、該当車両の通過を確認することで、第2の優先パターンBによる信号制御の事象が完了したものとし、切替調整部SAは、次の優先パターンの選択のタイミングであると判断する。
【0091】
一方、ステップS104において、最も待ち時間が大きいものが存在しない、つまり、いずれの車両においても待ち時間に差がないと判定された場合(ステップS104:No)、主制御部101は、車両(バス)接近の確認区間である第2区間T2について、すれ違い区間αを含む側すなわちX方向に進む側と、すれ違い区間βを含む側すなわちY方向に進む側とのうち、先に進入した車両(バス)が存在する方向を、先着方向判定部FCでの判定結果により確認する(ステップS107)。
【0092】
なお、ステップS104において待ち時間に差がないと判定される典型的一例としては、車両に遅延が全く発生していない場合が考えられる。
【0093】
ステップS107において、いずれかの方向について先着車両があると判定された場合(ステップS107:Yes)、主制御部101は、当該方向を優先する、つまり当該方向が青となるように信号制御を行う(ステップS108)。
【0094】
以上について言い換えると、この場合、主制御部101は、第1の優先パターンAである先優先(先着車両優先)パターンにより信号制御を行う。
【0095】
主制御部101は、上記態様により優先させた車両の通過を確認すると(ステップS109)、再びステップS101からの動作を繰り返す。つまり、該当車両の通過を確認することで、第1の優先パターンAによる信号制御の事象が完了したものとし、切替調整部SAは、次の優先パターンの選択のタイミングであると判断する。
【0096】
一方、ステップS107において、いずれの方向についても先着車両がないと判定された場合(ステップS107:No)、主制御部101は、第4の優先パターンである規定優先パターンZにより信号制御を行う(ステップS110)。つまり、優先時間が適用される側の方向について優先的に取り扱うように信号制御を行う。なお、ステップS107において、いずれの方向についても先着車両がないと判定される典型的一例としては、X方向について進む車両とY方向について進む車両とが同時又はほぼ同時に位置Xbと位置Ybとに到達して、先着方向判定部FCでの判定において差がないとされるような場合が考えられる。このような場合には、時間帯に応じて定まる一方向の車両を優先的に通過させ、その後、他方向の車両を通過させるようにする、といった態様とすることができる。
【0097】
主制御部101は、上記態様により優先させた車両の通過を確認すると(ステップS111)、再びステップS101からの動作を繰り返す。つまり、該当車両の通過を確認することで、第4の優先パターンZによる信号制御の事象が完了したものとし、切替調整部SAは、次の優先パターンの選択のタイミングであると判断する。
【0098】
以上のような一連の処理を繰り返すことで、信号制御システム500は、交互通行区間AT及び交互通行区間ATの一端側と他端側とにおける通行のための信号制御を継続的に実行する。
【0099】
以上のように、本実施形態における信号制御システム500は、外部環境について状況を検知する状況検知部SD(通行検知部TD)と、信号制御に関する3以上の異なる優先パターンを格納する優先パターン格納部PTと、状況検知部SDでの検知結果と優先条件とに基づいて、3以上の優先パターンから一を選択するに際し、先に選択された優先パターンを、後の選択において選択肢として再度組み入れる選択部SEとを備える。これにより、信号制御システム500では、検知された外部環境についての状況と、優先条件すなわち通行状況に関して予め閾値等で定めた各種条件とに応じて、3以上の優先パターンから一を選択するものとし、かつ、当該3以上の優先パターンから一を選択するに際し、先に選択された優先パターンを、後の選択において選択肢として再度組み入れる態様としている。これにより、種々の交通状況に応じて適した通行の優先方向の選択を行って、信号制御を適正に維持可能としている。
【0100】
〔その他〕
この発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0101】
まず、上記実施形態では、1つの交互通行区間ATとこれの一端側及び他端側において双方向通行可能な区間とにおいて信号制御すなわち交通整理を行う場合について説明したが、複数の交互通行区間ATが存在する場合においても、本願発明を適用できる。BRTの例であれば、複数の交互通行区間を、双方向通行可能な区間であるすれ違い区間で繋いで経路全体が構成されるという態様においても、例えば単数又は複数の信号制御システム500で所望の信号制御を行える。複数の信号制御システム500を利用する場合、これらを数珠つなぎで連携させることで、経路全体における円滑な通行を実現できる。
【0102】
さらに、信号制御システム500を構成する各部の設置等についても、種々の態様が考えられ、例えば処理装置100を、いずれかの信号機の内部に組み込んで構成することも可能である。
【0103】
また、上記実施形態において、いくつかの優先パターンを例示しているが、優先パターンについては上記に限らず、種々のものが想定される。また、例えば外部状況を検知する手法として、さらに広域な範囲で管理等を行う管制センター等からの情報を利用することも考えられる。また、種々の情報を併用することも考えられ、例えば各車載装置MTからの情報と、車両検知センサーSSからの情報とを照合して確認をとる等してもよい。
【0104】
また、上記では、車両を有して構成されるBRTを一例として説明をしているが、上記各実施形態に示した発明は、BRTに限らず、車両を有して構成される列車やLRT等、種々の交通システムにおいて、適用することが可能である。
【符号の説明】
【0105】
100…処理装置、101…主制御部、102…記憶部、103…通信部、200α,200β…現場制御装置、201…主制御部、202…記憶部、203…通信部、500…信号制御システム、A,B,C,Z…優先パターン、AT…交互通行区間、BB…ブロック区間、DC…遅延算出部、FC…先着方向判定部、MT…車載装置、MTc…通信部、MTm…記憶部、MTp…主制御部、MTs…GPSセンサー、NC…停車台数比較部、OMd…運行管理データ、PD…優先条件(判断基準)、PJd…優先条件(判断基準)データ格納部、PT…優先パターン格納部、SIa,SIb…信号機、SA…切替調整部、SD…状況検知部、SE…選択部、SIa,SIb…信号機、SS…車両検知センサー、SXα,SYα,SXβ,SYβ…信号灯器、T1~T4…区間、TD…通行検知部、VE…車両、VHd…車両データ、VXd…X方向車両データ、VYd…Y方向車両データ、X1,X2,Y1,Y2,Y3…車両、Xa~Xf,Ya~Yf…位置、ta…滞在時間、ti…設定走行時間、α,β…すれ違い区間
図1
図2
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図4
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図8
図9
図10
図11