(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】高速炉の炉心
(51)【国際特許分類】
G21C 5/00 20060101AFI20240515BHJP
G21C 5/16 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
G21C5/00 A
G21C5/16
(21)【出願番号】P 2020187057
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】307041573
【氏名又は名称】三菱FBRシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】平松 貴志
(72)【発明者】
【氏名】日比 宏基
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-194780(JP,A)
【文献】VASUDHA VERMA,Development of a Neutron Flux Monitoring System for Sodium-cooled Fast Reactors,Digital Comprehensive Summaries of Uppsala Dissertations from the Faculty of Science and Technology 1508,Section 5,スウェーデン,UPPSALA UNIVERSITET,2017年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 5/00
G21C 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が正六角形状であり、着脱可能な集合体を有する高速炉の炉心であって、
高速炉の炉心の中心領域に収容され、燃料を格納する前記集合体である燃料集合体と、
前記中心領域に隣接し、前記燃料集合体と、前記高速炉の主容器の内部に設置されている炉内機器との間の領域に収容され、前記燃料から発生する中性子を減衰させる前記集合体である遮蔽集合体と、
前記中心領域及び前記遮蔽集合体の格納領域に隣接し、前記燃料集合体と、前記主容器の外部に設置されている
複数の中性子検出器
それぞれとの間の
複数の領域
それぞれにおいて、前記炉心の中心から径方向及び円周方向に隣接して複数収容され、前記遮蔽集合体よりも前記中性子を透過させる、前記炉心から着脱可能であるとともに断面形状が正六角形状の透過体と、
を有する高速炉の炉心。
【請求項2】
前記燃料を冷却する冷却材は液体金属であり、
前記透過体の内部が前記冷却材で満たされる、
請求項1に記載の高速炉の炉心。
【請求項3】
前記遮蔽集合体と前記透過体とは同一形状の筐体を有しており、
前記遮蔽集合体は、前記筐体内の所定空間内に、前記中性子を減衰させる中性子遮蔽材を有し、
前記透過体は、前記筐体内の前記所定空間内に、前記冷却材を有する、
請求項2に記載の高速炉の炉心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速炉の炉心に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子炉を安全に連転するために、炉心から発生する中性子を測定することが行われている。高速炉の炉心から発生する中性子の遮蔽設計では、主容器内の機器である炉内機器に入射する中性子束を制限値以下にするという第1要求と、炉心監視のための中性子計装である中性子検出器に入射する中性子束を制限値以上にするという第2要求との2つの相反する要求を満足することが要求される。
【0003】
例えば、特許文献1では、タンク型の高速炉において第1要求と第2要求とを満たすために、中性子遮蔽能力が小さいアルゴンやヘリウム等の気体を封入、又は真空にした中空円筒を炉心と中性子検出器との間の炉内位置に設けておき、中空円筒により主容器外への中性子透過を促進して中性子検出器により中性子束を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中空円筒は炉内構造物であり、冷却材としての液体ナトリウムに浸っている。液体ナトリウムは高温であることから、液体ナトリウム内に検査機器等を設けて中空円筒の検査及び破損検知を行うことが困難である。故障した中空円筒を使用し続けると、中性子検出器による中性子束の測定値の正確度が低下してしまうという問題が生じていた。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、中性子検出器による中性子束の測定値の正確度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
断面形状が正六角形状であり、着脱可能な集合体を有する高速炉の炉心であって、高速炉の炉心の中心領域に収容され、燃料を格納する前記集合体である燃料集合体と、前記中心領域に隣接し、前記燃料集合体と、前記高速炉の主容器の内部に設置されている炉内機器との間の領域に収容され、前記燃料から発生する中性子を減衰させる前記集合体である遮蔽集合体と、前記中心領域及び前記遮蔽集合体の格納領域に隣接し、前記燃料集合体と、前記主容器の外部に設置されている中性子検出器との間の領域に収容され、前記遮蔽集合体よりも前記中性子を透過させる、前記炉心から着脱可能であるとともに断面形状が正六角形状の透過体と、を有する。
【0008】
前記燃料を冷却する冷却材は液体金属であり、前記透過体の内部が前記冷却材で満たされてもよい。
前記遮蔽集合体と前記透過体とは同一形状の筐体を有しており、前記遮蔽集合体は、前記筐体内の所定空間内に、前記中性子を減衰させる中性子遮蔽材を有し、前記透過体は、前記筐体内の前記所定空間内に、前記冷却材を有してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炉外に設置する中性子検出器による中性子束の測定値の正確度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る高速炉の構成を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る原子炉の内部構造を模式的に示す図である。
【
図3】本実施形態に係る炉心の構成を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る遮蔽集合体と、透過体との構造を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る原子炉における、炉心の中心軸からの径方向の距離と、中性子束との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係る高速炉の炉心を説明するにあたり、高速炉の構造について説明する。
図1は、本実施形態に係る高速炉100の構成を示す図である。
図2は、本実施形態に係る原子炉1の内部構造を模式的に示す図である。
図1に示すように、高速炉100は、原子炉1と、複数の中性子検出器6とを備える。
【0012】
原子炉1は、タンク型の原子炉である。原子炉1は、
図1に示すように主容器2を有する。原子炉1の主容器2の内部には、
図1及び
図2に示すように、炉内機器としてのポンプ3及び中間熱交換器5と、炉心4とが設けられている。
【0013】
主容器2は、直径が15mから20m程度の容器である。
ポンプ3は、炉心4の径方向に3基設けられている。ポンプ3は、炉心4から発生し、中性子検出器6に入射する中性子を遮らないように、
図1に示すように、炉心4と中性子検出器6との間の領域とは異なる領域に設けられている。炉心4と中性子検出器6との間の領域は、
図1に示すように、6つ並んでいる中性子検出器6のうち外側の2つの中性子検出器6と、これらの中性子検出器6に最も近い燃料集合体とを結ぶ直線によって囲まれる領域Aである。ポンプ3は、炉心4に一次冷却材としての低温ナトリウムを供給するための炉内配管に低温ナトリウムを圧送する。
【0014】
炉心4は、炉内配管を介して供給される低温ナトリウムを昇温させる。昇温して高温状態となったナトリウムを高温ナトリウムという。炉心4の詳細については後述する。
【0015】
中間熱交換器5は、
図1に示すように、主容器2内に4基設けられている。中間熱交換器5は、炉心4から発生し、中性子検出器6に入射する中性子を遮らないように、
図1に示すように、炉心4と中性子検出器6との間の領域とは異なる領域に設けられている。中間熱交換器5は、流入口51及び流出口52を有している。中間熱交換器5は、流入口51から流入した高温ナトリウムと、二次冷却材として機能するナトリウムとの熱交換を行う。熱交換が行われることにより温度が低下したナトリウムは、低温ナトリウムとして、流出口52から下部プレナムへと流出する。
【0016】
中性子検出器6は、原子炉1内で発生した中性子束を測定する。高速炉100には、3種類の中性子検出器6として、出力領域系の中性子検出器、広域系の中性子検出器、後備の出力領域系の中性子検出器が、それぞれ4チャンネル分設けられている。
【0017】
[炉心4の構成]
本実施形態において、炉心4は、主容器2の内部に設置されている炉内機器としてのポンプ3及び中間熱交換器5に入射する中性子束を制限値以下にするという第1要求と、中性子検出器6に入射する中性子束を制限値以上にするという第2要求との2つの要求を満足するための構造を有している。以下、炉心4の構成について説明する。
【0018】
図3は、本実施形態に係る炉心4の構成を示す図である。炉心4は、断面形状が正六角形状であり、着脱可能なラッパ管に各種要素を格納した集合体を複数有している。具体的には、炉心4は、
図3に示すように、燃料集合体41と、遮蔽集合体43と、透過体44とを有している。また、炉心4は、制御棒42を有する。
【0019】
燃料集合体41は、炉心4の中心領域A1に収容されている。燃料集合体41は、ラッパ管内に燃料要素としての核分裂性物質を格納した物体である。制御棒42は、例えば、炉心4の中心領域A1の内部と、炉心4の中心領域に隣接する位置と設けられており、制御装置(不図示)により、燃料集合体41の間への挿入量が制御される。これにより、燃料集合体41に格納されている燃料の核分裂が制御される。
【0020】
遮蔽集合体43は、炉心4から着脱可能であるとともに断面形状が正六角形状である。遮蔽集合体43は、中心領域A1に隣接し、燃料集合体41と、炉内機器としてのポンプ3及び中間熱交換器5の間の領域である遮蔽領域A2に収容されている。遮蔽集合体43は、燃料集合体41に格納されている燃料から発生する中性子を減衰させることにより、ポンプ3及び中間熱交換器5に入射する中性子束を予め規定されている制限値以下にする。
【0021】
透過体44は、中心領域A1と、遮蔽集合体43の格納領域としての遮蔽領域A2に隣接し、燃料集合体41と、中性子検出器6との間の領域である透過領域A3に着脱可能な状態で収容されている。透過体44は、遮蔽集合体43よりも中性子を透過させる。
【0022】
遮蔽集合体43と、透過体44とは同一形状の筐体を有している。
図4は、本実施形態に係る遮蔽集合体43と、透過体44との構造を示す図である。
図4(a)は、遮蔽集合体43を示しており、
図4(b)は、透過体44を示している。遮蔽集合体43及び透過体44は、中空構造を有するラッパ管である。ラッパ管の上端と下端には、チャージドレイン用の開口部が設けられている。また、ラッパ管の上端には、ラッパ管を炉心4に着脱する燃料交換機(不図示)が把持可能なハンドリングヘッド(不図示)が設けられている。燃料交換機は、ハンドリングヘッドを把持することにより、ラッパ管を移動させることができる。原子炉1の管理者は、透過体44を検査したり交換したりする際に、燃料交換機を用いて透過体44を着脱することができる。
【0023】
遮蔽集合体43は、
図4(a)に示すように、筐体内の所定空間に、中性子を減衰させるステンレス鋼や炭化ホウ素等の中性子遮蔽材431を有している。これに対し、透過体44は、
図4(b)に示すように、筐体内の所定空間に中性子遮蔽材を有しておらず、中空である。
【0024】
遮蔽集合体43及び透過体44が炉心4に収容されると、開口部を介して内部の所定空間に冷却材としてのナトリウムが侵入する。遮蔽集合体43の所定空間には中性子遮蔽材431が収容されていることから、遮蔽集合体43の所定空間には少量のナトリウムが侵入する。これに対し、透過体44の所定空間には中性子遮蔽材が収容されておらず、所定空間が中空であることから、透過体44の所定空間はナトリウムで満たされる。ナトリウムは中性子遮蔽材に比べて中性子を遮蔽しにくいことから、透過体44は、遮蔽集合体43に比べて中性子を透過させる。これにより、中性子検出器6に入射する中性子束を制限値以上にすることができる。
【0025】
図5は、原子炉1における、炉心4の中心軸からの径方向の距離と、中性子束との関係を示すグラフである。
図5に示す横軸は、所定高さにおける炉心4の中心軸からの径方向の距離を示しており、縦軸は、中性子束の量を示している。
図5に示す実線の特性は、炉心4の中心軸から炉内機器が設置されている方向に直線を引いた場合における、中心軸からの距離と、中性子束の量との関係を示している。
図5に示す破線の特性は、炉心4の中心軸から中性子検出器6が設置されている方向に直線を引いた場合における、中心軸からの距離と、中性子束の量との関係を示している。
【0026】
炉心4の中心軸から炉内機器が設置されている方向には、遮蔽集合体43が収容されていることから、
図5の実線の特性に示すように、遮蔽集合体43が収容されている200cmから300cm付近の距離で、中性子束が大きく減衰していることが確認できる。これにより、原子炉1は、炉内機器としてのポンプ3及び中間熱交換器5に入射する中性子束を制限値以下にするという第1要求を満たし、中間熱交換器5に流入する2次ナトリウムの放射化を抑えることができる。
【0027】
一方、炉心4の中心軸から中性子検出器6が設置されている方向には、透過体44が収容されていることから、
図5の破線の特性に示すように、透過体44が収容されている200cmから300cm付近の距離で、実線の特性に比べて中性子束が減衰していないことが確認できる。これにより、原子炉1は、中性子検出器6に入射する中性子束を制限値以上にするという第2要求とを満たすことができる。
【0028】
[本実施形態における効果]
以上のとおり、本実施形態に係る高速炉100の炉心4は、炉心4の中心領域に隣接し、燃料集合体41と、主容器2の内部に設置されている炉内機器であるポンプ3及び中間熱交換器5との間の領域に収容され、燃料から発生する中性子を減衰させる遮蔽集合体43と、中心領域及び遮蔽集合体43の格納領域に隣接し、燃料集合体41と、主容器2の外部に設置されている中性子検出器6との間の領域に収容され、遮蔽集合体43よりも中性子を透過させる透過体44とを有する。
【0029】
このようにすることで、高速炉100の炉心4は、炉内機器に入射する中性子束を制限値以下にすること、及び炉内における高温等の課題を忌避して炉外に設置されている中性子検出器に入射する中性子束を制限値以上にすることを簡易な構成で実現することができる。また、高速炉100の炉心4は、透過体44が着脱可能であることから、透過体44を炉心4から定期的に取り出して検査を行ったり透過体44を定期的に交換したりすることができ、原子炉の運転中に、原子炉の健全性が保証することができるとともに、中性子検出器6の指示値の動作の健全性を保証することができる。また、炉心4は、複数の透過体44により構成されているので、一部の透過体44の性能が変化したとしても、中性子束の測定に与える影響が小さい。したがって、高速炉100の炉心4は、中性子検出器6による中性子束の測定値の正確度を向上させることができる。
【0030】
また、本実施形態に係る高速炉100の炉心4において、透過体44の内部は、冷却材としてのナトリウムで満たされる。ナトリウムは中性子遮蔽材に比べて中性子を遮蔽しにくいことから、透過体44は、遮蔽集合体43に比べて中性子を透過させ、中性子検出器6に入射する中性子束を制限値以上にすることができる。また、透過体44が破損した場合であっても、透過体44の内部は、冷却材としてのナトリウムで満たされたままで変化しない。したがって、透過体44は、破損しても透過性能に影響を及ぼさないようにすることができる。
【0031】
また、高速炉100は、従来のように、中性子遮蔽能力が小さい気体を封入、又は真空にした中空円筒を炉心と中性子検出器との間の炉内位置に設けないので、故障した中空円筒を使用し続けることにより、中空円筒にナトリウムが流入して遮蔽能力が高まり中性子検出器による中性子束の測定値が低下し、正確な測定値が得られなくなるとともに、低下した測定値に基づいて不必要に炉心出力を上昇させてしまうという問題や、ガス漏れが発生することによる炉心における反応度外乱の発生の問題も生じない。
【0032】
また、遮蔽集合体43と透過体44とは同一形状の筐体を有しており、遮蔽集合体43は、筐体内の所定空間内に、中性子を減衰させる中性子遮蔽材431を有し、透過体44は、筐体内の所定空間内に、冷却材としてのナトリウムを有する。このようにすることで、透過体44を、従来から炉心4に収容されている遮蔽集合体43と同様に炉心4に容易に着脱することができる。また、遮蔽集合体43の筐体を利用して透過体44を製造することができる。このため、透過体44の製造コストを軽減することができる。
【0033】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、上述の実施形態では、透過体44の内部が冷却材であるナトリウムで満たされることとしたが、これに限らない。例えば、透過体44の内部がアルミニウム等の中性子を減衰しにくい物質で満たされるようにしてもよい。
【0034】
また、上述の実施形態では、原子炉1はタンク型の原子炉であることとしたが、これに限らない。原子炉1は、ループ型の原子炉であってもよい。原子炉1がループ型の原子炉であっても、炉心4は、上述の実施形態で説明した効果と同様の効果を奏することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0035】
1 原子炉
2 主容器
3 ポンプ
4 炉心
5 中間熱交換器
6 中性子検出器
51 流入口
52 流出口
100 高速炉
431 中性子遮蔽材