(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】光検出器
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20240515BHJP
H01L 31/108 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
H01L31/10 H
H01L31/10 C
(21)【出願番号】P 2020216822
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】董 偉
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-004775(JP,A)
【文献】特開2014-007334(JP,A)
【文献】特開2014-229779(JP,A)
【文献】特開2013-214719(JP,A)
【文献】特開2007-273832(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0280345(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0144654(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/0392
H01L 31/08-31/119
H01L 31/18-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体によって構成され、第1面及び前記第1面に対向する第2面を有すると共に、前記第2面から突出する凸部が設けられた半導体ベース部と、
前記半導体ベース部の前記第1面又は前記第2面に設けられた第1の金属電極層と、
第2導電型の半導体によって構成され、前記半導体ベース部の前記第2面を覆う第1の部分と、前記凸部の側面を覆う第2の部分とを有する半導体層と、
前記凸部及び前記半導体層の前記第2の部分を挟むように前記半導体層に密着して設けられた第2の金属電極層と、を備え、
前記凸部、前記半導体層の前記第2の部分、及びこれらを挟む前記第2の金属電極層によってMIM共振器が形成され、
前記MIM共振器の共振器長は、前記半導体ベース部及び前記半導体層の吸収端波長よりも長い波長を有する入射光によって表面プラズモンが励起され、且つ前記表面プラズモンの共振により形成される電場によってフォノンが励起される長さとなっている光検出器。
【請求項2】
前記半導体層において、前記第2の部分の厚さが前記第1の部分の厚さよりも小さくなっている請求項1記載の光検出器。
【請求項3】
前記半導体層は、前記凸部の頂面を覆う第3の部分を有し、
前記第2の金属電極層は、前記半導体層の前記第3の部分を覆うと共に、前記凸部及び前記半導体層の前記第2の部分を挟む部分同士を繋ぐ電極部分を有する請求項1又は2記載の光検出器。
【請求項4】
前記凸部の頂面には、当該頂面と前記半導体層の前記第2の部分とに跨る絶縁層が設けられ、
前記第2の金属電極層は、前記絶縁層を覆う電極部分を有する請求項1又は2記載の光検出器。
【請求項5】
前記表面プラズモンの波長をλpとした場合に、前記半導体層の前記第1の部分からの前記凸部の高さHが、2/8λp<H<5/8λpを満たす請求項1~4のいずれか一項記載の光検出器。
【請求項6】
前記凸部は、前記半導体ベース部の前記第2面の面内方向に一定の間隔で複数設けられており、
前記表面プラズモンの波長をλpとした場合に、一の凸部の側面から隣の凸部の同側面までのピッチPが、9/10λp<P<11/10λpを満たす請求項1~5のいずれか一項記載の光検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属層と半導体層との界面における表面プラズモンを利用する光検出器が知られている。例えば特許文献1に記載の光検出器は、第1の金属層と、第1の金属層上に積層された半導体層と、半導体層上に積層された第2の金属層とを有する積層構造体を備えている。この積層構造体は、いわゆるMetal-Insulator-Metal(MIM)共振器を構成し、I層としての半導体層は、導電型がp型の半導体層と導電型がn型の半導体層との積層体によって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような光検出器においては、半導体層の厚さをナノオーダ程度で形成する必要がある。このため、光検出器の製造歩留まりを高める観点から、半導体ベース部と金属電極層との間の短絡をより確実に防止するための工夫を施すことが好ましい。また、光検出器の製造歩留まりを高める観点からは、受光領域となる半導体の空乏層位置の制御を容易化する工夫も必要となる。
【0005】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、半導体ベース部と金属電極層との間の短絡の防止及び半導体における空乏層位置の制御の容易化により、製造歩留まりの向上が図られる光検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る光検出器は、第1導電型の半導体によって構成され、第1面及び第1面に対向する第2面を有すると共に、第2面から突出する凸部が設けられた半導体ベース部と、半導体ベース部の第1面又は第2面に設けられた第1の金属電極層と、第2導電型の半導体によって構成され、半導体ベース部の第2面を覆う第1の部分と、凸部の側面を覆う第2の部分とを有する半導体層と、凸部及び半導体層の第2の部分を挟むように半導体層に密着して設けられた第2の金属電極層と、を備え、凸部、半導体層の第2の部分、及びこれらを挟む第2の金属電極層によってMIM共振器が形成され、MIM共振器の共振器長は、半導体ベース部及び半導体層の吸収端波長よりも長い波長を有する入射光によって表面プラズモンが励起され、且つ表面プラズモンの共振により形成される電場によってフォノンが励起される長さとなっている。
【0007】
この光検出器では、半導体層の第1の部分が半導体ベース部の第2面を覆うことにより、当該第1の部分に半導体ベース部と第2の金属電極層と間の短絡を防止する機能を持たせることができる。この構成によれば、凸部が設けられた半導体ベース部の第2面に絶縁層を別途形成する工程を省略できるため、製造工程の簡単化が図られる。また、この光検出器では、半導体層の第2の部分が半導体ベース部の第2面から突出する凸部の側面を覆い、さらに、凸部及び半導体層の第2の部分を挟むように第2の金属電極層が設けられることにより、MIM共振器が形成されている。受光領域となる半導体の空乏層は、凸部と半導体層との間の界面から凸部の中心側に向かって形成され、空乏層位置は、凸部及び半導体層のキャリア濃度の調整によって容易に制御できる。以上により、この光検出器では、製造歩留まりの向上を実現できる。
【0008】
半導体層において、第2の部分の厚さが第1の部分の厚さよりも小さくなっていてもよい。この場合、MIM共振器によって発生する電場において、電場の勾配が急峻な領域を空乏層の範囲内に大きく形成することができる。したがって、入射光の光電変換効率を向上でき、また、検出の応答性を向上できる。
【0009】
半導体層は、凸部の頂面を覆う第3の部分を有し、第2の金属電極層は、半導体層の第3の部分を覆う電極部分を有していてもよい。この構成では、第2の半導体層上に第2の金属電極層を形成した後のリフトオフが不要となる。したがって、製造工程の更なる簡単化が図られる。
【0010】
凸部の頂面には、当該頂面と半導体層の第2の部分とに跨る絶縁層が設けられ、第2の金属電極層は、絶縁層を覆うと共に、凸部及び半導体層の第2の部分を挟む部分同士を繋ぐ電極部分を有していてもよい。この場合、凸部の頂面に半導体層が設けられる形態と比較して、表面プラズモンの共振により形成される電場の利用効率を向上できる。また、例えば半導体ベース部のエッチングに用いるマスクを絶縁層として残すことで、製造工程の複雑化も回避できる。
【0011】
表面プラズモンの波長をλpとした場合に、半導体層の第1の部分からの凸部の高さHが、2/8λp<H<5/8λpを満たしていてもよい。凸部の高さHは、MIM共振器における共振器長に対応する。高さHを上記範囲とすることで、入射光の反射を抑制できる。したがって、入射光の大部分を近接場光の成分とすることが可能となり、凸部での電場の形成効率の向上が図られる。
【0012】
凸部は、半導体ベース部の第2面の面内方向に一定の間隔で複数設けられており、表面プラズモンの波長をλpとした場合に、一の凸部の側面から隣の凸部の同側面までのピッチPが、9/10λp<P<11/10λpを満たしていてもよい。この場合、隣り合うMIM共振器間での干渉光化を利用し、電場の形成効率の向上を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、半導体ベース部と金属電極層との間の短絡の防止及び半導体における空乏層位置の制御の容易化により、製造歩留まりの向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は、第1実施形態に係る光検出器の構成を示す概略的な断面図であり、(b)は、その平面図である。
【
図2】(a)は、
図1に示した光検出器の製造工程を示す概略的な断面図であり、(b)は、その後続の工程を示す概略的な断面図である。
【
図3】(a)は、
図2(b)の後続の工程を示す概略的な断面図であり、(b)は、その後続の工程を示す概略的な断面図である。
【
図4】(a)は、第2実施形態に係る光検出器の構成を示す概略的な断面図であり、(b)は、その平面図である。
【
図5】(a)は、第3実施形態に係る光検出器の構成を示す概略的な断面図であり、(b)は、その平面図である。
【
図6】(a)は、第4実施形態に係る光検出器の構成を示す概略的な断面図であり、(b)は、その平面図である。
【
図7】(a)~(c)は、変形例に係る光検出器の構成を示す平面図である。
【
図8】変形例に係る光検出器の構成を示す概略的な断面図である。
【
図9】実施例及び比較例に係る光検出器の分光感度の波長特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る光検出器の好適な実施形態について詳細に説明する。
[第1実施形態]
【0016】
図1(a)は、第1実施形態に係る光検出器の構成を示す概略的な断面図であり、
図1(b)は、その平面図である。同図に示すように、光検出器1Aは、半導体ベース部2と、第1の半導体層3と、第1の金属電極層4と、第2の半導体層(半導体層)5と、第2の金属電極層6とを備えている。本実施形態では、便宜上、第1の金属電極層4側を光検出器1Aの裏面側と規定し、第2の金属電極層6側を光検出器1Aの表面側と規定する。光検出器1Aは、入射光Iが表面側(第2の金属電極層6側)から入射する表面入射型光検出器となっている。
【0017】
光検出器1Aでは、半導体の吸収端波長(バンドギャップを超えるエネルギーを有する光の波長)よりも長い波長の光が入射光Iとして入射した場合に、当該入射光Iによって表面プラズモンが励起され、当該表面プラズモンの共振により形成される電場によってフォノンが励起される。このため、光検出器1Aでは、入射光Iの光子エネルギーに加え、フォノンの多段階励起による光子振動エネルギーを利用することができ、半導体内での電子遷移が可能となる。光検出器1Aでは、半導体内で生じた光吸収が光電子として外部に取り出されることで、半導体の吸収端波長よりも長い波長の光検出が実現される。ここでは、検出対象である入射光Iの波長が1250nmである場合を想定し、光検出器1Aの各構成要素の寸法等を例示する。
【0018】
半導体ベース部2は、例えば導電型がn型のSiからなる半導体によって構成されている。半導体ベース部2は、平面視において矩形の基板であり、第1面2a及び第1面2aに対向する第2面2bを有している。ここでは、第1面2aは、光検出器1Aの裏面側を向く面であり、第2面2bは、光検出器1Aの表面側を向く面である。半導体ベース部2の厚さ(第1面2aから第2面2bまでの厚さ)は、例えば50μmとなっている。
【0019】
第1の半導体層3は、導電型がn+型のSiからなる半導体によって構成されている。第1の半導体層3は、半導体ベース部2の第2面2b側の全面にわたって設けられている。第1の半導体層3の厚さは、例えば半導体ベース部2へのドーピングによって第1の半導体層3を形成する場合には、1μm程度となっている。その他、例えば厚さ50μmのn-型のエピタキシャル成長層を有する十分な厚さのn+型の基板を用い、当該基板の透過率の向上のために、n+型の基板を50μmの厚さまで研磨する手法も採り得る。この場合、厚さが50μmの半導体ベース部2と、厚さが50μmの第1の半導体層3とを得ることができる。
【0020】
半導体ベース部2は、第2面2bから突出する凸部7を有している。凸部7の両脇は、それぞれ凹部8となっている。すなわち、半導体ベース部2の第2面2bには、凸部7及び凹部8による微細な凹凸構造が設けられている。本実施形態では、
図1(b)に示すように、凸部7は、平面視において矩形状をなし、半導体ベース部2の第2面2bの面内方向の一方向に直線状に延在している。
図1(b)の例では、凸部7は、半導体ベース部2の第2面2bの一端から他端に至るまで延在している。第2面2bからの凸部7の高さHaは、凸部7の幅Wよりも大きくなっている。一例として、凸部7の高さHaは、160nmとなっており、凸部7の幅Wは、70nmとなっている。凸部7の高さHaと凸部7の幅Wとの関係は、これに限られず、凸部7の高さHaが凸部7の幅Wと等しくなっていてもよく、凸部7の高さHaが凸部7の幅Wよりも小さくなっていてもよい。
【0021】
凸部7は、突出方向の先端に位置する頂面7aと、幅W方向に互いに対向する一対の側面7b,7bとを有している。頂面7aは、半導体ベース部2の第2面2bと平行な矩形状の面となっており、側面7bは、半導体ベース部2の第2面2bと直交する矩形状の面となっている。凸部7の両脇に位置する凹部8の底面は、半導体ベース部2の第2面によって画成され、凹部8の内側面は、凸部7の側面7bによって画成されている。
【0022】
第1の金属電極層4は、光検出器1Aのアノードとして機能する金属電極層である。第1の金属電極層4は、例えばアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、インジウム(In)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、金(Au)等の金属によって形成されている。第1の金属電極層4は、これらの金属を含めた化合物材料であってもよい。第1の金属電極層4は、第1の半導体層3の全面に密着し、第1の半導体層3との間でオーミック接合を形成している。第1の金属電極層4の厚さは、例えば100nmとなっている。第1の金属電極層4は、単層に限られず、複数層で構成されていてもよい。
【0023】
第2の半導体層5は、例えば導電型がP+型のSiからなる半導体によって構成されている。第2の半導体層5のキャリア濃度は、半導体ベース部2(凸部7)のキャリア濃度よりも高くなっている。第2の半導体層5は、半導体ベース部2の第2面2bを覆う第1の部分11と、凸部7の側面7bを覆う第2の部分12とを有している。第1の部分11及び第2の部分12は、いずれも凹部8に位置している。第1の部分11は、凹部8の底面において半導体ベース部2の第2面2bの全面を覆うように設けられている。第2の部分12は、凹部8の内側面において凸部7の側面7bの全面を覆うように設けられている。第1の部分11と半導体ベース部2の第2面2bとの界面、及び第2の部分12と凸部7の側面7bとの界面では、半導体のpn接合がそれぞれ形成されている。
【0024】
図1(a)の例では、第1の部分11の厚さT1及び第2の部分12の厚さT2は、互いに等しくなっている。一例として、第1の部分11の厚さT1及び第2の部分12の厚さT2は、40nmとなっている。凸部7の頂面7aは、第2の半導体層5には覆われておらず、光検出器1Aを表面側から見た平面視においては、
図1(b)に示すように、一方の側面7bを覆う第2の部分12と、他方の側面7bを覆う第2の部分12とが、頂面7aと共に半導体ベース部2の第2面2bの一端から他端に至るまで延在している。
【0025】
第2の金属電極層6は、光検出器1Aのカソードとして機能する金属電極層である。第2の金属電極層6は、例えば金(Au)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、チタン(Ti)、インジウム(In)、ニッケル(Ni)等の金属によって形成されている。第2の金属電極層6は、これらの金属を含めた化合物材料であってもよい。第2の金属電極層6は、凸部7の両脇の凹部8のそれぞれを埋めており、凸部7及び第2の半導体層5の第2の部分12を挟むように設けられている。第2の金属電極層6は、凹部8の底面側において第2の半導体層5の第1の部分11に密着すると共に、凹部8の内側面側において第2の半導体層5の第2の部分12に密着し、第2の半導体層5との間でオーミック接合を形成している。第2の金属電極層6は、単層に限られず、複数層で構成されていてもよい。
【0026】
図1(a)の例では、第2の金属電極層6の高さKは、第2の半導体層5の第1の部分11からの凸部7の高さH(=Ha-T1)と一致している。一例として、第2の金属電極層6の高さK及び第1の部分11からの凸部7の高さHは、120nmとなっている。これにより、第2の金属電極層6の頂面は、凸部7の頂面7aと面一となっている。また、凸部7の頂面7aと、頂面7aの両脇の第2の部分12,12とは、第2の金属電極層6から露出した状態となっている(
図1(b)参照)。
【0027】
凸部7、第2の半導体層5の第2の部分12、及びこれらを挟む第2の金属電極層6,6は、
図1(a)に示すように、Metal-Insulator-Metal共振器(以下、「MIM共振器」)13を構成している。MIM共振器13の接合方向Aは、第2の金属電極層6-第2の半導体層5の第2の部分12-凸部7-第2の半導体層5の第2の部分12-第2の金属電極層6が並ぶ方向であり、半導体ベース部2の第2面2bの面内方向と一致している。
【0028】
MIM共振器13の共振器長Lは、凸部7の側面7bに密着している第2の半導体層5の第2の部分12及び第2の金属電極層6の密着幅によって規定される。
図1(a)の例では、MIM共振器13の共振器長Lは、第2の半導体層5の第1の部分11からの凸部7の高さHと一致している。また、MIM共振器13の共振器長Lは、第2の金属電極層6の高さKとも一致している。共振器長Lは、半導体層の吸収端波長よりも長い波長を有する入射光Iによって表面プラズモンが励起され、且つ表面プラズモンの共振により形成される電場によってフォノンが励起される長さとなっている。
【0029】
表面プラズモンの波長をλpとした場合、MIM共振器13の共振器長L、すなわち、第2の半導体層5の第1の部分11からの凸部7の高さHは、2/8λp<H<5/8λpを満たしていることが好ましい。入射光Iの波長をλ0とし、半導体ベース部2の誘電率をεdとし、第2の金属電極層6の誘電率をεmとした場合、表面プラズモンの波長λpは、λp=λ0×((εm+εd)/(εm-εd))1/2により求めることができる。入射光の波長λ0が1250nmである場合、表面プラズモンの波長λpは、約340nmと見積もられる。この場合、第1の部分11からの凸部7の高さHは、85nm~213nmの範囲であることが好ましい。
【0030】
図1(a)の例では、第1の部分11からの凸部7の高さHが120nmであり、波長1250nmの光の共鳴に対応する。このとき、MIM共振器13によって凸部7付近に発生する電場は、凸部7の幅方向の両側で最大となり、凸部7の幅方向の中心付近でゼロとなる。したがって、凸部7付近に発生する電場は、凸部7の幅W程度の狭い領域で最大からゼロまで急峻に変化する。
【0031】
一例として、第2の半導体層5のキャリア濃度を1×1018cm-3以上とし、凸部7のキャリア濃度を1×1017cm-3以下とすると、第2の半導体層5の第2の部分12と凸部7の側面7bとによるpn接合の界面から凸部7の幅方向の中心側に110nm以上にわたって空乏層を形成できる。これにより、電場が急峻に変化する領域に空乏層を位置させることが可能となり、入射光Iの光電変換を効率良く生じさせることができる。本実施形態では、入射光Iの光電変換で得られた光電流は、凸部7の幅方向の中心側から凸部7の両脇の第2の金属電極層6,6のそれぞれに向かって流れることとなる。
【0032】
また、第2の部分12の厚さT2を100nm以下とし、凸部7の幅と凸部7を挟む第2の部分12の幅とを合わせた幅(=W+2×T2)を250nm以下とすると、MIM共振器13によって凸部7付近に発生する電場を十分に高めることが可能となり、電場が急峻に変化する領域に空乏層を位置させることが容易となる。
【0033】
上述した光検出器1Aを製造する場合、まず、
図2(a)に示すように、半導体ベース部2を準備し、半導体ベース部2の一方面において、凸部7の形成位置に対応するレジスト層15をパターニングする。レジスト層15のパターニングには、例えば電子線描画装置を用いることができる。次に、半導体ベース部2の一方面側をエッチングする。これにより、
図2(b)に示すように、レジスト層15が形成された部分に凸部7が形成され、レジスト層15が形成されていない部分に凸部7を挟む凹部8,8が形成される。レジスト材料としては、電子線描画において一般的に用いられる材料、例えば非化学増幅型のポジ型電子線レジストやポリメタクリル酸メチル樹脂などを用いることができる。エッチング手法としては、例えば六フッ化硫黄(SF
6)と八フッ化シクロブタン(C
4F
8)とを用いたドライエッチングが挙げられる。
【0034】
次に、半導体ベース部2の一方面側にドーピングを行い、その後、レジスト層15を除去する。凹部8の底面部分及び凸部7の側面部分にドーパントが注入されることで、
図3(a)に示すように、当該注入部分に第2の半導体層5が形成される。すなわち、半導体ベース部2の第2面2bを覆う第2の半導体層5の第1の部分11と、凸部7の側面7bを覆う第2の半導体層5の第2の部分12とが形成される。ドーパントとしては、例えばホウ素(B)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、リン(P)、ヒ素(As)等が挙げられる。
【0035】
第2の半導体層5の形成の後、ドーパントの活性化のためのアニーリングを実施する。アニーリングの実施の後、蒸着によって第2の金属電極層6を第2の半導体層5上に形成する。そして、第2の金属電極層6をリフトオフ若しくはエッチバックし、
図3(b)に示すように、凸部7の頂面7a及び第2の半導体層5の第2の部分12を第2の金属電極層6から露出させる。この後、半導体ベース部2の第1面2a側にドーピングを行うことで、第1の半導体層3を形成し、蒸着によって第1の金属電極層4を第1の半導体層3上に形成することにより、
図1(a)及び
図1(b)に示した光検出器1Aが得られる。なお、第1の半導体層3及び第1の金属電極層4の形成は、
図2(a)に示したレジスト層15の形成よりも前に実施してもよい。
【0036】
以上説明したように、光検出器1Aでは、第2の半導体層5の第1の部分11が半導体ベース部2の第2面2bを覆うことにより、当該第1の部分11を半導体ベース部2と第2の金属電極層6と間の短絡を防止する機能を持たせることができる。この構成によれば、凸部7が設けられた半導体ベース部2の第2面2bに絶縁層を別途形成する工程を省略できるため、製造工程の簡単化が図られる。また、光検出器1Aでは、第2の半導体層5の第2の部分12が半導体ベース部2の第2面2bから突出する凸部7の側面7bを覆い、さらに、凸部7及び第2の半導体層5の第2の部分12を挟むように第2の金属電極層6,6が設けられることにより、MIM共振器13が形成されている。
【0037】
MIM共振器13においては、受光領域となる半導体の空乏層が凸部7と第2の半導体層5の第2の部分12との間の界面から凸部7の中心側に向かって形成され、空乏層位置は、凸部7及び第2の半導体層5のキャリア濃度の調整によって容易に制御できる。例えば入射光Iの共鳴に対応して第1の部分11からの凸部7の高さHを変更した場合でも、第2の半導体層5のキャリア濃度を調整することによって、MIM共振器13によって発生する電場の位置と空乏層位置との位置合わせを容易に行うことができる。以上により、光検出器1Aでは、製造歩留まりの向上を実現できる。
【0038】
また、光検出器1Aでは、表面プラズモンの波長をλpとした場合に、第2の半導体層5の第1の部分11からの凸部7の高さHが、2/8λp<H<5/8λpを満たしている。凸部7の高さHは、MIM共振器13における共振器長Lに対応する。高さHを上記範囲とすることで、入射光Iの反射を抑制できる。したがって、入射光Iの大部分を近接場光の成分とすることが可能となり、凸部7での電場の形成効率の向上が図られる。
[第2実施形態]
【0039】
図4(a)は、第2実施形態に係る光検出器の構成を示す概略的な断面図であり、
図4(b)は、その平面図である。同図に示すように、第2実施形態に係る光検出器1Bは、第2の半導体層5において、第2の部分12の厚さT2が第1の部分11の厚さT1よりも小さくなっている点で、第1実施形態と相違している。
【0040】
このような光検出器1Bにおいても、第1実施形態と同様に、半導体ベース部2と第2の金属電極層6との間の短絡の防止及び半導体における空乏層位置の制御の容易化により、製造歩留まりの向上が図られる。また、光検出器1Bでは、第2の部分12の厚さT2が第1の部分11の厚さT1よりも小さくなっていることで、MIM共振器13によって発生する電場において、電場の勾配が急峻な領域を空乏層の範囲内に大きく形成することができる。これにより、入射光Iの光電変換効率を向上でき、また、検出の応答性を向上できる。電場の勾配が急峻な領域を空乏層の範囲内に大きく形成する観点からは、第2の部分12の厚さT2が第1の部分11の厚さT1の半分以下となっていることが好適である。例えば第1の部分11の厚さT1が40nmである場合、第2の部分12の厚さT2は、20nm若しくはそれ以下であることが好ましい。
【0041】
また、光検出器1Bでは、第1実施形態と比較すると、第2の金属電極層6,6の間隔が等しい場合に、第2の部分12の厚さT2を小さくすることで、凸部7の幅Wを大きくすることができる。このため、MIM共振器13によって発生する電場において、電場の勾配が急峻な領域を空乏層の範囲内により大きく形成することができる。一方、光検出器1Bでは、第1の部分11の厚さT1を厚く残すことで、空乏層が第2の金属電極層6と第2の半導体層5の第1の部分11との界面から遠く離れるため、界面準位によるリーク電流の発生を抑制できる。かかる構成は、例えば、第2の半導体層5を形成する際のドーパントの注入を、凸部7の突出方向に沿う方向から指向性を持たせて行うことで実現できる。
[第3実施形態]
【0042】
図5(a)は、第2実施形態に係る光検出器の構成を示す概略的な断面図であり、
図5(b)は、その平面図である。同図に示すように、第3実施形態に係る光検出器1Cは、半導体ベース部2の凸部7及び第2の半導体層5が第2の金属電極層6に埋没している点で、第1実施形態と相違している。
【0043】
より具体的には、光検出器1Cでは、第2の半導体層5が凸部7の頂面7aを覆う第3の部分21を有している。第3の部分21は、凸部7の頂面7aの全体にわたって設けられており、凸部7の一方の側面7bを覆う第2の部分12と、凸部7の他方の側面7bを覆う第2の部分12とを連結している。
図5(a)の例では、第3の部分21の厚さT3は、例えば第1の部分11の厚さT1及び第2の部分12の厚さT2と一致している。光検出器1Cにおいて、第2実施形態のように第2の部分12の厚さT2が第1の部分11の厚さT1よりも小さくなっていてもよい。第3の部分21の厚さT3は、第1の部分11の厚さT1又は第2の部分12の厚さT2よりも小さくなっていてもよい。
【0044】
また、光検出器1Cでは、第2の金属電極層6は、第2の半導体層5の第3の部分21を覆う電極部分22を有している。電極部分22は、第2の半導体層5の第3の部分21の全面にわたって設けられ、凸部7の一方の側面7b側に位置する電極部分と、凸部7の他方の側面7b側に位置する電極部分とを光検出器1Cの表面側で連結している。電極部分22の厚さに特に制限はないが、
図5(a)の例では、電極部分22の厚さは、第2の半導体層5の第3の部分21の厚さT3と一致している。
【0045】
このような光検出器1Cにおいても、第1実施形態と同様に、半導体ベース部2と第2の金属電極層6との間の短絡の防止及び半導体における空乏層位置の制御の容易化により、製造歩留まりの向上が図られる。この構成では、第2の半導体層5上に第2の金属電極層6を形成した後のリフトオフが不要となる。したがって、製造工程の更なる簡単化が図られる。
【0046】
光検出器1Cでは、表面側に凸部7が露出しないため、入射光Iが裏面側(第1の金属電極層4側)から入射する裏面入射型光検出器として用いることが好適である。この場合、光検出器1Cでは、裏面側から見た場合に第1の金属電極層4が凸部7と重ならないように、第1の金属電極層4に開口部25を設けておくことが好ましい。光検出器1Cを裏面入射型とする場合、光の透過防止のために電極部分22の厚さを30nm以上としておくことが好ましい。
[第4実施形態]
【0047】
図6(a)は、第2実施形態に係る光検出器の構成を示す概略的な断面図であり、
図6(b)は、その平面図である。同図に示すように、第4実施形態に係る光検出器1Dは、凸部7の頂面7aを覆う層が第2の半導体層5の第3の部分21ではなく、絶縁層27である点で第3実施形態と相違している。
【0048】
具体的には、光検出器1Dでは、凸部7の頂面7aにおいて、当該頂面7aと、凸部7の一方の側面7bを覆う第2の部分12と、凸部7の他方の側面7bを覆う第2の部分12とに跨る絶縁層27が設けられている。また、第2の金属電極層6は、絶縁層27を覆う電極部分22を有している。電極部分22は、絶縁層27の全面にわたって設けられ、凸部7の一方の側面7b側に位置する電極部分と、凸部7の他方の側面7b側に位置する電極部分とを光検出器1Dの表面側で連結している。
【0049】
このような光検出器1Dにおいても、第1実施形態と同様に、半導体ベース部2と第2の金属電極層6との間の短絡の防止及び半導体における空乏層位置の制御の容易化により、製造歩留まりの向上が図られる。また、第3実施形態と同様に、第2の金属電極層6を形成した後のリフトオフが不要となるため、製造工程の更なる簡単化が図られる。光検出器1Dでは、凸部7の頂面7aに第2の半導体層5が設けられる形態と比較して、表面プラズモンの共振により形成される電場の利用効率を向上できる。また、例えば半導体ベース部2のエッチングに用いるレジスト層15(
図2(a)及び
図2(b)参照)を絶縁層27として残すことで、製造工程の複雑化も回避できる。
【0050】
光検出器1Dにおいても、表面側に凸部7が露出しないため、入射光Iが裏面側(第1の金属電極層4側)から入射する裏面入射型光検出器として用いることが好適である。光検出器1Dにおいても、裏面側から見た場合に第1の金属電極層4が凸部7と重ならないように、第1の金属電極層4に開口部25を設けておくことが好ましい。
[変形例]
【0051】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、凸部7が半導体ベース部2の第2面2bの面内方向の一方向に直線状に延在しているが、凸部7は、例えば
図7(a)に示すように、断面正方形状をなしていてもよい。この場合、偏光方向が互いに直交する入射光Iの検出が可能となる。すなわち、この構成では、偏光方向が凸部7の一の辺の長さW1方向に沿う入射光I、及び偏光方向が一の辺に直交する辺の長さW2方向に沿う入射光Iの検出が可能となる。凸部7の断面形状は、正方形状に限られず、円形状などの他の形状であってもよい。
【0052】
また、半導体ベース部2の第2面2b側の凸部7及び凹部8による微細な凹凸構造は、周期的構造をなしていてもよい。この場合、例えば
図7(b)に示すように、半導体ベース部2の第2面2bの面内方向の一方向に直線状に延在する複数の凸部7が延在方向と直交する方向に一定の間隔で配列されていてもよい。また、例えば
図7(c)に示すように、断面正方形状の複数の凸部7が第2面2bの面内方向に一定の間隔で格子状に配列されていてもよい。
【0053】
図7(b)及び
図7(c)のように凸部7を一定の間隔で配列する場合、表面プラズモンの波長をλpとしたときに、一の凸部7の側面7bから隣の凸部7の同側面7bまでのピッチP(
図8参照)が、9/10λp<P<11/10λpを満たすことが好ましい。凸部7のピッチPが上記範囲を満たす場合、隣り合うMIM共振器13,13間での干渉光化を利用し、電場の形成効率の向上を実現できる。一例として、凸部7のピッチPは、350nmである。
【0054】
上記実施形態では、第1の金属電極層4が光検出器の裏面側に位置し、第2の金属電極層が光検出器1の表面側に位置する構成を例示したが、金属電極層の構成は、これに限られるものではない。例えば半導体ベース部2の第2面2bの一部を第2の半導体層5及び第2の金属電極層6から露出させ、当該露出部分において第1の半導体層3と同様な半導体層を形成し、当該半導体層上に第1の金属電極層4を配置してもよい。また、例えば半導体ベース部2の第2面2bの一部を第2の半導体層5及び第2の金属電極層6から露出させ、平面視において第2の金属電極層6と重ならない位置において、第1の半導体層3を貫通して半導体ベース部2に至る貫通部分を半導体ベース部2の第1面2a側の第1の金属電極層4に設ける構成としてもよい。
【0055】
上記実施形態では、半導体ベース部2の導電型がn、第1の半導体層3の導電型がn+、第2の半導体層5の導電型がP+となっているが、これらの導電型が反転していてもよい。導電型を反転させる場合、半導体ベース部2の導電型がp、第1の半導体層3の導電型がP+、第2の半導体層5の導電型がn+となる。
[実施例]
【0056】
図9は、実施例及び比較例に係る光検出器の分光感度特性を示すグラフである。同図のグラフは、
図5(a)及び
図5(b)に示した光検出器1Aと同等の構成を有するサンプル(実施例)と、半導体ベース部2の第2面2bに凸部7を設けず、第2面2bに第2の半導体層5と第2の金属電極層6とを平坦に積層したサンプル(比較例)とにおいて、それぞれの分光感度の波長特性を比べたものである。グラフの横軸は波長であり、縦軸は分光感度(比較例の分光感度を1とする正規化値)である。
【0057】
同図に示すように、Siの吸収帯である波長1000nm以下の範囲では、実施例においてMIM共振器によって凸部付近に発生する電場が十分でなく、比較例に対する分光感度の有意な差は見られなかった。波長1000nmよりも長波長側では、Siの吸収体のエッジに相当するため、Siの吸収が急激に低下し、入射光に対してSiがほぼ透明となる。この波長範囲において、実施例では、MIM共振器によって凸部付近に発生する電場が生じ、当該電場が急峻に変化する領域に空乏層を位置させることで、入射光Iの光電変換を効率良く実施できる。
図9の結果から、波長1050nm~1200nmの範囲において実施例の分光感度が比較例の約1.3倍となっており、良好な分光感度が得られていることが確認できた。
【符号の説明】
【0058】
1A~1D…光検出器、2…半導体ベース部、2a…第1面、2b…第2面、4…第1の金属電極層、5…第2の半導体層(半導体層)、6…第2の金属電極層、7…凸部、7a…頂面、7b…側面、11…第1の部分、12…第2の部分、13…MIM共振器、21…第3の部分、22…電極部分、27…絶縁層、I…入射光、L…共振器長、T1…第1の部分の厚さ、T2…第2の部分の厚さ、H…第1の部分からの凸部の高さ、P…ピッチ。