(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240515BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240515BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20240515BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240515BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20240515BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0587
H01M4/13
H01M50/417
(21)【出願番号】P 2020563172
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2019049868
(87)【国際公開番号】W WO2020137818
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018246591
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田尾 洋平
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅雄
(72)【発明者】
【氏名】南 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】藤原 豊樹
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-011065(JP,A)
【文献】特開2016-143454(JP,A)
【文献】特開2017-091850(JP,A)
【文献】特開2015-153659(JP,A)
【文献】特開2016-100051(JP,A)
【文献】特開2014-127313(JP,A)
【文献】特開2016-027574(JP,A)
【文献】特開2015-037012(JP,A)
【文献】特開2012-230897(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0015514(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0568
H01M 10/0587
H01M 4/13
H01M 50/417
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極芯体と、前記正極芯体上に形成された正極活物質を含む正極活物質層を有する正極板と、
負極芯体と、前記負極芯体上に形成された負極活物質を含む負極活物質層を有する負極板と、
前記正極板と前記負極板の間に配置されたセパレータと、
非水電解液と、を備えた非水電解質二次電池であって、
前記非水電解液はリチウムビスオキサレートボレート
と、フルオロスルホン酸リチウムを含有し、
前記非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量をA(μmol)とし、
前記負極活物質層において、前記セパレータを介して前記正極活物質層と対向する領域に含まれる前記負極活物質の総
表面積をB(m
2)としたとき、
A/Bの値が2~11であ
り、
前記正極活物質層に含まれる前記正極活物質の総表面積をC(m
2
)とし、前記非水電解液に含まれるフルオロスルホン酸リチウムの総量をD(μmol)としたとき、
D/Cの値が20~80である非水電解質二次電池。
【請求項2】
A/Bの値が5~8である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
A/Cの値が5~35であ
る、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記正極板、前記負極板、及び前記セパレータは電極体を構成し、
前記電極体は扁平状の巻回電極体であり、
前記扁平状の巻回電極体の一方の端部には巻回された正極芯体露出部が設けられ、
前記扁平状の巻回電極体の他方の端部には巻回された負極芯体露出部が設けられた請求項1~
3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記セパレータはポリオレフィン層を有し、
前記負極活物質層の表面は、前記ポリオレフィン層に直接接し、
前記セパレータの厚みは14~23μmである請求項1~
4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
正極芯体と、前記正極芯体上に形成された正極活物質を含む正極活物質層を有する正極板と、
負極芯体と、前記負極芯体上に形成された負極活物質を含む負極活物質層を有する負極板と、
前記正極板と前記負極板の間に配置されたセパレータと、
非水電解液と、
前記正極板、前記負極板、前記セパレータ及び前記非水電解液を収納する電池ケースと、を備えた非水電解質二次電池の製造方法であって、
前記正極板、前記負極板、及び前記セパレータを含む電極体を作製する構成と、
前記電極体と前記非水電解液を前記電池ケース内に配置する工程を有し、
前記非水電解液はリチウムビスオキサレートボレート
と、フルオロスルホン酸リチウムを含有し、
前記電池ケース内に配置される前記非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量をA(μmol)とし、前記電池ケース内に配置される前記負極板の前記負極活物質層において、前記セパレータを介して前記正極活物質層と対向する領域に含まれる前記負極活物質の総
表面積をB(m
2)としたとき、A/Bの値が2~11
であり、
前記電池ケース内に配置される前記正極板の前記正極活物質層に含まれる前記正極活物質の総表面積をC(m
2
)とし、前記電池ケース内に配置される前記非水電解液に含まれるフルオロスルホン酸リチウムの総量をD(μmol)としたとき、D/Cの値が20~80である、非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項7】
A/Bの値が5~8である請求項
6に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項8】
A/Cの値が5~35であ
る、
請求項
6又は7に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、ハイブリッド電気自動車(PHEV、HEV)や電気自動車(EV)の駆動用電源等に利用されている。このような駆動電源等に利用される非水電解質二次電池に対する性能及び信頼性の向上についての要求はますます高くなっている。
【0003】
駆動電源等に利用される非水電解質二次電池は、低温環境下でも使用される。したがって、駆動電源等に利用される非水電解質二次電池には、低温環境下においても優れた電池特性を有することが求められる。また、駆動電源等に利用される非水電解質二次電池は高温状態で保管される場合があるため、高温状態で保管された場合でも電池特性が低下しないことが求められる。
【0004】
例えば、下記特許文献1では、低温出力特性を改善することを目的として、プロピレンカーボネートを含む非水性有機溶媒及びリチウムビスフルオロスルホニルイミドを含む非水性電解液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一つの目的は、低温出力特性及び高温保存特性に優れた非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態の非水電解質二次電池は、
正極芯体と、前記正極芯体上に形成された正極活物質を含む正極活物質層を有する正極板と、
負極芯体と、前記負極芯体上に形成された負極活物質を含む負極活物質層を有する負極板と、
前記正極板と前記負極板の間に配置されたセパレータと、
非水電解液と、を備えた非水電解質二次電池であって、
前記非水電解液はリチウムビスオキサレートボレート(LiC4BO8)を含有し、
前記非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量をA(μmol)とし、
前記負極活物質層において、前記セパレータを介して前記正極活物質層と対向する領域に含まれる前記負極活物質の総表面積をB(m2)としたとき、
A/Bの値が2~11である。
【0008】
非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートが含有されていると、非水電解質二次電池の最初の充電によりリチウムビスオキサレートボレート由来の皮膜が負極活物質上に形成される。この皮膜が形成されることで、非水電解液と負極活物質の副反応が抑制されるため、非水電解質二次電池の耐久性が改善する。
しかしながら、非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートが含有された場合、低温出力特性や高温保存特性が低下する場合があった。
本願発明者らは様々な研究を行う中で、負極活物質層においてセパレータを介して正極活物質層と対向する領域に含まれる負極活物質の総表面積B(m2)に対する非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量A(μmol)を特定の範囲とすることにより、低温出力特性及び高温保存特性に優れた非水電解質二次電池となることを見出した。即ち、A/Bの値が2~11の場合、負極活物質表面に適切な被膜が適切な量だけ形成される。よって、被膜がリチウムイオンの移動の妨げとなることがなく、また、非水電解液と負極活物質の副反応を効果的に抑制できるため、低温出力特性及び高温保存特性に優れた非水電解質二次電池となる。
【0009】
A/Bの値が7~11であることが好ましい。これにより、低温出力特性がより優れた
非水電解質二次電池となる。
【0010】
前記正極活物質層に含まれる前記正極活物質の総表面積をC(m2)としたとき、
A/Cの値が5~35であり、
前記非水電解液はフルオロスルホン酸リチウムを含むことが好ましい。
このような構成であると、初期の電池抵抗がより小さく、また充放電サイクルに伴う抵抗増加が効果的に抑制された非水電解質二次電池となる。
【0011】
前記非水電解液に含まれるフルオロスルホン酸リチウムの総量をD(μmol)としたとき、D/Cの値が20~80であることが好ましい。
このような構成であると、初期の電池抵抗がより小さく、また充放電サイクルに伴う抵抗増加が効果的に抑制された非水電解質二次電池となる
【0012】
前記電極体は扁平状の巻回電極体であり、
前記扁平状の巻回電極体の一方の端部には巻回された正極芯体露出部が設けられ、
前記扁平状の巻回電極体の他方の端部には巻回された負極芯体露出部が設けられていることが好ましい。
このような構成であると、より低温出力特性に優れた非水電解質二次電池となる。
【0013】
前記セパレータはポリオレフィン層を有し、
前記負極活物質層の表面は、前記ポリオレフィン層に直接接し、
前記セパレータの厚みは14~23μmであることが好ましい。
このような構成であると、より低温出力特性に優れた非水電解質二次電池となる。
【0014】
本発明の一形態の非水電解質二次電池の製造方法は、
正極芯体と、前記正極芯体上に形成された正極活物質を含む正極活物質層を有する正極板と、
負極芯体と、前記負極芯体上に形成された負極活物質を含む負極活物質層を有する負極板と、
前記正極板と前記負極板の間に配置されたセパレータと、
非水電解液と、
前記正極板、前記負極板、前記セパレータ及び前記非水電解液を収納する電池ケースと、を備えた非水電解質二次電池の製造方法であって、
前記正極板、前記負極板、及び前記セパレータを含む電極体を作製する構成と、
前記電極体と前記非水電解液を前記電池ケース内に配置する工程を有し、
前記非水電解液はリチウムビスオキサレートボレートを含有し、
前記電池ケース内に配置される前記非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量をA(μmol)とし、前記電池ケース内に配置される前記負極板の前記負極活物質層において、前記セパレータを介して前記正極活物質層と対向する領域に含まれる前記負極活物質の総表面積をB(m2)としたとき、A/Bの値が2~11とする。
【0015】
A/Bの値が5~8であることが好ましい。
【0016】
前記電池ケース内に配置される前記正極板の前記正極活物質層に含まれる前記正極活物質の総表面積をC(m2)としたとき、A/Cの値が5~35であり、前記非水電解液は
フルオロスルホン酸リチウムを含むことが好ましい。
【0017】
前記電池ケース内に配置される前記非水電解液に含まれるフルオロスルホン酸リチウムの総量をD(μmol)としたとき、D/Cの値が20~80であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、低温出力特性及び高温保存特性に優れた非水電解質二次電池となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る非水電解質二次電池の電池ケース正面部分と絶縁シート正面部分とを取り除いた電池内部を示す模式的な正面図である。
【
図2】実施形態に係る非水電解質二次電池の上面図である。
【
図3】(a)は実施形態に係る正極板の平面図である。(b)は、(a)のIIIB-IIIB線に沿った断面図である。
【
図4】(a)は実施形態に係る負極板の平面図である。(b)は、(a)のIVB-IVB線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の例示であり、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0021】
まず、
図1及び
図2を用いて実施形態に係る角形の非水電解質二次電池100の構成を説明する。
図1及び
図2に示すように、実施形態に係る角形の非水電解質二次電池100は、開口を有する角形の有底筒状の外装体1と、外装体1の開口を封口する封口板2を有する。外装体1と封口板2により電池ケース200が構成される。外装体1には、帯状の正極板4と帯状の負極板5が帯状のセパレータ(図示省略)を介して巻回された扁平状の巻回電極体3と非水電解液が収容されている。巻回電極体3は、一方の端部に巻回された正極芯体露出部4dを有し、他方の端部に巻回された負極芯体露出部5cを有する。
【0022】
正極芯体露出部4dには正極集電体6が接続され、正極集電体6と正極端子7が電気的に接続されている。正極集電体6と封口板2の間には内部側絶縁部材10が配置され、正極端子7と封口板2の間には外部側絶縁部材11が配置されている。
負極芯体露出部5cには負極集電体8が接続され、負極集電体8と負極端子9が電気的に接続されている。負極集電体8と封口板2の間には内部側絶縁部材12が配置され、負極端子9と封口板2の間には外部側絶縁部材13が配置されている。
【0023】
巻回電極体3と外装体1の間には樹脂製の絶縁シート14が配置されている。封口板2には、電池ケース200内の圧力が所定値以上となった時に破断し、電池ケース200内のガスを電池ケース200外に排出するガス排出弁15が設けられている。また、封口板2には、非水電解液注液孔16が形成されている。この非水電解液注液孔16は電池ケース200内に非水電解液注液を注液した後、封止部材17により封止される。
【0024】
次に、非水電解質二次電池100の製造方法を説明する。
【0025】
[正極板の作製]
正極活物質としてのLiNi0.35Co0.35Mn0.30O2で表されるリチウム遷移金属極複合酸化物、導電材としての炭素粉末、及び結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、分散媒としてのN-メチルー2―ピロリドン(NMP)と混合して正極合剤スラリーを作製する。ここで、正極合剤スラリーに含まれる正極活物質、導電材、結着材の質量比は、91:7:2とした。
【0026】
上述の方法で作製した正極合剤スラリーを、正極芯体としての厚さ15μmのアルミニウム箔の両面にダイコーターにより塗布する。その後、正極合剤スラリーを乾燥させて分散媒としてのNMPを除去する。一対の圧縮ローラを用いて正極活物質層を圧縮した。このとき、圧縮後の正極活物質層の充填密度が2.4g/cm3となるように圧縮処理を行った。そして、正極板の幅方向の一方の端部に長手方向に沿って両面に正極活物質層が形成されていない正極芯体露出部が形成されるように所定寸法に切断し正極板とする。
【0027】
図3(a)及び(b)に示すように、正極芯体4aの両面には正極活物質を含む正極活物質層4bが形成されている。正極板4の幅方向の一方の端部には、正極芯体4aの両面に正極活物質層4bが形成されていない正極芯体露出部4dが設けられている。なお、
図3(a)及び(b)に示すように、正極芯体4aにおいて正極活物質層4bの幅方向における端部近傍には正極保護層4cが設けることができる。正極保護層4cはセラミック粒子とバインダーを含むことが好ましい。
【0028】
[負極板の作製]
負極活物質としての黒鉛粉末と、増粘材としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、結着材としてのスチレン-ブタジエンゴム(SBR)とを、それぞれの質量比で98.8:1.0:0.2の割合で水に分散させ負極合剤スラリーを作製する。
【0029】
上述の方法で作製した負極合剤スラリーを、負極芯体としての厚さ8μm銅箔の両面にダイコーターにより塗布する。次いで、負極合剤スラリーを乾燥させて分散媒としての水を除去し、ロールプレスによって所定厚さとなるように負極活物質層を圧縮する。そして、負極板の幅方向の一方の端部に長手方向に沿って両面に負極活物質層が形成されていない負極芯体露出部が形成されるように所定寸法に切断し負極板とする。
【0030】
図4(a)及び(b)に示すように、負極芯体5aの両面には負極活物質を含む負極活物質層5bが形成されている。負極板5の幅方向の一方の端部には、負極芯体5aの両面に負極活物質層5bが形成されていない負極芯体露出部5cが設けられている。
【0031】
[扁平状の巻回電極体の作製]
上述の方法で作製した帯状の正極板と帯状の負極板を、厚さ16μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの三層構造の帯状のセパレータを介して巻回した後、扁平状にプレス成形して扁平状の巻回電極体3を作製する。このとき、扁平状の巻回電極体3の巻き軸方向の一方の端部には巻回された正極芯体露出部4dが形成され、他方の端部には負極芯体露出部5cが形成されるようにする。
【0032】
[非水電解液の調整]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)を体積比(25℃、1気圧)で30:30:40となるように混合した混合溶媒を作製する。この混合溶媒に、溶質としてLiPF6を1.15mol/Lとなるように添加し、さらに、非水電解液に対して0~1.6質量%のリチウムビスオキサレートボレートを添加し、非水電解液とする。
【0033】
[端子及び集電体の封口板への取り付け]
封口板2の正極端子取り付け孔の電池外面側に外部側絶縁部材11を配置する。封口板2の正極端子取り付け孔の電池内面側に内部側絶縁部材10及び正極集電体6を配置する。その後、電池外部側から正極端子7を、外部側絶縁部材11の貫通孔、封口板2の正極端子取り付け孔、内部側絶縁部材10の貫通孔及び正極集電体6の貫通孔に挿入する。そして、正極端子7の先端側を、正極集電体6上にカシメる。その後、正極端子7においてカシメられた部分と正極集電体6を溶接接続する。
【0034】
封口板2の負極端子取り付け孔の電池外面側に外部側絶縁部材13を配置する。封口板2の負極端子取り付け孔の電池内面側に内部側絶縁部材12及び負極集電体8を配置する。その後、電池外部側から負極端子9を、外部側絶縁部材13の貫通孔、封口板2の負極端子取り付け孔、内部側絶縁部材12の貫通孔及び負極集電体8の貫通孔に挿入する。そして、負極端子9の先端側を、負極集電体8上にカシメる。その後、負極端子9においてカシメられた部分と負極集電体8を溶接接続する。
【0035】
[集電体と巻回電極体の接続]
正極集電体6を巻回電極体3の巻回された正極芯体露出部4dに溶接接続する。また、負極集電体8を巻回電極体3の巻回された負極芯体露出部5cに溶接接続する。溶接接続は、抵抗溶接、超音波溶接、レーザ溶接等を用いることができる。
【0036】
[巻回電極体の外装体への挿入]
巻回電極体3を樹脂製の絶縁シート14で包み、巻回電極体3を外装体1に挿入する。その後、外装体1と封口板2を溶接し、外装体1の開口を封口板2により封口する。
【0037】
[非水電解液の注液・封止]
上述の方法で作製した非水電解液を封口板2に設けられた非水電解液注液孔16から注液し、その後、非水電解液注液孔16を封止部材17としてのブラインドリベットにより封止する。以上のようにして非水電解質二次電池100が作製される。
【0038】
[実施例1]
以下の構成を有する非水電解質二次電池を、上述の非水電解質二次電池100と同様の方法で作製し、実施例1の非水電解質二次電池とした。
電池ケース200内に注液される非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量A(μmol)を910μmolとした。また、電池ケース200内に配置された負極板5の負極活物質層5bにおいて、セパレータを介して正極活物質層4bと対向する領域に含まれる負極活物質の総表面積B(m2)を157m2とした。
なお、電池ケース200内に注液される非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量A(μmol)は、非水電解液中のリチウムビスオキサレートボレートの含有割合と、電池ケース200内に注液される非水電解液の量により調整できる。
電池ケース200内に配置された負極板5の負極活物質層5bにおいて、セパレータを介して正極活物質層4bと対向する領域に含まれる負極活物質の総表面積B(m2)は、負極活物質のBET比表面積と負極活物質層5bにおいてセパレータを介して正極活物質層4bと対向する領域に含まれる負極活物質の質量から算出できる。
【0039】
[実施例2]
以下の構成を有する非水電解質二次電池を、上述の非水電解質二次電池100と同様の方法で作製し、実施例2の非水電解質二次電池とした。
電池ケース200内に注液される非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量A(μmol)を910μmolとした。また、電池ケース200内に配置された負極板5の負極活物質層5bにおいて、セパレータを介して正極活物質層4bと対向する領域に含まれる負極活物質の総表面積B(m2)を227m2とした。
【0040】
[実施例3]
以下の構成を有する非水電解質二次電池を、上述の非水電解質二次電池100と同様の方法で作製し、実施例3の非水電解質二次電池とした。
電池ケース200内に注液される非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量A(μmol)を910μmolとした。また、電池ケース200内に配置された負極板5の負極活物質層5bにおいて、セパレータを介して正極活物質層4bと対向する領域に含まれる負極活物質の総表面積B(m2)を210m2とした。
【0041】
[実施例4]
以下の構成を有する非水電解質二次電池を、上述の非水電解質二次電池100と同様の方法で作製し、実施例4の非水電解質二次電池とした。
電池ケース200内に注液される非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量A(μmol)を830μmolとした。また、電池ケース200内に配置された負極板5の負極活物質層5bにおいて、セパレータを介して正極活物質層4bと対向する領域に含まれる負極活物質の総表面積B(m2)を123m2とした。
【0042】
[実施例5]
以下の構成を有する非水電解質二次電池を、上述の非水電解質二次電池100と同様の方法で作製し、実施例5の非水電解質二次電池とした。
電池ケース200内に注液される非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量A(μmol)を830μmolとした。また、電池ケース200内に配置された負極板5の負極活物質層5bにおいて、セパレータを介して正極活物質層4bと対向する領域に含まれる負極活物質の総表面積B(m2)を98m2とした。
【0043】
[比較例1]
以下の構成を有する非水電解質二次電池を、上述の非水電解質二次電池100と同様の方法で作製し、比較例1の非水電解質二次電池とした。
非水電解液としてリチウムビスオキサレートボレートを含まない非水電解液を用いた。したがって、電池ケース200内に注液される非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量A(μmol)を0μmolとした。また、電池ケース200内に配置された負極板5の負極活物質層5bにおいて、セパレータを介して正極活物質層4bと対向する領域に含まれる負極活物質の総表面積B(m2)を157m2とした。
【0044】
[比較例2]
以下の構成を有する非水電解質二次電池を、上述の非水電解質二次電池100と同様の方法で作製し、比較例2の非水電解質二次電池とした。
電池ケース200内に注液される非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量A(μmol)を3650μmolとした。また、電池ケース200内に配置された負極板5の負極活物質層5bにおいて、セパレータを介して正極活物質層4bと対向する領域に含まれる負極活物質の総表面積B(m2)を177m2とした。
【0045】
実施例1~5、比較例1及び2の非水電解質二次電池について、以下の試験を行った。
【0046】
<低温出力特性測定>
非水電解質二次電池を25℃にて4Aの電流で充電深度(SOC)が27%になるまで充電し、-35℃にて4時間放置した。その後、12A、24A、36A、48A、60A及び72Aの電流で2秒間放電を行い、それぞれの電池電圧を測定した。各電流値と電池電圧とをプロットして放電時におけるI-V特性から出力(W)を算出し低温出力特性とした。なお、放電によりずれた充電深度は0.4Aの定電流で充電することにより元の充電深度に戻した。
【0047】
<高温保存試験及び抵抗上昇割合の算出>
非水電解質二次電池を25℃にて4Aの電流で充電深度(SOC)が56%になるまで充電した。その後、200Aの電流で10秒間放電を行い、その時の電池電圧を測定した。200Aでの放電直前の電池電圧と、200Aの電流で10秒間放電した後の電池電圧の差を、放電電流(200A)で除することで高温保存試験前抵抗を算出した。
高温保存試験前抵抗=(200Aでの放電直前の電池電圧-200Aの電流で10秒間放電した後の電池電圧)/放電電流
次に25℃にて4Aの充電電流で充電深度が80%になるまで充電を行い、75℃にて90日間放置した。その後、25℃にて2Aの電流で3Vまで定電流放電を行い、引き続き3Vで1時間の定電圧放電を行った後、4Aの電流で充電深度が56%になるまで充電した。その後で、200Aの電流で10秒間放電を行い、90日間保存後(高温保存後)の抵抗を算出した。
高温保存試験前抵抗と、90日間保存後(高温保存後)の抵抗の比から抵抗上昇割合(%)を算出した。
高温保存による抵抗上昇割合(%)=(90日間保存後の抵抗/高温保存試験前抵抗-1)×100
【0048】
低温出力特性測定の結果(低温出力(W))、及び高温保存による抵抗上昇割合(%)を表1に示す。
【表1】
【0049】
電池ケース内に配置された非水電解液に含まれるリチウムビスオキサレートボレートの総量をA(μmol)とし、電池ケース内に配置された負極板の負極活物質層においてセパレータを介して正極活物質層と対向する領域に含まれる負極活物質の総表面積をB(m2)としたとき、A/Bの値が2~11である実施例1~5の非水電解質二次電池は、低温出力特性に優れると共に、高温保存による抵抗値の上昇が抑制されていることが分かる。
【0050】
これは、次のように考えられる。A/Bの値を2~11とすることにより、負極活物質表面に適切な被膜が適切な量だけ形成される。よって、被膜がリチウムイオンの移動の妨げとなることがなく、また、非水電解液と負極活物質の副反応を効果的に抑制できるため、低温出力特性及び高温保存特性に優れた非水電解質二次電池となる。
【0051】
比較例1のように、A/Bの値が2よりも小さいと、負極活物質表面を覆う被膜が不十分であるため、負極活物質と非水電解液の副反応の抑制が不十分となり、高温保存による抵抗値の上昇が大きくなる。
【0052】
比較例2のように、A/Bの値が11よりも大きいと、負極活物質表面を覆う被膜の量が過剰となり、充放電反応時のリチウムイオンの移動の妨げとなり、低温出力特性が低下する。
【0053】
なお、A/Bの値は5~8であることがより好ましい。これにより、低温出力特性によ
り優れると共に、高温保存による抵抗値の上昇がより効果的に抑制された非水電解質二次電池となる。
【0054】
なお、電池ケース内に配置された正極板の正極活物質層に含まれる正極活物質の総表面積をC(m2)としたとき、A/Cの値が5~35であり、非水電解液が更にフルオロス
ルホン酸リチウムを含むことが好ましい。このような構成であると、初期の電池抵抗がより小さく、また充放電サイクルに伴う抵抗上昇が効果的に抑制された非水電解質二次電池となる。なお、非水電解液中のフルオロスルホン酸リチウムの量は、非水電解液に対して0.01~2.0質量%であることが好ましい。
【0055】
非水電解液に含まれるフルオロスルホン酸リチウムの総量をD(μmol)としたとき、D/Cの値が20~80であることが好ましい。このような構成であると、初期の電池
抵抗がより小さく、また充放電サイクルに伴う抵抗の上昇が効果的に抑制された非水電解質二次電池となる
【0056】
負極活物質のBET比表面積は、1~10m2/gであることが好ましく、2~9m2/gであることがより好ましく、3~8m2/gであることがさらに好ましい。また、負極活物質は炭素材料であることが特に好ましい。
【0057】
非水電解液中のリチウムビスオキサレートボレートの量は、非水電解液に対して0.01~3.0質量%であることが好ましく、0.05~3.0質量%であることがより好ましく、0.1~2.0質量%であることがさらに好ましい。
【0058】
<その他>
正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi1-xMnxO2(0<x<1))、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LiNi1-xCoxO2(0<x<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNixCoyMnzO2(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1))等が挙げられる。
【0059】
また、上記のリチウム遷移金属複合酸化物にAl、Ti、Zr、Nb、B、W、Mg又はMo等を添加したものも使用し得る。例えば、Li1+aNixCoyMnzMbO2(M=Al、Ti、Zr、Nb、B、Mg及びMoから選択される少なくとも1種の元素、0≦a≦0.2、0.2≦x≦0.5、0.2≦y≦0.5、0.2≦z≦0.4、0≦b≦0.02、a+b+x+y+z=1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0060】
負極活物質としてはリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な炭素材料を用いることができる。リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な炭素材料としては、黒鉛、難黒鉛性炭素、易黒鉛性炭素、繊維状炭素、コークス及びカーボンブラック等が挙げられる。これらの内、特に黒鉛が好ましい。さらに、非炭素系材料としては、シリコン、スズ、及びそれらを主とする合金や酸化物などが挙げられる。
【0061】
非水電解液の非水溶媒(有機溶媒)としては、カーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類等を使用することができ、これらの溶媒の2種類以上を混合して用いることができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。特に、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが好ましい。また、ビニレンカーボネート(VC)などの不飽和環状炭酸エステルを非水電解液に添加することもできる。なお、非水電解液は、プロピレンカーボネート及びプロピオン酸メチルを含むことがより好ましい。
【0062】
非水電解液の電解質塩としては、従来のリチウムイオン二次電池において電解質塩として一般に使用されているものを用いることができる。例えば、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiAsF6、LiClO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12、LiB(C2O4)2、LiB(C2O4)F2、LiP(C2O4)3、LiP(C2O4)2F2、LiP(C2O4)F4等及びそれらの混合物が用いられる。これらの中でも、LiPF6が特に好ましい。また、前記非水溶媒に対する電解質塩の溶解量は、0.5~2.0mol/Lとするのが好ましい。
【0063】
なお、非水電解液は、フルオロスルホン酸リチウム(LiFSO3)を含むことが好ましい。また、非水電解液は、リチウムビスオキサレートボレート(LiC4BO8)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPF2O2)及びフルオロスルホン酸リチウム(LiFSO3)を含むことが好ましい。
【0064】
セパレータとしては、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)などのポリオレフィン製の多孔質セパレータを用いることが好ましい。特にポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)の3層構造(PP/PE/PP、あるいはPE/PP/PE)を有するセパレータを用いることが好ましい。また、セパレータにアルミナ等の無機粒子とバインダーから成る耐熱層を設けることができる。また、ポリマー電解質をセパレータとして用いてもよい。
【0065】
なお、負極活物質層の表面がセパレータのポリオレフィン層に直接接し、セパレータの厚みを17~23μmとすることが好ましい。このような構成であると、より出力特性に優れた非水電解質二次電池となる。なお、セパレータの厚みは14~19μmであることがより好ましい。
【符号の説明】
【0066】
100・・・非水電解質二次電池
200・・・電池ケース
1・・・外装体
2・・・封口板
3・・・巻回電極体
4・・・正極板
4a・・・正極芯体
4b・・・正極活物質層
4c・・・正極保護層
4d・・・正極芯体露出部
5・・・負極板
5a・・・負極芯体
5b・・・負極活物質層
5c・・・負極芯体露出部
6・・・正極集電体
7・・・正極端子
8・・・負極集電体
9・・・負極端子
10・・・内部側絶縁部材
11・・・外部側絶縁部材
12・・・内部側絶縁部材
13・・・外部側絶縁部材
14・・・絶縁シート
15・・・ガス排出弁
16・・・非水電解液注液孔
17・・・封止部材