(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20240515BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240515BHJP
H01L 21/8234 20060101ALI20240515BHJP
H01L 27/06 20060101ALI20240515BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20240515BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
H01L29/78 658H
H01L27/06 102A
H01L29/06 301F
H01L29/06 301V
H01L29/78 301D
H01L29/78 301V
H01L29/78 652P
H01L29/78 652Q
H01L29/78 653C
H01L29/78 655D
H01L29/78 655G
H01L29/78 657D
(21)【出願番号】P 2021012793
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】下條 亮平
(72)【発明者】
【氏名】南川 陽代
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 茂昭
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-161125(JP,A)
【文献】特開2009-267394(JP,A)
【文献】特開2011-243694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336、21/8234、
29/06、29/739、29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1半導体層、第2半導体層、第3半導体層、第4半導体層、第5半導体層および第6半導体層を含む半導体部であって、前記第1半導体層、前記第3半導体層および前記第5半導体層は、第1導電形を有し、前記第2半導体層、前記第4半導体層および前記第6半導体層は、第2導電形を有する、半導体部と、
前記半導体部の裏面上に設けられた第1電極と、
前記半導体部の表面上に設けられた少なくとも1つの第2電極であって、前記第1半導体層は、前記第1電極と前記第2電極との間に延在し、前記第2半導体層は、前記第1半導体層と前記第2電極との間に設けられ、前記第3半導体層は、前記第2半導体層と前記第2電極との間に設けられ、前記第2電極に電気的に接続され、前記第4半導体層および前記第5半導体層は、前記第1半導体層と前記第1電極との間に設けられ、前記
第1電極の表面に沿って並び、それぞれ前記第1電極に電気的に接続されるように設けられる、第2電極と、
前記半導体部と前記第2電極との間に設けられ、前記半導体部に設けられたトレンチの内部に配置される制御電極であって、前記トレンチの内面を覆う第1絶縁膜により前記半導体部から電気的に絶縁され、前記第1絶縁膜を介して前記第1半導体層および前記第2半導体層に向き合い、前記第2電極から第2絶縁膜により電気的に絶縁された、制御電極と、
前記半導体部の前記表面上に第3絶縁膜を介して設けられ、前記第2電極から離間して配置され、前記制御電極に電気的に接続された制御配線であって、前記第6半導体層は、前記第1半導体層と前記制御配線との間に設けられ、前記第5半導体層は、前記第1電極と前記第6半導体層との間に設けられる部分を含む、制御配線と、
を備え、
前記半導体部は、少なくとも前記第5半導体層と前記第6半導体層との間に設けられたキャリアトラップを含み、
前記第6半導体層は、前記第2半導体層の第2導電形不純物の濃度よりも高濃度の第2導電形不純物を含み、前記第2半導体層に接続され、前記第2電極に電気的に接続され
、
複数の前記第2電極が前記半導体部の前記表面に沿って並び、
前記制御配線は、隣り合う2つの前記第2電極の間に設けられる半導体装置。
【請求項2】
前記第6半導体層は、前記第3絶縁膜に接し、
前記第2半導体層は、前記第1電極から前記第2電極に向かう第1方向における第1層厚を有し、
前記第3半導体層は、前記第1方向における第2層厚を有し、
前記第6半導体層は、前記第1方向における第3層厚を有し、
前記第3層厚は、前記第1層厚と前記第2層厚の和よりも厚い、請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第6半導体層の前記第3層厚は、前記第1方向における前記半導体部の前記表面と前記トレンチの底との間隔よりも厚く、
前記第6半導体層は、前記第1半導体層と前記制御電極との間に位置する部分を含む請求項2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記キャリアトラップの分布の中心から前記第6半導体層に至る前記第1方向の距離は、前記キャリアトラップの分布の中心から前記第5半導体層に至る前記第1方向の距離よりも短い請求項
2または3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体部は、第2導電形の第7半導体層をさらに含み、
前記第7半導体層は、前記第2半導体層と前記第2電極との間に設けられ、
前記第3半導体層および前記第7半導体層は、前記第2半導体層上に並び、
前記第3半導体層は、前記第1絶縁膜に接するように設けられ、
前記第7半導体層は、前記第2電極に電気的に接続され、
前記第2半導体層は、前記第7半導体層を介して、前記第2電極に電気的に接続される請求項1~4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体部は、前記第2半導体層および前記第3半導体層を含む活性領域と、前記表面に沿って前記活性領域を囲む終端領域と、を有し、
前記半導体部は、前記第1導電形の第8半導体層と、前記第2導電形の第9半導体層と、をさらに含み、
前記第8半導体層は、前記第1半導体層と前記第4半導体層との間、および、前記第1半導体層と前記第5半導体層との間に設けられ、前記第1半導体層の第1導電形不純物の濃度よりも高濃度であって、前記第5半導体層の第1導電形不純物の濃度よりも低濃度の第1導電形不純物を含み、
前記第9半導体層は、前記終端領域に設けられ、前記終端領域と前記活性領域との間の境界に沿って延在し、前記第2半導体層の第2導電形不純物の濃度よりも高濃度の第2導電形不純物を含み、
前記第5半導体層は、前記前記第1電極と前記第9半導体層との間に設けられず、
前記第8半導体層は、前記第1電極と前記第9半導体層との間に延在し、前記第1電極に接する請求項
1~5のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1電極から前記第2電極に向かう第1方向に見た平面視における、前記第9半導体層から前記第5半導体層に至る第1距離は、前記第1方向に沿って前記第1電極から前記第9半導体層に至る第2距離よりも短い請求項
6記載の半導体装置。
【請求項8】
前記半導体部は、前記第1電極と前記第9半導体層との間に設けられたキャリアトラップを含む請求項
6または
7に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力制御用半導体装置には、高い電流耐性が求められる。例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とダイオードとを一体化した半導体装置がある。このような構成の半導体装置では、スイッチング特性を改善するために用いられるデバイス構造が電流耐性を低下させる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、スイッチング時の過電流を抑制できる半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る半導体装置は、半導体部と、第1電極と、少なくとも1つの第2電極と、制御電極と、制御配線と、を備える。前記半導体部は、第1半導体層、第2半導体層、第3半導体層、第4半導体層、第5半導体層および第6半導体層を含む。前記第1半導体層、前記第3半導体層および前記第5半導体層は、第1導電形を有し、前記第2半導体層、前記第4半導体層および前記第6半導体層は、第2導電形を有する。前記第1電極は、前記半導体部の裏面上に設けられる。前記第2電極は、前記半導体部の表面上に設けられる。前記第1半導体層は、前記第1電極と前記第2電極との間に延在し、前記第2半導体層は、前記第1半導体層と前記第2電極との間に設けられる。前記第3半導体層は、前記第2半導体層と前記第2電極との間に設けられ、前記第2電極に電気的に接続される。前記第4半導体層および前記第5半導体層は、前記第1半導体層と前記第1電極との間に設けられ、前記1電極の表面に沿って並び、それぞれ前記第1電極に電気的に接続される。前記制御電極は、前記半導体部と前記第2電極との間に設けられ、前記半導体部に設けられたトレンチの内部に配置される。前記制御電極は、前記トレンチの内面を覆う第1絶縁膜により前記半導体部から電気的に絶縁され、前記第1絶縁膜を介して前記第1半導体層および前記第2半導体層に向き合い、前記第2電極から第2絶縁膜により電気的に絶縁される。前記制御配線は、前記半導体部の前記表面上に第3絶縁膜を介して設けられる。前記制御配線は、前記第2電極から離間して設けられ、前記制御電極に電気的に接続される。前記第6半導体層は、前記第1半導体層と前記制御配線との間に設けられ、前記第5半導体層は、前記第1電極と前記第6半導体層との間に設けられる部分を含む。前記半導体部は、少なくとも前記第5半導体層と前記第6半導体層との間に設けられたキャリアトラップを含む。前記第6半導体層は、前記第2半導体層の第2導電形不純物の濃度よりも高濃度の第2導電形不純物を含み、前記第2半導体層に接続され、前記第2電極に電気的に接続される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【
図2】実施形態に係る半導体装置を示す模式図である。
【
図3】実施形態に係る半導体装置を示す別の模式断面図である。
【
図4】実施形態に係る半導体装置を示すさらなる別の模式断面図である。
【
図5】実施形態の変形例に係る半導体装置を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。図面中の同一部分には、同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
【0008】
さらに、各図中に示すX軸、Y軸およびZ軸を用いて各部分の配置および構成を説明する。X軸、Y軸、Z軸は、相互に直交し、それぞれX方向、Y方向、Z方向を表す。また、Z方向を上方、その反対方向を下方として説明する場合がある。
【0009】
図1は、実施形態に係る半導体装置1を示す模式断面図である。半導体装置1は、IGBTとダイオードとを一体化した、所謂、逆導通型IGBTである。
【0010】
図1に示すように、半導体装置1は、半導体部10と、第1電極20と、第2電極30と、制御電極40と、を備える。半導体部10は、例えば、シリコンである。
【0011】
第1電極20は、半導体部10の裏面上に設けられる。第1電極20は、例えば、コレクタ電極である。第2電極30は、半導体部10の表面上に設けられる。第2電極30は、例えば、エミッタ電極である。第1電極20および第2電極30は、例えば、アルミニウムを含む金属である。
【0012】
半導体部10は、第1導電形の第1半導体層11と、第2導電形の第2半導体層12と、第1導電形の第3半導体層13と、第2導電形の第4半導体層14と、第1導電形の第5半導体層15と、第2導電形の第6半導体層16(
図2(b)参照)と、第2導電形の第7半導体層17(
図2(b)参照)と、第1導電形の第8半導体層18と、を含む。以下、第1導電形をn形、第2導電形をp形として説明する。
【0013】
第1半導体層11は、第1電極20と第2電極30との間に延在する。第1半導体層11は、例えば、n形ベース層である。
【0014】
第2半導体層12は、第1半導体層11と第2電極30との間に設けられる。第2半導体層12は、例えば、p形ベース層である。
【0015】
第3半導体層13は、第2半導体層12と第2電極30との間に設けられる。第3半導体層13は、第2電極30に電気的に接続される。第3半導体層13は、例えば、n形エミッタ層である。第3半導体層13は、第1半導体層11の第1導電形不純物の濃度よりも高濃度の第1導電形不純物を含む。
【0016】
第4半導体層14および第5半導体層15は、第1半導体層11と第1電極20との間に設けられる。第4半導体層14および第5半導体層15は、第1電極20に沿って並ぶ。第4半導体層14および第5半導体層15は、それぞれ、第1電極20に電気的に接続される。第4半導体層14は、例えば、p形コレクタ層である。第5半導体層15は、例えば、n形カソード層である。第5半導体層15は、第1半導体層11の第1導電形不純物の濃度よりも高濃度の第1導電形不純物を含む。
【0017】
第8半導体層18は、第1半導体層11と第4半導体層14との間に設けられる。また、第8半導体層18は、第1半導体層11と第5半導体層15との間にも設けられる。第8半導体層18は、例えば、n形バッファ層である。第8半導体層18は、第1半導体層11の第1導電形不純物の濃度よりも高濃度の第1導電形不純物を含む。また、第8半導体層18の第1導電形不純物の濃度は、第5半導体層15の第1導電形不純物の濃度よりも低い。
【0018】
制御電極40は、半導体部10と第2電極30との間に設けられる。制御電極40は、例えば、ゲート電極である。半導体部10は、表面側に設けられたトレンチGTを有し、制御電極40は、トレンチGTの内部に設けられる。制御電極40は、例えば、導電性を有するポリシリコンである。
【0019】
制御電極40は、第1絶縁膜43により半導体部10から電気的に絶縁される。第1絶縁膜43は、例えば、ゲート絶縁膜である。また、制御電極40は、第2絶縁膜45により第2電極30から電気的に絶縁される。第2絶縁膜45は、例えば、層間絶縁膜である。第1絶縁膜43および第2絶縁膜45は、例えば、シリコン酸化膜である。
【0020】
半導体部10のトレンチGTは、第3半導体層13の上面から第1半導体層11中に至る深さを有する。第1絶縁膜43は、第1半導体層11と制御電極40との間に設けられた部分と、第2半導体層12と制御電極40との間に設けられた部分と、を含む。第3半導体層13は、第2半導体層12と第2電極30との間において第1絶縁膜43に接するように設けられる。
【0021】
半導体装置1は、複数の第4半導体層14と、複数の第5半導体層15と、を備える。第4半導体層14および第5半導体層15は、第1電極20と第8半導体層18との間において、第1電極20に沿って交互に並ぶように設けられる。これにより、半導体装置1は、IGBTモードおよびダイオードモードの両方において動作する。
【0022】
図2(a)および(b)は、実施形態に係る半導体装置1を示す模式図である。
図2(a)は、半導体装置1の表面を表す平面図である。
図2(b)は、
図2(a)中に破線で示す領域IIBにおける半導体部10を示す斜視図である。なお、
図1は、
図2(a)中に示すI-I線に沿った断面図である。
【0023】
図2(a)に示すように、半導体装置1は、複数の第2電極30と、制御配線50と、フィールドプレート60と、制御パッドGPと、を備える。制御配線50、フィールドプレート60および制御パッドGPは、例えば、アルミニウムを含む金属である。
【0024】
第2電極30は、半導体部10の表面上において、例えば、X方向に延在し、Y方向に並ぶ。制御配線50は、複数の第2電極30を囲むように設けられる。また、制御配線50は、隣り合う第2電極30の間に延在するように設けられる。制御配線50は、制御パッドGPに電気的に接続される。複数の第2電極30および制御配線50は、相互に離間し、電気的に絶縁されるように設けられる。
【0025】
フィールドプレート60は、制御配線50を囲むように設けられる。フィールドプレート60は、制御配線50から離間し、電気的に絶縁されるように設けられる。
【0026】
図2(b)に示すように、半導体部10は、第2導電形の第6半導体層16と、第2導電形の第7半導体層17と、をさらに含む。なお、
図2(b)では、第1絶縁膜43(
図1参照)を省略している。
【0027】
第6半導体層16は、第1半導体層11と制御配線50(
図2(a)参照)との間に設けられる。第6半導体層16は、制御配線50に沿って、X方向に延在する。また、第6半導体層16は、第1電極20から第2電極30に向かう方向(Z方向)において、第3半導体層13の上面から第1半導体層11中に至る厚さを有する。
【0028】
第6半導体層16は、第2半導体層12の第2導電形不純物の濃度よりも高濃度の第2導電形不純物を含む。第2半導体層12は、第6半導体層16に接続される。
【0029】
第7半導体層17は、第2半導体層12と第2電極30(図示しない)との間に設けられる。第3半導体層13および第7半導体層17は、例えば、第2半導体層12の上面に沿った方向(Y方向)に並ぶ。第7半導体層17は、例えば、p形コンタクト層である。第7半導体層17は、第2半導体層12の第2導電形不純物の濃度よりも高濃度の第2導電形不純物を含む。
【0030】
図2(b)中に示す領域CRは、第2電極30が半導体部10に接するコンタクト領域を表している。領域CRは、第3半導体層13、第7半導体層17および第6半導体層16に跨って設けられる。すなわち、第3半導体層13、第7半導体層17および第6半導体層16は、第2電極30に電気的に接続される。第2半導体層12は、第7半導体層17を介して、第2電極30に電気的に接続される。
【0031】
図2(b)に示すように、半導体部10は、第5半導体層15と第6半導体層16との間に設けられるキャリアトラップCTをさらに含む。キャリアトラップCTは、例えば、第1半導体層11中に設けられる。例えば、キャリアトラップCTがZ方向に分布している場合、キャリアトラップCTの分布の中心から第5半導体層15(もしくは、第1電極20)に至るZ方向の距離は、キャリアトラップCTの分布の中心から第6半導体層16に至るZ方向の距離よりも長い。ここで、「分布の中心」とは、例えば、キャリアトラップCTの密度が最大となる位置である。また、キャリアトラップCTの密度が一定以上となる領域を有する場合、その領域のZ方向における中心を「分布の中心」としても良い。
【0032】
キャリアトラップCTは、例えば、水素原子(H)もしくはヘリウム原子(He)を半導体部10にイオン注入することにより形成される。例えば、イオン注入により生じる結晶欠陥は、半導体中に深い準位を形成する。このような深い準位は、半導体中のキャリア(電子および正孔)を捕獲し、再結合させる。すなわち、キャリアトラップもしくはキャリアキラーとして働く。すなわち、キャリアトラップCTを設けることにより、第1半導体層11中の正孔と電子を再結合させ、キャリア密度を減少させることができる。また、キャリアトラップCTは、半導体中に白金(Pt)などの金属原子を拡散させることにより形成することもできる。
【0033】
図3は、実施形態に係る半導体装置1を示す別の模式断面図である。
図3は、
図2(a)中に示すIII-III線に沿った断面図である。
【0034】
図3に示すように、第6半導体層16は、第1半導体層11と制御配線50との間に設けられる。第6半導体層16と制御配線50との間には、第3絶縁膜47が設けられる。第6半導体層16は、第3絶縁膜47により制御配線50から電気的に絶縁される。
第6半導体層16のZ方向の厚さは、トレンチGTのZ方向の深さよりも厚い。すなわち、第6半導体層16は、第1半導体層11と制御電極40との間に位置する部分を含む。
【0035】
制御電極40は、制御配線50に電気的に接続される。制御電極40は、制御配線50のコンタクト部53を介して制御配線50に電気的に接続される。コンタクト部53は、例えば、第3絶縁膜47に設けられるコンタクトホール中に延在する。
【0036】
第5半導体層15は、第1電極20と第6半導体層16との間に設けられる。また、第1電極20と第6半導体層16との間において、第4半導体層14および第5半導体層15は、例えば、第1電極20の表面に沿った方向(X方向)に交互に配置される。
【0037】
キャリアトラップCTは、第5半導体層15と第6半導体層16との間に設けられる。また、キャリアトラップCTは、第4半導体層14と第6半導体層16との間にも設けられる。
【0038】
実施形態では、第6半導体層16を設けることにより、半導体装置1の導通特性を改善することができる。
【0039】
例えば、第6半導体層16を有さない逆導通型IGBTのダイオードモードにおいて(
図1参照)、制御電極40に閾値電圧よりも高いゲート電圧を印加し、第1絶縁膜43と第2半導体層12との界面に反転層を誘起する。これにより、第5半導体層15から第1半導体層11へ電子が注入され、第1半導体層11から反転層を介して第3半導体層13へ電子が流れる。例えば、第1電極20と第2電極30との間に印加される順方向電圧が小さい場合には、制御電極40により誘起された反転層を介して順方向電流が流れる。さらに、順方向電圧が大きくなるにつれて、第2半導体層12から第1半導体層11へ正孔が注入されるようになり、順方向電流が急増する。この際、順方向電圧が低下する、所謂、スナップバックが生じる。
【0040】
半導体装置1では、第6半導体層16を制御配線50の直下の領域に設けることにより、IGBTモードの動作に影響を与えることなく、ダイオードモードのスナップバックを抑制することができる。すなわち、第6半導体層16は、第2半導体層12の第2導電形不純物の濃度よりも高濃度の第2導電形不純物を含むため、第1電極20と第2電極30との間に印加される順方向電圧が小さい場合でも、第6半導体層16から第1半導体層11へ正孔が注入される。これにより、順方向電流の立ち上がり電圧が小さくなり、スナップバックが抑制される。
【0041】
しかしながら、ダイオードモードのオン状態において、第6半導体層16から注入される正孔により、第1半導体層11のキャリア密度が高くなる。このため、ダイオードモードをオフ状態に移行させる過程において、第1半導体層11から排出されるキャリアが多くなり、第2電極30と第6半導体層16とのコンタクト領域に、素子破壊に至る過電流が流れる場合がある。
【0042】
半導体装置1では、第6半導体層16上に制御配線50が設けられる。このため、第2電極30と第6半導体層16との間のコンタクト面積が制限される(
図2(b)参照)。このため、ダイオードモードのオン状態からオフ状態に移行する過程(ターンオフ過程)において、第6半導体層16の直下に位置する第1半導体層11の領域からキャリアを第2電極30へ排出する経路に電流集中が生じ易い。すなわち、第6半導体層16を設けることにより、過電流が流れ易い構造となる。
【0043】
このような過電流を抑制するために、例えば、第1電極20と第6半導体層16との間に、第5半導体層15を配置しないことにより、第6半導体層16からの正孔注入を抑制することが考えられる。しかしながら、そうのような構造では、スナップバックを抑制する効果が失われる。
【0044】
実施形態に係る半導体装置1では、第5半導体層15と第6半導体層16との間にキャリアトラップCTを設けることにより、第1半導体層11中のキャリア密度を低減する。これにより、ターンオフ過程における過電流を抑制することが可能となる。その結果、半導体装置1では、ダイオードモードの動作におけるスナップバックおよび過電流の両方を抑制することができる。
【0045】
図4(a)および(b)は、実施形態に係る半導体装置を示すさらなる別の模式断面図である。
図4(a)は、
図2(a)中に示すIVA-IVA線に沿った断面図である。
図4(b)は、
図2(a)中に示すIVB-IVB線に沿った断面図である。
【0046】
図4(a)に示すように、半導体装置1は、活性領域(Active region)と、終端領域(Termination region)と、を備える。活性領域は、例えば、第2半導体層12、第3半導体層13および第7半導体層17を含む。終端領域は、活性領域を囲むように設けられる。
【0047】
半導体部10は、第2導電形の第9半導体層19をさらに含む。第9半導体層19は、終端領域に設けられ、活性領域と終端領域との間の境界に沿って延在する。第9半導体層19は、例えば、p形ガードリングである。第9半導体層19は、第2半導体層12の第2導電形不純物の濃度よりも高濃度の第2導電形不純物を含む。
【0048】
制御配線50は、第9半導体層19の上に設けられ、活性領域と終端領域との間の境界に沿って延在する部分を含む(
図2(a)参照)。制御配線50と第9半導体層19との間には、第3絶縁膜47が設けられる。制御配線50は、第3絶縁膜47により、第9半導体層19から電気的に絶縁される。
【0049】
フィールドプレート60は、第3絶縁膜47を介して、第9半導体層19の上に設けられる。また、フィールドプレート60は、第9半導体層19の外縁から外側へ張り出すように設けられる。フィールドプレート60は、コンタクト部63を介して、第9半導体層19に電気的に接続される。コンタクト部63は、第3絶縁膜47に設けられたコンタクトホール内に延在するように設けられる。フィールドプレート60は、第9半導体層19の外縁における降伏電圧、すなわち、終端部の耐圧を高くするために設けられる。
【0050】
図4(a)に示すように、第9半導体層19は、第1半導体層11と制御配線50との間に設けられる。第9半導体層19は、半導体部10の表面から第1半導体層11中に至るZ方向の厚さを有する。第9半導体層19のZ方向の厚さは、第2半導体層12のZ方向の厚さと第3半導体層13のZ方向の厚さとの和よりも厚い。また、第9半導体層19は、第2半導体層12に接続される。
【0051】
半導体装置1では、第5半導体層15は、第9半導体層19と第1電極20との間に位置しないように設けられる。第8半導体層18は、第9半導体層19と第1電極20との間において、第1電極20に接するように設けられる。
【0052】
このような終端構造は、ダイオードモードのオン状態において、第9半導体層19から第1半導体層11への正孔注入を抑制する。すなわち、第1電極20から第5半導体層15を介して、第9半導体層19の直下に位置する第1半導体層11の領域に注入される電子の量を低減することができる。これに対応して、第9半導体層19から第1半導体層11へ注入される正孔の量も低減される。この結果、第1半導体層11の第9半導体層19の直下に位置する領域におけるキャリア密度が低減され、ターンオフ過程におけるキャリアの排出に伴う電流を抑制することができる。したがって、第1半導体層11から第9半導体層19を介して第2電極30へ至る正孔の排出経路における電流集中を緩和し、過電流による素子破壊を防ぐことができる。
【0053】
上記の観点からすれば、第5半導体層15の端から第9半導体層19に至る距離を長くすることが好ましい。一方、第5半導体層15の端から第9半導体層19に至る距離を長くし過ぎると、ダイオード特性を劣化させる恐れがある。
【0054】
実施形態に係る半導体装置1では、例えば、Z方向に見た平面視における第5半導体層15の端から第9半導体層19に至る距離HDを、第1電極20から第9半導体層19に至る距離VDを超えない範囲において広くする。言い換えれば、第9半導体層19の直下に位置する第8半導体層18の領域から第5半導体層15までの距離HDは、第1電極20から第9半導体層19に至る距離VDよりも短かくする。これにより、ダイオードモードの動作を維持しながら、ターンオフ過程における終端領域の電流を抑制することができる。
【0055】
さらに、第1電極20と第9半導体層19との間に、キャリアトラップCTを設けても良い。これにより、第9半導体層19の直下における第1半導体層11のキャリア密度を低減することができる。キャリアトラップCTは、第1半導体層11の第9半導体層19直下の領域に設けられる。例えば、キャリアトラップCTの分布の中心から第9半導体層19に至るZ方向の距離は、キャリアトラップCTの分布の中心から第1電極20に至るZ方向の距離よりも短い。
【0056】
図4(b)に示すように、制御電極40は、活性領域から終端領域へ延在するように設けられる。制御電極40の端は、制御配線50と第9半導体層19との間に位置する。第9半導体層19のZ方向の厚さは、制御電極40のZ方向の厚さよりも厚い。
【0057】
制御電極40は、第1絶縁膜43により、第9半導体層19から電気的に絶縁される。また、制御電極40と制御配線50との間には、第3絶縁膜47が設けられる。制御配線50は、コンタクト部53を介して、制御電極40に電気的に接続される。コンタクト部53は、第3絶縁膜47に設けられるコンタクトホール内に延在する。
【0058】
図5は、実施形態の変形例に係る半導体装置2を模式的に示す斜視図である。
図5は、
図2(a)中に示す領域IIBに対応する部分を示す斜視図である。
【0059】
図5に示すように、半導体装置2では、第2半導体層12と第5半導体層15との間にも、キャリアトラップCTが設けられている。このように、キャリアトラップCTは、Z方向に見た平面視における活性領域全体に設けられても良い。また、Z方向に見た平面視において、第1半導体層11の全体にキャリアトラップCTを設けても良い。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
1、2…半導体装置、 10…半導体部、 11…第1半導体層、 12…第2半導体層、 13…第3半導体層、 14…第4半導体層、 15…第5半導体層、 16…第6半導体層、 17…第7半導体層、 18…第8半導体層、 19…第9半導体層、 20…第1電極、 30…第2電極、 40…制御電極、 43…第1絶縁膜、 45…第2絶縁膜、 47…第3絶縁膜、 50…制御配線、 53、63…コンタクト部、 60…フィールドプレート、 CT…キャリアトラップ、 GP…制御パッド、 GT…トレンチ