(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】回転装置、及び動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/14 20060101AFI20240515BHJP
F16H 45/02 20060101ALN20240515BHJP
【FI】
F16F15/14 Z
F16H45/02 Y
(21)【出願番号】P 2021021566
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】冨田 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】岡町 悠介
(72)【発明者】
【氏名】大島 正義
(72)【発明者】
【氏名】式地 雄佑
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-053007(JP,A)
【文献】特開2014-206237(JP,A)
【文献】特開2014-152836(JP,A)
【文献】実開昭60-107442(JP,U)
【文献】特開2014-092202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/14
F16H 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向を向く第1支持面を有し、回転可能に配置される第1回転体と、
前記第1支持面に支持されるように径方向を向く第2支持面を有し、前記第1回転体に対して軸方向に間隔をあけて配置され、前記第1回転体とともに回転可能であり、且つ前記第1回転体と相対回転可能に配置される第2回転体と、
を備える、
回転装置。
【請求項2】
前記第2回転体の重心は、径方向視において、前記第1支持面と前記第2支持面と重複する、
請求項1に記載の回転装置。
【請求項3】
前記第1回転体は、径方向を向く第3支持面を有し、
前記第2回転体は、前記第3支持面に支持されるように径方向を向く第4支持面を有する、
請求項1に記載の回転装置。
【請求項4】
前記第2回転体の重心は、軸方向において、前記第2支持面と前記第4支持面との間に位置する、
請求項3に記載の回転装置。
【請求項5】
前記第1支持面と前記第2支持面との間に配置される摺動部材をさらに備える、
請求項1から4のいずれかに記載の回転装置。
【請求項6】
前記第1回転体及び前記第2回転体は、プレート状であり、
前記第1回転体は、前記第2回転体よりも厚く、
前記摺動部材は、前記第1支持面に取り付けられる、
請求項5に記載の回転装置。
【請求項7】
軸方向において、前記第1回転体と前記第2回転体との間に配置されるスペーサをさらに備える、
請求項1から6のいずれかに記載の回転装置。
【請求項8】
径方向移動可能に配置される遠心子をさらに備え、
前記第1回転体は、前記遠心子を収容する収容部を有する、
請求項1から7のいずれかに記載の回転装置。
【請求項9】
前記遠心子は、径方向に移動する際に自転するように構成される、
請求項8に記載の回転装置。
【請求項10】
第1転動部材をさらに備え、
前記収容部は、周方向を向く第1ガイド面及び第2ガイド面を有し、
前記第1転動部材は、前記第1ガイド面と前記遠心子との間に配置され、前記遠心子の自転によって前記第1ガイド面上を転動するように構成される、
請求項9に記載の回転装置。
【請求項11】
前記遠心子は、前記第2ガイド面上を転動するように構成される、
請求項10に記載の回転装置。
【請求項12】
前記遠心子及び前記第1転動部材は、円筒状又は円柱状であり、
前記第1ガイド面と前記第2ガイド面との距離は、前記遠心子の直径と前記第1転動部材の直径との合計よりも小さい、
請求項10又は11に記載の回転装置。
【請求項13】
前記遠心子に作用する遠心力を受けて、前記遠心力を前記第1回転体と前記第2回転体との回転位相差が小さくなる方向の周方向力に変換するカム機構、をさらに備える、
請求項8から12のいずれかに記載の回転装置。
【請求項14】
前記カム機構は、
前記遠心子に形成されるカム面と、
前記カム面と当接し、前記遠心子と前記第2回転体との間で力を伝達するカムフォロアと、
を有する、
請求項13に記載の回転装置。
【請求項15】
前記カムフォロアは、前記カム面上を転動する、
請求項14に記載の回転装置。
【請求項16】
前記遠心子は、軸方向に貫通する第1貫通孔を有し、
前記カム面は、前記第1貫通孔の内壁面によって構成される、
請求項14又は15に記載の回転装置。
【請求項17】
前記カムフォロアは、前記第2回転体に自転可能に取り付けられる、
請求項14から16のいずれかに記載の回転装置。
【請求項18】
前記第2回転
体は、第2貫通孔を有し、
前記カムフォロアは、前記第2貫通孔の内壁面上を転動する、
請求項14から17のいずれかに記載の回転装置。
【請求項19】
前記カムフォロアは、円柱状又は円筒状のコロである、
請求項14から18のいずれかに記載の回転装置。
【請求項20】
入力部材と、
前記入力部材からトルクが伝達される出力部材と、
請求項1から19のいずれかに記載の回転装置と、
を備える、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転装置、及び動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
相対回転可能な第1及び第2回転体を有する回転装置が知られている。この回転装置は、第1回転体と第2回転体とがスムーズに相対回転することによって、機能を発揮する。このような回転装置の一例として、トルク変動抑制装置がある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のトルク変動抑制装置では、ハブフランジと質量体とが相対回転する。質量体がハブフランジに対して相対回転したときに、カム機構によって質量体とハブフランジとの回転位相差が小さくなる。この結果、トルク変動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したトルク変動抑制装置では、ハブフランジと質量体とは同じ回転中心を有する。しかしながら、質量体は、ハブフランジに対して締結されていないため、回転中心から偏心して回転するおそれがある。
【0006】
そこで、本願発明では、第1回転体に対する第2回転体の偏心回転を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面に係る回転装置は、第1回転体と、第2回転体とを備える。第1回転体は、径方向を向く第1支持面を有する。第1回転体は、回転可能に配置される。第2回転体は、第1支持面に支持されるように径方向を向く第2支持面を有する。第2回転体は、第1回転体に対して軸方向に間隔をあけて配置される。第2回転体は、第1回転体とともに回転可能であり、且つ第1回転体と相対回転可能に配置される。
【0008】
この構成によれば、第2回転体は、第2支持面によって第1支持面に支持される。この第1支持面及び第2支持面は、径方向を向いている。このため、第2回転体は、第1回転体に対して径方向に位置決めされる。この結果、第1回転体に対する第2回転体の偏心回転を抑制することができる。
【0009】
好ましくは、第2回転体の重心は、径方向視において、第1支持面と第2支持面と重複する。この構成によれば、第2回転体が第1回転体に近付くように傾くことを防止することができる。
【0010】
好ましくは、第1回転体は、径方向を向く第3支持面を有する。そして、第2回転体は、第3支持面に支持されるように径方向を向く第4支持面を有する。
【0011】
好ましくは、第2回転体の重心は、軸方向において、第2支持面と第4支持面との間に位置する。
【0012】
好ましくは、回転装置は、第1支持面と第2支持面との間に配置される摺動部材をさらに備える。この構成によれば、第1支持面及び第2支持面の摩耗を抑制することができる。
【0013】
好ましくは、第1回転体及び第2回転体は、プレート状である。そして、第1回転体は、第2回転体よりも厚い。摺動部材は、第1支持面に取り付けられる。この構成によれば、摺動部材を、第2回転体よりも厚い第1回転体に取り付けている。このため、摺動部材を圧入によって第1支持面に取り付けたり、第1回転体に取り付けられた摺動部材を加工したりする際に、強度の観点から有利である。
【0014】
好ましくは、回転装置は、スペーサをさらに備える。スペーサは、軸方向において、第1回転体と第2回転体との間に配置される。この構成によれば、第2回転体が第1回転体に近付くように傾くことを抑制することができる。
【0015】
好ましくは、回転装置は、径方向移動可能に配置される遠心子をさらに備える。第1回転体は、遠心子を収容する収容部を有する。
【0016】
好ましくは、遠心子は、径方向に移動する際に自転するように構成される。
【0017】
好ましくは、回転装置は、第1転動部材をさらに備える。収容部は、周方向を向く第1ガイド面及び第2ガイド面を有する。第1転動部材は、第1ガイド面と遠心子との間に配置される。第1転動部材は、遠心子の自転によって第1ガイド面上を転動するように構成される
【0018】
好ましくは、遠心子は、第2ガイド面上を転動するように構成される。
【0019】
好ましくは、遠心子及び第1転動部材は、円筒状又は円柱状である。第1ガイド面と第2ガイド面との距離は、遠心子の直径と第1転動部材の直径との合計よりも小さい。
【0020】
好ましくは、回転装置は、カム機構をさらに備える。カム機構は、遠心子に作用する遠心力を受けて、遠心力を第1回転体と第2回転体との回転位相差が小さくなる方向の周方向力に変換する。
【0021】
好ましくは、カム機構は、カム面と、カムフォロアとを有する。カム面は、遠心子に形成される。カムフォロアは、カム面と当接する。カムフォロアは、遠心子と第2回転体との間で力を伝達する。
【0022】
好ましくは、カムフォロアは、カム面上を転動する。
【0023】
好ましくは、遠心子は、軸方向に貫通する第1貫通孔を有する。カム面は、第1貫通孔の内壁面によって構成される。
【0024】
好ましくは、カムフォロアは、第2回転体に自転可能に取り付けられる。
【0025】
好ましくは、第2回転体は、第2貫通孔を有する。カムフォロアは、第2貫通孔の内壁面上を転動する。
【0026】
好ましくは、カムフォロアは、円柱状又は円筒状のコロである。
【0027】
好ましくは、回転装置は、円柱状又は円筒状のカムフォロアをさらに備える。遠心子は、軸方向に延びる第1貫通孔を有する。第2回転体は、軸方向に延びる第2貫通孔を有する。第1貫通孔の内壁面は、カム面を構成する。カム面は、径方向外側を向き、カムフォロアと当接する。第2貫通孔の内壁面は、当接面を構成する。当接面は、径方向内側を向き、カムフォロアと当接する。カム面は、第1領域と第2領域とを有する。第1領域は、遠心子が第1転動部材を介して第1ガイド面上を転動するときにカムフォロアと当接する。第2領域は、遠心子が第2ガイド面上を転動するときにカムフォロアと当接する。第1領域は、第2領域と異なる曲面形状を有する。
【0028】
好ましくは、第1領域は、第2領域の曲率半径よりも小さい曲率半径を有する。
【0029】
好ましくは、当接面は、第3領域と、第4領域とを有する。第3領域は、遠心子が第1転動部材を介して第1ガイド面上を転動するときにカムフォロアと当接する。第4領域は、遠心子が第2ガイド面上を転動するときにカムフォロアと当接する。第3領域は、第4領域と異なる曲面形状を有する。
【0030】
好ましくは、回転装置は、円柱状又は円筒状のカムフォロアをさらに備える。遠心子は、軸方向に延びる第1貫通孔を有する。第2回転体は、軸方向に延びる第2貫通孔を有する。第1貫通孔の内壁面は、カム面を構成する。カム面は、径方向外側を向き、カムフォロアと当接する。第2貫通孔の内壁面は、当接面を構成する。当接面は、径方向内側を向き、カムフォロアと当接する。当接面は、第3領域と第4領域とを有する。第3領域は、遠心子が第1転動部材を介して第1ガイド面上を転動するときにカムフォロアと当接する。第4領域は、遠心子が第2ガイド面上を転動するときにカムフォロアと当接する。第3領域は、第4領域と異なる曲面形状を有する。
【0031】
好ましくは、第3領域は、第4領域の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する。
【0032】
好ましくは、回転装置は、状態維持機構をさらに備える。状態維持機構は、第1回転体と第2回転体とが互いに相対回転せずに一体回転しているときに、第1領域と第2領域との境界がカムフォロアと接触するように遠心子の状態を維持するように構成されている。
【0033】
好ましくは、状態維持機構は、第1回転体に形成された第1係合部と、遠心子に形成されて第1係合部と係合する第2係合部と、を有する。
【0034】
好ましくは、第2回転体は、規制溝を有する。第1転動部材は、規制溝によって支持される。
【0035】
好ましくは、収容部は、底面と連結面とを有する。底面は、径方向外側を向いている。連結面は、第1ガイド面と底面とを連結している。
【0036】
連結面は、湾曲面であってもよいし、平面であってもよい。
【0037】
本発明の第2側面に係る動力伝達装置は、入力部材と、入力部材からトルクが伝達される出力部材と、上記いずれかのトルク変動抑制装置と、を備える。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、第1回転体に対する第2回転体の偏心回転を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図2】第1プレートが取り外された状態のトルク変動抑制装置の正面図。
【
図7】トルク変動が入力されていない状態の遠心子、カムフォロア、イナーシャリング、及び第1転動部材の位置関係を示す概略図。
【
図8】トルク変動が入力された状態の遠心子、カムフォロア、イナーシャリング、及び第1転動部材の位置関係を示す概略図。
【
図9】トルク変動抑制装置の特性の一例を示すグラフ。
【
図11】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図12】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図13】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図14】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図15】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図16】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図17】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図18】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図19】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図20】変形例に係るトルク変動抑制装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本実施形態に係るトルク変動抑制装置(回転装置の一例)及びトルクコンバータ(動力伝達装置の一例)について図面を参照しつつ説明する。
図1は、トルクコンバータの模式図である。なお、以下の説明において、軸方向とはトルク変動抑制装置の回転軸Oが延びる方向である。また、周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向であり、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向である。なお、周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向に完全に一致している必要はなく、例えば、
図4において、遠心子を基準とした左右方向も含む概念である。また、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の直径方向に完全に一致している必要はなく、例えば、
図4において、遠心子を基準とした上下方向も含む概念である。
【0041】
[全体構成]
図1に示すように、トルクコンバータ100は、フロントカバー11、トルクコンバータ本体12と、ロックアップ装置13と、出力ハブ14(出力部材の一例)と、を有している。フロントカバー11にはエンジンからトルクが入力される。トルクコンバータ本体12は、フロントカバー11に連結されたインペラ121と、タービン122と、ステータ(図示せず)と、を有している。タービン122は出力ハブ14に連結されている。トランスミッションの入力軸(図示せず)が出力ハブ14にスプライン嵌合している。
【0042】
[ロックアップ装置13]
ロックアップ装置13は、クラッチ部や、油圧等によって作動するピストン等を有し、ロックアップオン状態と、ロックアップオフ状態と、を取り得る。ロックアップオン状態では、フロントカバー11に入力されたトルクは、トルクコンバータ本体12を介さずに、ロックアップ装置13を介して出力ハブ14に伝達される。一方、ロックアップオフ状態では、フロントカバー11に入力されたトルクは、トルクコンバータ本体12を介して出力ハブ14に伝達される。
【0043】
ロックアップ装置13は、入力側回転体131(入力部材の一例)と、ダンパ132と、トルク変動抑制装置10と、を有している。
【0044】
入力側回転体131は、軸方向に移動自在なピストンを含み、フロントカバー11側の側面に摩擦部材133が固定されている。この摩擦部材133がフロントカバー11に押し付けられることによって、フロントカバー11から入力側回転体131にトルクが伝達される。
【0045】
ダンパ132は、入力側回転体131と、後述するハブフランジ2との間に配置されている。ダンパ132は、複数のトーションスプリングを有しており、入力側回転体131とハブフランジ2とを周方向に弾性的に連結している。このダンパ132によって、入力側回転体131からハブフランジ2にトルクが伝達されるとともに、トルク変動が吸収、減衰される。
【0046】
[トルク変動抑制装置10]
図2はトルク変動抑制装置10の正面図、
図3は
図2のIII-III線断面図である。なお、
図2では、第1プレート3aが取り外されている。
【0047】
図2及び
図3に示すように、トルク変動抑制装置10は、ハブフランジ2(第1回転体の一例)、イナーシャリング3(第2回転体の一例)、遠心子4、第1転動部材5、カム機構6、摺動部材15、並びに一対のスペーサ16を有している。
【0048】
<ハブフランジ2>
ハブフランジ2は、回転可能に配置される。ハブフランジ2は、入力側回転体131と軸方向に対向して配置されている。ハブフランジ2は、入力側回転体131と相対回転可能である。ハブフランジ2は、出力ハブ14に連結されている。すなわち、ハブフランジ2は、出力ハブ14と一体的に回転する。なお、ハブフランジ2は、出力ハブ14と一つの部材で構成されていてもよい。
【0049】
ハブフランジ2は、環状のプレートである。ハブフランジ2は、後述する第1プレート3aや第2プレート3bよりも厚い。ハブフランジ2は、内周部21と、外周部22と、連結部23とを有する。内周部21は、複数の取付孔211を有している。この取付孔211を利用して、ハブフランジ2の内周部21が出力ハブ14に取り付けられている。なお、内周部21は、後述する収容空間の外部に配置されている。
【0050】
外周部22は、複数の収容部24を有している。本実施形態では、外周部22は6個の収容部24を有している。複数の収容部24は、周方向において互いに間隔をあけて配置されている。各収容部24は、径方向外側に向かって開口する。収容部24は、所定の深さを有している。
【0051】
図3に示すように、外周部22は、後述する収容空間内に収容されている。外周部22は、内周部21と軸方向の位置が異なる。詳細には、外周部22は、内周部21に対して、軸方向の第1側(
図3の左側)に配置されている。
【0052】
連結部23は、外周部22と内周部21とを連結している。詳細には、連結部23は、内周部21の外周端部と、外周部22の内周端部とを連結している。連結部23は、軸方向に延びている。連結部23は、円筒状である。
【0053】
ハブフランジ2は、第1支持面25を有している。詳細には、連結部23が第1支持面25を有している。連結部23の内周面が第1支持面25を構成している。第1支持面25は、径方向内側を向いている。第1支持面25は、環状である。軸方向視において、第1支持面25は円形状である。
【0054】
図4は、トルク変動抑制装置10の拡大図である。
図4に示すように、収容部24は、第1ガイド面241、第2ガイド面242、及び底面243を有している。第1ガイド面241、第2ガイド面242、及び底面243は、収容部24の内壁面を構成している。
【0055】
第1ガイド面241及び第2ガイド面242は、周方向(
図4の左右方向)を向いている。第1ガイド面241及び第2ガイド面242は、遠心子4を向いている。遠心子4がない場合、第1ガイド面241及び第2ガイド面242は、対向する。第1ガイド面241と第2ガイド面242とは、互いに略平行に延びている。第1及び第2ガイド面241,242は、平面である。
【0056】
底面243は、第1ガイド面241と第2ガイド面242とを連結している。底面243は、正面視(軸方向視)において、略円弧状である。底面243は、径方向外側を向いている。底面243は、遠心子4の外周面と対向している。
【0057】
<イナーシャリング3>
図3及び
図5に示すように、イナーシャリング3は、連続した円環状に形成されている。イナーシャリング3は、トルク変動抑制装置10の質量体として機能する。イナーシャリング3は、ハブフランジ2とともに回転可能で、かつハブフランジ2に対して相対回転可能である。イナーシャリング3は、軸方向において、ハブフランジ2に対して間隔をあけて配置されている。
【0058】
イナーシャリング3は、第1プレート3aと第2プレート3bとを有している。第1プレート3aと第2プレート3bとは、軸方向においてハブフランジ2の外周部22を挟むように配置されている。
【0059】
第1プレート3a及び第2プレート3bは、軸方向においてハブフランジ2の外周部22に対して所定の隙間をあけて配置されている。イナーシャリング3の回転軸は、ハブフランジ2の回転軸と同じである。
【0060】
第1プレート3aと第2プレート3bとは、複数のリベット35によって固定されている。したがって、第1プレート3aと第2プレート3bとは、互いに、軸方向、径方向、及び周方向に移動不能である。すなわち、第1プレート3aと第2プレート3bとは、互いに一体的に回転する。
【0061】
図3に示すように、第1プレート3aは、第1環状部31aと、第1円筒部32aとを有する。第1環状部31aは、円環状である。第1環状部31aは、ハブフランジ2に対して、軸方向の第1側に配置されている。第1環状部31aは、軸方向において、ハブフランジ2に対して間隔をあけて配置されている。
【0062】
第1円筒部32aは、第1環状部31aの内周端部から第2プレート3bに向かって軸方向に延びている。すなわち、第1円筒部32aは、第1環状部31aの内周端部から軸方向の第2側に延びている。
【0063】
第1円筒部32aは、連結部23に対して、径方向の内側に配置されている。第1円筒部32aは、第2支持面33を有している。具体的には、第1円筒部32aの外周面が第2支持面33を構成している。
【0064】
第2支持面33は、径方向外側を向いている。第2支持面33は、第1支持面25に支持されるように構成されている。詳細には、第2支持面33は、摺動部材15を介して第1支持面25に支持されるように、構成されている。本実施形態では、第2支持面33と摺動部材15との間には隙間が形成されている。イナーシャリング3が径方向に移動すると、第2支持面33が摺動部材15に当接する。なお、第2支持面33と摺動部材15との間には隙間が無くてもよい。
【0065】
第2プレート3bは、第2環状部31bと、第2円筒部32bとを有する。第2環状部31bは、円環状である。第2環状部31bは、ハブフランジ2に対して、軸方向の第2側に配置されている。第2環状部31bは、軸方向において、ハブフランジ2に対して間隔をあけて配置されている。
【0066】
第2環状部31bは、軸方向において第1環状部31aと間隔をあけて配置されている。第2環状部31bは、第1環状部31aに対して、軸方向の第2側に配置されている。軸方向において、第1環状部31aと第2環状部31bとの間に、ハブフランジ2の外周部22が配置されている。
【0067】
第2円筒部32bは、第2環状部31bの外周端部から第1プレート3aに向かって軸方向に延びている。すなわち、第2円筒部32bは、第2環状部31bの外周端部から軸方向の第1側に延びている。
【0068】
第2円筒部32bは、ハブフランジ2の外周部22に対して、径方向の外側に配置されている。第2円筒部32bの内周面は、ハブフランジ2の外周部22の外周面と対向している。径方向において、第1円筒部32aと第2円筒部32bとの間に、ハブフランジ2の外周部22が配置されている。なお、ハブフランジ2の外周部22は、軸方向において、第1環状部31aと第2環状部31bとの間に配置されている。このように、第1プレート3aと第2プレート3bは、ハブフランジ2の外周部22を収容する収容空間を形成している。
【0069】
第1環状部31aの外周端部と、第2円筒部32bの先端部との間には、第1隙間G1が形成されている。すなわち、第1環状部31aの外周面は、第2円筒部32bの内周面と接触しておらず、間隔をあけている。この第1隙間G1は、全周に亘って形成されていてもよいし、一部のみに形成されていてもよい。なお、第1環状部31aの外周面が第2円筒部32bの内周面と当接しており、第1隙間G1が形成されていなくてもよい。
【0070】
第2環状部31bの内周端部と、第1円筒部32aの先端部との間には、第2隙間G2が形成されている。すなわち、第2環状部31bの内周面は、第1円筒部32aの外周面と接触しておらず、間隔をあけている。この第2隙間G2は、全周に亘って形成されているが、一部のみに形成されていてもよい。この第2隙間G2を介して、ハブフランジ2の連結部23は、内周部21と外周部22とを連結している。
【0071】
図5に示すように、第1プレート3aは、複数の第2貫通孔36を有している。詳細には、第1環状部31aは、複数の第2貫通孔36を有している。各第2貫通孔36は、周方向に配列されている。第2貫通孔36は、軸方向に延びている。第2貫通孔36は、第1環状部31aを軸方向に貫通している。第2貫通孔36の径は、後述するカムフォロア62の小径部622の径よりも大きい。また、第2貫通孔36の径は、カムフォロア62の大径部621よりも小さい。
【0072】
第1プレート3aは、複数の規制溝37を有している。詳細には、第1環状部31aは、複数の規制溝37を有している。各規制溝37は、周方向に配列されている。規制溝37は、径方向外側に膨らむ円弧状に形成されている。
【0073】
第2プレート3bは、第1プレート3aと同様に、複数の第2貫通孔36及び複数の規制溝37を有している。第1プレート3aに形成された第2貫通孔36と、第2プレート3bに形成された第2貫通孔36とは、周方向及び径方向において同じ位置に形成されている。また、第1プレート3aに形成された規制溝37と、第2プレート3bに形成された規制溝37とは、周方向及び径方向において同じ位置に形成されている。
【0074】
図2に示すように、第1プレート3aと第2プレート3bとの間には、複数のイナーシャブロック38が配置されている。複数のイナーシャブロック38は、周方向において、互いに間隔をあけて配置されている。例えば、周方向において、イナーシャブロック38と遠心子4とが交互に配置されている。イナーシャブロック38は、第1プレート3a及び第2プレート3bに固定されている。具体的には、イナーシャブロック38は、リベット35によって第1プレート3a及び第2プレート3bに固定されている。なお、イナーシャブロック38は、遠心子4よりも厚い。
【0075】
<摺動部材>
図2及び
図3に示すように、摺動部材15は、第1支持面25と第2支持面33との間に配置されている。詳細には、摺動部材15は、第1支持面25に取り付けられている。摺動部材15は、環状に形成されている。摺動部材15は、連結部23内に圧入されている。なお、第1プレート3aや第2プレート3bよりも、ハブフランジ2の方が板厚が厚い。
【0076】
摺動部材15は、ハブフランジ2よりも摩擦係数の低い材料で構成されている。また、摺動部材15は、イナーシャリング3よりも摩擦係数の低い材料で構成されている。例えば、摺動部材15は、樹脂によって構成することができ、より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、又は熱可塑性ポリイミド(TPI)などによって構成することができる。
【0077】
第2支持面33は、この摺動部材15を介して、第1支持面25に支持されるように構成されている。
【0078】
イナーシャリング3の重心は、径方向視において、第1支持面25と重複するとともに第2支持面33とも重複する。なお、本実施形態のように、第2支持面33が摺動部材15を介して第1支持面25に支持される場合は、イナーシャリング3の重心は、径方向視において、第1支持面25、第2支持面33、及び摺動部材15の全てと重複している。
【0079】
<スペーサ>
一対のスペーサ16は、軸方向において、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に配置されている。詳細には、一方のスペーサ16は、外周部22と第1プレート3aとの間に配置され、他方のスペーサ16は、外周部22と第2プレート3bとの間に配置される。
【0080】
スペーサ16は、円環状である。スペーサ16は、ハブフランジ2に固定されていてもよいし、イナーシャリング3に固定されていてもよい。スペーサ16は、ハブフランジ2やイナーシャリング3よりも摩擦係数の低い材料で構成されている。具体的には、スペーサ16は、樹脂によって構成することができ、より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、又は熱可塑性ポリイミド(TPI)などによって構成することができる。
【0081】
<遠心子4>
遠心子4は、収容部24内に配置されている。遠心子4は、ハブフランジ2の回転によって遠心力を受けるように構成されている。遠心子4は、収容部24内において径方向に移動可能である。なお、遠心子4は、径方向に移動する際に自転するように構成されている。本実施形態では、遠心子4の全体が自転する。遠心子4の軸方向の移動は、一対のイナーシャリング3によって規制されている。
【0082】
図4に示すように、遠心子4は、円板状であり、中央部に第1貫通孔41を有する。すなわち、遠心子4は円筒状である。遠心子4は、ハブフランジ2よりも厚い。遠心子4は、一つの部材によって構成することができる。
【0083】
遠心子4は、第2ガイド面242と第1転動部材5とに接触している。このため、遠心子4は、周方向への移動が規制される。一方、遠心子4は径方向に移動可能である。遠心子4は、径方向に移動する際、収容部24の第2ガイド面242上を転動する。また、遠心子4は、径方向に移動する際、第1転動部材5を介して第1ガイド面241上を転動する。すなわち、遠心子4は、第1転動部材5の外周面上を転動する。
【0084】
遠心子4の外周面のうち、遠心子4が転動したときに第1転動部材5の外周面と転がり接触する面を第1接触面42aとする。また、遠心子4の外周面のうち、遠心子4が転動したときに第2ガイド面242と転がり接触する面を第2接触面42bとする。この第1接触面42a及び第2接触面42bは、軸方向視において円弧状である。
【0085】
第1貫通孔41は、軸方向に延びている。第1貫通孔41は、遠心子4を軸方向に貫通している。第1貫通孔41の径は、カムフォロア62の径よりも大きい。詳細には、第1貫通孔41の径は、カムフォロア62の大径部621の径よりも大きい。この第1貫通孔41を画定する内壁面の一部は、カム面61を構成する。
【0086】
<第1転動部材5>
第1転動部材5は、第1ガイド面241と遠心子4との間に配置されている。詳細には、第1転動部材5は、第1ガイド面241と遠心子4とによって挟まれている。第1転動部材5は、第1ガイド面241と遠心子4とに接触している。
【0087】
第1転動部材5の中心は、遠心子4の中心よりも径方向内側に位置している。第1転動部材5は、円柱状のコロとして構成されている。すなわち、第1転動部材5は、ベアリングではない。
【0088】
第1転動部材5は、大径部51と、一対の小径部52とを有している。大径部51と小径部52とは、互いの中心が一致している。大径部51は、小径部52よりも径が大きい。大径部51の直径は、規制溝37の幅よりも大きい。このため、第1転動部材5は、一対のイナーシャリング3によって軸方向に支持されている。
【0089】
各小径部52は、大径部51から軸方向の両側に突出している。小径部52の直径は、規制溝37の幅よりも小さい。小径部52は、イナーシャリング3の規制溝37内に配置されている。小径部52と規制溝37の内壁面との間には所定の隙間が設けられており、小径部52は規制溝37内をスムーズに移動することが可能である。このように小径部52が規制溝37内に配置されているため、停止時における第1転動部材5の径方向の移動を規制することができる。すなわち、第1転動部材5は、規制溝37によって支持されている。
【0090】
第1転動部材5は、一つの部材によって構成することができる。すなわち、第1転動部材5の大径部51と一対の小径部52とは一つの部材によって構成されている。なお、第1転動部材5は、直径が一定の円柱状であってもよい。また、第1転動部材5は、円筒状であってもよい。
【0091】
第1転動部材5は、遠心子4の自転によって第1ガイド面241上を転動するように構成されている。すなわち、遠心子4が自転することによって、第1転動部材5も自転する。なお、遠心子4の回転方向と第1転動部材5の回転方向とは逆となる。そして、第1転動部材5は、自転することによって、第1ガイド面241上を転動する。詳細には、第1転動部材5の大径部51が第1ガイド面241上を転動する。
【0092】
ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転方向の相対変位(回転位相差)がない状態では、
図5に示すように、小径部52は規制溝37の長手方向(周方向)の略中央に位置している。そして、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じた場合は、小径部52は規制溝37に沿って移動する。
【0093】
図6に示すように、第1ガイド面241と第2ガイド面242との距離Hは、遠心子4の直径D1と第1転動部材5の直径D2との合計よりも小さい。すなわち、H<D1+D2の式が成り立つ。これにより、トルク変動抑制装置10の動作中において、遠心子4は常時、第2ガイド面242と第1転動部材5とに接触している。
【0094】
第1転動部材5の直径D2は、遠心子4の外周面と第1ガイド面241との隙間よりも大きいため、第1転動部材5が径方向外側に飛び出すことが規制される。
【0095】
<カム機構6>
図4に示すように、カム機構6は、遠心子4に作用する遠心力を受けて、その遠心力をハブフランジ2とイナーシャリング3との回転位相差が小さくなる方向の周方向力に変換するように構成されている。なお、カム機構6は、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じたときに機能する。
【0096】
カム機構6は、カム面61とカムフォロア62とを有している。カム面61は、遠心子4に形成されている。詳細には、カム面61は、遠心子4の第1貫通孔41の内壁面の一部である。カム面61は、カムフォロア62が当接する面であり、軸方向視において円弧状である。カム面61は、径方向外側を向いている。
【0097】
カムフォロア62は、カム面61と当接している。カムフォロア62は、遠心子4と一対のイナーシャリング3との間で力を伝達するように構成されている。詳細には、カムフォロア62は、第1貫通孔41内と第2貫通孔36内を延びている。カムフォロア62は、自転可能に、イナーシャリング3に取り付けられている。
【0098】
カムフォロア62は、第1貫通孔41のカム面61上を転動する。また、カムフォロア62は、第2貫通孔36の内壁面上を転動する。なお、カムフォロア62は、第2貫通孔36の内壁面のうち、径方向内側を向く面と当接している。すなわち、カムフォロア62は、カム面61と、第2貫通孔36の内壁面とによって挟まれている。
【0099】
詳細には、カムフォロア62は、径方向内側においてカム面61と当接し、径方向外側において第2貫通孔36の内壁面と当接している。これによって、カムフォロア62は、位置決めされている。また、このようにカムフォロア62がカム面61と第2貫通孔36の内壁面とによって挟まれているため、カムフォロア62は、遠心子4と一対のイナーシャリング3との間で力を伝達する。
【0100】
カムフォロア62は、円柱状のコロとして構成されている。すなわち、カムフォロア62はベアリングではない。カムフォロア62は、大径部621と、一対の小径部622とを有している。大径部621と小径部622とは、互いの中心が一致している。大径部621は、小径部622よりも径が大きい。大径部621は、第1貫通孔41よりも径が小さく、第2貫通孔36よりも径が大きい。大径部621は、カム面61上を転動する。
【0101】
各小径部622は、大径部621から軸方向の両側に突出している。小径部622は、第2貫通孔36の内壁面上を転動する。小径部622は、第2貫通孔36よりも径が小さい。カムフォロア62は、一つの部材によって構成することができる。すなわち、カムフォロア62の大径部621と一対の小径部622とは一つの部材によって構成されている。なお、カムフォロア62は、径が一定の円柱状であってもよい。また、カムフォロア62は、円筒状であってもよい。
【0102】
カムフォロア62とカム面61との接触、及びカムフォロア62と第2貫通孔36の内壁面との接触によって、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じたときに、遠心子4に生じた遠心力は、回転位相差が小さくなるような周方向の力に変換される。
【0103】
<ストッパ機構>
トルク変動抑制装置10は、ストッパ機構8をさらに備えている。ストッパ機構8は、ハブフランジ2とイナーシャリング3との相対回転角度範囲を規制する。ストッパ機構8は、凸部81と凹部82とを有する。
【0104】
凸部81は、イナーシャブロック38から径方向内側に突出している。凹部82は、ハブフランジ2の外周面に形成されている。凸部81は、凹部82内に配置されている。この凸部81が凹部82の端面に当接することによって、ハブフランジ2とイナーシャリング3との相対回転角度範囲が規制される。
【0105】
[トルク変動抑制装置10の作動]
図7及び
図8を用いて、トルク変動抑制装置10の作動について説明する。
【0106】
ロックアップオン時には、フロントカバー11に伝達されたトルクは、入力側回転体131及びダンパ132を介してハブフランジ2に伝達される。
【0107】
トルク伝達時にトルク変動がない場合は、
図7に示すような状態で、ハブフランジ2及びイナーシャリング3は回転する。この状態では、カム機構6のカムフォロア62はカム面61のもっとも径方向内側の位置(周方向の中央位置)に当接する。また、この状態では、ハブフランジ2とイナーシャリング3との回転位相差は「0」である。
【0108】
前述のように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間の周方向の相対変位量を、「回転位相差」と称しているが、これらは、
図7及び
図8では、遠心子4及びカム面61の周方向の中央位置と、第2貫通孔36の中心位置と、のずれを示すものである。
【0109】
ここで、トルクの伝達時にトルク変動が存在すると、
図8に示すように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間には、回転位相差θが生じる。
【0110】
図8に示すように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差θが生じた場合、カム機構6のカムフォロア62は、
図7に示す位置から
図8に示す位置まで移動する。このとき、カムフォロア62は、カム面61上を転動しながら相対的に左側に移動する。また、カムフォロア62は、第2貫通孔36の内壁面上も転動している。詳細には、カムフォロア62の大径部621がカム面61上を転動し、カムフォロア62の小径部622が第2貫通孔36の内壁面上を転動する。なお、カムフォロア62は、反時計回りに自転している。
【0111】
このカムフォロア62が左側に移動することによって、カムフォロア62がカム面61を介して遠心子4を径方向内側(
図7及び
図8の下側)に押圧し、遠心子4を径方向内側に移動させる。この結果、遠心子4は、
図7に示す位置から
図8に示す位置まで移動する。このとき、遠心子4は、第2ガイド面242上を転動する。遠心子4は、時計回りに自転している。なお、遠心子4が時計回りに自転することによって、第1転動部材5は反時計回りに自転する。そして、第1転動部材5は、第1ガイド面241上を転動して径方向内側に移動する。
【0112】
このように
図8の位置に移動した遠心子4には遠心力が作用しているので、遠心子4は径方向外側(
図8の上側)に移動する。詳細には、遠心子4は、第2ガイド面242上を転動して、径方向外側に移動する。なお、遠心子4は、反時計周りに自転する。このように遠心子4が反時計回りに自転することによって、第1転動部材5は時計回りに自転する。そして、第1ガイド面241上を転動して径方向外側に移動する。
【0113】
また、遠心子4に形成されたカム面61がカムフォロア62を介して、イナーシャリング3を
図8の右側に押圧し、イナーシャリング3を
図8の右側に移動させる。このとき、カムフォロア62の大径部621はカム面61上を転動し、カムフォロア62の小径部622は第2貫通孔36の内壁面上を転動する。なお、カムフォロア62は、時計回りに自転している。この結果、
図7の状態に戻る。
【0114】
なお、逆方向に回転位相差が生じた場合は、カムフォロア62がカム面61に沿って相対的に
図8の右側に移動するが、作動原理は同じである。このとき、遠心子4は、第1転動部材5を介して第1ガイド面241上を転動する。
【0115】
以上のように、トルク変動によってハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じると、遠心子4に作用する遠心力及びカム機構6の作用によって、ハブフランジ2は、両者の回転位相差を小さくする周方向の力を受ける。この力によって、トルク変動が抑制される。なお、カムフォロア62を介して、遠心子4とイナーシャリング3との間で力が伝達される。
【0116】
以上のトルク変動を抑制する力は、遠心力、すなわちハブフランジ2の回転数によって変化するし、回転位相差及びカム面61の形状によっても変化する。したがって、カム面61の形状を適宜設定することによって、トルク変動抑制装置10の特性を、エンジン仕様等に応じた最適な特性にすることができる。
【0117】
また、遠心子4は、第1ガイド面241又は第2ガイド面242上を間接的に又は直接的に転動することによって径方向に移動する。このため、遠心子4は、第1ガイド面241、又は第2ガイド面242上を摺動するものに比べて、スムーズに径方向に移動することができる。また、カムフォロア62は、カム面61上及び第2貫通孔36の内壁面上を転動している。このため、よりスムーズに遠心子4とイナーシャリング3との間で力を伝達することができる。
【0118】
[特性の例]
図9は、トルク変動抑制装置10の特性の一例を示す図である。横軸は回転数、縦軸はトルク変動(回転速度変動)である。特性Q1はトルク変動を抑制するための装置が設けられていない場合、特性Q2はカム機構を有さない従来のダイナミックダンパ装置が設けられた場合、特性Q3は本実施形態のトルク変動抑制装置10が設けられた場合を示している。
【0119】
この
図9から明らかなように、カム機構を有さないダイナミックダンパ装置が設けられた装置(特性Q2)では、特定の回転数域のみについてトルク変動を抑制することができる。一方、カム機構6を有する本実施形態(特性Q3)では、すべての回転数域においてトルク変動を抑制することができる。
【0120】
[変形例]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0121】
<変形例1>
上記実施形態では、回転装置の一例としてトルク変動抑制装置を説明したが、回転装置は、トルク変動抑制装置以外であってもよく、例えば、クラッチ装置又はダンパ装置等であってもよい。
【0122】
<変形例2>
上記実施形態では、第1回転体の一例としてハブフランジ2を例示しているが、第1回転体はこれに限定されない。例えば、トルク変動抑制装置を本実施形態のようにトルクコンバータに取り付ける場合、トルクコンバータ100のフロントカバー11又は入力側回転体131などを第1回転体とすることができる。
【0123】
<変形例3>
上記実施形態では、トルク変動抑制装置10を、トルクコンバータ100に取り付けているが、クラッチ装置などの他の動力伝達装置にトルク変動抑制装置10を取り付けることもできる。
【0124】
例えば、
図10に示すように、ダンパ装置101にトルク変動抑制装置10を取り付けることができる。このダンパ装置101は、例えば、ハイブリッド車に搭載される。ダンパ装置101は、入力部材141と、出力部材142と、ダンパ143と、トルク変動抑制装置10と、を備えている。入力部材141には駆動源からのトルクが入力される。ダンパ143は、入力部材141と出力部材142との間に配置されている。出力部材142は、ダンパ143を介して入力部材141からのトルクが伝達される。トルク変動抑制装置10は、例えば出力部材142に取り付けられている。
【0125】
<変形例4>
図11は、一方のイナーシャリング3、遠心子4、及び第1転動部材5を取り外した状態におけるトルク変動抑制装置10の拡大正面図である。
図11に示すように、収容部24は、第1ガイド面241、第2ガイド面242、底面243、及び連結面244を有している。
【0126】
連結面244は、第1ガイド面241と底面243とを連結している。連結面244は、周方向且つ径方向を向いている。連結面244は、湾曲面である。詳細には、連結面244は、凹状の湾曲面である。連結面244は、軸方向視において、円弧状である。連結面244の曲率半径は、第1転動部材5の半径以上とすることが好ましい。なお、
図12に示すように、連結面244は、平面であってもよい。
【0127】
この連結面244は第1転動部材5の径方向内側に位置するため、第1転動部材5が自重で径方向内側に落下した場合の落下音の発生を抑制することができる。なお、本変形例において、イナーシャリング3に規制溝37は形成されていない。
【0128】
<変形例5>
上記実施形態では、遠心子4の第1貫通孔41は軸方向視において真円であるが、第1貫通孔41の形状はこれに限定されない。例えば、
図13に示すように、遠心子4の第1貫通孔41は、軸方向視において真円でなくてもよい。以下、詳細に説明する。
【0129】
図13に示すように、第1貫通孔41の内壁面は、カム面61を構成する。カム面61は、径方向外側を向いている。トルク変動抑制装置10の作動時に遠心子4が径方向外側に移動することによって、カム面61は、カムフォロア62と当接する。詳細には、カム面61は、カムフォロア62の大径部621と当接する。
【0130】
カム面61は、第1領域611と、第2領域612とを有する。第1領域611は、遠心子4が第1転動部材5を介して第1ガイド面241上を転動するときにカムフォロア62と当接する領域である。例えば、イナーシャリング3がハブフランジ2に対して時計回りに相対回転すると、第1領域611はカムフォロア62と当接する。すなわち、第1領域611は、カム面61の最も径方向内側の部分から第1ガイド面241側(
図13の右側)の領域である。
【0131】
第2領域612は、遠心子4が第2ガイド面242上を転動するときにカムフォロア62と当接する領域である。例えば、イナーシャリング3がハブフランジ2に対して反時計回りに相対回転すると、第2領域612はカムフォロア62と当接する。すなわち、第2領域612は、カム面61の最も径方向内側の部分から第2ガイド面242側(
図13の左側)の領域である。
【0132】
第1領域611は、第2領域612と異なる曲面形状を有している。第1領域611及び第2領域612は、軸方向視において円弧状である。本変形例では、第1領域611は、第2領域612の曲率半径よりも小さい曲率半径を有している。
【0133】
なお、本変形例では、軸方向視において、第1貫通孔41の右半分は半円形状であり、第1貫通孔41の左半分も半円形状である。軸方向視において、第1貫通孔41の右半分を構成する半円は、第1貫通孔41の左半分を構成する半円の半径よりも、小さい半径を有する。すなわち、第1貫通孔41は、軸方向視において、半径の異なる二つの半円によって構成されている。
【0134】
第1領域611と第2領域612との境界は、最も径方向内側に位置している部分である。ハブフランジ2とイナーシャリング3とが互いに相対回転せずに一体回転しているとき、すなわち、ハブフランジ2とイナーシャリング3との回転位相差θがゼロのときに、第1領域611と第2領域612との境界がカムフォロア62と当接している。
【0135】
なお、このように、第1領域611と第2領域612との境界がカムフォロア62と当接しているような遠心子4の状態を、中立状態と称する。すなわち、遠心子4が中立状態にあるとき、第1領域611と第2領域612との境界がカムフォロア62と当接する。
【0136】
図14は、遠心子4、第1転動部材5、及びカムフォロア62を取り除いた状態のトルク変動抑制装置の正面図である。
図14に示すように、第2貫通孔36も、軸方向視において真円ではない形状とすることができる。
【0137】
第2貫通孔36の内壁面は、当接面30を構成する。当接面30は、径方向内側を向いている。当接面30は、カムフォロア62と当接する。なお、当接面30は、トルク変動抑制装置10の作動時及び停止時において、カムフォロア62と当接する。詳細には、当接面30は、カムフォロア62の小径部622と当接する。
【0138】
当接面30は、第3領域301と、第4領域302とを有する。第3領域301は、遠心子4が第1転動部材5を介して第1ガイド面241上を転動するときにカムフォロア62と当接する領域である。例えば、イナーシャリング3がハブフランジ2に対して時計回りに相対回転すると、第3領域301はカムフォロア62と当接する。すなわち、第3領域301は、当接面30の最も径方向外側の部分から第2ガイド面242側(
図14の左側)の領域である。
【0139】
第4領域302は、遠心子4が第2ガイド面242上を転動するときにカムフォロア62と当接する領域である。例えば、イナーシャリング3がハブフランジ2に対して反時計回りに相対回転すると、第4領域302はカムフォロア62と当接する。すなわち、第4領域302は、当接面30の最も径方向外側の部分から第1ガイド面241側(
図14の右側)の領域である。
【0140】
第3領域301は、第4領域302と異なる曲面形状を有している。第3領域301及び第4領域302は、軸方向視において円弧状である。本変形例では、第3領域301は、第4領域302の曲率半径よりも大きい曲率半径を有している。
【0141】
なお、本変形例では、軸方向視において、第2貫通孔36の右半分は半円形状であり、第2貫通孔36の左半分も半円形状である。軸方向視において、第2貫通孔36の右半分を構成する半円は、第2貫通孔36の左半分を構成する半円の半径よりも、小さい半径を有する。すなわち、第2貫通孔36は、軸方向視において、半径の異なる二つの半円によって構成されている。
【0142】
第3領域301と第4領域302との境界は、最も径方向外側に位置している部分である。遠心子4が中立状態にあるとき、カムフォロア62は、第3領域301と第4領域302との境界に当接している。
【0143】
図13に示すように、トルク変動抑制装置10は、状態維持機構7を備えている。ハブフランジ2とイナーシャリング3とが一体的に回転しているとき、すなわち、回転位相差θがゼロのとき、状態維持機構7は、遠心子4の中立状態を維持するように構成されている。このため、回転位相差θがゼロのとき、第1領域611と第2領域612との境界はカムフォロア62と接触している。
【0144】
状態維持機構7は、第1係合部71と、第2係合部72とを有している。第1係合部71は、ハブフランジ2に形成されている。第1係合部71は、ハブフランジ2から遠心子4に向かって突出している。
【0145】
第2係合部72は、遠心子4に形成されている。第2係合部72は、遠心子4に形成された凹部である。第2係合部72は、第1係合部71と係合する。詳細には、第1係合部71が第2係合部72内に配置されている。このため、第1係合部71と第2係合部72とが互いに当接し、その結果、ハブフランジ2とイナーシャリング3とが相対回転しないときに遠心子4が自転することが規制される。
【0146】
次に、トルク変動抑制装置10の動作について説明する。まず、
図15に示すように、ハブフランジ2とイナーシャリング3とが相対回転していないとき、すなわち、回転位相差θがゼロのときは、遠心子4は中立状態にある。このため、カムフォロア62は、第1領域611と第2領域612との境界と当接している。また、カムフォロア62は、第3領域301と第4領域302との境界と当接している。遠心子4は、自転していない。
【0147】
図16に示すように、イナーシャリング3がハブフランジ2に対して反時計回りに相対回転したとき、遠心子4は第2ガイド面242上を転動する。なお、遠心子4は、時計回りに転動する。
【0148】
カムフォロア62は、カム面61のうち、第2領域612上を転動する。また、カムフォロア62は、当接面30のうち、第4領域302上を転動する。このように、カムフォロア62は、第2領域612と第4領域302とによって挟まれている。なお、カムフォロア62は、反時計回りに転動する。
【0149】
図17に示すように、イナーシャリング3がハブフランジ2に対して時計回りに相対回転したとき、遠心子4は第1転動部材5を介して第1ガイド面241上を転動する。なお、遠心子4は、時計回りに転動する。
【0150】
カムフォロア62は、カム面61のうち、第1領域611上を転動する。また、カムフォロア62は、当接面30のうち、第3領域301上を転動する。このように、カムフォロア62は、第1領域611と第3領域301とによって挟まれている。なお、カムフォロア62は、時計回りに転動する。
【0151】
ここで、遠心子4は、第1ガイド面241上を直接転動するのではなく、第1転動部材5を介して第1ガイド面241上を転動している。このため、第1領域611の曲率半径を第2領域612の曲率半径と同じにすると、第1接線と第2接線とのなす角度が適切な範囲から外れてしまうおそれがある。この結果、カムフォロア62を当接面30とカム面61とでしっかりと挟み込むことができないという問題が生じるおそれがある。なお、第1接線とは、カムフォロア62とカム面61との接触点における接線を意味し、第2接線とは、カムフォロア62と当接面30との接触点における接線を意味する。
【0152】
これに対して、本変形例では、第1領域611が第2領域612と異なる曲率半径を有するため、具体的には、第1領域611の曲率半径を第2領域612の曲率半径よりも小さくしているため、第1接線と第2接線とがなす角度を適切な範囲内とし、カム面61と当接面30とによってカムフォロア62をしっかりと挟み込むことができる。
【0153】
また、本変形例では、第3領域301が第4領域302と異なる曲率半径を有するため、具体的には、第3領域301の曲率半径を第4領域302の曲率半径よりも大きくしているため、第1接線と第2接線とがなす角度を適切な範囲内とし、カム面61と当接面30とによってカムフォロア62をしっかりと挟み込むことができる。
【0154】
なお、
図18に示すように、第3領域301と第4領域302とが異なる曲面形状を有する一方で、第1領域611と第2領域612とは同じ曲面形状であってもよい。また、
図19に示すように、第1領域611と第2領域612とが異なる曲面形状を有する一方で、第3領域301と第4領域302とは同じ曲面形状であってもよい。
【0155】
<変形例6>
図20に示すように、ハブフランジ2が第3支持面26をさらに有しており、イナーシャリング3が第4支持面39をさらに有していてもよい。第3支持面26は径方向外側を向いており、第4支持面39は、径方向内側を向いている。第4支持面39は、第3支持面26に支持されるように構成されている。詳細には、第4支持面39は、摺動部材15を介して第3支持面26に支持されている。
【0156】
このように、第1支持面25及び第2支持面33だけでなく、第3支持面26及び第4支持面39を有している場合、イナーシャリング3の重心は、軸方向において、第2支持面33と第4支持面39との間に位置している。
【0157】
なお、本変形例では、ハブフランジ2は、本体部材28と、第1及び第2支持部材27a、27bを有している。本体部材28は、円板状であり、中央に貫通孔を有している。また、本体部材28は、外周部に、収容部24を有している。本体部材28は、例えば、出力ハブ14に取り付けられている。
【0158】
第1支持部材27a及び第2支持部材27bは、リベット102によって、本体部材28に取り付けられている。軸方向において、第1支持部材27aと第2支持部材27bとによって本体部材28を挟んでいる。
【0159】
第1支持部材27aは、取付部271と支持部272とを有する。取付部271は、円環状であり、リベット102によって、本体部材28に取り付けられている。支持部272は、円筒状であり、取付部271の外周端部から軸方向に延びている。支持部272は、本体部材28から離れる方向に延びている。支持部272の外周面は、第1支持面25を構成している。
【0160】
第2支持部材27bの構成は、第1支持部材27aの構成と実質的に同じであるため、詳細な説明を省略する。なお、第2支持部材27bの支持部の外周面は、第3支持面26を構成している。
【0161】
第1プレート3aは、第1円筒部32aが第1環状部31aの内周端部から軸方向の第1側に延びている。この第1円筒部32aの内周面が、第2支持面33を構成している。
また、第2プレート3bは、第2円筒部32bが第2環状部31bの内周端部から軸方向の第2側に延びている。この第2円筒部32bの内周面が、第4支持面39を構成している。
【符号の説明】
【0162】
2 :ハブフランジ
3 :イナーシャリング
4 :遠心子
5 :第1転動部材
6 :カム機構
10 :トルク変動抑制装置
15 :摺動部材
16 :スペーサ
24 :収容部
25 :第1支持面
26 :第3支持面
33 :第2支持面
36 :第2貫通孔
39 :第4支持面
41 :第1貫通孔
61 :カム面
62 :カムフォロア
100 :トルクコンバータ
141 :入力部材
142 :出力部材
241 :第1ガイド面
242 :第2ガイド面