(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】混練ロータ、混練機、ゴム材料の混練方法および混練ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 7/20 20060101AFI20240515BHJP
B29B 7/22 20060101ALI20240515BHJP
C23C 28/02 20060101ALI20240515BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20240515BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B29B7/20
B29B7/22
C23C28/02
C25D5/26 D
C25D5/26 Q
C25D7/00 A
(21)【出願番号】P 2021075811
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】小板橋 勤
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆一
(72)【発明者】
【氏名】杉田 康幸
(72)【発明者】
【氏名】村上 将雄
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-45093(JP,A)
【文献】特開平04-014410(JP,A)
【文献】特開2017-110239(JP,A)
【文献】特開昭55-077599(JP,A)
【文献】特開2006-144923(JP,A)
【文献】特開2008-189516(JP,A)
【文献】特開2014-001702(JP,A)
【文献】特開2018-099785(JP,A)
【文献】特開昭63-221025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00
C25D 5/26
C25D 7/00
C23C 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練機用の混練ロータであって、
前記混練ロータの基材は、炭素鋼または機械構造用合金鋼からなり、
前記基材の表面の少なくとも一部にオーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層を有し、
前記肉盛り層の表面の少なくとも一部に硬質クロムめっき層を有する、混練ロータ。
【請求項2】
前記混練ロータが混練翼を有し、
前記混練翼の少なくともチップ部にステライト(登録商標)からなる肉盛り層を有し、
前記チップ部を除く部分に前記オーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層を有する、請求項1に記載の混練ロータ。
【請求項3】
前記硬質クロムめっき層は、厚さ20μm以上、ビッカース硬さHv750以上である、請求項1または請求項2に記載の混練ロータ。
【請求項4】
前記混練ロータは、内部に冷却液が流通可能な流路を有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の混練ロータ。
【請求項5】
ゴム材料を混練する混練機であって、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の混練ロータを備える混練機。
【請求項6】
前記混練ロータが噛合型ロータである請求項5に記載の混練機。
【請求項7】
前記混練ロータが接線型ロータである請求項5に記載の混練機。
【請求項8】
請求項4に記載の混練ロータを用いたゴム材料の混練方法であって、
前記ゴム材料は、シリカとシランカップリング剤とを含み、
前記流路に冷却液を流通させながら前記ゴム材料を混練する、ゴム材料の混練方法。
【請求項9】
混練機用の混練ロータの製造方法であって、
炭素鋼または機械構造用合金鋼からなる基材の表面に少なくとも一部にオーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層を溶接または溶着により形成し、
前記肉盛り層の表面の少なくとも一部に、電気めっき法により厚さ20μm以上、ビッカース硬さがHv750以上の硬質クロムめっき層を形成する、混練ロータの製造方法。
【請求項10】
前記混練ロータが混練翼を有し、
前記混練翼の少なくともチップ部の表面にステライト(登録商標)からなる肉盛り層を溶接または溶着により形成し、
前記チップ部を除く部分に前記オーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層を溶接または溶着により形成し、
前記オーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層または前記ステライトからなる肉盛り層の少なくとも一部に前記硬質クロムめっき層を形成する、請求項9に記載の混練ロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料の混練用の混練ロータ、これを備える混練機、この混練機を用いたゴム材料の混練方法、および混練ロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム材料の混練機に用いられる混練ロータには、混練の際に粉体等の混練に比べて大きな負荷がかかるとともに、ゴム材料により混練ロータの表面が摩耗する。そのため、混練ロータには、例えば、軸部と混練翼とを有する基材に十分な強度を有する炭素鋼を用い、基材の表面に耐摩耗性を有する硬質クロムめっき層を形成したものが用いられる。例えば特許文献1には、ゴム混練機用ロータのメッキ施工方法が開示されている。
【0003】
また、近年、シリカを大量に含むゴム材料の混練が要求されている。このようなゴム材料を混練した場合、シリカに含まれる水分によって酸性水溶液がゴム材料中に発生することがある。硬質クロムめっき層は多孔質であるため、混練時に硬質クロムめっき層に酸性水溶液が浸透する。基材を構成する炭素鋼は耐食性に劣ることから、硬質クロムめっき層に浸透した酸性水溶液が基材を腐食させるおそれがある。
【0004】
そのため、基材の腐食を抑制する目的で、混練ロータの基材の表面に耐腐食性に優れたステライト(登録商標)を肉盛り溶接し、このステライトの表面に硬質クロムめっき層を形成することが、従来から行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ステライトはコバルトを主成分とする高価な合金であり、また、コバルトは人体の健康に好ましくないという問題がある。そのため、ステライトの使用量を低減したいという要求がある。
【0007】
本発明は、このような問題および要求に鑑みてなされたものであり、耐食性および耐摩耗性に優れるとともに、安価かつ安全な混練ロータを提供することを目的とする。また、この混練ロータを備える混練機、この混練機を用いたゴム材料の混練方法、およびこの混練ロータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討した結果、上記目的は、以下の発明により達成されることを見出した。
【0009】
本発明の一局面に係る混練ロータは、混練機用の混練ロータであって、前記混練ロータの基材は、炭素鋼または機械構造用合金鋼からなり、前記基材の表面の少なくとも一部にオーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層を有し、前記肉盛り層の表面の少なくとも一部に硬質クロムめっき層を有する。
【0010】
また、本発明の他の局面に係る混練機は、ゴム材料を混練する混練機であって、上記の混練ロータを備える。
【0011】
また、本発明の他の局面に係るゴム材料の混練方法は、上記の混練ロータを用いたゴム材料の混練方法であって、前記ゴム材料は、シリカとシランカップリング剤とを含み、前記流路に冷却液を流通させながら前記ゴム材料を混練する方法である。
【0012】
また、本発明の他の局面に係る混練ロータの製造方法は、混練機用の混練ロータの製造方法であって、炭素鋼または機械構造用合金鋼からなる基材の表面に少なくとも一部にオーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層を溶接または溶着により形成し、前記肉盛り層の表面の少なくとも一部に、電気めっき法により厚さ20μm以上、ビッカース硬さがHv750以上の硬質クロムめっき層を形成する方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐食性および耐摩耗性に優れるとともに、安価かつ安全な混練ロータを提供することができる。また、この混練ロータを備える混練機、この混練機を用いたゴム材料の混練方法、およびこの混練ロータの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る混練ロータの部分断面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る混練機の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る混練ロータの変型例の部分断面図である。
【
図4】
図4は、耐食試験に用いた装置の模式図である。
【
図5】
図5は、耐摩耗試験に用いた装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0016】
〈第1の実施形態〉
〈混練ロータ〉
図1は、本実施形態に係る混練ロータの部分断面図である。混練ロータ1は、混練機用の混練ロータであって、
図1の断面部分に示すように、基材2と、基材2の表面の少なくとも一部に設けられた肉盛り層3と、肉盛り層3の表面の少なくとも一部に設けられた硬質クロムめっき層4と、を有する。
【0017】
基材2は、炭素鋼または機械構造用合金鋼からなり、軸部1aおよび混練翼1bを構成する部分を有する。基材2を構成する炭素鋼には、一般的な炭素鋼を使用できる。
【0018】
炭素鋼および機械構造用合金鋼は、ステンレス鋼等の他の金属材料に比べて安価であり、かつ強度および靭性に優れている。ゴム材料の混練時には、粉体等の混練に比べて混練ロータ1に大きな力が加わる。しかし、基材2として炭素鋼を使用することにより、混練ロータ1のコストを抑制するとともに、ゴム材料の混練時に混練ロータ1が変形したり破損したりすることを抑制できる。
【0019】
一般的な炭素鋼としては、例えばJIS G 4051:2016で規定されるS10C~S58Cを使用することができる。具体的には、質量%で、C(炭素)含有量が0.08~0.61%、Si(ケイ素)含有量が0.15~0.35%、Mn(マンガン)含有量が0.30~0.60%(C含有量が0.08~0.28%の場合)または0.60~0.90%(C含有量が0.25~0.61%の場合)、P(リン)含有量が0.030%以下、S(硫黄)含有量が0.035%以下、Ni(ニッケル)含有量が0.20%以下、Cr(クロム)含有量が0.20%以下、Cu(銅)含有量が0.30%以下、NiとCrの合計含有量が0.35%以下であり、残部がFe(鉄)および不可避的不純物からなるものを使用することができる。JIS G 4051:2016で規定される鋼種のうち、S45CまたはS35Cが好ましい。
【0020】
本実施形態において、機械構造用合金鋼としては、JIS G 4053:2016で規定される成分組成の合金鋼を使用することができる。具体的には、質量%で、C含有量が0.13~0.48%、Si含有量が0.15~0.35%、Mn含有量が0.30~1.00%、P含有量が0.030%以下、S含有量が0.030%以下、Ni含有量が0.25%以下、Cr含有量が0.90%~1.50%、Mo(モリブデン)含有量が0.15~0.30%、Cu含有量が0.30%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる合金鋼(クロムモリブデン鋼)を使用することができ、例えばSCM415~SCM445を使用することができる。また、質量%で、C含有量が0.12~0.50%、Si含有量が0.15~0.35%、Mn含有量が0.30~1.20%、P含有量が0.030%以下、S含有量が0.030%以下、Ni含有量が0.40~4.50%、Cr含有量が0.40%~3.50%、Mo含有量が0.15~0.70%、Cu含有量が0.30%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる合金鋼(ニッケルクロムモリブデン鋼)を使用することができ、例えばSNCM220~SNCM815を使用することができる。JIS G 4053:2016で規定される鋼種のうち、SCM435またはSCM440が好ましい。
【0021】
肉盛り層3は、基材2の表面の少なくとも一部に設けられている。肉盛り層3は、基材2の表面のうち、ゴム原料の混練時に混練ロータ1がゴム原料に触れる部分に設けられていればよく、混練ロータ1の軸受けに接する部分には設けられていなくてもよい。なお、肉盛り層は、基材2の表面の全体に設けられていてもよい。
【0022】
肉盛り層3は、例えば溶接または溶着により形成することができる。肉盛り層3の厚さは特に規定しないが、例えば1~10mmとすることができ、3~5mmが好ましい。
【0023】
肉盛り層3は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる。これまで、オーステナイト系ステンレス鋼は炭素鋼等に比べて高価であるため、オーステナイト系ステンレス鋼を混練ロータに使用することは、一般には行われていなかった。オーステナイト系ステンレス鋼は炭素鋼に比べて耐食性に優れているため、肉盛り層3を設けることにより、混練ロータ1に耐食性を付与することができる。これにより、ゴム材料の混練時に、多孔質である硬質クロムめっき層4にゴム材料から発生した酸洗水溶液が浸透しても、肉盛り層3の腐食を抑制することができる。
【0024】
オーステナイト系ステンレス鋼は、金属組織が常温でオーステナイト相である鋼材であればよく、例えば日本産業規格(JIS)でオーステナイト系ステンレス鋼に分類されるSUS304、SUS309S等を使用することができる。また、本発明者らが開発した、表1に示す成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼(以下「鋼種a」ともいう。)は、耐食性だけでなく耐摩耗性にも優れており、好ましい。この鋼種aのオーステナイト系ステンレス鋼を使用した場合、混練ロータ1の長期の使用により硬質クロムめっき層4が剥がれた場合であっても、混練ロータ1の耐摩耗性を維持することができる。
【0025】
【0026】
硬質クロムめっき層4は、肉盛り層3の表面の少なくとも一部に設けられている。硬質クロムめっき層4は、肉盛り層3の表面全体に設けることが最も好ましく、基材2の表面にも設けてもよい。硬質クロムめっき層4により、混練ロータ1に耐摩耗性を付与することができる。
【0027】
硬質クロムめっき層4は、組成、厚さおよび形成方法等、特に限定されるものではない。硬質クロムめっき層4は、例えば電気めっき法により形成することができる。硬質クロムめっき層4の厚さは、0.1mm以上が好ましい。また、硬質クロムめっき層4の厚さは、0.3mm以下が好ましい。硬質クロムめっき層4のビッカース硬さは、Hv600以上が好ましく、Hv750以上がより好ましい。また、硬質クロムめっき層4のビッカース硬さは、Hv1500以下が好ましく、Hv1200以下がより好ましい。
【0028】
混練ロータ1は、例えば
図1に示すように、軸部1aと、軸部1aの周面から軸部1aの径方向に突出するように設けられた混練翼1bとを有するものとすることができる。本実施形態では、混練翼1bは、軸部1aの周面に3つ設けられている。この場合、肉盛り層3は、チップ部1cを含む混練翼1bの表面と、軸部1aの周面のうち混練翼1bが設けられている部分の周面と、に設けられていることが好ましい。
【0029】
混練ロータ1は、
図1に示すように、内部に冷却液が流通可能な流路5を有する。流路5は、軸部1aを軸方向に貫通するように設けられている。流路5を設けることにより、混練中に混練ロータ1を冷却することかできるため、流路5を設けることが好ましいが、流路5は設けなくてもよい。
【0030】
〈混練機〉
図2は、本実施形態に係る混練機の断面図である。混練機80は、ゴム材料を混練する密閉式の混練機であり、二軸のバッチ式である。混練機80は、ケーシング70、一対の混練ロータ対10、および材料供給筒77を有する。一対の混練ロータ対10は、2本の上述の混練ロータ1からなる。
【0031】
ケーシング70は、混練機80の本体部であり、金属材料からなる。ケーシング70は、金属製の支持台70aによって支持されている。ケーシング70の内部には、2つの混練室70sが設けられている。それぞれの混練室70sは、互いに平行に延びる円筒状に形成されている。
【0032】
ケーシング70の上部には、混練対象であるゴム材料を供給するための材料供給口71が設けられ、材料供給筒77と接続されている。ケーシング70の下部には、混練された材料を排出するための材料排出口72が設けられている。ケーシング70の内部では、材料供給口71、二つの混練室70s、および材料排出口72が、互いに通じている。
【0033】
2つの混練室70sのそれぞれの内部には、混練ロータ1が1本ずつ配置されている。混練ロータ1は、それぞれ図示しないモータから動力を与えられ、それぞれ軸部1aを中心として、互いに逆方向に回転する(
図2中の矢印F、F′方向)。混練ロータ1の回転方向は、材料供給筒77から混練室70sに供給されたゴム材料を材料排出口72に排出する方向である。
【0034】
材料供給筒77は、ケーシング70の上部に鉛直方向に延びており、材料供給筒77の内部空間は材料供給口71に連続している。混練機80は、材料供給筒77の上部に、ゴム材料を外部から供給するためのホッパー76が設けられている。
【0035】
本実施形態に係る混練機80は、耐食性および耐摩耗性に優れた混練ロータ1を備えるため、長期間にわたって安定してゴム材料の混練を行うことができる。
【0036】
本実施形態に係る混練機80は、
図1に示す混練ロータ1を2本備え、それぞれ混練翼1bが互いに噛み合うように隣接して配置された噛合型ロータであるが、混練翼1bのチップ部1cが互いに接するように配置された接線型ロータとしてもよい。
図1および
図2に示す混練ロータ1において、混練翼1bのチップ部1cとは、外径の平坦部(混練翼1bの外周面における回転軸を中心とした同じ半径の円弧を構成する部分)をいう。本実施形態に係る混練機80は、噛合型ロータおよび接線型ロータのいずれも使用できるため、様々なゴム材料の混練に対応することができる。
【0037】
また、本実施形態に係る混練機80は、バッチ式の混練機であるが、本実施形態に係る混練ロータ1は、連続式の混練機に使用してもよい。
【0038】
〈ゴム材料の混練方法の混練方法〉
本実施形態に係る混練ロータを用いたゴム材料の混練方法について説明する。本実施形態に係る混練方法では、内部に冷却液が流通可能な流路5を有する混練ロータ1を用いる。混練ロータ1は、噛合型ロータであっても、接線型ロータであってもよい。
【0039】
本実施形態に係るゴム材料の混練方法では、シランとシランカップリング剤を含むゴム材料を用い、流路5に冷却液を流通させながらこのゴム材料を混練する。
【0040】
より具体的には、流路5を有する混練ロータ1を備える混練機80を用い、混練機80のホッパー76からシランとシランカップリング剤を含むゴム材料を供給する。供給されたゴム材料は、材料供給筒77を経て材料供給口71から混練室70s内に供給され、流路5に冷却液を流通した状態で回転する混練ロータ1によって混練される。混練ロータ1で混練されたゴム材料は、材料排出口72から下方に排出される。
【0041】
本実施形態に係る混練方法では、シリカを含むゴム材料を混練するため、シリカに含まれる水分によって酸性水溶液がゴム材料中に発生することがある。しかし、この混練方法では、混練ロータ1を用いるため、クロムめっき層4にこの酸洗水溶液が浸透しても、肉盛り層3の腐食を抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態に係る混練方法では、流路5を流通する冷却液により混練ロータ1を冷却しながら混練を行うことができる。そのため、混練時におけるゴム材料および混練ロータ1の過熱による劣化を抑制することができる。過熱により混練ロータ1に劣化が生じる原因としては、混練ロータ1を構成する基材2、肉盛り層3および硬質クロムめっき層4の熱膨張率の違いにより、過熱状態ではこれら各部の間にひずみが生じることが挙げられる。
【0043】
以上のことから、本実施形態に係る混練方法によれば、混練ロータ1の劣化を抑制し、長期間にわたって安定してゴム材料の混練を行うことができる。
【0044】
〈混練ロータの製造方法〉
本実施形態に係る混練機80用の混練ロータ1の製造方法について
図1を用いて説明する。
【0045】
本実施形態に係る混練ロータ1の製造方法は、
図1に示すように、炭素鋼または機械構造用合金鋼からなる基材2の表面に少なくとも一部にオーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層3を溶接または溶着により形成し、肉盛り層3の表面の少なくとも一部に、電気めっき法により厚さ20μm以上、ビッカース硬さがHv750以上の硬質クロムめっき層4を形成する方法である。この方法によれば、耐食性および耐摩耗性に優れた混練ロータ1を得ることができる。
【0046】
〈第2の実施形態〉
〈混練ロータ〉
次に本発明の第2の実施形態について説明する。
図3は、本実施形態に係る混練ロータの部分断面図である。
図3では、
図1に記載の構成要素と実質的に同一の構成要素には同一の符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0047】
本実施形態に係る混練ロータ1は、第1の実施形態に係る混練ロータと肉盛り層3の構成が異なり、この点以外は第1の実施形態に係る混練ロータ1と同様の構成である。本実施形態では、全体がオーステナイト系ステンレス鋼からなる第1の実施形態に係る混練ロータの肉盛り層3に代えて、肉盛り層3が、基材2の表面のうち混練翼1bの少なくともチップ部1cにステライトからなる第1の肉盛り層3aを有し、チップ部1cを除く部分にオーステナイト系ステンレス鋼からなる第2の肉盛り層3bを有するものである。
【0048】
本実施形態に係る第1の肉盛り層3aと第2の肉盛り層3bとを合わせた肉盛り層3が設けられている基材2の表面の領域は、第1の実施形態に係る肉盛り層3と同様である。
【0049】
ステライトは、耐食性に優れているため、ステライトからなる第1の肉盛り層3aを設けることにより、混練ロータ1の耐食性をより向上させることができる。
【0050】
第1の肉盛り層3aは、混練翼1bのチップ部1c以外に混練翼1bの側面1dにも設けられていることが好ましく、混練ロータ1が噛合型ロータである場合には、軸部1aの周面のうち混練翼1bが設けられている部分にも設けられていることがより好ましい。
【0051】
また、本実施形態に係る混練ロータ1では、肉盛り層3の全体をステライトとした場合に比べて、ステライトの使用量を低減することができる。オーステナイト系ステンレス鋼はステライトに比べて安価であるため、本実施形態に係る混練ロータ1は、肉盛り層3の全体をステライトからなるものとした場合に比べて、安価であり、より安全である。
【0052】
図3に示す本実施形態に係る混練ロータ3も、内部に冷却液が流通可能な流路5を有するが、第1の実施形態に係る混練ロータと同様に、流路5は設けなくてもよい。また、本実施形態に係る混練ロータ3も、上述の第1の実施形態に係る混練機に適用することができる。
【0053】
〈混練ロータの製造方法〉
本実施形態に係る混練ロータの製造方法は、第1の実施形態に係る混練ロータの製造方法において、
図3に示すように、混練ロータ1の混練翼1bの少なくともチップ部1cの表面にステライトからなる第1の肉盛り層3aを溶接または溶着により形成し、チップ部を除く部分にオーステナイト系ステンレス鋼からなる第2の肉盛り層3bを溶接または溶着により形成し、第2の肉盛り層3bまたは第1の肉盛り層3aの少なくとも一部に上記硬質クロムめっき層4を形成する。この方法によれば、より耐食性に優れた混練ロータ1を得ることができる。
【0054】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下にまとめる。
【0055】
上述したように、本発明の一局面に係る混練ロータは、混練機用の混練ロータであって、前記混練ロータの基材は、炭素鋼または機械構造用合金鋼からなり、前記基材の表面の少なくとも一部にオーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層を有し、前記肉盛り層の表面の少なくとも一部に硬質クロムめっき層を有する。
【0056】
この構成によれば、耐食性および耐摩耗性に優れるとともに、安価かつ安全な混練ロータを得ることができる。
【0057】
上記構成の混練ロータにおいて、前記混練ロータが混練翼を有し、前記混練翼の少なくともチップ部にステライト(登録商標)からなる肉盛り層を有し、前記チップ部を除く部分に前記オーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層を有するものとしてもよい。
【0058】
この構成によれば、より耐食性に優れた混練ロータを得ることができる。
【0059】
上記構成の混練ロータにおいて、前記硬質クロムめっき層は、厚さ20μm以上、ビッカース硬さHv750以上であってもよい。
【0060】
この構成によれば、より耐摩耗性に優れた混練ロータを得ることができる。
【0061】
上記構成の混練ロータは、内部に冷却液が流通可能な流路を有してもよい。
【0062】
この構成によれば、混練中に混練ロータを冷却することができる。
【0063】
また、本発明の他の局面に係る混練機は、ゴム材料を混練する混練機であって、上記の混練ロータを備える。
【0064】
この構成によれば、混練機は、耐食性および耐摩耗性に優れた上記の混練ロータを備えるため、長期間にわたって安定してゴム材料の混練を行うことができる。
【0065】
上記構成の混練機において、前記混練ロータが噛合型ロータであってもよく、接線型ロータであってもよい。
【0066】
この構成によれば、様々なゴム材料の混練に対応可能な混練機を得ることができる。
【0067】
また、本発明の他の局面に係るゴム材料の混練方法は、上記の混練ロータを用いたゴム材料の混練方法であって、前記ゴム材料は、シリカとシランカップリング剤とを含み、前記流路に冷却液を流通させながら前記ゴム材料を混練する方法である。
【0068】
この構成によれば、混練ロータの過熱による劣化を抑制することができ、長期間にわたって安定してゴム材料の混練を行うことができる。
【0069】
また、本発明の他の局面に係る混練ロータの製造方法は、混練機用の混練ロータの製造方法であって、炭素鋼または機械構造用合金鋼からなる基材の表面に少なくとも一部にオーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層を溶接または溶着により形成し、前記肉盛り層の表面の少なくとも一部に、電気めっき法により厚さ20μm以上、ビッカース硬さがHv750以上の硬質クロムめっき層を形成する方法である。
【0070】
この構成によれば、耐食性および耐摩耗性に優れた混練ロータを得ることができる。
【0071】
上記構成の混練ロータの製造方法において、前記混練ロータが混練翼を有し、前記混練翼の少なくともチップ部の表面にステライト(登録商標)からなる肉盛り層を溶接または溶着により形成し、前記チップ部を除く部分に前記オーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層を溶接または溶着により形成し、前記オーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層または前記ステライトからなる肉盛り層の少なくとも一部に前記硬質クロムめっき層を形成してもよい。
【0072】
この構成によれば、より耐食性に優れた混練ロータを得ることができる。
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含有される。
【実施例】
【0074】
実施例では、表2に示す化学成分組成(No.1~4)の鋼材および金属材料を用いて耐食試験および耐摩耗試験を行った。No.1およびNo.2の鋼材は、オーステナイト系ステンレス鋼であり、上述の表1に示す鋼種aに該当する本発明例である。No.3の鋼材はマルテンサイト系ステンレス鋼であり、本発明に対する比較例である。No.4の金属材料はコバルトを主成分とする合金(ステライト(登録商標))であり、本発明例である。表1に示す「0.00」は測定限界未満であったことを示す。表1には、各鋼材の硬度、引張強さ、伸びの値も記載した。なお、No.1の鋼材の硬度のうちHRC硬度の欄に記載の*を付した値はHRB硬度である。
【0075】
【0076】
〈耐食試験〉
図4は、耐食試験に用いた装置の模式図である。
図4に示すように、耐食試験装置50は、温水51を所定の温度に保った状態で収容する恒温水槽52と、腐食液53を収容する容器54と、を備える。容器54は温水51に浸漬されており、腐食液53は一定温度に保たれている。耐食試験では、ネット55に包まれた試料56を、吊り具57で吊り下げ、容器54に触れない状態で腐食液に所定時間浸漬した。試験条件は以下の通りとした。
【0077】
腐食液:HClとH2SO4の混合液(水素イオン比1:1)
腐食液の水素イオン指数:pH2.0
腐食液温度:80℃
浸漬時間:24時間
耐食試験の結果を表3に示す。
【0078】
【0079】
表3に示すように、本発明例のNo.1、2の鋼材およびNo.4の金属材料は、いずれも腐食速度が0.015mm/y未満と良好な耐食性を有していた。比較例のNo.3の鋼材では、腐食速度が1mm/yよりも大きく、耐食性に劣っていた。
【0080】
〈耐摩耗試験〉
図5は、耐摩耗試験に用いた装置の模式図である。
図5に示すように、耐摩耗試験装置60は、直径220mmのゴムホイール61と、試験砂63をゴムホイール61と試験片65との間に供給するホッパー62と、を備える。試験片65は、回転するゴムホイール61の周面の略鉛直部分に押し当てられ、試験砂63はゴムホイール61と試験片65の接触部分の上方から供給される。
【0081】
耐摩耗試験(土砂摩耗試験)は、ASTM G65-00e1に準拠して行った。試験条件は以下の通りとした。
【0082】
試験力(試験片をゴムホイールに押し付ける力):130N(13.3kgf)
ゴムホイールの回転速度:145rpm
試験砂流量:350g/min
試験砂:珪砂6号
上記試験条件で、試験砂を供給しながら、回転するゴムホイールに試験片を押し付け、ゴムホイールの回転数が2000回、4000回、6000回で試料の質量を測定し、初期状態での質量との差(摩耗減量)を算出した。耐摩耗試験は、No.1、3の鋼材およびNo.4の金属材料について行った。
【0083】
耐摩耗試験の結果を表4に示す。
【0084】
【0085】
表4に示すように、No.1の鋼材およびNo.3の鋼材は、いずれも回転数6000回での摩耗減量が5g以下と良好な耐摩耗性を有していた。No.4の金属材料は、回転数6000回での摩耗減量が5gよりも大きく、No.1の鋼材に比べて耐摩耗性に劣っていた。
【0086】
〈まとめ〉
以上の試験結果から、本発明例のNo.1、2のオーステナイト系ステンレス鋼およびNo.4のステライト(登録商標)は、いずれも同等の耐食性を有し、No.3のマルテンサイト系ステンレス鋼に比べて耐食性に優れていることがわかった。そのため、これらのオーステナイト系ステンレス鋼およびステライトを混練ロータの肉盛り層として使用し、肉盛り層の表面に硬質クロムめっき層を設けることにより、優れた耐食性および耐摩耗性を有する混練ロータを得ることができることがわかった。
【0087】
さらに、No.1のオーステナイト系ステンレス鋼は、No.4のステライト(登録商標)に比べて耐摩耗性に優れていることがわかった。そのため、鋼種aのオーステナイト系ステンレス鋼を混練ロータの肉盛り層として使用することにより、優れた耐食性を有し、かつ硬質クロムめっき層が剥がれた場合であっても耐摩耗性を維持することができる混練ロータを得ることができることがわかった。
【符号の説明】
【0088】
1 混練ロータ
1b 混練翼
2 基材
3 肉盛り層
3a 第1の肉盛り層(ステライトからなる肉盛り層)
3b 第2の肉盛り層(オーステナイト系ステンレス鋼からなる肉盛り層)
4 硬質クロムめっき層
5 流路
80 混練機