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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】シール部材
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3236 20160101AFI20240515BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240515BHJP
【FI】
F16J15/3236
F16J15/3232 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021095524
(22)【出願日】2021-06-08
(65)【公開番号】P2022187512
(43)【公開日】2022-12-20
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000158840
【氏名又は名称】鬼怒川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】青木 大貴
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-136858(JP,U)
【文献】特開2010-038328(JP,A)
【文献】特開2011-093423(JP,A)
【文献】実開昭60-019862(JP,U)
【文献】実開昭60-118067(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0237565(US,A1)
【文献】米国特許第05287951(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3232
F16J 15/3236
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンとシリンダとの間をシールするシール部材において、
上記ピストンに取り付けられる環状の基部と、上記基部の外周縁から突出して上記シリンダに接触するアウタリップと、上記基部の内周縁から突出して上記ピストンに接するインナリップと、を有し、
上記基部の外周面には、半球形状の複数の突起が当該基部の周方向に沿って形成されていることを特徴とするシール部材。
【請求項2】
ピストンとシリンダとの間をシールするシール部材において、
上記シリンダに取り付けられる環状の基部と、上記基部の外周縁から突出して上記シリンダに接するアウタリップと、上記基部の内周縁から突出して上記ピストンに接触するインナリップと、を有し、
上記基部の内周面には、半球形状の複数の突起が当該基部の周方向に沿って形成されていることを特徴とするシール部材。
【請求項3】
上記シール部材は、アウタリップの内側のつけ根部分が肉盛りされていることを特徴とする請求項1に記載のシール部材。
【請求項4】
上記シール部材は、インナリップの内側のつけ根部分が肉盛りされていることを特徴とする請求項2に記載のシール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ピストンに形成された溝に収容されたピストンカップにより、ピストンと当該ピストンが往復動可能に収容されるシリンダとの間をシールする構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-101349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような特許文献1においては、ピストンカップが収容される溝に液圧(圧力)が作用してピストンカップがピストン及びシリンダに押し付けられた際に、ピストンとシリンダとの間の隙間にピストンカップの一部が入り込み、削り取られて損傷してしまう虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のシール部材は、ピストンとシリンダとの間をシールするものであって、上記ピストンに取り付けられる環状の基部と、上記基部の外周縁から突出して上記シリンダに接触するアウタリップと、上記基部の内周縁から突出して上記ピストンに接するインナリップと、を有し、上記基部の外周面には、半球形状の複数の突起が当該基部の周方向に沿って形成されている。
【0006】
あるいは、本発明のシール部材は、ピストンとシリンダとの間をシールするものであって、上記シリンダに取り付けられる環状の基部と、上記基部の外周縁から突出して上記シリンダに接するアウタリップと、上記基部の内周縁から突出して上記ピストンに接触するインナリップと、を有し、上記基部の内周面には、半球形状の複数の突起が当該基部の周方向に沿って形成されている。
【0007】
上記シール部材は、複数の突起が基部の外周面に形成されている場合、アウタリップの内側のつけ根部分が肉盛りされていてもよい。
【0008】
上記シール部材は、複数の突起が基部の内周面に形成されている場合、インナリップの内側のつけ根部分が肉盛りされていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシール部材は、ピストンとシリンダとの間の隙間に基部の底部周縁が食い込むいわゆる「くわれ」を抑制することができ、この「くわれ」に起因する損傷によるシール不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施例のカップシールが適用されるホイールシリンダの要部の概略構成を示す説明図。
図2】第1実施例におけるカップシールの斜視図。
図3】第1実施例におけるカップシールの断面図。
図4】ホイールシリンダ内のカップシールの状態を模式的に示した説明図。
図5】ホイールシリンダ内の液圧とカップシールのくわれ量の相関を示す特性線図。
図6】比較例におけるカップシールの断面図。
図7】第2実施例におけるカップシールの断面図。
図8】第3実施例におけるカップシールの断面図。
図9】第4実施例のカップシールが適用されるホイールシリンダの要部の概略構成を示す説明図。
図10】第4実施例におけるカップシールの斜視図。
図11】第4実施例におけるカップシールの断面図。
図12】第5実施例におけるカップシールの断面図。
図13】第6実施例におけるカップシールの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、第1実施例のカップシール4が適用されるホイールシリンダ1の要部の概略構成を示す説明図である。換言すると、図1は、第1実施例のカップシール4が適用されるホイールシリンダ1の要部の断面を模式的に示した説明図である。
【0013】
ホイールシリンダ1は、例えば液圧を利用して制動力を発生させる液圧式ブレーキに用いられる。ホイールシリンダ1は、シリンダボディ2と、シリンダボディ2に直列に挿入される円柱形状のピストン3(3a、3b)と、ピストン3とシリンダボディ2の内周面2aとの間をシールするシール部材としての環状のカップシール4と、を有している。ホイールシリンダ1は、シリンダボディ2内の液圧室(油圧室)5に液圧供給路(油圧供給路)6を介して図示外のマスタシリンダから液圧が供給可能となっている。ここで、マスタシリンダからの液圧とは、換言すれば油圧である。
【0014】
液圧室5は、ピストン3a、3bに挟まれた空間であり、両側のピストン3a、3bに液圧を作用させている。ピストン3は、液圧室5からの液圧に応じて往復動(摺動)し、図示外のブレーキシューへ力を伝える。ホイールシリンダ1は、例えば、液圧室5の液圧が高くなると、ピストン3aは図1における右側へ、ピストン3bは図1における左側へ、それぞれ移動する。ピストン3a、3bは、それぞれ対応するブレーキシューに力を伝える。つまり、ホイールシリンダ1は、液圧室5の液圧が高くなると、ブレーキシューがドラムに押しつけられるように、ブレーキシューに対して力を伝える。
【0015】
ピストン3a、3bは、外周面12にカップシール4が収容される溝部7を有している。溝部7は、ピストン3の外周面12にピストン3周方向に沿って連続する無端の溝であって、ピストン3軸方向に沿った長さがカップシール4の長さ(カップシール4の軸方向長さ)よりも長くなるよう形成されている。
【0016】
第1実施例のカップシール4は、ピストン3の溝部7に取り付けられて外周側がシリンダボディ2の内周面2a(シリンダ壁面)に対して摺動するいわゆる外径摺動タイプである。カップシール4は、断面U字形状を呈し、U字の開口が液圧室5側を向いた状態で溝部7に取り付けられている。カップシール4は、例えばゴム材料からなり、ピストン3とシリンダボディ2の内周面2aとの間、すなわちピストン3とシリンダとの間をシールしている。
【0017】
図2及び図3は、第1実施例のカップシール4を示している。図2は、第1実施例におけるカップシール4の斜視図である。図3は、第1実施例におけるカップシール4のカップシール4軸方向に沿った断面図である。カップシール4軸方向は、例えばカップシール4が取り付けられるピストン3の軸方向と一致する方向である。
【0018】
カップシール4は、例えばEPDM等のソリッドゴムからなり、ピストン3とシリンダボディ2との間をシールして液圧室5内の作動流体のシリンダボディ2外への漏洩を防止するものである。つまり、カップシール4には、液圧室5の液圧が作用する。カップシール4は、例えばブレーキカップあるいはピストンカップとも呼ばれるものである。
【0019】
カップシール4は、環状で略矩形断面の基部8と、基部8の上面からカップシール4径方向の外側に向かって傾いて突出形成されたアウタリップ9と、基部8の上面からカップシール4径方向の内側に向かって傾いて突出形成されたインナリップ10と、を有している。
【0020】
アウタリップ9は、基部8の外周縁から突出してシリンダボディ2の内周面2aに摺動可能に接触する。インナリップ10は、基部8の内周縁から突出してピストン3の溝部7の底面7aに接触する。
【0021】
外径摺動タイプであるカップシール4は、インナリップ10がアウタリップ9に比べて基部8からの突出長さ(突出量)が大きく(長く)、かつインナリップ10がアウタリップ9に比べて薄肉となるよう形成されている。
【0022】
基部8は、カップシール4軸方向に沿った厚みが比較的厚肉となるよう形成されている。
【0023】
基部8は、カップシール4が取り付けられたピストン3をシリンダボディ2に組み付けた状態において、カップシール4径方向で外周側に位置する外周面8aがシリンダボディ2の内周面2aと対向し、カップシール4径方向で内周側に位置する内周面8bがピストン3に形成された溝部7の底面7aと対向している。
【0024】
そして、基部8の外周面8aには、外形が円形の複数の突起11が基部8周方向に沿って間隔を空けて一列に形成されている。突起11は、例えばドーム状(半球形状)を呈して外周面8aから突出している。
【0025】
ピストン3は、シリンダボディ2の内周面2aに対して摺動可能であり、ピストン3の最大外径はシリンダボディ2の内径よりも小さくなっている。そのため、液圧室5の液圧は、溝部7内のカップシール4に作用する。カップシール4は、液圧室5からの液圧を受けてアウタリップ9がシリンダボディ2に、インナリップ10がピストン3にそれぞれ押し付けられて、シリンダボディ2の内周面2aとピストン3との間をシールする。
【0026】
図4は、ホイールシリンダ1内のカップシール4の状態を模式的に示した説明図である。
【0027】
カップシール4には、図4に示すように、液圧室5の液圧が作用した際に、カップシール4の一部がシリンダボディ2の内周面2aとピストン3の外周面12との間に入り込むいわゆる「くわれ」と呼ばれる現象が生じる場合がある。詳述すると、外径摺動タイプのカップシール4は、液圧室5の液圧が作用した際に、基部8の底部外周縁がくわれ部15としてピストン3の外周面12とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に入り込む現象が生じる場合がある。なお、後述する内径摺動タイプのカップシール4の場合は、基部8の底部内周縁がくわれ部15としてピストン3の外周面12とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に入り込む現象が生じる場合がある。
【0028】
ここで、本明細書においては、カップシールのうちピストン3の外周面12とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に入り込んだ部分をカップシールのくわれ部15と定義する。また、本明細書においては、カップシール軸方向に沿ったくわれ部15の長さをくわれ量と定義する。
【0029】
図5は、ホイールシリンダ1内の液圧である液圧室5の液圧とカップシール4のくわれ量の相関を示した特性線図である。図5に実線で示す特性線Aは、上述した実施例のカップシール4のくわれ量の特性を示している。図5に破線で示す特性線Bは、比較例のカップシール21のくわれ量の特性を示している。
【0030】
カップシール4は、液圧室5の液圧が高くなるほど、液圧室5の反対方向に押し付けられることになる。そのため、くわれ量は、図5に示すように、液圧室5の液圧と比例関係となり、液圧が高くなるほど長く(大きく)なる。
【0031】
比較例のカップシール21は、図6に示すように上述した第1実施例のカップシール4と略同一構成となっており、突起11の有無のみが相違点となっている。つまり、比較例のカップシール21は、上述した実施例のカップシール4から突起11を取り除いた形状となっている。なお、図6に示す比較例のカップシール21において、第1実施例のカップシール4と同一の構成要素には、同一の符号を付し重複する説明を省略する。
【0032】
上述した第1実施例のカップシール4は、液圧が作用した際に突起11がストッパの役割を果たして基部8の底部外周縁がピストン3とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に入り込むのを抑制する。換言すると、カップシール4は、基部8の外周面8aに突起11が設けられているので、液圧が作用した際に基部8の底部外周縁をピストン3とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に押し付ける力を緩和する。
【0033】
そのため、第1実施例のカップシール4は、図5に示すように、比較例のカップシール21に比べてくわれ量を抑制することができる。
【0034】
これによって、第1実施例のカップシール4は、ピストン3とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に基部8の底部外周縁が食い込む(入り込む)いわゆる「くわれ」を抑制することができ、この「くわれ」に起因する損傷によるシール不良を抑制することができる。すなわち、第1実施例のカップシール4は、液圧が作用した際に、基部8の底部外周縁がピストン3とシリンダとの間の隙間に入り込み(食い込み)にくくなり、基部8の底部外周縁が損傷しにくくなってシール性能の悪化を抑制することができる。
【0035】
カップシール4は、基部8の外周面8aに設けられた突起11が周方向に連続したものではないので、シリンダボディ2の内周面2aに対する摺動性の低下を抑制しつつ、基部8の底部外周縁がピストン3とシリンダとの間の隙間に入り込み(食い込み)にくくすることができる。
【0036】
以下、本発明の他の実施例について説明する。なお、上述した第1実施例のカップシール4と同一の構成要素には、同一の符号を付し重複する説明を省略する。
【0037】
図7を用いて本発明の第2実施例を説明する。図7は、第2実施例のカップシール22のカップシール22軸方向に沿った断面図である。
【0038】
第2実施例のカップシール22は、上述した第1実施例のカップシール4と略同一構成となっているが、アウタリップ9の内側のつけ根部分が階段状に肉盛りされて膨出部23となっている。つまり、第2実施例のカップシール22は、アウタリップ9の内側のつけ根部分に中実の膨出部23が突出するよう形成されている。第2実施例のカップシール22は、膨出部23によりアウタリップ9のつけ根部分がアウタリップ9の先端側に比べて厚肉となっている。
【0039】
このような第2実施例のカップシール22は、上述した第1実施例のカップシール4と略同様の作用効果を奏することができる。
【0040】
また第2実施例のカップシール22は、膨出部23によりアウタリップ9の剛性が高くなり、アウタリップ9が内側へ倒れ込みにくくなる。これによって、第2実施例のカップシール22は、基部8の底部外周縁がアウタリップ9の内側への倒れ込みにより先細りするように変形しにくくなり、基部8の底部外周縁がピストン3とシリンダとの間の隙間に一層入り込み(食い込み)にくくなる。つまり、第2実施例のカップシール22は、膨出部23を設けたことによって、ピストン3とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に基部8の底部外周縁が一層入り込み(食い込み)にくくなり、シール性能の悪化をより一層抑制することができる。
【0041】
図8を用いて本発明の第3実施例を説明する。図8は、第3実施例のカップシール24のカップシール24軸方向に沿った断面図である。
【0042】
第3実施例のカップシール24は、上述した第1実施例のカップシール4と略同一構成となっているが、アウタリップ9の内側のつけ根部分が曲率を有するように肉盛りされて膨出部25となっている。つまり、第3実施例のカップシール24は、アウタリップ9の内側のつけ根部分に中実の膨出部25が突出するよう形成されている。第3実施例のカップシール24は、膨出部25によりアウタリップ9のつけ根部分がアウタリップ9の先端側に比べて厚肉となっている。
【0043】
このような第3実施例のカップシール24は、上述した第1実施例のカップシール4と略同様の作用効果を奏することができる。
【0044】
また第3実施例のカップシール24は、膨出部25によりアウタリップ9の剛性が高くなり、アウタリップ9が内側へ倒れ込みにくくなる。これによって、第3実施例のカップシール24は、基部8の底部外周縁がアウタリップ9の内側への倒れ込みにより先細りするように変形しにくくなり、基部8の底部外周縁がピストン3とシリンダとの間の隙間に一層入り込み(食い込み)にくくなる。つまり、第3実施例のカップシール24は、上述した第2実施例のカップシール22と同様に、膨出部25を設けたことによって、ピストン3とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に基部8の底部外周縁が一層入り込み(食い込み)にくくなり、シール性能の悪化をより一層抑制することができる。
【0045】
図9図11を用いて第4実施例のカップシール30について説明する。図9は、第4実施例のカップシール30が適用されるホイールシリンダ31の要部の概略構成を示す説明図である。換言すると、図9は、第4実施例のカップシール30が適用されるホイールシリンダ31の要部の断面を模式的に示した説明図である。
【0046】
第4実施例のカップシール30は、上述した第1実施例のカップシール4と略同一構成となっているが、シリンダボディ2の内周面2aに形成された溝部32に取り付けられてピストン3の外周面12に対して摺動するいわゆる内径摺動タイプである。
【0047】
ホイールシリンダ31は、第1実施例のカップシール4が適用されるホイールシリンダ1と略同一構成となっているが、第4実施例のカップシール30がピストン3ではなくシリンダボディ2の溝部32に取り付けられている。従って、ピストン3には、カップシール30を取り付けるための溝部7が形成されていない。
【0048】
第4実施例のカップシール30は、上述した第1実施例のカップシール4と略同一構成となっており、環状で略矩形断面の基部8と、基部8の上面からカップシール30径方向の外側に向かって傾いて突出形成されたアウタリップ9と、基部8の上面からカップシール30径方向の内側に向かって傾いて突出形成されたインナリップ10と、を有している。
【0049】
アウタリップ9は、基部8の外周縁から突出してシリンダボディ2の溝部32の底面32aに接触する。インナリップ10は、基部8の内周縁から突出してピストン3の外周面12に摺動可能に接触する。
【0050】
内径摺動タイプであるカップシール30は、アウタリップ9がインナリップ10に比べて基部8からの突出長さ(突出量)が大きく(長く)、かつアウタリップ9がインナリップ10に比べて薄肉となるよう形成されている。
【0051】
基部8は、カップシール30軸方向に沿った厚みが比較的厚肉となるよう形成されている。
【0052】
基部8は、ピストン3をシリンダボディ2に組み付けた状態において、カップシール30径方向で外周側に位置する外周面8aが溝部32の底面32aと対向し、カップシール30径方向で内周側に位置する内周面8bがピストン3の外周面12と対向している。
【0053】
そして、第4実施例のカップシール30は、基部8の内周面8bに、外形が円形の複数の突起11が基部8周方向に沿って間隔を空けて一列に形成されている。突起11は、例えばドーム状(半球形状)を呈して内周面8bから突出している。
【0054】
第4実施例のカップシール30は、液圧が作用した際に突起11がストッパの役割を果たして基部8の底部内周縁がピストン3とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に入り込むのを抑制する。換言すると、カップシール30は、基部8の内周面8bに突起11が設けられているので、液圧が作用した際に基部8の底部内周縁をピストン3とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に押し付ける力を緩和する。
【0055】
このような第4実施例のカップシール30は、上述した第1実施例のカップシール4と略同様の作用効果を奏することができる。
【0056】
すなわち、第4実施例のカップシール30は、ピストン3とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に基部8の底部内周縁が食い込む(入り込む)いわゆる「くわれ」を抑制することができ、この「くわれ」に起因する損傷によるシール不良を抑制することができる。つまり、第4実施例のカップシール30は、液圧が作用した際に、基部8の底部内周縁がピストン3とシリンダとの間の隙間に入り込み(食い込み)にくくなり、基部8の底部内周縁が損傷しにくくなってシール性能の悪化を抑制することができる。
【0057】
第4実施例のカップシール30は、基部8の内周面8bに設けられた突起11が周方向に連続したものではないので、ピストン3の外周面12に対する摺動性の低下を抑制しつつ、基部8の底部内周縁がピストン3とシリンダとの間の隙間に入り込み(食い込み)にくくすることができる。
【0058】
図12を用いて本発明の第5実施例を説明する。図12は、第5実施例のカップシール35のカップシール35軸方向に沿った断面図である。
【0059】
第5実施例のカップシール35は、上述した第4実施例のカップシール30と略同一構成となっているが、インナリップ10の内側のつけ根部分が階段状に肉盛りされて膨出部36となっている。つまり、第5実施例のカップシール35は、インナリップ10の内側のつけ根部分に中実の膨出部36が突出するよう形成されている。第5実施例のカップシール35は、膨出部36によりインナリップ10のつけ根部分がインナリップ10の先端側に比べて厚肉となっている。
【0060】
このような第5実施例のカップシール35は、上述した第4実施例のカップシール30と略同様の作用効果を奏することができる。
【0061】
また第5実施例のカップシール35は、膨出部36によりインナリップ10の剛性が高くなり、インナリップ10が内側へ倒れ込みにくくなる。これによって、第5実施例のカップシール35は、基部8の底部内周縁がアウタリップ9の内側への倒れ込みにより先細りするように変形しにくくなり、基部8の底部内周縁がピストン3とシリンダとの間の隙間に一層入り込み(食い込み)にくくなる。つまり、第5実施例のカップシール35は、膨出部36を設けたことによって、ピストン3とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に基部8の底部内周縁が一層入り込み(食い込み)にくくなり、シール性能の悪化をより一層抑制することができる。
【0062】
図13を用いて本発明の第6実施例を説明する。図13は、第6実施例のカップシール37のカップシール37軸方向に沿った断面図である。
【0063】
第6実施例のカップシール37は、上述した第4実施例のカップシール30と略同一構成となっているが、インナリップ10の内側のつけ根部分が曲率を有するように肉盛りされて膨出部38となっている。つまり、第6実施例のカップシール37は、インナリップ10の内側のつけ根部分に中実の膨出部38が突出するよう形成されている。第6実施例のカップシール37は、膨出部38によりインナリップ10のつけ根部分がインナリップ10の先端側に比べて厚肉となっている。
【0064】
このような第6実施例のカップシール37は、上述した第4実施例のカップシール30と略同様の作用効果を奏することができる。
【0065】
また第6実施例のカップシール37は、膨出部38によりインナリップ10の剛性が高くなり、インナリップ10が内側へ倒れ込みにくくなる。これによって、第6実施例のカップシール37は、基部8の底部内周縁がアウタリップ9の内側への倒れ込みにより先細りするように変形しにくくなり、基部8の底部内周縁がピストン3とシリンダとの間の隙間に一層入り込み(食い込み)にくくなる。つまり、第6実施例のカップシール37は、膨出部38を設けたことによって、ピストン3とシリンダボディ2の内周面2aとの間の隙間に基部8の底部内周縁が一層入り込み(食い込み)にくくなり、シール性能の悪化をより一層抑制することができる。
【0066】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、本発明は、上述した各実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0067】
例えば、突起11は、外形が長円や楕円となるような突部(出っ張り)であってもよい。
【0068】
上述した各実施例のカップシールは、複数の突起11が基部8周方向に沿って一列に設けられているが、複数の突起11を基部8周方向に沿って複数列設けることも可能である。また、複数の突起11を基部8周方向に沿って千鳥状に設けることも可能である。
【0069】
また、本発明のカップシールは、ホイールシリンダ以外(例えばマスタシリンダ等)の油圧機器の摺動部位に対して適用することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1…ホイールシリンダ
2…シリンダボディ
2a…内周面
3…ピストン
3a…ピストン
3b…ピストン
4…カップシール
5…液圧室
6…液圧供給路
7…溝部
7a…底面
8…基部
8a…外周面
8b…内周面
9…アウタリップ
10…インナリップ
11…突起
12…外周面
15…くわれ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13