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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】微気圧波低減構造
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/14 20060101AFI20240515BHJP
【FI】
E21D9/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021188205
(22)【出願日】2021-11-18
(65)【公開番号】P2023074971
(43)【公開日】2023-05-30
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 実俊
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-100943(JP,A)
【文献】特開2018-080475(JP,A)
【文献】特開2005-155129(JP,A)
【文献】特開2016-132929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル坑口を覆うトンネル緩衝工の緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、
反対側トンネル坑口に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部を外部に放射する放射部を備え、
前記トンネル緩衝工は、前記トンネル坑口から前記緩衝工口に向かって前記トンネル緩衝工の断面積が段階的に増加するように、このトンネル坑口を覆う緩衝工部を備え、
前記放射部は、前記緩衝工部の段差部を開放して、前記トンネル微気圧波の一部を外部に放射すること、
を特徴とする微気圧波低減構造。
【請求項2】
トンネル坑口を覆うトンネル緩衝工の緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、
反対側トンネル坑口に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部を外部に放射する放射部を備え、
前記トンネル緩衝工は、前記トンネル坑口から前記緩衝工口に向かって前記トンネル緩衝工の断面積が段階的に増加するように、この緩衝工口からこのトンネル坑口に向かって順に第1及び第2の緩衝工部を備え、
前記移動体の速度260~360km/h、前記移動体の先頭部長さ15m以下、前記トンネルの断面積A、前記第1の緩衝工部の断面積A h ’、前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’= A h ’/A、前記第2の緩衝工部の断面積A h 、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h = A h /Aであるときに、
前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’ ≒2.5~3.2、前記第1の緩衝工部の全長20m以上、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h ≒1.4~1.5、前記第2の緩衝工部の全長20m以上、前記放射部の長さ20~40mであること、
を特徴とする微気圧波低減構造。
【請求項3】
トンネル坑口を覆うトンネル緩衝工の緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、
反対側トンネル坑口に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部を外部に放射する放射部を備え、
前記トンネル緩衝工は、前記トンネル坑口から前記緩衝工口に向かって前記トンネル緩衝工の断面積が段階的に増加するように、この緩衝工口からこのトンネル坑口に向かって順に第1及び第2の緩衝工部を備え、
前記移動体のマッハ数M、前記トンネルの断面積A、前記トンネル緩衝工のない前記トンネルに前記移動体が突入したときにこのトンネル内に発生する圧縮波の波面幅L W0 ≒√A/M、前記第1の緩衝工部の断面積A h ’、前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’= A h ’/A、前記第1の緩衝工部の全長L h1 、前記第2の緩衝工部の断面積A h 、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h = A h /A、前記第2の緩衝工部の全長L h2 、前記放射部の長さL h3 であるときに、
前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’ ≒2.5~3.2、前記第1の緩衝工部の全長L h1 >L W0 ・M/(1-M)、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h ≒1.4~1.5、前記第2の緩衝工部の全長L h2 ≧L h1 、前記放射部の長さL h3 ≒0.6L W0 であること、
を特徴とする微気圧波低減構造。
【請求項4】
トンネル坑口を覆うトンネル緩衝工の緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、
反対側トンネル坑口に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部を外部に放射する放射部を備え、
前記トンネル緩衝工は、前記トンネル坑口から前記緩衝工口に向かって前記トンネル緩衝工の断面積が段階的に増加するように、この緩衝工口からこのトンネル坑口に向かって順に第1及び第2の緩衝工部を備え、
前記移動体の速度260~360km/h、前記移動体の先頭部長さ15m以下、前記トンネルの断面積A、前記第1の緩衝工部の断面積A h ’、前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’= A h ’/A、前記第2の緩衝工部の断面積A h 、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h = A h /Aであるときに、
前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’ ≒2.5~3.2、前記第1の緩衝工部の全長20m以上、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h ≒1.4~1.5、前記第2の緩衝工部の全長20m以上、前記放射部の長さ15~25mであること、
を特徴とする微気圧波低減構造。
【請求項5】
トンネル坑口を覆うトンネル緩衝工の緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、
反対側トンネル坑口に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部を外部に放射する放射部を備え、
前記トンネル緩衝工は、前記トンネル坑口から前記緩衝工口に向かって前記トンネル緩衝工の断面積が段階的に増加するように、この緩衝工口からこのトンネル坑口に向かって順に第1及び第2の緩衝工部を備え、
前記移動体のマッハ数M、前記トンネルの断面積A、前記トンネル緩衝工のない前記トンネルに前記移動体が突入したときにこのトンネル内に発生する圧縮波の波面幅L W0 ≒√A/M、前記第1の緩衝工部の断面積A h ’、前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’= A h ’/A、前記第1の緩衝工部の全長L h1 、前記第2の緩衝工部の断面積A h 、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h = A h /A、前記第2の緩衝工部の全長L h2 、前記放射部の長さL h3 であるときに、
前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’ ≒2.5~3.2、前記第1の緩衝工部の全長L h1 >L W0 ・M/(1-M)、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h ≒1.4~1.5、前記第2の緩衝工部の全長L h2 ≧L h1 、前記放射部の長さL h3 ≒0.35~0.4L W0 であること、
を特徴とする微気圧波低減構造。
【請求項6】
トンネル坑口を覆うトンネル緩衝工の緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、
反対側トンネル坑口に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部を外部に放射する放射部と、
前記放射部を開閉する開閉部とを備え、
前記開閉部は、前記緩衝工口に前記移動体が突入するときには、前記放射部を閉鎖し、前記反対側トンネル坑口に前記移動体が突入するときには、前記放射部を開放すること、
を特徴とする微気圧波低減構造。
【請求項7】
トンネル坑口を覆うトンネル緩衝工の緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、
反対側トンネル坑口に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部を外部に放射する放射部と、
前記放射部の長さを可変する長さ可変部とを備え、
前記長さ可変部は、前記緩衝工口に前記移動体が突入するときには、前記放射部の長さを所定長さに可変し、前記反対側トンネル坑口に前記移動体が突入するときには、前記放射部の長さをゼロに可変すること、
を特徴とする微気圧波低減構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トンネル坑口を覆うトンネル緩衝工の緩衝工口から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図21に示すように、列車101が入口側のトンネル坑口103aに突入すると、トンネル103内に圧縮波W1が発生、この圧縮波W1がトンネル103内を音速で伝搬し、反対側のトンネル坑口103bで圧力波を外部放射する。この外部に放射される圧力波をトンネル微気圧波W2という。トンネル微気圧波W2は発破音や家屋の戸、窓を揺らすなど、環境問題を引き起こすため対策が不可欠である。トンネル微気圧波W2の大きさは、トンネル内圧縮波pの波面の切り立ち具合(dp/dt)に比例する。このため、圧縮波W1の波面を緩やかに(圧力勾配を小さく)してやれば、トンネル微気圧波W2を小さくすることができる。
【0003】
図22に示すように、トンネル坑口103aに設置されて、トンネル本坑の1.4~1.5倍の断面積を有し、側面に窓(開口部)が形成されたフード状構造物のトンネル緩衝工104が提案されている。このトンネル緩衝工104は、列車101が入口側のトンネル坑口103aに突入したときに、トンネル103内に発生するトンネル内圧縮波pの波面の切り立ち具合(dp/dt)を緩やかにして、反対側のトンネル坑口103bから外部に放射するトンネル微気圧波W2を小さくしている。
【0004】
従来のトンネル入口緩衝工の開口部構造(以下、従来技術1という)は、トンネル緩衝工の列車突入側の緩衝工壁に小さな開口面積の開口部を備えており、反対側の緩衝工壁に大きな開口面積の開口部を備えている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術1では、先頭形状の異なる列車やトンネル突入速度の異なる列車毎に開口部の大きさを設定する必要がなく、微気圧波の低減効果を図っている。従来のトンネル緩衝工(以下、従来技術2という)は、緩衝工の矩形状の開口部の一辺が緩衝工の開放側端面に面している(例えば、特許文献2参照)。この従来技術2では、開口部の上下方向の一辺をなくすことによって圧力変動を発生し難くしている。
【0005】
従来技術1,2では、図23に示すように、トンネル緩衝工104の長さが長いほど性能が向上し、列車101が高速になるにしたがって必要となるトンネル緩衝工104が長くなり、建設コストが増大する問題がある。その解決手段として、短くて同等の微気圧波低減効果を有するトンネル緩衝工が提案されている。従来のトンネル入口緩衝工(以下、従来技術3という)は、フード状構造物に側面開口部を設けずに、フード状構造物の断面積がトンネル本坑の断面積の2.2~2.6倍にしている(例えば、特許文献3参照)。この従来技術3では、フード状構造物の断面積を最適に設定することによって、側面開口部を設けなくてもトンネル微気圧波を低減している。
【0006】
図24に示すように、トンネル緩衝工104の緩衝工口104a側(先端側)の延長部分の断面積を大きくして、トンネル緩衝工104を緩衝工部104A,104Bの2段にすると、図23に示すトンネル緩衝工104に比べて長さを短くすることができる。その結果、微気圧波低減性能を維持しつつ建設コストを削減することができる。従来のトンネル緩衝工の微気圧波低減構造(以下、従来技術4という)は、入り口側トンネル坑口から緩衝工口に向かってトンネル緩衝工の断面積が段階的に増加するように第1及び第2の緩衝工部を備えており、第1及び第2の緩衝工部の長さ及び断面積比を所定値に設定している(例えば、特許文献4参照)。この従来技術4では、既存のトンネル緩衝工を利用することで建設費を低減しつつ、トンネル緩衝工の性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3475267号
【0008】
【文献】特許第4243746号
【0009】
【文献】特開2017-031734号公報
【0010】
【文献】特開2020-100943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術4は、図25に示すように、従来技術1~3のトンネル緩衝工(トンネル本坑の1.4倍)よりも、トンネル緩衝工104の緩衝工部104Aが大きな断面積(トンネル本坑の2.5~4.0倍程度)を有する。このため、従来技術4では、複線トンネルにおいてトンネル緩衝工104を入口側のトンネル坑口103aに設置した場合に、反対方向を走行する列車101が出口側のトンネル坑口103bから突入すると、断面積の大きな緩衝工部104Aの緩衝工口104aからトンネル微気圧波W2が放射される。トンネル微気圧波W2の大きさは、放射口の断面積にも比例するため、トンネル入口側の断面積の大きな緩衝工口104aから放射されるトンネル微気圧波W2は、従来技術1~3のトンネル緩衝工(トンネル本坑の1.4倍)から放射されるトンネル微気圧波W2より大きくなってしまう。このため、反対側のトンネル坑口103bの対策強化が必要になり、コストが増加してしまう問題がある。
【0012】
この発明の課題は、トンネル坑口に移動体が突入したときに反対側トンネル坑口から放射する微気圧波の低減性能を維持しつつ、この反対側トンネル坑口に移動体が突入したときにトンネル緩衝工の緩衝工口から放射する微気圧波についても低減することができる微気圧波低減構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図3図4及び図25に示すように、トンネル坑口(3a)を覆うトンネル緩衝工(4)の緩衝工口(4a)から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、反対側トンネル坑口(3b)に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波(W2)を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部(W22)を外部に放射する放射部(6)を備え、前記トンネル緩衝工は、前記トンネル坑口から前記緩衝工口に向かって前記トンネル緩衝工の断面積が段階的に増加するように、このトンネル坑口を覆う緩衝工部(4A,4B)を備え、前記放射部は、前記緩衝工部の段差部を開放して、前記トンネル微気圧波の一部を外部に放射することを特徴とする微気圧波低減構造である。
【0014】
請求項2の発明は、図3図4図6及び図25に示すように、トンネル坑口(3a)を覆うトンネル緩衝工(4)の緩衝工口(4a)から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、反対側トンネル坑口(3b)に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波(W 2 )を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部(W 22 )を外部に放射する放射部(6)を備え、前記トンネル緩衝工は、前記トンネル坑口から前記緩衝工口に向かって前記トンネル緩衝工の断面積が段階的に増加するように、この緩衝工口からこのトンネル坑口に向かって順に第1(4A)及び第2の緩衝工部(4B)を備え、前記移動体の速度260~360km/h、前記移動体の先頭部長さ15m以下、前記トンネルの断面積A、前記第1の緩衝工部の断面積A h ’、前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’= A h ’/A、前記第2の緩衝工部の断面積A h 、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h = A h /Aであるときに、前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’ ≒2.5~3.2、前記第1の緩衝工部の全長(L h1 )20m以上、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h ≒1.4~1.5、前記第2の緩衝工部の全長(L h2 )20m以上、前記放射部の長さ(L h3 )20~40mであることを特徴としている微気圧波低減構造である。
【0015】
請求項3の発明は、図3図4図6図7及び図25に示すように、トンネル坑口(3a)を覆うトンネル緩衝工(4)の緩衝工口(4a)から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、反対側トンネル坑口(3b)に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波(W 2 )を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部(W 22 )を外部に放射する放射部(6)を備え、前記トンネル緩衝工は、前記トンネル坑口から前記緩衝工口に向かって前記トンネル緩衝工の断面積が段階的に増加するように、この緩衝工口からこのトンネル坑口に向かって順に第1(4A)及び第2の緩衝工部(4B)を備え、前記移動体のマッハ数M、前記トンネルの断面積A、前記トンネル緩衝工のない前記トンネルに前記移動体が突入したときにこのトンネル内に発生する圧縮波の波面幅L W0 ≒√A/M、前記第1の緩衝工部の断面積A h ’、前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’= A h ’/A、前記第1の緩衝工部の全長L h1 、前記第2の緩衝工部の断面積A h 、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h = A h /A、前記第2の緩衝工部の全長L h2 、前記放射部の長さL h3 であるときに、前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’ ≒2.5~3.2、前記第1の緩衝工部の全長L h1 >L W0 ・M/(1-M)、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h ≒1.4~1.5、前記第2の緩衝工部の全長L h2 ≧L h1 、前記放射部の長さL h3 ≒0.6L W0 であることを特徴とする微気圧波低減構造である。
【0016】
請求項4の発明は、図3図4図6及び図25に示すように、トンネル坑口(3a)を覆うトンネル緩衝工(4)の緩衝工口(4a)から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、反対側トンネル坑口(3b)に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波(W 2 )を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部(W 22 )を外部に放射する放射部(6)を備え、前記トンネル緩衝工は、前記トンネル坑口から前記緩衝工口に向かって前記トンネル緩衝工の断面積が段階的に増加するように、この緩衝工口からこのトンネル坑口に向かって順に第1(4A)及び第2の緩衝工部(4B)を備え、前記移動体の速度260~360km/h、前記移動体の先頭部長さ15m以下、前記トンネルの断面積A、前記第1の緩衝工部の断面積A h ’、前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’= A h ’/A、前記第2の緩衝工部の断面積A h 、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h = A h /Aであるときに、前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’ ≒2.5~3.2、前記第1の緩衝工部の全長(L h1 )20m以上、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h ≒1.4~1.5、前記第2の緩衝工部の全長(L h2 )20m以上、前記放射部の長さ(L h3 )15~25mであることを特徴としている微気圧波低減構造である。
【0017】
請求項5の発明は、図3図4図6図7及び図25に示すように、トンネル坑口(3a)を覆うトンネル緩衝工(4)の緩衝工口(4a)から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、反対側トンネル坑口(3b)に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波(W 2 )を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部(W 22 )を外部に放射する放射部(6)を備え、前記トンネル緩衝工は、前記トンネル坑口から前記緩衝工口に向かって前記トンネル緩衝工の断面積が段階的に増加するように、この緩衝工口からこのトンネル坑口に向かって順に第1(4A)及び第2の緩衝工部(4B)を備え、前記移動体のマッハ数M、前記トンネルの断面積A、前記トンネル緩衝工のない前記トンネルに前記移動体が突入したときにこのトンネル内に発生する圧縮波の波面幅L W0 ≒√A/M、前記第1の緩衝工部の断面積A h ’、前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’= A h ’/A、前記第1の緩衝工部の全長L h1 、前記第2の緩衝工部の断面積A h 、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h = A h /A、前記第2の緩衝工部の全長L h2 、前記放射部の長さL h3 であるときに、前記第1の緩衝工部の断面積比σ h ’ ≒2.5~3.2、前記第1の緩衝工部の全長L h1 >L W0 ・M/(1-M)、前記第2の緩衝工部の断面積比σ h ≒1.4~1.5、前記第2の緩衝工部の全長L h2 ≧L h1 、前記放射部の長さL h3 ≒0.35~0.4L W0 であることを特徴とする微気圧波低減構造である。
【0018】
請求項6の発明は、図3図4図10図11及び図25に示すように、トンネル坑口(3a)を覆うトンネル緩衝工(4)の緩衝工口(4a)から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、反対側トンネル坑口(3b)に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波(W 2 )を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部(W 22 )を外部に放射する放射部(6)と、前記放射部を開閉する開閉部(8)とを備え、前記開閉部は、前記緩衝工口に前記移動体が突入するときには、前記放射部を閉鎖し、前記反対側トンネル坑口に前記移動体が突入するときには、前記放射部を開放することを特徴とする微気圧波低減構造である。
【0019】
請求項7の発明は、図3図4図12図13及び図25に示すように、トンネル坑口(3a)を覆うトンネル緩衝工(4)の緩衝工口(4a)から放射するトンネル微気圧波を低減する微気圧波低減構造であって、反対側トンネル坑口(3b)に移動体が突入したときに、前記緩衝工口から放射するトンネル微気圧波(W 2 )を低減するために、前記トンネル緩衝工の一部を開放して、このトンネル微気圧波の一部(W 22 )を外部に放射する放射部(6)と、前記放射部の長さを可変する長さ可変部(12)とを備え、前記長さ可変部は、前記緩衝工口に前記移動体が突入するときには、前記放射部の長さを所定長さ(L h3 )に可変し、前記反対側トンネル坑口に前記移動体が突入するときには、前記放射部の長さをゼロに可変することを特徴とする微気圧波低減構造である。
【発明の効果】
【0021】
この発明によると、トンネル坑口に移動体が突入したときに反対側トンネル坑口から放射する微気圧波の低減性能を維持しつつ、この反対側トンネル坑口に移動体が突入したときにトンネル緩衝工の緩衝工口から放射する微気圧波についても低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明の第1実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造において緩衝工口に列車が突入した状態を示す模式図である。
図2】この発明の第1実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造において緩衝工口に列車が突入した状態を模式的に示す縦断面図である。
図3】この発明の第1実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造において反対側トンネル坑口に列車が突入した状態を示す模式図である。
図4】この発明の第1実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造において反対側トンネル坑口に列車が突入した状態を模式的に示す縦断面図である。
図5図2のV-V線で切断した状態を示す断面図であり、(A)はトンネル緩衝工の断面が半円形である場合の断面図であり、(B)はトンネル緩衝工の断面が矩形である場合の断面図である。
図6】この発明の第1実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造の概略図である。
図7】この発明の第1実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造の放射部の長さを決定するときの変数を定義するための図であり、(A)は圧縮波の波面幅の定義であり、(B)は移動体先頭部長さの定義である。
図8】この発明の第1実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造の作用を説明するための模式図であり、(A)は反対側のトンネル坑口から列車が突入したときの作用を説明するための模式図であり、(B)はトンネル坑口から列車が突入したときの作用を説明するための模式図である。
図9】この発明の第6実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造の模式図であり、(A)はトンネル緩衝工に対して放射部を斜め上方向に向けた場合の模式図であり、(B)はトンネル緩衝工に対して放射部を垂直方向に向けた場合の模式図である。
図10】この発明の第7実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造の構成図である。
図11】この発明の第7実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造の模式図であり、(A)はトンネル坑口に列車が突入したときの状態を示す模式図であり、(B)は反対側のトンネル坑口に列車が突入したときの状態を示す模式図である。
図12】この発明の第8実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造の構成図である。
図13】この発明の第8実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造の模式図であり、(A)はトンネル坑口に列車が突入したときの状態を示す模式図であり、(B)は反対側のトンネル坑口に列車が突入したときの状態を示す模式図である。
図14】この発明の実施例に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造による微気圧波低減効果の実験に使用した模型実験装置の模式図である。
図15】この発明の実施例に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造による突入時性能の確認実験に使用した緩衝工模型の模式図であり、(A)は実施例に係る提案緩衝工を模擬した緩衝工模型の模式図である。(B)は従来の2段緩衝工を模擬した緩衝工模型の模式図である。
図16】この発明の実施例に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造による突入時性能の確認実験の模式図であり、(A)は実施例に係る提案緩衝工の場合の確認実験の模式図であり、(B)は従来の2段緩衝工の場合の確認実験の模式図である。
図17】この発明の実施例に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造による突入時性能の実験結果を示すグラフである。
図18】この発明の実施例に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造による放射時性能の確認実験に使用した緩衝工模型の模式図であり、(A)は実施例に係る提案緩衝工の場合の確認実験の模式図であり、(B)は従来の2段緩衝工の場合の確認実験の模式図であり、(C)は従来の通常緩衝工の場合の確認実験の模式図であり、(D)は緩衝工のない場合の確認実験の模式図である。
図19】この発明の実施例に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造による放射時性能の確認実験の模式図であり、(A)は実施例に係る提案緩衝工の場合の確認実験の模式図であり、(B)は従来の2段緩衝工の場合の確認実験の模式図である。
図20】この発明の実施例に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造による放射時性能の実験結果を示すグラフであり、(A)は車両模型の速度が320km/hであるときの実験結果を示すグラフであり、(B)は車両模型の速度が360km/hであるときの実験結果を示すグラフである。
図21】トンネル微気圧波の現象を説明するための模式図である。
図22】従来のトンネル緩衝工の機能を説明するための模式図である。
図23】従来のトンネル緩衝工を長くした場合の模式図である。
図24】従来のトンネル緩衝工を2段にした場合の模式図である。
図25】従来のトンネル緩衝工を2段にした場合に反対側トンネル坑口から列車が突入したときの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1図5に示す列車1は、軌道2に沿って移動する移動体である。列車1は、例えば、320km/h以上の高速で新幹線(登録商標)を走行する鉄道車両である。軌道2は、列車1が走行する線路(移動経路)である。軌道2は、例えば、図5に示すように二本の本線で構成された複線であり、上り線2Aと下り線2Bとから構成されている。上り線2Aは、終点から起点方向(図5に示す進行方向D1)に列車1が走行する。下り線2Bは、起点から終点方向(図5に示す進行方向D2)に列車1が走行する。例えば、上り線2Aは、東北新幹線の場合には仙台方面から東京方面に向かう列車1が走行する線路であり、下り線2Bは東北新幹線の場合には東京方面から仙台方面に向かう列車1が走行する線路である。
【0024】
図1図5に示すトンネル3は、山腹などの地中を貫通して列車1を通過させるための固定構造物(土木構造物)である。トンネル3は、例えば、図5に示すように、一つの固定構造物内に軌道2を収容する複線用の鉄道トンネル(複線トンネル)である。トンネル3は、図1及び図3に示すように、列車1が突入及び退出する出入口となるトンネル坑口3a,3bなどを備えている。以下では、図1及び図2に示すように下り線2Bを走行する列車1がトンネル緩衝工4に突入し、この列車1が反対側のトンネル坑口3bから退出する場合と、図3及び図4に示すように上り線2Aを走行する列車1が反対側のトンネル坑口3bに突入し、この列車1がトンネル緩衝工4から退出する場合とを例に挙げて説明する。
【0025】
図1図5に示すトンネル緩衝工4は、トンネル微気圧波W2を低減するためのトンネル坑口3aを覆う固定構造物(土木構造物)である。図1図5に示すトンネル緩衝工4は、例えば、一つのトンネル覆工内に軌道2を収容する複線用の入口緩衝工(複線トンネル緩衝工)である。トンネル緩衝工4は、図1に示すように、列車1の先頭部がトンネル3の入口側のトンネル坑口3aに突入したときに発生する圧縮波(トンネル内圧縮波)W1の圧力勾配(図7(A)に示すような波面の勾配)を緩やかにすることによって、トンネル3の出口側のトンネル坑口(反対側坑口)3bから外部に放射するトンネル微気圧波W2を低減する。ここで、図1に示す圧縮波W1は、トンネル坑口3aに列車1の先頭部が突入したときにトンネル3内に発生する圧力波である。圧縮波W1は、図7(A)に示すように正の圧力勾配を持つ。トンネル微気圧波W2は、圧縮波W1が音速でトンネル3内を伝搬して、反対側のトンネル坑口3bからトンネル3外に放射されるパルス状の圧力波である。トンネル微気圧波W2の大きさは、反対側のトンネル坑口3bに到達した圧縮波W1の圧力勾配にほぼ比例する。圧力勾配とは、トンネル3内を伝搬する圧縮波W1の波面の時間変化率である。トンネル緩衝工4は、例えば、コンクリート製、鉄筋コンクリート製又は鋼板製のフード状(覆い状)の構造物であり、図1図4に示すようにトンネル坑口3aの外部に軌道2に沿ってトンネル3を延長するように構築されている。トンネル緩衝工4は、このトンネル緩衝工4の中心線に対して直交する平面で切断したときの断面形状が、図5(A)に示すような半円形や、図5(B)に示すような矩形である。トンネル緩衝工4は、列車1の速度Uなどに応じた長さに構築されている。トンネル緩衝工4は、図2及び図5に示すように、列車1が突入する緩衝工口(入口)4aと、トンネル緩衝工4の上側部分を構成する天部4bと、トンネル緩衝工4の側面部分を構成する側壁4cと、図1図4に示すようにトンネル緩衝工4の長さ方向に複数の緩衝工部4A,4Bと、微気圧波低減構造5などを備えている。
【0026】
図1図4に示す緩衝工部4A,4Bは、トンネル坑口3aから緩衝工口4aに向かってトンネル緩衝工4の断面積が段階的に増加するように、このトンネル坑口を覆う部分である。緩衝工部4Aは、緩衝工部4Bの緩衝工口を覆う1段目のトンネル緩衝工である。緩衝工部4Aは、既存又は新設のトンネル緩衝工に延伸された新設のトンネル緩衝工である。緩衝工部4Aは、図2及び図4に示すように、この緩衝工部4Aの断面積Ah’が緩衝工部4Bの断面積Ahよりも大きく設定されている。緩衝工部4Bは、トンネル坑口3aを覆う2段目のトンネル緩衝工である。緩衝工部4Bは、既存のトンネル緩衝工、又はトンネル坑口3aを覆う新設のトンネル緩衝工である。緩衝工部4Bは、図2及び図4に示すように、この緩衝工部4Bの断面積Ahがトンネル3の断面積Aよりも大きく設定されている。緩衝工部4Bは、トンネル3と緩衝工部4Aとの間にこれらと連続して構築されている。ここで、断面積Ah,Ah’は、緩衝工部4A,4Bの中心線に対して直交する平面で切断したときのこの緩衝工部4A,4Bの切断面の面積である。
【0027】
図1図4に示す微気圧波低減構造5は、トンネル坑口3aを覆うトンネル緩衝工4の緩衝工口4aから放射するトンネル微気圧波W2を低減する構造である。微気圧波低減構造5は、図1及び図24に示すように、トンネル坑口3aに列車1が突入したときに反対側のトンネル坑口3bから放射するトンネル微気圧波W2を低減する微気圧波低減性能を維持しつつ、図3及び図25に示すように反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入したときにトンネル緩衝工4の緩衝工口4aから放射するトンネル微気圧波W2も低減する。微気圧波低減構造5は、図1図4に示す放射部6などを備えている。
【0028】
放射部6は、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入したときに、緩衝工口4aから放射するトンネル微気圧波W2を低減するために、トンネル緩衝工4の一部を開放して、このトンネル微気圧波W2の一部を外部に放射する部分である。放射部6は、図2及び図4に示すように、緩衝工部4A,4Bの断面積Ah',Ahが変化する段差部(断面積変化部)に形成されている。放射部6は、図1図4に示すように、トンネル緩衝工4の中心線に対して平行に配置されており、トンネル緩衝工4の長さ方向に沿って直線状に所定長さで形成されている。放射部6は、緩衝工部4Aのトンネル坑口3a側の端部を延長して、緩衝工部4Bの外側に所定の間隔をあけて形成された壁部である。放射部6は、図25に示すトンネル微気圧波W2の一部であるトンネル微気圧波W21を外部に放射する緩衝工口4aとは別に、図3に示す緩衝工部4A,4Bの段差部を開放することによって、図25に示すトンネル微気圧波W2の一部である図3に示すトンネル微気圧波W22を外部に放射する。放射部6は、図2及び図4に示すように、開口部6aと、通過部6bと、開口部6cなどを備えている。
【0029】
図2及び図4に示す開口部6aは、トンネル坑口3aから伝搬する圧縮波W1の一部をトンネル緩衝工4から通過部6bに進入させる部分である。開口部6aは、通過部6bの緩衝工口4a側の端部に緩衝工口4aと対向して形成されており、緩衝工部4Aのトンネル坑口3a側の端部と緩衝工部4Bの緩衝工口4a側の端部との間に形成されている。開口部6aは、図24に示す従来のトンネル緩衝工104の緩衝工部104Aと緩衝工部104Bとの間の段差部を構成する縦壁を緩衝工部104A,104Bから取り除いた妻面開放部である。開口部6aは、トンネル3からトンネル緩衝工4に伝搬する圧縮波W1の一部である圧縮波W12を通過部6bに進入させる入口側開口部として機能する。
【0030】
図2及び図4に示す通過部6bは、トンネル坑口3aから伝搬する圧縮波W1の一部が通過する部分である。通過部6bは、開口部6aから進入した圧縮波W1の一部である圧縮波W12を開口部6cに導くダクトとして機能する。通過部6bは、図1図4に示すように緩衝工部4Aを緩衝工部4Bの外側に延長して、図5に示すように緩衝工部4Aと緩衝工部4Bとの間に間隙部を形成したような構造である。通過部6bは、緩衝工部4A,4Bの段差部からトンネル坑口3aに向って延びて構築されている。
【0031】
図2及び図4に示す開口部6cは、トンネル坑口3aから伝搬する圧縮波W1の一部を通過部6bから放射させる部分である。開口部6cは、通過部6bのトンネル坑口3a側の端部に形成されている。開口部6cは、トンネル3からトンネル緩衝工4に伝搬する圧縮波W1の一部である圧縮波W12を通過部6bから外部に放射させる出口側開口部として機能する。
【0032】
次に、この発明の第1実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造の作用について説明する。
(放射時性能)
図8(A)に示すように、図8(B)に示す列車1とは反対方向に走行する列車1が、トンネル緩衝工4が設置されていない反対側のトンネル坑口3bに突入すると、トンネル3内に圧縮波W1が発生し、この圧縮波W1がトンネル3内を伝搬する。図3に示すように、トンネル3からトンネル緩衝工4に伝搬する圧縮波W1のうち一部の圧縮波W11がトンネル坑口3aから緩衝工口4aに伝搬して、緩衝工口4aから外部にトンネル微気圧波W21が放射する。また、トンネル3からトンネル緩衝工4に伝搬する圧縮波W1のうち一部の圧縮波W12がトンネル坑口3aから開口部6cに伝搬して、開口部6cから外部にトンネル微気圧波W22が放射する。
【0033】
トンネル緩衝工4から放射されるトンネル微気圧波W2よりも低減されたトンネル微気圧波W21,W22が緩衝工口4a及び開口部6cの2箇所から外部に放射されて、トンネル微気圧波W2が分散される。2つのトンネル微気圧波W21,W22を緩衝工口4a付近で測定することを考えた場合には、通過部6bが長くなるにしたがって2つのトンネル微気圧波W21,W22の測定点への到達時間のずれが大きくなるため、2つのトンネル微気圧波W21,W22のピーク値同士がずれ、両者が重なっても最大値が大きくならない。
【0034】
(突入時性能)
図8(B)に示すように、トンネル緩衝工4が設置されているトンネル坑口3aに列車1が突入するときに、緩衝工口4a、緩衝工部4Aと緩衝工部4Bとの間の段差部、緩衝工部4Bとトンネル3との間の段差部を、列車1の先頭部が順次通過すると圧縮波W1が発生する。発生した圧縮波W1がそれぞれトンネル3に向かって伝搬すると、各段差部、放射部6及び緩衝工口4aでそれぞれの圧縮波W1が反射するため、トンネル緩衝工4内で多数の圧縮波W1が往復し、それぞれの圧縮波W1が重なり合う。
【0035】
放射部6の長さLh3によってそれぞれの圧縮波W1の重畳具合が変化するため、各圧縮波W1の圧力勾配のピーク値同士がずれ、結果として圧力勾配(圧縮波W1の時間変化率)のピーク値(トンネル微気圧波W2に対応する値)の大きさが変化する。その結果、反対側のトンネル坑口3bから外部に放射するトンネル微気圧波W2が変化するため、放射部6の長さLh3を適切にすることで、従来のトンネル緩衝工104に列車101が突入したときの微気圧波低減効果なみに性能が維持される。
【0036】
この発明の第1実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入したときに、図25に示すトンネル微気圧波W2を低減するために、トンネル緩衝工4の一部を開放して、このトンネル微気圧波W2の一部を外部に放射部6が放射する。このため、図1に示すように、トンネル坑口3aに突入する列車1に対する微気圧波低減性能を維持しつつ、図3及び図25に示すように反対方向に走行する列車1が反対側のトンネル坑口3bに突入したときに放射されるトンネル微気圧波W2についても低減することができる。例えば、図25に示すように、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入したときに、トンネル坑口3aから放射されるトンネル微気圧波W2を、図3に示すようにトンネル微気圧波W21,波W22に分散させて緩衝工口4a及び放射部6から放射させることができる。その結果、図25に示す緩衝工口104aから放射するトンネル微気圧波W2を低減することができる。また、トンネル坑口3aに列車1が突入したときに、反対側のトンネル坑口3bから放射されるトンネル微気圧波W2の低減性能についても維持することができる。その結果、反対側のトンネル坑口3bにおける微気圧波低減対策が不要又は縮小できてコスト削減を図ることができるとともに、本来の目的であるトンネル坑口3aに列車1が突入するときの微気圧波低減性能も向上させることができる。
【0037】
(2) この第1実施形態では、トンネル坑口3aから緩衝工口4aに向かってトンネル緩衝工4の断面積が段階的に増加するように、このトンネル坑口3aを緩衝工部4A,4Bが覆い、緩衝工部4A,4Bの段差部を開放して、トンネル微気圧波W2の一部を放射部6が外部に放射する。このため、図24に示す従来のトンネル緩衝工104の緩衝工部4A,4Bの段差部を構成する縦壁を取り除き、緩衝工部4Bをトンネル坑口3aに向けて延長することによって、低コストで簡単にトンネル微気圧波W2を低減することができる。例えば、図24に示すような既設の2段緩衝工が存在する場合であって、新幹線車両の速度が向上してより高速度で走行するときには、既設の2段緩衝工の縦壁の開口工事を実施し、2段緩衝工に後端壁を新設することで、トンネル微気圧波W2を比較的低コストで低減することができる。
【0038】
(第2実施形態)
以下では、図1図8に示す部分と同一の部分については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
この第2実施形態では、図1及び図3に示す列車1の速度Uが260~360km/h、図7(B)に示す先頭部長さLnが15m以下の列車1に対して、図6に示す緩衝工部4Aの断面積比σh’ ≒2.5~3.2、緩衝工部4Aの全長Lh1を20m以上、緩衝工部4Bの断面積比σh≒1.4~1.5、緩衝工部4Bの全長Lh2を20m以上、放射部6の長さLh3を20~40mに設定することが好ましい。ここで、断面積比σh’は、トンネル3の断面積Aに対する緩衝工部4Aの断面積Ah’の比Ah’/Aである。断面積比σhは、トンネル3の断面積Aに対する緩衝工部4Bの断面積Ahの比Ah/Aである。断面積Aは、トンネル3の中心線に対して直交する平面で切断したときのこのトンネル3の本坑の切断面の面積である。この第2実施形態には、第1実施形態と同様の効果がある。
【0039】
(第3実施形態)
この第3実施形態では、列車1のマッハ数Mであり、緩衝工部4Bの全長Lh2であるときに、図6に示す緩衝工部4Aの断面積比σh’ ≒2.5~3.2、緩衝工部4Aの全長Lh1>LW0・M/(1-M)、緩衝工部4Bの断面積比σh≒1.4~1.5、緩衝工部4Bの全長Lh2≧Lh1、放射部6の長さLh3≒0.6LW0に設定することが好ましい。ここで、図7(A)に示す波面幅LW0は、図1図4に示すトンネル緩衝工4のないトンネル3に列車1が突入したときに、このトンネル3内に発生する圧縮波W1の波面幅≒√A/Mである。この第3実施形態には、第1実施形態と同様の効果がある。
【0040】
(第4実施形態)
この第4実施形態では、図1及び図3に示す列車1の速度Uが260~360km/h、図7(B)に示す先頭部長さLnが15m以下の列車1に対しては、図6に示す緩衝工部4Aの断面積比σh’ ≒2.5~3.2、緩衝工部4Aの全長Lh1を20m以上、緩衝工部4Bの断面積比σh≒1.4~1.5、緩衝工部4Bの全長Lh2を20m以上、放射部6の長さLh3を15~25mに設定することが好ましい。この第4実施形態には、第1実施形態と同様の効果がある。
【0041】
(第5実施形態)
この第5実施形態では、列車1のマッハ数Mであるときに、図6に示す緩衝工部4Aの断面積比σh’ ≒2.5~3.2、緩衝工部4Aの全長Lh1>LW0・M/(1-M)、緩衝工部4Bの断面積比σh≒1.4~1.5、緩衝工部4Bの全長Lh2≧Lh1、放射部6の長さLh3≒0.35~0.4LW0に設定することが好ましい。この第5実施形態には、第1実施形態と同様の効果がある。
【0042】
(第6実施形態)
図9(A)に示す放射部6は、トンネル緩衝工4の中心線に対して斜め上方に向けて配置されており、トンネル緩衝工4の長さ方向と交差して直線状に所定長さで形成されている。図9(B)に示す放射部6は、トンネル緩衝工4の中心線に対して垂直方向に向けて配置されており、トンネル緩衝工4の長さ方向と直交して直線状に所定長さで形成されている。図9に示す放射部6は、緩衝工部4A,4Bと開口部6aとが接続する部分が滑らかな曲線状に形成されている。図9に示す放射部6は、この放射部6の中心線に対して直交する平面で切断したときの断面積が、図2及び図4に示す放射部6の中心線に対して直交する平面で切断したときの断面積と同じに設定されている。この第6実施形態には、第1実施形態~第5実施形態と同様の効果がある。
【0043】
(第7実施形態)
図10及び図11に示す微気圧波低減構造5は、列車1の進行方向D1,D2に応じて放射部6を開閉することによって、放射部6の最適化制御を実施し、トンネル微気圧波W2を低減する。微気圧波低減構造5は、列車検出部7A,7Bと、開閉部8と、駆動部9と、開閉状態検出部10と、制御部11などを備えている。図10及び図11に示す放射部6は、図1図4図6(A)、図8及び図9に示す放射部6とは異なり、この放射部6の長さLh3=0に設定されており、開口部6aを備えている。開口部6aは、トンネル坑口3aから伝搬する圧縮波W1の一部を放射させる部分である。開口部6aは、トンネル3からトンネル緩衝工4に伝搬する圧縮波W1の一部である圧縮波W12を外部に放射させる。
【0044】
列車検出部7A,7Bは、列車1を検出する手段である。列車検出部7Aは、緩衝工口4aよりも手前に設置されており、緩衝工口4aに接近する列車1を検出する。列車検出部7Bは、反対側のトンネル坑口3bよりも手前に設置されており、トンネル坑口3bに接近する列車1を検出する。列車検出部7A,7Bは、例えば、列車1の通過を電気的又は光学的に検出するセンサなどの検出装置である。列車検出部7A,7Bは、列車1の通過を検出したときには列車検出信号を制御部11に出力する。
【0045】
開閉部8は、放射部6を開閉する手段である。開閉部8は、図11(A)に示すように、緩衝工口4aに列車1が突入するときには放射部を閉鎖し、図11(B)に示すように反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入するときには放射部6を開放する。開閉部8は、例えば、放射部6の開口部6aを開閉する開閉板又はシャッタなどの開閉装置である。図10及び図11に示す駆動部9は、開閉部8を駆動する手段である。駆動部9は、例えば、開閉部8を開閉動作させるための駆動力を発生する流体圧シリンダ又は電動機などの駆動力発生装置である。開閉状態検出部10は、放射部6の開閉状態を検出する手段である。開閉状態検出部10は、例えば、開閉部8の開閉位置を機械的、電気的又は光学的に検出することによって、放射部6の開放状態又は閉鎖状態を検出するセンサなどの検出装置である。開閉状態検出部10は、放射部6の開閉状態に応じて開閉状態検出信号を制御部11に出力する。
【0046】
制御部11は、列車検出部7A,7Bの検出結果に基づいて、駆動部9を制御する手段である。制御部11は、図11(A)に示すように、列車検出部7Aが出力する列車検出信号に基づいて、開閉部8が放射部6を閉鎖するように駆動部9に指令する。制御部11は、図11(B)に示すように、列車検出部7Bが出力する列車検出信号に基づいて、開閉部8が放射部6を開放するように駆動部9に指令する。制御部11は、開閉状態検出部10が出力する開閉状態検出信号に基づいて、開閉部8が放射部6を開閉するように駆動部9に指令する。
【0047】
次に、この発明の第7実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造について説明する。
図11(A)に示すように、列車1が緩衝工口4aに接近すると、列車1の接近を列車検出部7Aが検出して、列車検出部7Aが列車検出信号を制御部11に出力する。開閉状態検出部10が放射部6の開閉状態を検出し、開閉状態検出部10が開閉状態信号を制御部に出力する。放射部6が開閉部8によって開放されていると制御部11が判断したときには、放射部6を開閉部8が閉鎖するように駆動部9に閉鎖動作を指令する。その結果、開閉部8が回転動作して放射部6が閉鎖された状態で、トンネル坑口3aに列車1が突入し、反対側のトンネル坑口3bから放射するトンネル微気圧波W2がトンネル緩衝工4によって低減される。
【0048】
一方、図11(B)に示すように、列車1が反対側のトンネル坑口3bに接近すると、列車1の接近を列車検出部7Bが検出して、列車検出部7Bが列車検出信号を制御部11に出力する。開閉状態検出部10が放射部6の開閉状態を検出し、開閉状態検出部10が開閉状態信号を制御部に出力する。放射部6が開閉部8によって閉鎖されていると制御部11が判断したときには、放射部6を開閉部8が開放するように駆動部9に開放動作を指令する。その結果、開閉部8が回転動作して放射部6が開放された状態で、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入し、一部のトンネル微気圧波W21が緩衝工口4aから放射し、一部のトンネル微気圧波W22が開口部6aから放射する。その結果、図10及び図11に示す緩衝工口4a及び開口部6aの2箇所からトンネル微気圧波W21,W22が放射し、図25に示すトンネル微気圧波W2が分散されて、トンネル微気圧波W2が低減する。
【0049】
この発明の第7実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造は、第1実施形態~第6実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第7実施形態では、緩衝工口4aに列車1が突入するときには、放射部6を開閉部8が閉鎖し、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入するときには、放射部6を開閉部8が開放する。トンネル緩衝工4に列車1が突入するときの突入時性能からは放射部6の長さLh3を20m程度にすればよいが、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入するときの放射時性能からは放射部6の長さLh3が0m又は40m程度必要になる。このため、放射部6を開閉部8が開閉しない構造である場合には、突入時性能及び放射時性能の両方の性能を確保するためには、放射部6の長さLh3が40m必要になり、放射部6の長さLh3が非常に長くなり、コスト削減のメリットが減殺される。この第7実施形態では、緩衝工口4aに列車1が突入するときには、開口部6aを開閉部8が閉鎖してトンネル緩衝工4が2段緩衝工になる。このため、放射部6の通過部6bが不要になってコスト削減を図ることができるとともに、反対側のトンネル坑口3bから放射されるトンネル微気圧波W2をトンネル緩衝工4によって低減することができる。また、この第7実施形態では、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入するときには、放射部6の長さLh3が0mであっても放射時性能を確保することができる。このため、放射部6の通過部6bが不要になってコスト削減効果を図ることができるとともに、緩衝工口4a及び開口部6aの2箇所からトンネル微気圧波W21,W22を放射させ、トンネル微気圧波W2を分散させて低減することができる。
【0050】
(第8実施形態)
図12及び図13に示す微気圧波低減構造5は、列車1の進行方向D1,D2に応じて放射部6の長さLh3を変更することによって、放射部6の最適化制御を実施し、トンネル微気圧波W2を低減する。微気圧波低減構造5は、列車検出部7A,7Bと、長さ可変部12と、位置検出部13と、制御部14などを備えている。
【0051】
放射部6は、トンネル緩衝工4に対して接合及び分離可能な構造である。放射部6は、緩衝工部4Aと緩衝工部4Bとの間の段差部で接合及び分離する。放射部6は、図13(A)に示すように、緩衝工口4aに列車1が突入するときには、緩衝工部4Aのトンネル坑口3a側の端部に、この放射部6の緩衝工口4a側の端部が接続する。放射部6は、図13(B)に示すように、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入するときには、緩衝工部4Aのトンネル坑口3a側の端部から、この放射部6の緩衝工口4a側の端部が離間する。
【0052】
図12及び図13に示す長さ可変部12は、放射部6の長さLh3を可変する手段である。長さ可変部12は、図13(A)に示すように緩衝工口4aに列車1が突入するときには、放射部6の長さLh3を所定長さに可変し、図13(B)に示すように反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入するときには、放射部6の長さLh3をゼロにする。長さ可変部12は、図13(A)に示すように、緩衝工部4Aに放射部6を接合させて、放射部6の長さLh3が所定長さになるように放射部6を駆動する。長さ可変部12は、図13(B)に示すように、緩衝工部4Aから放射部6を離間させて、放射部6の長さLh3がゼロになるように放射部6を駆動する。長さ可変部12は、例えば、トンネル緩衝工4に放射部6が接続及び離間するように、放射部6を駆動するための駆動力を発生する流体圧シリンダ又は電動機などの駆動力発生装置である。
【0053】
図12及び図13に示す位置検出部13は、放射部6の位置を検出する手段である。位置検出部13は、図13(A)に示すようにトンネル緩衝工4に放射部6が接続したときに放射部6が位置する接続位置と、図13(B)に示すようにトンネル緩衝工4から放射部6が離間したときに放射部6が位置する離間位置とを検出する。位置検出部13は、放射部6が接続位置又は離間位置にあるか否かを機械的、電気的又は光学的に検出するセンサなどの検出装置である。位置検出部13は、放射部6の位置に応じて接続位置検出信号又は離間位置検出信号を制御部14に出力する。
【0054】
図12及び図13に示す制御部14は、列車検出部7A,7Bの検出結果に基づいて、長さ可変部12を制御する手段である。制御部14は、図13(A)に示すように、列車検出部7Aが出力する列車検出信号に基づいて、トンネル緩衝工4に放射部6が接続して放射部6の長さLh3が所定長さになるように長さ可変部12に放射部6の駆動を指令する。制御部14は、図13(B)に示すように、列車検出部7Bが出力する列車検出信号に基づいて、トンネル緩衝工4から放射部6が離間して放射部6の長さLh3がゼロになるように、長さ可変部12に放射部6の駆動を指令する。制御部14は、位置検出部13が出力する位置検出信号に基づいて、放射部6の長さLh3を可変するように長さ可変部12に指令する。
【0055】
次に、この発明の第8実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造について説明する。
図13(A)に示すように、列車1が緩衝工口4aに接近すると、列車1の接近を列車検出部7Aが検出して、列車検出部7Aが列車検出信号を制御部14に出力する。放射部6の位置が離間位置であると位置検出部13が検出したときには、位置検出部13が離間位置検出信号を制御部14に出力する。放射部6の位置が離間位置であり、トンネル緩衝工4から放射部6が離間していると制御部14が判断したときには、放射部6の長さLh3が所定長さになるように、長さ可変部12に接合動作を指令する。その結果、トンネル緩衝工4に放射部6が接続して放射部6の長さLh3が所定長さになった状態で、トンネル坑口3aに列車1が突入し、反対側のトンネル坑口3bから放射するトンネル微気圧波W2がトンネル緩衝工4によって低減される。
【0056】
一方、図13(B)に示すように、列車1が反対側のトンネル坑口3bに接近すると、列車1の接近を列車検出部7Bが検出して、列車検出部7Bが列車検出信号を制御部14に出力する。放射部6の位置が接続位置であると位置検出部13が検出したときには、位置検出部13が接続位置検出信号を制御部14に出力する。放射部6の位置が接続位置であり、トンネル緩衝工4に放射部6が接続していると制御部14が判断したときには、放射部6の長さLh3がゼロになるように、長さ可変部12に離間動作を指令する。その結果、トンネル緩衝工4から放射部6が離間して放射部6の長さLh3がゼロになった状態で、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入し、一部のトンネル微気圧波W21が緩衝工口4aから放射し、一部のトンネル微気圧波W22が開口部6cから放射する。その結果、図12及び図13に示す緩衝工口4a及び開口部6cの2箇所からトンネル微気圧波W21,W22が放射し、図25に示すトンネル微気圧波W2が分散されて、トンネル微気圧波W2が低減する。
【0057】
この発明の第8実施形態に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造は、第1実施形態~第6実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第8実施形態では、緩衝工口4aに列車1が突入するときには、放射部6の長さLh3を所定長さに長さ可変部12が可変し、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入するときには、放射部6の長さLh3を長さ可変部12がゼロに可変する。反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入するときの放射時性能からは放射部6の長さLh3が0mでも効果があるが、トンネル緩衝工4に列車1が突入するときの突入時性能からは放射部6の長さLh3が20m程度必要である。この第8実施形態では、トンネル緩衝工4に列車1が突入するときには放射部6の長さLh3が20m程度であるが、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入するときには放射部6をずらして放射部6の長さLh3が0mとなる構造にすることができる。このため、緩衝工口4aに列車1が突入するときには、反対側のトンネル坑口3bから放射されるトンネル微気圧波W2をトンネル緩衝工4によって低減することができる。また、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入するときには、緩衝工口4a及び開口部6cの2箇所からトンネル微気圧波W2を分散させて放射させ、トンネル微気圧波W2を低減することができる。
【実施例
【0058】
次に、この発明の実施例について説明する。
この発明の実施例に係るトンネル緩衝工の微気圧波低減構造の効果を確認するために模型実験を実施した。図14に示す公益財団法人鉄道総合技術研究所のトンネル微気圧波模型実験装置を使用して、緩衝工模型に車両模型を打ち込み、トンネル模型の坑口から1mの位置に設置した2台の圧力計(圧力変換機P)によりトンネル模型内の圧縮波W1の波形を計測した。車両模型の速度を計測するために、4m離れでコイルを設置した。圧力勾配波形は中心差分で求めた。圧力計は、kulite社製の半導体圧力トランスデューサ(型式:XCS-190-5G)を使用した。
【0059】
模型実験では、車両、トンネル及びトンネル緩衝工に軸対称形状の模型を用いて、走行位置は車両とトンネルの中心軸を一致させた中心走行のみで車両の速度320km/h,360km/hで実施した。地面の効果は鏡像法により模擬し、縮尺は約1/127である。車両/トンネル断面積比は、新幹線相当の0.19とした。先頭部形状は回転楕円とし、その長さは実スケール15m相当とした。模型実験で使用した模型の主要諸元を以下の表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
(突入時性能)
図15に示す緩衝工模型の緩衝工口に模型列車が突入したときの突入時性能を確認した。図15は、図14に示すトンネル微気圧波模型実験装置で使用した緩衝工模型の模式図である。図15(A)に示す提案緩衝工は、図1図2及び図6に示す微気圧波低減構造5を備えるトンネル緩衝工4を模擬した実施例に係る緩衝工模型であり、断面積を2段階に変化させた従来の2段階緩衝工の延伸部分と既存部分との接続部の妻面を開放した妻面開放型の2段緩衝工である。図15(B)に示す2段緩衝工は、図24に示す従来のトンネル緩衝工104を模擬した緩衝工模型であり、断面積を2段階に変化させている。図14に示すトンネル微気圧波模型実験装置のトンネル模型のトンネル入口に、図16(A)に示す提案緩衝工及び図16(B)に示す2段階緩衝工をそれぞれ設置し、車両模型を突入させたときのトンネル模型内の圧縮波W1を測定して、トンネル微気圧波の大きさに対応する圧縮波W1の傾き(圧力勾配)の大きさを比較した。
【0062】
図17は、図16(A)に示す提案緩衝工及び図16(B)に示す2段緩衝工について、図15に示す模型実験を実施したときの突入時性能の実験結果である。図17に示す縦軸は、圧力勾配最大値比αであり、横軸は壁長さ(図2及び図6に示す放射部6の長さLh3に相当)(m)である。ここで、圧力勾配最大値比αとは、トンネル緩衝工4がない場合の圧力勾配最大値を1としたときに、トンネル緩衝工4がある場合の圧力勾配最大値の比である。図16(A)に示す提案緩衝工の壁長さを0m,5m,10m,20mと変化させ、模型車両の速度を320km/h,360km/hに変化させて、トンネル模型内の圧縮波W1の圧力勾配最大値比αをそれぞれ測定した。また、図16(B)に示す2段緩衝工について模型車両の速度を320km/h,360km/hと変化させて、トンネル模型内の圧縮波W1の圧力勾配最大値比αを測定した。その結果、図17に示すように、実験を行った現状の新幹線相当の条件では壁長さ10m以上において、提案緩衝工は2段階緩衝工よりも圧力勾配(トンネル微気圧波)を小さくできることが確認された。
【0063】
突入時性能の試験結果を一般化すると、緩衝工部6Aの断面積比σh≒1.4~1.5、緩衝工部6Aの全長Lh2≧Lh1、緩衝工部6Bの断面積比σh’≒2.5、緩衝工部6Bの全長Lh1>LW0・M/(1-M)、放射部6の長さLh3≒0.35~0.40LW0の条件下で突入時性能の向上が図れることが確認された。現状の新幹線列車(先頭部長さ15m程度以下、速度260~360km/h)を想定すると、緩衝工部4A,4Bの全長Lh1,Lh2が20m以上、放射部6の長さLh3が15~20m程度となることが確認された。
【0064】
(放射時性能)
図18に示すトンネル入口に模型列車が突入して緩衝工模型の緩衝工口からトンネル微気圧波W2が放射されたときの放射時性能を確認した。図18は、図14に示すトンネル微気圧波模型実験装置で使用した緩衝工模型の模式図である。図18(A)に示す提案緩衝工は、図3図4及び図6に示す微気圧波低減構造5を備えるトンネル緩衝工4を模擬した実施例に係る緩衝工模型であり、妻面開放型の2段緩衝工である。図18(B)に示す2段緩衝工は、図25に示す従来のトンネル緩衝工104を模擬した緩衝工模型であり、断面積を2段階に変化させている。図18(C)に示す通常緩衝工は、図22に示す従来のトンネル緩衝工104を模擬した緩衝工模型であり、断面積が一定である。図18(D)に示す緩衝工なしは、図21に示すトンネル緩衝工のないトンネルを模擬したトンネル模型である。
【0065】
図14に示すトンネル微気圧波模型実験装置のトンネル模型のトンネル出口に、図18(A)~(C)に示す提案緩衝工、2段階緩衝工及び通常緩衝工をそれぞれ設置して、トンネル入口から車両模型を突入させたときに、緩衝工口から放射されるトンネル微気圧波W2を、40m地点に相当する測定位置に設置されたマイクで測定した。また、図14に示すトンネル微気圧波模型実験装置のトンネル模型のトンネル出口に緩衝工模型を設置しないで、図18(D)に示すトンネル模型のみの状態で、トンネル入口から車両模型を突入させたときに、トンネル出口から放射されるトンネル微気圧波W2を40m地点に相当する測定位置に設置されたマイクで測定した。マイクは、リオン株式会社製の精密騒音計(型式:NL-32)を使用した。図18(A)及び図19(A)に示す提案緩衝工は、壁長さ20mであり、妻面開口部とトンネル本坑との断面積比1.1(壁厚を考慮して0.80)である。図19に示すマイクは、車両模型の移動方向に沿ったトンネル模型の中心線上にある緩衝工口の中心から水平方向に、放射角30°,60°,90°の測定位置にそれぞれ設置した。
【0066】
図20は、図18(A)に示す提案緩衝工、図18(B)に示す2段緩衝工、図18(C)に示す通常緩衝工及び図18(D)に示す緩衝工なしについて、図19に示す模型実験を実施したときの放射時性能の実験結果である。図20に示すように、模型車両の速度が320km/h,360km/hの場合にいずれの測定位置においても、提案緩衝工は2段緩衝工よりもトンネル微気圧波W2が小さくなることが確認された。また、放射角90°の測定位置以外の測定位置では、提案緩衝工は通常緩衝工のレベルまでトンネル微気圧波W2を低減可能であることが確認された。
【0067】
放射時性能の試験結果を一般化すると、通常緩衝工レベルまで低減する場合(以下、レベル1という)には放射部6の長さLh3>0.6LW0又はLh3≒0の条件で、2段緩衝工レベルまで低減する場合(以下、レベル2という)には放射部6の長さLh3>0.35LW0又はLh3≒0の条件で放射時性能の向上が図れることが確認された。現状の新幹線列車(先頭部長さ15m程度以下、速度260~360km/h)を想定すると、レベル1では放射部6の長さLh3が260km/hで20m、320km/hで30m、360km/hで40m(十分条件)であり、レベル2では放射部6の長さLh3が260km/hで15m、320km/hで20m、360km/hで25m(十分条件)であることが確認された。
【0068】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、移動体が列車1である場合を例に挙げて説明したが、磁気浮上式鉄道又は自動車などの他の移動体についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、固定構造物がトンネル3及びトンネル緩衝工4である場合を例に挙げて説明したが、固定構造物をこれらに限定するものではない。例えば、雪崩を通過させるために山腹斜面から線路上を覆う庇状のスノーシェッド(雪崩防護工)、吹雪、地吹雪による線路上の吹き溜まりの発生を防止するために線路上を覆うスノーシェルタ、斜面から転落又は落下してくる落石を通過させるために線路上を覆う落石覆い(落石防護工)などの固定構造物についても、この発明を適用することができる。さらに、列車1が新幹線列車である場合を例に挙げて説明したが、在来線を走行する在来線列車、又は新幹線と在来線とを相互に走行可能な新在直通運転用の列車などについても、この発明を適用することができる。
【0069】
(2) この実施形態では、軌道2が複線である場合を例に挙げて説明したが、軌道2が単線又は複々線である場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、トンネル緩衝工4の断面が半円形又は矩形である場合を例に挙げて説明したが、トンネル緩衝工4の断面形状をこれらに限定するものではない。例えば、六角形のような多角形である場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この第6実施形態では、放射部6を斜め上方又は垂直方向に直線状に向ける場合を例に挙げて説明したが、放射部の向きをこれらの方向に限定するものではない。例えば、放射部6を任意の方向に直線状又は曲線状に向ける場合についても、この発明を適用することができる。
【0070】
(3) この第7実施形態では、緩衝工口4aに列車1が突入する前に、開閉部8が開口部6aを閉鎖し、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入する前に、開閉部8が開口部6aを開放する場合を例に挙げて説明したが、このような開閉タイミングにこの発明を限定するものではない。例えば、緩衝工口4aに突入した列車1が反対側のトンネル坑口3bから退出するときに、開閉部8が開口部6aを開放する場合や、反対側のトンネル坑口3bに突入した列車1が緩衝工口4aから退出するときに、開閉部8が開口部6aを閉鎖する場合についても、この発明を適用することができる。同様に、この第8実施形態では、緩衝工口4aに列車1が突入する前に、放射部6をトンネル緩衝工4に長さ可変部12が接続し、反対側のトンネル坑口3bに列車1が突入する前に、放射部6をトンネル緩衝工4から長さ可変部12が離間させる場合を例に挙げて説明したが、このような開閉タイミングにこの発明を限定するものではない。例えば、緩衝工口4aに突入した列車1が反対側のトンネル坑口3bから退出するときに、放射部6をトンネル緩衝工4から長さ可変部12が離間させる場合や、反対側のトンネル坑口3bに突入した列車1が緩衝工口4aから退出するときに、放射部6をトンネル緩衝工4に長さ可変部12が接続する場合についても、この発明を適用することができる。
【0071】
(4) この第8実施形態では、トンネル緩衝工4に対して放射部6を長さ可変部12が接続及び離間して放射部6の長さLh3を可変する場合を例に挙げて説明したが、トンネル緩衝工4に対して放射部6を長さ可変部12が進退させて放射部6の長さLh3を可変する場合についても、この発明を適用することができる。例えば、トンネル緩衝工4から放射部6を長さ可変部12が進出させて放射部6の長さLh3を所定長さにし、トンネル緩衝工4に放射部6を長さ可変部12が後退させて放射部6の長さLh3をゼロにすることもできる。また、この第7実施形態及び第8実施形態では、電気的又は光学的に列車1の通過を列車検出部7A,7Bが検出する場合を例に挙げて説明したが、列車1の運行を管理する運行管理システムの位置情報に基づいて列車1の通過を列車検出部7A,7Bが検出する場合につても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 列車(移動体)
2 軌道
3 トンネル
3a トンネル坑口(トンネル坑口)
3b トンネル坑口(反対側トンネル坑口)
4 トンネル緩衝工
4A 緩衝工部(第1の緩衝工部)
4B 緩衝工部(第2の緩衝工部)
4a 緩衝工口
4c 側部(壁部)
4d 天部(壁部)
5 微気圧波低減構造
6 放射部
6a 開口部
6b 通過部
6c 開口部
7A,7B 列車検出部
8 開閉部
9 駆動部
10 開閉状態検出部
11 制御部
12 長さ可変部
13 位置検出部
14 制御部
U 列車の速度(移動体の速度)
n 先頭部長さ
W0 圧縮波の波面幅
h1 緩衝工部の全長(第1の緩衝工部の全長)
h2 緩衝工部の全長(第2の緩衝工部の全長)
h3 放射部の長さ(所定長さ)
A トンネルの断面積
h’ 緩衝工部の断面積(第1の緩衝工部の断面積)
h 緩衝工部の断面積(第2の緩衝工部の断面積)
σh’ 緩衝工部の断面積比(第1の緩衝工部の断面積比)
σh 緩衝工部の断面積比(第2の緩衝工部の断面積比)
1 圧縮波(トンネル内圧縮波)
2 トンネル微気圧波
21,W22 トンネル微気圧波(トンネル微気圧波W2の一部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図19
図20
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