IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコ カンパニー リミテッドの特許一覧

特許7488809電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法
<>
  • 特許-電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法 図1
  • 特許-電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法 図2
  • 特許-電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法 図3
  • 特許-電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/06 20060101AFI20240515BHJP
   C21D 1/76 20060101ALI20240515BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240515BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240515BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C23C22/06
C21D1/76 G
C21D9/46 Q
C22C38/00 302Z
C22C38/58
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021500799
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 KR2019007244
(87)【国際公開番号】W WO2020251103
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-01-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,クァン‐ミン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ミ‐ナム
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ボ‐ソン
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】池渕 立
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-297379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M8/02-8/0297
C23C22/00-30/00
C23G1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.1%以下、Si:0.1~1.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:15~24%、Ni:6~12%、Cu:0.5~3%、残りはFe及びその他不可避な不純物からなるステンレス母材、及び
前記ステンレス母材上に形成される不動態被膜、及び金属銅を含み、
前記不動態被膜は、Fe、Cr、Niを含む酸化物で形成され、
前記不動態被膜内には、Cr-Fe酸化物、Mn酸化物、Si酸化物を含み、
前記不動態被膜内に金属銅が局所的に分布し、前記金属銅(Cu)は、前記ステンレス母材と直接接触した状態を維持して、電子移動の通路となり、
前記不動態被膜は、厚さが0超過5nm以下であり、
前記不動態被膜の表面から2nm~3nmの間の厚さ領域のCu重量%含量が前記ステンレス母材のCu重量%含量に比べて1.5以上であり、
前記ステンレス母材、不動態被膜、及び金属銅からなるステンレス鋼の接触抵抗は、15mΩcm 以下であることを特徴とする電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項2】
重量%で、C:0.1%以下、Si:0.1~1.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:15~24%、Ni:6~12%、Cu:0.5~3%、残りはFe及びその他不可避な不純物からなるステンレス母材を光輝焼鈍して不動態被膜を形成するステップ、及び
酸性溶液に浸漬して前記不動態被膜内に金属銅を形成する前記ステンレス母材の表面を改質するステップ、を含み
前記不動態被膜の表面から2nm~3nmの間の厚さ領域のC重量%含量が前記ステンレス母材のCu重量%含量に比べて1.5以上であり、
前記ステンレス母材、不動態被膜、及び金属銅からなるステンレス鋼の接触抵抗は、15mΩcm 以下であることを特徴とする電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項3】
前記ステンレス母材の表面を改質するステップは、10~20%濃度の塩酸溶液に浸漬することを特徴とする請求項に記載の電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項4】
前記塩酸溶液の温度は、40~60℃であることを特徴とする請求項に記載の電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項5】
前記ステンレス母材の表面を改質するステップは、10~20%濃度の塩酸と5~10%濃度のフッ酸を含む混酸溶液に浸漬することを特徴とする請求項に記載の電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項6】
前記塩酸と前記フッ酸の混酸溶液の温度は、40~60℃であることを特徴とする請求項に記載の電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、ステンレス鋼の表面に形成された非伝導性の不動態被膜に金属銅が形成された電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気接点部は、非常に多様な電子製品に用いられており、特に、電子製品やモバイル器機のPCB基板に用いられ得る。電気接点部の最も重要な特性は電気伝導性である。銅(Cu)、ニッケル(Ni)は、表面電気伝導性に優れるが、一定レベル以上の硬度が要求される電気接点部には、軟性金属である銅(Cu)又はニッケル(Ni)を単独で用いることができない。
よって、相対的に高い硬度を有しているステンレス鋼を用い、電気接点部の用途として0.3mm厚さ未満のステンレス薄板を用いる。このようなステンレス薄板は、冷間圧延及び光輝焼鈍熱処理工程を経て製造される。厚さ0.3mm未満のステンレス鋼の冷延コイルは、冷間圧延後のコイル張力(coil tension)制御の難しさ、圧入溝などの表面欠陥の防止のために酸化性雰囲気で焼鈍熱処理を実施せず、再結晶及び応力除去のために濃度70%以上の水素と窒素が含有された還元性雰囲気で光輝焼鈍(Bright Annealing)熱処理を行う。
【0003】
光輝焼鈍熱処理は、還元性雰囲気で熱処理を行うため、通常の酸化性雰囲気で形成される数μmの厚さの高温酸化スケールの形態ではない滑らかな表面状態を有する数nmの厚さの不動態被膜が形成されたステンレス鋼板を製造することができる。このような光輝焼鈍工程を通じて形成された不動態被膜は、高い抵抗値を示すので、これを電気接点部で用いるためには、光輝焼鈍工程を通じて形成された不動態被膜を除去することが重要である。
光輝焼鈍工程を通じて形成された不動態被膜を除去してステンレス鋼板が空気中に露出されると、空気中で酸素と結合してnm厚さの不動態被膜がさらに形成される。空気中で形成された不動態被膜は、Fe含量が高く、厚さが厚いため、電気接点部として用いることに適合しない。よって、伝導性物質をメッキせずにはステンレス鋼単独で電気接点部に使いにくく、電気接点部の用途で用いるためには、ステンレス母材と不動態被膜の間の面の接触抵抗及び電気伝導性を向上させる後処理工程が必要である。
【0004】
このような問題を解決するために、高い硬度を有するステンレス鋼に金(Au)又はニッケル(Ni)などの伝導性金属をメッキして用いているが、メッキをするための追加工程による製造コスト及び製造時間が増加し、メッキを一枚一枚別に進行しなければならないので、大量生産が難しいという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、別途のメッキ工程なしに電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提供することにある。
また、他の目的とするところは、電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施例による電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.1%以下、Si:0.1~1.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:15~24%、Ni:6~12%、Cu:0.5~3%、残りは、Fe及びその他不可避な不純物からなるステンレス母材、及び前記ステンレス母材上に形成される不動態被膜を含み、前記不動態被膜は、厚さが0超過5nm以下であり、前記不動態被膜の表面から2~3nmの間の厚さ領域のCu重量%含量が前記ステンレス母材のCu重量%含量に比べて1.5以上であることを特徴とする。
【0007】
前記不動態被膜は、Fe、Cr、Niを含む酸化物で形成されることができる。
前記ステンレス鋼の接触抵抗は、15mΩcm以下であることがよい。
前記ステンレスの表面粗さは、1.13μm以下であることが好ましい。
【0008】
本発明の他の一実施例による電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.1%以下、Si:0.1~1.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:15~24%、Ni:6~12%、Cu:0.5~3%、残りは、Fe及びその他不可避な不純物からなるステンレス母材を光輝焼鈍して不動態被膜を形成するステップ、及び酸性溶液に浸漬して前記不動態被膜内に金属銅を形成する前記ステンレス母材の表面を改質するステップを含むことを特徴とする。
【0009】
前記ステンレス母材の表面を改質するステップは、10~20%濃度の塩酸溶液に浸漬すること好ましい。
前記塩酸溶液の温度は、40~60℃であることがよい。
前記ステンレス母材の表面を改質するステップは、10~20%濃度の塩酸と5~10%濃度のフッ酸を含む混酸溶液に浸漬することができる。
前記塩酸と前記フッ酸の混酸溶液の温度は、40~60℃であることがよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施例による電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法によると、別途のメッキ工程がなくとも優れた電気伝導性を有するステンレス鋼を製造することができる。これによって、生産工程を単純化して原価節減と生産性の向上が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例による電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の断面図である。
図2】従来のオーステナイト系ステンレス鋼の断面図である。
図3】本発明の一実施例である実施例8のステンレス表面に形成された銅を走査電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)を用いて撮影した写真である。
図4】比較例6のステンレス表面を走査電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)を用いて撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施例によると、ステンレス鋼母材10は、重量%で、C:0.1%以下、Si:0.1~1.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:15~24%、Ni:6~12%、Cu:0.5~3%、残りは、Fe及びその他不可避な不純物からなるステンレス母材、及び前記ステンレス母材上に形成される不動態被膜、を含み、前記不動態被膜は、厚さが0超過5nm以下であり、前記不動態被膜の表面から2~3nmの間の厚さ領域のCu重量%含量が前記ステンレス母材のCu重量%含量に比べて1.5以上であることを特徴とする。
【0013】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者に本発明の思想を充分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例に限定されず、他の形態に具体化できる。図面は、本発明を明確にするために説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現した。
【0014】
図1は、本発明の一実施例による電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の断面図であり、図2は、従来のオーステナイト系ステンレス鋼の断面図である。
図1に示したとおり、本発明の一実施例による電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼は、ステンレス母材10及びステンレス母材10上に形成された不動態被膜20を含む。また、不動態被膜20に金属銅30が分布していることが確認できる。
【0015】
本発明の一実施例によると、ステンレス鋼母材10は、重量%で、C:0.1%以下、Si:0.1~1.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:15~24%、Ni:6~12%、Cu:0.5~3%、残りは、Fe及びその他不可避な不純物からなる。
以下、本発明による電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の母材に含まれる各成分の役目及びその含量に対して説明する。下記成分に対する%は、重量%を意味する。
【0016】
C(炭素)の含量は、0.1%以下である。
Cは、オーステナイト相の安定化元素であって、多量に添加するほどオーステナイト相を安定化させる効果がある。ただし、Cを0.1%以下含有すると、クロム(Cr)が欠乏した層の耐食性を阻害する。よって、本発明の一実施例によるCの範囲を0.1%以下に制限する。
【0017】
Si(シリコン)の含量は、0.1~1.0%である。
Siは、製鋼ステップで脱酸剤として添加される成分であって、光輝焼鈍(Bright Annealing)工程を経る場合、不動態被膜にSi酸化物を形成して鋼の耐食性を向上させ得る。しかし、Siを1.0%以上含む場合には、鋼の軟性を低下させる。よって、本発明の一実施例によるSiの範囲を0.1~1.0%に制限する。
【0018】
Mn(マンガン)の含量は、0.1~2.0%である。
Mnは、オーステナイト相の安定化元素であって、多量に添加するほどオーステナイト相が安定し、0.1%以上を含有する。ただし、Mnを過度に添加すると、耐食性が阻害され得るので、その上限を2%以下に制限することが適切である。よって、本発明の一実施例によるMnの範囲を0.1~2.0%に制限する。
【0019】
Cr(クロム)の含量は、15~24%である。
Crは、耐食性のための必須な元素である。大気での耐食性の確保のために15%以上を添加する。ただし、Crは、フェライト相の生成元素であって、Crを過多に添加する場合、過多なデルタ(δ)-フェライト相が残存して熱間加工性を低下させるので、上限を24%に制限することが適切である。よって、本発明の一実施例によるCrの範囲を15~24%に制限する。
【0020】
Ni(ニッケル)の含量は、6~12%である。
Niは、オーステナイト相の安定化元素として必須元素である。表面改質時にステンレス母材の激しい溶解を抑制して伝導性不動態被膜の形成に容易であるので、6%以上添加する。しかし、高価のNiを過度に添加すると、コストが上昇する問題があるので、その上限を12%に制限する。よって、本発明の一実施例によるNi含量を6~12%に制限する。
【0021】
Cu(銅)の含量は、0.5~3.0%である。
Cuは、耐食性と延伸率を向上させる元素である。Cuの含量が0.5%以下である場合には、後述する不動態被膜の生成においてステンレスの自然電位が高いか金属銅に還元されるCu2+の濃度が不足して金属銅が生成されない場合があって接触抵抗が高くなり得るので、最小含量を0.5%にする。ただし、Cuを過度に添加する場合、熱間加工性が低下するので、その上限を3.0%に制限する。よって、本発明の一実施例によるCu含量を0.5~3.0%に制限する。
【0022】
本発明の一実施例による電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼は、ステンレス母材10上に形成される不動態被膜20を含み、不動態被膜20は、厚さ(t1)が0超過5nm以下であってもよい。
不動態被膜20の厚さ(t1)が5nm以下に薄膜化が行われることによって通常の絶縁性に近い半導体的特性を有する不動態被膜を薄膜化して接触抵抗を減少させ得る。
また、不動態被膜20の表面から2~3nmの間の厚さ領域のCu重量%の含量がステンレス母材10のCu重量%の含量に比べて1.5以上であってもよい。不動態被膜20の表面から2~3nmの間の厚さ領域に位置するCuは、表面改質ステップで、ステンレス母材で溶解されたCu2+が還元されて形成されたものである。Cuが形成された位置には不動態被膜が形成されず、Cuは、ステンレス母材10と直接接触した状態を維持することができるので、Cuは、電子移動の通路になって不動態被膜の接触抵抗を低く確保することができる。それによって、優れた電気伝導性を確保することが可能である。
また、不動態被膜20は、Fe、Cr、Niを含む酸化物で形成され得る。
【0023】
また、ステンレス鋼の接触抵抗は、15mΩcm以下であってもよい。接触抵抗は、他の物体とステンレス鋼が接触したとき、他の物体とステンレス鋼の不動態被膜20の接触面から発生する接触抵抗と不動態被膜20自体の接触抵抗を合わせた値である。本発明の一実施例によると、Cuが電子移動の通路になって不動態被膜20に電子が移動せずにステンレス母材10に電子が移動して接触抵抗を低めることができる。それによって、優れた電気伝導性を確保することが可能である。
また、ステンレスの表面粗さは、1.13μm以下であってもよい。表面粗さが増加する場合、接触抵抗が増加するので、その上限を1.13μmにする。
【0024】
以下、本発明の一実施例による電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を製造する工程を説明する。
本発明の一実施例による電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.1%以下、Si:0.1~1.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:15~24%、Ni:6~12%、Cu:0.5~3%、残りは、Fe及びその他不可避な不純物を含むステンレス母材を光輝焼鈍して第1不動態被膜を形成するステップ、及び酸性溶液に浸漬して前記第1不動態被膜を除去して第2不動態被膜を形成する前記ステンレス母材の表面を改質するステップを含む。
【0025】
合金成分の含量の数値限定理由に対する説明は、上述した通りである。
上述した合金成分の組成を有するステンレス鋼の主片を熱間圧延、焼鈍、酸洗、冷間圧延、光輝焼鈍工程を経てステンレス鋼の冷延薄板を製造する。冷間圧延ステップでは、上述した合金成分の含量のステンレス鋼の薄板をZ-mill冷間圧延機を用いて圧延し、その後、熱処理ステップで、冷延薄板を光輝焼鈍熱処理して冷延薄板の表面に第1不動態被膜を形成する。
光輝焼鈍熱処理とは、無酸化性雰囲気で焼鈍を行うことを意味する。0.3mm厚さ以下のコイルの場合、コイル張力制御の難しさ及び表面欠陥を防止するために水素及び窒素が含有された還元性雰囲気で光輝焼鈍熱処理を実施する。このとき、水素含量は、70%以上であることが適切である。
【0026】
光輝焼鈍熱処理は、還元性雰囲気で行われるので、滑らかな表面状態を有する数nm厚さの不動態被膜が形成され得、このような不動態被膜には、Cr-Fe酸化物、Mn酸化物、Si酸化物などが形成され得る。
光輝焼鈍熱処理過程を経た冷延薄板は、その表面に形成された数nm厚さの不動態被膜により界面接触抵抗が増加することになる。
したがって、光輝焼鈍されたステンレス鋼薄板を電気接点部の用途で用いるためには、ステンレス鋼薄板の表面に存在する非伝導性の不動態被膜を除去する必要がある。しかし、不動態被膜の特性上完全に除去することが難しく、不動態被膜の除去後に空気中に露出されると、空気中の酸素の影響によりさらに数nm厚さの非伝導性酸化被膜が形成されて優れた電気伝導性を有することができない。よって、本発明の一実施例によると、非伝導性の不動態被膜がある場合にも優れた電気伝導性を確保するために不動態被膜内に部分的に伝導性物質を生成する。本発明の一実施例によると、伝導性に優れた金属銅を不動態被膜内に局所的に形成して別に伝導性物質をメッキせずに電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を製造する。
【0027】
不動態被膜内に金属銅を形成するために酸性溶液に浸漬してステンレス母材の表面を改質するステップを含む。
酸性溶液としては、10~20%濃度の塩酸(HCl)溶液が用いることができる。塩酸溶液の温度は、40~60℃であってもよい。
また、酸性溶液としては、10~20%濃度の塩酸(HCl)と5~10%濃度のフッ酸(HF)を含む混酸溶液が用いることができる。このとき、混酸溶液の温度は、40~60℃であることがよい。
【0028】
酸性溶液にステンレス鋼を浸漬すると、ステンレス母材の表面の不動態被膜が一部除去される。不動態被膜が除去されると、ステンレス母材が酸性溶液に露出されて母材の溶解が発生する。よって、母材内のFe2+、Cr3+、Ni2+、Cu2+のような金属イオンが溶液内に存在する。ステンレス母材が酸性溶液に露出されてステンレス母材の自然電位が低くなり、Cuの場合、高い還元電位を有するのでCu2+イオンが金属銅に還元される。このとき、ステンレス母材は、酸性溶液内で空気との接触がないので不動態被膜が再生成されない。また、Cu2+イオンが金属銅に還元された後に空気との接触により非伝導性の不動態被膜が再生成されても金属銅が生成された位置には不動態被膜が生成されない。また、金属銅は、ステンレス母材と直接接触した状態を維持できるので、金属銅は電子移動の通路になり得る。
【0029】
塩酸(HCl)の濃度が過度に低いと、ステンレス母材の自然電位が銅の還元電位より高くて金属銅の還元が起きないので接触抵抗の減少効果が低下する。これと反対に、塩酸の濃度が過度に高いと、表面のステンレス鋼表面の金属銅による接触抵抗の減少効果が飽和され得る。また、ステンレス母材の浸食が激しいので接触抵抗の減少効果が低下し得る。これによって、本発明の一実施例によると、塩酸溶液の濃度を10~20%に制限できる。
フッ酸(HF)は、不動態被膜の除去を助けてステンレスの自然電位を銅の還元電位より低めて金属銅が生成されるようにする。ただし、フッ酸の濃度が過度に低いと、塩酸浸漬時間が長くなって金属銅の生成効率が低いので接触抵抗の減少効果が低下する虞がある。これと反対に、フッ酸の濃度が過度に高いと、ステンレス母材の浸食が激しくなる。このため、本発明の一実施例によると、フッ酸溶液の濃度を5~10%に制限する。
【0030】
金属銅を形成するために表面改質に用いられる酸性溶液の温度は、40~60℃であることがよい。酸性溶液の温度が40℃未満である場合には、ステンレス母材の自然電位が高くて金属銅の生成が難しくなり接触抵抗の減少が低下する。これとは反対に酸性溶液の温度が60℃を超過する場合には、ステンレス母材の浸食が激しくなり接触抵抗の減少が低下する。このため、本発明の一実施例によると、酸性溶液の温度を40~60℃に制限することがyぴ。
このような本発明の一実施例によって製造されたステンレス鋼は、ステンレス母材とステンレス母材上に形成された不動態被膜を含む。不動態被膜に形成された金属銅によりステンレス鋼の接触抵抗は、15mΩcmであってもよい。このように接触抵抗を減少させて優れた電気伝導性を有するステンレス鋼の製造が可能である。
【0031】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に実施するが、実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲がこれら実施例によって限定されるものではない。
【0032】
発明鋼及び比較鋼
下記表1に示した成分含量を含むオーステナイト系ステンレス鋼をZ-mill冷間圧延機を通じて冷間圧延した後、水素(75vol%)及び窒素(25vol%)を含む還元性雰囲気で光輝焼鈍熱処理を実施して、0.1mm厚さの冷延薄板を製造した。
【0033】
【表1】
表1に記載した発明鋼及び比較鋼の冷延薄板を下記表2の条件によって表面改質を実行した。
【0034】
【表2】
【0035】
表3は、表面改質ステップを行った後の不動態被膜の厚さ、不動態被膜の表面から2~3nmの間の厚さ領域のCu含量とステンレス母材内のCu含量の割合、表面粗さ、接触抵抗を示した表である。
【0036】
【表3】
【0037】
表1~表3に示したとおり、実施例1~実施例6で、酸溶液の濃度が高くなるか浸漬時間が長くなるほどステンレス母材の溶解が多く発生してステンレスの自然電位が低くなって金属銅の生成が容易になるが、表面粗さが粗くなることが確認できる。すなわち、酸溶液の濃度が高くなるか浸漬時間が長くなるほど不動態被膜の表面から2~3nmの間の厚さのCu含量/母材内のCu含量の割合が大きくなり且つ表面粗さが粗くなることを確認でき、これによって、低い接触抵抗を有することを確認できる。
また、実施例9、実施例10を通じてステンレス母材内のCu含量が高くて酸性溶液内での金属銅の生成が容易なので接触抵抗が減少したことが確認できる。
【0038】
比較例1、比較例2の場合、酸性溶液の濃度が低くてステンレスの自然電位が高いので金属銅が少なく生成されて不動態被膜の表面から2~3nmの間の厚さのCu含量/母材内のCu含量の割合が少なく、これによって、接触抵抗が増加したことが確認できる。
比較例3~比較例5の場合、ステンレス母材内にCu含量が0.5重量%より少なくて金属銅に還元されるCu2+の濃度が不足し金属銅がほとんど生成されず接触抵抗が高いことが確認できる。
比較例6の場合、表面改質を進行せず接触抵抗が高いことが確認できる。
比較例7の場合、Cr含量が15%以下である場合であって、Cr含量が低くてステンレスの耐食性が不足する場合であって、ステンレス母材の浸食が激しく表面の金属銅の割合が高くなったにもかかわらず表面粗さが大きく増加して接触抵抗が増加したことが確認できる。
【0039】
図3は、本発明の一実施例である実施例8のステンレス表面に形成された銅を走査電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)を用いて撮影した写真である。
図4は、比較例6のステンレス表面を走査電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)を用いて撮影した写真である。
図3から確認できるとおり、本発明の一実施例による成分含量を有するステンレス鋼に対して本発明の一実施例による表面改質を進める場合、ステンレス表面に金属銅が形成されることが確認できる。図4の場合には、ステンレス表面に金属銅が形成されないことが確認できる。
【0040】
以上のように、本発明の一実施例によって製造された電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼は、表面に形成される金属銅によりステンレス鋼の接触抵抗が低く形成されることで、別途のメッキ工程や後処理工程がなくとも電気伝導性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を製造することが可能である。
【0041】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、該当技術分野において通常の知識を有した者であれば、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を逸脱しない範囲で多様に変更及び変形が可能であることを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の実施例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、別途のメッキ工程がなくとも電気伝導性が向上されて燃料電池分離板の用途として適用され得る。
図1
図2
図3
図4