(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】変性ビニルアルコール系重合体及び懸濁重合用分散安定剤
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20240515BHJP
C08F 2/20 20060101ALI20240515BHJP
C08F 8/12 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C08F290/06
C08F2/20
C08F8/12
(21)【出願番号】P 2021530571
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024268
(87)【国際公開番号】W WO2021006016
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2019127862
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 亘
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-001505(JP,A)
【文献】特開平11-217413(JP,A)
【文献】国際公開第2010/113569(WO,A1)
【文献】特開2004-075870(JP,A)
【文献】国際公開第2013/115239(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/06
C08F 2/20
C08F 216/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)に示す部分を有し、当該部分はエーテル結合及び/又は炭素-炭素結合のみを介してポリビニルアルコール鎖と結合しているポリオキシアルキレン単位と、
ポリビニルアルコール鎖と結合している有機酸単位と、
を有する変性ビニルアルコール系重合体であって、
変性ビニルアルコール系重合体のポリビニルアルコール鎖を構成する単量体単位の全モル数に対する、前記ポリオキシアルキレン単位と結合している前記単量体単位のモル数の割合が0.01モル%~5モル%であり、かつ、変性ビニルアルコール系重合体のポリビニルアルコール鎖を構成する単量体単位の全モル数に対する、有機酸単位のモル数の割合が0.1モル%~10モル%であ
り、
変性ビニルアルコール系重合体のけん化度が70モル%以上である変性ビニルアルコール系重合体。
【化1】
(式中、R
1及びR
2
は水素原子であり、R
3はアルキル基又は水素原子である。nは繰り返し単位数を表し、5≦n≦70の整数である。)
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレン単位の少なくとも一部が一般式(II)に示す部分を有する請求項1に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3は請求項1に記載の通りである。R
4及びR
5は一方がメチル基又はエチル基であり、他方が水素原子である。mは繰り返し単位数を表し、1≦m≦30の整数である。但し、繰り返し単位数nの部分と、繰り返し単位数mの部分は異なる。)
【請求項3】
有機酸単位がカルボン酸エステルを有する請求項1又は2に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項4】
粘度平均重合度が500~400
0である請求項1~3の何れか一項に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の変性ビニルアルコール系重合体を含有する懸濁重合用分散安定剤。
【請求項6】
請求項5に記載された懸濁重合用分散安定剤を用いて、ビニル系化合物単量体、又はビニル系化合物単量体とそれに共重合し得る単量体との混合物を水中に分散させて懸濁重合を行うことを含むビニル系樹脂の製造方法。
【請求項7】
ビニルエステル系単量体を、不飽和有機酸の共存下で、前記ポリオキシアルキレン単位を有する不飽和単量体と共重合して変性ビニルエステル系重合体を得る工程を含む請求項1~4の何れか一項に記載の変性ビニルアルコール系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ビニルアルコール系重合体に関する。また、本発明は、懸濁重合用分散安定剤、とりわけ塩化ビニルに代表されるビニル系化合物の懸濁重合に適した分散安定剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体とこれに共重合し得る単量体との混合物を懸濁重合する場合において、各種の分散安定剤を使用することは必須であり、ポリビニルアルコール、メチロールセルロース、ゼラチン等の分散安定剤が用いられているが、なかでもポリビニルアルコール(以下、「PVA」ともいう。)は優れた性質を有しており、一般に最も使用されている。例えば、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤として、側鎖に特定のオキシアルキレン基を有する変性PVAを用いる方法等が提案されている(特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1では、下記の一般式で示されるポリオキシアルキレン基を側鎖に含有するビニルアルコール系重合体であり、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度が600~5000であり、けん化度が60モル%以上であり、ポリオキシアルキレン基の変性量が0.1~10モル%であるポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系共重合体(A)を含有するビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤が開示されている。
【化1】
(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子または炭素数1~8のアルキル基を表す。mとnはそれぞれのオキシアルキレンユニットの繰り返し単位数を表し、1≦m≦10、3≦n≦20である。)
【0004】
特許文献1には当該分散安定剤による効果として以下のように記載されている。当該分散安定剤をビニル系化合物の懸濁重合に用いた場合には、少量の添加で高い重合安定性が付与される。それによって、重合が不安定なことに起因するブロック化やスケール付着が低減するとともに、粗大粒子が少なくてシャープな粒度分布を有する、かさ比重の高いビニル系重合体粒子が得られる。
【0005】
特許文献2には、アルキレン基の炭素数が2~4であり、繰り返し単位数が2以上100以下のポリオキシアルキレン基を側鎖に有するポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体(A)を含有する懸濁重合用分散安定剤であって、該ポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体(A)は、粘度平均重合度が500未満であり、けん化度が70モル%より大きく、かつポリオキシアルキレン基変性率が0.1モル%以上10モル%以下である、懸濁重合用分散安定剤が開示されている。
【0006】
特許文献2には、前記ポリオキシアルキレン基として、下記一般式で示されるポリオキシアルキレン基が開示されている。
【化2】
(式中、R
1およびR
2は、ともに水素原子、またはいずれか一方がメチル基、他方が水素原子であり、R
3およびR
4は、いずれか一方がメチル基若しくはエチル基、他方が水素原子であり、R
5は水素原子または炭素数1~8のアルキル基を表す。mとnはそれぞれのオキシアルキレンユニットの繰り返し単位数を表し、1≦m≦50、1≦n≦50である。)
【0007】
特許文献2には当該分散安定剤による効果として以下のように記載されている。当該分散安定剤を用いてビニル系化合物の懸濁重合を行った場合には、重合安定性が高いため粗大粒子の形成が少なく、粒子径が均一な粒子が得られる。さらに、重合が不安定なことに起因するブロック化やスケール付着が低減し、可塑剤吸収性および脱モノマー性に優れた重合体粒子が得られる。
【0008】
特許文献3には、ケン化度が65~85モル%で、側鎖にオキシアルキレン基を0.1~10モル%含有し、かつヨード呈色度の値が0.3以上である部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂からなることを特徴とする分散安定剤が開示されている。特許文献3によれば、オキシアルキレン基は下記の一般式で表される。
【化3】
(式中R
1、R
2は水素原子又はアルキル基、nは0または正の整数、Xは水素原子、アルキル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基のいずれかをそれぞれ表す。)
【0009】
特許文献3には当該分散安定剤による効果として以下のように記載されている。従来品に比べ、緩衝液(剤)を用いる懸濁重合においても、保護コロイド性が低下することなく、重合安定性が良好で、得られるビニル系重合体の可塑剤吸収性、フィッシュアイの減衰速度等の性能が良好で、かつビニル系重合体の粗大粒子の生成もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2010/113569号
【文献】国際公開第2013/115239号
【文献】特開2004-075870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
通常、塩化ビニルの懸濁重合はバッチ式で行われている。具体的には、重合缶中に水媒体、分散安定剤、重合開始剤及び塩化ビニル系単量体を仕込み、更に必要とされる添加剤を加えた後、重合温度まで除々に昇温して反応を行わせるという方法である。しかし、この様な方法では仕込み及び昇温に非常に長時間を要し、仕込み及び昇温だけで1サイクルの重合時間の10%以上も占めることがあるため、重合体の生産性低下の一因となっており当業者の長年の懸案となっていた。しかるにかかる課題を解決すべく種々の方法が検討され、40℃以上の温水を利用する温水仕込み重合法(ホットウォーターチャージ方式)が提案されており、重合時における工程面及び時間短縮において大きな効果を示している。また、近年東南アジア等気温の高い地域でも、インフラ需要の成長から塩化ビニル樹脂の製造が活発化しており、40℃以上の温水を利用する事象が増加している。
【0012】
しかしながら、特許文献1~3に記載された分散安定剤は、温水を供給した際に一部のポリビニルアルコールが析出し、水溶液を白濁させて分散安定剤としての本来優れた効果を発揮できないばかりか、塩化ビニル系単量体の重合安定性及び樹脂の物性面に悪影響を及ぼすことがある。具体的には(1)製造された塩化ビニル樹脂粒子中に粗大粒子が少ないこと、(2)できるだけ粒子径が均一な樹脂粒子が得られ、スケール付着を防止できること、(3)高いかさ密度の樹脂となり、結果として塩化ビニル加工時の成形加工性が向上できるといった要求性能に対して、必ずしも満足すべき性能が得られないという弊害が生じている。
【0013】
そこで、本発明は、塩化ビニルのようなビニル系化合物の懸濁重合に際して、40℃以上の温水を利用する温水仕込み重合法を採用できる等のハンドリング性に優れ、上記(1)~(3)の要求性能を充足する懸濁重合用分散安定剤として好適な変性ビニルアルコール系重合体を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、所定のポリオキシアルキレン単位(以下、「アルキレン変性基」という。)を0.01モル%~5モル%の変性率で有し、所定の有機酸単位を0.1モル%~10モル%の変性率で有する変性ビニルアルコール系重合体をビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤として使用することが有効であることを見出した。
【0015】
従って、本発明は一側面において、以下に例示される。
[1]
一般式(I)に示す部分を有し、当該部分はエーテル結合及び/又は炭素-炭素結合のみを介してポリビニルアルコール鎖と結合しているポリオキシアルキレン単位と、
ポリビニルアルコール鎖と結合している有機酸単位と、
を有する変性ビニルアルコール系重合体であって、
変性ビニルアルコール系重合体のポリビニルアルコール鎖を構成する単量体単位の全モル数に対する、前記ポリオキシアルキレン単位と結合している前記単量体単位のモル数の割合が0.01モル%~5モル%であり、かつ、変性ビニルアルコール系重合体のポリビニルアルコール鎖を構成する単量体単位の全モル数に対する、有機酸単位のモル数の割合が0.1モル%~10モル%である変性ビニルアルコール系重合体。
【化4】
(式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基又は水素原子であり、R
3はアルキル基又は水素原子である。nは繰り返し単位数を表し、5≦n≦70の整数である。)
[2]
前記ポリオキシアルキレン単位の少なくとも一部が一般式(II)に示す部分を有する[1]に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3は[1]に記載の通りである。R
4及びR
5は一方がメチル基又はエチル基であり、他方が水素原子である。mは繰り返し単位数を表し、1≦m≦30の整数である。但し、繰り返し単位数nの部分と、繰り返し単位数mの部分は異なる。)
[3]
有機酸単位がカルボン酸エステルを有する[1]又は[2]に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
[4]
粘度平均重合度が500~4000であり、けん化度が70モル%以上である[1]~[3]の何れか一項に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
[5]
[1]~[4]の何れか一項に記載の変性ビニルアルコール系重合体を含有する懸濁重合用分散安定剤。
[6]
[5]に記載された懸濁重合用分散安定剤を用いて、ビニル系化合物単量体、又はビニル系化合物単量体とそれに共重合し得る単量体との混合物を水中に分散させて懸濁重合を行うことを含むビニル系樹脂の製造方法。
[7]
ビニルエステル系単量体を、不飽和有機酸の共存下で、前記ポリオキシアルキレン単位を有する不飽和単量体と共重合して変性ビニルエステル系重合体を得る工程を含む[1]~[4]の何れか一項に記載の変性ビニルアルコール系重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の懸濁重合用分散安定剤を用いてビニル系化合物の懸濁重合を行った場合には、粗大粒子の形成が少なく、粒子径の均一性が高い樹脂粒子が得られる。さらに、粗大粒子の形成が少ないために重合時のブロック化が抑制され、粒子径の均一性が高い粒子が得られることからスケール付着が低減する。加えて、高いかさ密度の樹脂が得られ、樹脂加工時の生産性が向上する。また、この分散剤は40℃以上の温水を利用する温水仕込み重合法(ホットウォーターチャージ方式)や平均気温の高い地域でも本来の性能を損なわず使用できる。このように、本発明の懸濁重合用分散安定剤は従来技術では達成することが難しかった要求性能を兼備することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は一実施形態において、一般式(I)に示す部分を有し、当該部分はエーテル結合及び/又は炭素-炭素結合のみを介してポリビニルアルコール鎖と結合しているポリオキシアルキレン単位と、
ポリビニルアルコール鎖と結合している有機酸単位と、
を有する変性ビニルアルコール系重合体(以下、「変性PVA」ともいう。)を含有する。
【0018】
【化6】
(式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基又は水素原子であり、R
3はアルキル基又は水素原子である。nは繰り返し単位数を表し、5≦n≦70の整数である。)
【0019】
nは10以上が好ましく、15以上がより好ましく、20以上がより好ましい。また、nは70以下が好ましく、60以下がより好ましい。
【0020】
上記ポリオキシアルキレン単位の少なくとも一部は、一般式(II)に示すように異なる部分を二種以上持つことが好ましい。上記ポリオキシアルキレン単位はその全部が一般式(II)に示すように異なるオキシアルキレン部分を二種以上有することがより好ましい。一般式(II)に示す二種以上の部分としては、具体的には、繰り返し単位数mの部分がブチレンオキサイド(R
4又はR
5がエチル基、他方が水素原子)であり、繰り返し単位数nの部分がエチレンオキサイド(R
1、R
2共に水素原子)であるものや、繰り返し単位数mの部分がプロピレンオキサイド(R
4又はR
5がメチル基、他方が水素原子)であり、繰り返し単位数nの部分がエチレンオキサイド(R
1、R
2共に水素原子)であるもの等が挙げられる。ここで、繰り返し単位数がmである部分と、繰り返し単位数がnである部分は、ランダム的及びブロック的な配置のどちらの形態になっていてもよいが、アルキレン変性基に基づく物性がより一層発現しやすい観点から、ブロック的な配置であることが好ましい。
【化7】
(式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基又は水素原子であり、R
3はアルキル基又は水素原子である。nは繰り返し単位数を表し、5≦n≦70の整数である。R
4及びR
5は一方がメチル基又はエチル基であり、他方が水素原子である。mは繰り返し単位数を表し、1≦m≦30の整数である。但し、繰り返し単位数nの部分と、繰り返し単位数mの部分は異なる。)
【0021】
mは3以上が好ましく、5以上がより好ましい。また、mは25以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0022】
R3を表すアルキル基は、例えば炭素数が1~10のアルキル基とすることができ、炭素数1~5のアルキル基が好ましく、1~3のアルキル基がより好ましい。R3を表すアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
【0023】
一般式(I)及び一般式(II)に示す部分はそれぞれ、エーテル結合及び/又は炭素-炭素結合のみを介してポリビニルアルコール鎖と結合していることがpHの変化で脱離し、性能を発揮できないことを防止する観点から好ましい。
【0024】
上記変性PVA中の有機酸単位としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸及びこれらの塩の他、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチルなどの不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる。更に、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸などの不飽和スルホン酸及びこれらの塩の他、不飽和スルホン酸エステル等も挙げられる。変性PVAは有機酸単位を一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0025】
本発明の変性PVAにおいて、有機酸単位は特に制限されないが、けん化・乾燥の際にビニル系化合物の重合時に反応性を示しうる二重結合をポリマー中に生成する不飽和カルボン酸エステルが好ましい。
【0026】
上記変性PVAは、アルキレン変性基の種類にも依存するが、アルキレン変性率が0.01モル%以上5モル%以下であることが重要である。アルキレン変性率が5モル%を超えると、変性PVA一分子当りに含まれる親水基・疎水基のバランスが保てず、該変性PVAの水溶性の低下やビニル系化合物単量体との親和性が悪化するため、懸濁重合用分散安定剤として用いることが困難となる。よって、アルキレン変性率は5モル%以下であることが重要であり、4モル%以下であることが好ましく、2モル%以下であることがより好ましい。一方、アルキレン変性率が0.01モル%未満の場合、水溶性は優れているものの、該変性PVA中に含まれる変性基の数が少なく、要求物性が十分に発現しない。よって、アルキレン変性率は0.01モル%以上であることが重要であり、0.05モル%以上であることが好ましく、0.1モル%以上であることがより好ましい。
【0027】
アルキレン変性率とは、変性PVAのポリビニルアルコール鎖を構成する単量体単位の全モル数に対する、上記一般式(I)に示す部分を有するポリオキシアルキレン単位と結合している前記単量体単位のモル数の割合(モル%)である。アルキレン変性率はプロトンNMRで求めることができる。具体的には、変性PVAをけん化度99.95モル%以上にけん化した後、十分にメタノール洗浄を行い、分析用の変性PVAを作製する。作製した分析用の変性PVAを重水に溶解し、更にNaOH重水溶液を数滴加えpH=14にした後、プロトンNMRを用いて80℃で測定する。オキシエチレン部分(例:R1=H、R2=H)から算出する場合、変性PVAのポリビニルアルコール鎖のメチレン基に帰属される1.2~1.8ppmのピークの積分値と、オキシエチレン部分に帰属される3.6~3.7ppmのピークの積分値とから常法により含有量を算出する。具体的には、変性PVAのポリビニルアルコール鎖のメチレン基の積分値をbとし、オキシエチレン部分の積分値をa、オキシエチレン部分の繰り返し単位数をxとすると、プロトン数(メチレン基は2H、エチレン基は4H)を鑑み、変性率は{a/(4×x)}/(b/2)×100(mol%)と計算される。例えば、a=1、x=1、b=100の場合は、0.5mol%と計算される。また、オキシブチレン又はオキシプロピレン部分から算出する場合、変性PVAのポリビニルアルコール鎖のメチレン基に帰属される1.2~1.8ppmのピークの積分値と、オキシブチレン部分(R1=H、R2=CH2CH3(又はR1=CH2CH3、R2=H))又はオキシプロピレン部分(R1=H、R2=CH3(又はR1=CH3、R2=H))の末端メチル基に帰属される0.80~0.95ppmのピークの積分値とから常法により含有量を算出する。具体的には、変性PVAのポリビニルアルコール鎖のメチレン基の積分値をbとし、オキシブチレン部分又はオキシプロピレン部分の積分値をc、繰り返し単位数をyとすると、プロトン数(メチレン基は2H、メチル基は3H)を鑑み、変性率は{c/(3×y)}/(b/2)×100(mol%)と計算される。例えば、c=1、y=1、b=100の場合は、0.67mol%と計算される。なお、変性PVAがオキシエチレン部分と、オキシプロピレン部分又はオキシブチレン部分との双方を有する場合は、オキシエチレン部分から算出されるアルキレン変性率よりも、オキシプロピレン部分又はオキシブチレン部分の末端メチル基に帰属されるピークの積分値に基づいて算出されるアルキレン変性率のほうが測定精度が高いため、両者の値に相違がある場合には、オキシプロピレン部分又はオキシブチレン部分の末端メチル基に帰属されるピークの積分値に基づいて算出されるアルキレン変性率を採用することとする。
【0028】
また、上記変性PVAの有機酸変性率は0.1モル%~10モル%である必要がある。0.1モル%未満の場合は曇点を40℃以上に保つことが難しくなることや、カルボニル基に起因する不飽和二重結合起点が減少するため、結果として適度な粒子径を有するビニル系樹脂は得られない。また、かさ密度の低いビニル系樹脂となってしまう。そこで、有機酸変性率は0.1モル%以上であることが必要であり、0.3モル%以上であることが好ましく、0.5モル%以上であることがより好ましい。また、有機酸変性率が10モル%を超える場合、pHの変化により物性が大きく変わるため塩ビ重合時の保護コロイド性が低下したり、化学的に不安定となって、不溶化したり、ゲル化したりする場合がある。そこで、有機酸変性率は10モル%以下であることが必要であり、8モル%以下であることが好ましく、4モル%以下であることがより好ましい。
【0029】
有機酸変性率とは、変性PVAのポリビニルアルコール鎖を構成する単量体単位の全モル数に対する有機酸単位のモル数の割合(モル%)である。有機酸変性率を求める方法は特に限定されず、酸価等で求めることができるが、プロトンNMRで求めるのが簡便である。具体的には、変性PVAをけん化度99.95モル%以上に完全にけん化した後、十分にメタノール洗浄を行い、分析用の変性PVAを作製する。作製した分析用の変性PVAを重水に溶解し、更にNaOH重水溶液を数滴加えpH=14にした後、80℃で測定し1H-NMRスペクトルを得る。変性PVAのポリビニルアルコール鎖のメチレン基(1.2~1.8ppm)のピークの積分値を基準として算出する。例えば、有機酸単位がカルボキシル基を有する場合はカルボキシル基に隣接する炭素の水素原子である2.2~2.9ppmのピークから算出する。また、有機酸単位がスルホニル基の場合はスルホン酸に隣接する炭素の水素原子に帰属されるピークである2.8~3.2ppmから算出する。有機酸単位がカルボキシル基を有する場合を例にすると、変性PVAのポリビニルアルコール鎖のメチレン基の積分値をbとし、カルボキシル基に隣接する炭素の水素原子の積分値をaとすると、プロトン数(メチレン基は2H)を鑑み、変性率はa/(b/2)×100(mol%)と計算される。例えば、a=1、b=100の場合は、2.0mol%と計算される。
【0030】
変性PVAの粘度平均重合度は、ビニル系化合物を懸濁重合する際の分散安定性を高めるために500以上であることが好ましく、600以上であることがより好ましい。また、変性PVAの粘度平均重合度は水溶液粘度が高くなって取り扱いが困難になるのを防止するために4000以下であることが好ましく、2000以下であることがより好ましく、1500以下であることが更により好ましく、1000以下であることが更により好ましい。
【0031】
粘度平均重合度は、JIS K6726:1994に準拠して測定される。すなわち、変性PVAを完全にけん化し、精製した後、30℃の水又はジメチルスルホキシド(DMSO)中で測定した極限粘度[η]から求める。
【0032】
変性PVAのけん化度は、水溶性及び曇点を高くして取り扱いやすくするために、70モル%以上であることが好ましい。また、変性PVAのけん化度は、ビニル系化合物を懸濁重合した際に得られる粒子のポロシティを高めて可塑剤吸収性を高めるために、99.9モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることが更により好ましい。
【0033】
変性PVAのけん化度は、JIS K6726:1994に準拠して測定される。すなわち、水酸化ナトリウムで試料中の残存酢酸基(モル%)を定量し、100から差し引くことで求めることができる。
【0034】
本発明に係る変性PVAの製造方法は特に制限されないが、例えば、PVAの水酸基とポリオキシアルキレン基及び有機酸を反応させ、グラフトする方法等を用いることができる。中でも、酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系単量体を、不飽和有機酸の共存下で、一般式(I)に示す部分を有するポリオキシアルキレン単位を有する不飽和単量体と共重合して変性ビニルエステル系重合体を得る工程と、得られた変性ビニルエステル系重合体をけん化する方法が容易で経済的であり、好適に用いられる。
【0035】
一般式(I)で示される変性構造を誘導する不飽和単量体としてはポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アリルエーテル、ポリオキシアルキレンモノビニルエーテル等が挙げられ、具体的には、ポリオキシブチレンポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシブチレンアルケニルエーテル、ポリオキシブチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリオキシプロピレンオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシブチレンポリオキシエチレンモノアリルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンモノアリルエーテル、ポリオキシブチレンモノアリルエーテル、ポリオキシブチレンポリオキシプロピレンモノアリルエーテル、ポリオキシプロピレンモノアリルエーテル、ポリオキシプロピレンオキシエチレンモノアリルエーテル、ポリオキシブチレンポリオキシエチレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンモノビニルエーテル、ポリオキシブチレンモノビニルエーテル、ポリオキシブチレンポリオキシプロピレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレンオキシエチレンモノビニルエーテルなどが挙げられる。なかでも、下記の一般式(III)に示すようなエーテルが反応性や性能の面から更に好適に用いられる。一般式(III)に示すようなポリオキシアルキレンアルケニルエーテルの具体例としては、ポリオキシブチレンポリオキシエチレンアルケニルエーテルが挙げられる。
【化8】
(一般式(III)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、m、nは上記一般式(II)と同様である。)
【0036】
ビニルエステル系単量体としては、酢酸ビニルの他、蟻酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等が挙げられる。
【0037】
有機酸単位を誘導する方法は特に限定されないが、ビニルエステル系単量体と共重合できるアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸又はその塩、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸などのオレフィンスルホン酸又はその塩等と共重合する方法が好適に用いられる。また、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチルなどの不飽和カルボン酸アルキルエステルと共重合した後、けん化することにより有機酸単位(ここではカルボン酸)を誘導する方法が好適に用いられる。
【0038】
ビニルエステル系単量体を共重合する際の温度は特に限定されないが、0℃以上200℃以下が好ましく、30℃以上150℃以下がより好ましい。共重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られないため好ましくない。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、目的とするPVAが得られにくい。共重合を行う際に採用される温度を0℃以上200℃以下に制御する方法としては、水等の適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられる。
【0039】
本共重合を行うのに採用される重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の方法の中から、任意の方法を採用することができる。その中でも、用いる変性種は重合粒子径に影響を与える水溶性や界面活性能を持つことが多いため重合粒子径を制御する必要のある懸濁重合及び乳化重合ではなく、アルコール系溶媒存在下又は溶媒を用いないで重合を行う溶液重合法や塊状重合法が好適に採用される。塊状重合法又は溶液重合法に用いられるアルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は単独で使用してもよいし、二種以上のものを併用することもできる。
【0040】
ビニルエステル系単量体をラジカル重合する際の重合開始剤は、特に限定するものではないが、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリルなどのアゾ化合物、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテートなどの過酸化物、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエートなどのパーエステル化合物などを単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0041】
また、共重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するPVAの着色等が見られることがある。その場合には着色防止の目的で重合系にクエン酸のような酸化防止剤を1ppm以上100ppm以下(ビニルエステル系単量体の質量に対して)程度添加することはなんら差し支えない。
【0042】
本発明に係る変性PVAを製造する際のけん化方法も特に限定されるものではなく、前述した方法で得られた重合体を、常法に従い、アルコール類を溶媒兼用で用いることが好ましい。アルコールとしてはメタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中の重合体の濃度は20~50質量%の範囲から選ぶことができる。アルカリ触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができ、酸触媒としては、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p-トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができる。これら触媒の使用量はビニルエステル系単量体に対して1~100ミリモル当量にすることが必要である。かかる場合、けん化温度は特に制限はないが、通常10~70℃の範囲であり、好ましくは30~50℃の範囲から選ぶのが望ましい。反応は通常0.5~3時間にわたって行われる。
【0043】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、上記変性PVA以外のPVAや、その他の各種添加剤を含有してもよい。該添加剤としては、例えば、アルデヒド類、ハロゲン化炭化水素類、メルカプタン類などの重合調整剤;フェノール化合物、イオウ化合物、N-オキサイド化合物などの重合禁止剤;pH調整剤;架橋剤;防腐剤;防黴剤、ブロッキング防止剤;消泡剤等が挙げられる。本発明の効果を有意に発揮するという観点から、本発明の懸濁重合用分散安定剤は変性PVAを10質量%以上含有することが好ましく、30質量%以上含有することがより好ましく、70質量%以上含有することが更により好ましい。
【0044】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は、特にビニル系化合物の懸濁重合に好適に用いることができる。ビニル系化合物としては、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステル及び塩;マレイン酸、フマル酸、これらのエステル及び無水物;スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、本発明の懸濁重合用分散安定剤は、特に好適には塩化ビニルを単独で、又は塩化ビニルを塩化ビニルと共重合することが可能な単量体と共に懸濁重合する際に用いられる。塩化ビニルと共重合することができる単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレンなどのα-オレフィン;無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸類;アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。
【0045】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は、単独でもまた他の安定剤、例えばセルロース系誘導体、界面活性剤等と併用することができる。
【0046】
本発明の懸濁重合用分散安定剤を使用することにより、樹脂粒子のかさ密度が高く、多粒径分布が均一で物性の非常に優れた塩化ビニル樹脂が常に得られる。以下、ビニル系化合物の重合法について例を挙げ具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0047】
塩化ビニル樹脂粒子等のビニル系化合物の樹脂粒子を製造する場合には、ビニル系化合物単量体に対し、上述の懸濁重合用分散安定剤を0.01質量%~0.3質量%、好ましくは0.04質量%~0.15質量%添加する。また、ビニル系化合物と水の比は質量比でビニル系化合物:水=1:0.9~1:3とすることができ、好ましくはビニル系化合物:水=1:1~1:1.5である。
【0048】
重合開始剤は、ビニル系化合物の重合に従来使用されているものでよく、これにはジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート等のパーエステル化合物、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、更には過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を単独又は組み合わせて使用することができる。
【0049】
更に、ビニル系化合物の重合に適宜使用される重合調整剤、連鎖移動剤、ゲル化改良剤、帯電防止剤、pH調整剤等を添加することも任意である。
【0050】
ビニル系化合物の重合を実施するに当たっての各成分の仕込み割合、重合温度等はビニル系化合物の懸濁重合で従来採用されている条件に準じて定めればよく、特に限定する理由は存在しない。
【実施例】
【0051】
以下、本発明について実施例を挙げて更に詳しく説明する。
(実施例1)
酢酸ビニル1220g、メタノール1150g、マレイン酸ジメチル1.6g、変性種として一般式(III)で示され、m=5~9、n=45~55であるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(単量体A:市販品)151gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。単量体Aについてm=5~9、n=45~55であることは、NMRにより確認した。アゾビスイソブチロニトリル0.3gを重合缶に仕込み、酢酸ビニル、メタノール、マレイン酸ジメチルを40:58:2の質量比率で混合した溶液900mLを追加的に滴下しながら、60℃で11時間重合した後、滴下を止め、冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた変性酢酸ビニル重合体を常法により水酸化ナトリウムでけん化して、その後、酢酸を添加することにより-COOH及び-COONaを有する分散安定剤を作製した。得られた分散安定剤の粘度平均重合度、けん化度及び変性率を先述した分析法によって測定したところ、粘度平均重合度は750、けん化度は72モル%、アルキレン変性率は0.19モル%、有機酸変性率は0.92モル%であった。
【0052】
〈曇点の評価〉
上記で得た分散安定剤の4質量%濃度の水溶液を作成し、約5ccをガラス製の試験管に採り、温度計を測定液に入れて攪拌しながら、昇温させて測定液を白濁させた後、攪拌しながら、ゆっくり冷却して測定液が完全に透明となる温度を読みとり、これを曇点とした。その結果、曇点は45℃であった。
【0053】
〈塩化ビニルの懸濁重合〉
攪拌器を備えた容量30Lのステンレス製オートクレーブ中に攪拌下30℃の水12kg、上記で得た分散安定剤4.0g、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシネオデカノエートを4.6g、α-クミルパーオキシネオデカノエートを1g仕込んだ。オートクレーブを真空で脱気した後、塩化ビニル単量体を5kg加え、57℃で4時間重合した。
【0054】
〈塩化ビニル樹脂の評価〉
得られた塩化ビニル樹脂の平均粒径、粒度分布、及びかさ比重について以下の方法で評価した。
【0055】
平均粒径の測定はJIS Z8815:1994に準拠して、60メッシュ(目開き250μm)、80メッシュ(目開き180μm)、100メッシュ(目開き150μm)、150メッシュ(目開き106μm)、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて、累積頻度50%(質量基準)の粒子径(D50)を平均粒径、累積頻度80%(質量基準)の粒子径(D80)と累積頻度20%(質量基準)の粒子径(D20)の差を粒度分布とした。
【0056】
かさ比重は、JIS K6720-2:1999に準拠して測定した。
【0057】
(実施例2)
単量体Aを101gに変更したこと以外は実施例1と同様に変性酢酸ビニル重合体を得た後、水酸化ナトリウムでけん化して分散安定剤を作製した。得られた分散安定剤の粘度平均重合度、けん化度、変性率及び曇点を先述した分析法によって測定した。また、得られた分散安定剤を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施し、評価を行なった。
【0058】
(実施例3)
実施例2で得た変性酢酸ビニル重合体に対し、水酸化ナトリウム量を調整してけん化を行なうことで、けん化度76%の変性ビニルアルコール重合体分散安定剤を得た。得られた分散安定剤の粘度平均重合度、けん化度、変性率及び曇点を先述した分析法によって測定した。得られた分散安定剤を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施し、評価を行なった。
【0059】
(実施例4)
酢酸ビニル1220g、メタノール1350g、マレイン酸ジメチル2.4g、変性種として一般式(III)で示され、m=5~9、n=15~25であるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(単量体B:市販品)52gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。単量体Bについてm=5~9、n=15~25であることは、NMRにより確認した。アゾビスイソブチロニトリル0.3gを重合缶に仕込み、酢酸ビニル、メタノール、マレイン酸ジメチルを45:52:3の質量比率で混合した溶液900mLを追加的に滴下しながら、60℃で11時間重合した後、滴下を止め、冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた変性酢酸ビニル重合体を常法により水酸化ナトリウムでけん化して分散安定剤を作製した。得られた分散安定剤の粘度平均重合度、けん化度、変性率及び曇点を先述した分析法によって測定した。また、得られた分散安定剤を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施し、評価を行なった。
【0060】
(実施例5)
酢酸ビニル1850g、メタノール1000g、マレイン酸ジメチル1.2g、変性種として単量体B133gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。アゾビスイソブチロニトリル0.3gを重合缶に仕込み、酢酸ビニル、メタノール、マレイン酸ジメチルを45:52:2の質量比率で混合した溶液800mLを追加的に滴下しながら、60℃で11時間重合した後、滴下を止め、冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた変性酢酸ビニル重合体を常法により水酸化ナトリウムでけん化して分散安定剤を作製した。得られた分散安定剤の粘度平均重合度、けん化度、変性率及び曇点を先述した分析法によって測定した。また、得られた分散安定剤を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施し、評価を行なった。
【0061】
(実施例6)
酢酸ビニル1680g、メタノール1100g、マレイン酸ジメチル7.3g、変性種として単量体A130gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。アゾビスイソブチロニトリル0.3gを重合缶に仕込み、酢酸ビニル、メタノール、マレイン酸ジメチルを64:28:8の質量比率で混合した溶液820mLを追加的に滴下しながら、60℃で11時間重合した後、滴下を止め、冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた変性酢酸ビニル重合体を常法により水酸化ナトリウムでけん化して分散安定剤を作製した。得られた分散安定剤の粘度平均重合度、けん化度、変性率及び曇点を先述した分析法によって測定した。また、得られた分散安定剤を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施し、評価を行なった。
【0062】
(実施例7)
単量体Aの代わりに、n=15~25のポリオキシエチレングリコールアリルエーテル(単量体C)(日油株式会社提供ユニオックスPKA-5005)を56gを重合缶に仕込んだ以外、実施例1と同様に分散安定剤を作製した。単量体Cについてn=15~25であることは、NMRにより確認した。得られた分散安定剤の粘度平均重合度、けん化度、変性率及び曇点を先述した分析法によって測定した。また、得られた分散安定剤を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施し、評価を行なった。
【0063】
(実施例8)
単量体Aの代わりに、一般式(III)で示され、m=15~25、n=15~25であるポリエチレングリコールポリプロピレングリコールアリルエーテル(単量体D)(日油株式会社提供ユニルーブPKA-5013)を74gを重合缶に仕込んだ以外、実施例1と同様に分散安定剤を作製した。得られた分散安定剤の粘度平均重合度、けん化度、変性率及び曇点を先述した分析法によって測定した。また、得られた分散安定剤を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施し、評価を行なった。
【0064】
(比較例1)
酢酸ビニル1600g、メタノール860g、単量体A151gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。アゾビスイソブチロニトリル0.3gを重合缶に仕込み、60℃で9時間重合した後、冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた変性酢酸ビニル重合体を常法により水酸化ナトリウムでけん化して分散安定剤を作製した。得られた分散安定剤の粘度平均重合度、けん化度、変性率及び曇点を先述した分析法によって測定した。また、得られた分散安定剤を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施し、評価を行なった。
【0065】
(比較例2)
酢酸ビニル1220g、メタノール1150g、マレイン酸ジメチル1.6gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。アゾビスイソブチロニトリル0.3gを重合缶に仕込み、酢酸ビニル、メタノール、マレイン酸ジメチルを40:58:2の質量比率で混合した溶液900mLを追加的に滴下しながら、60℃で12時間重合した後、滴下を止め、冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた変性酢酸ビニル重合体を常法により水酸化ナトリウムでけん化して分散安定剤を作製した。得られた分散安定剤の粘度平均重合度、けん化度、変性率及び曇点を先述した分析法によって測定した。また、得られた分散安定剤を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施し、評価を行なった。
【0066】
(比較例3)
酢酸ビニル3000g、変性種のアセトアルデヒド15gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。アゾビスイソブチロニトリル0.2gを重合缶に仕込み、65~75℃で6時間重合した後冷却して重合を停止した。その後、実施例1に準じて分散安定剤を作製した。得られた分散安定剤の粘度平均重合度、けん化度、変性率及び曇点を先述した分析法によって測定した。また、得られた分散安定剤を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施し、評価を行なった。
【0067】
(比較例4)
酢酸ビニル1600g、メタノール700g、変性種としてポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社提供ブレンマーPP-350、以下「単量体E」という。)0.35gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。また、単量体Eをメタノールに溶解して濃度5.7質量%としたコモノマー溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。アゾビスイソブチロニトリル2.5gを重合缶に仕込み、コモノマー溶液(単量体Eをメタノールに溶解して濃度5.7質量%とした溶液)300mLを追加的に滴下して60℃で9時間重合した後冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えた、メタノールの総量は1066g、単量体Eの総量は22.3gであった。その後は、実施例1と同様にして分散安定剤を作製した。得られた分散安定剤の粘度平均重合度、けん化度、変性率及び曇点を先述した分析法によって測定した。また、得られた分散安定剤を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施し、評価を行なった。なお、得られた分散安定剤のプロトンNMRを測定したが、ポリ酢酸ビニルで観測された変性種由来のピークはポリビニルアルコールでは観測されなかった。ポリオキシアルキレン単位がエステル結合を介在してポリビニルアルコール鎖に結合したことで、けん化反応でポリオキシアルキレン単位が脱離したからである。
【0068】