(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】手持ち式工作機械の打撃運転を検知するための方法、および、手持ち式工作機械
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20240515BHJP
B25B 21/02 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B25F5/00 C
B25B21/02 Z
B25F5/00 H
(21)【出願番号】P 2021555261
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 EP2020055397
(87)【国際公開番号】W WO2020193083
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】102019204071.3
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンターハルター ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】エルベレ サイモン
(72)【発明者】
【氏名】ツィボルト トビアス
(72)【発明者】
【氏名】モック シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ヘルバーガー ウォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ザウア ディートマル
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-099765(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第1398119(EP,A1)
【文献】独国特許出願公開第102013212506(DE,A1)
【文献】国際公開第2013/174594(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00 ー 5/02
B25B 21/00 ー 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機(180)によって駆動される打撃機構を有する手持ち式工作機械(100)の打撃運転を検知するための方法であって、
前記電動機(180)の運転量(200)の信号を算出する第1のステップを有し、
前記第1のステップで算出された前記運転量(200)の信号
の、少なくとも1つの典型的な状態を表すモデル信号波形(240)
に対する一致の程度を算出する第2のステップを有し、前記典型的な状態を表すモデル信号波形(240)が、前記打撃運転での前記運転量(200)の信号の典型的な状態を表し、
前記打撃運転が存在するかどうかを決定する第3のステップを有し、前記第2のステップで前記典型的な状態を表すモデル信号波形(240)
に対する前記運転量(200)の信号
の一致の程度が高く算出される場合に、前記打撃運転が存在する状態で前記電動機(180)が運転していると決定され、前記第2のステップで前記典型的な状態を表すモデル信号波形(240)
に対する前記運転量(200)の信号
の一致の程度が低く算出される場合に、前記打撃運転が存在しない状態で前記電動機(180)が運転していると決定される、
方法。
【請求項2】
前記典型的な状態を表すモデル信号波形(240)が、振動を表す、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記運転量(200)が、前記電動機(180)の回転数であるか、または前記電動機(180)の回転数に関連する運転量である、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記第1のステップで、前記運転量(200)の信号として、前記電動機(180)の運転状態を表す前記運転量(200)の測定値の経時変化が算出されるか、または前記電動機(180)の運転状態の経時変化を表す前記運転量(200)の測定値が算出される、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記第1のステップで、前記電動機(180)の運転状態を表す物理量の測定値の経時変化が算出され、算出された前記物理量の測定値の経時変化が変換されて、前記運転量(200)の信号としての前記電動機(180)の運転状態の経時変化を表す前記運転量(200)の測定値が算出される、
請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記運転量(200)の信号がメモリに記憶される、
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記第1のステップで、前記運転量(200)の信号が、所定数の測定毎に算出される、
請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記打撃運転が、前記打撃機構の10回よりも少ない打撃に基づいて検知される、
請求項1から
7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記打撃運転が、回転打撃運転である、
請求項1から
8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記電動機(180)と、前記運転量(200)の信号の算出のための検出器と、コントロールユニット(370)と、を有している形式の手持ち式工作機械(100)において、
前記コントロールユニット(370)が、請求項1から
9までのいずれか1項記載の方法を実行する、
手持ち式工作機械(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手持ち式工作機械の第1の運転状態を検知するための方法、およびこの方法を実行するために設計された手持ち式工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載された従来技術によれば、例えばねじ山付きナットおよびねじ等のねじ固定エレメントを締め付けるためのインパクトレンチが公知である。このような形式のインパクトレンチは、例えば回転方向の打撃力がハンマの回転打撃力によってねじ固定エレメントに伝達される構造を有している。このような構造を有するインパクトレンチは、モータ、モータによって駆動されるハンマ、ハンマによって打撃されるアンビルおよび工具を有している。インパクトレンチでは、ハウジング内に組み込まれたモータが駆動され、この際にハンマがモータによって駆動され、これに対してアンビルは回転するハンマによって打撃され、工具に打撃力を加え、この場合、2つの異なる運転状態、つまり「打撃運転なし」と「打撃運転」とが区別され得る。
【0003】
特許文献2によれば、モータとハンマと回転速度検出ユニットとを有するインパクトレンチも公知であり、この場合、ハンマはモータによって駆動される。
【0004】
インテリジェント工具機能を提供するために、ちょうど今実行されている運転状態を知ることが必要である。運転状態の識別は、従来技術では例えば回転数および電気的なモータ電流等の、電動機の運転量の監視によって行われる。この場合、運転量は、所定の限界値および/または閾値に達するかどうかについてまで調べられる。相応の評価法は、絶対閾値および/または信号勾配で作業する。
【0005】
この場合の欠点は、固定された限界値および/または閾値は実際には1つの使用目的のためだけに完璧に設定され得る、ということである。使用目的が変わると直ちに、それに属する電流値若しくは回転数値またはその経時変化も変わり、設定された限界値および/若しくは閾値またはその経時変化に基づく打撃の検知は、もはや機能しない。従って、例えば打撃運転の検知に基づく自動的なスイッチオフは、セルフタッピング式のねじを使用した場合の個々の使用目的において確実に様々な回転数範囲内で行われるが、セルフタッピング式のねじを使用した場合の別の使用目的ではスイッチオフは行われない。
【0006】
インパクトレンチにおける運転モードを決定するための別の方法では、ちょうど今行われている運転モードを工具の振動状態から推定するために、追加的なセンサ、例えば加速度センサが使用される。
【0007】
この方法の欠点は、センサのための追加の費用、および手持ち式工作機械のロバスト性の低下である。何故ならば、組み込まれた構成部分および電気接続部の数は、このようなセンサ装置を装備していない手持ち式工作機械と比較して増大するからである。
【0008】
基本的に、運転状態の検知の問題点は、例えばハンマドリル等の別の手持ち式工作機械においても存在するので、本発明はインパクトレンチに限定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許出願公開第3381615号明細書
【文献】欧州特許第2599589号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、前記のような欠点を少なくとも部分的に取り除くかまたは少なくとも従来技術に対する代替案を提供する、従来技術に対して改良された、運転状態を検知するための方法を提供することである。本発明の別の課題は、相応する手持ち式工作機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの課題は、独立請求項のそれぞれの対象によって解決される。本発明の好適な実施形態は、それぞれ従属請求項の対象である。
【0012】
本発明によれば、手持ち式工作機械の第1の運転状態を検知するための方法が開示されており、この場合、手持ち式工作機械は電動機を有している。この場合、この方法は、
S1 電動機の運転量の信号を算出するステップを有し、
S2 運転量の信号を、少なくとも1つの典型的な状態を表すモデル信号波形と比較するステップを有し、この際に、典型的な状態を表すモデル信号波形(240)が第1の運転状態に割り当てられており、
S3 第1の運転状態が存在するかどうかを決定するステップを有し、この場合、決定は、ステップS2で典型的な状態を表すモデル信号波形が運転量の信号内で識別されるかどうかに、少なくとも部分的に依存している。
【発明の効果】
【0013】
このような形式で、第1の運転状態を検知するための簡単かつ確実な監視および制御が行われ、この場合、基本的に適切な測定値センサを介して評価される運転量として、様々な運転量が考慮の対象となる。この場合、特に好適には、それに関連して追加的なセンサは必要ない。何故ならば、例えば回転数監視のための様々なセンサ、好適にはホールセンサが既に電動機に組み込まれているからである。
【0014】
この場合、工具内部の測定量の運転量、例えば電動機の回転数を介して第1の運転状態を検知する提案が、特に好適であることが分かった。何故ならば、このような方法によって、打撃の検知が、特に確実に、かつ工具の一般的な運転状態またはその使用目的とはほぼ無関係に行われるからである。この場合、基本的に、工具内部の測定量を検出するための、特に追加的なセンサ装置、例えば加速度センサ装置は省かれるので、基本的に、もっぱら本発明による方法だけが、第1の運転状態を検知するために寄与する。
【0015】
さらに本発明の方法によれば、第1の運転状態の検知は、電動機の少なくとも1つの目標回転数、電動機の少なくとも1つの始動特性および/または手持ち式工作機械のエネルギ供給部、特にバッテリの少なくとも1つの充電状態とは無関係に可能である。
【0016】
本発明による方法は、緩い固定エレメントが取付けキャリア内にねじ込まれる使用目的においても、また少なくとも部分的にねじ込まれた堅固な固定エレメントが取付けキャリア内にねじ込まれる使用目的においても、第1の運転状態の検知が可能である。この場合、使用目的とは、硬いねじ面も柔らかいねじ面も含んでおり、この場合、典型的な使用目的は、例えばセルフタッピング式のねじ締結または木材のねじ締結であってよい。
【0017】
この場合、「緩い固定エレメント」として、実質的に取付けキャリア内にねじ込まれていない、また取付けキャリア内にねじ込まれるべきである固定エレメントと解釈されてよい。「堅固な固定エレメント」として、少なくとも部分的に取付けキャリア内にねじ込まれているかまたは実質的に全体が取付けキャリア内にねじ込まれている固定エレメントであると解釈されてよい。
【0018】
方法ステップS1乃至S3に先行する別の方法ステップS0で、少なくとも1つの典型的な状態を表すモデル信号波形が確定され、この場合、典型的な状態を表すモデル信号波形が第1の運転状態に割り当てられている。これに関連して、典型的な状態を表すモデル信号波形に対する運転量の信号の、存在する一致または存在する誤差のための限界値および/または閾値は、正常な打撃検知用の使用目的のための設定可能な値を示す。
【0019】
特に、典型的な状態を表すモデル信号波形は、機器内部に保存されているかまたは記憶されていて、選択的におよび/または追加的に手持ち式工作機械に、特に外部のデータ機器から供給される。
【0020】
本発明の枠内で、「算出する」は、特に測定するまたは評価するの意味を含み、この場合、「評価する」は、測定するの意味および記憶するの意味を含んでいるべきであり、さらに、「算出する」は、測定された信号の可能な信号処理も含んでいるべきである。
【0021】
さらに「決定する」は、検知するまたは検出するとも解釈されるべきであり、この場合、明確な割り当てが得られるべきである。「識別する」とは、例えば信号がパターンに合致することによりフーリエ分析等を可能にする、パターンとの部分的な一致の検知であると解釈されるべきである。「部分的な一致」は、合致が、予め設定された閾値よりも小さい、特に30%よりも小さい、さらに特に20%より小さい誤差を有していると解釈されるべきである。
【0022】
運転量の信号は、ここでは、測定値の時間的な連続であると理解されるべきである。選択的におよび/または追加的に、運転量の信号は周波数スペクトルであってもよい。選択的におよび/または追加的に、運転量の信号は、例えば平滑化、フィルタリング、適合等のように後処理されてよい。
【0023】
1実施例では、典型的な状態を表すモデル信号波形が、平均値を巡る振動変化、特に概ね三角法による振動変化である。この場合、典型的な状態を表すモデル信号波形が、好適には回転打撃機構のアンビルに対するハンマの理想的な打撃運転を表す。
【0024】
別の実施例では、運転量が、電動機の回転数であるか、または回転数に関連する運転量である。電動機から打撃機構への固定的な伝達比によって、例えば打撃周波数に対するモータ回転数の直接的な依存性が得られる。回転数に関連するその他の考えられ得る運転量は、モータ電流である。電動機の運転量として、モータ電圧、モータのホール信号、バッテリ電流またはバッテリ電圧も考えられ、この場合、バッテリ量として、電動機の加速度、工具受けの加速度または手持ち式工作機械の打撃機構の音響信号も考えられる。
【0025】
別の実施例では、運転量の信号が、方法ステップS1で運転量の測定値の経時変化として評価されるか、または経時変化に関連する電動機の量、例えば加速度、特に高い程度の衝撃、電動機の出力、エネルギ、回転角度、工具受けの回転角度若しくは周波数としての運転量の測定値として評価される。
【0026】
前記実施例では、調べようとする信号の均一な周期がモータ回転数とは無関係に得られるように、保証される。
【0027】
選択的に、運転量の信号は、方法ステップS1で、運転量の測定値の経時変化として評価され、この場合、前記方法ステップS1に続くステップS1aで、伝動装置の固定的な伝達比に基づいて、運転量の測定値の経時変化が、経時変化に関連する電動機の量としての、運転量の測定値の変化に変換される。従って、やはり、時間に対する運転量の信号を直接的に評価するのと同じ利点が得られる。
【0028】
別の実施例では、運転量の信号が測定値の連続として、特に手持ち式工作機械のメモリ、好適にはリングメモリに記憶される。
【0029】
好適な実施形態では、方法ステップS1で、運転量の信号が常に所定数の測定値を含有するように、測定値がセグメントに分割される。
【0030】
特に好適な実施形態では、方法ステップS2で、運転量の信号が、周波数に基づく少なくとも1つの比較法を含有する比較法のうちの1つによって、および/または相対比較法によって比較され、この場合、この比較法は、少なくとも1つの予め設定された閾値が満たされるかどうかについて、運転量の信号を典型的な状態を表すモデル信号波形と比較する。この場合、予め設定された閾値は、工具の側から予め設定されるかまたは使用者の側から設定可能である。
【0031】
1実施例では、周波数に基づく比較法が、少なくともバンドパスフィルタリングおよび/または周波数分析を含有しており、この場合、予め設定された閾値が、予め設定された限界値の少なくとも85%、特に90%、さらに特に95%である。
【0032】
バンドパスフィルタリングでは、例えば運転量の評価された信号が、通過周波数帯が典型的な状態を表すモデル信号波形と一致するバンドパスを介して、フィルタリングされる。生ぜしめられた信号内の相応の振幅は、第1の運転状態で、特に打撃運転で予測される。従って、バンドパスフィルタリングの予め設定された閾値は、第1の運転モード、特に打撃運転中の相応の振幅の少なくとも85%、特に90%、さらに特に95%である。この場合、予め設定された限界値は、特に理想的な打撃運転の理想的な第1の運転状態の、生ぜしめられた信号内の相応の振幅であってよい。
【0033】
周波数分析の公知の周波数に基づく比較法によって、予め規定された典型的な状態を表すモデル信号波形、第1の運転状態、特に打撃運転の例えば周波数スペクトルが、運転量の評価された信号内で調べられる。運転量の評価された信号内で、第1の運転状態、特に打撃運転の振幅が予測される。周波数分析の予め設定された閾値は、第1の運転モード、特に打撃運転の相応の振幅の少なくとも85%、特に90%、さらに特に95%であってよい。この場合、予め設定された限界値は、理想的な第1の運転状態、特に理想的な打撃運転の評価された信号内の相応の振幅であってよい。この場合、運転量の評価された信号の適切なセグメント化が必要である。
【0034】
方法ステップS3で、少なくとも部分的に周波数に基づく比較法、特にバンドパスフィルタリングおよび/または周波数分析を用いて、第1の運転状態が運転量の信号内で識別されているかどうかの決定が行われる。
【0035】
1実施例では、相対比較法が少なくともパラメータ推定および/または交差相関を含有しており、この場合、予め設定された閾値は、運転量の信号と典型的な状態を表すモデル信号波形との少なくとも50%の一致である。
【0036】
運転量の測定された信号は、相対比較法を用いて典型的な状態を表すモデル信号波形と比較され得る。運転量の測定された信号は、典型的な状態を表すモデル信号波形の信号波と実質的に同じ最終的な信号長さを有するように、算出される。この場合、典型的な状態を表すモデル信号波形と、運転量の測定された信号との比較は、特に離散的なまたは連続的な、最終的な長さの信号としてアウトプットされ得る。一致の程度または比較の偏差に依存して、第1の運転状態、特に打撃運転が存在するかどうかの結果がアウトプットされ得る。運転量の測定された信号が、典型的な状態を表すモデル信号波形と少なくとも50%一致していれば、第1の運転状態、特に打撃運転が存在することになる。さらに、運転量の測定された信号と典型的な状態を表すモデル信号波形との比較を用いた相対比較法は、比較の結果として、相互の偏差の程度をアウトプットできることが考えられる。この場合、少なくとも50%の相互の偏差が、第1の運転状態、特に打撃運転が存在することのための基準であってよい。
【0037】
パラメータ推定では、簡単な形式で、予め確定された典型的な状態を表すモデル信号波形と運転量の信号との間の比較が行われ得る。このために、典型的な状態を表すモデル信号波形を運転量の測定された信号と等しくするために、典型的な状態を表すモデル信号波形の推定されたパラメータが識別される。前もって確定された典型的な状態を表すモデル信号波形の推定されたパラメータと運転量の信号とを比較することによって、第1の運転状態、特に打撃運転が存在するという結果が算出され得る。次いで、予め設定された閾値に達しているかどうかの、比較の結果の評価が行われる。この評価は、推定されたパラメータの品質決定であるか、または確定された典型的な状態を表すモデル信号波形と運転量の検出された信号との間の偏差であってよい。
【0038】
別の実施例では、方法ステップS2が、運転量の信号内での典型的な状態を表すモデル信号波形の識別の品質決定のためのステップS2aを含有しており、この場合、方法ステップS3で、少なくとも部分的に前記品質決定を用いて第1の運転状態が存在するかどうかの決定を行う。品質決定の程度として、推定されたパラメータの適合品質が算出される。
【0039】
方法ステップS3で、少なくとも部分的に品質決定、特に品質の程度を用いて、第1の運転状態が運転量の信号内で識別されているかどうかの決定が行われる。
【0040】
品質決定に追加してまたは選択的に、方法ステップS2aで、典型的な状態を表すモデル信号波形および運転量の信号の識別の偏差の決定が行われる。運転量の測定された信号に対する典型的な状態を表すモデル信号波形の推定されたパラメータの偏差は、例えば70%、特に60%、さらに特に50%であってよい。方法ステップS3で、第1の運転状態が存在するかどうかの決定を、少なくとも部分的に偏差の決定を用いて行う。第1の運転状態が存在することの決定は、予め設定された閾値が運転量の測定された信号と典型的な状態を表すモデル信号波形との少なくとも50%の一致である場合に行われる。
【0041】
交差相関において、予め確定された典型的な状態を表すモデル信号波形と運転量の測定された信号との比較が行われる。交差相関において、予め確定された典型的な状態を表すモデル信号波形が運転量の測定された信号に関連付けされ得る。典型的な状態を表すモデル信号波形を運転量の測定された信号と関連付ける際に、2つの信号の一致の程度が算出される。一致の程度は、例えば40%、特に50%、さらに特に60%であってよい。
【0042】
本発明の方法による方法ステップS3で、第1の運転状態が存在するかどうかの決定が、少なくとも部分的に、典型的な状態を表すモデル信号波形と運転量の測定された信号との交差相関を用いて行われる。この決定は、少なくとも部分的に、運転量の測定された信号と典型的な状態を表すモデル信号波形とが少なくとも50%一致していることによる予め設定された閾値を用いて行われる。
【0043】
1つの方法ステップで、第1の運転状態が、手持ち式工作機械の打撃機構の10回よりも少ない打撃に基づいて、特に電動機の10回よりも少ない打撃振動周期に基づいて、好適には手持ち式工作機械の打撃機構の6回よりも少ない打撃に基づいて、特に電動機の6回よりも少ない打撃振動周期に基づいて、特に好適には、打撃機構の4回よりも少ない打撃に基づいて、特に電動機の4回よりも少ない打撃振動周期に基づいて、識別される。この場合、打撃機構の打撃として、打撃機構インパクタ、特にハンマの、軸方向、半径方向、接線方向および/または周方向に向けられた、打撃機構本体、特にアンビルに対する打撃であると解釈されるべきである。電動機の打撃振動周期は、電動機の運転量に関連付けられている。電動機の打撃振動周期は、運転量の信号内の第1の運転状態中の運転量の変化を用いて算出される。
【0044】
手持ち式工作機械の打撃機構の打撃の識別、特に電動機の打撃振動周期は、例えば、高速フィッティングアルゴリズム「Fas-Fitting-Algorithmus」が使用されることによって得られ、この高速フィッティングアルゴリズムを用いて、打撃検知の評価が、100msよりも短い時間、特に60msよりも短い時間、さらに特に40msよりも短い時間内で可能である。この場合、本発明による方法は、第1の運転状態の検知を概ね上記すべての使用目的のために可能にし、ねじ締結の検知を取付けキャリア内の緩い固定エレメントのためにもまた堅固な固定エレメントのためにも可能にする。
【0045】
好適な形式で、手持ち式工作機械は、打撃ドライブ機械、特にインパクトレンチ機械であって、第1の運転状態が、打撃運転、特に回転打撃運転である。
【0046】
本発明によれば、信号処理、例えばフィルタ、信号リターンループ、(スタティックおよびアダプティブな)システムモデル並びに信号トラッキング等の高価な方式は、可能な限り省くことができる。
【0047】
さらに、これらの方式は、打撃運転または作業の進捗のさらに迅速な識別を可能にし、これによって、工具のさらに迅速な反応を生ぜしめることができる。これは特に、打撃機構を使用してから識別するまでのこれまでの打撃の回数のためにも、また特に駆動モータの、例えば始動段階等の特別な運転状況においても適用される。この場合、例えば最大駆動回転数の低下等の、工具の機能性の制限も必要ない。
【0048】
基本的に、追加的なセンサ装置(例えば加速度センサ)は必要ない。しかも、このような評価法は、そのほかのセンサ装置の信号にも適用され得る。また、例えば回転数検出なしで実施できる別のモータ構成において、この方式は別の信号においても適用することができる。
【0049】
本発明の別の対象を形成する手持ち式工作機械は、電動機と、この電動機の運転量の測定値検出器と、モータ制御装置とを有しており、この場合、好適にはこの手持ち式工作機械は、打撃ドライブ機械、特にインパクトレンチ機械であって、第1の運転状態が、打撃運転、特に回転打撃運転である。この場合、電動機は入力スピンドルを回転運動させ、この際に、出力スピンドルが工具受けに接続されている。アンビルは、出力スピンドルに相対回動不能に結合されていて、ハンマは、このハンマが入力スピンドルの回転運動に従って断続的な運動を入力スピンドルの軸方向で実施し、かつ入力スピンドルを中心にした断続的な回転運動を実施するように、ハンマが入力スピンドルに接続されており、この場合、ハンマはこのような形式で断続的にアンビルを打撃し、それによって打撃パルスおよび回転パルスをアンビルに加え、ひいては出力スピンドルに加える。第1のセンサは、モータ回転角度を算出するために第1の信号をコントロールユニットに伝送する。さらに、第2のセンサは、モータ速度を算出するために第2の信号をコントロールユニットに伝送する。コントロールユニットは好適な形式で、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法を実行するために設計されている。
【0050】
別の実施例では、手持ち式工作機械は、バッテリ駆動式の手持ち式工作機械、特にバッテリ駆動式のインパクトレンチである。このような形式で、手持ち式工作機械の配電網に依存しない自在な使用が保証されている。
【0051】
好適な実施例では、手持ち式工作機械は、バッテリ式ドライバ、ドリル、ハンマドリルまたは穿孔機であって、この場合、工具として、ドリル、ビット、様々なビットアタッチメントを使用することができる。本発明による手持ち式工作機械は、特に打撃ドライブ工具として構成されており、この場合、パルスを含むモータエネルギの放出によって、ねじまたはナットをねじ締めまたはねじ外すための、より高いピークトルクを生ぜしめられる。これに関連して、電気エネルギの伝送とは、特に、手持ち式工作機械がバッテリおよび/または電気ケーブル接続を介して部体にエネルギを転送することである、と解釈されるべきである。
【0052】
さらに、選択された実施例に依存して、ねじ締め機構は回転方向で自在に構成されていてよい。このような形式で、提案された方法は、ねじまたはナットをねじ込むためにもねじ外すためにも使用することができる。
【0053】
本発明のその他の特徴、使用可能性および利点は、図面に示された本発明の実施例の以下の説明から得られる。この場合、図面に記載されたまたは示された特徴は、単独でもまたは任意の組み合わせでも本発明の対象であり、特許請求の範囲またはその引用関係における要約とは無関係に、また明細書中の表現および図面中の図示とは無関係に、記載された特徴だけを有していて、本発明を何らかの形で限定することは想定されていない、ということが考慮されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図2(a)】固定部材が緩んでいるときの手持ち式工作機械の運転量の信号の概略図である。
【
図2(b)】固定部材が固定されているときの手持ち式工作機械の運転量の信号の概略図である。
【
図3(a)】運転量の信号の2つの異なる記録の概略図である。
【
図3(b)】運転量の信号の2つの異なる記録の概略図である。
【
図5(a)】バンドパスフィルタリングのための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図5(b)】バンドパスフィルタリングのための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図6(a)】周波数分析のための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図6(b)】周波数分析のための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図6(c)】周波数分析のための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図6(d)】周波数分析のための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図7(a)】パラメータ推定のための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図7(b)】パラメータ推定のための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図8(a)】交差相関のための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図8(b)】交差相関のための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図8(c)】交差相関のための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図8(d)】交差相関のための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図8(e)】交差相関のための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【
図8(f)】交差相関のための、典型的な状態を表すモデル信号および運転量の信号を一緒に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明を以下に、図面を用いて詳しく説明する。
【0056】
図1は、ハンドル115を有するハウジング105を備えた、本発明による手持ち式工作機械100を示す。図示の実施例によれば、手持ち式工作機械100は、給電網とは無関係に電力供給するためにバッテリパック190に機械的かつ電気的に接続可能である。
図1では、手持ち式工作機械100は例えばバッテリ式インパクトレンチとして構成されている。しかしながら、本発明は、バッテリ式インパクトレンチに限定されるものではなく、原則的に、例えばハンマドリルのように運転状態の検知が必要とされる手持ち式工作機械100において使用されてよいことを指摘しておく。
【0057】
ハウジング105内に、バッテリパック190から電流が供給される電気式の電動機180および伝動装置170が配置されている。電動機180は伝動装置170を介して入力スピンドルに接続されている。さらに、ハウジング105内のバッテリパック190の領域内にコントロールユニット370が配置されており、このコントロールユニット370は、電動機180および伝動装置170を開ループ制御および/または閉ループ制御するために、例えば設定されたモータ回転数n、選択された角運動量、所望の伝動装置運動x等によって電動機180および伝動装置170に作用する。
【0058】
電動機180は、例えばハンドスイッチ195を介して操作可能、すなわちスイッチオンおよびスイッチオフ可能であって、任意のモータ型式、例えば電子的に整流されたモータまたは直流モータであってよい。基本的に電動機180は、リバース運転も、また所望のモータ回転数nおよび所望の角運動量に関連したプリセットも実現可能であるように、電子的に開ループ制御可能若しくは閉ループ制御可能である。適切な電動機の機能形式および構造は、従来技術により十分公知であるので、ここでは、説明の簡潔さのために詳しい説明は省く。
【0059】
入力スピンドルおよび出力スピンドルを介して、工具受け140が回転可能にハウジング105内に支承されている。工具受け140は、工具を受けるために用いられ、出力スピンドルに直に一体成形されているかまたは出力スピンドルにアタッチメント形式で接続されていてよい。
【0060】
コントロールユニット370は、電源に接続されていて、電動機180を様々な電流信号によって電子的に開ループ制御可能または閉ループ制御可能であるように構成されている。様々な電流信号は、電動機180の様々な角運動量のために用意されており、この場合、電流信号は制御ラインを介して電動機180に伝送される。電源は、例えばバッテリとして、または図示の実施例のようにバッテリパック190としてまたは配電網接続部として構成されていてよい。
【0061】
さらに、様々な運転モードおよび/または電動機180の回転方向を設定するために、詳細が示されていない操作エレメントが設けられていてよい。
【0062】
図2には、インパクトレンチの規定通りの使用時にまたは類似の形式で発生するような、インパクトレンチの電動機180の運転量200の1例が示されている。次の構成は、インパクトレンチに関するものであるが、本発明の枠内で例えばハンマドリルのような別の手持ち式工作機械100のためにも合理的に適用される。
【0063】
図2の例では、横軸xに基準値としての時間が示されている。しかしながら選択的な実施例では、例えば工具受け140の回転角度または電動機180の回転角度等の、時間に関連した量が基準値として示される。図面では、縦軸f(x)に、各時点で生じたモータ回転数nが示されている。モータ回転数の代わりに、モータ回転数に関連した別の運転量が選択されてもよい。本発明の選択的な実施例では、f(x)は例えばモータ電流の信号を表している。
【0064】
モータ回転数およびモータ電流は、手持ち式工作機械100において一般的であって追加費用なしでコントロールユニット370によって検出される運転量である。電動機180の運転量200の信号の算出は、本発明による方法の概略的なフローチャートを示す
図4に、方法ステップS1として示されている。本発明の好適な実施例では、手持ち式工作機械100の使用者は、どの運転量に基づいて進歩性のある方法が実行されるべきであるかを選択することができる。
【0065】
図2(a)には、取付けキャリア、例えば木の板内における緩んでいる操作エレメント、例えばねじの使用目的が示されている。
図2(a)には、信号が、モータ回転数の単調な増大を特徴とし、また比較的一定なモータ回転数の範囲によってプラトーとも呼ばれる第1の領域310を有していることが示されている。
図2(a)では、横軸xと縦軸f(x)との交点は、ねじ込み過程におけるインパクトレンチの始動に相当する。
【0066】
第1の領域310内で、インパクトレンチは打撃なしのねじ込みの運転状態で作業する。
【0067】
第2の領域320内で、インパクトレンチは回転打撃運転で作業する。回転打撃運転は、運転量200の信号の振動変化を特徴としており、この場合、振動の形状は例えば三角法によるまたはその他の振動形であってよい。この実施例において、振動は、変更された三角関数と呼ばれる形状を有していて、この場合、振動の上の半波は三角帽子の形または歯形を有している。打撃ドライブ運転中の運転量200の信号の、このような特徴を有する形状は、打撃工具の打撃体の開放および自由回転、並びに打撃工具と電動機180との間に存在する特に伝動装置170のシステム連鎖の開放および自由回転によって発生する。
【0068】
打撃運転の定性的な信号波形は、インパクトレンチに内在する特性に基づいて、つまり原理的に公知である。
図4に示した本発明による方法では、このような認識から出発してステップS0で少なくとも1つの典型的な状態を表すモデル信号波形240が確定され、この場合、典型的な状態を表すモデル信号波形240は、第1の運転状態、つまり
図2(a)の例では第2の領域320内の打撃ドライブ運転に割り当てられている。言い換えれば、第1の運転状態のための典型的な状態を表すモデル信号波形240は、例えば振動変化の存在、振動周波数若しくは振動振幅、または連続的な、ほぼ連続的な若しくは断続的な形状の個別の信号シーケンス等の典型的な特徴を含有している。
【0069】
別の使用目的では、検出しようとする第1の運転状態が、振動による信号波形とは別の信号波形によって、例えば関数f(x)の不連続性または成長率によって特徴付けられていてよい。この場合、典型的な状態を表すモデル信号波形は、振動の代わりに、ちょうどこのようなパラメータによって特徴付けられている。
【0070】
図2(b)には、取付けキャリア、例えば木の板内における堅固な固定エレメント、例えばねじの使用目的が示されている。「堅固な」とは、固定エレメントが少なくとも部分的に取付けキャリア内にねじ込まれていて、中断されたねじ込み作業が継続されるべきである、ということを意味する。第1および第2の領域310,320の参照符号および表示は、
図2(a)の通りである。
図2(a)に対する
図2(b)の使用目的の違いは、単調に増大する回転数を有する短い振動段階後に、回転打撃運転が単調に増大する回転数中に既に始まるという点にある。
図2(b)では、比較的一定の回転数を有するプラトーが殆ど存在していないことが分かる。
【0071】
本発明による方法の好適な実施形態では、方法ステップS0で、典型的な状態を表すモデル信号波形240が確定され得る。典型的な状態を表すモデル信号波形240は、機器内部に保存されているか、算出されるかまたは記憶されていてよい。選択的な実施例では、典型的な状態を表すモデル信号波形は、選択的におよび/または追加的に手持ち式工作機械100に、例えば外部のデータ機器から提供されてよい。
【0072】
本発明による方法の方法ステップS2で、電動機180の運転量の信号が典型的な状態を表すモデル信号波形240と比較される。特徴「比較する」は、本発明の文脈中において幅広く、かつ信号分析の意味で解釈されるべきであるので、比較の結果は、特に電動機180の運転量200の信号と典型的な状態を表すモデル信号波形240との部分的なまたは段階的な一致であってもよい。この場合、2つの信号の一致の程度は、後述されている様々な方法によって算出され得る。
【0073】
本発明による方法の方法ステップS3で、第1の運転状態が存在するかどうかの決定が、少なくとも部分的に比較の結果に基づいて得られる。この場合、一致の程度は、第1の運転状態の検知の感度を設定するための工場側または使用者側で設定可能なパラメータである。
【0074】
実際の使用時には、第1の運転状態の存在に関して運転を監視するために、方法ステップS1,S2,S3は、手持ち式工作機械100の運転中に繰り返し実行されるように、設計されていてよい。このために、方法ステップS1で、運転量200の算出された信号をセグメントに分割することが行われ、従って方法ステップS2およびS3は、好適には確定された常に同じ長さの信号セグメントで実行される。
【0075】
このために、運転量200の信号は測定値の連続として、メモリ、好適にはリングメモリに記憶されてよい。この実施例では、手持ち式工作機械100が、メモリ、好適にはリングメモリを有している。
【0076】
図2に関連して前述したように、本発明の好適な実施例によれば、方法ステップS1で運転量200の信号が運転量の測定値の経時変化として算出されるか、または電動機180の経時変化に関連した量としての運転量の測定値として算出される。この場合、測定値は、離散的、ほぼ連続的または連続的であってよい。
【0077】
この場合、1実施例によれば、運転量200の信号は方法ステップS1で運転量の測定値の経時変化として評価され、方法ステップS1に続く方法ステップS1aで、運転量の測定値の経時変化が、電動機180の経時変化に関連した量としての運転量の測定値の変化に変換され、例えば工具受け140の回転角度またはモータ回転角度の測定値の変化に変換される。
【0078】
この実施例の利点を、
図3を用いて以下に説明する。
図2と同様に、
図3aは、横軸x、ここでは時間tに対する運転量200の信号f(x)を示す。
図2と同様に、運転量は、モータ回転数またはモータ回転数に関連するパラメータであってよい。
【0079】
図面は、インパクトレンチの場合の第1の運転モード、つまりインパクトレンチモードにおける運転量200の2つの信号変化を含有している。2つのケースにおいて、信号は、理想的には正弦波とみなされる振動変化の波長を含有しており、この場合、短い波長T1の信号は、より高い打撃周波数の変化を有し、より長い波長T2の信号は、より低い打撃周波数の変化を有している。
【0080】
2つの信号は、同じ手持ち式工作機械100の異なるモータ速度で生成され、特に、使用者が手持ち式工作機械100の操作スイッチを介してどのくらいの回転速度を要求するかに依存している。
【0081】
例えばパラメータ「波長」が、典型的な状態を表すモデル信号波形240を規定するために考慮されるべき場合、図示の実施例では、典型的な状態を表すモデル信号波形の可能な部分として2つの異なる波長T1およびT2が記憶され、それによって運転量200の信号と典型的な状態を表すモデル信号波形240との比較が、2つのケースにおいて、結果「一致」を生ぜしめるようにしなければならない。モータ回転数は、時間に対して一般的にかつ大規模に変化し、ひいては求められた波長も変化し得るので、従ってこのような打撃周波数を検知するための方法は相応にアダプティブに設定されなければならない。
【0082】
可能な波長が多くある場合は、この方法およびプログラミングの費用は相応に直ちに上昇する。
【0083】
従って好適な実施例では、横軸の時間値は、時間値に関連する値、例えば加速値、より高い位数の衝撃値、出力値、エネルギ値、周波数値、工具受け140の回転角度値または電動機180の回転角度値に変換される。これは可能である。何故ならば、電動機180から打撃機構および工具受け140への固定的な伝達比によって、モータ回転数から打撃周波数への直接的な公知の依存性が得られるからである。このような規格化によって、モータ回転数に依存しない一様な周期性の振動信号が得られ、これは
図3bに、T1およびT2に所属する、変換から成る2つの信号によって示されており、この場合、2つの信号は同じ波長P1=P2を有している。
【0084】
相応に、本発明のこの実施例では、すべての回転数のために有効な典型的な状態を表すモデル信号波形240は、時間に関連する量に対する、波長の唯一のパラメータ、例えば工具受け140の回転角度またはモータ回転角度によって確定され得る。
【0085】
好適な実施例では、比較法を有する方法ステップS2で、運転量200の信号の比較が行われ、この場合、比較法は、少なくとも1つの、周波数に基づく比較法および/または相対比較法を有している。比較法は、少なくとも1つの予め設定された閾値が満たされるかどうかについて、運転量200の信号を、典型的な状態を表すモデル信号波形240と比較する。周波数に基づく比較法は、少なくともバンドパスフィルタリングおよび/または周波数分析を含有している。相対比較法は、少なくともパラメータ推定および/または交差相関を含有している。周波数に基づいた相対比較法について以下に詳しく説明する。
【0086】
バンドパスフィルタリングを有する実施例では、場合によっては記載されているように、時間に関連する量に変換された入力信号がバンドパスを介してフィルタリングされ、その通過周波数帯が予め設定された閾値を示す。通過周波数帯は、典型的な状態を表すモデル信号波形240から得られる。また、通過周波数帯が、典型的な状態を表すモデル信号波形240に関連して確定された周波数と一致することも考えられる。第1の運転状態においてそうであるように、この周波数の振幅が前もって確定された限界値を上回る場合、方法ステップS2の比較は、運転量200の信号が典型的な状態を表すモデル信号波形240と同じであり、従って第1の運転状態が実行される、という結果が得られる。振幅限界値の確定は、この実施例では、方法ステップS2に続く、典型的な状態を表すモデル信号波形240と運転量200の信号との一致の品質決定の方法ステップS2aとして解釈されてよく、それに基づいて方法ステップS3で、第1の運転状態が存在するか否かが決定される。
【0087】
周波数に基づく比較法として周波数分析が用いられる実施例では、運転量200の信号が、周波数分析、例えば高速フーリエ変換(Fast Fourier Transformation,FFT)に基づいて、時間レンジから、周波数の相応の重み付けを有する周波数範囲内へ変換され、この場合、ここで、上記実施例による概念「時間レンジ」は、「時間に対する運転量の変化」とも、また「時間に関連する量としての運転量の変化」とも解釈されてよい。
【0088】
このような形の周波数分析は、信号分析の数学的なツールとして多くの技術分野により十分に公知であり、特に、測定された信号を級数展開として、様々な波長の重み付けされた周期的な調和関数に近づけるために使用される。この場合、重み付けファクターは、検査された信号内に所定の波長の対応する調和関数が存在するかどうか、およびどの程度の強さで存在するかを示す。
【0089】
本発明による方法に関連して、周波数分析を用いて、典型的な状態を表すモデル信号波形240に割り当てられた周波数が運転量200の信号内に存在するかどうか、どの振幅で存在するかを確認することができる。バンドパスフィルタリングに関連して説明されているように、運転量200の信号と典型的な状態を表すモデル信号波形240との一致の程度の大きさである、振幅の限界値が確定され得る。典型的な状態を表すモデル信号波形240に割り当てられた、運転量200の信号の周波数の振幅が、この限界値を上回ると、方法ステップS3で、第1の運転状態が存在することが確定される。
【0090】
相対比較法が用いられる実施例において、運転量200の測定された信号が典型的な状態を表すモデル信号波形240と少なくとも50%の一致を有し、それによって予め設定された閾値が得られるかどうかを見つけ出すために、運転量200の信号が典型的な状態を表すモデル信号波形240と比較される。また、2つの信号の互いの偏差を算出するために、運転量200の信号が典型的な状態を表すモデル信号波形240と比較されることも考えられる。
【0091】
パラメータ推定が相対比較法として用いられる、本発明による方法の実施例では、運転量200の測定された信号が典型的な状態を表すモデル信号波形240と比較され、この場合、典型的な状態を表すモデル信号波形240のために推定されたパラメータが識別される。推定されたパラメータを用いて、第1の運転状態が存在するかどうかに関する、運転量200の測定された信号と典型的な状態を表すモデル信号波形240との一致の程度が算出される。この場合、パラメータ推定は補正算出に基づいており、この補正算出は当業者にとって公知である数学的な最適化法である。数学的な最適化法は、推定されたパラメータを用いて典型的な状態を表すモデル信号波形240を運転量200の信号の一群の測定データに適合させることができる。典型的な状態を表すモデル信号波形240の推定されたパラメータと運転量200の測定された信号との一致の程度に依存して、第1の運転状態が存在するかどうかの決定が得られる。
【0092】
パラメータ推定の相対比較法の補正算出を用いて、運転量200の測定された信号に対する、典型的な状態を表すモデル信号波形240の推定されたパラメータの偏差の程度も算出され得る。
【0093】
運転量200の測定された信号に対する、推定されたパラメータを有する典型的な状態を表すモデル信号波形240の十分な一致または十分に小さい偏差が存在するかどうかを決定するために、方法ステップS2に続く方法ステップS2aで、偏差の決定が実施される。運転量の測定された信号に対する、典型的な状態を表すモデル信号波形240の偏差が70%であると算出されれば、第1の運転状態が運転量の信号内で識別されたかどうか、および第1の運転状態が存在するかどうかの決定が行われる。
【0094】
典型的な状態を表すモデル信号波形240が運転量200の信号と十分に一致しているかどうかを決定するために、別の実施例では、方法ステップS2に続く方法ステップS2aで、推定されたパラメータのための品質決定が実施される。品質決定時に、品質のための0~1の間の値が算出され、この場合、より高い値が、典型的な状態を表すモデル信号波形240と運転量200の信号との間のより高い一致を表す。第1の運転状態が存在するかどうかの決定は、好適な実施例では方法ステップS3で少なくとも部分的に、品質の値が50%の範囲内であるという条件に基づいて行われる。
【0095】
本発明による方法の1実施例では、相対比較法として方法ステップS2で、交差相関の方法が用いられる。前記数学的な方法と同様に、交差相関の方法は当業者にとって公知である。交差相関の方法では、典型的な状態を表すモデル信号波形240が運転量200の測定された信号と相関関係にある。
【0096】
上記で紹介されたパラメータ推定の方法と比較して、交差相関の結果は同様に、運転量200の信号の長さと典型的な状態を表すモデル信号波形240とから成る加算された信号長さを有する連続信号であって、時間をずらされた入力信号の相似性を示す。この場合、この出力連続の最大値は、2つの信号、つまり運転量200の信号と典型的な状態を表すモデル信号波形240との最大の一致の時点を表し、ひいては、この実施例では方法ステップS3で第1の運転状態の存在のための決定基準として用いられる相互関係自体のための程度でもある。本発明による方法の実現において、パラメータ推定に対する基本的な相異は、交差相関のための任意の典型的な状態を表すモデル信号波形を使用することができ、これに対してパラメータ推定においては典型的な状態を表すモデル信号波形240がパラメータ化可能な数学的な関数によって表されなければならない、という点にある。
【0097】
図5は、周波数に基づく比較法としてバンドパスフィルタリングが使用される場合のための運転量200の測定された信号を示す。この場合、横軸xとして時間または時間に関連する量が示されている。
図5aは、運転量の測定された信号、バンドバスフィルタリングの入力信号を示し、この場合、第1の領域310で手持ち式工作機械100はねじ込み運転で運転される。第2の領域320で、手持ち式工作機械100は回転打撃運転で運転される。
図5bは、バンドパスが入力信号をフィルタリングした後の、出力信号を示す。
【0098】
図6は、周波数に基づく比較法として周波数分析が使用される場合のための運転量200の測定された信号を示す。
図6aおよび
図6bには、手持ち式工作機械100がねじ込み運転中である第1の領域310が示されている。
図6aの横軸xに時間または時間に関連する量が示されている。
図6bでは、運転量200の信号が変換されて示されており、この場合、例えば高速フーリエ変換によって時間が周波数に変換され得る。
図6bの横軸x′に例えば周波数fが示されており、従って運転量200の信号の振幅が示されている。
図6cおよび
図6dには第2の領域320が示されており、この第2の領域320内で手持ち式工作機械100は回転打撃運転中である。
図6cは、回転打撃運転中の時間に対する運転量200の測定された信号を示す。
図6dは、運転量200の変換された信号を示し、この場合、周波数fに対する運転量200の信号は横軸x′として示されている。
図6dは、回転打撃運転のための特徴付けされた振幅を示す。
【0099】
図7aは、
図2に示された第1の領域310内における典型的な状態を表すモデル信号波形240と運転量200の信号との間のパラメータ推定の相対比較法による比較の典型的なケースを示す。典型的な状態を表すモデル信号波形240は概ね三角法による形状を有しているのに対して、運転量200の信号は、それとは著しく異なる形状を有している。この場合、前記比較法の選択とは無関係に、方法ステップS2で実行された、典型的な状態を表すモデル信号波形240と運転量200の信号との間の比較により、2つの信号の一致の程度は、方法ステップS3において第1の運転状態が確定されない程度に低いという結果が得られる。
【0100】
図7bには、第1の運転状態が存在し、従って典型的な状態を表すモデル信号波形240および運転量200の信号が全体として、個別の測定点で偏差が確認可能であっても、高い程度の一致を有するケースが示されている。従って、パラメータ推定の相対比較法で、第1の運転状態が存在するかどうかの決定を行うことができる。
【0101】
図8は、典型的な状態を表すモデル信号波形240の比較を示し、
図8bおよび
図8eは運転量200の測定された信号との比較を示し、
図8aおよび
図8dは相対比較法として交差相関が用いられる場合を示す。
図8a乃至
図8fには、横軸xに時間または時間に関連する量が示されている。
図8a乃至
図8cには、ねじ込み運転中の第1の領域310が示されている。
図8d乃至
図8fには、第1の運転状態にある第2の領域320が示されている。上記されているように、
図8aおよび
図8dに示された運転量の測定された信号は、
図8bおよび
図8eで典型的な状態を表すモデル信号波形と関連付けられる。
図8cおよび
図8fでは相関関係のそれぞれの結果が示されている。
図8cには、第1の領域310内での相関関係の結果が示されており、この場合、2つの信号の低い程度の一致が存在することが検知可能である。従って
図8cでは、ねじ込み運転が存在する。
図8fには、第2の領域320内での相関関係の結果が示されている。
図8fでは、高い程度の一致が存在するので、手持ち式工作機械100が第1の運転状態で運転されることを確認することができる。
【0102】
本発明は記載された図示の実施例だけに限定されるものではない。むしろ本発明は、特許請求の範囲によって規定された本発明の枠内ですべての当業者的な変化実施例も含んでいる。
【0103】
記載された図示の実施例の他に、その他の変化形および複数の特徴の組み合わせを含むその他の実施例が提案可能である。
【符号の説明】
【0104】
100 手持ち式工作機械
105 ハウジング
115 ハンドル
140 工具受け
170 伝動装置
180 電動機
190 バッテリパック
195 ハンドスイッチ
200 運転量
240 典型的な状態を表すモデル信号波形
310 第1の領域
320 第2の領域
370 コントロールユニット
n モータ回転数
P1,P2 波長
S0,S1,S2,S3 方法ステップ
t 時間
T1,T2 波長
x 横軸
f(x) 縦軸