(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】空間光変調器および発光装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20240515BHJP
H01S 5/0239 20210101ALI20240515BHJP
H01S 5/11 20210101ALI20240515BHJP
G02F 1/29 20060101ALN20240515BHJP
【FI】
G02F1/01 D
H01S5/0239
H01S5/11
G02F1/29
(21)【出願番号】P 2021567565
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2020048241
(87)【国際公開番号】W WO2021132374
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019238392
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和義
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】上野山 聡
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/172161(WO,A1)
【文献】特表2008-523621(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0098318(US,A1)
【文献】特開2019-003041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00- 1/125
G02F 1/21- 7/00
H01S 5/00- 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面導波型の空間光変調器であって、
表面と、前記表面に対向する裏面と、それぞれが前記表面と前記裏面を連絡する複数の貫通孔であって少なくとも前記表面上で定義されるそれぞれの開口が一次元状または二次元状に配置されている複数の貫通孔と、を有する基板と、
前記複数の貫通孔の内壁をそれぞれ覆う複数の積層構造と、
を備え、
前記複数の積層構造それぞれは、
前記複数の貫通孔のうち対応する貫通孔の前記内壁上に設けられた第1の導電層と、
前記第1の導電層上に設けられた光透過性を有する誘電体層と、
前記誘電体層上に設けられた光透過性を有する第2の導電層と、
を含み、
前記第1および第2の導電層のうち少なくとも一方は、前記複数の貫通孔のうち一またはそれ以上の貫通孔で構成されるグループごとに電気的に分離されている、
空間光変調器。
【請求項2】
前記表面上で定義される、前記複数の貫通孔それぞれの開口形状は、回転対称性または鏡映対称性を有する、請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項3】
前記表面上で定義される、前記複数の貫通孔それぞれの開口形状は、互いに一致している、請求項1または2に記載の空間光変調器。
【請求項4】
前記表面および前記裏面の少なくとも一方において、前記複数の貫通孔それぞれの開口重心は、正方格子または三角格子の格子点上に位置する、請求項1~3のいずれか1項に記載の空間光変調器。
【請求項5】
前記表面上で定義される、前記複数の貫通孔それぞれの開口形状は、線状に延びた形状である、請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項6】
前記複数の貫通孔それぞれの前記開口形状は、直線状または円弧状の形状を含む、請求項5に記載の空間光変調器。
【請求項7】
前記複数の貫通孔それぞれの前記開口形状は、原点を中心とした極座標において360°未満の角度範囲にわたって延在する前記円弧状の形状を含み、
前記表面上において、前記複数の貫通孔は、動径方向に沿って等間隔に並んでいる、請求項6に記載の空間光変調器。
【請求項8】
前記複数の貫通孔それぞれにおいて、前記複数の積層構造のうち対応する積層構造上に設けられた、光透過性を有する誘電体領域をさらに備える、請求項1~7の何れか一項に記載の空間光変調器。
【請求項9】
前記誘電体領域は、対応する前記積層構造に囲まれた空間のうち、少なくとも、前記表面から前記裏面に向かう厚み方向に沿って定義される所定区間を充填している、請求項8に記載の空間光変調器。
【請求項10】
前記複数の貫通孔それぞれにおいて、前記内壁上に設けられた、平滑な表面を有する平滑層をさらに備え、
前記複数の貫通孔それぞれにおいて、前記複数の積層構造のうち対応する積層構造は、前記平滑層の前記表面上に設けられている、請求項1~9の何れか一項に記載の空間光変調器。
【請求項11】
前記平滑層は、金属および誘電体の少なくとも一方を含む、請求項10に記載の空間光変調器。
【請求項12】
前記第1および第2の導電層のうち一方は、前記複数の貫通孔それぞれに対応して前記基板の前記表面上に設けられた一またはそれ以上の第1の電極に電気的に接続されている、請求項1~11の何れか一項に記載の空間光変調器。
【請求項13】
前記第1および第2の導電層のうち他方は、前記複数の貫通孔に共通な、前記基板の前記裏面上に設けられた第2の電極に電気的に接続されている、請求項12に記載の空間光変調器。
【請求項14】
前記第2の電極は、前記基板の前記表面または前記裏面において、前記複数の貫通孔の間の領域を覆っている、請求項13に記載の空間光変調器。
【請求項15】
前記基板は、それぞれが、前記複数の貫通孔のうち1つ貫通孔が割り当てられるとともに前記表面上において互いに交差する第1方向および第2方向に沿ってそれぞれ定義される最大幅が何れも入射光の波長よりも短く設定された複数の基本要素により構成され、
前記複数の基本要素のうち、前記第1方向および前記第2方向の少なくとも何れかに沿って連続する3個以上の基本要素は、変調制御単位としての基本ユニットを構成し、
前記基本ユニットを構成する前記3個以上の基本要素において、前記第1および第2の導電層のうち一方は、前記基板の前記裏面の一部を構成する面上に設けられた共通電極に電気的に接続されている、請求項1~11の何れか一項に記載の空間光変調器。
【請求項16】
前記基板は、半導体材料を主に含む、請求項1~15の何れか一項に記載の空間光変調器。
【請求項17】
前記半導体材料は、Si、Ge、GaAs、InP、およびGaNのうち少なくとも1つを含む、請求項16に記載の空間光変調器。
【請求項18】
前記第1の導電層は、金属層である、請求項1~17の何れか一項に記載の空間光変調器。
【請求項19】
前記第1の導電層は、Ptを含む、請求項18に記載の空間光変調器。
【請求項20】
前記誘電体層は、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化シリコン、および窒化シリコンのうち少なくとも一つを含む、請求項1~19の何れか一項に記載の空間光変調器。
【請求項21】
前記第2の導電層は、ITO、酸化亜鉛系導電体、窒化チタン、および酸化カドミウムのうち少なくとも一つを含む、請求項1~20の何れか一項に記載の空間光変調器。
【請求項22】
請求項1~21の何れか一項に記載の空間光変調器と、
前記空間光変調器における前記表面または前記裏面と光学的に結合された面光源と、
を備える、
発光装置。
【請求項23】
前記面光源は、フォトニック結晶面発光レーザ素子を含む、請求項22に記載の発光装置。
【請求項24】
前記面光源は、活性層および位相変調層を有する面発光レーザ素子を含み、
前記位相変調層は、基本層と、前記基本層とは屈折率が異なる屈折率を有するとともに当該位相変調層の厚み方向に垂直な面内において二次元状に分布する複数の異屈折率領域と、を含み、
前記複数の異屈折率領域それぞれの重心位置は、
その重心が、前記位相変調層の前記面上に設定された仮想的な正方格子の対応する格子点から離れた状態で配置されるとともに、前記重心および対応する前記格子点間を結ぶ線分と前記正方格子とのなす角度で定義される、対応する前記格子点を中心とした回転角度が個別に設定されるか、または、
その重心が、対応する前記格子点を通り前記正方格子に対して傾斜する直線上に配置されるとともに、対応する前記格子点までの距離が個別に設定される、請求項22に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空間光変調器および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体発光素子およびその製造方法に関する技術が開示されている。この半導体発光素子は、半導体基板と、半導体基板上にそれぞれ順に設けられた、第1クラッド層、活性層、第2クラッド層、およびコンタクト層を備える。また、この半導体発光素子は、第1クラッド層と活性層との間または活性層と第2クラッド層との間に位置する位相変調層を備える。位相変調層は、基本層と、該基本層の屈折率とは異なる屈折率を有する複数の異屈折率領域とを有する。位相変調層の厚み方向に垂直な面上に設定された仮想的な正方格子は、複数の単位構成領域により構成される。各単位構成領域では、異屈折率領域が割り当てられており、位相変調層は、該異屈折率領域の重心位置が対応する単位構成領域の格子点から離れるよう配置されるとともに所望の光像に応じた該格子点周りの回転角度を有するよう、構成される。
【0003】
非特許文献1には、MACE(Metal-Assisted Chemical Etching)により基板表面に複数の周期的な凹部が形成され、該凹部の側壁に金属層、誘電体層および透明導電層を積層することにより、入射光の位相を変調することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Junghyun Park and Soo Jin Kim, "Subwavelength-spaced transmissive metallic slits for 360-degree phase control by using transparent conducting oxides", Applied Optics, Vol. 57, No. 21, 6027-6031, 20 July 2018
【文献】Appl. Opt. No.5, p.967-969 (1966)
【文献】Appl. Opt. No. 9, p.1949 (1970)
【文献】Y. Kurosaka et al.," Effects of non-lasing band in two-dimensional photonic-crystal lasers clarified using omnidirectional band structure," Opt. Express 20, 21773-21783 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、上述の従来技術について検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、従来から、空間的な位相変調により任意の光像を生成する技術が研究されている。或る技術では、半導体レーザ素子の活性層の近傍に、複数の異屈折率領域を含む位相変調層が設けられる。そして、位相変調層の厚み方向に垂直な面上に設定される仮想的な正方格子において、例えば、複数の異屈折率領域の重心は、仮想的な正方格子の格子点から離れて配置されるとともに、格子点周りの回転角度が異屈折率領域ごとに個別に設定される。このような素子は、フォトニック結晶レーザ素子と同様にレーザ光を積層方向に出射するとともに、レーザ光の位相分布を空間的に制御し、レーザ光を任意形状の光像として出射することができる。
【0007】
しかしながら、上述の素子は、位相変調層における複数の異屈折率領域の配置が固定されているので、予め設計された一の光像のみしか出力することができない。出射光像を動的に変化させるためには、出射光の位相分布を動的に制御する必要がある。
【0008】
また、光の位相分布を動的に制御し得るデバイスとして、位相変調型の空間光変調器がある。例えば、液晶型の空間光変調器は、複数の画素電極が液晶層に沿って一次元状または二次元状に配置された構成を備える。そして、液晶層に入射した光の位相変調量は、画素電極ごとに電圧を個別に設定することにより、画素ごとに個別に制御し得る。このような空間光変調器と面光源(例えばフォトニック結晶レーザ素子)とを組み合わせることにより、出射光の位相分布を動的に制御することが可能になる。
【0009】
しかしながら、液晶型の空間光変調器の画素の配列周期は10μm前後であるのに対し、フォトニック結晶レーザ素子の発光面全体のサイズは各辺200μm~500μmである。したがって、液晶型の空間光変調器とフォトニック結晶レーザ素子とを組み合わせたとしても、有効画素数が極めて少なく、高画質の光像を得ることが困難である。また、動作速度が液晶の反応速度によって律速されるので、高速化が難しいという課題も存在する。
【0010】
本開示は上述のような課題を解決するためになされたものであり、光の位相分布を動的に制御し得るとともに画素の配列周期がより小さくかつ高速化に適した空間光変調器、および該空間光変調器を備える発光装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一実施形態による空間光変調器は、面導波型の空間光変調器を含む。当該空間光変調器は、基板と、複数の積層構造と、を備える。基板は、表面と、該表面に対向する裏面と、それぞれが表面と裏面を連絡する複数の貫通孔と、を有する。また、複数の貫通孔は、少なくとも表面上で定義されるそれぞれの開口が一次元状または二次元状に配置されている。特に、複数の積層構造それぞれは、第1の導電層と、誘電体層と、第2の導電層と、を含む。第1の導電層は、複数の貫通孔のうち対応する貫通孔の内壁上に設けられている。誘電体層は、第1の導電層上に設けられるとともに光透過性を有する。第2の導電層は、誘電体層上に設けられるとともに光透過性を有する。さらに、第1および第2の導電層のうち少なくとも一方は、複数の貫通孔のうち一またはそれ以上の貫通孔で構成されるグループごとに電気的に分離されている。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、光の位相分布を動的に制御し得るとともに画素の配列周期がより小さくかつ高速化に適した空間光変調器、および該空間光変調器を備える発光装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る空間光変調器1Aの外観を示す切り欠き斜視図であって、空間光変調器1Aの一部を拡大して示す図である。
【
図2】
図2(a)~
図2(i)は、基板10の厚み方向から見た各貫通孔13の形状の例を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1中に示されたIII-III線に沿った断面図であって、空間光変調器1Aの側断面を示す図である。
【
図5】
図5は、空間光変調器1Aの作用について説明する図である。
【
図6】
図6は、或る方向に並ぶ複数の貫通孔13において、導電層21と導電層23との間の電圧の大きさに傾斜を与えた場合の光Lの様子を概念的に示す図である。
【
図7】
図7(a)~
図7(d)は、空間光変調器1Aを作製する方法の一例を示す図である。
【
図8】
図8(a)~
図8(d)は、空間光変調器1Aを作製する方法の一例を示す図である。
【
図9】
図9(a)~
図9(c)は、空間光変調器1Aを作製する方法の一例を示す図である。
【
図10】
図10(a)~
図10(c)は、空間光変調器1Aを作製する方法の一例を示す図である。
【
図11】
図11(a)~
図11(c)は、基板10に複数の貫通孔13を形成する別の方法(MACE)を示す図である。
【
図12】
図12は、第1変形例として空間光変調器1Bを示す平面図である。
【
図13】
図13は、第2変形例として空間光変調器1Cを示す平面図である。
【
図14】
図14は、第2変形例として空間光変調器1Dを示す平面図である。
【
図15】
図15は、第2変形例として空間光変調器1Eを示す平面図である。
【
図16】
図16は、第3変形例として空間光変調器1Fを示す平面図である。
【
図17】
図17は、第4変形例として空間光変調器1Gの構成を示す断面図である。
【
図18】
図18(a)および
図18(b)は、空間光変調器1Gを作製する工程のうち、誘電体領域28を形成する工程を示す図である。
【
図19】第5変形例として空間光変調器1Hの構成を示す断面図である。
【
図20】
図20(a)~
図20(c)は、空間光変調器1A~1Hにおいて、位相の動的変調を実現するための基本要素および基本ユニットの構成を説明するための図である。
【
図21】
図21(a)は、第2実施形態に係る発光装置2の構成を示す断面図である。
図21(b)は、フォトニック結晶層65Aを拡大して示す断面図である。
【
図22】
図22は、フォトニック結晶層65Aの平面図である。
【
図23】
図23は、第2実施形態に係る発光装置2の一変形例を示す断面図である。
【
図24】
図24は、金属電極膜66および接合部51の平面形状の例を示す図である。
【
図25】
図25は、
図23に示した構成から半導体基板53を取り除いた場合の構成を示す断面図である。
【
図26】
図26は、S-iPMレーザが備える位相変調層65Bの平面図である。
【
図27】
図27は、X-Y平面内の異屈折率領域の形状の別の例を示す平面図である。
【
図28】
図28は、面発光レーザ素子50の出力ビームパターンが結像して得られる光像と、位相変調層65Bにおける回転角度分布φ(x,y)との関係を説明するための図である。
【
図29】
図29は、球面座標(r,θ
rot,θ
tilt)からXYZ直交座標系における座標(ξ,η,ζ)への座標変換を説明するための図である。
【
図30】
図30(a)および
図30(b)は、各異屈折率領域65bの配置を決める際に、一般的な離散フーリエ変換(或いは高速フーリエ変換)を用いて計算する場合の留意点を説明するための図である。
【
図31】
図31は、回転角度分布φ
1(x,y)の一例を概念的に示す図である。
【
図32】
図32は、S-iPMレーザが備える位相変調層65Cの平面図である。
【
図33】
図33は、位相変調層65Cにおける異屈折率領域65bの位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0015】
(1) 本開示の空間光変調器は、面導波型の空間光変調器を含む。当該空間光変調器は、その一態様として、基板と、複数の積層構造と、を備える。基板は、表面と、該表面に対向する裏面と、それぞれが表面と裏面を連絡する複数の貫通孔と、を有する。また、複数の貫通孔は、少なくとも表面上で定義されるそれぞれの開口が一次元状または二次元状に配置されている。特に、複数の積層構造それぞれは、第1の導電層と、誘電体層と、第2の導電層と、を含む。第1の導電層は、複数の貫通孔のうち対応する貫通孔の内壁上に設けられている。誘電体層は、第1の導電層上に設けられるとともに光透過性を有する。第2の導電層は、誘電体層上に設けられるとともに光透過性を有する。さらに、第1および第2の導電層のうち少なくとも一方は、複数の貫通孔のうち一またはそれ以上の貫通孔で構成されるグループごとに電気的に分離されている。
【0016】
当該空間光変調器に対して表面側または裏面側から光が入射すると、複数の貫通孔内を光が通過する。その際、各貫通孔内の光は、各積層構造の第1の導電層と誘電体層との界面において反射しながら進み、各貫通孔を通り抜ける。第1の導電層と第2の導電層との間に電圧が印加されると、第2の導電層に蓄積されるキャリアの密度に応じて第2の導電層の屈折率が変化し、また、第1の導電層と第2の導電層との間の電界によって誘電体層の屈折率が変化し、また、第1の導電層と誘電体層との界面における反射前後の位相シフト量が変化する。したがって、各貫通孔から出射される光の位相は、第1の導電層と第2の導電層との間の電圧の大きさに応じて変化する。そして、第1および第2の導電層のうち少なくとも一方は、一またはそれ以上の貫通孔で構成されるグループごとに電気的に分離している。故に、一または二以上の貫通孔ごとに電圧を個別に設定できる。以上の作用により、この空間光変調器によれば、光の位相分布を動的に制御し得る。
【0017】
また、貫通孔は例えば半導体のエッチングプロセスまたはメタルアシスト化学エッチング(MACE)等により形成可能なので、貫通孔の配列周期を、液晶型の空間光変調器の画素の配列周期よりも小さくすることは容易である。したがって、この空間光変調器によれば、画素の配列周期を従来よりも小さくすることができる。その結果、この空間光変調器と、例えばフォトニック結晶レーザ素子といった面光源とを組み合わせることにより、有効画素数を多くして高画質の光像を得ることができる。さらに、この空間光変調器は液晶を使用しないので、液晶の反応速度に律速されることなく高速化に適している。
【0018】
(2) 本開示の一態様として、表面上で定義される複数の貫通孔それぞれの開口形状は、回転対称性または鏡映対称性を有するのが好ましい。また、本開示の一態様として、表面上で定義される複数の貫通孔それぞれの開口形状は、互いに一致していてもよい。
【0019】
(3) 本開示の一態様として、表面および裏面の少なくとも一方において、複数の貫通孔それぞれの開口重心は、正方格子または三角格子の格子点上に位置するのが好ましい。この場合、基板の厚み方向に垂直な面上において複数の貫通孔が規則正しく整列するので、光像を容易に設計することができる。
【0020】
(4) 本開示の一態様として、表面上で定義される複数の貫通孔それぞれの開口形状は、線状に延びた形状であってもよい。このとき、複数の貫通孔は、貫通孔それぞれの延在方向と交差する方向に並んでもよい。
【0021】
(5) 本開示の一態様として、複数の貫通孔それぞれの前記開口形状は、直線状または円弧状の形状を含んでもよい。
【0022】
(6) 本開示の一態様として、複数の貫通孔それぞれの開口形状が、原点を中心とした極座標において360°未満の角度範囲にわたって延在する円弧状の形状を含む場合、表面上において、複数の貫通孔は、動径方向に沿って等間隔に並んでいるのが好ましい。
【0023】
(7) 本開示の一態様として、当該空間光変調器は、複数の貫通孔それぞれにおいて、複数の積層構造のうち対応する積層構造上に設けられた、光透過性を有する誘電体領域をさらに備えてもよい。この場合、貫通孔内を通過する光の光路長が長くなり、第1の導電層と誘電体層との界面において反射する回数が増える。したがって、各貫通孔における位相変調量を増大させることができる。或いは、所定の位相変調量を実現するために必要な基板の厚みを小さくすることができる。
【0024】
(8) 本開示の一態様として、誘電体領域は、対応する積層構造に囲まれた空間のうち、少なくとも、表面から裏面に向かう厚み方向に沿って定義される所定区間を充填しているのが好ましい。この場合、貫通孔内を通過する光の光路長がさらに長くなり、第1の導電層と誘電体層との界面において光の反射回数がさらに増える。
【0025】
(9) 本開示の一態様として、当該空間光変調器は、複数の貫通孔それぞれにおいて、内壁上に設けられた、平滑な表面を有する平滑層をさらに備えてもよく、平滑層の表面上に、複数の積層構造のうち対応する積層構造が設けられてもよい。この場合、貫通孔の内壁に凹凸がある場合であっても第1の導電層の表面が平滑となるので、光の乱反射を抑制することができる。また、平滑層が絶縁性の誘電体からなる場合、第1の導電層と基板とを相互に電気的に分離できるので、基板への不要な電流リークが抑制され得る。
【0026】
(10) 本開示の一態様として、平滑層は、金属および誘電体の少なくとも一方を含んでもよい。この場合、平滑層を好適に実現することができる。
【0027】
(11) 本開示の一態様として、第1および第2の導電層のうち一方は、複数の貫通孔それぞれに対応して基板の表面上に設けられた一またはそれ以上の第1の電極に電気的に接続されてもよい。例えばこのような構成により、第1および第2の導電層に対して、電圧を貫通孔ごとに個別に印加することができる。また、本開示の一態様として、第1および第2の導電層のうち他方は、複数の貫通孔に共通な、基板の裏面上に設けられた第2の電極に電気的に接続されているのが好ましい。例えばこのような構成により、基準となる電位を第1または第2の導電層に対して容易に設定することができる。
【0028】
(12) 本開示の一態様として、第2の電極は、基板の表面または裏面において、複数の貫通孔の間の領域を覆うのが好ましい。この場合、貫通孔以外の基板部分を光が通過することを抑制できるので、出射光は、貫通孔を通過して変調された光のみによって構成され得る。また、基板の表面および裏面のうち光入射側の面にこのような第2の電極を設けることによって、貫通孔以外の基板部分における光吸収の抑制、および基板温度の上昇抑制が可能になる。
【0029】
(13) 本開示の一態様として、上述のような構造を有する空間光変調器は、印加電圧(第1導電層と第2同戦争間に印加される電圧)の強度変調を利用して入射光位相の動的変調を実現する構成を備えてもよい。具体的には、基板は、それぞれが、複数の貫通孔のうち1つ貫通孔が割り当てられるとともに表面上において互いに交差する第1方向および第2方向に沿ってそれぞれ定義される最大幅が何れも入射光の波長よりも短く設定された複数の基本要素により構成される。この場合、複数の基本要素のうち、第1方向および第2方向の少なくとも何れかに沿って連続する3個以上の基本要素は、変調制御単位としての基本ユニットを構成する。また、この基本ユニットを構成する3個以上の基本要素において、第1および第2の導電層のうち一方は、共通電極に接続されている。なお、この共通電極は、基板の裏面上に設けられた第2の電極を含む。
【0030】
(14) 本開示の一態様として、基板は、半導体材料を主に含むのが好ましい。この場合、貫通孔の形成に半導体のエッチングプロセスまたはMACEを容易に用いることができる。したがって、貫通孔の配列周期を容易に小さくすることができる。
【0031】
(15) 本開示の一態様として、半導体材料は、Si、Ge、GaAs、InP、およびGaNのうち少なくとも1つを含んでのよい。この場合、貫通孔の形成に周知のエッチングプロセスを用いることができ、貫通孔の形成が容易になる。
【0032】
(16) 本開示の一態様として、第1の導電層は、金属層であってもよい。この場合、第1の導電層と誘電体層との界面において光が十分に反射され得る。
【0033】
(17) 本開示の一態様として、第1の導電層は、Ptを含んでもよい。この場合、例えば原子層堆積法(ALD)を用いることにより、内径が小さく貫通方向に長い(すなわちアスペクト比が大きい)貫通孔内に第1の導電層を容易に形成することができる。
【0034】
(18) 本開示の一態様として、誘電体層は、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化シリコン、および窒化シリコンのうち少なくとも一つを含んでもよい。この場合、光透過性を有する誘電体層を好適に実現することができる。
【0035】
(19) 本開示の一態様として、記第2の導電層は、ITO、酸化亜鉛系導電体、窒化チタン、および酸化カドミウムのうち少なくとも一つを含んでもよい。この場合、光透過性を有する第2の導電層を好適に実現することができる。
【0036】
(20) 本開示の発光装置は、その一態様として、上述のような構造を有する空間光変調器と、該空間光変調器における表面または裏面と光学的に結合された面光源と、を備えてもよい。当該発光装置によれば、上記いずれかの空間光変調器を備えることにより有効画素数の増加が可能になるため、高画質の動的な光像が得られる。
【0037】
(21) 本開示の一態様として、面光源は、フォトニック結晶面発光レーザ素子を含むのが好ましい。例えばこのような構成により、面光源の実現が容易になる。
【0038】
(22) 本開示の一態様として、面光源は、活性層および位相変調層を有する面発光レーザ素子を含み、位相変調層は、基本層と、該基本層とは屈折率が異なる屈折率を有するとともに当該位相変調層の厚み方向に垂直な面内において二次元状に分布する複数の異屈折率領域と、を含むのが好ましい。このような構成において、複数の異屈折率領域それぞれの重心位置は、(1)その重心が、位相変調層の面上に設定された仮想的な正方格子の対応する格子点から離れた状態で配置されるとともに、重心および対応する格子点間を結ぶ線分と正方格子とのなす角度で定義される、対応する格子点周りの回転角度が個別に設定されるか、または、(2)その重心が、対応する格子点を通り正方格子に対して傾斜する直線上に配置されるとともに、対応する格子点までの距離が個別に設定されるのが好ましい。例えばこのような構成であっても、面光源を実現することができる。
【0039】
以上、この[本願発明の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0040】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本実施形態に係る空間光変調器および発光装置の具体的な構造を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0041】
(第1実施形態)
図1は、本開示の第1実施形態に係る空間光変調器1Aの外観を示す切り欠き斜視図であって、空間光変調器1Aの一部を拡大して示す。この空間光変調器1Aは、面導波型の空間光変調器であって、基板10を備える。
【0042】
基板10は、表面11および裏面12を有する平板状を呈する。表面11および裏面12はそれぞれ平坦であり、かつ互いに平行である。基板10の厚み(表面11と裏面12との距離)は、例えば0.05mm以上1.0mm以下である。なお、基板10の厚みが例えば0.1mm以下である場合、空間光変調器1Aの強度が低くなる(衝撃に対して弱くなる)。そのため、例えば空間光変調器1Aの表面および/または裏面に光透過性の別の支持基板を貼り付けることによって、当該空間光変調器1Aの強度を高めてもよい。換言すれば、空間光変調器1Aの表面および/または裏面に光透過性の別の支持基板を貼り付けることにより、基板10の厚みを小さくすることができる。基板10は、半導体を主に含み、一例では半導体のみからなる。基板10を構成する半導体は、例えばSi、Ge、GaAs、InP、およびGaNのうち少なくとも1つを含む。一例では、基板10はSi基板、Ge基板、GaAs基板、InP基板、またはGaN基板である。基板10は単結晶基板であってもよく、多結晶基板であってもよい。基板10の平面形状としては、円形、正方形、長方形など様々な形状を採用し得る。基板10の直径(または長辺の長さ)は、例えば5mm以上450mm以下である。
【0043】
基板10は、複数の貫通孔13を有する。複数の貫通孔13は、表面11と裏面12との間を貫通する。基板10の厚み方向に垂直な平面(換言すると、表面11および裏面12に平行な平面)において、複数の貫通孔13は、一次元状または二次元状に配置されている。一次元状とは、複数の対象が或る一方向に沿って並ぶ配列を意味する。二次元状とは、或る規則性をもって平面的に並ぶ配列(例えば複数の対象が直交する2方向それぞれに沿って並ぶ配列など)を意味する。本実施形態では、表面11および裏面12の少なくとも一方において、複数の貫通孔13の平面形状の重心(平面形状が円形である場合、該円形の中心)は、正方格子の格子点に位置する。
【0044】
さらに、基板10の表面11上には、複数の貫通孔13それぞれに割り当てられた配線電極32が設けられている。なお、これら配線電極32(第1の電極)は、複数の電極で構成されてもよい。また、基板10の裏面12上には、複数の貫通孔13の間の領域を覆う、共通電極としての配線電極31(第2の電極)が設けられている。
【0045】
図2(a)~
図2(i)は、基板10の厚み方向から見た各貫通孔13の形状の例を示す図である。貫通孔13の形状として、
図2(a)は円形を示し、
図2(b)は正方形を示し、
図2(c)は正三角形を示し、
図2(d)は正五角形を示し、
図2(e)は正六角形を示す。これら円形または正多角形は、回転対称性を有する形状の例である。また、
図2(f)は楕円形を示し、
図2(g)は長方形を示し、
図2(h)は二等辺三角形を示し、
図2(i)は台形を示す。これらは、鏡映対称性(線対称性)を有する形状の例である。
【0046】
基板10の厚み方向に沿って見た複数の貫通孔13の形状(例えば基板10の表面11上で定義される形状)は、全て同一であってもよいし、互いに異なる形状が含まれてもよい。ただし、形状が同一とは、厳密な意味での同一を意図せず、製造上の誤差は許容される。各貫通孔13の内径は、例えば0.1μm以上10μm以下である。なお、以下の説明において、貫通孔13のアスペクト比とは、貫通孔13の内径Z1と、貫通方向における貫通孔13の長さZ2との比(Z2/Z1)を指すものとする。
【0047】
図3は、
図1中に示されたIII-III線に沿った断面図であって、空間光変調器1Aの側断面を示す。
図3に示されたように、各貫通孔13は、基板10の厚み方向(換言すると、表面11および裏面12に垂直な方向)に真っ直ぐに延びている。また、
図3に示されたように、空間光変調器1Aは、複数の積層構造20をさらに備える。複数の積層構造20それぞれは、複数の貫通孔13それぞれの内壁13aを覆う。
【0048】
図4は、
図3の部分拡大図である。積層構造20は、導電層21(第1の導電層)、誘電体層22、および導電層23(第2の導電層)を含む。導電層21は、貫通孔13の内壁13a上に設けられている。
図3および
図4に示された導電層21は、貫通孔13の内壁13a上を表面11から裏面12にわたって設けられているが、この形態に限られず、例えば裏面12から貫通孔13の途中まで(すなわち表面11まで達しないように)設けられてもよい。導電層21は、例えば金属層である。その場合、導電層21は、例えばPtを含む。一例では、導電層21はPt層である。なお、導電層21はPt以外の金属を含んでもよく、Pt以外の金属から成ってもよい。導電層21の厚みt
1は、例えば10nm以上1000nm以下である。導電層21の表面21aは、凹凸が少ない平滑面である。
【0049】
誘電体層22は、導電層21上に設けられ、導電層21と導電層23とを相互に絶縁する。本実施形態の誘電体層22は、導電層21上に設けられた第1層221と、第1層221上に設けられた第2層222とを含む。
図3および
図4に示された誘電体層22は、貫通孔13の内壁13a上を表面11から裏面12にわたって設けられているが、この形態に限られず、導電層21と導電層23とを相互に絶縁していれば、内壁13a上の一部にのみ(例えば、表面11および裏面12の一方から貫通孔13の途中まで)設けられてもよい。誘電体層22の第1層221および第2層222は、光透過性を有する無機誘電体を主に含み、一例では無機誘電体のみからなる。例えば、誘電体層22の第1層221および第2層222は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ハフニウム(HfO
2)、酸化シリコン(SiO
2)、および窒化シリコン(SiN)のうち少なくとも1つを含み、これらのうち少なくとも2つを混合した層であってもよい。一では、第1層221および第2層222は、Al
2O
3層、HfO
2層、SiO
2層、またはSiN層である。なお、第1層221および第2層222の構成材料は、互いに同一であってもよく、互いに異なってもよい。本実施形態の説明において光透過性を有するとは、空間光変調器1Aに入射する光の波長(例えば可視域または近赤外域に含まれる)における吸光係数が0.1cm
-1以下である性質をいう。このとき、厚み1mmの層を透過しても、光強度の低下量は10%以下となる。なお、光透過性を有していれば、第1層221および第2層222のうち少なくとも一方はAl
2O
3、HfO
2、SiO
2、およびSiNを除く他の誘電体を含んでもよく、Al
2O
3、HfO
2、SiO
2、およびSiNを除く他の誘電体から成ってもよい。誘電体層22の厚みt
2は、例えば1nm以上20nm以下である。誘電体層22の導電層21と接する面は、凹凸が少ない平滑面である。なお、第1層221および第2層222の一方のみによって導電層21と導電層23とを十分に絶縁できる場合には、第1層221および第2層222の他方は無くてもよい。
【0050】
導電層23は、誘電体層22上に設けられている。換言すれば、導電層23は、誘電体層22を間に挟んで導電層21上に設けられている。
図3および
図4に示された導電層23は、貫通孔13の内壁13a上を表面11から裏面12にわたって設けられているが、この形態に限られず、例えば表面11から貫通孔13の途中まで(すなわち裏面12まで達しないように)設けられてもよい。導電層23は、光透過性を有する導電体を主に含み、例えば光透過性を有する導電体のみからなる。一例では、導電層23は酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide:ITO)および酸化亜鉛系導電体(例えばガリウムドープ酸化亜鉛(Gallium doped Zinc Oxide:GZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(Aluminum doped Zinc Oxide:AZO)など)の少なくとも一方を含み、一例では導電層23はITO層またはAZO層である。なお、導電層23はITOおよびAZO以外の光透過性導電体を含んでもよく、ITOおよびAZO以外の光透過性導電体から成ってもよい。導電層23の厚みt
3は、例えば1nm以上20nm以下である。
【0051】
裏面12上の全面には、導電層24が設けられている。導電層24は、導電層21と同時に形成される層であり、その構成材料は導電層21と同一である。一例では、導電層24は裏面12に接している。各貫通孔13内の導電層21は、導電層24と繋がっている。導電層24上には、配線電極31(第2の電極)が設けられている。配線電極31は、導電層24と接しており、導電層24を介して各貫通孔13内の導電層21と電気的に接続されている。すなわち、配線電極31は複数の貫通孔13に対して共通に設けられている。配線電極31は例えばAu膜といった金属膜である。なお、この金属膜の材料はAuのみに限定されず、例えば密着性を高めるためCr/Au、Ti/Au,Ti/Pt/Auなどの材料であってもよい。
図3および
図4に示された配線電極31は、導電層24上の全面に設けられ、裏面12上において複数の貫通孔13の間の領域を全て覆っている。なお、裏面12のうち貫通孔13が形成されていない領域では、導電層24および配線電極31は除去されてもよい。これにより、ウエハからデバイスを切り出す際の金属の剥離を無くし、除去が難しい金属ゴミの付着を抑制できる。
【0052】
表面11上の全面には、誘電体層25が設けられている。誘電体層25は、誘電体層22の第1層221または第2層222(
図3および
図4の例では第2層222)と同時に形成される層であり、その構成材料は同時に形成された第1層221または第2層222と同一である。一例では、誘電体層25は表面11に接している。各貫通孔13内の第1層221または第2層222は、誘電体層25と繋がっている。
【0053】
誘電体層25上には、導電層26が設けられている。導電層26は、導電層23と同時に形成される層であり、その構成材料は導電層23と同一である。一例では、導電層26は誘電体層25に接している。そして、導電層26上には配線電極32(第1の電極)が設けられている。配線電極32は、導電層26と接しており、導電層26を介して各貫通孔13内の導電層23と電気的に接続されている。導電層26および配線電極32は、一またはそれ以上の貫通孔13ごとに(
図3および
図4の例では1つの貫通孔13ごとに)独立した領域に設けられており、領域ごとに(すなわち一またはそれ以上の貫通孔13ごとに)電気的に分離(絶縁)されている。
図1では、導電層26および配線電極32の平面形状が正方形である場合を示しているが、導電層26および配線電極32の平面形状はこれに限られず、例えば円形といった他の形状であってもよい。配線電極32は、導電層26に接する第1膜(例えばCr膜またはTi膜)と、第1膜上に設けられた第2膜(例えばAu膜)とを含む積層構造を有してもよい。また、配線電極32は、例えばTi/Pt/Auといった3層以上の積層構造を有してもよい。
【0054】
上述の空間光変調器1Aの作用について説明する。
図5に示されたように、基板10の裏面12側から光Lが入射すると、複数の貫通孔13内を光Lが通過する。このとき入射する光Lは、空間的に位相が揃った空間コヒーレントな光であることが望ましい。各貫通孔13内に入射した光Lは、各積層構造20の導電層21と誘電体層22との界面において反射しながら進み、各貫通孔13を通り抜ける。ここで、或る貫通孔13内の導電層21と導電層23との間に電圧が印加されると、次の3つの現象が当該積層構造20に生じる。
【0055】
(1)導電層23に蓄積されるキャリアの密度に応じた、導電層23の屈折率の変化
導電層21と導電層23とは誘電体層22を挟んだ状態で設けられているので、これらはキャパシタを構成する。したがって、導電層21と導電層23との間に電圧が印加されると、導電層21の誘電体層22との界面付近には電子または正孔のうち一方のキャリアが蓄積し、導電層23の誘電体層22との界面付近には電子または正孔のうち他方のキャリアが蓄積する。導電層23がITOやAZOといった無機導電体を主に含む場合、キャリアの蓄積によって導電層23の該界面付近の部分が金属化し、その部分の屈折率が変化する。屈折率の変化量は、キャリアが多く蓄積するほど(すなわち印加電圧が大きくなるほど)大きくなる。これに伴い、当該部分を透過する光Lの光路長が変化する。キャリア蓄積に伴う屈折率の変化は、例えばドルーデ(Drude)モデルなどを用いて見積もることができる。ドルーデモデルにおいて共鳴波長近傍は、誘電率の実部が0に近くなり、ENZ(Epsilon Near Zero)領域と呼ばれ、屈折率の変化が大きい領域となる。そのため、光の波長をENZ領域に設定することにより、大きな位相変調量を実現することができる。
【0056】
(2)導電層21と導電層23との間の電界に起因した、誘電体層22の屈折率の変化
誘電体層22は導電層21と導電層23との間に挟まれているので、導電層21と導電層23との間に電圧が印加されると、誘電体層22を通過する電界が発生する。この電界に起因する電気光学効果により、誘電体層22の屈折率が変化する。屈折率の変化量は、電界が強いほど(すなわち印加電圧が大きくなるほど)大きくなる。これに伴い、誘電体層22を透過する光Lの光路長が変化する。
【0057】
(3)導電層21と誘電体層22との界面における反射前後の位相シフト量の変化
積層構造20において、導電層23および誘電体層22を透過した光Lは、導電層21において反射し、再び誘電体層22および導電層23を透過し、最終的に出力される。誘電体層22の厚みが光Lの波長よりも十分に小さい場合、導電層21と導電層23との間に電圧が印加されると、ギャップ・サーフェス・プラズモン・モードと呼ばれる互いに逆向きの誘導電流電磁場が導電層21および導電層23のそれぞれに生じる。その結果、誘電体層22内に強い磁気共鳴(プラズモン共鳴)が生じる。この磁気共鳴によって、導電層21と誘電体層22との界面における反射前後の位相シフト量が変化する。このときの位相変化量は、導電層21と導電層23との間に印加される電圧の大きさに依存する。また、積層構造20において全反射する場合、グースヘンシェンシフトと呼ばれる位相シフトも存在する。そのため、印加電圧を変えて屈折率を変化させることにより、この位相シフト量も制御することが可能となる。
【0058】
上述の現象(1)~現象(3)により、各貫通孔13から出射される光Lの位相は、導電層21と導電層23との間の電圧の大きさに応じて変化する。そして、本実施形態の導電層23は、一またはそれ以上の貫通孔13で構成されるグループごとに電気的に分離している。結果、導電層21と導電層23との間の電圧の大きさを、一またはそれ以上の貫通孔13ごとに個別に設定し得る。なお、導電層21と導電層23との間の電圧は、空間光変調器1Aの外部から、裏面12上の配線電極31と、表面11上の配線電極32とを通じて印加される。以上の作用により、この空間光変調器1Aによれば、光Lの位相分布を空間的かつ動的に制御し得る。
【0059】
図6は、或る方向に並ぶ複数の貫通孔13において、導電層21と導電層23との間の電圧の大きさに傾斜を与えた場合の光Lの様子を概念的に示す図である。
図6に示された光Lの矢印の長さは、位相変化量を表している。電圧の大きさに傾斜を与えた場合、
図6に示されたように、各貫通孔13から出射される光Lの位相もまた、或る傾斜をもって分布する。そして、これらの光Lを合成した空間光変調器1Aからの出射光L
outは、該傾斜の法線方向に沿って出射される。なお、本実施形態において、導電層21と導電層23との間の電圧の大きさは、所望の光像に応じて計算され、貫通孔13ごとに任意に決定される。
【0060】
ここで、本実施形態の空間光変調器1Aを作製する方法について説明する。
図7(a)~
図10(c)は、空間光変調器1Aを作製する方法の一例を示す図である。まず、
図7(a)に示されたように、平坦かつ互いに平行な表面11および裏面12を有する基板10が用意される。次に、
図7(b)に示されたように、裏面12上(または表面11上でもよい)にレジストが塗布され、このレジストに対して露光(または電子線照射)および現像を行うことにより、レジストマスクM
1が形成される。レジストマスクM
1は、複数の貫通孔13(
図1を参照)に対応する複数の開口MAを有する。
【0061】
続いて、
図7(c)に示されたように、レジストマスクM
1の開口を通じて、基板10がエッチングされる。このエッチングは例えばドライエッチングであり、一例ではボッシュプロセスによる誘導結合型プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)エッチングである。その後、
図7(d)に示されたように、有機洗浄によりレジストマスクM
1が除去される。なお、基板10をエッチングする際に、レジストマスクM
1と基板10とのエッチング選択比が十分でない場合には、レジストの塗布前にSiNまたはSiO
2といったシリコン化合物膜が裏面12上(または表面11上)に成膜される。そのシリコン化合物上にレジストマスクM
1が形成された後、開口MAがシリコン化合物膜に転写されてもよい。そして、このシリコン化合物膜をエッチングマスクとして基板10がエッチングされてもよい。なお、エッチングマスクはシリコン化合物膜に限定されず、Al
2O
3またはHfO
2といった他の無機誘電体も利用可能である。
【0062】
続いて、
図8(a)に示されたように、導電層21および24が形成される。この工程では、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition:ALD)が用いられる。ALDにより、導電層21,24の材料を、各貫通孔13の内壁13a上および基板10の裏面12上に、等方的に薄くかつ均一に堆積させることができる。なお、一般的に、高アスペクト比の孔内部の成膜にはALDが適しているが、ALDに限らず、例えば電気めっき技術、蒸着、スパッタなど他の方法によって導電層21,24が形成されてもよい。続いて、
図8(b)に示されたように、誘電体層22の第1層221が形成される。この工程では、導電層21,24と同様にALDを用いて、第1層221の材料が、各貫通孔13の内壁13a上に、薄くかつ均一に堆積される。このとき、基板10の裏面12上には、第1層221と同一の材料からなる誘電体層27が形成される。この工程においても、ALDに限らず、スパッタなどの他の方法によって第1層221が形成されてもよい。
【0063】
続いて、
図8(c)に示されたように、誘電体層27を除去することによりその下の導電層24が露出する。この工程では、例えばフッ酸系の溶媒を用いたウェットエッチング、またはフッ酸系のガスを用いたドライエッチングによって誘電体層27が除去可能である。続いて、
図8(d)に示されたように、露出した導電層24上に配線電極31が形成される。この工程において、配線電極31は、例えば電気めっき技術または蒸着などを用いて形成される。
【0064】
続いて、
図9(a)に示されたように、基板10を裏返すことにより表面11が上方に向けられる。そして、誘電体層22の第2層222、および誘電体層25が形成される。この工程では、第1層221と同様にALDを用いて、第2層222および誘電体層25の材料が、各貫通孔13の内壁13a上および基板10の表面11上に、薄くかつ均一に堆積される。この工程においても、ALDに限らず、スパッタなどの他の方法を用いて第2層222および誘電体層25が形成されてもよい。
【0065】
続いて、
図9(b)に示されたように、導電層23および導電層26が形成される。この工程では、導電層21,24と同様にALDを用いて、導電層23,26の材料が、各貫通孔13の内壁13a上および基板10の表面11上に、薄くかつ均一に堆積される。この工程においても、ALDに限らず、例えばスパッタなど他の方法を用いて導電層23,26が形成されてもよい。
【0066】
続いて、
図9(c)に示されたように、導電層26上にレジストが塗布された後、該レジストに対して露光(または電子線照射)および現像を行うことにより、レジストマスクM
2が形成される。レジストマスクM
2は、複数の貫通孔13を一またはそれ以上の貫通孔13ごとに囲い込む格子状の開口MBを有する。そして、
図10(a)に示されたように、レジストマスクM
2の開口MBを通じて、導電層26がエッチングされる。この工程では、例えばフッ酸系の溶媒を用いたウェットエッチング、またはフッ酸系のガスを用いたドライエッチングによって、導電層26がエッチングされる。この工程により、導電層23および26が、一またはそれ以上の貫通孔13で構成されるグループごとに電気的に分離する。その後、
図10(b)に示されたように、有機洗浄によりレジストマスクM
2が除去される。続いて、
図10(c)に示されたように、導電層26上に配線電極32が形成される。この工程では、配線電極32が、例えば電気めっき技術を用いて形成される。以上の工程を経て、本実施形態の空間光変調器1Aが作製される。
【0067】
図11(a)~
図11(c)は、基板10に複数の貫通孔13を形成する別の方法(MACE)を示す図である。まず、
図11(a)に示されたように、複数の貫通孔13にそれぞれ対応する複数の触媒金属膜41が、表面11上(または裏面12上)に形成される。触媒金属膜41は、例えば、基板10に接するTi層と、Ti層上に形成されたAu層とを含む。なお、これ以外の金属膜(例えばAg、Pt、Pd、またはCuなどの貴金属膜)が触媒金属膜41として用いられてもよい。そして、基板10がエッチング液に浸される。エッチング液としては、例えばフッ酸と過酸化水素水との混合液が利用可能である。このとき、
図11(b)に示されたように、触媒金属膜41と基板10との接触箇所において局所的に反応が促進され、触媒金属膜41下の基板10が選択的にエッチングされる。このエッチングは、触媒金属膜41が落ち込みながら進行する。これにより、基板10に高アスペクト比の複数の凹部42が形成される。このエッチングを進行させることにより(複数の凹部42が基板10を貫通することにより)、高アスペクト比の複数の貫通孔13が形成され得る。または、その後、
図11(c)に示されたように、触媒金属膜41が形成された面とは反対側の面に対してエッチングまたは研磨(或いはその両方)を行うことにより、基板10に対して凹部42を貫通させるとともに触媒金属膜41が除去されてもよい。この場合であっても、高アスペクト比の複数の貫通孔13が基板10に形成され得る。なお、エッチングまたは研磨を行う際、表面11と裏面12との平行度を高めることにより、複数の貫通孔13の貫通方向の長さを揃え、位相変化量のばらつきを抑えることが可能である。以降の工程は、
図8(a)~
図10(c)に示された工程と同様である。
【0068】
以上説明された本実施形態の空間光変調器1Aによって得られる効果について説明する。上述のように、本実施形態の空間光変調器1Aは、光の位相分布を空間的かつ動的に制御し得る。加えて、貫通孔13は例えば半導体のエッチングプロセスまたはMACEといった方法により形成可能なので、貫通孔13の配列周期を、液晶型の空間光変調器の画素の配列周期よりも小さくすることは容易である。したがって、空間光変調器1Aは、貫通孔13すなわち画素の配列周期を従来よりも小さくすることができる。結果、空間光変調器1Aと、例えばフォトニック結晶レーザ素子といった面光源とを組み合わせることにより、有効画素数を多くして高画質の光像を得ることができる。
【0069】
また、上記非特許文献1に記載された構成と比較すると、本実施形態の空間光変調器1Aには次の利点がある。すなわち、上記非特許文献1に記載された構成において、基板の表面に形成された凹部を光が通過するためには、該凹部の底面下に存在する基板部分を光が通過する必要がある。したがって、基板に吸収されにくい波長域の光に限定されてしまう。また、上記非特許文献1では凹部を形成する方法としてMACEを用いているが、有底の凹部を形成する場合にMACEを用いると、凹部の底に触媒金属膜が残存してしまい、その触媒金属膜によって光が散乱してしまう。これらの問題に対して、本実施形態の空間光変調器1Aでは、基板10の表面11と裏面12との間を貫通する貫通孔13内を光Lが通過するので、光Lは基板10内を通過せずに済む。したがって、上記非特許文献1に記載された構成と比較して、本実施形態によれば、利用可能な波長域の拡大が可能になる。また、貫通孔13の形成にMACEを用いた場合でも触媒金属膜41を容易に取り除くことができるので、触媒金属膜41による光の散乱もない。したがって、本実施形態の空間光変調器1Aによれば、非特許文献1に記載された構成と比較して、高画質の光像が得られる。
【0070】
本実施形態のように、基板10の厚み方向から見た各貫通孔13の形状は、回転対称性または鏡映対称性を有してもよい。この場合、各貫通孔13からの光の出射方向の偏りを抑制することができる。
【0071】
本実施形態のように、基板10の厚み方向から見た複数の貫通孔13の形状は、互いに同一であってもよい。この場合、貫通孔13ごと出射光の条件(光強度等)を均一にすることができ、高画質の光像を容易に形成できる。
【0072】
本実施形態のように、基板10の表面11および裏面12の少なくとも一方において、複数の貫通孔13の重心は、正方格子または三角格子の格子点に位置してもよい。この場合、基板10の厚み方向に垂直な面上において複数の貫通孔13が規則正しく整列する(光像を容易に設計することが可能になる)。
【0073】
本実施形態のように、導電層23は、貫通孔13ごとに設けられた基板10上の配線電極32と電気的に接続されてもよい。例えばこのような構成により、導電層23に対して、貫通孔13ごとに個別の電圧印加が可能になる。また、導電層21は、複数の貫通孔13に対して共通に設けられた基板10上の配線電極31と電気的に接続されてもよい。例えばこのような構成により、基準となる電位を導電層21に対して容易に設定することができる。
【0074】
本実施形態のように、配線電極31は、基板10の裏面12において複数の貫通孔13の間の領域を覆ってもよい。この場合、貫通孔13以外の基板部分を光Lが通過することを抑制できるので、貫通孔13を通過して変調された光Lのみによって出射光Loutが構成され得る。また、光入射側の面である裏面12にこのような配線電極31を設けることによって、貫通孔13以外の基板部分における光Lの吸収、および基板10の温度上昇が抑制され得る。
【0075】
本実施形態のように、基板10は半導体を主に含んでもよい。この場合、貫通孔13の形成に半導体のエッチングプロセスまたはMACEを容易に用いられる。したがって、高アスペクト比の微細な貫通孔13の形成が容易になるとともに、貫通孔13の配列周期の短縮が容易になる。
【0076】
本実施形態のように、基板10の半導体は、Si、Ge、GaAs、InP、およびGaNのうち少なくとも1つを含んでもよい。この場合、貫通孔13の形成に周知のエッチングプロセスを用いることができ、貫通孔13の形成が容易になる。
【0077】
本実施形態のように、導電層21は金属層であってもよい。この場合、導電層21と誘電体層22との界面において光Lを十分に反射させることが可能になる。
【0078】
本実施形態のように、導電層21はPtを含んでもよい。この場合、例えばALDを用いることにより、内径が小さく貫通方向に長い(すなわちアスペクト比が大きい)貫通孔13内における導電層21の形成が容易になる。
【0079】
本実施形態のように、誘電体層22は、Al2O3、HfO2、SiO2、およびSiNのうち少なくとも一つを含んでもよい。この場合、光透過性を有する誘電体層22の形成が好適に実現可能になる。
【0080】
本実施形態のように、導電層23は、ITO、酸化亜鉛系導電体(GZO、AZOなど)、窒化チタン、および酸化カドミウムのうち少なくとも一つを含んでもよい。この場合、光透過性を有する導電層23の形成が好適に実現可能になる。
【0081】
(第1変形例)
図12は、上記実施形態の第1変形例として、空間光変調器1Bを示す平面図である。この空間光変調器1Bでは、複数の貫通孔13の平面形状(表面11上で定義される形状)の重心が、上記実施形態のような正方格子の格子点ではなく、三角格子の格子点に位置する。この場合においても、基板10の厚み方向に垂直な面上において複数の貫通孔13が規則正しく整列するので、光像の設計が容易になる。なお、複数の貫通孔13の配列としては、上記実施形態および本変形例に限られず、他の様々な配列が適用可能である。
【0082】
(第2変形例)
図13~
図15は、上記実施形態の第2変形例として、空間光変調器1C~1Eをそれぞれ示す平面図である。
図13に示された空間光変調器1Cでは、基板10が、或る方向A
1に沿って直線状に延びる複数の貫通孔13を有する。これらの貫通孔13は、方向A
1と交差する(例えば直交する)方向A
2に沿って、一定の間隔をあけて並んでいる。配線電極32は、各貫通孔13の周囲を囲むように長方形の枠状に延在している。また、
図14に示された空間光変調器1Dでは、基板10が、或る中心点C周りに円弧状に延びる複数(図では3つ)の貫通孔13を有する。そして、これらの貫通孔13は、中心点C(原点)を中心とした極座標において、360°未満の角度範囲にわたって延在し、動径方向に等間隔に並んでいる。配線電極32は、各貫通孔13の両側の縁に沿って延在している。また、
図15に示された空間光変調器1Eにおいても、基板10が、或る中心点C周りに円弧状に延びる複数の貫通孔13を有する。ただしこの例では、中心点C周りの円上において二以上の貫通孔13が周方向に間隔をあけて並んでおり、かつ、そのような円が同心円状に複数並んで等間隔に配置されている。
【0083】
これらの空間光変調器1C~1Eでは、基板10の厚み方向から見た各貫通孔13の形状が線状に延びており、複数の貫通孔13は、各貫通孔13の延在方向と交差する方向に並んでいる。貫通孔13がこのような形状を有する場合であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。また、貫通孔13がこのように延在する場合、エッチングが容易になると同時に、位相変調部の開口率を高めることで、より高効率・高精細な位相制御ができる。さらに孔内部の光の延在方向の光閉じ込めが弱まり、伝搬損失を抑制することができる。
【0084】
(第3変形例)
図16は、上記実施形態の第3変形例として、空間光変調器1Fを示す平面図である。空間光変調器1Fにおいて、基板10は、
図13に示された形状の複数の貫通孔13を有する。そして、貫通孔13ごとに複数(図示例では3つ)の配線電極32が設けられている。
図1、
図12、
図13に示された例では貫通孔13ごとに一つの配線電極32が設けられているが、本変形例のように貫通孔13ごとに複数の配線電極32が設けられてもよい。この場合においても、導電層23に対して、電圧を貫通孔13ごとに個別に印加することができる。また、複数の配線電極32のうち何れか一つに配線を接続すれば足りるので、配線の自由度が高められる。
【0085】
(第4変形例)
図17は、上記実施形態の第4変形例として、空間光変調器1Gの構成を示す断面図である。空間光変調器1Gは、上記実施形態の空間光変調器1Aの構成に加えて、誘電体領域28をさらに備える。誘電体領域28は、各貫通孔13内において各積層構造20上に設けられ、光透過性を有する誘電体からなる。誘電体領域28の構成材料は、例えばAl
2O
3、HfO
2、SiO
2、およびSiNのうち少なくとも1つを含み、これらのうち少なくとも2つを混合した領域であってもよい。一例では、誘電体領域28は、Al
2O
3、HfO
2、SiO
2、またはSiNのみからなる。なお、誘電体領域28および誘電体層22の構成材料は、互いに同一であってもよく、互いに異なってもよい。
図17の例では、誘電体領域28が、積層構造20に囲まれた貫通孔13内の空間のうち、各貫通孔13の貫通方向における全部の空間を充填している。この例に限られず、誘電体領域28は、各貫通孔13の貫通方向における一部の空間を充填してもよい。また、
図17に示されたように、誘電体領域28の表面11側の端面は配線電極32に達してもよく、誘電体領域28は、さらに、隣り合う配線電極32間の隙間を充填してもよい。
【0086】
図18(a)および
図18(b)は、空間光変調器1Gを作製する工程のうち、誘電体領域28を形成する工程を示す図である。まず、上記実施形態の
図7(a)~
図10(c)に示された工程を経て、
図1に示された空間光変調器1Aを作製する。そして、
図18(a)に示されたように、表面11側から例えばALDにより誘電体領域28の材料が堆積される。このとき、貫通孔13の貫通方向の一部または全部に誘電体領域28が埋め込まれる。その後、
図18(b)に示されたように、表面11側から誘電体領域28をエッチングすることにより誘電体領域28を薄化させることで、配線電極32が誘電体領域28から露出する。こうして、本変形例の空間光変調器1Gが作製される。なお、誘電体領域28を部分的に薄化させることにより配線電極32を露出させる場合は、まず、配線電極32上に開口を有するレジストマスクが誘電体領域28上に形成され、該レジストマスクを介して誘電体領域28がエッチングされ(配線電極32が露出)、その後、有機洗浄によりレジストマスクが除去されればよい。
【0087】
本変形例のように、空間光変調器1Gは、各積層構造20上に設けられた光透過性を有する誘電体領域28を備えてもよい。この場合、貫通孔13の屈折率が1より高くなり、通過する光Lの光路長が長くなるので、導電層21と誘電体層22との界面において反射する回数が増える。したがって、各貫通孔13における位相変調量を増大させることができる。或いは、所定の位相変調量を実現するために必要な基板10の厚みを小さくすることができる。また、この場合、誘電体領域28は、積層構造20に囲まれた空間のうち各貫通孔13の貫通方向における少なくとも一部(貫通方向に沿った一部区間)を充填してもよい。これにより、貫通孔13内を通過する光Lの光路長がさらに長くなり、導電層21と誘電体層22との界面において反射する回数をさらに増加させ得る。
【0088】
(第5変形例)
図19は、上記実施形態の第5変形例として、空間光変調器1Hの構成を示す断面図である。空間光変調器1Hは、上記実施形態の空間光変調器1Aの構成に加えて、平滑層29をさらに備える。平滑層29は、各貫通孔13の内壁13a上に設けられ、平滑な表面29aを有する。そして、積層構造20は、平滑層29の表面29a上に設けられている。一例では、積層構造20の導電層21が平滑層29の表面29aに密着する。平滑層29は、金属および誘電体の少なくとも一方を含む。一例では、平滑層29は、金属層または誘電体層である。一例として、平滑層29としてAl
2O
3、HfO
2、SiO
2、SiNなどの誘電体層、またはPt等の金属層を用いることができ、例えばこれらの層をALDによって成膜することにより、平滑な膜を形成することができる。
【0089】
本変形例によれば、貫通孔13の内壁13aに加工時の凹凸がある場合であっても導電層21の表面が平滑となる。そのため、導電層21と誘電体層22との界面における光Lの乱反射が効果的に抑制され得る。また、例えば平滑層29が金属および誘電体の少なくとも一方を含むことにより、内壁13aの凹凸にかかわらず平滑な表面29aの実現が可能になる。また、平滑層29が絶縁性の誘電体からなる場合、導電層21と基板10とを相互に電気的に分離(絶縁)できるので、導電層21から基板10への電流リークが効果的に抑制され得る。これにより、導電層21への印加電圧の制御が精度良く行われることになる。
【0090】
(位相の動的変調)
【0091】
図20(a)~
図20(c)は、空間光変調器1A~1Hにおいて、印加電圧の強度変調を利用して位相の動的変調を実現するための基本要素および基本ユニットの構成を説明するための図である。
【0092】
上述の空間光変調器1A~1Hそれぞれにおいて、基板10は、それぞれが、1つの貫通孔13が割り当てられた複数の基本要素100の集合体と考えることができる。
図20(a)には、1個の基本要素100の一例が示されている。各基本要素100は、対応する貫通孔13を含む基板10の一部と、表面11上に設けられた配線電極32と、裏面12上に設けられた配線電極31と、により構成されている。
図20(a)に示された例では、表面11上において互いに交差する2方向(例えば直交する2方向)に沿ってそれぞれ定義される、基本要素100の最大幅Wは、何れも入射光の波長よりも短く設定されている。
【0093】
上述の空間光変調器1A~1Hそれぞれは、変調制御単位としての基本ユニットにより構成される。例えば、
図20(b)には、1方向に沿って連続する3個の基本要素100で構成された基本ユニット200Aの例が示されている。また、
図20(c)には、互いに直交する2方向に沿ってそれぞれ連続する9個(3×3)の基本要素100で構成された基本ユニット200Bの例が示されている。
【0094】
図20(b)に示された基本ユニット200Aは、3個の基本要素100に割り当てられた貫通孔13ごとに配線電極32が表面11上に設けられる一方、3個の基本要素100の共通電極として配線電極31が裏面12上に設けられている。このように構成された基本ユニット200Aにおいて、各基本要素100の透過強度(または反射強度)を動的に変調すると、当該基本ユニット200Aの出射領域300(
図20(b)中、斜線で示された領域)の位置を等価的にずらす効果が得られることが知られている(動的な位相変調)。なお、このような位相変調は、上記非特許文献2に開示された迂回位相(detour phase)ホログラムの原理を利用しており、複数の基本ユニットにより空間光変調器を構成することは、例えば上記非特許文献3に開示されている。
【0095】
また、
図20(c)に示された基本ユニット200Bは、9個の基本要素100に割り当てられた貫通孔13ごとに配線電極32が表面11上に設けられる一方、9個の基本要素100の共通電極として配線電極31が裏面12上に設けられている。この基本ユニット200Bによっても、各基本要素100の透過強度(または反射強度)を動的に変調すると、当該基本ユニット200Aの出射領域300(
図20(c)中、斜線で示された領域)の位置を等価的にずらす効果が得られる。
【0096】
以上のように、複数の基本ユニット200Aにより空間光変調器1A~1Hが構成された場合、一次元的な位相変調が可能になり、複数の基本ユニット200Bにより空間光変調器1A~1Hが構成された場合、二次元的な位相変調が可能になる。なお、空間光変調器1A~1Hは、これら基本ユニット200Aと200Bの組み合わせのように異なる構造の複数種類の基本ユニットにより構成されてもよい。
【0097】
(第2実施形態)
図21(a)は、本開示の第2実施形態に係る発光装置2の構成を示す断面図である。この発光装置2は、上記実施形態の空間光変調器1Aと、面発光レーザ素子50とを備える。面発光レーザ素子50は、本実施形態における面光源であり、いわゆるフォトニック結晶面発光レーザ素子(Photonic Crystal Surface Emitting LASER:PCSEL)である。面発光レーザ素子50は、空間光変調器1Aの表面11または裏面12(図示例では裏面12)と光学的に結合されている。一例では、面発光レーザ素子50は、空間光変調器1Aの裏面12に接合部51を介して接合されている。接合部51は、例えば半田などの導電性接合材である。なお、接合部51の材料は導電性でなくてもよい。
【0098】
ここで、面発光レーザ素子50の中心を通り面発光レーザ素子50の厚み方向に延びる軸をZ軸とするXYZ直交座標系を定義する。面発光レーザ素子50は、X-Y平面上で定義される方向において定在波を形成し、レーザ光Lを半導体基板53の主面53aに対して垂直な方向(Z方向)に出力する。なお、Z方向は、空間光変調器1Aの基板10の厚み方向(言い換えると、貫通孔13の貫通方向)と一致する。
【0099】
面発光レーザ素子50は、半導体基板53と、半導体基板53の主面53a上に設けられた半導体積層60とを有する。半導体積層60は、主面53a上に設けられたクラッド層61と、クラッド層61上に設けられた活性層62と、活性層62上に設けられたクラッド層63と、クラッド層63上に設けられたコンタクト層64とを有する。さらに、半導体積層60は、フォトニック結晶層65Aを有する。
図21(a)の例おいて、フォトニック結晶層65Aは活性層62とクラッド層63との間に設けられているが、フォトニック結晶層65Aはクラッド層61と活性層62との間に設けられてもよい。レーザ光は、半導体基板53の裏面53bから出力され、
図5に示された光Lとして空間光変調器1Aに提供される。
【0100】
クラッド層61およびクラッド層63のエネルギーバンドギャップは、活性層62のエネルギーバンドギャップよりも広い。半導体基板53、クラッド層61および63、活性層62、コンタクト層64、フォトニック結晶層65Aの厚み方向は、Z軸方向と一致する。
【0101】
フォトニック結晶層(回折格子層)65Aは、共振モードを形成する層である。
図21(b)は、フォトニック結晶層65Aを拡大して示す断面図である。フォトニック結晶層65Aは、基本層65aと、複数の異屈折率領域65bとを含んで構成されている。基本層65aは、第1屈折率媒質からなる半導体層である。複数の異屈折率領域65bは、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなり、基本層65a内に存在する。異屈折率領域65bは、空孔であってもよく、空孔に化合物半導体が埋め込まれて構成されてもよい。複数の異屈折率領域65bは、フォトニック結晶層65Aの厚み方向に垂直な面(X-Y平面に平行な面)上において二次元状かつ周期的に配列されている。等価屈折率をnとした場合、フォトニック結晶層65Aが選択する波長λ
0(=a×n、aは格子間隔)は、活性層62の発光波長範囲内に含まれている。フォトニック結晶層65Aは、活性層62の発光波長のうちの波長λ
0を選択して、外部に出力することができる。
【0102】
図22は、フォトニック結晶層65Aの平面図である。フォトニック結晶層65Aに、X-Y平面における仮想的な正方格子が設定される。
図22に示されたように、Y軸に平行な線x0~x3とX軸に平行な線y0~y2の交点を格子点Oであり、該格子点Oを中心とする正方領域が単位構成領域R(0,0)~R(3,2)が設定される。したがって、正方格子である各単位構成領域R(x、y)の一辺はX軸と平行であり、他辺はY軸と平行である。このとき、各異屈折率領域65bの重心Gは正方格子の各格子点O(すなわち、単位構成領域R(x,y)の中心)と一致する。異屈折率領域65bの平面形状は、例えば円形状であり、隣接する格子点を結ぶ線分の中点を通り、前記線分に直交する線分で囲われた単位構成領域R(第1ブリルアンゾーン)内に存在する。なお、複数の異屈折率領域65bの平面形状は円形に限らず、例えば多角形、閉曲線、2つ以上の閉曲線から成るなど様々な形状であってもよい。また、複数の異屈折率領域65bの周期構造はこれに限られず、例えば正方格子に代えて三角格子が設定されてもよい。
【0103】
再び
図21を参照する。面発光レーザ素子50は、コンタクト層64上に設けられた金属電極膜66と、半導体基板53の裏面53b上に設けられた金属電極膜67とをさらに有する。金属電極膜66はコンタクト層64とオーミック接触しており、金属電極膜67は半導体基板53とオーミック接触している。金属電極膜67は、レーザ光の出力領域を囲む枠状(環状)の平面形状を呈しており、開口67aを有する。なお、金属電極膜67の平面形状は、矩形枠状、円環状などの様々な形状であてもよい。金属電極膜67は、導電性の接合部51を介して空間光変調器1Aの配線電極31と接合され、配線電極31と同電位であってもよい。特に、接合部51が金属である場合、面発光レーザ素子50において生じた熱は基板10を通じて放出され得る。半導体基板53の裏面53bのうち開口67a内の部分は、反射防止膜68によって覆われている。この反射防止膜68の構成材料としては、光透過性の誘電体であるSiNまたはSiO
2が適用可能である。或いは、反射防止膜68の構成材料として、ITO、AZO、TiN、またはCdOなどの透明導電膜が適用されてもよい。その場合、金属電極膜67から注入される電流が、厚み方向に垂直な面において広く拡散する。したがって、より薄い半導体基板53が適用可能になる。或いは、半導体基板53の代わりに光透過性の支持基板が半導体積層60に貼り合わされてもよい。半導体基板53をより薄くするかまたは該半導体基板53を除去することにより、半導体基板53のバンド端波長よりも短い波長域の光を用いることが可能になる。金属電極膜66は、半導体積層60の中央領域、すなわちZ方向から見て開口67aと重なる領域に設けられている。
【0104】
金属電極膜66と金属電極膜67との間に駆動電流が供給されると、活性層62内において電子と正孔の再結合が生じ(活性層62内での発光)。この発光に寄与する電子および正孔、並びに発生した光は、クラッド層61およびクラッド層63の間に効率的に分布する。活性層62から出力された光は、クラッド層61とクラッド層63との間に分布するので、該光は、フォトニック結晶層65Aの内部に入った後、フォトニック結晶層65Aの内部の格子構造に応じて、半導体基板53の主面53aに沿った方向に共振モードを形成する。そして、複数の異屈折率領域65bの配列周期に応じた波長で光が発振し、レーザ光が生成される。フォトニック結晶層65Aから出射されたレーザ光の一部は、半導体基板53の主面53aに対して垂直な方向に進み、直接に、裏面53bから開口67aを通って空間光変調器1Aに向けて出力される。また、フォトニック結晶層65Aから出射されたレーザ光の残部は、金属電極膜66において反射した後、裏面53bから開口67aを通って空間光変調器1Aに向けて出力される。
【0105】
或る例では、半導体基板53はGaAs基板であり、クラッド層61、活性層62、フォトニック結晶層65A、クラッド層63、およびコンタクト層64は、GaAs系半導体からなる。別の例では、クラッド層61はAlGaAs層であり、活性層62は多重量子井戸構造(障壁層:AlGaAs/量子井戸層:InGaAs、井戸層の層数は例えば3つ)を有し、フォトニック結晶層65Aの基本層65aはAlGaAs層若しくはGaAs層であり、異屈折率領域65bは空孔であり、クラッド層63はAlGaAs層であり、コンタクト層64はGaAs層である。
【0106】
クラッド層61には半導体基板53と同じ導電型が付与され、クラッド層63およびコンタクト層64には半導体基板53とは逆の導電型が付与される。一例では、半導体基板53およびクラッド層61はn型であり、クラッド層63およびコンタクト層64はp型である。フォトニック結晶層65Aは、活性層62とクラッド層61との間に設けられる場合には半導体基板53と同じ導電型を有し、活性層62とクラッド層63との間に設けられる場合には半導体基板53とは逆の導電型を有する。なお、不純物濃度は例えば1×1016~1×1021/cm3である。いずれの不純物も意図的に添加されていない真性(i型)では、その不純物濃度は1×1016/cm3以下である。活性層62は真性(i型)に限らず、添加(dope)されてもよい。なお、フォトニック結晶層65Aの不純物濃度としては、不純物準位を介した光吸収による損失の影響を抑制する必要がある場合等には、真性(i型)としてもよい。
【0107】
以上に説明された本実施形態の発光装置2は、空間光変調器1Aと、空間光変調器1Aの表面11または裏面12と光学的に結合された面光源(面発光レーザ素子50)とを備える。この発光装置2は、第1実施形態の空間光変調器1Aを備えることにより、有効画素数の増加を可能にし、高画質の動的な光像を得ることができる。また、面発光レーザ素子50により、コヒーレントな光を空間光変調器1Aに提供する面光源の実現が容易になる。なお、発光装置2は、空間光変調器1Aに代えて、上記各変形例の空間光変調器1B~1Hの何れかを備えてもよい。その場合もまた、同様の作用効果を奏することができる。
【0108】
なお、
図21では面発光レーザ素子50が半導体基板53の裏面53b側から光を出射する場合が例示されたが、
図23に示されたように、面発光レーザ素子50は、半導体基板53の主面53a側(すなわち半導体積層60における半導体基板53とは反対側の表面)から光を出射してもよい。この場合、金属電極膜66は、複数の貫通孔13とそれぞれ対向する複数の開口66aを有する。金属電極膜66の開口66a以外の領域は、導電性の接合部51を介して空間光変調器1Aの配線電極31と全面的に接合される。また、金属電極膜67は、裏面53b上の全面に設けられる。これにより、半導体積層60の厚み方向と垂直な面内において均一に電流を注入できる。また、特に接合部51がはんだ等の金属である場合、空間光変調器1Aは、半導体積層60において生じた熱を通じて効率良く放出することができる。なお、この場合、金属電極膜66は配線電極31と同電位となる。半導体積層60の表面のうち金属電極膜66の開口66a内の部分は、反射防止膜68によって覆われる。
図23に示した構成によれば、導電率があまり高くない透明導電膜を用いることなく、半導体基板53のバンド端波長よりも短い波長域の光が空間光変調器1Aに提供され得る。そのため、半導体基板53のバンド端波長よりも短い波長域の光を発光装置2が出力する場合に、当該発光装置2の高効率化が可能になる。
【0109】
図24は、金属電極膜66および接合部51の平面形状の例を示す図である。理解の容易のため、接合部51が存在する領域がハッチングで示されている。金属電極膜66の各開口の平面形状は、貫通孔13の平面形状と同じであってもよく、異なってもよい。例として、
図24には、平面形状が正方形である複数の開口66aを有する金属電極膜66が示されている。また、
図24に示されたように、接合部51は、複数の開口66a間に位置する全領域に設けられてもよい。また、金属電極膜66の周縁部には、接合部51が設けられなくてもよい。
【0110】
図25は、
図23に示された構成から半導体基板53を取り除いた場合の構成を示す断面図である。
図25に示されたように、
図23の面発光レーザ素子50から半導体積層60を残して半導体基板53を除去することにより、薄化された面発光レーザ素子50Aが得られる。この場合、半導体基板53のバンド端波長よりも短い波長域の光を半導体基板53が吸収することを回避でき、更なる高効率化が達成できる。なお、面発光レーザ素子50Aにおいて、金属電極膜67は半導体積層60の裏面上に設けられる。
【0111】
(第6変形例)
上述の第2実施形態では、発光装置2が面光源としてPCSELである面発光レーザ素子50を備える場合について説明された。ただし、面光源としては、PCSELに限らず様々な面発光レーザ素子が採用されてもよい。例えば、二次元状に配列された複数の発光点から出射される光の位相スペクトルおよび強度スペクトルを制御することにより任意の光像を出力する面発光レーザ素子が研究されている。このような面発光レーザ素子は、S-iPM(Static-integrable Phase Modulating)レーザと呼ばれ、半導体基板の主面に垂直な方向およびこれに対して傾斜した方向をも含む二次元的な任意形状の光像を出力する。
【0112】
図26は、S-iPMレーザが備える位相変調層65Bの平面図である。第2実施形態の面発光レーザ素子50は、フォトニック結晶層65A(
図22を参照)に代えて、
図26に示された位相変調層65Bを備えてもよい。なお、
図26の例でも、Y軸に平行な線x0~x3とX軸に平行な線y0~y2の交点を格子点Oであり、該格子点Oを中心とする正方領域(正方格子)として単位構成領域R(0,0)~R(3,2)が設定される。これにより、面発光レーザ素子50はS-iPMレーザとして機能する。位相変調層65Bは、本変形例における共振モード形成層である。なお、本変形例の面発光レーザ素子50において、位相変調層65Bを除く他の構成は第2実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0113】
位相変調層65Bは、第1屈折率媒質からなる基本層65aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる異屈折率領域65bとを含む。ここで、位相変調層65Bに、X-Y平面における仮想的な正方格子が設定される。正方格子である各単位構成領域R(x,y)の一辺はX軸と平行であり、他辺はY軸と平行であるものとする。このとき、格子点Oを中心とする正方形状の単位構成領域Rが、X軸に沿った複数列およびY軸に沿った複数行にわたって二次元状に設定され得る。複数の異屈折率領域65bは、各単位構成領域R内に1つずつ設けられる。異屈折率領域65bの平面形状は、例えば円形状であるが、これに限らず、例えば多角形、閉曲線、2つ以上の閉曲線から構成される等、様々な形状であってもよい。各単位構成領域R(x、y)内において、異屈折率領域65bの重心Gは、これに最も近い格子点Oから離れて配置される。
【0114】
図27に示されたように、単位構成領域R(x,y)内の位置は、対応する格子点Oにおいて直交するs軸(X軸に平行)およびt軸(Y軸に平行)によって与えられる。単位構成領域R(x、y)において、格子点Oから重心Gに向かう方向とs軸との成す角度をφ(x,y)とする。成分xはX軸におけるx番目の格子点Oの位置、成分yはY軸におけるy番目の格子点Oの位置を示す。回転角度φが0°である場合、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの方向はX軸の正方向と一致する。また、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの長さをr(x,y)とする。一例では、r(x,y)はx、yによらず(位相変調層65B全体にわたって)一定である。
【0115】
図26に示されたように、位相変調層65Bにおいては、異屈折率領域65bの重心Gの格子点O周りの回転角度φが、所望の光像に応じて単位構成領域Rごとに独立して個別に設定される。回転角度分布φ(x,y)は、成分xおよび成分yの値で決まる位置ごとに特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。すなわち、回転角度分布φ(x,y)は、所望の光像を逆フーリエ変換して得られる複素振幅分布のうち位相分布を抽出したものから決定される。なお、所望の光像から複素振幅分布を求める際には、ホログラム生成の計算時に一般的に用いられるGerchberg-Saxton(GS)法のような繰り返しアルゴリズムを適用することによって、ビームパターンの再現性が向上する。
【0116】
図28は、面発光レーザ素子50の出力ビームパターンが結像して得られる光像と、位相変調層65Bにおける回転角度分布φ(x,y)との関係を説明するための図である。なお、出力ビームパターン(波数空間)の中心Qは半導体基板53の主面53aに対して垂直な軸線上に位置するとは限らないが、垂直な軸線上に配置させることもできる。ここでは説明のため、中心Qが主面53aに対して垂直な軸線上にあるものとする。
図28には、中心Qを原点とする4つの象限が示されている。
図28では例として第1象限および第3象限に光像が得られる場合を示したが、第2象限および第4象限或いは全ての象限に像を得ることも可能である。本変形例では、
図28に示されたように、原点に関して点対称な光像が得られる。
図28は、例として、第3象限に文字「A」が、第1象限に文字「A」を180度回転したパターンが、それぞれ得られる場合について示している。なお、回転対称な光像(例えば、十字、丸、二重丸など)である場合には、重なって一つの光像として観察される。
【0117】
面発光レーザ素子50の出力ビームパターンの光像は、スポット、直線、十字架、線画、格子パターン、写真、縞状パターン、CG(コンピュータグラフィクス)、および文字のうち少なくとも1つを含んでいる。ここで、所望の光像を得るためには、以下の手順によって位相変調層65Bの異屈折率領域65bの回転角度分布φ(x,y)を決定する。
【0118】
本変形例においては、以下の手順によって回転角度分布φ(x,y)を決定することにより、所望の光像を得ることができる。まず、第1の前提条件として、法線方向に一致するZ軸と、複数の異屈折率領域65bを含む位相変調層65Bの一方の面に一致した、互いに直交するX軸およびY軸を含むX-Y平面と、により規定されるXYZ直交座標系において、該X-Y平面上に、それぞれが正方形状を有するM1(1以上の整数)×N1(1以上の整数)個の単位構成領域Rにより構成される仮想的な正方格子が設定される。
【0119】
第2の前提条件として、XYZ直交座標系における座標(ξ,η,ζ)は、
図29に示されたように、動径の長さrと、Z軸からの傾き角θ
tiltと、X-Y平面上で特定されるX軸からの回転角θ
rotと、で規定される球面座標(r,θ
rot,θ
tilt)に対して、以下の式(1)~式(3)で示された関係を満たしているものとする。なお、
図29は、球面座標(r,θ
rot,θ
tilt)からXYZ直交座標系における座標(ξ,η,ζ)への座標変換を説明するための図であり、座標(ξ,η,ζ)により、実空間であるXYZ直交座標系において設定される所定平面上の設計上の光像が表現される。面発光レーザ素子から出力される光像に相当するビームパターンを角度θ
tiltおよびθ
rotで規定される方向に向かう輝点の集合とするとき、角度θ
tiltおよびθ
rotは、以下の式(4)で規定される規格化波数であってX軸に対応したKx軸上の座標値k
xと、以下の式(5)で規定される規格化波数であってY軸に対応するとともにKx軸に直交するKy軸上の座標値k
yに換算されるものとする。規格化波数は、仮想的な正方格子の格子間隔に相当する波数2π/aを1.0として規格化された波数を意味する。このとき、Kx軸およびKy軸により規定される波数空間において、光像に相当するビームパターンを含む特定の波数範囲が、それぞれが正方形状のM2(1以上の整数)×N2(1以上の整数)個の画像領域FRで構成される。なお、整数M2は、整数M1と一致する必要はない。同様に、整数N2は、整数N1と一致する必要もない。また、式(4)および式(5)は、例えば、上記非特許文献4に開示されている。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
a:仮想的な正方格子の格子定数
λ:面発光レーザ素子50の発振波長
【0120】
第3の前提条件として、波数空間において、Kx軸方向の座標成分k
x(0以上M2-1以下の整数)とKy軸方向の座標成分k
y(0以上N2-1以下の整数)とで特定される画像領域FR(k
x,k
y)それぞれを、X軸方向の座標成分x(0以上M1-1以下の整数)とY軸方向の座標成分y(0以上N1-1以下の整数)とで特定されるX-Y平面上の単位構成領域R(x,y)に二次元逆離散フーリエ変換することで得られる複素振幅F(x,y)が、jを虚数単位として、以下の式(6)で与えられる。また、この複素振幅F(x,y)は、振幅項をA(x,y)とするとともに位相項をP(x,y)とするとき、以下の式(7)により規定される。さらに、第4の前提条件として、単位構成領域R(x,y)が、X軸およびY軸にそれぞれ平行であって単位構成領域R(x,y)の中心となる格子点O(x,y)において直交するs軸およびt軸で規定される。
【数6】
【数7】
【0121】
上記第1~第4の前提条件の下、位相変調層65Bは、以下の第1および第2条件を満たすよう構成される。すなわち、第1条件は、単位構成領域R(x,y)内において、重心Gが、格子点O(x,y)から離れた状態で配置されていることである。また、第2条件は、格子点O(x,y)から対応する重心Gまでの線分長r2(x,y)がM1個×N1個の単位構成領域Rそれぞれにおいて共通の値に設定された状態で、格子点O(x,y)と対応する重心Gとを結ぶ線分と、s軸と、の成す角度φ(x,y)が、
φ(x,y)=C×P(x,y)+B
C:比例定数であって例えば180°/π
B:任意の定数であって例えば0
なる関係を満たすように、対応する異屈折率領域65bが単位構成領域R(x,y)内に配置されることである。
【0122】
逆フーリエ変換で得られた複素振幅分布から強度分布と位相分布を得る方法として、例えば強度分布I(x,y)については、MathWorks社の数値解析ソフトウェア「MATLAB」のabs関数を用いることにより計算することができ、位相分布P(x,y)については、MATLABのangle関数を用いることにより計算することができる。
【0123】
ここで、光像の逆フーリエ変換結果から回転角度分布φ(x,y)を求め、各異屈折率領域65bの配置を決める際に、一般的な離散フーリエ変換(或いは高速フーリエ変換)を用いて計算する場合の留意点を述べる。フーリエ変換前の光像を
図30(a)のようにA1,A2,A3,およびA4の4つの象限に分割すると、得られるビームパターンは
図30(b)のようになる。つまり、ビームパターンの第1象限には、
図30(a)の第1象限を180度回転したパターンと
図30(a)の第3象限のパターンが重畳したパターンが現れる。ビームパターンの第2象限には、
図30(a)の第2象限を180度回転したパターンと
図30(a)の第4象限のパターンが重畳したパターンが現れる。ビームパターンの第3象限には、
図30(a)の第3象限を180度回転したパターンと
図30(a)の第1象限のパターンが重畳したパターンが現れる。ビームパターンの第4象限には、
図30(a)の第4象限を180度回転したパターンと
図30(a)の第2象限のパターンが重畳したパターンが現れる。
【0124】
したがって、逆フーリエ変換前の光像(元の光像)として第1象限のみに値を有するパターンを用いた場合には、得られるビームパターンの第3象限に元の光像の第1象限が現れ、得られるビームパターンの第1象限に元の光像の第1象限を180度回転したパターンが現れる。
【0125】
このように、面発光レーザ素子50においては、波面が位相変調されていることによって所望のビームパターンが得られる。このビームパターンは、一対の単峰ビーム(スポット)であるばかりでなく、前述したように、文字形状、2以上の同一形状スポット群、或いは、位相、強度分布が空間的に不均一であるベクトルビームなどとすることも可能である。
【0126】
本変形例において、活性層62から出力されたレーザ光は、クラッド層61とクラッド層63との間に閉じ込められつつ位相変調層65Bの内部に入り、位相変調層65Bの内部の格子構造に応じた所定のモードを形成する。位相変調層65B内で散乱されて出射されるレーザ光は、半導体基板53の裏面53bから外部へ出力される。このとき、0次光は、主面53aに垂直な方向へ出射する。これに対し、+1次光および-1次光は、主面53aに垂直な方向およびこれに対して傾斜した方向を含む2次元的な任意方向へ出射する。
【0127】
なお、本変形例における上記の説明では、波長λ
0に対して、λ
0=a×n(aは格子間隔)としており、正方格子のΓ
2点と称するバンド端を利用している。一方、格子間隔aはλ
0=(2
1/2)a×nとなるように設定されてもよい。これは、正方格子のM点と称するバンド端に対応する。この場合、設計ビームパターンに対応する位相角度分布φ
0(x,y)に対して、追加の位相角度分布φ
1(x,y)=(±πx/a,±πy/a)の位相を重畳した位相角度分布φ(x,y)=φ
0(x,y)+φ
1(x,y)とする。
図31は、回転角度分布φ
1(x,y)の一例を概念的に示す図である。
図31に示されたように、この例では、第1の位相値φ
Aと、第1の位相値φ
Aとは異なる値の第2の位相値φ
Bとが市松模様に配列されている。一例では、位相値φ
Aは0(rad)であり、位相値φ
Bはπ(rad)である。すなわち、第1の位相値φ
Aと、第2の位相値φ
Bとがπずつ変化する。この場合、面垂直方向に設計ビームパターンを取り出すことができ、面垂直方向に0次光が現れず、±1次光(±1 order light)からなる設計ビームパターンのみが出射され得る。0次光(zero-order light)は位相変調されない波面だが、±1次光は位相変調された波面となる。故に、空間光変調器1Aへ入射する光の空間位相分布を効率的に制御でき、例えば貫通孔13へ光を集中させることにより、更なる高効率化が可能となる。
【0128】
本変形例のように、面発光レーザ素子50は、共振モード形成層として位相変調層65Bを有してもよい。この場合、位相変調層65Bにおいて発生したレーザ光の一部(+1次光および-1次光の一部、並びに0次光)は、半導体基板53の主面53aに対して垂直な方向に回折し、金属電極膜66において反射した後に(または直接に)半導体基板53の裏面53bに達し、裏面53bから空間光変調器1Aに向けて出射する。したがって、第2実施形態と同様の効果を奏することができる。また、上述のように、S-iPMレーザの出射ビームの±1次光の空間位相を制御する(例えば貫通孔13へ光を集中させる等)ことにより、更なる高効率化が可能となる。
【0129】
(第7変形例)
S-iPMレーザは、前述した第6変形例の構成に限られない。例えば、本変形例の位相変調層の構成であっても、S-iPMレーザを好適に実現することができる。
図32は、S-iPMレーザが備える位相変調層65Cの平面図である。また、
図33は、位相変調層65Cにおける異屈折率領域65bの位置関係を示す図である。位相変調層65Cは、本変形例における共振モード形成層である。なお、
図32に示されたように、Y軸に平行な線x0~x3とX軸に平行な線y0~y2の交点を格子点Oであり、該格子点Oを中心とする正方領域が単位構成領域R(0,0)~R(3,2)が設定される。また、各単位構成領域R(x、y)内の位置は、対応する格子点Oにおいて直交するs軸(X軸に平行)およびt軸(Y軸に平行)によって与えられる。
図32および
図33に示されたように、位相変調層65Cにおいて、各異屈折率領域65bの重心Gは、直線D上に配置されている。直線Dは、各単位構成領域Rの対応する格子点Oを通り、正方格子の各辺に対して傾斜する直線である。言い換えると、直線Dは、X軸(s軸)およびY軸(t軸)の双方に対して傾斜する直線である。X軸に平行なs軸に対する直線Dの傾斜角はθである。傾斜角θは、位相変調層65C内において一定である。傾斜角θは、0°<θ<90°を満たし、一例ではθ=45°である。または、傾斜角θは、180°<θ<270°を満たし、一例ではθ=225°である。傾斜角θが0°<θ<90°または180°<θ<270°を満たす場合、直線Dは、X軸およびY軸によって規定される座標平面の第1象限から第3象限にわたって延びる。或いは、傾斜角θは、90°<θ<180°を満たし、一例ではθ=135°である。或いは、傾斜角θは、270°<θ<360°を満たし、一例ではθ=315°である。傾斜角θが90°<θ<180°または270°<θ<360°を満たす場合、直線Dは、X軸およびY軸によって規定される座標平面の第2象限から第4象限にわたって延びる。このように、傾斜角θは、0°、90°、180°および270°を除く角度である。このような傾斜角θとすることで、光出力ビームにおいて、X軸方向に進む光波とY軸方向に進む光波との両方を寄与させることができる。ここで、格子点Oと重心Gとの距離をr(x,y)とする。xはX軸におけるx番目の格子点の位置、yはY軸におけるy番目の格子点の位置を示す。距離r(x,y)が正の値である場合、重心Gは第1象限(または第2象限)に位置する。距離r(x,y)が負の値である場合、重心Gは第3象限(または第4象限)に位置する。距離r(x,y)が0である場合、格子点Oと重心Gとは互いに一致する。
【0130】
図32に示された、各異屈折率領域65bの重心Gと、各単位構成領域Rの対応する格子点Oとの距離r(x,y)は、所望の光像に応じて異屈折率領域65bごとに個別に設定される。距離r(x,y)の分布は、x,yの値で決まる位置ごとに特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。距離r(x,y)の分布は、所望の光像を逆フーリエ変換して得られる複素振幅分布のうち位相分布を抽出したものから決定される。すなわち、
図33に示された、単位構成領域R(x,y)における位相P(x,y)がP
0である場合には距離r(x,y)が0に設定され、位相P(x,y)がπ+P
0である場合には距離r(x,y)が最大値r
0に設定され、位相P(x,y)が-π+P
0である場合には距離r(x,y)が最小値-r
0に設定される。そして、その中間の位相P(x,y)に対しては、r(x,y)={P(x,y)-P
0}×r
0/πとなるように距離r(x,y)が設定される。ここで、初期位相P
0は任意に設定され得る。正方格子の格子間隔をaとすると、r(x,y)の最大値r
0は例えば、
【数8】
の範囲内である。
【0131】
本変形例のように、面発光レーザ素子50は、共振モード形成層として位相変調層65Cを有してもよい。この場合、位相変調層65Cにおいて発生したレーザ光の一部(+1次光および-1次光の一部、並びに0次光)は、半導体基板53の主面53aに対して垂直な方向に回折し、金属電極膜66において反射した後に(または直接に)半導体基板53の裏面53bに達し、裏面53bから空間光変調器1Aに向けて出てゆく。したがって、第2実施形態と同様の効果を奏することができる。また、S-iPMレーザの出射ビームの±1次光の空間位相を制御する(例えば貫通孔13へ光を集中させる等)ことにより、更なる高効率化が可能となる。
【0132】
本開示による空間光変調器および発光装置は、上述の実施形態に限られず、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態および各変形例の空間光変調器では、貫通孔13ごとに設けられた一またはそれ以上の配線電極32が導電層23と電気的に接続され、複数の貫通孔13に対して共通に設けられた配線電極31が導電層21と電気的に接続されている。本開示による空間光変調器はこの形態に限られず、例えば、貫通孔13ごとに設けられた一またはそれ以上の配線電極32が導電層21と電気的に接続され、複数の貫通孔13に対して共通に設けられた配線電極31が導電層23と電気的に接続されてもよい。
【0133】
また、上記実施形態および各変形例の空間光変調器では、貫通孔13ごとに設けられた一またはそれ以上の配線電極32が表面11上に設けられ、複数の貫通孔13に対して共通に設けられた配線電極31が裏面12上に設けられている。本開示による空間光変調器はこの形態に限られず、例えば、貫通孔13ごとに設けられた一またはそれ以上の配線電極32が裏面12上に設けられ、複数の貫通孔13に対して共通に設けられた配線電極31が表面11上に設けられてもよい。その場合、導電層21に繋がる導電層24は一またはそれ以上の貫通孔13ごとに分離され、導電層23に繋がる導電層26は複数の貫通孔13に対して共通に設けられる。また、その場合、配線電極31は、表面11上において複数の貫通孔13の間の領域を全て覆ってもよい。
【0134】
また、上記実施形態および各変形例において、光Lは裏面12側から空間光変調器に入射し、表面11側から出射しているが、光Lは表面11側から空間光変調器に入射し、裏面12側から出射してもよい。
【符号の説明】
【0135】
1A~1H…空間光変調器、2…発光装置、10…基板、11…表面、12…裏面、13…貫通孔、13a…内壁、20…積層構造、21,24…導電層、21a…表面、22,25,27…誘電体層、23,26…導電層、28…誘電体領域、29…平滑層、29a…表面、31,32…配線電極、41…触媒金属膜、42…凹部、50…面発光レーザ素子、51…接合部、53…半導体基板、53a…主面、53b…裏面、60…半導体積層、61…クラッド層、62…活性層、63…クラッド層、64…コンタクト層、65A…フォトニック結晶層、65B,65C…位相変調層、65a…基本層、65b…異屈折率領域、66,67…金属電極膜、67a…開口、68…反射防止膜、100…基本要素、200A、200B…基本ユニット、221…第1層、222…第2層、300…出射領域、A1,A2…方向、C…中心点、D…直線、G…重心、L…光、Lout…出射光、M1,M2…レジストマスク、MA,MB…開口、O…格子点、R…単位構成領域、θ…傾斜角、φ…回転角度。