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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】制御装置、車両及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20240515BHJP
【FI】
B60G17/015 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022531090
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 IB2021055139
(87)【国際公開番号】W WO2021255598
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2020105377
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】増田 誠
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-154759(JP,A)
【文献】特開平03-281409(JP,A)
【文献】特開平05-193322(JP,A)
【文献】特開平08-104121(JP,A)
【文献】特開2006-224855(JP,A)
【文献】特開2009-262926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体(101)と前輪(103FL,103FR)との間に設けられた減衰力調整式の前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FRと、前記車体(101)と後輪(103RL,103RR)との間に設けられた減衰力調整式の後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)と、を備えた車両(100)に搭載され、前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力を調整する前輪側アクチュエータ(112FL、112FR)へ、前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力に対応する指令信号を出力し、前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力を調整する後輪側アクチュエータ(112RL、112RR)へ、前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力に対応する指令信号を出力する制御装置(1)であって、
前記車体(101)のロールレート(Rr)、前記車体(101)のヨーレートの単位時間当たりの変化量(Yr)、及び/又は、ステアリングの操舵角速度(Sav)に基づいて、前記車両(100)が安定旋回状態であるか否かを判定する車両状態判定部(2)を備え
前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力から前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力を減算した値を減衰力減算値とした場合、
前記車両状態判定部(2)で前記車両(100)が前記安定旋回状態であると判定された場合に、前記前輪側アクチュエータ(112FL、112FR及び前記後輪側アクチュエータ(112RL、112RR)、前記減衰力減算値が前記車両(100)の直進時の前記減衰力減算値よりも小さくなる又は大きくなる前記指令信号を出力
制御装置(1)。
【請求項2】
車体(101)と前輪(103FL,103FR)との間に設けられた減衰力調整式の前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)と、前記車体(101)と後輪(103RL,103RR)との間に設けられた減衰力調整式ではない後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)と、を備えた車両(100)に搭載され、前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力を調整する前輪側アクチュエータ(112FL、112FR)へ、前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力に対応する指令信号を出力する制御装置(1)であって、
前記車体(101)のロールレート(Rr)、前記車体(101)のヨーレートの単位時間当たりの変化量(Yr)、及び/又は、ステアリングの操舵角速度(Sav)に基づいて、前記車両(100)が安定旋回状態であるか否かを判定する車両状態判定部(2)を備え、
前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力から前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力を減算した値を減衰力減算値とした場合、
前記車両状態判定部(2)で前記車両(100)が前記安定旋回状態であると判定された場合に、前記前輪側アクチュエータ(112FL、112FR)に、前記減衰力減算値が前記車両(100)の直進時の前記減衰力減算値よりも小さくなる又は大きくなる前記指令信号を出力する
制御装置(1)。
【請求項3】
車体(101)と前輪(103FL,103FR)との間に設けられた減衰力調整式ではない前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)と、前記車体(101)と後輪(103RL,103RR)との間に設けられた減衰力調整式の後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)と、を備えた車両(100)に搭載され、前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力を調整する後輪側アクチュエータ(112RL、112RR)へ、前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力に対応する指令信号を出力する制御装置(1)であって、
前記車体(101)のロールレート(Rr)、前記車体(101)のヨーレートの単位時間当たりの変化量(Yr)、及び/又は、ステアリングの操舵角速度(Sav)に基づいて、前記車両(100)が安定旋回状態であるか否かを判定する車両状態判定部(2)を備え、
前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力から前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力を減算した値を減衰力減算値とした場合、
前記車両状態判定部(2)で前記車両(100)が前記安定旋回状態であると判定された場合に、前記後輪側アクチュエータ(112RL、112RR)に、前記減衰力減算値が前記車両(100)の直進時の前記減衰力減算値よりも小さくなる又は大きくなる前記指令信号を出力する
制御装置(1)。
【請求項4】
前記車両状態判定部(2)は、
記車体(101)のロールレート(Rr)が閾値(T1)以下又はよりも小さいという条件が満たされる場合に、前記車両(100)が前記安定旋回状態であると判定する
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の制御装置(1)。
【請求項5】
前記車両状態判定部(2)は、
記車体(101)のヨーレートの単位時間当たりの変化量(Yr)が閾値(T4)以下又はよりも小さいという条件が満たされる場合に、前記車両(100)が前記安定旋回状態であると判定する
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の制御装置(1)。
【請求項6】
前記車両状態判定部(2)は、
前記ステアリングの操舵角速度(Sav)が閾値(T5)以下又はよりも小さいという条件が満たされる場合に、前記車両(100)が前記安定旋回状態であると判定する
請求項~請求項のいずれか一項に記載の制御装置(1)。
【請求項7】
前記車両状態判定部(2)は、
記車両(100)の速度(V)が規定速度(V1)以上又はよりも大きいという条件が満たされる場合に、前記車両(100)が前記安定旋回状態であると判定する
請求項~請求項のいずれか一項に記載の制御装置(1)。
【請求項8】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の制御装置(1)を備えた
車両(100)。
【請求項9】
フロード車両である
請求項に記載の車両(100)。
【請求項10】
車体(101)と前輪(103FL,103FR)との間に設けられた減衰力調整式の前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)と、前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力を調整する前輪側アクチュエータ(112FL、112FR)と、前記車体(101)と後輪(103RL,103RR)との間に設けられた減衰力調整式の後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)と、前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力を調整する後輪側アクチュエータ(112RL、112RR)と、を備えた車両(100)に用いられ、前記前輪側アクチュエータ(112FL、112FR)へ、前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力に対応する指令信号が出力され、前記後輪側アクチュエータ(112RL、112RR)へ、前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力に対応する指令信号が出力される制御方法であって、
制御装置(1)の車両状態判定部(2)が、前記車体(101)のロールレート(Rr)、前記車体(101)のヨーレートの単位時間当たりの変化量(Yr)、及び/又は、ステアリングの操舵角速度(Sav)に基づいて、前記車両(100)が安定旋回状態であるか否かを判定し
前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力から前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力を減算した値を減衰力減算値とした場合、
前記制御装置(1)が、
前記車両状態判定部(2)で前記車両(100)が前記安定旋回状態であると判定された場合に、前記前輪側アクチュエータ(112FL、112FR及び前記後輪側アクチュエータ(112RL、112RR)、前記減衰力減算値が前記車両(100)の直進時の前記減衰力減算値よりも小さくなる又は大きくなる前記指令信号を出力
制御方法。
【請求項11】
車体(101)と前輪(103FL,103FR)との間に設けられた減衰力調整式の前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)と、前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力を調整する前輪側アクチュエータ(112FL、112FR)と、前記車体(101)と後輪(103RL,103RR)との間に設けられた減衰力調整式ではない後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)と、を備えた車両(100)に用いられ、前記前輪側アクチュエータ(112FL、112FR)へ、前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力に対応する指令信号が出力される制御方法であって、
制御装置(1)の車両状態判定部(2)が、前記車体(101)のロールレート(Rr)、前記車体(101)のヨーレートの単位時間当たりの変化量(Yr)、及び/又は、ステアリングの操舵角速度(Sav)に基づいて、前記車両(100)が安定旋回状態であるか否かを判定し、
前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力から前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力を減算した値を減衰力減算値とした場合、
前記制御装置(1)が、
前記車両状態判定部(2)で前記車両(100)が前記安定旋回状態であると判定された場合に、前記前輪側アクチュエータ(112FL、112FR)に、前記減衰力減算値が前記車両(100)の直進時の前記減衰力減算値よりも小さくなる又は大きくなる前記指令信号を出力する
制御方法。
【請求項12】
車体(101)と前輪(103FL,103FR)との間に設けられた減衰力調整式ではない前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)と、前記車体(101)と後輪(103RL,103RR)との間に設けられた減衰力調整式の後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)と、前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力を調整する後輪側アクチュエータ(112RL、112RR)と、を備えた車両(100)に用いられ、前記後輪側アクチュエータ(112RL、112RR)へ、前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力に対応する指令信号が出力される制御方法であって、
制御装置(1)の車両状態判定部(2)が、前記車体(101)のロールレート(Rr)、前記車体(101)のヨーレートの単位時間当たりの変化量(Yr)、及び/又は、ステアリングの操舵角速度(Sav)に基づいて、前記車両(100)が安定旋回状態であるか否かを判定し、
前記前輪側ショックアブソーバー(111FL,111FR)の減衰力から前記後輪側ショックアブソーバー(111RL,111RR)の減衰力を減算した値を減衰力減算値とした場合、
前記制御装置(1)が、
前記車両状態判定部(2)で前記車両(100)が前記安定旋回状態であると判定された場合に、前記後輪側アクチュエータ(112RL、112RR)に、前記減衰力減算値が前記車両(100)の直進時の前記減衰力減算値よりも小さくなる又は大きくなる前記指令信号を出力する
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された減衰力調整式のショックアブソーバーの減衰力の調整に用いられる制御装置、該制御装置を備えた車両、及び、車両に搭載された減衰力調整式のショックアブソーバーの減衰力の調整に用いられる制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体と車輪との間に減衰力調整式のショックアブソーバーを備えた車両が知られている(特許文献1参照)。車体と車輪との間に減衰力調整式のショックアブソーバーを備えた従来の車両は、該車両の旋回時にショックアブソーバーの減衰力を調整し、車体に発生するロールの抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-179113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
旋回性能及び旋回時の安全性等を考慮し、車両毎に、好適な定常円旋回特性が予め設定されている。定常円旋回特性とは、定常円旋回中にステアリングの操舵角を一定のまま車速を増大させた際に、車両が示す挙動特性である。具体的には、定常円旋回中にステアリングの操舵角を一定のまま車速を増大させた際、旋回半径が大きくなる車両は、定常円旋回特性がアンダーステア特性の車両である。また、定常円旋回中にステアリングの操舵角を一定のまま車速を増大させた際、旋回半径が小さくなる車両は、定常円旋回特性がオーバーステア特性の車両である。一般的に、車両は、定常円旋回特性がアンダーステア特性に設定されている。
【0005】
ここで、車体と車輪との間に減衰力調整式のショックアブソーバーを備えた従来の車両においては、旋回期間中は常に、車体に発生するロールの抑制を図ることを目的として、ショックアブソーバーの減衰力が調整される。換言すると、減衰力調整式のショックアブソーバーの減衰力を制御する従来の制御装置においては、車両の旋回期間中は常に、車体に発生するロールの抑制を図ることを目的として、ショックアブソーバーの減衰力を調整する。このため、車体と車輪との間に減衰力調整式のショックアブソーバーを備えた従来の車両においては、旋回時、定常円旋回特性が所望の定常円旋回特性と異なる状態であっても、定常円旋回特性を制御できないという課題があった。
【0006】
本発明は、上述の課題を背景としてなされたものであり、車体と車輪との間に設けられた減衰力調整式のショックアブソーバーを備えた車両に搭載され、ショックアブソーバーの減衰力を調整するアクチュエータへ、前記ショックアブソーバーの減衰力に対応する指令信号を出力する制御装置であって、旋回時に車両の定常円旋回特性を制御することが可能な制御装置を得ることを第1の目的とする。また、本発明は、このような制御装置を備えた車両を得ることを第2の目的とする。また、本発明は、車体と車輪との間に設けられた減衰力調整式のショックアブソーバーと、ショックアブソーバーの減衰力を調整するアクチュエータとを備えた車両に用いられる、ショックアブソーバーの減衰力に対応する指令信号をアクチュエータへ出力する制御方法であって、旋回時に車両の定常円旋回特性を制御することが可能な制御方法を得ることを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制御装置は、車体と車輪との間に設けられた減衰力調整式のショックアブソーバーを備えた車両に搭載され、前記ショックアブソーバーの減衰力を調整するアクチュエータへ、前記ショックアブソーバーの減衰力に対応する指令信号を出力する制御装置であって、前記車両が、走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも小さい状態で旋回走行する安定旋回状態になったとき、前記アクチュエータに前記指令信号を出力して前記ショックアブソーバーの減衰力を調整し、前記車両の定常円旋回特性を制御する構成となっている。
【0008】
また、本発明に係る車両は、車体と、車輪と、前記車体と前記車輪との間に設けられた減衰力調整式のショックアブソーバーと、前記ショックアブソーバーの減衰力を調整するアクチュエータと、本発明に係る制御装置と、を備えている。
【0009】
また、本発明に係る制御方法は、車体と車輪との間に設けられた減衰力調整式のショックアブソーバーと、前記ショックアブソーバーの減衰力を調整するアクチュエータとを備えた車両に用いられる、前記ショックアブソーバーの減衰力に対応する指令信号を前記アクチュエータへ出力する制御方法であって、前記車両が、走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも小さい状態で旋回走行する安定旋回状態になったとき、前記アクチュエータに前記指令信号を出力して前記ショックアブソーバーの減衰力を調整し、前記車両の定常円旋回特性を制御する定常円旋回特性制御ステップを備えている。
【発明の効果】
【0010】
車両の旋回時における車体の挙動は、過渡旋回状態と安定旋回状態とに分けられる。過渡旋回状態とは、車体の挙動が安定せず、車体の走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも大きくなる状態である。安定旋回状態とは、車体の挙動が安定し、車体の走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも小さくなる状態である。すなわち、安定旋回状態では、ショックアブソーバーの伸縮速度が小さくなる。このため、安定旋回状態では、車体に発生するロールの抑制を図る制御を行っても、ロール抑制に対する寄与度が小さい。
【0011】
そこで、本発明に係る制御装置及び制御方法は、安定旋回状態においては、アクチュエータに指令信号を出力してショックアブソーバーの減衰力を調整し、車両の定常円旋回特性を制御する。具体的には、ショックアブソーバーの減衰力を調整することにより、車輪(より詳しくは車輪のタイヤ)の接地面荷重(Contact Patch Load)の変動が変化するので、車輪(より詳しくは車輪のタイヤ)のグリップ力を変更することができる。この現象を利用し、本発明に係る制御装置及び制御方法は、安定旋回状態において、車両の定常円旋回特性を制御する。このため、本発明に係る制御装置及び制御方法は、旋回時に車両の定常円旋回特性を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る車両の側面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る車両の平面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る制御装置における各ショックアブソーバーの減衰力の制御の仕方を説明するための図である。
図4図3に示すショックアブソーバーの減衰力を固定し、車輪のタイヤを剛体と仮定した場合における、路面入力周波数Fと車両のゲインX/Zとの関係を示す図である。
図5】本発明の実施の形態に係る制御装置が安定旋回状態時に行う、定常円旋回特性の制御方法を説明するための図である。
図6】本発明の実施の形態に係る制御装置が安定旋回状態時に行う、定常円旋回特性の制御方法を説明するための図である。
図7】本発明の実施の形態に係る制御装置を示すブロック図である。
図8】本発明の実施の形態に係る制御装置の動作を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施の形態に係る車両の変形例を示す平面図である。
図10】本発明の実施の形態に係る制御装置の変形例を示すブロック図であり、図9に示す車両に搭載された制御装置を示すブロック図である。
図11】本発明の実施の形態に係る車両の変形例を示す平面図である。
図12】本発明の実施の形態に係る制御装置の変形例を示すブロック図であり、図11に示す車両に搭載された制御装置を示すブロック図である。
図13】本発明の実施の形態に係る車両の変形例を示す平面図である。
図14】本発明の実施の形態に係る制御装置の変形例を示すブロック図であり、図13に示す車両に搭載された制御装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る制御装置及び車両について、図面を用いて説明する。
【0014】
なお、以下では、本発明に係る車両の一例として自動四輪車を説明するが、本発明に係る車両は自動四輪車以外の車両であってもよい。自動四輪車以外の車両とは、例えば、エンジン及び電動モータのうちの少なくとも1つを駆動源とする自転車、自動二輪車及び自動三輪車等である。なお、自転車とは、ペダルに付与される踏力によって路上を推進することが可能な乗物全般を意味している。つまり、自転車には、普通自転車、電動アシスト自転車、電動自転車等が含まれる。また、自動二輪車又は自動三輪車は、いわゆるモータサイクルを意味し、モータサイクルには、オートバイ、スクーター、電動スクーター等が含まれる。
【0015】
また、以下で説明する構成及び動作等は一例であり、本発明は、そのような構成及び動作等である場合に限定されない。また、各図においては、同一の又は類似する部材又は部分に対して、同一の符号を付している場合又は符号を付すことを省略している場合がある。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略している。
【0016】
実施の形態.
以下に、実施の形態に係る制御装置1、及び該制御装置1を備えた車両100について説明する。
【0017】
<車両及び制御装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る車両の側面図である。また、図2は、本発明の実施の形態に係る車両の平面図である。なお、図1及び図2では、紙面左側が車両100の前側となっている。
車両100は、オフロード車両であり、車体101と車輪103とを備えている。具体的には、車両100は、車輪103として、前輪及び後輪を備えている。また、本実施の形態に係る車両100は、自動四輪車であり、2つの前輪と2つの後輪とを備えている。具体的には、車両100は、前輪として、左前輪103FL及び右前輪103FRを備えている。また、車両100は、後輪として、左後輪103RL、及び右後輪103RRを備えている。
【0018】
また、車両100は、スプリング110及びショックアブソーバー111を備えている。スプリング110及びショックアブソーバー111は、車体101と各車輪103との間に設けられている。このため、車両100は、4つのスプリング110と、4つのショックアブソーバー111と、を備えている。具体的には、車両100は、スプリング110として、スプリング110FL、スプリング110FR、スプリング110RL、及びスプリング110RRを備えている。また、車両100は、ショックアブソーバー111として、前輪側ショックアブソーバー111FL、前輪側ショックアブソーバー111FR、後輪側ショックアブソーバー111RL、及び後輪側ショックアブソーバー111RRを備えている。
【0019】
スプリング110FL及び前輪側ショックアブソーバー111FLは、車体101と左前輪103FLとの間に設けられている。スプリング110FR及び前輪側ショックアブソーバー111FRは、車体101と右前輪103FRとの間に設けられている。スプリング110RL及び後輪側ショックアブソーバー111RLは、車体101と左後輪103RLとの間に設けられている。スプリング110RR及び後輪側ショックアブソーバー111RRは、車体101と右後輪103RRとの間に設けられている。
【0020】
本実施の形態に係るショックアブソーバー111は、減衰力調整式のショックアブソーバーである。このため、車両100は、ショックアブソーバー111の減衰力を調整するアクチュエータ112を備えている。アクチュエータ112は、ショックアブソーバー111毎に設けられている。具体的には、車両100は、4つのアクチュエータ112を備えている。より具体的には、車両100は、アクチュエータ112として、アクチュエータ112FL、アクチュエータ112FR、アクチュエータ112RL、及びアクチュエータ112RRを備えている。アクチュエータ112FLは、前輪側ショックアブソーバー111FLの減衰力を調整する。アクチュエータ112FRは、前輪側ショックアブソーバー111FRの減衰力を調整する。アクチュエータ112RLは、後輪側ショックアブソーバー111RLの減衰力を調整する。アクチュエータ112RRは、後輪側ショックアブソーバー111RRの減衰力を調整する。なお、減衰力調整式のショックアブソーバーであれば、ショックアブソーバー111として、公知の種々のショックアブソーバーを用いることができる。
【0021】
また、車両100は、制御装置1を備えている。すなわち、制御装置1は、車両100に搭載されている。なお、制御装置1の各部は、纏められて配設されていてもよく、また、分散して配設されていてもよい。制御装置1は、例えば、マイコン、マイクロプロセッサユニット等を含んで構成されてもよく、また、ファームウェア等の更新可能なものを含んで構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等を含んで構成されてもよい。
【0022】
制御装置1は、アクチュエータ112と電気的に接続されている。そして、制御装置1は、アクチュエータ112へ、ショックアブソーバー111の減衰力に対応する指令信号を出力するものである。具体的には、本実施の形態では、制御装置1は、アクチュエータ112FLへ、前輪側ショックアブソーバー111FLの減衰力に対応する指令信号を出力する。また、制御装置1は、アクチュエータ112FRへ、前輪側ショックアブソーバー111FRの減衰力に対応する指令信号を出力する。また、制御装置1は、アクチュエータ112RLへ、後輪側ショックアブソーバー111RLの減衰力に対応する指令信号を出力する。また、制御装置1は、アクチュエータ112RRへ、後輪側ショックアブソーバー111RRの減衰力に対応する指令信号を出力する。
【0023】
なお、制御装置1が出力する指令信号は、ショックアブソーバー111及びアクチュエータ112の種類によって異なる。例えば、アクチュエータ112へ入力される電流の値に対応して、ショックアブソーバー111の減衰力が変更される構成の場合、制御装置1が出力する指令信号は電流である。すなわち、制御装置1は、ショックアブソーバー111の減衰力に対応する値の電流を、アクチュエータ112へ出力する。また例えば、アクチュエータ112へ入力される電圧の値に対応して、ショックアブソーバー111の減衰力が変更される構成の場合、制御装置1が出力する指令信号は電圧である。すなわち、制御装置1は、ショックアブソーバー111の減衰力に対応する値の電圧を、アクチュエータ112へ出力する。
【0024】
また、車両100は、制御装置1と電気的に接続され、該車両100が安定旋回状態であることの検出に用いられる少なくとも1つのセンサーを備えている。安定旋回状態とは、車両100の旋回時、車体101の挙動が安定し、車体101の走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも小さくなる状態である。本実施の形態では、後述のように、車体101の走行姿勢に関連する物理量として、車体101のロールレートを採用している。具体的には、車両100の旋回時に、車体101のロールレートが基準状態よりも小さくなっている安定ロール状態を、安定旋回状態としている。このため、本実施の形態に係る車両100は、車体101のロールレートを検出するロールレート検出センサー113を備えている。ロールレート検出センサー113は、車体101に設けられている。
【0025】
また、本実施の形態では、車両100が安定旋回状態であることの検出の確実性を向上させるため、車両100は、加速度センサー114、及び加速度センサー115も備えている。加速度センサー114は、車体101に設けられており、車体101の上下方向の加速度を検出するものである。換言すると、加速度センサー114は、車体101において図1のD1方向に発生する加速度を検出するものである。加速度センサー115は、車体101に設けられており、車体101の横方向の加速度を検出するものである。換言すると、加速度センサー115は、車体101において図2のD2方向に発生する加速度を検出するものである。
【0026】
なお、ロールレート検出センサー113、加速度センサー114、及び加速度センサー115は、別々のセンサーであってもよいし、少なくとも2つのセンサーを1つのユニットとして構成してもよい。例えば、ロールレート検出センサー113、加速度センサー114、及び加速度センサー115として、いわゆる慣性計測ユニットを用いてもよい。また、ロールレート検出センサー113、加速度センサー114、及び加速度センサー115は、制御装置1に備えられる構成としてもよい。
【0027】
続いて、制御装置1における各ショックアブソーバー111の減衰力の制御の仕方について、後述の図3に示す1輪の2自由度モデル図を用いて説明する。
【0028】
図3は、本発明の実施の形態に係る制御装置における各ショックアブソーバーの減衰力の制御の仕方を説明するための図である。なお、図3に示すバネ上位置Xは、車体101の上下方向の位置を表している。バネ下位置Yは、バネ下102の上下方向の位置を表している。バネ下102とは、車両100のうちで、ショックアブソーバー111を基準として車輪103側となる部分である。例えば、車輪103、図示せぬハブ、及び図示せぬ車軸等が、バネ下102となる。路面位置Zは、路面120と車輪103との接触箇所の上下方向の位置を表している。また、バネ上位置X、バネ下位置Y、及び路面位置Zの各基準位置は、次のように定義される。路面120上の任意の位置に、車両100が停止しているとする。この状態の車体101の位置が、バネ上位置Xの基準位置となる。また、この状態のバネ下102の位置が、バネ下位置Yの基準位置となる。また、この状態における路面120と車輪103との接触箇所が、路面位置Zの基準位置となる。すなわち、バネ上位置Xの変動が大きい程、車体101の上下動が大きいということである。バネ下位置Yの変動が大きい程、バネ下102の上下動が大きいということである。路面位置Zの変動が大きい程、路面120の上下方向の凹凸が大きいということである。
【0029】
また、制御装置1における各ショックアブソーバー111の減衰力の制御の仕方を理解するにあたり、図3を次のように見ればよい。例えば、ショックアブソーバー111を前輪側ショックアブソーバー111FLとした場合、アクチュエータ112がアクチュエータ112FLとなり、車輪103が左前輪103FLとなり、スプリング110がスプリング110FLとなる。ショックアブソーバー111を前輪側ショックアブソーバー111FRとした場合、アクチュエータ112がアクチュエータ112FRとなり、車輪103が右前輪103FRとなり、スプリング110がスプリング110FRとなる。ショックアブソーバー111を後輪側ショックアブソーバー111RLとした場合、アクチュエータ112がアクチュエータ112RLとなり、車輪103が左後輪103RLとなり、スプリング110がスプリング110RLとなる。ショックアブソーバー111を後輪側ショックアブソーバー111RRとした場合、アクチュエータ112がアクチュエータ112RRとなり、車輪103が右後輪103RRとなり、スプリング110がスプリング110RRとなる。
【0030】
図4は、図3に示すショックアブソーバーの減衰力を固定し、車輪のタイヤを剛体と仮定した場合における、路面入力周波数Fと車両のゲインX/Zとの関係を示す図である。
この図4の横軸に示す路面入力周波数Fは、車両100の走行中に、路面120からバネ下102に入力される周波数を示している。図4の横軸は、紙面右側へ進むほど、路面入力周波数Fが大きくなる。また、図4の縦軸に示す車両100のゲインX/Zは、バネ上位置Xを路面位置Zで除算したものである。図4の縦軸は、紙面上側へ進むほど、ゲインX/Zが大きくなる。ゲインX/Zは、値が大きくなるほど、路面120の凹凸に対して車体101が上下方向に大きく振動することを示している。また、図4には、車両100が状態Aとなっているとき及び状態Bとなっているときの、路面入力周波数Fと該車両100のゲインX/Zとの関係を示している。状態A及び状態Bは、ショックアブソーバー111の減衰力を固定している状態である。また、状態Aのときのショックアブソーバー111の減衰力は、状態Bのときのショックアブソーバー111の減衰力よりも小さくなっている。
【0031】
図4に示すように、路面入力周波数Fが比較的低い第2周波数領域22においては、状態AのゲインX/Zが、状態BのゲインX/Zよりも大きくなっている。路面入力周波数Fが比較的低い第2周波数領域22においては、ショックアブソーバー111の減衰力が状態Bよりも小さい状態Aでは、状態Bと比べ、共振によって車体101が上下方向に大きくあおられる。このため、路面入力周波数Fが比較的低い第2周波数領域22においては、状態AのゲインX/Zが、状態BのゲインX/Zよりも大きくなる。
【0032】
一方、図4に示すように、路面入力周波数Fが比較的高い第1周波数領域21においては、状態Bの時のゲインX/Zが、状態AのゲインX/Zよりも大きくなっている。ショックアブソーバー111の減衰力が状態Aよりも大きい状態Bでは、状態Aと比べ、ショックアブソーバー111の減衰力が、路面120からの入力を車体101へ伝える形で作用する。このため、路面入力周波数Fが比較的高い第1周波数領域21においては、ショックアブソーバー111の減衰力が状態Aよりも大きい状態Bでは、状態Aと比べ、バネ下102から車体101へ伝達される衝撃をショックアブソーバー111で吸収できず、ゲインX/Zが大きくなる。
【0033】
車体101の上下動が大きくなるほど、車輪103(より詳しくは車輪103のタイヤ)の接地面荷重(Contact Patch Load)の変動が大きくなる。また、車輪103の接地面荷重の変動が大きくなるほど、車輪103(より詳しくは車輪103のタイヤ)のグリップ力が低下する。このため、路面入力周波数Fが比較的低い第2周波数領域22においては、ショックアブソーバー111の減衰力が大きい方が、車体101の上下動を抑制できるので、車輪103のグリップ力が増加する。一方、路面入力周波数Fが比較的高い第1周波数領域21においては、ショックアブソーバー111の減衰力が小さい方が、車体101の上下動を抑制できるので、車輪103のグリップ力が増加する。
【0034】
ところで、車両100の旋回時における車体101の挙動は、過渡旋回状態と安定旋回状態とに分けられる。過渡旋回状態とは、車体101の挙動が安定せず、車体101の走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも大きくなる状態である。安定旋回状態とは、上述のように、車体101の挙動が安定し、車体101の走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも小さくなる状態である。
【0035】
また、車両100の旋回時における車体101の挙動と、路面120からバネ下102に入力される周波数である路面入力周波数Fとは、次のような関係がある。
【0036】
凹凸の大きい路面120で車両100が旋回する場合、車輪103が大きな凹凸を乗り越えることとなるので、路面入力周波数Fは比較的低くなる。すなわち、凹凸の大きい路面120で車両100が旋回する場合、路面入力周波数Fは第2周波数領域22となる。また、凹凸の大きい路面120で車両100が旋回する場合、路面120の凹凸によって車体101が大きく揺れることとなる。このため、凹凸の大きい路面120で車両100が旋回する場合、車体101の挙動は過渡旋回状態となる。
【0037】
一方、表面が砂利等のような凹凸の小さい路面120で車両100が旋回する場合、車輪103が小さな凹凸を乗り越えることとなるので、路面入力周波数Fは比較的高くなる。すなわち、凹凸の小さい路面120で車両100が旋回する場合、路面入力周波数Fは第1周波数領域21となる。また、凹凸の小さい路面120で車両100が旋回する場合、路面120の凹凸による車体101の揺れは小さい。このため、凹凸の小さい路面120で車両100が旋回する場合、車体101の挙動が安定した後は、車体101の挙動は安定旋回状態となる。すなわち、車体101の挙動が安定旋回状態となるのは、路面入力周波数Fが第1周波数領域21のときである。
【0038】
ここで、従来、旋回性能及び旋回時の安全性等を考慮し、車両毎に、好適な定常円旋回特性が予め設定されている。定常円旋回特性とは、定常円旋回中にステアリングの操舵角を一定のまま車速を増大させた際に、車両が示す挙動特性である。具体的には、定常円旋回中にステアリングの操舵角を一定のまま車速を増大させた際、旋回半径が大きくなる車両は、定常円旋回特性がアンダーステア特性の車両である。また、定常円旋回中にステアリングの操舵角を一定のまま車速を増大させた際、旋回半径が小さくなる車両は、定常円旋回特性がオーバーステア特性の車両である。また、定常円旋回中にステアリングの操舵角を一定のまま車速を増大させた際、旋回半径が変化しない車両は、定常円旋回特性がニュートラルステア特性の車両である。一般的に、車両は、定常円旋回特性がアンダーステア特性に設定されている。本実施の形態に係る車両100も、定常円旋回特性がアンダーステア特性に設定されている。より詳しくは、本実施の形態に係る車両100の定常円旋回特性は、ニュートラルステア特性に近いアンダーステア特性である、弱アンダーステア特性となっている。
【0039】
また、車両100のように減衰力調整式のショックアブソーバーを備えた車両は、従来、該車両の旋回時にショックアブソーバーの減衰力を調整し、車体に発生するロールの抑制を図っている。この際、減衰力調整式のショックアブソーバーを備えた従来の車両においては、旋回期間中は常に、車体に発生するロールの抑制を図ることを目的として、ショックアブソーバーの減衰力が調整される。しかしながら、安定旋回状態では、ショックアブソーバーの伸縮速度が小さくなる。このため、安定旋回状態では、車体に発生するロールの抑制を図る制御を行っても、ロール抑制に対する寄与度が小さい。一方、減衰力調整式のショックアブソーバーを備えた従来の車両においては、安定旋回状態でも車体のロール抑制を目的としてショックアブソーバーの減衰力が調整されるので、旋回時、定常円旋回特性が所望の定常円旋回特性と異なる状態であっても、定常円旋回特性を制御できなかった。
【0040】
そこで、本実施の形態に係る制御装置1は、車両100の旋回時に安定旋回状態になったとき、アクチュエータ112に指令信号を出力してショックアブソーバー111の減衰力を調整し、車両100の定常円旋回特性を制御する。以下、安定旋回状態に行われる車両100の定常円旋回特性の具体的な制御方法について、図4図5及び図6を用いて説明する。
【0041】
図5及び図6は、本発明の実施の形態に係る制御装置が安定旋回状態時に行う、定常円旋回特性の制御方法を説明するための図である。図5及び図6は、車両100の平面図となっている。また、図5及び図6では、紙面左側が車両100の前側となっている。また、図5及び図6に示す白抜き矢印は、旋回時に車輪103に発生する向心力(コーナーリングフォース)である。白塗り矢印が大きいほど、向心力が大きくなる。
【0042】
まず、前輪側ショックアブソーバーの減衰力から後輪側ショックアブソーバーの減衰力を減算した値を、減衰力減算値と定義する。なお、本実施の形態では、車両の直進時、前輪側ショックアブソーバー111FL及び前輪側ショックアブソーバー111FRの減衰力を同じにしている。また、定常ロール時においても、前輪側ショックアブソーバー111FL及び前輪側ショックアブソーバー111FRの減衰力を同じにしている。また、本実施の形態では、車両の直進時、後輪側ショックアブソーバー111RL及び後輪側ショックアブソーバー111RRの減衰力を同じにしている。また、定常ロール時においても、後輪側ショックアブソーバー111RL及び後輪側ショックアブソーバー111RRの減衰力を同じにしている。このため、本実施の形態では、車両の直進時及び定常ロール時においては、前輪側ショックアブソーバー111FL及び前輪側ショックアブソーバー111FRのうちの一方の減衰力から、後輪側ショックアブソーバー111RL及び後輪側ショックアブソーバー111RRのうちの一方の減衰力を減算することにより、減衰力減算値を求めることができる。
【0043】
なお、車両の直進時及び定常ロール時において、前輪側ショックアブソーバー111FLの減衰力と前輪側ショックアブソーバー111FRの減衰力とを異ならせてもよい。この場合、車両の直進時及び定常ロール時において減衰力減算値を求める場合、前輪側ショックアブソーバー111FLの減衰力と前輪側ショックアブソーバー111FRの減衰力との平均値を、前輪側ショックアブソーバーの減衰力とする。同様に、車両の直進時及び定常ロール時において、後輪側ショックアブソーバー111RLの減衰力と後輪側ショックアブソーバー111RRの減衰力とを異ならせてもよい。この場合、車両の直進時及び定常ロール時において減衰力減算値を求める場合、後輪側ショックアブソーバー111RLの減衰力と後輪側ショックアブソーバー111RRの減衰力との平均値を、後輪側ショックアブソーバーの減衰力とする。
【0044】
例えば、車両100の旋回時に従来の方法でショックアブソーバー111の減衰力を調整した際、安定旋回状態での定常円旋回特性を現状よりもオーバーステア傾向の特性にしたいという要望があるとする。この場合、車両100が安定旋回状態となったとき、制御装置1は、アクチュエータ112に、減衰力減算値が車両100の直進時の減衰力減算値よりも小さくなる指令信号を出力する。例えば、車両100が安定旋回状態となったとき、制御装置1は、前輪側ショックアブソーバー111FL及び前輪側ショックアブソーバー111FRの減衰力が直進時よりも小さくなるように、アクチュエータ112に指令信号を出力する。同時に、車両100が安定旋回状態となったとき、制御装置1は、後輪側ショックアブソーバー111RL及び後輪側ショックアブソーバー111RRの減衰力が直進時よりも大きくなるように、アクチュエータ112に指令信号を出力する。これにより、安定旋回状態における減衰力減算値が、直進時の減衰力減算値よりも小さくなる。
【0045】
なお、車両100が安定旋回状態となったとき、制御装置1は、前輪側ショックアブソーバー111FL及び前輪側ショックアブソーバー111FRの減衰力が直進時よりも小さくなるように、アクチュエータ112に指令信号を出力するだけでもよい。また、車両100が安定旋回状態となったとき、制御装置1は、後輪側ショックアブソーバー111RL及び後輪側ショックアブソーバー111RRの減衰力が直進時よりも大きくなるように、アクチュエータ112に指令信号を出力するだけでもよい。このようにショックアブソーバー111の減衰力を調整しても、安定旋回状態における減衰力減算値が、直進時の減衰力減算値よりも小さくなる。
【0046】
図4で説明したように、車両100が安定旋回状態となるのは、路面入力周波数Fが第1周波数領域21のときである。また、路面入力周波数Fが第1周波数領域21となっている場合、ショックアブソーバー111の減衰力が小さい方が、車輪103のグリップ力が増加する。ここで、安定旋回状態における減衰力減算値を直進時の減衰力減算値よりも小さくすることにより、安定旋回状態においては、直進時と比較し、前輪側ショックアブソーバー111FL及び前輪側ショックアブソーバー111FRの減衰力が、後輪側ショックアブソーバー111RL及び後輪側ショックアブソーバー111RRの減衰力に対して相対的に低くなる。したがって、安定旋回状態における減衰力減算値を直進時の減衰力減算値よりも小さくすることにより、安定旋回状態においては、左前輪103FL及び右前輪103FRのグリップ力が、左後輪103RL及び右後輪103RRのグリップ力に対して相対的に大きくなる。このため、図5に示すように、安定旋回状態における減衰力減算値を直進時の減衰力減算値よりも小さくすることにより、左前輪103FL及び右前輪103FRに発生する向心力が、左後輪103RL及び右後輪103RRに発生する向心力に対して相対的に大きくなる。このため、車両100の旋回時に従来の方法でショックアブソーバー111の減衰力を調整した場合と比べ、車両100の安定旋回状態での定常円旋回特性を、オーバーステア傾向の特性に制御することができる。
【0047】
また例えば、車両100の旋回時に従来の方法でショックアブソーバー111の減衰力を調整した際、安定旋回状態での定常円旋回特性を現状よりもアンダーステア傾向の特性にしたいという要望があるとする。この場合、車両100が安定旋回状態となったとき、制御装置1は、アクチュエータ112に、減衰力減算値が車両100の直進時の減衰力減算値よりも大きくなる指令信号を出力する。例えば、車両100が安定旋回状態となったとき、制御装置1は、前輪側ショックアブソーバー111FL及び前輪側ショックアブソーバー111FRの減衰力が直進時よりも大きくなるように、アクチュエータ112に指令信号を出力する。同時に、車両100が安定旋回状態となったとき、制御装置1は、後輪側ショックアブソーバー111RL及び後輪側ショックアブソーバー111RRの減衰力が直進時よりも小さくなるように、アクチュエータ112に指令信号を出力する。これにより、安定旋回状態における減衰力減算値が、直進時の減衰力減算値よりも大きくなる。
【0048】
なお、車両100が安定旋回状態となったとき、制御装置1は、前輪側ショックアブソーバー111FL及び前輪側ショックアブソーバー111FRの減衰力が直進時よりも大きくなるように、アクチュエータ112に指令信号を出力するだけでもよい。また、車両100が安定旋回状態となったとき、制御装置1は、後輪側ショックアブソーバー111RL及び後輪側ショックアブソーバー111RRの減衰力が直進時よりも小さくなるように、アクチュエータ112に指令信号を出力するだけでもよい。このようにショックアブソーバー111の減衰力を調整しても、安定旋回状態における減衰力減算値が、直進時の減衰力減算値よりも大きくなる。
【0049】
図4で説明したように、車両100が安定旋回状態となるのは、路面入力周波数Fが第1周波数領域21のときである。また、路面入力周波数Fが第1周波数領域21となっている場合、ショックアブソーバー111の減衰力が小さい方が、車輪103のグリップ力が増加する。ここで、安定旋回状態における減衰力減算値を直進時の減衰力減算値よりも大きくすることにより、安定旋回状態においては、直進時と比較し、後輪側ショックアブソーバー111RL及び後輪側ショックアブソーバー111RRの減衰力が、前輪側ショックアブソーバー111FL及び前輪側ショックアブソーバー111FRの減衰力に対して相対的に低くなる。したがって、安定旋回状態における減衰力減算値を直進時の減衰力減算値よりも大きくすることにより、安定旋回状態においては、左後輪103RL及び右後輪103RRのグリップ力が、左前輪103FL及び右前輪103FRのグリップ力に対して相対的に大きくなる。このため、図6に示すように、安定旋回状態における減衰力減算値を直進時の減衰力減算値よりも大きくすることにより、左後輪103RL及び右後輪103RRに発生する向心力が、左前輪103FL及び右前輪103FRに発生する向心力に対して相対的に大きくなる。このため、車両100の旋回時に従来の方法でショックアブソーバー111の減衰力を調整した場合と比べ、車両100の安定旋回状態での定常円旋回特性を、アンダーステア傾向の特性に制御することができる。
【0050】
このような制御を実行する制御装置1は、例えば、次のように構成することができる。以下、本実施の形態に係る制御装置1の詳細構成について説明する。
【0051】
<制御装置の詳細構成>
図7は、本発明の実施の形態に係る制御装置を示すブロック図である。
制御装置1は、車両状態判定部2及び制御部3を備えている。
【0052】
車両状態判定部2は、車両100が安定旋回状態であるか否かを判定する機能部である。車両状態判定部2には、ロールレート検出センサー113の検出値が入力される構成となっている。また、本実施の形態では、車両状態判定部2には、加速度センサー114、及び加速度センサー115の検出値も入力される構成となっている。上述のように、本実施の形態では、車両100の旋回時に車体101のロールレートが基準状態よりも小さくなっている安定ロール状態を、安定旋回状態としている。このため、車両状態判定部2は、次式(1)が成立するか否かを判定する。
【0053】
Rr≦T1 ...(1)
ここで、Rrは、車体101のロールレートである。換言すると、Rrは、ロールレート検出センサー113の検出値である。T1は、閾値である。すなわち、車体101のロールレートRrが閾値T1以下となる場合、式(1)が成立する。車両100が安定旋回状態となっている場合、車体101の走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも小さくなり、ロールレートRrも小さくなるので、式(1)を満たすこととなる。ここで、車体101のロールレートRrを用いて安定旋回状態か否かを判定する条件を、車体101のロールレートRrが閾値T1よりも小さくなる条件としてもよい。すなわち、車両状態判定部2は、車両100が安定旋回状態であると判定する条件として、車体101のロールレートRrが閾値T1以下又はよりも小さいという条件を備えている。以下、当該条件を、第1条件と称することとする。
【0054】
ここで、車両状態判定部2は、上記第1条件を満たしたときに、車両100が安定旋回状態となっていると判定しても勿論よい。しかしながら、車両100の様々な動作姿勢を考慮した場合、旋回状態となっていない状態において第1条件を満たす可能性も考えられる。このため、本実施の形態では、車両100が安定旋回状態であることの検出の確実性を向上させるため、車両状態判定部2は、車両100が安定旋回状態であると判定する条件として、第1条件に加えて、車両100が旋回状態であるか否かを判定する条件を備えている。具体的には、車両状態判定部2は、次式(2)で表される第2条件が成立するか否かを判定する。
【0055】
|AD2|≧T2 ...(2)
ここで、AD2は、車体101の横方向の加速度である。すなわち、AD2は、加速度センサー115の検出値である。T2は、閾値である。車両100が旋回中、車体101には、横方向の加速度が発生する。このため、車両状態判定部2は、第1条件に加えて式(2)の第2条件を満たす場合、車両100が安定旋回状態であると判定する。すなわち、第2条件とは、車体101における横方向の加速度AD2の絶対値が閾値T2以上となる条件である。なお、車体101における横方向の加速度AD2の絶対値が閾値T2よりも大きくなる条件を、第2条件としてもよい。なお、車両状態判定部2は、第2条件を満たさない場合、車両100が旋回していないと判定する。
【0056】
また、本実施の形態では、車両100が安定旋回状態であることの検出の確実性をさらに向上させるため、車両状態判定部2は、車両100が安定旋回状態であると判定する条件として、第1条件及び第2条件に加えて、次式(3)で表される第3条件が成立するか否かも判定する。
【0057】
|AD1|≦T3 ...(3)
ここで、AD1は、車体101の上下方向の加速度である。すなわち、AD1は、加速度センサー114の検出値である。T3は、閾値である。車両100が安定旋回状態となっている場合、車体101の走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも小さくなり、車体101の上下動も小さくなるので、式(3)を満たす。なお、車体101における上下方向の加速度AD1の絶対値が閾値T3よりも小さくなる条件を、第3条件としてもよい。
【0058】
すなわち、本実施の形態に係る車両状態判定部2は、第1条件、第2条件及び第3条件の全てを満たしているとき、車両100の挙動が安定旋回状態であると判定する。一方、車両状態判定部2は、第2条件を満たしている状態において、第1条件及び第3条件のうちの少なくとも1つを満たさない場合、車両100の挙動が過渡旋回状態であると判定する。
【0059】
制御部3は、車両100が安定旋回状態であると車両状態判定部2が判定した際、アクチュエータ112に上述のように指令信号を出力してショックアブソーバー111の減衰力を調整し、車両100の定常円旋回特性を制御する機能部である。なお、本実施の形態では、制御部3は、車両100が過渡旋回状態であると車両状態判定部2が判定した際、アクチュエータ112に指令信号を出力してショックアブソーバー111の減衰力を調整し、車体101のロールを抑制する公知の制御を行う構成となっている。
【0060】
<制御装置の動作>
続いて、制御装置1の動作について説明する。
【0061】
図8は、本発明の実施の形態に係る制御装置の動作を示すフローチャートである。
制御の開始条件となった際、ステップS1において制御装置1は、図8に示す制御を開始する。制御の開始条件とは、例えば、車両100が旋回していると制御装置1の車両状態判定部2が判定したときである。ステップS2は、安定旋回状態判定ステップである。ステップS2において車両状態判定部2は、車両100の挙動が安定旋回状態であるか否かを判定する。車両100の挙動が安定旋回状態ではないと車両状態判定部2が判定した場合、制御装置1は、車両100の挙動が過渡旋回状態であるとして、ステップS3に進む。ステップS3は、ロール抑制制御ステップである。ステップS3において制御装置1の制御部3は、アクチュエータ112に指令信号を出力してショックアブソーバー111の減衰力を調整し、車体101のロールを抑制する公知の制御を行う。
【0062】
一方、車両100の挙動が安定旋回状態であると車両状態判定部2が判定した場合、制御装置1は、ステップS4に進む。ステップS4は、定常円旋回特性制御ステップである。ステップS4において制御部3は、アクチュエータ112に指令信号を出力してショックアブソーバー111の減衰力を調整し、車両100の定常円旋回特性を上述のように制御する。すなわち、ステップS4の定常円旋回特性制御ステップは、車両100が走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも小さい状態で旋回走行する安定旋回状態になったとき、アクチュエータ112に指令信号を出力してショックアブソーバー111の減衰力を調整し、車両100の定常円旋回特性を制御する制御ステップである。
【0063】
ステップS3及びステップS4の後のステップS5は、終了条件判定ステップである。ステップS5において制御装置1は、ステップS2~ステップS4で示した制御の終了条件が成立するか否か、について判定する。終了条件が成立しない場合、制御装置1は、ステップS2に戻り、ステップS2からステップS4の制御を繰り返す。一方、終了条件が成立する場合、制御装置1は、ステップS6に進み、図8に示す制御を終了する。なお、終了条件が成立する場合とは、例えば、車両100が旋回していないと制御装置1の車両状態判定部2が判定したときである。
【0064】
<制御装置の効果>
制御装置1は、車体101と車輪103との間に設けられた減衰力調整式のショックアブソーバー111を備えた車両100に搭載される。制御装置1は、ショックアブソーバー111の減衰力を調整するアクチュエータ112へ、ショックアブソーバー111の減衰力に対応する指令信号を出力するものである。また、制御装置1においては、車両100が、走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも小さい状態である安定旋回状態になったとき、アクチュエータ112に指令信号を出力してショックアブソーバー111の減衰力を調整し、車両100の定常円旋回特性を制御する構成となっている。
【0065】
車体と車輪との間に減衰力調整式のショックアブソーバーを備えた従来の車両においては、旋回時、定常円旋回特性が所望の定常円旋回特性と異なる状態であっても、定常円旋回特性を制御できなかった。しかしながら、上述のように、本実施の形態に係る制御装置1は、安定旋回状態において、車両100の定常円旋回特性を制御することができる。このため、本実施の形態に係る制御装置1は、旋回時に車両100の定常円旋回特性を制御することができる。
【0066】
<変形例>
図9は、本発明の実施の形態に係る車両の変形例を示す平面図である。また、図10は、本発明の実施の形態に係る制御装置の変形例を示すブロック図であり、図9に示す車両に搭載された制御装置を示すブロック図である。
上述のように、本実施の形態では、安定旋回状態を判定する際の車体101の走行姿勢に関連する物理量として、ロールレートを採用した。しかしながら、安定旋回状態を判定する物理量は、車体101のロールレートに限定されない。車体101の挙動が安定して車体101の走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも小さくなる安定旋回状態では、前輪及び後輪に発生するコーナーリングフォースが安定し、ヨーレートの単位時間当たりの変化量が小さくなる。換言すると、安定旋回状態では、ヨーレートの微分値が小さくなる。すなわち、安定旋回状態では、車両100のヨー方向の角加速度が小さくなる。このため、例えば、安定旋回状態を判定する際の車体101の走行姿勢に関連する物理量として、車体101のヨーレートの単位時間当たりの変化量を用いることができる。
【0067】
安定旋回状態を判定する際の物理量として車体101のヨーレートの単位時間当たりの変化量を用いる場合、車両100は、例えば、図9及び図10に示すように構成される。図9及び図10に示す車両100では、車両100の旋回時に、車体101のヨーレートの単位時間当たりの変化量が基準状態よりも小さくなっている安定ヨー状態を、安定旋回状態としている。このため、図9及び図10に示す車両100は、車体101のヨーレートを検出するヨーレート検出センサー116を備えている。ヨーレート検出センサー116は、車体101に設けられ、制御装置1と電気的に接続されている。なお、ヨーレート検出センサー116は、他のセンサーとは別々のセンサーであってもよいし、少なくとも1つの他のセンサーと1つのユニットとして構成されていてもよい。
【0068】
図9及び図10に示す車両100に搭載された制御装置1の車両状態判定部2には、ヨーレート検出センサー116の検出値が入力される構成となっている。そして、当該車両状態判定部2は、上述したロールレートRrを用いた第1条件に換えて、次式(4)で示すヨーレートの単位時間当たりの変化量Yrを用いた第1条件が成立するか否かを判定する。
【0069】
Yr≦T4 ...(4)
ここで、Yrは、車体101のヨーレートの単位時間当たりの変化量である。具体的には、Yrは、ヨーレート検出センサー116の検出値を微分した値である。T4は、閾値である。すなわち、車体101のヨーレートの単位時間当たりの変化量Yrが閾値T4以下となる場合、式(4)で示す第1条件が成立する。車両100が安定旋回状態となっている場合、車体101の走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも小さくなり、ヨーレートの単位時間当たりの変化量Yrも小さくなるので、式(4)で示す第1条件を満たすこととなる。ここで、車体101のヨーレートの単位時間当たりの変化量Yrを用いて安定旋回状態か否かを判定する第1条件を、車体101のヨーレートの単位時間当たりの変化量Yrが閾値T4よりも小さくなる条件としてもよい。すなわち、図9及び図10に示す車両100に搭載された制御装置1の車両状態判定部2は、車両100が安定旋回状態であると判定する条件として、車体101のヨーレートの単位時間当たりの変化量Yrが閾値T4以下又はよりも小さいという条件を備えている。
【0070】
このように、安定旋回状態を判定する際の物理量として車体101のヨーレートの単位時間当たりの変化量を用いても、安定旋回状態を判定することができ、安定旋回状態において車両100の定常円旋回特性を制御することができる。なお、図9及び図10に示す車両100に搭載された制御装置1の車両状態判定部2は、ロールレートRrを用いた第1条件と、ヨーレートの単位時間当たりの変化量Yrを用いた第1条件との双方を備えていてもよい。すなわち、図9及び図10に示す車両100に搭載された制御装置1の車両状態判定部2は、ロールレートRrを用いた第1条件と、ヨーレートの単位時間当たりの変化量Yrを用いた第1条件との双方が満たされたとき、車両100が安定旋回状態となっていると判定する構成であってもよい。
【0071】
図11は、本発明の実施の形態に係る車両の変形例を示す平面図である。また、図12は、本発明の実施の形態に係る制御装置の変形例を示すブロック図であり、図11に示す車両に搭載された制御装置を示すブロック図である。
ステアリングの操舵角を大きくすることにより、車両100は旋回を開始する。そして、路面120の大きな凹凸等のような車両100の挙動を乱す要素がない場合には、車両100が所望の旋回半径になると、ステアリングの操舵角の単位時間当たりの変化量であるステアリングの操舵角速度が小さくなる。その後、車両100は、安定旋回状態となる。このため、例えば、安定旋回状態を判定する際の車体101の走行姿勢に関連する物理量として、ステアリングの操舵角速度を用いることもできる。
【0072】
安定旋回状態を判定する際の物理量としてステアリングの操舵角速度を用いる場合、車両100は、例えば、図11及び図12に示すように構成される。図11及び図12に示す車両100は、車両100の旋回時に、ステアリングの操舵角速度が基準状態よりも小さくなっている安定ステアリング状態を、安定旋回状態としている。このため、図11及び図12に示す車両100は、ステアリングの操舵角速度の検出に用いられるセンサーを備えている。例えば、図11及び図12に示す車両100は、このようなセンサーとして、ステアリングの操舵角を検出する操舵角検出センサー117を備えている。操舵角検出センサー117は、車体101に設けられ、制御装置1と電気的に接続されている。すなわち、制御装置1は、操舵角検出センサー117の検出値を微分することにより、ステアリングの操舵角速度を得ることができる。なお、操舵角検出センサー117は、他のセンサーとは別々のセンサーであってもよいし、少なくとも1つの他のセンサーと1つのユニットとして構成されていてもよい。
【0073】
図11及び図12に示す車両100に搭載された制御装置1の車両状態判定部2には、操舵角検出センサー117の検出値が入力される構成となっている。そして、当該車両状態判定部2は、上述したロールレートRrを用いた第1条件及びヨーレートの単位時間当たりの変化量Yrを用いた第1条件に換えて、次式(5)で示すステアリングの操舵角速度Savを用いた第1条件が成立するか否かを判定する。
【0074】
Sav≦T5 ...(5)
ここで、Savは、ステアリングの操舵角速度である。換言すると、車両状態判定部2は、操舵角検出センサー117の検出値を微分することにより、ステアリングの操舵角速度を得ている。T5は、閾値である。すなわち、ステアリングの操舵角速度Savが閾値T5以下となる場合、式(5)で示す第1条件が成立する。車両100が安定旋回状態となっている場合、車体101の走行姿勢に関連する物理量の変化度合いが基準状態よりも小さくなり、ステアリングの操舵角速度Savも小さくなるので、式(5)で示す第1条件を満たすこととなる。ここで、ステアリングの操舵角速度Savを用いて安定旋回状態か否かを判定する第1条件を、ステアリングの操舵角速度Savが閾値T5よりも小さくなる条件としてもよい。すなわち、図11及び図12に示す車両100に搭載された制御装置1の車両状態判定部2は、車両100が安定旋回状態であると判定する条件として、ステアリングの操舵角速度Savが閾値T5以下又はよりも小さいという条件を備えている。
【0075】
このように、安定旋回状態を判定する際の物理量としてステアリングの操舵角速度を用いても、安定旋回状態を判定することができ、安定旋回状態において車両100の定常円旋回特性を制御することができる。なお、図11及び図12に示す車両100に搭載された制御装置1の車両状態判定部2は、ステアリングの操舵角速度Savを用いた第1条件に加え、ロールレートRrを用いた第1条件及びヨーレートの単位時間当たりの変化量Yrを用いた第1条件のうちの少なくとも一方を備えていてもよい。すなわち、図11及び図12に示す車両100に搭載された制御装置1の車両状態判定部2は、ステアリングの操舵角速度Savを用いた第1条件が満たされ、ロールレートRrを用いた第1条件及びヨーレートの単位時間当たりの変化量Yrを用いた第1条件のうちで備えている第1条件が満たされたとき、車両100が安定旋回状態となっていると判定する構成であってもよい。
【0076】
ここで、上述のように、車両100が安定旋回状態であることの検出の確実性を向上させるため、車両状態判定部2は、車両100が安定旋回状態であると判定する条件として、上述した第1条件のうちの少なくとも1つに加えて、車両100が旋回状態であるか否かを判定する条件を備えていてもよい。この際、操舵角検出センサー117を備えている車両100においては、操舵角検出センサー117の検出値を用いて、車両100が旋回状態であるか否かを判定してもよい。具体的には、車両状態判定部2は、ステアリングの操舵角が閾値以上又はよりも大きい場合、車両100が旋回状態であるか否かを判定することができる。
【0077】
上述した車両100では、前輪側ショックアブソーバー(前輪側ショックアブソーバー111FL,前輪側ショックアブソーバー111FR)及び後輪側ショックアブソーバー(後輪側ショックアブソーバー111RL,後輪側ショックアブソーバー111RR)の双方が、減衰力調整式のショックアブソーバー111となっていた。これに限らず、前輪側ショックアブソーバー及び後輪側ショックアブソーバーのうちの少なくとも一方が、減衰力調整式のショックアブソーバー111であればよい。このように構成しても、安定旋回状態における減衰力減算値と直進時の減衰力減算値とを異ならせることができる。このため、このように構成しても、安定旋回状態において車両100の定常円旋回特性を制御することができる。
【0078】
図13は、本発明の実施の形態に係る車両の変形例を示す平面図である。また、図14は、本発明の実施の形態に係る制御装置の変形例を示すブロック図であり、図13に示す車両に搭載された制御装置を示すブロック図である。
図13に示す変形例に係る車両100は、上述の車両100に対して、信号出力装置118が追加されている。なお、図13及び図14では、図1図8で示した車両100に信号出力装置118が追加された例を示している。信号出力装置118は、車両100の速度に対応する信号を出力するものである。信号出力装置118は、図13及び図14に示す制御装置1と電気的に接続されている。
【0079】
なお、従来、種々の構成によって、車両の速度が求められている。このため、車両100の速度に対応する信号として、従来より用いられている種々の信号を用いることができる。また、車両100の速度に対応する信号を出力する信号出力装置118も、車両の速度を求める際に従来より用いられている信号を出力する、種々の信号出力装置を用いることができる。例えば、従来、トランスミッションの変速段とエンジン回転数とに基づいて、車両の速度を求める構成が知られている。このような構成を車両100に用いる場合、信号出力装置118が出力する信号は、トランスミッションの変速段とエンジン回転数とに関する信号である。また例えば、従来、車輪速に基づいて、車両の速度を求める構成が知られている。このような構成を車両100に用いる場合、信号出力装置118が出力する信号は、車輪速に関する信号である。
【0080】
また、図13及び図14に示す制御装置1の車両状態判定部2には、信号出力装置118の検出値も入力される構成となっている。そして、図13及び図14に示す制御装置1の車両状態判定部2は、上述の条件に加えて、さらに後述の第4条件を満たしているとき、車両100が安定旋回状態であると判定する。
【0081】
V≧V1 ...(6)
第4条件は、式(6)で表される。ここで、Vは、車両100の速度である。V1は、規定速度である。車両状態判定部2は、式(6)を満たす場合、第4条件を満たすと判断する。すなわち、第4条件とは、車両100の速度Vが規定速度V1以上となる条件である。なお、車両100の速度Vが規定速度V1よりも大きくなる条件を、第4条件としてもよい。すなわち、車両状態判定部2は、車両100が安定旋回状態であると判定する条件として、車両100の速度Vが規定速度V1以上又はよりも大きいという条件を備えている。
【0082】
例えば、車両100が該車両100の横方向に傾斜する斜面に停車しているとする。このような場合、第1条件、第2条件及び第3条件が満たされる場合がある。このような場合、車両状態判定部2が第4条件を判断していないと、停車中の車両100において、上述の定常円旋回特性の制御が行われる。しかしながら、停車中の車両100においては、上述の定常円旋回特性の制御は必要ない。このため、車両状態判定部2が第4条件を判断することにより、停車中の車両100において上述の定常円旋回特性の制御が行われることを抑制できる。
【0083】
また、本実施の形態に係る車両100は、オフロード車両となっている。オフロード車両は、大きな岩をゆっくりと乗り越えながら進むロックセクションを通過する場合がある。このような場合、車両100が岩を乗り越える際に車両100が傾き、第1条件、第2条件及び第3条件が満たされる場合がある。このような場合、車両状態判定部2が第4条件を判断していないと、上述の定常円旋回特性の制御が行われる。しかしながら、ロックセクションを走行中の車両100においては、上述の定常円旋回特性の制御は必要ない。このため、車両状態判定部2が第4条件を判断することにより、ロックセクションを走行中の車両100において上述の定常円旋回特性の制御が行われることを抑制できる。
【0084】
本実施の形態に係る車両100は、オンロード車両であってもよい。オンロード車両が走行する路面の表面は、アスファルト等であり、オフロード車が走行する路面よりも滑らかである。しかしながら、アスファルト等の表面にも小さな凹凸が存在する。このため、オンロード車が安定旋回状態となる場合も、路面入力周波数Fは、比較的周波数の高い第1周波数領域21となる。したがって、車両100がオンロード車両であっても、安定旋回状態において車両100の定常円旋回特性を上述のように制御することができる。
【0085】
以上、本実施の形態に係る制御装置1について説明したが、本発明に係る制御装置は、本実施の形態の説明に限定されるものではなく、本実施の形態の一部のみが実施されてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 制御装置、2 車両状態判定部、3 制御部、21 第1周波数領域、22 第2周波数領域、100 車両、101 車体、102 バネ下、103 車輪、103FL 左前輪、103FR 右前輪、103RL 左後輪、103RR 右後輪、110(110FL,110FR,110RL,110RR) スプリング、111 ショックアブソーバー、111FL,111FR 前輪側ショックアブソーバー、111RL,111RR 後輪側ショックアブソーバー、112(112FL,112FR,112RL,112RR) アクチュエータ、113 ロールレート検出センサー、114 加速度センサー、115 加速度センサー、116 ヨーレート検出センサー、117 操舵角検出センサー、118 信号出力装置、120 路面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14