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  • 特許-プレストレスト鋼板の製造方法 図1
  • 特許-プレストレスト鋼板の製造方法 図2
  • 特許-プレストレスト鋼板の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】プレストレスト鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20240515BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20240515BHJP
   B21D 1/02 20060101ALI20240515BHJP
   E04C 2/08 20060101ALN20240515BHJP
   E04C 3/10 20060101ALN20240515BHJP
【FI】
B23K9/04 H
B23K31/00 F
B21D1/02 Z
E04C2/08 Z
E04C3/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022535132
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-16
(86)【国際出願番号】 KR2020018088
(87)【国際公開番号】W WO2021118274
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0164279
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジェ‐イク
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-181486(JP,A)
【文献】特開2018-030143(JP,A)
【文献】特開平2-104472(JP,A)
【文献】特開昭62-88521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材に溶接線が形成される領域に溝を加工する段階と、
前記母材の溝に溶接線を形成させる段階と、
前記溶接線が形成された母材を矯正圧延する段階と、を含み、
前記溶接線の平均間隔は、前記溶接線の幅の5倍以上であり、鋼板の幅の1/2倍以下であることを特徴とするプレストレスト鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記溝を加工する段階は、突起が形成されたロールを用いて圧延することを含むことを特徴とする請求項に記載のプレストレスト鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記溶接線の形成時に、SAW、FCAW、MAG溶接、TIG溶接、レーザ溶接のうちいずれか一つの溶接方法を利用することを特徴とする請求項に記載のプレストレスト鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記溶接線の形成時に、前記溶接線のビード高さは1~2mmであることを特徴とする請求項に記載のプレストレスト鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレスト鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度素材の開発に伴い、部材の厚さを減らした薄物材の需要が高まっている。しかし、薄物材を溶接した部材は溶接変形が大きく発生し、後工程によって矯正しなければならない状態となり、矯正時には、二次的な幾何形状の不連続が発生し、結局、部材の曲げ性能など構造性能を低下させるという問題点を有している。
【0003】
このような状況下で、鋼材が厚さ方向に対する水平方向の中立軸を基準にして上方または下方、すなわち、一方向にさらに高い強度及び圧縮応力分布を有するようにして、溶接変形の問題を解決し、片持ち梁のビーム(Beam)や両端支持梁のガーダーのような構造物の製作時に要求される曲げ性能の向上を満たすことができるように荷重抵抗力を増加させようとする技術が提案されている。
既にこのようなコンセプトの技術として、鉄筋コンクリート構造において鋼撚線を用いてプレストレス(Pre-Stress)という引張力を付与する方法が適用されているが、厚板または薄板などの鉄鋼素材に付与された事例は多くない。
【0004】
但し、一例として、特許文献1があり、これは高強度鋼材梁に鋼材を接合させて圧縮応力を付与する技術に関するものである。しかし、上記特許文献1に開示された技術は、追加的な鋼材の使用によりコストが増加するだけでなく、構造物の厚さを増加させるという欠点がある。
したがって、このような問題を解決することができ、且つ溶接変形の問題を解決し、曲げ性能を向上させることができる鋼材の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国登録特許第0473454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、曲げ性能が向上したプレストレスト鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプレストレスト鋼板は、母材と、上記母材上に形成された複数の溶接線を有し、上記溶接線の平均間隔は上記溶接線の幅の5倍以上であり、鋼板の幅の1/2倍以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明のプレストレスト鋼板の製造方法は、母材に溶接線が形成される領域に溝を加工する段階と、上記母材の溝に溶接線を形成させる段階と、上記溶接線が形成された母材を矯正圧延する段階と、を含み、上記溶接線の平均間隔は上記溶接線の幅の5倍以上であり、鋼板の幅の1/2倍以下であるをことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、曲げ性能が向上したプレストレスト鋼板を提供することができ、これにより、ガーダー、ビーム等の構造部材に適用させる場合、構造物の曲げ性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るプレストレスト鋼板の模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係るプレストレスト鋼板及び一般鋼板における荷重印加時のたわみ量を比較するための模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る溶接線が形成された母材の矯正圧延前後の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係るプレストレスト鋼板の模式図である。以下、図1を参照して本発明の一実施形態に係るプレストレスト鋼板について説明する。
本発明の一実施形態に係るプレストレスト鋼板は、母材10及び上記母材10上に形成された複数の溶接線20を有することを特徴とする。このとき、上記溶接線は、上記母材より高い強度を有することが好ましいが、これによって、図1に示したとおり、溶接材の収縮により発生する引張残留応力に相当する圧縮残留応力を母材に付与すると同時に、鋼板自体の強度も高めることで、溶接変形及び鋼板のたわみのような荷重に対する変形抵抗力を向上させることができる。
本発明では、上記母材の種類について特に限定しておらず、当該技術分野において構造物等に適用される溶接可能な全ての鋼材を用いることができ、例えば、一般構造用鋼、船級用炭素鋼、船級用SUS、建築構造用炭素鋼、Built-UP Hビーム用炭素鋼などを用いることができる。
【0012】
本発明では、上記母材の厚さについて特に限定しないが、例えば、上記母材は6~60mmの厚さを有することができる。上記母材の厚さが6mm未満の場合には、溶接時に溶接変形が大きく発生し、溶接後のローラ矯正による変形矯正時に応力がすべて失われる虞がある。これに対し、60mmを超える場合には、溶接回数と母材の拘束によって工程中に割れが発生する可能性が大きくなる。したがって、上記母材の厚さは6~60mmの範囲を有することが好ましい。上記母材の厚さの下限は8mmであることがより好ましく、10mmであることがさらに好ましく、12mmであることが最も好ましい。上記母材の厚さの上限は40mmであることがより好ましく、30mmであることがさらに好ましく、25mmであることが最も好ましい。
【0013】
上記溶接線の平均間隔は、上記溶接線の幅の5倍以上であり、鋼板の幅の1/2倍以下であることが好ましい。万一、上記条件を満たさない場合には、溶接線による圧縮残留応力を母材に十分に付与することができず、鋼板のたわみ抵抗力が低下する虞が高くなることがある。
上記溶接線の数は2×(L/W)個以上であることが好ましい。ここで、上記Lは鋼板の長さであり、Wは鋼板の幅を意味する。上記溶接線の数が2×(L/W)個未満の場合には、溶接線による圧縮残留応力を母材に十分に付与することができず、鋼板のたわみが増加する可能性が高くなることがある。なお、上記溶接線は、幅方向の材質偏差を低減するために、鋼板の幅を基準にして左右対称となるように形成されることが好ましい。例えば、上記溶接線の数が偶数である場合には、鋼板の幅方向を基準にして鋼板の中心を中心に左右対称となるようにすることが好ましく、上記溶接線の数が奇数である場合には、鋼板の幅方向を基準にして中央に溶接線が形成されるようにした後、この溶接線を基準にして左右対称となるようにすることが好ましい。
【0014】
上記溶接線は、上記母材の表面から最大1/4tまでの厚さを有することが好ましい。このとき、上記tは鋼板の厚さを意味する。このように、上記溶接線の厚さを一定レベルに確保することにより、鋼板の強度向上及び鋼板のたわみ抑制を図ることができる。上記溶接線の厚さが母材の表面から1/4tを超える場合には、厚さ方向の温度勾配が小さくなり、これは残留応力の生成を低下させる虞があり、溶込み深さが深くなると、溶接変形がさらに大きく発生する可能性があり、厚板における溶接変形を圧延によって矯正するには高いコストが発生する虞がある。
本発明では、上記溶接線の形態について特に限定しておらず、例えば、直線形状、曲線形状、または屈曲形状を有してもよい。
【0015】
図2は、本発明の一実施形態に係るプレストレスト鋼板及び一般鋼板における荷重印加時のたわみ量を比較するための模式図である。図2に示したとおり、本発明のプレストレスト鋼板は、一般鋼板に比べて溶接変形が減少するだけでなく、曲げ性能が向上して荷重印加時のたわみ量が少なくすることができる。これにより、本発明のプレストレスト鋼板は、優れた曲げが要求されるガーダー、ビーム等の構造部材に好ましく適用することができる。
以下、本発明の一実施形態に係るプレストレスト鋼板の製造方法について説明する。
【0016】
まず、母材に溶接線が形成される領域に溝を加工する。上記溝加工は様々な方法を利用することができるが、例えば、突起が形成されたロールを用いて圧延する方法を利用することができる。上記突起が形成されたロールを用いて圧延する場合、連続的な工程が可能であるという利点がある。一方、本発明では、上記溝の形態については特に限定しておらず、上記溝は、溶接線が形成できるように溶接可能な形態を有するだけでよい。
その後、上記母材の溝に溶接線を形成させる。本発明では、上記溶接線形成のための溶接方法について特に限定しておらず、例えば、SAW、FCAW、MAG溶接、TIG溶接、レーザ溶接のうちいずれか一つの溶接方法を採用することができる。このとき、溶接材料を用いることができるSAW、FCAW、MAG溶接等の方法を利用する場合、上記溶接材料は円形の丸棒またはワイヤの形態を有してもよく、ストリップ(strip)形態を有してもよい。また、上記溶接は、1パス(pass)または複数のパスを介して行われるか、或いは複数の溶接材料で並列溶接する方法などにより行われることができる。
【0017】
上記溶接線の形成時に、上記溶接線のビード高さは1~2mmであることが好ましいが、上記溶接線のビード高さが1mm未満の場合には、アンダーフィル(underfill)のような溶接欠陥が発生する可能性があり、2mmを超える場合には、応力集中により疲労割れによる破断が発生する虞がある。
一方、上記溶接線を形成した後には、溶接ビードを除去するために、表面を研磨する段階をさらに含むことができる。
【0018】
その後、上記溶接線が形成された母材を矯正圧延する。図3は、溶接線が形成された母材の矯正圧延前後の様子を示す模式図である。図3に示したとおり、矯正圧延前には、溶接線が形成された母材は、圧縮応力によって鋼板の両端が、溶接線が形成された方向に曲がる。これにより、本発明では、矯正圧延によって、上記曲げを矯正して鋼板の平坦度を向上させることができる。このとき、上記矯正圧延は圧下力を付与するものではなく、鋼板形状が平坦化する程度に行われることが好ましい。万一、圧下力が付与される場合、鋼板に付与された圧縮応力が低減し、本発明が得ようとする効果が減少する虞がある。
【符号の説明】
【0019】
10:母材
20:溶接線
NA:中立軸
図1
図2
図3