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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】高強度錫メッキ原板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240515BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20240515BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/28
C21D9/46 K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022538251
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 KR2020018453
(87)【国際公開番号】W WO2021125789
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0171866
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジ-イク
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-327702(JP,A)
【文献】特開2000-160289(JP,A)
【文献】特開2002-294399(JP,A)
【文献】特公昭50-010688(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46- 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C)0.03~0.09%、マンガン(Mn)0.2~0.4%、アルミニウム(Al)0.01~0.06%、クロム(Cr)0.15~0.45%、銅(Cu)0.05~0.25%、チタニウム(Ti)0.03~0.08%、シリコン(Si)0.03%以下(0%は除外)、リン(P)0.01~0.03%、硫黄(S)0.001~0.015%、および窒素(N)0.003~0.009%を含み、残部鉄(Fe)および不可避不純物からなり
下記式1および式2を満足し、
降伏強度が586641Paである、錫メッキ原板。
[式1]0.135≦([Ti]*[Al]/[N])+([Ti]/[C])≦0.35
(式1において、[Ti]、[Al]、[N]、および[C]はそれぞれメッキ原板内のTi、Al、N、およびCの含量(重量%)を各原子量で割った値を意味する。)
[式2]0.020≦[Mn]*[Cu]/[S]≦0.095
(式2において、[Mn]、[Cu]、および[S]はそれぞれメッキ原板内のMn、Cu、およびSの含量(重量%)を各原子量で割った値を意味する。)
【請求項2】
前記メッキ原板は表面硬度(Hr30T)が74~80である、請求項1に記載の錫メッキ原板。
【請求項3】
前記メッキ原板を240℃で処理したティンメルティングおよび180~220℃でベーキング処理した後の降伏点延伸率が1.0%未満である、請求項1または請求項2に記載の錫メッキ原板。
【請求項4】
前記メッキ原板はブランク直径に対する成形ダイ(Die)直径比で示すドローイング比(= ブランク直径*100/ダイ直径)、1.6で成形した成形カップの方向別高さを測定して最大カップ高さ(H max )と最小カップ高さ(H min )の差を最大カップ高さで割った値の百分率、(H max -H min )/(H max )*100である耳発生率が1.5%未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の錫メッキ原板。
【請求項5】
前記メッキ原板は内圧強度が120psi.以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の錫メッキ原板。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載された錫メッキ原板および前記錫メッキ原板の一面または両面に位置する錫メッキ層を含む、錫メッキ鋼板。
【請求項7】
重量%で、炭素(C)0.03~0.09%、マンガン(Mn)0.2~0.4%、アルミニウム(Al)0.01~0.06%、クロム(Cr)0.15~0.45%、銅(Cu)0.05~0.25、およびチタニウム(Ti)0.03~0.08%を含み、残部鉄(Fe)および不可避不純物からなるスラブを製造する段階;
前記スラブを加熱する段階;
前記加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;
前記熱延鋼板を巻き取る段階;
前記巻取られた熱延鋼板を1次冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;
前記冷延鋼板を焼鈍する段階;および
前記焼鈍された冷延鋼板を5~20%の圧下率で2次冷間圧延する段階;
を含
前記巻取られた熱延鋼板を1次冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;で、圧下率は80~95%であり、
下記式3を満足する、錫メッキ原板の製造方法。
[式3]5.5≦([Cr]*1.2[Cu]/[C])*(CR -15)*CR /(CR +CR )≦17
(式3中、[Cr]、[Cu]、および[C]はそれぞれメッキ原板内のCr、Cu、およびCの含量(重量%)を意味し、CR a は1次冷間圧延圧下率(%)、CR b は2次冷間圧延圧下率(%)を意味する。)
【請求項8】
前記加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;の仕上げ熱間圧延温度は860~930℃である、請求項に記載の錫メッキ原板の製造方法。
【請求項9】
前記熱延鋼板を巻き取る段階;の巻取温度は560~700℃である、請求項またはに記載の錫メッキ原板の製造方法。
【請求項10】
前記冷延鋼板を焼鈍する段階;の焼鈍温度は640~760℃である、請求項のいずれか一項に記載の錫メッキ原板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高強度錫メッキ原板およびその製造方法に関するものである。より具体的に、飲料瓶などの蓋(別名、王冠)などに使用される加工性および耐圧特性に優れた高強度錫メッキ原板およびその製造方法に関するものである。さらに具体的に、鋼成分および製造プロセスなどを最適化して極薄の素材に対してドローイングのような加工性と内容物に対する耐圧特性および形状凍結性に優れた高強度錫メッキ原板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面処理メッキ原板には耐食性を付与するかまたは美麗な表面特性を得るためにその用途に適するように多様なメッキが行われる。このようにメッキされた鋼板を表面処理メッキ鋼板と称し、その例として錫メッキ鋼板、亜鉛メッキ鋼板、亜鉛-ニッケルメッキ鋼板などがある。このように表面処理メッキ原板はメッキの種類によって多様に分類されるが、基本的に要求される成形性、耐圧性、形状凍結性などの特性が確保されなければならない。
【0003】
一般に、缶(Can)用素材として使用される鉄鋼素材である錫メッキ原板(BP、Blackplate)に錫メッキした錫メッキ鋼板(TP、Tinplate)は大部分素材厚さが薄いので、ロックウェル表面硬度であるHr30T(測定荷重30kg、補助荷重3kg適用)で測定される調質度(Temper Grade)によって評価され、通常1次圧延法によって製造される調質度T1(Hr30T 49±3)、T2(Hr30T 53±3)およびT3(Hr30T 57±3)までの軟質錫ブリキ板と、調質度T4(Hr30T 61±3)、T5(Hr30T 65±3)およびT6(Hr30T 70±3)までの硬質ブリキ板に区分することができる。また、素材の強度を上げる目的で焼鈍後2次圧延などを通じて硬度を上昇させた2次圧延材であるDR7(Hr30T 71±3)、DR8(Hr30T 73±3)、DR9(Hr30T 76±3)およびDR10(Hr30T 80±3)に分けることができる。
【0004】
錫をメッキしていない状態の錫メッキ原板もこれに準じて区分されている。1回圧延法によって製造されるブリキ原板のうち、調質度T3以下の素材は主に加工性が要求される部位に使用され、反面、調質度T4以上の素材は缶の本体、蓋(EndおよびBottom)などのように加工性よりは内容物による内圧を耐えることができる性質が要求される部位に使用されている。特に、飲料瓶の蓋のような用途(別名、Crown cap、王冠と称する)には耐圧特性と加工性が同時に要求される2次圧延ブリキ原板が広く適用されている。
【0005】
錫メッキ原板を用いて内容物を貯蔵するための缶を作るためには原板の表面に錫(Tin、Sn)などを電気メッキして耐食性を付与し、一定の大きさに切断した後、円形または角形に加工して使用する。容器を加工する方法としては、容器が蓋と本体(Body)の二部分から構成される2ピース(Piece)缶のように溶接せずに加工する方法と、缶の構成が本体、上蓋(End)および下蓋(Bottom)の三部分からなる3ピース缶のように溶接または接着によってボディーを締結する方法に分けられる。
【0006】
溶接のない製缶法は、ブリキ板をドローイング(Drawing)するかドローイング後にアイアニング(Ironing)して容器を加工する方法を経る。一方、溶接を実施する製缶法は、一般に、上蓋と下蓋はそれぞれ加工して付着し、本体は原板から切断された素材をワイヤーシーム(Wire Seam)溶接のような抵抗溶接法によって円形に接合する方法を経る。容器の用途によって円形に加工される缶は拡缶(Expanding)という加工工程によって2次加工を受けることもある。
【0007】
一般に、耐圧特性が大きく要求される蓋素材である王冠のような部位は、素材をドローイング加工後、密閉性を向上させるためにドローイング先端部をシワ形状に成形する。このとき、加工性を確保しなければ、シワ形状が不均一になって形状不良が発生し、この部分で内容物の密封力が低下して内容物が流出される問題が発生する。特に、ビールや炭酸飲料のように炭酸ガスによって瓶の内圧が高まる場合にも王冠が漏れを発生させずに密封性を維持することが必要である。王冠用鋼板の加工性が低ければ、この密封性を示す特性である内圧強度が不充分であって蓋が蓋としての役割を果たすことができなくなる。また、シワ形状が均一であっても鋼板の強度が低ければ根本的に耐圧性を確保することができない。
【0008】
したがって、これら用途に使用される素材の場合、加工性だけでなく耐圧特性、形状凍結性に優れなければならない。耐圧特性および形状凍結性を確保しなければ、密封力を確保することができないだけでなく、内容物の流出が発生して容器として使用できなくなる。したがって、王冠などに使用される錫メッキ鋼板は耐圧特性および形状凍結性を改善する必要があるだけでなく、激しい加工を受けるので加工性も同時に向上させなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高強度錫メッキ原板およびその製造方法を提供しようとする。より具体的に、飲料瓶などの蓋(別名、王冠)などに使用される加工性および耐圧特性に優れた高強度錫メッキ原板およびその製造方法を提供しようとする。さらに具体的に、鋼成分および製造プロセスなどを最適化して極薄の素材に対してドローイングのような加工性と内容物に対する耐圧特性および形状凍結性に優れた高強度錫メッキ原板およびその製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態による錫メッキ原板は、重量%で、炭素(C)0.03~0.09%、マンガン(Mn)0.2~0.4%、アルミニウム(Al)0.01~0.06%、クロム(Cr)0.15~0.45%、銅(Cu)0.05~0.25%、チタニウム(Ti)0.03~0.08%、残部鉄(Fe)および不可避不純物を含み、降伏強度が570~700MPaである。
【0011】
錫メッキ原板は、シリコン(Si)0.03%以下(0%は除外)、リン(P)0.01~0.03%、硫黄(S)0.001~0.015%、および窒素(N)0.003~0.009%をさらに含むことができる。
【0012】
錫メッキ原板は、下記式1を満足することができる。
【0013】
[式1]0.135≦([Ti]*[Al]/[N])+([Ti]/[C])≦0.35
【0014】
このとき、式1において、[Ti]、[Al]、[N]、および[C]はそれぞれメッキ原板内のTi、Al、N、およびCの含量(重量%)を各原子量で割った値を意味する。
【0015】
錫メッキ原板は、下記式2を満足することができる。
【0016】
[式2]0.020≦[Mn]*[Cu]/[S]≦0.095
【0017】
このとき、式2において、[Mn]、[Cu]、および[S]はそれぞれメッキ原板内のMn、Cu、およびSの含量(重量%)を各原子量で割った値を意味する。
【0018】
錫メッキ原板は表面硬度(Hr30T)が74~80であってもよい。
【0019】
錫メッキ原板をティンメルティングおよびベーキング処理した後の降伏点延伸率が1.0%未満であってもよい。
【0020】
錫メッキ原板は耳発生率が1.5%未満であってもよい。
【0021】
錫メッキ原板は内圧強度が120psi.以上であってもよい。
【0022】
本発明の一実施形態による錫メッキ鋼板は、前記錫メッキ原板および前記錫メッキ原板の一面または両面に位置する錫メッキ層を含む。
【0023】
本発明の一実施形態による錫メッキ原板の製造方法は、重量%で、炭素(C)0.03~0.09%、マンガン(Mn)0.2~0.4%、アルミニウム(Al)0.01~0.06%、クロム(Cr)0.15~0.45%、銅(Cu)0.05~0.25%、チタニウム(Ti)0.03~0.08%、残部鉄(Fe)および不可避不純物を含むスラブを製造する段階;スラブを加熱する段階;加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;熱延鋼板を巻き取る段階;巻取られた熱延鋼板を1次冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;冷延鋼板を焼鈍する段階;および焼鈍された冷延鋼板を5~20%の圧下率で2次冷間圧延する段階;を含む。
【0024】
巻取られた熱延鋼板を1次冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;で、圧下率は80~95%であってもよい。
【0025】
錫メッキ原板の製造方法は、下記式3を満足することができる。
【0026】
[式3]5.5≦([Cr]*1.2[Cu]/[C])*(CR-15)*CR/(CR+CR)≦17
【0027】
このとき、式3中、[Cr]、[Cu]、および[C]はそれぞれメッキ原板内のCr、Cu、およびCの含量(重量%)を意味し、CRは1次冷間圧延圧下率(%)、CRは2次冷間圧延圧下率(%)を意味する。
【0028】
加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;の仕上げ熱間圧延温度は860~930℃であってもよい。
【0029】
熱延鋼板を巻き取る段階;の巻取温度は560~700℃であってもよい。
【0030】
冷延鋼板を焼鈍する段階;の焼鈍温度は640~760℃であってもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明による錫メッキ原板は、適切な成分制御および製造プロセスの最適化を通じて強度特性、耐圧特性、形状凍結性および加工性に優れる。
【0032】
本発明による錫メッキ原板は、適切な成分制御および製造プロセスの最適化を通じて生産性を向上させるだけでなく、合金元素制御を通じてビール瓶、焼酎瓶、炭酸飲料瓶のような容器の蓋などに使用される王冠用鋼板として使用することができる。
【0033】
本発明の一実施形態による錫メッキ原板は、低炭素鋼ベースの鋼を活用してクロム(Cr)、チタニウム(Ti)などの添加量および合金元素の比を制御し1、2次冷間圧下率の関係を最適化することによって強度、形状凍結性、耳発生率、加工性および耐圧特性に優れる。
【0034】
本発明の一実施形態による錫メッキ原板は、ドローイング後、締結力を確保することが必要な用途のように耳発生性と耐圧特性が要求される部位に適用時、優れた物性を示すだけでなく、加工時加工欠陥を抑制することができる。
【0035】
本発明の一実施形態による錫メッキ原板は、2次圧延用原板の素材強度を確保するために極低炭素鋼の代わりに低炭素鋼を基本にして必須の合金元素の添加が要求されるが、過量含まれる場合、偏析現象によって加工性を劣化させるマンガン(Mn)添加量を減らす代わりに、銅(Cu)、クロム(Cr)を一定量添加して安定した材質を確保することができる。
【0036】
本発明の一実施形態による錫メッキ原板は、粗大な析出物として存在してフェライト再結晶を抑制しないながら固溶窒素、固溶炭素などを固着するチタニウム(Ti)を添加して耐時効性および極薄材の通板性を確保することができる。
【0037】
本発明の一実施形態による錫メッキ原板は、加工時、素材の破断防止および耐圧特性確保という相反的な特性を改善するために、1、2次圧下率の組み合わせを最適化することによって適正強度および加工性の組み合わせを確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書で、第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及することができる。
【0039】
本明細書で、ある部分がある構成要素を“含む”というとき、これは特に反対になる記載がない限り他の構成要素を除くのではなく他の構成要素をさらに含むことができるのを意味する。
【0040】
本明細書で、使用される専門用語はただ特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
【0041】
本明細書で、マーカッシュ形式の表現に含まれている“これらの組み合わせ”の用語はマーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群より選択される一つ以上の混合または組み合わせを意味するものであって、前記構成要素からなる群より選択される一つ以上を含むことを意味する。
【0042】
本明細書で、ある部分が他の部分“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあるか、その間に他の部分が伴われることがある。対照的に、ある部分が他の部分“の真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
【0043】
異なって定義しなかったが、ここに使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的または非常に公式的な意味に解釈されない。
【0044】
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0045】
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0046】
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々の異なる形態に実現することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0047】
本発明の一実施形態による錫メッキ原板は、重量%で、炭素(C)0.03~0.09%、マンガン(Mn)0.2~0.4%、アルミニウム(Al)0.01~0.06%、クロム(Cr)0.15~0.45%、銅(Cu)0.05~0.25%、チタニウム(Ti)0.03~0.08%、残部鉄(Fe)および不可避不純物を含み、降伏強度が570~700MPaである。
【0048】
錫メッキ原板は、シリコン(Si)0.03%以下(0%は除外)、リン(P)0.01~0.03%、硫黄(S)0.001~0.015%、および窒素(N)0.003~0.009%をさらに含むことができる。
【0049】
錫メッキ原板は、下記式1を満足することができる。
【0050】
[式1]0.135≦([Ti]*[Al]/[N])+([Ti]/[C])≦0.35
【0051】
このとき、式1において、[Ti]、[Al]、[N]、および[C]はそれぞれメッキ原板内のTi、Al、N、およびCの含量(重量%)を各原子量で割った値を意味する。
【0052】
錫メッキ原板は、下記式2を満足することができる。
【0053】
[式2]0.020≦[Mn]*[Cu]/[S]≦0.095
【0054】
このとき、式2において、[Mn]、[Cu]、および[S]はそれぞれメッキ原板内のMn、Cu、およびSの含量(重量%)を各原子量で割った値を意味する。
【0055】
以下、錫メッキ原板の成分および式1、および式2の限定の理由を説明する。
【0056】
炭素(C):0.03~0.09重量%
【0057】
炭素(C)は鋼の強度向上のために添加される元素であり、C含量が過度に少なければ、以下では前述の効果が不充分であって目標にする耐圧特性を得ることができなかった。反面、C含量が過度に多ければ、表面欠陥が増加するだけでなく、過飽和固溶炭素が増加して素材の降伏点延伸率が高くて缶の加工時ストレッチャストレインのような加工欠陥発生の原因になった。また、ドローイング加工性を悪くする要因として作用したので、C含量は0.03~0.09%であってもよい。さらに具体的に、0.035~0.085%であってもよい。
【0058】
マンガン(Mn):0.2~0.4重量%
【0059】
マンガン(Mn)の場合、固溶強化元素であって、鋼の強度を高め熱間加工性を向上させる役割を果たす。Mn含量が過度に少ない場合には、赤熱脆性の発生要因になりオーステナイトの安定化に寄与しにくいことがある。反面、Mn含量が過度に多い場合には、多量のマンガン-スルフィド(MnS)析出物を形成して鋼の軟性および加工性が低下し中心偏析の要因として作用するだけでなく圧延性を低下させるという問題点がある。したがって、Mn含量は0.2~0.4%であってもよい。さらに具体的に、Mn含量は0.22~0.38%であってもよい。
【0060】
アルミニウム(Al):0.01~0.06重量%
【0061】
アルミニウム(Al)はアルミニウムキルド鋼で脱酸剤および時効による材質劣化を防止する目的で添加される元素であって、軟性確保にも効果的であり、このような効果は極低温のとき、より顕著に現れる。反面、Al含量が過度に多い場合には、アルミニウム-オキシド(Al)のような表面介在物が急増して熱延材の表面特性を悪化させ加工性が低下するという問題点が発生することがある。したがって、Al含量は0.01~0.06%であってもよい。さらに具体的に、Al含量は0.015~0.055%であってもよい。
【0062】
クロム(Cr):0.15~0.45重量%
【0063】
クロム(Cr)は固溶強化のために添加される元素であって、過度に少ない場合には強化効果を得るのが困難であり、過度に多く添加されれば硬度上昇側面からは有利であるが、耐食性を劣化させ高価のクロム使用により製造原価が上昇するという問題点があった。したがって、Cr含量は0.15~0.45%であってもよい。さらに具体的に、Cr含量は0.18~0.43%であってもよい。
【0064】
銅(Cu):0.05~0.25重量%
【0065】
銅(Cu)は耐食性および固溶強化のために添加される元素であって、過度に少なく添加される場合には目標とする効果を得るのが困難であり、過度に多く添加されれば連鋳時、表面欠陥を誘発し、高温で低温亀裂の要因として作用するという問題点があった。したがって、Cu含量は0.05~0.25%であってもよい。さらに具体的に、Cu含量は0.06~0.23%であってもよい。
【0066】
チタニウム(Ti):0.03~0.08重量%
【0067】
特殊元素無添加低炭素鋼は鋼内に固溶状態で存在する元素によってメッキ工程のリフローおよび製缶工程の焼付け処理過程で歪時効を起こして、缶加工時、ストレッチャストレインまたはフルーティングのような欠陥が発生するという問題点がある。これを防止するために炭窒化物形成元素として添加されたチタニウム(Ti)は添加量を制御することによって比較的に粗大な析出物として存在して再結晶を大きく抑制せず、また、鋼内の窒素を固着することによって加工性向上および耐圧特性改善を促進させる役割を果たす。このためには、Tiが0.03%以上添加されなければならず、過度に多く添加すれば、極薄材の焼鈍通板性を悪化させるという問題点があった。したがって、Ti含量は0.03~0.08%であってもよい。さらに具体的に、Ti含量は0.032~0.076%であってもよい。
【0068】
シリコン(Si):0.03重量%以下(0%は除外)
【0069】
シリコン(Si)は酸素などと結合して鋼板の表面に酸化層を形成して表面特性を悪くし耐食性を低下させる要因として作用するだけでなく、メッキ密着性を低下させる要因として作用する。したがって、Si含量0.03%以下に限定する。さらに具体的に、Si含量は0.001~0.028%であってもよい。
【0070】
リン(P):0.01~0.03重量%
【0071】
リン(P)は鋼中固溶元素として存在しながら固溶強化を起こして比較的に低廉に強度および硬度を向上させる効果的な元素である。Pの含量が過度に少なければ剛性維持が難しくて耐圧特性確保が困難であり、反面、P量が過度に多ければ鋳造時、中心偏析を起こし軟性が低下して加工性を劣位するようにすることがある。したがって、P含量は0.01~0.03%であってもよい。さらに具体的に、P含量は0.013~0.028%であってもよい。
【0072】
硫黄(S):0.001~0.015重量%
【0073】
硫黄(S)は鋼中マンガンと結合して非金属介在物を形成し赤熱脆性(red shortness)の要因になり、また、チタニウムとも結合して析出物を形成するので、硫黄含量を厳格に管理しなければ、高価のマンガンおよびチタニウム添加量の変化が大きくなるようになって材質の偏差が発生するだけでなく、製造原価上昇の要因として作用するので、硫黄含量の範囲を一定部門低く管理することが必要である。また、S含量が高い場合、鋼板の母材靭性を低下させるという問題点が発生することがあるので、S含量は0.001~0.015%であってもよい。さらに具体的に、S量は0.003~0.014%であってもよい。
【0074】
窒素(N):0.003~0.009重量%
【0075】
窒素(N)は、鋼内部に固溶状態で存在しながら硬度を上昇させるなど材質強化に有効な元素である。Nが過度に少なく含まれれば、目標剛性を確保するのが難しくて目標とする耐圧特性を得ることができなかった。反面、N含量が過度に多く含まれる場合には、圧延性が低下するだけでなく耐時効性が急激に悪化して加工性を劣化させるだけでなく、チタニウムなどと反応して析出物を形成することによって焼鈍温度上昇の要因として作用することができる。したがって、N量は0.003~0.009%であってもよい。さらに具体的に、N含量は0.0034~0.0086%であってもよい。
【0076】
一方、本発明の錫メッキ原板は式1の値([Ti]*[Al]/[N])+([Ti]/[C])が0.135~0.35を満足することができ、式2の値[Mn]*[Cu]/[S]が0.020~0.095であるのを満足することができる。ここで、[Ti]、[Al]、[N]、[C]、[Mn]、[Cu]、および[S]はそれぞれTi、Al、N、C、Mn、Cu、およびSの含量であって、重量%をそれぞれの原子量で割った値を示す。
【0077】
[式1]0.135≦([Ti]*[Al]/[N])+([Ti]/[C])≦0.35
【0078】
一方、炭窒化物形成元素として作用するチタニウムの場合、硫黄以外にも炭化物、窒化物などを形成するので、炭素、窒素の量と共にチタニウム添加量を制御してこそ加工性および溶接性などを確保することができた。溶接性および加工性に優れた錫メッキ原板を安定的に生産するためには、([Ti]*[Al]/[N])+([Ti]/[C])原子比を制御するのが必要なことがある。([Ti]*[Al]/[N])+([Ti]/[C])原子比が過度に低ければ、ティンメルティングおよびベーキング工程で時効形状が発生して加工性を顕著に悪化させる要因として作用した。反面、([Ti]*[Al]/[N])+([Ti]/[C])原子比が過度に高ければ、再結晶現象が顕著に抑制されて極薄材の熱処理作業性が悪くなってヒートバックルのような致命的な欠陥に連結されることもあった。したがって、([Ti]*[Al]/[N])+([Ti]/[C])原子比は0.135~0.35であってもよい。さらに具体的に、([Ti]*[Al]/[N])+([Ti]/[C])原子比は0.137~0.348であってもよい。
【0079】
[式2]0.020≦[Mn]*[Cu]/[S]≦0.095
【0080】
前記のように含有される元素のうちのマンガンと銅に対する硫黄の原子比[Mn]*[Cu]/[S]が0.020~0.095範囲になるように含量を調節することができる。マンガンと銅に対する硫黄の原子比が過度に小さい場合、赤熱脆性が発生して加工性を悪くし、過度に大きい場合、偏析および表面欠陥が増加するという問題点を示した。したがって、[Mn]*[Cu]/[S]原子比は0.020~0.095であってもよい。さらに具体的に、[Mn]*[Cu]/[S]原子比は0.023~0.093であってもよい。
【0081】
本発明の一実施形態による高強度錫メッキ原板は、表面硬度特性に優れる。より具体的に、表面硬度(Hr30T)が74~80であってもよい。王冠用素材の場合、メッキおよび印刷後ドローイングダイ(Die)を通じてカップ成形され、締結のために加工部先端をシワ形態に加工する。このとき、素材の材質が不均一であれば、加工された先端部の巻き程度に差があって内容物の密封性に問題が発生して内容物流出の要因になることがある。したがって、素材の表面硬度値が一定の範囲を有することが要求される。このような物性を満足することによって目標とする王冠用高強度錫メッキ原板として好ましく適用することができる。表面硬度が過度に低ければ、加工後締結部の耐圧特性が確保されなくて内容物流出問題が発生した。反面、表面硬度が過度に高ければ、ドローイング加工がよく行われないことによって王冠部の形態を維持するのに問題があった。さらに具体的に、表面硬度が75.5~79.5であってもよい。
【0082】
また、本発明の一実施形態による錫メッキ原板は、ティンメルティングおよびベーキング後形状凍結性特性に優れる。成形された王冠の耐圧特性および形状凍結性を確保するためには素材の降伏強度を適切な範囲に管理することが必要であり、具体的に、降伏強度は570~700MPaである。降伏強度が過度に低ければ、加工後加工部の形状凍結性が悪くなるだけでなく、締結部の耐圧特性が確保されない問題が発生した。反面、降伏強度が過度に高ければ、ドローイング加工がよく行われないことにより王冠部の形態を維持するのに問題があるだけでなく、加工金型の寿命が短くなる問題が発生した。より具体的に、降伏強度が570~670MPaであってもよい。さらに具体的に、降伏強度が580~660MPaであってもよい。
【0083】
また、本発明の一実施形態による錫メッキ原板は、ティンメルティングおよびベーキング後の加工性に優れる。具体的に、錫メッキ工程で行われる約240℃でのティンメルティング処理および製缶工程で有機物乾燥のための180~220℃範囲のベーキング処理を経た後にも降伏点延伸率が1.0%未満であってもよい。降伏点延伸率が高い場合、加工時シワが発生するなど表面欠陥に露出されており、また、シワ加工時形状維持が困難であるという問題点が発生して、王冠用素材においては厳格に管理することが必要である。より具体的に、降伏点延伸率は0.8%未満であってもよい。
【0084】
また、本発明の一実施形態による錫メッキ原板は、ドローイング成形によるカップの方向別高さを示す異方性に優れる。カップドローイング過程で発生する成形カップの方向別高さ差は王冠の密着性と密接な相関性があるだけでなく、また、耳発生部除去による素材の損失発生にも大きな影響を与える因子である。成形カップの方向別異方性を表わす耳発生率は成形カップの方向別高さを測定した後、最大カップ高さ(Hmax)と最小カップ高さ(Hmin)の差を最大カップ高さで割った値を百分率で示すものであって、(Hmax-Hmin)/(Hmax)*100で表される。ドローイング加工による耳発生率が1.5%未満であってもよい。耳発生率が1.5%より高くなれば、素材の損失が増加するだけでなく、成形カップ先端部シワ加工部の形状不良が現れて王冠の締結力が低下するという問題点があった。具体的に、ドローイング加工による耳発生率が1.5%未満であってもよい。より好ましくは、1.3%未満であってもよい。
【0085】
また、本発明の一実施形態による錫メッキ原板は、ティンメルティングおよびベーキング後の耐圧性に優れる。具体的に、錫メッキ鋼板を王冠形態に加工後、JIS S9017に準じて内圧実験を行うと、120psi.以上の値を得ることができる。内圧強度が過度に低い場合、加工品の締結力が悪くなって内容物の流出を起こす要因として作用するので、容器の安定性確保側面から厳格に管理することが必要である。具体的に、内圧強度は120psi(約0.828MPa)以上であってもよい。より具体的に、125psi(約0.863MPa)以上であってもよい。
【0086】
一方、本発明の一実施形態による錫メッキ鋼板は、前記の錫メッキ原板および前記錫メッキ原板の一面または両面に位置する錫メッキ層を含む。
【0087】
本発明の一実施形態による錫メッキ鋼板の製造方法は、重量%で、炭素(C)0.03~0.09%、マンガン(Mn)0.2~0.4%、アルミニウム(Al)0.01~0.06%、クロム(Cr)0.15~0.45%、銅(Cu)0.05~0.25%、チタニウム(Ti)0.03~0.08%、残部鉄(Fe)および不可避不純物を含むスラブを製造する段階;スラブを加熱する段階;加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;熱延鋼板を巻き取る段階;巻取られた熱延鋼板を1次冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;冷延鋼板を焼鈍する段階;および焼鈍された冷延鋼板を5~20%の圧下率で2次冷間圧延する段階;を含む。
【0088】
以下では各段階別に具体的に説明する。
【0089】
まず、スラブを製造する。製鋼段階でC、Mn、Si、P、S、Al、N、Ti、Cr、Cuなどを適正含量で制御し、製鋼で成分が調整された溶鋼は連続鋳造を通じてスラブに製造される。
【0090】
スラブの各組成については前述の錫メッキ原板で詳しく説明したので、重複する説明を省略する。錫メッキ原板製造工程中で合金成分が実質的に変わらないので、スラブと最終製造された錫メッキ原板の合金成分が同一であり得る。
【0091】
その次に、スラブを加熱する。これは後続される熱延工程を円滑に行い、スラブを均質化処理するためにスラブを1150~1280℃で加熱することができる。スラブ加熱温度が過度に低ければ、後続する熱延時荷重が急激に増加して圧延性を低下させる問題があり、反面、過度に高ければ、エネルギー費用が増加するだけでなく、表面スケール発生が増加して材料損失が発生した。より好ましくは、スラブ加熱温度が1180~1250℃であってもよい。
【0092】
その次に、加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。このとき、仕上げ熱間圧延温度は860~930℃であってもよい。仕上げ圧延温度が過度に低ければ、低温領域で熱間圧延が仕上げられることによって結晶粒の混粒化が急激に行われて熱間圧延性および加工性の低下を招くことがある。反面、仕上げ圧延温度が過度に高い場合には、表面スケールの剥離性が低下し、厚さ全般にわたって均一な熱間圧延が行われなくて形状不良の原因になることがある。さらに好ましくは、仕上げ圧延温度が860~930℃であってもよい。
【0093】
その次に、熱延鋼板を巻き取る。このとき、巻取温度は560~700℃であってもよい。熱間圧延後巻取前、熱延鋼板の冷却はランアウトテーブル(ROT、Run-out-table)で行うことができる。巻取温度が過度に低ければ、冷却および維持する間に幅方向温度不均一によって低温析出物の生成挙動が差を示して材質偏差を誘発することによって加工性に良くない影響を与える。反面、巻取温度が過度に高い場合にも微細組織が粗大化されて表面材質軟化および製缶時オレンジピール(orange-peel)のような欠陥を誘発するという問題点があった。より好ましくは、巻取温度が570~690℃であってもよい。
【0094】
熱延鋼板を巻き取った以後、巻取られた熱延鋼板を冷間圧延する前に巻取られた熱延鋼板を酸洗する段階を追加的に含むことができる。
【0095】
その次に、巻取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する。このとき、圧下率は80~95%であってもよい。冷間圧下率が過度に少なければ、再結晶の駆動力が低くて局部的な組織成長が発生するなど均一な材質を確保し難く、また、最終製品の厚さを考慮すれば熱延板厚さを十分に薄く作業しなければならないなど全体的に熱延作業性を顕著に悪くするという問題点がある。反面、圧下率が過度に高ければ、圧延機負荷増大によって冷間圧延作業性を低下させるという問題点がある。したがって、圧下率は80~95%であってもよい。より具体的に、85~92%であってもよい。
【0096】
その次に、冷延鋼板を焼鈍する。冷間圧延で導入した変形で強度が高まっている状態から焼鈍を実施することによって目標とする強度および加工性を確保することができる。このとき、焼鈍温度は640~760℃であってもよい。焼鈍温度が過度に低ければ、圧延によって形成された変形が十分に除去されなくて加工性が顕著に低下するという問題点があり、反面、焼鈍温度が過度に高ければ、連続焼鈍時高温焼鈍による炉内張力制御が困難であって通板性を悪くするだけでなく、焼鈍作業時ヒートバックル(Heat buckle)のような欠陥を誘発するという問題点があった。さらに好ましくは、焼鈍温度が650~750℃であってもよい。
【0097】
冷延鋼板を焼鈍する段階以後、焼鈍された冷延鋼板を調質圧延段階で2次冷間圧延を実施して強度を向上させる。このとき、圧下率は5~20%であってもよい。2次圧延を通じて所望の表面粗度を得ることができるだけでなく、加工硬化による強度上昇効果を確保することができる。過度に高い2次圧下率適用時、強度確保側面からは有利であるが、ドローイングおよびシワ加工性が顕著に悪くなるという問題点があり、反面、過度に低い圧下率では、目標とする強度水準を得ることができなくて耐圧特性が確保されなくて内容物の流出を防止することができなかった。さらに具体的に、2次圧下率は7~19%であってもよい。
【0098】
一方、王冠用鋼板のように1次および2次圧延を通じて製造される素材で、製品の加工性、特に耳発生率は熱延後1次冷間圧延段階での1次圧下率(CR、%)、焼鈍後2次冷間圧延(調質圧延段階)の2次圧下率(CR、%)だけでなく、添加される強化元素、Cr、CuとCの重量%と下記のような式3を満足することができるのを確認した。
【0099】
[式3]5.5≦([Cr]*1.2[Cu]/[C])*(CR-15)*CR/(CR+CR)≦17
【0100】
優れた加工性を確保すると共に耳発生率を低めるためには、前述のような成分の素材を用いると同時に、強化元素と1、2次圧下率の関係、式3を管理することができる。このとき、強化元素と1、2次圧下率の関係式、([Cr]*1.2[Cu]/[C))*(CR-15)*CR/(CR+CR)は5.5~17であってもよい。多様な実験を通じて引張試験によって得られる面内異方性指数である、Δr値が-0.2~0.2の範囲を有すれば、王冠のようにドローイング特性が厳格な用途への適用性にも大きな問題がないのを確認した。これに基づいて、2次圧延王冠用素材で、強化元素と1、2次冷間圧下率の関係式式3が過度に小さい場合は、45℃方向の焼成変形比が増加して耳発生率を高めるという問題点が発生し、反面、過度に大きい場合では、冷間圧下の負荷増加によって圧延性が悪いだけでなく、60度方向のカップ高さが増加して内圧強度を低下させるという問題点が発生して、加工性に優れた素材を確保することができなかった。より具体的に、式3の値は5.55~16.85であってもよい。このとき、式3で、[Cr]、[Cu]、および[C]はそれぞれメッキ原板内のCr、Cu、およびCの含量(重量%)を意味し、CRは1次冷間圧延圧下率、CRは2次冷間圧延圧下率を意味する。
【0101】
一方、製造された錫メッキ原板の一面または両面に錫を電気メッキして錫メッキ層を形成することができる。錫メッキ層を形成して錫メッキ鋼板を製造することができる。
【0102】
以下では実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がこれに限定されるのではない。
【実施例
【0103】
(実施例)
下記表1のように形成されたアルミニウムキルド鋼のスラブを1230℃で加熱した後、下記表2に整理された製造条件で熱間圧延、巻取、冷間圧延、連続焼鈍した後、調質圧下を適用した錫メッキ原板を得た。
【0104】
【表1】
【0105】
このとき、式1および式2は下記の値で計算した。
[式1]([Ti]*[Al]/[N])+([Ti]/[C])
[式2][Mn]*[Cu]/[S]
ここで、[Ti]は、メッキ鋼板内Tiの含量(重量%)を原子量(48)で割った値である。
【0106】
[Al]は、メッキ鋼板内Alの含量(重量%)を原子量(27)で割った値である。
[N]は、メッキ鋼板内Nの含量(重量%)を原子量(14)で割った値である。
[C]は、メッキ鋼板内Cの含量(重量%)を原子量(12)で割った値である。
[Mn]は、メッキ鋼板内Mnの含量(重量%)を原子量(55)で割った値である。
[Cu]は、メッキ鋼板内Cuの含量(重量%)を原子量(64)で割った値である。
[S]は、メッキ鋼板内Sの含量(重量%)を原子量32で割った値である。
【0107】
【表2】
【0108】
このとき、式3は下記の値で計算した。
[式3]([Cr]*1.2[Cu]/[C])*(CR-15)*CR/(CR+CR
ここで、[Cr]は、メッキ鋼板内Crの含量(重量%)を意味する。
[Cu]は、メッキ鋼板内Cuの含量(重量%)を意味する。
[C]は、メッキ鋼板内Cの含量(重量%)を意味する。
CRは1次冷間圧延圧下率、CRは2次冷間圧延圧下率を意味する。
【0109】
このような錫メッキ原板の様々の特性を測定してその結果を下記表3に示した。
【0110】
通板性は、冷間および熱間圧延時圧延負荷がなく、連続焼鈍時ヒートバックル(Heat buckle)のような欠陥が発生しなければ“O”と表し、圧延負荷が発生するか連続焼鈍時板破断のような欠陥が発生した場合“X”と表した。
【0111】
表面硬度値は、ロックウェル表面硬度機を用いて主荷重30kg、補助荷重3kgであるHr30Tで測定した値を示した。
【0112】
降伏強度は、標点距離50mmであるASTM13B規格の引張試片に対して条件当り3回の引張試験を実施して測定した平均値を示した。
【0113】
降伏点延伸率の場合、錫メッキ原板を240℃、3秒間ティンメルティング熱処理および200℃、20分間ベーキング処理を行った試片に対して引張試験を通じて測定した値であって、1%未満であれば“良好”、1%以上の値であれば“不良”と表した。
【0114】
耳発生率はブランク直径に対する成形ダイ(Die)直径比で示すドローイング比(=ブランク直径*100/ダイ直径)、1.6で成形した成形カップの方向別高さを測定して最大カップ高さ(Hmax)と最小カップ高さ(Hmin)の差を最大カップ高さで割った値の百分率、(Hmax-Hmin)/(Hmax)*100であって、耳発生率が1.5%未満であれば“良好”、それ以上であれば“不良”と表した。
【0115】
耐圧特性(内圧強度)は、JIS S9017によって内圧試験を実施して得られた内圧強度が120psi以上であれば“良好”と、120psi未満であれば“不良”と表した。
【0116】
加工性は、鋼板を用いて成形を行って破断や締結形状不良が発生すれば“不良”と、破断や形状不良が発生しなければ“良好”と表した。
【0117】
【表3】
【0118】
表1~表3を通じて分かるように、本発明の合金組成と製造条件を全て満足する発明例1~8は、通板性が良好であるだけでなく、目標とする錫メッキ原板の材質基準である表面硬度、Hr30T 74~80、降伏強度570~670MPa、降伏点延伸率1.0%未満、耳発生率1.5%未満、内圧強度120psi.以上であって加工時破断や形状不良が発生しなくて優れた加工性を確保することができただけでなく、耐圧特性も良好な結果を得ることができた。
【0119】
反面、比較例1~4は本発明で提示する合金組成は満足したが、製造条件を満足しない場合であって、1、2次圧延通板性(比較例1および3)および焼鈍通板性(比較例4)が悪くなるという問題点があり、表面硬度や降伏強度が目標に対比して高いか(比較例1)または低く(比較例2~4)、耳発生率が1.5%以上で高くて素材の損失が多いだけでなく締結力が低下し、耐圧特性および加工性を満足しない場合も発生して全体的に目標とする高強度錫メッキ原板の特性を確保することができなかった。
【0120】
比較例5~8および10は本発明で提示した製造条件は満足するが、合金組成を満足しない場合であり、比較例9は合金組成および製造条件を全て満足しない場合である。比較例5~10は大部分本発明の目標表面硬度、降伏強度、降伏点延伸率、耳発生率、耐圧特性および加工性などを満足しなく、比較例9の場合、通板性も良好でないなど多様な問題点が発生して目標特性を確保することができなかった。
【0121】
本発明は実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造することができ、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せず他の具体的な形態に実施することができるというのを理解することができるはずである。したがって、以上で記述した実施例は全ての面で例示的なものであり限定的ではないと理解しなければならない。