(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】単球特異的アプタマー、及びがんへの薬物送達を増強するためのそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/115 20100101AFI20240515BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20240515BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240515BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240515BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
A61K31/711
A61K47/24
A61P35/00
A61P35/04
(21)【出願番号】P 2022572649
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 US2021034369
(87)【国際公開番号】W WO2021242933
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-01-20
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505008028
【氏名又は名称】中央研究院
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Academia Road,Section 2,Nankang Taipei,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】シェ パトリック シーエイチ
(72)【発明者】
【氏名】リー ケン-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】チェン フン-チー
【審査官】三谷 直也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0276193(US,A1)
【文献】特表2014-528411(JP,A)
【文献】特表2014-500024(JP,A)
【文献】Zhaoyi LI et al.,Molecules,2019年01月29日,Vol. 24, No. 3,pp. 478 (1-14)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’-GGA TGG GAG GGA GGG GGC TCG TGG CGG CTA GGG GGT ATA A-3’(配列番号1)
のコアヌクレオチド配列を含む単球標的化核酸アプタマー。
【請求項2】
コアヌクレオチド配列に隣接している5’プライマー部位及び3’プライマー部位を含む、
請求項1に記載の単球標的化核酸アプタマー。
【請求項3】
前記5’プライマー部位が5’-AC GCT CGG ATG CCA CTA CAG-3’のヌクレオチド配列を含み、且つ/又は前記3’プライマー部位が5’-CT CAT GGA CGT GCT GGT GAC-3’のヌクレオチド配列を含む、請求項
2に記載の単球標的化核酸アプタマー。
【請求項4】
5’-AC GCT CGG ATG CCA CTA CAG GGA TGG GAG GGA GGG GGC TCG TGG CGG CTA GGG GGT ATA ACT CAT GGA CGT GCT GGT GAC-3’のヌクレオチド配列を含む、請求項
3に記載の単球標的化核酸アプタマー。
【請求項5】
アンカー核酸断片に結合されている、請求項1~
4のいずれか1項に記載の単球標的化核酸アプタマー。
【請求項6】
前記アンカー核酸断片が、前記アプタマーの5’末端に位置していてもよい5’-CAA TAG AGT CGT ACA GGT CG-3’のヌクレオチド配列を含む、請求項
5に記載の単球標的化核酸アプタマー。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の単球標的化核酸アプタマーが上に付着した脂質ナノ粒子を含む単球標的化脂質ナノ粒子。
【請求項8】
前記脂質ナノ粒子が、脂質に付着したドッキング核酸断片を含む結合体を含み、前記ドッキング核酸断片が、単球特異的核酸アプタマー又はその一部分に結合されたアンカー核酸断片に相補的であるヌクレオチド配列を含み、前記アンカー核酸断片が、前記ドッキング核酸断片と塩基対を形成することによって前記単球特異的核酸アプタマーを前記脂質ナノ粒子上に固定する、請求項
7に記載の単球標的化脂質ナノ粒子。
【請求項9】
前記ドッキング核酸断片がポリエチレングリコール(PEG)リンカーを介して前記脂質に付着されている、請求項
8に記載の単球標的化脂質ナノ粒子。
【請求項10】
前記脂質が1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルエタノールアミン(DSPE)である、請求項
8又は
9に記載の単球標的化脂質ナノ粒子。
【請求項11】
治療薬又は診断薬をさらに含む、請求項
7~
10のいずれか1項に記載の単球標的化脂質ナノ粒子。
【請求項12】
前記治療薬又は診断薬ががん治療又はがん診断用である、請求項
11に記載の単球標的化脂質ナノ粒子。
【請求項13】
請求項
7~
12のいずれか1項に記載の単球標的化脂質ナノ粒子及び医薬として許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項14】
抗がん薬を
対象の腫瘍部位に送達するため
の、請求項
13に記載の医薬組成
物。
【請求項15】
前記対象が、がんを有する、又はがんのリスクがあるヒト患者である、請求項
14に記載の
医薬組成物。
【請求項16】
前記がんが、膵臓がん、又は転移性黒色腫であってもよい黒色腫である、請求項
15に記載の
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本発明は、2020年5月27日に出願された「単球特異的アプタマー、及びがんへの薬物送達を増強するためのそれらの使用(MONOCYTE-SPECIFIC APTAMERS AND USES THEREOF FOR ENHANCING DRUG DELIVERY TO CANCER)」というタイトルの米国仮特許出願第63/030674号の優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
療法の送達のための循環系への依存は、手術などのより侵襲的な方法と比較して、患者にとって苦痛が最小限の方法であるため、長い間、多くの疾患治療のための最適な方法であった。しかし、低い血管密度又は血管透過性を伴う疾患は、薬物送達可能性を低減させ得るため、それは、多くの場合に実用的でない。単球などの免疫細胞の動員が、生理的環境の変化に対する自然の反応として生じる。本明細書に開示される薬物送達プラットフォームは、免疫細胞が疾患部位に浸透できることを利用することによって、専ら循環系に依存することなく、動員された単球とともに疾患傷害の部位内への薬物送達を標的とするためのビヒクルとして作用することが可能である。
一部のがん、特に膵管腺癌(PDAC)における血管過小では、薬物送達が専ら循環系を介することになって非効率的となるため、意図する場所への薬物のより良好な送達を達成するために補助が必要になる。Provenzano et al., Cancer Cell 21, 418-429 (2012)。単球などの免疫細胞の動員が、生理的環境の変化に対する自然の反応として生じる。腫瘍微小環境において、単球は、腫瘍細胞と戦うための反応として絶えず動員される。Nahrendorf et al. J. Exp. Med. 204, 3037-3047 (2007)、及びSwirski et al., Science 325, 612-616 (2009)。転移の形成の前に、単球は、肝臓に動員されて、侵入する腫瘍細胞の成長及び増殖を支えて、結果として転移をもたらす。Condeelis et al., Cell 124, 263-266 (2006)及びGil-Bernabe et al., Blood 119, 3164-3175 (2012)。動員された単球とともに腫瘍部位への薬物送達を標的として腫瘍及びそれらの転移を治療するためのビヒクルとして作用することができる、血流中の循環単球の表面上に選択的に付着することが可能な薬物送達プラットフォームを本明細書に開示する。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、少なくとも一部に、単球に対する高結合親和性及び特異性を有する核酸アプタマーの識別、並びにアプタマーベースの脂質ナノ粒子薬物送達システムの開発に基づく。この薬物送達システムは、がんの治療又はがんの検出のために、治療薬又は診断薬を固形腫瘍に送達するのに問題なく使用された。
したがって、本開示の一態様は、5’-GGA TGG GAG GGA GGG GGC TCG TGG CGG CTA GGG GGT ATA A-3’(配列番号1)と少なくとも85%(例えば、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又はそれより高い)同一性を有するコアヌクレオチド配列を含む単球標的化核酸アプタマーを提供する。一部の場合において、単球標的化核酸アプタマーは、配列番号1のコアヌクレオチド配列を含む。
本明細書に開示される単球標的化核酸アプタマーはいずれも、コアヌクレオチド配列に隣接している5’プライマー部位及び3’プライマー部位をさらに含んでいてもよい。一部の例において、5’プライマー部位は、5’-AC GCT CGG ATG CCA CTA CAG-3’のヌクレオチド配列を含み、且つ/又は3’プライマー部位は、5’-CT CAT GGA CGT GCT GGT GAC-3’のヌクレオチド配列を含む。例えば、単球標的化核酸アプタマーは、5’-AC GCT CGG ATG CCA CTA CAG GGA TGG GAG GGA GGG GGC TCG TGG CGG CTA GGG GGT ATA ACT CAT GGA CGT GCT GGT GAC-3’のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0004】
一部の実施形態において、本明細書に開示される単球標的化核酸アプタマーを、アンカー核酸断片又はその一部分と相補的なドッキング核酸断片を含む支持部材に核酸断片を付着させるのに使用するためのアンカー核酸断片に結合できる。一部の例において、アンカー核酸断片は、アプタマーの5’末端に位置していてもよい5’-CAA TAG AGT CGT ACA GGT CG-3’のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
別の態様において、本明細書に記載の単球特異的核酸アプタマーが上に付着した脂質ナノ粒子を含む単球標的化脂質ナノ粒子を本明細書で提供する。一部の実施形態において、脂質ナノ粒子は、脂質に付着したドッキング核酸断片を含む結合体を含んでいてもよい。ドッキング核酸断片は、単球特異的核酸アプタマー又はその一部分に結合されたアンカー核酸断片に相補的であるヌクレオチド配列を含む。そのように、アンカー核酸断片は、ドッキング核酸断片と塩基対を形成することによって、単球特異的核酸アプタマーを脂質ナノ粒子上に固定する。
一部の実施形態において、ドッキング核酸断片を脂質に直接付着させることができる。或いは、ドッキング核酸断片は、ポリエチレングリコール(PEG)リンカーを介して脂質に付着されていてもよい。具体的な例において、脂質は、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルエタノールアミン(DSPE)であり得る。
本明細書に開示される単球標的化脂質ナノ粒子はいずれも、治療薬又は診断薬をさらに含んでいてもよい。一部の実施形態において、本明細書に開示される単球標的化脂質ナノ粒子は、抗がん薬、例えば、がんを治療するための治療薬をさらに含んでいてもよい。或いは、抗がん薬は、がんを検出するための診断薬であってもよい。
【0005】
他の態様において、本明細書に開示される単球標的化脂質ナノ粒子のいずれか、及び医薬として許容される担体を含む医薬組成物、並びに抗がん薬を腫瘍部位に送達するための方法であって、それを必要とする対象に、本明細書に開示される医薬組成物の有効量を投与することを含む方法を本明細書で提供する。一部の実施形態において、対象は、がん、例えば膵臓がん若しくは黒色腫(例えば転移性黒色腫)を有する、又はそのリスクがあるヒト患者であり得る。
治療薬又は診断薬を腫瘍部位に送達するのに使用するための、本明細書に開示される単球特異的脂質ナノ粒子のいずれかを含む医薬組成物、及び本明細書に開示されるように意図する医療目的に使用できる医薬品を製造するための当該単球特異的脂質ナノ粒子の使用も本開示の範囲内である。
以下の説明では、本発明の1つ以上の実施形態の詳細を記載する。本発明の他の特徴又は利点は、下記の図面及びいくつかの実施形態の詳細な説明からも添付の特許請求の範囲からも明らかになる。
下記の図面は、本明細書の一部をなすものであり、本明細書に提示される具体的な実施形態の詳細な説明と併せて図面を参照することによってより良く理解できる本開示の特定の態様をさらに実証するために含められる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1A-E】単球に対する高結合親和性を有するアプタマーの指数関数的濃縮(SELEX)選択によるリガンドの細胞ベースの系統的進化を示す図を含む。
図1A及び1Bは、それぞれRAW264.7(マウス単球細胞株)及びJ774A.1(マウス単球細胞株)に対する単球特異的アプタマーの結合を示す図である。核酸アプタマーを、約20回の選択サイクル後にSELEX手法を使用して識別し、PCRで増幅させた。上図は、アプタマーに対する単球と内皮細胞との結合能力の比較を示す写真である。下図は、数回の選択後の(蛍光染料に結合された)アプタマーの単球細胞に対する結合能力の漸進的増加を示す図である。
図1Cは、RAW264.7に対するアプタマー(AptR)の結合親和性を示す図である。
図1Dは、J774A.1に対するアプタマー(AptJ)の結合親和性を示す図である。
図1Eは、定量的PCRを使用するインビトロの単球特異的アプタマーの選択を示す図である。マウス単球細胞株RAW264.7及びJ774A.1に対する各アプタマー候補の特異性を試験した。
【
図2A-D】単球に対するJ10アプタマーの特異性を示す図を含む。
図2Aは、フローサイトメトリによって測定された単球細胞株RAW264.7及びJ774A.1並びにマウス内皮細胞株SVECにおけるCy5標識J10アプタマー及びCy5標識S2アプタマーの量を示すグラフである。マウス内皮細胞株SVECを陰性選択として使用した。S2アプタマーは、J10アプタマーと同様のヌクレオチド組成を有していたが、配列がランダムであった。テューキー調整を伴う二元配置分散分析を使用してデータを分析した(
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001を有意とした)。
図2Bの上図は、PCRによって測定された損傷心臓の梗塞領域におけるJ10及びS2アプタマーの蓄積量を示す画像を示す。下図は、PCR結果の定量を示す。対応のないスチューデントt-検定を使用してデータを分析した(
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001を有意とした)。
図2Cは、生体イメージングによる、循環CX3CR1-GFP
+単球に対するS2アプタマーQD655(上図)及びJ10アプタマーQD655(下図)のインビボ標的化を示す画像である。アプタマーを量子ドットQD655と結合させた。示されるスケールバーは、100μmを表す。
図2Dは、末梢血液から単離されたCD45
+及びCD11b
+細胞と結合したCy5-J10の量を分析するためにフローサイトメトリで調べた循環単球に対するJ10アプタマーのエキソビボ標的化を示すグラフを示す。対応のないスチューデントt-検定を使用してデータを分析した(
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、
****P<0.0001を有意とした)。
【
図3】フローサイトメトリによって測定された、ヒト単球細胞株THP-1及びU937に対するJ10アプタマーの親和性を示すグラフを示す。アプタマーをCy5染料で標識した。S2アプタマーは、J10アプタマーと同様のヌクレオチド組成を有していたが、ランダム配列であった。S2アプタマーを対照として使用した。ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)を陰性対照として使用した。テューキー調整を伴う二元配置分散分析を使用してデータを分析した。
***P>0.001。
【
図4A-C】脂質ナノ粒子(LNP)の質量スペクトルの画像を示す。
図4Aは、アプタマー結合のためのリンカーの質量スペクトルを示す。
図4Bは、Mal-PEG2000-DSPE脂質の質量スペクトルを示す。
図4Cは、リンカー-PEG2000-DSPE脂質の質量スペクトルを示す。
【
図5A-E】循環単球を介して腫瘍を標的とするJ10アプタマー-ゲムシタビン-脂質ナノ粒子を示す図を含む。
図5Aは、低温電子顕微鏡下での脂質ナノ粒子(LNP)、ゲムシタビン(Gem)装填LNP、S2アプタマーで修飾されたGem装填LNP、及びJ10アプタマーで修飾されたGem装填LNPの画像を示す。示されるスケールバーは、100μmを表す。
図5Bは、遊離(gem標準)並びにリポソーム封入ゲムシタビン(S2-Gem-LNP及びJ10-Gem-LNP)の代表的なフッ素(
19F)NMRスペクトルの画像を示す。
図5Cは、ゲムシタビン(Gem)装填脂質ナノ粒子(LNP)、S2アプタマーで修飾されたGem装填LNP、及びJ10アプタマーで修飾されたGem装填LNPの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)スペクトルの画像を示す。
図5Dは、培養されたマウス膵臓がん(KPC)細胞株に対する遊離及びリポソーム封入ゲムシタビンの細胞毒性を示すグラフを示す。
図5Eは、マウス単球細胞株J774A.1及びRAW264.7並びにマウス内皮細胞株SVECにおけるGem-LNP、及びDiD親油性シアニン染料で標識されたGem-LNP及びアプタマー-Gem-LNPのインビトロ結合親和性分析を示すグラフを示す。テューキー調整を伴う二元配置分散分析を使用してデータを分析した(
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001を有意とし、「ns」は、有意でないことを示す)。
【
図6】5時間目(5h)並びに1、4、7、14、21、35及び42日目に全血球計算(CBC)により判断された膵臓がんの同所移植後のマウスにおける循環単球の数を示すグラフである。テューキー調整を伴う二元配置分散分析をデータ分析に使用した(
***P<0.001を有意とし、「ns」は、有意でないことを示す)。
【
図7A-C】CCR2-RFP遺伝子移植マウスにマウスKPC膵臓がん細胞を同所移植した後の腫瘍部位へのCCR2-RFP
+単球細胞の動員の画像を示す。
図7Aは、検出を容易にするためにルシフェラーゼを発現するようにマウスKPC膵臓がん細胞株を改変した、IVISイメージングにより収集された画像を示す。示されるスケールバーは、100μmである。
図7Bは、IVISを使用する腫瘍部位におけるCCR2-RFP
+単球の定量分析を示す。テューキー調整を伴う二元配置分散分析を使用してデータを分析した(
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、
****P<0.0001を有意とした)。
図7Cは、生体顕微鏡を介して捕捉された同所移植後の腫瘍部位におけるCCR2-RFP
+単球の動員を示す。示されるスケールバーは、100μmである。
【
図8A-F】Gem-LNP、S2-Gem-LNP又はJ10-Gem-LNPで処置されたマウスの単球、リンパ球及び顆粒球に対するアプタマー-Gem-LNPのインビボ結合特異性の画像を示す。
図8Aは、Gem-LNP、S2-Gem-LNP又はJ10-Gem-LNPで処置されたマウス由来の単球に対するアプタマー-Gem-LNPのインビボ結合特異性を示す。
図8Bは、Gem-LNP、S2-Gem-LNP又はJ10-Gem-LNPで処置されたマウス由来のリンパ球に対するアプタマー-Gem-LNPのインビボ結合特異性を示す。
図8Cは、Gem-LNP、S2-Gem-LNP又はJ10-Gem-LNPで処置されたマウス由来の顆粒球に対するアプタマー-Gem-LNPのインビボ結合特異性を示す。
図8Dは、Gem-LNP、S2-Gem-LNP又はJ10-Gem-LNPで処置されたマウス由来の単球に対するアプタマー-Gem-LNPのインビボ結合特異性の定量を示す。
図8Eは、Gem-LNP、S2-Gem-LNP又はJ10-Gem-LNPで処置されたマウス由来のリンパ球に対するアプタマー-Gem-LNPのインビボ結合特異性の定量を示す。
図8Fは、Gem-LNP、S2-Gem-LNP又はJ10-Gem-LNPで処置されたマウス由来の顆粒球に対するアプタマー-Gem-LNPのインビボ結合特異性の定量を示す。
【
図9A-B】同所腫瘍移植の48時間後のPDACマウスから採取されたマウス同所膵臓腫瘍におけるアプタマー-Gem-LNPの蓄積を示す画像を示す。
図9Aは、採取された腫瘍におけるDiD標識Gem-LNP、DiD標識S2-Gem-LNP及びDiD標識J10-Gem-LNPの蓄積を示す画像を示す。
図9Bは、採取された腫瘍におけるDiD標識Gem-LNP、DiD標識S2-Gem-LNP及びDiD標識J10-Gem-LNPの蓄積としてのDiD染料強度の定量を示すグラフを示す。
【
図10】
19F NMRを使用するマウウ同所膵臓がんにおけるゲムシタビン、gem-LNP、S2-Gem-LNP及びJ10-Gem-LNPによる処置後のゲムシタビンの蓄積の定量を示すグラフを示す。
【
図11A-K】J10-Gem-LNPの投与後のマウス膵臓がんモデルにおけるゲムシタビンの治療効果の増強を示す図を含む。
図11Aは、マウスPDACモデルにおけるアプタマー-Gem-LNPのインビボ機能的評価のための実験的設計の概略を示す画像である。
図11Bは、アプタマー-Gem-LNP処置の10日後の膵臓腫瘍におけるアポトーシスの検出のための末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)dUTPニック末端標識(TUNEL)分析の画像を示す。アポトーシス指数を、調べた視野におけるTUNEL
+細胞の割合と定義した。示されるスケールバーは、20μmを表す。
図11Cは、アプタマー-Gem-LNP処置の10日後のマウスPDACモデル由来の膵臓腫瘍におけるKi67
+細胞の画像を示す。示されるスケールバーは、20μmを表す。
図11Dは、アプタマー-Gem-LNP処置後の時間経過時のマウスPDACにおけるマウスKPC細胞株のルシフェラーゼ活性を検出するためにIVISで判断した膵臓腫瘍サイズの画像を示す。テューキー調整を伴う一元配置分散分析をデータ分析に使用した(
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001を有意とした)。
図11Eは、アプタマー-Gem-LNP処置後の時間経過時に実施した磁気共鳴画像法(MRI)で判断した膵臓腫瘍サイズの画像を示す。テューキー調整を伴う一元配置分散分析をデータ分析に使用した(
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001を有意とした)。
図11Fは、PBS、Gem、Gem-LNP、S2-Gem-LNP及びJ10-Gem-LNPで処置されたPDACマウスから採取した同所膵臓腫瘍質量の定量を示すグラフを示す。テューキー調整を伴う一元配置分散分析をデータ分析に使用した(
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001を有意とした)。
図11Gは、腫瘍移植の48時間後までにわたるPBS、Gem、Gem-LNP、S2-Gem-LNP及びJ10-Gem-LNPで処置したPDACマウスの体重の変化を示すグラフを示す。テューキー調整を伴う二元配置分散分析をデータ分析に使用した(
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001を有意とした)。
図11Hは、マウスPDACモデルにおける生存率に対するアプタマー-Gem-LNPの効果を示すグラフを示す。テューキー調整を伴う一元配置分散分析をデータ分析に使用し、カプラン-マイヤー法及びログランク(マンテル-コックス)検定をqの生存曲線の作成及び分析に使用した(
*P<0.05、
**P<0.01及び
***P<0.001)。
図11Iは、アプタマー-Gem-LNP処置の36日後に実施した磁気共鳴画像法(MRI)で判断した肝臓転移腫瘍体積を示すグラフを示す。
図11Jは、アプタマー-Gem-LNP処置の32日後に実施したIVISで判断した肝臓転移腫瘍体積を示すグラフを示す。テューキー調整を伴う一元配置分散分析をデータ分析に使用した(
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001を有意とした)。
図11Kは、肝臓転移腫瘍を有するマウスの生存率に対するアプタマー-Gem-LNPの効果を示すグラフを示す。テューキー調整を伴う一元配置分散分析をデータ分析に使用し、カプラン-マイヤー法及びログランク(マンテル-コックス)検定をqの生存曲線の作成及び分析に使用した(
*P<0.05、
**P<0.01及び
***P<0.001)。
【
図12A-E】マウスへの粒子注入の1週間後に血液検査により調べた肝臓及び腎臓機能に対するアプタマー-Gem-LNPの効果を示すグラフを示す。テューキー調整を伴う一元配置分散分析をデータ分析に使用した。
図12Aは、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)に対するアプタマー-Gem-LNPの効果を示す。
図12Bは、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)に対するアプタマー-Gem-LNPの効果を示す。
図12Cは、血中尿素窒素(BUN)に対するアプタマー-Gem-LNPの効果を示す。
図12Dは、クレアチニン(CREA)に対するアプタマー-Gem-LNPの効果を示す。
図12Eは、アルカリ性ホスファターゼ(ALP)に対するアプタマー-Gem-LNPの効果を示す。
【
図13A-B】マウス肺転移モデルにおける黒色腫に対するアプタマー-Gem-LNP標的化を示す画像を示す。
図13Aは、DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)がDNAを検出し、抗GFPがB16F10細胞腫瘍を検出し、抗F4/80が単球を検出するマウス肺転移モデルの肺から採取した転移性黒色腫の蛍光イメージングを示す。
図13Bは、
19F NMRを使用する、マウスモデルの肺から採取した転移性黒色腫におけるゲムシタビン、gem-LNP、S2-Gem-LNP及びJ10-Gem-LNPによる処置後のゲムシタビン蓄積の定量を示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
疾患部位へのマクロファージの動員は、急性又は慢性疾患の患者における発病時に生じる重要事象である。Pawelec et al., Current Opinion in Immunology. 2014; 29:23-28。これらのマクロファージは、最初に血管における単球として現れる。Gordon et al., Nature Reviews Immunology. 2005;5:953-964。次いで、循環単球が、疾患部位に最も近い血管に移動し、次いで溢血として知られるプロセスである内膜浸透によってその部位に到達する。Hume, Current Opinion in Immunology. 2006;18:49-53。
本開示は、少なくとも一部に、選択的に単球を標的とし、それらに結合する核酸アプタマー(例えばJ10)の開発、及び脂質ナノ粒子の表面上のJ10などの当該単球特異的核酸アプタマーを含むアプタマーベースの脂質ナノ粒子標的化システムの開発に基づく。当該アプタマー標識脂質ナノ粒子は、単球などの循環血液細胞を「シャトル」として使用して、アプタマー標識脂質ナノ粒子に封入された治療薬又は診断薬が腫瘍部位などの対象の部位に到達させることが可能である有益な薬物送達ビヒクルとして機能できる。アプタマー標識脂質ナノ粒子を担持する循環単球は、内膜と交差すると、活性化されてマクロファージを形成する。続いて、これらの自己活性化マクロファージは、アプタマー標識脂質ナノ粒子を食菌することで、封入された抗がん薬(例えば、ゲムシタビンなどの化学療法薬、又はがん診断薬)をマクロファージの内部で放出又は機能させることにより、その治療又は診断効果を発揮する。
【0008】
したがって、J10などの単球標的化核酸アプタマー、アプタマーベースの脂質ナノ粒子単球標的化システム、それらを含む医薬組成物、腫瘍を治療又は検出するために膵臓腫瘍部位(例えば膵管腺癌(PDAC)部位)などの腫瘍部位に治療薬又は診断薬を送達するための方法を本明細書に記載する。
単球標的化核酸アプタマー
単球を標的とし、それらに結合する核酸アプタマー(例えばJ10)を本明細書に記載する。本明細書に使用される核酸アプタマーとは、特定の免疫細胞(例えば単球)に対する結合活性を有する核酸分子(DNA又はRNA)を指す。本開示の単球標的化アプタマーは、線形又は円形で、RNA、DNA(例えば一本鎖DNA)、修飾核酸、又はそれらの混合体であってもよい。単球標的化アプタマーは、(例えば、在来遺伝子に存在しないヌクレオチド配列を含む、又は天然に存在しない修飾ヌクレオチドを含む)非天然分子であってもよい。或いは、又は加えて、単球標的化アプタマーは、機能性ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでいなくてもよい。
【0009】
一部の実施形態において、本明細書に開示される単球標的化アプタマーは、5‘-GGATGGGAGGGAGGGGGCTCGTGGCGGCTAGGGGGTATAA-3’(配列番号1)と少なくとも70%(例えば80%、85%、90%、95%又は98%)の同一性を有するコアヌクレオチド配列を含んでいてもよい。一部の例において、本明細書に開示される単球標的化核酸アプタマーは、配列番号1のコアヌクレオチド配列のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0010】
本明細書に開示されるコアヌクレオチド配列に加えて、単球標的化アプタマーは、コア配列の5’末端(5’プライマー部位)、コア配列の3’末端(3’プライマー部位)、又はその両方にプライマー部位をさらに含んでいてもよい。一部の例において、本明細書に開示される単球標的化アプタマーは、5’-AC GCT CGG ATG CCA CTA CAG-3’と少なくとも70%(例えば、80%、85%、90%、95%、98%又は100%)の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよい5’プライマー部位を含んでいてもよい。或いは、又は加えて、本明細書に開示される単球標的化アプタマーは、5’-CT CAT GGA CGT GCT GGT GAC-3’と少なくとも70%(例えば、80%、85%、90%、95%、98%又は100%)の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよい3’プライマー部位を含んでいてもよい。一部の例において、本明細書に開示される単球標的化アプタマーは、5’-AC GCT CGG ATG CCA CTA CAG-3’のヌクレオチド配列を含む5’プライマー部位、及び配列番号1のヌクレオチド配列を含むコアヌクレオチド配列に隣接している5’-CT CAT GGA CGT GCT GGT GAC-3’のヌクレオチド配列を含む3’プライマー部位を含んでいてもよい。一部の例において、本明細書に開示される単球標的化アプタマーは、5’-ACGCTCGGATGCCACTACAGGGATGGGAGGGAGGGGGCTCGTGGCGGCTAGGGGGTATAACTCATGGACGTGCTGGTGAC-3’(配列番号2)のヌクレオチド配列、又は配列番号2と少なくとも70%(例えば、80%、85%、90%、95%若しくは98%)の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
一部の実施形態において、本明細書に開示される単球標的化アプタマーは、脂質ナノ粒子へのアプタマーの付着を容易にすることができるアンカー核酸断片に結合されてもよい。一部の例において、アンカー核酸断片は、本明細書に開示される単球標的化アプタマーの3’末端に結合されてもよい。一部の例において、アンカー核酸断片は、本明細書に開示される単球標的化アプタマーの5’末端に結合されてもよい。一部の例において、アンカー核酸断片は、5’-CAATAGAGTCGTACAGGTCG-3’のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0011】
具体的な例において、単球標的化アプタマーは、
【化1】
のヌクレオチド配列(5’の下線が引かれた断片がアンカー核酸断片であり、イタリック体の領域が5’及び3’プライマー部位であり、太字の断片が単球結合のためのコアヌクレオチド配列である)を含んでいてもよい。
2つの核酸の「同一性パーセント」は、Karlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77, 1993のように改造された、Karlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68, 1990のアルゴリズムを使用して判断される。当該アルゴリズムは、Altschul, et al. J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990のNBLAST及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれる。BLASTヌクレオチド検索をNBLASTプログラム、スコア=100、ワード長-12で実施して、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得ることができる。2つの配列の間にギャップが存在する場合は、Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402, 1997に記載されるようにギャップドBLASTを利用することができる。BLAST及びギャップドBLASTプログラムを利用する場合は、それぞれのプログラム(例えばXBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。
【0012】
他の実施形態において、本明細書に記載の単球標的化アプタマーは、配列番号1又は配列番号2のヌクレオチド配列と比較して8つまで(例えば7つ、6つ、5つ、4つ、3つ、2つ又は1つまでの)ヌクレオチド変種を含んでいてもよい。当該変種を導入できる位置を、例えば、標的単球の参考ヌクレオチド配列に基づいて判断することができる。
本明細書に開示される単球標的化アプタマーのいずれも200ヌクレオチド(nts)、例えば150nts、100nts、80nts、70nts、60nts、50nts、40nts又は30ntsまで含んでいてもよい。一部の例において、単球標的化アプタマーは、30~150nts、30~100nts、30~80nts、30~70nts、30~60nts、30~50nts又は30~40ntsの範囲のヌクレオチドを含んでいてもよい。
単球標的化アプタマーは、ヒト単球を特異的に結合し得る。或いは、アプタマーは、異なる種(例えばヒトとマウス)の単球に結合し得る。
【0013】
一部の実施形態において、本明細書に記載の単球標的化アプタマーは、非天然核酸塩基、糖又は共有ヌクレオシド間結合(骨格)を含んでいてもよい。当該修飾オリゴヌクレオチドは、当該修飾オリゴヌクレオチドは、細胞取り込みの増強、標的核酸との親和性の向上、及びインビボ安定性の強化などの望ましい特性を付与する。
一例において、本明細書に記載のアプタマーは、リン原子を保持するもの(例えば、米国特許第3,687,808号、第4,469,863号、第5,321,131号、第5,399,676号及び第5,625,050号参照)並びにリン原子を有さないもの(例えば、米国特許第5,034,506号、第5,166,315号及び第5,792,608号)を含む修飾骨格を有する。リン含有修飾骨格の例としては、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキル-ホスホトリエステル、3’-アルキレンホスホネート、5’-アルキレンホスホネート及びキラルホスホネートを含むメチル及び他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3’-アミノホスホルアミデート及びアミノアルキルホスホルアミデートを含むホスホルアミデート、チオノホスホルアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、セレノホスフェート、並びに3’-5’結合又は2’-5’結合を有するボラノホスフェートが挙げられるが、それらに限定されない。当該骨格としては、反転極性、即ち3’対3’、5’対5’又は2’対2’結合を有するものも挙げられる。リン原子を含まない修飾骨格は、短鎖アルキル又はシクロアルキルのヌクレオシド間結合、ヘテロ原子及びアルキル若しくはシクロアルキルのヌクレオシド間結合との混合体、又は1つ以上の短鎖ヘテロ原子若しくは複素環のヌクレオシド間結合によって形成される。当該骨格としては、(一部にヌクレオシドの糖部から形成された)モルホリノ結合を有する骨格、シロキサン骨格、スルフィド、スルホキシド及びスルホン骨格、ホルムアセチル及びチオホルムアセチル骨格、メチレンホルムアセチル及びチオホルムアセチル骨格、リボアセチル骨格、アルケン含有骨格、スルファメート骨格、メチレンイミノ及びメチレンヒドラジノ骨格、スルホネート及びスルホンアミド骨格、アミド骨格、並びにN、O、S及びCH2成分部分の混合体を有する他の骨格が挙げられる。
【0014】
別の例において、本明細書に記載の単球標的化アプタマーは、1つ以上の置換糖部分を含む。当該置換糖部分は、OH、F、O-アルキル、S-アルキル、N-アルキル、O-アルケニル、S-アルケニル、N-アルケニル、O-アルキニル、S-アルキニル、N-アルキニル及びO-アルキル-O-アルキルの基のうちの1つをそれらの2’位に含むことができる。これらの基において、アルキル、アルケニル及びアルキニルは、置換又は非置換のC1~C10アルキル又はC2~C10アルケニル及びアルキニルであり得る。それらは、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA開裂基、レポーター基、インターカレーター、オリゴヌクレオチドの薬物動態特性を向上させるための基、又はオリゴヌクレオチドの薬力学的特性を向上させるための基をそれらの2’位に含んでいてもよい。好適な置換糖部分としては、2’-メトキシエトキシ、2’-ジメチルアミノオキシエトキシ及び2’-ジメチルアミノエトキシエトキシを有するものが挙げられる。Martin et al., Helv. Chim. Acta, 1995, 78, 486-504参照。
【0015】
或いは、又は加えて、本明細書に記載の単球標的化アプタマーは、1つ以上の修飾在来核酸塩基(即ちアデニン、グアニン、チミン、シトシン及びウラシル)を含んでいてもよい。修飾核酸塩基としては、米国特許第3,687,808号、The Concise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering, pages 858-859、Kroschwitz, J. I., ed. John Wiley & Sons, 1990、Englisch et al., Angewandte Chemie, International Edition, 1991, 30, 613、及びSanghvi, Y. S., Chapter 15, Antisense Research and Applications, pages 289-302, CRC Press, 1993に記載されているものが挙げられる。これらの核酸塩基の特定のものには、アプタマー分子のそれらの標的化部位に対する結合親和性を増強するのに特に有用なものがある。これらは、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン、並びにN-2、N-6及びO-6置換プリン(例えば、2-アミノプロピル-アデニン、5-プロピルウラシル及び5-プロピニルシトシン)を含む。Sanghvi, et al., eds., Antisense Research and Applications, CRC Press, Boca Raton, 1993, pp. 276-278参照。
【0016】
本明細書に記載の単球標的化アプタマーはいずれも、従来の方法、例えば化学的合成又はインビトロ転写によって調製できる。本明細書に記載のそれらの意図する生物活性を例えば以下の実施例に記載のものによって検証することができる。単球標的化アプタマーのいずれかを発現するためのベクターも本開示の範囲内である。
本明細書に記載の単球標的化アプタマーはいずれも、共有結合、非共有結合又はその両方を介してポリエチレングリコール(PEG)部分などの1つ以上のポリエーテル部分に結合されてもよい。したがって、一部の実施形態において、本明細書に記載の単球標的化アプタマーをペグ化することができる。本開示は、特定の分子量のPEG部分に関して限定することを意図しない。一部の実施形態において、ポリエチレングリコール部分は、5kDaから100kDa、10kDaから80kDa、20kDaから70kDa、20kDaから60kDa、20kDaから50kDa、又は30kDaから50kDaの範囲の分子量を有する。一部の例において、PEG部分は、40kDaの分子量を有する。本明細書に記載の単球標的化アプタマーに結合されたPEG部分は、直鎖状又は分枝状であり得る。それは、核酸アプタマーの5’末端、アプタマーの3’末端、又はその両方に結合されてもよい。必要であれば、PEG部分を核酸アプタマーの3’末端に共有結合させることができる。
【0017】
PEG部分を核酸に結合させるための方法は、当該技術分野で公知であり、例えば、その該当教示内容が参照により本明細書に組み込まれているPCT国際公開第2009/073820号に既に記載されている。PEG結合核酸アプタマー、及びPEGを本明細書に記載の核酸アプタマーに結合させるための方法は、例示的であり、限定することを意図しないことを理解されたい。
アプタマーベースの脂質ナノ粒子単球標的化システム
本開示は、単球特異的核酸アプタマーのいずれかが表面に付着した脂質ナノ粒子も提供する。脂質ナノ粒子は、診断薬又は治療薬などの1つ以上の好適な薬剤を含んでいてもよい。本明細書に開示される脂質ナノ粒子は、核酸アプタマーの単球標的化活性により、アプタマーベースの脂質ナノ粒子単球標的化システムとして機能することによって、単球を、脂質ナノ粒子と結合した薬剤を相応の対象、例えば疾患又は傷害部位に送達するためのベシクルとして使用することができる。
【0018】
(i)単球特異的核酸アプタマーを担持した脂質ナノ粒子
本明細書に記載のアプタマーベースの脂質ナノ粒子単球標的化システムは、好適な任意の脂質ナノ粒子、及びナノ粒子の表面に表示できる、本明細書に開示される1つ以上の単球標的化アプタマー(例えばJ10)を含むことができる。単球標的化アプタマーの少なくとも一部分は、アプタマーが結合パートナー、例えば単球などの循環血液細胞の表面と相互作用できるように、脂質ナノ粒子の表面に暴露されてもよい。一部の実施形態において、リポソームにおける脂質と単球標的化アプタマーの比は、1,000,000:1~30:1(w/w)の範囲である。一部の例において、その比は、1,000:1、30:1~50:1(w/w)、例えば30:1~40:1又は40:1~50:1である。
【0019】
本明細書に記載の単球標的化アプタマー結合脂質ナノ粒子(LNP)は、単球、好中球、及び/又は傷害部位に遊走し得る他の循環血液細胞に結合することが可能である。一部の実施形態において、LNPは、内皮細胞などの他の種類の細胞と比較して、単球に特異的に結合する。単球などの標的細胞に「特異的に結合する」LNPは、当該技術分野で良く理解されている用語であり、当該特異的結合を判断する方法も当該技術分野で周知である。LNPは、代替的な標的細胞(例えば内皮細胞)と反応又は結合する場合より高頻度で、迅速に、長い時間にわたって、且つ/又は大きな親和性で標的細胞と反応又は結合する場合に、単球などの標的細胞に対する「特異的結合」活性を発揮すると言われる。LNPは、内皮細胞などの他の種類の細胞に結合する場合より大きな親和性、結合力で、容易に、且つ/又は長い時間にわたって結合する場合に、単球に「特異的に結合する」。定義を読むことにより、例えば、第1の標的細胞に特異的に結合するLNPは、第2の標的細胞に特異的又は優先的に結合してもしなくてもよいことも理解される。そのように、「特異的結合」又は「優先的結合」は、排他的結合を(含むことができるが)必ずしも必要としない。概して、結合への言及は、必ずしもではないが、優先的結合を意味する。一部の具体例において、本明細書に記載のLNPは、内皮細胞に結合しないため、血栓症を誘発しない。即ち、LNPは、内皮細胞に結合しない、又は実質的に低レベルで内皮細胞に結合するため、結合するとしても、有意な血栓症(例えば、通常の医学的アッセイによって判断できる臨床的に重大な血栓症)を誘発するのに十分でない。
【0020】
一部の場合において、本明細書に開示される脂質ナノ粒子は、1つ以上の単球標的化アプタマーを表面表示できるリポソームであってもよい。本明細書に使用されている「リポソーム」という用語は、内部の水性スペースを囲む外側脂質層膜(例えば、単層リポソームとして知られる単一脂質二重層、又は多層リポソームとして知られる多重脂質二重層)を含む組成物を指す。例えば、Cullis et al., Biochim. Biophys Acta, 559: 399-420 (1987)参照。単層リポソームは、概して、約20から約400ナノメートル(nm)、約50から約300nm、約300から約400nm又は約100から約200nmの範囲の径を有する。多層リポソームは、通常、約1から約10マイクロメートルの範囲の径を有し、水相の層と交互の同心の2から100のいずれかの脂質二重層を含んでいてもよい。
【0021】
脂質二重層の各々は、逆向きに配向した両親媒性脂質分子を含む2つの単層を含んでいてもよい。両親媒性脂質は、典型的には、1つ以上の非極性(疎水性)アシル又はアルキル鎖に共有結合した極性(親水性)先端基を含む。疎水性アシル鎖と周囲の水性媒体とのエネルギー的に好ましくない接触は、極性先端基が二重層の表面に向かって配向し、アシル鎖が二重層の内部に向かって配向するように両親媒性脂質分子を誘発し、両親媒性脂質分子を配置させることで、水性環境との接触からアシル鎖を効果的に保護する。
【0022】
1つ以上の天然及び/又は合成脂質化合物は、本明細書に記載のリポソームの調製に使用されてもよい。リポソームは、負に帯電した脂質、正に帯電した脂質、又はそれらの組合せを含んでいてもよい。好適な負に帯電した脂質の例としては、ジミリストイル、-ジパルミトイル-及びジステアロイルファスファチジルグリセロール、ジミリストイル、-ジパルミトイル-及びジパルミトイルホスファチジン酸、ジミリストイル、-ジパルミトイル-及びジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、それらの不飽和ジアシル及びアシル鎖同等物の混合体、並びにカルジオリピンが挙げられるが、それらに限定されない。正に帯電した脂質の例としては、N,N’-ジメチル-N,N’-ジオクタシルアンモニウムブロミド(DDAB)及びクロリド(DDAC)、N-(1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、3-ベータ-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエチル)カルバモイル]コレステロール(DC-コール)、1,2-ジオレオイルオキシ-3-[トリメチルアンモニオ]-プロパン(DOTAP)、1,2-ジオクタデシルオキシ-3-[トリメチルアンモニオ]-プロパン(DSTAP)及び1,2-ジオレオイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムクロリド(DORI)、並びに例えばMartin et al., Current Pharmaceutical Design 2005, 11, 375-394に記載されている陽イオン性脂質が挙げられるが、それらに限定されない。好適な電荷的に中性の脂質の例としては、DLPC(1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)、DMPC(1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)、DPPC(1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)、DSPC(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)、DOPC(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)、DMPA(1,2-ジテトラデカノイル-sn-グリセロ-3-リン酸ナトリウム)、DPPE(1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)、及びDOPE(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0023】
一部の実施形態において、本明細書に記載のリポソームは、1つ以上のリン脂質、並びに任意に、疎水性部分及び親水性部分の両方を有する類似の分子形状及び寸法の1つ以上のさらなる分子(例えばコレステロール)を使用して調製できる。本明細書に記載のリポソームを調製するのに使用するための好適なリン脂質としては、ホスファチジルコリン(レシチン)、リソレシチン、リソホスファチジルエタノール-アミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)、カルジオリピン、ホスファチジン酸、セレブロシド、ジセチルホスフェート、ホスファチジルコリン及びジパルミトイル-ホスファチジルグリセロールが挙げられるが、それらに限定されない。さらなる非リン含有脂質としては、ステアリルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシル-アミン、パルミチン酸アセチル、リシノール酸グリセロール、ステアリン酸ヘキサデシル、ミリスチン酸イソプロピル、両性アクリルポリマー、脂肪酸、脂肪酸アミド、コレステロール、コレステロールエステル、ジアシルグリセロール、及びジアシルグリセロールスクシネート等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0024】
一部の実施形態において、本明細書に記載のリポソームの主たる脂質成分は、鎖長及び飽和度が異なる様々なアシル鎖基を有していてもよいホスファチジルコリンであり得る。一部の例において、ホスファチジルコリンは、炭素鎖長が例えばC14-C22の範囲の飽和脂肪酸を含む。飽和長鎖ホスファチジルコリンは、それらの不飽和同等物よりインビボでの透過性が低く安定性が高い。一又は二不飽和脂肪酸、及び飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の混合物を有するホスファチジルコリンも使用してもよい。
本明細書に記載のリポソームはいずれも、ステロール、好ましくはコレステロールを約0.1~1.0(コレステロール:リン脂質)の範囲のモル比でさらに含んでいてもよい。一部の例において、リポソームは、ジステアロイルホスファチジルコリン/コレステロール、ジパルミトイルホスファチジルコリン/コレステロール、ジミリストイルホスファチジルコリン/コレステロール、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)/コレステロール、又は卵スフィンゴミエリン/コレステロールの組合せを含んでいてもよい。
【0025】
必要であれば、本明細書に記載のリポソームをポリマー層で被覆してインビボでのリポソームの安定性を高めることができる(例えば立体安定化リポソーム)。好適なポリマーの例としては、リポソームの循環半減期を向上させ、治療標的に到達するリポソームの量を増加させる親水性表面層を形成できるポリ(エチレングリコール)が挙げられるが、それに限定されない。例えば、Working et al. J Pharmacol Exp Ther, 289: 1128-1133 (1999)、Gabizon et al., J Controlled Release 53: 275-279 (1998)、AdlakhaHutcheon et al., Nat Biotechnol 17: 775-779 (1999)、及びKoning et al., Biochim Biophys Acta 1420: 153-167 (1999)参照。本明細書に記載のリポソームを作製するのに使用するための有用なPEG-脂質の例としては、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-350](mPEG350PE)、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-550](mPEG550PE)、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-750](mPEG750PE)、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-1000](mPEG1000PE)、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](mPEG2000PE)、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-3000](mPEG3000PE)、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000](mPEG5000PE)、N-アシル-スフィンゴシン-1-[スクシニル(メトキシポリエチレングリコール)750](mPEG750セラミド)、N-アシル-スフィンゴシン-1-[スクシニル(メトキシポリエチレングリコール)2000](mPEG2000セラミド)、及びN-アシル-スフィンゴシン-1-[スクシニル(メトキシポリエチレングリコール)5000](mPEG5000セラミド)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0026】
本明細書に記載のリポソームを調製するために様々な方法を使用することができる。当該方法は、当該技術分野で公知である、又は本明細書に開示されており、例えば、Lichtenberg and Barenholz in Methods of Biochemical Analysis, Volume 33, 337-462 (1988)に記載の方法である。その各々の該当開示内容が参照により本明細書に組み込まれているSzoka et al., Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:467 (1980)、米国特許第4,235,871号、第4,501,728号及び第4,837,028号、Liposomes, Marc J. Ostro, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1983, Chapter 1、並びにHope, et al., Chem. Phys. Lip. 40:89 (1986)も参照。前述のように薄膜水和及び反復押出の標準的方法の組合せによって小さな単層ベシクル(SUV、サイズ<100nm)を調製することができる(Tseng et al., 1999)。
【0027】
リポソームを所望のサイズに設定するために従来の技術が利用可能である。例えば、その各々の該当開示内容が参照により組み込まれている米国特許第4,737,323号、及びHope et al., Biochim. Biophys. Acta, 812: 55-65 (1985)参照。槽又はプローブ超音波処理によりリポソーム懸濁液を超音波処理すると微粉化が進行して、サイズが約50nm未満の小さな単層ベシクルになる。均質化又は微小流体化は、剪断エネルギーに依存して、大きなリポソームを小さなリポソームに断片化する他の方法である。典型的な均質化手順では、選択されたリポソームサイズ、典型的には約100~500nmが確認されるまで、標準的なエマルジョンホモジナイザを介して多層ベシクルを再循環する。いずれの方法においても、粒子サイズ分布を従来のレーザビーム粒子サイズ識別法によってモニタリングできる。
小孔ポリカーボネート膜又は非対称セラミック膜を介するリポソームの押出は、リポソームサイズを比較的明確なサイズ分布まで小さくする非常に有効な方法である。典型的には、所望のリポソームサイズ分布が達成されるまで、懸濁液を、1回以上膜を介して循環させる。リポソームを、段階的に穴が小さくなった膜を介して押し出して、リポソームサイズを漸進的に小さくすることを達成できる。
【0028】
本明細書に記載のリポソームをいずれも従来の方法によって分析して、その物理的及び/又は化学的特徴を判断することができる。例えば、ホスフェートアッセイを使用してリポソーム濃度を判断することができる。1つのホスフェートアッセイは、モリブデートとマラカイトグリーン染料との相互作用に基づく。主原理は、無機ホスフェートがモリブデートと反応して、酸性条件下で還元されると青色の錯体に変換される無色の未還元ホスホモリブデート錯体を形成することである。ホスホモリブデートは、マラカイトグリーンと錯体を形成すると、色が20又は30倍になる。最終生成物の還元緑色可溶性錯体を620nmのその吸光度で測定し、溶液中の無機ホスフェートの直接的な尺度とする。
他の実施形態において、本明細書に記載の薬物送達のための粒子は、1つ以上のポリマー又はコポリマーで構成されたナノ粒子であり得る。例えば、ナノ粒子は、通常の技術によって調製できる乳酸・グリコール酸共重合体(PLAG)ナノ粒子であり得る。
本明細書に開示される単球特異的核酸アプタマーはいずれも、従来の手法により脂質ナノ粒子に結合されてもよい。例えば、ドッキング核酸断片が、脂質ナノ粒子に付着されていてもよい。ドッキング核酸断片は、単球特異的核酸アプタマーの一部分、例えば、アンカー核酸断片又はその一部分に相補的なヌクレオチド配列を含む。塩基対を介して、アプタマーを脂質ナノ粒子に付着させることができる。
【0029】
ドッキング核酸断片を結合するために、本明細書に記載のリポソームの調製に使用される1つ以上の天然及び/又は合成脂質化合物は、ドッキング核酸断片と反応できる少なくとも1つの活性化末端基を有していてもよい。脂質化合物誘導体の末端基形態の例としては、メチル化、カルボキシル化、アミノ化及びマレイル化が挙げられる。一部の例において、本明細書に記載のリポソームの調製に使用される脂質化合物は、カルボキシルを末端とする脂質、アミノを末端とする脂質、ヒドラジドを末端とする脂質、又はマレイミドを末端とする脂質であってもよい。一部の例において、本明細書に記載のリポソームの調製に使用される脂質化合物は、N-(5’-ヒドロキシ-3’-オキシペンチル)-10-12-ペンタコサジインアミド(h-PEG1-PCDA)、N-(5’-スルホ-3’-オキシペンチル-1)-10-12-ペンタコサジインアミド(スルホ-PEG1-PCDA)、N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-750]-10-12-ペンタコサジインアミド(m-PEG750-PCDA)、N-[マレイミド(ポリエチレングリコール)-1500]-10-12-ペンタコサジインアミド(mal-PEG1500-PCDA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[マレイミド(ポリエチレングリコール)-2000](Mal-PEG-DSPE)、L-a-ホスファチジルコリン水添大豆(水添大豆PC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、コレステロール、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](m-Peg2000-DSPE)、及びそれらの組合せであってもよい。
【0030】
ドッキング核酸は、上記の活性化末端基との反応を介して脂質ナノ粒子に付着されていてもよい。一部の例において、ドッキング核酸は、反応基、例えばチオール基を付加するために修飾されてもよい。当該ドッキング核酸は、脂質上の活性化末端基と反応して、共有結合を形成することができる。
一部の例において、本明細書に記載のドッキング核酸断片は、結合技術により、本明細書に記載の脂質化合物誘導体の活性化末端基に付着されていてもよい。好適な結合技術の例としては、カルボニル付加・脱離/還元的アミノ化、アミド化、マレイミド-チオールカップリング、グルタルアルデヒド架橋、イソチオシアネート-アミンカップリング、ヒドラゾンカップリング、オキシムカップリング、シッフ塩基形成/還元、水性ディールス・アルダー及び「クリック」ケミストリが挙げられる。一部の例において、本明細書に記載のドッキング核酸断片を本明細書に記載の脂質化合物誘導体に、それらを還元剤の存在下でインキュベートすることによって結合させる。一部の例において、ドッキング核酸断片と還元剤と脂質化合物誘導体とのモル比が約1:10:20である場合に、本明細書に記載の脂質化合物誘導体に対する本明細書に記載のドッキング核酸断片の結合が生じる。一部の例において、本明細書に記載の脂質化合物誘導体に対する本明細書に記載のドッキング核酸断片の結合は、効率が約70%から約100%である。
【0031】
一部の実施形態において、本明細書に開示される単球標的化アプタマーは、LNPを含む脂質に結合されたドッキング核酸断片を介して、本明細書に開示されるLNPにハイブリダイズされてもよい。一部の例において、ドッキング核酸断片は、本明細書に開示される単球標的化アプタマーと相互作用し、単球標的化アプタマーは、ドッキング核酸断片に対応するアンカー核酸断片を含む。一部の例において、単球標的化アプタマーは、約8時間から約18時間のインキュベーションによりドッキング核酸断片に結合された脂質を含むLNPにハイブリダイズする。一部の例において、インキュベーション時の単球標的化アプタマーに対するドッキング核酸断片を含むLNPの比率は、約1:0.25、1:0.5、1:1.25、1:1.50、1:1.75、1:2、1:2.5、1:3、1:4又は1:5であってもよい。一部の例において、本明細書に開示される単球標的化アプタマーに対するドッキング核酸断片のハイブリダイゼーションは、効率が約8%から約85%であり得る。
【0032】
(ii)治療薬及び診断薬
本明細書に記載の単球標的化アプタマー標識脂質ナノ粒子(LNP)はいずれも、がん治療のための治療薬(例えば、化学療法薬、タンパク質ベースのがん治療薬、核酸ベースのがん治療薬若しくは放射線剤)を含む治療薬、例えば抗がん薬、又はがん検出のための診断薬を封入することができる。
【0033】
化学療法薬の例としては、ドセタキセル、ミトキサントロン、ドキソルビシン、ゲムシタビン、ピリミジン類似体(5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、カペシタビン、ゲムシタビン及びシタラビン)、プリン類似体、フォレートアンタゴニスト及び関連阻害薬(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン及び2-クロロデオキシアデノシン(クラドリビン))、ビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン及びビノレルビン)などの天然産物、タキサン(パクリタキセル、ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセル(Abraxane(登録商標))、ドセタキセル)、エリブリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ノコダゾール、エポチロン及びナベルビンなどの微小管破壊剤、エピジポドフィロトキシン(エトポシド及びテニポシド)、DNA損傷剤(アクチノマイシン、アムサクリン、アントラシクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、シストキサン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ヘキサメチルメラミンオキサリプラチン(hexamethyhnelamineoxaliplatin)、イホスファミド、メルファラン、メクロレタミン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ニトロソ尿素、プリカマイシン、プロカルバジン、タキソール、タキソテール、テニポシド、トリエチレンチオホスホルアミド及びエトポシド(VP16))を含む抗増殖/抗有糸分裂薬、ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシン、アントラシクリン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)及びマイトマイシンなどの抗生物質、酵素(L-アスパラギンを全身代謝させ、それら自体のアスパラギンを合成する能力のない細胞を奪うL-アスパラギナーゼ)、抗血小板薬、窒素マスタード(メクロレタミン、シクロホスファミド及び類似体、メルファラン、クロルアンブシル)、エチレンイミン及びメチルメラミン(ヘキサメチルメラミン及びチオテパ)、アルキルスルフォネート-ブスルファン、ニトロソ尿素(カルムスチン(BCNU)及び類似体、ストレプトゾシン)、トラゼン-ダカルバジニン(DTIC)などの抗増殖/抗有糸分裂アルキル化剤、葉酸類似体(メトトレキセート)などの抗増殖/抗有糸分裂抗代謝薬、白金配位錯体(シスプラチン、カルボプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシ尿素、ミトタン、アミノグルテチミド、ホルモン、ホルモン類似体(エストロゲン、タモキシフェン、ゴセレリン、ビカルタミド、ニルタミド)及びアロマターゼ阻害薬(レトロゾール、アナストロゾール)、抗凝血薬(ヘパリン、合成ヘパリン塩及び他のトロンビン阻害薬)、繊維素溶解薬(組織プラスミノゲン活性剤、ストレプトキナーゼ及びウロキナーゼなど)、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブ、抗遊走薬、抗分泌薬(ブレベルジン)、免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス(FK-506)、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、メシル酸イマチニブ(GLEEVEC(商標))、エルロチニブ塩酸塩(TARCEVA(商標))、スニチニブリンゴ酸塩(SU11248、SUTENT(商標))、ゲフィチニブ(IRESSA(商標))、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、マイコフェノレートモフェチル)、抗血管新生化合物(例えば、TNP-470、ゲニステイン、ベバシズマブ)及び成長因子阻害薬(例えば、線維芽細胞成長因子(FGF)阻害薬)、アンジオテンシン受容体ブロッカー、一酸化窒素供与体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抗体(トラスツズマブ)、細胞周期阻害薬及び分化誘導物質(トレチノイン)、mTOR阻害薬、トポイソメラーゼ阻害薬(ドキソルビシン(アドリアマイシン)、アムサクリン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、エニポシド、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、ミトキサントロン、トポテカン、イリノテカン(例えば、Onivyde(登録商標)などのイリノテカンリポソーム注射剤)、コルチコステロイド(コルチソン、デキサメタソン、ヒドロコルチソン、メチルプレドニソロン、プレドニソン及びプレドニソロン)、成長因子シグナル伝達キナーゼ阻害薬、ヌクレオチド類似体及びチミジンホスホリラーゼ阻害薬(例えば、トリフルリジン-チピラシル又はLonsurf(登録商標))、ミトコンドリア機能障害誘発物質及びカスパーゼ活性剤、クロマチン破壊剤又はチェックポイント阻害薬(例えば、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA-4、LAG3、TIM-3、A2aR、TIGIT及びVISTA)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0034】
(腫瘍抑制遺伝子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、miRNA又はshRNAを含む)核酸-酸ベースの治療薬の例としては、その各々の開示内容の全体が参照により本明細書に組み込まれている米国公開特許出願第2007/0065499号及び米国特許第7,780,882号に記載されているものが挙げられる。抗体ベースの治療薬の例としては、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツルヌマブ、アレムツズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブが挙げられるが、それらに限定されない。
【0035】
或いは、本明細書に記載の単球標的化アプタマー標識脂質ナノ粒子(LNP)はいずれも、診断薬を封入することができる。例示的な診断薬は、医学的イメージング剤、例えば、造影剤、放射性薬剤、放射性医薬品、酸化鉄粒子等であってもよい。インビボイメージングに好適な放射性分子としては、122I、123I、124I、125I、131I、18F、75Br、76Br、77Br、211At、225Ac、177Lu、153Sm、186Re、188Re、67Cu、213Bi、212Bi、212Pb及び67Gaが挙げられるが、それらに限定されない。インビボイメージングに好適な例示的な放射性医薬品としては、111Inオキシキノリン、131Iヨウ化ナトリウム、99mTcメブロフェニン及び99mTc赤血球、123Iヨウ化ナトリウム、99mTcエキサメタジム、99mTc粗大凝集アルブミン、99mTcメドロネート、99mTcメルチアチド、99mTcオキシドロネート、99mTcペンテテート、99mTcパーテクネテート、99mTcセスタミビ、99mTc硫黄コロイド、99mTcテトロホスミン、タリウム-201並びにキセノン-133が挙げられる。診断薬は、対象の腫瘍部位などの疾患部位を検出するのに有用である染料、例えばフルオロフォアであることもできる。本明細書に記載の治療薬又は診断薬はいずれも、従来の方法又は本明細書に記載の方法によって、本明細書にも記載の好適なリポソームに組み込むことが可能である。一部の実施形態において、リポソームは、例えば、意図する目的で参照により本明細書に組み込まれているMaurer et al., Expert Opinion in Biological Therapy 1, 923-47、NBoman et al., Cancer Res. 54, 2830-2833、Waterhouse et al., Methods Enzymol. 391 (2005) 40-57に記載されているように、リポソーム膜(リポソーム内部は酸性である)に対してpH勾配を与え、リポソームを、封入される治療又は診断薬とともにインキュベートすることによって装填できる。この方法は、当該技術分野で使用される「活性装填」を意味することが理解される。一部の例において、pH勾配は、意図する目的で参照により本明細書に組み込まれているHaran et al., Biochim. Biophys. Acta 1115 (1993) 201-215及び米国特許第5,316,771号に概説されている硫酸アンモニウム勾配であり得る。治療薬又は診断薬がリポソームに装填されると、組成物をそのまま使用することもできるし、組成物をさらに処理してあらゆる未装填薬物を除去することもできる。
【0036】
pH装填技術は、一般に2つの工程、即ち低リポソーム内pHでのpH勾配の生成、及びその後の治療薬又は診断薬の装填を含む。膜透過プロトン勾配を様々な方法によって生成することができる。例えば、リポソームをpH4のクエン酸緩衝剤などの低pH緩衝剤中で調製した後、外部緩衝液をpH7.5緩衝剤と交換することができる(例えば、Madden et al., Chem. Phys. Lipids, 53:37-46 (1990))。或いは、イオノフォアを陽イオン勾配(高内部陽イオン濃度)と併用することができる(例えば、Fenske et al., Biochim Biophy. Acta, 1414:188-204 (1998))。ニゲリシン及びA23187などのイオノフォアは、一価又は二価陽イオンの外方向移動をそれぞれプロトンの内方向移動に結びつけるため、リポソームの内部が酸性になる。また、リポソームを高濃度の硫酸アンモニウムなどの弱塩基の存在下で調製することができる(Haran et al., Biochim. Biophys. Acta, 1151:201-215 (1993))。外部アンモニウム塩溶液を除去すると、同様の原理に従ってpH勾配が生成し、その後の薬物装填プロセスにも関与する。
【0037】
pH勾配に加えて、金属イオン勾配を治療薬又は診断薬の活性装填に使用することもできる。例えば、Cheung et al., Biochim Biophys Acta, 1414:205-216 (1998)参照。弱塩基治療薬又は診断薬の中性形態は、膜を浸透することが可能であり、薬物-金属イオン錯体の形成を通じてリポソームの水性の内部に保持される。
治療薬又は診断薬が水溶性の弱塩基薬物である場合は、それを水溶液(例えば、300mMスクロース、又は適切なpHを有する等張緩衝液)に溶解し、リポソーム懸濁液と組み合わせ、次いで好適な温度でインキュベートしてもよい。薬物溶液は、薬物の溶解度を高めるために少量の水混和性有機溶媒(例えば10%未満のエタノール)を含むことができる。インキュベーション温度及び時間は、脂質組成及び薬物の性質に依存する。典型的には、DSPC/コレステロールなどのコレステロール及び長鎖飽和脂肪酸から構成されるリポソームは、短鎖飽和脂質(例えばDMPC/コレステロール)又は不飽和脂質から形成されるリポソームより透過性が低く、高速で効率的な装填を達成するためにより高い温度を必要とする。例えば、DSPC/コレステロールリポソームは、典型的には、60℃以上の温度を必要とし、装填は、典型的には5~15分後に完了するが、2時間まで要することがある。
【0038】
治療薬又は診断薬が脂溶性である場合は、リポソーム二重層の2つの単層の間の薬剤の分布を可能にする条件下でリポソームを作製するために、薬剤を脂質と混合することができる。次いで、外部単層における薬剤を、本明細書に記載の方法を使用して、膜貫通pH又は他のイオン勾配に対応して、リポソーム内部に装填する(LN二重層の内部単層に投じる)ことができる。
リポソームへの化合物の遠隔装填には、Ceh et al., Biochim Biophys Acta. 1995 Nov 1;1239(2):145-56に記載される膜貫通勾配の形成が採用される。この方法は、リポソームに装填される治療薬又は診断薬及びボロン酸化合物を懸濁リポソームとともにインキュベートすることによって、リポソーム内の治療薬の蓄積を達成することを含む(Ceh et al., 1995及び米国特許第6,051,251号)。
【0039】
医薬組成物及びそれらの使用
1つ以上の治療薬又は診断薬を含む、本明細書に開示される単球標的化脂質ナノ粒子をいずれも、医薬として許容される担体と混合して、例えば標的疾患を治療するのに使用するための医薬組成物を形成することができる。「許容される」とは、担体が、組成物の有効成分と相溶性を有する(且つ好ましくは、有効成分を安定化することが可能である)とともに、処置される対象に有害でないことが必要であることを意味する。医薬として許容される賦形剤(担体)は、当該技術分野で周知である緩衝剤を含む。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed. (2000) Lippincott Williams and Wilkins, Ed. K. E. Hoover参照。
本方法に使用される医薬組成物は、凍結乾燥配合物又は水溶液の形態で医薬として許容される担体、賦形剤又は安定剤を含むことができる。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed. (2000) Lippincott Williams and Wilkins, Ed. K. E. Hoover参照。許容される担体、賦形剤又は安定剤は、使用される投与量及び濃度でレシピエントに無毒であり、ホスフェート、シトレート及び他の有機酸などの緩衝剤、アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤、(オクタデシルジメチルベンジルクロリド、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンズアルコニウム、塩化ベンズエトニウム、フェノール、ブチル若しくはベンジルアルコール、メチル若しくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール及びm-クレゾールなどの)防腐剤、(約10残基未満の)低分子量ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン若しくは免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン若しくはリシンなどのアミノ酸、グルコース、マンノース若しくはデキストランを含む単糖、二糖及び他の炭水化物、EDTAなどのキレート剤、スクロース、マンニトール、トレハロース若しくはソルビトールなどの糖、ナトリウムなどの塩形成対イオン、金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体)、並びに/又はTween(商標)、PLURONICS(商標)若しくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含むことができる。
【0040】
本開示は、本明細書に記載の治療薬又は診断薬の1つ以上、及び医薬として許容される担体又は賦形剤を封入できる本明細書に記載の単球標的化アプタマー結合脂質ナノ粒子(LNP)のいずれかを含む医薬組成物も提供する。医薬組成物における担体は、それが組成物の有効成分と相溶性を有し、好ましくは有効成分を安定化させることが可能であり、処置される対象に有害でないという意味で「許容される」必要がある。
本明細書に開示される医薬組成物のための好適な担体又は賦形剤は、LNPを吸収し、単球に対するLNPの結合を容易にし、且つ/又は単球から発生するマクロファージによるLNPのエンドサイトーシスを強化する個体の身体の能力を高める物質であってもよい。好適な担体及び/又は賦形剤は、簡便且つ正確な投与を可能にするために本明細書に記載の修飾LNPで配合物の体積を大きくするために使用できる任意の物質も含む。加えて、担体及び/又は賦形剤は、本明細書に記載のLNPのハンドリングを補助するために製造工程で使用されてもよい。投与経路及び投薬形態に応じて、異なる担体及び/又は賦形剤を使用してもよい。例示的な賦形剤としては、抗接着剤、結着剤、コーティング剤、崩壊剤、フィラー、(甘味料などの)香味料及び着色剤、流動促進剤、滑剤、防腐剤、吸着剤が挙げられるが、それらに限定されない。本明細書に記載の担体及び/又は賦形剤は、ビヒクル及び/又は希釈剤を含んでいてもよく、「ビヒクル」は、通常は溶媒又は担体として作用する様々な媒体のいずれかを示し、「希釈剤」は、組成物の有効成分を希釈するために補給される希釈剤を示し、好適な希釈剤は、医薬製剤の粘度を低下させることができる任意の物質を含む。
【0041】
担体及び/又は賦形剤の種類及び量は、選択された医薬形態に応じて選択される。好適な医薬形態は、溶液、浸出液、懸濁液のような液体系、コロイド、ゲル、ペースト又はクリームのような半固体系、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、ペレット、微粒、微小錠剤、マイクロカプセル、マイクロペレット、座剤のような固体系等である。上記系の各々は、当該技術分野で周知の技術を使用して、通常、遅延又は加速放出のために好適に配合できる。
1つ以上の治療薬又は診断薬を含む本明細書に記載の単球標的化LNPを含む医薬組成物は、標準的な技術並びに本明細書に記載の技術に従って調製できる。一部の例において、細管内投与、静脈内投与、皮下投与又は筋肉内投与を含む非経口投与のために配合される。一部の例において、医薬組成物は、ボーラス注射又は注入により静脈内投与される。本発明に使用するための好適な配合物は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, Pa., 17th ed. (1985)に見いだされる。
【0042】
一部の例において、医薬組成物は、静脈内注入などの注射のために配合される。無菌の注射可能組成物、例えば無菌の注射可能水性又は油性懸濁液は、好適な分散若しくは湿潤剤(例えばTween80)又は懸濁剤を使用して、当該技術分野で公知の技術により配合できる。無菌の注射可能製剤は、例えば1,3-ブタンジオール中溶液としての無毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の無菌の注射可能溶液又は懸濁液とすることもできる。採用できる許容されるビヒクル及び溶媒は、マンニトール、水、リンガー溶液及び等張性塩化ナトリウム溶液である。加えて、無菌の固定油が、溶媒又は懸濁媒体(例えば合成モノ又はジグリセリド)として従来通り採用される。オレイン酸及びそのグリセリド誘導体などの脂肪酸は、特にそれらのポリオキシエチル化バージョンにおいて、オリーブ油又はヒマシ油などの天然の医薬として許容される油のように、注射剤の調製に有用である。これらの油溶液又は懸濁液は、長鎖アルコール希釈剤若しくは分散剤、又はカルボキシメチルセルロース若しくは類似の分散剤、Tween若しくはSpansなどの他の広く使用されている界面活性剤、又は医薬品の製造に広く使用されている他の類似の乳化剤若しくは生物学的利用性エンハンサーを含むこともできる。
【0043】
医薬組成物はいずれも、担体として循環単球を使用して治療薬を所望の標的部位に送達するために使用できる。この使用を実行するために、任意の単球標的化アプタマー又はそれらのリンカー結合体及び治療薬を含む有効量の医薬組成物を、本明細書に記載のものなどの好適な経路を介して、治療を必要とする対象(例えばヒト対象)に投与することができる。また、この使用を実行するために、治療薬(例えば抗炎症薬)を封入する本明細書に記載のLNPのいずれかを含む有効量の医薬組成物を、本明細書に記載のものなどの好適な経路を介して、治療を必要とする対象(例えばヒト対象)に投与することができる。単球に対する結合活性により、LNPは、対象の循環単球と結合し、単球が蓄積する部位(例えば、炎症が生じる部位)に送達される。単球が内皮細胞層を交差すると、それらは、エンドサイトーシスを介して、結合したLNPを吸収するマクロファージに分化することにより、捕捉された治療薬を放出してその治療効果を発揮させる。
本明細書に使用される「有効量」は、対象に治療効果を付与するのに必要な活性薬剤単独又は1つ以上の他の活性薬剤と組み合わせた、各活性薬剤の量を指す。有効量は、当業者が認識するように、投与経路、賦形剤の利用、及び他の活性薬剤との使用に応じて異なる。
【0044】
当該量は、勿論、治療されている特定の状態、状態の重度、年齢、身体的状態、サイズ、性別及び体重を含む個別的な患者のパラメータ、治療継続期間、併用療法(存在する場合)の性質、具体的な投与経路及び知識の範囲内での類似要因、並びに医療従事者の見解に依存する。これらの要因は、当業者に周知であり、日常の実験だけで対応できる。個々の成分又はそれらの組合せの最大用量、即ち的確な医学的判断による最大限の安全用量を使用することが一般的に好ましい。しかし、患者は、医学的理由、心理学的理由、又は実質的にあらゆる他の理由から、より低い用量又は許容可能な用量を要求し得ることを当業者は理解する。
一部の実施形態において、本明細書に記載の抗がん薬を含む医薬組成物は、がんを治療するのに使用するためのものである。「治療している(処置している)(treating)」という用語は、本明細書で使用される場合、アレルギー性疾患、アレルギー性疾患の症状又はアレルギー疾患に罹りやすい体質を有する対象に、1つ以上の活性薬剤を含む組成物を、当該疾患、当該疾患の症状又は当該疾患に罹りやすい体質を治療、治癒、軽減、緩和、変更、矯正、改善、向上する、又はそれに影響を及ぼす目的で、適用又は投与することを指す。
【0045】
一部の実施形態において、本開示は、対象における固形腫瘍を治療するための方法であって、それを必要とする対象に、本明細書に記載の医薬組成物の有効量を投与することを含む方法を提供する。本明細書に記載のLNPは、固形腫瘍を有する対象、固形腫瘍を有することが疑われる対象、又は固形腫瘍の存在のリスクがある対象に投与された後に、単球に付着することにより、固形腫瘍に送達されて、標的部位で所望の治療効果を発揮することができる。例示的な固形腫瘍としては、膵管腺がん(PDA)、大腸がん(CRC)、黒色腫、胆管癌、乳がん、小細胞及び非小細胞肺がん、上部及び下部胃腸悪性腫瘍、胃がん、扁平上皮頭頸部がん、泌尿生殖器がん、肝細胞癌、卵巣がん、肉腫、中皮腫、膠芽細胞腫、食道がん、膀胱がん、尿路上皮がん、腎臓がん、子宮頸及び子宮内膜がんが挙げられるが、それらに限定されない。一部の実施形態において、本開示は、対象における腫瘍転移を治療するための方法であって、それを必要とする対象に、本明細書に記載の医薬組成物の有効量を投与することを含む方法を提供する。本明細書に記載のLNPは、腫瘍転移を有する対象、腫瘍転移を有することが疑われる対象、又は腫瘍転移のリスクがある対象に投与された後に、単球に付着することにより、転移腫瘍領域に送達されて、標的部位で所望の治療効果を発揮することができる。
【0046】
一部の実施形態において、本開示は、対象における膵臓がんを治療するための方法であって、それを必要とする対象に、本明細書に記載の単球標識LNPを含む医薬組成物の有効量を投与することを含む方法を提供する。一部の態様において、膵臓がんを治療するために使用される単球標識LNPは、エルロチニブ塩酸塩、エベロリムス、5-FU(フルオロウラシル注射剤)、ゲムシタビン塩酸塩、ジェムザール(ゲムシタビン塩酸塩)、塩酸イリノテカンリポソーム、マイトマイシンC、パクリタキセルアルブミン安定化ナノ粒子配合物、スニチニブリンゴ酸塩及びホルフィルノクスのうちの1つ以上を封入する。
一部の実施形態において、本開示は、対象における卵巣がんを治療するための方法であって、それを必要とする対象に、本明細書に記載の単球標識LNPを含む医薬組成物の有効量を投与することを含む方法を提供する。一部の態様において、卵巣がんを治療するために使用される単球標識LNPは、ベバシズマブ、カルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、塩酸ドキソルビシン、塩酸ドキソルビシンリポソーム、ゲムシタビン塩酸塩、メルファラン、ニラパリブトシル酸塩一水和物、オラパリブ、パクリタキセル、カンシル酸ルカパリブ(Rucaparib Camsylate)、チオテパ及びトポテカン塩酸塩のうちの1つ以上を封入する。
【0047】
一部の実施形態において、本開示は、対象における乳がんを治療するための方法であって、それを必要とする対象に、本明細書に記載の単球標識LNPを含む医薬組成物の有効量を投与することを含む方法を提供する。一部の態様において、乳がんを治療するために使用される単球標識LNPは、ラロキシフェン塩酸塩、タモキシフェンクエン酸塩、ベマシクリブ(bemaciclib)、アド-トラスツズマブエムタンシン、アルペリシブ、アナストロゾール、アテゾリズマブ、カペシタビン、シクロホスファミド、ドセタキセル、塩酸ドキソルビシン、エピルビシン塩酸塩、エリブリンメシル酸塩、エベロリムス、エキセメスタン、5-FU(フルオロウラシル注射剤)、フルベストラント、ゲムシタビン塩酸塩、ゴセレリン酢酸塩、イクサベピロン、レトロゾール、酢酸メゲストロール、メトトレキセート、ネラチニブマレイン酸塩、オラパリブ、パクリタキセル、パクリタキセルアルブミン安定化ナノ粒子配合物、パルボシクリブ、パミドロン酸二ナトリウム、ペルツズマブ、リボシクリブ、タラゾパリブトシル酸塩、タモキシフェンクエン酸塩、チオテパ、トレミフェン、トラスツズマブ、トラスツズマブ/ヒアルロニダーゼ-oysk及び硫酸ビンブラスチンのうちの1つ以上を封入する。
【0048】
一部の実施形態において、本開示は、対象における肺がんを治療するための方法であって、それを必要とする対象に、本明細書に記載の単球標識LNPを含む医薬組成物の有効量を投与することを含む方法を提供する。一部の態様において、肺がんを治療するために使用される単球標識LNPは、アファチニブ二マレイン酸塩、アレクチニブ、アテゾリズマブ、ベバシズマブ、ブリガチニブ、カルボプラチン、セリチニブ、クリゾチニブ、ダブラフェニブメシル酸塩、ダコミチニブ、ドセタキセル、塩酸ドキソルビシン、デュルバルマブ、エントレクチニブ、エルロチニブ塩酸塩、エベロリムス、ゲフィチニブ、ゲムシタビン塩酸塩、ロルラチニブ、塩酸メクロレタミン、メトトレキセート、ネシツムマブ、ニボルマブ、オシメルチニブメシル酸塩、パクリタキセル、パクリタキセルアルブミン安定化ナノ粒子配合物、ペムブロリズマブ、ペメトレキセド二ナトリウム、ラムシルマブ、トラメチニブ及びビノレルビン酒石酸塩のうちの1つ以上を封入する。
キット
本開示は、治療薬を標的部位に送達するのに使用するための、又は化学療法薬などの抗がん薬を腫瘍領域に送達することによってがんを治療するのに使用するためのキットも提供する。当該キットは、本明細書に記載の単球標的化アプタマー結合脂質ナノ粒子(LNP)、又は治療薬及び医薬として許容される担体を封入する類似のナノ粒子を含む本明細書に記載の医薬組成物のいずれかを含む1つ以上の容器を含むことができる。
【0049】
一部の実施形態において、キットは、本明細書に記載の方法のいずれかによる使用に対する取扱説明書を含むことができる。含まれる取扱説明書は、そこに封入される治療薬を送達するための、又は本明細書に記載の方法のいずれかによりがんを治療するための医薬組成物の投与の説明を含むことができる。キットは、治療に好適な個体を、その個体ががんを有するかどうか、がんを有することが疑われるかどうか、又はがんのリスクがあるかどうかの識別に基づいて選択することについての説明をさらに含んでいてもよい。
治療薬又は診断薬を封入するLNPを含む本明細書に記載の医薬組成物の使用に関する取扱説明書は、一般に、意図する治療についての投与量、投与スケジュール及び投与経路に関する情報を含む。容器は、単位用量、大量包装体(例えば複数回用量包装体)又は小単位用量であってもよい。本発明のキットにおいて供給される取扱説明書は、典型的には、ラベル又は添付文書(例えば、キットに含められた紙シート)での書面の取扱説明書であるが、機械可読取扱説明書(例えば、磁気又は光学記憶ディスクに保持される取扱説明書)も許容される。
【0050】
ラベル又は添付文書は、組成物が、治療薬を標的部位に送達するために、又はがんを治療するために使用されることを示す。取扱説明書は、本明細書に記載の方法のいずれかを実行するために提供されてもよい。
本明細書に記載のキットは、好適に包装されている。好適な包装としては、バイアル、ボトル、瓶、及びフレキシブル包装(例えば、密封マイラー又はプラスチックバッグ)等が挙げられるが、それらに限定されない。吸入具、経鼻投与デバイス(例えば噴霧器)、又はミニポンプなどの注入デバイスなどの特定のデバイスとの併用のための包装体も考えられる。キットは、無菌の挿入口を有していてもよい(例えば、容器は、静脈注射用溶液バッグ、又は皮下注射針が貫通可能なストッパを有するバイアルであってもよい)。容器も、無菌の挿入口を有していてもよい(例えば、容器は、静脈注射用溶液バッグ、又は皮下注射針が貫通可能なストッパを有するバイアルであってもよい)。
本明細書に記載のキットは、緩衝剤などのさらなる成分、及び解釈的情報を提供してもよい。通常、キットは、容器、及び容器上の、又は容器に随伴するラベル又は添付文書を含む。一部の実施形態において、本開示は、上記キットの内容物を含む製造品を提供する。
【0051】
一般的技術
本発明の実行には、別段の指定がなければ、当該技術分野の技能の範囲内である分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来の技術が採用される。当該技術は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, second edition (Sambrook, et al., 1989) Cold Spring Harbor Press; Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait, ed., 1984); Methods in Molecular Biology, Humana Press; Cell Biology: A Laboratory Notebook (J. E. Cellis, ed., 1998) Academic Press; Animal Cell Culture (R. I. Freshney, ed., 1987); Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P. E. Roberts, 1998) Plenum Press; Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J. B. Griffiths, and D. G. Newell, eds., 1993-8) J. Wiley and Sons; Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.); Handbook of Experimental Immunology (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds.); Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J. M. Miller and M. P. Calos, eds., 1987); Current Protocols in Molecular Biology (F. M. Ausubel, et al., eds., 1987); PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis, et al., eds., 1994); Current Protocols in Immunology (J. E. Coligan et al., eds., 1991); Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999); Immunobiology (C. A. Janeway and P. Travers, 1997); Antibodies (P. Finch, 1997); Antibodies: a practical approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989); Monoclonal antibodies: a practical approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000); Using antibodies: a laboratory manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999); The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds., Harwood Academic Publishers, 1995)などの文献において詳細に説明されている。
【0052】
さらなる検討を行うことなく、当業者は、上記説明に基づいて本発明を最大限に利用できると考えられる。したがって、以下の具体的な実施形態は、単なる例示であり、本開示の他の箇所を限定するものでは決してないと解釈されるべきである。本明細書に引用されるすべての出版物は、本明細書に言及される目的又は主題のために参照により組み込まれている。
【実施例】
【0053】
本開示を、その具体的な実施形態を参照しながら説明したが、本開示の真の主旨及び範囲を逸脱することなく、様々な変更を加えることができるとともに同等物と置き換えることができることを当業者は理解するはずである。加えて、特定の状況、材料、組成物、プロセス、1つ以上のプロセス工程を本開示の目的、主旨及び範囲に適応させるために多くの修正を加えることができる。すべての当該修正は、本開示の範囲内であることが意図される。
【0054】
(実施例1)
単球特異的アプタマーの開発
細胞-SELEX(指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化)法を使用して、単球に特異的に結合可能なDNAアプタマーを生成した。手短に述べると、10
15の配列を含むssDNAライブラリを、0.1%(w/v)BSA及び1mg/mLのサケ精子DNAが補給されたSELEX緩衝剤(150mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl
2、1mM CaCl
2及び40mM HEPES pH7.4)中にてマウス単球細胞株RAW264.7又はJ774A.1の10
6の陽性細胞とともに37℃で30分間インキュベートした。未結合ssDNAをSELEX緩衝剤による洗浄によって除去した。単球標的化ssDNAを95℃で10分間溶出し、PCRで増幅させた。基礎結合能力を確定するための6回の陽性選択の後、マウス内皮細胞株のSVECをSELEXに続く陰性選択のために添加した。16及び17サイクル後に、単球標的化ssDNAを、Illumina MiSeqシステムによる次世代シークエンシング(NGS)によって分析した。最後に、約20回の反復サイクルにわたってSELEX手法を実行することによって単球特異的アプタマーを選択した。得られたRAW264.7(
図1A)及びJ774A.1(
図1B)に特異的なアプタマーをPCRで増幅させた。得られたRAW264.7及びJ774A.1に特異的なアプタマーの結合親和性をフローサイトメトリによって測定した。手短に述べると、5×10
5のRAW264.7又はJ774A.1細胞をブロッキング緩衝剤(PBS中20%FBS及び10%サケ精子DNA)中にて4℃で30分間予備混合した。その後、細胞をブロッキング緩衝剤中にてCy5標識アプタマーの上方段階希釈物(0nMから300nM)と4℃で30分間反応させた。未結合Cy5標識をPBS中2%FBSによる洗浄及び4℃で3分間にわたる300gでの遠心分離によって除去した。最後に、サンプルにフローサイトメトリを施した。
図1Cは、得られたRAW264.7に特異的なアプタマー(AptR)の結合親和性を示し、
図1Dは、得られたJ774A.1に特異的なアプタマー(AptR)の結合親和性を示す。
図1Eは、定量的PCRを使用するインビトロの単球特異的アプタマーの選択を示す。
【0055】
上記の細胞-SELEXプロセスにより、最良の候補としてのJ10アプタマーが得られた。J10の配列をスクランブルして対照アプタマーS2を得た。得られたS2アプタマーは、J10アプタマーと同様のヌクレオチド組成を有するが、配列の順序が異なっていた。J10及びS2の配列を以下の表1に示す。
【表1】
下線が引かれた配列は、リポソームとハイブリダイズするリンカー配列を示し、イタリック体の配列は、増幅に使用されたアプタマーライブラリにおける共通の(プライマー)配列を示し、太字の配列は、単球に結合可能な結合配列を示し、普通の字体の配列は、スクランブルされたJ10配列を示す。
【0056】
J10はインビトロで単球に選択的に結合可能であるが、S2はそうでないことを確認するために、まずJ10及びS2アプタマーを蛍光標識試薬Cy5((2Z)-2-[(2E,4E)-5-[1-(5-カルボキシペンチル)-3,3-ジメチル-5-スルホインドール-1-イウム-2-イル]ペンタ-2,4-ジエニリデン]-1-エチル-3,3-ジメチルインドール-5-スルホネート)で標識し、次いで単球細胞株RAW264.7及びJ774A.1とともにインキュベートした。Cy5標識J10及びS2も、陰性選択として使用されたマウス内皮細胞株SVECとともにインキュベートした。手短に述べると、5×10
5の各選択細胞株をブロッキング緩衝剤(PBS中20%FBS及び10%サケ精子DNA)中にて4℃で30分間予備混合した。その後、細胞を200nM Cy5-J10又はCy5-S2とブロッキング緩衝剤中にて4℃で30分間反応させた。最後に、当該技術分野で公知の標準的なプロトコルを使用して、サンプルにフローサイトメトリを施した。
図2Aに示されるように、Cy5標識J10単球(RAW264.7及びJ774A.1細胞)の割合がCy5標識S2単球の割合より有意に高く、内皮マウス細胞株SVECにはCy5標識J10もCy5標識S2も検出されなかった。また、PCR分析により、心虚血再かん流(I/R)モデルにおけるCy5標識J10又はS2の静脈内注射後の傷害部位に対するJ10アプタマーのインビボ標的化能力を確認した(
図2B)。それとともに、
図2A及び2Bのデータにより、J10はインビトロで単球に選択的に結合し、インビボで傷害部位に送達可能であるが、S2はそうでないことを確認した。
【0057】
J10はまたインビボで単球に選択的に結合可能であるが、S2はそうでないことを確認するために、まず655nmで蛍光発光する量子ドット(QD)ナノ粒子(QD655、Invitrogen)をJ10又はS2アプタマーで修飾することによってアプタマー-量子ドット結合体を形成した。次いで、S2又はJ10で修飾したQD655を使用して、多光子生体イメージングにより、インビボでマウス血管を通過するJ10-QD655タグ付き単球を視覚化した。多光子生体イメージングは、Vinegoni et al., Nat. Protoc. 10, 1802-1819 (2015)に記載の手順と同様にして実施された。手短に述べると、米国Jackson Labotarotyから入手した雄の10~12週齢のヘテロ接合遺伝子導入マウスB6.129P2(Cg)-Cx3cr1
tm1Litt/J(CX3CR1
GFP/WT)を生体イメージングに使用した。実験中にすべての動物を1.5%イソフルラン(Minrad)で麻酔した。次いで、J10又はS2で修飾された20μLのQD655を1時間にわたってCX3CR1
GFP/WTマウスに注入し、注入したQD655プローブの励起後に多光子顕微鏡(FVMPE-RS、Olympus)によって対象の領域を視覚化した。
図2Cに示されるように、生体イメージングにより、J10アプタマーQD655では、循環CX3CR1-GFP
+単球に対するインビボ標的化が検出されたが、S2アプタマーQD655では検出されなかった。
図2Cのデータにより、J10はインビボで単球に選択的に結合可能であるが、S2はそうでないことを確認した。
【0058】
J10結合は、インビトロでヒト単球に対して選択的であるが、S2結合はそうでないことを確認するために、Cy5標識J10及びS2も、ヒト単球細胞株、THP-1及びU937、並びに陰性対照として使用したヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)とともにインキュベートした。手短に述べると、5×10
5の各選択細胞株をブロッキング緩衝剤(PBS中20%FBS及び10%サケ精子DNA)中にて4℃で30分間予備混合した。その後、細胞を200nM Cy5-J10又はCy5-S2とブロッキング緩衝剤中にて4℃で30分間反応させた。最後に、当該技術分野で公知の標準的なプロトコルを使用して、サンプルにフローサイトメトリを施した。
図3に示されるように、J10アプタマーは、ヒト単球細胞株THP-1及びU937に対しても高い結合親和性を有するが、ヒト内皮細胞株HUVECに対してはそうでないことが示されたのに対して、S2は、試験された細胞株のいずれにおいても結合親和性を有さなかった。
【0059】
エキソビボ結合特異性及び親和性を試験するために、健常マウスの末梢血液100μLを顎下腺静脈から採取し、EDTA含有抗凝血チューブ(BD Vacutainer)に回収し、2mLのACK溶解緩衝剤とともに10分間インキュベートして赤血球を溶解させた。その後、PBS中2%FBSを添加して反応を停止させた。(4℃にて3分間にわたる300gでの)遠心分離後、上澄みを除去した。20分間のインキュベーション後に、100万個の細胞をCD16/CD32Fcブロッキング抗体(1:100)によりブロックした。次いで、細胞を4℃で30分間にわたってCD45(PE-Cy7、1:100 Biolegend)、CD11b(PE、1:200 Biolegnd)及び2μMのCy5-Aptに対して染色した。最後に、細胞をPBS中2%FBSで洗浄し、当該技術分野で公知の標準的なプロトコルを使用して細胞にフローサイトメトリを施した。
図2Dに示されるように、J10アプタマーは、循環骨髄細胞(CD45
+CD11b
+細胞)に対する高い親和性を保有していた。
それとともに、実施例1に示されるデータは、細胞-SELEX法により識別されたJ10アプタマーが、マウス及びヒト循環単球の両方に良好な親和性で選択的に結合できることを証明している。
【0060】
(実施例2)
アプタマーベースの脂質ナノ粒子標的化システムの形成
リンカー-PEG-DSPE結合体の合成及び精製。TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)(1.5mM、pH=7.0)をジスルフィド標識DNA(モル比=100:1)とともに4℃で終夜インキュベートした。リンカー-DNAを、-80℃で30分間にわたって3倍の低温エタノール及び0.1倍の低温酢酸ナトリウム(3M)を使用して沈殿させた後、17,000rpmで後続の遠心分離を行った。次いで、リンカー-DNAを、TCEPとともに4℃で終夜インキュベートすることによって1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[マレイミド(ポリエチレングリコール)-2000](Mal-PEG-DSPE、Avanti)と結合させ(リンカー-DNA:TCEP:Mal-PEG-DSPEのモル比=1:10:20)、凍結乾燥により乾燥させた。最後に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して、リンカー-脂質を精製し、アセトニトリル(ACN)及び酢酸トリエチルアンモニウム(TEAA)系における遊離リンカー-SH及び遊離Mal-脂質を除去した。C5カラム(Sigma)により移動相を1mL/分の流量にて40分以内に20%ACNから100%ACNで開始させた。各工程後に質量分析を実施して、当該分野で公知の標準的なプロトコルを使用して合成が順調であることを確認した(
図4A~4C)。
【0061】
脂質ナノ粒子の製造及びそれらの装填。マレイミド含有DSPE-PEGに容易に付着するチオール化リンカーを使用することによって脂質ナノ粒子(LNP)を合成した。具体的には、DSPC、コレステロール及びDSPE-PEGをクロロホルムに溶解させ、DSPE-PEG-リンカー及びDiDをメタノールに溶解させることによって(モル比=45:50:0.047:0.003:0.005)、丸底フラスコに脂質膜(総質量=35mg)を調製した。溶媒を室温で減圧除去し、脂質膜を終夜凍結乾燥した。
対象の治療薬を、LNPへの装填のために添加した。例示的な方法において、膀胱がん、膵臓がん、卵巣がん及び乳がん並びに非小細胞肺がんを治療するために使用される化学療法薬であるゲムシタビン(「Gem」、Gemzar(登録商標)としても公知)を対象の治療薬として使用した。Gem-LNPの作製には、乾燥膜をPBS溶液中1mgのゲムシタビン(75mg/ml)によって水和させて、多重層ビヒクル(MLV)リンカー-Gem-LNPを形成した。乾燥膜を完全に溶解させた後、液体窒素及び65℃の水槽を使用する真空下での10回の凍結・解凍サイクルによってMLVのサイズを小さくした。プローブ超音波処理器を使用して、一連の2秒の超音波処理及び10秒の休止により合計2分間にわたってリンカー-Gem-LNPを超音波処理した。次いで、リンカー-Gem-LNPを、0.1μmのポリカーボネート膜を通して65℃で21回押し出し、4℃で終夜保管した。PBSを含むCL-4Bサイズ排除カラムを移動相として使用することによりリンカー-Gem-LNPを精製した。
【0062】
脂質ナノ粒子とアプタマーとの結合。例示的な方法において、4℃での終夜のインキュベーションによりリンカー-Gem-LNPを個別的にJ10及びS2アプタマーと結合させた後(アプタマー:リンカー=2.5:1)、PBSを含むセファロースCL-4Bサイズ排除カラムを移動相として使用して精製した。アプタマー-リポソームの作製のためのリンカーとアプタマーの効率的な比率を、以下の式を使用してハイブリダイゼーション効率の割合として測定した。
【0063】
【数1】
いくつかのリンカー対アプタマー比を試験して、表2に示される最適な量を特定した。
【表2】
【0064】
低温電子顕微鏡法を実施して、脂質ナノ粒子を視覚化した。手短に述べると、穴あき炭素膜で被覆された200メッシュ銅グリッド(Electron Microscopy Sciences)を炭素側で15秒間グロー放電させた。脂質を15μMの濃度で含むサンプル(4μL)をグリッド上にピペット採取した後、湿度100%にて4℃で3秒間ブロッティングし、Vitrobot(Thermo Fisher Scientific)を使用して液体窒素により冷却された液体エタン中にプランジ凍結させた。グリッドを液体窒素下で保管し、クライオステージを使用して電子顕微鏡に移した。70μmの対物口径を有する200keVのTecnai F20電子顕微鏡(Thermo Fisher Scientific)を使用することによって、炭素膜における穴の中のリポソームの画像を得た。各露光の低線量条件は、約25e
-/Å
2とした。画像を2μmデフォーカスで撮り、4k×4k CCDカメラ(Gatan、米国)に記録した。低温電子顕微鏡により、ゲムシタビンの封入が順調であることを確認した(
図5A)。
【0065】
生体に存在しないためゲムシタビンに由来するものと考えられるNMR活性
19F原子核を観察することによるゲムシタビンの定量のための最適な方法として、核磁気共鳴(NMR)を使用した。Olive et al., Science. 324, 1457-1461 (2009)及びBapiro et al., Cancer Chemother. Pharmacol. 68, 1243-1253 (2011)。NMRによるゲムシタビン封入定量のためのサンプルを調製するために、まず脂質ナノ粒子(脂質濃度1μM)をアセトニトリル/D
2O(30:70)に溶解させ、1mg/mLの内部標準の2-フルオロ-2’-デオキシアデノシン(2F2dA、Sigma)でスパイクし、1N HClでpH5に調整し、次いで測定のための5mmのNMRチューブに移した。いずれの
19F-NMR測定もBruker Avance500AV(500MHz、11.7T)NMRスペクトロメータで実施し、いずれのスペクトルの取得にもQNPクライオプローブを使用した。160ppmのスペクトル掃引幅、32,768ポイント、2,048スキャン、0.2秒の取得時間及び3秒の弛緩遅延で1D
19F NMR(470MHz)スペクトルを取得した。内部参照化合物の2F2dAを、-116.33ppmにゲムシタビン(dFdC)ピークを示す-52.06ppmの化学シフトに割り当てた。得られた磁場誘導減衰(FID)を65,536ポイントにゼロ充填し、指数ウインドウ関数を使用して処理し、位相化し、基線補正した。定量のために標準及びゲムシタビンピークに注意深く統合した。
19F-NMR分光法により、ゲムシタビンの封入が順調であることを確認した(
図5B)。
【0066】
HPLC分析も脂質ナノ粒子に対して実施した。手短に述べると、測定のために脂質ナノ粒子をACN/H
2O(30:70)に溶解させた。分離は、35℃でX-ブリッジC18カラムにて1mL/分の流量のACN/H
2O(30:70)を使用してWaters e2695分離モジュールにより実施した。検出は、272nmでWaters2489UV/Vis検出器を使用して実施した。HPLC分析により、ゲムシタビンの封入が順調であることを確認した(
図5C)。
次いでアプタマーを含む場合及び含まない場合のLNPを、サイズ及びゼータ電位測定のために特徴づけた。いずれのサイジング及びゼータ電位測定も25℃にてZetasizer Nano ZSで行った。サイジング測定をそのままのリポソームサンプルで実施したのに対して、ゼータ電位測定ではサンプルをPBSで10倍に希釈した。例示的な例において、表3に示されるように、J10アプタマーを含む場合及び含まない場合のゲムシタビン担持LNPについてのサイズ及びゼータ電位測定値を収集した。
【0067】
【表3】
アプタマーを含む特異性脂質ナノ粒子の特徴づけ。封入されたゲムシタビンが腫瘍細胞を殺すことができることを確認するために、細胞毒性アッセイを実施した。手短に述べると、
19F-NMRを使用してゲムシタビンを定量した後、特定のゲムシタビン濃度のJ10-Gem-LNP、S2-Gem-LNP、Gem-LNP又はゲムシタビンをマウス膵臓がん細胞株由来の細胞のKPCとともに48時間インキュベートした。メーカー(Sigma)の取扱説明書に従って細胞カウンティングキット-8を使用して、生存率アッセイを実施した。
図5Dに示されるように、KPC細胞において、アプタマー標識LNPに封入されたゲムシタビンは、未封入のゲムシタビンより細胞毒性が低かった。
【0068】
マウス単球細胞株J774A.1及びRAW264.7並びにマウス内皮細胞株SVECに対するアプタマー-Gem-LNPのインビトロ結合親和性を測定した。手短に述べると、5×10
5の各選択細胞株をブロッキング緩衝剤(PBS中20%FBS及び10%サケ精子DNA)中にて4℃で30分間予備混合した。その後、細胞を5μMのDiD標識J10-Gem-LNP、DiD標識S2-Gem-LNP又はDiD標識Gem-LNPとブロッキング緩衝剤中にて4℃で30分間反応させた。未結合アプタマー-Gem-LNPをPBS中2%FBSによる洗浄及び4℃で3分間にわたる300gでの遠心分離によって除去した。最後に、サンプルにフローサイトメトリを施した。
図5Eは、J10装飾LNPが、S2-及び非装飾LNPと比較してより高効率で単球に結合することが可能であることを示す。
【0069】
(実施例3)
循環単球の増強及び腫瘍部位への動員
膵管腺癌(PDAC)の治療のための治療薬の送達に最も効率的な時点を判断するために、米国Jackson Labotarotyから入手した雄の6~8週齢のヘテロ接合遺伝子導入マウスB6.129(Cg)-Ccr2tm2.1Ifc/J(CCR2RFP/WT)のPDACモデルを使用して単球動員プロファイルを構築した。
マウスPDACモデルを生成するために、同所腫瘍移植法を使用した。手短に述べると、20μLの無菌PBSに懸濁された5×105の生KPC細胞を、Kim et al., Nat. Protoc. 4, 1670-1680 (2009)及びChai et al., J. Vis. Exp. (2013)に開示されている方法と同様にして、6~8週齢のCCR2RFP/WTマウスに、膵尾から2~3mm付近に膵臓内注射によって投与した。
【0070】
PDACの確立後の循環単球の数を5時間目(5h)並びに1、4、7、14、21、35及び42日目に全血球計算(CBC)により判断した。KPC腫瘍細胞移植後の循環RFP
+単球の数が増加して、KPC腫瘍細胞移植後7日目に最大量に達することがデータにより示された(
図6)。
移植が順調であり、単球が動員されていることがインビボイメージングシステム(IVIS)イメージングによって確認された。マウスKPC膵臓がん細胞株が同所移植されたCCR2-RFP遺伝子導入マウスにおいて、腫瘍へのCCR2-RFP
+単球動員の分析をインビボイメージングシステム(IVIS)イメージングによって実施した。マウスKPC膵臓がん細胞株を、検出を容易にするためにルシフェラーゼを発現するように改質した。手短に述べると、ルシフェリン基質120μg/g(BioSynth Cat:L-8820)を腹腔内注入した。イソフルラン吸入によりマウスに麻酔し、Perkin Elmer IVISスペクトルを使用して1分間隔で反復IVIS画像を取得した。分析のために最も強い発光信号の時点を選択した。腫瘍移植が順調であり、単球細胞が腫瘍部位に動員されたことによって(
図7A及び7B)、CCR-RFP
+単球が注入部位においてはっきりと確認された(
図7C)ことがIVISイメージングにより明らかになった。
【0071】
単球に対するアプタマー-Gem-LNPのインビボ結合特異性において、リンパ球及び顆粒球をフローサイトメトリによって評価した。手短に述べると、J10-Gem-LNP、S2-Gem-LNP又はGem-LNPの10日目での投与後、50μLの末梢血液を顎下腺静脈からEDTA含有抗凝血チューブ(BD Vacutainer)に回収した。Fc受容体を20分間にわたって全血10μL当たり0.1μgのCD16/CD32(Invitrogen)によってブロックした。PBSにCD11b PE(1:50、Biolegend)及びCD45PE-Cy7(1:50、Biolegend)を含む染色液(合計45μL)を調製し、それにFc受容体がブロックされた全血5μLを添加した。懸濁液を30分間インキュベート及び遮光した。次いで、Thermo Attune(登録商標)音響集束サイトメータでのフローサイトメトリ測定の直前にPBS(2mL)をチューブに加えた。J10装飾LNPは、S2及び非装飾LNPと比較して、より効率的に単球に結合することが可能であることがデータにより示された(
図8A及び8D)。加えて、J10装飾LNPは、リンパ球(
図8B及び8E)にも顆粒球(
図8C及び8F)にも優先的に結合しなかった。
【0072】
インビボイメージングシステム(IVIS)イメージングを使用して腫瘍組織内の全ゲムシタビンを定量した。手短に述べると、PDACモデルマウスを、DiDが親油性シアニン染料であるDiD標識Gem-LNP、DiD標識S2標識Gem-LNP又はDiD標識J10標識Gem-LNPで処置してから24時間後に組織を採取した。次いで、採取された組織をDiD強度に対するIVISで視覚化した。(LNP投与の24時間後の)採取された腫瘍組織のIVIS分析により、J10ナノ粒子の蓄積が有意により大きいことが示された(
図9A及び9B)。
【0073】
腫瘍組織内の全ゲムシタビンも、
19F NMRを使用して定量した。まず、PDACモデルマウスをGem単独、Gem-LNP、S2標識Gem-LNP又はJ10標識Gem-LNPで処置してから24時間後の解剖時に、組織を採取し、急速凍結し、質量測定した。次に、4倍の体積の氷冷アセトニトリルを加えてサンプルを均質化した。(アセトニトリルと)同体積の氷冷水をサンプルに加え、次いでそれらを氷上で10分間インキュベートした。サンプルを14,000rpm、4℃で10分間遠心分離した。上澄みを耐寒性バイアルに移し、液体窒息で急速凍結した。サンプルを凍結乾燥器に移し、少なくとも24時間乾燥させた。(少なくとも100mgの湿質量の組織からの)凍結乾燥腫瘍組織抽出物を200μLのD
2Oに再懸濁させ、0.1mgの内部標準の2F2dAでスパイクし、1N HClでpH5に調整し、次いで測定のための5mmのShigemi NMRチューブに移した。いずれの
19F NMR測定もBruker Avance 500AV(500MHz、11.7T)NMRスペクトロメータで実施し、いずれのスペクトルの取得にもQNPクライオプローブを使用した。160ppmのスペクトル掃引幅、32,768ポイント、2,048スキャン、0.2秒の取得時間及び3秒の弛緩遅延で1D
19F NMR(470MHz)スペクトルを取得した。内部参照化合物の2F2dAを、-116.33ppmにゲムシタビン(dFdC)ピークを示す-52.06ppm
9の化学シフトに割り当てた。得られた磁場誘導減衰(FID)を65,536ポイントにゼロ充填し、指数ウインドウ関数を使用して処理し、位相化し、基線補正した。定量のために標準及びゲムシタビンピークに注意深く統合した。
19F NMRを使用する腫瘍組織内の全ゲムシタビンの定量により、J10群では、24時間後にゲムシタビンの蓄積が最大になることが明らかになった(
図10)。
総合すると、ゲムシタビン装填ナノ粒子は、腫瘍を標的とすることが可能であり、J10装飾ナノ粒子が最大の効率を有することがこれらのデータにより示される。
【0074】
(実施例4)
がん治療における薬物装填脂質ナノ粒子の治療的使用
マウス膵臓がんモデルにおいて、ゲムシタビン装填ナノ粒子の治療効果を評価した(
図11A)。手短に述べると、以上の例に記載されているように、ルシフェラーゼを含むKPC細胞をマウスに注入した。細胞注入後、IVISを使用して腫瘍成長を毎週モニタリングした。腫瘍が100mm
2に達すると、100mm
2の腫瘍の識別から0日目、3日目及び6日目に、マウスに5mMの100μLのGem-LNP、S2-gem-LNP、J10-Gem-LNP、PBS又はGemを注入した。
PDACマウスモデルにおけるアポトーシスに対するアプタマー標識Gem-LNP処置の効果を評価するために、TUNEL(末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識)染色を実施した。手短に述べると、0日目の脂質ナノ粒子の投与の10日後にマウスから腫瘍を回収した。サンプルを4%w/vのPFAで終夜固定し、パラフィンに包埋し、薄片化した。ApopTag Redインサイツアポトーシス検出キット(Millipore)をメーカーの取扱説明書に従って使用してスライドにTUNEL染色を施した。二重染色細胞をパノラマ式250FLASH IIで撮像し、CaseViewer2.0で定量した。
図11Bに示されるように、J10-Gem-LNPで処置すると、S2-Gem-LNPと比較して、腫瘍細胞アポトーシスが有意に増大した。
【0075】
PDACマウスモデルにおける増殖に対するアプタマー標識Gem-LNP処置の効果を評価するために、採取された腫瘍におけるKi67
+細胞の比率から増殖指数を求めた。手短に述べると、0日目の脂質ナノ粒子の投与の10日後にマウスから腫瘍を回収した。サンプルを4%w/vのPFAで終夜固定し、パラフィンに包埋し、薄片化した。スライドをキシレンで処理し、各等級のアルコールから水に再水和させ、メーカーの取扱説明書に従って抗原回復及びブロッキングを施した。抗Ki67(1:500、GeneTex GTX16667)抗体を使用して増殖アッセイを実施した。ブロッキング緩衝剤で希釈した一次抗体を4℃で終夜付加した。スライドをPBSで3回洗浄した。二次抗体のヤギ抗ウサギIgG-AlexaFluor568(Invitrogen A-11011)を室温で1時間にわたって検体に付加した。少なくとも3つの個別の薄片を調べ、薄片ごとに少なくとも3つの画像を取り込んだ。二重染色細胞をパノラマ式250FLASH IIで撮像し、CaseViewer(CaseViwer)2.0で定量した。
図11Cに示されるように、J10-Gem-LNPで処置すると、S2-Gem-LNPと比較して、腫瘍細胞の増殖が有意に低減された。
【0076】
6日目のLNPの第3の処置の後に、IVISを使用して腫瘍成長の進行を毎週モニタリングした。手短に述べると、ルシフェリン基質120μg/g(BioSynth Cat:L-8820)を腹腔内注入した。イソフルラン吸入によりマウスに麻酔し、Perkin Elmer IVISスペクトルを使用して1分間隔で反復IVIS画像を取得した。分析のために最も強い発光信号の時点を選択した。
図11Dに示されるように、PDACマウスのJ10-Gem-LNP処置群は、腫瘍のサイズが最も小さく、腫瘍成長が抑制されていることを示していた。同様に、fMRIによって腫瘍成長もモニタリングした。手短に述べると、80μ秒で300mT/mの活性遮蔽勾配を有する水平7.0Tスペクトロメータ(PharmaScan70/16、Bruker、ドイツ)を使用して動物をMRI検査した。内径が38nmのボリュームコイルを高周波励起及びシグナル検出の両方に使用した。FOV=4.0cm、スライス厚さ=1.0mm、20スライス、TR=5,500ミリ秒、TE=60ミリ秒、エコートレイン長さ=8、NEX=5及びマトリックスサイズ=256×256の高速スピンエコーシーケンスを使用して、T2WI軸方向像及び冠状像を個々に取得した。
図11Eに示されるように、PDACマウスのJ10-Gem-LNP処置群は、腫瘍サイズが最も小さく、腫瘍成長が抑制されていることを示していた。死亡日(48日目)の腫瘍組織の質量も測定したところ、結果(
図11F)は、IVIS及びfMRIの結果と一致していた。
【0077】
ゲムシタビン装填ナノ粒子についての体重測定(
図11G)により、処置は体重に影響しないことが示された。ゲムシタビン装填ナノ粒子の肝臓及び腎臓機能に対する効果についても評価した。手短に述べると、処置(PDACモデルではJ10-Gem-LNP、S2-Gem-LNP、Gem-LNP又はゲムシタビン)の7日後に下顎腺静脈から末梢血液を回収し、15分間かけて凝固させた。生化学試験による腎臓毒性及び肝臓毒性評価のために血清を回収した。肝臓機能についてはAST(アスパラギン酸トランスアミナーゼ)、ALT(アラニントランスアミナーゼ)及びALP(アルカリホスファターゼ)を測定し、腎臓機能評価ではBUN(血中尿素窒素)及びCREA(クレアチン)を測定した。
図12A~12Eに示されるように、ゲムシタビン装填ナノ粒子は、肝臓又は腎臓機能を損なわなかった。
【0078】
これらの結果をすべて合わせると、PDACのマウスモデルにおいて、本発明者らのナノ粒子は、順調に腫瘍部位を標的とし、腫瘍細胞アポトーシスを増大させ、腫瘍細胞増殖及び成長を低減し、マウスの生存を全体的に長くしたことを示した(
図11H)。
膵臓がんの最も一般的な転移部位の1つは肝臓であるため、肝臓転移のあるマウスモデル膵臓がんを使用して本発明者らのナノ粒子の効能をさらに調べた。これらの試験についての動物モデルを調製するために、20μLの無菌PBSに懸濁された5×10
5の生KPC細胞を、6~8週齢のC57BL/6Jマウスの膵尾から2~3mm付近に膵臓内注入によって投与した。PDAC肝臓転移モデルでは、10μLの無菌PBSに懸濁された5×10
5の生KPC細胞を、ハミルトンシリンジを使用して門脈に注射することによって、同所移植後10日目にKPC細胞の注入を行った。fMRIを使用した腫瘍体積測定(
図11I)及びIVISを使用した腫瘍サイズ測定(
図11J)により示されるように、J10群では腫瘍成長の進行が同様に抑制された。PDACモデルから得られた結果と同様に、J10-gem装填LNP処置法は、肝臓転移を標的とし、マウスの生存を高めることも可能であった(
図11K)。
【0079】
(実施例5)
マウス肺転移モデルにおける黒色腫に対するアプタマー-Gem-LNP標的
マウス肺転移モデルにおいてゲムシタビン装填ナノ粒子の治療効果を評価した。手短に述べると、ルシフェラーゼ及びGFPを発現する2×10
5のB16F10細胞(黒色腫マウス腫瘍細胞株)を8週齢の雄のC57BL/6マウスに14日にわたって静脈内注入して、肺転移を確立した。14日後、肺を免疫組織及びNMR分析のために採取する前に、Gem、Gem-LNP、又はアプタマー標識Gem-LNP(J10-Gem-LNP及びS2-Gem-LNP)の1つを6時間にわたってマウスに静脈内注入した。
図13Aに示されるように、単球細胞マーカーに対する免疫染色が肺においてGFP発現B16F10細胞と共局在化していたため、マウスモデルにおける肺の転移性黒色腫に単球が動員されたことが実証された。マウスから採取された腫瘍組織内の全ゲムシタビンを、本明細書に記載される方法で
19F NMRを使用して定量することにより、J10群では、6時間後に転移性黒色腫におけるゲムシタビンの蓄積が最大になったことが明らかになった(
図13B)。
他の実施形態
本明細書に開示されるすべての特徴は、任意の組合せで組み合わされてもよい。本明細書に開示される各特徴は、同様、同等又は類似の目的を担う代替的な特徴で置き換えられてもよい。したがって、明示的に別段の指示がない限り、開示される各特徴は、包括的な同等又は類似の特徴のシリーズの一例に過ぎない。
上記説明から、当業者は、本発明の基本的な特性を容易に確認し、その主旨及び範囲を逸脱することなく、本発明の様々な変更及び修正を加えて、それを様々な使用法及び条件に適応させることが可能である。したがって、他の実施形態も特許請求の範囲内にある。
【0080】
同等物
いくつかの発明実施形態を本明細書に記載及び説明したが、当業者は、機能を果たす、且つ/又は結果及び/若しくは本明細書に記載の利点の1つ以上を得るための様々な他の手段及び/又は構造を容易に想定し、当該変更及び/又は修正の各々は、本明細書に記載の発明実施形態の範囲内にあると見なされる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載のいずれのパラメータ、寸法、材料及び構成も例示であることを意図し、実際のパラメータ、寸法、材料及び/又は構成が、具体的な用途、又は発明の教示を使用する用途に依存することを容易に理解する。当業者は、日常の実験だけを使用して、本明細書に記載の具体的な発明実施形態の多くの同等物を認識する、又は確認することが可能である。したがって、先述の実施形態は単に例として提示されており、添付の請求項及びその同等物の範囲内で、発明実施形態を、具体的に記載及びクレームされているのとは異なる方法で実行してもよいことが理解されるべきである。本開示の発明実施形態は、本明細書に記載の個々の特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法それぞれに向けられる。加えて、当該特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法が相互に矛盾しなければ、2つ以上の当該特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法のあらゆる組合せが本開示の発明の範囲内に含められる。
【0081】
本明細書に規定及び使用されるすべての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれている文書における定義、及び/又は規定の用語の通常の意味を包含することが理解されるべきである。
本明細書及び請求項に使用される不定冠詞「1つ(a)」及び「1つ(an)」は、そうでないことが明示される場合を除いて、「少なくとも1つ」を意味することが理解されるべきである。
本明細書及び請求項に使用される「及び/又は」という語句は、かくして等位接続される要素、即ちある場合は接続的に存在し、他の場合は非接続的に存在する要素の「いずれか又は両方」を意味することが理解されるべきである。「及び/又は」とともに記載される複数の要素、即ちかくして等位接続される要素の「1つ以上」も同様に解釈されるべきである。「及び/又は」節によって具体的に特定される要素以外の他の要素も、具体的に特定されるそれらの要素に関連するか関連しないかにかかわらず、存在してもよい。したがって、非限定的な例として、「A及び/又はB」への言及は、「含む(comprising)」などのオープンエンドな文体と一緒に使用される場合は、一実施形態ではAのみ(B以外の要素を含んでいてもよい)、別の実施形態ではBのみ(A以外の要素を含んでいてもよい)、さらに別の実施形態ではAとBの両方(他の要素を含んでいてもよい)等を指すことができる。
【0082】
本明細書及び請求項に使用されるように、「又は」は、以上に規定される「及び/又は」と同様の意味を有することが理解されるべきである。例えば、リストの項目を区別する場合は、「又は」又は「及び/又は」は、包含的である、即ちいくつかの要素又は要素のリストのうちの少なくとも1つ、さらには2つ以上を含む、及びさらなる非記載の項目を含んでいてもよいものと解釈されるべきである。「のうちの1つのみ」若しくは「のうちの正確に1つ」、又は請求項において使用される場合の「からなる」などの、反対の意味で明示される用語のみは、いくつかの要素又は要素のリストのうちの正確に1つの要素を含むことを指す。概して、本明細書に使用される「又は」という用語は、「いずれか」、「のうちの1つ」、「のうちの1つのみ」又は「のうちの正確に1つ」などの排他の用語の後に続く場合にのみ排他的選択肢(即ち、「一方又はもう一方であって両方ではない」)を指すものとして解釈されるべきである。請求項で使用される「から実質的になる」は、特許法の分野で使用されるその通常の意味を有する。
【0083】
本明細書及び請求項に使用されるように、1つ以上の要素のリストに言及する際の「少なくとも1つ」という語句は、要素のリストにおける要素のうちのいずれか1つ以上から選択されるが、要素のリスト内に具体的に記載される各要素及びあらゆる要素の少なくとも1つを必ずしも含まず、要素のリストにおける要素のいかなる組合せも排除しない少なくとも1つの要素を意味するものと理解されるべきである。この定義は、「少なくとも1つ」という語句が指す要素のリスト内で具体的に特定される要素以外の要素も、具体的に特定されるそれらの要素に関連するか関連しないかにかかわらず、存在してもよいことを許容する。したがって、非限定的な例として、「A及びBのうちの少なくとも1つ」(又は同等には、「A又はBの少なくとも1つ」、又は同等には「A及び/又はBの少なくとも1つ」)は、一実施形態では2つ以上のAを含んでいてもよい少なくとも1つのAが存在し、Bが存在しない(且つB以外の要素を含んでいてもよい)こと、別の実施形態では2つ以上のBを含んでいてもよい少なくとも1つのBが存在し、Aが存在しない(且つA以外の要素を含んでいてもよい)こと、さらに別の実施形態では2つ以上のAを含んでいてもよい少なくとも1つのAが存在し、2つ以上のBを含んでいてもよい少なくとも1つのBが存在する(且つ他の要素を含んでいてもよい)こと等を指すことができる。
【0084】
そうでないことが明示される場合を除いて、2つ以上の工程又は行為を含む、ここにクレームされるいずれの方法において、方法の工程又は行為の順序が、方法の工程又は行為の記載の順序に必ずしも限定されないことも理解されるべきである。
請求項並びに以上の明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「担持する(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「伴う(involving)」、「保持する(holding)」及び「構成される(composed of)」等の移行句はいずれも、オープンエンドであること、即ち限定することなく含むことを意味することが理解されるべきである。米国特許庁、特許調査手順マニュアルセクション2111.03に記載されるように「からなる」及び「から実質的になる」という移行句のみが、それぞれクローズド又はセミクローズド移行句である。
【配列表】