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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】車両の通過騒音を低減する方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20240515BHJP
   G06F 30/15 20200101ALI20240515BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F30/15
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023501136
(86)(22)【出願日】2021-07-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2021068538
(87)【国際公開番号】W WO2022008459
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】102020000016384
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173794
【弁理士】
【氏名又は名称】色部 暁義
(72)【発明者】
【氏名】マルコ エミリアーニ
(72)【発明者】
【氏名】ガエターノ フォルトゥナート
(72)【発明者】
【氏名】ビンチェンツォ シアラヴォラ
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-226675(JP,A)
【文献】特開2007-321758(JP,A)
【文献】特開2017-125816(JP,A)
【文献】特開2006-264455(JP,A)
【文献】特開2010-230584(JP,A)
【文献】特開2010-058538(JP,A)
【文献】特表2019-530849(JP,A)
【文献】特表2002-502506(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0370751(US,A1)
【文献】Webinar - Make your tire noise predictions smarter with acoustic simulation,YouTube [online] [video],2020年03月,インターネット,URL:https://www.youtube.com/watch?v=pEh4RjKEbEc,[検索日 2024.01.09]
【文献】OKTAV, A.,NEW TRENDS AND RECENT DEVELOPMENTS IN AUTOMOTIVE ENGINEERING [online],2017年11月,pp. 2976-2987,インターネット,URL:https://www.researchgate.net/profile/Akin-Oktav/publication/321621798_New_Trends_and_Recent_Developments_in_Automotive_Engineering/links/5aa0f84ba6fdcc22e2d09fff/New-Trends-and-Recent-Developments-in-Automotive-Engineering.pdf,[検索日 2024.01.09]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータで実現される車両の通過騒音(PBN)のシミュレーション方法であって、
(i) タイヤ音響モデル、車体の一部分のモデル、及び1つ以上の吸音材モデルを、計算モジュールへの入力として用意するステップであって、前記タイヤ音響モデルは、モデル化されたパターンの特徴を含み、該モデル化されたパターンの特徴は、横方向の溝、サイプ、シャンファーのうちの1つ以上を含むステップと、
(ii) 前記計算モジュールによって、前記タイヤ音響モデル及び前記車体の一部分のモデルに基づいて、前記タイヤ音響モデルの振動データを境界条件とする音響シミュレーションを実行し、前記音響シミュレーションの結果に基づいて、前記車体の一部分における1つ以上のノイズ経路を、所定周波数範囲内の周波数毎に識別するステップと、
(iii) 前記計算モジュールによって、前記車体の一部分のモデルにおける異なる多様な位置に、異なる多様な材料特性の前記吸音材モデルを付加して、音響シミュレーションを実行し、前記音響シミュレーションの結果に基づいて、通過騒音を最小化するために前記車体の一部分に配置される吸音材の位置及び材料特性を選択するステップとを含み、
前記ステップ(iii)が、約500~2000Hzの範囲内の1つ以上の周波数の通過騒音を最小化することを含み、
前記ステップ(iii)において、前記吸音材の前記選択した位置が、前記車両のホイールアーチ及び/またはアンダーボディ内の1つ以上の特定位置である方法。
【請求項2】
前記1つ以上の吸音材モデルが、発泡材料のモデル、ポリウレタン(PU)のモデル、エチレン-プロピレン・ジエンモノマー(EPDM)のモデル、または他のあらゆる吸音材トポロジのモデルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(iii)が、異なる吸音材の組合せを選択することをもたらす、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のシミュレーション方法を含む車両設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、車両の通過騒音(PBN:Pass-By Noise)を低減するための、コンピュータで実現されるシミュレーション及び設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ホモロゲーション(車両型式認証)要件は、許容可能な車両の通過騒音(PBN)に関しては非常に厳格である。
【0003】
タイヤ設計に影響を与えることによってこうした要件を満足することは、他の基本性能、例えば転がり抵抗係数(RRc:Rolling Resistance coefficient)、湿潤条件での挙動、及び車両ハンドリング(操縦性)に関しては、一般に不満足な妥協を暗に意味する。
【0004】
一方、選択した車両の複数部分上に吸音材を付加することは、総重量を増加させ、従って、やはり車両性能に悪影響を与える。コストも、もちろん、付加する吸音材の量に比例して増加する。
【0005】
設計者及び製造業者を支援するために、シミュレーション方法及びツールが開発されてきた。
【0006】
しかし、これらの方法及びツールの多数は、タイヤの騒音源の非常に基本的な、例えば一組の単極としてのモデル化に基づく。この簡略化は上述した性能のトレードオフを制限することを可能にしない。
【0007】
それに加えて、一部のシミュレーション方法及びツールは、タイヤ自体を試験することによって得られる実験データを用いることによってしか、タイヤの音響放射を評価することを可能にせず、従って、その適用分野を既存の構成要素のみに限定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の根底にある技術的課題は、最先端技術を参照して上述した欠点の少なくとも一部を克服することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、請求項1によるシミュレーション方法によって解決される。
本発明の好適な特徴は従属請求項の対象である。
【0010】
本発明の方法は、タイヤのモデル化、車体の複数部分のモデル化、及び吸音材のモデル化の組合せに基づく。
【0011】
有限要素法(FEM:Finite Element Methods)に基づく技法及びツールを用いることが好ましい。
【0012】
本発明によるシミュレーション方法は、最も主要なノイズ経路を、車体レベルで、関連するノイズ周波数に関しても識別することを可能にし、それに応じて吸音材の配置及び特性を選択することを可能にする。
【0013】
従って、本発明は、車両上、特にホイールアーチ(車体のタイヤ周りの半円形切り欠き)上及びアンダーボディ(車体下)の複数部分上に付加する吸音材の位置及び特性を最適化することを可能にする。このようにして、これらの吸音材に関連する寸法、付加重量、及びコストが最小化される。
【0014】
本発明は、例えば転がり抵抗係数(RRc)、湿潤条件での挙動、及び車両ハンドリングに関して、車両性能に悪影響を与えずにPBNを低減することを可能にする。
【0015】
換言すれば、本発明は、車両に付加される音響パッケージを製造業者に提供することができ、この音響パッケージは、吸音材の重量(及び結果的にコスト)を低く保ちつつ、高い外来ノイズ吸収レベルに達することを可能にする。
【0016】
本発明において使用するのに適した吸音材は、ポリウレタン(PU:polyurethane)及びエチレン-プロピレン・ジエンモノマー(EPDM:Ethylene-Propylene Diene Monomer)である。
【0017】
上記シミュレーション方法の適用に好適なノイズ周波数範囲は、約500~2000Hzの範囲内である。
【0018】
最たる好適例によれば、全面トレッド(踏面)パターンを含む、転動するタイヤのノイズ挙動のシミュレーションを用いる。
【0019】
採用する方法のステップ及びシステム構成要素は、全面パターンで転動するタイヤの外来ノイズ・シミュレーションを提供する。特に、上記シミュレーションは、全パターンの特徴-例えば横方向の溝、サイプ(細溝)、シャンファー(面取り)を含むことができ-軸対称のタイヤモデルにおけるように溝だけではない。
【0020】
上記方法の好適例では、上記方法は以下に要約する3つの主要なステップを含む。
・転動するタイヤのFEMシミュレーションを実行する。実際のタイヤの全部の構造及びパターンの特徴を有するタイヤに対して、陽的FEMシミュレーションを実行することが好ましい。シミュレーション環境内で、タイヤを基準面(道路またはドラム)に対して載荷して、所望の速度で回転させる。基準面は、完全に平滑にすることも、実際のアスファルトのより現実的な幾何学的特徴(例えば、微小または粗大な粗さ)を含むこともできる。このシミュレーションは、時間領域でラグランジュ法を用いて実行することが好ましい。好適例では、ノードを有するメッシュによってタイヤを表現して、サンプリングの瞬時毎に、時間と共に位置が変化するノード毎に、タイヤ振動を計算する。このようにして、サンプリングの瞬時毎に振動マップが得られる。後続する音響シミュレーション・ステップと区別するために、転動するタイヤのFEMシミュレーションを以後「構造」シミュレーションとして定義し、使用するメッシュを「構造メッシュ」として定義する。タイヤの構造メッシュは、タイヤの全構成部品及び全特徴(即ち、タイヤの内部からタイヤの外表面-接地するトレッドまで)を含む3D(three-dimensional:3次元)または2D(two-dimensional:2次元)要素で構成されるメッシュである。
・マッピング・プロセスを実行して、前のステップの構造シミュレーション結果から始まる後続ステップの走行中の音響シミュレーションを実行することを可能にする。実際には、大部分の効率的な音響ソルバー(問題解決プログラム)は、静止メッシュ(移動しないノード)を有する周波数領域内で機能することを考慮すれば、(タイヤの転動に起因してノードが時間と共に移動する)前のステップの構造シミュレーションから来るデータを直接使用することはほとんど不可能である。
マッピング・プロセスはカスタマイズされたアルゴリズムに基づき、このアルゴリズムは、タイヤの転動シミュレーションの出力、即ち振動マップまたは転動メッシュ(即ち構造メッシュ)を非転動メッシュ(以後タイヤの音響メッシュと称する)に変換する。このステップは、振動を、ラグランジュ領域(転動メッシュ)からオイラー領域(非転動メッシュ)に変換することが好ましく、後者を音響シミュレーション用に用いる。タイヤの音響メッシュは2D要素のみで構成されるメッシュであり、タイヤの構造メッシュの外層(または表皮)をコピー/再現する(但し必ずしも一致しない)。具体的実現では、タイヤの音響メッシュを、関心事の周波数範囲に応じた分解能(即ち、メッシュサイズ)のレベルに簡略化する(例えば、より粗くして、比較的小さい細部を除去する)。
・音響シミュレーションを実行する。前のステップのマッピング・プロセスから得られる振動場を、タイヤの外側の音響的挙動のFEMシミュレーションの境界条件として用いる。
【0021】
上述したシミュレーション方法のステップは、物理的な実験的検査を置き換えるよりもむしろ設計によってタイヤを改良することを可能にする。
【0022】
本発明の他の利点、特徴及び応用形態は、以下の具体的実施形態の詳細な説明において説明し、この説明は例として提供し限定を目的としない。
【0023】
添付した図面の以下の図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の好適な実施形態によるシミュレーションの概略ブロック表現を示す図である。
図2】本発明の好適な実施形態による好適なシミュレーション設定の概略ブロック表現を示す図である。
図3】主要ノイズ経路識別及びその後の吸音材付加のシミュレーション・ステップからの表現を示す図である。
図4】本発明の好適な実施形態によるシミュレーション・ステップのマッピング・プロセス中に使用する構造メッシュ及び簡略化した音響メッシュを示す図である。
図5】本発明の好適な実施形態による具体的なシミュレーション・サブステップの概略表現を示す図である。
図6図6A及び6Bの各々は、本発明の好適な実施形態によって得られる、それぞれの周波数におけるタイヤの振動マップを表すグラフ(特にODS、動作たわみ形状)を示す図である。
図7図7Aは、実験的検査から得られるノイズ・スペクトルを表す図であるのに対し、図7Bは、本発明による方法の一実施形態から得られるノイズ・スペクトルを表す図であり;1つの目的は、同じノイズ発生現象を表すような同様なスペクトル形状を有することにある。
図8図1のマッピング・プロセス中に補間を加速するために、構造的タイヤメッシュ及び音響的タイヤメッシュを横方向のセクションに再分割する好適な再分割を示す図である。
図9図1の方法の具体的な適用例に関する例示的表現を示す図である。
図10図1の方法の具体的な適用例に関する例示的表現を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の好適な実施形態の詳細な説明
図1を参照すれば、本発明の好適な実施形態によるシミュレーション方法が次のものを入力として受ける:
・車体モデル、例えば既存の車体のスキャン(走査)及びメッシュ化のプロセスによって得られる;
・タイヤモデル、例えばFEMモデル;
・吸音材モデル、特に発泡材料、例えば、既知の技術の材料特性化及び材料モデル化によって得られ、これもチャート(図表)の形に表現され、これらのチャートは、例えば、周波数に対してマッピングされた吸音率に基づき;上記方法が、できれば付加領域にも応じた最も適切なものを選択することを可能にするために、複数の吸音材モデルを入力することもできる。
【0026】
好適な実施形態によれば、上記タイヤモデルは次のように得ることができる。
【0027】
タイヤの外来ノイズ、特に通過騒音(PBN)は、タイヤ/道路の相互作用によって誘発される振動に起因し、この振動がノイズに変換される(振動-音響のアプローチ)。
【0028】
本発明によれば、転動するタイヤの音響シミュレーションを実行する。好適な実施形態では、このシミュレーションは次のステップに基づく:
【0029】
第1のステップでは、転動するタイヤの構造シミュレーションを実行して、タイヤ外表面上の-即ちタイヤの輪郭における-タイヤ振動を計算する。
【0030】
このステップは、現在技術において利用可能な有限要素法(FEM)及び有限要素解析(FEA:Finite Element Analysis)ツールを用いることによって実行することができる。
【0031】
このステップは、構造及びパターン要素の幾何学的形状を含む完結したタイヤモデルを開発または提供することを伴うことが好ましい。タイヤパターンの特徴-例えば溝、サイプ、等-は、モデルを非軸対称にし得るし、転動中に(更なる)振動を発生し得る。
【0032】
振動は、メッシュのノードの速度、加速度、または変位として表わされる。
【0033】
このステップの結果は、サンプリングの瞬時毎の、タイヤの振動モデルまたは振動マップであり、これについては以下で詳細に説明する。
【0034】
このシミュレーション環境では、膨らんだタイヤをモデル化して基準面上に載荷し、即ち基準面に関連させ、ここではタイヤが特定速度で特定期間だけ回転する。
【0035】
シミュレーション期間中には、タイヤ外側の振動、即ち各ノードの位置、速度または加速度を、サンプリングの瞬時またはフレーム(即ち、シミュレーションの時間増分)毎に記憶し、サンプリング時刻のピッチ(間隔)は関心事の周波数範囲に応じて選定することができる。このようにして、サンプリングの瞬時毎の振動マップが得られる。
【0036】
上述したように、このステップの出力は、転動するタイヤの構造モデル、メッシュまたは振動マップであり、各ノードの瞬時の位置は、振動と圧力、及び負荷の適用に由来するタイヤの構造変化によって定まる。
【0037】
このステップは、例えば、市販のAbaqus Explicit(登録商標)ソフトウェアツールを用いることによって、または等価な手段によって実行することができる。陽的FEMソルバーは、タイヤ転動中の、トレッドブロックの地面に対する周期的な衝突のような過渡的な動的事象のシミュレーションを行うことに特に適している。陰的なソルバーとは異なり、陽的なソフトウェアは、全ての慣性効果を含む、時間を通した運動方程式を解き、複雑な非線形問題を伴う他の多数の計算上の利点を提供する。
【0038】
図4に例示するように、第2のステップでは、上記方法が、上記の構造シミュレーション・ステップによって得られた構造的転動メッシュからの結果を、(静的な非転動の)音響メッシュにマッピングすることを提供する。このステップは、振動マップ、即ち第1のステップにおいてラグランジュ領域から得られた転動の構造メッシュをオイラー領域に変換することが好ましく、後者はその後にノイズ・シミュレーション用に用いる。
【0039】
好適な実施形態によれば、このマッピングは次のように得られる。
【0040】
ターゲットの音響メッシュの振動変数を選択し、この変数は、速度、加速度及び変位の中から選定することが好ましい。速度及び加速度の方が変位よりも好ましくあり得る。
【0041】
図5に例示するように、サンプリングの瞬時毎に、振動変数を次のように計算する。
・音響メッシュのターゲット・ノード毎に、入力された構造メッシュの複数の最寄りのノードを選択する。
・構造メッシュのノードと音響メッシュのノードとの間の補間を実行して、振動結果を音響メッシュに変換する。具体的には、上記ターゲット・ノードについて振動変数の加重平均値を計算し、この計算は、上記選択した最寄りの入力されたノードの上記振動変数の値から開始する。
・最寄りの入力されたノードの数は1~8の好適な範囲であり、次式の距離の逆数で重み付けした補間を用いる。
【数1】
ここに、
A=正規化係数
j=音響メッシュのノードjにおける振動
i=構造メッシュのノードiにおける振動
i,j=構造メッシュのノードiと音響メッシュのノードjとの間の距離。
【0042】
この数値的方法は、(>1M(百万個超)になり得るノード/要素の数を有する)非常に重いメッシュをもたらす、(サイプのような非常に小さいパターンの特徴を含む)全パターンの特徴を有する実際のタイヤのFE(Finite Element:有限要素)モデルに適用されることを意図している。
【0043】
シミュレーションの全時間ステップ(サンプリング周波数によるが、一般に>1000~2000(1000~2000回超)の時間増分)について反復される、こうした規模の2つのメッシュ(ラグランジュとオイラー)間の補間は、要求される計算が非常に多数回になる。
【0044】
計算時間を低減するために、図8に示すように、ラグランジュ(入力)メッシュ及びオイラー(ターゲット)メッシュを共に、横方向の複数の複数のセクション(区分)に分割することができる。
【0045】
補間は、より少数のノードを有する、対応する各タイヤセクション内で別個に行われ、全体の計算時間を大幅に低減する。
【0046】
上記の補間プロセスを全タイムフレームについて反復した後に、ターゲットメッシュの全ノードについての時間歴が、上記振動変数のそれぞれの値と共に利用可能になる。
【0047】
従って、ノード毎に、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)または等価なツールを計算して、周波数領域内の振動変数を有する。このステップの結果は、任意の特定周波数におけるタイヤ振動マップ(ODS-Operational Deflection Shape:動作たわみ形状、実稼働振動形状)であり、図6A及び6Bのグラフに例示され、これらの図では、所定の周波数帯域(図6Aでは低周波帯域100~300Hz、図6Bでは高周波帯域400~600Hz)について静止メッシュの各ノードの変位を(対数尺度で)表す。
【0048】
このステップでは、約20~2000Hz、好適には500~2000Hzの範囲内の動作を提供することが好ましい。
【0049】
特定例では、音響メッシュを、メッシュサイズ(より粗いメッシュ)及び/または含めるパターン要素(例えば、縦方向の溝のみをモデル化することができる)に関して簡略化したものとすることができる。簡略化したメッシュの使用は、結果に対する影響の可能性を最小にしつつ計算時間を低減する。実際に、より低い空間分解能(即ち、より少数のノード及び要素)の音響メッシュを用いると、(構造シミュレーションのためのシミュレーション時間の変化なしに)補間ステップ及び音響シミュレーション・ステップがより高速になる。
【0050】
このステップは、Matlab(登録商標)またはあらゆる等価な計算コードまたはツールによって実現することができる。
【0051】
第3のステップでは、第2のステップで得られた静止メッシュを、音響シミュレーション・ツールによってノイズ、特に自由音場条件で伝搬するノイズに変換する。第2のステップでマッピングした振動データを、この音響シミュレーション用の境界条件として用いる。
【0052】
この方法は、音響応答(音圧場)を、空間の任意の位置で、サンプリングの瞬時毎に計算し、こうして実験的検査を、PbN(通過騒音)を測定するもののように再現する。
【0053】
このステップは市販の音響ソルバーを用いることによって実行することができる。このステップ用に好適なツールは、例えばシーメンス(Siemens)社のVIRTUALLAB(登録商標)、FFT ACTRAN(登録商標)、またはダッソー・システムズ(Dassault Systems)社のWAVE6(登録商標)のような市販のソフトウェアを用いた音響FEMに基づく。PML(Perfectly Matching Layer:完全適合層)として知られている技術を、自由音場伝搬のシミュレーション用に用いることができ、PMLを使用することの主要な利点は、音響FEM領域の薄い層のみをモデル化すればよいことにある。
【0054】
その代わりに、BEM(Boundary Element Method:境界要素法)ツールを用いることができる。
【0055】
図7A及び7Bは、方法の性能を実験的検査に対して表すグラフを示す。このグラフは、マイクロホンで測定したタイヤから7.5mの所の音圧レベル(SPL:Sound Pressure Level)スペクトル(図7A-点線)と、本発明によるシミュレーショ方法の実施形態によりシミュレーションを行ったSPLスペクトル(図7B-実線)との比較を示す。
【0056】
図1中の「プロセス」のボックスは、コンピュータ上で実行されるソフトウェア手順と計算アルゴリズムを実現することとの複合体を示し、この計算アルゴリズムは次のように構成されている:
・ノイズ経路を、例えば音響放射の伝達、増幅及び反射により車体に展開するものとして与え、閾値を上回り、周波数にもマッピングされるノイズレベルにより関心のある領域を特に参照する;
・特に周波数に特有の吸音度に関して異なる機械的及び物理的特性を有する吸音材の付加のシミュレーションを行う;
・吸音材の最適な位置、寸法、及び/または特性を、選択した周波数または周波数範囲における高い吸音性、及び例えば小さい付加重量の基準に基づいて選択する。
【0057】
出力として、説明する実施形態によるシミュレーション方法は、特に次の吸音材の特徴を提供する:
・特に、所定の周波数または周波数範囲における吸音度に関する、かつ好適には吸音材部品の隙間ゲージを含む、吸音材の位置決め及び機械的/物理的特性。
【0058】
こうして、ユーザは、それぞれの車体の複数部分における1つ以上の吸音材の位置決めを定める好適なシナリオを受ける。
【0059】
図2は、図1のシミュレーション方法に関連する好適なシミュレーション・デッキを概略的に示す。この設定は、主に次の仮想要素で構成される:
・上述したような車両モデル、メッシュに基づき、選択性分析用にWA成分とUB成分とに分解することを含む;
・上記に定義した吸音材モデル;
・4つのタイヤについてのタイヤモデル、各々が上記に定義した通りである;
・車両全体にわたる音響シミュレーション・プロファイル、8Hzの分解能を有することが好ましい;
・測定点、例えば、好適には二次元配列または三次元配列により配置されたマイクロホンのシミュレーションを行う。
【0060】
試験データは、上記シミュレーション方法に基づいて、ホイールアーチ上及びアンダーボディの複数部分上に吸音発泡材料を付加することによって、PBNを0.7~1.4dBまで、非常に高頻度で1.2~1.4dBまで低減することができることを示している。
【0061】
具体的なシミュレーションを行った場合には、PUを用いることによる付加重量は約5~10kgであるのに対し、EPDMでは付加重量が約15~25kgである。
【0062】
図3を参照すれば、シミュレーションの例示的結果が、グラフ形式で、3つの異なる例示的なノイズ周波数について提供されている。既に図1に示したように、吸音材モデルは、吸音度を音の周波数に対してマッピングする線図によって例示される。
【0063】
最も主要なノイズ経路が識別され、これらは図3中に長方形によって表され、これらの長方形の所に異なる吸音材を付加する。上記方法は、寸法、機械的/物理的特性、及び異なる周波数において吸音度が異なる多様な種類の吸音材の付加のシミュレーションを行い、次に上述した基準により最良の性能を選択する。
【0064】
具体例
本発明による方法の適用の例示的結果を示すために、図9を参照することができ、図9に方法の適用をシミュレーションの出力として報告する。具体的には、プロット図中に:
a.X軸上に、乗用車のPBN低減量を;
b.Y軸上に、アンダーボディ及びホイールアーチの音響パッケージ、即ち吸音材製の特徴的部品の付加重量を示す。
【0065】
プロット図中には次のアイテムが表示されている。
a.アンダーボディの音響パックを付加していない車両、従って、PBN削減は存在せず、車両の重量増加も存在しない(左下の0,0の点)。
b.車両内及びホイールアーチ・アンダーボディ領域内の利用可能な空間全体を覆うアンダーボディ及びホイールアーチの音響パックを有する車両。この構成は、既存の工業用の解決策を模擬し、この構成のシミュレーションを行うことは、アンダーボディの音響パックなしに対して2.2dB低減することを可能にし、その重量(車両にとっての付加重量)を100%(吸音材の種類に応じて、およそ5~10kg)として参照する。
c.最後に、本発明の背後にあるプロセスを適用した結果を報告し、ここでは、表示された車両のアンダーボディからわかるように、吸音材は一部の特定位置にしか配置されず、特定の寸法と形状、及び吸音の特徴を有する。最適な位置決めが、アンダーボディ全体の音響パックと同様な(2.2dBに対して2dBの)PBN低減を、但しずっと少量の吸音材で得ることを可能にすることは明らかであり、この場合、アンダーボディ全体の音響パックに対して30%の吸音材だけで十分である。吸音材部品の位置決め及び寸法決めは、図1及び3に関連して説明した方法を適用して得られる。
【0066】
上記のシミュレーション・デッキに基づく、以上に開示した本発明の実施形態による方法の信頼性を、図10に例示するように実験的に確認した。ここに重ねて報告する:
a.X軸:PBN低減の測定値、
b.Y軸:アンダーボディ及びホイールアーチの音響パックに由来する付加重量の値。
【0067】
図10に表すように、測定値は次のことを含む。
a.車両そのまま、特徴的な吸音材なし、従って、この場合は、0のPBN低減及び車両の付加重量としての0によって表される。
b.アンダーボディ及びホイールアーチのパッケージが許容する空間全体に配置された吸音材によって完全に覆われた車両。この場合は、既存の工業用の解決策を再現する。この構成は、1.5dBまで低減することを可能にし、付加重量の基準100%であることを、測定値は物語り、ここでも、この基準は吸音材の種類に基づく5kgから10kgまでの範囲の付加重量である。
c.以上に開示した方法により設計したアンダーボディ及びホイールアーチの音響パック、適切な形状及び寸法を有する正しい量の吸音材を配置する。この最適化された解決策は、1.2dBまで低減することを可能にし、従って、丁度半分の吸音材を用いることによって、基準の解決策の1.5dBに非常に近い。従って、半分の重量で、かつ、できればより低いコストを有する。
d.図10には、他の構成を報告し、この構成では、全体を覆うのに対して50%の吸音材を用いても、0.75dBのPBN低減しか得られない。このことは、アンダーボディ及びホイールアーチの音響パックが最適化されていなければ、PBNの低減が吸音材の量に単に比例したままに保たれることの証明である。
【0068】
これまで、好適な実施形態を参照しながら本発明を説明してきた。以下の特許請求の範囲によって規定される同じ発明の概念を参照する他の実施形態が存在し得ることを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10