(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】セメントキルン用バーナ及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
F23D 1/02 20060101AFI20240515BHJP
C04B 7/44 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
F23D1/02 Z
C04B7/44
(21)【出願番号】P 2023501757
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2021007050
(87)【国際公開番号】W WO2022180735
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 雄哉
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-163880(JP,A)
【文献】特開平04-009511(JP,A)
【文献】実開昭61-121321(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第108613184(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102506426(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109611832(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23D 1/00 - 1/02
C04B 7/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状または円筒状の複数の流路を有するセメントキルン用バーナであって、
それぞれの前記流路の出口が略同一面上に配置され、
少なくとも一つの前記流路の内部に、前記流路の内周壁および外周壁の何れか一方に接触、かつ他方に非接触の状態で、前記流路の軸方向に沿って移動することにより、前記流路の出口側の先端部での断面積を変更可能な風速調整部材が設けられ
、
前記風速調整部材が設けられた前記流路は、旋回角度が1~60度である旋回空気流を形成するために出口側の先端部に旋回羽根が固定されており、
前記風速調整部材は、前記旋回羽根に供給される空気の風速または風量を調整する、セメントキルン用バーナ。
【請求項2】
前記風速調整部材は、複数の前記流路の内部にそれぞれ設けられ、
前記風速調整部材は、直進空気流を形成する前記流路にも設けられた、請求項1に記載のセメントキルン用バーナ。
【請求項3】
前記風速調整部材は、複数の前記流路のうち最外側に位置する円筒状の流路の内部に設けられた、請求項1
又は2に記載のセメントキルン用バーナ。
【請求項4】
請求項1~
3の何れか1項に記載のセメントキルン用バーナの運転方法であって、
前記風速調整部材が設けられた前記流路から吹き出す流体の風速を上げる場合には、前記風速調整部材を前記出口側へ前進させることで前記流路の先端部での断面積を縮小し、前記流路から吹き出す流体の風速を下げる場合には、前記風速調整部材を前記出口側から後退させることで前記流路の先端部での断面積を拡大させる、セメントキルン用バーナの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントキルン用バーナ及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでセメント製造設備では、セメントクリンカの焼成に用いるロータリーキルン(以下、「セメントキルン」と称する)において、燃料、原料の代替として、可燃性廃棄物を利用してきた。近年、可燃性廃棄物の更なる利用のため、従来より燃焼性が悪い可燃性廃棄物の利用も増加している。加えて、従来主燃料として利用してきた石炭のコスト削減のため、従来より燃焼性が悪い石炭の利用も増加している。そこで、従来の比較的燃焼性の良い可燃性廃棄物および石炭と、燃焼性の悪い可燃性廃棄物および石炭を同時に利用する技術が求められている。
【0003】
セメントキルン用のバーナの構造としては、例えば下記特許文献1に開示されている。バーナから吹き込む空気の速度を速めると、同じバーナから吹き込んだ燃料の燃焼性は大きく向上するが、同じ構造のバーナの風速を増加させる場合、風量も同時に増加する。しかし、風量の増加は、その空気を温める分の燃料も消費する必要があるため、熱量原単位悪化を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上記を見込んで風速が速くなるように空気を吹き出す流路の断面積を小さくしてバーナを製作した場合、燃料の燃焼性は常に良い状態を維持可能であるが、比較的燃焼性の良い燃料を吹き込んだ場合には、燃焼性が向上しすぎて異常な短炎となり、クリンカの品質異常やキルン内壁の耐火レンガの焼損などを引き起こす。そのため、従来適用される石炭代替の量や種類、石炭種が限定的であった。このような事情から、燃料の燃焼性の程度に応じて、流路から吹き出す流体の風量を変えることなく、風速を調整可能とする技術が望まれる。
【0006】
よって、本発明の目的は、燃料の燃焼性の程度に応じて、流路から吹き出す流体の風量を変えることなく、風速を調整可能とするセメントキルン用バーナ及びその運転方向を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセメントキルン用バーナは、円柱状または円筒状の複数の流路を有するセメントキルン用バーナであって、
それぞれの前記流路の出口が略同一面上に配置され、
少なくとも一つの前記流路の内部に、前記流路の内周壁および外周壁の何れか一方に接触、かつ他方に非接触の状態で、前記流路の軸方向に沿って移動することにより、前記流路の出口側の先端部での断面積を変更可能な風速調整部材が設けられたものである。
【0008】
本発明によれば、風速調整部材により流路の出口側の先端部での断面積を変更することで、燃料の燃焼性の程度に応じて、流路から吹き出す流体の風量を変えることなく、風速を調整することができる。
【0009】
また、本発明のセメントキルン用バーナにおいて、前記風速調整部材が設けられた前記流路は、直進空気流を形成する、という構成でもよい。この構成によれば、直線空気流の風量を変えることなく、風速を調整することができる。
【0010】
また、本発明のセメントキルン用バーナにおいて、前記風速調整部材が設けられた前記流路は、旋回角度が1~60度である旋回空気流を形成する、という構成でもよい。この構成によれば、旋回空気流の風量を変えることなく、風速を調整することができる。
【0011】
また、本発明のセメントキルン用バーナにおいて、前記風速調整部材は、複数の前記流路の内部にそれぞれ設けられてもよい。この構成によれば、各風速調整部材により、それぞれの流路から吹き出す流体の風速を適宜調整することができる。
【0012】
また、本発明のセメントキルン用バーナにおいて、前記風速調整部材は、複数の前記流路のうち最外側に位置する円筒状の流路の内部に設けられてもよい。最外側に位置する円筒状の流路は、他の流路の1次空気をまとめる役割を有しており、最外側の流路の風速を調整することで、燃料の燃焼性を容易に調整できる。
【0013】
また、本発明のセメントキルン用バーナの運転方法は、上記何れかのセメントキルン用バーナの運転方法であって、前記風速調整部材が設けられた前記流路から吹き出す流体の風速を上げる場合には、前記風速調整部材を前記出口側へ前進させることで前記流路の先端部での断面積を縮小し、前記流路から吹き出す流体の風速を下げる場合には、前記風速調整部材を前記出口側から後退させることで前記流路の先端部での断面積を拡大させるものである。
【0014】
本発明によれば、風速調整部材により流路の出口側の先端部での断面積を変更することで、燃料の燃焼性の程度に応じて、流路から吹き出す流体の風量を変えることなく、風速を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第一実施形態に係るセメントキルン用バーナの先端部分を模式的に示す図
【
図2】
図1に示すセメントキルン用バーナを含むセメントキルン用バーナシステムの構造の一例を模式的に示す図
【
図3】第一実施形態に係る風速調整部材の動きと風速への影響を模式的に示す図
【
図4】第二実施形態に係る風速調整部材の動きと風速への影響を模式的に示す図
【
図5】第三実施形態に係る風速調整部材の動きと風速への影響を模式的に示す図
【
図6】他の実施形態に係るセメントキルン用バーナの横断面図
【
図8】実施例1に係るセメントキルン用バーナの先端部分を模式的に示す図
【
図9】実施例2に係るセメントキルン用バーナを含む仮焼炉の全体図とセメントキルン用バーナの横断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のセメントキルン用バーナ及びその運転方法の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比は実際の寸法比と一致していない。
【0017】
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態に係るセメントキルン用バーナの先端部分を模式的に示す図面である。
図1において、(a)がセメントキルン用バーナの横断面図であり、(b)が同縦断面図である。なお、横断面図とは、セメントキルン用バーナを、当該バーナの軸方向に直交する平面で切断した断面図を指し、縦断面図とは、セメントキルン用バーナを、当該バーナの軸方向に平行な平面で切断した断面図を指す。
【0018】
なお、
図1においては、セメントキルン用バーナの軸方向(すなわち、空気流方向)をY方向とし、鉛直方向をZ方向とし、YZ平面に直交する方向をX方向として座標系を設定している。以下では、このXYZ座標系を適宜参照しながら説明する。このXYZ座標系を用いて記載すれば、
図1(a)は、セメントキルン用バーナをXZ平面で切断したときの断面図に対応し、
図1(b)は、セメントキルン用バーナをYZ平面で切断したときの断面図に対応する。より詳細には、
図1(b)は、セメントキルン用バーナを、バーナ先端の近傍の位置において、YZ平面で切断したときの断面図に対応する。
【0019】
図1に示されるように、セメントキルン用バーナ1は、同心円状に複数の流路を備える。より詳細には、セメントキルン用バーナ1は、固体粉末燃料用流路2と、固体粉末燃料用流路2に隣接して外側に配置された第一の空気流路11と、固体粉末燃料用流路2に隣接して内側に配置された第二の空気流路12とを備える。第二の空気流路12の内側には、油用流路3、可燃性固形廃棄物用流路4等が配置される。これらの流路の出口は、略同一面上に配置されている。
【0020】
固体粉末燃料用流路2、第一の空気流路11、及び第二の空気流路12のうち、固体粉末燃料用流路2及び第二の空気流路12には、各々旋回手段としての旋回羽根(2t,12t)が、各流路のバーナ先端部に固定されている(
図1(b)参照)。すなわち、第二の空気流路12から噴出される空気流は、固体粉末燃料用流路2から噴出される固体粉末燃料流に対して内側に位置する旋回空気流(以下、適宜「旋回内流」という。)を形成する。なお、各旋回羽根(2t,12t)は、セメントキルン用バーナ1の運転開始前の時点において、旋回角度が調整可能に構成されている。旋回角度は例えば1~60度に設定される。
【0021】
一方、第一の空気流路11には、旋回手段が設けられていない。すなわち、第一の空気流路11から噴出される空気流は、固体粉末燃料用流路2から噴出される固体粉末燃料流に対して外側に位置する直進空気流(以下、適宜「直進外流」という。)を形成する。
【0022】
また、第一の空気流路11の内部には、風速調整部材5が設けられている。この風速調整部材5を第一の空気流路11の軸方向に沿って移動させることにより、第一の空気流路11から吹き出す空気の風量を変えることなく、風速を調整することができる(詳しくは後述する)。
【0023】
図2は、
図1に示すセメントキルン用バーナ1を含むセメントキルン用バーナシステムの構造の一例を模式的に示す図面である。
図2に図示されたセメントキルン用バーナシステム20は、制御のし易さを重視して構成したものであって、4基の送風ファンF1~F4を備えるが、これに限定されない。
【0024】
微粉炭搬送配管21に供給された微粉炭C(「固体粉末燃料」の一例)は、送風ファンF1によって形成された空気流により、セメントキルン用バーナ1の固体粉末燃料用流路2に供給される。送風ファンF2から供給される空気は、燃焼用空気Aとして、空気配管22を介してセメントキルン用バーナ1の第一の空気流路11へ供給される。送風ファンF3から供給される空気は、燃焼用空気Aとして、空気配管23を介してセメントキルン用バーナ1の第二の空気流路12へ供給される。そして、可燃性固形廃棄物搬送配管24に供給された可燃性固形廃棄物RFは、送風ファンF4によって形成された空気流により、セメントキルン用バーナ1の可燃性固形廃棄物用流路4に供給される。
【0025】
図2に図示されたセメントキルン用バーナシステム20は、前記送風ファン(F1~F4)により、各流路(2,4,11,12)を通流する空気量を独立して制御することができる。
【0026】
また、油用流路3から重油等を供給してセメントキルン用バーナ1の着火時に利用したり、更には、微粉炭以外の固体燃料又は重油等の液体燃料を供給して、定常運転において微粉炭と混焼したりすることもできる(不図示)。
【0027】
図3は、風速調整部材5の動きと風速への影響を模式的に示す図である。なお、
図3では、説明の便宜のため、第一の空気流路11以外の流路は図示していない。第一実施形態の風速調整部材5は、第一の空気流路11の内周壁11aに接触し、第一の空気流路11の外周壁11bに非接触の円管状部材である。すなわち、風速調整部材5の内径は、第一の空気流路11の内周壁11aの直径と同じであり、風速調整部材5の外径は、第一の空気流路11の外周壁11bの直径よりも小さい。
【0028】
風速調整部材5は、第一の空気流路11内を軸方向(Y方向)に沿って移動可能に構成されている。風速調整部材5は、不図示の前後移動機構(例えばラックアンドピニオン機構)によって軸方向に沿って移動される。
【0029】
風速調整部材5は、第一の空気流路11内を軸方向に沿って移動することで、第一の空気流路11の出口11c側の先端部11dでの断面積を変更することができる。
図3において、(a)は、風速調整部材5を第一の空気流路11の出口11c側から後退させた状態を示し、(b)は、風速調整部材5を第一の空気流路11の出口11c側へ前進させた状態を示す。
図3(a)に示す状態では、第一の空気流路11の先端部11dの断面積は
図3(b)に示す状態に比べて大きいため、第一の空気流路11から吹き出す空気の風速は小さい。一方、
図3(b)に示す状態では、第一の空気流路11の先端部11dの断面積は
図3(a)に示す状態に比べて小さいため、供給される風量が同じであっても、第一の空気流路11から吹き出す空気の風速は大きい。なお、風速調整部材5は、
図3(a)及び(b)に示す状態以外の任意の位置に移動可能であって、風速調整部材5の先端51と第一の空気流路11の出口11cとの距離を変えることで、第一の空気流路11から吹き出す空気の風速を適宜調整することができる。よって、風速調整部材5を第一の空気流路11の軸方向に沿って移動させることにより、第一の空気流路11から吹き出す空気の風量を変えることなく、風速を調整することができる。
【0030】
以上のように、
図1~
図3に第一実施形態に係るセメントキルン用バーナ1は、円柱状または円筒状の複数の流路(2,3,4,11,12)を有するセメントキルン用バーナ1であって、それぞれの流路(2,3,4,11,12)の出口が略同一面上に配置される。第一の空気流路11の内部には、第一の空気流路11の内周壁11aに接触、かつ外周壁11bに非接触の状態で、第一の空気流路11の軸方向に沿って移動することにより、第一の空気流路11の出口11c側の先端部11dでの断面積を変更可能な風速調整部材5が設けられている。
【0031】
また、第一実施形態に係るセメントキルン用バーナ1の運転方法は、第一の空気流路11から吹き出す直進外流の風速を上げる場合には、風速調整部材5を第一の空気流路11の出口11c側へ前進させることで第一の空気流路11の先端部11dでの断面積を縮小する。これにより、例えば燃焼性の悪い燃料を使用する場合、第一の空気流路11から吹き出す直進外流の風速を上げて燃焼を促進させることができる。また、第一実施形態に係るセメントキルン用バーナ1の運転方法は、第一の空気流路11から吹き出す直進外流の風速を下げる場合には、風速調整部材5を第一の空気流路11の出口11c側から後退させることで第一の空気流路11の先端部11dでの断面積を拡大させる。これにより、例えば燃焼性の良い燃料を使用する場合、第一の空気流路11から吹き出す直進外流の風速を下げて燃焼を遅延させることができる。
【0032】
[第二実施形態]
本発明に係るセメントキルン用バーナ1の第二実施形態について、第一実施形態と異なる箇所を主として説明する。なお、第一実施形態と共通の構成要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0033】
第一実施形態では、直進空気流を形成する第一の空気流路11の内部に風速調整部材5を設けた例を示したが、これに限定されない。例えば、
図4に示す第二実施形態のように、旋回空気流を形成する第二の空気流路12に風速調整部材5を設けてもよい。
【0034】
図4は、第二実施形態に係る風速調整部材5の動きと風速への影響を模式的に示す図である。なお、
図4では、説明の便宜のため、第二の空気流路12以外の流路は図示していない。第二実施形態の風速調整部材5は、第二の空気流路12の外周壁12bに接触し、第二の空気流路12の内周壁12aに非接触の円管状部材である。
【0035】
風速調整部材5は、第二の空気流路12内を軸方向に沿って移動することで、第二の空気流路12の出口12c側の先端部12dでの断面積を変更することができる。
図4において、(a)は、風速調整部材5を第二の空気流路12の出口12c側から後退させた状態を示し、(b)は、風速調整部材5を第二の空気流路12の出口12c側へ前進させた状態を示す。
図4(a)に示す状態では、第二の空気流路12の先端部12dの断面積は
図4(b)に示す状態に比べて大きいため、第二の空気流路12から吹き出す空気の風速は小さい。一方、
図4(b)に示す状態では、第二の空気流路12の先端部12dの断面積は
図4(a)に示す状態に比べて小さいため、供給される風量が同じであっても、第二の空気流路12から吹き出す空気の風速は大きい。なお、風速調整部材5は、
図4(a)及び(b)に示す状態以外の任意の位置に移動可能であって、風速調整部材5の先端51と第二の空気流路12の出口12cとの距離を変えることで、第二の空気流路12から吹き出す空気の風速を適宜調整することができる。よって、風速調整部材5を第二の空気流路12の軸方向に沿って移動させることにより、第二の空気流路12から吹き出す空気の風量を変えることなく、風速を調整することができる。さらに、旋回羽根12tに供給される空気の風速が変わることで、
図4(b)に示す状態での旋回角度は、
図4(a)に示す状態での旋回角度よりも大きくなる。旋回空気流の旋回角度を大きくすることで、燃焼をさらに促進することができる。
【0036】
[第三実施形態]
本発明に係るセメントキルン用バーナ1の第三実施形態について、第二実施形態と異なる箇所を主として説明する。なお、第二実施形態と共通の構成要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0037】
上記の第二実施形態では、第二の空気流路12の出口12cを完全に塞ぐように旋回羽根12tが設けられているが、これに限定されない。例えば、
図5に示す第三実施形態のように、第二の空気流路12の出口12cの一部のみを塞ぐように旋回羽根12tを設けてもよい。この例では、旋回羽根12tは、第二の空気流路12の内周壁12aに接触し、第二の空気流路12の外周壁12bに非接触の円管状をしている。風速調整部材5の内径は、旋回羽根12tの外径よりも大きくなっており、風速調整部材5は、旋回羽根12tの外側を軸方向に沿って第二の空気流路12の出口12cまで移動することができる。
【0038】
図5は、第三実施形態に係る風速調整部材5の動きと風速への影響を模式的に示す図である。なお、
図5では、説明の便宜のため、第二の空気流路12以外の流路は図示していない。第三実施形態の風速調整部材5は、第二実施形態の風速調整部材5と同様の形状である。
【0039】
風速調整部材5を第二の空気流路12の軸方向に沿って移動させることにより、第二の空気流路12から吹き出す空気の風量を変えることなく、風速を調整することができる。さらに、旋回羽根12tに供給される空気の風量が変わることで、旋回羽根12tによる旋回角度も調整することができる。
図5(a)に示す状態では、空気が旋回羽根12tをほとんど通過しないため、第二の空気流路12から吹き出す空気流の旋回角度はほぼゼロとなる。一方、第5(b)に示す状態では、空気の大部分が旋回羽根12tを通過するため、第二の空気流路12から吹き出す空気流の旋回角度は大きくなる。
【0040】
なお、セメントキルン用バーナは、上記した実施形態の構成に限定されるものではなく、また、上記した作用効果に限定されるものではない。また、セメントキルン用バーナは、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記した複数の実施形態の各構成や各方法等を任意に採用して組み合わせてもよく、さらに、下記する各種の変形例に係る構成や方法等を任意に一つ又は複数選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0041】
(1)前述の第一~第三実施形態では、円筒状の第一の空気流路11又は第二の空気流路12の内部に風速調整部材5を設けているが、これに限定されない。例えば、
図1に示す円柱状の可燃性固形廃棄物用流路4や円筒状の固体粉末燃料用流路2の内部に風速調整部材5を設けてもよい。また、複数の流路の内部にそれぞれ風速調整部材を設けてもよい。
【0042】
(2)
図6は他の実施形態に係るセメントキルン用バーナの横断面図である。
図6に示すセメントキルン用バーナ1aは、セメントキルンの窯尻部に設置される仮焼炉用のバーナである(
図9を参照)。すなわち、本発明のセメントキルン用バーナは、セメントキルンの窯前部に設けられる主燃料バーナのみならず、セメントキルンに付設の仮焼炉に設けられるバーナ(仮焼炉バーナともいう)も含む。
【0043】
図6に示すセメントキルン用バーナ1aは、円柱状の微紛炭用流路13と、微紛炭用流路13に隣接して外側に配置された拡散空気用流路14とを備える。
図6(a)の例では、拡散空気用流路14の内周壁に接触、かつ外周壁に非接触の状態で、拡散空気用流路14の軸方向に沿って移動することにより、拡散空気用流路14の出口側の先端部での断面積を変更可能な風速調整部材5が設けられている。
図6(b)の例では、拡散空気用流路14の外周壁に接触、かつ内周壁に非接触の状態で、拡散空気用流路14の軸方向に沿って移動することにより、拡散空気用流路14の出口側の先端部での断面積を変更可能な風速調整部材5が設けられている。
図6(c)の例では、
図6(b)の風速調整部材5に加えて、微紛炭用流路13の外周壁に接触した状態で、微紛炭用流路13の軸方向に沿って移動することにより、微紛炭用流路13の出口側の先端部での断面積を変更可能な風速調整部材5が設けられている。
図6(c)の例のように、複数の流路の内部にそれぞれ風速調整部材5を設けてもよい。
【0044】
(3)前述の実施形態では、風速調整部材5は一体に形成された円管状部材であるが、これに限定されない。例えば、
図7(a)に示すように、風速調整部材5は、周方向に複数に分割された円管状部材でもよい。この例では、風速調整部材5は、四つの風速調整部材5aに分割されており、風速調整部材5aは、それぞれ独立して軸方向に沿って移動することができる。この構成によれば、火炎の状況を見ながら、風速を上げたい部分の風速調整部材5aを選択的に移動させることができる。
【0045】
なお、風速調整部材として、
図7(a)に示す四つの風速調整部材5aのうち少なくとも一つを設けてもよい。すなわち、風速調整部材は、流路の全周に亘って設ける必要はなく、流路の周方向の一部のみに設けてもよい。
【0046】
また、
図7(b)に示すように、風速調整部材5は、複数のランス状部材5bで構成されてもよい。複数のランス状部材5bは、それぞれ独立して軸方向に沿って移動することができる。この構成によれば、火炎の状況を見ながら、風速を上げたい部分のランス状部材5bを選択的に移動させることができる。
【0047】
[実施例]
本発明者らは、セメントキルン用バーナの燃焼シミュレーション(ソフトウェア:ANSYS JAPAN社製、FLUENT)によって、風速調整部材による燃焼性への影響を評価した。
【0048】
(実施例1)
図8に示すセメントキルン用バーナ1bについて解析を行った。セメントキルン用バーナ1bは、固体粉末燃料用流路2と、固体粉末燃料用流路2に隣接して内側に配置された旋回内流路15と、固体粉末燃料用流路2に隣接して外側に配置された旋回外流路16と、旋回外流路16に隣接して外側に配置された直進外流路17と、を備える。旋回内流路15の内側には、油用流路3、可燃性固形廃棄物用流路4等が配置される。固体粉末燃料用流路2、旋回内流路15、及び旋回外流路16には、各々旋回羽根(2t,15t,16t)が、各流路のバーナ先端部に固定されている。なお、
図8には風速調整部材は示されていない。
【0049】
<バーナ燃焼条件>
固体粉末燃料としての微粉炭の燃焼量:15t/時間
可燃性固形廃棄物としての廃プラスチック(軟質プラスチック)処理量:3t/時間
<廃プラスチック条件>
可燃性固形廃棄物としての廃プラスチックの寸法:厚さ0.5mmシートを直径30mmに打ち抜いた円形シート状
<二次空気条件>
二次空気量と温度:150000Nm3/時間、800℃
<一次空気条件>
下記表1のバーナの出口風速と一次空気比をベース(仕様)として、流路の内部に設けた風速調整部材をバーナの出口から0.5m引き抜いた位置から、バーナの出口(0mm)まで押し込んだ位置まで移動させた。なお、風速調整部材は、流路(2,4,15,16,17)のうち一つのみに設け、その風速調整部材を移動させた。風速調整部材の先端とバーナの出口との距離が0.5mmの場合の風速と、風速調整部材の先端とバーナの出口との距離が0mmの場合の風速は、下記表2のようになった。
【0050】
<評価項目>
風速調整部材の先端とバーナの出口との距離を変えたときの廃プラスチックの落下率をシミュレーション解析した。廃プラスチックの落下率とは、投入した廃プラスチックのうち、落下した廃プラスチックの割合である。廃プラスチックの落下率(体積%)の評価結果を表3に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
表3のように、風速調整部材をバーナの出口側へ前進させ、風速を上げることで、廃プラスチックの燃焼を促進させ、廃プラスチックの落下率を減少させることができた。
【0055】
(参考例)
図8に示すセメントキルン用バーナ1bで風速調整部材を直進外流路17に設けて固定し、廃プラスチック(廃プラともいう)の量を変化させ、キルン内最高ガス温度、廃プラスチックの落下率を確認した。
キルン内最高ガス温度は、キルン内レンガの耐熱およびクリンカ品質の観点から1860℃~1920℃が好適である。また、廃プラスチックの落下率は、クリンカ品質の観点から0%が好適である。
【0056】
<バーナ燃焼条件>、<廃プラスチック条件>、<二次空気条件>は実施例1と同様。
【0057】
<一次空気条件>
実施例1の表1をベースに、バーナの出口風速を400m/s、および350m/sとなるように、直進外流路17に設けた風速調整部材の位置を調整した。
【0058】
<評価項目>
キルン内ガス最高温度(℃)、及び廃プラスチックの落下率(体積%)をシミュレーション解析した。バーナの出口風速が400m/sのときの評価結果を表4に示し、バーナの出口風速が350m/sのときの評価結果を表5に示す。
【0059】
【0060】
【0061】
表4に示すバーナの出口風速が400m/sの場合、キルン内ガス最高温度は、廃プラスチック量が3t/hの条件では適正温度である1890℃±30℃の範囲内であったのに対し、廃プラスチック量が3t/h未満となると適正温度範囲外まで上昇し、耐火レンガの溶損が懸念された。また、表5に示すバーナの出口風速が350m/sの場合、キルン内ガス最高温度は、廃プラスチック量が2t/hの条件では適正温度範囲内であったのに対し、3t/hでは適正温度範囲外まで低下し、クリンカ品質の悪化が懸念され、1t/h以下では適正温度範囲外まで上昇し、耐火レンガの溶損が懸念された。すなわち、廃プラスチック量に応じて適正なバーナの出口風速が存在し、風速調整部材の使用によって出口風速を調整することで、様々な廃プラスチック量に対応可能であることが示唆された。
【0062】
(実施例2)
図9に示すセメントキルン用バーナ1cについて解析を行った。
図9(a)に示すように、セメントキルン用バーナ1cは、セメントキルン9の窯尻部9aに設置される仮焼炉91用のバーナである。セメントキルン9の内径は3.5mm、仮焼炉91の内径は2.0mmとした。
図9(b)に示すように、セメントキルン用バーナ1cは、円柱状の微紛炭用流路13と、微紛炭用流路13に隣接して外側に配置された拡散空気用流路14とを備える。なお、
図9には風速調整部材は示されていない。
【0063】
<バーナ燃焼条件>
微粉炭の燃焼量:3t/時間
<二次空気条件>
二次空気量と温度:160000Nm3/時間、1000℃
<一次空気条件>
下記表6のバーナの出口風速と一次空気比をベース(仕様)として、流路の内部に設けた風速調整部材をバーナの出口から0.5m引き抜いた位置から、バーナの出口(0mm)まで押し込んだ位置まで移動させた。なお、風速調整部材は、流路(13,14)のうち一つのみに設け、その風速調整部材を移動させた。風速調整部材の先端とバーナの出口との距離が0.5mmの場合の風速と、風速調整部材の先端とバーナの出口との距離が0mmの場合の風速は、下記表7のようになった。
【0064】
<評価項目>
風速調整部材の先端とバーナの出口との距離を変えたときの、仮焼炉91の出口91aにおける微粉炭燃焼率をシミュレーション解析した。微粉炭燃焼率(重量%)の評価結果を表8に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
表8のように、風速調整部材をバーナの出口側へ前進させ、風速を上げることで、微粉炭の燃焼を促進させ、微粉炭の燃焼率を増加させることができた。
【符号の説明】
【0069】
1 :セメントキルン用バーナ
1a :セメントキルン用バーナ
1b :セメントキルン用バーナ
1c :セメントキルン用バーナ
2 :固体粉末燃料用流路
2t :旋回羽根
3 :油用流路
4 :可燃性固形廃棄物用流路
5 :風速調整部材
5a :風速調整部材
5b :ランス状部材
9 :セメントキルン
9a :窯尻部
11 :第一の空気流路
11a :第一の空気流路の内周壁
11b :第一の空気流路の外周壁
11c :第一の空気流路の出口
11d :第一の空気流路の出口側の先端部
12 :第二の空気流路
12a :第二の空気流路の内周壁
12b :第二の空気流路の外周壁
12c :第二の空気流路の出口
12d :第二の空気流路の出口側の先端部
12t :旋回羽根
13 :微紛炭用流路
14 :拡散空気用流路
15 :旋回内流路
16 :旋回外流路
17 :直進外流路
20 :セメントキルン用バーナシステム
21 :微粉炭搬送配管
22 :空気配管
23 :空気配管
24 :可燃性固形廃棄物搬送配管
91 :仮焼炉
91a :仮焼炉の出口