IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

特許7488956燃料電池システムを作動させる方法、燃料電池システムのための評価ユニット
<>
  • 特許-燃料電池システムを作動させる方法、燃料電池システムのための評価ユニット 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】燃料電池システムを作動させる方法、燃料電池システムのための評価ユニット
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0444 20160101AFI20240515BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20240515BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20240515BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20240515BHJP
【FI】
H01M8/0444
H01M8/0438
H01M8/04313
H01M8/04746
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023504590
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-24
(86)【国際出願番号】 EP2021069990
(87)【国際公開番号】W WO2022028859
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】102020209740.2
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ファルケナウ,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ボッシュ,ティモ
(72)【発明者】
【氏名】ブルンス,クリストファー
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-4032(JP,A)
【文献】特開2004-178845(JP,A)
【文献】特開2007-294189(JP,A)
【文献】特開2008-47518(JP,A)
【文献】特開2004-192845(JP,A)
【文献】特開2007-40756(JP,A)
【文献】特開2007-280925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
B60L 50/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード経路を介して水素が供給されるとともにカソード経路を介して酸素が供給される少なくとも1つの燃料電池を有する燃料電池システムを作動させる方法であって、前記燃料電池から出るアノード排ガスが再循環されるが、アノード排ガスの一部は時おりパージによって前記アノード経路から、カソード排ガスを運ぶ排ガス経路へと導入され、前記排ガス経路では水素センサを用いて排ガスの水素濃度が測定される、方法において、測定された水素濃度、前記カソード経路および前記アノード経路から前記排ガス経路へと導入されるガス量、ならびに前記アノード経路へ新たに供給される水素量をベースとして、直近のパージの前の前記アノード経路におけるアノードガスの水素濃度および/または窒素濃度が計算されることを特徴とする方法。
【請求項2】
アノードガスの水素濃度が計算され、水素濃度の知見のもとでアノードガスの窒素濃度が判定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記排ガス経路へと導入されるガス量から全体モル流量が計算され、計算された全体モル流量ならびに前記排ガス経路で測定された排ガスの水素濃度をベースとして水素量決定が時間的な積算を通じて行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
排ガス中の水素量と、前記アノード経路から前記排ガス経路へと導入されるガス量とが除算されることによってアノードガスの水素濃度が計算されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
全体モル流量を計算するために、カソード排ガスのモル流量と、パージによって前記アノード経路から前記排ガス経路へと導入されるアノード排ガスのモル流量とが事前に判定されることを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
アノード排ガスのモル流量を判定するために、パージによって前記アノード経路から前記排ガス経路へと導入されるガス量がパージプロセスの時間で除算されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
パージによって前記アノード経路から前記排ガス経路へと導入されるガス量が、前記アノード経路へ新たに供給される水素量と、一定のアノード圧力のもとで反応する水素量とから判定されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法を実施するための燃料電池システムのための評価ユニットにおいて、前記評価ユニットは燃料電池システムの排ガス経路に配置された水素センサとデータ伝送方式で接続されている、評価ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプレアンブルに記載されている、少なくとも1つの燃料電池を有する燃料電池システムを作動させる方法に関する。これに加えて本発明は、本発明による方法を実施可能である、燃料電池システムのための評価ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は酸素を利用して水素を電気エネルギーに変換し、その際に廃熱と水が生成される。そのために燃料電池は、アノード経路を介して水素の供給を受けるとともにカソード経路を介して酸素の供給を受ける膜電極接合体(MEA)を有している。水素は通常、タンクに備蓄されるのに対して、酸素は周囲空気から取り出すことができる。
【0003】
実際の用途では、生成される電圧を高めるために、このような複数の燃料電池が燃料電池積層体すなわち「スタック」をなすように配置される。それぞれ個々の燃料電池に水素と空気を供給するために、燃料電池スタックには供給通路が通っている。燃料電池スタックを貫通する別の通路が、燃料電池から出る使用済みのアノード排ガスならびに使用済みの湿った空気を運び出すための役目を果たす。
【0004】
システム面では、燃料電池に水素を供給するために、まだ水素を含んでいるアノード排ガスがガス送出デバイスによって燃料電池に再び供給される取り組みが確立されている。このようなプロセスは再循環と呼ばれる。ガス送出デバイスとしてジェットポンプを適用することができ、または、ジェットポンプとファンとで構成されるハイブリッドソリューションを適用することができる。
【0005】
再循環されるアノード排ガスは、拡散によってカソード側からアノード側に達した窒素を含む可能性がある。その帰結は電池電圧の低下である。というのも、窒素は、燃料電池で起こる電気化学反応にとって不活性ガスだからである。さらに、窒素が非常に高い濃度で存在すると、電池に水素が十分供給されなくなるために電池を損傷する可能性がある。
【0006】
したがって、窒素濃度を下げるために再循環室が時おり洗流される。このプロセスはパージと呼ばれる。パージ弁を介して、アノード排ガスの一部が再循環室から導出されて、新たな水素と置き換えられる。ただし頻繁すぎるパージは、窒素とともに水素も導出されるので、燃料電池システムの効率を低下させる。したがって、アノード排ガスの導出をシステム効率の観点から最適化し、それと同時に電池の損傷を最小限まで減らすために、窒素濃度の知見が重要となる。
【0007】
従来技術から水素センサの利用が知られている。水素濃度に関する確実な測定値を供給するために、これがアノード経路に配置される。そしてこの水素濃度から、窒素濃度を推定することができる。しかし、このような種類のセンサの利用は高いコストがかかり高価である。特に、密閉性の問題がインターフェース領域で発生する可能性がある。それにもかかわらず、通常、少なくとも1つの水素センサが燃料電池システムの排ガス経路に設置される。排ガス経路を介して、使用済みの湿った空気(カソード排ガス)と、パージによって時おり再循環室から導出されるアノード排ガスとが排出される。このように、排ガスは水素・窒素・蒸気・混合物からなる。排ガス経路に配置される水素センサは、危険のない水素濃度が常時守られているかどうかを測定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、アノード経路における窒素濃度が監視される、燃料電池システムを作動させる方法を提示することにある。このとき監視はできる限り効率的に、かつ既存の手段を用いて実行されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、請求項1の構成要件を有する方法が提案される。本発明の好ましい発展例は従属請求項から明らかとなる。これに加えて、本方法を実施可能である、燃料電池システムのための評価ユニットが提案される。
【0010】
アノード経路を介して水素が供給されるとともにカソード経路を介して酸素が供給される少なくとも1つの燃料電池を有する燃料電池システムを作動させる方法が提案される。このとき燃料電池から出るアノード排ガスが再循環される。しかし、アノード排ガスの一部は時おりパージによってアノード経路から、カソード排ガスを運ぶ排ガス経路へと導入される。排ガス経路では、水素センサを用いて排ガスの水素濃度が測定される。本発明によると、測定された水素濃度、カソード経路およびアノード経路から排ガス経路へと導入されるガス量、ならびにアノード経路へ新たに供給される水素量をベースとして、直近のパージの前のアノード経路におけるアノードガスの水素濃度および/または窒素濃度が計算される。
【0011】
水素濃度が既知であれば、そこから窒素濃度を導き出すことができる。このように、提案される方法を用いて、アノード経路における窒素濃度を直接的または少なくとも間接的に監視することができる。窒素濃度の知見のもとで、適時のパージによって、燃料電池の損傷を防止することができる。それと同時に、システム効率を最適化するために、パージを最小限まで減らすことができる。
【0012】
提案される方法に基づき、システムの排ガス経路に組み付けられた水素センサを用いてアノードガスの水素濃度および/または窒素濃度が監視される。当該センサは基本的に既設であるから、本方法を実施するのにさらなるセンサ装置は必要なく、それにより比較的容易に具体化可能である。
【0013】
アノード経路での水素濃度および/または窒素濃度を監視するために水素センサの測定データに追加して必要となる情報は、通常は既知であるか、または既知の量から簡易な方式で導き出すことができる。このことは特に、排ガス経路へと導入されるガス量に関して、および/またはアノード経路へ新たに供給される水素量に関して、当てはまる。
【0014】
まず最初に、アノードガスの水素濃度が計算されるのが好ましい。そして水素濃度の知見のもとで、アノードガスの窒素濃度が判定される。すなわち、アノードガスの水素濃度から窒素濃度が導き出される。このようにして窒素濃度が間接的に決定される。
【0015】
その他の方法ステップを、アノードガスの水素濃度の計算に先行させることができる。これらの方法ステップについて以下に詳しく説明する。
【0016】
排ガス経路へと導入されるガス量からまず全体モル流量が計算される方法ステップが、水素濃度の計算に先行するのが好ましい。次いで、計算された全体モル流量ならびに排ガス経路で測定された排ガスの水素濃度をベースとして、時間的な積算を通じて水素量決定を行うことができる。そして、このようにして決定された水素量を、アノードガスの水素濃度の計算の基礎とすることができる。というのもアノードガスの水素濃度は、特に、排ガス中の水素量と、アノード経路から排ガス経路へと導入されるガス量との除算によって計算されるからである。
【0017】
全体モル流量を計算するために、カソード排ガスのモル流量と、パージによってアノード経路から排ガス経路へと導入されるアノード排ガスのモル流量とが事前に判定されるのが好ましい。このように全体モル流量は、排ガス経路へと導入されるカソード排ガスおよびアノード排ガスの2つの個々のモル流量を合わせたものとなる。
【0018】
カソード排ガスのモル流量は、システム上、カソード側の空気圧縮機の特性マップの知見および種々のエアマス測定の知見によって、ならびに反応する酸素量、空気圧、相対湿度の知見によって、既知となる。アノード排ガスのモル流量は判定することができる。アノード排ガスのモル流量の判定のために、パージによってアノード経路から排ガス経路へと導入されるガス量が、パージプロセスの時間で除算されるのが好ましい。
【0019】
さらにこのことは、アノード経路から排ガス経路へと導入されるガス量が既知であることを前提とする。したがって本発明の発展例では、パージによってアノード経路から排ガス経路へと導入されるガス量が、アノード経路へ新たに供給される水素量と、一定のアノード圧力のもとで反応する水素量とから判定されることが提案される。反応する水素量は、電流生成のために必要な水素量から、ないしはスタック電流から、つまり好ましくはパージプロセスの時間を通じて求められる。この水素量が、パージプロセス中にアノード経路へ新たに供給された水素量から減算される。したがって、新たに供給される水素量を通じて、パージによって導出されるガス量を推定することができる。この想定の前提となるのは、アノード圧力が積算時間帯の間に変化しないことである。
【0020】
これに加えて、本発明による方法を実施可能である燃料電池システムのための評価ユニットが提案される。このとき評価ユニットは、燃料電池システムの排ガス経路に配置された水素センサとデータ伝送方式で接続される。このように評価ユニットは、本方法を実施するために必要な測定データを利用することができる。これ以外の情報も必要となる限りにおいて、それらも同じく評価ユニットに送ることができる。
【0021】
次に、本発明による方法とその利点について添付の図面を参照しながら詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明による方法の好ましい手順を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ブロック図に例示として示している本発明の方法の手順は、順次または並行して実行することができる複数の方法ステップを含んでいる。基本の方法ステップとなるのは、排ガス経路における排ガスの水素濃度の測定であり、ここでは方法ステップ10として表されている。この測定値と、排ガス経路で以前に判定された全体モル流量とをベースとして、方法ステップ20で、水素量決定が時間的な積算を通じて行われる。全体モル流量の判定は方法ステップ11および16を含み、これらの方法ステップで、まずカソード排ガスのモル流量が判定され(方法ステップ11)、排ガス経路へと導入されるアノード排ガスのモル流量と加算される(方法ステップ16)。カソード排ガスのモル流量は既知として前提できるのに対して、アノード排ガスのモル流量はまず決定されなくてはならない。そのために、パージによって排ガス経路へと導入されるアノード排ガス量が、パージプロセスの時間で除算される(方法ステップ15)。パージによって排ガス経路へと導入されるアノード排ガス量は、方法ステップ14で事前に決定される。これに先行する方法ステップ12および13は、アノード経路へ新たに供給された水素量がパージプロセスの時間にわたって積算されることを含み(方法ステップ12)、ならびに、パージプロセス中に電流生成のために消費された水素量が減算されることを含む(方法ステップ13)。この想定の前提となるのは、アノード圧力が積算時間帯の間に変化しないことである。
【0024】
アノード経路から排ガス経路へと導入された、方法ステップ14で判定されるガス量をベースとして、および、方法ステップ20で判定される排ガス中の水素量をベースとして、最終的に方法ステップ30で、アノード経路での水素濃度を計算することができる。そのために、方法ステップ20で判定された水素量が、方法ステップ14で判定されたガス量で除算される。
【符号の説明】
【0025】
10 排ガス経路における排ガスの水素濃度が測定される方法ステップ
11 カソード排ガスのモル流量が判定される方法ステップ
12 アノード経路へ新たに供給された水素量がパージプロセスの時間にわたって積算される方法ステップ
13 パージプロセス中に電流生成のために消費された水素量が減算される方法ステップ
14 パージによって排ガス経路へと導入されるアノード排ガス量が事前に決定される方法ステップ
15 パージによって排ガス経路へと導入されるアノード排ガス量がパージプロセスの時間で除算される方法ステップ
16 排ガス経路へと導入されるアノード排ガスのモル流量と加算される方法ステップ
20 水素量決定の方法ステップ
30 アノード経路での水素濃度を計算する方法ステップ
図1