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特許7488982金属皮膜の成膜装置及び金属皮膜の成膜方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】金属皮膜の成膜装置及び金属皮膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/00 20060101AFI20240515BHJP
   C25D 5/02 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C25D17/00 C
C25D17/00 H
C25D5/02 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024502554
(86)(22)【出願日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2023034282
【審査請求日】2024-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2022161620
(32)【優先日】2022-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000120386
【氏名又は名称】株式会社JCU
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】松倉 崇
(72)【発明者】
【氏名】青木 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 麻里
(72)【発明者】
【氏名】内田 千紘
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-001658(JP,A)
【文献】特開2020-132948(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0137997(KR,A)
【文献】特開平06-063456(JP,A)
【文献】実公昭50-030337(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/00
C25D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液が供給される液室と開口部とを有する陽極ハウジング部を有する電解ヘッド部と、
前記液室内に配置される陽極と、
前記陽極と陰極との間に配置される固体電解質膜と、
前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加する電源部と、
前記陽極ハウジング部の液室内に前記電解液を導入する電解液導入部と、
前記陽極ハウジング部の液室内の前記電解液を前記液室外に排出する電解液排出部と、
前記電解液を無脈動で送液する無脈動ポンプと、
を備え、
前記無脈動ポンプの稼働により、前記電解液導入部を介して前記電解液を前記液室内に無脈動で連続的に導入するとともに前記電解液排出部を介して前記液室内の前記電解液を前記液室外に連続的に排出する、金属皮膜の成膜装置。
【請求項2】
前記無脈動ポンプは、非容積式ポンプ又は無脈動容積式ポンプである、請求項1に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項3】
前記無脈動ポンプは、渦巻ポンプ、カスケードポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプ、及び脈動相殺機構付きダイアフラムポンプの1種以上からなる、請求項1又は2に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項4】
前記電解液導入部及び前記電解液排出部の少なくとも一方は、前記陽極ハウジング部に2個以上設けられる、請求項1又は2に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項5】
前記電解液導入部は、前記陽極ハウジング部の外周部に2個以上設けられ、
前記電解液導入部は、前記電解液導入部を介した前記液室内への前記電解液の導入方向である電解液導入方向が、前記陽極ハウジング部を上方から見たときに2個以上になるように設けられる、請求項1又は2に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項6】
前記電解液導入部は、前記電解液導入方向のそれぞれが、前記陽極ハウジング部を上方から見たときに前記陽極ハウジング部の中心部を向くように設けられる、請求項5に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項7】
前記電解液排出部は、前記電解液排出部を介した前記液室からの前記電解液の排出方向である電解液排出方向が、前記陽極ハウジング部を側方から見たときに上方向を含むように設けられる、請求項1又は2に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項8】
前記電解液を調製する電解液調製部と、
前記電解液調製部で調製された前記電解液を前記電解液導入部に供給する導入ラインと、
前記電解液排出部から排出された前記電解液を前記電解液調製部に供給する戻りラインと、を備え、
前記無脈動ポンプが前記導入ラインに設けられる、請求項1又は2に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項9】
前記陽極ハウジング部の開口部が、前記陽極ハウジング部の下面部であるハウジング下面部に形成され、
前記固体電解質膜の周辺部を前記ハウジング下面部に押圧する膜押圧部を有する膜用台座と、
前記膜用台座が載置される載置用台座と、
前記載置用台座に当接する基部当接部と吸引孔が穿設された筒状の外筒本体とを有する外筒部と、
前記膜用台座と前記載置用台座と前記外筒部とが積層されたときに形成される合体挿通孔に挿通される円柱状の陰極保持台座であって、前記合体挿通孔に挿通クリアランスを有して挿通される柱状挿通部と、前記陰極を保持する陰極保持部と、を有する陰極保持台座と、
を備え、
前記吸引孔は、前記合体挿通孔に連通するように設けられる、請求項1又は2に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項10】
前記ハウジング下面部に刻設されたハウジング側溝に装着され、前記ハウジング下面部と、前記膜押圧部のうち前記ハウジング下面部に対向する表面部である膜押圧上面部と、の間をシールするハウジング側Oリングと、
前記膜押圧上面部に刻設された膜固定側溝に装着され、前記ハウジング下面部と前記膜押圧上面部との間をシールする膜固定側Oリングと、
を備える、請求項9に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の金属皮膜の成膜装置を用いる金属皮膜の成膜方法であって、
前記無脈動ポンプの稼働により、前記電解液導入部を介して前記電解液を前記液室内に無脈動で連続的に導入するとともに前記電解液排出部を介して前記液室内の前記電解液を前記液室外に連続的に排出する無脈動液循環状態を形成し、
前記無脈動液循環状態で、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することにより、前記固体電解質膜に導入された前記電解液中の金属イオンが還元されてなる金属皮膜を前記陰極の表面に形成する、金属皮膜の成膜方法。
【請求項12】
前記金属皮膜の成膜装置は、
前記陽極ハウジング部の開口部が、前記陽極ハウジング部の下面部であるハウジング下面部に形成され、
前記固体電解質膜の周辺部を前記ハウジング下面部に押圧する膜押圧部を有する膜用台座と、
前記膜用台座が載置される載置用台座と、
前記載置用台座に当接する基部当接部と吸引孔が穿設された筒状の外筒本体とを有する外筒部と、
前記膜用台座と前記載置用台座と前記外筒部とが積層されたときに形成される合体挿通孔に挿通される円柱状の陰極保持台座であって、前記合体挿通孔に挿通クリアランスを有して挿通される柱状挿通部と、前記陰極を保持する陰極保持部と、を有する陰極保持台座と、
を備え、前記吸引孔は、前記合体挿通孔に連通するように設けられており、
前記膜用台座に前記固体電解質膜を載置する載置工程と、
前記膜用台座と前記載置用台座とを前記外筒部で上方に押圧する膜周辺密着工程と、
前記電解液導入部を介して前記液室内に前記電解液を導入する膜上液供給工程と、
前記陰極保持部に保持された前記陰極の上方に陰極濡れ用液体を供給する陰極上液供給工程と、
前記柱状挿通部を前記合体挿通孔内に挿通することにより、前記陰極濡れ用液体で濡れた前記陰極の上面を、下方に撓んだ前記固体電解質膜の下面に接触させる陰極-膜接触工程と、
前記固体電解質膜の下面と前記陰極の上面とを前記陰極-膜接触工程よりも接触させた状態において前記吸引孔を外部から吸引する吸引工程と、
を有する成膜準備作業を行った後に、成膜を行う、請求項11に記載の金属皮膜の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属皮膜の成膜装置及び金属皮膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、陰極としての基材と、陽極と、固体電解質膜とを用い、基材の表面に金属皮膜を形成する金属皮膜の成膜方法が知られている。例えば、特許文献1には、固体電解質膜を上方から基材に接触させた状態で、陽極と陰極である基材との間に電圧を印加して、固体電解質膜の内部に含有された金属イオンを還元することで金属皮膜を基材の表面に成膜する金属皮膜の成膜装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載された成膜装置では、陽極の表面に発生する酸素ガスが所定の箇所に滞留することを抑制するために、陽極を振動させる振動部が設けられている。
【0004】
また、特許文献2には、基材の周縁に発生する水素ガスを逃すために、電解液を収容する液収容部の液圧を変動させる液圧変動部及び基材の周りに浸漬液を浸す浸漬部を備える金属皮膜の成膜装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-169399号公報
【文献】特開2022-001658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2に開示された装置を用いて酸素ガスや水素ガスを排出しても、金属イオンの供給が不十分になり、金属皮膜にヤケ(金属の異常析出による変色)が生じるおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、金属皮膜のヤケが生じにくい金属皮膜の成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、特定構造の金属皮膜の成膜装置によれば、金属皮膜にヤケが生じにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
(1) 本発明に係る金属皮膜の成膜装置は、電解液が供給される液室と開口部とを有する陽極ハウジング部を有する電解ヘッド部と、前記液室内に配置される陽極と、前記陽極と陰極との間に配置される固体電解質膜と、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加する電源部と、前記陽極ハウジング部の液室内に前記電解液を導入する電解液導入部と、前記陽極ハウジング部の液室内の前記電解液を前記液室外に排出する電解液排出部と、前記電解液を無脈動で送液する無脈動ポンプと、を備え、前記無脈動ポンプの稼働により、前記電解液導入部を介して前記電解液を前記液室内に無脈動で連続的に導入するとともに前記電解液排出部を介して前記液室内の前記電解液を前記液室外に連続的に排出する。
【0010】
(2) (1)の金属皮膜の成膜装置は、前記無脈動ポンプは、非容積式ポンプ又は無脈動容積式ポンプであることが好ましい。
【0011】
(3) (1)又は(2)の金属皮膜の成膜装置は、前記無脈動ポンプは、渦巻ポンプ、カスケードポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプ又は脈動相殺機構付きダイアフラムポンプの1種以上からなることが好ましい。
【0012】
(4) (1)又は(2)の金属皮膜の成膜装置は、前記電解液導入部及び前記電解液排出部の少なくとも一方は、前記陽極ハウジング部に2個以上設けられることが好ましい。
【0013】
(5) (1)又は(2)の金属皮膜の成膜装置は、前記電解液導入部は、前記陽極ハウジング部の外周部に2個以上設けられ、前記電解液導入部は、前記電解液導入部を介した前記液室内への前記電解液の導入方向である電解液導入方向が、前記陽極ハウジング部を上方から見たときに2個以上になるように設けられることが好ましい。
【0014】
(6) (5)の金属皮膜の成膜装置は、前記電解液導入部は、前記電解液導入方向のそれぞれが、前記陽極ハウジング部を上方から見たときに前記陽極ハウジング部の中心部を向くように設けられることが好ましい。
【0015】
(7) (1)又は(2)の金属皮膜の成膜装置は、前記電解液排出部は、前記電解液排出部を介した前記液室からの前記電解液の排出方向である電解液排出方向が、前記陽極ハウジング部を側方から見たときに上方向を含むように設けられることが好ましい。
【0016】
(8) (1)又は(2)の金属皮膜の成膜装置は、前記電解液を調製する電解液調製部と、前記電解液調製部で調製された前記電解液を前記電解液導入部に供給する導入ラインと、前記電解液排出部から排出された前記電解液を前記電解液調製部に供給する戻りラインと、を備え、前記無脈動ポンプが前記導入ラインに設けられることが好ましい。
【0017】
(9) (1)又は(2)の金属皮膜の成膜装置は、前記陽極ハウジング部の開口部が、前記陽極ハウジング部の下面部であるハウジング下面部に形成され、前記固体電解質膜の周辺部を前記ハウジング下面部に押圧する膜用台座と、前記膜用台座が載置される載置用台座と、前記載置用台座に当接する基部当接部と吸引孔が穿設された筒状の外筒本体とを有する外筒部と、前記膜用台座と前記載置用台座と前記外筒部とが積層されたときに形成される合体挿通孔に挿通される円柱状の陰極保持台座であって、前記合体挿通孔に挿通クリアランスを有して挿通される柱状挿通部と、前記陰極を保持する陰極保持部と、を有する陰極保持台座と、を備え、前記吸引孔は、前記合体挿通孔に連通するように設けられることが好ましい。
【0018】
(10) (9)の金属皮膜の成膜装置は、前記ハウジング下面部に刻設されたハウジング側溝に装着され、前記ハウジング下面部と、前記膜押圧部のうち前記ハウジング下面部に対向する表面部である膜押圧上面部と、の間をシールするハウジング側Oリングと、前記膜押圧上面部に刻設された膜固定側溝に装着され、前記ハウジング下面部と前記膜押圧上面部との間をシールする膜固定側Oリングと、を備えることが好ましい。
【0019】
(11) 本発明に係る金属皮膜の成膜方法は、(1)又は(2)に記載の金属皮膜の成膜装置を用いる金属皮膜の成膜方法であって、前記無脈動ポンプの稼働により、前記電解液導入部を介して前記電解液を前記液室内に無脈動で連続的に導入するとともに前記電解液排出部を介して前記液室内の前記電解液を前記液室外に連続的に排出する無脈動液循環状態を形成し、前記無脈動液循環状態で、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することにより、前記固体電解質膜に導入された前記電解液中の金属イオンが還元されてなる金属皮膜を前記陰極の表面に形成することが好ましい。
【0020】
(12) (11)の金属皮膜の成膜方法は、(9)又は(10)に記載の金属皮膜の成膜装置を用いる金属皮膜の成膜方法であって、前記膜用台座に前記固体電解質膜を載置する載置工程と、前記膜用台座と前記載置用台座とを前記外筒部で上方に押圧する膜周辺密着工程と、前記電解液導入部を介して前記液室内に前記電解液を導入する膜上液供給工程と、前記陰極保持部に保持された前記陰極の上方に陰極濡れ用液体を供給する陰極上液供給工程と、前記柱状挿通部を前記合体挿通孔内に挿通することにより、前記陰極濡れ用液体で濡れた前記陰極の上面を、下方に撓んだ前記固体電解質膜の下面に接触させる陰極-膜接触工程と、前記固体電解質膜の下面と前記陰極の上面とを前記陰極-膜接触工程よりも接触させた状態において前記吸引孔を外部から吸引する吸引工程と、
を有する成膜準備作業を行った後に、成膜を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、金属イオンの安定供給を可能とし、金属皮膜にヤケが生じにくい金属皮膜の成膜装置及び金属皮膜の成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る金属皮膜の成膜装置の一例の概略図である。
図2図1に示す金属皮膜の成膜装置の電解部の一例の詳細な構成、及びこの電解部を用いた金属皮膜の成膜装置の吸引工程を示す断面図である。
図3図2に示す電解部を用いた金属皮膜の成膜装置の載置工程を示す断面図である。
図4図2に示す電解部を用いた金属皮膜の成膜装置の膜周辺密着工程を示す断面図である。
図5図2に示す電解部を用いた金属皮膜の成膜装置の膜上液供給工程及び陰極上液供給工程を示す断面図である。
図6図2に示す電解部を用いた金属皮膜の成膜装置の陰極-膜接触工程の前半工程を示す断面図である。
図7図2に示す電解部を用いた金属皮膜の成膜装置の陰極-膜接触工程の後半工程を示す断面図である。
図8】実施例1の金属皮膜及び固体電解質膜の表面を示す光学写真である。(A)は金属皮膜の表面を示す光学写真であり、(B)は固体電解質膜の表面を示す光学写真である。
図9】比較例1の金属皮膜及び固体電解質膜の表面を示す光学写真である。(A)は金属皮膜の表面を示す光学写真であり、(B)は固体電解質膜の表面を示す光学写真である。
図10】実施例3の金属皮膜及び固体電解質膜の表面を示す光学写真である。(A)は金属皮膜の表面を示す光学写真であり、(B)は固体電解質膜の表面を示す光学写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る金属皮膜の成膜装置及び金属皮膜の成膜方法について図面を参照して説明する。なお、図面の寸法やその比率は、実際の装置の寸法やその比率と一致するものでなく、誇張して示している場合がある。
【0024】
[金属皮膜の成膜装置]
図1は、本発明に係る金属皮膜の成膜装置の一例の概略図である。図2は、図1に示す金属皮膜の成膜装置の電解部の一例の詳細な構成、及びこの電解部を用いた金属皮膜の成膜装置の吸引工程を示す断面図である。
【0025】
図1に示すように、金属皮膜の成膜装置1A(1)は、電解ヘッド部10と、陽極21と、固体電解質膜30と、陰極22と、電源部29と、電解液導入部41と、電解液排出部42と、無脈動ポンプ45と、を備える。また、金属皮膜の成膜装置1Aは、電解液調製部46と、導入ライン47と、戻りライン48と、を備え、無脈動ポンプ45が前記導入ライン47に設けられる。
【0026】
なお、本発明では、電解ヘッド部10と、陽極21と、固体電解質膜30と、陰極22と、陰極保持台座90と、を含む構成を電解部5と称する。図1に示す金属皮膜の成膜装置1Aは、電解部5A(5)を含む。
【0027】
また、図1では記載を省略しているが、金属皮膜の成膜装置1Aは、固体電解質膜30を電解ヘッド部10に固定する構成、及び陰極22を固体電解質膜30に押圧する構成を有する。具体的には、固体電解質膜30は、後述の膜用台座50により電解ヘッド部10に固定される。また、膜用台座50は、載置用台座60及び外筒部70と積層されることにより、膜用台座50と載置用台座60と外筒部70とが実質的に一体化し合体挿通孔85を有する陰極側外枠部6を形成する。陰極22は、陰極側外枠部6の合体挿通孔85に挿通される陰極保持台座90により固体電解質膜30に押圧される。
【0028】
本発明では、膜用台座50と、載置用台座60と、外筒部70と、を含む構成を陰極側外枠部6と称する。陰極側外枠部6及び陰極保持台座90については後述する。
【0029】
(電解ヘッド部)
電解ヘッド部10は、電解液Lが供給される液室17と開口部15とを有する陽極ハウジング部11を有する。陽極ハウジング部11は、上部側のハウジング部本体12と下部側のハウジング部底部13とが一体となることで、内部に液室17を有し、下側に開口部15を有する箱型構造になっている。陽極ハウジング部11の液室17内には、陽極21が配置される。
【0030】
電解液Lとしては、特に限定されないが、例えば、銅、ニッケル、銀、金、錫等の金属イオンを含む電解液が用いられる。
【0031】
ハウジング部底部13は、8個の平面状の外周部14を有する八角柱状になっている。また、液室17の内、ハウジング部底部13内に形成される空間は、頂面が底面よりも面積の大きい円錐台状になっている。金属皮膜の成膜装置1Aの変形例として、ハウジング部底部13の形状を八角柱状以外の形状としたり、液室17の内、ハウジング部底部13内に形成される空間の形状を円錐台状以外の形状としたりすることができる。
【0032】
ハウジング部底部13には、下方に開口した開口部15と電解液導入部41A、41B(41)とが設けられる。開口部15は、陽極ハウジング部11のハウジング部底部13の下面部であるハウジング下面部16に形成される。
【0033】
ハウジング部底部13の下面部であるハウジング下面部16には、膜用台座50の膜押圧部の膜押圧上面部54との間で固体電解質膜30をシールして挟持するためのハウジング側Oリング19が設けられ、ハウジング側Oリング19が挿入されるハウジング側溝18が刻設される。ハウジング側Oリング19は、ハウジング下面部16に刻設されたハウジング側溝18に装着され、ハウジング下面部16と、膜押圧部のうちハウジング下面部16に対向する表面部である膜押圧上面部54と、の間をシールするようになっている。
【0034】
電解液導入部41は、陽極ハウジング部11の液室17内に電解液Lを導入する部分である。図1に示すように、電解液導入部41A、41B(41)は、ハウジング部底部13の外周部14に液室17に連通するように設けられる。なお、電解液導入部41A、41Bは、図1ではそれぞれ1個として描かれているが、実際には、図2に示す電解液導入部41C、41D、41E(41)のように、八角柱状のハウジング部底部13の外周部14の一平面に3個並列して設けられる構造になっている。すなわち、電解液導入部41Aは、図1に示したものに加え、外周部14の一平面の紙面奥側と手前側とに1個ずつ設けられ、合計3個並列して設けられる。同様に、電解液導入部41Bも、図1に示したものに加え、外周部14の一平面の紙面奥側と手前側とに1個ずつ設けられ、合計3個並列して設けられる。
【0035】
また、ハウジング部底部13には、図1に示す電解液導入部41A、41Bに加え、他の電解液導入部41も設けられる。具体的には、図2に示すように、ハウジング部底部13の外周部14の紙面奥側の一平面に電解液導入部41C、41D、41E(41)が設けられる。金属皮膜の成膜装置1Aでは、八角柱状のハウジング部底部13の8個の外周部14の一平面のそれぞれに、電解液導入部41C、41D、41Eと同様の3個並列した電解液導入部41が設けられる。このため、ハウジング部底部13には、八方の外周部14に電解液導入部41が3個ずつ、合計24個設けられている。
【0036】
このように、金属皮膜の成膜装置1Aでは、電解液導入部41は、陽極ハウジング部11の外周部14に2個以上設けられている。このような構成であると、液室17内の固体電解質膜30付近で電解液Lに乱流が生じ、固体電解質膜30への電解液Lの供給が十分に行われやすいため好ましい。なお、金属皮膜の成膜装置1Aの変形例として、電解液導入部41の数及び位置を適宜変えてもよい。
【0037】
金属皮膜の成膜装置1Aでは、電解液導入部41は、電解液導入部41を介した液室17内への電解液Lの導入方向である電解液導入方向IDが、陽極ハウジング部11を上方から見たときに2個以上になるように設けられている。このような構成であると、液室17内の固体電解質膜30付近で電解液Lに乱流が生じ、固体電解質膜30への電解液Lの供給が十分に行われやすいため好ましい。
【0038】
また、電解液導入部41は、電解液導入方向IDのそれぞれが、陽極ハウジング部11を上方から見たときに陽極ハウジング部11の中心部を向くように設けられている。このような構成であると、液室17内の固体電解質膜30付近で電解液Lに乱流が生じ、固体電解質膜30への電解液Lの供給が十分に行われやすいため好ましい。
【0039】
さらに、ハウジング部本体12には電解液排出部42A(42)が設けられる。電解液排出部42Aは、陽極ハウジング部11の液室17内の電解液Lを液室17外に排出する部分である。
【0040】
金属皮膜の成膜装置1Aでは、電解液排出部42は、電解液排出部42を介した液室17からの電解液Lの排出方向である電解液排出方向EDが、陽極ハウジング部11を側方から見たときに上方向を含むように設けられている。このような構成であると、液室17内の固体電解質膜30付近で電解液Lに乱流が生じ、固体電解質膜30への電解液Lの供給が十分に行われやすいため好ましい。
【0041】
このように、金属皮膜の成膜装置1Aでは、電解液導入部41及び電解液排出部42の少なくとも一方は、陽極ハウジング部11に2個以上設けられる構成になっている。このような構成であると、液室17内の固体電解質膜30付近で電解液Lに乱流が生じ、固体電解質膜30への電解液Lの供給が十分に行われやすいため好ましい。
【0042】
(陽極)
陽極21は、液室17内に配置される。陽極21としては特に限定されないが、例えば、チタン等の金属体を、酸化ルテニウム、白金、酸化イリジウム等で被覆した不溶性陽極が用いられる。
【0043】
(固体電解質膜)
固体電解質膜30は、陽極21と陰極22との間に配置され、電解液L中の金属イオンを導入可能に形成される膜である。固体電解質膜30としては、液室17内に供給された電解液Lに接触させることで、電解液L中の金属イオンを含浸し、電源部29により電圧を印加したときに金属イオン由来の金属を陰極22としての基材111の表面に析出可能なものであればよく、特に限定されない。固体電解質膜30としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、炭化水素系樹脂、フッ素系樹脂等のイオン交換機能を有した樹脂等が用いられる。固体電解質膜30は、通常、十分な柔軟性や撓み性を有する。
【0044】
(陰極)
陰極22は、固体電解質膜30を介して陽極21と対向するように電解ヘッド部10外に配置される。陰極22としては特に限定されないが、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属材料からなるもの、樹脂又はシリコン基材の処理表面に金属下地層が形成されているもの等が用いられる。
【0045】
(電源部)
電源部は、陽極21と前記陰極22との間に電圧を印加する。電源部29としては特に限定されないが、例えば、直流電源、パルス電源等が用いられる。
【0046】
(無脈動ポンプ)
無脈動ポンプ45は、電解液Lを無脈動で送液するポンプである。「無脈動」とは、ポンプの機構上発生する吐出の流量変化がゼロ又は小さいことを意味する。図1に示すように、無脈動ポンプ45は、導入ライン47に設けられる。
【0047】
無脈動ポンプ45の種類としては特に限定されないが、例えば、非容積式ポンプや無脈動容積式ポンプが用いられる。非容積式ポンプとしては、渦巻ポンプ、カスケードポンプ、斜流ポンプ、及び軸流ポンプ等が用いられる。このうち、渦巻ポンプは、一定流量で安定供給できるため好ましい。無脈動容積式ポンプとしては、脈動相殺機構付きダイアフラムポンプ等が用いられる。無脈動ポンプ45は、例えば、渦巻ポンプ、カスケードポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプ、及び脈動相殺機構付きダイアフラムポンプの1種以上からなる。
【0048】
無脈動ポンプ45は、電解液Lを無脈動で送液することができるものであればよく、特に限定されない。無脈動ポンプ45は、例えば、5秒当たりの脈動による流量変化が、通常46容量%未満、好ましくは5容量%以内である。ここで、5秒当たりの脈動による流量変化とは、(脈動ありで運転したときの脈動による減少流量/無脈動で運転したときの流量N)×100[%]を意味する。例えば、無脈動で運転したときの流量Nが1.12L/min.で、脈動ありで運転したときの最小流量Min.が0.605L/min.である場合の5秒当たりの脈動による流量変化FCについて説明する。この場合、脈動ありで運転したときの脈動による減少流量Dは(1.12-0.605)L/min.であり、5秒当たりの脈動による流量変化FCは{(1.12-0.605)/1.12}×100=46%と算出される。
【0049】
金属皮膜の成膜装置1Aでは、無脈動ポンプ45の稼働により、電解液導入部41を介して電解液Lを液室17内に無脈動で連続的に導入するとともに電解液排出部42を介して液室17内の電解液Lを液室17外に連続的に排出する無脈動液循環状態を形成することが可能になっている。
【0050】
(電解液調製部)
電解液調製部46は、電解液Lを調製する設備である。電解液調製部46は、電解液排出部42から排出された電解液Lが戻りライン48を介して供給されるようになっている。電解液調製部46では、戻りライン48を介して供給された電解液Lを適宜調整する。
【0051】
(導入ライン)
導入ライン47は、電解液調製部46で調製された電解液Lを電解液導入部41に供給する設備である。図1に示すように、金属皮膜の成膜装置1Aでは、電解液調製部46に接続される1系統の導入ライン47が無脈動ポンプ45に接続された後、無脈動ポンプ45の出口側で導入ライン47A、47B(47)の2系統に分岐される。導入ライン47A、47Bは、それぞれ、電解液導入部41A、41Bに導入される。なお、金属皮膜の成膜装置1Aの電解液導入部41は、41A、41Bを含めて24個あるが、電解液導入部41A、41B以外の電解液導入部41には、導入ライン47A、47Bから分岐された図示しない導入ラインを介して電解液Lが供給されるようになっている。
【0052】
(戻りライン)
戻りライン48は、電解液排出部42から排出された電解液Lを電解液調製部46に供給する設備である。
【0053】
次に、陰極側外枠部6を構成する、膜用台座50と、載置用台座60と、外筒部70とについて説明する。
【0054】
図3は、図2に示す電解部を用いた金属皮膜の成膜装置の載置工程を示す断面図である。図4は、図2に示す電解部を用いた金属皮膜の成膜装置の膜周辺密着工程を示す断面図である。図5は、図2に示す電解部を用いた金属皮膜の成膜装置の膜上液供給工程及び陰極上液供給工程を示す断面図である。図6は、図2に示す電解部を用いた金属皮膜の成膜装置の陰極-膜接触工程の前半工程を示す断面図である。図7は、図2に示す電解部5Aを用いた金属皮膜の成膜装置の陰極-膜接触工程の後半工程を示す断面図である。図3図7は、陰極側外枠部6を構成する部材の説明に好適であるため、必要により参照する。
【0055】
(膜用台座)
図3に示すように、膜用台座50は、固体電解質膜30の周辺部37をハウジング下面部16に押圧する部材である。具体的には、膜用台座50は、固体電解質膜30の周辺部37をハウジング下面部16に押圧する膜押圧部51を有する。膜用台座50は、膜用台座50を押圧する方向である押圧方向Pに貫通する円柱状の第1の内壁面52で囲繞されて形成された第1挿通孔55を有する。
【0056】
膜用台座50の上面部である膜押圧上面部54には、陽極ハウジング部11のハウジング下面部16との間で固体電解質膜30をシールして挟持するための膜固定側Oリング59が設けられ、膜固定側Oリング59が挿入される膜固定側溝58が刻設される。膜固定側Oリング59は、膜押圧上面部54に刻設された膜固定側溝58に装着され、ハウジング下面部16と膜押圧上面部54との間をシールするようになっている。
【0057】
(載置用台座)
載置用台座60は、膜用台座50が載置される部材である。具体的には、載置用台座60は、膜用台座50が載置される載置凹部63が形成された載置基部61を有する。載置用台座60は、載置用台座60を押圧方向Pに貫通する円柱状の第2の内壁面62で囲繞されて形成されかつ膜用台座50と積層されたときに第2の内壁面62が第1の内壁面52と面一になる第2挿通孔65を有する。ここで「面一」とは、第1の内壁面52と第2の内壁面62との段差が1mm以下であることを意味する。
【0058】
載置用台座60の載置凹部63には、載置された膜用台座50とのシール性を保つための載置台座Oリング69が設けられ、載置台座Oリング69が挿入される載置台座溝68が刻設される。載置台座Oリング69は、載置台座溝68に刻設された載置台座溝68に装着され、載置された膜用台座50との間をシールするようになっている。
【0059】
(外筒部)
外筒部70は、載置用台座60に当接する基部当接部71と、吸引孔96が穿設された筒状の外筒本体73とを有する部材である。具体的には、外筒部70は、載置用台座60の下面部である載置基部下面部66に当接する基部当接部71とこの基部当接部71の下方に延設され吸引孔96が穿設された筒状の外筒本体73とを有する。外筒部70は、外筒部70を押圧方向Pに貫通する円柱状の第3の内壁面72で囲繞されて形成されかつ載置用台座60と積層されたときに第3の内壁面72が第2の内壁面62と面一になる第3挿通孔75を有する。ここで「面一」とは、第2の内壁面62と第3の内壁面72との段差が1mm以下であることを意味する。
【0060】
外筒部70の上面部である基部当接部71には、載置用台座60の載置基部下面部66とのシール性を保つための外筒部Oリング79が設けられ、外筒部Oリング79が挿入される外筒部溝78が刻設される。外筒部Oリング79は、基部当接部71に刻設された外筒部溝78に装着され、載置用台座60の載置基部下面部66との間をシールするようになっている。
【0061】
図4に示すように、膜用台座50と載置用台座60と外筒部70とが積層されると、合体挿通孔85が形成される。合体挿通孔85は、膜用台座50の第1の内壁面52と、載置用台座60の第2の内壁面62と、外筒部70の第3の内壁面72とが合体して形成される円柱状の合体内壁面82で囲繞されて形成された挿通孔である。換言すれば、合体挿通孔85は、膜用台座50の第1挿通孔55と、載置用台座60の第2挿通孔65と、外筒部70の第3挿通孔75とが合体して形成される挿通孔である。
【0062】
外筒本体73に穿設される吸引孔96は、合体挿通孔85に連通するように設けられる。吸引孔96は、合体挿通孔85に浸透した陰極濡れ用液体WLを吸引することで、合体挿通孔85内の陰極濡れ用液体WLを排出することができるようになっている。
【0063】
外筒本体73の底部には、合体挿通孔85に挿通された陰極保持台座90の保持台座フランジ部97と当接して、陰極保持台座90の挿通を規制するための外筒フランジ部77が設けられる。
【0064】
(陰極保持台座)
陰極保持台座90は、膜用台座50と載置用台座60と外筒部70とが積層されたときに形成される合体挿通孔85に挿通される円柱状の部材である。陰極保持台座90は、合体挿通孔85に挿通クリアランス105を有して挿通される柱状挿通部91と、陰極22を保持する陰極保持部99と、を有する。
【0065】
具体的には、陰極保持台座90は、膜用台座50と載置用台座60と外筒部70とが積層されたときに第1の内壁面52と第2の内壁面62と第3の内壁面72とが合体して形成される円柱状の合体内壁面82で囲繞されて形成された合体挿通孔85に挿通される円柱状の部材である。陰極保持台座90は、合体挿通孔85に挿通クリアランス105を有して挿通される挿通側面部92と押圧方向Pの固体電解質膜30側の端面を形成する膜側頂面部93とを有する柱状挿通部91と、膜側頂面部93の一部に形成され陰極22を保持する陰極保持部99と、を有する。
【0066】
挿通クリアランス105は、例えば0.1~2mm、好ましくは0.1~1mmである。
【0067】
柱状挿通部91の側面かつ膜側頂面部93の下方には、合体挿通孔85に挿通されたときに外筒本体73の外筒フランジ部77と当接して、陰極保持台座90の挿通を規制するための保持台座フランジ部97が設けられる。
【0068】
(本発明に係る金属皮膜の成膜装置の効果)
本発明に係る金属皮膜の成膜装置を用いて金属皮膜の成膜方法を行うと、金属皮膜にヤケが生じにくい。
【0069】
(変形例)
なお、金属皮膜の成膜装置1Aでは、陰極側外枠部6が、膜用台座50と載置用台座60と外筒部70とからなっている。しかし、本発明では、金属皮膜の成膜装置1Aの変形例として、膜用台座50と載置用台座60と外筒部70との2種以上が一体化した陰極側外枠部6の変形例を備える構成としてもよい。
【0070】
この陰極側外枠部6の変形例は、膜用台座50に相当する部分、載置用台座60に相当する部分、及び外筒部70に相当する部分を有する。この陰極側外枠部6の変形例によれば、膜用台座50と載置用台座60と外筒部70との2種以上が一体化した部材について、これらが別体である場合に必要な溝やOリングを省略することが可能である。
【0071】
[金属皮膜の成膜方法]
本発明に係る金属皮膜の成膜方法は、上記金属皮膜の成膜装置1を用いる金属皮膜の成膜方法である。本発明に係る金属皮膜の成膜方法では、はじめに、無脈動ポンプ45の稼働により、電解液導入部41を介して電解液Lを液室17内に無脈動で連続的に導入するとともに電解液排出部42を介して液室17内の電解液Lを液室17外に連続的に排出する無脈動液循環状態を形成する。
【0072】
無脈動液循環状態では、無脈動ポンプ45の稼働により、「液室17と電解液調製部46との間で電解液Lが循環する」状態が形成される。
【0073】
本発明に係る金属皮膜の成膜方法では、次に、無脈動液循環状態で、陽極21と陰極22との間に電圧を印加することにより、固体電解質膜30に導入された電解液L中の金属イオンが還元されてなる金属皮膜を陰極22の表面に形成する。
【0074】
金属皮膜を成膜する際の電流密度は、例えば0.5~30A/dm、好ましくは5~20A/dmとする。
【0075】
(本発明に係る金属皮膜の成膜方法の効果)
本発明に係る金属皮膜の成膜方法によれば、金属皮膜にヤケが生じにくい。
【0076】
[成膜準備作業]
本発明に係る金属皮膜の成膜方法は、成膜の前に、準備作業である成膜準備作業を行うことが好ましい。本発明に係る成膜準備作業は、上記金属皮膜の成膜装置1を用いる金属皮膜の成膜方法の一部を構成する。本発明に係る成膜準備作業は、載置工程と、膜周辺密着工程と、膜上液供給工程と、陰極上液供給工程と、陰極-膜接触工程と、吸引工程と、を含む。
【0077】
(載置工程)
載置工程は、膜用台座50に固体電解質膜30を載置する工程である。載置工程は、図3に示す状態の固体電解質膜30を膜用台座50上に載置する工程である。載置工程では、膜用台座50上に載置された固体電解質膜30は、通常、張力が弱く表面に凹凸が生じる状態になる。
【0078】
なお、膜用台座50と載置用台座60と外筒部70との2種以上が一体化した図示しない部材を含む陰極側外枠部6を備える金属皮膜の成膜装置1Aの変形例の場合も、載置工程で、陰極側外枠部6の膜用台座50に相当する部分に固体電解質膜30を載置する作用は同様である。
【0079】
(膜周辺密着工程)
膜周辺密着工程は、膜用台座50と載置用台座60とを外筒部70で上方に押圧する工程である。
【0080】
具体的には、膜周辺密着工程は、固体電解質膜30が載置された膜用台座50とこの膜用台座50が載置された載置用台座60とを外筒部70で上方に押圧して固体電解質膜30を陽極ハウジング部11のハウジング下面部16に押圧することにより、固体電解質膜30の周辺部37をハウジング下面部16に密着させる工程である。
【0081】
膜周辺密着工程では、例えば、図3に示す状態の電解ヘッド部10、固体電解質膜30、膜用台座50、載置用台座60、及び外筒部70を、押圧方向Pに沿って外筒部70側から電解ヘッド部10側に押圧することにより、固体電解質膜30の周辺部37をハウジング下面部16に密着させる。
【0082】
膜周辺密着工程が終了すると、電解ヘッド部10と固体電解質膜30との間がハウジング側Oリング19によりシールされ、固体電解質膜30と膜用台座50との間が膜固定側Oリング59によりシールされる。
【0083】
また、膜周辺密着工程で、電解ヘッド部10、固体電解質膜30、膜用台座50、載置用台座60、及び外筒部70を、押圧方向Pに沿って外筒部70側から電解ヘッド部10側に押圧した場合は、さらに、膜用台座50と載置用台座60との間が載置台座Oリング69によりシールされ、載置用台座60と外筒部70との間が外筒部Oリング79によりシールされる。
【0084】
図4に示す状態の電解ヘッド部10、固体電解質膜30、膜用台座50、載置用台座60、及び外筒部70は、例えばねじ等を用いて固定することが好ましい。
【0085】
なお、膜用台座50と載置用台座60と外筒部70との2種以上が一体化した図示しない部材を含む陰極側外枠部6を備える金属皮膜の成膜装置1Aの変形例の場合も、膜周辺密着工程で、電解ヘッド部10と固体電解質膜30との間がハウジング側Oリング19によりシールされ、固体電解質膜30と膜用台座50に相当する部分との間が膜固定側Oリング59によりシールされる作用は同様である。
【0086】
(膜上液供給工程)
膜上液供給工程は、電解液導入部41を介して液室17内に電解液Lを導入する工程である。
【0087】
具体的には、膜上液供給工程は、電解液導入部41を介して液室17内に電解液Lを導入することで上方に電解液Lが供給された固体電解質膜30を下方に撓ませる工程である。
【0088】
図5に示すように、膜上液供給工程が終了すると、固体電解質膜30は、電解液Lの重みで下方に、例えば球面状に撓む。固体電解質膜30は、電解液Lの重みに基づく張力が働くことで凹凸が実質的になくなる。
【0089】
(陰極上液供給工程)
陰極上液供給工程は、陰極保持部99に保持された陰極22の上方に陰極濡れ用液体WLを供給する工程である。
【0090】
具体的には、陰極上液供給工程は、陰極保持部99に保持された陰極22の上方に陰極濡れ用液体WLを供給することにより上面22Uが陰極濡れ用液体WLで濡れた陰極22を作製する工程である。
【0091】
陰極濡れ用液体WLは、陰極22の上面22Uが濡れた状態を形成可能なものであればよく特に限定されない。陰極濡れ用液体WLとしては、例えば、電解液L;純水;アルコール、エチレングリコール等の非水溶性溶媒等が用いられる。
【0092】
図5に示すように、陰極上液供給工程が終了すると、陰極22の上面22Uが陰極濡れ用液体WLで濡れた状態となる。
【0093】
(陰極-膜接触工程)
陰極-膜接触工程は、柱状挿通部91を合体挿通孔85内に挿通することにより、陰極濡れ用液体WLで濡れた陰極22の上面22Uを、下方に撓んだ固体電解質膜30の下面30Bに接触させる工程である。
【0094】
具体的には、陰極-膜接触工程は、陰極保持台座90を上昇させて柱状挿通部91を合体挿通孔85内に挿通することにより、陰極濡れ用液体WLで濡れた陰極22の上面22Uを、下方に撓んだ固体電解質膜30の下面30Bに接触させる工程である。
【0095】
図6に示すように、陰極-膜接触工程の前半では、陰極濡れ用液体WLで濡れた陰極22の上面22Uが、下方に撓んだ固体電解質膜30の下面30Bに密着に近い程度で接触した状態となる。
【0096】
図7に示すように、陰極-膜接触工程の後半では、一部の陰極濡れ用液体WLで濡れた陰極22の上面22Uのほぼ全体が、固体電解質膜30の下面30Bに接触した状態となる。また、陰極濡れ用液体WLの残部は、柱状挿通部91の挿通側面部92と、合体挿通孔85を構成する合体内壁面82と、の隙間である挿通クリアランス105に浸透する。
【0097】
(吸引工程)
吸引工程は、固体電解質膜30の下面30Bと陰極22の上面22Uとを前記陰極-膜接触工程よりも接触させた状態において吸引孔96を外部から吸引工程である。
【0098】
具体的には、吸引工程は、陰極保持台座90をさらに上昇させて固体電解質膜30の下面30Bと陰極22の上面22Uとを陰極-膜接触工程よりも接触させた状態において吸引孔96を外部から吸引し、陰極22の上面22Uを濡らす陰極濡れ用液体WLを挿通クリアランス105を介して排出することにより、陰極22の上面22Uと固体電解質膜30の下面30Bとの密着を促進する工程である。
【0099】
図2に示すように、吸引工程では、吸引孔96を外部から吸引することにより、挿通クリアランス105に浸透した陰極濡れ用液体WLと、陰極22の上面22Uに存在する一部の陰極濡れ用液体WLと、の少なくとも一部を、挿通クリアランス105を介して排出する。
【0100】
このため、吸引工程が終了すると、陰極22の上面22Uと、固体電解質膜30の下面30Bとが強く密着した状態となる。このように、陰極22の上面22Uと、固体電解質膜30の下面30Bとが強く密着すると、その後に金属皮膜の成膜を行った場合に陰極22と固体電解質膜30との間に気泡が混入しにくくなり、この結果、陰極22である基材111の表面にヤケのない良好な金属皮膜112が形成された金属皮膜形成品110が得られる。
【0101】
このため、本発明に係る金属皮膜の成膜方法は、上記成膜準備作業を行った後に、成膜を行うことが好ましい。
【0102】
(本発明に係る成膜準備作業の効果)
本発明に係る成膜準備作業によれば、液室17内に電解液Lを導入することで下方に撓んだ固体電解質膜30と、陰極濡れ用液体WLで濡れた陰極22と、を密着に近い程度で接触させた後、陰極濡れ用液体WLを吸引孔96から吸引すると、固体電解質膜30を撓みなく張ることができる。このため、本発明に係る成膜準備作業によれば、固体電解質膜30を撓みなく張るために加圧装置等の複雑な装置が不要であり、低コストな装置を用いて金属皮膜の成膜方法を実施することができる。
【実施例
【0103】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
[実施例1]
(装置)
図1及び図2に示す金属皮膜の成膜装置1Aを用意した。
陽極:酸化イリジウム被覆チタン、φ30mm×厚さ1mm
陰極:銅張積層板、縦15mm×横15mm×厚さ1mm
固体電解質膜:陽イオン交換膜
電源部:菊水電子工業株式会社製 PMX250-0.25A
ポンプ:株式会社榎本マイクロポンプ製作所製 MW-901EEA
【0105】
硫酸銅五水和物240g/L、硫酸20g/L、塩化物イオン50mg/Lを含む硫酸銅めっき液を用意した。ポンプを表1に示すように無脈動で稼働させ、電解液導入部41を介して電解液Lを液室17内に無脈動で連続的に導入するとともに電解液排出部42を介して液室17内の電解液Lを液室17外に連続的に排出する無脈動液循環状態を形成した。この無脈動液循環状態で、電流密度16A/dm、温度52℃、電解時間339秒で銅皮膜を成膜した。金属皮膜のヤケの評価は目視により行った。ヤケは、金属皮膜及び固体電解質膜にヤケがないものを◎、金属皮膜にヤケがなく固体電解質膜にヤケがあるものを○、金属皮膜と固体電解質膜にヤケがあるものを×と評価した。稼働条件及び結果を表1、図8に示す。図8(A)は金属皮膜の表面を示す光学写真であり、図8(B)は固体電解質膜の表面を示す光学写真である。
図8(A)に示す金属皮膜及び図8(B)に示す固体電解質膜には、ヤケが発生していなかった。
【0106】
[比較例1]
実施例1と同じ装置を用いながら、電解液導入部41を介して液室17内に連続的に導入する電解液Lの流量を表1に示すように強制的に脈動させた以外は実施例1と同様にして銅皮膜を成膜した。金属皮膜のヤケの評価は実施例1と同様にして行った。稼働条件及び結果を表1及び図9に示す。図9(A)は金属皮膜の表面を示す光学写真であり、図9(B)は固体電解質膜の表面を示す光学写真である。
図9(A)に示す金属皮膜全体に、ヤケが発生していた。また、図9(B)に示す固体電解質膜には、基材の形状にほぼ対応する矩形状にヤケが発生していた。
【0107】
【表1】
【0108】
表1及び図8に示すように、ポンプを無脈動で稼働させた実施例1では、金属皮膜(図8(A))及び固体電解質膜(図8(B))にヤケは発生しなかった。一方、図9に示すように、ポンプを脈動するように稼働させた比較例1では金属皮膜(図9(A))と固体電解質膜(図9(B))にヤケが発生した。
【0109】
実施例1及び比較例1の結果から、無脈動ポンプを使用して無脈動で液循環することにより、金属イオンの安定供給が可能になり、金属皮膜に発生するヤケを生じにくくすることができるということが分かった。
【0110】
[実施例2]
(装置)
図1及び図2に示す金属皮膜の成膜装置1Aを用意した。
陽極:酸化イリジウム被覆チタン、縦60mm×横60mm×厚さ1mm
陰極:銅張積層板、縦80mm×横80mm×厚さ1mm
固体電解質膜:陽イオン交換膜
電解液導入部:ハウジング部底部の八角形の外周部14の八方の各面に、水平方向に電解液Lを導入する電解液導入部を1個ずつ、計8個設けた。
電解液排出部:ハウジング部本体の上方に電解液Lを排出する電解液排出部を1個設けた。
電源部:株式会社NF千代田エレクトロニクス製 APS-II015025C-2
無脈動ポンプ:株式会社イワキ製 MX-251RV5C-L2
【0111】
硫酸銅五水和物240g/L、硫酸20g/L、塩化物イオン50mg/Lを含む硫酸銅めっき液を用い、電流密度16A/dm、温度52℃、電解時間339秒で銅皮膜を成膜した。金属皮膜のヤケの評価は実施例1と同様にして行った。結果を表2に示す。
【0112】
[実施例3]
8個の電解液導入部のうちの1個のみから電解液Lを導入した以外は実施例2と同様にして銅皮膜を成膜した。金属皮膜のヤケの評価は実施例1と同様にして行った。結果を表2及び図10に示す。図10(A)は金属皮膜の表面を示す光学写真であり、図10(B)は固体電解質膜の表面を示す光学写真である。
図10(A)に示す金属皮膜には、ヤケが発生していなかった。一方、図10(B)に示す固体電解質膜には、基材の形状にほぼ対応する矩形状の部分のうち主に角部を含む部分にヤケが少し発生していた。
【0113】
【表2】
【0114】
[比較例2]
電解液排出部を閉塞した以外は実施例3と同様にして銅皮膜を成膜した。金属皮膜のヤケの評価は実施例1と同様にして行った。結果を表2に示す。
【0115】
表2に示すように、電解液導入部及び電解液排出部の少なくとも一方を2個以上設けた実施例2では、金属皮膜及び固体電解質膜にヤケは発生しなかった。また、表2及び図10に示すように、電解液導入部及び電解液排出部をどちらも1個ずつ設けた実施例3では、金属皮膜(図10(A))にヤケがなく固体電解質膜(図10(B))にヤケが発生した。一方、電解液導入部を1個設け、電解液排出部を設けなかった比較例2では、電解液が循環しないことで金属イオンの供給が不十分になり、金属皮膜と固体電解質膜にヤケが発生した。
【0116】
このことから、電解液導入部及び電解液排出部を設け、電解液を循環させることにより、固体電解質膜への金属イオンの安定供給が可能になり、金属皮膜に発生するヤケを生じにくくすることができるということが分かった。
【符号の説明】
【0117】
1 金属皮膜の成膜装置
5 電解部
6 陰極側外枠部
10 電解ヘッド部
11 陽極ハウジング部
12 ハウジング部本体
13 ハウジング部底部
14 陽極ハウジング部の外周部
15 開口部
16 ハウジング下面部
17 液室
18 ハウジング側溝
19 ハウジング側Oリング
21 陽極
22 陰極
22U 陰極の上面
29 電源部
30 固体電解質膜
30B 固体電解質膜の下面
36 中心部
37 周辺部
41 電解液導入部
42 電解液排出部
45 無脈動ポンプ
46 電解液調製部
47 導入ライン
48 戻りライン
50 膜用台座
51 膜押圧部
52 膜用台座の第1の内壁面
54 膜押圧上面部
55 第1挿通孔
58 膜固定側溝
59 膜固定側Oリング
60 載置用台座
61 載置基部
62 載置用台座の第2の内壁面
63 載置凹部
65 第2挿通孔
66 載置基部下面部
68 載置台座溝
69 載置台座Oリング
70 外筒部
71 基部当接部
72 外筒部の第3の内壁面
73 外筒本体
75 第3挿通孔
77 外筒フランジ部
78 外筒部溝
79 外筒部Oリング
82 合体内壁面
85 合体挿通孔
90 陰極保持台座
91 柱状挿通部
92 柱状挿通部の挿通側面部
93 膜側頂面部
96 吸引孔
97 保持台座フランジ部
99 陰極保持部
105 挿通クリアランス
110 金属皮膜形成品
111 基材
112 金属皮膜
L 電解液
WL 陰極濡れ用液体
P 押圧方向
【要約】
金属皮膜にヤケが生じにくい金属皮膜の成膜装置及び金属皮膜の成膜方法を提供すること。金属皮膜の成膜装置1は、電解ヘッド部10と、液室17内に配置される陽極21と、陽極と陰極との間に配置される固体電解質膜と、陽極21と陰極22との間に電圧を印加する電源部29と、液室17内に電解液Lを導入する電解液導入部41と、液室17内の電解液Lを液室17外に排出する電解液排出部42と、電解液Lを無脈動で送液する無脈動ポンプ45と、を備え、無脈動ポンプ45の稼働により、電解液導入部41を介して電解液Lを液室17内に無脈動で連続的に導入するとともに電解液排出部42を介して液室17内の電解液Lを液室17外に連続的に排出する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10