(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】車載用電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20240516BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240516BHJP
【FI】
F04B39/00 106Z
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2021045477
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】岡田 仁
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 勝也
(72)【発明者】
【氏名】多田 佳史
(72)【発明者】
【氏名】和藤 勇太
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-122426(JP,A)
【文献】特開2013-219229(JP,A)
【文献】特開2012-172611(JP,A)
【文献】特開2014-031771(JP,A)
【文献】特開2020-070739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
F04C 29/00
H02M 7/48
H05K 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入された冷媒を圧縮して吐出する圧縮部と、
前記圧縮部を駆動する電動モータと、
前記電動モータの駆動を制御するインバータ部と、
前記インバータ部を収容するインバータハウジングと、を備えた
車載用電動圧縮機において、
前記インバータ部は、
回路基板と、
前記インバータハウジングに固定され、外部電源と前記回路基板とを電気的に接続するバスバーと、
前記回路基板上に実装され、前記バスバーを通じて流れる電流に含まれるノイズ成分を低減するノイズ低減回路と、
前記回路基板を前記インバータハウジングに締結する第1締結部材と、
前記回路基板を前記バスバーに締結する第2締結部材と、を備え、
前記回路基板は、
前記第1締結部材が挿通される第1締結孔と、
前記第1締結孔に隣り合って設けられ、第2締結部材が挿通される第2締結孔と、
前記回路基板の外縁から前記第1締結孔と第2締結孔との間を通るように延在する
単一のスリットと、を有し、
前記第1締結孔における締結によって、前記回路基板は前記ノイズ低減回路のグランドとして前記インバータハウジングに電気的に接続され
、
前記ノイズ低減回路は前記スリットが延在する方向に配置され、
前記回路基板の外縁から前記スリットが延在する長さは、前記第1締結孔と前記第2締結孔との間の距離以上であり、
前記第1締結孔と前記ノイズ低減回路との距離は、前記第2締結孔と前記ノイズ低減回路との距離より短いことを特徴とする
車載用電動圧縮機。
【請求項2】
前記バスバーと前記インバータハウジングとの間には、絶縁部材が介在されていることを特徴とする請求項1記載の
車載用電動圧縮機
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車載用電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動圧縮機として、例えば、特許文献1に開示された電動圧縮機が知られている。特許文献1に開示された電動圧縮機は、モータと、インバータ装置と、仕切り壁を有するハウジングと、接続部材と、を備える。インバータ装置は基板を有する。ハウジングは、モータを収容するモータ収容室とインバータ装置を収容するインバータ収容室とを仕切る仕切り壁を有している。接続部材は、モータ収容室内に配置されたモータ側端部と、インバータ収容室内に配置されたインバータ側端部と、を有する貫通端子と、基板とインバータ側端部とを電気的に接続するバスバーと、を有する。基板はインバータ収容室にボルトによって固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された電動圧縮機では、給電側のバスバーに締結するための複数の締結孔(以下、「バスバー用締結孔」と表記する)およびハウジングに締結するための複数の締結孔(以下、「ハウジング用締結孔」と表記する)が基板に設けられる。これらの締結孔はボルトが挿通される。基板においてこれらのボルトにより締結される締結箇所は基板の厚さ方向に対する設計上の公差を含む。このため、互いに隣り合うボルト締結箇所の公差が相違すると、ボルトにより締結された基板に歪が生じるという問題がある。特に、バスバー用締結孔とハウジング用締結孔とが互いに隣り合うと、互いに公差が相違し、基板におけるバスバー用締結孔とハウジング用締結孔との間に歪が生じる。回路基板にボルト締結による歪が生じると回路基板の損傷や実装された電子部品のはんだ破損による導通不良が生じるおそれがある。特に、基板におけるバスバー用締結孔とハウジング用締結孔とが互いに近いほど基板における歪は大きくなる。
【0005】
一方、基板におけるバスバー用締結孔とハウジング用締結孔とが十分に離れるように設ければ、基板における歪は抑制できるが、基板の電子部品の配置条件や基板のスペースの制約が厳しいと、両締結孔を十分に離して設けることができない。また、バスバーを通る電流からノイズ成分を除去するノイズフィルタを基板に実装し、ハウジング用締結孔に挿通されたボルトを通じて基板のグランドラインとハウジングとを電気的に接続する場合がある。この場合、基板においてノイズフィルタをバスバー用締結孔およびハウジング用締結孔の近くに実装することがノイズ除去の観点から好ましい。その結果、基板においてバスバー用締結孔とハウジング用締結孔とが接近して設けられるという実情がある。また、電動圧縮機の小型化を図る点でも両締結孔を互いに接近して設けることが好ましい。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、回路基板におけるハウジングおよびバスバーへの締結による歪を抑制するとともに、回路基板におけるノイズ成分を効果的に低減できる車載用電動圧縮機の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、吸入された冷媒を圧縮して吐出する圧縮部と、前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータの駆動を制御するインバータ部と、前記インバータ部を収容するインバータハウジングと、を備えた車載用電動圧縮機において、前記インバータ部は、回路基板と、前記インバータハウジングに固定され、外部電源と前記回路基板とを電気的に接続するバスバーと、前記回路基板上に実装され、前記バスバーを通じて流れる電流に含まれるノイズ成分を低減するノイズ低減回路と、前記回路基板を前記インバータハウジングに締結する第1締結部材と、前記回路基板を前記バスバーに締結する第2締結部材と、を備え、前記回路基板は、前記第1締結部材が挿通される第1締結孔と、前記第1締結孔に隣り合って設けられ、第2締結部材が挿通される第2締結孔と、前記回路基板の外縁から前記第1締結孔と第2締結孔との間を通るように延在する単一のスリットと、を有し、前記第1締結孔における締結によって、前記回路基板は前記ノイズ低減回路のグランドとして前記インバータハウジングに電気的に接続され、前記ノイズ低減回路は前記スリットが延在する方向に配置され、前記回路基板の外縁から前記スリットが延在する長さは、前記第1締結孔と前記第2締結孔との間の距離以上であり、前記第1締結孔と前記ノイズ低減回路との距離は、前記第2締結孔と前記ノイズ低減回路との距離より短いことを特徴とする。
【0008】
本発明では、回路基板が、回路基板の外縁から延在し、第1締結孔と第2締結孔との間を通るように位置するスリットを有しているので、第1締結孔と第2締結孔とが互いに近くても、スリットによって第1締結孔と第2締結孔との間の歪は低減される。また、スリットを設けることで、第1締結孔と第2締結孔とは互いに近くなるため、ノイズ低減回路により抑制される回路基板におけるノイズ成分を回路基板から第1締結部材を通じてハウジングに効果的に吸収させることができる。つまり、スリットを設けることにより、回路基板における歪の抑制とのノイズ成分の効果的な低減が実現できる。
【0009】
また、回路基板の外縁からスリットが延在する長さを第1締結孔と前記第2締結孔との間の距離以上とすることで、第1締結孔と第2締結孔との間の歪はより好適に低減される。
【0010】
また、上記の電動圧縮機において、前記バスバーと前記インバータハウジングとの間には、絶縁部材が介在されている構成としてもよい。
この場合、バスバーとインバータハウジングとの間に絶縁部材が介在されている。スリットの無い回路基板では、絶縁部材が介在されることにより回路基板における第1締結孔と第2締結孔との間の歪を助長するおそれがあるが、回路基板はスリットを有しているので回路基板において歪が増大することはない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回路基板におけるハウジングおよびバスバーへの締結による歪を抑制するとともに、回路基板におけるノイズ成分を効果的に低減できる車載用電動圧縮機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る電動圧縮機の概略縦断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る電動圧縮機の要部の分解斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る電動圧縮機の回路基板の正面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る電動圧縮機の電気的構成を説明する説明図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る電動圧縮機の回路基板の要部を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る電動圧縮機について図面を参照して説明する。本実施形態の電動圧縮機は車両用空調装置の一部として車両に搭載される車載用電動圧縮機である。
【0014】
図1に示すように、電動圧縮機10は、ハウジング11と、圧縮部12と、電動モータ13と、インバータ部14と、を備えている。ハウジング11は、圧縮部12および電動モータ13を収容するモータハウジング15と、モータハウジング15と接合され、吐出口17を備えた吐出ハウジング16と、インバータ部14を収容するインバータハウジング18と、を有している。モータハウジング15、吐出ハウジング16、インバータハウジング18はアルミニウム合金製である。
【0015】
モータハウジング15は、円筒状の周壁部19と、周壁部19の一方の端部を塞ぐ隔壁部20を有している。周壁部19および隔壁部20は圧縮部12および電動モータ13を収容する空間を形成する。隔壁部20はインバータハウジング18と接合される。周壁部19において隔壁部20の近傍には冷媒を吸入する吸入口21が設けられている。吐出ハウジング16は、周壁部19の他方の端部に接合されている。吸入口21から吸入された冷媒は、圧縮部12に吸引され、圧縮部12により圧縮される。圧縮された冷媒は、吐出口17から吐出される。
【0016】
インバータハウジング18は、モータハウジング15の隔壁部20と接合される底壁部22と、底壁部22の外周縁にわたって一方へ向けて突出する外壁部23と、を有している。インバータハウジング18の底壁部22および外壁部23は、インバータ部14を収容する空間を形成する。インバータハウジング18の開口を塞ぐようにインバータカバー24が外壁部23の端面に接合される。
図2に示すように、外壁部23の端面には複数のねじ孔25が設けられている。ねじ孔25は、外壁部23の端面にはインバータカバー24を接合するための締結ボルト(図示せず)が螺入される。
【0017】
底壁部22には、インバータ部14から電動モータ13へ三相交流電力を供給する三相端子部26が備えられている。三相端子部26は、棒状のU相端子26U、V相端子26VおよびW相端子26Wを有し、三相端子部26は、隔壁部20および底壁部22を貫通して電動モータ13と対向する。また、
図2に示すように、底壁部22には、外壁部23の内側には、後述する回路基板33を取り付けるための複数の台座部27が形成されている。台座部27の端面には、ねじ孔28が設けられている。
【0018】
圧縮部12は、吸入口21から吸入した冷媒を圧縮する。吸入口21から吸入された冷媒は、圧縮部12に吸引され、圧縮部12により圧縮される。圧縮された冷媒は、吐出口17から吐出される。圧縮部12は、例えば、スクロール式の圧縮部であり、スクロール式以外のピストン式やベーン式の圧縮部であってもよい。圧縮部12は、モータハウジング15に回転可能に支持される回転軸29と接続されており、電動モータ13の回転により駆動される。回転軸29の一方の端部は、隔壁部20に回転可能に支持され、回転軸29の他方の端部は圧縮部12と接続されている。
【0019】
電動モータ13は、圧縮部12を駆動する。電動モータ13は、モータハウジング15の周壁部19の内周面に固定されたステータ31と、回転軸29に固定されるロータ32と、を備える。電動モータ13は、回転軸29を回転させることにより圧縮部12を駆動する。電動モータ13は、インバータ部14から三相交流電力の供給を受け、インバータ部14により制御されて駆動される。
【0020】
インバータ部14は、インバータハウジング18に収容される。
図2に示すように、インバータ部14は、回路基板33と、給電アッセンブリ34と、第1フィルタ回路35と、第2フィルタ回路36と、を備える。さらに、
図3に示すように、インバータ部14は、駆動回路37と、制御回路38と、を備えている。回路基板33は、多層の配線パターンを有する多層基板であり、インバータハウジング18の外壁部23にほぼ倣う外周縁を有している。第1フィルタ回路35や第2フィルタ回路36をはじめとした各電子部品は、回路基板33にはんだ付けで実装されている。
【0021】
回路基板33の外縁は、給電アッセンブリ34に近い位置となる第1外縁部41と、第2フィルタ回路36と近い位置となる第2外縁部42と、第2外縁部42の延長線上にあり、三相端子部26と近い位置となる第3外縁部43と、を有する。また、回路基板33の外縁部は、第1外縁部41の反対側に位置する第4外縁部44と、第2外縁部42の反対側に位置する第5外縁部45と、第3外縁部43の反対側に位置する第6外縁部46と、を有する。第1外縁部41~第6外縁部46は略直線状の外縁部である。回路基板33の外縁において第1外縁部41~第6外縁部46を除く外縁部は、曲線状にそれぞれ形成されている。回路基板33は、インバータカバー24と対向する第1面47と、第1面47の反対側の面であって底壁部22と対向する第2面48と、を備える。
【0022】
回路基板33の外縁付近には、第1締結孔としての複数の第1通孔51が設けられている。第1通孔51は、回路基板33において台座部27の位置に対応するように配設されている。第1通孔51は、ボルト50が挿通される貫通孔である。第1通孔51に挿通されたボルト50がインバータハウジング18のねじ孔28に螺入されることにより、回路基板33がインバータハウジング18に固定される。ボルト50は、回路基板33をインバータハウジング18に固定するための第1締結部材に相当する。ボルト50の締結は平座金やスプリングワッシャを用いてもよい。複数の第1通孔51を区別する場合、第1外縁部41と第5外縁部45との間の外縁部に接近した位置の第1通孔51Aとし、第2外縁部42と接近した位置の第1通孔51Bとする。さらに、第4外縁部44と接近した位置の第1通孔51Cとし、第5外縁部45と第6外縁部46との間の外縁部に接近した位置の第1通孔51Dとする。ボルト50についても区別する場合、第1通孔51A~51Dに対応するボルト50A~50Dとする。
【0023】
回路基板33には、給電アッセンブリ34と接続するための一対の第2通孔52が設けられている。一対の第2通孔52は、第2締結孔に相当し、給電アッセンブリ34の位置に合わせて第1外縁部41に接近した位置に設けられている。一対の第2通孔52には、回路基板33と給電アッセンブリ34とを接続するボルト53が挿通される。一対の第2通孔52を区別する場合、第1通孔51Aに近い第2通孔52Aとし、第1通孔51Bに近い第2通孔52Bとする。同様に、ボルト53を区別する場合、第2通孔52Aに挿通されるボルト53Aとし、第2通孔52Bに挿通されるボルト53Bとする。ボルト53は、後述するバスバー57を回路基板33に固定するための第2締結部材に相当する。
【0024】
回路基板33には、三相端子部26が有するU相端子26U、V相端子26VおよびW相端子26Wを挿通する3個の通孔54が形成されている。3個の通孔54は、三相端子部26の位置に合わせて第2外縁部42と接近した位置に配設されている。通孔54に挿通されたU相端子26U、V相端子26VおよびW相端子26Wがボルト55により締結されることで、三相端子部26と回路基板33が電気的に接続される。
【0025】
次に、給電アッセンブリ34について説明すると、給電アッセンブリ34は、インバータハウジング18によって保持される(
図1を参照)。給電アッセンブリ34は、一対のバスバー57と、樹脂部58と、グロメット部59と、を有する。バスバー57は、電源コネクタ部を通じて回路基板33に電力を供給する板状の導電部材であり、大電流の通電を可能とする。バスバー57は、外部電源であるバッテリ(図示せず)と回路基板33とを電気的に接続する。一対のバスバー57は樹脂部58により保持され、樹脂部58は隔壁部20および底壁部22を貫通する。バスバー57とハウジング11との絶縁は、樹脂部58および樹脂部58の周囲を覆うゴム系材料により形成されているグロメット部59によって保たれている。つまり、バスバー57とインバータハウジング18との間に樹脂部58およびグロメット部59が介在されている。樹脂部58およびグロメット部59は絶縁部材に相当する。バスバー57を区別する場合、第2通孔52Aに対応するバスバー57Aとし、第2通孔52Bに対応するバスバー57Bとする。
【0026】
樹脂部58から突出するバスバー57の回路基板33側の端部は、回路基板33のパターンと面接触し、かつ、回路基板33の厚さ方向に対して弾性変形し易いように屈曲されている。バスバー57の回路基板33側の端部と反対側の端部は、樹脂部58から突出しており、外部電源であるバッテリ(図示せず)と接続される棒端子60と接続されている(
図1を参照)。
図2に示すようにバスバー57における回路基板33のパターンと面接触する端部には、ボルト53を挿通する通孔61が形成されている。回路基板33の第2通孔52およびバスバー57の通孔61に挿通されたボルト53と、ボルト53が螺入されるナット62と、が締結されることにより、バスバー57が回路基板33に締結され、電気的に接続される(
図1を参照)。通孔61を区別する場合、ボルト53Aが挿通される通孔61Aとし、ボルト53Bが挿通される通孔61Bとする。ナット62はボルト53とともに第2締結部材に相当する。なお、ボルト53およびナット62の締結は平座金やスプリングワッシャを用いてもよい。
【0027】
次に、第1フィルタ回路35および第2フィルタ回路36について説明する。
図3に示すように、第1フィルタ回路35および第2フィルタ回路36は回路基板33の第1面47に設けられている。第1フィルタ回路35は、第1面47における第1通孔51Aおよび第2通孔52Aに近い位置に設けられている。第2フィルタ回路36は、第2外縁部42および第1通孔51Bに近い位置に設けられている。第1フィルタ回路35および第2フィルタ回路36は、
図4に示すノイズ低減回路63の一部を構成する。説明の便宜上、
図3では、第1フィルタ回路35および第2フィルタ回路36を矩形で示す。
【0028】
次に、駆動回路37および制御回路38について説明する。駆動回路37および制御回路38は、回路基板33の第2面48に設けられている。駆動回路37は直流電力を交流電力に変換し、電動モータ13に交流電力を供給するための回路である。駆動回路37は直流電力を交流電力に変換するように複数のスイッチング素子(図示せず)を備えている。制御回路38は駆動回路37を制御するための回路である。制御回路38は、プログラムにより動作するマイクロプロセッサ(図示せず)を有し、マイクロプロセッサは演算処理を行うCPUおよびプログラムを記憶するメモリ(図示せず)を備える。制御回路38は空調ECU(図示せず)からの指令に基づいて駆動回路37を制御する。説明の便宜上、
図3では、駆動回路37および制御回路38を矩形で示す。
【0029】
次に、インバータ部14の電気的構成について説明する。
図4に示すように、インバータ部14は、駆動回路37および制御回路38を備えるほか、回路基板33上に実装され、バスバー57を通じて流れる直流電力に含まれるノイズ成分を低減するノイズ低減回路63を有している。ノイズ低減回路63の正極側の入力端子66には、正極側の入力ライン67が接続されている。正極側の入力ライン67の出力側は、コモンコイル69を介して、正極側の出力ライン68に接続されている。正極側の出力ライン68の出力側は、駆動回路37の正極側の入力端子と接続されている。コモンコイル69は、高周波ノイズが駆動回路37に伝わるのを抑制するためのものである。
【0030】
ノイズ低減回路63の負極側の入力端子71には、負極側の入力ライン72が接続されている。負極側の入力ライン72の出力側は、コモンコイル69を介して負極側の出力ライン73に接続されている。そして、負極側の出力ライン73の出力側は、駆動回路37の負極側の入力端子と接続されている。
【0031】
正極側の入力ライン67と負極側の入力ライン72とは、直列に接続された2つのYコンデンサ群74、75を介して接続されている。Yコンデンサ群74、75にはそれぞれ2個のYコンデンサCY1が直列接続されている。Yコンデンサ群74、75は、第1フィルタ回路35を構成する。直列接続された2つのYコンデンサ群74、75の間の部分には、グランドライン76が接続されている。グランドライン76は、回路基板33において第1フィルタ回路35と最も近いボルト50Aを介してハウジング11と電気的に接続されている。正極側の入力ライン67と負極側の入力ライン72とは、平滑コンデンサ77を介して接続されている。
【0032】
正極側の出力ライン68と負極側の出力ライン73とは、直列に接続された2つのYコンデンサ群78、79を介して接続されている。Yコンデンサ群78、79にはそれぞれ2個のYコンデンサCY2が直列接続されている。Yコンデンサ群78、79は、第2フィルタ回路36を構成する。直列接続された2つのYコンデンサ群78、79の間の部分には、グランドライン80が接続されている。グランドライン80は、回路基板33において第2フィルタ回路36と最も近いボルト50Bを介してハウジング11と電気的に接続されている。正極側の出力ライン68と負極側の出力ライン73とは、Xコンデンサ群81が接続されている。Xコンデンサ群81は、並列接続されたn個のXコンデンサCX1~CXnにより構成される。
【0033】
ところで、
図5に示すように、回路基板33において、第1通孔51Bと第1通孔51Bと最も近い第2通孔52Bとの間を通るように、回路基板33の外縁から延在する直線状のスリット82が形成されている。スリット82は回路基板33のパターンや実装された電子部品と干渉しないように形成されている。第1通孔51Bの中心と第2通孔52Bの中心との距離L1は、第1通孔51Aの中心と第2通孔52Aの中心との距離L2と比較して短い。これは、グランドライン80をバスバー57から物理的に近い位置とすることが望ましいためである。
【0034】
回路基板33がインバータハウジング18に固定され、バスバー57が回路基板33に接続された状態では、回路基板33における第1通孔51Bおよび第2通孔52Bとでは厚さ方向の公差の相違が生じる。特に、給電アッセンブリ34のバスバー57は、樹脂部58、グロメット部59を介してインバータハウジング18に保持される。このため、第2通孔52Bにおける公差は、各部材の公差の加算により第1通孔51の公差よりも大きく相違し易い。その結果、回路基板33におけるボルト53A、53B付近は、回路基板33の厚さ方向においてボルト50B付近よりも高くなったり、あるいは低くなったりする。回路基板33の厚さ方向において回路基板33に生じる高低差は、回路基板33における第1通孔51と第2通孔52との間に歪を生じるが、第1通孔51Bと第2通孔52Bとの間に形成されたスリット82は、回路基板33における公差の相違による歪を軽減する。
【0035】
スリット82は、第1通孔51Bのボルト50Bと第2通孔52Bのボルト53Bとの間の沿面距離を十分に確保する。この沿面距離が十分に確保されることで、第1通孔51のボルト50Bと第2通孔52のボルト53Bとの絶縁性は、スリット82が無い場合と比べて向上する。スリット82の長さL3が長いほど回路基板33における歪の低減は大きくなるほか、ボルト50と第2通孔52のボルト53との間の沿面距離が大きくなる。回路基板33の外縁からスリット82が延在する長さL3は、少なくとも第1通孔51Bの中心と第2通孔52Bの中心との距離L1以上であればよい(L3≧L1)。長さL3は、特に大電流が回路基板33に流れる場合にはより大きい方が好ましい。なお、スリット82の底部は応力集中を軽減するために応力を分散しやすい円弧面に形成されている。スリット82の円弧面により分散される応力がパターンや実装されている電子部品に及ばないようにスリット82の寸法条件を設定すればよい。
【0036】
次に、本実施形態の電動圧縮機10の作用について説明する。電動圧縮機10を駆動する場合、バッテリ等の電源からの直流電力が給電アッセンブリ34を通じてインバータ部14の回路基板33へ供給される。回路基板33において直流電流に含まれるノイズ成分は、第1フィルタ回路35および第2フィルタ回路36を含むノイズ低減回路63によって低減される。ノイズ成分は、例えば、グランドライン76、80を通じてハウジング11へ有効に吸収される。ノイズ成分が低減された直流電力は駆動回路37により交流電力に変換され、電動モータ13へ供給される。駆動回路37は制御回路38の指令に基づいて電動モータ13へ供給する交流電力を制御する。
【0037】
回路基板33は、第1通孔51に挿通されたボルト50の締結により、インバータハウジング18に固定される。バスバー57は、第2通孔52に挿通されるボルト53およびナット62の締結により回路基板33に固定される。第1通孔51Bにおけるボルト50Bの締結によって、回路基板33はノイズ低減回路63のグランドとしてインバータハウジング18に電気的に接続されている。第1通孔51Bにおける回路基板33の厚さ方向の公差と、締結による第2通孔52Bにおける回路基板33の厚さ方向の公差と、は異なる。このため、回路基板33におけるボルト53B付近は、回路基板33の厚さ方向においてボルト50B付近よりも高くなったり、あるいは低くなったりする。回路基板33のスリット82は、回路基板33に弾性変形し易くするばね機能を付加し、回路基板33における厚さ方向の高低差による回路基板33における第1通孔51Bと第2通孔52Bとの間の歪を軽減する。
【0038】
本実施形態に係る電動圧縮機10は以下の効果を奏する。
(1)回路基板33は、回路基板33の外縁から延在し、第1通孔51Bと第2通孔52Bとの間に位置するスリット82を有している。このため、第1通孔51Bと第2通孔52Bとが互いに近くても、スリット82によって回路基板33における第1通孔51Bと第2通孔52Bとの間の歪は低減され、回路基板33におけるボルト締結による歪が抑制される。その結果、歪による回路基板33の損傷や回路基板33における電子部品のはんだ破損に伴う導通不良を防止することができる。また、スリット82を設けることで、第1通孔51Bと第2通孔52Bとは互いに近くなる。このため、ノイズ低減回路63により抑制される回路基板33におけるノイズ成分をグランドライン80からバスバー57の近傍に位置するボルト50Bを通じてハウジング11に効果的に吸収させることができる。つまり、スリット82を設けることにより、回路基板33における歪の抑制とのノイズ成分の効果的な低減が実現できる。
【0039】
(2)回路基板33の外縁からスリット82が延在する長さL3は、第1通孔51と第2通孔52との間の距離L1以上であるから、回路基板33における第1通孔51と第2通孔52との間の歪はより好適に低減される。
【0040】
(3)バスバー57とインバータハウジング18との間に樹脂部58およびグロメット部59が介在されている。樹脂部58およびグロメット部59が介在されていることで、回路基板33における第2通孔52の公差の増大を助長するおそれがあるが、スリット82が形成されていることで、より効果的に回路基板33におけるボルト締結による歪を抑制できる。
【0041】
(4)スリット82を設けることで、ノイズ低減回路63の第2フィルタ回路36により低減されるノイズ成分をグランドライン80からスリット82の近傍に位置するボルト50Bを通じてハウジング11に効果的に吸収させることができる。
【0042】
(5)スリット82を設けることで、第1通孔51と第2通孔52とは互いに近くなるので、第1通孔51と第2通孔52とが離れている場合と比較して電動圧縮機10の耐振性が向上するほか、電動圧縮機10の小型化を図ることができる。
【0043】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0044】
○ 上記の実施形態では、ノイズ低減回路としてコモンコイル、XコンデンサおよびYコンデンサを有したがこれに限らない。ノイズ低減回路は、例えば、コモンコイルのほかノーマルコイルを有してもよく、Yコンデンサの数も特に限定されない。
○ 上記の実施形態では、回路基板の外縁の一部と平行なスリットとしたがこの限りではない。スリットは回路基板の外縁の向きと無関係に設けることができる。また、スリットは直線状に限らず曲線状であってもよく、スリットの幅も一定だけでなくスリットの幅は除変してもよい。
○ 上記の実施形態では、バスバーを保持する樹脂部およびグロメット部を絶縁部材として例示したがこの限りではない。絶縁部材は、例えば、単一の部材であってもよいし、あるいは3個以上の部材としてもよい。
〇 上記の実施形態では、モータハウジング15とインバータハウジング18が別体であったが、一体形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 電動圧縮機
11 ハウジング
12 圧縮部
13 電動モータ
14 インバータ部
18 インバータハウジング
33 回路基板
35 第1フィルタ回路
36 第2フィルタ回路
37 駆動回路
50 ボルト(第1締結部材)
51 第1通孔(第1締結孔)
52 第2通孔(第2締結孔)
53 ボルト(第2締結部材)
57 バスバー
58 樹脂部(絶縁部材)
59 グロメット部(絶縁部材)
62 ナット(第2締結部材)
63 ノイズ低減回路
74、75、78、79 Yコンデンサ群
76、80 グランドライン
82 スリット
CY1、CY2 Yコンデンサ
L1、L2 距離
L3 スリット長さ