(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】エンジンシステムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
F02B 37/24 20060101AFI20240516BHJP
F02D 9/06 20060101ALI20240516BHJP
F01D 17/16 20060101ALI20240516BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
F02B37/24
F02D9/06 H
F01D17/16 E
F01D17/16 A
F02D23/00 Z
(21)【出願番号】P 2021088150
(22)【出願日】2021-05-26
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 祐
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-141076(JP,A)
【文献】特開2019-196753(JP,A)
【文献】特開2007-278066(JP,A)
【文献】特開平10-331650(JP,A)
【文献】特開2018-071530(JP,A)
【文献】特開2012-041852(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0156643(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105986844(CN,A)
【文献】特開2019-035357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/24
F02D 9/06
F01D 17/16
F02D 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排出された排気によって駆動されるタービンと、前記タービンへ流入する排気の流速をノズルの開度によって調整する可変ノズル機構とを含み、前記エンジンへの吸気を過給する過給機と、
前記可変ノズル機構を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記エンジンから前記タービンの入口までの間のタービン上流圧力の制限値を、前記エンジンまたは前記過給機の信頼性に関する少なくとも1つの制約条件を満たすよう算出し、
算出された前記制限値を用いて前記可変ノズル機構の開度の下限値を算出し、
前記可変ノズル機構の開度を下げることにより前記エンジンの回転速度を減速させるための条件が成立している場合に、算出された前記下限値を用いて前記可変ノズル機構の開度を制御し、
前記制約条件は、前記タービン上流圧力と前記エンジンの気筒内の圧力との差が、前記エンジンの信頼性に関する閾値である所定圧力を超えないと
の条件を含む
、エンジンシステム。
【請求項2】
エンジンから排出された排気によって駆動されるタービンと、前記タービンへ流入する排気の流速をノズルの開度によって調整する可変ノズル機構とを含み、前記エンジンへの吸気を過給する過給機と、
前記可変ノズル機構を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記エンジンから前記タービンの入口までの間のタービン上流圧力の制限値を、前記エンジンまたは前記過給機の信頼性に関する少なくとも1つの制約条件を満たすよう算出し、
算出された前記制限値を用いて前記可変ノズル機構の開度の下限値を算出し、
前記可変ノズル機構の開度を下げることにより前記エンジンの回転速度を減速させるための条件が成立している場合に、算出された前記下限値を用いて前記可変ノズル機構の開度を制御し、
前記制約条件は、前記タービンの出口以降のタービン下流圧力に対する前記タービン上流圧力の比率が、前記過給機の信頼性に関する閾値である所定値を超えないと
の条件を含む
、エンジンシステム。
【請求項3】
エンジンから排出された排気によって駆動されるタービンと、前記タービンへ流入する排気の流速をノズルの開度によって調整する可変ノズル機構とを含み、前記エンジンへの吸気を過給する過給機と、
前記可変ノズル機構を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記エンジンから前記タービンの入口までの間のタービン上流圧力の制限値を、前記エンジンまたは前記過給機の信頼性に関する少なくとも1つの制約条件を満たすよう算出し、
算出された前記制限値を用いて前記可変ノズル機構の開度の下限値を算出し、
前記可変ノズル機構の開度を下げることにより前記エンジンの回転速度を減速させるための条件が成立している場合に、算出された前記下限値を用いて前記可変ノズル機構の開度を制御し、
前記過給機は、さらに、
前記エンジンへの吸気を過給するコンプレッサと、前記タービンの駆動力を前記コンプレッサに伝達する連結軸とを含み、
前記制約条件は、前記連結軸のスラスト軸受に掛かるスラスト荷重が、前記過給機の信頼性に関する閾値である所定荷重を超えないと
の条件を含む
、エンジンシステム。
【請求項4】
エンジンから排出された排気によって駆動されるタービンと、前記タービンへ流入する排気の流速をノズルの開度によって調整する可変ノズル機構とを含み、前記エンジンへの吸気を過給する過給機の前記可変ノズル機構を制御する制御装置による制御方法であって、
前記制御装置が、
前記エンジンから前記タービンの入口までの間のタービン上流圧力の制限値を、前記エンジンまたは前記過給機の信頼性に関する少なくとも1つの制約条件を満たすよう算出するステップと、
算出された前記制限値を用いて前記可変ノズル機構の開度の下限値を算出するステップと、
前記可変ノズル機構の開度を下げることにより前記エンジンの回転速度を減速させるための条件が成立している場合に、算出された前記下限値を用いて前記可変ノズル機構の開度を制御するステップとを含
み、
前記制約条件は、前記タービン上流圧力と前記エンジンの気筒内の圧力との差が、前記エンジンの信頼性に関する閾値である所定圧力を超えないとの条件を含む、制御方法。
【請求項5】
エンジンから排出された排気によって駆動されるタービンと、前記タービンへ流入する排気の流速をノズルの開度によって調整する可変ノズル機構とを含み、前記エンジンへの吸気を過給する過給機の前記可変ノズル機構を制御する制御装置による制御方法であって、
前記制御装置が、
前記エンジンから前記タービンの入口までの間のタービン上流圧力の制限値を、前記エンジンまたは前記過給機の信頼性に関する少なくとも1つの制約条件を満たすよう算出するステップと、
算出された前記制限値を用いて前記可変ノズル機構の開度の下限値を算出するステップと、
前記可変ノズル機構の開度を下げることにより前記エンジンの回転速度を減速させるための条件が成立している場合に、算出された前記下限値を用いて前記可変ノズル機構の開度を制御するステップとを含
み、
前記制約条件は、前記タービンの出口以降のタービン下流圧力に対する前記タービン上流圧力の比率が、前記過給機の信頼性に関する閾値である所定値を超えないとの条件を含む、制御方法。
【請求項6】
エンジンから排出された排気によって駆動されるタービンと、前記タービンへ流入する排気の流速をノズルの開度によって調整する可変ノズル機構とを含み、前記エンジンへの吸気を過給する過給機の前記可変ノズル機構を制御する制御装置による制御方法であって、
前記制御装置が、
前記エンジンから前記タービンの入口までの間のタービン上流圧力の制限値を、前記エンジンまたは前記過給機の信頼性に関する少なくとも1つの制約条件を満たすよう算出するステップと、
算出された前記制限値を用いて前記可変ノズル機構の開度の下限値を算出するステップと、
前記可変ノズル機構の開度を下げることにより前記エンジンの回転速度を減速させるための条件が成立している場合に、算出された前記下限値を用いて前記可変ノズル機構の開度を制御するステップとを含
み、
前記過給機は、さらに、前記エンジンへの吸気を過給するコンプレッサと、前記タービンの駆動力を前記コンプレッサに伝達する連結軸とを含み、
前記制約条件は、前記連結軸のスラスト軸受に掛かるスラスト荷重が、前記過給機の信頼性に関する閾値である所定荷重を超えないとの条件を含む、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、エンジンシステムおよび制御方法に関し、特に、可変ノズル機構を含む過給機を備えるエンジンシステムおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大型車両において、減速力を増加させるため、排気ブレーキが用いられている。排気ブレーキにおいては、排気経路を閉塞させることによって、排気経路の圧力を上昇させ、エンジンのポンピングロスを増やすことで、減速力を増加させる。大型車両の多くでは、排気経路に排気バルブを設けることで排気経路の圧力を上昇させる排気ブレーキが採用されている(たとえば、特許文献1の
図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のように排気バルブを設ける場合、コストが掛かるとともに、システムが複雑になる。
【0005】
この開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、コストを抑えてシステムを複雑にすること無く排気を用いたブレーキの機能を備えることが可能なエンジンシステムおよび制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この開示に係るエンジンシステムは、エンジンから排出された排気によって駆動されるタービンと、タービンへ流入する排気の流速をノズルの開度によって調整する可変ノズル機構とを含み、エンジンへの吸気を過給する過給機と、可変ノズル機構を制御する制御装置とを備える。制御装置は、エンジンからタービンの入口までの間のタービン上流圧力の制限値を、エンジンまたは過給機の信頼性に関する少なくとも1つの制約条件を満たすよう算出し、算出された制限値を用いて可変ノズル機構の開度の下限値を算出し、可変ノズル機構の開度を下げることによりエンジンの回転速度を減速させるための条件が成立している場合に、算出された下限値を用いて可変ノズル機構の開度を制御する。
【0007】
好ましくは、制御装置は、複数の制約条件を満たすようそれぞれ算出される複数のタービン上流圧力のうちの最小値を、制限値として算出する。
【0008】
好ましくは、制約条件は、タービン上流圧力とエンジンの気筒内の圧力との差が、エンジンの信頼性に関する閾値である所定圧力を超えないとの制約条件を含む。
【0009】
好ましくは、制約条件は、タービンの出口以降のタービン下流圧力に対するタービン上流圧力の比率が、過給機の信頼性に関する閾値である所定値を超えないとの制約条件を含む。
【0010】
好ましくは、過給機は、さらに、エンジンへの吸気を過給するコンプレッサと、タービンの駆動力をコンプレッサに伝達する連結軸とを含み、制約条件は、連結軸のスラスト軸受に掛かるスラスト荷重が、過給機の信頼性に関する閾値である所定荷重を超えないとの制約条件を含む。
【0011】
この開示の他の局面によれば、制御方法は、エンジンから排出された排気によって駆動されるタービンと、タービンへ流入する排気の流速をノズルの開度によって調整する可変ノズル機構とを含み、エンジンへの吸気を過給する過給機の可変ノズル機構を制御する制御装置による制御方法である。制御方法は、制御装置が、エンジンからタービンの入口までの間のタービン上流圧力の制限値を、エンジンまたは過給機の信頼性に関する少なくとも1つの制約条件を満たすよう算出するステップと、算出された制限値を用いて可変ノズル機構の開度の下限値を算出するステップと、可変ノズル機構の開度を下げることによりエンジンの回転速度を減速させるための条件が成立している場合に、算出された下限値を用いて可変ノズル機構の開度を制御するステップとを含む。
【発明の効果】
【0012】
この開示によれば、排気を用いたブレーキの機能を備えるために新たな装置を設ける必要を無くすることができる。その結果、コストを抑えてシステムを複雑にすること無く排気を用いたブレーキの機能を備えることが可能なエンジンシステムおよび制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この実施の形態に係る過給機を備えたエンジンシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】可変ノズル機構の構成の一例を示す第1の図である。
【
図3】可変ノズル機構の構成の一例を示す第2の図である。
【
図4】この実施の形態における排気ブレーキ制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】この実施の形態のエンジン本体の排気ポートの周辺の構造の概略を示す図である。
【
図6】可変ノズル機構における隣接するベーン間の有効開口面積μAを説明するための図である。
【
図7】可変ノズル機構における有効開口面積μAと排気流量mとVN開度との関係の一例を示す図である。
【
図8】この実施の形態におけるVN開度の制御による排気ブレーキによる各状態の変化を示すタイミングチャートである。
【
図9】この実施の形態におけるエンジン回転速度NEと目標減速度を得るために必要なフリクショントルクとの関係を示すグラフである。
【
図10】この実施の形態におけるエンジン回転速度NEごとの排気マニホールドの排気圧力P4とフリクショントルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返されない。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、この実施の形態に係る過給機を備えたエンジンシステム1の概略構成を示す図である。本実施の形態において、エンジンシステム1は、たとえば、コモンレール式のディーゼルエンジンを含むエンジンシステムを一例として説明するが、その他の形式のエンジン(たとえば、ガソリンエンジン等)を含むエンジンシステムであってもよい。
【0016】
エンジンシステム1は、エンジン本体10と、エアクリーナ20と、インタークーラ26と、吸気マニホールド28と、過給機30と、排気マニホールド50と、排気処理装置55と、排気再循環装置(以下、EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置と記載する)60と、排気ブレーキスイッチ101と、エンジン回転速度センサ102と、エアフローメータ104と、過給圧センサ106と、外気温センサ108と、大気圧センサ110と、アクセル開度センサ112と、車速センサ114と、制御装置100とを備える。
【0017】
エンジン本体10は、気筒12と、ピストン14と、シリンダヘッド17と、インジェクタ16とを含む。エンジン本体10は、直列型のエンジンであってもよいし、その他の気筒レイアウト(たとえば、V型あるいは水平対向型)のエンジンであってもよい。ピストン14は、気筒12内に上下往復動可能に介挿される。ピストン14の頂部とシリンダヘッド17と気筒12とで囲まれた空間によって燃焼室が形成される。
【0018】
インジェクタ16は、気筒12の頂部のシリンダヘッド17に設けられ、コモンレール(図示せず)に接続されている燃料噴射装置である。燃料タンク(図示せず)に貯留された燃料は、サプライポンプ(図示せず)によって所定圧まで加圧されてコモンレールへ供給される。コモンレールに供給された燃料はインジェクタ16から所定のタイミングで噴射される。インジェクタ16は、制御装置100からの制御信号に応じて指令された燃料噴射量Qvを気筒12内に供給する。
【0019】
エアクリーナ20は、エンジン本体10の外部から吸入される空気から異物を除去する。エアクリーナ20には、第1吸気管22の一方端が接続される。
【0020】
第1吸気管22の他方端には、過給機30のコンプレッサ32の吸気流入口に接続される。コンプレッサ32の吸気流出口には、第2吸気管24の一方端が接続される。コンプレッサ32は、第1吸気管22から流通する空気を過給して第2吸気管24に供給する。コンプレッサ32の詳細な動作については後述する。
【0021】
第2吸気管24の他方端には、インタークーラ26の一方端が接続される。インタークーラ26は、第2吸気管24を流通する空気を冷却する空冷式あるいは水冷式の熱交換器である。
【0022】
インタークーラ26の他方端には、第3吸気管27の一方端が接続される。第3吸気管27の他方端には、吸気マニホールド28が接続される。吸気マニホールド28は、エンジン本体10の気筒12の吸気ポート11に連結される。第3吸気管27の途中であって、後述するEGR装置60との分岐点よりもインタークーラ26側には、ディーゼルスロットル25が設けられる。ディーゼルスロットル25は、制御装置100から制御信号に応じて吸気の流量を調整する。
【0023】
排気マニホールド50は、エンジン本体10の気筒12の排気ポート19に連結される。排気マニホールド50には、第1排気管52の一方端が接続される。第1排気管52の他方端は、過給機30のタービン36の排気流入口に接続される。そのため、各気筒の排気ポート19から排出される排気は、排気マニホールド50および第1排気管52を経由してタービン36に供給される。
【0024】
タービン36の排気流出口には、第2排気管54の一方端が接続される。第2排気管54の他方端には、酸化触媒56とPM(Particulate Matter)除去フィルタ57とSCR触媒58とを含む排気処理装置55およびマフラー等が接続される。そのため、タービン36の排気流出口から排出された排気は、第2排気管54、排気処理装置55およびマフラー等を経由して車外に排出される。
【0025】
第3吸気管27(または吸気マニホールド28)と第1排気管52(または排気マニホールド50)とは、エンジン本体10の気筒12を経由せずにEGR装置60によって接続される。EGR装置60は、EGRバルブ62と、EGR通路66と、EGRクーラ63とを含む。EGR通路66は、第3吸気管27(または吸気マニホールド28)と第1排気管52(または排気マニホールド50)とを接続する。EGRバルブ62およびEGRクーラ63は、EGR通路66の途中に設けられる。EGRクーラ63は、EGR通路66を介して吸気側に流れるEGRガスを冷却する空冷式あるいは水冷式の熱交換器である。
【0026】
EGRバルブ62は、制御装置100からの制御信号に応じて、EGR通路66を流通するEGRガスの流量を調整する調整弁である。排気マニホールド50内の排気がEGR装置60を経由してEGRガスとして吸気側に戻されることによって気筒12内の燃焼温度が低下され、NOxの生成量が低減される。
【0027】
過給機30は、コンプレッサ32と、タービン36と、可変ノズル機構40と、アクチュエータ44とを含む。コンプレッサ32のハウジング内にはコンプレッサホイール34が収納される。タービン36のハウジング内にはタービンホイール38が収納される。コンプレッサホイール34とタービンホイール38とは、連結軸42によって連結され、一体的に回転する。連結軸42のラジアル荷重は、浮動ブシュ軸受46,47によって支持される。連結軸42のスラスト荷重は、スラスト軸受45によって支持される。コンプレッサホイール34は、タービンホイール38に供給される排気の排気エネルギーによって回転駆動される。
【0028】
可変ノズル機構40は、タービンホイール38の回転軸を中心とした周囲の排気流入部に配置され、第1排気管52から供給される排気をタービンホイール38に導く複数のノズルベーン67(
図2参照)と、複数のノズルベーン67の各々を回転させることによって隣接するノズルベーン67の間の隙間(以下の説明においてこの隙間の大きさを「VN(ベーンノズル)開度」ともいう)を変化させるリンク機構72とを含む。アクチュエータ44は、制御装置100からの動作指示に応じてリンク機構72を動作させることによって、可変ノズル機構40のVN開度を変化させる。
【0029】
可変ノズル機構40のVN開度を変化させることによって、タービンホイール38への排気流入部における排気の流路が絞られたり、拡げられたりする。これにより、タービンホイール38に吹き付けられる排気の流速を変化させることができる。
【0030】
図2および
図3は、それぞれ、可変ノズル機構40の構成の一例を示す第1および第2の図である。
図2は、
図1において左方向から可変ノズル機構40を見た図である。
図3は、
図1において右方向から可変ノズル機構40を見た図である。可変ノズル機構40の構成は、第1排気管52からタービンホイール38までの排気の流路を絞ることでタービンホイール38に供給される排気の流速を変化させるものであればよく、特に、
図2および
図3に示される構成に限定されるものではない。
【0031】
図2および
図3に示すように、可変ノズル機構40は、タービンホイール38の外周の排気流入部に配置された複数のノズルベーン67と、複数の軸68を回転中心として複数のノズルベーン67をそれぞれ揺動可能に保持するノズルプレート69と、各軸68の端部に固定されたアーム70を用いて軸68を回転させるユニゾンリング71とを含む。ユニゾンリング71は、リンク機構72を介してアクチュエータ44の動作によって回転されるようになっており、リンク機構72の回転軸72aの端部に固定されたアーム72bを、アクチュエータ44を用いて揺動させることで、アーム72bと係合するユニゾンリング71を回転させることができる。
【0032】
たとえば、
図2に示されるように、アーム72bをリンク機構72によって矢印に示す方向に揺動させると、ユニゾンリング71は、矢印に示す方向、すなわち、
図2では反時計回り、
図3では時計回りに回転する。さらに、このユニゾンリング71の回転によって、各軸68は、矢印に示す方向、すなわち、
図2では反時計回り、
図3では時計回りに回転される。したがって、ノズルベーン67の開度は閉じ側(隣接する2つのノズルベーン67の間の隙間が狭くなるように)に制御されることとなる。また、アーム72bを矢印とは逆の方向に搖動させると、ノズルベーン67の開度は開き側(隣接する2つのノズルベーン67の間の隙間が拡がるように)に制御されることとなる。
【0033】
図1に戻って、エンジンシステム1の動作は、制御装置100によって制御される。制御装置100は、各種処理を行なうCPU(Central Processing Unit)と、プログラムおよびデータを記憶するROM(Read Only Memory)およびCPUの処理結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むメモリと、外部との情報のやり取りを行なうための入出力ポート(いずれも図示せず)とを含む。入力ポートには、上述したセンサ類(たとえば、エンジン回転速度センサ102、エアフローメータ104、過給圧センサ106、外気温センサ108、大気圧センサ110、アクセル開度センサ112および車速センサ114等)、ならびに、スイッチ類(たとえば、排気ブレーキスイッチ101等)が接続される。出力ポートには、制御対象となる機器(たとえば、インジェクタ16、アクチュエータ44およびEGRバルブ62等)が接続される。
【0034】
制御装置100は、各センサ、各スイッチおよび各種機器からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジンシステム1が所望の運転状態となるように各種機器を制御する。なお、各種機器の制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。また、制御装置100には、時間の計測を行うためのタイマ回路(図示せず)が内蔵されている。
【0035】
エンジン回転速度センサ102は、エンジン本体10の出力軸であるクランクシャフトの回転速度をエンジン回転速度NEとして検出する。エンジン回転速度センサ102は、検出したエンジン回転速度NEを示す信号を制御装置100に送信する。
【0036】
エアフローメータ104は、第1吸気管22に導入される新気の流量(吸入空気量)Qinを検出する。エアフローメータ104は、検出した吸入空気量Qinを示す信号を制御装置100に送信する。
【0037】
過給圧センサ106は、吸気マニホールド28内の圧力を過給圧として検出する。過給圧センサ106は、検出された過給圧を示す信号を制御装置100に送信する。
【0038】
外気温センサ108は、エンジンシステム1が搭載された車両の外気の温度を検出する。外気温センサ108は、検出した外気の温度を示す信号を制御装置100に送信する。
【0039】
大気圧センサ110は、エンジンシステム1が搭載された車両の外気の圧力、つまり大気圧を検出する。大気圧センサ110は、検出した大気圧を示す信号を制御装置100に送信する。
【0040】
アクセル開度センサ112は、アクセルペダルの操作量を検出する。アクセル開度センサ112は、検出したアクセルペダルの操作量を示す信号を制御装置100に送信する。
【0041】
車速センサ114は、当該エンジンシステム1を搭載する車両の車速を検出する。車速センサ114は、検出した車速を示す信号を制御装置100に送信する。
【0042】
排気ブレーキスイッチ101は、可変ノズル機構40のVN開度による排気ブレーキの機能をオン状態にするかオフ状態にするかを切替えるためのスイッチである。排気ブレーキスイッチ101は、切替えられたオン状態またはオフ状態を示す信号を制御装置100に送信する。
【0043】
以上のような構成を有するエンジンシステム1において、制御装置100は、エンジンシステム1の状態に基づいて可変ノズル機構40を制御する。より具体的には、制御装置100は、エンジン本体10の状態(たとえば、エンジン回転速度NEや燃料噴射量Qv)に基づいて可変ノズル機構40のVN開度の基本値を設定する。
【0044】
制御装置100は、たとえば、エンジン回転速度NEが低回転領域であって、かつ、負荷が低負荷領域である場合においては、タービンホイール38に供給される排気の流速が速くなるように(すなわち、VN開度が小さくなるように)、基本値を設定する。
【0045】
一方、制御装置100は、たとえば、エンジン回転速度NEが高回転領域であって、かつ、負荷が高負荷領域である場合においては、タービンホイール38に供給される排気の流速が遅くなるように(すなわち、VN開度が大きくなるように)、基本値を設定する。
【0046】
さらに、制御装置100は、目標過給圧と実過給圧との差分を用いてVN開度の補正量を算出する。制御装置100は、たとえば、エンジン回転速度NEと吸入空気量Qinと燃料噴射量Qv等を用いて目標過給圧を設定する。制御装置100は、過給圧センサ106を用いて実過給圧を取得する。
【0047】
制御装置100は、設定された基本値を補正量で補正した値をVN開度の指令値として可変ノズル機構40のアクチュエータ44を制御するための制御信号を生成し、アクチュエータ44に送信する。アクチュエータ44は、受信した制御信号に基づいてVN開度を変化させる。このように、エンジンシステム1の状態に基づいて可変ノズル機構40のVN開度を適切に調整することにより、過給機30の過給圧を最適な過給圧に調整することができる。
【0048】
このような可変ノズル機構40を有する過給機30においては、エンジン保護のため排気マニホールド50の圧力が圧力上限値を超えないように可変ノズル機構40のVN開度が制御される。すなわち、上述の基本値を補正量で補正した値にVN開度の下限値が設定され、基本値を補正量で補正した値が下限値よりも小さい場合には、下限値をVN開度の指令値として可変ノズル機構40のアクチュエータ44が制御されることになる。VN開度の下限値は、たとえば、排気流量の変動が少ない安定した状態であることを前提として、エンジン回転速度NEと燃料噴射量Qvとを用いて設定される。
【0049】
[課題]
従来、大型車両において、減速力を増加させるため、排気ブレーキが用いられている。排気ブレーキにおいては、排気経路を閉塞させることによって、排気経路の圧力を上昇させ、エンジンのポンピングロスを増やすことで、減速力を増加させる。大型車両の多くでは、排気経路に排気バルブを設けることで排気経路の圧力を上昇させる排気ブレーキが採用されている。
【0050】
しかし、排気経路に排気バルブを設ける場合、コストが掛かるとともに、システムが複雑になる。
【0051】
[この開示での制御]
そこで、この開示においては、制御装置100は、エンジン本体10からタービン36の入口までの間のタービン上流圧力の制限値を、エンジン本体10または過給機30の信頼性に関する少なくとも1つの制約条件を満たすよう算出し、算出された制限値を用いて可変ノズル機構40のVN開度の下限値を算出し、可変ノズル機構40のVN開度を下げることによりエンジン本体10の回転速度NEを減速させるための条件が成立している場合に、算出された下限値を用いて可変ノズル機構40のVN開度を制御する。これにより、排気を用いたブレーキの機能を備えるために新たな装置を設ける必要を無くすることができる。その結果、コストを抑えてシステムを複雑にすること無く排気を用いたブレーキの機能を備えることができる。
【0052】
以下、この開示の実施の形態での制御を説明する。
図4は、この実施の形態における排気ブレーキ制御処理の流れを示すフローチャートである。この排気ブレーキ制御処理は、制御装置100のCPUによって、上位の処理から所定の制御周期ごとに呼出されて実行される。
【0053】
図4を参照して、まず、制御装置100のCPUは、排気ブレーキフラグがオフ状態であるか否かを判断する(ステップS110)。排気ブレーキフラグは、可変ノズル機構40のVN開度による排気ブレーキの機能をオン状態としているかオフ状態としているかを示すフラグであり、排気ブレーキフラグがオン状態およびオフ状態である場合、それぞれ、排気ブレーキの機能がオン状態およびオフ状態であることを示す。
【0054】
排気ブレーキフラグがオフ状態である(ステップS110でYES)と判断した場合、制御装置100のCPUは、排気ブレーキスイッチ101からの信号に応じて、排気ブレーキスイッチ101がオン状態であるか否かを判断する(ステップS111)。
【0055】
排気ブレーキスイッチ101がオン状態である(ステップS111でYES)と判断した場合、制御装置100のCPUは、アクセル開度センサ112からの信号で示されるアクセルペダルの操作量からアクセルペダルがオフ状態であるか否かを判断する(ステップS112)。
【0056】
アクセルペダルがオフ状態である(ステップS112でYES)と判断した場合、制御装置100のCPUは、車速センサ114からの信号で示される車速Vが、排気ブレーキの機能をオン状態とさせることを可能とする閾値である速度VU以上であるか否かを判断する(ステップS113)。
【0057】
車速Vが速度VU以上である(ステップS113でYES)と判断した場合、制御装置100のCPUは、排気ブレーキフラグをオン状態に切替える(ステップS114)。
【0058】
一方、排気ブレーキスイッチがオン状態でない(ステップS111でNO)と判断した場合、アクセルペダルがオフ状態でない(ステップS112でNO)と判断した場合、および、車速Vが速度VU以上でない(ステップS113でNO)と判断した場合、制御装置100のCPUは、通常の方法でVN開度を算出し(ステップS115)、算出したVN開度となるようノズルベーン67を制御する(ステップS116)。ステップS116の後、制御装置100のCPUは、実行する処理をこの排気ブレーキ制御処理の呼出元の上位の処理に戻す。
【0059】
ステップS114の後、制御装置100のCPUは、排気ブレーキフラグがオン状態であるか否かを判断する(ステップS121)。排気ブレーキフラグがオン状態である(ステップS121でYES)と判断した場合、制御装置100のCPUは、排気ブレーキスイッチ101からの信号に応じて、排気ブレーキスイッチ101がオン状態であるか否かを判断する(ステップS122)。
【0060】
排気ブレーキスイッチ101がオン状態である(ステップS122でYES)と判断した場合、制御装置100のCPUは、アクセル開度センサ112からの信号で示されるアクセルペダルの操作量からアクセルペダルがオフ状態であるか否かを判断する(ステップS123)。
【0061】
アクセルペダルがオフ状態である(ステップS123でYES)と判断した場合、制御装置100のCPUは、車速センサ114からの信号で示される車速Vが、排気ブレーキの機能のオン状態を維持する閾値である速度VL以上であるか否かを判断する(ステップS124)。
【0062】
車速Vが速度VL以上である(ステップS124でYES)と判断した場合、制御装置100のCPUは、過給機30またはエンジン本体10の信頼性の観点から排気マニホールド50内の排気圧力P4の制限値である排気圧力P4rを算出する(ステップS125)。過給機30またはエンジン本体10の信頼性の観点から算出される排気マニホールド50内の排気圧力P4rについては後述する。
【0063】
次に、制御装置100のCPUは、排気圧力P4rに対応するノズル有効開口面積μAを算出し(ステップS126)、排気圧力P4rに対応する可変ノズル機構40のVN開度の下限値を算出する(ステップS127)。ノズル有効開口面積μAおよびVN開度の下限値の算出方法については後述する。
【0064】
そして、制御装置100のCPUは、算出したVN開度の下限値を用いてVN開度を制御する(ステップS128)。具体的には、算出した下限値となるよう可変ノズル機構40のVN開度を制御する。その後、制御装置100のCPUは、実行する処理をこの排気ブレーキ制御処理の呼出元の上位の処理に戻す。
【0065】
一方、排気ブレーキスイッチがオン状態でなくなった(ステップS122でNO)と判断した場合、アクセルペダルがオフ状態でなくなった(ステップS123でNO)と判断した場合、および、車速Vが速度VL以上でなくなった(ステップS124でNO)と判断した場合、制御装置100のCPUは、排気ブレーキフラグをオフ状態とする(ステップS129)。その後、制御装置100のCPUは、実行する処理をこの排気ブレーキ制御処理の呼出元の上位の処理に戻す。
【0066】
次に、上述の
図4のステップS125における、過給機30またはエンジン本体10の信頼性の観点からの排気マニホールド50内の排気圧力P4rの算出について説明する。この実施形態においては、このような排気圧力P4rは、過給機30またはエンジン本体10の信頼性に関する3種類の制約条件をそれぞれ満たす圧力のうちの最小値である。
【0067】
1種類目の制約条件は、排気マニホールド50内の排気圧力P4とエンジン本体10の気筒12内の圧力Psとの差が、エンジン本体10の信頼性に関する所定圧力Aを超えないとの制約条件、つまり、P4-Ps<Aを満たすとの制約条件である。
【0068】
図5は、この実施の形態のエンジン本体10の排気ポート19の周辺の構造の概略を示す図である。
図5を参照して、エンジン本体10は、筒状の排気ポート19と、排気ポート19の開口端に設けられた排気バルブ80とを備える。
【0069】
排気ポート19は、気筒12内の排気ガスを排出するための排気経路である。排気ポート19の内側を排気が通過する。
【0070】
排気ポート19の一端のバルブシート取付部にバルブシート82が設けられている。バルブシート82は、排気バルブ80のバルブヘッド81と当接する。バルブシート82は、排気バルブ80が排気ポート19の開口端を密閉するように排気ポート19と排気バルブ80との間に介在する。
【0071】
排気バルブ80は、バルブステム84を有する。バルブステム84は直線状に延びており、一方端にバルブヘッド81が設けられ、他方端は排気カム86で押圧される。排気バルブ80は、バルブステム84が延びる方向に往復運動をする。
【0072】
バルブステムガイド83は筒状であり、排気ポート19を貫通するように設けられている。バルブステムガイド83は、ステムガイド取付部に取り付けられる。バルブステムガイド83の内周空間にバルブステム84が嵌合している。バルブステムガイド83とバルブステム84との間に隙間が設けられており、バルブステム84が往復運動をすることが可能である。
【0073】
バルブスプリング85は、排気バルブ80を閉じる方向へ付勢するための部材である。バルブスプリング85の一端がシリンダヘッド17に当接しており、他端がバルブステム84に係合している。
【0074】
排気カム86は、排気バルブ80を駆動させるための部材である。排気カム86は、バルブステム84の端部を押圧する。バルブステム84は、バルブスプリング85により排気カム86に近づく方向に押圧されている。排気カム86が回転して排気カム86の長径部がバルブステム84を押圧すると
図5で示すように排気バルブ80が開いた状態となる一方、排気カム86が回転して長径部がバルブステム84を押圧しない状態となると排気バルブ80が閉じた状態となる。
【0075】
ここで、通常は、気筒12内の圧力Psから排気マニホールド50の内部の排気圧力P4を減算した圧力による力は、バルブヘッド81を押し上げる方向に働き、排気バルブ80が閉じているタイミングにおいては、バルブスプリング85によるバルブヘッド81を押し上げる方向の力も掛かるために、排気バルブ80の閉じた状態が維持される。
【0076】
しかし、排気マニホールド50の内部の排気圧力P4が異常に高くなり、排気圧力P4から気筒12内の圧力Psを減算した圧力による力が、バルブスプリング85によるバルブヘッド81を押し上げる力と比較して大きくなる場合がある。このような場合、排気カム86によって排気バルブ80が開けられるタイミングでなくても、排気バルブ80が開いた状態となってしまう。この場合、排気カム86による排気バルブ80のリフト量よりも大きく排気バルブ80が開いてしまうと、ピストン14が上死点付近まで上がっていれば、排気バルブ80のバルブヘッド81がピストン14の上面と当たることで、過剰な力が掛かった部品が破損してしまう虞がある。
【0077】
そこで、排気マニホールド50内の排気圧力P4とエンジン本体10の気筒12内の圧力Psとの差が、排気バルブ80が開いてしまう限界の値未満の所定圧力Aを超えないとの制約条件、つまり、P4-Ps<Aを満たすとの制約条件を設けるようにする。これにより、排気マニホールド50内の排気圧力P4によって排気バルブ80が開いてしまうことを回避でき、エンジン本体10の信頼性を保つことができる。
【0078】
2種類目の制約条件は、過給機30のタービン36の排気流出口の下流の排気圧力P6に対するタービン36の排気流入口の上流の排気マニホールド50内の排気圧力P4の比率である膨張比P4/P6が、過給機30の信頼性に関する閾値Bを超えないとの制約条件、つまり、P4/P6<Bを満たすとの制約条件である。膨張比P4/P6が大きいと、過給機30のタービン36のタービンホイール38のインペラの周辺の部分に過負荷が掛かる。
【0079】
そこで、膨張比P4/P6が、過給機30の信頼性に関する閾値Bを超えないとの制約条件を設けるようにする。これにより、過給機30のタービン36のタービンホイール38のインペラの周辺の部分に過負荷が掛かることを回避でき、過給機30の信頼性を保つことができる。
【0080】
3種類目の制約条件は、連結軸42のスラスト軸受45に掛かるスラスト荷重Fthが、過給機30の信頼性に関する閾値である所定荷重Cを超えないとの制約条件、つまり、Fth<Cを満たすとの制約条件である。スラスト荷重Fthは、排気マニホールド50(タービン36の排気流入口であってもよい)の排気圧力P4および排気流出口の排気圧力P6ならびにコンプレッサ32の吸気流入口の吸気圧力P0および吸気流出口の吸気圧力P3等を用いた力学的な計算で算出可能である。スラスト荷重Fthが過大であると、過給機30のスラスト軸受45の周辺の部品に過負荷が掛かり、摩耗等が生じる。
【0081】
そこで、スラスト荷重Fthが、過給機30の信頼性に関する所定荷重Cを超えないとの制約条件を設けるようにする。これにより、過給機30のスラスト軸受45の周辺の部品に過負荷が掛かることを回避でき、過給機30の信頼性を保つことができる。
【0082】
これらの3種類の制約条件を満たす排気圧力P4のうちの最小値が、過給機30またはエンジン本体10の信頼性の観点から算出される排気マニホールド50内の排気圧力P4rとして算出される。
【0083】
次に、上述の
図4のステップS126およびステップS127における、排気圧力P4rに対応する可変ノズル機構40のノズル有効開口面積μAおよびVN開度の算出について説明する。
【0084】
図6は、可変ノズル機構40における隣接するベーン間の有効開口面積μAを説明するための図である。
図6に示すように、ノズルベーン67aと隣接するノズルベーン67bとの間に隙間には、
図6の実線に示す直線を一辺とする方形の開口部が形成される。可変ノズル機構40の各ベーン間には、同様の開口部が形成される。この各ベーン間の開口部の面積の総和によって開口面積が示される。可変ノズル機構40の有効開口面積は、この各ベーン間の開口部の面積の総和Aと、可変ノズル機構40における排気の流れやすさを示す係数μとの積によって示される。この有効開口面積μAは、以下の式(1)を用いて推定することができる。
【0085】
【0086】
ここで、「a」および「b」は、所定の係数を示す。「R」は、ガス定数を示す。「m」は、排気マニホールド50からの排気流量を示す。排気流量mは、たとえば、吸入空気量Qinを用いて算出される気筒12内のガス量と、燃料噴射量Qvとを用いて推定される。
【0087】
さらに「T4」は、排気マニホールド50内の排気温度を示す。排気温度T4は、たとえば、エンジン回転速度NEと、吸気温度と、水温と、燃料噴射量Qvおよび噴射時期等の燃焼パラメータと、吸入空気量Qinと、吸気マニホールド28の温度と、気筒12内のガス量とを用いて推定される。吸気温度、水温および吸気マニホールド28の温度は、たとえば、図示しないセンサ等を用いて検出される。
【0088】
「P6」は、過給機30から第2排気管54に流出する排気の圧力を示す。排気圧力P6は、たとえば、大気圧と、PM除去フィルタ57の前後差圧と、SCR触媒58の圧損値とを用いて推定される。大気圧およびPM除去フィルタ57の前後差圧は、たとえば、図示しないセンサ等を用いて検出される。
【0089】
なお、排気温度T4および排気圧力P6は、それぞれ所定の計算モデルが予め実験的あるいは設計的に構築され、上記したそれぞれのパラメータを入力することによってそれらの推定値および上限値が算出される。
【0090】
上述の式(1)は、たとえば、可変ノズル機構40の隣接するノズルベーン67の開度と、ノズルベーン67の上流および下流の温度と圧力と排気流量とからエネルギー保存の法則や運動量保存の法則等を用いて導かれる関係式から導出される。このような関係式は、周知の技術を用いて導出されるためその詳細な説明は行なわない。
【0091】
図4のステップS126において、上述の式(1)のP4に、
図4のステップS125で算出されたP4rが代入されてμAが算出される。つまり、算出されるμAは、過給機30またはエンジン本体10の信頼性の観点から算出される排気マニホールド50内の排気圧力P4rに対応する値である。次いで、
図4のステップS127において、ステップS126で算出されたP4rに対応するμAから、P4rに対応するVN開度の下限値が算出される。
【0092】
図7は、可変ノズル機構40における有効開口面積μAと排気流量mとVN開度との関係の一例を示す図である。
図7の太実線LN1、一点鎖線LN2、二点鎖線LN3、細線LN4および破線LN5の各々は、排気流量m毎にとり得る有効開口面積μAとVN開度との関係を示す。太実線LN1~破線LN5のうち太実線LN1における排気流量mが最も小さく、破線LN5における排気流量mが最も大きい。排気流量mは、太実線LN1、一点鎖線LN2、二点鎖線LN3、細線LN4および破線LN5の順序で大きくなっているものとする。
【0093】
また、太実線LN1~破線LN5のうち破線LN5は、排気流量がF(0)である場合の有効開口面積μAとVN開度との関係を示し、細線LN4は、排気流量がF(0)の半分の流量(F(0)×0.5)である場合の有効開口面積μAとVN開度との関係を示している。
【0094】
たとえば、排気流量mがF(0)であって、かつ、有効開口面積μAがS(0)である場合には(
図7のA点参照)、V(0)がVN開度として特定されることになる。これに対して、排気流量mがF(0)の半分の流量になる場合を想定する。なお、説明の便宜上、有効開口面積μA以外のパラメータに関しては、同一であるものとする。この場合、排気流量mがF(0)の半分の流量になると、式(1)から明らかなとおり有効開口面積μAも半分の値になることから(
図7のB点参照)、V(0)よりも閉じ側のV(1)がVN開度として特定されることになる。このように、排気流量mが少なくなるほど、対応するVN開度は小さくなる。
【0095】
図4のステップS127において、
図7のグラフで示される関係が用いられて、ステップS126で算出されたμAに対応するVN開度が特定される。つまり、特定されるVN開度は、過給機30またはエンジン本体10の信頼性の観点から算出される排気マニホールド50内の排気圧力P4rに対応する値である。
【0096】
図8は、この実施の形態におけるVN開度の制御による排気ブレーキによる各状態の変化を示すタイミングチャートである。
図8を参照して、
図8(A)から
図8(G)のグラフにおいて、二点鎖線は、排気ブレーキのためのVN開度の制御が無い場合を示し、実線は、排気ブレーキのためのVN開度の制御が有る場合を示す。
【0097】
排気ブレーキのためのVN開度の制御が無い場合、まず、
図8(A)で示されるように、時刻t1において、アクセル開度が0とされると、
図8(F)の二点鎖線で示されるようにVN開度が全開に近い状態まで開かれることで、
図8(E)の二点鎖線で示されるように排気マニホールド50の側の排気圧力P4が下がる。
【0098】
また、エンジン本体10で燃焼が行われなくなるので、ブレーキペダルが操作されていない状態であっても、
図8(D)の二点鎖線で示されるように、エンジン本体10のポンピングロスなどの各部の作用による抗力によって、いわゆる、エンジンブレーキが掛かる。
【0099】
これにより、
図8(C)の二点鎖線で示されるように、エンジン本体10の回転速度が徐々に低下することで、
図8(D)の二点鎖線で示されるように、車速が徐々に低下する。また、エンジン本体10で燃焼が行われなくなくなるので、
図8(G)で示されるように、排気マニホールド50内の排気温度T4が徐々に低下する。
【0100】
一方、排気ブレーキのためのVN開度の制御が有る場合、排気ブレーキスイッチ101がオン状態であり、
図8(B)の実線で示されるように車速がVU以上であれば、時刻t1において、アクセル開度が0とされると、
図4のステップS111からステップS114およびステップS121からステップS128が実行されることによって、過給機30またはエンジン本体10の信頼性の観点から算出された過給機30の排気マニホールド50の排気圧力P4の制限値である排気圧力P4rに対応するVN開度の下限値が算出される。
【0101】
図8(F)の実線で示されるように、算出されたVN開度の下限値となるようにVN開度が制御されることによって、
図8(E)の実線で示されるように、排気マニホールド50の排気圧力P4が、制限値を超えないようにしつつ、
図8(D)の実線で示されるように、VN開度の制御による排気ブレーキによりフリクショントルクを大きくすることができる。
【0102】
これにより、排気ブレーキのためのVN開度の制御が無い場合と比較して、
図8(C)の実線で示されるように、エンジン本体10の回転速度が大きく低下することで、
図8(D)の実線で示されるように、車速が大きく低下する。
【0103】
時刻t2において、車速がVLまで下がると、
図4のステップS124およびステップS129が実行されることによって、排気ブレーキのためのVN開度の制御が終了する。これにより、
図8(F)の実線で示されるように、排気ブレーキのためのVN開度の制御が無い場合の二点鎖線で示されるVN開度に移行する。
【0104】
また、
図8(E)および
図8(D)の実線で示されるように、排気圧力P4およびフリクショントルクも、排気ブレーキのためのVN開度の制御が無い場合の二点鎖線で示される値に移行する。これにより、
図8(C)および
図8(B)の実線で示されるように、エンジン本体10の回転速度および車速の低下が緩やかになる。
【0105】
[第2実施形態]
前述した第1実施形態においては、車両の減速度に目標値は設けないようにした。第2実施形態においては、車両の減速度に目標値を設けるようにする。
【0106】
図9は、この実施の形態におけるエンジン回転速度NEと目標減速度を得るために必要なフリクショントルクとの関係を示すグラフである。
図9を参照して、このグラフの関係を用いて、そのときのエンジン回転速度NEに対応する、目標減速度を得るために必要なフリクショントルクを特定することができる。
【0107】
図10は、この実施の形態におけるエンジン回転速度NEごとの排気マニホールド50の排気圧力P4とフリクショントルクとの関係を示すグラフである。
図10を参照して、フリクショントルクは、排気マニホールド50内の排気圧力P4に比例する。このグラフの関係を用いて、そのときのエンジン回転速度NEおよび
図9のグラフの関係を用いて特定された目標のフリクショントルクに対応する、排気マニホールド50の目標排気圧力P4tを特定することができる。
【0108】
この目標排気圧力P4tが
図4のステップS125で算出したP4r以下である場合、このP4tに対応するVN開度に制御することで、目標減速度を発生させることができる。なお、この目標排気圧力P4tがP4rを超える場合、
図4のステップS127およびステップS128で示したように、P4rに対応する下限値となるようVN開度を制御する。
【0109】
[変形例]
(1) 前述した実施の形態においては、排気圧力P4が、排気マニホールド50内の排気の圧力であることとした。しかし、これに限定されず、排気圧力P4は、エンジン本体10の排気ポート19から過給機30のタービン36の排気流入口までの間の排気経路のうちのいずれかの部分の圧力であればよい。
【0110】
(2) 前述した実施の形態においては、VN開度がステップS127で算出された下限値となるようにVN開度を制御するようにした。しかし、これに限定されず、ステップS127で算出された下限値を用いてVN開度を制御するのであれば、他の制御方法であってもよく、たとえば、VN開度が下限値を下回らないように制御するようにしてもよい。
【0111】
(3) 前述した実施の形態においては、
図4のステップS125において信頼性の観点からの排気マニホールド50内の排気圧力P4rは、過給機30またはエンジン本体10の信頼性に関する3種類の制約条件をそれぞれ満たす圧力のうちの最小値であることとした。しかし、これに限定されず、なお、過給機30またはエンジン本体10の信頼性に関する制約条件は、3種類に限定されず、少なくとも1種類であればよく、上述した制約条件と異なる制約条件が含まれていてもよい。
【0112】
(4) 前述した実施の形態においては、
図4のステップS125からステップS127で算出された排気圧力P4r、ノズル有効開口面積μA、および、VN開度の下限値などの制御のために算出される値をそのまま用いるようにした。しかし、これに限定されず、排気圧力P4r、ノズル有効開口面積μA、および、VN開度の下限値などの制御のために算出される値として、エンジンシステム1の各部品の製造バラツキおよびエンジンシステム1における制御のバラツキなどを考慮した値を用いてもよい。
【0113】
(5) 前述した開示を、エンジンシステム1の開示と捉えることができるし、過給機30の開示と捉えることができるし、エンジンシステム1または過給機30の制御装置の開示と捉えることができるし、エンジンシステム1または過給機30の制御装置による制御方法または制御プログラムの開示と捉えることができる。
【0114】
[まとめ]
(1)
図1から
図3で示したように、エンジンシステム1は、エンジン本体10から排出された排気によって駆動されるタービン36と、タービン36へ流入する排気の流速をノズルの開度によって調整する可変ノズル機構40とを含み、エンジン本体10への吸気を過給する過給機30と、可変ノズル機構40を制御する制御装置100とを備える。
【0115】
図4で示したように、制御装置100は、エンジン本体10からタービン36の入口までの間の排気マニホールド50内の排気圧力P4の制限値である排気圧力P4rを、エンジン本体10または過給機30の信頼性に関する少なくとも1つの制約条件を満たすよう算出し(たとえば、
図4のステップS125)、算出された排気圧力P4rを用いて可変ノズル機構40のVN開度の下限値を算出し(
図4のステップS126,ステップS127)、可変ノズル機構40のVN開度を下げることによりエンジン本体10の回転速度NEを減速させるための条件が成立している場合(たとえば、
図4のステップS121からステップS124の条件が成立している場合)に、算出された下限値を用いて可変ノズル機構40のVN開度を制御する(たとえば、
図4のステップS128)。
【0116】
これにより、排気を用いたブレーキの機能を備えるために新たな装置を設ける必要を無くすることができる。その結果、コストを抑えてシステムを複雑にすること無く排気を用いたブレーキの機能を備えることができる。また、排気を用いたブレーキによる減速度を、エンジン本体10または過給機30の信頼性に関する限界まで上げることができる。また、外気温、気圧および排気マニホールド50内の排気温度などの運転状況による指標によらず、一定の減速度を維持することができるため、ユーザの期待に対して過不足ない減速度を達成できる。
【0117】
(2)
図4および
図5で示したように、制御装置100は、複数の制約条件を満たすようそれぞれ算出される複数の排気マニホールド50内の排気圧力P4のうちの最小値を、制限値として算出する(たとえば、
図4のステップS125)ようにしてもよい。
【0118】
(3)
図4および
図5で示したように、制約条件は、排気マニホールド50内の排気圧力P4とエンジン本体10の気筒12内の圧力Psとの差が、エンジン本体10の信頼性に関する閾値である所定圧力Aを超えないとの制約条件を含むようにしてもよい。
【0119】
これにより、排気マニホールド50内の排気圧力P4によって排気バルブ80が開いてしまうことを回避でき、エンジン本体10の信頼性を保つことができる。
【0120】
(4)
図4で示したように、制約条件は、タービン36の排気流出口以降のタービン下流の排気圧力P6に対する排気マニホールド50内の排気圧力P4の比率P4/P6が、過給機30の信頼性に関する所定の閾値Bを超えないとの制約条件を含む(たとえば、
図4のステップS125)ようにしてもよい。
【0121】
これにより、過給機30のタービン36のタービンホイール38のインペラの周辺の部分に過負荷が掛かることを回避でき、過給機30の信頼性を保つことができる。
【0122】
(5)
図1で示したように、過給機30は、さらに、エンジン本体10への吸気を過給するコンプレッサ32と、タービン36の駆動力をコンプレッサ32に伝達する連結軸42とを含む。
図4で示したように、制約条件は、連結軸42のスラスト軸受45に掛かるスラスト荷重が、過給機30の信頼性に関する閾値である所定荷重Cを超えないとの制約条件を含む(たとえば、
図4のステップS125)ようにしてもよい。
【0123】
これにより、過給機30のスラスト軸受45の周辺の部品に過負荷が掛かることを回避でき、過給機30の信頼性を保つことができる。
【0124】
今回開示された各実施の形態は、適宜組合わせて実施することも予定されている。そして、今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0125】
1 エンジンシステム、10 エンジン本体、11 吸気ポート、12 気筒、14 ピストン、16 インジェクタ、17 シリンダヘッド、19 排気ポート、20 エアクリーナ、22 第1吸気管、24 第2吸気管、25 ディーゼルスロットル、26 インタークーラ、27 第3吸気管、28 吸気マニホールド、30 過給機、32 コンプレッサ、34 コンプレッサホイール、36 タービン、38 タービンホイール、40 可変ノズル機構、42 連結軸、44 アクチュエータ、45 スラスト軸受、46,47 浮動ブシュ軸受、50 排気マニホールド、52 第1排気管、54 第2排気管、55 排気処理装置、56 酸化触媒、57 PM除去フィルタ、58 SCR触媒、60 EGR装置、62 EGRバルブ、63 EGRクーラ、66 EGR通路、67,67a,67b ノズルベーン、68 軸、69 ノズルプレート、70,72b アーム、71 ユニゾンリング、72 リンク機構、72a 回転軸、80 排気バルブ、81 バルブヘッド、82 バルブシート、83 バルブステムガイド、84 バルブステム、85 バルブスプリング、86 排気カム、100 制御装置、101 排気ブレーキスイッチ、102 回転速度センサ、104 エアフローメータ、106 過給圧センサ、108 外気温センサ、110 大気圧センサ、112 アクセル開度センサ、114 車速センサ。