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特許7489012流体の温度測定装置およびそれに用いる保護管
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】流体の温度測定装置およびそれに用いる保護管
(51)【国際特許分類】
   G01K 1/08 20210101AFI20240516BHJP
   G01K 13/02 20210101ALI20240516BHJP
   G01K 1/14 20210101ALI20240516BHJP
【FI】
G01K1/08 N
G01K13/02
G01K1/14 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020084282
(22)【出願日】2020-05-13
(65)【公開番号】P2021179346
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390007744
【氏名又は名称】山里産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】木村 和生
(72)【発明者】
【氏名】深見 侑樹
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-096658(JP,U)
【文献】登録実用新案第3126141(JP,U)
【文献】実開昭60-154826(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2008/0307901(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0211368(US,A1)
【文献】特開2006-183228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体流路に取り付けられる保護管と、該保護管内に挿着される温度計とよりなる流体の温度測定装置であって、
前記保護管が、
先端が閉塞された筒状の管本体と、
該管本体の外周面上に、該管本体の軸を中心に回動可能に支持される受圧部材とよりなり、
該受圧部材の存在により、当該保護管の外周面に、周方向に沿って凹凸する形状領域が形成されていることを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
前記受圧部材が、前記管本体の外面上に前記回動可能に支持される筒状本体と、該筒状本体の外周部に突設された凸部とより構成され、
前記凹凸する形状が、外方に突出する前記凸部より形成される形状である、請求項1記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記受圧部材が、軸方向または軸方向から傾いた斜め方向に延びる凸条のフィンを備え、
前記凹凸する形状が、外方に突出する前記フィンより形成される形状である、請求項1又は2記載の温度測定装置。
【請求項4】
前記フィンが、周方向に間隔をおいて複数設けられている、請求項3記載の温度測定装置。
【請求項5】
前記受圧部材が、軸受部材を介して前記管本体外周面上に回動可能に支持されている、請求項1~4の何れか1項に記載の温度測定装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の流体の温度測定装置に用いられる保護管であって、
先端が閉塞された筒状の管本体と、
該管本体の外周面上に、該管本体の軸を中心に回動可能に支持される受圧部材とよりなり、
該受圧部材の存在により、外周面に周方向に沿って凹凸する形状領域が形成されていることを特徴とする保護管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管等の流体流路に設けて流体の温度を測定する温度測定装置およびそれに用いる保護管に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の温度測定装置は、従来から、サーモウエルと呼ばれるくり抜き形の保護管を、配管側壁に穿設した取付穴に取り付けた支持筒より流体流路内に挿入し、該保護管に温度計を内装してなる構造である(例えば、特許文献1参照。)。流体に晒される保護管には、下流側にカルマン渦が生じることによって常時振動が発生しており、その振動数と保護管の固有振動数とが近づくと共振が発生して大きく揺れ動くこととなる。その結果、外部の支持筒と干渉して破損したり、内部の温度計が保護管内面と干渉して破損するといった虞がある。
【0003】
この保護管の共振現象を避けるためには、保護管の固有振動数が取付状態において大きくなるように設計し、カルマン渦によって生じる振動数と上記固有振動数との比(カルマン渦による振動数/保護管の固有振動数)を小さくすること(概ね0.8未満)が必要である。たとえば保護管の流体流路への挿入長(突出量)を短くすることも有効であるが、挿入長が短かくなると温度計測にも影響を与えてしまう。
【0004】
そこで、本出願人は先に、支持筒への取付作業を現場にて容易に行うことが可能であるとともに、カラー(当接片)により固有振動数を増大させて共振現象の発生を防止するという効果を確実に発揮させることができ、しかも当接片と支持筒との厳密な嵌め合いの寸法精度を管理する必要もない保護管を提案している(特許文献1参照)。ただし、この場合、使用状況によっては、支持筒との組み合わせやカラーの摩耗等による影響の問題も想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-107430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、保護管の下流側におけるカルマン渦の発生を抑制して保護管の流力振動、および内部の温度計の破損を未然に防止することができる温度測定装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はかかる現況に鑑み、鋭意検討した結果、カルマン渦は流れの圧力差によって保護管のまわりに生ずる流れの境界層分布の剥離点から規則的に発生するが、この剥離点の位置を変動可能とすれば、剥離した流体の動きが不安定となり、保護管下流側に生じる負圧領域も小さくなるとともに、カルマン渦も出来にくくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 流体流路に取り付けられる保護管と、該保護管内に挿着される温度計とよりなる流体の温度測定装置であって、前記保護管が、先端が閉塞された筒状の管本体と、該管本体の外周面上に、該管本体の軸を中心に回動可能に支持される受圧部材とよりなり、該受圧部材の存在により、当該保護管の外周面に、周方向に沿って凹凸する形状領域が形成されていることを特徴とする温度測定装置。
【0009】
(2) 前記受圧部材が、前記管本体の外面上に前記回動可能に支持される筒状本体と、該筒状本体の外周部に突設された凸部とより構成され、前記凹凸する形状が、外方に突出する前記凸部により形成される形状である、(1)記載の温度測定装置。
【0010】
(3) 前記受圧部材が、軸方向または軸方向から傾いた斜め方向に延びる凸条のフィンを備え、前記凹凸する形状が、外方に突出する前記フィンにより形成される形状である、(1)又は(2)記載の温度測定装置。
【0011】
(4) 前記フィンが、周方向に間隔をおいて複数設けられている、(3)記載の温度測定装置。
(5) 前記受圧部材が、軸受部材を介して前記管本体外周面上に回動可能に支持されている、(1)~(4)の何れかに記載の温度測定装置。
【0012】
(1)~(5)の何れかに記載の流体の温度測定装置に用いられる保護管であって、先端が閉塞された筒状の管本体と、該管本体の外周面上に、該管本体の軸を中心に回動可能に支持される受圧部材とよりなり、該受圧部材の存在により、外周面に周方向に沿って凹凸する形状領域が形成されていることを特徴とする保護管。
【発明の効果】
【0013】
以上にしてなる本発明に係る温度測定装置によれば、凹凸した形状領域を備える受圧部材が流体の流れを受けて回動することにより、剥離した流体の流れを不規則に乱し、保護管の下流側におけるカルマン渦の発生を抑制して、保護管の流力振動、および内部の温度計の破損を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の代表的実施形態に係る温度測定装置を示す斜視図。
図2】同じく温度測定装置を構成する保護管およびこれに挿着される温度計を示す説明図。
図3】同じく温度測定装置の先端側からみた正面図。
図4】同じく温度測定装置の先端部分を示す説明図。
図5図4のA-A断面図。
図6】本発明に係る温度測定装置の変形例を示す説明図。
図7】(a)同じく温度測定装置の他の変形例を示す説明図、(b)は(a)のB-B断面図、(c)は更に他の変形例を示す断面図。
図8】同じく温度測定装置の更に他の変形例を示す説明図。
図9】実施例1、比較例1の各サンプルの外観写真
図10】実施例1、比較例1を移動させた後の液面の様子を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0016】
本発明の温度測定装置1は、図1及び図2に示すように、流体の温度を測定するものであり、流体流路に突出した状態に取り付けられる保護管2と、該保護管2内に挿着される温度計3とより構成されている。温度計3には、たとえばシース熱電対やシース型測温抵抗体など、従来からの温度計を広く用いることができる。
【0017】
保護管2は、先端が閉塞された筒状の管本体4と、該管本体4の外周面上に、該管本体4の軸を中心に回動可能に支持される受圧部材5とより構成されている。管本体4、受圧部材5はいずれも耐熱性及び耐食性を備えるステンレス製とされているが、これに限定されるものではない。
【0018】
この受圧部材5の存在により、当該保護管2の外周面には周方向に沿って凹凸する形状領域R1が形成されている。すなわち、受圧部材5が回動することで凹凸する凹凸形状領域R1が回動することになる。本発明の温度測定装置1は、このように回動する凹凸形状領域R1を備えることで、測温対象である流体のながれを不規則な流れとし、カルマン渦の発生による保護管2の振動を防止している。
【0019】
管本体4は、内部の温度計3が流体に晒されないように、先端が封止されて内部空間が基端側の開口を除いて外部から隔絶された管状部材である。本例では、外周面が全体に断面視円形の円周面形状とされているが、受圧部材5を回動可能に支持できるものであればこれに何ら限定されない。管本体4の基端部4bの外周面には流体流路となる管壁等に形成された取付孔に螺合する雄ネジ部41が設けられ、さらに基端開口の内周面に温度計3の基端部の雄ネジ部31が螺合する雌ネジ溝42が設けられている。
【0020】
受圧部材5は、管本体4の外面上に回動可能に支持される筒状本体50と、該筒状本体50の外周部に突設された凸部51とより構成されている。この外方に突出する前記凸部51と筒状本体50の外周面とにより、上記した凹凸形状領域R1が形成される。
【0021】
筒状本体50は、ステンレス製の円筒部材であり、両端部50a,50bがそれぞれ軸受部材6を介して管本体4の外周面40上に回動可能に支持されている。軸受部材6は、転がり軸受、とくにラジアル方向とともに軸方向へも筒状本体50を安定支持できる玉軸受とされている。符号7A,7Bは、それぞれ軸受部材6を当止して位置規制するリング状の押さえ部材であり、止めネジ70により管本体4の外周面40上の軸方向所定位置に固定される。
【0022】
この押さえ部材7A,7Bの位置を変更することで、受圧部材5の軸方向の位置を適宜変更することが可能である。ただし、温度計3への熱伝達効率を考慮して、温度計3の測温部が存在する温度計先端部3aの位置に対応する管本体4の先端部4aが、受圧部材5から先端側に突出するように、受圧部材5の軸方向位置を設定することが好ましい。
【0023】
本実施形態では、このように軸受部材6により管本体4に対して筒状本体50がスムーズに回動できるように構成されているが、このような軸受部材6を省略し、筒状本体50と管本体4の隙間を減らす等して、筒状本体50内に管本体4が直接遊嵌されたものとしても勿論よい。また、基端側の押さえ部材7Bの代わりに、管本体4の外周面上に同じく軸受部材6を当止することができる係止突起を設けたものでもよい。
【0024】
凸部51は、軸方向または軸方向から傾いた斜め方向に延びる凸条のフィンとすることが好ましい。とくに本例では、軸方向に延びる波板状のフィンとされており、この波板状のフィン(凸部51)が筒状本体50の外周面上に、周方向に所定間隔をあけて複数設けられ、これら波板状のフィンと筒状本体50の外周面とで上記凹凸形状領域R1が形成されている。
【0025】
凸部51は、本例のような軸方向に連続するもの以外に、図6に示すように軸方向に間隔をあけて複数設けたものでもよい。凸条のフィン以外のものでもよく、たとえばドーム状の突起が多数設けられたものでもよい。
【0026】
また、図7(a),(b)に示すように、凸部51を設ける代わりに、凹部52(本例では有底の凹条)を筒状本体50の外周面に設け、これを受圧部材5としてもよい。このような受圧部材5の存在により、保護管2の外周面に凹凸形状領域R1が形成される。このような凹部52からなる凹凸形状領域R1も、流体の流れを受けて受圧部材5を回動させ、流体の流れを不規則に乱することができる。
【0027】
さらに、図7(a),(b)の凹部52を貫通させ、図7(c)に示すように筒状本体50を筒状ではなく両端の環状部材とこれを連結する軸方向に延びる複数の連結杆とからなる柵状の筒で受圧部材5を構成したものでもよい。このような受圧部材5によっても、保護管2の外周面に凹凸形状領域R1が形成され、流体の流れを受けて受圧部材5を回動させ、流体の流れを不規則に乱することができる。
【0028】
また、図8に示すように、独立して回動する複数の受圧部材5を軸方向に沿って連設したものも好ましい実施形態である。これによれば、保護管2の外周面に形成される凹凸形状領域R1が独立して回動する複数の分割領域R2により構成されるため、各分割領域R2が流体の流れを受けて回動しやすく、流体の流れをより効果的に乱することができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例
【0030】
次に、本発明に係る温度測定装置の保護管である実施例1と、凹凸した形状領域がなく回動しない従来の保護管である比較例1の各サンプルについて、液体内を軸に直交する横方向に一定速度で移動させ、下流側にカルマン渦ができるか否かを確認した実験結果について説明する。
【0031】
(サンプル)
図9(a)は実施例1の外観写真、図9(b)は比較例1の外観写真である。実施例1は、凸部51を斜め方向に延びる平板凸条としたこと以外、図1図5の代表的実施形態で示した構造とほぼ同じ構造である。
【0032】
具体的には、外径10mm、長さ250mmの先端封止された管本体の外周面上に、外径16mm、長さ100mmの筒状本体およびその外周面上に周方向に間隔をあけて突設された、高さ15mm、厚み1mm、長さ80mmの平板凸条からなる4つの凸部からなる受圧部材を、軸中心に回動可能に装着したものである。比較例1のサンプルは、実施例1の管本体のみとした構造であり、外径10mm、長さ250mmの先端封止された管体である。外周面に凹凸がなく、回動可能な受圧部材も存在しない。
【0033】
(実験方法)
縦330mm、横1000mm、高さ190mmの容器を2つ用意し、各容器内に、それぞれ所定の液体(水(水道水)15リットルに、洗濯のり3.75リットル、及び絵具(銀色)0.12リットルを混合した液体)を入れ、実施例1/比較例1を、それぞれ基端側を手で持って先端から約50mmほど液体内に鉛直に浸漬させ、この浸漬深さ及び姿勢を維持したまま、横方向に約30cm/秒の一定速度で移動させた。
【0034】
(実験結果)
図10(a),(b)は、それぞれ実施例1、比較例1を移動させた後の液面の様子を示す写真である。比較例1では、図10(b)に示すようにカルマン渦が生じていることが分かる。これに対し、実施例1では、下流側の渦や流れが乱されており、カルマン渦の発生が抑制されていることが分かる。
【0035】
また、実施例1の実験中、上記移動に伴って受圧部材が少し回動したことも確認された。この実験結果から、凹凸した形状領域を備える受圧部材が流体の流れを受けて回動することにより、流体の流れを不規則に乱し、保護管の下流側におけるカルマン渦の発生を抑制したことが伺える。
【符号の説明】
【0036】
1 温度測定装置
2 保護管
3 温度計
3a 先端部
4 管本体
4a 先端部
4b 基端部
5 受圧部材
6 軸受部材
7A,7B 押さえ部材
31 雄ネジ部
40 外周面
41 雄ネジ部
42 雌ネジ溝
50 筒状本体
50a,50b 端部
51 凸部
52 凹部
70 止めネジ
R1 凹凸形状領域
R2 分割領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10