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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240516BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240516BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240516BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240516BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020145999
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022041005
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小路 直紀
(72)【発明者】
【氏名】仲出 知弘
(72)【発明者】
【氏名】フックス ロバート
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-224238(JP,A)
【文献】特開2019-194059(JP,A)
【文献】特開2019-206269(JP,A)
【文献】特開2020-059339(JP,A)
【文献】特開2016-159781(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0070888(US,A1)
【文献】中国実用新案第207274769(CN,U)
【文献】独国特許出願公開第102016218845(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 113/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材と、
前記操舵部材と機械的に分離された転舵機構と、
前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータと、
前記転舵機構を駆動する転舵モータと、
前記操舵部材に付与される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、
前記反力モータおよび前記転舵モータの駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記操舵トルクに基づき手動操舵角指令値を設定する手動操舵角指令値設定部と、
所定の第1の情報に応じて、前記手動操舵角指令値に対して重み付け処理を行う第1の重み付け部と、
反力用自動操舵角指令値および前記第1の重み付け部による重み付け処理後の手動操舵角指令値に基づき反力用統合角度指令値を演算する反力用統合角度指令値演算部と、
転舵用自動操舵角指令値および前記第1の重み付け部による重み付け処理後の手動操舵角指令値に基づき転舵用統合角度指令値を演算する転舵用統合角度指令値演算部と、
前記反力モータの回転角を前記反力用統合角度指令値に追従させる反力制御部と、
前記転舵モータの回転角を前記転舵用統合角度指令値に追従させる転舵角制御部と、を有する操舵装置。
【請求項2】
操舵部材と、
前記操舵部材と機械的に分離された転舵機構と、
前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータと、
前記転舵機構を駆動する転舵モータと、
前記操舵部材に付与される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、
前記反力モータおよび前記転舵モータの駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記操舵トルクに基づき手動操舵角指令値を設定する手動操舵角指令値設定部と、
所定の第2の情報に応じて、反力用自動操舵角指令値および転舵用自動操舵角指令値に対して重み付け処理を行う第2の重み付け部と、
前記手動操舵角指令値および前記第2の重み付け部による重み付け処理後の反力用自動操舵角指令値に基づき反力用統合角度指令値を演算する反力用統合角度指令値演算部と、
前記手動操舵角指令値および前記第2の重み付け部による重み付け処理後の転舵用自動操舵角指令値に基づき転舵用統合角度指令値を演算する転舵用統合角度指令値演算部と、
前記反力モータの回転角を前記反力用統合角度指令値に追従させる反力制御部と、
前記転舵モータの回転角を前記転舵用統合角度指令値に追従させる転舵角制御部と、を有する操舵装置。
【請求項3】
操舵部材と、
前記操舵部材と機械的に分離された転舵機構と、
前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータと、
前記転舵機構を駆動する転舵モータと、
前記操舵部材に付与される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、
前記反力モータおよび前記転舵モータの駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記操舵トルクに基づき手動操舵角指令値を設定する手動操舵角指令値設定部と、
所定の第3の情報に応じて、前記手動操舵角指令値に対して重み付け処理を行う第3の重み付け部と、
所定の第4の情報に応じて、反力用自動操舵角指令値および転舵用自動操舵角指令値に対して重み付け処理を行う第4の重み付け部と、
前記第3の重み付け部による重み付け処理後の手動操舵角指令値および前記第4の重み付け部による重み付け処理後の反力用自動操舵角指令値に基づき反力用統合角度指令値を演算する反力用統合角度指令値演算部と、
前記第3の重み付け部による重み付け処理後の手動操舵角指令値および前記第4の重み付け部による重み付け処理後の転舵用自動操舵角指令値に基づき転舵用統合角度指令値を演算する転舵用統合角度指令値演算部と、
前記反力モータの回転角を前記反力用統合角度指令値に追従させる反力制御部と、
前記転舵モータの回転角を前記転舵用統合角度指令値に追従させる転舵角制御部と、を有する操舵装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記反力用自動操舵角指令値および前記転舵用自動操舵角指令値に基づき前記反力モータおよび前記転舵モータを制御する自動操舵モードと、
前記手動操舵角指令値に基づき前記反力モータおよび前記転舵モータを制御する手動操舵モードと、
前記反力用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値、ならびに、前記転舵用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値を加味した前記転舵用統合角度指令値である協調操舵指令値に基づき前記反力モータおよび前記転舵モータを制御する協調操舵モードとを有し、
前記自動操舵モードによる制御中に前記手動操舵モードに切り替えるべき状況が検出され、前記状況に到達する第1所定時間前または第1所定距離前に、運転者に対して手動操舵要求が出力された場合、無条件にまたは所定の条件を満たしたときに前記協調操舵モードにより前記反力モータおよび前記転舵モータを制御する、請求項3に記載の操舵装置。
【請求項5】
前記制御部は、運転者に対して手動操舵要求が出力された場合、前記第3の重み付け部を用いて運転者の覚醒度に基づき前記手動操舵角指令値を重み付けし、重み付け後の手動操舵角指令値を用いた協調操舵モードにより前記反力モータおよび前記転舵モータを制御する、請求項4に記載の操舵装置。
【請求項6】
前記所定の条件が、運転者の覚醒度が所定の閾値以上であるという条件である、請求項4または5に記載の操舵装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記手動操舵要求後、前記状況に到達する第2所定時間前または第2所定距離前までに運転者による操舵が検出されなかった場合、車両を所定の停車位置へ移動させて停止させる自動操舵角指令値を生成させるための自動停止要求を出力するように構成されている、請求項4~6のいずれか一項に記載の操舵装置。
【請求項8】
運転者による操作に基づき、前記反力モータおよび前記転舵モータの制御モードを前記手動操舵モードに切り替える切替部を有する請求項4~7のいずれか一項に記載の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操向のために操作される操舵部材と転舵機構とが機械的に結合されていない状態で、転舵モータによって転舵機構が駆動される操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、操向のために操作される操舵部材と転舵機構とが機械的に結合されていない状態で、転舵モータ(ステアリングモータ)によって転舵機構が駆動されるステア・バイ・ワイヤシステムが開示されている。特許文献1に記載のステア・バイ・ワイヤシステムでは、操作反力モータを有する操作部と、転舵モータを有する転舵部と、操作部を制御する操作反力制御部と、転舵部を制御する転舵制御部と、自動追従システムとを備えている。転舵制御部は、最終的な目標転舵角に基づいて転舵モータを制御する。
【0003】
特許文献1の自動追従システムでは、最終的な目標転舵角は、次のようにして設定される。自動追従システムが作動していないときには、操作ハンドルの操作角に基づいて演算された目標転舵角が、最終的な目標転舵角として設定される(手動操舵モード)。自動追従システムが作動しておりかつ操舵トルクが第1閾値以上である場合または自動追従システムが作動しておりかつ操作角が第2閾値以上のときには、操作ハンドルの操作角に基づいて演算された目標転舵角に1よりも大きな所定値を乗算した値が、最終的な目標転舵角として設定される(遷移モード)。自動追従システムが作動しておりかつ操舵トルクが第1閾値未満でありかつ操作角が第2閾値未満であるときには、自動追従システムによって設定される目標転舵角が、最終的な目標転舵角として設定される(自動操舵モード)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-224238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、自動操舵角指令値および手動操舵角指令値を加味した協調操舵指令値に基づき転舵モータを制御する協調操舵モードと、自動操舵モードまたは手動操舵モードとの切り替えが可能な操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、操舵部材と、前記操舵部材と機械的に分離された転舵機構と、前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータと、前記転舵機構を駆動する転舵モータと、前記操舵部材に付与される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、前記反力モータおよび前記転舵モータの駆動を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記操舵トルクに基づき手動操舵角指令値を設定する手動操舵角指令値設定部と、所定の第1の情報に応じて、前記手動操舵角指令値に対して重み付け処理を行う第1の重み付け部と、反力用自動操舵角指令値および前記第1の重み付け部による重み付け処理後の手動操舵角指令値に基づき反力用統合角度指令値を演算する反力用統合角度指令値演算部と、転舵用自動操舵角指令値および前記第1の重み付け部による重み付け処理後の手動操舵角指令値に基づき転舵用統合角度指令値を演算する転舵用統合角度指令値演算部と、前記反力モータの回転角を前記反力用統合角度指令値に追従させる反力制御部と、前記転舵モータの回転角を前記転舵用統合角度指令値に追従させる転舵角制御部と、を有する操舵装置である。
【0007】
この構成では、自動操舵角指令値および手動操舵角指令値を加味した協調操舵指令値である統合角度指令値に基づき転舵モータを制御する協調操舵モードと、自動操舵角指令値のみに基づいて転舵モータを制御する自動操舵モードとの切り替えが可能となる。
請求項2に係る発明は、操舵部材と、前記操舵部材と機械的に分離された転舵機構と、前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータと、前記転舵機構を駆動する転舵モータと、前記操舵部材に付与される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、前記反力モータおよび前記転舵モータの駆動を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記操舵トルクに基づき手動操舵角指令値を設定する手動操舵角指令値設定部と、所定の第2の情報に応じて、反力用自動操舵角指令値および転舵用自動操舵角指令値に対して重み付け処理を行う第2の重み付け部と、前記手動操舵角指令値および前記第2の重み付け部による重み付け処理後の反力用自動操舵角指令値に基づき反力用統合角度指令値を演算する反力用統合角度指令値演算部と、前記手動操舵角指令値および前記第2の重み付け部による重み付け処理後の転舵用自動操舵角指令値に基づき転舵用統合角度指令値を演算する転舵用統合角度指令値演算部と、前記反力モータの回転角を前記反力用統合角度指令値に追従させる反力制御部と、前記転舵モータの回転角を前記転舵用統合角度指令値に追従させる転舵角制御部と、を有する操舵装置である。
【0008】
この構成では、自動操舵角指令値および手動操舵角指令値を加味した協調操舵指令値である統合角度指令値に基づき転舵モータを制御する協調操舵モードと、手動操舵角指令値のみに基づいて転舵モータを制御する手動操舵モードとの切り替えが可能となる。
請求項3に係る発明は、前記操舵部材と機械的に分離された転舵機構と、前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータと、前記転舵機構を駆動する転舵モータと、前記操舵部材に付与される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、前記反力モータおよび前記転舵モータの駆動を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記操舵トルクに基づき手動操舵角指令値を設定する手動操舵角指令値設定部と、所定の第3の情報に応じて、前記手動操舵角指令値に対して重み付け処理を行う第3の重み付け部と、所定の第4の情報に応じて、反力用自動操舵角指令値および転舵用自動操舵角指令値に対して重み付け処理を行う第4の重み付け部と、前記第3の重み付け部による重み付け処理後の手動操舵角指令値および前記第4の重み付け部による重み付け処理後の反力用自動操舵角指令値に基づき反力用統合角度指令値を演算する反力用統合角度指令値演算部と、前記第3の重み付け部による重み付け処理後の手動操舵角指令値および前記第4の重み付け部による重み付け処理後の転舵用自動操舵角指令値に基づき転舵用統合角度指令値を演算する転舵用統合角度指令値演算部と、前記反力モータの回転角を前記反力用統合角度指令値に追従させる反力制御部と、前記転舵モータの回転角を前記転舵用統合角度指令値に追従させる転舵角制御部と、を有する操舵装置である。
【0009】
この構成では、自動操舵角指令値および手動操舵角指令値を加味した協調操舵指令値である統合角度指令値に基づき転舵モータを制御する協調操舵モード、自動操舵角指令値のみに基づいて転舵モータを制御する自動操舵モードおよび手動操舵角指令値のみに基づいて転舵モータを制御する手動操舵モードの切り替えが可能となる。
請求項4に係る発明は、前記制御部は、前記反力用自動操舵角指令値および前記転舵用自動操舵角指令値に基づき前記反力モータおよび前記転舵モータを制御する自動操舵モードと、前記手動操舵角指令値に基づき前記反力モータおよび前記転舵モータを制御する手動操舵モードと、前記反力用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値、ならびに、前記転舵用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値を加味した前記転舵用総合角度指令値である協調操舵指令値に基づき前記反力モータおよび前記転舵モータを制御する協調操舵モードとを有し、前記自動操舵モードによる制御中に前記手動操舵モードに切り替えるべき状況が検出され、前記状況に到達する第1所定時間前または第1所定距離前に、運転者に対して手動操舵要求が出力された場合、無条件にまたは所定の条件を満たしたときに前記協調操舵モードにより前記電動モータを制御する、請求項3に記載の操舵装置である。
【0010】
請求項5に記載の発明は、前記制御部は、運転者に対して手動操舵要求が出力された場合、前記第3の重み付け部を用いて運転者の覚醒度に基づき前記手動操舵角指令値を重み付けし、重み付け後の手動操舵角指令値を用いた協調操舵モードにより前記電動モータを制御する、請求項4に記載の操舵装置である。
請求項6に記載の発明は、前記所定の条件が、運転者の覚醒度が所定の閾値以上であるという条件である、請求項4または5に記載の操舵装置である。
【0011】
請求項7に記載の発明は、前記制御部は、前記手動操舵要求後、前記状況に到達する第2所定時間前または第2所定距離前までに運転者による操舵が検出されなかった場合、車両を所定の停車位置へ移動させて停止させる自動操舵角指令値を生成させるための自動停止要求を出力するように構成されている、請求項4~6のいずれか一項に記載の操舵装置である。
【0012】
請求項8に記載の発明は、運転者による操作に基づき、前記電動モータの制御モードを前記手動操舵モードに切り替える切替部を有する請求項1~7のいずれか一項に記載の操舵装置である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る操舵装置の概略構成を示す模式図
図2】反力ECUおよび転舵ECUの電気的構成を説明するためのブロック図
図3】手動操舵角指令値設定部の構成を示すブロック図
図4】操舵トルクTに対するアシストトルク指令値Tacの設定例を説明するためのグラフ
図5】指令値設定部で用いられるリファレンスEPSモデルの一例を示す模式図
図6】反力用角度制御部の構成を示すブロック図
図7】転舵用角度制御部の構成を示すブロック図
図8図8Aは第1重みWmdの設定例を示すグラフであり、図8Bは第2重みWadの設定例を示すグラフである。
図9】本発明の第2実施形態に係る操舵装置の概略構成を示す模式図
図10】反力ECUおよび転舵ECUの電気的構成を説明するためのブロック図
図11】第2設定部の動作の概要を説明するための模式図
図12】第2設定部による第2設定処理の手順の一例を説明するためのフローチャート
図13】第2設定部による第2設定処理の手順の変形例を説明するためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
[1]第1実施形態
[1.1]第1実施形態に係る操舵装置1の概略構成
図1に示すように、操舵装置1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール(ハンドル)2と、転舵輪3を転舵するための転舵機構4と、ステアリングホイール2に連結されたステアリングシャフト5とを含む。ただし、ステアリングシャフト5と転舵機構4との間には、トルクや回転などの動きが伝達されるような機械的な結合はない。
【0015】
ステアリングシャフト5は、ステアリングホイール2に一端が連結された第1軸7と、第1軸7の他端に一端が連結されたトーションバー8と、トーションバー8の他端に一端が連結された第2軸9とを含む。
トーションバー8の近傍には、トルクセンサ11が配置されている。トルクセンサ11は、第1軸7および第2軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルク(トーションバートルク)Tを検出する。この実施形態では、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTは、例えば、左方向への操舵のためのトルクが正の値として、右方向への操舵のためのトルクが負の値として検出され、その絶対値が大きいほど操舵トルクTの大きさが大きくなるものとする。
【0016】
第2軸9には、減速機12を介して、第2軸9の回転角(以下、「ハンドル角」という場合がある)を制御するための反力モータ13が連結されている。反力モータ13は、第2軸9に反力トルクを与えるための電動モータである。減速機12は、反力モータ13の出力軸に一体的に回転可能に連結されたウォーム軸(図示略)と、このウォーム軸と噛み合い、第2軸9に一体的に回転可能に連結されたウォームホイール(図示略)とを含むウォームギヤ機構からなる。反力モータ13には、反力モータ13の回転角を検出するための回転角センサ14が設けられている。
【0017】
転舵機構4は、ピニオン軸15とラック軸16とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸16の各端部には、タイロッド17およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。ピニオン軸15は、減速機18を介して、転舵モータ19の出力軸に連結されている。減速機18は、転舵モータ19の出力軸に一体的に回転可能に連結されたウォーム軸(図示略)と、このウォーム軸と噛み合い、ピニオン軸15に一体的に回転可能に連結されたウォームホイール(図示略)とを含むウォームギヤ機構からなる。ピニオン軸15の先端には、ピニオン15Aが連結されている。転舵モータ19には、転舵モータ19の回転角を検出するための回転角センサ20が設けられている。
【0018】
以下において、減速機12の減速比(ギヤ比)をNで表し、減速機18の減速比をNで表す場合がある。減速比は、ウォームホイールの角速度ωwwに対するウォームギヤの角速度ωwgの比ωwg/ωwwとして定義される。
ラック軸16は、車両の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸16には、ピニオン15Aに噛み合うラック16Aが形成されている。転舵モータ19が回転すると、その回転力が減速機18を介してピニオン軸15に伝達される。そして、ラックアンドピニオン機構によって、ピニオン軸15の回転がラック軸16の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
【0019】
車両には、車両の進行方向前方の道路を撮影するCCD(Charge Coupled Device)カメラ25、自車位置を検出するためのGPS(Global Positioning System)26、道路形状や障害物を検出するためのレーダー27および地図情報を記憶した地図情報メモリ28が搭載されている。車両には、さらに、操舵モードを手動で切り替えるための第1、第2および第3モードスイッチ121,122,123が搭載されている。
【0020】
操舵モードには、後述するように、手動運転によって操舵が行われる手動操舵モードと、自動運転によって操舵が行われる自動操舵モードと、手動運転および自動運転の両方に基づく操舵が可能な協調操舵モードとがある。
CCDカメラ25、GPS26、レーダー27および地図情報メモリ28は、運転支援制御や自動運転制御を行うための上位ECU(ECU:Electronic Control Unit)201に接続されている。上位ECU201は、CCDカメラ25、GPS26およびレーダー27によって得られる情報および地図情報メモリ28から得られる地図情報を元に、周辺環境認識、自車位置推定、経路計画等を行い、操舵や駆動アクチュエータの制御目標値の決定を行う。
【0021】
この実施形態では、上位ECU201は、自動操舵のための転舵用自動操舵角指令値を、自動操舵角指令値θadacとして設定する。この実施形態では、自動操舵制御は、例えば、目標軌道に沿って車両を走行させるための制御である。自動操舵角指令値θadacは、車両を目標軌道に沿って自動走行させるための操舵角の目標値である。このような自動操舵角指令値θadacを設定する処理は、周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0022】
また、上位ECU201は、モードスイッチ121,122,123の操作に応じたモード設定信号S,S,Sを生成する。具体的には、第1モードスイッチ121が運転者によってオンされたときに、上位ECU201は、操舵モードを協調操舵モードに設定するための協調操舵モード設定信号Sを出力する。第2モードスイッチ122が運転者によってオンされたときに、上位ECU201は、操舵モードを自動操舵モードに設定するための自動操舵モード設定信号Sを出力する。第3モードスイッチ123が運転者によってオンされたときに、上位ECU201は、操舵モードを手動操舵モードに設定するための手動操舵モード設定信号Sを出力する。
【0023】
この実施形態では、自動操舵角指令値θadacならびに後述するアシストトルク指令値Tacおよび手動操舵角指令値θmdacは、反力モータ13によって第2軸9を左操舵方向に回転させたり、転舵モータ19によって転舵輪3を左操舵方向に転舵させたりする場合には、正の値に設定される。一方、これらの指令値θadac,Tac,θmdacは、反力モータ13によって第2軸9を右操舵方向に回転させたり、転舵モータ19によって転舵輪3を右操舵方向に転舵させたりする場合には、負の値に設定される。また、この実施形態において、自動操舵角指令値θadacは、ピニオン軸15の回転角として設定され、手動操舵角指令値θmdacは、第2軸9の回転角として設定される。
【0024】
上位ECU201によって設定される自動操舵角指令値θadacおよび上位ECU201によって生成されるモード設定信号S,S,Sは、車載ネットワークを介して、反力ECU202および転舵ECU203に与えられる。反力ECU202は、反力モータ13を制御するためのECUであり、転舵ECU203は、転舵モータ19を制御するためのECUである。
【0025】
トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTおよび回転角センサ14の出力信号は、反力ECU202に入力される。反力ECU202は、これらの入力信号および上位ECU201から与えられる情報に基づいて、反力モータ13を制御する。
回転角センサ20の出力信号は、転舵ECU203に入力される。転舵ECU203は、回転角センサ20の出力信号、反力ECU202から与えられる情報および上位ECU201から与えられる情報に基づいて、転舵モータ19を制御する。
[1.2]反力ECU202および転舵ECU203の電気的構成
[1.2.1]反力ECU202
図2に示すように、反力ECU202は、マイクロコンピュータ40と、マイクロコンピュータ40によって制御され、反力モータ13に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)31と、反力モータ13に流れる電流(以下、「モータ電流Irm」という。)を検出するための電流検出回路32とを備えている。
【0026】
マイクロコンピュータ40は、CPUおよびメモリ(ROM、RAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部は、手動操舵角指令値設定部41と、ハンズオンオフ判定部42と、切替部43と、反力用統合角度指令値演算部44と、反力用角度制御部45と、第1重み付け部46と、第2重み付け部47と、第3重み付け部48とを含む。反力用角度制御部45は、本発明の「反力制御部」の一例である。
【0027】
第1重み付け部46は、入力されるモード設定信号に応じて、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTに対して第1重み付け処理を行う。具体的には、第1重み付け部46は、モード設定信号S,S,Sのうちのいずれかが入力されたときには、まず、現在の操舵モードおよび入力されたモード設定信号に応じて、第1重みWmdを設定する。次に、第1重み付け部46は、操舵トルクTに第1重みWmdを乗算する。そして、第1重み付け部46は、乗算値Wmd・Tを、第1重み付け処理後の操舵トルクT’として手動操舵角指令値設定部41に与える。
【0028】
手動操舵角指令値設定部41は、運転者がステアリングホイール2を操作した場合に、当該ステアリングホイール操作に応じた操舵角(より正確には第2軸9の回転角)を手動操舵角指令値θmdacとして設定するために設けられている。手動操舵角指令値設定部41は、第1重み付け処理後の操舵トルク を用いて手動操舵角指令値θmdacを設定する。手動操舵角指令値設定部41の詳細については、後述する。手動操舵角指令値設定部41によって設定された手動操舵角指令値θmdacは、第2重み付け部47に与えられる。
【0029】
第2重み付け部47は、入力されるモード設定信号に応じて、手動操舵角指令値設定部41によって設定される手動操舵角指令値θmdacに対して第2重み付け処理を行う。具体的には、第2重み付け部47は、モード設定信号S,S,Sのうちのいずれかが入力されたときには、まず、現在の操舵モードおよび入力されたモード設定信号に応じて、第1重みWmdを設定する。次に、第2重み付け部47は、手動操舵角指令値θmdacに第1重みWmdを乗算する。そして、第2重み付け部47は、乗算値Wmd・θmdacを、第2重み付け処理後の手動操舵角指令値θmdac’として反力用統合角度指令値演算部44に与える。
【0030】
ハンズオンオフ判定部42は、運転者がステアリングホイール2を把持している(ハンズオン)か、把持していない(ハンズオフ)かを判定する。ハンズオンオフ判定部42としては、ステアリングホイール2に設けられたタッチセンサの出力信号に基づいてハンズオンオフを判定するもの、車内に設けられたカメラの撮像画像に基づいてハンズオンオフを判定するもの等を用いることができる。なお、ハンズオンオフ判定部42としては、ハンズオンオフを判定できるものであれば、前述の構成以外のものを用いることができる。ハンズオンオフ判定部42から出力されるハンズオンオフ判定信号は、切替部43に与えられる。
【0031】
切替部43は、ハンズオンオフ判定部42によって運転者がステアリングホイール2を把持していると判定されているときには、上位ECU201によって設定される自動操舵角指令値θadacを、反力用自動操舵角指令値θrtacとして第3重み付け部48に与える。一方、ハンズオンオフ判定部42によって運転者がステアリングホイール2を把持していないと判定されているときには、切替部43は、零を反力用自動操舵角指令値θrtacとして第3重み付け部48に与える。
【0032】
第3重み付け部48は、入力されるモード設定信号に応じて、切替部43から与えられる反力用自動操舵角指令値θrtacに対して第3重み付け処理を行う。具体的には、第3重み付け部48は、モード設定信号S,S,Sのうちのいずれかが入力されたときには、まず、現在の操舵モードおよび入力されたモード設定信号に応じて、第2重みWadを設定する。次に、第3重み付け部48は、反力用自動操舵角指令値θrtacに第2重みWadを乗算する。そして、第3重み付け部48は、乗算値Wad・θrtacを、第3重み付け処理後の反力用自動操舵角指令値θrtac’として反力用統合角度指令値演算部44に与える。
【0033】
反力用統合角度指令値演算部44は、第2重み付け部47から与えられる第2重み付け処理後の手動操舵角指令値θmdac’に、第3重み付け部48から与えられる第3重み付け処理後の反力用自動操舵角指令値θrtac’を加算して、反力用統合角度指令値θrcmdを演算する。第1および第2重み付け部46,47によって設定される第1重みWmdの詳細ならびに第3重み付け部48によって設定される第2重みWadの詳細については、後述する。
【0034】
反力用角度制御部45は、反力用統合角度指令値θrcmdに基づいて、反力モータ13を角度制御する。より具体的には、反力用角度制御部45は、操舵角θrt(第2軸9の回転角)が反力用統合角度指令値θrcmdに近づくように、駆動回路31を駆動制御する。反力用角度制御部45の詳細については、後述する。
[1.2.2]転舵ECU203
転舵ECU203は、マイクロコンピュータ80と、マイクロコンピュータ80によって制御され、転舵モータ19に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)71と、転舵モータ19に流れる電流(以下、「モータ電流Ism」という。)を検出するための電流検出回路72とを備えている。
【0035】
マイクロコンピュータ80は、CPUおよびメモリ(ROM、RAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部は、転舵用統合角度指令値演算部81と、転舵用角度制御部82と、第4重み付け部83とを含む。転舵用角度制御部82は、本発明の「転舵角制御部」の一例である。
【0036】
第4重み付け部83は、入力されるモード設定信号に応じて、上位ECU201から与えられる自動操舵角指令値θadacに対して第4重み付け処理を行う。具体的には、第4重み付け部83は、モード設定信号S,S,Sのうちのいずれかが入力されたときには、まず、現在の操舵モードおよび入力されたモード設定信号に応じて、第2重みWadを設定する。次に、第4重み付け部83は、自動操舵角指令値θadacに第2重みWadを乗算する。そして、第4重み付け部83は、乗算値Wad・θadacを、第4重み付け処理後の自動操舵角指令値θadac’として転舵用統合角度指令値演算部81に与える。
【0037】
転舵用統合角度指令値演算部81は、第4重み付け部83から与えられる第4重み付け処理後の自動操舵角指令値θadac’に、反力ECU202内の第2重み付け部47から与えられる第2重み付け処理後の手動操舵角指令値θmdac’を加算して、転舵用統合角度指令値θscmdを演算する。第4重み付け部83によって設定される第2重みWadの詳細については後述する。
【0038】
転舵用角度制御部82は、転舵用統合角度指令値θscmdに基づいて、転舵モータ19を角度制御する。より具体的には、転舵用角度制御部82は、転舵角θsp(ピニオン軸15の回転角)が転舵用統合角度指令値θscmdに近づくように、駆動回路71を駆動制御する。転舵用角度制御部82の詳細については後述する。
図2に示される構成では、第1および第2重み付け部46,47が、本発明の「第1の重み付け部」または「第3の重み付け部」の一例であり、第3および第4重み付け部48,83が、本発明の「第2の重み付け部」または「第4の重み付け部」の一例である。また、モード設定信号S,S,Sが、本発明の「所定の第1の情報」、「所定の第2の情報」、「所定の第3の情報」または「所定の第4の情報」の一例である。
[1.3]手動操舵角指令値設定部41の構成
図3に示すように、手動操舵角指令値設定部41は、アシストトルク指令値設定部51と、指令値設定部52とを含む。
【0039】
アシストトルク指令値設定部51は、手動操作に必要なアシストトルクの目標値であるアシストトルク指令値Tacを設定する。アシストトルク指令値設定部51は、第1重み付け処理後の操舵トルクT’に基づいて、アシストトルク指令値Tacを設定する。操舵トルクT’に対するアシストトルク指令値Tacの設定例は、図4に示されている。
アシストトルク指令値Tacは、操舵トルクT’の正の値に対しては正をとり、操舵トルクT’の負の値に対しては負をとる。そして、アシストトルク指令値Tacは、操舵トルクT’の絶対値が大きくなるほど、その絶対値が大きくなるように設定される。
【0040】
なお、アシストトルク指令値設定部51は、操舵トルクT’に予め設定された定数を乗算することによって、アシストトルク指令値Tacを演算してもよい。
指令値設定部52は、この実施形態では、リファレンスEPSモデルを用いて、手動操舵角指令値θmdacを設定する。
図5は、指令値設定部52で用いられるリファレンスEPSモデルの一例を示す模式図である。
【0041】
このリファレンスEPSモデルは、ロアコラムを含む単一慣性モデルである。図5において、Jは、ロアコラムの慣性であり、θはロアコラムの回転角であり、Tは、操舵トルクである。ロアコラムには、操舵トルクT、電動モータ(アシストモータ)からのトルクN・Tおよび路面負荷トルクTrlが与えられる。Nはアシストモータとロアコラムとの間の伝達経路に設けられた減速機の減速比であり、Tはアシストモータによって発生されるモータトルクである。路面負荷トルクTrlは、ばね定数kおよび粘性減衰係数cを用いて、次式(1)で表される。
【0042】
rl=-k・θ-c(dθ/dt) …(1)
この実施形態では、ばね定数kおよび粘性減衰係数cとして、予め実験・解析等で求めた所定値が設定されている。
リファレンスEPSモデルの運動方程式は、次式(2)で表される。
・dθ/dt=T+N・T-k・θ-c(dθ/dt) …(2)
指令値設定部52は、Tに第1重み付け処理後の操舵トルクT’を代入し、N・Tにアシストトルク指令値設定部51によって設定されるアシストトルク指令値Tacを代入して、式(2)の微分方程式を解くことにより、ロアコラムの回転角θを演算する。そして、指令値設定部52は、得られたロアコラムの回転角θを手動操舵角指令値θmdacとして設定する。
[1.4]反力用角度制御部45の構成
図6に示すように、反力用角度制御部45は、反力用統合角度指令値θrcmdに基づいて、反力モータ13の駆動回路31を制御する。反力用角度制御部45は、角度偏差演算部61と、PD制御部62と、電流指令値演算部63と、電流偏差演算部64と、PID制御部65と、PWM制御部66と、回転角演算部67と、減速比除算部68とを含む。
【0043】
回転角演算部67は、回転角センサ14の出力信号に基づいて、反力モータ13のロータ回転角θrmを演算する。減速比除算部68は、回転角演算部67によって演算されるロータ回転角θrmを減速機12の減速比Nで除算することにより、ロータ回転角θrmを第2軸9の回転角(実操舵角)θrtに換算する。
角度偏差演算部61は、反力用統合角度指令値θrcmdと実操舵角θrtとの偏差Δθ(=θrcmd-θrt)を演算する。
【0044】
PD制御部62は、角度偏差演算部61によって演算される角度偏差Δθに対してPD演算(比例微分演算)を行うことにより、反力モータ13に対するトルク指令値Trcmdを演算する。
電流指令値演算部63は、PD制御部62によって演算されたトルク指令値Trcmdを反力モータ13のトルク定数Kで除算することにより、電流指令値Ircmdを演算する。
【0045】
電流偏差演算部64は、電流指令値演算部63によって得られた電流指令値Ircmdと電流検出回路32によって検出されたモータ電流Irmとの偏差ΔI(=Ircmd-Irm)を演算する。
PID制御部65は、電流偏差演算部64によって演算された電流偏差ΔIに対するPID演算(比例積分微分演算)を行うことにより、反力モータ13に流れるモータ電流Irmを電流指令値Ircmdに導くための駆動指令値を生成する。PWM制御部66は、前記駆動指令値に対応するデューティ比のPWM制御信号を生成して、駆動回路31に供給する。これにより、駆動指令値に対応した電力が反力モータ13に供給されることになる。
[1.5]転舵用角度制御部82の構成
図7に示すように、転舵用角度制御部82は、転舵用統合角度指令値θscmdに基づいて、転舵モータ19の駆動回路71を制御する。転舵用角度制御部82は、角度偏差演算部91と、PD制御部92と、電流指令値演算部93と、電流偏差演算部94と、PID制御部95と、PWM制御部96と、回転角演算部97と、減速比除算部98とを含む。
【0046】
回転角演算部97は、回転角センサ20の出力信号に基づいて、転舵モータ19のロータ回転角θsmを演算する。減速比除算部98は、回転角演算部97によって演算されるロータ回転角θsmを減速機18の減速比Nで除算することにより、ロータ回転角θsmをピニオン軸15の回転角(実転舵角)θspに換算する。
角度偏差演算部91は、転舵用統合角度指令値θscmdとθspとの偏差Δθ(=θscmd-θsp)を演算する。
【0047】
PD制御部92は、角度偏差演算部91によって演算される角度偏差Δθに対してPD演算(比例微分演算)を行うことにより、転舵モータ19に対するトルク指令値Tscmdを演算する。
電流指令値演算部93は、PD制御部92によって演算されたトルク指令値Tscmdを転舵モータ19のトルク定数Kで除算することにより、電流指令値Iscmdを演算する。
【0048】
電流偏差演算部94は、電流指令値演算部93によって得られた電流指令値Iscmdと電流検出回路72によって検出されたモータ電流Ismとの偏差ΔI(=Iscmd-Ism)を演算する。
PID制御部95は、電流偏差演算部94によって演算された電流偏差ΔIに対するPID演算(比例積分微分演算)を行うことにより、転舵モータ19に流れるモータ電流Ismを電流指令値Iscmdに導くための駆動指令値を生成する。PWM制御部96は、前記駆動指令値に対応するデューティ比のPWM制御信号を生成して、駆動回路71に供給する。これにより、駆動指令値に対応した電力が転舵モータ19に供給されることになる。
[1.6]動作の説明
自動操舵モードは、自動操舵角指令値(転舵用自動操舵角指令値)θadacのみに基づいて転舵モータ19が制御される操舵モードである。手動操舵モードは、手動操舵角指令値θmdacのみに基づいて転舵モータ19が制御される操舵モードである。協調操舵モードは、自動操舵角指令値θadacと手動操舵角指令値θmdacとの両方が加味された転舵用統合角度指令値θscmdに基づいて転舵モータ19が制御される操舵モードである。
[1.6.1]協調操舵モード
図2を参照して、操舵モードが協調操舵モードに設定されている場合には、第1重みWmdおよび第2重みWadが1.0に設定される。したがって、第1重み付け処理後の操舵トルクT’(=・T)は、操舵トルクTに等しくなり、第2重み付け処理後の手動操舵角指令値θmdac’(=Wmd・θmdac)は、操舵トルクTに基づいて算出された手動操舵角指令値θmdacと等しくなる。また、第4重み付け処理後の自動操舵角指令値θadac’(=Wad・θadac)は、上位ECU201によって設定された自動操舵角指令値θadacと等しくなる。
【0049】
ハンズオンオフ判定部42によって運転者がステアリングホイール2を把持していると判定されている場合には、第3重み付け処理後の反力用自動操舵角指令値θrtac’(=Wad・θrtac)は、自動操舵角指令値θadacと等しくなる。したがって、この場合には、上位ECU201によって設定された自動操舵角指令値θadacに手動操舵角指令値θmdacが加算されて反力用統合角度指令値θrcmdが演算され、この反力用統合角度指令値θrcmdに基づいて反力モータ13が制御される。また、自動操舵角指令値θadacに手動操舵角指令値θmdacが加算されて転舵用統合角度指令値θscmdが演算され、この転舵用統合角度指令値θscmdに基づいて転舵モータ19が制御される。
【0050】
これにより、自動操舵制御中においても、転舵モータ19および反力モータ13に対して、運転者の意図を即座に反映させることができるため、手動操舵制御と自動操舵制御との間で切り替えを行うことなく、自動操舵制御主体での操舵制御(転舵制御および反力制御(ハンドル角制御))を行いながら、手動操舵が可能な協調制御を実現できる。また、手動操舵制御と自動操舵制御との間での移行をシームレスに行うことができるので、手動操作を行う際に運転者に違和感を与えない。
【0051】
一方、ハンズオンオフ判定部42によって運転者がステアリングホイール2を把持していないと判定されている場合には、第3重み付け部48には、反力用自動操舵角指令値θ rtac として、零が与えられる。したがって、この場合には、転舵モータ19は、自動操舵角指令値θadacに手動操舵角指令値θmdacが加算された転舵用統合角度指令値θscmdに基づいて制御されるが、反力モータ13は、手動操舵角指令値θmdacのみからなる反力用統合角度指令値θrcmdに基づいて制御される。この場合、手動操舵角指令値θ mdac は、ほぼ零であるので、自動操舵中においてステアリングホイール2が中立位置で固定される。これにより、運転者がステアリングホイール2を把持していない状態において、自動操舵によってステアリングホイール2が回転して、運転者がステアリングホイール2に巻き込まれるといった事態を回避することができる。
[1.6.2]自動操舵モード
操舵モードが自動操舵モードに設定されている場合には、第1重みWmdが零に設定され、第2重みWadが1.0に設定される。したがって、第1重み付け処理後の操舵トルクT’(=Wmd・T)および第2重み付け処理後の手動操舵角指令値θmdac’は、零になる。これにより、自動操舵角指令値θadacのみによって転舵モータ19が制御され、反力用自動操舵角指令値θrtacによって反力モータ13が制御される。
[1.6.3]手動操舵モード
操舵モードが手動操舵モードに設定されている場合には、第1重みWmdが1.0に設定され、第2重みWadが零に設定される。したがって、第3重み付け処理後の反力用自動操舵角指令値θrtac’(=Wad・θrtac)および第4重み付け処理後の自動操舵角指令値θadac’(=Wad・θadac)は零になる。これにより、手動操舵角指令値θmdacのみによって転舵モータ19が制御され、手動操舵角指令値θ mdac によって反力モータ13が制御される。
【0052】
つまり、この反力ECU202および転舵ECU203では、運転者によるモードスイッチ121,122,123の操作によって、協調操舵モードと自動操舵モードと手動操舵モードとの間で操舵モードの切り替えを行うことが可能となる。
[1.6.4]重みWmd,adの設定例
操舵モードの切り替えに伴う第1重みWmdおよび第2重みWadの設定例が、図8Aおよび図8Bにそれぞれ示されている。図8Aでは、各モード設定信号S,S,Sの入力時(時点t1)から所定時間Tが経過する時点t2までに、第1重みWmdが零から1.0まで漸増する状態が折れ線L1で示され、1.0から零まで漸減する状態が折れ線L2で示されている。
【0053】
また図8Bでは、時点t1から時点t2までに、第2重みWadが零から1.0まで漸増する状態が折れ線L3で示され、1.0から零まで漸減する状態が折れ線L4で示されている。これにより、第1重み付け処理後の操舵トルクT’(=Wmd・T)および第2重み付け処理後の手動操舵角指令値θmdac’(=Wmd・θmdac)の絶対値と、第3重み付け処理後の反力用自動操舵角指令値θrtac’(=Wad・θrtac)および第4重み付け処理後の自動操舵角指令値θadac’(=Wad・θadac)の絶対値とが、それぞれ漸増または漸減されることになるため、操舵モード間の切り替えが滑らかに行われる。
【0054】
第1重みWmdおよび第2重みWadを零と1.0との間で切り替えるのに要する時間Tは、予め実験・解析等で求められた所定値が設定されている。また、第1重みWmdおよび第2重みWadとで、零と1.0との間で切り替えるのに要する時間Tが異なるように設定してもよい。また、第1重みWmdおよび第2重みWadは、線形ではなく、非線形に漸増・漸減するように設定されてもよい。
【0055】
この第1実施形態においては、操舵モードの変更を伴わないモードスイッチ121,122,123の操作が行われても、その操作は無効とされるものとする。また、この第1実施形態においては、各モードスイッチ121,122,123が操作されてから所定時間Tが経過するまでに、いずれかのモードスイッチ121,122,123が操作されたとしても、その操作は無効とされるものとする。
[1.7]第1実施形態の変形例
運転者がステアリングホイール2を把持したか解放したかに応じて、自動操舵モード設定信号Sまたは手動操舵モード設定信号Sを発生させるようにしてもよい。具体的には、ハンズオンオフ判定部42は、運転者がステアリングホイール2を把持していない状態(解放状態)から把持した状態(把持状態)に変化したときには、手動操舵モード設定信号Sを出力する。一方、ハンズオンオフ判定部42は、把持状態から解放状態に変化したときには、自動操舵モード設定信号Sを出力する。
【0056】
なお、この場合には、自動操舵モードと手動操舵モードとの切り替えが、ハンズオンオフ判定部42に基づき行われる動作モードと、第2、第3モードスイッチ122,123に基づき行われる動作モードとを運転者が切り替えられるようにすることが好ましい。
第1実施形態では、第1~第4重み付け部46,47,48,83が設けられている。しかし、第1重み付け部46、第3および第4重み付け部48,83が設けられ、第2重み付け部47が省略された第1態様を採用してもよい。または、第2重み付け部47、第3重み付け部48および第4重み付け部83が設けられ、第1重み付け部46が省略された第2態様を採用してもよい。第1態様では、第1重み付け部46が本発明における「第1の重み付け部」または「第3の重み付け部」の一例となり、第2態様では第2重み付け部47が本発明における「第1の重み付け部」または「第3の重み付け部」の一例となる。
【0057】
また、第1重み付け部46のみが設けられ第2~第4重み付け部47,48,83が省略された第3態様、第2重み付け部47のみが設けられ第1、第3、第4重み付け部46,48,83が省略された第4態様または第1および第2重み付け部46,47が設けられ第3、第4重み付け部48,83が省略された第5態様を採用してもよい。この場合には、操舵モードが自動操舵モードに設定されている場合に、第1重みWmdを零に設定することにより、自動操舵角指令値θadacのみによって転舵モータ19を制御することが可能となる。
【0058】
第3態様では、第1重み付け部46が本発明における「第1の重み付け部」または「第3の重み付け部」の一例となり、第4態様では、第2重み付け部47が本発明における「第1の重み付け部」または「第3の重み付け部」の一例となる。第5態様では、第1重み付け部46および第2重み付け部47が、本発明における「第1の重み付け部」または「第3の重み付け部」の一例となる。
【0059】
また、第3および第4重み付け部48,83が設けられ、第1および第2重み付け部46,47が省略された第6態様を採用してもよい。この場合には、操舵モードが手動操舵モードに設定されている場合に、第2重みWadを零に設定することにより、手動動操舵角指令値θmdacのみによって転舵モータ19を制御することが可能となる。
[2]第2実施形態
[2.1]第2実施形態に係る操舵装置1Aの概略構成
図9は、第2実施形態に係る操舵装置1Aの概略構成を示す模式図である。図9において、前述の図1に対応する各部には図1と同じ符号を付して示す。
【0060】
第2実施形態に係る操舵装置1Aは、第1実施形態に係る操舵装置1に比べて、次の5つの点が異なっている。第1は、運転者を撮影するための車内カメラ29が上位ECU201Aに接続されている点である。第2は、自動操舵角指令値θadacおよびモード設定信号S,S,Sの他、覚醒度αおよび手動操舵要求TOR(Take-Over Request)が、上位ECU201Aから転舵ECU203Aに与えられる点である。
【0061】
第3は、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTが、反力ECU202Aと転舵ECU203Aに与えられる点である。第4は、上位ECU201Aから反力ECU202Aに、自動操舵角指令値θadacが与えられるが、モード設定信号S,S,Sが与えられない点である。第5は、転舵ECU203Aから上位ECU201Aに、自動停止要求Sstopが与えられる可能性がある点である。
【0062】
上位ECU201Aは、車内カメラ29によって撮影された運転者の画像に基づいて、運転者の覚醒度αを判定する。本実施形態において、覚醒度αは0以上1以下の値をとる。運転者が眠っている場合、覚醒度αは0となり、完全に目を覚ましている場合、覚醒度αは1となる。なお、上位ECU201Aは、他の方法によって運転者の覚醒度αを判定してもよい。
【0063】
また、上位ECU201Aは、自動操舵モードによる制御中に手動操舵モードに切り替えるべき状況が検出されたときに、当該状況に到達する第1所定時間前または第1所定距離前に、運転者に対して手動操舵要求TORを音声または画面表示等で発生する。自動操舵モードによる制御中に手動操舵モードに切り替えるべき状況とは、例えば、自動運転可能区間から自動運転不可区間に車両が移動するような状況をいう。
【0064】
後述するように、車両を所定の停止位置へ移動させて停止させる自動操舵角指令値を上位ECU201Aに生成させるための自動停止要求Sstopが、転舵ECU203Aから上位ECU201Aに与えられる場合がある。
[2.2]反力ECU202Aおよび転舵ECU203Aの電気的構成
図10は、反力ECU202Aおよび転舵ECU203Aの電気的構成を示すブロック図である。図10において、前述の図2に対応する各部には図2と同じ符号を付して示す。
[2.2.1]反力ECU202A
図10を参照して、第2実施形態における反力ECU202Aは、第1実施形態における反力ECU202に比べて、マイクロコンピュータ40が有する複数の機能処理部の構成が異なっている。複数の機能処理部は、手動操舵角指令値設定部41と、ハンズオンオフ判定部42と、切替部43と、反力用統合角度指令値演算部44と、反力用角度制御部45と、第1重み乗算部101と、第2重み乗算部102と、第3重み乗算部103とを含む。反力用角度制御部45は、本発明の「反力制御部」の一例である。
【0065】
第1重み乗算部101は、転舵ECU203Aに設けられている重み設定部110によって設定される第1重みWmdを、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTthに乗算する。そして、第1重み乗算部101は、乗算値Wmd・Tを、第1重み乗算後の操舵トルクT’として手動操舵角指令値設定部41に与える。第1重みWmdは、0以上1以下の値をとる。
【0066】
手動操舵角指令値設定部41は、運転者がステアリングホイール2を操作した場合に、当該ステアリングホイール操作に応じた操舵角(より正確には第2軸9の回転角)を手動操舵角指令値θmdacとして設定するために設けられている。手動操舵角指令値設定部41は、第1重み乗算後の操舵トルクTth’を用いて手動操舵角指令値θmdacを設定する。手動操舵角指令値設定部41の構成は、第1実施形態における手動操舵角指令値設定部41の構成(図3参照)と同様であるので、その説明を省略する。手動操舵角指令値設定部41によって設定された手動操舵角指令値θmdacは、第2重み乗算部102に与えられる。
【0067】
第2重み乗算部102は、重み設定部110によって設定される第1重みWmdを、手動操舵角指令値θmdacに乗算する。そして、第2重み乗算部102は、乗算値Wmd・θmdacを、第1重み乗算後の手動操舵角指令値θmdac’として反力用統合角度指令値演算部44に与える。
切替部43は、ハンズオンオフ判定部42によって運転者がステアリングホイール2を把持していると判定されているときには、上位ECU201Aによって設定される自動操舵角指令値θadacを、反力用自動操舵角指令値θrtacとして第3重み乗算部103に与える。一方、ハンズオンオフ判定部42によって運転者がステアリングホイール2を把持していないと判定されているときには、切替部43は、零を反力用自動操舵角指令値θrtacとして第3重み乗算部103に与える。
【0068】
第3重み乗算部103は、重み設定部110によって設定される第2重みWadを、反力用自動操舵角指令値θrtacに乗算する。そして、第3重み乗算部103は、乗算値Wad・θrtacを、第2重み乗算後の反力用自動操舵角指令値θrtac’として反力用統合角度指令値演算部44に与える。第2重みWadは、0以上1以下の値をとる。
反力用統合角度指令値演算部44は、第2重み乗算部102から与えられる第1重み乗算後の手動操舵角指令値θmdac’(=Wmd・θmdac)に、第3重み乗算部103から与えられる第2重み乗算後の反力用自動操舵角指令値θrtac’(=Wad・θrtac)を加算して、反力用統合角度指令値θrcmdを演算する。
【0069】
反力用角度制御部45は、反力用統合角度指令値θrcmdに基づいて、反力モータ13を角度制御する。反力用角度制御部45の構成は、第1実施形態における反力用角度制御部45の構成(図6参照)と同様であるので、その説明を省略する。
[2.2.2]転舵ECU203A
図10を参照して、第2実施形態における転舵ECU203Aは、第1実施形態における転舵ECU203に比べて、マイクロコンピュータ80が有する複数の機能処理部の構成が異なっている。複数の機能処理部は、転舵用統合角度指令値演算部81と、転舵用角度制御部82と、第4重み乗算部104と、重み設定部110とを含む。転舵用角度制御部82は、本発明の「転舵角制御部」の一例である。
【0070】
第4重み乗算部104は、重み設定部110によって設定される第2重みWadを、自動操舵角指令値θadacに乗算する。そして、第4重み乗算部104は、乗算値Wad・θadacを、第2重み乗算後の自動操舵角指令値θadac’として転舵用統合角度指令値演算部81に与える。
転舵用統合角度指令値演算部81は、第4重み乗算部104から与えられる第2重み乗算後の自動操舵角指令値θadac’(=Wad・θadac)に、反力ECU202内の第2重み乗算部102から与えられる第1重み乗算後の手動操舵角指令値θmdac’(=Wmd・θmdac)を加算して、転舵用統合角度指令値θscmdを演算する。
【0071】
転舵用角度制御部82は、転舵用統合角度指令値θscmdに基づいて、転舵モータ19を角度制御する。転舵用角度制御部82の構成は、第1実施形態における転舵用角度制御部82の構成(図7参照)と同様であるので、その説明を省略する。
この実施形態では、第1重み乗算部101、第2重み乗算部102および重み設定部110が、本発明の「第1の重み付け部」または「第3の重み付け部」の一例であり、第3重み乗算部103、第4重み乗算部104および重み設定部110が、本発明の「第2の重み付け部」または「第4の重み付け部」の一例である。
[2.2.3]重み設定部110
重み設定部110は、上位ECU201Aから与えられるモード設定信号S,S,S、手動操舵要求TORおよび運転者の覚醒度αならびにトルクセンサ11によって検出される操舵トルクTに基づいて、第1重みWmdおよび第2重みWadを設定する。図10に示される構成では、モード設定信号S,S,S、手動操舵要求TOR、運転者の覚醒度αおよび操舵トルクTが、本発明の「所定の第1の情報」、「所定の第2の情報」、「所定の第3の情報」または「所定の第4の情報」の一例である。
【0072】
自動操舵モードは、第1重みWmdが0であり、かつ第2重みWadが0よりも大きいときの操舵モードであり、自動操舵角指令値θadacのみに基づいて転舵モータ19が制御される操舵モードである。手動操舵モードは、第1重みWmdが0よりも大きく、かつ第2重みWadが0であるときの操舵モードであり、手動操舵角指令値θmdacのみに基づいて転舵モータ19が制御される操舵モードである。協調操舵モードは、第1重みWmdが0よりも大きく、かつ第2重みWadが0よりも大きいときの操舵モードであり、自動操舵角指令値θadacと手動操舵角指令値θmdacとの両方が加味された転舵用統合角度指令値(協調操舵指令値)θscmdに基づいて転舵モータ19が制御される操舵モードである。
【0073】
重み設定部110は、第1設定部111と第2設定部112とを含む。第1設定部111は、上位ECU201Aから与えられるモード設定信号S,S,Sに基づいて、第1重みWmdおよび第2重みWadを設定する。第1設定部111は、本発明の「切替部」の一例である。第2設定部112は、上位ECU201Aから与えられる手動操舵要求TORおよび運転者の覚醒度αならびにトルクセンサ11によって検出される操舵トルクTに基づいて、第1重みWmdおよび第2重みWadを設定する。
[2.2.3.1]第1設定部111
協調操舵モード設定信号Sが入力されたときには、第1設定部111は、第1重みWmdおよび第2重みWadをそれぞれ1に設定する。自動操舵モード設定信号Sが入力されたときには、第1設定部111は、第1重みWmdを0に設定し、第2重みWadを1に設定する。手動操舵モード設定信号Sが入力されたときには、第1設定部111は、第1重みWmdを1に設定し、第2重みWadを0に設定する。
【0074】
なお、第1設定部111は、第1重みWmdを0から1に変更する場合に第1重みWmdを漸増させ、第1重みWmdを1から0に変更する場合に第1重みWmdを漸減させてもよい。同様に、第1設定部111は、第2重みWadを0から1に変更する場合に第2重みWadを漸増させ、第2重みWadを1から0に変更する場合、第2重みWadを漸減させてもよい。
[2.2.3.2]第2設定部112
図11を参照して、第2設定部112の動作の概要について説明する。以下では、手動操舵要求TORを、単にTORということにする。
【0075】
図11において、領域Eは自動運転可能領域の一部を示し、領域Eは自動運転不可領域の一部を示している。自動運転可能領域Eを自動操舵モードで図11の右方向に車両200が走行している場合、領域Eと領域Eとの境界地点Bが、「自動操舵モードによる制御中に手動操舵に切り替えるべき状況」が発生する地点(以下、「手動操舵移行予定地点B」という。)となる。
【0076】
CCDカメラ25、GPS26およびレーダー27によって得られる情報および地図情報を元に車両200が手動操舵移行予定地点Bに近づいていることが検出されると、上位ECU201Aは、車両200が手動操舵移行予定地点Bに到達する第1所定時間T前または第1所定距離L前に、TORを発生する。この例では、車両200が図11の地点Aに到達したときに、上位ECU201Aは、TORを発生する。
【0077】
第2設定部112は、TORを受信すると、原則的には、第1重みWmdを1に設定する。これにより、操舵モードが自動操舵モードから協調操舵モードに切り替えられる。そして、車両200が手動操舵移行予定地点Bに到達する第2所定時間T前または第2所定距離L2前までに運転者による操舵が検出され、その後に車両200が手動操舵移行予定地点Bに到達したときには、第2設定部112は、第2重みWadを0に設定する。これにより、操舵モードが協調操舵モードから手動操舵モードに切り替えられる。この場合、車両200は、例えば、図11に実線Rで示すような経路に沿って走行する。
【0078】
なお、手動操舵移行予定地点Bに到達する第2所定時間T前または第2所定距離L前の地点を図11にC(C地点)で示す。以下において、車両200がA地点に到達してからからC地点に到達するまでに要する時間を第3所定時間Tといい、A地点からC地点までの距離を第3所定距離Lという場合がある。
一方、車両200が手動操舵移行予定地点Bに到達する第2所定時間T前または第2所定距離L前までに運転者による操舵が検出されなかった場合には、第2設定部112は、自動停止要求Sstopを上位ECU201Aに送信する。上位ECU201Aは、自動停止要求Sstopを受信すると、車両200を路肩等に移動させて停車させるような経路を演算し、その経路に沿って車両200を自動操舵するための自動操舵角指令値θadacを生成する。この場合には、車両200は、例えば、図11に破線Rで示すような経路に沿って走行して停止する。
【0079】
この実施形態では、第2設定部112は、TORを受信すると、上位ECU201Aから送信されてくる運転者の覚醒度αを監視し、TORを受信してから運転者の覚醒度αが所定の第1閾値αth1以上になるまでは、第1重みWmdを0に維持する。そして、車両200が手動操舵移行予定地点Bに到達する第2所定時間T前または第2所定距離L前までに、運転者の覚醒度αが第1閾値αth1以上になったときには、第2設定部112は、第1重みWmdを1に設定する。これにより、操舵モードが自動操舵モードから協調操舵モードに切り替えられる。
【0080】
一方、車両200が手動操舵移行予定地点Bに到達する第2所定時間T前または第2所定距離L前までに、運転者の覚醒度αが第1閾値αth1以上にならなかったときには、第2設定部112は、自動停止要求Sstopを上位ECU201Aに送信する。この場合には、前述したように、車両200は路肩等に移動して停車するように自動操舵される。
【0081】
図12は、第2設定部112による重み設定処理の手順の一例を説明するためのフローチャートである。
上位ECU201AからのTORを受信すると(ステップS1:YES)、第2設定部112は、上位ECU201Aから送信される運転者の覚醒度αが所定の第1閾値αth1以上であるか否かを判別する(ステップS2)。
【0082】
運転者の覚醒度αが第1閾値αth1以上である場合には(ステップS2:YES)、第2設定部112は、運転者が正常に運転を行える状態であると判別して、第1重みWmdを1に設定する(ステップS3)。これにより、操舵モードが自動操舵モードから協調操舵モードに切り替えられる。この実施形態では、第1閾値αth1が本発明の「所定の閾値」に相当する。
【0083】
次に、第2設定部112は、運転者がハンドルを操作したか否かを判別する(ステップS4)。運転者がハンドルを操作したか否かは、この実施形態では、例えば、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTの時間的変化量に基づいて行われる。運転者がハンドルを操作したか否かは、他の方法によって行われてもよい。
運転者がハンドルを操作したと判別された場合には(ステップS4:YES)、第2設定部112は、ステップS1でTORを受信してから第1所定時間Tが経過したか否かを判別する(ステップS5)。
【0084】
TORを受信してから第1所定時間Tが経過していない場合には(ステップS5:NO)、第2設定部112は、ステップS2に戻る。
ステップS5において、TORを受信してから第1所定時間Tが経過したと判別された場合には(ステップS5:YES)、第2設定部112は、第2重みWadを零に設定する(ステップS6)。そして、第2設定部112は、今回の重み設定処理を終了する。これにより、操舵モードが協調操舵モードから手動操舵モードに切り替えられる。
【0085】
ステップS4において、運転者がハンドルを操作していないと判別された場合には(ステップS4:NO)、第2設定部112は、ステップS1でTORを受信してから第3所定時間Tが経過したか否かを判別する(ステップS7)。言い換えれば、第2設定部112は、手動操舵移行予定地点Bに到達する第2所定時間T前に達したか否かを判別する。
【0086】
TORを受信してから第3所定時間Tが経過していなければ(ステップS7:NO)、第2設定部112は、ステップS4に戻る。
ステップS7において、TORを受信してから第3所定時間Tが経過したと判別された場合には(ステップS7:YES)、第2設定部112は、自動停止要求Sstopを上位ECU201Aに送信した後(ステップS8)、今回の重み設定処理を終了する。この場合には、前述したように、車両200は路肩等に移動して停車するように自動操舵される。
【0087】
ステップS2において、運転者の覚醒度αが第1閾値αth1未満であると判別された場合には(ステップS2:NO)、第2設定部112は、運転者が正常に運転を行える状態ではないと判別して、第1重みWmdを零に設定する(ステップS9)。次に、第2設定部112は、ステップS1でTORを受信してから第3所定時間Tが経過したか否かを判別する(ステップS10)。
【0088】
TORを受信してから第3所定時間Tが経過していなければ(ステップS10:NO)、第2設定部112は、ステップS2に戻る。
ステップS10において、TORを受信してから第3所定時間Tが経過したと判別された場合には(ステップS10:YES)、第2設定部112は、自動停止要求Sstopを上位ECU201Aに通知した後(ステップS8)、今回の重み設定処理を終了する。これにより、前述したように、車両は、自動操舵によって、路肩等に誘導されて停止される。
【0089】
図12の重み設定処理では、第2設定部112がTORを受信した後、第3所定時間Tが経過するまでに、運転者の覚醒度αが第1閾値αth1以上という条件が満たされたときに、操舵モードが自動操舵モードから協調操舵モードに切り替えられる。これにより、自動操舵を行いながらの手動操舵が可能となる。これにより、手動操舵移行予定地点Bで操舵モードが手動操舵モードに切り替えられる前に、運転者は手動運転の準備を整えることができる。
【0090】
一方、TORを受信した後、運転者の覚醒度αが第1閾値αth1以上になるまでは、自動操舵のみが可能となるので、運転者が正常に運転を行える状態ではないときに、手動操舵が行われるのを禁止することができる。そして、運転者が正常に運転を行える状態にならないまま、第3所定時間Tが経過したときには、自動操舵によって車両を安全な位置に誘導して停車させることができる。
【0091】
また、TORを受信してから第3所定時間Tが経過するまでに運転者の覚醒度αが第1閾値αth1以上となったとしても、TORを受信してから第3所定時間Tが経過するまでに運転者による操舵が検出されなかったときにも、自動操舵によって車両を安全な位置に誘導して停車させることができる。
なお、図12のステップS2、ステップS9およびS10の処理を省略してもよい。この場合には、図12のステップS1でTORが受信されると、第2設定部112はステップS3に移行する。この場合には、TORが受信されると、無条件に、操舵モードが協調操舵モードに設定される。
【0092】
図13は、第2設定部112による重み設定処理の変形例を説明するためのフローチャートである。
上位ECU201AからのTORを受信すると(ステップS21:YES)、第2設定部112は、上位ECU201Aから送信される運転者の覚醒度αに基づいて、第1重みWmdを設定する(ステップS22)。
【0093】
第2設定部112は、覚醒度αが大きいほど、第1重みWmdを大きな値に設定する。例えば、第2設定部112は、覚醒度αを第1重みWmdとして設定してもよいし、所定の関係式Wmd=F(α)に基づいて、第1重みWmdを設定してもよい。ステップS22で設定された第1重みWmdが0よりも大きければ、操舵モードが協調操舵モードとなる。第1重みWmdが0よりも大きくなる覚醒度αの最低値を第2閾値αth2とすると、この変形例では、第2閾値αth2が本発明の「所定の閾値」に相当する。
【0094】
なお、ステップS22で設定される第1重みWmdの最小値を、0よりも大きく、かつ1よりも小さな所定値に設定してもよい。その場合には、TORが受信されると、無条件に、操舵モードが協調操舵モードに設定される。
次に、第2設定部112は、運転者がハンドルを操作したか否かを判別する(ステップS23)。運転者がハンドルを操作したか否かは、この実施形態では、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTの時間的変化量に基づいて行われる。
【0095】
運転者がハンドルを操作したと判別された場合には(ステップS23:YES)、第2設定部112は、ステップS21でTORを受信してから第1所定時間Tが経過したか否かを判別する(ステップS24)。
TORを受信してから第1所定時間Tが経過していない場合には(ステップS24:NO)、第2設定部112は、ステップS22に戻る。これにより、第1重みWmdが運転者の覚醒度αに基づいて再設定された後、ステップS23以降の処理が再度実行される。
【0096】
ステップS24において、TORを受信してから第1所定時間Tが経過したと判別された場合には(ステップS24:YES)、第2設定部112は、第2重みWadを零に設定する(ステップS25)。そして、第2設定部112は、今回の重み設定処理を終了する。これにより、操舵モードが協調操舵モードから手動操舵モードに切り替えられる。
ステップS23において、運転者がハンドルを操作していないと判別された場合には(ステップS23:NO)、第2設定部112は、ステップS21でTORを受信してから第3所定時間Tが経過したか否かを判別する(ステップS26)。言い換えれば、第2設定部112は、手動操舵移行予定地点Bに到達する第2所定時間T前に達したか否かを判別する。
【0097】
TORを受信してから第3所定時間Tが経過していなければ(ステップS26:NO)、第2設定部112は、ステップS22に戻る。これにより、第1重みWmdが運転者の覚醒度αに基づいて再設定された後、ステップS23以降の処理が再度実行される。
ステップS26において、TORを受信してから第3所定時間Tが経過したと判別された場合には(ステップS26:YES)、第2設定部112は、自動停止要求Sstopを上位ECU201Aに送信した後(ステップS27)、今回の重み設定処理を終了する。この場合には、前述したように、車両200は路肩等に移動して停車するように自動操舵される。
【0098】
図13の重み設定処理では、第2設定部112がTORを受信した場合には、上位ECU201から送信される運転者の覚醒度αに基づいて第1重みWmdが設定される。そして、第1重みWmdが0よりも大きくなると(覚醒度αが第2閾値αth2以上になると)、操舵モードが協調操舵モードに設定される。これにより、自動操舵を行いながらの手動操舵が可能となる。これにより、前述の実施形態と同様に、手動操舵移行予定地点Bで操舵モードが手動操舵モードに切り替えられる前に、運転者は手動運転の準備をすることができる。
【0099】
また、この変形例では、運転者の覚醒度αが比較的低い場合には、第1重みWmdは比較的小さい値に設定されるので、転舵用統合角度指令値(協調操舵指令値)θscmdへの手動操舵の影響を小さくすることができる。一方、運転者の覚醒度αが比較的高い場合には、第1重みWmdは比較的大きい値に設定されるので、転舵用統合角度指令値(協調操舵指令値)θscmdへの手動操舵の影響を大きくすることができる。したがって、この変形例では、運転者の覚醒度αに適した協調操舵を行うことができる。
【0100】
また、この変形例においても、TORを受信してから第3所定時間Tが経過するまでに運転者による操舵が検出されなかった場合には、自動操舵によって車両を安全な位置に誘導して停車させることができる。
[2.3]第2実施形態のその他の変形例
図12のステップS5および図13のステップS24では、第2設定部112は、TORを受信してから第1所定時間Tが経過したか否かを判別しているが、車両が手動操舵移行予定地点B(図11参照)に到達したか否かを判別してもよい。
【0101】
また、図12のステップS7およびS10ならびに図13のステップS26において、第2設定部112は、TORを受信してから第3所定時間Tが経過したか否か、つまり、手動操舵移行予定地点Bに到達する第2所定時間T前に達したか否かを判別している。しかし、第2設定部112は、TORを受信したときの車両位置A(図11参照)から第3所定距離Lだけ先のC地点(手動操舵移行予定地点Bから第2所定距離Lだけ手前の地点)に車両が到達したか否かを判別するようにしてもよい。
【0102】
第2実施形態では、第1~第4重み乗算部101,102,103,104が設けられている。しかし、第1重み乗算部101、第3重み乗算部103および第4重み乗算部104が設けられ、第2重み乗算部102が省略された態様を採用してもよい。または第2重み乗算部102、第3重み乗算部103および第4重み乗算部104が設けられ、第1重み乗算部101が省略された態様を採用してもよい。
【0103】
前者の態様では、第1重み乗算部101および重み設定部110が、本発明の「第1の重み付け部」または「第3の重み付け部」の一例となり、後者の態様では、第2重み乗算部102よび重み設定部110が、本発明の「第1の重み付け部」または「第3の重み付け部」の一例となる。
前述の第2実施形態では、重み設定部110は、転舵ECU203A側に設けられているが、反力ECU202A側に設けるようにしてもよい。
[2.4]その他
以上、この発明の第1および第2実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。
【0104】
第1および第2実施形態では、反力ECU202,202Aおよび転舵ECU203,203Aには、上位ECU201,201Aから同じ自動操舵角指令値θadacが与えられている。しかし、上位ECU201,201Aは、反力モータ13用の自動操舵角指令値と、転舵モータ19用の自動操舵角指令値とを個別に設定し、対応する反力ECU202,202Aおよび転舵ECU203,203Aに与えるようにしてもよい。
【0105】
なお、この発明は、例えば、前輪および後輪がそれぞれ独立転舵される4輪操舵システムが採用されたステア・バイ・ワイヤシステムにも適用することができる。この場合には、前輪および後輪のそれぞれに転舵ECUが設けられる。また、4つの車輪がそれぞれ独立転舵される4輪独立転舵システムが採用されたステア・バイ・ワイヤシステムにも適用することができる。この場合には、車輪ごとに転舵ECUが設けられる。
【0106】
この発明は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0107】
1,1A…操舵装置、2…ステアリングホイール、3…転舵輪、4…転舵機構、5…ステアリングシャフト、7…第1軸、8…トーションバー、9…第2軸、11…トルクセンサ、13…反力モータ、14…回転角センサ、19…転舵モータ、20…回転角センサ、41…手動操舵角指令値設定部、42…ハンズオンオフ判定部、43…切替部、44…反力用統合角度指令値演算部、45…反力用角度制御部、46,47,48,83…第1~第4重み付け部、81…転舵用統合角度指令値演算部、82…転舵用角度制御部、101~104…第1~第4重み乗算部、110…重み設定部、111…第1設定部、112…第2設定部、201,201A…上位ECU、202,202A…反力ECU、203,203A…転舵ECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13