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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】電力変換装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 5/293 20060101AFI20240516BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H02M5/293 B
H02M7/12 R
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020093006
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021191070
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 国立大学法人千葉大学 融合理工学府修士論文審査発表会 令和2年2月4日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】597144439
【氏名又は名称】Mywayプラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004277
【氏名又は名称】弁理士法人そらおと
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】住谷 和馬
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 之彦
(72)【発明者】
【氏名】徐 進
(72)【発明者】
【氏名】下里 昇
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-046450(JP,A)
【文献】特開2016-046957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 5/293
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに磁気結合する第1及び第2のコイルを有するトランスと、
一端が三相交流電源の第1相に接続され、他端が前記第1のコイルの一端を構成する第1のノードに接続された第1の双方向スイッチ、一端が前記三相交流電源の第2相に接続され、他端が前記第1のノードに接続された第2の双方向スイッチ、一端が前記三相交流電源の第3相に接続され、他端が前記第1のノードに接続された第3の双方向スイッチ、一端が前記第1相に接続され、他端が前記第1のコイルの他端を構成する第2のノードに接続された第4の双方向スイッチ、一端が前記第2相に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第5の双方向スイッチ、及び、一端が前記第3相に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第6の双方向スイッチを有するマトリックスコンバータと、
一端が直流電源の一端を構成する第5のノードに接続され、他端が前記第2のコイルの一端を構成する第3のノードに接続された第1の片方向スイッチ素子、一端が前記直流電源の他端を構成する第6のノードに接続され、他端が前記第3のノードに接続された第2の片方向スイッチ素子、一端が前記第5のノードに接続され、他端が前記第2のコイルの他端を構成する第4のノードに接続された第3の片方向スイッチ素子、及び、一端が前記第6のノードに接続され、他端が前記第4のノードに接続された第4の片方向スイッチ素子を有するAC/DCコンバータと、
前記第1のノードと前記第1のコイルとの間に挿入されたリアクトルとを有する電力変換装置の制御装置であって、
前記第1乃至第6の双方向スイッチはそれぞれ、前記三相交流電源側から順に直列に接続された第1及び第2の半導体素子と、前記第1及び第2の半導体素子により構成される直列回路と並列に接続されたスナバキャパシタと、前記第1及び第2の半導体素子の接続点にアノードが接続される向きで前記第1の半導体素子と並列に接続された第1のダイオードと、前記第1及び第2の半導体素子の接続点にアノードが接続される向きで前記第2の半導体素子と並列に接続された第2のダイオードとを有し、
前記第1相が前記第2相より大きく、前記第2相が前記第3相より大きい場合に、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第1のモード、前記第1及び前記第6の双方向スイッチがオンである第2のモード、前記第2及び前記第6の双方向スイッチがオンである第3のモード、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第4のモード、前記第3及び前記第4の双方向スイッチがオンである第5のモード、前記第3及び前記第5の双方向スイッチがオンである第6のモード、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第7のモードの順で繰り返し前記マトリックスコンバータを制御するよう構成され、
前記第1のモードから前記第2のモードへの切り替え、及び、前記第4のモードから前記第5のモードへの切り替えを電圧形転流により実行し、
前記第2のモードから前記第3のモードへの切り替え、前記第3のモードから前記第4のモードへの切り替え、前記第5のモードから前記第6のモードへの切り替え、及び、前記第6のモードから前記第7のモードへの切り替えを電流形転流により実行
前記電圧形転流は、
前記第1乃至第6の双方向スイッチのうち転流先となる転流先双方向スイッチの一端と前記第1乃至第6の双方向スイッチのうち転流元となる転流元双方向スイッチの一端との間に印加される入力相電圧の符号に応じて、前記転流先双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうち、前記転流先双方向スイッチの一端と前記転流元双方向スイッチの一端との間を短絡させない一方をターンオンするステップと、
前記転流元双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうち、ターンオフしても前記リアクトルに流れる出力相電流の経路を該出力相電流の向きによらず確保できる一方をターンオフするステップと、
前記転流先双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうちの他方をターンオンするステップと、
前記転流元双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうちの他方をターンオフするステップと、
により実行され、
前記電流形転流は、
前記出力相電流の向きに応じて、前記転流元双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうち、ターンオフしても前記出力相電流の経路を確保できる一方をターンオフするステップと、
前記出力相電流の向きに応じて、前記転流先双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうち、ターンオンすることにより前記出力相電流の経路を新たに構成することとなる一方をターンオンするステップと、
前記転流元双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうちの他方をターンオフするステップと、
前記転流先双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうちの他方をターンオンするステップと、
により実行される、
制御装置。
【請求項2】
前記第1相が前記第2相より大きく、前記第2相が前記第3相より大きい場合に、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第1のモード、前記第1及び前記第6の双方向スイッチがオンである第2のモード、前記第2及び前記第6の双方向スイッチがオンである第3のモード、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第4のモード、前記第3及び前記第4の双方向スイッチがオンである第5のモード、前記第3及び前記第5の双方向スイッチがオンである第6のモード、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第7のモードの順で繰り返し前記マトリックスコンバータを制御することにより、前記三相交流電源から前記直流電源に電力を供給する動作を前記電力変換装置に行わせる、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
互いに磁気結合する第1及び第2のコイルを有するトランスと、
一端が三相交流電源の第1相に接続され、他端が前記第1のコイルの一端を構成する第1のノードに接続された第1の双方向スイッチ、一端が前記三相交流電源の第2相に接続され、他端が前記第1のノードに接続された第2の双方向スイッチ、一端が前記三相交流電源の第3相に接続され、他端が前記第1のノードに接続された第3の双方向スイッチ、一端が前記第1相に接続され、他端が前記第1のコイルの他端を構成する第2のノードに接続された第4の双方向スイッチ、一端が前記第2相に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第5の双方向スイッチ、及び、一端が前記第3相に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第6の双方向スイッチを有するマトリックスコンバータと、
一端が直流電源の一端を構成する第5のノードに接続され、他端が前記第2のコイルの一端を構成する第3のノードに接続された第1の片方向スイッチ素子、一端が前記直流電源の他端を構成する第6のノードに接続され、他端が前記第3のノードに接続された第2の片方向スイッチ素子、一端が前記第5のノードに接続され、他端が前記第2のコイルの他端を構成する第4のノードに接続された第3の片方向スイッチ素子、及び、一端が前記第6のノードに接続され、他端が前記第4のノードに接続された第4の片方向スイッチ素子を有するAC/DCコンバータと、
前記第1のノードと前記第1のコイルとの間に挿入されたリアクトルとを有する電力変換装置の制御装置であって、
前記第1乃至第6の双方向スイッチはそれぞれ、前記三相交流電源側から順に直列に接続された第1及び第2の半導体素子と、前記第1及び第2の半導体素子により構成される直列回路と並列に接続されたスナバキャパシタと、前記第1及び第2の半導体素子の接続点にアノードが接続される向きで前記第1の半導体素子と並列に接続された第1のダイオードと、前記第1及び第2の半導体素子の接続点にアノードが接続される向きで前記第2の半導体素子と並列に接続された第2のダイオードとを有し、
前記第1相が前記第2相より大きく、前記第2相が前記第3相より大きい場合に、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第1のモード、前記第2及び前記第6の双方向スイッチがオンである第2のモード、前記第1及び前記第6の双方向スイッチがオンである第3のモード、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第4のモード、前記第3及び前記第5の双方向スイッチがオンである第5のモード、前記第3及び前記第4の双方向スイッチがオンである第6のモード、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第7のモードの順で繰り返し前記マトリックスコンバータを制御するよう構成され、
前記第3のモードから前記第4のモードへの切り替え、及び、前記第6のモードから前記第7のモードへの切り替えを電圧形転流により実行し、
前記第1のモードから前記第2のモードへの切り替え、前記第2のモードから前記第3のモードへの切り替え、前記第4のモードから前記第5のモードへの切り替え、及び、前記第5のモードから前記第6のモードへの切り替えを電流形転流により実行
前記電圧形転流は、
前記第1乃至第6の双方向スイッチのうち転流先となる転流先双方向スイッチの一端と前記第1乃至第6の双方向スイッチのうち転流元となる転流元双方向スイッチの一端との間に印加される入力相電圧の符号に応じて、前記転流先双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうち、前記転流先双方向スイッチの一端と前記転流元双方向スイッチの一端との間を短絡させない一方をターンオンするステップと、
前記転流元双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうち、ターンオフしても前記リアクトルに流れる出力相電流の経路を該出力相電流の向きによらず確保できる一方をターンオフするステップと、
前記転流先双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうちの他方をターンオンするステップと、
前記転流元双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうちの他方をターンオフするステップと、
により実行され、
前記電流形転流は、
前記出力相電流の向きに応じて、前記転流元双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうち、ターンオフしても前記出力相電流の経路を確保できる一方をターンオフするステップと、
前記出力相電流の向きに応じて、前記転流先双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうち、ターンオンすることにより前記出力相電流の経路を新たに構成することとなる一方をターンオンするステップと、
前記転流元双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうちの他方をターンオフするステップと、
前記転流先双方向スイッチの第1及び第2の半導体素子のうちの他方をターンオンするステップと、
により実行される、
制御装置。
【請求項4】
前記第1相が前記第2相より大きく、前記第2相が前記第3相より大きい場合に、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第1のモード、前記第2及び前記第6の双方向スイッチがオンである第2のモード、前記第1及び前記第6の双方向スイッチがオンである第3のモード、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第4のモード、前記第3及び前記第5の双方向スイッチがオンである第5のモード、前記第3及び前記第4の双方向スイッチがオンである第6のモード、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第7のモードの順で繰り返し前記マトリックスコンバータを制御することにより、前記直流電源から前記三相交流電源に電力を供給する動作を前記電力変換装置に行わせる、
請求項3に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力変換装置の制御装置に関し、特に、スイッチングによる転流を行う電力変換装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電池用の双方向インターフェースなど、さまざまな分野で絶縁形AC/DCコンバータの用途が拡大している。この種のコンバータでは一般に、高周波絶縁リンクを導入することで、高電力密度が実現される。中でも、特許文献1に記載のMC(マトリックスコンバータ)式DAB(デュアルアクティブブリッジ)型双方向絶縁形AC/DCコンバータは、かさばる電解コンデンサが不要であり、寿命も長いなど多くの利点を有することから、近年注目されている。
【0003】
MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータの変調方式としては、特許文献1に記載のように、MCの出力電圧vMCをパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)によって制御し、かつ、出力電圧vMCがゼロとなる期間を有する変調法を用いることが一般的である。以下、この変調法をZPWM(Zero voltage Pulse Width Modulation)変調法と称する。
【0004】
ZPWM変調法では、MCを構成する各スイッチ素子のスイッチングにより、出力電圧vMCの変更が行われる。このスイッチングの際には、MCの入力である3相交流の相間短絡(以下、「電源短絡」と称する)や、MCの出力であるリアクトル電流iの流路喪失による過電圧の発生(以下、「負荷開放」と称する)を防止するため、1回のスイッチングに関連する4つのスイッチ素子を一度に切り替えるのではなく1つずつ順に切り替えていくという動作(以下、「転流動作」と称する)が行われる。
【0005】
転流動作は、スイッチ素子の切り替え順によって電圧形転流と電流形転流の2種類に大別される。電圧形転流は、リアクトル電流iの流路が常に確保されるように各スイッチ素子の切り替えを行うというもので、原理的に負荷開放を防ぐことができるが、入力相電圧の大小に応じて切り替えのパターン(以下、「ゲートパターン」と称する)を変える必要があり、入力相電圧の大小判定を誤ると電源短絡を招く。一方、電流形転流は、互いに逆向きに接続された2つのダイオードによって3相側電源の一方入力端と他方入力端との間に電流が流れないようにしつつ各スイッチ素子の切り替えを行うというもので、原理的に電源短絡を防ぐことができるが、リアクトル電流iの符号に応じてゲートパターンを変える必要があり、リアクトル電流iの符号判定を誤ると負荷開放を招く。
【0006】
このように、電圧形転流と電流形転流にはそれぞれ一長一短があるが、故障防止の観点で考えると、優先的に防止すべきなのは電源短絡であることから、電源相の大小関係が不安定である場合、通常、MCの転流動作は電流形転流によって実行される。特許文献1の図12及び図13には、電流形転流におけるゲートパターンの具体例が開示されている。
【0007】
非特許文献1には、電圧形転流と電流形転流を組み合わせて使用する技術が開示されている。この技術では、MCに入力される3相交流電圧のうち2相の電圧がほぼ等しく電圧形転流の失敗が発生しやすい期間(the critical area)においては電流形転流による転流動作が行われ、それ以外の期間では電圧形転流による転流動作が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2020-005462号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】宅間 春介、外1名、「電流方向の推定を含む、三相単相マトリックスコンバータのためのハイブリッド転流方法(Hybrid commutation method with current direction estimation for three-phase-to-single-phase matrix converter)」、2018年アメリカ電気電子工学会応用パワーエレクトロニクス会議及び博覧会(2018 IEEE Applied Power Electronics Conference and Exposition (APEC))、p.672-679
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1の技術では、MCの入力電圧に応じ、電流形転流と電圧形転流の間でMCの動作モードを切り替えることになる。このような動作モードの切り替えは、MCの動作を複雑化するとともに、切り替え時におけるMCの動作を不安定にする可能性があるため、好ましいとは言えない。
【0011】
したがって、本発明の目的の一つは、電流形転流と電圧形転流の間でMCの動作モードを切り替えることなく、電源短絡と負荷開放の両方を防止できる電力変換装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による電力変換装置の制御装置は、互いに磁気結合する第1及び第2のコイルを有するトランスと、一端が三相交流の第1相に接続され、他端が前記第1のコイルの一端を構成する第1のノードに接続された第1の双方向スイッチ、一端が前記三相交流の第2相に接続され、他端が前記第1のノードに接続された第2の双方向スイッチ、一端が前記三相交流の第3相に接続され、他端が前記第1のノードに接続された第3の双方向スイッチ、一端が前記第1相に接続され、他端が前記第1のコイルの他端を構成する第2のノードに接続された第4の双方向スイッチ、一端が前記第2相に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第5の双方向スイッチ、及び、一端が前記第3相に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第6の双方向スイッチを有するマトリックスコンバータを有する電力変換装置の制御装置であって、前記第1相が前記第2相より大きく、前記第2相が前記第3相より大きい場合に、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第1のモード、前記第1及び前記第6の双方向スイッチがオンである第2のモード、前記第2及び前記第6の双方向スイッチがオンである第3のモード、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第4のモード、前記第3及び前記第4の双方向スイッチがオンである第5のモード、前記第3及び前記第5の双方向スイッチがオンである第6のモード、前記第3及び前記第6の双方向スイッチがオンである第7のモードの順で繰り返し前記マトリックスコンバータを制御するよう構成され、前記第1のモードから前記第2のモードへの切り替え、及び、前記第4のモードから前記第5のモードへの切り替えを電圧形転流により実行し、前記第2のモードから前記第3のモードへの切り替え、前記第3のモードから前記第4のモードへの切り替え、前記第5のモードから前記第6のモードへの切り替え、及び、前記第6のモードから前記第7のモードへの切り替えを電流形転流により実行する、制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リアクトル電流iの符号が不安定で、電流形転流を使うと負荷開放が発生しやすい第1のモードから第2のモードへの切り替え、及び、第4のモードから第5のモードへの切り替えを電圧形転流により実行し、そのような問題の発生しない他の切り替えを電流形電流により実行するので、電流形転流と電圧形転流の間でMCの動作モードを切り替えることなく、電源短絡と負荷開放の両方を防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態による電力変換装置1及びその制御装置4の構成を示す図である。
図2図1に示した電力変換装置1の高周波等価回路を示す図である。
図3】力行時における電圧e,e,e,vMC,vINV、電流ieu,iev,iew,Idc,i、及び電流Idcの指令値Idc (=P/Vdc)の各波形のシミュレーション結果を示す信号波形図である。
図4図3の一部(0.01秒から0.00014秒分)の拡大図である。
図5】nVdc/e=0.25の場合における電圧vMC,nvINV及びリアクトル電流iの力行時の波形を模式的に示す信号波形図である。
図6】nVdc/e=0.5の場合における電圧vMC,nvINV及びリアクトル電流iの力行時の波形を模式的に示す信号波形図である。
図7】マトリックスコンバータ10の制御の詳細を示す図である。
図8】マトリックスコンバータ10の制御の詳細を示す図である。
図9】マトリックスコンバータ10の制御の詳細を示す図である。
図10】マトリックスコンバータ10の制御の詳細を示す図である。
図11】マトリックスコンバータ10の制御の詳細を示す図である。
図12】第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えを電流形転流によって行う場合の転流シーケンスを示す図である。
図13】第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えを電圧形転流によって行う場合の転流シーケンスを示す図である。
図14】第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えを電流形転流によって行う場合(ただし、リアクトル電流iがプラスである間に転流動作が開始された場合)の転流シーケンスを示す図である。
図15】本発明の実施の形態による制御装置4がモード切り替え時に使用する転流方法を示す図である。
図16】nVdc/e=0.25の場合における電圧vMC,nvINV及びリアクトル電流iの回生時の波形を模式的に示す信号波形図である。
図17】nVdc/e=0.5の場合における電圧vMC,nvINV及びリアクトル電流iの回生時の波形を模式的に示す信号波形図である。
図18】(a)は、第1の比較例による力行時の電圧vMC,vINV、リアクトル電流i、及び入力電流ieuの測定結果を示す信号波形図であり、(b)は、第1の実施例による力行時の電圧vMC,vINV、リアクトル電流i、及び入力電流ieuの測定結果を示す信号波形図である。
図19】(a)は、第1の比較例及び第1の実施例のそれぞれにおける効率[%]の測定結果を示す図であり、(b)は、第1の比較例及び第1の実施例のそれぞれにおける入力電流のTHD[%]を示す図である。
図20】(a)は、第2の比較例による力行時の電圧vMC,vINV、リアクトル電流i、及び入力電流ieuの測定結果を示す信号波形図であり、(b)は、第2の実施例による力行時の電圧vMC,vINV、リアクトル電流i、及び入力電流ieuの測定結果を示す信号波形図である。
図21】(a)は、第2の比較例及び第2の実施例のそれぞれにおける効率[%]の測定結果を示す図であり、(b)は、第2の比較例及び第2の実施例のそれぞれにおける入力電流のTHD[%]を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態による電力変換装置1及びその制御装置4の構成を示す図である。同図に示すように、本実施の形態による電力変換装置1は、三相単相マトリックスコンバータ10と、トランス20と、フルブリッジ型のAC/DCコンバータ30と、保護回路35とを有するMC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータである。マトリックスコンバータ10、トランス20、及びAC/DCコンバータ30は、系統電源2と負荷3の間にこの順で接続される。以下では、系統電源2に接続されるマトリックスコンバータ10の3つの端部をそれぞれ第7のノードn、第8のノードn、第9のノードnと称し、トランス20に接続されるマトリックスコンバータ10の2つの端部をそれぞれ第1のノードn、第2のノードnと称し、トランス20に接続されるAC/DCコンバータ30の2つの端部をそれぞれ第3のノードn、第4のノードnと称し、負荷3に接続されるAC/DCコンバータ30の2つの端部をそれぞれ第5のノードn、第6のノードnと称する。また、第2のノードnの電圧に対する第1のノードnの電圧を電圧vMCと称し、第4のノードnの電圧に対する第3のノードnの電圧を電圧vINVと称する。
【0017】
トランス20は、互いに磁気結合する2つのコイル20a,20b(第1及び第2のコイル)を有して構成される。コイル20a,20bの巻き数はそれぞれN及びNであり、コイル20a,20bの巻き数比nは、n=N/Nとなる。コイル20aの一端はリアクトルLを介して第1のノードnでマトリックスコンバータ10に接続され、コイル20aの他端は第2のノードnでマトリックスコンバータ10に接続される。なお、リアクトルLは、トランス20とは別に設けたインダクタンス素子であってもよいし、トランス20の漏れインダクタンスであってもよい。コイル20bの一端は第3のノードnでAC/DCコンバータ30に接続され、コイル20bの他端は第4のノードnでAC/DCコンバータ30に接続される。以下では、リアクトルLを流れる電流をリアクトル電流iと称する。リアクトル電流iの向きについては、第1のノードnから第2のノードnに向かう方向をプラス方向とし、その逆をマイナス方向とする。リアクトル電流iは、電圧vMC,nvINVを用いると、次の式(1)のように時間tの関数で表される。
【0018】
【数1】
【0019】
AC/DCコンバータ30は、単相交流電圧(コイル20b側)と直流電圧(負荷3側)とを相互に変換する装置である。負荷3は、例えば蓄電池やハイブリッドカーのモーターを駆動するための電力変換器であり、電力変換装置1から供給される直流電力によって動作する(充電される)場合(力行)と、逆に電力変換装置1に対して直流電力を供給する場合(回生)とがある。負荷3の一端は第5のノードnでAC/DCコンバータ30に接続され、負荷3の他端は第6のノードnでAC/DCコンバータ30に接続される。以下では、第6のノードnの電圧に対する第5のノードnの電圧を電圧Vdcと称し、第5のノードnから負荷3に向かって流れる電流を電流Idcと称する。
【0020】
AC/DCコンバータ30は、一端が第5のノードnに接続され、他端が第3のノードnに接続されたスイッチ素子G(第1の片方向スイッチ素子)と、一端が第6のノードnに接続され、他端が第3のノードnに接続されたスイッチ素子G(第2の片方向スイッチ素子)と、一端が第5のノードnに接続され、他端が第4のノードnに接続されたスイッチ素子G(第3の片方向スイッチ素子)と、一端が第6のノードnに接続され、他端が第4のノードnに接続されたスイッチ素子G(第4の片方向スイッチ素子)と、一端が第5のノードnに接続され、他端が第6のノードnに接続されたキャパシタC1とを有して構成される。
【0021】
スイッチ素子G~Gはそれぞれ、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体素子と、この半導体素子と並列に接続されたダイオード及びスナバキャパシタとを含んで構成される片方向スイッチである。なお、スナバキャパシタは、半導体素子の寄生容量であってもよいし、独立した容量素子であってもよい。スイッチ素子Gは、ダイオードのアノードが第3のノードnに接続されるように回路に組み込まれ、スイッチ素子Gは、ダイオードのカソードが第3のノードnに接続されるように回路に組み込まれ、スイッチ素子Gは、ダイオードのアノードが第4のノードnに接続されるように回路に組み込まれ、スイッチ素子Gは、ダイオードのカソードが第4のノードnに接続されるように回路に組み込まれる。
【0022】
スイッチ素子G~Gを構成する半導体素子の制御電極のそれぞれには、制御装置4から個別の制御信号が供給される。各制御信号は、それぞれハイ又はローいずれかの値を取る信号である。制御装置4は、これらの制御信号の値を個別に制御することにより、スイッチ素子G~Gそれぞれのオンオフ状態を個別に制御する。
【0023】
マトリックスコンバータ10は、三相交流電圧(系統電源2側)と単相交流電圧(コイル20a側)とを相互に変換する装置である。系統電源2は、互いに2π/3ずつ位相のずれた正弦波信号によって表される交流電圧e,e,eを生成する三相交流電源であり、例えば商用電源である。交流電圧e,e,eを数式で表すと、次の式(2)のようになる。ただし、Eは入力線間電圧実効値(定数)であり、ωtは入力電圧の位相角(定数)である。
【0024】
【数2】
【0025】
図1に示すように、u相(第1相)に対応する交流電圧eに対応する系統電源2の出力端は第7のノードnでマトリックスコンバータ10に接続され、v相(第2相)に対応する交流電圧eに対応する系統電源2の出力端は第8のノードnでマトリックスコンバータ10に接続され、w相(第3相)に対応する交流電圧eに対応する系統電源2の出力端は第9のノードnでマトリックスコンバータ10に接続される。以下では、第7乃至第9のノードn~nを流れる電流をそれぞれ電流ieu,iev,iewと称する。
【0026】
マトリックスコンバータ10は、一端が第7のノードnに接続され、他端が第1のノードnに接続された双方向スイッチS up(第1の双方向スイッチ)と、一端が第8のノードnに接続され、他端が第1のノードnに接続された双方向スイッチS vp(第2の双方向スイッチ)と、一端が第9のノードnに接続され、他端が第1のノードnに接続された双方向スイッチS wp(第3の双方向スイッチ)と、一端が第7のノードnに接続され、他端が第2のノードnに接続された双方向スイッチS un(第4の双方向スイッチ)と、一端が第8のノードnに接続され、他端が第2のノードnに接続された双方向スイッチS vn(第5の双方向スイッチ)と、一端が第9のノードnに接続され、他端が第2のノードnに接続された双方向スイッチS wn(第6の双方向スイッチ)と、交流リアクトルLfと、ダンピング抵抗Rfと、入力キャパシタCfとを有して構成される。
【0027】
交流リアクトルLfは、第7のノードnと双方向スイッチS up,Sunの接続点である第10のノードn10との間に挿入されたインダクタと、第8のノードnと双方向スイッチS vp,Svnの接続点である第11のノードn11との間に挿入されたインダクタと、第9のノードnと双方向スイッチS wp,Swnの接続点である第12のノードn12との間に挿入されたインダクタとによって構成される。ダンピング抵抗Rfは、これらのインダクタのそれぞれと並列に接続された3つの抵抗素子によって構成される。入力キャパシタCfは、デルタ結線又はスター結線によって互いに接続された3つのキャパシタによって構成されており、その3つの接続点はそれぞれ第10乃至第12のノードn10~n12に接続される。以下では、第10乃至第12のノードn10~n12を流れる電流をそれぞれ入力電流i,i,iと称する。
【0028】
双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnはそれぞれ、直列に接続された2つのスイッチを含んで構成される双方向スイッチである。具体的には、双方向スイッチSupは、直列に接続されたスイッチ素子Gpu,Gupと、スイッチ素子Gpu,Gupにより構成される直列回路と並列に接続されたスナバキャパシタとによって構成される。また、双方向スイッチS vpは、直列に接続されたスイッチ素子Gpv,Gvpと、スイッチ素子Gpv,Gvpにより構成される直列回路と並列に接続されたスナバキャパシタとによって構成され、双方向スイッチS wpは、直列に接続されたスイッチ素子Gpw,Gwpと、スイッチ素子Gpw,Gwpにより構成される直列回路と並列に接続されたスナバキャパシタとによって構成され、双方向スイッチS unは、直列に接続されたスイッチ素子Gnu,Gunと、スイッチ素子Gnu,Gunにより構成される直列回路と並列に接続されたスナバキャパシタとによって構成され、双方向スイッチSvnは、直列に接続されたスイッチ素子Gnv,Gvnと、スイッチ素子Gnv,Gvnにより構成される直列回路と並列に接続されたスナバキャパシタとによって構成され、双方向スイッチS wnは、直列に接続されたスイッチ素子Gnw,Gwnと、スイッチ素子Gnw,Gwnにより構成される直列回路と並列に接続されたスナバキャパシタとによって構成される。これらスイッチ素子Gpu,Gup,Gpv,Gvp,Gpw,Gwp,Gnu,Gun,Gnv,Gvn,Gnw,Gwnはそれぞれ、例えばMOSFETやIGBTなどの半導体素子と、この半導体素子と並列に接続されたダイオードとを含んで構成される片方向スイッチである。
【0029】
スイッチ素子Gpu,Gupは、第1のノードnと第10のノードn10との間にこの順で、かつ、それぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続される。スイッチ素子Gpv,Gvpは、第1のノードnと第11のノードn11との間にこの順で、かつ、それぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続される。スイッチ素子Gpw,Gwpは、第1のノードnと第12のノードn12との間にこの順で、かつ、それぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続される。スイッチ素子Gnu,Gunは、第2のノードnと第10のノードn10との間にこの順で、かつ、それぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続される。スイッチ素子Gnv,Gvnは、第2のノードnと第11のノードn11との間にこの順で、かつ、それぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続される。スイッチ素子Gnw,Gwnは、第2のノードnと第12のノードn12との間にこの順で、かつ、それぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続される。なお、双方向スイッチを構成する2つのスイッチ素子の接続について、ここではそれぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続されるとしたが、それぞれのダイオードのカソードが相互に接続される向きで接続されることとしてもよい。
【0030】
スイッチ素子Gpu,Gup,Gpv,Gvp,Gpw,Gwp,Gnu,Gun,Gnv,Gvn,Gnw,Gwnを構成する半導体素子の制御電極のそれぞれには、制御装置4から個別の制御信号が供給される。各制御信号は、それぞれハイ又はローいずれかの値を取る信号である。制御装置4は、これらの制御信号の値を個別に制御することにより、スイッチ素子Gpu,Gup,Gpv,Gvp,Gpw,Gwp,Gnu,Gun,Gnv,Gvn,Gnw,Gwnそれぞれのオンオフ状態を個別に制御する。
【0031】
保護回路35は、転流失敗時のリアクトル電流iを吸収するための回路であり、フルブリッジ接続された4つのダイオードからなる整流回路と、この整流回路と並列に接続された平滑コンデンサ及び負荷とによって構成される。負荷の両端電圧はVである。整流回路の2つの入力端はそれぞれ、第1のノードn及び第2のノードnに接続される。
【0032】
図2は、電力変換装置1の高周波等価回路を示す図である。同図に示すように、電力変換装置1は、高周波数で動作する場合においては、電圧vMCを出力する電源回路と、電圧nvINVを出力する電源回路とがリアクトルLを挟んで直列に接続された回路と等価である。
【0033】
図1に戻る。制御装置4は、上述したZPWM変調法により、外部から供給される電力指令値P及び力率角指令値αと、電圧e,e,e,Vdcの各値とに基づいて双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swn,G~Gそれぞれのオンオフ状態を制御する装置である。制御装置4がこの制御を行うことにより、電力指令値Pにより指定された電力を力率角指令値αにより指定された力率角で、系統電源2から負荷3に対し(力行の場合)、又は、負荷3から系統電源2に対し(回生の場合)、伝送することが実現される。力行時と回生時のそれぞれにおける制御装置4の動作は、後述する位相差δの符号が入れ替わることのほかは、基本的に同一である。そこで以下では、力行時に着目して説明を続ける。回生時については、力行時の制御装置4の動作について説明した後、図16及び図17を参照して説明する。
【0034】
図3は、力行時における電圧e,e,e,vMC,vINV、電流ieu,iev,iew,Idc,i、及び電流Idcの指令値Idc (=P/Vdc)の各波形のシミュレーション結果を示す信号波形図である。詳しいシミュレーション条件は、表1に記載したとおりである。図3には、電圧e,e,eによって表される三相交流の1周期分を示している。図4は、図3の一部(0.01秒から0.00014秒分)の拡大図である。
【0035】
【表1】
【0036】
三相交流の1周期は、電圧e,e,eの位相に応じて、図3に示すように12個の空間I~XIIに分けることができる。具体的には、電圧eの位相が0以上π/6未満である空間I、π/6以上π/3未満である空間II、π/3以上π/2未満である空間III、π/2以上2π/3未満である空間IV、2π/3以上5π/6未満である空間V、5π/6以上π未満である空間VI、π以上7π/6未満である空間VII、7π/6以上4π/3未満である空間VIII、4π/3以上3π/2未満である空間IX、3π/2以上5π/3未満である空間X、5π/3以上11π/6未満である空間XI、11π/6以上2π未満である空間XIIに分けることができる。図4に示した波形は、このうち空間IVの一部に相当する。
【0037】
空間I~XIIそれぞれにおける制御装置4の動作は、電圧e,e,eの大小関係に応じて制御対象となるスイッチが入れ替わること、及び、電圧e,e,eのうち中間の値を取るものの符号に応じて出力電圧が変わる場合があることのほかは、基本的に同一である。そこで以下では、空間V(e>e>0>e,i >0)に着目して説明を続ける。
【0038】
図5及び図6はそれぞれ、電圧vMC,nvINV及びリアクトル電流iの力行時の波形を模式的に示す信号波形図である。図5には、図1に示した電圧Vdcの値が相対的に小さい例(具体的には、nVdc/e=0.25)を示し、図6には、図1に示した電圧Vdcの値が相対的に大きい例(具体的には、nVdc/e=0.5)を示している。なお、図5及び図6に示した電圧e及びeは、それぞれ次の式(3)(4)により表される。ただし、式(3)に示した電流i は入力電流iの指令値である。入力電流i,i,iの指令値i ,i ,i は、式(5)によって表される。
【0039】
【数3】
【0040】
図5を参照しながら制御装置4の動作の概要を説明すると、制御装置4はまず、マトリックスコンバータ10を周期Tで周期的に制御するよう構成される。なお、マトリックスコンバータ10のスイッチング周波数は、この周期Tの逆数となる。図5に示した時刻tはこの周期Tの始期に対応し、時刻t10は終期に対応している。マトリックスコンバータ10の制御の詳細については、後述する。
【0041】
また、制御装置4は、AC/DCコンバータ30についても、同じ周期Tで周期的に制御するよう構成される。図5に示した時刻tはこの制御周期の始期に対応し、時刻t11は終期に対応している。具体的に説明すると、制御装置4は、各周期の前半でスイッチG1,G4をオン、スイッチG2,G3をオフとし、各周期の後半でスイッチG2,G3をオン、スイッチG1,G4をオフとするよう構成される。ただし、スイッチの切り替えの際には、一旦すべてのスイッチがオフとなる期間(デッドタイム)が設けられる。制御装置4による制御の結果として、電圧nvinvの値は、図5に示すように、各周期の前半でnVdcとなり、各周期の後半で-nVdcとなる。なお、以下の説明では、マトリックスコンバータ10の制御周期の始期から、その後に初めて到来するAC/DCコンバータ30の制御周期の始期までの経過時間長を位相差δと称する。
【0042】
図7図11は、マトリックスコンバータ10の制御の詳細を示す図である。同図に示した矢印付きの破線は、リアクトル電流iの経路と向きを表している。以下、図5とともにこれらの図も参照しながら、マトリックスコンバータ10の制御について詳細に説明する。なお、実際には各スイッチのオンオフの切り替えを行う際に転流動作が行われるが、ここでは転流動作を無視して説明する。転流動作については、後ほど図12図14を参照して詳しく説明する。
【0043】
まず図5に示すように、制御装置4は、各周期において、第1のモードMODE1から第7のモードMODE7までの7つのモードを順次実行することにより、マトリックスコンバータ10の制御を行うよう構成される。第1のモードMODE1及び第7のモードMODE7の継続時間(デューティー)は互いに同一であり、以下では、この継続時間をd/2と表記する。第4のモードMODE4の継続時間は第1のモードMODE1及び第7のモードMODE7の継続時間の2倍(=d)である。第3のモードMODE3及び第6のモードMODE6の継続時間も互いに同一であり、以下では、この継続時間をdと表記する。第2のモードMODE2及び第5のモードMODE5の継続時間も互いに同一(=T/2-d-d)である。図5の例ではδ<d/2であり、第1のモードMODE1の実行中にAC/DCコンバータ30の制御周期の始期が到来する。
【0044】
図7(a)には、第1のモードMODE1の始期である時刻tにおける各双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの状態を示している。また、図7(b)には、AC/DCコンバータ30の制御周期の始期である時刻tにおける各双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの状態を示している。これらの図に示すように、第1のモードMODE1においては、制御装置4は、双方向スイッチS wp,Swnをオンとし、その他の双方向スイッチS up,Svp,Sun,Svnをオフとする。これにより、第1のノードnと第2のノードnとの間が短絡されるので、リアクトルLは電圧nvINVのみが印加された状態となる。そして、時刻t~時刻tではnvINV=-nVdcであることから、図5に示すように、電流iは増加する方向に変化する。一方、時刻t~時刻tではnvINV=nVdcであることから、図5に示すように、電流iは減少する方向に変化する。
【0045】
図8(a)には、第2のモードMODE2の始期である時刻tにおける各双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの状態を示している。同図に示すように、第2のモードMODE2においては、制御装置4は、双方向スイッチS up,Swnをオンとし、その他の双方向スイッチS vp,Swp,Sun,Svnをオフとする。これにより、第1のノードnと第2のノードnとの間に電圧eが印加されるので、リアクトルLは電圧e-nvINVが印加された状態となる。そして、時刻t~時刻tではnvINV=nVdcであるが、一般に電圧eは電圧nVdcより大きい値に設定される(e>nVdc)ので、図5に示すように、電流iは増加する方向に変化する。
【0046】
図8(b)には、第3のモードMODE3の始期である時刻tにおける各双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの状態を示している。同図に示すように、第3のモードMODE3においては、制御装置4は、双方向スイッチS vp,Swnをオンとし、その他の双方向スイッチS up,Swp,Sun,Svnをオフとする。これにより、第1のノードnと第2のノードnとの間に電圧eが印加されるので、リアクトルLは電圧e-nvINVが印加された状態となる。そして、時刻t~時刻tではnvINV=nVdcであり、図5に示すように、電圧eが電圧nVdcより大きい値である(e>nVdc)とすると、電流iは増加する方向に変化する。ただし、電圧eは電圧eより小さい値になる(e>e)ので、電流iの増加率は、図5に示すように時刻t~時刻tでの増加率に比べて小さくなる。電圧eが電圧nVdcより小さい値である(e<nVdc)場合には、電流iは減少する方向に変化する。
【0047】
図9(a)には、第4のモードMODE4の始期である時刻tにおける各双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの状態を示している。また、図9(b)には、スイッチ素子G~Gの切り替えタイミングである時刻t(t-t=T/2)における各双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの状態を示している。これらの図に示すように、第4のモードMODE4においては、制御装置4は、双方向スイッチS wp,Swnをオンとし、その他の双方向スイッチS up,Svp,Sun,Svnをオフとする。これは、第1のモードMODE1と同じ状態である。したがって、第1のノードnと第2のノードnとの間が短絡されるので、リアクトルLは電圧nvINVのみが印加された状態となる。そして、時刻t~時刻tではnvINV=nVdcであることから、図5に示すように、電流iは減少する方向に変化する。一方、時刻t~時刻tではnvINV=-nVdcであることから、図5に示すように、電流iは増加する方向に変化する。
【0048】
図10(a)には、第5のモードMODE5の始期である時刻tにおける各双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの状態を示している。同図に示すように、第5のモードMODE5においては、制御装置4は、双方向スイッチS wp,Sunをオンとし、その他の双方向スイッチS up,Svp,Svn,Swnをオフとする。これにより、第1のノードnと第2のノードnとの間に電圧-eが印加されるので、リアクトルLは電圧-e-nvINVが印加された状態となる。そして、時刻t~時刻tではnvINV=-nVdcであるので、上記したようにe>nVdcが成り立つとすると、図5に示すように、電流iは減少する方向に変化する。
【0049】
図10(b)には、第6のモードMODE6の始期である時刻tにおける各双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの状態を示している。同図に示すように、第6のモードMODE6においては、制御装置4は、双方向スイッチS wp,Svnをオンとし、その他の双方向スイッチS up,Svp,Sun,Swnをオフとする。これにより、第1のノードnと第2のノードnとの間に電圧-eが印加されるので、リアクトルLは電圧-e-nvINVが印加された状態となる。そして、時刻t~時刻tではnvINV=-nVdcであるので、上記したようにe>nVdcが成り立つとすると、図5に示すように、電流iは減少する方向に変化する。ただし、上記したようにe>eが成り立つので、電流iの減少率は、図5に示すように時刻t~時刻tでの減少率に比べて小さくなる。
【0050】
図11には、第7のモードMODE7の始期である時刻tにおける各双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの状態を示している。同図に示すように、第7のモードMODE7においては、制御装置4は、双方向スイッチS wp,Swnをオンとし、その他の双方向スイッチS up,Svp,Sun,Svnをオフとする。これは、第1のモードMODE1と同じ状態である。したがって、第1のノードnと第2のノードnとの間が短絡されるので、リアクトルLは電圧nvINVのみが印加された状態となる。そして、時刻t~時刻t10ではnvINV=-nVdcであることから、図5に示すように、電流iは増加する方向に変化する。
【0051】
ここまでで説明したように、制御装置4は、双方向スイッチS wp,Swnが同時にオンとなるモード(すなわちvMC=0となるモード。具体的には、第1、第4、第7のモードMODE1,MODE4,MODE7)を各周期に1回以上実施している。したがって、AC/DCコンバータ30側の出力電圧nVdcが下がった場合の循環電流の上昇を抑制できるので、電力変換装置1を広い電圧範囲で運転する際に力率の低下を抑制することが可能になる。
【0052】
次に、双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnのオンオフの切り替えの際に実施される転流動作について説明する。
【0053】
双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnのオンオフの切り替えは、p側転流の場合であれば、必ず、双方向スイッチS up,Svp,Swpのいずれか1つを転流元とし、双方向スイッチS up,Svp,Swpのいずれか他の1つを転流先として実行される。また、n側転流の場合であれば、必ず、双方向スイッチS un,Svn,Swnのいずれか1つを転流元とし、双方向スイッチS un,Svn,Swnのいずれか他の1つを転流先として実行される。そして、制御装置4は、転流元及び転流先の双方向スイッチの一方を構成する2つのスイッチのうちの1つ、転流元及び転流先の双方向スイッチの他方を構成する2つのスイッチのうちの1つ、転流元及び転流先の双方向スイッチの一方を構成する2つのスイッチのうちの残る1つ、転流元及び転流先の双方向スイッチの他方を構成する2つのスイッチのうちの残る1つ、という順序で各スイッチのオンオフ制御を行うことにより転流動作を実行する。
【0054】
転流動作は、こうして行われるオンオフ制御の対象となるスイッチの順序によって、上述した電圧形転流と電流形転流の2種類に大別される。以下、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えの場合を例に取り、電圧形転流と電流形転流のそれぞれについて詳しく説明する。
【0055】
図12は、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えを電流形転流によって行う場合の転流シーケンスを示す図である。電流形転流は、リアクトル電流i(出力相電流)の向きに応じて、リアクトル電流iの経路が常に確保されるように各スイッチ素子のオンオフ制御を行う転流方法である。したがって、電流形転流を実行する際には、リアクトル電流iの向きが予め分かっている必要がある。ここで、図5から理解されるように、第2のモードMODE2の始期(時刻t)におけるリアクトル電流iの向きは、通常マイナス方向にしている。そこで制御装置4は、リアクトル電流iの向きがマイナス方向であると仮定して、電流形転流による第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えを行うように制御を行う。図12には、矢印付きの破線により、マイナス方向に流れるリアクトル電流iを示している。
【0056】
電流形転流の転流シーケンスについて、図12を参照しながら具体的に説明する。まず図12(a)は、転流動作開始前の状態を示している。この状態では、転流元となる双方向スイッチS wpを構成するスイッチ素子Gwp,Gpwがともにオン、転流先となる双方向スイッチS upを構成するスイッチ素子Gup,Gpuがともにオフとなっている。
【0057】
電流形転流による転流動作を開始した制御装置4は、初めに図12(b)に示すように、リアクトル電流iの向きに応じて、スイッチ素子Gwp,Gpwのうちターンオフしてもリアクトル電流i(マイナス方向に流れるリアクトル電流i)の経路を確保できる一方(具体的には、スイッチ素子Gwp)をターンオフする。スイッチ素子Gwpをターンオフした後のリアクトル電流iは、スイッチ素子Gwp内のダイオードを通って流れ続ける。
【0058】
次に制御装置4は、図12(c)に示すように、リアクトル電流iの向きに応じて、スイッチ素子Gup,Gpuのうちターンオンすることによりリアクトル電流iの経路を新たに構成することとなる一方(具体的には、スイッチ素子Gpu)をターンオンする。この後、リアクトル電流iは、スイッチ素子Gwp内のダイオードを通る経路を通って流れることになる。なお、スイッチ素子Gup内のダイオードについては、両端にeがかかることから、電流は流れない。
【0059】
次に制御装置4は、図12(d)に示すように、スイッチ素子Gwp,Gpwのうち、まだターンオフしていないスイッチ素子Gpwをターンオフする。これにより、双方向スイッチS wpを通るリアクトル電流iの経路は遮断され、リアクトル電流iは、スイッチ素子Gup内のダイオードを通る経路のみを通って流れるようになる。
【0060】
最後に制御装置4は、図12(e)に示すように、スイッチ素子Gup,Gpuのうち、まだターンオンしていないスイッチ素子Gupをターンオンする。これにより双方向スイッチS wpから双方向スイッチS upへの転流が完了する。
【0061】
図13は、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えを電圧形転流によって行う場合の転流シーケンスを示す図である。電圧形転流は、転流元となる双方向スイッチの一端(系統電源2側の入力端)と、転流先となる双方向スイッチの一端(系統電源2側の入力端)との間に印加される電圧(転流元となる双方向スイッチの一端に対する転流先となる双方向スイッチの一端の電圧。以下、「入力相電圧」と称する)の符号に応じて、転流先となる双方向スイッチの一端(系統電源2側の入力端)と、転流元となる双方向スイッチの一端(系統電源2側の入力端)とを短絡させないように各スイッチ素子のオンオフ制御を行う転流方法である。したがって、電圧形転流を実行する際には、入力相電圧の符号が予め分かっている必要がある。ここで、図5から理解されるように、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えにおいては、入力相電圧は0からe(>0)に変化する。そこで制御装置4は、入力相電圧がプラスであると仮定して、電圧形転流による第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えを行うよう構成される。なお、図13にも、矢印付きの破線により、マイナス方向に流れるリアクトル電流iを示している。
【0062】
電圧形転流の転流シーケンスについて、図13を参照しながら具体的に説明する。まず図13(a)は、転流動作開始前の状態を示している。これは、図12(a)と同じ状態である。
【0063】
電圧形転流による転流動作を開始した制御装置4は、初めに図13(b)に示すように、入力相電圧の符号に応じて、スイッチ素子Gup,Gpuのうち双方向スイッチS upの一端と双方向スイッチS wpの一端との間を短絡させない一方(具体的には、スイッチ素子Gpu)をターンオンする。もし仮に、ここでスイッチ素子Gpuではなくスイッチ素子Gupをターンオンしたとすると、e>eであることから、双方向スイッチS upの一端から双方向スイッチS wpの一端にかけ、スイッチ素子Gpu内のダイオードを通る電流経路が形成される。そうすると、双方向スイッチS upの一端から双方向スイッチS wpの一端に向かって電流が流れるようになるので、電源短絡が発生する。スイッチ素子Gpuをターンオンすれば、このような電流経路が形成されることはなく、電源短絡も発生しない。
【0064】
次に制御装置4は、図13(c)に示すように、スイッチ素子Gwp,Gpwのうちターンオフしてもリアクトル電流iの経路を該リアクトル電流iの向きによらず確保できる一方(具体的には、スイッチ素子Gpw)をターンオフする。これにより、リアクトル電流iの符号がマイナスである場合には、図13(c)に示すように双方向スイッチS upを通ってリアクトル電流iが流れる。また、図示していないが、リアクトル電流iの符号がプラスである場合には、双方向スイッチS wpを通ってリアクトル電流iが流れる。
【0065】
次に制御装置4は、図13(d)に示すように、スイッチ素子Gup,Gpuのうち、まだターンオンしていないスイッチ素子Gupをターンオンする。そしてさらに、図13(e)に示すように、スイッチ素子Gwp,Gpwのうち、まだターンオフしていないスイッチ素子Gwpをターンオフする。これにより双方向スイッチS wpから双方向スイッチS upへの転流が完了する。
【0066】
次に、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えを図12に示した電流形転流によって行う場合に生じ得る問題について、詳しく説明する。
【0067】
図5を見ると、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えが行われる時刻tの前後でリアクトル電流iの符号が変化していることが理解される。この変化のタイミングを完全に予測することは難しく、結果として、転流動作中にリアクトル電流iがプラスになってしまうことがある。しかし、上述したように、この場合における転流動作はリアクトル電流iの向きがマイナス方向であることを前提に実行されるので、リアクトル電流iがプラスになってしまうと、転流動作が適切に行われなくなってしまう。
【0068】
図14は、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えを電流形転流によって行う場合の転流シーケンスを示す図である。ただし同図には、リアクトル電流iがプラスである間に転流動作が開始された場合の例を示しており、図14(a)~(d)に示すリアクトル電流iの向きが図12(a)~(d)のものとは逆になっている。
【0069】
図14(a)に示す転流動作開始前の状態は、リアクトル電流iの向きが逆になっている点を除き、図12(a)に示した状態と同じである。
【0070】
電流形転流による転流動作を開始した制御装置4は、初めに図14(b)に示すように、スイッチ素子Gwpをターンオフする。これは、図12(b)を参照して説明したように、スイッチ素子Gwp内のダイオードを通ってリアクトル電流iが流れ続けることを期待するものであるが、実際のリアクトル電流iの向きはプラス方向であるため、リアクトル電流iはスイッチ素子Gwp内のダイオードを通過できない。その結果、リアクトル電流iの流路が喪失し、双方向スイッチS up,Swpそれぞれのスナバキャパシタにリアクトル電流iが流れ込むことになる。
【0071】
スナバキャパシタに流れ込んだリアクトル電流iは、スナバキャパシタを充電する。図示したΔv(>0)は、こうして充電された双方向スイッチS wpのスナバキャパシタの電極板間電位差を表している。このΔvを用いると、双方向スイッチS upのスナバキャパシタの電極板間電位差はΔv+e(>0)と表される。スナバキャパシタの電極板間に電位差が発生すると、その分だけ第1のノードnの電圧、すなわち電圧vMCが低下する。後掲する図18(a)及び図20(a)には、この低下の具体的な例が示されている。
【0072】
この後、制御装置4は、図14(c)に示すようにスイッチ素子Gpuをターンオンし、図14(d)に示すようにスイッチ素子Gpwをターンオフするが、その間もリアクトル電流iはスナバキャパシタを充電し続ける。なお、こうしてスナバキャパシタが充電されている間に電圧vMC図1に示した保護回路35の閾値電圧を超えた場合には、リアクトル電流iの一部が保護回路35に転流することになる。これは、保護回路損失の原因となる。
【0073】
図14の例では、スイッチ素子Gpwをターンオフした後、リアクトル電流iの符号がマイナスになる。そうすると、図14(e)に示すように制御装置4がスイッチ素子Gupをターンオンすると、双方向スイッチS upのスナバキャパシタが放電される。その結果、スイッチ素子Gupのターンオンはハードスイッチングとなり、電圧vMC及び電圧vINVにスパイク電圧が発生する。後掲する図18(a)及び図20(a)には、このスパイク電圧の具体的な例も示されている。
【0074】
このように、図5の例による第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えにおいては、リアクトル電流iLの符号が不安定であることから、転流動作を電流転流によって行うこととすると、リアクトル電流iLの流路喪失、すなわち負荷開放が発生する可能性がある。負荷開放が発生すると、上述したように、転流動作中に電圧vMCが低下するとともに、転流終了直後の電圧vMC及び電圧vINVにスパイク電圧が発生する。また、負荷開放の発生に伴い、入力電流ieu,iev,ievの全高調波ひずみ率(THD:Total Harmonic Distortion)の増大という問題も発生する。これらの点は、図5の例による第4のモードMODE4から第5のモードMODE5への切り替えについても、同様である。
【0075】
そこで本実施の形態による制御装置4は、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替え、及び、第4のモードMODE4から第5のモードMODE5への切り替えにおいて負荷開放が発生することを防止し、かつ、電源短絡の発生も防止するべく、マトリックスコンバータ10の制御周期Tの中で、電流転流と電圧転流を組み合わせて用いるよう構成される。以下、詳しく説明する。
【0076】
図15は、本実施の形態による制御装置4がモード切り替え時に使用する転流方法を示す図である。同図に示すように、制御装置4は、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替え、及び、第4のモードMODE4から第5のモードMODE5への切り替えを電圧形転流により実行し、第2のモードMODE2から第3のモードMODE3への切り替え、第3のモードMODE3から第4のモードMODE4への切り替え、第5のモードMODE5から第6のモードMODE6への切り替え、及び、第6のモードMODE6から第7のモードMODE7への切り替えを電流形転流により実行するよう構成される。
【0077】
電圧形転流では、図13を参照して説明したように、リアクトル電流iの向きによらずリアクトル電流iの経路が確保されるように転流が行われる。つまり、各スイッチが図13(c)の状態にあるとき、リアクトル電流iはプラス方向及びマイナス方向のいずれにも流れることができる。したがって、図15に示した方法で転流動作を行うように制御装置4を構成することで、負荷開放の発生を防止することが可能になる。
【0078】
ここで、電圧形転流には、上述したように、入力相電圧の大小判定を誤ると電源短絡を招くという課題がある。しかし、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替え、及び、第4のモードMODE4から第5のモードMODE5への切り替えに限定して電圧形転流を用いる限り、制御装置4が入力相電圧の大小判定を誤ることはない。したがって、図15に示した方法で転流動作を行うように制御装置4を構成しても、転流に伴う電源短絡は発生しない。
【0079】
以上説明したように、本実施の形態による制御装置4によれば、リアクトル電流iの符号が不安定で、電流形転流を使うと負荷開放が発生しやすい第1のモードから第2のモードへの切り替え、及び、第4のモードから第5のモードへの切り替えを電圧形転流により実行し、そのような問題の発生しない他の切り替えを電流形電流により実行するので、電流形転流と電圧形転流の間でMCの動作モードを切り替えることなく、電源短絡と負荷開放の両方を防止することが可能になる。
【0080】
次に、回生時に着目して説明する。以下では、力行時との相違点を中心に説明することとする。
【0081】
図16及び図17はそれぞれ、電圧vMC,nvINV及びリアクトル電流i回生時の波形を模式的に示す信号波形図である。図16には、図1に示した電圧Vdcの値が相対的に小さい例(具体的には、nVdc/e=0.25)を示し、図17には、図1に示した電圧Vdcの値が相対的に大きい例(具体的には、nVdc/e=0.5)を示している。図5及び図6に示した信号波形とは、電圧nvINVが電圧vMCよりも先行している点(すなわち、位相差δの符号が逆である点)、第2のモードMODE2で第1のノードnと第2のノードnとの間に電圧eが印加される点、第3のモードMODE3で第1のノードnと第2のノードnとの間に電圧eが印加される点、第5のモードMODE5で第1のノードnと第2のノードnとの間に電圧-eが印加される点、第6のモードMODE6で第1のノードnと第2のノードnとの間に電圧-eが印加される点で相違している。なお、これらの電圧を印加するための各双方向スイッチS up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの具体的な制御方法は、力行の場合と同様である。
【0082】
図16の例では、第3のモードMODE3から第4のモードMODE4への切り替えの際、及び、第6のモードMODE6から第7のモードMODE7への切り替えの際に、図5の例における第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替え時と同様にリアクトル電流iLの符号が不安定となる。したがって、これらの切り替えの際に転流動作を電流転流によって行うこととすると、リアクトル電流iLの流路喪失、すなわち負荷開放が発生する可能性がある。
【0083】
そこで本実施の形態による制御装置4は、図16に示すように、第3のモードMODE3から第4のモードMODE4への切り替え、及び、第6のモードMODE6から第7のモードMODE7への切り替えを電圧形転流により実行し、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替え、第2のモードMODE2から第3のモードMODE3への切り替え、第4のモードMODE4から第5のモードMODE5への切り替え、及び、第5のモードMODE5から第6のモードMODE6への切り替えを電流形転流により実行するよう構成される。これにより、力行時と同様、電流形転流と電圧形転流の間でMCの動作モードを切り替えることなく、電源短絡と負荷開放の両方を防止することが可能になる。
【0084】
以下、本実施の形態により奏される効果について、以下の表1に示す条件を満たす電力変換装置1を用いて転流動作を実行した結果を参照しつつ、説明する。以下では第1及び第2の実施例、第1及び第2の比較例を挙げて説明するが、第1及び第2の実施例は、マトリックスコンバータ10の転流動作を図15に示す例により行った場合の例であり、第1及び第2の比較例は、マトリックスコンバータ10の転流動作をすべて電流形転流により行った場合の例である。また、第1の実施例及び第1の比較例では電圧Vdc=200V、電力指令値P=2kWとし、第2の実施例及び第2の比較例では電圧Vdc=400V、電力指令値P=3kWとした。
【0085】
【表2】
【0086】
図18(a)は、第1の比較例による力行時の電圧vMC,vINV、リアクトル電流i、及び入力電流ieuの測定結果を示す信号波形図であり、図18(b)は、第1の実施例による力行時の電圧vMC,vINV、リアクトル電流i、及び入力電流ieuの測定結果を示す信号波形図である。また、図19(a)は、第1の比較例及び第1の実施例のそれぞれにおける効率(Efficiency)[%]の測定結果を示す図であり、図19(b)は、第1の比較例及び第1の実施例のそれぞれにおける入力電流のTHD[%]を示す図である。図18(a)及び図18(b)の横軸は時間[ms又はμs]、図19(a)及び図19(b)の横軸は入力電力(=Vdc×Idc)[W]となっている。図19(a)及び図19(b)には、回生時のデータ(入力電力<0)も含めている。
【0087】
図18(a)に示すように、第1の比較例では、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えの直前に、電圧vMCが一旦大きく低下している。これは、上述したスナバキャパシタの充電による電圧vMCの低下に他ならない。第4のモードMODE4から第5のモードMODE5への切り替えの直前に電圧vMCが一旦大きく上昇しているのも、同様の理由によるものである。
【0088】
また、第1の比較例では、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2に切り替わるタイミングで、電圧vMC及び電圧vINVが一時的に大きく上昇している。これは、上述したスパイク電圧の発生に相当する。第4のモードMODE4から第5のモードMODE5への切り替えの直前に電圧vMC及び電圧vINVが一時的に大きく下降しているのも、同様の理由によるものである。
【0089】
これに対し、第1の実施例では、図18(b)に示すように、スナバキャパシタの充電による電圧vMCの低下が全く観測されていない。また、第1の実施例ではスパイク電圧の発生も大きく抑制されており、特に電圧vINVでは全く観測されなくなっている。したがって、本実施の形態による制御装置4によれば、スナバキャパシタの充電による電圧vMCの低下と、電圧vMC及び電圧vINVにおけるスパイク電圧の発生とが抑制されていると言える。
【0090】
また、図19(a)及び図19(a)に示すように、第1の比較例では、プラスの入力電力に対応する力行時に限り、特定の入力電力の付近(具体的には2kW近傍)で、総合効率の低下と、入力電流ieu,iev,iewのTHDの上昇とが顕著に現れる。入力電流ieu,iev,iewのTHDの上昇は、図18の入力電流iの波形にも現れている。なお、マイナスの入力電力に対応する回生時にこれらの現象が現れないのは、力行時のような電圧vMCの低下が発生しないためである。
【0091】
これに対し、第1の実施例では、図19(a)及び図19(b)に示すように、第1の比較例のような総合効率の低下及び入力電流ieu,iev,iewのTHDの上昇は観測されなくなっている。また、力行時・回生時ともに、第1の比較例に比べて入力電流ieu,iev,iewのTHDが全体的に改善されている。なお、回生時におけるTHDの改善は、主として負荷開放抑制による保護回路損失・インバータ損失低減によるものである。したがって、本実施の形態による制御装置4によれば、総合効率の低下と、入力電流ieu,iev,iewのTHDの上昇とが抑制されていると言える。
【0092】
図20(a)は、第2の比較例による力行時の電圧vMC,vINV、リアクトル電流i、及び入力電流ieuの測定結果を示す信号波形図であり、図20(b)は、第2の実施例による力行時の電圧vMC,vINV、リアクトル電流i、及び入力電流ieuの測定結果を示す信号波形図である。また、図21(a)は、第2の比較例及び第2の実施例のそれぞれにおける効率(Efficiency)[%]の測定結果を示す図であり、図21(b)は、第2の比較例及び第2の実施例のそれぞれにおける入力電流のTHD[%]を示す図である。図20(a)及び図20(b)の横軸は時間[ms又はμs]、図21(a)及び図21(b)の横軸は入力電力(=Vdc×Idc)[W]となっている。図21(a)及び図21(b)にも、回生時のデータ(入力電力<0)を含めている。
【0093】
図20(a)に示すように、第2の比較例でも、第1の比較例に比べると低下量は小さくなっているものの、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えの直前に電圧vMCが一旦低下している。また、電圧vINVのスパイク電圧は発生していないものの、電圧vMCには大きなスパイク電圧が発生している。
【0094】
これに対し、第2の実施例では、図20(b)に示すように、スナバキャパシタの充電による電圧vMCの低下が全く観測されていない。また、電圧vMCのスパイク電圧も、僅かではあるが小さくなっている。したがって、本実施の形態による制御装置4によれば、スナバキャパシタの充電による電圧vMCの低下と、電圧vMCにおけるスパイク電圧の発生とが抑制されていると言える。
【0095】
また、図21(a)及び図21(b)に示すように、総合効率は第2の比較例と第2の実施例でほとんど変わらないものの、第2の比較例では、プラスの入力電力に対応する力行時に限り、第1の比較例と同様に特定の入力電力の付近(具体的には2kW近傍)で、入力電流ieu,iev,iewのTHDが第2の実施例に比べて顕著に大きくなっている。また、第2の実施例では、力行時・回生時ともに、第2の比較例に比べて入力電流ieu,iev,iewのTHDが全体的に改善されている。したがって、本実施の形態による制御装置4によれば、入力電流ieu,iev,iewのTHDの上昇が抑制されていると言える。
【0096】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0097】
1 電力変換装置
2 系統電源
3 負荷
4 制御装置
10 三相単相マトリックスコンバータ
20 トランス
20a,20b コイル
30 AC/DCコンバータ
35 保護回路
C1 キャパシタ
Cf 入力キャパシタ
~G 片方向スイッチ素子
pu,Gup,Gpv,Gvp,Gpw,Gwp 片方向スイッチ素子
nu,Gun,Gnv,Gvn,Gnw,Gwn 片方向スイッチ素子
up,Svp,Swp,Sun,Svn,Swn 双方向スイッ
リアクトル
Lf 交流リアクトル
MODE1~MODE7 第1~第7のモード
Rf ダンピング抵抗

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21