(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】赤外測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3563 20140101AFI20240516BHJP
G01N 21/19 20060101ALI20240516BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20240516BHJP
G01Q 60/18 20100101ALI20240516BHJP
【FI】
G01N21/3563
G01N21/19
G01N21/17 N
G01Q60/18
(21)【出願番号】P 2020137413
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】牧 英之
(72)【発明者】
【氏名】中川 鉄馬
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/176705(WO,A1)
【文献】特開2017-123874(JP,A)
【文献】特開2014-142291(JP,A)
【文献】牧 英之,ナノカーボン光源分析装置開発,神奈川県立産業技術総合研究所研究報告,Vol.2019,日本,2019年07月31日,p.235-238
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/3563
G01N 21/19
G01N 21/17
G01Q 60/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノカーボン光源と、
試料を保持する試料台と、
前記試料と前記ナノカーボン光源との間の距離を第1の角周波数で変化させる駆動機構と、
前記ナノカーボン光源から出射され、前記試料を透過または反射された光を検出する赤外検出器と、
前記第1の角周波数のN倍(Nは自然数)の角周波数で、前記赤外検出器の出力に含まれる近接場成分を測定する信号測定器と、
前記信号測定器で得られた測定結果を処理する情報処理装置と、
を有する赤外測定装置。
【請求項2】
前記信号測定器は、前記駆動機構の駆動信号に同期した信号を参照信号として用いる、請求項1に記載の赤外測定装置。
【請求項3】
前記ナノカーボン光源は直線偏光を出射し、
前記駆動機構は、前記ナノカーボン光源により前記試料が照射され前記信号測定器で前記近接場成分が測定された後に、前記試料台または前記ナノカーボン光源を前記試料台と垂直な軸のまわりに90°回転させ、
前記ナノカーボン光源は、回転後の状態で前記試料を再度照射する、
請求項1または2に記載の赤外測定装置。
【請求項4】
前記ナノカーボン光源は、右楕円偏光を出射する第1光源と、左楕円偏光を出射する第2光源を含み、
前記信号測定器は、前記第1光源による前記試料の照射結果から第1の近接場成分を測定し、前記第2光源による前記試料の照射結果から第2の近接場成分を測定する、
請求項1または2に記載の赤外測定装置。
【請求項5】
前記ナノカーボン光源は、前記第1の角周波数と異なる第2の角周波数でオン・オフ変調され、
前記信号測定器は、前記第1の角周波数のN倍の角周波数(Nは自然数)と、前記第2の角周波数のN倍(Nは自然数)の角周波数とで、前記近接場成分を測定する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の赤外測定装置。
【請求項6】
前記情報処理装置は、前記第1の角周波数のN倍の角周波数(Nは自然数)での測定結果と、前記第2の角周波数のN倍の角周波数(Nは自然数)での測定結果に基づいて、前記ナノカーボン光源の強度変化を補正する、
請求項5に記載の赤外測定装置。
【請求項7】
前記第2の角周波数のN倍(Nは自然数)の角周波数での測定結果を前記ナノカーボン光源に負帰還するフィードバック回路、
をさらに有し、前記負帰還により前記ナノカーボン光源の強度が維持される、
請求項5に記載の赤外測定装置。
【請求項8】
前記駆動機構は、前記ナノカーボン光源を前記試料に対して相対的に走査し、
前記情報処理装置は、前記試料の赤外吸収分布を生成する、
請求項1~7のいずれか1項に記載の赤外測定装置。
【請求項9】
前記ナノカーボン光源の照射により前記試料に生じた熱膨張を測定する第2測定器、
をさらに有し、
前記情報処理装置は、前記信号測定器の測定結果と、前記第2測定器の測定結果に基づいて前記試料の特性を解析する、
請求項1~7のいずれか1項に記載の赤外測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外測定装置に関し、特にナノカーボン光源により発生する近接場を利用した赤外測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)に代表される赤外分光分析は、官能基に感度が高く、既存のスペクトルデータベースに基づく物質同定が可能であることから、原子・分子レベルでの物質の制御、細胞内の生体分子の観察などに用いられている。しかし、光は波長以下のサイズに集光できないという回折限界により、赤外分光分析の空間分解能は数ミクロンから数十ミクロン程度に制限されている。
【0003】
近年は、原子間力赤外分光法(AFM-IR:Atomic Force Microscope based Infrared Spectroscopy)と呼ばれる新しいナノスケール赤外分光法が開発されている。赤外レーザパルス光を試料に照射し、試料による赤外吸収を試料の熱膨張変化として検知する。試料に照射する赤外レーザ光のスポット径は50~100μm程度であるが、熱膨張した領域を先端径が20nm程度のAFMプローブを用いて検出するため、回折限界を超える空間分解能が得られる。
【0004】
ナノカーボン材料で形成される微細光源を用いた赤外分析装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
AFM-IRでは、外部光源として波長可変赤外レーザ光源が必要である。赤外レーザ光源は高価なうえに、ひとつの波長可変赤外レーザ光源でカバーされる波数領域は狭い。一般的なFT-IR測定で必要とされる400~4000cm-1の波数範囲をカバーするためには、波数領域の異なる複数の波長可変赤外レーザを用意しなければならない。
【0007】
本発明の一つの側面では、安価で微細な赤外光源を用いた高空間分解能、かつ高感度の赤外測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するために、実施形態では、試料とナノカーボン光源の間の距離を高速に変化させ、試料を透過または反射された光から赤外近接場成分を抽出する。
【0009】
本開示の一つの側面において、赤外測定装置は、
ナノカーボン光源と、
試料を保持する試料台と、
前記試料と前記ナノカーボン光源との間の距離を第1の角周波数で変化させる駆動機構と、
前記ナノカーボン光源から出射され、前記試料を透過または反射された光を検出する赤外検出器と、
前記第1の角周波数のN倍(Nは自然数)の角周波数で、前記赤外検出器の出力に含まれる近接場成分を測定する信号測定器と、
前記信号測定器で得られた測定結果を処理する情報処理装置と、
を有する。
【発明の効果】
【0010】
安価で微細な赤外光源を用いた高空間分解能、かつ高感度の赤外分析装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】赤外測定で用いられるナノカーボン光源の一例を示す図である。
【
図1B】赤外測定で用いられるナノカーボン光源の一例を示す図である。
【
図1C】赤外測定で用いられるナノカーボン光源の一例を示す図である。
【
図2】ナノカーボン光源により発生する電磁場の図である。
【
図4】第1実施形態の赤外測定装置の模式図である。
【
図5】近接場のロックイン検出を説明する図である。
【
図6】第2実施形態の赤外測定装置の模式図である。
【
図7】第3実施形態の赤外測定装置の模式図である。
【
図8】直線二色性イメージングを説明する図である。
【
図9】第4実施形態の赤外測定装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態では、グラフェン、カーボンナノチューブなどのナノカーボン材料を発光層とするナノカーボン光源を用いる。ナノカーボン光源と試料との間の距離を第1の角周波数ωpで変化させ、近接場成分を抽出することで、空間分解能を向上し高感度の測定を実現する。良好な構成例として、ナノカーボン光源の発光(オン・オフ)を、第1の角周波数ωpと異なる第2の角周波数ωcで切り換えて、近接場検出の感度をさらに向上する。
【0013】
図1A~
図1Cは、実施形態の赤外測定装置で用いられるナノカーボン光源の構成例を示す。ナノカーボン光源は微細加工技術による小型化が可能であり、シリコン基板、ガラス基板など、任意の基板上に形成できる。実施形態では、ナノカーボン光源を試料に近接させるため、発光層を最外層に露出させたナノカーボン光源を作製する。
【0014】
図1Aで、平坦な基板11A上に、ナノカーボン光源10として動作するナノカーボン発光素子が形成されている。基板11Aは、表面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板であってもよいし、石英基板などの絶縁基板であってもよい。ナノカーボン光源10の発光層となるナノカーボン材料は、基板11Aの上に直接成長されてもよいし、別の基板上に成長されたナノカーボン材料を、転写法などで基板11Aの上に配置してもよい。
【0015】
ナノカーボン光源10の発光層は外部に露出しているか、または厚さ1nm~数nm程度のごく薄い保護膜で覆ってもよい。ナノカーボン光源10に、電極12、及び13が接続されている。電極12、13を介してナノカーボン材料を通電加熱すると、ナノカーボン材料の温度上昇にともなう熱放射(黒体放射)により、ナノカーボン光源10は赤外発光する。ナノカーボン光源10で試料20を照射し、赤外光に感度を有する試料20の吸収スペクトルや反射スペクトルを得ることで、試料20の内部構造の測定や定量測定が可能になる。実施形態では、試料20とナノカーボン光源10の間の距離を角周波数ωpで変化させ、角周波数ωpで現れる近接場成分を利用する。
【0016】
図1Bで、断面形状が台形に加工された基板11B上に、ナノカーボン光源10が配置されている。基板11Bは、たとえば円錐台、角錐台等に加工されており、試料20と向かい合う面にナノカーボン光源10と、電極12、及び13が形成されている。ナノカーボン光源10の発光層は、試料20に向かって露出している。試料20に対するナノカーボン光源10の相対位置、または試料20とナノカーボン光源10の間の距離を、角周波数ωpで変化させ、角周波数ωpで変調された近接場成分を利用して測定を行う。
【0017】
図1Cで、ナノカーボン光源10は、プローブ15の先端に設けられている。
図1Cの(A)は使用態様の一例を示す図、(B)は(A)のA方向から見た図である。プローブ15は、カンチレバー16と、カンチレバー16の端部で第1の主面161から突出する突起17を有する。プローブ15は、酸化膜付きのシリコン、窒化シリコンなどで作製され得る。突起17の先端に、ナノカーボン光源10として動作するナノカーボン発光素子が形成されている。突起17には、ナノカーボン光源10に接続される電極12a、及び13aが形成されている。
【0018】
カンチレバー16の第1の主面161に電極12b、及び13bが形成され、突起17に形成されている電極12a、及び13aとそれぞれ接続されている。使用時に、プローブ15は突起17を試料20に向けて配置される。カンチレバー16の振動により、試料20に対するナノカーボン光源10の位置が、角周波数ωpで変化する。カンチレバー16の第2の主面162は、後述するように、ナノカーボン光源10の振動方向の位置を機械的または光学的に検出するために用いられてもよい。
【0019】
図2は、ナノカーボン光源10により発生する電磁場の模式図である。基板11に形成されたナノカーボン光源10から発生する赤外光は、遠隔場FFとして取り出されて測定に用いられるだけでなく、近接場NFとして測定に用いられ得る。遠隔場光は、自由空間を伝搬する光であるが、近接場光は、媒質の界面近傍にのみ発生する非伝搬光である。
【0020】
図2の例では、近接場NFは、ナノカーボン光源10の発光層の界面近傍にのみ発生する。近接場光が得られるように、ナノカーボン光源10の発光面が露出しているのであれば基板11の形状には限定がなく、
図1Aのような平坦な基板11Aを用いてもよいし、
図1Cのようにプローブ15の形状に加工されていてもよい。
【0021】
近接場の強度は、光源からの距離に依存して指数関数的に減衰する。遠隔場と異なり、近接場の領域は回折限界に関係なく、光源の大きさに依存する。したがって、空間分解能SRは、ナノカーボン光源10のサイズで決まる。ナノカーボン光源10は電子線リソグラフィなどの微細加工技術により、ナノメートルオーダーまで微細化することができる。究極的には、1本の単層カーボンナノチューブを光源として用いることができ、従来の赤外分光の回折限界である「数ミクロン」と比べて、ケタ違いに高い空間分解能SRで赤外分析が可能になる。
【0022】
ナノカーボン光源10により生成される近接場NFは、微小な穴や鋭いプローブの先端に、外部からレーザ光を照射することにより発生する近接場とは発生原理が異なる。ナノカーボン光源10から発生する近接場NFは、ナノカーボン光源10の発光面自体から直接発生する。
【0023】
図3は、実施形態の赤外測定の原理を示す図である。ナノカーボン光源10から発生する近接場NFは、試料20とナノカーボン光源10を近接させ、近接場光を散乱光に変換することで取り出すことができる。
図3の例では、試料20からの散乱光は、透過型の光学系で試料20を透過した光Lとして描かれている。試料20を透過した光Lには、試料20で散乱または吸収を受けた近接場光の他に、遠隔場光も含まれている。
【0024】
試料20による近接場光の散乱や吸収は、反射型の光学系で検出されてもよい。たとえば、傾斜面をもつプローブの先端または側面にナノカーボン光源10を配置することで、試料20で散乱または吸収を受けた近接場光を、反射光学系でピックアップすることができる。
【0025】
近接場NFは、ナノカーボン光源10の表面から十分に近い位置(通常は波長λ程度)に発生する強度の高い電磁場である。試料20に対するナノカーボン光源10の相対位置を、波長λ程度の振幅と角周波数ωpで変化させると、試料20により散乱光に変換された近接場光も、角周波数ωpで強度変調される。ナノカーボン光源10を試料20に対して、角周波数ωpで上下に振動させてもよいし、試料20を保持する試料台をナノカーボン光源10に対して角周波数ωpで駆動してもよい。
【0026】
試料20を透過または反射された光から、角周波数ωpで変調された近接場光成分を抽出することで、試料20の特性や内部構造を測定することができる。以下で、近接場成分を検出する赤外測定装置の具体的な構成例を説明する。
【0027】
<第1実施形態>
図4は、第1実施形態の赤外測定装置30Aの模式図である。赤外測定装置30Aは、ナノカーボン光源10と、赤外検出器33と、信号測定器34と、情報処理装置35と、駆動機構36Aを有する。情報処理装置35は、信号測定器34と駆動機構36Aに接続されており、駆動機構36Aを制御するとともに、信号測定器34で得られた信号を解析して、測定情報を出力する。
【0028】
ナノカーボン光源10は、
図1A~
図1Cのいずれの光源であってもよい。ナノカーボン光源10は、試料台40の試料保持面(
図4では上面)と対向するように配置されている。試料台40の試料保持面と赤外検出器33の間に、光学素子31により光パスが形成されている。
【0029】
図4の例では、光学素子31として放物ミラーを用いて、透過型の光パスが形成されているが、この例に限定されない。光学素子31は放物ミラーに限定されず、平面ミラー、楕円面ミラー等を用いてもよいし、ミラーを用いずに直接、赤外検出器33で検出してもよい。透過型の光パスに替えて、反射型の光パスを形成してもよい。赤外検出器33の光入射側に分光計39を設けて、光学素子31を介して、または光学素子31を用いずに直接、試料20で反射された光のスペクトル情報を取得してもよい。
【0030】
赤外検出器33は、受光した光の強度に応じた電気信号を出力する。信号測定器34は赤外検出器33から入力された電気信号から近接場NFの成分を抽出し、抽出した近接場成分を情報処理装置35に供給する。情報処理装置35は、近接場成分に基づいて、試料20の特性、内部構成などを解析し、解析結果を測定情報として出力する。
【0031】
測定時の赤外測定装置30Aの動作は以下のとおりである。駆動機構36Aは、情報処理装置35の制御の下に、ナノカーボン光源10と試料20の間の距離を、角周波数ωpで変化させる(S1)。試料20を保持する試料台40が配置される面をX-Y面、X-Y面と直交する高さ方向をZ方向とする。駆動機構36Aは、ナノカーボン光源10が形成された基板11を、Z軸と平行な方向に振動させてもよいし、試料台40をZ軸と平行な方向に振動させてもよい。
【0032】
ナノカーボン光源10と試料20の間の距離が角周波数ωpで変化することにより、ナノカーボン光源10から角周波数ωpで近接場NFが発生する(S2)。試料20からの光L(
図4の例では透過光)には、角周波数ωpで変調され、試料20によって散乱または吸収された近接場光と、試料20を透過した遠隔場光とが含まれている。
【0033】
光学素子31により赤外検出器33に導かれた光Lは、電気信号に変換されて信号測定器34に入力される。信号測定器34は、電気信号に含まれる近接場成分を、角周波数N×ωP(Nは自然数)で検出する(S3)。信号測定器34がロックインアンプである場合は、駆動機構36Aまたは情報処理装置35から得られる角周波数ωPに同期する信号を参照信号としてロックインアンプに入力してもよい。入力された電気信号を角周波数N×ωp(Nは自然数)でロックイン検出することで、近接場成分のみを抽出することができる。
【0034】
図5は、近接場成分のロックイン検出を説明する図である。
図5の上側は信号測定器34に入力される信号を模式的に表し、下側はロックイン検出された信号を模式的に表す。信号測定器34に入力される透過光信号の強度は、遠隔場(FF)のみの区間と、遠隔場(FF)と近接場(NF)を合わせた区間で、周期的に(角周波数ωpで)変化する。信号測定器34で、N×ωp(Nは自然数)の周期でロックイン検出することで、近接場NFの成分だけを抽出できる。
【0035】
Nが2以上の場合、高次の振動数を用いて近接場の成分が検出される。近接場NFの大きさはナノカーボン光源10からの距離が大きくなると指数関数的に減少するので、角周波数ωpにおける散乱光の距離依存性(ナノカーボン光源10と試料20の間の距離への依存性)は、非調和振動になる。赤外検出器33からの信号を高次の振動数であるN×ωp(N=2,3,…)で復調することで、近接場成分を高感度に検出することができる。
【0036】
高次の振動数を用いることは、ロックイン検出により遠隔場も検出されてしまう場合、例えば、ナノカーボン光源10の振動が大きくて、振動により遠隔場も変化してしまう場合などに、近接場の抽出精度を上げるのに有効である。
【0037】
信号測定器34としてロックインアンプを用いる場合、赤外検出器33の入射側にモノクロメータ、マイケルソン干渉計などの分光計39を配置することで、ロックインアンプでスペクトルを得ることができる。マイケルソン干渉計を用いる場合は、光路差によって変動する干渉成分であるインターフェログラム(合成波形スペクトル)を測定し、フーリエ変換することで、スペクトルを得ることができる。
【0038】
信号測定器34として、ロックインアンプに替えて、スペクトラムアナライザー、パワーメータ、周波数カウンタなどを用いてもよい。これらの信号測定装置は、様々な周波数に同期した信号を同時に測定することができるため、角周波数ωpの近接場成分を抽出するとともに、後述する実施例のように、別の周波数の変調成分を検出することができる。
【0039】
情報処理装置35は、抽出された近接場成分を解析して、試料20の特性を推定し、出力する。たとえば、ナノカーボン光源10で生成される近接場の強度と、信号測定器34で抽出された近接場成分の強度との差、または比から求まる試料20の吸収スペクトルに基づいて、赤外波長の光に吸収感度を持つ特定の細胞や分子構造の有無、量などを特定してもよい。
【0040】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態の赤外測定装置30Bの模式図である。第2実施形態では、X-Y面内で、ナノカーボン光源10を試料20に対して相対的に走査して、赤外イメージングを実現する。
【0041】
赤外測定装置30Bは、ナノカーボン光源10と、赤外検出器33と、信号測定器34と、情報処理装置35と、駆動機構36Bを有する。信号測定器34の機能によっては、赤外検出器33の入射面側に分光計39を配置してもよい。駆動機構36Bの動作を除いて、装置の全体構成は、第1実施形態の赤外測定装置30Aと同様である。
【0042】
測定時の赤外測定装置30Bの動作は以下のとおりである。駆動機構36Bは、情報処理装置35の制御の下に、試料20に対するナノカーボン光源10のZ方向の相対位置を角周波数ωpで変化させながら(S1-1)、X-Y面内でナノカーボン光源10を試料20に対して走査する(S1-2)。角周波数ωpの振動と、X-Y面内での走査は、それぞれ独立に制御されてもよい。たとえば、ナノカーボン光源10が形成された基板11をZ方向に振動させ、試料20を保持する試料台40をX-Y面内で駆動してもよい。
【0043】
ナノカーボン光源10と試料20の間の距離が角周波数ωpで変化することにより、ナノカーボン光源10から角周波数ωpで近接場NFが発生する(S2)。試料20からの光L(
図6の例では透過光)には、角周波数ωpで変調され、試料20によって散乱または吸収された近接場光と、試料20を透過した遠隔場光とが含まれている。
【0044】
試料20を透過した光は赤外検出器33で電気信号に変換されて、信号測定器34に入力される。信号測定器34は、電気信号に含まれる近接場成分を、角周波数N×ωP(Nは自然数)で検出する(S3)。情報処理装置35は、ナノカーボン光源10の試料20に対するX-Y面内での相対位置に基づいて、試料20の吸収スペクトルをX-Y面内でマップする。これにより、赤外吸収イメージングが可能になる。
【0045】
近接場を利用することで、回折限界を超えた高い空間分解能で赤外吸収イメージングが可能になる。空間分解能はナノカーボン光源10のサイズに依存することから、微細加工で非常に小さなナノカーボン光源10を形成することで、高解像の赤外測定画像が得られる。
【0046】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態の赤外測定装置30Cの模式図である。第3実施形態では、所定の方向に配向したナノカーボンチューブで作製されるナノカーボン光源10Cを用いて、偏光の赤外近接場を得る。
【0047】
赤外測定装置30Cは、ナノカーボン光源10Cと、赤外検出器33と、信号測定器34と、情報処理装置35と、駆動機構36Cを有する。信号測定器34の機能に応じて、赤外検出器33の入射面側に分光計39を配置してもよい。ナノカーボン光源10Cを用いることと、駆動機構36Cの動作を除いて、装置の全体構成は第1実施形態、及び第2実施形態と同様である。
【0048】
ナノカーボン光源10Cは、基板11の試料台40との対向面11sに、所定の方向に配向したカーボンナノチューブの配列を有する。カーボンナノチューブを対向面11sと平行な方向に成長または配置することで、カーボンナノチューブの配向方向に振動する直線偏光が得られる。カーボンナノチューブを対向面11sと垂直な方向に成長または配置することで、カーボンナノチューブのらせんの方向に応じた円偏光または楕円偏光が得られる。
【0049】
図7の例では、直線偏光を出力するナノカーボン光源10Cを用いて、直線偏光の近接場を利用して、光学的異方性を有する試料20Cを赤外測定する。ナノカーボン光源10Cが直線偏光を発光する場合、ナノカーボン光源10が形成された基板11、または試料20を保持する試料台40をZ軸まわりに回転することで、試料20に対する直線偏光の振動の方向、すなわち偏光面の方向を変えることができる。
【0050】
光学的な異方性を有する試料20は、入射する直線偏光の振動方向によって吸収率が異なる。直線偏光の近接場を角周波数ωpで変調しながら、X-Y面内でナノカーボン光源10を試料20に対して相対的に走査し、直線偏光の方向を変えて再度、試料20を走査することで、試料20の異方性の分布を取得することができる。
【0051】
測定時の赤外測定装置30Cの動作は以下のとおりである。駆動機構36Cは、情報処理装置35の制御の下に、試料20に対するナノカーボン光源10CのZ方向の相対位置を角周波数ωpで変化させながら(S1-1)、X-Y面内でナノカーボン光源10Cを試料20に対して走査する(S1-2)。角周波数ωpの振動と、X-Y面内での走査は、それぞれ独立に制御されてもよい。たとえば、ナノカーボン光源10が形成された基板11をZ方向に振動させ、試料20を保持する試料台40をX-Y面内で駆動してもよい。
【0052】
ナノカーボン光源10と試料20の間の距離が角周波数ωpで変化することにより、ナノカーボン光源10から角周波数ωpで直線偏光の近接場NFが発生する(S2)。試料20からの光L(
図7の例では透過光)には、角周波数ωpで変調され、試料20によって散乱または吸収された直線偏光の近接場光と、試料20を透過した直線偏光の遠隔場光とが含まれている。
【0053】
試料20を透過した光は赤外検出器33で電気信号に変換されて、信号測定器34に入力される。信号測定器34は、電気信号に含まれる直線偏光の近接場成分を、角周波数N×ωP(Nは自然数)で検出する(S3)。情報処理装置35は、ナノカーボン光源10の試料20に対するX-Y面内での相対位置と関連付けて、測定結果を保存する。
【0054】
次に、駆動機構36Cは、情報処理装置35の制御の下に、試料20に対するナノカーボン光源10の向きまたは方位を90°回転させる(S1-3)。ナノカーボン光源10が形成された基板11を光軸まわりに90°回転させてもよいし、試料20を保持する試料台40をZ軸まわりに90°回転させてもよい。
【0055】
方位角を90°回転させた後に、駆動機構36Cは、試料20に対するナノカーボン光源10CのZ方向の相対位置を角周波数ωpで変化させながら(S1-1)、X-Y面内で試料20に対してナノカーボン光源10Cを相対的に走査する(S1-2)。試料20に入射する近接場光の偏波の向きが異なるため、回転前と異なる吸収スペクトルが得られる。情報処理装置35で2つの吸収スペクトルの差を計算することで、直線二色性の正負や大きさを評価して試料20の配向性を推定することができる。
【0056】
図8は、直線二色性イメージングを説明する模式図である。直線二色性とは、偏光の電場ベクトル(または磁場ベクトル)の振動方向が90度異なる2つの直線偏光に対する物質の吸収度の差によって生じる光学特性である。上述のように、試料20が光学的異方性を持つ場合、入射する直線偏光の振動方向によって吸収率が異なる。
【0057】
信号測定器34で、N×ωp(Nは自然数)の角周波数で、直交する2つの直線偏光の近接場に対する吸収率(m
//,m
⊥)をそれぞれ測定する。
図7を参照して説明したように、直線偏光の振動の方向を90°回転させ、Z方向へ同じ角周波数ωpで振動させ、同じ走査軌跡、同じタイミングで直線偏光を試料20に対し相対的に走査して、吸収率m
//とm
⊥を測定する。
【0058】
情報処理装置35で、各走査点での2つの吸収率の差(m//-m⊥)を計算する。差分の大きさが正になるか負になるかで、試料20の光学的な異方性とその分布を評価することができる。情報処理装置35が、画像信号への変換を含むデジタル画像処理機能をもつ場合は、測定値の分布を画像化することで、定量的で高解像の直線二色性イメージングが実現する。赤外測定装置30Cは、延伸などにより配向を持たせたポリマーフィルムや繊維の評価、配向性を持つ生体組織の機能評価などに応用することができる。
【0059】
<第4実施形態>
図9は、第4実施形態の赤外測定装置30Dの模式図である。第4実施形態では、ナノカーボン光源10または試料台40の角周波数ωpでの振動に加えて、ナノカーボン光源10のオン・オフを、ωpと異なる第2の角周波数ωcで切り換える。
【0060】
赤外測定装置30Dは、ナノカーボン光源10と、赤外検出器33と、信号測定器としてのデュアルモードロックインアンプ37と、情報処理装置35と、駆動機構36Bとを有する。また、フィードバック回路38が設けられていてもよい。フィードバック回路38と情報処理装置35は一体的に構成されていてもよいし、情報処理装置35の中にフィードバック回路38が組み込まれていてもよい。赤外検出器33の入射側に分光計39を配置してもよい。ナノカーボン光源10と試料20との位置関係や、光学パス等の構成は第2実施形態と同様である。
【0061】
吸収測定やスペクトル測定などの光学測定では、光源の揺らぎなどによって、測定強度やスペクトルがドリフトすることがある。ナノカーボン光源10は、10GHz程度の超高速変調が可能であり、近接場発生の角周波数ωpよりも高速の角周波数ωcで発光自体を変調することができる。ナノカーボン光源10と試料20を近接配置して、近接場NFの発生を角周波数ωpで変調し、発光を角周波数ωcで変調することで、試料20を透過した(または反射された)光に、2つの角周波数での変調成分が含まれる。
【0062】
図9の構成例では、試料20の透過光を赤外検出器33で受光し、デュアルリファレンスモードを搭載したデュアルモードロックインアンプ37で、角周波数ωpとωcのそれぞれで信号を測定する。デュアルモードロックインアンプ37に替えて、スペクトラムアナライザー、パワーメータ、周波数カウンタなどの信号測定器を用いてもよい。これらの信号測定器を用いる場合は、複数の周波数に同期した信号を同時に測定できるため、角周波数ωpの近接場成分と、角周波数ωcの遠隔場成分を同時に測定することができる。
【0063】
ナノカーボン光源10の揺らぎなどに起因するドリフトを、角周波数ωcの参照光(遠隔場光)で補正することで、揺らぎの影響が抑制された高感度な測定が可能になる。ナノカーボン光源10の発光自体を角周波数ωcで変調することで、ωpの周期で現れるωcの変調近接場と、ωcの変調遠隔場光(参照光)、またはこれら2つの比や差分を高感度で計測することができる。
【0064】
一般的な光学系で、赤外測定装置30Dの機能を実現しようとすると、光源から出射された光をビームスプリッタで分岐し、それぞれの光を2つの異なる周期の光チョッパで別々に変調し、2つの光を再度ビームスプリッタで合波するという、複雑な光学系が必要である。また、通常の赤外レーザ光源では超高速のオン・オフ変調や任意の周波数でのオン・オフ変調は困難である。ナノカーボン光源10を用いることで、角周波数ωpで光源自体から近接場を発生させるとともに、高速のオン・オフ変調をかけて、光分岐や合波なしに、一つの光軸上で同期検波が可能になる。
【0065】
デュアルモードロックインアンプ37やその他の信号測定器で、ωpの成分とωcの成分の割合を一度に測定するために、2つの角周波数成分の分数比を表す信号や、差周波、和周波の信号を測定してもよい。情報処理装置35にて、角周波数ωpとωcでの計測結果に基づいてナノカーボン光源の強度変化を補正し、測定感度を高めてもよい。あるいは、フィードバック回路38により、角周波数ωcの信号を負帰還することで、ナノカーボン光源10の強度を安定化させてもよい。角周波数ωcとωpの高調波(N×ωcとN×ωp、Nは2以上の整数)を利用して、さらに感度を向上させてもよい。
【0066】
測定時の赤外測定装置30Dの動作は以下のとおりである。駆動機構36Bは、情報処理装置35の制御の下に、試料20に対するナノカーボン光源10のZ方向の相対位置を角周波数ωpで変化させながら(S1-1)、X-Y面内でナノカーボン光源10Cを試料20に対して走査する(S1-2)。このとき、ナノカーボン光源10は、ωpと異なる角周波数ωcで発光しており(S2-1)、ωcで変調された近接場が角周波数ωpで発生する(S2-2)。
【0067】
試料20からの光L(
図9の例では透過光)には、試料20によって散乱または吸収されたωcの変調近接場光と、試料20を透過したωcの変調遠隔場光とが含まれている。このうち、ωcの変調近接場光は角周波数ωpで発生する。
【0068】
試料20を透過した光は赤外検出器33で電気信号に変換されて、デュアルモードロックインアンプ37に入力される。デュアルモードロックインアンプ37は、入力電気信号に対し、角周波数ωcとωpで、それぞれ近接場光を測定する(S3D)。あるいは、ωcとωpの比、和周波、差周波を測定してもよい。ωcの変調遠隔場光は参照光として用いられてもよい。情報処理装置35は、デュアルモードロックインアンプ37の測定結果を、試料20上のX-Y座標と関連付けて保存する。フィードバック回路38にて、測定されたωcの変調近接場光の強度をナノカーボン光源10に負帰還して、ナノカーボン光源10の強度を安定化してもよい(S4)。
【0069】
情報処理装置35が、画像信号への変換を含むデジタル画像処理機能をもつ場合は、試料20のイメージングが可能になる。試料20の吸光度や吸光度の差の分布を画像化することで、定量的で高解像の直線二色性イメージングが実現する。第4実施形態では、ナノカーボン光源10の強度が安定しているので、近接場を利用して、試料20の高解像かつ高精度の赤外測定が可能になる。
【0070】
<第5実施形態>
図10は、第5実施形態の赤外測定装置30Eの模式図である。第5実施形態では、近接場光を用いた試料20の測定に、AFM-IRを組み合わせて、試料20の測定精度を向上する。
【0071】
AFM-IRでは、赤外吸収による試料20の熱膨張をAFMで観測し、赤外吸収に相当する2次元像を得る。原子間または分子間に働くファンデルワールス力によるカンチレバーのたわみを用いて、試料20による赤外吸収特性の分布を画像化する。
【0072】
赤外測定装置30Eは、ナノカーボン光源10と、赤外検出器33と、信号測定器34と、情報処理装置35と、駆動機構36Bと、位置測定光学系51と、位置測定器55を有する。ナノカーボン光源10として、
図1Cのように、プローブ15の先端に設けられたプローブ光源を用いる。位置測定光学系51と位置測定器55を除いて、近接場光による赤外測定の構成、手法は、第2実施形態の赤外測定装置30Bと同じである。AFM-IRによる試料20の表面形状の測定は、第3実施形態の赤外測定装置30C、または第4実施形態の赤外測定装置30Dと組み合わせてもよい。
【0073】
位置測定光学系51は、外部レーザ光源(図中、「LD」と表記)511と、光学素子512、及び513と、フォトディテクタ514を有する。試料20は、プローブ15の先端のナノカーボン光源10で照射されると、赤外光を吸収する。吸収された光エネルギーは熱エネルギーに変換されて、試料20が熱膨張する。その結果、カンチレバー16がたわみ、試料20に対するプローブ15の高さ位置(Z方向の位置)が変化する。このプローブ15のZ方向の変位が赤外光の吸収量と相関する。試料20の熱膨張によって、ωpで振動するプローブの振動の中心位置が変化し、高さ方向の変位を検出できるため、熱膨張に相関する赤外吸収を測定できる。直接、熱膨張による高さ変化を測定する以外に、振動するプローブの位相の変化や共振周波数の変化を測定することで、熱膨張を検出して赤外吸収を測定してもよい。
【0074】
位置測定光学系51は、プローブ15のカンチレバー16の第2の主面162での光反射を利用して、プローブ15のZ方向の変位を検出する。検出結果、すなわちフォトディテクタ514の出力は、位置測定器55の入力に接続される。位置測定器55は、たとえば、プリアンプとロックインアンプで構成されており、フォトディテクタ514の検出結果から、Z方向の変位量を測定する(S5)。測定されたZ方向の変位は、情報処理装置35に供給されて、赤外吸収に相当する分析やイメージングに用いられる。
【0075】
図10では、プローブ15のたわみ(変位)を光テコ方式で検出しているが、ピエゾ歪抵抗を利用した自己検知方式で検出してもよい。
図1Cのように、プローブ15の突起17の先端にナノカーボン光源10が配置されている場合は、試料20の表面とプローブ15の先端との間に一定距離を保つノンコンタクトモードでプローブ15のZ方向の変位を検出してもよい。ナノカーボン光源10が、突起17の側面に形成されている場合は、コンタクトモードやタッピングモードを用いてもよい。
【0076】
図10のように、プローブ15の変位を直接測定することに替えて、プローブ15のたわみによる振幅、位相、振動数などの情報を検出してもよい。これらの情報を情報処理装置35で高さ情報に変換して、赤外吸収イメージを生成してもよい。
【0077】
信号測定器34による赤外測定結果と、位置測定器55による赤外測定結果の平均をとって最終的な赤外吸収分布を生成してもよいし、一方の測定データを他方の測定データの補正用に用いてもよい。
【0078】
プローブ型のナノカーボン光源10を用いることで、赤外光の吸収による熱膨張と、プローブ15のZ方向の変位とが直結し、高精度の測定とイメージングが実現される。試料20の熱膨張によるカンチレバー16の変位を、第4実施形態と組み合わせる場合は、ナノカーボン光源10を、角周波数ωcでオン・オフ変調し、位置測定器55で、ωcに同期して熱膨張信号を測定してもよい。
【0079】
以上、特定の実施形態にもとづいて本発明を説明してきたが、本発明は上述した構成例に限定されない。情報処理装置35としてスマートフォン等の移動端末を用いて、赤外測定結果を、サーバやクラウドに送信してもよい。ナノカーボン光源10の強度は電圧制御により調整可能なので、試料20の種類に応じて適切な強度の赤外光を照射してもよい。
【0080】
ナノカーボン光源の角周波数ωpでの振動、角周波数ωcでのオン・オフ変調、光源の発光強度などは、情報処理装置35と別個に設けられた光源制御用の集積回路で制御されてもよい。
【0081】
直線偏光のナノカーボン光源10Cに替えて、円偏光または楕円偏光を出射するナノカーボン光源を用いてもよい。円偏光は楕円偏光の特殊な場合(楕円偏光のうち各方向の振幅の大きさが等しいものが円偏光)に該当するので、以下で楕円偏光というときは、円偏光も含むものとする。左楕円偏光を出射するナノカーボン光源(第1光源)と、右楕円偏光を出射するナノカーボン光源(第2光源)を隣接して配置させてもよい。時計回りのらせん構造をもつカーボンナノチューブと、反時計回りのらせん構造をもつカーボンナノチューブでそれぞれナノカーボン光源を作製することで、第1光源と第2光源は得られる。
【0082】
一方の光源をオンにして試料20を走査した後に、他方の光源をオンにして同じ軌跡で試料20を再走査する。信号測定器34は、たとえば、前記第1光源による前記試料の照射結果から第1の近接場成分を測定した後に、前記第2光源による前記試料の照射結果から第2の近接場成分を測定してもよい。たとえば、信号測定器34は、左円偏光に対する試料20の吸収率mLを測定し、その後、右円偏光に対する試料20の吸収率mRを測定してもよい。情報処理装置35で吸収率の差分(mL-mR)を計算し、差分の正負によって分子のキラリティの分布を特定してもよい。
【0083】
いずれの場合も、ナノカーボン光源10から赤外光を直接、試料20に照射することができるので、外部赤外レーザを用いる場合と比較して、近接場を高感度で測定することができる。
【符号の説明】
【0084】
10、10C ナノカーボン光源
11、11A、11B 基板
12、13 電極
15 プローブ
16 カンチレバー
161 第1の主面
162 第2の主面
17 突起
20 試料
30A、30B、30C、30D、30E 赤外測定装置
31 光学素子
33 赤外検出器
34 信号測定器
35 情報処理装置
36、36A、36B 駆動機構
37 デュアルモードロックインアンプ
38 フィードバック回路
39 分光計
40 試料台
51 位置測定光学系
55 位置測定器(第2測定器)
FF 遠隔場
NF 近接場
L (試料からの)光