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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】荷重検出機能付軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/00 20060101AFI20240516BHJP
   F16C 33/44 20060101ALI20240516BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20240516BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C33/44
F16C19/16
G01L5/00 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020037355
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021139431
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 弘詞
(72)【発明者】
【氏名】山口 創太
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-152565(JP,A)
【文献】特開2017-160974(JP,A)
【文献】特開2008-019933(JP,A)
【文献】特開2001-349898(JP,A)
【文献】特開2016-084843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 41/00
F16C 33/44
F16C 19/16
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1対向面を有する静止輪と、前記第1対向面に対向する第2対向面を有し、前記静止輪に対して回転する回転輪と、前記第1対向面と前記第2対向面との間に配置された転動体と、前記転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受と、
前記静止輪に対する位置が固定されているとともに、前記第1対向面と前記第2対向面との間にある前記転がり軸受の内部空間である軸受空間に配置されている第1電極及び第2電極と、
前記保持器に対する位置が固定されているとともに、前記軸受空間に配置されている第3電極と、
前記第1電極及び前記第2電極の表面に形成された第1絶縁膜と、
前記第1電極及び前記第2電極に接続されている計測処理部とを備え、
前記第3電極は、前記第1電極との間の距離である第1距離及び前記第2電極との間の距離である第2距離が前記回転輪の前記静止輪に対する回転に伴って変化するように配置されており、
前記第1距離の時間変化の位相は、前記第2距離の時間変化の位相とずれており、
前記計測処理部は、前記第1電極及び前記第2電極からの出力に基づいて前記保持器の回転速度である第1回転速度を算出するとともに、前記第1回転速度と前記回転輪の回転速度である第2回転速度とに基づいて前記転がり軸受に加わるアキシャル荷重を算出するように構成されており
前記静止輪に対する位置が固定されているとともに、前記軸受空間に配置されている第4電極及び第5電極と、
前記回転輪に対する位置が固定されているとともに、前記軸受空間に配置されている第6電極と、
前記第4電極及び前記第5電極の表面に形成された第2絶縁膜とをさらに備え、
前記第6電極は、前記第4電極との間の距離である第3距離及び前記第5電極との間の距離である第4距離が前記回転輪の前記静止輪に対する回転に伴って変化するように配置されており、
前記第3距離の時間変化の位相は、前記第4距離の時間変化の位相とずれており、
前記第1電極及び前記第2電極は、前記転がり軸受の軸方向において、前記保持器を挟 んで前記第4電極及び前記第5電極とは反対側に配置されており、
前記計測処理部は、前記第4電極及び前記第5電極に接続されているとともに、前記第4電極及び前記第5電極からの出力に基づいて前記第2回転速度を算出するように構成されている、荷重検出機能付軸受装置。
【請求項2】
前記軸受空間に配置されている環状の第1基板をさらに備え、
前記第1電極及び前記第2電極は、前記転がり軸受の周方向に沿って前記第1基板上に配置されている、請求項1に記載の荷重検出機能付軸受装置。
【請求項3】
前記保持器は、導電性材料により形成されており、
前記保持器の前記転動体を保持している部分は、前記第3電極を構成している、請求項1又は請求項2に記載の荷重検出機能付軸受装置。
【請求項4】
前記軸受空間に配置されている環状の第2基板をさらに備え、
前記第4電極及び前記第5電極は、前記転がり軸受の周方向に沿って前記第2基板上に配置されている、請求項に記載の荷重検出機能付軸受装置。
【請求項5】
前記計測処理部は、算出された前記アキシャル荷重のデータを無線送信する無線送信装置を有する、請求項又は請求項に記載の荷重検出機能付軸受装置。
【請求項6】
前記計測処理部は、前記第1電極及び前記第2電極からの出力並びに前記第4電極及び前記第5電極からの出力に基づいて蓄電を行う蓄電装置をさらに有し、
前記無線送信装置は、前記蓄電装置により給電されて動作するように構成されている、請求項に記載の荷重検出機能付軸受装置。
【請求項7】
前記計測処理部は、無線送信された前記第1回転速度及び前記第2回転速度を受信するように構成されている受信装置をさらに有する、請求項又は請求項に記載の荷重検出機能付軸受装置。
【請求項8】
第1対向面を有する静止輪と、前記第1対向面に対向する第2対向面を有し、前記静止輪に対して回転する回転輪と、前記第1対向面と前記第2対向面との間に配置された転動体と、前記転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受と、
前記静止輪に対する位置が固定されているとともに、前記転がり軸受の内部に配置されている第1電極及び第2電極と、
前記保持器に対する位置が固定されているとともに、前記転がり軸受の内部に配置されている第3電極と、
前記静止輪に対する位置が固定されているとともに、前記転がり軸受の内部に配置されている第4電極及び第5電極と、
前記第1電極及び前記第2電極の表面に形成された第1絶縁膜と、
前記第4電極及び前記第5電極の表面に形成された第2絶縁膜と、
前記第1電極及び前記第2電極並びに前記第4電極及び前記第5電極に接続されている計測処理部とを備え、
前記第3電極は、前記第1電極との間の距離である第1距離、前記第2電極との間の距離である第2距離、前記第4電極との間の距離である第3距離及び前記第5電極との間の距離である第4距離が前記回転輪の前記静止輪に対する回転に伴って変化するように配置されており、
前記第1距離の時間変化の位相は、前記第2距離の時間変化の位相とずれており、
前記第3距離の時間変化の位相は、前記第4距離の時間変化の位相とずれており、
前記第1電極及び前記第2電極は、前記転がり軸受の軸方向において、前記保持器を挟んで前記第4電極及び前記第5電極とは反対側に配置されており、
前記計測処理部は、前記第1電極及び前記第2電極からの出力の振幅と前記第4電極及び前記第5電極からの出力の振幅との差に基づいて前記転がり軸受に加わるアキシャル荷重を算出するように構成されている、荷重検出機能付軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷重検出機能付軸受装置に関する。より具体的には、転がり軸受に加わるアキシャル荷重の検出が可能な軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2017-160974号公報)には、センサ付軸受装置が記載されている。特許文献1に記載のセンサ付軸受装置は、転がり軸受と、第1センサ及び第2センサとを有している。転がり軸受は、内輪(回転輪)と、外輪(固定輪)と、内輪及び外輪の間に配置されている転動体と、転動体を保持している保持器とを有している。第1センサは、保持器の外輪に対する回転速度を検知する。第2センサは、内輪の外輪に対する回転速度を検知する。
【0003】
転がり軸受にアキシャル荷重が加わると、軌道輪(内輪又は外輪)と転動体との接触角が変化する。この接触角の変化に起因して、転動体の公転速度が変化し、その結果、保持器の回転速度が変化する。そのため、第1センサにより検知された保持器の回転速度と第2センサにより検知された内輪の回転速度との比を算出することにより、転がり軸受に加わるアキシャル荷重を算出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-160974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のセンサ付軸受装置において、第1センサ及び第2センサは転がり軸受より外の側面に配置されている。そのため、特許文献1に記載のセンサ付軸受装置は、これらのセンサを配したことにより寸法が大きくなり、既存の機械装置に使用されている転がり軸受と置き換えることが困難である。
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本発明は、既存の転がり軸受と同一寸法のままで置き換え可能な荷重検出機能付軸受装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様に係る荷重検出機能付軸受装置は、第1対向面を有する静止輪と、第1対向面に対向する第2対向面を有し、静止輪に対して回転する回転輪と、第1対向面と第2対向面との間に配置された転動体と、転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受と、静止輪に対する位置が固定されているとともに、転がり軸受の内部に配置されている第1電極及び第2電極と、保持器に対する位置が固定されているとともに、転がり軸受の内部に配置されている第3電極と、第1電極及び第2電極の表面に形成された第1絶縁膜と、第1電極及び第2電極に接続されている計測処理部とを備える。第3電極は、第1電極との間の距離である第1距離及び第2電極との間の距離である第2距離が回転輪の静止輪に対する回転に伴って変化するように配置されている。第1距離の時間変化の位相は、第2距離の時間変化の位相とずれている。計測処理部は、第1電極及び第2電極からの出力に基づいて保持器の回転速度である第1回転速度を算出するとともに、第1回転速度と回転輪の回転速度である第2回転速度とに基づいて転がり軸受に加わるアキシャル荷重を算出するように構成されている。
【0008】
上記の荷重検出機能付軸受装置は、さらに、転がり軸受の内部に配置されている環状の第1基板を備えていてもよい。第1電極及び第2電極は、転がり軸受の周方向に沿って第1基板上に配置されていてもよい。
【0009】
上記の荷重検出機能付軸受装置において、保持器は、導電性材料により形成されていてもよい。保持器の転動体を保持している部分は、第3電極を構成していてもよい。
【0010】
上記の荷重検出機能付軸受装置は、さらに、静止輪に対する位置が固定されているとともに、転がり軸受の内部に配置されている第4電極及び第5電極と、回転輪に対する位置が固定されているとともに、転がり軸受の内部に配置されている第6電極と、第4電極及び第5電極の表面に形成された第2絶縁膜とを備えていてもよい。第6電極は、第4電極との間の距離である第3距離及び第5電極との間の距離である第4距離が回転輪の静止輪に対する回転に伴って変化するように配置されていてもよい。第3距離の時間変化の位相は、第4距離の時間変化の位相とずれていてもよい。計測処理部は、第4電極及び第5電極に接続されているとともに、第4電極及び第5電極からの出力に基づいて第2回転速度を算出するように構成されていてもよい。
【0011】
上記の荷重検出機能付軸受装置は、さらに、転がり軸受の内部に配置されている環状の第2基板を備えていてもよい。第4電極及び第5電極は、転がり軸受の周方向に沿って第2基板上に配置されていてもよい。
【0012】
上記の荷重検出機能付軸受装置において、計測処理部は、算出されたアキシャル荷重のデータを無線送信する無線送信装置を有していてもよい。
【0013】
上記の荷重検出機能付軸受装置において、計測処理部は、第1電極及び第2電極からの出力並びに第4電極及び第5電極からの出力に基づいて蓄電を行う蓄電装置をさらに有していてもよい。無線送信装置は、蓄電装置により給電されて動作するように構成されていてもよい。
【0014】
上記の荷重検出機能付軸受装置において、計測処理部は、無線送信された第1回転速度及び第2回転速度を受信するように構成されている受信装置をさらに有していてもよい。
【0015】
本発明の第2態様に係る荷重検出機能付軸受装置は、第1対向面を有する静止輪と、第1対向面に対向する第2対向面を有し、静止輪に対して回転する回転輪と、第1対向面と第2対向面との間に配置された転動体と、転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受と、静止輪に対する位置が固定されているとともに、転がり軸受の内部に配置されている第1電極及び第2電極と、保持器に対する位置が固定されているとともに、転がり軸受の内部に配置されている第3電極と、静止輪に対する位置が固定されているとともに、転がり軸受の内部に配置されている第4電極及び第5電極と、第1電極及び第2電極の表面に形成された第1絶縁膜と、第4電極及び第5電極の表面に形成された第2絶縁膜と、第1電極及び第2電極並びに第4電極及び第5電極に接続されている計測処理部とを備える。第3電極は、第1電極との間の距離である第1距離、第2電極との間の距離である第2距離、第4電極との間の距離である第3距離及び第5電極との間の距離である第4距離が回転輪の静止輪に対する回転に伴って変化するように配置されている。第1距離の時間変化の位相は、第2距離の時間変化の位相とずれている。第3距離の時間変化の位相は、第4距離の時間変化の位相とずれている。第1電極及び第2電極は、転がり軸受の軸方向において、保持器を挟んで、第4電極及び第5電極とは反対側に配置されている。計測処理部は、第1電極及び第2電極からの出力の振幅と第4電極及び第5電極からの出力の振幅との差に基づいて転がり軸受に加わるアキシャル荷重を算出するように構成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1態様及び第2態様に係る荷重検出機能付軸受装置によると、取り付け側の設計を変更することなく既存の転がり軸受との置き換えが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】軸受装置100の平面図である。
図2図1のII-IIにおける断面図である。
図3】第1基板41の平面図である。
図4図3のIV-IVにおける断面図である。
図5図3のV-Vにおける断面図である。
図6A】第1電極42及び第2電極43から電流が出力される原理を説明するための第1説明図である。
図6B】第1電極42及び第2電極43から電流が出力される原理を説明するための第2説明図である。
図6C】第1電極42及び第2電極43から電流が出力される原理を説明するための第3説明図である。
図6D】第1電極42及び第2電極43から電流が出力される原理を説明するための第4説明図である。
図7】第2基板61の平面図である。
図8図7のVIII-VIIIにおける断面図である。
図9図7のIX-IXにおける断面図である。
図10】第6電極70の平面図である。
図11図10のXI-XIにおける断面図である。
図12】計測処理部80のブロック図である。
図13】第2変形例に係る軸受装置100の断面図である。
図14】軸受装置200の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0019】
(第1実施形態)
以下に、第1実施形態に係る荷重検出機能付軸受装置(以下においては、「軸受装置100」とする)の構成を説明する。
【0020】
図1は、軸受装置100の平面図である。なお、図1中において、シール20、第1基板41、第1電極42、第2電極43、第1絶縁膜44及び計測処理部80の図示は省略されている。図2は、図1のII-IIにおける断面図である。図1及び図2に示されるように、軸受装置100は、転がり軸受10と、シール20及びシール30と、第1基板41と、複数の第1電極42、複数の第2電極43及び第1絶縁膜44と、第3電極50と、第2基板61と、複数の第4電極62、複数の第5電極63及び第2絶縁膜64と、第6電極70と、計測処理部80とを有している。
【0021】
転がり軸受10は、例えば、深溝玉軸受である。転がり軸受10は、中心軸Aを有している。以下においては、中心軸Aに沿う方向を、「軸方向」という。転がり軸受10は、内輪11(回転輪)と、外輪12(固定輪)と、複数の転動体13と、保持器14とを有している。
【0022】
内輪11は、環状(リング状)の形状を有している。内輪11は、内周面11aと、外周面11bと、幅面11cと、幅面11dとを有している。
【0023】
内輪11は、内周面11aにおいて、軸(図示せず)に取り付けられる。内周面11aは、中心軸A側を向いている。外周面11bは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外周面11bは、中心軸Aに直交する方向(以下においては、「径方向」という)における内周面11aの反対面である。外周面11bは、軌道面11baを含んでいる。軌道面11baは、外周面11bのうちの転動体13と接触している部分である。
【0024】
幅面11c及び幅面11dは、軸方向における内輪11の端面である。幅面11dは、軸方向における幅面11cの反対面である。幅面11cの径方向における両端は、内周面11a及び外周面11bにそれぞれ連なっている。幅面11dの径方向における両端は、内周面11a及び外周面11bにそれぞれ連なっている。
【0025】
外輪12は、環状(リング状)の形状を有している。外輪12は、内周面12aと、外周面12bと、幅面12cと、幅面12dとを有している。
【0026】
外輪12は、内周面12aが外周面11bと対向するように配置されている。内周面12aは、中心軸A側を向いている。内周面12aは、軌道面12aaを含んでいる。軌道面12aaは、内周面12aのうちの転動体13と接触している部分である。軌道面12aaは、軌道面11baと対向している。外周面12bは、中心軸Aと反対側を向いている。すなわち、外周面12bは、径方向における内周面12aの反対面である。
【0027】
幅面12c及び幅面12dは、軸方向における外輪12の端面である。幅面12dは、軸方向における幅面12cの反対面である。幅面12cの径方向における両端は、内周面12a及び外周面12bにそれぞれ連なっている。幅面12dの径方向における両端は、内周面12a及び外周面12bにそれぞれ連なっている。
【0028】
転動体13は、例えば、球状の形状を有している。転動体13は、外周面11bと内周面12aとの間に配置されている。より具体的には、転動体13は、軌道面11baと軌道面12aaとの間に配置されている。
【0029】
保持器14は、中心軸Aを中心とする円周に沿う方向(以下においては、「周方向」という)において隣り合う2つの転動体13の間の距離が一定範囲内となるように、転動体13を保持している。
【0030】
保持器14は、例えば、打ち抜き保持器である。保持器14は、保持部14aと、連結部14bとを有している。保持部14aは、転動体13を保持している部分である。保持部14aは、転動体13を保持可能なように、転動体13の表面に沿った形状(部分球面形状)を有している。保持部14aの数は、転動体13の数に等しい。連結部14bは、周方向において隣り合う2つの保持部14aを連結している。保持部14aは、軸方向に沿って連結部14bから突出している。保持器14は、導電性材料(例えば、金属材料)により形成されている。
【0031】
シール20は、軸方向における一方側から、外周面11bと内周面12aとの間にある転がり軸受10の内部空間(以下においては、「軸受空間」という)を閉塞している。シール30は、軸方向における他方側から軸受空間を閉塞している。シール20は、幅面12c側に位置している内周面12aに取り付けられている。シール30は、幅面12d側に位置している内周面12aに取り付けられている。なお、図示されていないが、軸受空間には、グリース等の潤滑剤Lが封入されている。
【0032】
シール20は、第1面20aと、第2面20bとを有している。第1面20aは、軸受空間側を向いている面である。第2面20bは、第1面20aの軸方向における反対面である。シール30は、第1面30aと、第2面30bとを有している。第1面30aは、軸受空間側を向いている面である。第2面30bは、第1面30aの反対面である。
【0033】
図3は、第1基板41の平面図である。なお、図3中において、第1絶縁膜44の図示は省略されている。図4は、図3のIV-IVにおける断面図である。図5は、図3のV-Vにおける断面図である。図3図5に示されるように、第1基板41は、環状(リング状)の形状を有している。第1基板41は、第1面20a上に配置されている。
【0034】
第1基板41は、第1面41aと、第2面41bとを有している。第1面41aは、軸受空間側を向いている面である。第2面41bは、第1面41aの反対面である。第1基板41は、絶縁性材料により形成されている。第1電極42及び第2電極43は、第1面41a上に配置されている。第1基板41がシール20の第1面20a上に配置されており、第1電極42及び第2電極43が第1面41a上に配置されているため、第1電極42及び第2電極43の外輪12に対する位置は、固定されている。第1電極42及び第2電極43は、軸方向において、保持器14に対向している。
【0035】
第1電極42及び第2電極43は、例えば、周方向に沿って等間隔で交互に配置されている。第1電極42の数及び第2電極43の数は、例えば、保持部14aの数に等しい。第1電極42は、互いに電気的に接続されている。第2電極43は、互いに電気的に接続されている。第1電極42と第2電極43とは、互いに電気的に絶縁されている。第1絶縁膜44は、第1電極42及び第2電極43上に配置されている。第1絶縁膜44は、絶縁性材料により形成されている。
【0036】
第3電極50は、例えば、保持器14により構成されている。内輪11が外輪12に対して回転するに伴い、保持器14が回転する。保持器14(第3電極50)と第1電極42との間の距離を、第1距離とする。保持器14(第3電極50)と第2電極43との間の距離を第2距離とする。保持器14の回転に伴い、保持部14aが第1電極42と対向しているとともに連結部14bが第2電極43と対向している状態と保持部14aが第2電極43と対向しているとともに第1電極42が連結部14bと対向している状態とが繰り返されることになる。すなわち、第1距離及び第2距離は、内輪11の回転に伴って変化し、第1距離の時間変化の位相と第2距離の時間変化の位相とは互いにずれている。
【0037】
図6Aは、第1電極42及び第2電極43から電流が出力される原理を説明するための第1説明図である。図6Bは、第1電極42及び第2電極43から電流が出力される原理を説明するための第2説明図である。図6Cは、第1電極42及び第2電極43から電流が出力される原理を説明するための第3説明図である。図6Dは、第1電極42及び第2電極43から電流が出力される原理を説明するための第4説明図である。
【0038】
転がり軸受10の動作時には、軸受空間に潤滑剤Lが供給されている。そのため、図6Aに示されるように、内輪11の回転に伴って保持器14(第3電極50)が回転することにより、第1電極42上にある第1絶縁膜44と第3電極50とが潤滑剤Lを介して互いに摺動する。その結果、第1電極42に正の電荷が誘導されるとともに、第2電極43に負の電荷が誘導される。
【0039】
図6Aに示される状態から内輪11の回転(保持器14の回転)が進むと、図6Bに示されるように、各電極に誘導された電荷に起因した起電力に基づいて、第1電極42から第2電極43へと電流が流れる。
【0040】
図6Bに示される状態から内輪11の回転(保持器14の回転)がさらに進むと、図6Cに示されるように、第2電極43上にある第1絶縁膜44と第3電極50とが潤滑剤Lを介して互いに摺動する。その結果、第1電極42に負の電荷が誘導されるとともに、第2電極43に正の電荷が誘導される。
【0041】
図6Cに示される状態から内輪11の回転(保持器14の回転)がさらに進むと、図6Dに示されるように、各電極に誘導された電荷に起因した起電力に基づいて、第2電極43から第1電極42へと電流が流れる。図6Dに示される状態から内輪11の回転(保持器14の回転)がさらに進むと、図6Aに示される状態に戻る。
【0042】
このように、転がり軸受10においては、外輪12に対する内輪11の回転(保持器14の回転)に伴って、第1電極42及び第2電極43からパルス状の電流(電圧)が出力される。そして、保持器14の回転速度(以下においては、「第1回転速度」とする)が速くなるほど、図6A図6Dに示されるサイクルが短くなるため、第1電極42及び第2電極43からの出力のパルス数が増加する。すなわち、第1電極42及び第2電極43からの出力のパルス数は、第1回転速度を示している。
【0043】
図7は、第2基板61の平面図である。図7中において、第2絶縁膜64の図示は省略されている。図8は、図7のVIII-VIIIにおける断面図である。図9は、図7のIX-IXにおける断面図である。図7図9に示されるように、第2基板61は、環状(リング状)の形状を有している。第2基板61は、シール30の第1面30a上に配置されている。
【0044】
第2基板61は、第1面61aと、第2面61bとを有している。第1面61aは、軸受空間側を向いている面である。第2面61bは、第1面61aの反対面である。第2基板61は、絶縁性材料により形成されている。
【0045】
第4電極62及び第5電極63は、第1面61a上に配置されている。第4電極62及び第5電極63は、例えば、周方向に沿って等間隔で交互に配置されている。第4電極62は、例えば、互いに電気的に接続されている。第5電極63は、例えば、互いに電気的に接続されている。第4電極62と第5電極63とは、互いに電気的に絶縁されている。第2絶縁膜64は、第4電極62及び第5電極63上に配置されている。第2絶縁膜64は、絶縁性材料により形成されている。第4電極62の数及び第5電極63の数は、例えば、転動体13の数に等しい。
【0046】
第6電極70は、導電性材料(例えば金属材料)により形成されている。第6電極70は、内輪11(より具体的には、外周面11b)に取り付けられている。そのため、第6電極70の内輪11に対する位置は、固定されている。図10は、第6電極70の平面図である。図11は、図10のXI-XIにおける断面図である。図10及び図11に示されるように、環状(リング状)の形状を有している。
【0047】
第6電極70の外周側には、複数の凸部70a及び凹部70bが形成されている。凸部70a及び凹部70bは、周方向に沿って交互に配置されている。凸部70aの数及び凹部70bの数は、例えば、第4電極62の数(第5電極63の数)に等しい。第6電極70の外周は、凸部70aにおいて径方向に沿って突出している(別の観点から言えば、凹部70bにおいて径方向に沿って窪んでいる)。
【0048】
第6電極70(より具体的には、第6電極70の外周側)と第4電極62との間の距離を、第3距離とする。第6電極70と第5電極63との間の距離を、第4距離とする。第6電極70の外周は、凸部70aにおいて第4電極62及び第5電極63と対向可能な位置まで延在しているが、凹部70bにおいて第4電極62及び第5電極63と対向可能な位置まで延在していない。
【0049】
そのため、内輪11の回転に伴い、第4電極62は第6電極70の外周側と対向しているが第5電極63は第6電極70の外周側と対向していない状態と第5電極63は第6電極70の外周側と対向しているが第4電極62は第6電極70の外周側と対向していない状態とが繰り返されることになる。その結果、第3距離及び第4距離は、内輪11の回転に伴って変化し、第3距離の時間変化の位相と第4距離の時間変化の位相とは互いにずれている。なお、第4電極62及び第5電極63からは、図6A図6Dに示される原理と同様の原理により、パルス状の電流(電圧)が出力され、当該出力のパルス数は、内輪11の回転速度(以下においては、「第2回転速度」とする)を示している。
【0050】
図12は、計測処理部80のブロック図である。図12に示されるように、計測処理部80は、無線送信装置81を有している。無線送信装置81は、例えば、信号処理部81aと、データ演算部81bと、電源部81cと、アンテナ81dとを有している。無線送信装置81は、シール20(より具体的には、第2面20b上)に取り付けられている。
【0051】
信号処理部81aは、信号線(図示せず)により、第1電極42及び第2電極43並びに第4電極62及び第5電極63に接続されている。信号処理部81aは、第1電極42及び第2電極43からのパルス状の出力(電圧信号又は電流信号)に対して、ノイズ除去を行うとともに、当該出力のパルス数を計測する。信号処理部81aは、第4電極62及び第5電極63からのパルス状の出力に対しても、同様の処理を行う。上記のとおり、第1電極42及び第2電極43からの出力のパルス数は、第1回転速度に対応しており、第4電極62及び第5電極63からの出力のパルス数は、第2回転速度に対応している。
【0052】
データ演算部81bは、第1電極42及び第2電極43からの出力のパルス数に基づいて第1回転速度を算出するとともに、第4電極62及び第5電極63からの出力のパルス数に基づいて第2回転速度を算出する。また、データ演算部81bは、第1回転速度と第2回転速度との比に基づき、転がり軸受10に加わっているアキシャル荷重を算出する。算出されたアキシャル荷重のデータは、データ演算部81bにおいて無線通信を行うためのベースバンド信号処理及びRF信号処理が行われた上で、アンテナ81dを介して無線送信される。
【0053】
電源部81cは、蓄電装置81caを有している。蓄電装置81caは、例えば、キャパシタや二次電池により構成されている。蓄電装置81caにおける蓄電は、第1電極42及び第2電極43からの出力並びに第4電極62及び第5電極63からの出力により行われる。電源部81cは、蓄電装置81caに蓄電された電力により、信号処理部81a及びデータ演算部81bの駆動を行う。
【0054】
計測処理部80は、さらに、受信装置82を有していてもよい。受信装置82は、例えば、演算処理部82aと、記憶装置82bと、表示装置82cと、アンテナ82dとを有している。
【0055】
演算処理部82aは、無線送信装置81から送信された無線信号を、アンテナ82dを介して受信するとともに、受信した信号に対してRF信号処理及びベースバンド信号処理を行うことにより、転がり軸受10に加わっているアキシャル荷重のデータを取得する。演算処理部82aは、取得されたアキシャル荷重のデータを記憶装置82bに格納するとともに、表示装置82cに表示させる。
【0056】
以下に、軸受装置100の効果を説明する。
【0057】
第1電極42、第2電極43、第1絶縁膜44及び第3電極50並びに第4電極62、第5電極63、第2絶縁膜64及び第6電極70が軸受空間内に配置されているため、軸受装置100の寸法と転がり軸受10の寸法とに大きな違いはない。そのため、軸受装置100によると、アキシャル荷重の検知する機能を付加しつつも、既存の転がり軸受と置き換え可能となる。なお、軸受装置100によると、アキシャル荷重のモニタリングが可能であるため、転がり軸受10の焼き付き等の突発的な故障や転がり軸受10の余寿命の予測等が可能となる。
【0058】
軸受装置100においては、無線送信装置81を第1電極42及び第2電極43から出力された電力並びに第4電極62及び第5電極63から出力された電力で駆動することができるため、アキシャル荷重に関するデータの送信に電力の供給が不要となる。
【0059】
軸受装置100においては、無線送信装置81がアキシャル荷重に関するデータを受信装置82に対して無線通信して送信するため、受信装置82の配置の自由度を高める(より具体的には、受信装置82を軸受装置100が用いられる機械装置の外部に配置する)ことができる。
【0060】
(変形例1)
上記においては、第4電極62及び第5電極63からの出力に基づいて第2回転速度を算出することとしたが、第2回転速度は、例えば、内輪11に取り付けられる軸を駆動する装置から受信装置82に供給され、演算処理部82aにおいてアキシャル荷重を算出してもよい。
【0061】
(変形例2)
図13は、第2変形例に係る軸受装置100の断面図である。上記においてはシール20を用いたが、図13に示されるように、シール20に代えて支持部材90が用いられてもよい。支持部材90は、第1面90aと、第2面90bとを有している。支持部材90は、シール20と同様に、軸受空間の一方側から閉塞している。第1面90aは、軸受空間側を向いている面である。第2面90bは、第1面90aの反対面である。
【0062】
第1基板41及び第2基板61は、支持部材90に取り付けられている。より具体的には、第1基板41及び第2基板61は、第1面90a上に配置されている。その結果、軸受空間内において、第1電極42、第2電極43、第4電極62及び第5電極63は、軸方向における一方側に配置されていることになる。無線送信装置81は、第2面90b上に配置されている。この場合、第1電極42、第2電極43、第4電極62及び第5電極63と無線送信装置81とを接続するための配線の取り回しが容易になる。
【0063】
(第2実施形態)
以下に、第2実施形態に係る荷重検出機能付軸受装置(以下においては、「軸受装置200」とする)の構成を説明する。ここでは、軸受装置100の構成と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0064】
図14は、軸受装置200の断面図である。図14に示されるように、軸受装置200は、転がり軸受10と、シール20及びシール30と、第1基板41と、複数の第1電極42、複数の第2電極43及び第1絶縁膜44と、第3電極50と、第2基板61と、複数の第4電極62、複数の第5電極63及び第2絶縁膜64と、計測処理部80とを有している。この点に関して、軸受装置200の構成は、軸受装置100の構成と共通している。
【0065】
しかしながら、軸受装置200は、第6電極70を有していない。軸受装置200において、第4電極62及び第5電極63は、第3電極50と対向している。軸受装置200において、第3距離は、第1電極42と第3電極50との間の距離であり、第4距離は、第2電極43と第3電極50との間の距離である。第1電極42及び第2電極43は、軸方向において、保持器14を挟んで第4電極62及び第5電極63とは反対側に配置されている。
【0066】
軸受装置200において、信号処理部81aは、第1電極42及び第2電極43からの出力の振幅(以下においては、「第1振幅」とする)を計測するとともに第4電極62及び第5電極63からの出力の振幅(以下においては、「第2振幅」とする)を計測する。転がり軸受10にアキシャル荷重が加わると、軸方向における保持器14の位置が変動する。
【0067】
その結果、第1電極42(第2電極43)と第3電極50との間の静電容量及び第4電極62(第5電極63)と第3電極50との間の静電容量の一方が増加し、第1電極42(第2電極43)と第3電極50との間の静電容量及び第4電極62(第5電極63)と第3電極50との間の静電容量の他方が減少する。このことを別の観点から言えば、第1振幅及び第2振幅の一方が増加し、第1振幅及び第2振幅の他方が減少する。そのため、データ演算部81bは、第1振幅及び第2振幅に基づいて、転がり軸受10に加わるアキシャル荷重の大きさ及び方向を算出する。これらの点に関し、軸受装置200の構成は、軸受装置100の構成と異なっている。
【0068】
以下に、軸受装置200の効果を説明する。
【0069】
第1電極42、第2電極43、第1絶縁膜44、第3電極50、第4電極62、第5電極63、第2絶縁膜64及び第6電極70が軸受空間内に配置されているため、軸受装置200の寸法と転がり軸受10の寸法とに大きな違いはない。そのため、軸受装置200によると、アキシャル荷重の大きさ及び方向を検知する機能を付加しつつも、既存の転がり軸受と置き換え可能となる。
【0070】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
上記の実施形態は、転がり軸受に加わるアキシャル荷重を検出する機能を有する軸受装置に特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0072】
100,200 軸受装置、10 転がり軸受、11 内輪、11a 内周面、11b 外周面、11ba 軌道面、11c 幅面、11d 幅面、12 外輪、12a 内周面、12aa 軌道面、12b 外周面、12c 幅面、12d 幅面、13 転動体、14 保持器、14a 保持部、14b 連結部、20 シール、20a 第1面、20b 第2面、30 シール、30a 第1面、30b 第2面、41 第1基板、41a 第1面、41b 第2面、42 第1電極、43 第2電極、44 第1絶縁膜、50 第3電極、61 第2基板、61a 第1面、61b 第2面、62 第4電極、63 第5電極、64 第2絶縁膜、70 第6電極、70a 凸部、70b 凹部、80 計測処理部、81 無線送信装置、81a 信号処理部、81b データ演算部、81c 電源部、81ca 蓄電装置、81d,82d アンテナ、82 受信装置、82a 演算処理部、82b 記憶装置、82c 表示装置、90 支持部材、90a 第1面、90b 第2面、A 中心軸、L 潤滑剤。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14