(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】抗ポドカリキシン抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240516BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240516BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240516BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240516BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240516BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240516BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61K39/395 T
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P9/00
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2020052992
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三股 亮大郎
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】中田 渚
(72)【発明者】
【氏名】奈良原 誠大
(72)【発明者】
【氏名】三隅 将吾
(72)【発明者】
【氏名】岸本 直樹
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/004837(WO,A1)
【文献】特許第7355326(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/168726(WO,A1)
【文献】特表2019-512548(JP,A)
【文献】特表2019-500402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(f)で示されるCD
Rを有する抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメント。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2
(c)配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3
(d)配列番号4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1
(e)配列番号5で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2
(f)配列番号6で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3
【請求項2】
配列番号8で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する、請求項
1記載の抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
請求項1
又は2記載の抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントに薬剤を結合してなる経粘膜投与のための薬剤化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポドカリキシンに対する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポドカリキシン(Podocalyxin,PCX)は、腎臓糸球体上皮細胞(足細胞)で発見された分子量が約140kDaの膜一回貫通型糖タンパク質であり、造血幹細胞マーカーCD34と高い相同性を持つ。ポドカリキシンは、細胞外領域に多くのグリコサミノグリカン、O及びN結合型糖鎖付加部位を持ち、高度に糖鎖付加されたシアロムチン型タンパク質であることから、細胞の接着性、形態形成に寄与すること、また、がん細胞において、ポドカリキシン上の糖鎖は内皮細胞上に発現するE-/P-/L-セレクチンのリガンドとなり、がん細胞の接着、浸潤、転移に関与していることが知られている(非特許文献1及び2)。
【0003】
近年では、ポドカリキシンが、大腸がん、乳がん、尿路上皮膀胱がん、膵臓がん、胃がん、精巣腫瘍、前立腺がん、卵巣がんにおいて高発現し、がんの悪性度や予後不良のマーカーになり得ること(非特許文献3)、ヒト幹細胞である胚性幹細胞/多機能性幹細胞に発現し、これら幹細胞の未分化マーカーとなり得ること(非特許文献4)、血管内皮細胞において発現し、血管機能障害のマーカーとなり得ること(特許文献1)等が、報告されている。
【0004】
したがって、糖鎖付加の有無に依存せずにポドカリキシン分子を認識できる抗ポドカリキシン抗体は、正常・がん状態の組織及び細胞の検出やがんの治療、血管機能障害の診断等を始めとして、幅広い用途が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Dallas MR, Chen SH, Streppel MM, Sharma S, Maitra A, Konstantopoulos K.Sialofucosylated podocalyxin is a functional E- and L-selectin ligand expressed by metastatic pancreatic cancer cells. Am J Physiol Cell Physiol. 2012 Sep 15;303(6):C616-24.
【文献】Thomas SN, Schnaar RL, Konstantopoulos K. Podocalyxin-like protein is an E-/L-selectin ligand on colon carcinoma cells: comparative biochemical properties of selectin ligands in host and tumor cells. Am J Physiol Cell Physiol. 2009 Mar;296(3):C505-13.
【文献】Cipollone JA, Graves ML, Kobel M, Kalloger SE, Poon T, Gilks CB, McNagny KM,Roskelley CD. The anti-adhesive mucin podocalyxin may help initiate the transperitoneal metastasis of high grade serous ovarian carcinoma. Clin Exp Metastasis. 2012 Mar;29(3):239-52.
【文献】Tateno H, Matsushima A, Hiemori K, Onuma Y, Ito Y, Hasehira K, Nishimura K,Ohtaka M, Takayasu S, Nakanishi M, Ikehara Y, Nakanishi M, Ohnuma K, Chan T, Toyoda M, Akutsu H, Umezawa A, Asashima M, Hirabayashi J. Podocalyxin is a glycoprotein ligand of the human pluripotent stem cell-specific probe rBC2LCN.Stem Cells Transl Med. 2013 Apr;2(4):265-73.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、従来の低分子性医薬品に代わり抗体分子のようなペプチド・タンパク性医薬品が増加しており、これらは筋肉内投与や皮下投与などの注射剤として用いられる場合が多い。注射は痛みを伴い、またアレルギーやアナフィラキシーなどの重篤な副作用を発現する危険性があるため、注射に代わる投与形態として経口又は経粘膜投与形態の開発が期待されている。しかしながら、経粘膜投与製剤は、粘膜上皮細胞層が脂溶性のバリアとして機能するため、分子サイズの大きい薬物や水溶性が非常に高い薬物では粘膜上皮層を通過できず、殆ど体内へ吸収されないことから、従来の吸収促進剤の利用やプロドラッグ化とは異なる、膜通過促進等の技術開発が求められる。
【0008】
また、ワクチンにおいては、粘膜に投与することで、全身性の免疫応答に加えて、粘膜局所における免疫応答も誘導できるため、粘膜免疫は多重の防衛機構を誘導できることが知られている。このため、粘膜を介して侵入する病原体に対して、粘膜ワクチンは高い効果を発揮することが期待されるが、ワクチン製剤は抗体医薬品と比較しても更に分子サイズや粒子サイズが大きく、一部の粘膜親和性を有する抗原や粘膜侵入性を有する病原体の生ワクチンを除いて、既存のワクチンを粘膜に投与しても免疫誘導は期待できない。したがって、ワクチン製剤においても粘膜からの取り込みを促進する技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
斯かる状況の下、本発明者らは、粘膜上皮のMicrofold cell(M細胞)にポドカリキシンが高発現していることを発見した。そして、更に検討したところ、M細胞に優れた親和性を示し、当該細胞によく取り込まれる抗ポドカリキシン抗体を取得することに成功し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の1)~4)に係るものである。
1)以下の(a)~(f)で示されるCDRの少なくとも1つを有する抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメント。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2
(c)配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3
(d)配列番号4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1
(e)配列番号5で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2
(f)配列番号6で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3
2)前記(a)~(f)で示される6つのCDRを全て有する、1)の抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメント。
3)配列番号8で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する、1)又は2)の抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメント。
4)1)~3)のいずれかの抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントに薬剤を結合してなる経粘膜投与のための薬剤化合物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントはM細胞によく取り込まれることから、これを薬剤に結合することで、粘膜M細胞を介した薬剤の吸収効率が高まり、経口又は粘膜吸収が乏しかった薬剤においても経粘膜投与が可能となり、服薬の利便性や有効性の向上が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】M細胞における抗ポドカリキシン抗体の取り込み評価。
【
図2】4D2のポドカリキシンのトランスメンブレンドメインに対する結合評価。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明において、ポドカリキシン(Podocalyxin,PCX)とは、腎臓糸球体上皮細胞に発現する、558残基のアミノ酸からなるI型膜貫通タンパク質を指す。
本発明の抗ポドカリキシン抗体は、M細胞に対して親和性を有し当該細胞によく取り込まれる抗体であり、以下の(a)~(f)で示されるCDRの少なくとも1つを有する。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3
(d)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1
(e)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2
(f)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3
【0015】
本発明の抗ポドカリキシン抗体は、一対のジスルフィド結合で安定化された2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)が会合した構造をとり、重鎖は、重鎖可変領域VH、重鎖定常領域CH1、CH2、CH3、及びCH1とCH2の間に位置するヒンジ領域からなり、軽鎖は、軽鎖可変領域VLと軽鎖定常領域CLとからなる。
【0016】
本発明において、「CDR(complementarity-determining region)」とは、相補性決定領域と呼ばれ、抗体分子の可変領域のうち、直接抗原と接触する領域を意味する。軽鎖と重鎖の可変領域には、それぞれ3つのCDRが存在するが、本発明においては、それらを重鎖CDR1~3、軽鎖CDR1~3とする。
【0017】
CDRは、重鎖可変領域VH及び軽鎖可変領域VLをコードするDNAから、abYsis(http://abysis.org/)等で提供される解析ソフトにより決定することができ、本発明の抗ポドカリキシン抗体のCDRは、後述する実施例に記載するとおり、クローン名:4D2として単離されたモノクローナル抗体の重鎖可変領域VHをコードするDNA(配列番号7)及び軽鎖可変領域VLをコードするDNA(配列番号9)から決定されたものである。そのアミノ酸配列は具体的には以下のとおりであるが、これは重鎖可変領域VHのアミノ酸配列(配列番号8)の26~35番、50~66番、99~106番のアミノ酸配列、及び軽鎖可変領域VLのアミノ酸配列(配列番号10)の24~33番、49~55番、88~97番のアミノ酸配列に相当する。
(a)重鎖CDR1:GYTFTNYVLH(配列番号1)
(b)重鎖CDR2:YFYPYNDGTKYNERFKG(配列番号2)
(c)重鎖CDR3:TWDWYFDV(配列番号3)
(d)軽鎖CDR1:SASSSVSYMH(配列番号4)
(e)軽鎖CDR2:DTSKLAS(配列番号5)
(f)軽鎖CDR3:QQWSSNPPIT(配列番号6)
【0018】
本発明の抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントは、M細胞に対して親和性を有し当該細胞によく取り込まれるという性質、好ましくは後述する実施で示される4D2において示されるM細胞への取り込み率と同等の取り込み率を有する限り、上記6つのCDRのうち少なくとも1つを有すればよいが、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上、より好ましくは4つ以上、より好ましくは5つ以上であり、6つ全てを有するのが最も好ましい。
【0019】
また、本発明の抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号8で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するのが好ましい。なお、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の可変性はCDRの外部に見い出される。
【0020】
すなわち、本発明の抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントは、好ましくは、前記(a)~(f)で示されるCDRの少なくとも1つを有し、且つ配列番号8で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するものである。
また、本発明の抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントは、より好ましくは、前記(a)~(f)で示される6つのCDRを全て有し、且つ配列番号8で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するものである。
【0021】
ここで、アミノ酸配列の同一性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときに両方の配列において同一のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。具体的には、例えばリップマン-パーソン法(Lipman-Pearson法;Science, 227, 1435, (1985))によって計算され、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行なうことにより算出できる。
【0022】
本発明の抗ポドカリキシン抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。また、抗ポドカリキシン抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEのいずれのアイソタイプであってもよい。マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ニワトリ等の非ヒト動物に免疫して作製したものであってもよいし、組換え抗体であってもよく、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体等であってもよい。
ここで、ヒト化抗体としては、例えばマウスに免疫して作製した抗体の重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3を有し、CDR以外の比較的変異の少ない部分であるフレームワーク領域(FR)をヒト抗体の対応する領域に置換した抗体が挙げられる。
【0023】
抗ポドカリキシン抗体の抗原結合断片とは、本発明の上記抗ポドカリキシン抗体の断片(フラグメント)であって、(a)~(f)で示されるCDRの少なくとも1つ、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上、より好ましくは4つ以上、より好ましくは5つ以上、より好ましくは6つ全てを有するポドカリキシンに結合する断片を意味する。具体的には、VL、VH、CL、及びCH1領域からなるFab、2つのFabがヒンジ領域でジスルフィド結合によって連結されているF(ab)2、VL及びVHからなるFv、VL及びVHを人工のポリペプチドリンカーで連結した一本鎖抗体であるscFvの他、diabody型、scDb型、tandemscFv型、ロイシンジッパー型等の二重特異性抗体等が挙げられる。
【0024】
本発明の抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントは、例えば、ハイブリドーマ法や組換えDNA法等によって作製することができる。
ハイブリドーマ法としては、ポドカリキシン又はその一部を免疫した非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ等)から抗体産生細胞を単離し、これをミエローマ細胞等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。
【0025】
組換えDNA法としては、例えば本発明の抗ポドカリキシン抗体又は抗体の機能的断片をコードする核酸をハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等)に導入し、組換え抗体として産生させる手法等が挙げられる。抗体又は抗体結合フラグメントをコードする核酸の発現においては、重鎖又は軽鎖をコードするDNAをそれぞれ別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖及び軽鎖をコードする核酸を単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい。
【0026】
抗体の分離及び精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。単離精製方法としては、例えば、プロテインA/G/L等を用いたアフィニティカラム、その他のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析が挙げられ、これらを適宜組み合わせることができる。
【0027】
本発明の薬剤化合物は、上記の抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントに薬剤を結合してなるものである。
ここで、薬剤としては、解熱薬、鎮痛薬、抗炎症薬、抗リウマチ薬、催眠薬、鎮静薬、抗不安薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、パーキンソン病治療薬、脳循環代謝改善薬、筋弛緩薬、自律神経系作用薬、抗めまい薬、片頭痛治療薬、強心薬、抗狭心症薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、抗不整脈薬、利尿薬、降圧薬、抗アレルギー薬、気管支拡張薬、ぜんそく治療薬、鎮咳薬、去痰薬、消化性潰瘍治療薬、痛風治療薬、脂質異常症薬、糖尿病薬、ホルモン製剤、骨粗鬆症薬、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗寄生虫薬、抗原虫薬、免疫抑制薬、麻酔及びワクチンに分類される薬剤が挙げられるが、一般的な経口投与や粘膜投与では吸収性が低いペプチド又はタンパク性医薬品、水溶性高分子医薬品であるのが好ましい。
【0028】
抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントと上記薬剤との結合は、例えば、アミノ基、スルフヒドリル基、カルボキシル基及び還元糖末端や過ヨウ素酸酸化により糖鎖に生じるアルデヒド基を介して結合することが挙げられる。具体的には、アミノ基であれば、N-ヒドロキシスクシイミドエステル及びイソチオシアノ基を有する架橋剤、スルフヒドリル基であれば、マレイミド基やブロモアセトアミド基を有する架橋剤、アルデヒドであればヒドラジド基を有する架橋剤を介して結合することができる。また、カルボキシル基であれば、N-ヒドロキシスクシイミドエステルを用いてカルボキシル基を活性エステルとし、この活性エステルに1級アミンを有する架橋剤を反応させることで結合することができるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明の薬剤化合物は、抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントを介して経細胞輸送による体腔粘膜への取り込みが高まることから、経粘膜投与のために使用できる。
ここで、経粘膜投与とは、体腔粘膜を介して吸収される投与形態を指し、具体的には、鼻腔を覆っている粘膜を経由する経鼻吸入、結膜又は角膜上への点眼、肺胞の粘膜を経由する経肺吸入、気管粘膜や気管支粘膜に対する吸入、膣内の粘膜を経由する経膣投与、胃、十二指腸、小腸、結腸及び直腸を含む大腸等の消化管粘膜を経由する経口投与や直腸投与、並びに中耳粘膜に対する中耳投与等が挙げられる。このうち、好ましい投与形態は、経鼻吸入、経肺吸入、気管又は気管支吸入、点眼である。
斯かる薬剤化合物は、経粘膜投与薬剤として、固形、半固形若しくは液体形態で、粘膜投与のための製薬上許容し得る担体と共に組成物(医薬組成物)として製剤化され得る。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
製造例 抗ポドカリキシン抗体の作製
(1)クローン(4A7、4D2及び4E5)の樹立
ヒト胎児腎細胞293(HEK293T細胞)へ、ヒトポドカリキシンの細胞外領域(1~409番目のアミノ酸配列)のC末端にStrepタグ及びHisタグを付加したタンパク質(Strep-ΔTM)をコードするプラスミドをリポフェクションし、Strep-ΔTMを発現させた。発現したStrep-ΔTMをHisタグで精製し、限外濾過でバッファー交換したものを免疫抗原とした。この免疫抗原をBALB/cマウス(メス、SLC社)の腹腔内へ投与し、免疫したマウスより脾臓を採取し、脾細胞を調製した。調製した脾細胞とマウスミエローマ細胞をポリエチレングリコールを用いて融合し、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジンを含むHAT培地で培養し、その後ヒポキサンチン・チミジンを含むHT培地、RPMI培地で順次培養し、併せて限界希釈法によるクローニングを行った。クローニングでは、ヒトポドカリキシンの細胞外領域(1~409番目のアミノ酸配列)のC末端にHisタグを付加し、前述と同様に発現及び精製したタンパク質(ΔTM)をプレートに固相化し、ΔTMに対して反応するクローンをELISA法により選出した。ELISAの結果、良好な反応性を示したクローンを4A7、4D2及び4E5とした。
【0031】
(2)4D2のアミノ酸配列、塩基配列及びCDRの決定
1×106cellsのハイブリドーマ(クローン:4D2)をRNAlater(SIGMA ALDRICH社)で懸濁し、懸濁後にハイブリドーマからRNAを抽出した。抽出したRNAを鋳型として、RT-PCRによりcDNAを合成し、縮重プライマーを用いてVH及びVLの領域を増幅した。増幅領域をクローニングし、サイクルシーケンス法によりVH及びVLの塩基配列(配列番号7及び9)を決定した。また、得られた塩基配列を変換してアミノ酸配列(配列番号8及び10)とした。
また、得られたVHの塩基配列(配列番号7)及びVLの塩基配列(配列番号9)からCDRを決定した。これらの配列決定は、株式会社バイオピークに委託して行った。
【0032】
実施例1 M-like cellにおける取り込み評価
ビオチン標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch)をビオチンとして220pmol採取し、そこへ950μLのPBSを加え、更に0.1mg相当のFluoSpheresTM Streptavidin-Labeled Microspheresを少しずつ添加した。添加後、遮光して1時間振とうし、抗マウスIgG抗体が結合した蛍光ビーズを調製した。
抗マウスIgG抗体が結合した蛍光ビーズに、200μLのPBSを加え、更に上記製造例により取得された抗ポドカリキシン抗体(クローン名:4A7、4D2及び4E5)若しくはマウスIgG2a Isotypecontrol(Sigma Aldrich)を176pmol添加し、遮光して1時間振とうした。振とう後、15,000rpmで30分間遠心分離し、沈殿に1.3mLの20%仔ウシ血清、1%NEAA、0.0293%L-グルタミンを加えたMEM(GIBCO)を加えて懸濁し、これを抗ポドカリキシン抗体標識蛍光ビーズ若しくはIsotypecontrol標識蛍光ビーズとした。
【0033】
In vitroでM-like cellへ分化を促した細胞をトランズウェルの膜上で調製し、その下部のチャンバーに上記で調製した抗ポドカリキシン抗体標識蛍光ビーズ若しくはIsotypecontrol標識蛍光ビーズを加え、添加から1、2及び3時間経過後に上部チャンバーに移行したビーズ量を評価するため、上部チャンバー溶液の蛍光強度を測定した。なお、in vitroのM-like cellは以下に記載する通りに調製した。
【0034】
文献(Kai H, Motomura Y, Saito S, Hashimoto K, Tatefuji T, Takamune N, Misumi S.Royal jelly enhances antigen-specific mucosal IgA response. Food Sci Nutr. 2013 Mar 6;1(3):222-227.)に記載の通り、トランズウェル(Corning、ポアサイズ:3μm、24ウェル)の膜上に3×105個のCaco-2細胞を播種し、一晩静置して、その後20%仔ウシ血清、0.1mM 非必須アミノ酸を含むイーグルスMEM(20%FBS、0.1mM NEAA EMEM)を加えた24ウェルプレートにトランズウェルの膜を浸漬させる。おおよそ3日ごとに新たな20%FBS、0.1mM NEAA EMEMを加えた24ウェルプレートにトランズウェルを移し替えながら、21日間培養し、Caco-2の単層を形成させる。21日間の培養後、トランズウェルの上部チャンバーに1×106個のRaji B細胞を加え、更に3日間培養することでM-like cellへの分化を促し、これをM-like cellとして用いた。
【0035】
M-like cellにおける蛍光物質の取り込みの評価結果は
図1に示す通りであるが、1時間までの取り込み(0h-1h)では、いずれの抗ポドカリキシン抗体を修飾した蛍光ビーズでもIsotype controlに比べて取り込みの促進が確認され、特に4D2は最も取り込み効率が高いことが示された。また、2及び3時間までの取り込みを比較すると、4A7や4E5でほとんどIsotype controlと同程度となるが、4D2では高い取り込み効率を維持しており、他の抗体を修飾した蛍光ビーズと比べても有意に高い値となった。
したがって、いずれの抗ポドカリキシン抗体でも速やかなM細胞からの取り込みが確認されるが、4D2の場合は取り込みの促進が長時間にわたり、時間経過の伴ってより高い取り込み効率の促進効果を示した。
【0036】
実施例2 4D2のポドカリキシン結合サイトの確認
ポドカリキシンの229から506位のアミノ酸配列のN末端側にグルタチオン-S-トランスフェラーゼを融合した組換えタンパク質を大腸菌で発現し、これを精製したものを1μg/10μLとなるよう調整した。そこへSDS-PAGE用サンプルバッファー(8%SDS,40%グリセロール/250mM Tris-HCl Buffer pH6.8)を等量混合し、95℃で5分間反応させて、これをWestern blottingの検体とした。
Western blottingは、検体を12.5% ポリアクリルアミドゲル(アトー社製 ePAGEL)にて電気泳動し、セミドライ式転写装置(アトー社製)にてPVDF膜への転写反応を行った。転写後のPVDF膜を75mLのブロッキングバッファー(10%スキムミルク含有TBS)に浸し、室温にて4時間のマスキング反応を行った。反応後、適当量のTBSにてPVDF膜を3回洗浄し、その後PVDF膜を4D2溶液に浸して4℃にて約16時間反応した(一次抗体反応)。一次抗体反応後、Tween20(商品名)含有TBSにてPVDF膜を5回洗浄し、HRP標識抗マウス抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社)溶液を添加して室温にて60分間反応させた(二次抗体反応)。二次抗体反応後、Tween20(商品名)含有TBSにてPVDF膜を5回洗浄し、Super Signal(商品名) Western Lightning-Plus ECL(商品名、Perkin Elmer社製)にてポドカリキシンへの抗体の結合を検出した。
図2は、左のレーンが分子量マーカーであるDr.Western(オリエンタル酵母)であり、右のレーンがポドカリキシンの229から506位のアミノ酸配列のN末端側にグルタチオン-S-トランスフェラーゼを融合した組換えタンパク質である。ここで示すように、4D2はポドカリキシンの229~506位のアミノ酸配列を有するタンパク質に対して結合した。当該229~506位はポドカリキシンのトランスメンブレンドメイン近傍のアミノ酸配列となる。したがって、4D2は膜近傍のアミノ酸配列を認識して結合すると考えられ、この領域に結合する抗体はM細胞による取り込み効率が高いと考えられた。
【配列表】