(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】特異的ゲノム遺伝子座を標的とする遺伝子調節タンパク質のクラスターを誘導するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240516BHJP
C12N 15/00 20060101ALI20240516BHJP
C07K 16/44 20060101ALN20240516BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N15/00
C07K16/44
(21)【出願番号】P 2020540791
(86)(22)【出願日】2019-01-23
(86)【国際出願番号】 US2019014666
(87)【国際公開番号】W WO2019147611
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-12-23
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500184305
【氏名又は名称】ザ・トラスティーズ・オブ・プリンストン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】THE TRUSTEES OF PRINCETON UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】619 Alexander Road, Suite 102, Princeton,NJ 08540-6000 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラングウィン、クリフ
(72)【発明者】
【氏名】シン、ヨンダエ
(72)【発明者】
【氏名】ブラッカ、ダン
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0219596(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0355977(US,A1)
【文献】Lauren R. Polstein and Charles A. Gersbach,Nat Chem Biol.,2015年,Vol.11, No.3,pp.198-200
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的標的ゲノム遺伝子座での遺伝子調節タンパク質の制御されたクラスター形成のための以下を含むタンパク質システム(系):
1つ又は2つ以上の第1の配列に融合又は連結されるCasに基づくゲノム標的化タンパク質を含む第1の構造、第1の配列は、それぞれ光感受性受容体、化学物質感受性受容体及び非光感受性二量体形成モジュールからなる群から選択される少なくとも1つの配列を含み、
光感受性受容体タンパク質の同族パートナー、化学物質感受性受容体タンパク質の同族パートナー及び二量体形成モジュールと相補的な二量体形成ドメインからなる群から選択される第2の配列を含む第2の構造をさらに含み、該第2の配列は、全長又は短縮型の低複雑度又は天然変性タンパク質領域を有する少なくとも1つの遺伝子調節タンパク質に融合される、タンパク質系。
【請求項2】
第1の構造が、GFPのスーパーフォールディング変異体(sfGFP)及びiLIDに融合される1本鎖可変断片抗体を含む第2のコンストラクトに連結されるSunTagに融合されるdCas9を含む第1のコンストラクトを含み、前記1本鎖可変断片抗体はSunTagの同族体である、請求項1に記載のタンパク質系。
【請求項3】
第1の構造が少なくとも1つのレポータータンパク質を含み、第2の配列が、全長又は短縮型BRD4、FUSもしくはTAF15又はそれらのあらゆる組み合わせに融合される、請求項1又は2に記載のタンパク質系。
【請求項4】
1つ又は2つ以上の第1の配列が反復する第1の配列を含む、請求項1~3のいずれかに記載のタンパク質系。
【請求項5】
特異的標的ゲノム遺伝子座での遺伝子調節タンパク質の制御されたクラスター形成のための、以下を含む方法:
(a)少なくとも1つの特異的ゲノム標的遺伝子座及び相補的なシングルガイドRNAを提供すること;
(b)以下を含む、生細胞においてタンパク質系を提供すること;
1つ又は2つ以上の配列に融合又は連結されるCasに基づくゲノム標的化タンパク質を有する第1のセグメント、ただし前記1つ又は2つ以上の配列は、光感受性受容体、化学物質感受性受容体又はそれらの組み合わせを含む;
及び全長又は短縮型の低複雑度又は天然変性タンパク質領域を有する少なくとも1つの遺伝子調節タンパク質を有する
、第2のセグメント
、ただし該第2のセグメントは、前記光感受性受容体タンパク質の同族パートナー、前記化学物質感受性受容体タンパク質の同族パートナー及び前記それらの組み合わせから選択される配列をさらに有する;ならびに
(c)前記タンパク質系を少なくとも1つの所定の波長の光、化学物質感受性受容体が感受性である化学物質、又はそれらの組み合わせに曝露することにより、前記特異的標的ゲノム遺伝子座で標的化凝縮を誘導すること。
【請求項6】
ゲノムの力学的状態を検出するために、標的化凝縮を感知又は測定することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ゲノムの力学的状態の検出が、密に凝縮されたヘテロクロマチンの存在を検出することを含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
特異的標的ゲノム遺伝子座での標的化凝縮の誘導が、前記ゲノムにおける力学的ストレスの誘導、前記ゲノムにおける力学的ストレスの緩和及び前記ゲノムにおける力学的ストレスの変更からなる群から選択される少なくとも1つの変化を引き起こす、請求項5~
7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
標的化凝縮の誘導が、エンハンサー-プロモーター相互作用の誘導、スーパーエンハンサークラスターの誘導、関連するタイプの近接依存性遺伝子調節因子の作動、ヘテロクロマチゼーション(heterochromatization)の誘導又はそれらの組み合わせを包含する、請求項5~
8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
系が、第1のゲノム遺伝子座に関連する第1のタンパク質系及び第2のゲノム遺伝子座に関連する第2のタンパク質系を含み、前記第1及び第2のタンパク質系を少なくとも1つの光の波長に曝露することにより小滴形成が起こり、次いで一緒になって合体する、請求項5~
9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
小滴が形成されるとき、2個の前記小滴の中心と中心との距離が3ミクロン未満である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
第1のセグメントが第2のセグメントの結合のための多量体タンパク質足場として機能できるようにすること;ならびに前記第1のセグメントを少なくとも1つの所定の光の波長に曝露し、前記第1及び第2のセグメントを自己集合させて多量体タンパク質複合体にすることにより、液-液相分離を引き起こすことをさらに含む、請求項5~
11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
転写活性のある凝縮物を形成するための、以下を含む方法:
(a)少なくとも1つの特異的ゲノム標的遺伝子座及び相補的なシングルガイドRNAを提供すること;
(b)以下を含む、生細胞においてタンパク質系を提供すること;
1つ又は2つ以上の配列に融合又は連結されるCasに基づくゲノム標的化タンパク質を有する第1のセグメント、ただし前記1つ又は2つ以上の配列は、光感受性受容体、化学物質感受性受容体又はそれらの組み合わせを含む;
及び全長又は短縮型の低複雑度又は天然変性タンパク質領域を有する少なくとも1つの遺伝子調節タンパク質を有する第2のセグメント
、ただし該第2のセグメントは、前記光感受性受容体タンパク質の同族パートナー、前記化学物質感受性受容体タンパク質の同族パートナー及び前記それらの組み合わせから選択される配列をさらに有する;ならびに
(c)前記タンパク質系を少なくとも1つの所定の波長の光、化学物質感受性受容体が感受性である化学物質、又はそれらの組み合わせに曝露することにより、前記特異的標的ゲノム遺伝子座で標的化凝縮を誘導すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本願は、両方とも参照によりそれらの全体において本明細書に組み込まれる、2018年1月24日に提出された米国仮出願第62/621,182号明細書及び2018年9月20日に提出された同第62/734,063号明細書の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究又は開発に関する陳述
本発明は、National Institutes of Healthにより授与された助成金No.DA040601のもと、政府の支援を受けて行った。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明は一般に、タンパク質のクラスター形成の誘導に関連し、より具体的には、特異的なゲノム遺伝子座を標的とする遺伝子調節タンパク質のクラスターの誘導に関する。
【0004】
発明の背景
液-液相分離(LLPS)は、生細胞の内容物を組織化するための基本的な機序である。LLPSは現在、生殖(P)顆粒、ストレス顆粒、miRISC集合体及びシナプス足場などの細胞質構造を含む、多岐にわたる膜のない凝縮物の構築を推進するために重要であると認識されている。LLPSはまた、核小体を含む核内構造体の新生及びおそらくは多くの他のものの基礎をなすとも思われる。関連する液体から固体への相転移は、病的なタンパク質凝集の様々な疾患にも関係している。細胞内相転移は、低複雑度配列及びプリオン様ドメインと密接に関連がある天然変性タンパク質/領域(IDP/IDR)が介在することが多い、弱い多価相互作用から生じる。
【0005】
核凝縮物はクロマチンと直接相互作用しなければならず、従ってその組織化及び遺伝子発現を制御する可能性があるため、核内での相転移は特に興味深い。これと一致して、カハール体、核小体及びスペックルなどの核凝縮物の構築及び動態は、クロマチン構造に影響を与えると思われる。さらに、最近の研究から、ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)の相分離がヘテロクロマチンの高密度部、ゲノムの転写サイレント領域の形成の基礎をなすことが示唆される。相分離は、(ユークロマチン)ゲノムの活性領域とも関連付けられる。例えば、核小体は、転写依存的に、転写的に活性であるリボソームDNA遺伝子座に集合する。相分離はまた、最近、エンハンサーに富む遺伝子クラスターで構築されるナノスケールの転写凝縮物を通じた遺伝子活性化の推進にも関連付けられている。
【0006】
核構成に対する相分離の重要性を示唆する研究数が増加しているにもかかわらず、これらの過程の生物物理学は謎のままである。生物物理学的な観点から、ゲノムは複雑な粘弾性ポリマーマトリクスであり、その3D構造及び機構は遺伝子発現を支配する重要な因子である。一方、転写凝縮物を通じた遺伝子活性化は、まだ特徴が分かっていない機序を通じて、ゲノムの遠位領域を一緒に引き合わせる小滴から生じることが提案されている。これは、エンハンサー-プロモーター相互作用を促進するために重要であり得、一部の例では互いに多キロベース離れていることがあり得るか、又は異なる染色体上に存在し得る。驚くべきことに、これは概念的に提案されたHP1の機能に類似しており、ゲノムをコンパクトで転写サイレントな焦点に凝縮することによりヘテロクロマチン形成を推進し得る。何れにせよ、相分離が、関連する遺伝子活性を調和させるために必要とされる特異性を提供しながら、ゲノム再構築可能である力学的な力をどのように生じさせ得るかは不明である。さらに、遺伝子発現を調節するためのフィードバック機序の候補として、ゲノムの機構が相分離に影響を与え得る方法は、依然として完全に不明である。
【0007】
これらの基本的な疑問から、凝縮物とゲノムの特異的領域との間の相互作用を仲介する際に作用する力、ならびに相分離及びクロマチン構成の動態に対するそれらの結果の定量的理解の必要性が強調される。この問題の対処に対する重要な課題の1つは、生細胞において相転移を制御するためのツールがないことである。
【0008】
CRISPR-Cas9に基づく技術を含むいくつかのゲノム標的化技術がゲノム及びエピゲノム操作に適用されている。しかし、これらの技術の中で、ミクロン以上のスケールで核構造変化の制御を可能にするものはない。一方、最近のオプトジェネティック技術の開発により、核中のタンパク質の大規模な構築が誘発され得るが、その局在はランダムであり、基盤となるゲノム環境に関して制御されていないため、核における生物学的過程の機能研究へのオプトジェネティック技術開発の応用は限定的である。
【0009】
従って、特異的ゲノム遺伝子座でのタンパク質クラスターの制御送達を可能にするためのゲノム標的化及びオプトジェネティクスの利点を組み合わせるシステム(系)及び方法が望ましい。
【0010】
発明の簡潔な概要
本開示は、特異的ゲノム遺伝子座を標的とする遺伝子調節タンパク質のクラスターを誘導するシステム及び方法に関する。このシステムは、それぞれが光感受性受容体、化学物質感受性受容体、光感受性オリゴマー形成タンパク質又は非光感受性の二量体形成モジュールであり得る1つ又は2つ以上の配列に融合又は連結されるCasに基づくゲノム標的化タンパク質を有する第1の構造を含む。このシステムは、光もしくは化学物質感受性受容体タンパク質の同族パートナー又は二量体形成モジュールに相補的な二量体形成ドメインを含む第2の構造も含み得、この同族パートナー又は相補的な二量体形成ドメインは、全長又は短縮型の低複雑度又は天然変性タンパク質領域を有する少なくとも1つの転写調節タンパク質に融合される。第1の構造には、SunTagに融合されるdCas9が含まれ得、これは、GFPのスーパーフォールディング変異体(sfGFP)及びiLIDに融合される1本鎖可変断片抗体を有する別のコンストラクトに連結され、この1本鎖可変断片抗体はSunTagに対する同族体である。有利には、第1の構造は、少なくとも1つのレポータータンパク質を含み得る。また有利には、同族パートナー又は相補的二量体形成ドメインは、全長又は短縮型BRD4、FUS又はTAF15に融合され得る。第1の構造は反復配列を含み得る。
【0011】
開示される方法は、生細胞におけるタンパク質系とともに、少なくとも1つの特異的ゲノム標的遺伝子座及び相補的なシングルガイドRNAを提供することを含む。本タンパク質系は次の2つの構成のうち1つを有するべきである:(i)それぞれが光感受性受容体、化学物質感受性受容体、オリゴマー形成タンパク質又はそれらの組み合わせを含む1つ又は2つ以上の配列に融合又は連結されるCasに基づくゲノム標的化タンパク質を有する第1のセグメント;又は(ii)少なくとも1つの光の波長に感受性がある少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子に融合又は連結されるCasに基づくゲノム標的化タンパク質を有する第1のセグメント;及び第1のセグメントに融合され、低複雑度配列(LCS);天然変性タンパク質領域(IDR);合成又は天然の核酸結合ドメイン;及び少なくとも1つの光の波長に感受性がある少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つのさらなる遺伝子に融合されるリンカーを含む少なくとも1つの反復配列からなる群から選択される少なくとも1つの配列を有する第2のセグメント。
【0012】
次に、本方法は、タンパク質系を少なくとも1つの所定の光の波長、化学物質感受性受容体が感受性である化学物質又はそれらの組み合わせに曝露することにより、特異的標的ゲノム遺伝子座で標的化凝縮を誘導することを含み、少なくとも1つの所定の光の波長は450nm~495nmの波長を含み得る。
【0013】
本方法は、場合によっては、全長もしくは短縮型の低複雑度もしくは天然変性タンパク質領域を有する少なくとも1つの遺伝子調節タンパク質に融合された光感受性受容体タンパク質又は自己相互作用を促進することが知られる他の折りたたまれたタンパク質に融合された光感受性受容体タンパク質の同族パートナーを有する第2のセグメントも含む、タンパク質系を利用し得る。
【0014】
本方法は、ゲノムの力学的状態を検出するために、標的化凝縮を感知又は測定することも含み得、これは、密に凝縮されたヘテロクロマチンの存在を検出することを含み得る。
【0015】
標的化凝縮の誘導は、ゲノムにおける力学的ストレスを誘導する、ゲノムにおける力学的ストレスを緩める、及び/又はゲノムにおける力学的ストレスを変化させるように構成され得る。さらに、標的化凝縮の誘導には、エンハンサー-プロモーター相互作用の誘導、スーパーエンハンサークラスターの誘導又は関連するタイプの近接依存性遺伝子調節因子の発動が含まれ得る。
【0016】
本方法は、第1のゲノム遺伝子座に関連する第1のタンパク質系、及び第2のゲノム遺伝子座に関連する第2のタンパク質系を有する系の使用を含み得、第1及び第2のタンパク質系を少なくとも1つの光の波長に曝露することにより小滴形成が起こり、次いで一緒になって合体する。これらのアプローチの一部において、小滴が形成される場合、2個の小滴の中心と中心との距離は3ミクロン未満である。
【0017】
本方法は、GFPのスーパーフォールディング変異体(sfGFP)及びiLIDに融合される1本鎖可変断片抗体を含む第2のコンストラクトに連結されるSunTagに融合されるdCas9を含む第1のコンストラクトを有する第1の構造の使用を含み得、この1本鎖可変断片抗体はSunTagに対する同族体である。
【0018】
本方法はまた、第1の構造が第2の構造の結合のための多量体タンパク質足場として機能することを可能にすること;ならびに第1の構造を少なくとも1つの所定の光の波長に曝露し、第1及び第2の構造を多量体タンパク質複合体へと自己集合させることにより、液-液相分離を引き起こすことも含み得る。
【0019】
添付の図面において説明的で非限定的な目的のために提供される非限定例を参照して以下で本発明を説明する。これらの図面は、本発明の異なる態様及び実施形態を示しており、適切な場合、構造、構成要素、材料及び/又は同様の要素は、同様の参照番号で異なる図において示される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】クラスター形成誘導前の開示される系(システム)の実施形態の概略図である。
【
図2A】プレシーディング過程におけるシングルガイドRNAの使用の影響を示す蛍光画像である。
【
図2B】プレシーディング過程におけるシングルガイドRNAの非使用の影響を示す蛍光画像である。
【
図3】開示される方法の実施形態を説明するフローチャートである。
【
図5】開示される系の実施形態における第1及び第2の構造の結合の概略図である。
【
図6】開示される系の実施形態におけるクラスター形成の概略図である。
【0021】
発明の詳細な説明
組成物、具体的には一連の改変タンパク質コンストラクトが開示される。この系には、少なくとも2つの層-ゲノム標的化及び相分離モジュール-を含むモジュール式の態様を有する。ある種の系は、3層になったモジュール式の態様:ゲノム標的化、光感受性及び相分離モジュールを有する。一例となる系は、よく特徴が分かっているゲノム標的化技術(例えばヌクレアーゼ欠損型Cas9(dCas9)を、SunTagなどのエピトープの反復に融合させる)で構築し、光感受性モジュールは、光応答性受容体タンパク質に融合される1本鎖可変断片(scFv)抗体(例えばiLIDと名付けられた改変LOV2-ssrA)及び天然変性領域がある転写調節タンパク質に融合される受容体の同族パートナー(例えばsspBタンパク質)からなる相分離モジュールを含む。タンパク質コンストラクトは、標準的な遺伝子移入法又はウイルス送達によって哺乳動物細胞培養を含む様々な生体系に送達され得る。
本明細書中で使用される場合、「融合される」とは、共有結合していることを意味する。
本明細書中で使用される場合、「連結される」とは、非共有結合していることを意味する。
【0022】
図1を参照して、特異的標的ゲノム遺伝子座105における遺伝子調節タンパク質の制御されたクラスター形成のための系100が示される。系100は第1の構造110を含み、これは、1つ又は2つ以上の第1の配列116に融合又は連結されるCasに基づくゲノム標的化タンパク質112を含む第1のコンストラクトを利用し得る。いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上の第1の配列は、反復する第1の配列を含み得る。
図1Aにおいて、Casに基づくゲノム標的化タンパク質112が、例えばSunTagなどの可能にする足場114に融合又は連結され得る。
【0023】
特定の実施形態では、Casに基づくゲノム標的化タンパク質112は、S.サーモフィルス(S.thermophilus)又はS.ピオゲネス(S.pyogenes)dCas9などの酵素不活性型Cas9(dCas9)であり得るが、他の既知のCasに基づくタンパク質を利用し得る。当技術分野で公知であるように、II型CRISPR系は、相補的なゲノム配列で特異的にハイブリッド形成し、2本鎖切断(DSB)を誘導するシングルガイドRNA(sgRNA)によって先導されるエンドヌクレアーゼ(Cas9)を使用する。dCas9の使用により、この系が切断なくゲノムDNAを標的とすることが可能となる。
【0024】
特定の実施形態では、1つ又は2つ以上の第1の配列116は、光感受性受容体、光感受性オリゴマー形成タンパク質、化学物質感受性受容体及び非光感受性二量体形成モジュールを含み得る。このような受容体、タンパク質及び二量体形成モジュールは当技術分野で公知であり、アラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)の5個のフィトクロム、phyAからphyEなどのフィトクロム、CRY2などのクリプトクロム、又はiLIDなどの光酸素電圧センシング(LOV)ドメインに基づくアプローチ、FKBPなどの化学的誘導型二量体形成(CID)モジュール又はSH3/PRMもしくはSUMO/SIM系などの非刺激応答性の二量体形成対を含み得るが限定されない。
【0025】
いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上の第1の配列116は、1本鎖可変断片(scFv)抗体及び1つ又は2つ以上のレポータータグを含むが限定されない他の要素も含み得る。何らかの既知のレポータータグ(GFP、mCherryなどであるが限定されない)が想定される一方で、好ましい実施形態は、GFPのスーパーフォールディング変異体(sfGFP)を利用する。一実施形態では、第1の構造は、SunTagに融合されるdCas9の第1のコンストラクトを含み、SunTagは複数の第1の配列に連結され、各第1の配列は、scFv抗体、レポータータグ及びiLIDなどの光応答性受容体タンパク質を含む第2のコンストラクトである。一部の実施形態では、scFvは、SunTagに対して同族である。
【0026】
いくつかの実施形態では、1個の第1のコンストラクトが、1個の第2のコンストラクトに融合又は連結される。いくつかの実施形態では、1個の第1のコンストラクトが、2個の第2のコンストラクトに融合又は連結される。いくつかの実施形態では、1個の第1のコンストラクトが、3個の第2のコンストラクトに融合又は連結される。いくつかの実施形態では、1個の第1のコンストラクトが、4個以上の第2のコンストラクトに融合又は連結される。いくつかの実施形態では、1個の第1のコンストラクトが、1~20個の第2のコンストラクト、好ましくは2~15個の第2のコンストラクト、より好ましくは3~12個の第2のコンストラクト、より好ましくは3~6個の第2のコンストラクトに融合又は連結される。
【0027】
さらに
図1を参照すると、系100は、第2の構造120も含み得る。第2の構造120は、第2の配列122を含み得、第2の配列122は、光もしくは化学物質感受性受容体タンパク質の同族パートナー又は二量体形成モジュールに相補的な二量体形成ドメインであり得る。これらには、sspB、フィトクロム相互作用因子(PIF)、例えばPIF6など、クリプトクロム相互作用塩基性ヘリックスループヘリックス(CIB)、例えばCIB1などが含まれ得るが限定されない。
【0028】
第2の配列122は、全長もしくは短縮型の低複雑度もしくは天然変性タンパク質領域を有する少なくとも1つの転写調節タンパク質124、又はPTB/PDZ系などの自己相互作用を促進することが知られている他の折りたたまれたタンパク質に融合され得る。いくつかの実施形態では、第2の配列は、例えば全長又は短縮型BRD4、FUS又はTAF15に融合され得る。
【0029】
当技術分野で知られるように、相補的なシングルガイドRNA(sgRNA、図示せず)を通じて1つ又は2つ以上の標的ゲノム部位105で第1の構造を一般的にプレシーディングする。さらに、第1の構造がレポータータグを含む実施形態では、レポータータグを使用して、プレシーディングを確認し得る。例えば、HEK293細胞中のテロメアでのプレシーディングは、テロメアに対してdCas9-SunTag、scFv-sfGFP-iLID及びsgRNAを発現させることによって達成された。
図2Aは、この系がテロメア標的化sgRNAを利用した場合のレポータータグからの蛍光シグナルの画像を提供する。見られ得るように、細胞中の分散した位置に顕著な局在化蛍光があり、これによりプレシーディングが起こったことが示される。
図2Bは、テロメアを標的とするsgRNAを利用しない系におけるレポータータグからの蛍光シグナルの画像を提供する。見られるように、蛍光は特異的な場所に局在せず、むしろ細胞全体に幅広く広がり、このことから、プレシーディングが起こっていないことが示される。
【0030】
特異的標的ゲノム遺伝子座における遺伝子調節タンパク質の制御されたクラスター形成のための開示される方法を
図3~6を参照して説明し得る。
図3を参照すると、方法300は、少なくとも1つの特異的ゲノム標的遺伝子座及び相補的なシングルガイドRNAを提供すること310により始まる。この方法はまた、生細胞においてタンパク質系を提供すること320も必要とする。当業者は、これらの最初の段階が任意の順序で起こり得ることを認識する。
提供されるタンパク質系は、
図4A~4Cを参照して見られ得る2つの基本構成のうち1つに従い得る。
【0031】
図4Aを参照して、構成1は、1つ又は2つ以上の配列416に融合又は連結されるCasに基づくゲノム標的化タンパク質412(総称的に「dCas9」として示す)を含む第1のセグメント410を有する系であり、各配列は、光感受性受容体、化学物質感受性受容体又はオリゴマー形成タンパク質(総称的に「光感受性領域」として示す)を含む。
構成1は、全長もしくは短縮型の低複雑度もしくは天然変性タンパク質領域を有する少なくとも1つの遺伝子調節タンパク質424又は自己相互作用を促進することが知られる他の折りたたまれたタンパク質(総称的に「IDR/LCS」として示す)に融合された光又は化学物質感受性受容体タンパク質の同族パートナー422(総称的に「同族体」として示す)を含む第2のセグメント420も含み得る。
【0032】
図4B及び4Cを参照して、構成2は、少なくとも1つの光の波長に感受性があるか又は少なくとも1つの化学物質に感受性がある1つ又は2つ以上のタンパク質433、443(総称的に「光感受性領域」として示す)をコードする少なくとも1つの遺伝子に融合又は連結されるCasに基づくゲノム標的化タンパク質432、442(総称的に「dCas9」として示す)を含む第1のセグメント431、441を有する、系430、440である。この系はまた、第1のセグメントに融合又は連結される、第2のセグメント434、444も含む。第2のセグメントには、次の配列:低複雑度配列(LCS)(例えば435を参照)、天然変性タンパク質領域(IDR)(例えば435を参照)、合成又は天然の核酸結合ドメイン(例えば435を参照)(総称的に「IDR/LCS/結合ドメイン」として示す)、及び/又は1つ又は2つ以上の反復配列のうち1つ又は2つ以上が含まれ、ここで反復配列は、少なくとも1つの光の波長に感受性があるか、又は少なくとも1つの化学物質に感受性がある少なくとも1つのタンパク質446、448(総称的に「光感受性領域」として示す)をコードする少なくとも1つのさらなる遺伝子に融合される、リンカー445、447(総称的に「リンカー」として示す)を含む。いくつかの実施形態では、反復数は1~20である。好ましくは、反復数は2~9であり、より好ましくは反復数は3~5である。
【0033】
標的遺伝子座、sgRNA及びタンパク質系が提供されたら、タンパク質系を少なくとも1つの所定の光の波長及び/又は化学物質感受性受容体が感受性である化学物質に曝露することにより、特異的標的ゲノム遺伝子座で標的とする凝縮が誘導され得る330。当業者により理解されるように、波長は、この系で使用される光感受性受容体又はタンパク質に適切なものである。特定の実施形態では、所定の光の波長は、450nm~495nmの波長を含む。
構成1を利用する系の場合、光に曝露されると、異なるゲノムエレメント105に標的化されるタンパク質間の自己相互作用により、小滴形成が起こり、ゲノム構造に望ましい再編成を誘発する可能性がある。
【0034】
図5で見られるように、光に曝露されると、第2の構造120に存在し得る光感受性受容体タンパク質の同族パートナーが、第1の構造110における光感受性受容体に連結する。同様に、特定の化合物に曝露されると、第2の構造の化学物質感受性受容体の同族パートナーが、第1の構造の化学物質感受性受容体に連結する。この過程は小滴形成を引き起こす。
図6で見られるように、光への曝露が続くと、第2の構造620に連結されるさらなる第1の構造610が、第1の構造110及び第2の構造120から形成される小滴の近くに引き込まれ、小滴サイズの拡大が起こる。非光/化学物質感受性例では、同様の相分離/クラスター形成が起こるが、光又は化学物質との自己相互作用モジュールの連結を誘導する必要はない。構成1の場合、例えばCry2を使用して、相互作用モジュールを動員するのではなく、分子間相互作用をオンにするために光活性化を使用し得る。
【0035】
この系が、第2の構造と結合するための多量体タンパク質足場として作用し得る第1の構造(足場414を利用する
図4Aを参照)を含み、このようなことが起こるように構成される実施形態では、第1の構造を少なくとも1つの所定の光の波長に曝露し、第1及び第2の構造を多量体タンパク質複合体へと自己集合させることによって、液-液相分離が引き起こされ得る。
特定の実施形態では、特異的標的ゲノム遺伝子座での標的化凝縮の誘導は、ゲノムにおける力学的ストレスを誘導し得、ゲノムにおける力学的ストレスを緩め得、及び/又はゲノムにおける力学的ストレスを変化させ得る。
特定の実施形態では、特異的標的ゲノム遺伝子座での標的化凝縮の誘導は、エンハンサー-プロモーター相互作用の誘導、スーパーエンハンサークラスターの誘導、ならびに/又は関連するタイプの近接依存性遺伝子調節エレメントの作動もしくはコンパクション及びヘテロクロマチゼーション(heterochromatization)を通じた遺伝子の抑制を含み得る。
【0036】
さらなるゲノム遺伝子座に関連するさらなるタンパク質系も利用し得る。例えば、この系が、第1のゲノム遺伝子座に関連する第1のタンパク質系及び第2のゲノム遺伝子座に関連する第2のタンパク質系を含む実施形態では、タンパク質系を少なくとも1つの光の波長に曝露することにより小滴形成が引き起こされ、次いで一緒になって合体し得る。好ましい実施形態では、小滴が形成される場合、2個の小滴の中心間距離は10ミクロン未満、より好ましくは5ミクロン未満、さらにより好ましくは3ミクロン未満である。
任意に、本方法はまた、ゲノムの力学的状態を検出するために、標的化凝縮を感知又は測定すること340も含み得る。これは、密に凝縮したヘテロクロマチンの存在を検出することを含み得る。
このアプローチを使用して、BRD4、FUS及びTAF15を含むが限定されない様々な核タンパク質からの様々なIDPが、成長するにつれてクロマチンを力学的に排除し、優先的に低密度ユークロマチン領域で生じる液体凝縮物に相分離することが示され得る。凝縮物を駆動して、高密度のサテライトヘテロクロマチン内に生じ得ないし、ヘテロクロマチンのテロメアと混合し得ないが、これらの領域を特異的に標的とする場合、表面張力により推進される合体を通じてそれらを力学的に一緒に引き寄せ得る。最小物理モデルにより、より柔軟なユークロマチン領域を変形させる小滴の力学的エネルギーコストがより低いため、ユークロマチンの小滴凝縮に対するこの優先度が説明される。これらの知見から、核凝縮物が力学的に活性なクロマチンフィルターとして機能し得、それにより、ゲノムの非特異的なバックグラウンド構成成分を力学的に排除しながら、遠位の標的とするゲノムエレメントが一緒に引き寄せられるようになることが示唆される。
【0037】
核内の相挙動を研究するために、CasDropと呼ばれる開示されるプラットフォームは、特異的ゲノム遺伝子座で液状小滴の局所的な凝縮を誘発し得る。ネイティブな核内集合体の形成方法に端を発し、これを達成するためのプログラム可能なシーディングによって、転写調節因子及び他の核タンパク質の局所濃度が調節され、CasDrop系が、(1)プレシーディング、(2)オプトジェネティック分子の構築及び(3)オリゴマー形成に基づく相分離を可能にする3つの構成要素でモジュール化される。特異的ゲノム遺伝子座へのプログラム可能な標的化のために特徴がよく分かっているCRISPR-Cas9技術を利用して、SunTag(ST)に融合される酵素不活性型Cas9(dCas9)から一例を作製した。ゲノムのプレシーディングをオプトジェネティックな集合体に連結する第2のコンストラクトは、スーパーフォールディングGFP(sfGFP)に融合される、STと同族の、1本鎖可変断片(scFv)抗体及びオプトジェネティックな二量体形成タンパク質iLIDを含む。細胞中で同時発現される場合、これらの2つのコンストラクトは自己集合して、シーディングされた部位の可視化を可能にし、同時に天然変性領域(IDR)を含有するタンパク質を含む様々なタンパク質構成要素を動員するための光誘導性結合足場を提供する、多量体タンパク質複合体(以後、dCas9-ST-GFP-iLIDと呼ぶ)になり得る。
多くの核タンパク質からのIDRを使用して、例えば、相の挙動を調べ得る。いくつかの実施形態では、天然変性領域の予測因子(PONDER)VL-XTアルゴリズムからのスコアが0.5より大きいことは、領域が変性している可能性があることを示す。BRD4、TAF15及びFUSを含む転写調節因子;BRD4は、長いIDR(BRD4ΔN)を含有し、エンハンサークラスターが非常に豊富であり、転写活性化ならびに伸長に重要な役割を果たすと考えられているため、最近注目を集めている。しかし、開示される系はタンパク質sspBに融合されるこれらのIDRを発現するため、青色光活性化時のiLIDとsspBとの間の結合は、標的ゲノム遺伝子座でのIDRオリゴマーの形成につながり、次にこれが局所的な液-液相分離を推進する。
一例は、テロメア、染色体の末端で見られる反復的なヘテロクロマチンDNAエレメントを標的とする各CasDropモジュールの能力を示す。dCas9-ST-sfGFP-iLIDが発現される場合、テロメアに対するシングルガイドRNA(sgRNA)同族の発現に応じて、いくつかの蛍光斑点が核に出現する。次に、sgRNA非存在下でCasDrop系の光誘発性相分離を調べ得る。青色光活性化前に、dCas9-ST-GFP-iLID及びIDR-mCh-sspBの両方が核内において散在する蛍光シグナルを示す(
図2Bで見られる画像と同様)。青色光に曝露されると、dCas9-ST-GFP-iLID足場を通じたIDRオリゴマーの形成は、CasDrop構成要素で強化される液状のタンパク質集合体の急速なクラスター形成につながり;これらの集合体は非常に動的で、可逆的であり、頻繁な小滴合体事象が起こる。dCas9-ST又はIDRの何れも存在しない対照実験において、光活性化時に凝縮物は観察されず、相分離に対する推進因子としてのIDRオリゴマーの役割が確認される。
【0038】
sgRNAによる遺伝子座特異的標的化は、相分離の進行の経路を変化させ得る。CasDrop系がテロメアに対するsgRNAと同時発現される場合、鮮やかなGFP焦点がテロメアの反復結合因子TRF1と共局在することが観察され、このことから、足場標的化に成功したことが示される。青色光活性化時に、BRD4ΔN-mCh-sspB液状小滴が核となり、シーディングされたテロメアで成長する。興味深いことに、テロメアから離れて核形成される小滴の数は、活性化プロトコールに敏感に依存し:青色光の急速な増加の場合、多くの小滴が核質全体で核を形成するが、一方で、光強度勾配プロトコールでは、小滴はテロメア遺伝子座でほぼ独占的に核を形成する。この挙動は、相分離に対する核生成障壁の古典的な物理学と一致し:急速な活性化の場合、系が短時間で非常に過飽和となり、核生成障壁を下げて多くの核を形成する。一方、漸進的活性化の場合、最初は過飽和度が低く、シーディングされた部位で優先的に凝縮するようになり、その後の段階で、既存の小滴は、コストをかけて新しい核を形成するのではなく、成長し続ける。
CasDrop系のシミュレーションからこの図式が確認される。
テロメアに対するsgRNAがない対照実験により、テロメアに関係なく、BRD4小滴が明らかにランダムな方法で出現することが示される。まとめると、これらの結果は、細胞内相分離中の小滴局在が、プレシーディング及び過飽和速度によって動的に制御され得ることが示される。従って、CasDrop系は核形成足場の位置を特定するように機能し、それによってsgRNAにより定義されるゲノム位置で相分離が推進される。
【0039】
CasDropsのオフターゲットの核形成の研究では、クロマチン密度が比較的低い領域で小滴が形成されると思われる。これを定量するため、H2B-miRFP670をクロマチン密度に対する代用として使用して、小滴凝縮前に、染色体分布と比較してどこに小滴が形成されるかを決定するために凝縮物標的ガイドRNAを発現しない細胞を調べた。小滴が形成される領域でのH2B強度の分布は、核全体でのH2B分布と比較して、著しく低いH2B強度にシフトすることが分かった。これらの2つの分布を分割することにより、小滴形成の傾向が正規化H2B強度の強力な関数であり、小滴が低クロマチン密度の領域に対して顕著な優先性を示すことが明らかになる。特に、同様の分析では構成要素の偏った分布が示されないため、観察される傾向は、CasDrop構成要素の濃度変動のみによるものではない。
小滴が形成された後、クロマチン密度を調べた。注目すべきことに、小滴が成長すると、クロマチンが顕著に押し出され、容易に可視化される「穴」が生じる。
【0040】
細胞で過剰発現される様々なYFPタグ付きIDR含有全長タンパク質で形成される凝縮物について同様の挙動が見られるため、クロマチンの排除は、オプトジェネティック足場の人為産物ではない。これらの知見は、核小体、カハール体(CB)、PML体、核スペックル及びパラスペックルを含むいくつかの内因性核凝縮物も、特に低密度であるクロマチンに付随するという観察と一致する。従って、幅広いスペクトルの配列特性を示すIDRから構築される凝縮物(下の表1を参照)は、低密度クロマチン領域で優先的に核形成するだけでなく、核形成及び成長時に物理的にクロマチンを排除する。
【表1】
【0041】
クロマチンを排除する傾向がある小滴が優先的に低クロマチン密度の領域で成長する理由についての物理学的な洞察を得るために、変形可能なクロマチンネットワークと凝縮物の力学的相互作用をモデル化し得る。クロマチンを排除することにより、小滴の成長は力学的ストレスを生じさせ;実際に、非生物系では、相分離した小滴は、周囲の弾性ネットワークの存在によって強く影響を受けることが知られている。最小モデルを使用して、弾性マトリクスにおいて空洞を生じさせる拡張する球体としてクロマチンでの小滴形成を説明し得る。
ヤング率Gの非圧縮性弾性媒体での変形率λで空洞の内向き圧力を決定するためのネオ・フックひずみエネルギー関係から導き出される、球状の空洞に対する圧力とサイズとの間の次の関係を考慮した:
【数1】
この圧力は、クロマチンを変形させるエネルギーコストを反映しており、高密度弾性マトリクスでの小滴形成のエネルギー論を説明するために古典的な核形成理論を補完する。次に、半径Rの球状小滴を生成させるための総自由エネルギーコストを得るために、弾性クロマチンマトリクスを変形させるエネルギーコストを総化学ポテンシャルの増加及び表面張力コストの寄与に追加し、
【数2】
が得られる。
(式中、γは小滴の表面張力、Δμは過飽和溶液及び小滴相中の分子間の化学ポテンシャル差、c
dropは小滴内の分子の飽和総濃度、λ=R/r
meshであり、r
meshはクロマチンネットワークにおける典型的な局所メッシュサイズである)。r
mesh≪Rなので、変形率λは非常に大きい。従って、小滴核形成の自由エネルギーコストΔFに対する次の簡略式は、
【数3】
により与えられる。
(式中、Rは小滴の半径、γは小滴の表面張力、Δμは過飽和溶液中及び小滴相中の分子間の化学ポテンシャル差、c
dropは小滴内の分子の飽和総濃度であり、Gは、変形した周囲マトリクスの弾性(ヤング)率である)。最初の2つの項は、古典的な核形成理論を反映し、一方で3番目の項はクロマチン弾性からの力学的エネルギーの寄与を反映する。
【0042】
Δμ・cdropの値が臨界圧力Pc=5G/6未満の場合、自由エネルギーは大きいRに対して無限大に増加し、このことから、十分に高濃度のクロマチンの場合、小滴サイズが制限されることが示唆される。しかし、Δμ・cdrop>Pcの場合、小滴は制限なく成長し得る。弾性環境が不均一である場合、クロマチン密度は細胞におけるものであるため、剛性の低い領域が相分離に優先され、分子についてより高密度の領域に勝るはずである。
文献に基づいて、このモデルでの使用のために様々なパラメータを推定した。
【0043】
y≒4×10
-7N/m、インビトロでの核小体タンパク質の場合。
r
mesh≒7-13nm孔径の大まかな見積もりは、クロマチンサイズ及び体積分率に基づいて、クロマチン繊維間の平均自由行程により得られ得る。
【数4】
(式中、r
cはクロマチン繊維の幅であり、7nmと推定され、fはクロマチンの体積分率である)。電子顕微鏡により、体積分率は、ユークロマチンではおよそ0.12~0.21、ヘテロクロマチンについては約0.37~0.52と推定されており、それぞれ約14nm及び7nmの孔径を与える。
c
dropは、類似の生体模倣Corelet系において、及びインビトロでの小滴の場合の両方で、蛍光相関分光法を使用して、分子およそ5~10×10
-5個/nm
3であると推定された。
Δμは、およそ2~5k
BTと推定され、これは、希釈相と凝縮相との間の分子あたりの化学ポテンシャルの差である。
【0044】
Gは、マトリクスの架橋頻度に依存し、これは、マトリクスの体積分率の2乗であるf
2により推定し得る。ラミンノックアウトに対する核の有効な「ばね定数」は、1nN/μmのオーダーであると推定されており、1μmの顕微鏡レベルの長さスケールにより除すると、核に対して平均で約1kPaとなる。これに基づいて、約0.21の体積分率で硬さが最低のクロマチンは、約100Paの係数を有し、この値はf
2に対応すると想定され得る。
力学的効果を伴う集合的な小滴の核形成、成長及び粗大化の速度論の数値研究を可能にする拡散-界面形式内で、弾性媒体内の凝縮物熱力学に対する最小数学モデルを実行した。一例では、核質液は、dCas9-ST+scFV-sfGFP-iLID(種A)、TR-mCh-ssp(種B;TR=転写調節因子)及び他の「溶媒」分子(種C)から構成される有効な3成分系として説明される。力学的ネットワーク内の流体の熱力学的相挙動を説明するために、3値拡大正則溶液自由エネルギー汎関数を使用する。
【数5】
(式中、φ
iは分子集団i∈{A,B,C}の空間依存的体積分率であり;X
ijは、iとj分子との間の相互作用の強さを制御し;
【数6】
は集団iに対するネットワーク修正表面エネルギー係数であり(下記参照);
【数7】
はネットワークの空間依存的ヤング率であり、
【数8】
は、プレシーディング部位での種Aの濃度を高める場である)。流動相は、非圧縮性であると見なされ、φ
A+φ
B+φ
C=1となる。動態は一般化拡散方程式
【数9】
により与えられる(式中、i、j∈{A,B}(Cは非圧縮性を介して排除)、M
iは集団iの移動度であり、tは無次元時間である)。
弾性媒体の効果は、化学ポテンシャルを局所的に調整する空間依存性のバルク項(
【数10】
に比例)及び空間及び小滴のサイズに依存する界面エネルギー係数
【数11】
(式中、λ
iはネットワーク非存在下の表面エネルギー係数である)に組み込まれる。
【数12】
の場合、バルクネットワーク項と比較して、ネットワークに付随する界面項は無視できる。従って、界面エネルギーにおけるネットワークの影響を無視して(
【数13】
とする)、
【数14】
の領域を研究し得る。
【0045】
均一に混合した流体をφ
A=0.1、φ
B=0.1、φ
C=0.8、X
AC=X
BC=1、λ
i=0.75で初期化し、ランダムに配置されたプレシーディング領域内で
【数15】
=0.6、各硬いプレシーディングコア周囲の半径10の環内で
【数16】
=0.005、その他の場所で
【数17】
を設定することによって、テロメアプレシーディングシミュレーションを行った。非ゼロP
A値は、実験系でのテロメア周囲のdCas9-ST+scFV-sfGFP-iLIDの初期促進と同様に、プレシーディング部位周囲のAの局所濃度を高める。iLIDによるsspBの青色光誘発性ヘテロ二量体形成は、A-B相互作用強度の上昇として説明され、
【数18】
式中、
【数19】
及び
【数20】
は、それぞれ不活性化状態及び活性化状態の相互作用強度である。τ[blue]は青色光活性化に対する時定数であり、これは青色光の強度の増加速度に反比例する。X
ABを-5から-9.25に低下させることにより、相分離が誘導され、A+Bに富む小滴及びA+Bに乏しいバックグラウンドになる。
【0046】
上記のようなプレシーディング部位との平衡化後、τ[blue]の所定の値に対する上記の式に従う強度上昇とともに、青色光が包括的に適用される。小滴は、プレシーディング部位でより効果的に局在し、消光率が低下する。シミュレーションから、プレシーディング部位でのAの濃度上昇によって、急速な局所的核形成及びその後の拡散制限成長が促進されることが明らかになる。近くのA及びB分子を引き込むことにより成長が進行し、それにより、A及びBが枯渇した放射状ゾーンの拡大が起こる。小滴がプレシーディング間で核形成し得る前に、隣接プレシーディング部位の枯渇ゾーンが重複する場合、全ての小滴がプレシーディング部位に局在するようになる。枯渇ゾーンが重複する前に小滴が系全体で核形成する場合、長時間持続する小滴もシーディング部位から離れて出現する。理想的な拡散制限成長の場合、枯渇ゾーンの半径は
【数21】
(式中、DはA及びB分子の拡散係数であり、S
0はそれらの過飽和である)
のように成長する。従って、隣接枯渇ゾーンの重複に必要な時間は
【数22】
(式中、dはプレシーディング部位間の距離である)
である。空間的に不均一な弾性ネットワークを使用したシミュレーションは、上記のように包括的に青色光を適用するが、
【数23】
=0
及び
【数24】
(式中、L
x及びL
yはシミュレーション細胞の長さである)
で行った。定数G
0は、t=250(小滴核形成後)~t=750の間で0~0.18まで直線的に上昇した。力学的変形エネルギーの導入におけるこの遅延の結果、空間的に均一な小滴核形成及びネットワークの剛性とは独立した初期小滴サイズ分布が得られるが、これは、発明者らのネオ・フックモデルと一致する。その後の非ゼロ
【数25】
の導入は、前述の大きな小滴サイズ領域への移行を誘導し、この場合、主要な効果は、局所的な剛性及びより柔軟な領域における優先的な小滴成長に従う総化学ポテンシャルの移行である。上記のようにさらなるシミュレーションを行ったが、硬いヘテロクロマチン様ドメインの内側に青色光を局所的に適用し、ここでG
0は、t=100(小滴核形成後)~t=600で0~0.18まで直線的に上昇した。
【0047】
特異的なゲノム遺伝子座にシーディングされた2個の小滴が融合する場合、表面張力は、結果として生じる大きな小滴の球状化を促す。この結果、2個の遺伝子座を互いに対して引き寄せる力が生じ、それぞれがその元の位置から距離Δxだけ変位する。この変位は、クロマチンの変形を誘発し、その結果、弾性的な復元力が遺伝子座をその元の位置に引き戻し;力学的平衡状態で、小滴表面積と遺伝子座変位との間のバランスは、表面張力γ及びクロマチンのヤング率Gの相対的大きさを反映する。量的には、半径Rの2個の小滴が融合して球体を形成する場合、その結果生じる小滴の平衡半径は2
1/3Rとなる。表面張力ゆえに、小滴を球形の形状から伸長させることにはエネルギーコストがかかる。この結果、テロメア間に力F
tensionが生じ、これは、伸長における線形順序に対するものであり
【数26】
小滴が楕円体のままであるように拘束されると仮定すると、
【数27】
と解釈される。Δxだけ変位したサイズr
locusの遺伝子座における弾性力は、弾性ストークスの法則
F
elastic=-6πGr
locusΔxにより与えられる。従って、力平衡は
【数28】
をもたらす。
約10nmのテロメアサイズを考えると、以前のような4×10
-7N/mのγ、1μmの小滴サイズ及び10~100Paの範囲のGにより、変位Δx≒10~100nmとなる。
【0048】
従って、モデルの予測は、力学的変形エネルギーが、十分に高密度のヘテロクロマチン領域、即ち実験で測定した小滴成長傾向の高密度端付近の領域で、小滴が臨界サイズを超えて成長するのを防ぐというものである。この予測を試験するために、メジャーサテライトリピート、ヘテロクロマチンタンパク質HP1αに非常に富むマウス培養細胞において顕著な高密度ヘテロクロマチン領域。次に、CasDrop系を使用して、レーザーを核内に集束させることにより、BRD4凝縮物を局所的に構築する。HP1α-miRFP670標識なしで、BRD4小滴がユークロマチン領域で誘導される場合、BRD4小滴は容易に凝縮する。しかし、ヘテロクロマチン上に直接小滴を書き込もうとする場合、分解可能な小滴は末梢周囲でのみ凝縮する傾向があり;この効果は、sgRNA標的化を通じたIDR-sspB構成要素の濃縮後でさえも確実に発生するので、IDR除外の結果ではない。コンパクトなヘテロクロマチンコアでの凝縮物核形成のシミュレーションから、これらの実験で見られたものと非常に類似している花弁様の構成が明らかになる。興味深いことに、いくつかのケースでは、HP1α-miRFP670に富むヘテロクロマチン構造は、弱いHP1α-miRFP670蛍光の明らかなサブ領域を示し、これはある程度のユークロマチン散在を反映し得る。これらの構造上でBRD4小滴を核形成しようとする場合、BRD4小滴が時に内部で核形成し;それらが成長するにつれ、反相関蛍光強度から分かるように、HP1αをずらし;際立って、成長するBRD4小滴はヘテロクロマチンを「破裂」させ得、急激にユークロマチン領域に溢れ出し得る。発明者らは、TAF15及びFUS CasDropsと質的に類似したヘテロクロマチンの非混和性を観察する。まとめると、これらの挙動は、成長する凝縮物を取り囲むクロマチンに蓄積する力学的ストレスの存在に対する強力な裏付けとなる。従って、この力学的な非混和性を強化するために、HP1α自体がさらなる好ましくない相互作用をもたらし得るものの、これらのデータは、発明者らの力学的な小滴排除モデルと一致する。
【0049】
エンハンサークラスター及び他の核凝縮物が、特異的標的化ゲノムエレメントをより近くに持ってくると仮定されていることを考えると、力学的クロマチン排除のこれらの知見は驚くべきことである。これらの力学的影響を調べるために、テロメアを標的とする凝縮物を調べた。上記の知見と一致して、BRD4 CasDrop凝縮物は、標的ヘテロクロマチンテロメアと混合しないように見え、小滴周辺に局在する傾向がある。しかし、それでもこの2つは部分的に互いに湿潤性であるので、付着する。異なるテロメアでシーディングされた2個の小滴が互いに組み合わせられる場合、表面張力は、遺伝子座間で相関のある動きを生じさせ、それらを近接するように引っ張るのに十分である。粘性効果を無視すると、テロメア変位は、小滴表面張力γと有効なゲノム弾性Gの比によって与えられるはずであり、即ち、Δx~γ/Gであり;これら2つのパラメータに対する推定値は、これらの測定と一致する予測変位をもたらす。一部の場合では、小滴が結び付けられるテロメアから分離し得、次いで、緩んでより遠位の位置に戻るが、これは、介在する「ばねで留められた」クロマチンを解放する小滴分離と一致する。
【0050】
例示的な系
細胞培養方法
NIH3T3、HEK293、HEK293T及びU2OS細胞をダルベッコ改変イーグル培地(Gibco)、10%ウシ胎児血清(Atlanta Biologicals)及び10U/mLペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)からなる増殖培地中で培養し、加湿インキュベーター中、37℃及び5%CO2で温置した。
【0051】
一過性遺伝子移入
製造元のプロトコールに従い、Lipofectamine 3000(Invitrogen)を使用してプラスミドDNAによる遺伝子移入を行う前に、HEK293、HEK293T又はU2OS細胞を12ウェルプレート中でおよそ70%の培養密度まで増殖させた。簡潔に述べると、遺伝子移入試薬及びDNAプラスミドをOPTI-MEM(Gibco)で希釈した。各ウェルには、合計1μgのDNAを含有する100μLの遺伝子移入混合液を入れた。遺伝子移入の6~24時間後に遺伝子移入混合液を除去した。一過性遺伝子移入を行った細胞は、通常、遺伝子移入の24~48時間後にイメージングを行った。
【0052】
レンチウイルス形質導入
レンチウイルスは、製造元のプロトコールに従い、FuGENE HD Transfection Reagent(Promega)を使用して、6ウェルプレート中でおよそ70%の培養密度まで増殖させたHEK293T細胞に、トランスファープラスミド、pCMV-dR8.91及びpMD2 G(9:8:1、質量比)を同時遺伝子移入することにより作製した。合計3μgのプラスミド及び9μLの遺伝子移入試薬を各ウェルに入れた。2日後、ウイルス粒子を含有する上清を回収し、0.45μmフィルター(Pall Life Sciences)でろ過した。上清をすぐに形質導入に使用するか、Lenti-X Concentrator(Takara)を使用して10倍に濃縮するか、又はアリコートで-80℃にて保存した。NIH3T3又はHEK293T細胞を12ウェルプレート中で10~20%の培養密度まで増殖させ、100~1000μLのろ過済みウイルス上清を細胞に添加した。感染24時間後にウイルスを含有する培地を新鮮な増殖培地と交換した。感染した細胞は通常、感染後72時間以降にイメージングを行った。
【0053】
細胞株作製
複数のコンストラクトを発現する細胞株を確立するために、必要に応じて蛍光活性化細胞選別(FACS)と一緒に、連続的なレンチウイルス形質導入を行った。野生型NIH3T3(又はHEK293T)細胞に対して、SFFVプロモーター及びscFv-sfGFP-iLIDの下でdCas9-STを含有するレンチウイルスにより形質導入を行った。次に、この形質導入NIH3T3細胞株を使用して、レンチウイルス形質導入により他の細胞株を作製し、各実験に対して示される必要なコンストラクトを発現させた。形質導入HEK293T細胞株においてdCas9-STを発現する集団を増加させるために、高レベルのBFP及び中間レベルのGFPを発現する単一細胞に対してゲーティングを行うことで、FACSAria Fusionフローサイトメーター(BD Biosciences)上で細胞を選別した。ポリクローナル細胞プールを収集し、増殖培地中で増殖させ、回収した。この選別細胞株に対して、CasDrop/Cry2-融合実験用のさらなるコンストラクトを用いて一過的な遺伝子移入を行った。
【0054】
コンストラクト
FUSN(1-214)、mCherry及びsspBコード配列をpHRに基づくベクターに挿入することによって、最初にFUSN-mCh-sspBを作製した(Shin et al.,2017)。他のTR-mCh-sspBコンストラクトの場合、BRD4ΔN(462-1362)、TAF15N(1-208)をコードするDNA配列とFUSN-mCh-sspB中のFUSNを入れ替えた。scFv-sfGFP-iLIDは、scFv-GCN4-GFP(Addgene 60906)中のGB1とNLSとの間にiLID(Addgene 60413)を付加することにより作製した。dCas9-ST(Addgene 60910)に対するプロモーターは、発現を促進するためにdSV40からSFFVに変更した。mCherry、sspB(Addgene 60415)、miRFP670(Addgene 79987)、TRF1(Addgene 64164)及びHP1α(Addgene 17652)の断片をPCRにより増幅させた。使用したCry2断片は全て、蛍光レポーターをmChからmiRFP670に入れ替えたことを除いて、以前に記載のもの(Shin 515 et al.,2017)と同一であった。EYFPコンストラクトの場合、FM5-EYFP(Marc Diamond lab,UT Southwesternの厚意により譲渡)をNheIで消化し、In-Fusion Cloning Kit(Takara)を使用してオープンリーディングフレームを5’末端にサブクローニングした。FM5-ORF-mCherry-Cry2コンストラクトを作製するために、FM5-EYFPをNheI及びAscIで消化し、Qiagen Gel Extraction Kitを使用してEYFPを欠くDNA骨格をゲル精製した。mCherry-Cry2をpHr-mCherry-Cry2からPCRし、NheI及びAscIで消化し、ゲル精製し、Quick Ligase(NEB)を使用してFM5骨格にライゲーションした。次にFM5-mCherry-Cry2をNheIで消化し、In-Fusionを使用してオープンリーディングフレームを5’末端にサブクローニングした。GenScriptにより合成されたRNPS1を除き、AddGene:CCNT1(14607)、HSF1(32538)、MLLT3(49428)、SART1(38087)、TAF15(84896)、BMI1(69796)、SRSF2(84020)、PRPF6(51740)から得た組み換えDNAベクターから、全てのオープンリーディングフレームに対してPCRを行った。テロメア及びメジャーサテライトリピート(sgTel、sgMaj)を標的とするsgRNAの場合、pLV-sgCDKN1B(Addgene 60905)を最初にBstXI及びXhoIで消化し、続いてゲル電気泳動及び抽出を行った。次に、sgRNAに対するPCR断片は、配列特異的フォワードプライマー及び共通リバースプライマーを使用して作製した。In-Fusion Cloning Kit(Takara)を使用して、全ての断片をライゲーションし、最終的なベクターへと構築した。
【0055】
免疫細胞化学
PBS中3.5%PFA(Electron Microscopy Services)を使用して、H2B-miRFP670を発現するHEK293細胞を15分間固定した。細胞をPBSで2回洗浄し、PBS中0.25%Triton-Xで20分間透過処理した。非特異的エピトープは、ブロッキング緩衝液(PBS、0.1%Triton-X、10%正常ヤギ血清、Vector Laboratoriesより)を使用して1時間ブロッキング処理した。ブロッキング緩衝液中で次の抗体を使用して4℃で一晩、一次免疫染色を行った:PML(マウス、AbCam ab11826、1~50)、コイリン(ウサギ、Santa Cruz sc32860、1~100)、TDP43(ウサギ、ProteinTech 10782-2-AP、1~100)、SMN1(マウス、Santa Cruz sc-32313、1~100)、SC35(マウス、AbCam ab11826、1~1000)及びFBL(マウス、AbCam ab4566、1~40)。次に、細胞をPBS中0.1%Triton-Xで3回洗浄した。室温で90分間、ブロッキング緩衝液中のInvitrogenからの以下の抗体を使用して二次免疫染色を行った:AlexaFluor 546ヤギ抗ウサギ(A11010、1~400)、AlexaFluor 546ヤギ抗マウス(A11030、1~400)。細胞をPBS中0.1%Triton-Xで3回洗浄した。DNAを2μg/mL Hoechst色素(ThermoScientific)で可視化し、PBS中で15分間染色した。最後に、Hoechstを除去し、イメージングの前にPBSに交換した。一次染色の特異性を保証するために、一次抗体なしの対照実験を実施した。
【0056】
顕微鏡
画像は全て、Nikon A1レーザー走査型共焦点顕微鏡で60X液浸対物レンズ(NA 1.4)を使用して撮影する。イメージングチャンバーは37℃及び5%CO2で維持する。生細胞イメージングのために、細胞をフィブロネクチン(Sigma-Aldrich)でコーティングされた35mmガラス底ディッシュ(MatTek)に播種し、通常は一晩増殖させる。網羅的な活性化の場合、細胞を通常488nmレーザーで画像化するが、オプトジェネティックタンパク質(iLID及びCry2)が高感度であるため、青色光の強度を下げる必要がある場合は、440nmレーザーを488nmレーザー用の二色性フィルターと組み合わせて使用する。これにより、0.1μWを下回る試料面での青色レーザー強度の減衰が可能になる。局所的活性化の場合、青色レーザーで走査しようとする領域をガイドするために、関心領域(ROI)を定める。光退色後の蛍光回復(FRAP)は、ROIを使用して同様に行う。
【0057】
画像分析
画像上のデータ分析は全て、特注のMATLABスクリプトを使用して行った。簡潔に述べると、テロメア追跡の場合、ノイズを減少させるために未加工画像を最初にガウシアンフィルタ処理し、次にテロメアに対応するピークをそのピーク強度に基づいて検出する。近接度に基づいて一連の検出された座標から軌道を作成する。小滴又はヘテロクロマチンのいずれかの境界を識別し、追跡するために、MATLABのエッジ検出ルーチンを使用して、セグメント化二値画像を得る。妥当性をチェックするために分析結果を手動で確認する。
開示されるものは、核凝縮物がどのようにしてそれらの局所ゲノム環境を感知し得るか、及び再構築し得るかの両方を示す。様々なIDR含有タンパク質の幅広い範囲からクロマチンが排除され、これは、一部の例では、クロマチンネットワークの大規模な変形において顕在化する。これらのタンパク質は、それらの物理的特性の顕著な多様性を示し、比較的帯電していないもの(例えばTAF15 N)から非常に塩基性(SRSF2 IDRなど)で混合電荷であるもの(SART1)まで;比較的疎水性のもの(例えばHSF1)から非常に親水性のもの(例えばRNPS1)までの範囲のIDRを示す。従って、クロマチンの力学的排除は、相分離を推進するタンパク質の物理化学的特性に関係なく発生するようであり、これが様々なIDRに富む核体内で見られる低クロマチン密度の根底にあると思われる。これらの知見は、生殖質タンパク質DDX4がクロマチンを排除しているように見えるという先行研究での観察と一致する。興味深いことに、DDX4凝縮物は1本鎖RNA及びDNAを除外せず、これらは代わりに強力に分割し、小滴にする。このような選択性は、除外されたクロマチンからの1本鎖RNA転写産物が隣接する凝縮物に引き込まれるため、遺伝情報の流れを促進するのに役立ち得る可能性がある。
【0058】
核凝縮物がクロマチンを排除する傾向は、不均一な核環境内で劇的な結果を招く。成長している小滴からクロマチンを排除すると、クロマチンネットワークの変形が起こる。弾性(又は粘弾性)材料の変形は、ひずみエネルギーを発生させるが、これはマトリクス内に保存される力学的エネルギーに相当する。従って、この変形は、熱力学的に好ましくないエネルギーコストに相当し、従ってマトリクスの弾性特性は小滴の成長動態における重要な要素になる。非生体系では、この効果が相分離に強く影響し得、マトリクスの弾性によって設定されるサイズの均一な小滴を生じさせ得ることさえあることが知られている。理論分析及びシミュレーションは、この変形エネルギーの結果として、小滴が、ゲノムのより柔軟で低密度の領域で成長し易い傾向があることを示す。ヘテロクロマチンにおいて形成される小さな小滴は、最終的に解消し、より柔軟なユークロマチン領域内で成長する小滴に対するIDR供給源として働く。この効果の際立つ結果は、ヘテロクロマチン形成部周囲の花弁様の小滴の配置において、又は稀には高密度で力学的により硬いヘテロクロマチン内からの小滴の突出において観察され得る。従って、この効果は、ゲノム再編成を引き起こし得、活性のある遺伝子発現に関連する力学的により柔軟で低密度のゲノム領域での転写凝縮物の優先的な成長を促進するために重要であると思われる。
【0059】
本方法及び系によりまた、標的とされる凝縮物がどのように離れた場所に集まり得るかということも明らかになる。多くのIDRに富むタンパク質は、BRD4で見られるブロモドメインなどの標的化する「リーダー」モチーフを保持しており、これは、この相分離し易いタンパク質を、アセチル化リジンの存在を示すヒストンへと向けさせる。CasDrop系は、このような内在性の標的化モチーフをプログラム可能なdCas9で置き換え、これによりIDP標的化の生物物理学的結果の精査が可能になる。発明者らは、IDP標的化が局在化した相分離をどのように促進するかを示すために、CasDropを使用するが、この過程は、局在化した相分離を推進するためにIDR濃度を増幅し得る「拡散捕捉」機序に密接に関連すると思われる。発明者らの研究から、表面張力がどのように標的小滴の合体に介在し得るかも明らかになる。発明者らは、関連する力及びゲノム変形を定量化し、これにより、2つ以上の標的遺伝子座をより接近させ得る。標的ゲノム遺伝子座を「引き込む」この能力は、IDR推進型凝縮物の幅広いスペクトルが非標的ゲノムエレメントとは逆の働きをする、即ち「それらを押し出す」という発明者らの知見とは対照的であり得る。これらの知見を組み合わせて、発明者らは、それらが結合する標的領域と一緒に引っ張りながら、ゲノムの非特異的エレメントを除去するために働くという、核小体などの転写活性のある凝縮物及びスーパーエンハンサークラスターが二機能性の役割を果たす、凝縮物誘導性のゲノム再構築に対するクロマチンフィルターモデルを提案する。
【0060】
本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書中で説明及び図示した構造及び方法に様々な修正を行い得るので、前述の説明に含有される、又は添付図面に示す全ての事項は、限定ではなく例示として解釈されるべきものとする。従って、本発明の広がり及び範囲は、上記の例示的な実施形態の何れによっても限定されるべきではなく、本明細書に添付される次の特許請求の範囲及びそれらの同等物にのみ従って定義されるべきである。