(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】床用エキスパンションジョイント
(51)【国際特許分類】
E04B 1/68 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
E04B1/68 100A
(21)【出願番号】P 2021044607
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2023-10-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000127639
【氏名又は名称】株式会社エービーシー商会
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 潤
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-101369(JP,A)
【文献】特開平10-046683(JP,A)
【文献】特開2014-077308(JP,A)
【文献】特開2003-096926(JP,A)
【文献】特開2006-052525(JP,A)
【文献】特開2007-016539(JP,A)
【文献】特開2011-226150(JP,A)
【文献】特開2000-027318(JP,A)
【文献】特開2002-38612(JP,A)
【文献】特開2005-213814(JP,A)
【文献】特開2000-204679(JP,A)
【文献】特開2001-288825(JP,A)
【文献】特開2006-328889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体と躯体の間隙に設置される床用エキスパンションジョイントであって、
複数の床プレートに分割された前記間隙を覆う床カバー材と、
一側の端部を一方の躯体、他側の端部を他方の躯体に各々取り付けて、前記間隙長さ方向に沿って互いに間隔を開けて配置された複数のパンタグラフ形状の伸縮リンク機構と、
これら複数の伸縮リンク機構の上部に
間隙幅方向に沿って平行に取り付けられて、上面で前記各床プレートを支持する複数の下地材と、
両端部間の
長さが変位し得るように設けられていて
前記両躯体の間隙に面する端部にそれぞれ設けられた両凹段部上に架設された少なくとも一つの補強体とを備え、
前記補強体は、前記間隙の長さ方向と直交するように前記両凹段部上に架け渡され、且つその両端部を前記両躯体に接続せずにそれぞれ前記凹段部上を移動可能に設けられ、
前記複数の伸縮リンク機構の中間部と前記補強体の中間部とが接続された構成を有することを特徴とする床用エキスパンションジョイント。
【請求項2】
前記各下地材は、前記複数の伸縮リンク機構上に間隙の幅方向に沿って互いに間隔を開けて平行に並べられ、且つその下面を前記各伸縮リンク機構の上部に鉛直方向に沿った軸周りに回転し得るように取り付けられて前記複数の伸縮リンク機構上に支持された構成を有することを特徴とする請求項1に記載の床用エキスパンションジョイント。
【請求項3】
前記各補強体は、前記各伸縮リンク機構の中間部と前記各補強体の中間部とが鉛直方向に沿った軸周りに回転し得るように接続されているとともに、各補強体同士はそれぞれの中間部下面間に架け渡した連結材に一体に連結されて、前記各伸縮リンク機構が各補強体上に支持された構成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の床用エキスパンションジョイント。
【請求項4】
前記各伸縮リンク機構の直下に補強体が各々設置されていることを特徴する請求項1から3の何れかに記載の床用エキスパンションジョイント。
【請求項5】
前記補強体は、一対の端部補強材と、前記一対の端部補強材の軸部をスライド自在にガイドするガイド部を有する中央補強材からなり、
前記中央補強材に軸部がガイドされた前記一対の端部補強材は、ともに弾性部材によりガイド部の外側又は内側に向けて弾圧付勢されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の床用エキスパンションジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の間隙に設置される床用エキスパンションジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
大型の構造物は、これを構成する躯体の温度変化や地震のときなどにかかる荷重の影響を避けるため、構造物を複数の躯体に分割して躯体間に間隙を設けて建てられている。各間隙には、間隙の両側の躯体同士を一体に接続したまま躯体が相互に異なる方向に変位してもそれに追従変形して応力を吸収するように構成されたエキスパンションジョイントが設置されている。
【0003】
躯体同士の取り合い部分に設置されるエキスパンションジョイントは、施工をしやすくし、内外装の仕上げが制約を受けないようにするなどの要請から、製品幅(間隙長さ方向の装置長)をできる限り小さく収めることが望まれる。
かかる要請に対応した、間隙を挟んで向き合う躯体同士の床の取り合い部分に設置されるエキスパンションジョイントとして、間隙に面する両躯体の端部間に、複数のパンタグラフ形状の伸縮リンク機構を間隙長さ方向に沿って相互に一定の間隔を開けて平行に取り付け、これら伸縮リンク機構の上部で複数の床プレートからなる床カバー材を支持して間隙を覆う構造のものが知られている。
【0004】
この構造のものは、各床プレートがその下部に取り付けられた下地材を介して伸縮リンク機構に支持されているとともに、伸縮リンク機構上で隣接する床プレート同士が重なり合うように配置して取り付けられており、伸縮リンク機構の伸縮動作に応じて前記各床プレートが伸縮リンク機構上で摺動して重なり代を狭めたり広げたりすることで、間隙が床カバー材で覆われた状態を維持するようになっている。
また、前記床カバー材を介してかかる下向きの荷重に対する強度を高めるため、前記パンタグラフ形状の伸縮リンク機構と伸縮リンク機構の間の両躯体の端部間に前記下地材を支持する補強体を設置したり、前記パンタグラフ形状の伸縮リンク機構の下部に複数の取り付けバーを配置し、これら取り付けバーの下側に取り付けバーを支持する補強体を設置したりしている(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-248466号公報
【文献】特開2008-101369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来構造の床用エキスパンションジョイントにあっては、両躯体間に架け渡して配置されるパンタグラフ形状の伸縮リンク機構と補強体が、ともに両端部を、間隙に面する躯体端部に設けられた鉛直軸方向の周りに回転する軸部に一体に連結して取り付けられていた。そのため、地震が発生するなどして両躯体が相対変位したときは、前記躯体との連結支点である両端部が躯体と一体に変位するように構成されていた。
【0007】
この場合に、間隙が広がる方向に両躯体が相対変位すると、前記補強体は伸長してその両端部間の距離、つまり支点間距離が大きくなるが、支点間距離が大きくなっても前記荷重に対する強度低下を来さないようにするため、補強体をそのメンバー(断面寸法)を大きく設定して形成する必要がある。補強体のメンバーが大きいと全体寸法が大きく且つ重量が増して、組み立て時及び施工時の取り扱いが不便となる問題がある。
【0008】
また、前記補強体は、端部が一方の躯体に固定される一の補強材と、端部が他方の躯体に固定される他の補強材とを互いに長さ方向に沿って摺動自在に組み合わせて形成されており、前記のとおり、補強体のメンバーが大きく設定されていたとしても、両躯体が相対変位して支点間距離が大きくなると、補強体の伸長により前記補強材同士のラップ長(重なり代)が短くなり、伸長する前よりも補強体の強度が著しく低下することは避けられない。両躯体間が大きく変位しても補強体の強度が維持されることが好ましい。
【0009】
また、従来構造のものは、両躯体間に取り付けられたパンタグラフ形状の伸縮リンク機構と伸縮リンク機構の間に補強体を配置、つまり間隙の長さ方向に沿って伸縮リンク機構と補強体が交互に並ぶように配置されていた。
この場合、補強体の配置間隔が大きくなることで荷重に対する強度低下を来す虞があることを考慮し、また、前記躯体同士の取り合い部分のうち、壁際や端部の近い部分では補強体からのはね出し寸法が大きくなって強度低下が著しくなることを考慮して、補強体をそのメンバーを大きく設定して堅牢に形成する必要があった。
間隙の開口に沿って複数の床プレートを水平に支持するには、少なくとも二つの伸縮リンク機構を配置する必要があるが、パンタグラフ形状の伸縮リンク機構と補強体を交互に配置したのでは、間隙が狭まる方向に両躯体が相対変位したときに、左右に張り出して収縮する伸縮リンク機構と補強体が互いにぶつからない配置間隔は確保されている必要があるため、必然的にエキスパンションジョイントの間隙長さ方向の必要寸法が大きくなってしまい、製品幅を小さく収めることはむずかしかった。
【0010】
また、従来構造のものは、補強体が、両躯体が間隙長さ方向に沿って相対変位したときに間隙幅方向に対して斜めに傾斜して両躯体間に架け渡されるようになっており、この補強体の上面に、床プレートを支持する下地材が載ってメタルタッチで支持されていた。
補強体の上面には下地材を介して荷重がかかるが、下地材との接触面積が大きいので、両躯体の相対変位に伴って補強体が伸縮し又は回転したときに、補強体と下地材の重合面間に大きな摩擦が生じ、この摩擦力が補強体のスムーズな変位を阻害することが想定される。
そもそも、両躯体の間隙長さ方向の変位発生時に、補強体が斜めになったのでは可動がしにくいことが想定される。地震が発生して両躯体間が複雑に変位したときに、これに追従して補強体がスムーズに伸縮し回転することが求められるが、前記のとおり上方から大きな荷重を受けているため補強体が滑らかに変位することは期待できない。補強体の変位動作が滞ることにより生じた局所的な応力集中によりエキスパンションジョイントが破損を来す虞もある。
【0011】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑み、躯体が相互に異なる方向に変位しても、間隙を床カバー材で閉鎖したままそれにスムーズに追従変形して荷重を吸収することが可能であり、製品幅の小さな床用エキスパンションジョイントを構成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、躯体と躯体の間隙に設置される本発明の床用エキスパンションジョイントは、
複数の床プレートに分割された前記間隙を覆う床カバー材と、
一側の端部を一方の躯体、他側の端部を他方の躯体に各々取り付けて、前記間隙長さ方向に沿って互いに間隔を開けて配置された複数のパンタグラフ形状の伸縮リンク機構と、
これら複数の伸縮リンク機構の上部に間隙幅方向に沿って平行に取り付けられて、上面で前記各床プレートを支持する複数の下地材と、
両端部間の長さが変位し得るように設けられていて前記両躯体の間隙に面する端部にそれぞれ設けられた両凹段部上に架設された少なくとも一つの補強体とを備え、
前記補強体は、前記間隙の長さ方向と直交するように前記両凹段部上に架け渡され、且つその両端部を前記両躯体に接続せずにそれぞれ前記凹段部上を移動可能に設けられ、
前記複数の伸縮リンク機構の中間部と前記補強体の中間部とが接続された構成を有することを特徴とする。
【0013】
具体的には、本発明の一形態の床用エキスパンションジョイントは、
前記間隙を覆う床カバー材が間隙幅よりも小幅の複数の床プレートに分割され、
両端部間が伸縮自在な複数のパンタグラフ形状の伸縮リンク機構が、間隙長さ方向に沿って互いに間隔を開けて、且つ各々一側の端部を一方の躯体、他側の端部を他方の躯体に取り付けて配置され、
これら伸縮リンク機構の上部に、間隙長さ方向に伸びた複数の下地材が平行に取り付けられ、
各下地材の上面に前記各床プレートが支持されているとともに、
前記両躯体の間隙に面する端部にそれぞれ設けられ凹段部上に、両端部間の長さが変位し得るように設けられた複数の補強体が、各々両端部を前記躯体に接続せずに架設され、
前記間隙内に位置する前記各伸縮リンク機構の中間部に前記各補強体が接続された構成を有することを特徴とする。
【0014】
これによれば、上面に床プレートが取り付けられた各下地材が複数の伸縮リンク機構の上部で支持され、各伸縮リンク機構はその下部が補強体で支持される。補強体は、両端部間の
長さが変位し得るように設けられており、それぞれ両端部を前記両躯体には接続しないで、両躯体の端面にそれぞれ設けられた凹段部間に架け渡して設置してある。
前記補強体は、両躯体の間隙に面する端部にそれぞれ設けられた凹段部上に支持されている。凹段部の先端部間の間隙幅は、両躯体の端面間の間隙(G)幅より狭く(
図1参照)、補強体の支点間距離は平常時に、凹段部の下方の両躯体の端面間の間隙の開口幅よりもわずかに大きくなる。
また、間隙が広がる方向に両躯体が相対変位した可動時には支点間距離が大きくなるが、補強体を躯体端面の凹段部間に架け渡して設置してあるので、凹段部がなく躯体端面に補強体を直に接続した場合よりも支点間距離は小さく抑えられる。また、間隙が広がる方向の可動時でも補強体の両端部間の長さは可動前の平常時と同じであり、補強体を構成するスライド変位する部材自体の重なり部が短くなることによる強度低下が抑えられる(
図9参照)。両端部間の
長さを伸長し得るように補強体が構成されている場合も、両端部間を伸長した状態でも、当該補強体を構成するスライド変位する部材同士が適宜な幅だけ重なるように設けることで、重なり部が短くなることによる強度低下を抑えることができる(
図11参照)。
補強体を躯体端面の凹段部間に架け渡して設置することで支点間距離の拡大による強度の低下が抑制されるので、補強体のメンバーを大きく設定することは不要であり、軽量且つコンパクトに構成することができる。補強体が軽量且つコンパクトに構成できるので、組み立て時の取り扱いが簡便で良好な施工性が得られる。
なお、前記「両躯体の間隙に面する端部にそれぞれ設けられ凹段部」とは、間隙を挟んで相対する躯体の端部を含む領域であって、躯体の上面に設けられる床面よりも一段低く凹んだ位置となるようして平坦な面状に設けられた領域をいう。エキスパンションジョイントの床カバー材が間隙を挟む両躯体の上面の床面に架け渡され、この床カバー材の下側に設けられる伸縮リンク機構及び補強体が前記凹段部上の領域に配置される。凹段部は、躯体と一体に設けられた部位でも別体に設けられた部位でも何れでもよい。例えば、躯体の端部から間隙内にはね出し部を設置して、はね出し部の上面を凹段部とする場合や、躯体の上面に床面を嵩上げして設置し、この嵩上げ床面よりも間隙側に位置する嵩上げ床面よりも一段低くなる当該躯体の上面を凹段部とする場合なども含まれる。
【0015】
前記構成の床用エキスパンションジョイントにおいて、補強体は、その両端部が前記躯体に設けられた凹段部上を移動自在に設置された構成とすることができる。
この場合、補強体の少なくとも両端部とそれよりも中央寄りの部位とに滑動部材を設置し、前記両躯体の凹段部上にそれぞれ複数の滑動部材が載って、補強体が両凹段部上を滑動するように設けることが好ましい。或いは、滑動部材を設置せず、補強体が凹段部上面に面接触して載ったまま、凹段部上を摺動し得るように設けてもよい。
【0016】
これによれば、補強体は躯体端部の凹段部上を移動自在に設置され、その両端部は凹段部上面に支持された状態で束縛のないフリーの状態となっている。
そのため、間隙が狭まる方向に両躯体が相対変位した場合、両躯体の凹段部の端面が補強体の両端部に当接して補強体の両端部に内向きに押す力が加わることで、両躯体の変位に追従して、補強体はその両端部間が縮小する。
一方、間隙が広がる方向に相対変位した場合は、補強体の両端部が躯体に接続してはいないので、補強体は凹段部上をスライド移動して躯体に対して相対変位することで両躯体の変位に追従し、また、間隙の長さ方向に沿って両躯体が相対変位した場合も、上記と同様に、補強体は凹段部上をスライド移動して躯体に対して相対変位することで両躯体の変位に追従する。
間隙が幅方向と長さ方向の何れの方向に両躯体が大きく相対変位しても、補強体の両端部を含む可動部が伸長した状態でラップ長が極めて小さくなるようなことはなく、補強体の強度低下が抑制されて、その上面で伸縮リンク機構を安定的に支持することができる。
また、前記のとおり、補強体は、その両端部が躯体に接続してはおらず、躯体端部の凹段部上をスライド移動自在に設置してあるので、両躯体が間隙の幅方向と長さ方向の何れの方向に沿って相対変位しても、間隙に対して直交状態を維持して両躯体の凹段部間に架設され、また、間隙が狭まる方向の変位に対して前記直交状態を維持したまま縮小して、両躯体の複雑な変位に追従することができる。
【0017】
前記構成の床用エキスパンションジョイントにおいて、各伸縮リンク機構の直下に補強体が各々設置された構成とすることができる。
【0018】
これによれば、床プレートが取り付けられた下地材をパンタグラフ形状の伸縮リンク機構で支持し、この伸縮リンク機構の荷重は、その一部が両躯体との接続部にかかり、一部が当該伸縮リンク機構の下に配置された補強体にかかって床カバー材が間隙上に支持される。
伸縮リンク機構の荷重をその下に配置された補強体が受けるようにしたので、従来構造のように伸縮リンク機構と補強体を交互に配置した場合と比べて補強体の配置間隔が小さくなり、補強体メンバーを大きく設定する必要がなく、補強体の構成をコンパクトにすることができる。
また、壁際や端部の近い部分で補強体からのはね出し寸法が大きくなることもなく、伸縮リンク機構が伸縮動作した際の補強体との衝突を考慮する必要がないので、エキスパンションジョイントの製品幅を小さく収めることができる。
【0019】
前記構成の床用エキスパンションジョイントの補強体の構成としては、軸部の先端に滑動材が取り付けられた一対の端部補強材と、前記一対の端部補強材の軸部の他端部を向かい合わせでスライド自在にガイドするガイド部を有する中央補強材からなり、前記中央補強材のガイド部でスライド自在に軸部がガイドされた一対の端部補強材は、それぞれ前記ガイド部の内側又は外側に設けられた弾性部材で当該ガイド部の外側又は内側に向けて弾圧付勢されて形成されたものとすることができる。さらに、前記一対の端部補強材が、掛止部材を介して前記中央補強材に接続した形成されたものとすることができる。
例えば、中央補強材のガイド部を、内部が前記端部補強材の軸部の挿入路となるように管状或いは枠状に形成し、この中央補強材の両端部から前記挿入路に沿ってガイドされる前記端部補強材の両軸部が挿入路に沿って設けられた弾性部材である圧縮バネで挿入路の外側に向けて弾圧付勢されるようにし、中央補強材と両端部補強材の外面間又は内面間にワイヤーなどの掛止部材を留め付けて形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の床用エキスパンションジョイントの一実施形態の概略外観図である。
【
図2】
図1の床用エキスパションジョイントの概略正面図である。
【
図3】
図1の床用エキスパンションジョイントの要部拡大外観図である。
【
図4】
図1の床用エキスパンションジョイントを間隙側から見上げた状態の要部外観図である。
【
図5】
図1の床用エキスパンションジョイントの床カバー材を外した状態の概略外観図である。
【
図6】
図5中の下地材を外した状態の概略平面図である。
【
図7】躯体に架け渡した補強体の構成を示す概略平面図である。
【
図8】
図7中のVIII-VIII線に沿った拡大切断端面図である。
【
図9】(A)から(C)は躯体の変位に対する補強体の動作を説明するため図である。
【
図10】補強体の他の構成を示す概略平面図である。
【
図11】(A)から(C)は
図10の補強体の躯体の変位に対する動作を説明するため図である。
【
図12】
図6の状態から両躯体が、間隙が狭まる方向に相対変位したときの平面図である。
【
図13】同じく間隙が広がる方向に相対変位したときの平面図である。
【
図14】同じく間隙長さ方向に相対変位したときの平面図である。
【
図15】同じく間隙が狭まる方向と長さ方向に相対変位したときの平面図であ
【
図16】同じく間隙が広がる方向と長さ方向に相対変位したときの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好適な一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明の技術的思想は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0022】
図1は本発明の床用エキスパンションジョイント(以下、単に「エキスパンションジョイント」ともいう。)の一実施形態の概略外観図、
図2は概略正面図である。
図示したエキスパンションジョイント1は、構造物内に設けられた間隙Gを挟んで向き合う躯体A,Bの床版の取り合い部分に設置されたものであり、躯体Aと躯体Bの間隙Gに臨む端部に、間隙G内容へ張り出した持出し部をそれぞれ形成し、両持出し部の上の凹段部A1と凹段部B1間にエキスパンションジョイント1を設置して床カバー材2を架け渡し、躯体A,Bの床版を一つ続きに接続したものである。
【0023】
図示されるように、エキスパンションジョイント1は、複数枚の床プレート21に分割されていて各床プレート21同士を重ねて配置してなる床カバー材2と、各床プレート21を支持する複数の下地材3と、間隙Gに臨む躯体Aと躯体Bの端部間に架け渡されていて上面で前記各下地材3を平行に支持する複数の伸縮リンク機構4と、各伸縮リンク機構4の直下で凹段部A1,B1間に架設された補強体5とを備え、前記床カバー材2で間隙Gを覆って躯体A,Bの床版を一続きに接続し、地震などで躯体A,Bが相対変位して間隙Gの伸縮やずれが生じたときに、前記変位に追従して伸縮リンク機構4が伸縮変形し、これにともない下地材4で支持された床プレート21が重なり部を保持したままスライドすることで変位を吸収して、間隙G上に欠損部が生じることがないように構成されている。
【0024】
詳しくは、床カバー材2を構成する複数の床プレート21は、間隙Gの長さ方向(以下、「間隙Y方向」ともいう。)に沿った長さを有する長尺な鋼板からなり、
図3及び
図4に示されるように、下地材3の上面にその一側の端部を重ねて、ビスなどの接続具7で一体に固定してある。各床プレート21は
その幅が、伸縮リンク機構4上の下地材3の配置間隔よりも十分に大きく設定されており、下地材3上で隣接する床プレート21同士が上下に重なって設置されるようになっている。
【0025】
下地材3は、間隙Y方向に沿った長さを有する断面コ字形の鋼材であり、前記のとおり、その上面に床プレート21が取り付けてある。
各下地材3は、
図3から
図5に示されるように、伸縮リンク機構4上に間隙Gの幅方向(以下、「間隙X方向」ともいう。)に沿って一定の間隔を開けて平行に並べ、その下面を伸縮リンク機構4の上面に突出したボルト81に挿通し、且つナット82で軸着して鉛直方向に沿った軸周りに回転し得るように取り付けられ、後述するように伸縮リンク機構4が伸縮動作した際に、これに連動して各下地材3が前記軸周りで回転することで、
各下地材3が平行なままその配置間隔が広がったり狭まったりするようになっている。
【0026】
伸縮リンク機構4は、
図6に示されるように、パンタグラフ形状に形成されており、間隙Y方向に沿って間隔を開けて複数配置され、それぞれ両端部を、躯体Aと躯体Bの端部に形成された凹段部A1,B1の端面に設けられた固定部9,9に、鉛直方向に沿った軸周りに回転し得るように取り付けて設置してある。
【0027】
より詳しくは、伸縮リンク機構4は、アーム部41,42をパンタグラフ形状に交差させるとともに、交差部をボルト81とナット82からなる接続具8で鉛直方向に軸周りに回転自在に組み付け、また、両アーム部41,42の両端部と中間部には両アーム部41,42よりも短いアーム部43を同じく鉛直方向に軸周りに回転自在に組み付けて形成し、躯体A,Bが相対変位して間隙Gの伸縮やずれが生じたときに、前記変位に追従して伸縮リンク機構4が伸縮変形するように構成してある。
前述のとおり、伸縮リンク機構4の上面には、間隙X方向に平行に配置した複数の下地材3が鉛直方向に沿った軸周りに回転し得るように取り付けられており、また、各伸縮リンク機構4の下には補強体5を取り付けてある。
【0028】
補強体5は、各伸縮リンク機構4の直下で、凹段部A1,B1間に架け渡されているとともに、その両端部が凹段部A1,B1上を滑動し得るように設置してある。
【0029】
より詳しくは、
図7及び
図8に示されるように、補強体5は、二つの管体を軸方向に沿って一体に連結した如き形状の中央補強材51と、軸部が断面コ字形を呈する一対の端部補強材52,52と、一対の圧縮バネ53,53とを有して形成されている。
中央補強材51の二つの中空部は、端部補強材52,52の軸部をスライド自在にガイドするガイド部である挿入路を構成し、両挿入路内に端部補強材52,52の軸部が向かい合わせに挿入されて、中央補強材51に沿って両端部補強材52,52がスライド移動し得るようになっている。
また、前記挿入路内には弾性部材である前記圧縮バネ53,53が装填されており、この圧縮バネ53,53により挿入路内に軸部が挿入された端部補強材52,52が挿入路の外側に向けて弾圧付勢されているとともに、中央補強材51の両端部と両端部補強材52,52の先端部間にはワイヤーからなる掛止部材54,54を留め付けて、両端部補強材52,52の前記挿入路外側へ突出する距離が制限されるように設けてある。
端部補強材52,52の先端部側面にはキャスターからなる滑動部材55が取り付けられ、また、同じく端部補強材52,52の先端部下面と中央補強材51の両端部下面には、ボールキャスターなどからなる滑動部材56,56が取り付けてある。
【0030】
補強体5は、各伸縮リンク機構4の直下に配置して凹段部A1,B1上に端部補強材52,52を載せて架け渡され、それぞれ中間部を伸縮リンク機構4の中間部に接続板9を介して、接続具8で鉛直方向に沿った軸周りに回転し得るように取り付けられ、また、各補強体5同士はそれぞれの中間部下面間に架け渡した連結材6に
継手板10を介して、接続具8で一体に連結して設置してある(
図3及び
図4参照)。
【0031】
図9に示されるように、補強体5は、その端部補強材52,52の先端部間の長さが、凹段部A1,B1の端面間の距離と略同じとなるように設けられ、凹段部A1,B1上に間隙Gと直交するように間隙X方向にそって架け渡されて、間隙X方向とY方向の両方向に沿って両凹段部A1,B1の上面を滑動し得るように設置されている。
躯体A,Bが相対変位して間隙Gの幅が狭まり、これに追従して伸縮リンク機構4が縮小動作したときは、同図(B)に示されるように、端部補強材52,52の先端が躯体A,Bに押されて補強体5は縮小し、一方、間隙Gの幅が広がり、これに追従して伸縮リンク機構4が伸長動作したときには、同図(C)に示されるように、補強体5はその端部補強材52,52の先端部間の長さを設置時の長さに保持したまま凹段部A1,B1上を滑動して、両凹段部A1,B1の端面から離間するように構成してある。
【0032】
前記補強体5は、両端部間の
長さが縮小する方向に変位し得るように構成されたものであるが、
図10及び
図11に示されるように、両端部間の幅が拡大可能に構成されていてもよい。
【0033】
図示した補強体5は、前述の補強体5と同様に、中央補強材51と一対の端部補強材52,52と一対のバネ53,53とを備えてなり、中央補強材51の外側にバネ53,53を配置し、且つそれぞれの一側の端部を中央補強材51の外面に固定し、他側の端部を端部補強材52の先端部に接続して形成され、中央補強材51内の挿入路に沿ってスライド自在にガイドされている端部補強材52,52がその両端部間の幅が広がる方向に変位したときに、変位方向とは反対方向のバネ53による弾圧付勢力がかかって、端部補強材52が中央補強材51の挿入路内に引っ張られるように構成してある。
端部補強材52,52の端部下面には滑動部材が取り付けてあり、また、躯体A,Bの凹段部A1,B1の上面縁部縁部上面には、前記滑動部材と係合するストッパー57が設置してある。
【0034】
図11に示されるように、補強体5は前記と同様に、躯体A,Bの凹段部A1,B1上に間隙Gと直交するように間隙X方向にそって架け渡されて、間隙X方向とY方向の両方向に沿って両凹段部A1,B1の上面を滑動し得るように設置され、躯体A,Bが相対変位して間隙Gが狭まり、これに追従して伸縮リンク機構4が縮小動作したときは、同図(B)に示されるように、端部補強材52,52が凹段部A1,B1上を滑動して間隙Gが狭まる変位に対応する。
そして、間隙Gが広がり、これに追従して伸縮リンク機構4が伸長動作したときには、同図(C)に示されるように、躯体A,B間が広がることで凹段部A1,B1に設けられたストッパー57,57が端部補強体52,52に取り付けられた滑動部材に係合して、端部補強体57,57を中央補強材51の挿入路軸方向外側へ引っ張ることで、端部補強材52,52の両端部間が広がり、また、その状態から間隙Gが狭まると、バネ53,53により端部補強材52,52が前記挿入路内に引っ張られて、当初の取り付け位置に復帰するように構成してある。
【0035】
このように構成された本形態のエキスパンションジョイントによれば、床プレート21が取り付けられた下地材3を伸縮リンク機構4で支持し、この伸縮リンク機構4の荷重は、その一部が両躯体A,Bとの接続部である固定部8を介して両躯体A,Bにかかり、一部が各伸縮リンク機構4の下に配置された補強体6にかかって床カバー材2を間隙G上で支持する。
【0036】
躯体A,Bが相対変位して間隙Gの幅が間隙X方向に沿って狭まると、
図12に示されるように、伸縮リンク機構4と補強体5が縮小動作するとともに、床プレート21同士が重なり部の面積は大きくなるようにスライドして床カバー材2の幅を狭めることで変位に追従する。
一方、間隙Gの幅が間隙X方向に沿って広がると、
図13に示されるように、伸縮リンク機構4が伸長動作する一方、補強体5が凹段部A1,B1上を滑動し、床プレート21同士がある程度の重なり部を保持したままスライドして床カバー材2の幅が広がることで変位に追従する。
【0037】
また、躯体A,Bが間隙Y方向に相対変位したときには、
図14に示されるように、伸縮リンク機構4の固定部8に接続した端部が鉛直方向に沿った軸周りに回転することで両躯体A,B間に斜めに架け渡され、また、各床プレート21同士の重なり部が間隙Y方向にスライドすることで、変位に追従する。このとき、補強体5は凹段部A1,B1上を滑動して、間隙Gに対して直交する向きに保持される。
【0038】
躯体A,Bの相対変位が間隙X方向とY方向に同時に生じたときには、
図15及び
図16に示されるように、前記と同様に、伸縮リンク機構4がその両端部で鉛直方向に沿った軸周りに回転しつつ縮小又は伸長動作し、これに連動して床プレート21同士がスライドして床カバー材2の幅を小さくし又は広げる一方、補強体5が縮小動作し又は当初の設置長さ保持されたまま凹段部A1,B1上を滑動することで、両躯体A,Bの変位に追従するようになっている。
【0039】
なお、図示したエキスパンションジョイント1を構成する各部材の形態は一例であり、本発明は図示した形態に限定するものではない。補強体5は他の適宜な形状で構成することができる。例えば、中央補強材51は端部補強材52の軸部をガイド可能な形状であれば枠状に形成するなど管状以外の形状に形成することができ、また、中央補強材51の外周に沿って端部補強材52がスライドするように設けてもよい。圧縮バネ53以外の弾性部材を用いてもよい。端部補強材52の挿入路外側へ突出する距離を制限する掛止部材54の、中央補強材51と端部補強材52の留め付け位置は任意であり、ワイヤーに代えてストッパーなどを掛止部材54として用いてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 エキスパンションジョイント、2 床カバー材、21 床プレート、3 下地材、4 伸縮リンク機構、41,42,43 アーム部、5 補強体、51 中央補強材、52 端部補強材、53 圧縮バネ、54 掛止部材、55,56 滑動部材、6 連結材、7,8 接続具、9 接続板、10 継手板、A,B 躯体、A1,B1 凹段部、G 間隙