IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人徳島大学の特許一覧

特許7489112CRISPRタイプI-Dシステムを利用した標的配列改変技術
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】CRISPRタイプI-Dシステムを利用した標的配列改変技術
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240516BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240516BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20240516BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240516BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20240516BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/31 ZNA
C12N15/55
C12N15/113 Z
C12N15/63 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021505164
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020011283
(87)【国際公開番号】W WO2020184723
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】62/818,450
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/植物の生産性制御に係る共通基盤技術開発/進化工学的および分子動力学的手法による新規ゲノム編集システムの創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】刑部 敬史
(72)【発明者】
【氏名】刑部 祐里子
(72)【発明者】
【氏名】和田 直樹
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/039417(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/225858(WO,A1)
【文献】ZHAO, Hongtu et al.,Crystal structure of the RNA-guided immune surveillance Cascade complex in Escherichia coli,Nature,2014年,Vol. 515,pp. 147-150, Extended Data
【文献】JACKSON, Ryan N. et al.,Crystal structure of the CRISPR RNA-guided surveillance complex from Escherichia coli,Science,2014年,Vol. 345,pp. 1473-1479
【文献】MULEPATI, Sabin et al.,Crystal structure of a CRISPR RNA-guided surveillance complex bound to a ssDNA target,Science,2014年,Vol. 345,pp. 1479-1484
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内の標的ヌクレオチド配列を改変する方法であって、該細胞に、
(i)CRISPRタイプI-DのCasタンパク質 Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAを含むベクター系又は発現カセット系、及び
(ii)前記標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列を含むcrRNA、又は前記crRNAをコードするDNA
を導入することを含み、
前記ベクター系が、第一のベクター及び第二のベクターを含む2以上のベクターからなり
前記発現カセット系が、第一の発現カセット及び第二の発現カセットを含む2以上の発現カセットからなり
ここに、各ベクター又は各発現カセットは、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNA、及び前記DNAの転写を調節する調節エレメントを含み、
前記Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAの5’末端および/または3’末端側に核移行シグナルをコードする配列が付加されており、ここに、前記核移行シグナルは、モノパータイト型核移行シグナルまたはバイパータイト型核移行シグナルであり、但し、Cas7dをコードするDNAの5’末端および/または3’末端側にはモノパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されており、
前記第一のベクター又は前記第一の発現カセットが、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAを含み、該DNAの5’末端側及び3’末端側の両方に、バイパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されている、方法(但し、ヒトの生体内における方法を除く)
【請求項2】
細胞内の標的遺伝子の発現を抑制するための方法であって、前記標的ヌクレオチド配列が標的遺伝子の少なくとも一部のヌクレオチド配列である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記バイパータイト型核移行シグナルをコードする配列が配列番号7に示されるアミノ酸配列をコードする配列を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記第二のベクター又は前記第二の発現カセットがCas7dをコードするDNAを含み、該DNAの5’末端および/または3’末端側に、2個又は3個のタンデムに連結したモノパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されている、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記調節エレメントが、ヒト翻訳伸長因子遺伝子プロモーター又はCAGキメラ合成プロモーターである、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ベクター系が第ないし第五のベクターからなり、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAがそれぞれ別々に第一ないし第五のベクターに含まれる、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAが発現カセット系に含まれ、前記第一の発現カセットが、Cas3dをコードするDNA及びCas6dをコードするDNAを含み、前記第二の発現カセットが、Cas5dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAを含み、かつ、前記第一の発現カセット及び前記第二の発現カセットが1つのベクターに搭載されている、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記crRNA又は前記crRNAをコードするDNAの細胞への導入がベクターを介して行われる、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記crRNAがプレ成熟型crRNAである、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記Cas3d、前記Cas5d、前記Cas6d、前記Cas7d及び前記Cas10dがM. aeruginosa由来のものである、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が真核細胞である、請求項1~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
改変が塩基の欠失、挿入、又は置換である、請求項1~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
改変が数キロベース~数十キロベースの欠失である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
細胞内の標的ヌクレオチド配列を改変するためのキットであって、
(i)CRISPRタイプI-DのCasタンパク質 Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAを含むベクター系又は発現カセット系、及び
(ii)前記標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列を含むcrRNA、又は前記crRNAをコードするDNA
を含み、
前記ベクター系が、第一のベクター及び第二のベクターを含む2以上のベクターからなり
前記発現カセット系が、第一の発現カセット及び第二の発現カセットを含む2以上の発現カセットからなり
ここに、各ベクター又は各発現カセットは、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNA、及び前記DNAの転写を調節する調節エレメントを含み、
前記Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAの5’末端および/または3’末端側に核移行シグナルをコードする配列が付加されており、ここに、前記核移行シグナルは、モノパータイト型核移行シグナルまたはバイパータイト型核移行シグナルであり、但し、Cas7dをコードするDNAの5’末端および/または3’末端側にはモノパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されており、
前記第一のベクター又は前記第一の発現カセットが、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAを含み、該DNAの5’末端側及び3’末端側の両方に、バイパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されている、キット。
【請求項15】
前記バイパータイト型核移行シグナルをコードする配列が配列番号7に示されるアミノ酸配列をコードする配列を含む、請求項14記載のキット。
【請求項16】
記ベクター系が第ないし第五のベクターからなり、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAがそれぞれ別々に第一ないし第五のベクターに含まれる、請求項14又は15記載のキット。
【請求項17】
Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAが第一及び第二の発現カセットからなる発現カセット系に含まれ、前記第一の発現カセットが、Cas3dをコードするDNA及びCas6dをコードするDNAを含み、前記第二の発現カセットが、Cas5dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAを含む、請求項14又は15記載のキット。
【請求項18】
細胞内の標的ヌクレオチド配列を特異的に標的化する方法であって、該細胞に、
(i)CRISPRタイプI-DのCasタンパク質 Cas5d、Cas6d及びCas7d、又はこれらのタンパク質をコードする核酸、及び
(ii)前記標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列を含むcrRNA、又は前記crRNAをコードするDNA
を導入することを含み、
前記標的ヌクレオチド配列は、該標的ヌクレオチド配列に対して1つ又は2つの塩基のみが相違している以下の類似配列
PAM配列の3’側から1番目の塩基が相違する類似配列、
PAM配列の3’側から6番目の塩基が相違する類似配列、
PAM配列の3’側から12番目の塩基が相違する類似配列、
PAM配列の3’側から18番目の塩基が相違する類似配列、および
PAM配列の3’側から24番目以降の1つ又は2つの塩基が相違する類似配列
の全てが存在しないように設計される、方法(但し、ヒトの生体内における方法を除く)
【請求項19】
細胞内の標的ヌクレオチド配列を特異的に改変する方法であって、該細胞に、
(i)CRISPRタイプI-DのCasタンパク質 Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d及びCas10d、又はこれらのタンパク質をコードする核酸、及び
(ii)前記標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列を含むcrRNA、又は前記crRNAをコードするDNA
を導入することを含み、
前記標的ヌクレオチド配列は、該標的ヌクレオチド配列に対して1つ又は2つの塩基のみが相違している以下の類似配列
PAM配列の3’側から1番目の塩基が相違する類似配列、
PAM配列の3’側から6番目の塩基が相違する類似配列、
PAM配列の3’側から12番目の塩基が相違する類似配列、
PAM配列の3’側から18番目の塩基が相違する類似配列、および
PAM配列の3’側から24番目以降の1つ又は2つの塩基が相違する類似配列
の全てが存在しないように設計される、方法(但し、ヒトの生体内における方法を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)タイプI-Dシステムを利用した標的ヌクレオチド配列を特異的に改変する方法、および該方法に用いられるCas(CRISPR-associated)タンパク質およびcrRNA(CRISPR RNA)を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
CRISPR-Casシステムは、ウイルス、プラスミドおよびその他の外来遺伝子エレメントから細菌および古細菌を保護する、細菌および古細菌に見られる獲得免疫システムである。CRISPR-Casシステムは、該システムを構成しているCasタンパク質および分子メカニズムの違いによって、2つのクラス、6つの異なるタイプ(I~VI)、および少なくとも16種類のサブタイプに分類される。
【0003】
タイプIおよびIIシステムのメカニズムでは、crRNAとCasエフェクタータンパク質との複合体が、外来DNA中のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる短い(典型的には3~5塩基長の)配列エレメントを認識する。タイプIまたはII crRNAとCasエフェクタータンパク質との複合体は、PAM認識後、局所的にDNA対合を崩壊してR-ループ構造を形成し、crRNAガイドエレメントが相補的な標的鎖と塩基対を形成して非標的DNA鎖と置き換わる。該crRNA-Cas複合体による二本鎖DNA標的の結合および巻き戻しが、Cas3、Cas9およびCas12ヌクレアーゼなどのタイプ特異的CasエフェクターヌクレアーゼによるDNA切断および分解に必要とされる。
【0004】
CRISPRタイプIには、種々のサブタイプが存在する。クラス1システムには、Cascade(CRISPR-associated-complex for antiviral defense)と呼ばれる、Cas5、Cas6、Cas7およびCas8などの標的認識モジュールと、Cas3などのDNA切断モジュールが存在する(非特許文献1)。ゲノム編集技術において、クラス1 CRISPRシステムは、クラス2よりも一般的ではないが、ゲノム編集ツールとして、例えば長い領域のゲノム欠失および長いgRNA配列を包含する多様な変異プロフィールなど、Cas9およびCpf1と比べていくつかの利点を有する可能性が示唆された(非特許文献1)。今までに研究されたクラス1 タイプI-E CRISPR-Cas3システムでは、2-300bから100kbの塩基欠失が主にPAM配列の5’上流側に生じることが報告された(非特許文献1)。
【0005】
クラス1システム内のゲノム編集ツールの新たな候補を見出すために、発明者らは以前に、CRISPRクラス1タイプIのサブタイプ:タイプI-D(以下、「TiD」いう)システムをコードするCRISPRゲノム遺伝子座を同定し、該システムがCas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10dの5つのCasタンパク質を含むことを見出した(特許文献1)。しかしながら、TiDシステムがどのようにDNAを分解するのかは不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2019/039417
【非特許文献】
【0007】
【文献】Dolan, A.E. et al. Mol Cell 74, 936-950 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、TiDシステムの作用機序を解明し、それにより、TiDシステムを利用した、より効率的な標的配列改変方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、CRISPR TiDシステムは、Cas3エフェクタータンパク質(Cas3d)を含有するが、該タンパク質はヌクレアーゼドメインを欠き、その代わり、Cas10dが典型的なヌクレアーゼドメインを有することを見出した。Cas10dは、他のCRISPRシステムでは見られないTiDに特有のエフェクタータンパク質である。さらに、特定の類似配列を有しない標的配列を選択することによって、TiDシステムのオフターゲット効果を減少させることができることを見出した。
【0010】
したがって、本発明は、下記の態様を提供する。
[1]細胞内の標的ヌクレオチド配列を改変する方法であって、該細胞に、
(i)CRISPRタイプI-DのCasタンパク質 Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAを含むベクター系又は発現カセット系、及び
(ii)前記標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列を含むcrRNA、又は前記crRNAをコードするDNA
を導入することを含み、
前記ベクター系が、第一のベクター及び第二のベクターを含み、
前記発現カセット系が、第一の発現カセット及び第二の発現カセットを含み、
前記第一のベクター又は前記第一の発現カセットが、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNA、及び前記DNAの転写を調節する第一の調節エレメントを含み、
前記第二のベクター又は前記第二の発現カセットが、前記群より選択される少なくとも1つのDNA、及び前記DNAの転写を調節する第二の調節エレメントを含む、方法、
[2]細胞内の標的遺伝子の発現を抑制するための方法であって、前記標的ヌクレオチド配列が標的遺伝子の少なくとも一部のヌクレオチド配列である、[1]記載の方法、
[3]前記Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAの5’末端および/または3’末端側に核移行シグナルをコードする配列が付加されている、[1]または[2]記載の方法、
[4]前記核移行シグナルが、モノパータイト型核移行シグナルまたはバイパータイト型核移行シグナルである、[3]記載の方法、
[5]Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAがベクター系に含まれ、前記第一のベクターが、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAを含み、該DNAの5’末端側に、1個のモノパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されているか、あるいは2個又は3個のタンデムに連結したモノパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されている、[4]記載の方法、
[6]Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAがベクター系に含まれ、前記第一のベクターが、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAを含み、該DNAの5’末端側及び3’末端側の両方に、バイパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されている、[4]記載の方法、
[7]前記第二のベクターがCas7dをコードするDNAを含み、該DNAの5’末端および/または3’末端側に、2個又は3個のタンデムに連結したモノパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されている、[5]又は[6]記載の方法、
[8]前記第一の調節エレメントおよび/または前記第二の調節エレメントが、ヒト翻訳伸長因子遺伝子プロモーター又はCAGキメラ合成プロモーターである、[1]~[7]のいずれか1項記載の方法、
[9]前記ベクター系が第三ないし第五のベクターをさらに含み、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAがそれぞれ別々に第一ないし第五のベクターに含まれる、[1]~[8]のいずれか1項記載の方法、
[10]Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAが発現カセット系に含まれ、前記第一の発現カセットが、Cas3dをコードするDNA及びCas6dをコードするDNAを含み、前記第二の発現カセットが、Cas5dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAを含み、かつ、前記第一の発現カセット及び前記第二の発現カセットが1つのベクターに搭載されている、[1]~[4]のいずれか1項記載の方法、
[11]前記crRNA又は前記crRNAをコードするDNAの細胞への導入がベクターを介して行われる、[1]~[10]のいずれか1項記載の方法、
[12]前記crRNAがプレ成熟型crRNAである、[1]~[11]のいずれか1項記載の方法、
[13]前記Cas3d、前記Cas5d、前記Cas6d、前記Cas7d及び前記Cas10dがM. aeruginosa由来のものである、[1]~[12]のいずれか1項記載の方法、
[14]前記細胞が真核細胞である、[1]~[13]のいずれか1項記載の方法、
[15]改変が塩基の欠失、挿入、又は置換である、[1]~[14]のいずれか1項記載の方法、
[16]改変が数キロベース~数十キロベースの欠失である、[15]記載の方法、
[17]細胞内の標的ヌクレオチド配列を改変するためのキットであって、
(i)CRISPRタイプI-DのCasタンパク質 Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAを含むベクター系又は発現カセット系、及び
(ii)前記標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列を含むcrRNA、又は前記crRNAをコードするDNA
を含み、
前記ベクター系が、第一のベクター及び第二のベクターを含み、
前記発現カセット系が、第一の発現カセット及び第二の発現カセットを含み、
前記第一のベクター又は前記第一の発現カセットが、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNA、及び前記DNAの転写を調節する第一の調節エレメントを含み、
前記第二のベクター又は前記第二の発現カセットが、前記群より選択される少なくとも1つのDNA、及び前記DNAの転写を調節する第二の調節エレメントを含む、キット、
[18]Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAがベクター系に含まれ、前記ベクター系が第三ないし第五のベクターをさらに含み、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAがそれぞれ別々に第一ないし第五のベクターに含まれる、[17]記載のキット、
[19]Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAが発現カセット系に含まれ、前記第一の発現カセットが、Cas3dをコードするDNA及びCas6dをコードするDNAを含み、前記第二の発現カセットが、Cas5dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAを含む、[17]記載のキット、
[20]細胞内の標的ヌクレオチド配列を特異的に標的化する方法であって、該細胞に、
(i)CRISPRタイプI-DのCasタンパク質 Cas5d、Cas6d及びCas7d、又はこれらのタンパク質をコードする核酸、及び
(ii)前記標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列を含むcrRNA、又は前記crRNAをコードするDNA
を導入することを含み、
前記標的ヌクレオチド配列は、該標的ヌクレオチド配列に対して、PAM配列の3’側から1、6、12、18及び24番目の塩基からなる群から選ばれるいずれか1つの塩基、あるいは24番目以降の1つ又は2つの塩基が相違している類似配列が存在しないように設計される、方法、
[21]細胞内の標的ヌクレオチド配列を特異的に改変する方法であって、該細胞に、
(i)CRISPRタイプI-DのCasタンパク質 Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d及びCas10d、又はこれらのタンパク質をコードする核酸、及び
(ii)前記標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列を含むcrRNA、又は前記crRNAをコードするDNA
を導入することを含み、
前記標的ヌクレオチド配列は、該標的ヌクレオチド配列に対して、PAM配列の3’側から1、6、12、18及び24番目の塩基からなる群から選ばれるいずれか1つの塩基、あるいは24番目以降の1つ又は2つの塩基が相違している類似配列が存在しないように設計される、方法、および
[22]前記標的ヌクレオチド配列は、該標的ヌクレオチド配列に対して、PAM配列の3’側から6、12、18及び24番目の塩基からなる群から選ばれるいずれか1つの塩基、あるいは24番目以降の1つ又は2つの塩基が相違している類似配列が存在しないように設計される、請求項20又は21記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定のDNAを標的化するように操作されたTiD crRNAを含むTiDシステムを用いることにより、細胞、好ましくは動物および植物細胞において効率的に部位特異的変異を誘導することができる。驚くべきことに、本発明によれば、TiDシステムのCasエフェクタータンパク質の発現量を向上させることができ、短い領域の挿入および/または欠失を誘導するだけでなく、数キロベースないし数十キロベースの長い領域の塩基欠失および二方向性(bi-directional)の塩基欠失も誘導することができる。さらに、TiDシステムを用いると、生じた変異トランスジェニック生物における所望の表現型が、次世代に遺伝的に伝達される。さらに、本発明の方法によれば、オフターゲット効果を抑制した、標的配列の特異的な標的化および改変がもたらされる。したがって、本発明は、TiDシステムのCRISPRエフェクターモジュール経路を用いる、生物、特に真核生物のための、新規なゲノム編集ツールを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】イン・ビトロDNA切断アッセイにおけるCas10d活性の検出結果。Ctrl:Casタンパク質を用いないコントロールアッセイ。矢印:消化されていないDNA。
図2a】ヒトHEK293T細胞におけるゲノム編集を検出するために使用されたルシフェラーゼレポーターアッセイの概略図。
図2b】Cas10dのHDドメインの効果を示す。上図:白色バーは、野生型Cas10dを用いるTiDシステムのlucレポーターアッセイを示し、黒色バーは、HD-変異dCas10d(H177A)を用いるTiDシステムのlucレポーターアッセイを示す。データは、独立実験(n=4)の平均±S.E.である。アスタリスクは、スチューデントt検定によって決定された統計学的有意差を示す。*P<0.07。下図:N末(Myc)またはC末(His)融合タグに対する抗体によって検出されたCas10dおよびdCas10dの発現レベルを示す。Cas10dおよびdCas10dについて、pEFs-Myc-bpNLS-Cas10dまたはdCas10d(H177A)-bpNLS-6xHis、およびpEFs-SV40NLS HA-Cas3d、Strept-Cas5d、Myc-Cas6d、またはFLAG-Cas7dをlucレポーターアッセイに用いた。
図2c】Cas3dおよびCas10dの両方がTiD活性に必要とされることを示す。黒色バー:非標的gRNA。他のgRNAsは、表2に示されるAAVS遺伝子座を標的とする。データは、独立実験(n=3)の平均±S.E.である。スチューデントt検定によって決定された、*P<0.01および**P<0.05。
図2d】TiD活性に対するgRNA標的配列長の影響を示す。データは、独立実験(n=4)の平均±S.E.である。スチューデントt検定によって決定された、*P<0.005、**P<0.01、および***P<0.05。
図2e】TiDシステムに使用されるcrRNA構造の影響を示す。データは、独立実験(n=4)の平均±S.E.である。スチューデントt検定によって決定された、*P<0.01および**P<0.05。
図3a】TiDのゲノム編集活性における決定的なヌクレオチドの評価。上図;AAVS GTC_70-107(+)の標的配列に対し、gRNA配列の様々な位置に1塩基のミスマッチを含む各gRNAを用いて行ったlucレポーターアッセイの結果を示す。下図:AAVS GTC_70-107(+)の標的gRNA配列における決定的なヌクレオチドを示す。データは、独立実験(n=3)の平均±S.E.である。スチューデントt検定によって決定された、*P<0.001、**P<0.005、および***P<0.01。
図3b】標的に対して2塩基のミスマッチを含むgRNAによるTiDのゲノム編集活性の評価。AAVS GTC_70-107(+)の標的配列に対し、gRNA配列の様々な位置に2塩基のミスマッチを含むgRNAを用いて行ったlucレポーターアッセイの結果を示す。データは、独立実験(n=3)の平均±S.E.である。スチューデントt検定によって決定された、*P<0.001、**P<0.005、および***P<0.01。
図3c】標的に対して3塩基のミスマッチを含むgRNAによるTiDのゲノム編集活性の評価。AAVS GTC_70-107(+)の標的配列に対し、gRNA配列の様々な位置に3塩基のミスマッチを含むgRNAを用いて行ったlucレポーターアッセイの結果を示す。データは、独立実験(n=3)の平均±S.E.である。スチューデントt検定によって決定された、*P<0.001、**P<0.005、および***P<0.01。
図3d】標的に対して1塩基のミスマッチを含む30b長のgRNAによるTiDのゲノム編集活性の評価。AAVS GTC_70-107(+)の標的配列に対し、30b長のgRNA配列の様々な位置に1塩基のミスマッチを含むgRNAを用いて行ったlucレポーターアッセイの結果を示す。データは、独立実験(n=3)の平均±S.E.である。スチューデントt検定によって決定された、*P<0.001、**P<0.005、および***P<0.01。
図4a】TiD活性に対するCasタンパク質の核移行シグナルの影響を示す。左:Cas発現ベクターカセットの構造。N-SV40NLS-Cas;Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10dそれぞれにおける、異なるタグを有するN末端のSV40NLS。N-Cas-C-bpNLS;Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10dそれぞれにおける、N末端のMycタグおよびC末端の6xHisタグの両方を有するbpNLS。右:ヒトHEK293T細胞におけるlucレポーターアッセイによって決定された、AAVSの種々のgRNA標的に対するTiD活性における、Casタンパク質のNLSの影響を示す。データは、独立実験(n=4)の平均±S.E.である。*P<0.1および**P<0.05は、スチューデントt検定によって決定された。
図4b】左:各CasのN末端にSV40NLSを付加した場合と比べて、Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas10dのN末端およびC末端の両方に付加したbpNLSが有効に機能したことを示す。しかしながら、Cas7dに付加したbpNLSはTiD活性を破壊した。データは、Cas7dの不活性化が図4aにおけるTiD活性抑制に影響したことを示唆する。データは、独立実験(n=4)の平均±S.E.である。*P<0.01、**P<0.05、および***P<0.07は、スチューデントt検定によって決定された。右:ヒトHEK293T細胞におけるlucレポーターアッセイによって決定された、AAVSの種々のgRNA標的に対するTiD活性における、Cas7dのbpNLSの影響を示す。
図4c】lucレポーターアッセイにおいて使用されたヒトHEK293T細胞から抽出されたCas-NLSタンパク質のタンパク質ブロット分析を示す。C;サイトソルフラクション。N;核フラクション。
図4d】lucレポーターアッセイにおいて使用されたヒトHEK293T細胞から抽出されたCas-NLSタンパク質のタンパク質ブロット分析を示す。C;サイトソルフラクション。N;核フラクション。
図5a】ヒトHEK293T細胞のゲノム編集を用いるCas発現ベクターの構造を示す。N-SV40NLS-Cas;N末端に異なるタグを有するSV40NLSを付加した、Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10d。2A;自己切断ペプチド。promoter;プロモーター。Ter;ターミネーター。
図5b】HEK293T細胞中のCasタンパク質の発現レベルのウェスタンブロッティング結果。C;ベクター無しのコントロール。EV;空のベクター(gRNA無し)のコントロール。1;個々のCas発現カセットが個々のベクターに分けられた。2;Cas3dおよびCas10dが同じベクター中に挿入され、Cas5d、Cas6dおよびCas7dが同じベクター中に挿入されて、セパレート型ベクターとしてHEK293T細胞中にトランスフェクトされた。3;Cas3dおよびCas10dが同じベクター中に挿入され、Cas5d、Cas6d、およびCas7dがそれぞれ別々のベクター中に挿入されて、セパレート型ベクターとしてHEK293T細胞中にトランスフェクトされた。4;Cas3dおよびCas10dがそれぞれ別々のベクター中に挿入され、Cas5d、Cas6dおよびCas7dが同じベクター中に挿入されて、セパレート型ベクターとしてHEK293T細胞中にトランスフェクトされた。5;全Cas発現カセットを含むオールインワン型ベクター。
図5c】HEK293T細胞における異なるプロモーターを用いたCas5dおよびCas6d発現レベルのウェスタンブロッティング結果。C;ベクター無しのコントロール。
図6a】CRISPR TiDによって誘導されるhEMX1およびAAVS遺伝子における長鎖領域欠失変異の検出。上図;遺伝子構造、gRNA位置、および変異を増幅するための種々のプライマーセット。下図(左);アガロースゲル上で分離したPCR増幅フラグメント。数字は、遺伝子構造中に示されるプライマーセットを示す。下図(右);CRISPR TiD感染細胞由来のクローン化DNAのサンガー配列決定によって分析された長鎖領域欠失変異。PAMに相対的なヌクレオチド位置が配列上に示される。
図6b】CRISPR TiDによって誘導されるhEMX1およびAAVS遺伝子における長鎖領域欠失変異の検出。上図;遺伝子構造、gRNA位置、および変異を増幅するための種々のプライマーセット。下図(左);アガロースゲル上で分離したPCR増幅フラグメント。数字は、遺伝子構造中に示されるプライマーセットを示す。下図(右);CRISPR TiD感染細胞由来のクローン化DNAのサンガー配列決定によって分析された長鎖領域欠失変異。PAMに相対的なヌクレオチド位置が配列上に示される。
図6c】AAVS GTC_70-107(+)によって誘導された長鎖領域欠失パターン。図中の各バーは、PAMの5’上流領域の欠失およびPAMの3’下流領域の欠失を示す。欠失変異の分布は、図7に示す。
図7a】AAVS遺伝子におけるTiD変異誘発の変異プロフィール。AAVS GTC_70-107(+)によって誘導された長鎖欠失パターン。欠失変異の分布イメージは、図6cに示す。
図7b】長鎖領域欠失変異(Δ5235ntおよびΔ17902nt + 87nt挿入)を示す。PAMからのヌクレオチド位置を配列上に示す。
図8a】植物用TiD発現ベクターを示す。SlIAA9遺伝子の標的を決定するためのLucレポーターアッセイ。gRNAs配列は、表2に示される。
図8b】トマト植物におけるCas発現ベクターカセットの構造。N末端に異なるタグおよびSV40NLSを付加した、Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10dを、単一の転写産物を生じ、同時に発現するように、2A自己切断ぺプチドを介して融合した。pTiDP1.2は、SlIAA9変異誘発で使用されたオールインワン型ベクターである。pMGTTiDP20は、2つのCasカセットが2つのプロモーター下で、同じベクター中に並べられ、SlRIN変異誘発に用いられた。AtU6-26 crRNA:Arabidopsis U6 snRNA-26プロモーターおよびgRNA配列。P35S:CaMV35Sプロモーター。Pubi4:パセリユビキチン4-2プロモーター。2A:2A自己切断ペプチド。NptII:カナマイシン耐性マーカー発現カセット。RB:T-DNAの右境界配列。LB:T-DNAの左境界配列。Ter:ターミネーター。GFP:緑色蛍光タンパク質。
図9】CRISPR TiDを用いる植物ゲノム編集。CRISPR TiDによって誘導されるSlIAA9およびSlRIN遺伝子における長鎖領域欠失変異の検出。遺伝子構造、gRNA位置、および変異増幅のための種々のプライマーセットを示す。アガロースゲル上で分離されたPCR増幅フラグメントを示す。数字は、プライマーセットを示す。CRISPR TiDトランスジェニックトマトカルス由来のクローン化DNAのサンガー配列決定によって分析された、長領域欠失変異の結果を示す。PAMからのヌクレオチド位置を配列上に示す。矢印は、クローニングおよびシークエンシングに使用された特異的なバンドを示す。
図10a】トマトシュート(T0世代)におけるCRISPR TiDによって誘導されたSlRIN遺伝子における長鎖領域欠失変異の検出。アガロースゲル上で分離されたPCR増幅フラグメントは、長鎖領域欠失変異を示す。WT;野生型。1-12;トランスジェニックシュート系統(T0)。長鎖領域欠失は、系統#4、5、6および12において検出された。野生型と同じ長さのバンドは、非特異的バンドであった。矢印は特異的バンドを示す。矢印によって示されるバンドをさらにシークエンシング分析に付した。赤い矢印(上のバンド)はフラグメント1を示し、青い矢印(下のバンド)はフラグメント2を示す。
図10b】トマトシュート(T0世代)におけるCRISPR TiDによって誘導されたSlRIN遺伝子における長鎖領域欠失変異の検出。CRISPR TiDトランスジェニックトマトシュート(T0;#4、5、6、および12)由来のクローン化DNAを用いるサンガー配列決定は、長鎖領域欠失変異が等しく起こったことを示したが、変異頻度は系統間で異なった。
図10c】トマトシュート(T0世代)におけるCRISPR TiDによって誘導されたSlRIN遺伝子における長鎖領域欠失変異の検出。図10a由来のクローン化DNAの変異配列。PAMからのヌクレオチド位置を配列上に示す。
図11】サンガー法によって分析されたCRISPR TiDで形質転換されたMicro-Tomのトランスジェニックシュート(T0およびT1世代)における変異配列。WT;野生型配列。gRNA標的配列をボックスで示し、PAMを塗りつぶしたボックスで示す。クローン化PCR産物における配列頻度は、配列の右に示される。
図12】市販トマト栽培種におけるCRISPR TiDを用いてゲノム編集。Mi-seq(Illumina)を用いるアンプリコンディープシークエンシングによって検出された、CRISPR TiDによって生じたトランスジェニックAilsa Craigシュート(T0世代)における変異配列。WT;野生型配列。ボックス;gRNA標的配列。塗りつぶしたボックス;PAM。ディープシークエンシングにおいてリードカウント数を配列の右に示す。
図13】市販トマト栽培種におけるCRISPR TiDのオフターゲット効果。上図:SlIAA9 GTC_gRNA1(+)標的配列のオフターゲット配列。小文字;ミスマッチヌクレオチド。下図;Ailsa CraigのトランスジェニックT0シュート(SlIAA9-tid_gRNA1(+) AC T0s_#1、2、および4)および野生型(WT)由来のオフターゲット部位のクローン化PCR産物における変異頻度は、Mi-seqによるディープアンプリコンにおけるリードカウント数から算出された。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で使用されるTiDシステムは、具体的には、TiD Casタンパク質のうち、Casエフェクタータンパク質として、Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7dおよびCas10dと、TiD crRNAとを含む。TiDシステムにおいて、Cas5d、Cas6dおよびCas7dは標的認識モジュール(Cascade)を構成し、Cas3dおよびCas10dはポリヌクレオチド切断モジュールを構成することが知られていた(特許文献1)。TiDシステムにおいて、TiD crRNAは、標的ヌクレオチド配列に相補的な配列を含む。上記5つのCasタンパク質とTiD crRNAは複合体を形成して、標的ヌクレオチド配列を標的化し、改変する。
【0014】
本発明によれば、TiDシステムの新規なCasエフェクタータンパク質の機能を探求した結果、驚くべきことに、切断モジュールの構成要素のうちCas10dがポリヌクレオチド分解作用(ヌクレアーゼ活性)を有し、Cas3dはヌクレアーゼ活性を有しないことが明らかにされた。すなわち、TiDシステムでは、TiD crRNAと標的認識モジュールとが標的ヌクレオチド配列を標的化して、ポリヌクレオチド切断モジュールを該標的ヌクレオチド配列付近に導き、Cas10dの作用により該標的ヌクレオチド配列が切断される。
【0015】
したがって、本発明は、TiDシステムを標的細胞に導入することにより、該細胞中の標的ヌクレオチド配列を改変する方法(以下、「本発明の標的配列改変方法」ともいう)、および該方法に使用されるキット(以下、「本発明のキット」ともいう)を提供する。
【0016】
さらに本発明では、TiDシステムのオフターゲット効果に関与する標的配列における塩基の位置を同定した。したがって、本発明は、標的ヌクレオチド配列に対して、特定の位置に変異を含む類似配列が存在しない標的配列を設計することにより、標的配列を特異的に標的化する方法および標的配列を特異的に改変する方法(以下、「本発明のオフターゲット効果を抑制した標的配列ターゲティング方法」および「本発明のオフターゲット効果を抑制した標的配列改変方法」という)を提供する。
【0017】
(1)細胞
本発明において、細胞は、原核細胞または真核細胞のいずれの細胞であってもよく、特に限定されない。例えば、細菌、古細菌、真菌類(例えば、糸状菌、酵母等)、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、ヒト細胞、非ヒト細胞、非哺乳動物脊椎動物細胞、無脊椎動物細胞等)が挙げられる。好ましくは、真核細胞が使用される。本明細書において使用される場合、「細胞」とは、生体から単離された細胞、生体内(例えば、動物体または植物の体内)に存在する細胞、または生体(例えば、動物体、または植物体)のいずれも包含する。本発明の方法は、生体から単離された細胞、生体内に存在する細胞、または生体のいずれの細胞に適用してもよい。例えば、ヒト以外の動物の体内に存在する細胞またはヒト以外動物体に適用してもよい。
【0018】
(2)Casエフェクタータンパク質および該タンパク質をコードする核酸
本発明で使用されるCasエフェクタータンパク質は、TiDのCasタンパク質のうち、Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10dを含む。Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10dは、いずれの細菌または古細菌由来のものであってもよく、例えば、Microcystis aeruginosa、Acetohalobium arabaticum、Ammonifex degensii、Anabaena cylindrica、Anabaena variabilis、Caldicellulosiruptor lactoaceticus、Caldilinea aerophila、Crinalium epipsammum、Cyanothece Sp.、Cylindrospermum stagnale、Haloquadratum walsbyi、Halorubrum lacusprofundi、Methanocaldococcus vulcanius、Methanospirillum hungatei、Natrialba asiatica、Natronomonas pharaonis、Nostoc punctiforme、Phormidesmis priestleyi、Oscillatoria acuminata、Picrophilus torridus、Spirochaeta thermophila、Stanieria cyanosphaera、Sulfolobus acidocaldarius、Sulfolobus islandicus、Synechocystis Sp.、Thermacetogenium phaeum、Thermofilum pendensなどの菌株由来のものであってもよい。上記Casタンパク質のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列情報は、例えば、NCBI GenBank等の公開されたデータベースから入手可能である。また、メタゲノム解析などにより得られた微生物ゲノムデータからBLASTプログラムを利用することで、新規の微生物種からの配列取得も可能である。
【0019】
上記Casタンパク質をコードする核酸は、例えば、アミノ酸配列情報を基に、該核酸を導入する宿主細胞における翻訳に最適化されたコドンを選択し、化学合成等により構築してもよい。宿主細胞において使用頻度の高いコドンを使用することにより、タンパク質の発現量の増加させることができる。該核酸としては、例えば、mRNA等のRNA、またはDNAが挙げられる。
【0020】
Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10dの各Casタンパク質またはそれらをコードする核酸は、本発明の効果が達成されるかぎりにおいて、すなわち、上記Casタンパク質とcrRNAとの複合体が標的配列を標的化または改変するかぎりにおいて、1以上のアミノ酸変異または1以上のヌクレオチド変異を有していてもよい。
【0021】
例えば、上記Casタンパク質の例として、限定するものではないが、Microcystis aeruginosa(以下、M.aeruginosaという)由来のCas3d(配列番号1)、Cas5d(配列番号2)、Cas6d(配列番号3)、Cas7d(配列番号4)、およびCas10d(配列番号5)が挙げられる。したがって、本発明に用いられるCas3dをコードする核酸の例として、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、Cas5dをコードする核酸の例として、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、Cas6dをコードする核酸の例として、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、Cas7dをコードする核酸の例として、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、およびCas10dをコードする核酸の例として、配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸が挙げられる。好ましくは、本発明に用いられるCas3dをコードする核酸の例として、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、Cas5dをコードする核酸の例として、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、Cas6dをコードする核酸の例として、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、Cas7dをコードする核酸の例として、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、およびCas10dをコードする核酸の例として、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸が挙げられる。さらに好ましくは、本発明に用いられるCas3dをコードする核酸の例として、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列からなる核酸、Cas5dをコードする核酸の例として、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列からなる核酸、Cas6dをコードする核酸の例として、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列からなる核酸、Cas7dをコードする核酸の例として、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列からなる核酸、およびCas10dをコードする核酸の例として、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列からなる核酸が挙げられる。
【0022】
また、本発明に用いられる上記Casタンパク質をコードする核酸のさらなる例として、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5に対してそれぞれ、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、またはさらに好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸が挙げられる。好ましくは、本発明に用いられる上記Casタンパク質をコードする核酸のさらなる例として、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5に対してそれぞれ、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、またはさらに好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸が挙げられる。さらに好ましくは、本発明に用いられる上記Casタンパク質をコードする核酸のさらなる例として、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5に対してそれぞれ、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、またはさらに好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列からなる核酸が挙げられる。上記のいずれかの核酸から発現するCasタンパク質は、上記の他の核酸から発現するCasタンパク質およびcrRNAと複合体を形成した場合に標的配列を標的化または改変する能力を有するものである。
【0023】
TiDシステムを導入する細胞が真核細胞である場合、好ましくは、Casタンパク質をコードする核酸の末端に核移行シグナルをコードするヌクレオチド配列(以下、「核移行シグナル配列」という)が付加される。核移行シグナル配列は、当該分野で公知であり、導入対象の細胞が由来する生物種に応じて適宜選択することができる。例えば、モノパータイト型核移行シグナルまたはバイパータイト型核移行シグナル(bpNLS)を使用してもよい。モノパータイト型核移行シグナルの例として、限定するものではないが、KKKKRK(配列番号6)で示される配列を含むものが挙げられる。また、バイパータイト型核移行シグナルの例として、限定するものではないが、DPKRTADGSEFESPKKKRKVEGT(配列番号7)で示される配列を含むものが挙げられる。
【0024】
また、核移行シグナル配列は、2個以上をタンデムに並べてCasタンパク質をコードする核酸に付加してもよい。好ましくは、2個以上の、例えば、2個又は3個のモノパータイト型核移行シグナル配列をタンデムに並べて、Casタンパク質をコードする核酸に付加する。核移行シグナル配列は、Casタンパク質をコードする核酸の5’末端側または3’末端側、あるいは5’末端側および3’末端側の両方に付加されていてもよい。
【0025】
例えば、一の態様において、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAは、5’末端側に、1個のモノパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されているか、あるいは2個又は3個のタンデムに連結したモノパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されていてもよい。例えば、また別の態様において、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAは、5’末端側および3’末端側の両方に、バイパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されていてもよい。例えば、また別の態様において、Cas7dをコードするDNAは、5’末端および/または3’末端側に、2個又は3個のタンデムに連結したモノパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されていてもよい。これらの態様は、動物細胞への導入に好ましい。
【0026】
(3)crRNA
crRNAは、CRISPR遺伝子座に由来するリピート配列および該リピート配列に挟まれたスペーサー配列からなる1以上の構造単位(「リピート-スペーサー-リピート」)を含む。リピート配列は、好ましくは、パリンドローム様配列を含む。crRNAは、スペーサー配列として標的ヌクレオチド配列に結合するRNA配列(すなわち、プロトスペーサー配列)を含むことによって、CRISPR-Casシステムの標的認識に寄与する。crRNAのリピート配列および該リピート配列に挟まれたプロトスペーサー配列からなる構造を含むRNA分子は、ガイドRNA(gRNA)とも呼ばれる。crRNAは、Casエフェクタータンパク質の作用によりプロセッシングされてそのリピート配列が切断され、リピート配列の部分配列と該リピート配列の部分配列に挟まれたプロトスペーサー配列からなる成熟型(mature)crRNAになる。プロセッシングされる前のcrRNAはプレ成熟型(pre-mature)crRNAと呼ばれる。
【0027】
本発明で使用されるcrRNAは、CRISPRタイプI-D遺伝子座に由来するリピート配列と、該リピート配列に挟まれたプロトスペーサー配列として、標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列を含む。本発明で使用されるcrRNAは、好ましくは、プレ成熟型crRNAである。
【0028】
プレ成熟型crRNAは、Cascade(Cas5d、Cas6d、およびCas7dの複合体)に取り込まれる前にCas6dによるプロセッシングを受けて、成熟型crRNAとなる。プレ成熟型crRNAが2以上の「リピート-スペーサー-リピート」構造単位を含む場合、該プレ成熟型crRNAは、2種以上のプロトスペーサー配列を含んでいてもよい。2種以上のプロトスペーサー配列を含むプレ成熟型crRNAからは、2種以上の成熟型crRNAが生じ、次いで、これらの成熟型crRNAは個別にCascadeに取り込まれる。
【0029】
crRNAに含まれるプロトスペーサー配列は、標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列である。「標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列」は、例えば、RNA配列標的ヌクレオチド配列に相補的な配列、またはRNA配列標的ヌクレオチド配列に対し実質的に相補的な配列である。ここで、「実質的に相補的」とは、標的配列に対して完全に相補的ではないが、標的配列に結合できる(標的配列と塩基対を形成する)配列を包含する。RNA配列標的ヌクレオチド配列に対し実質的に相補的な配列は、標的配列と塩基対を形成するかぎりにおいて、配列標的配列に対しミスマッチを含んでいてもよい。
【0030】
crRNAのリピート配列部分は、少なくとも1つのヘアピン構造を有していてもよい。例えば、プロトスペーサー配列の5’末端側にあるリピート配列部分がヘアピン構造を有し、プロトスペーサー配列の3’末端側にあるリピート配列部分は一本鎖であってもよい。本発明において、crRNAは、好ましくは1つのヘアピン構造を有する。
【0031】
CRISPRタイプI-D遺伝子座に由来するリピート配列は、タイプI-D遺伝子群に隣接するcrRNA遺伝子配列領域から、タンデムリピート検索プログラムを利用して見出すことができる。タイプI-D遺伝子座に由来するリピート配列は、いずれの細菌または古細菌由来のものであってもよく、例えば、上記のCasエフェクタータンパク質に関して例示した細菌および古細菌由来のものであってもよい。
【0032】
crRNAに含まれるリピート配列の塩基長は、Cascadeと相互作用して標的ヌクレオチド配列を標的化するという目的が達成されるかぎり、特に限定されない。例えば、プロトスペーサー配列の前後のリピート配列は各々、約10~70塩基長であってもよく、例えば、約30~50塩基長であってもよく、好ましくは約35~45塩基長であってもよい。
【0033】
本発明で使用されるcrRNAは、約10塩基~70塩基長のプロトスペーサー配列を含むことができる。該crRNAに含まれるプロトスペーサー配列は、好ましくは20塩基~50塩基、より好ましくは25塩基~45塩基からなる配列、さらに好ましくは30塩基~40塩基からなる配列、例えば、31塩基、32塩基、33塩基、34塩基、35塩基、36塩基、37塩基、38塩基、または39塩基からなる配列である。標的化可能な配列が長いほど、crRNAによる標的認識の配列特異性が増す。また、標的化可能な配列が長いほど、crRNAと標的配列との間に形成される塩基対のTm値が高くなり、標的認識の安定性が増す。従来のゲノム編集技術に用いられるRNA誘導性エンドヌクレアーゼ(例えば、Cas9およびCpf1)ではcrRNAが標的化できる配列の長さは約20~24塩基であるので、本発明では、従来法よりも配列特異性および安定性が優れている。
【0034】
本発明で使用されるcrRNAの例として、限定するものではないが、M.aeruginosa由来のcrRNAのリピート配列を含むものが挙げられる。例えば、GUUCCAAUUAAUCUUAAGCCCUAUUAGGGAUUGAAACNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNGUUCCAAUUAAUCUUAAGCCCUAUUAGGGAUUGAAAC(配列番号8;Nは、標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列を構成する任意のヌクレオチドである)で示される配列を含むプレ成熟型crRNAが挙げられる。上記crRNAの配列中、Nの数は10~70の範囲で変更してもよく、好ましくは20~50、より好ましくは25~45、さらに好ましくは30~40の範囲で変更してもよい。
【0035】
上記crRNAは、RNAとして、またはcrRNAをコードするDNAとして細胞中に導入されてもよい。crRNAをコードするDNAは、例えば、ベクターまたは発現カセットに含まれていてもよく、該DNA配列は、好ましくは、プロモーターおよびターミネーター等の調節配列に作動可能に連結される。ベクターおよび調節配列は、例えば宿主細胞等に基づいて、当業者が適宜選択することができる。例えば、限定するものではないが、pol III系のプロモーター(例えば、SNR6、SNR52、SCR1、RPR1、U6、H1プロモーター等)、pol II系のプロモーター、ターミネーター(例えばT6配列)、またはヒトU6 snRNAプロモーターを用いることができる。
【0036】
上記crRNAをコードするDNAは、上記5つのCasタンパク質をコードするDNAのいずれかと同じベクター中または同じ発現カセット中に含まれていてもよく、または上記5つのCasタンパク質をコードするDNAのいずれとも別のベクター中または別の発現カセット中に含まれていてもよい。
【0037】
(4)標的ヌクレオチド配列
本発明において、標的ヌクレオチド配列(本明細書において、単に「標的配列」ともいう)は、任意の核酸の配列であり、TiDシステムのプロトスペーサー近接モチーフ(PAM)の近傍に位置する配列を標的配列として選択することを除き、特に限定されない。標的ヌクレオチド配列は、二本鎖DNA配列、一本鎖DNA配列、またはRNA配列のいずれであってもよい。DNAとしては、例えば、真核生物核ゲノムDNA、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、原核生物ゲノムDNA、ファージDNA、あるいはプラスミドDNA等が挙げられる。本発明において、標的ヌクレオチド配列は、好ましくは、ゲノムDNA上の配列である。したがって、標的とする核酸のセンス鎖において、PAM配列の近傍に位置する配列、好ましくはPAM配列の3’側下流の近傍に位置する配列、さらに好ましくはPAM配列の3’側下流に隣接する配列を標的ヌクレオチド配列として選択する。また、標的核酸のアンチセンス鎖において、標的ヌクレオチド配列は、PAM配列の近傍に位置する配列、好ましくはPAM配列の5’側の近傍に位置する配列、さらに好ましくはPAM配列の5’側に隣接する配列から選択される。なお、本明細書において、「近傍に位置する」とは、隣接すること、および近くにあることの両方を包含する。また、本明細書において、「近傍」とは、隣接する位置または近くの位置の両方を包含する。なお、本明細書においては、特記しないかぎり、核酸のセンス鎖に基づいて記載される。
【0038】
CRISPRシステムの標的認識に利用されるPAM配列は、CRISPRシステムの種類によって異なる。M.aeruginosaのTiDシステムを用いる発明者らの以前の研究により、TiDシステムのPAM配列は、標的とする核酸のセンス鎖において、5’-GTH-3’(H=A、CまたはT)であり、標的核酸のアンチセンス鎖において、5’-HTG-3’(H=A、CまたはT)であることが明らかにされた(特許文献1)。
【0039】
例えば、標的ヌクレオチド配列は、上記PAM配列の近傍に位置し、かつ、標的遺伝子のイントロン内、コーディング領域内、非コーディング領域内、または制御領域内に存在する配列であってもよい。標的遺伝子は、任意の遺伝子であり、随意に選択すればよい。
【0040】
標的ヌクレオチド配列の長さは、例えば、10~70塩基長、好ましくは20~50塩基長、より好ましくは25~45塩基長、さらに好ましくは30~40塩基長の範囲である。
【0041】
(5)本発明の標的配列改変方法
本発明の標的配列改変方法は、上記の5つのCasタンパク質をコードするDNAを含むベクター系または発現カセット系と、crRNAまたはcrRNAをコードするDNAとを上記細胞中に導入することを特徴とする。本発明の標的配列改変方法は、TiDシステムにより、細胞中の標的ヌクレオチド配列が特異的に切断されることを含む。本発明の標的配列改変方法は、イン・ビトロおよびイン・ビボのいずれで行ってもよい。本発明において、改変には、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、挿入、または置換、あるいはそれらの組み合わせが含まれる。
【0042】
上記Casタンパク質をコードするDNAは、ベクター系または発現カセット系に含まれる。本明細書において、「ベクター系」および「発現カセット系」とは、それぞれ、2以上のベクターを含む群(すなわち、第一のベクターおよび第二のベクターを含む群)および2以上の発現カセットを含む群(すなわち、第一の発現カセットおよび第二の発現カセットを含む群)を意味する。ここで、ベクターは、対象細胞中に目的タンパク質をコードするDNAを運び、該細胞中で該目的タンパク質を発現させるための発現ベクターである。発現カセットとは、目的タンパク質をコードするDNAの転写を指示して該目的タンパク質の発現を可能にする核酸分子を意味する。発現カセットは、ベクターに含まれていてもよい。ベクターとしては、当該分野において一般的に使用される種々のベクターを使用することができ、特に限定されず、導入される細胞又は導入方法に応じて適宜選択することができる。例えば、限定するものではないが、プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ファージ、ファージミド、コスミド、人工/ミニ染色体、トランスポゾン等が挙げられる。
【0043】
上記ベクターまたは発現カセットは、上記Casタンパク質をコードするDNAのほかに、該DNAの転写を調節するための調節エレメントを含み、該DNA配列は該調節エレメントに作動可能に連結されている。転写を調節するための調節エレメントとしては、例えば、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、内部リボソーム侵入部位(IRES)、ポリアデニル化シグナル、ポリU配列等が包含される。上記ベクターまたは発現カセットは、好ましくはプロモーターを含む。上記ベクターまたは発現カセットは、さらに、他の調節エレメントを含んでいてもよい。他の調節エレメントとしては、例えば、翻訳エンハンサー等が挙げられる。調節エレメントは、特に限定されず、例えば宿主細胞等に基づき当業者が適宜選択することができる。例えば、プロモーターとして、宿主が植物細胞である場合、CaMV35Sプロモーター、2xCaMV35Sプロモーター、CaMV19Sプロモーター、NOSプロモーター等が挙げられ、宿主が動物細胞である場合、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、RSVプロモーター、MoMuLV LTRプロモーター、HSV-TSプロモーター、ヒト翻訳伸長因子遺伝子プロモーター、CAGキメラ合成プロモーター等が挙げられる。特に、ヒト翻訳伸長因子遺伝子プロモーター、またはCAGキメラ合成プロモーターは、好ましくは、上記Casタンパク質をコードするDNAを動物細胞へ導入するために使用される。
【0044】
上記ベクター系または発現カセット系は、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAを含み、ここに、第一のベクターまたは第一の発現カセットは、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAを含み、また、上記第二のベクターまたは第二の発現カセットは、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAを含む。
【0045】
上記5つのCasタンパク質Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7dおよびCas10dをコードするDNAの2以上または全てが単一のベクターまたは発現カセット中に含まれていてもよく、または別々のベクターまたは発現カセット中に含まれていてもよい。ベクターまたは発現カセットの数、ならびに各ベクターまたは発現カセットに組み込むDNAがコードするCasタンパク質の種類および組み合わせに制限はない。上記Casタンパク質をコードする2以上のDNAが一つのベクター中に含まれる場合、これらのDNA配列は、ポリシストロニックに発現するように、例えば自己開裂型ペプチドをコードする配列等を介して、相互に連結されていてもよい。なお、上記Casタンパク質をコードする2以上のDNAを連結する順番は、いずれであってもよい。
【0046】
好ましくは、上記ベクター系または発現カセット系において、第二のベクターまたは第二の発現カセットは、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAであって、第一のベクターまたは第一の発現カセットに含まれていないDNAを含む。
【0047】
例えば、上記ベクター系または発現カセット系は、第一ないし第五のベクターまたは発現カセットを含んでいてもよく、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAがそれぞれ別々の上記ベクターまたは発現カセットに含まれていてもよい。
【0048】
例えば、一の態様において、ベクター系が第一ないし第五のベクターを含み、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAがそれぞれ別々の上記ベクターに含まれていてもよい。かかる態様は、好ましくは、上記Casタンパク質をコードするDNAを動物細胞へ導入するために使用される。
【0049】
例えば、上記ベクター系または発現カセット系において、第一のベクターまたは発現カセットが、Cas3dをコードするDNAおよびCas6dをコードするDNAを含み、第二のベクターまたは発現カセットが、Cas5dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAを含んでいてもよい。
【0050】
例えば、一の態様において、第一の発現カセットが、Cas3dをコードするDNAおよびCas6dをコードするDNAを含み、第二の発現カセットが、Cas5dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAを含み、かつ、第一の発現カセットおよび第二の発現カセットが1つのベクターに搭載されていてもよい。かかる態様は、好ましくは、上記Casタンパク質をコードするDNAを植物細胞へ導入するために使用される。
【0051】
本発明の標的配列改変方法においては、上記Casタンパク質をコードするDNAを含むベクター系または発現カセット系およびcrRNAまたはcrRNAをコードするDNAに加えて、ドナーポリヌクレオチドを細胞中に導入してもよい。ドナーポリヌクレオチドは、標的部位に導入したい改変を含む少なくとも1つのドナー配列を含む。ドナーポリヌクレオチドは、ドナー配列に加えて、該ドナー配列の両端に標的配列の上流および下流の配列と相同性の高い配列(好ましくは、標的配列の上流および下流の配列と実質的に同一の配列)を含んでいてもよい。ドナーポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖のDNAであってもよい。ドナーポリヌクレオチドは、当該分野で既知の技術に基づいて当業者が適宜設計することができる。
【0052】
本発明の標的配列改変方法においてドナーポリヌクレオチドが存在しない場合、標的ヌクレオチド配列における切断は、非相同末端結合(NHEJ)により修復されうる。NHEJはエラーが発生しやすいことが知られており、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、挿入、または置換、あるいはそれらの組み合わせが該切断の修復中に起こりうる。かくして、該配列は、標的配列部位において改変され、それにより、フレームシフトや未成熟終止コドンを誘発し、標的配列領域がコードしている遺伝子の発現が不活性化またはノックアウトされる。
【0053】
本発明の標的配列改変方法においてドナーポリヌクレオチドが存在する場合、ドナーポリヌクレオチドのドナー配列は、切断された標的ヌクレオチド配列の相同組換え修復(HDR)により、標的配列部位に挿入されるか、または標的配列部位がドナー配列に置換される。その結果、標的配列部位に所望の改変が導入される。
【0054】
上記Casタンパク質をコードするDNAを含むベクター系または発現カセット系およびcrRNAまたはcrRNAをコードするDNAの細胞中への導入は、当該分野で知られた種々の手段によって行うことができる。ドナーポリヌクレオチドを用いる場合、ドナーポリヌクレオチドもまた、当該分野で知られた種々の手段によって細胞中に導入すればよい。例えば、トランスフェクション、例えば、リン酸カルシウム仲介性トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポソームトランスフェクション等、ウイルス形質導入、リポフェクション、遺伝子銃、マイクロインジェクション、アグロバクテリウム法、アグロインフィルトレーション法、PEG-カルシウム法等が挙げられる。
【0055】
上記Casタンパク質をコードするDNAを含むベクター系または発現カセット系、およびcrRNAまたはcrRNAをコードするDNAは、同時にまたは連続的に細胞中に導入すればよい。また、上記のベクター系または発現カセット系に含まれる2以上のベクターまたは発現カセットは、同時にまたは連続的に細胞中に導入すればよい。ドナーポリヌクレオチドを用いる場合、該ドナーポリヌクレオチドは、上記Casタンパク質をコードするDNAを含むベクター系または発現カセット系およびcrRNAまたはcrRNAをコードするDNAと同時にまたは連続的に細胞中に導入すればよい。
【0056】
上記Casタンパク質をコードするDNAを含むベクター系または発現カセット系、およびcrRNAまたはcrRNAをコードするDNAの細胞中への導入の際、該細胞は、標的配列部位での切断に適当な条件下で培養される。次いで、該細胞は、細胞増殖および維持に適当な条件下で培養される。ドナーポリヌクレオチドを導入する際も同様である。培養条件は、導入される細胞が由来する生物種に適切な培養条件であればよく、例えば、既知の細胞培養技術に基づいて当業者により適宜決定可能である。
【0057】
本発明の標的配列改変方法によれば、細胞中に導入されたTiDシステムにより標的ヌクレオチド配列上の部位が切断され、該切断配列の修復時に、標的配列が改変される。例えば、本発明の標的配列改変方法は、ゲノム上の標的ヌクレオチド配列の改変のために用いることができ、該方法によりゲノム上の二本鎖DNAが切断され、標的部位が改変される。
【0058】
さらに、本発明の標的配列改変方法において、標的ヌクレオチド配列として、標的遺伝子の配列の少なくとも一部の配列を選択することにより、当該標的遺伝子の発現を抑制することができる。かくして、本発明の標的配列改変方法のさらなる態様として、細胞内の標的遺伝子の発現を抑制する方法であって、該細胞に、
(i)CRISPRタイプI-DのCasタンパク質 Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAを含むベクター系又は発現カセット系、及び
(ii)前記標的遺伝子の少なくとも一部のヌクレオチド配列と塩基対を形成する配列を含むcrRNA、又は前記crRNAをコードするDNA
を導入することを含み、
前記ベクター系が、第一のベクター及び第二のベクターを含み、
前記発現カセット系が、第一の発現カセット及び第二の発現カセットを含み、
前記第一のベクター又は前記第一の発現カセットが、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、及びCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNA、及び前記DNAの転写を調節する第一の調節エレメントを含み、
前記第二のベクター又は前記第二の発現カセットが、前記群より選択される少なくとも1つのDNA、及び前記DNAの転写を調節する第二の調節エレメントを含む、方法が提供される。
【0059】
本発明の標的配列改変方法によれば、上記の5つのCasタンパク質をコードするDNAがベクター系または発現カセット系、すなわち、2以上のベクターまたは発現カセット中に存在していることを特徴とする。上記Casタンパク質は、該ベクター系または発現カセット系を介して細胞中で発現することにより、同時に導入されたcrRNAと共に作用して、標的ヌクレオチド配列を特異的かつ効率よく改変する。
【0060】
好ましい一の態様において、本発明の標的配列改変方法は、上記の第一のベクターまたは発現カセットおよび第二のベクターまたは発現カセットを含むベクター系または発現カセット系であって、第二のベクターまたは第二の発現カセットが、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAであって、第一のベクターまたは第一の発現カセットに含まれていないDNAを含む、ベクター系または発現カセット系を用いる。また別の態様において、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAは、第一のベクターまたは第一の発現カセットおよび第二のベクターまたは第二の発現カセットの両方に含まれていてもよい。このように、Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7dおよびCas10dをそれぞれコードする5つのDNAが2以上の異なるベクターまたは発現カセットに別れて含まれる場合、該ベクターまたは発現カセットを利用するTiDは、細胞中でCasタンパク質のより高レベルの発現を導き、より強力な標的配列改変効果をもたらす。
【0061】
例えば、本発明の標的配列改変方法は、好ましくは、5つのベクターを含むベクター系であって、上記の5つのCasタンパク質をコードするDNAの各々が互いに異なるベクター中に含まれているベクター系を用いる。さらに好ましくは、上記ベクターは、ヒト翻訳伸長因子遺伝子プロモーターまたはCAGキメラ合成プロモーターを含む。また、本発明の方法において、好ましくは、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAの5’末端側には、1個のモノパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されているか、あるいは2個または3個のタンデムに連結したモノパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されている。あるいは、本発明の方法において、好ましくは、Cas3dをコードするDNA、Cas5dをコードするDNA、Cas6dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNAの5’末端側および3’末端側の両方には、バイパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されている。さらに、本発明の方法において、好ましくは、Cas7dをコードするDNAの5’末端および/または3’末端側には、2個又は3個のタンデムに連結したモノパータイト型核移行シグナルをコードする配列が付加されている。また、本発明の方法において、好ましくは、上記発現カセット系が2つの発現カセットを含み、Cas3dをコードするDNAおよびCas6dをコードするDNAが第一の発現カセットに含まれ、Cas5dをコードするDNA、Cas7dをコードするDNA、およびCas10dをコードするDNA第二の発現カセットに含まれ、該第一および第二の発現カセットは1つのベクターに搭載されている。
【0062】
本発明の標的配列改変方法によれば、標的配列に、数塩基から数十塩基の短鎖領域の挿入および/または欠失を導入するだけでなく、数キロベースないし数十キロベースの長鎖領域の塩基欠失も導入することができる。数キロベースないし数十キロベースとしては、限定するものではないが、例えば1000~90000塩基長、好ましくは2000~80000塩基長、より好ましくは2000~70000塩基長、さらに好ましくは2000~60000塩基長、2000~50000塩基長、2000~40000塩基長、2000~30000塩基長、または2000~20000塩基長が挙げられる。あまりに長い欠失では、標的とする遺伝子の目的以外の配列(例えば、隣接する別の遺伝子の配列)の欠失を生じたり、標的とするエキソン領域のみならず隣接する必要なエキソン配列の欠失を生じたりすることもあるが、本発明のように「数キロベースないし数十キロベース」程度の適度に長い領域の欠失であれば、目的の遺伝子の長鎖欠失のみを導入することができる。したがって、本発明の標的配列改変方法を用いれば、1つのガイドRNAを設計するだけで、1遺伝子座全体を欠失させることが可能となる。また、本発明の標的配列改変方法を用いれば、動物の遺伝子のように長いイントロンが存在する場合でも、特定のエキソンを完全に欠落させることも可能である。さらに、本発明の標的配列改変方法を用いれば、隣接して存在する遺伝子群をまとめて欠落させることも可能である。
【0063】
本発明の標的配列改変方法によれば、PAM配列の上流方向または下流方向、あるいはPAM配列の上流および下流の両方(すなわち、二方向性)の塩基欠失をもたらすことができる。
【0064】
(6)本発明のキット
本発明のキットは、上記の本発明の標的配列改変方法に使用するためのキットであり、上記の5つのCasタンパク質をコードするDNAを含む上記ベクター系または発現カセット系と、上記crRNAまたは上記crRNAをコードするDNAを含む。本発明のキットの構成成分については、上記(2)~(5)に記載のとおりである。
【0065】
(7)本発明のオフターゲット効果を抑制した標的配列ターゲティング方法
本発明のオフターゲット効果を抑制した標的配列ターゲティング方法は、上記標的認識モジュール(Cas5d、Cas6dおよびCas7d)または該Casタンパク質をコードする核酸と、上記crRNAまたはcrRNAをコードするDNAとを上記細胞中に導入することを含み、かつ、標的配列に対して、PAM配列の3’側から1、6、12、18および24番目の塩基からなる群から選ばれるいずれか1つの塩基、あるいは24番目以降の1つまたは2つの塩基が相違している類似配列が存在しないように標的配列を設計(または選択)することを特徴とする。さらに、標的配列が比較的短い(例えば、30塩基長以下)場合は、PAM配列の3’側から6、12、18および24番目の塩基からなる群から選ばれるいずれか1つの塩基、あるいは24番目以降の1つまたは2つの塩基が相違している類似配列が存在しないように標的配列を設計(または選択)してもよい。このような標的配列を選択することにより、TiDの標的認識モジュールによるオフターゲット効果が抑制され、より効率的かつ特異的な標的配列の標的化(ターゲティング)が実現する。本発明のオフターゲット効果を抑制した標的配列ターゲティング方法は、イン・ビトロおよびイン・ビボのいずれで行ってもよい。本発明の標的配列ターゲティング方法によれば、crRNAと、上記標的認識モジュールとcrRNAが複合体を形成し、同時に、該crRNAが標的ヌクレオチド配列と塩基対を形成し、該標的認識モジュールが標的ヌクレオチド配列近傍のPAM配列を認識することにより、配列特異的に標的ヌクレオチド配列を標的化する。
【0066】
上記標的認識モジュールは、Cas5d、Cas6d、およびCas7dを含む単離された複合体として細胞中に導入されてもよく、またはCas5d、Cas6d、およびCas7dの各々が単離されたタンパク質として単独で細胞中に導入されてもよい。また、上記標的認識モジュールは、上記Casタンパク質Cas5d、Cas6d、およびCas7dをコードする核酸として細胞中に導入されてもよい。該核酸としては、例えば、mRNA等のRNA、またはDNAが挙げられる。
【0067】
上記Casタンパク質をコードするDNAは、例えば、1以上のベクターまたは発現カセット中に含まれていてもよく、該DNA配列は、好ましくは、調節エレメントに作動可能に連結されている。上記標的認識モジュールを導入する細胞が真核細胞である場合、好ましくは、上記Casタンパク質をコードするDNAに核移行シグナル配列が付加される。上記Casタンパク質Cas5d、Cas6d、およびCas7dをコードするDNAの2以上または全てが単一のベクターまたは発現カセット中に含まれていてもよく、または別々のベクターまたは発現カセット中に含まれていてもよい。上記Casタンパク質をコードする2以上のDNAが一つのベクターまたは発現カセット中に含まれる場合、これらのDNA配列は、ポリシストロニックに発現するように、例えば自己開裂型ペプチドをコードする配列等を介して、相互に連結されていてもよい。なお、上記Casタンパク質をコードする2以上のDNAを連結する順番は、いずれであってもよい。ベクター、発現カセット、調節エレメント、核移行シグナル配列等については、上記(5)に記載のとおりである。crRNAについては、上記(3)に記載のとおりである。
【0068】
上記標的認識モジュールおよびcrRNAまたはcrRNAをコードするDNAの細胞中への導入は、当該分野で知られた種々の手段によって行うことができる。例えば、トランスフェクション、例えば、リン酸カルシウム仲介性トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポソームトランスフェクション等、ウイルス形質導入、リポフェクション、遺伝子銃、マイクロインジェクション、アグロバクテリウム法、アグロインフィルトレーション法、PEG-カルシウム法等が挙げられる。
【0069】
上記標的認識モジュールおよびcrRNAまたはcrRNAをコードするDNAは、同時にまたは連続的に細胞中に導入すればよい。また、上記標的認識モジュールを構成するCas5d、Cas6d、およびCas7d、またはこれらの各Casタンパク質をコードする核酸は、同時にまたは連続的に細胞中に導入すればよい。例えば、イン・ビトロまたはイン・ビボにおいてそれぞれ合成した上記Casタンパク質Cas5d、Cas6dおよびCas7dと、イン・ビトロまたはイン・ビボにおいて合成したcrRNAを、イン・ビトロにおいてインキュベートして複合体を形成させ、該複合体を細胞中に導入することができる。
【0070】
上記標的認識モジュールおよびcrRNAまたはcrRNAをコードするDNAの導入の際、細胞は、標的ヌクレオチド配列のターゲティングに適当な条件下で培養される。次いで、該細胞は、細胞増殖および維持に適当な条件下で培養される。培養条件は、該細胞が由来する生物種に適切な培養条件であればよく、例えば、既知の細胞培養技術に基づいて当業者により適宜決定可能である。
【0071】
(8)本発明のオフターゲット効果を抑制した標的配列改変方法
本発明のオフターゲット効果を抑制した標的配列改変方法は、上記の5つのCasタンパク質または該タンパク質をコードする核酸と、上記crRNAまたはcrRNAをコードするDNAとを上記細胞中に導入することを含み、かつ、標的配列に対して、PAM配列の3’側から1、6、12、18および24番目の塩基からなる群から選ばれるいずれか1つの塩基、あるいは24番目以降の1つまたは2つの塩基が相違している類似配列が存在しないように標的配列を設計(または選択)することを特徴とする。さらに、標的配列が比較的短い(例えば、30塩基長以下)場合は、PAM配列の3’側から6、12、18および24番目の塩基からなる群から選ばれるいずれか1つの塩基、あるいは24番目以降の1つまたは2つの塩基が相違している類似配列が存在しないように標的配列を設計(または選択)してもよい。このような標的配列を選択することにより、TiDのオフターゲット効果が抑制され、より効率的かつ特異的な標的配列の改変が実現する。本発明において、改変には、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、挿入、または置換、あるいはそれらの組み合わせが含まれる。本発明のオフターゲット効果を抑制した標的配列改変方法は、イン・ビトロおよびイン・ビボのいずれで行ってもよい。
【0072】
本発明のオフターゲット効果を抑制した標的配列改変方法においては、上記のCasタンパク質およびcrRNAに加えて、ドナーポリヌクレオチドを細胞中に導入してもよい。ドナーポリヌクレオチドについては、上記(5)に記載のとおりである。
【0073】
上記Casタンパク質は、Cas5d、Cas6d、Cas7d、Cas3d、およびCas10dを含む単離された複合体として細胞中に導入されてもよく、またはCas5d、Cas6d、Cas7d、Cas3d、およびCas10dの各々が単離されたタンパク質として単独で細胞中に導入されてもよい。あるいは、上記Casタンパク質Cas5d、Cas6d、Cas7d、Cas3d、およびCas10dをコードする核酸として細胞中に導入されてもよい。該核酸としては、例えば、mRNA等のRNA、またはDNAが挙げられる。
【0074】
上記Casタンパク質をコードするDNAは、例えば、1以上のベクターまたは発現カセット中に含まれていてもよく、該DNA配列は、好ましくは、調節エレメントに作動可能に連結されている。上記細胞が真核細胞である場合、好ましくは、上記Casタンパク質をコードするDNAに核移行シグナル配列が付加される。上記Casタンパク質Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10dをコードするDNAの2以上または全てが単一のベクターまたは発現カセット中に含まれていてもよく、または別々のベクターまたは発現カセット中に含まれていてもよい。上記Casタンパク質をコードする2以上のDNAが一つのベクターまたは発現カセット中に含まれる場合、これらのDNA配列は、ポリシストロニックに発現するように、例えば自己開裂型ペプチドをコードする配列等を介して、相互に連結されていてもよい。なお、上記Casタンパク質をコードする2以上のDNAを連結する順番は、いずれであってもよい。ベクター、発現カセット、調節エレメント、核移行シグナル配列等については、上記(5)に記載のとおりである。crRNAについては、上記(3)に記載のとおりである。
【0075】
上記Casタンパク質またはCasタンパク質をコードする核酸、crRNAまたはcrRNAをコードするDNA、およびドナーポリヌクレオチドの細胞中への導入は、当該分野で知られた種々の手段によって行うことができる。例えば、トランスフェクション、例えば、リン酸カルシウム仲介性トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポソームトランスフェクション等、ウイルス形質導入、リポフェクション、遺伝子銃、マイクロインジェクション、アグロバクテリウム法、アグロインフィルトレーション法、PEG-カルシウム法等が挙げられる。
【0076】
上記Casタンパク質またはCasタンパク質をコードする核酸、crRNAまたはcrRNAをコードするDNA、およびドナーポリヌクレオチドは、同時にまたは連続的に細胞中に導入すればよい。また、上記RNA誘導性エンドヌクレアーゼを構成するCas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10d、またはこれらの各Casタンパク質をコードする核酸は、同時にまたは連続的に細胞中に導入すればよい。
【0077】
上記Casタンパク質またはCasタンパク質をコードする核酸およびcrRNAまたはcrRNAをコードするDNA、または上記Casタンパク質またはCasタンパク質をコードする核酸、crRNAまたはcrRNAをコードするDNA、およびドナーポリヌクレオチドの導入の際、細胞は、標的配列部位での切断に適当な条件下で培養される。次いで、該細胞は、細胞増殖および維持に適当な条件下で培養される。培養条件は、該細胞が由来する生物種に適切な培養条件であればよく、例えば、既知の細胞培養技術に基づいて当業者により適宜決定可能である。
【0078】
以下に、本発明の実施例を示した。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例
【0079】
実施の一形態として、M.aeruginosa由来のTiD遺伝子座由来の遺伝子群(Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、Cas10d)を、クローン化して用いた。M.aeruginosa由来のCas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10dのアミノ酸配列情報(配列番号1~5)を基に、各Casタンパク質をコードするDNA配列を人工合成した。実施例中のDNA配列の加工および構築操作には、人工遺伝子化学合成、PCR法、制限酵素処理、ライゲーション、Gibson Assembly法のいずれかを用いた。また、塩基配列の決定にはサンガー法あるいは次世代シーケンス法を用いた。
【0080】
<方法>
(1)ベクターの構築
遺伝子フラグメントのクローニングのためのPCR増幅は、PrimeSTAR Max(TaKaRa)を用いて行た。アセンブリングのためのクローニングは、Quick ligation kit(NEB)、NEBuilder HiFi DNA Assembly(NEB)、およびMultisite gateway Pro(Thermo Fisher Scientific)を用いて行った。
【0081】
(1-1)哺乳動物ベクター
ヒトコドンに最適化したCasエフェクター遺伝子(Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10d)をN末端のSV40核移行シグナル(NLS)(配列番号6)と共に合成し(gBlocks(登録商標))(IDT)、アセンブルし、pEFsベクター(Lopez-Perrote et al,(2016), Nucleic Acids Res, 44:1909-1923. doi:10.1093/nar/gkv1527)中に別々にクローン化して、pEFs-HA-SV40NLS-Cas3d、pEFs-Strept-SV40NLS-Cas5d、pEFs-myc-SV40NLS-Cas6d、pEFs-FLAG-SV40NLS-Cas7d、およびpEFs-6xHis-SV40NLS-Cas10dを得た(単一Cas発現ベクター)。各Casタンパク質に融合したタグは以下のとおりである。すなわち、HA-タグをCas3dに、Strep-タグをCas5dに、Myc-タグをCas6dに、FLAG-タグをCas7dに、6xHis-タグをCas10dに付加した。さらに、すべてのCas遺伝子を、2A自己切断ペプチドをコードしている配列との融合によって、オールインワンベクターpEFs-All中で組み合わせた。2A自己切断ペプチドに連結することによって、pEFs_Cas3d-Cas10d発現ベクターおよびpEFs_Cas6d-Cas5d-Cas7d発現ベクター(2セット型ベクター)も構築した。
【0082】
Cas5dおよびCas6dを発現するための異なるプロモーターを評価するために、pEFs-Strept-SV40NLS-Cas5dおよびpEFs-Myc-SV40NLS-Cas6dにおいてヒトEFsプロモーターをCAGプロモーターに置き換えて、pCAG-Strept-SV40NLS-Cas5dまたはpCAG-Myc-SV40NLS-Cas6dを得た。
【0083】
バイパータイトNLS(bpNLS)(配列番号7)を用いてCas-発現ベクターを構築するために、DNAフラグメント(myc-bpNLS-Cas10d-bpNLS-6xHis)をまず合成し(IDT)、pEFsベクター中にクローン化して、pEFs-Myc-bpNLS-Cas10d-bpNLS-6xHisベクターを得た。pEFs-Myc-bpNLS-Cas10d-bpNLS-6xHisベクター中のCas10d遺伝子フラグメントを、Cas3d、Cas5d、Cas6dおよびCas7d遺伝子フラグメントでそれぞれ置き換えて、pEFs-Myc-bpNLS-Cas3d-bpNLS-6xHis、pEFs-Myc-bpNLS-Cas5d-bpNLS-6xHis、pEFs-Myc-bpNLS-Cas7d-bpNLS-6xHis、およびpEFs-Myc-bpNLS-Cas10d-bpNLS-6xHisを得た。
【0084】
変異Cas10d(H177A)発現ベクターを構築するために、dCas10d(H177A)フラグメントを合成し(IDT)、野生型Cas10dフラグメントpEFs-Myc-bpNLS-Cas10d-bpNLS-6xHisをdCas10d(H177A)で置換して、pEFs-myc-bpNLS-Cas(H177A)-bpNLS-6xHisを得た。pEFs-Myc-bpNLS-Cas7d-bpNLS中のMyc-bpNLS-Cas7d-bpNLS-6xHisフラグメントを6xHis-myc-Cas7d-bpNLSフラグメントで置換して、pEFs-6xHis-myc-bpNLS-Cas7d-bpNLSを得た。
【0085】
crRNA発現ベクターのために、リピート-スペーサー-リピート配列(配列番号9)を含有するDNAフラグメントを人工合成し、pEX-A2J1(Eurofins Genomics)中、ヒトU6プロモーター下でクローン化して、pAEX-hU6crRNAを得た。pAEX-hU6crRNA_matureを構築するために、2つのリピート配列を予測されたプロセスリピート配列(predicted processed repeat sequences)(配列番号10)に置き換えた。gRNA配列の挿入のために、標的配列を含有する2つのオリゴヌクレオチドをアニールし、制限酵素BsaI(NEB)を用いるGolden Gateクローニングを用いて、crRNA発現ベクター中にクローン化した。
【0086】
【表1】
【0087】
(1-2)ルシフェラーゼレポーターアッセイプラスミド
ルシフェラーゼ(luc)レポーターアッセイのために、NanoLUxxUC発現ベクターを構築した。まず、NLUxxUC_Block1およびNLUxxUC_Block2 DNAフラグメントを合成した(IDT社製)。NLUxxUC_Block1は、NanoLUCTM(登録商標)遺伝子(Promega社製)配列の最初の351bpおよびマルチクローニングサイトを含む。XbaI部位をNanoLUC遺伝子の5’末端に付加した。NLUxxUC_Block2は、NanoLUC遺伝子の3’末端の465bpを含む。XhoI部位をNanoLUC遺伝子の3’末端に付加した。これらのフラグメントをアセンブルし、pCAG-EGxxFPベクター(addgene、#50716)中にクローン化した。NLUxxUC_Block1をXbaIおよびBamHI消化によって、NLUxxUC_Block2をXbaIおよびEcoRI消化によって、pCAG-NLUxxUCベクターから除去することによって、各スプリットタイプNLUxxUCレポーターを構築した。各消化ベクターをマルチクローニングサイトと共にアセンブルし、pCAG-NLUxxUC_Block1およびpCAG-NLUxxUC_Block2を得た。
【0088】
(1-3)植物ベクター
トマトコドン最適化Casエフェクター遺伝子(Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10d)に対応する遺伝子フラグメントを、N末端の2xSV40核移行シグナル(NLS)と共に合成し(IDT社製)、アセンブルし、pNEB193(New England Biolabs Japan製)ベクター中にクローン化した。配列を確認後、5つのCas遺伝子を2A自己切断ペプチド配列を介して連結することによってリアセンブルし、Cas遺伝子発現カセットを、pEgP237-2A-GFP(Ueta et al., 2017, Sci. Rep, 7:507. doi: 0.1038/s41598-017-00501-4)の2xCaMV35SプロモーターとArabidopsis HSP18.2遺伝子ターミネーターとの間にクローン化して、pEgP1.2-TiDを得た。
【0089】
crRNA発現ベクターを構築するために、リピート-スペーサー-リピート配列を含有するDNAフラグメントを、pDONR P3-P2中のArabidopsis U6-26 snRNAプロモーター下にクローン化して、pE(L3-L2)AtU6crRNAを得た。pE(L3-L2)AtU6crRNA中のAtU6プロモーター-リピート-スペーサー-リピートフラグメントをpEgP1.2-TiD中に再クローン化して、pTiDP1.2を得た。
【0090】
pMGTiDP20を構築するために、マルチサイトゲータウェイアセンブリングのための中間ベクターpE(L1-L4)P1.2-Cas3d-Cas6d-GFPおよびpE(R4-R3)Ppubi4-Cas10d-Cas5d-Cas7dを構築した。2xCaMV35Sプロモーターによって駆動されるCas3d、Cas6dおよびGFP遺伝子フラグメント、およびArabidopsis HSP18.2遺伝子ターミネーターをpDONR P1-P4中にクローン化して、pE(L1-L4)P1.2-Cas3d-Cas6d-GFPを得た。pEgPubi4_237-2A-GFP由来のP.crispumユビキチン4-2プロモーター(Ppubi4)(Ueta et al. 2017 上掲)によって駆動されるCas10d、Cas5dおよびCas7d遺伝子フラグメント、およびArabidopsisリブロース-1,5-ビホスフェート カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ小サブユニット2b(rbc)ターミネーターをpDONR P4r-P3r中にクローン化して、pE(R4-R3)Ppubi4-Cas10d-Cas5d-Cas7dを得た。pE(L1-L4)P1.2-Cas3d-Cas6d-GFP、pE(R4-R3)Ppubi4-Cas10d-Cas5d-Cas7d、pE(L3-L2)AtU6crRNA、および目的のバイナリーベクターpTGW12を用いてマルチサイトゲータウェイLR反応を行って、pMGTiDP20を得た。
【0091】
gRNA配列の挿入のために、標的配列を含有する2つのオリゴヌクレオチドをアニールし、制限酵素BsaI(New England Biolabs Japan製)を用いてpTiDP1.2またはpMGTiDP20のスペーサー配列中にゴールデンゲータウェイクローニングすることによって、gRNA発現ベクター中にクローン化した。
【0092】
(2)細胞培養およびトランスフェクション
ヒト胚性腎細胞株293T(HEK293T,RIKEN BRC)を、10%胎仔ウシ血清(Thermo Fisher Scientific)、GlutalMAX(登録商標)サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、100単位/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを補足したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、37℃で60分、5%COインキュベーションで培養した。トランスフェクションの前日にHEK293T細胞を6ウェルプレート(Corning, USA)に播種した。TurboFect Transfection Reagent(Thermo Fisher Scientific)を製造者の推奨プロトコルに従って用いて、細胞をトランスフェクトした。6ウェルプレートの各ウェルについて、NucleoSpin(登録商標)Plasmid Transfection-gradeキット(Macherey-Nagel, Germany)を用いて抽出された全4μgのプラスミドを用いた。変異分析のために、48時間後にトランスフェクト細胞を回収した。
【0093】
(3)イン・ビトロ ヌクレアーゼアッセイ
イン・ビトロ ヌクレアーゼアッセイは、Sinkunas et al. (2011) EMBO J., 30, 1335-42に記載のプロトコルにいくつか修正を加えて行った。M13mp18一本鎖DNA(New England Biolabs Japan製)を基質として用いた。Cas3dおよびCas10dタンパク質は、Unitech, Co.(Kashiwa, Japan)によって調製された。簡単に言うと、Cas3dおよびCas10dタンパク質を、各His-タグ付加したCasタンパク質を発現しているHEK293T細胞から、Ni-NTAアガロース(Qiagen,Germany)およびゲルろ過カラム(Superdex 200 増加 10/300 GLカラム)を用いて精製した。Casタンパク質をバッファー(20mM HEPES pH7.5、150mM KCl、1mM DTT、10%グリセロール)中で溶出させた。ヌクレアーゼ反応は、バッファー[10mM HEPES pH7.5、75mM KCl、0.5mM DTT、5%グリセロール、2mM ATP、100μM NiCl、100μM CoCl、1xCut Smart Buffer(New England Biolabs Japan製)、4nM M13mp18 ssDNA、0.75μM Casタンパク質]中、37℃で30分、1時間および2時間行った。クロロホルムを加えて反応を停止し、次いで、クロロホルム抽出を行った。水相を分離し、ゲルローディングダイPurple(6X)(NEB)と混合し、次いで、1%アガロースゲル上の電気泳動に付した。DNAは、GelRed(登録商標)Nucleic Acid Gel Stain(Biotium,USA)での染色によって可視化した。実験は独立して3回繰り返し、同様の結果を得た。
【0094】
(4)ルシフェラーゼレポーターアッセイ
トランスフェクションの前日に、HEK293T細胞を96ウェルプレート(Corning)に、密度2.0x10細胞/ウェルで播種した。TurboFect Transfection Reagent(Thermo Fisher Scientific)を製造者の推奨するプロトコルに従って用いて、細胞をトランスフェクトした。96ウェルプレートの各ウェルについて、(1)Fluc遺伝子をコードするpGL4.53ベクター(Promega,USA)、(2)標的DNA フラグメントを挿入したpCAG-nLUxxUCベクター、および(3)TiD成分をコードしているプラスミドDNAを含む全200ngのプラスミドDNAを用いた。NanoLucおよびFlucルシフェラーゼ活性は、トランスフェクションの3日後に、Nano-Glo(登録商標)Dual-Luciferase(登録商標)Reporter Assay System(Promega)を用いて測定した。ホタル(Fluc)活性を内部対照として用いた。NanoLuc/Fluc比を各サンプルについて計算し、非標的化gRNAでトランスフェクトした対照サンプルのNanoLuc/Fluc比と比較した。相対的NanoLuc/Fluc活性を用いて、gRNA活性を評価した。実験は独立して3回繰り返し、同様の結果を得た。
【0095】
(5)ウェスタンブロッティング
HEK293T細胞を6ウェルプレート中、4μgのプラスミドDNAでトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後に、Protease Inhibitor Cocktail for Use with Mammalian Cell and Tissue Extracts(Nakalai Tesque, Japan)を補足したRIPA Lysis and Extraction Buffer(Thermo Scientific)を製造者のプロトコルに従って用いて、全タンパク質をHEK293T細胞から抽出した。核および細胞質タンパク質の単離について、NE-PER(登録商標)Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents(Thermo Fisher Scientific)を用いた。
【0096】
抽出したタンパク質を、PierceTM BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて定量した。サンプルを4x Laemmli Sample buffer(Bio-Rad,USA)および2.5%β-メルカプトエタノールと混合し、次いで、95℃で5分間熱処理した。変性タンパク質をTris-Glycine-SDSバッファー[0.25M Tris、1.92Mグリシン、1%(w/v)SDS]を含有する12%SDS-PAGEゲルにロードし、150Vで60分間のSDS-PAGEによって分離した。タンパク質を20%メタノールを含有するTris-グリシン-SDSバッファー中、50Vで2時間、Immobilon-P ポリビニリデンフルオリド(PVDF)膜(Millipore,USA)上に移した。TTBS(25mM Tris、137nM NaCl、2.68nM KCl)によって、5分で3回ブロットを洗浄し、室温にて、Blocking One(Nacalai Tesque,Japan)中で60分間ブロックした。一次抗体反応は、室温で60分間行った。膜をTTBSで5分間3回洗浄後、二次抗体 抗マウスIgG(H+L),HRPコンジュゲート(Promega社製、Blocking one中1:10000)を膜に加えた。室温で60分間インキュベーション後、膜をTTBSで5分間3回洗浄した。シグナルは、SuperSignal(登録商標)West Pico PLUS Chemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific)を用いて製造者のプロトコルに従って検出した。画像は、ImageQuant LAS4000 mini(GE Healthcare Bioscience, USA)を用いて得た。該実験で用いられた一次抗体は以下の通りである。抗-DDDDK-タグmAb(1:10,000)(MBL, Japan)、抗-HA-タグmAb(1:10,000)(MBL)、抗-His-タグmAb(1:10,000)(MBL)、抗-Myc-タグmAb(1:10,000)(MBL)、抗-Strep-タグmAb(1:1000)(MBL)、抗-β-アクチンmAb(1:10000)(MBL)。実験は独立して3回繰り返し、同様の結果を得た。
【0097】
(6)免疫沈降
HEK293T細胞を60mmディッシュ上で、TurboFect Transfection Reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いて、1μgの各Cas発現ベクター(pEFs-FLAG-SV40NLS-Cas7d、pEFs-Myc-bpNLS-Cas3d-bpNLS-6xHis、pEFs-Myc-bpNLS-Cas5d-bpNLS-6xHis、pEFs-Myc-bpNLS-Cas6d-bpNLS-6xHis、pEFs-Myc-bpNLS-Cas7d-bpNLS-6xHis、pEFs-Myc-bpNLS-Cas10d-bpNLS-6xHis)およびgRNA発現ベクターでトランスフェクトした。タンパク質抽出は、Katoh et al., (2015) J. Cell Sci., 128, 2351-2362に記載のプロトコルに従って、トランスフェクションの48時間後に行った。簡単に言うと、培地をProtease Inhibitor Cocktail for Use with Mammalian Cell and Tissue Extracts(Nacalai Tesque)を含有する溶解バッファー(20mM HEPES、150mM NaCl、0.1%(w/v)Triton X-100、10%(w/v)グリセロール)に置換し、氷上で5分間インキュベートした。細胞ライゼートをピペッティングによって混合し、1.5mlチューブに移し、次いで、氷上で15分間インキュベートした。FLAG-NLS-Cas7dタンパク質を含有するCascade複合体の精製は、DDDDK-タグ付加したProtein Magnetic Purification Kit(MBL)を製造者のプロトコルに従って用いて行った。得られた溶出物を、以下の抗体:抗-His-タグmAb(1:10,000)(MBL)、抗-DDDDK-タグmAb(1:10,000)(MBL)、抗-β-アクチンmAb(1:10,000)(MBL)、抗-マウスIgG(H+L),HRPコンジュゲート(1:10,000)(Promega)を用いて、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングによって分析した。実験は独立して3回繰り返し、同様の結果を得た。
【0098】
(7)植物形質転換
トマト植物(Solanum lycopersicum L.)cv. Micro-TomおよびAilsa Craigを部位特異的変異誘発実験に用いた。植物は、24℃で、16時間4000~6000lx照射/8時間暗所条件下、生育チャンバー中で生育させた。トランスジェニックトマト植物は、植物用TiDベクターを用いて作成した。トマト子葉由来の葉ディスクを、TiDベクターを有するAgrobacterium tumefaciens GV2260株で形質転換した。100μg/mLカナマイシンを含有するMS培地上で、Ueta et al.(上掲)の方法にしたがい、トランスジェニックカルスおよびシュートを選択し、再生させた。
【0099】
(8)長鎖DNA領域(long range)PCRによるDNA欠失分析
HEK293T細胞中のDNA欠失を検出するために、長鎖DNA領域PCRおよび長鎖DNA領域PCR産物のプールのクローニングを行った。最初に、Geno Plus(登録商標)Genomic DNA Extraction Miniprep System (Viogene-BioTek, Taiwan)を用いて、ゲノムDNAをHEK293T細胞から抽出した。次に、ネステッドPCRを行って、長鎖DNA領域を特異的に増幅した。まず、抽出したゲノムDNAを鋳型として用い、種々の長さ(3.5kb~25mb)の標的DNA領域を増幅するように設計された、長鎖DNA領域PCR用の何種類かの特異的プライマーセット(表5)を用いて、標的DNA領域を増幅した。最初のPCR反応は、KOD ONE Master Mix(TOYOBO, Osaka, Japan)を用いて、下記の条件下で行った。10秒98℃、5秒60℃および50秒(アンプリコン:15-20kb)または150秒(アンプリコン:10-15kb)または200秒(アンプリコン:<10kb)68℃を35サイクル。次いで、PCR産物を100~10,000倍に希釈し、ネステッドPCRの鋳型として用いた。ネステッドPCRは、また、上記と同じ条件下で行った。PCR産物を1%アガロースゲル上の電気泳動によって分離し、GelRed(登録商標)Nucleic Acid Gel Stain(Biotium)での染色によって視覚化した。ネステッドPCR産物をプールし、Monofas(登録商標)DNA purification Kit I(GL Sciences, Japan)を用いて精製した。PCR産物の精製混合物を、Mighty TA-cloning Kit(Takara Bio, Japan)を用いてpMD20-Tベクター中にクローン化した。AAVS-tid GTC_70-107(+)のための119クローン、およびhEMX1-tid GTT_9(-)のための20クローンをピックアップし、M13 UniおよびM13 RVプライマーを用いてサンガー配列決定した。サンガー配列決定の結果をBLATNサーチおよびClustalWプログラムを用いて分析して、DNA欠失を同定した。
【0100】
トマト植物における長鎖DNA領域PCRによる変異分析のために、ゲノムDNAを独立して、SlIAA9 GTC_gRNA1(+)およびGTT+GTT_gRNA5(-)(+)についてそれぞれ20個のT0トランスジェニックTiDトマトカルスから、SlRIN GTC_4003-4238(+)について30個のT0カルスおよび12個のT0シュートから、NucleoSpin(登録商標)Plant II(TaKaRa Bio)を用いて単離した。大きい欠失を分析するために、各gRNAの標的部位を含む約5~6kbpの領域を、PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(TaKaRa Bio)および長鎖DNA領域PCRのための数種類のプライマーセット(表5)を用いて、SlIAA9 GTC_gRNA1(+)のための最初のPCRによって、およびSlIAA9 GTT+GTT_gRNA5(-)(+)およびSlRIN GTC_4003-4238(+)のためのネステッドPCRによって、下記の条件下で増幅した。10秒98℃、15秒60℃、および7分68℃を35サイクル。PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動によって分析し、エチジウムブロマイドで染色した。SlIAA9 GTC_gRNA1(+)について最初のラウンドのPCR産物をプールし、哺乳動物DNAための方法において記載したようにクローニングのために精製した。SlIAA9 GTT+GTT_gRNA5(-)(+)およびSlRIN GTC_4003-4238(+)トランスジェニックカルスのためのネステッドPCRを行い、アガロースゲルで分離された小さいDNAフラグメントだけをさらなる分析のためにゲルから抽出し、精製した。SlRIN GTC_4003-4238(+)トランスジェニックシュートのために、ネステッドPCRを同じプライマーセットを用いて2回行い、小さいDNAフラグメントをゲル電気泳動後に抽出した。抽出フラグメントのクローニングは上記の通りに行った。各クローン化プラスミドをサンガーシークエンシングによって分析した。シークエンシング用のクローン数は、結果に記載するように各サンプルで異なった。
【0101】
(9)短鎖DNA領域(short range)PCR産物における変異分析
トランスフェクトされたヒト細胞およびトランスジェニックトマトカルスおよびシュートに導入された変異を分析するために、gRNAの標的座周辺の約400bpの領域を、上記のPCRキットを用いる短鎖DNA領域PCRによって増幅した。Cel-1アッセイにおいて、トランスフェクトされたヒト細胞およびトランスジェニック植物由来のPCR産物をSurveyor(登録商標)Mutation Detection Kit(IDT)を用いて消化した。PCR-RFLPにおいて、トランスジェニックトマト植物由来のPCR産物をAccIで消化した。変異および野生型DNAフラグメントを2~2.5%アガロースゲル電気泳動によって分離し、GelRedによって染色した。PCRアンプリコンは、また、TA cloning vector(TaKaRa Bio)中にクローン化して、サンガー法によってその配列を決定した。オンターゲットおよびオフターゲット変異分析のためのアンプリコンディープ配列を、Multiplex identifiers-labelled PCR(Ueta et al., 2017、上掲)を用いて行った。PCR産物をTruseq on the MiSeq platform(Illumina, USA)に付した。MiSeqデータを、CLC Genomics Workbench software version 7.5.1(CLC bio, Denmark)を用いて分析した。変異分析に用いられた短領域PCR用の全プライマーは、表4に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
【表5-1】

【表5-2】

【表5-3】
【0106】
実施例1:TiDシステムのヌクレアーゼモジュールの同定
M.aeruginosa由来のCasエフェクタータンパク質の成分、およびcrRNA配列をBLASTプラグラムを用いて評価した。M.aeruginosa PCC9808株のCRISPR/Cas TiD遺伝子座は、7.6kbにわたり、8つのCas遺伝子:Cas1d、Cas2d、Cas3d、Cas4d、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10d、次いで36個のリピート-スペーサー単位のアレイからなる。CRISPRタイプI-A、B、C、EおよびFシステムのDNA切断において機能するHDドメインは、Cas3dには無かったが、Cas10dがそのN末端領域にHD様ヌクレアーゼドメインを有することを見出した。該HD様ドメインがヌクレアーゼとして機能するかどうかを確認するために、イン・ビトロで合成したCas10dタンパク質および基質としてM13mp18一本鎖DNAを含有する反応ミックスにおいて、ATPおよび金属イオンNi2+およびCo2+の存在下でイン・ビトロ ヌクレアーゼアッセイを行った。その結果、Cas10dが一本鎖DNAを切断できることが示され、Cas10dがTiDシステムにおいてヌクレアーゼとして作用することが示された(図1)。
【0107】
実施例2:細胞中でのゲノム編集ツールとしてのTiDの生物学的活性
(1)TiDのエンドヌクレアーゼ活性
各単一Cas発現ベクターおよびcrRNA発現ベクターをHEK293T細胞に感染させ、プルダウンアッセイにより、Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas7dおよびCas10dとcrRNAとがイン・ビボで複合体を形成することを確認した。
【0108】
上記TiD複合体の生物学的ゲノム編集活性を評価するために、ルシフェラーゼ一本鎖アニーリング(SSA)組換えシステムを用いたルシフェラーゼ(luc)レポーターアッセイを行った(図2a)。終止コドンによって分離される300bp相同性アームならびにTiD標的部位を含有するヒトAAVS1遺伝子フラグメントを含有するNanoLucルシフェラーゼを組換えレポーターとして用いた。各単一Cas発現ベクター、TiD crRNA発現ベクター、および標的配列が導入されたLUCレポーターベクターをHEK293T細胞中に同時トランスフェクトし、トランスフェクション後72時間、ルミネッセンスによりエンドヌクレアーゼ切断を検出した。使用した標的配列を表2に示す。
【0109】
Cas10d HD様ドメインの機能を評価するために、野生型Cas10dおよびHD様ドメイン中に変異(H177A)を有するdCas10dを含むTiD Cas遺伝子発現ベクターと、gRNA AAVS1 GTC_70-170(+)およびAAVS1 GTC_159-196(+)、および非標的gRNAを用いるlucレポーターアッセイを行った。各単一Cas遺伝子の発現ベクターとして、pEFs-Myc-bpNLS-Cas10dまたはdCas10d(H177A)-bpNLS-6xHis、およびpEFs-SV40NLS HA-Cas3d、Strept-Cas5d、Myc-Cas6d、またはFLAG-Cas7dをlucレポーターアッセイに用いた。結果を図2bに示す。
【0110】
この結果により、Cas10dが実際に細胞におけるゲノム編集に利用できるヌクレアーゼ活性を有することが分かった。TiDの発現は、lucレポーターアッセイにおいて、非標的対照よりも顕著に高い(2~4倍)活性をもたらした(図2b~図2e)。Cas10dまたはCas3d以外のTiD Cas遺伝子をHEK293T細胞中にトランスフェクトした場合、ルシフェラーゼ活性は、非標的対照のそれに匹敵した(図2c)。この結果は、TiDの活性にはCas3dの他にCas10dが必須であることを示す。M.aeruginosa PCC9808株のもともとのCRISPR遺伝子座において、35塩基および36塩基の両方のプロトスペーサー配列を用いて特定のゲノムDNAを標的化した。TiD活性は、35塩基または36塩基gRNAのいずれかを用いて評価し、両方のgRNAが細胞におけるゲノム編集のために機能した(図2d)。また、成熟crRNAまたはプレ成熟crRNAのいずれかを用いてTiD活性を試験した(図2e)。その結果、TiDでは、プレ成熟crRNAの発現が有効であることが分かった。
【0111】
(2)TiDの標的配列設計
さらに、ゲノム編集に必要とされるTiDの標的gRNA配列における重要なヌクレオチドについて、スプリットタイプのベクターを用いて、HEK293T細胞におけるlucレポーターアッセイを用いて評価した。簡単に言うと、PAM配列に隣接する35塩基配列の各位置に変異を入れたAAVS1_GTC_70-107(+)標的gRNAを調製し、各gRNAを用いるTiD活性をlucレポーターアッセイによって測定した。結果を図3aに示す。その結果、PAM配列3’側の1、6、12、18または24nt位置にヌクレオチドのミスマッチがあった場合でも、TiD活性が保持されていた。すなわち、PAM配列3’側の1、6、12、18または24nt位置の1塩基ミスマッチに対するオフターゲット変異導入の可能性が高いことが判明した。しかし、PAM配列3’側の1、6、12、18または24nt位置に加えて、1~24nt位置にさらなる1つのミスマッチ、すなわち1~24nt位置に2つのミスマッチを持つ標的に対しては、TiD活性は有意に減少することが判明した(図3b)。さらには、標的配列に対していずれか3つのミスマッチが見いだされた場合は、その標的に対して、ほぼ完全にTiD活性を抑制することができ、3塩基のミスマッチを含む類似配列に対するオフターゲット変異導入を抑制できることが明らかとなった(図3c)。さらに、PAM配列3’側の24nt以降(例えば、24~35nt)の位置に1つまたは2つのミスマッチを持つ標的に対しては、TiD活性が保持されていた(図3aおよび図3b)。
【0112】
さらに、AAVS1_GTC_70-107(+)の5’側から1~30塩基配列を標的として、上記の35塩基配列の場合と同様に、PAM配列に隣接する30塩基配列の各位置に変異を入れたgRNAを調製し、各gRNAを用いるTiD活性をlucレポーターアッセイによって測定した。結果を図3dに示す。その結果、PAM配列3’側の6、12、18、24~30ntのいずれかの位置にヌクレオチドのミスマッチがあった場合に、TiD活性が保持されていた。したがって、標的配列が35塩基長である場合は、PAM配列の3’側の1、6、12、18、24~35番目のそれぞれの位置(16箇所)における1塩基ミスマッチがオフターゲット変異を引き起こすリスクがあるのに対して、標的配列が30塩基長である場合は、1塩基ミスマッチによるオフターゲット変異リスクが、PAM配列の3’側の6、12、18、24~30番目のそれぞれの位置(10箇所)へと低減した。
【0113】
(3)Cas遺伝子へのNLSの付加の効果
さらに、N末端および/またはC末端にモノパータイト型核NLS(SV40NLS)またはバイパータイト型NLS(bpNLS)を付加した各Cas遺伝子を含む発現カセット(図4a)をそれぞれ別々のベクターに搭載させ、標的配列が導入されたLUCレポーターベクターと共にHEK293T細胞にトランスフェクトし導入し、lucレポーターアッセイを行った。さらに、トランスフェクト細胞の抽出液(サイトソルおよび核)から各Cas-NLSタンパク質を各タグに対する抗体を用いて検出した(図4cおよび図4d)。その結果、興味深いことに、bpNLSは、Cas3d、Cas5d、Cas6d、Cas10dのN末端およびC末端の両方に付加することにより、N末端あるいはC末端に単独で付加するよりも効果的に機能した(図4b)。しかし、Cas7dに付加したbpNLSは、核内で強く発現したものの(図4d)、TiD活性を破壊した(図4b)。SV40NLSは各Casタンパク質のN末端への付加により効果的に機能した(図4a)。
【0114】
実施例3:動物細胞におけるTiD発現ベクターの最適化
TiD gRNA標的に対応する内在性ゲノムDNA領域を標的とするゲノム編集を行うため、まず、HEK293T細胞中におけるCasタンパク質の発現レベルを再評価した。いくつかの型のTiD Cas遺伝子発現ベクター[各Cas遺伝子について別々の発現ベクター、3遺伝子(Cas5-Cas6-Cas7)発現カセットおよび2遺伝子(Cas3-Cas10)発現カセットをそれぞれ含有する2セット型ベクター、および5遺伝子(全Cas)発現カセットを含有するオールインワン型ベクター]を構築した(図5a)。2セット型ベクター中のCas3およびCas10、またはCas5、Cas6およびCas7、およびオールインワン型ベクター中の全Cas遺伝子は、同時に発現する単一の転写産物を生じるように、2A自己切断型ペプチドを介して融合させた。各Cas遺伝子のN末端には異なるタグを有するSV40NLSを付加した。上記の各Cas発現ベクターおよび2セット型ベクターの種々の組み合わせ、またはオールインワン型ベクターをHEK293T細胞中にトランスフェクトして、細胞中での各Casタンパク質の発現を測定した。発現レベルは、Casに融合させた各タグに特異的な抗体を用いてウェスタンブロッティングによって検出した(図5b)。さらに、単一Cas発現ベクターにおいて、pEFベクター中の翻訳伸長因子1αプロモーター、およびpCAG中のチキンβアクチンプロモーターを用いた場合のCasタンパク質発現レベルを同様に検出した(図5c)。
【0115】
その結果、上記のベクターのうち、単一Cas遺伝子発現ベクターでのトランスフェクションが、ヒト細胞において最も高いCasタンパク質発現をもたらした。また、オールインワン型ベクターよりも、それぞれ1または2以上のCas遺伝子を含む2以上のCas発現ベクター(セパレート型ベクター)を用いた方が高いCasタンパク質発現をもたらすことが分かった。
【0116】
実施例4:動物細胞におけるCRISPR TiDにより誘導されるゲノム編集
TiDシステムにより長鎖領域欠失を誘導するか、ルシフェラーゼSSAアッセイを用いて調べた。標的として、ヒトEMX1遺伝子に関してhEMX1 GTT9(-)、およびAAVS遺伝子に関してAAVS GTC_70-107(+)を選択した。上記の標的配列をgRNA発現ベクター中に組み込み、各単一Cas発現ベクターと共に、HEK293T細胞中にトランスフェクトした。hEMX1およびAAVS標的部位付近の5-19kbの側面に位置する数種類のプライマーセットを用いて(表5)、TiDシステムを有するHEK293T細胞の全DNAから、DNAフラグメントをPCR増幅し(図6a、b)、クローン化し、サンガー法によって配列決定した。結果を図6a-cに示す。
【0117】
結果は、TiDが、両標的部位で5kbから19kbを超える長鎖領域欠失を導入したことを示した。興味深いことに、クローン化したPCR産物中の変異分布は標的によって異なった。すなわち、hEMX1 GTT_9(-)による変異は低モザイクを示したが、AAVS GTC_70-107(+)による変異はより変化した変異配列を示した(図6b、c)。AAVS GTC_70-107(+)範囲配列は、いくつかの特異的な特徴を共有した。すなわち、主要な長鎖領域欠失のサイズは、ランダムではなく、標的AAVS GTC_70-107(+)の場合、5.2-5.5kbおよび17kb欠失としていくつかの限定を示し、主として二方向性の欠失が検出された(図6c、図7a、b)。これらの特徴は、タイプI-E(非特許文献1)やタイプIIエフェクター(Cas9やCpf1)による変異後のものと異なっていた。また、マイクロホモロジーおよび挿入がTiD変異部位に観察された(図6a、図7a、b)。クローン化DNAフラグメントにおけるTiDによる長鎖領域欠失に関する変異率は、hEMX1 GTT_9(-)およびAAVS GTC_70-107(+)でそれぞれ、55.0%および57.1%であった。
【0118】
実施例5:植物におけるTiDによる標的変異導入
コドン最適化したCas遺伝子の発現のための植物細胞特異的プロモーターおよびcrRNAを含むTiDベクターを構築して、トマト植物中に部位特異的変異誘発を導入した。TiDベクターとして、5つのCas遺伝子を単一発現カセットに含むベクター(pTiDP1.2)、および5つのCas遺伝子を2つの発現カセットに分けて含むベクター(pMGTiDP20)を構築した(図8b)。TiDのgRNAは、トマトIAA9(SlIAA9)遺伝子(単為結実に重要)およびトマトRIN(SlRIN)遺伝子(果実成熟に関与)中の35塩基配列を標的化するように設計された。SlIAA9遺伝子について、lucレポーターアッセイを行ってGTT_gRNA5-A(-)およびGTC_gRNA1(+)を選択した(図8a)。GTC_gRNA1(+)のための単一のgRNA、およびGTT_gRNA5-A(-)およびGTT_gRNA5-B(+)のための複数のgRNA(表2)の両方を更なる分析に用いた。設計されたgRNAを含有するTiDベクターを、アグロバクテリウム媒介形質転換によってトマト栽培種Micro-TomまたはAilsa Craig中に形質転換した。トランスジェニックトマトのカルスにおけるTiDによって効率よく導入された変異を、Cel-1、PCR-RFLP、長鎖DNA領域PCR、およびシークエンシングによって分析した。
【0119】
pMGTiDP20ベクターを用いたトマト栽培種Micro-Tomのトランスジェニックトマトにおいて、長鎖領域欠失(図9図10a-c)が検出された。長鎖領域欠失の向きおよび変異率は、配列分析によって決定された(図9)。トランスジェニックカルスにおいて、SlIAA9 GTC_gRNA1(+)によって導入されたいくつかの型の長鎖欠失がPCRによって検出され、クローン化DNAの配列決定により、1つのカルス系統において、6.7%の変異率(1/15シークエンシングクローン)を有する混合PCR産物から二方向性の欠失(Δ2463nt)が同定された(#5、図9、上左パネルレーン5)。対照的に、SlAA9 GTT+GTT_gRNA5-(-)(+)およびSlRIN GTC_4003-4238(+)を用いて、それぞれ1/20および1/30トランスジェニックカルスにおいて特異的欠失バンドが検出された(図9、真ん中の左パネルレーン3および下の左パネルレーン6)。これらの特異的バンドをアガロースゲルから精製し、配列分析した結果、それぞれΔ4305ntおよびΔ4930ntの二方向性欠失を有するこれらのクローンにおいて同じ100%変異フラグメントが示された(図9)。また、SlRIN GTC_4003-4238(+)について再生トマトシュートにおける変異を分析し、トランスジェニックシュート12個体中、4つが、長領域PCRによって特異的バンドを示した(図10a)。興味深いことに、2種類の長領域欠失(Δ4930ntおよびΔ7257nt)を有する同様のバンドパターンが検出され(図10c)、これにより、2対立遺伝子変異が示された。
【0120】
pTiDP1.2ベクターを用いたトマト栽培種Micro-TomまたはAilsa Craigのトランスジェニックトマトにおいて、短鎖領域の挿入および/または欠失が検出された。これらのトランスジェニックシュートは、100%変異DNAを含有していた(図11)。これらの結果は、トマトカルスからの再生の間にトランスフェクトトマトシュートにおいて変異率が増加したことを示唆した。該シュート由来の標的DNAでのクローン化PCR産物の配列分析は、TiDが2対立遺伝子変異をもたらしたことを示した。2対立遺伝子変異は、また、市販のトマト栽培種Ailsa Craigを用いても生じた(図11図12)。成熟2対立遺伝子トマト植物は、明白な典型的なSlIAA9破壊表現型、すなわち、単為結実および葉形態における変化を示した。ホモ接合体変異体は、T0世代から有効に単離された(図11)。したがって、TiDによる変異植物のトランスジェニック世代における所望の表現型は、遺伝的に次世代に受け継がれることが分かった。
【0121】
次に、明らかなIAA9遺伝子ノックアウト表現型を示しているトマト植物Ailsa CraigのT0世代におけるオフターゲット変異を分析した。9~11個のミスマッチを有する3つの潜在的なオフターゲット部位を選択した(図13)。該オフターゲット部位付近のPCR産物を増幅し、次世代シークエンサー(MiSeq)を用いて配列決定した。標的配列上のいくつかの塩基位置に単一ミスマッチを有する種々のgRNAを用いてlucレポーターアッセイを行い、いくつかのミスマッチ位置でTiD活性が可能であったことを示されたが(図3a-d)、トマト植物のT0世代において、オフターゲット変異は皆無かそれに近かった(図13)。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明のTiDシステムの、種々の範囲の長い欠失を単一の標的部位に生じさせる能力は、単純かつ効果的な多重遺伝子機能スクリーニングを可能とする長領域染色体編集を可能にする。CRISPRツールボックスにおける新規なテクノロジーとして、TiDはゲノム編集における新たな可能性に通ずる。
【配列表フリーテキスト】
【0123】
SEQ ID NO:1; Microcystis aeruginosa Cas3d amino acid sequence
SEQ ID NO:2; Microcystis aeruginosa Cas5d amino acid sequence
SEQ ID NO:3; Microcystis aeruginosa Cas6d amino acid sequence
SEQ ID NO:4; Microcystis aeruginosa Cas7d amino acid sequence
SEQ ID NO:5; Microcystis aeruginosa Cas10d amino acid sequence
SEQ ID NO:6; Monopartite nuclear localizing signal (NLS) amino acid sequence
SEQ ID NO:7; Bipartite NLS amino acid sequence
SEQ ID NO:8; TiDcrRNA containing repeat (37b) and spacer (35b of N). N is any nucleotide constituting a sequence that forms base pairs with a target nucleotide sequence
SEQ ID NO:9; DNA fragment for pre-mature crRNA
SEQ ID NO:10; DNA fragment for mature crRNA
SEQ ID NO:47; Primer
SEQ ID NO:48; Primer
SEQ ID NO:49; Primer
SEQ ID NO:50; Primer
SEQ ID NO:51; Primer
SEQ ID NO:52; Primer
SEQ ID NO:53; Primer
SEQ ID NO:54; Primer
SEQ ID NO:55; Primer
SEQ ID NO:56; Primer
SEQ ID NO:57; Primer
SEQ ID NO:58; Primer
SEQ ID NO:59; Primer
SEQ ID NO:60; Primer
SEQ ID NO:61; Primer
SEQ ID NO:62; Primer
SEQ ID NO:63; Primer
SEQ ID NO:64; Primer
SEQ ID NO:65; Primer
SEQ ID NO:66; Primer
SEQ ID NO:67; Primer
SEQ ID NO:68; Primer
SEQ ID NO:69; Primer
SEQ ID NO:70; Primer
SEQ ID NO:71; Primer
SEQ ID NO:72; Primer
SEQ ID NO:73; Primer
SEQ ID NO:74; Primer
SEQ ID NO:75; Primer
SEQ ID NO:76; Primer
SEQ ID NO:77; Primer
SEQ ID NO:78; Primer
SEQ ID NO:79; Primer
SEQ ID NO:80; Primer
SEQ ID NO:81; Primer
SEQ ID NO:82; Primer
SEQ ID NO:83; Primer
SEQ ID NO:84; Primer
SEQ ID NO:85; Primer
SEQ ID NO:86; SlIAA9-tid gRNA on-target
SEQ ID NO:87; SlIAA9-tid gRNA off-target 1
SEQ ID NO:88; SlIAA9-tid gRNA off-target 2
SEQ ID NO:89; SlIAA9-tid gRNA off-target 3
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図4c
図4d
図5a
図5b
図5c
図6a
図6b
図6c
図7a
図7b
図8a
図8b
図9
図10a
図10b
図10c
図11
図12
図13
【配列表】
0007489112000001.app