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特許7489116分子エレクトロトランスファーを制御するための方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】分子エレクトロトランスファーを制御するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/32 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
A61N1/32
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021533688
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-08
(86)【国際出願番号】 AU2019051381
(87)【国際公開番号】W WO2020118383
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】2018904743
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】501401308
【氏名又は名称】ニューサウス イノヴェイションズ プロプライエタリィ リミティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】ハウズリー、ゲイリー デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ピニョン、ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ラヴェル、ナイジェル ハミルトン
(72)【発明者】
【氏名】エイベッド、アムル アル
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-523085(JP,A)
【文献】特表2018-518314(JP,A)
【文献】特表2002-535100(JP,A)
【文献】特表2005-518904(JP,A)
【文献】特開2002-291910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織に挿入されるように構成された2以上の物理的に近接する電極のアレイ電気パルスの印加のための1以上のアノード及び1以上のカソードとして、2以上の電極を選択的に駆動するように構成されたパルス発生器、及びパルス発生器を制御するように構成された制御器を含むシステムを用いて、標的細胞群への治療用分子のエレクトロトランスファー送達を制御する方法であって:
制御器が、アノード及びカソードとして駆動される電極の第1の選択を用いて、パルス発生器を、第1の一連の1以上の単極性パルスを印加するように制御し、アノード及びカソードとして駆動される電極の該第1の選択、並びに1以上の単極性電気パルスについてのパルスパラメータが、電極の第1の選択に適用されるときに、アレイに隣接する標的処置領域のための第1の整形電場を発生させるように決定されものであり及び
制御器が、アノード及びカソードとして駆動される電極の第2の選択を用いて、パルス発生器を、第2の一連の1以上の単極性パルスを印加するように制御し、アノード及びカソードとして駆動される電極の該第2の選択、並びに1以上の単極性電気パルスについてのパルスパラメータが、電極の第2の選択に適用されるときに、アレイに隣接する標的処置領域のための第2の整形電場を発生させるように決定されものであり、
ここで、電極の物理的構成、電極とアノード及びカソードの選択、及び適用される電気パルスパラメータは、アレイに隣接する標的処置領域の発生させる電場内の等電位線の勾配を制御する、こと
を含む、方法。
【請求項2】
電極の第1の選択が、1以上のアノード及び1以上のカソードの線形構成を含み、電極の第2の選択が、アノード及びカソードが切り替えられ、それによって極性が逆転する同一電極を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電極アレイが2次元アレイであり、電極の第1の選択が、1以上のアノード及び1以上のカソードの構成を含み、電極の第2の選択が、標的処置領域内の電場勾配の変化を発生させるために選択された、第1の選択とは異なる電極を含む電極の構成を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アノード及びカソードとして、1以上の電気パルスを用いて駆動する電極の1以上の更なる選択、及び選択のための更なる一連の1以上の各電気パルスが決定されここで、1以上の更なる各選択、選択された電極、及び更なる一連の1以上の電気パルスについての電気パルスパラメータ決定され電極の更なる選択に適用されるときに、アレイに隣接する標的処置領域のための更なる各整形電場を発生させ
該方法は更に、電極の1以上の更なる各選択について、制御器が、更なる一連の1以上の単極性パルスを印加して、更なる各整形電場を発生させるようにパルス発生器を制御し
ここで、更なる各選択は、標的処置領域内に、先行する電場の電場勾配に対して異なる制御された電場勾配を発生させる工程
を含、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
一連の電極及びパルスの選択が選択されて一連の電場を発生させ、後続の各電場は、先行する電場に対して増分角度で標的処置領域を通る電場勾配を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
制御器が、標的処置領域のために、第1の電極の選択、第2の電極の選択、およびさらに1以上の電極の選択の各々についてアノードおよびカソードとして駆動する電極の選択を決定し、第1の一連の、第2の一連の、及び更に一連の1以上の各単極性電気パルスについて電気パルスパラメータを決定するように構成されている、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
アノードとカソードとの間隔を増大又は減少させることを用いて、処置領域の半径を制御する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
さらに、第1の整形電場を発生させることと、第2の整形電場を発生させることとの間に待機期間を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
待機期間が10~600msの範囲である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
生体組織に挿入されるように構成された2以上の物理的に近接する電極のアレイ;
アレイの電極に電気的に接続され、1以上の電気パルスを印加するために、2以上の電極を1以上のアノード及び1以上のカソードとして選択的に駆動させ、アレイに隣接する生体組織中に電場を発生させるように構成されたパルス発生器であって、電場が、電極の物理的構成、電極及びアノードとカソードの選択、並びに適用された電気パルスパラメータに基づいて、電場内の等電位線の制御された勾配を提供するよう整形される発生器;並びに
パルス発生器を制御するように構成された制御器であって、第1の整形電場を提供するためにアノード及びカソードとして駆動される電極の第1の構成を用いて、第1の一連の1以上の単極性パルスを、及び第2の整形電場を提供するためにアノード及びカソードとして駆動される電極の第2の構成を用いて、第2の一連の1以上の単極性パルスを、印加するようにパルス発生器を制御するように構成される、制御器
を含む、エレクトロトランスファー送達システム。
【請求項11】
電極の第1の選択が、1以上のアノード及び1以上のカソードの線形構成を含み、電極の第2の選択が、アノード及びカソードが切り替えられ、それによって極性が逆転する同一電極を含む、請求項10に記載のエレクトロトランスファー送達システム。
【請求項12】
電極アレイが2次元アレイであり、電極の第1の選択が、1以上のアノード及び1以上のカソードの構成を含み、電極の第2の選択が、標的処置領域内の電場勾配の変化を発生させるために選択された、第1の選択とは異なる電極を含む電極の構成を含む、請求項10に記載のエレクトロトランスファー送達システム。
【請求項13】
アノード及びカソードとして、1以上の電気パルスを用いて駆動する、1以上の更なる電極が選択され、選択された電極について、1以上の電気パルスについての電気パルスパラメータが決定され、アレイに隣接する標的処置領域のための第2の整形電場を発生させる;並びに
電極の更なる各選択について、制御器が、パルス発生器を制御して、アノード及びカソードとして駆動される電極の更なる各選択を用いて、更なる一連の2以上の単極性パルスを印加して、更なる各整形電場を発生させ、
ここで、更なる各選択は、標的処置領域内に、先行する電場の電場勾配に対して異なる制御された電場勾配を発生させる、
請求項1012のいずれか1項に記載のエレクトロトランスファー送達システム。
【請求項14】
一連の電極及びパルスの選択が選択されて一連の電場を発生させ、後続の各電場は、先行する電場に対して増分角度で標的処置領域を通る電場勾配を有する、請求項13に記載のエレクトロトランスファー送達システム。
【請求項15】
アノードとカソードとの間隔を増大又は減少させることを用いて、処置領域の半径を制御する、請求項10~14のいずれか1項に記載のエレクトロトランスファー送達システム。
【請求項16】
制御器が、パルス発生器を制御して、第1の整形電場を発生させることと、第2の整形電場を発生させることとの間の待機期間後に、第2の整形電場を発生させる、請求項10~15のいずれか1項に記載のエレクトロトランスファー送達システム。
【請求項17】
待機期間が10~600msの範囲である、請求項16に記載のエレクトロトランスファー送達システム。
【請求項18】
待機期間が15~400msの範囲である、請求項17に記載のエレクトロトランスファー送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、ネイキッドプラスミドDNA又はRNA等の治療用分子の、組織内の標的細胞群へのエレクトロトランスファー送達(エレクトロポレーションとも称される)のためのシステムに関する。システムの用途の例は、近接する電極のアレイを用いるクロースフィールドエレクトロトランスファー(エレクトロポレーション)システムを用いる細胞へのDNAの送達用であり、電極は組織に挿入されるアレイ内に統合され、エレクトロポレーションの対象となる細胞は電極間に存在するのではなく、それに隣接している。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
エレクトロポレーションは、分子生物学で用いられる技術であり、細胞膜の透過性を増大させるために、細胞に電場を印加し、それによって、細胞に、化学物質、薬物、DNA、又はRNAを導入できるようにする。基礎になる原理は、2の電極間の高電圧パルスによって発生した電場が、高強度電場内の細胞の原形質膜の一時的な絶縁破壊を引き起こし、DNA又は他の分子が細胞に入るのを可能にするということである。
【0003】
従来のエレクトロポレーションは、物理的に分離された電極間の電場を用い、電極間の組織を通る直流経路をもたらす。本発明者らは、物理的に近接する電極の線形アレイに隣接する電場を利用することにより、オープンフィールドエレクトロポレーションを用いて同数の細胞のトランスフェクションを達成するために必要とされるよりも低い累積電荷を用いて、アレイの近傍の細胞のトランスフェクションを達成できることを発見した。標的細胞又は組織は、電極間の直流経路に配置される。近接する電極のアレイに隣接する標的領域内でトランスフェクションを促進するための技術の開発は、発明者の以前の特許出願、公開番号WO2011/006204号、WO2014/201511号及びWO2016/205895号に記載されており、これらの開示が本開示の背景を提供し、本発明者のクロースフィールドエレクトロポレーション技術のより良い理解のために参照され得る。本発明者らは、WO2016/205895号において、電場を発生させるために適用される電極アレイ構成及び一連のパルスに基づいて発生電場内の勾配を制御することによって、電子的に促進された細胞トランスフェクションが起こる領域が制御されるシステムを開示する。WO2016/205895号のシステムは、発明者による、領域内での、より急な電場勾配に供される組織の、細胞トランスフェクションの改善の発見の、実際的な応用を説明している。本発明は、この発見を、電極アレイの形状及び一連のパルスを構成してアレイを駆動し、電場の形状を制御して、標的領域を通る電場の等電位線を発生させることにより、アレイに隣接する細胞トランスフェクションの標的領域に適用する。電場形状を制御するための変数としては、物理的に近接する電極のアレイ構成及び刺激パルスのパラメータが挙げられる。制御された電場整形を用いることで、以前に知られているオープンフィールドエレクトロポレーションよりも低い累積電荷で細胞トランスフェクションの効率を向上させることができている。しかしながら、エレクトロトランスファー技術を更に改善したいという要望がある。
【発明の概要】
【0004】
発明の要旨
第1の態様によれば、生体組織に挿入されるように構成された2以上の物理的に近接する電極のアレイ及び電気パルスの印加のための1以上のアノード及び1以上のカソードとして、2以上の電極を選択的に駆動するように構成されたパルス発生器を含むシステムを用いて、標的細胞群への治療用分子のエレクトロトランスファー送達を制御する方法であって:
アノード及びカソードとして、1以上の電気パルスを用いて駆動する電極の第1の選択を決定し、選択された電極について、1以上の電気パルスについての電気パルスパラメータを決定して、アレイに隣接する標的処置領域のための第1の整形電場を発生させ、電極の物理的構成、電極及びアノードとカソードの選択、並びに適用される電気パルスパラメータは、アレイに隣接する標的処置領域の電場内の等電位線の勾配を制御すること;
アノード及びカソードとして、1以上の電気パルスを用いて駆動する電極の第2の選択を決定し、選択された電極について、1以上の電気パルスについての電気パルスパラメータを決定して、アレイに隣接する標的処置領域のための第2の整形電場を発生させること;
アノード及びカソードとして駆動される電極の第1の選択を用いて、パルス発生器を、第1の一連の1以上の単極性パルスを印加するように制御し、第1の整形電場を発生させること;並びに
アノード及びカソードとして駆動される電極の第2の選択を用いて、パルス発生器を、第2の一連の1以上の単極性パルスを印加するように制御し、第2の整形電場を提供すること
を含む、方法が提供される。
【0005】
別の態様によれば:
生体組織に挿入されるように構成された2以上の物理的に近接する電極のアレイ;
アレイの電極に電気的に接続され、1以上の電気パルスを印加するために、2以上の電極を1以上のアノード及び1以上のカソードとして選択的に駆動させ、アレイに隣接する生体組織中に電場を発生させるように構成されたパルス発生器であって、電場が、電極の物理的構成、電極及びアノードとカソードの選択、並びに適用された電気パルスパラメータに基づいて、電場内の等電位線の制御された勾配を提供するよう整形される発生器;並びに
パルス発生器を制御するように構成された制御器であって、第1の整形電場を提供するためにアノード及びカソードとして駆動される電極の第1の構成を用いて、第1の一連の1以上の単極性パルスを、及び第2の整形電場を提供するためにアノード及びカソードとして駆動される電極の第2の構成を用いて、第2の一連の1以上の単極性パルスを、印加するようにパルス発生器を制御するように構成される、制御器
を含む、エレクトロトランスファー送達システムが提供される。
【0006】
システムの実施形態においては、アノード及びカソードとして、1以上の電気パルスを用いて駆動する1以上の更なる電極が選択され、選択された電極について、1以上の電気パルスについての電気パルスパラメータが決定され、アレイに隣接する標的処置領域のための第2の整形電場を発生させること;並びに電極の更なる各選択について、制御器が、パルス発生器を制御して、アノード及びカソードとして駆動される電極の更なる各選択を用いて、更なる一連の2以上の単極性パルスを印加して、更なる各整形電場を発生させ、ここで、更なる各選択は、標的処置領域内に、先行する電場の電場勾配に対して異なる制御された電場勾配を発生させる。一連の電極及びパルスの選択が選択されて一連の電場を発生させ、後続の各電場は、先行する電場に対して増分角度で標的処置領域を通る電場勾配を有し得る。
【0007】
一実施形態においては、電極の第1の選択が、1以上のアノード及び1以上のカソードの線形構成を含み、電極の第2の選択が、アノード及びカソードが切り替えられ、それによって極性が逆転する同一電極を含む。
【0008】
一実施形態においては、電極アレイが2次元アレイであり、電極の第1の選択が、1以上のアノード及び1以上のカソードの構成を含み、電極の第2の選択が、標的処置領域内の電場勾配の変化を発生させるために選択された、第1の選択とは異なる電極を含む電極の構成を含む。
【0009】
本方法は、アノード及びカソードとして、1以上の電気パルスを用いて駆動する電極の1以上の更なる選択を決定し、選択された電極について、1以上の電気パルスについての電気パルスパラメータを決定し、アレイに隣接する標的処置領域のための第2の整形電場を発生させる;並びにパルス発生器を制御する電極の更なる各選択について、アノード及びカソードとして駆動される電極の更なる各選択を用いて、更なる一連の1以上の単極性パルスを印加して、更なる各整形電場を発生させ、ここで、更なる各選択は、標的処置領域内に、先行する電場の電場勾配に対して異なる制御された電場勾配を発生させる、工程を更に含み得る。一実施形態においては、一連の電極及びパルスの選択が選択されて一連の電場を発生させ、後続の各電場は、先行する電場に対して増分角度で標的処置領域を通る電場勾配を有する。
【0010】
いくつかの実施形態においては、アノードとカソードとの間の間隔を増大又は減少させることを用いて、処置領域の半径を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図面の簡単な説明
本発明のすべての態様を組み込んだ一実施形態を、これより、以下の添付の図面のみを参照して、例として説明する。
図1図1は、本発明の実施形態によるエレクトロトランスファーシステムの例示的なブロック図である。
図2図2は、細胞へのDNAの極性エレクトロトランスファーを説明する。
図3図3は、異なる一連のパルスを用いて駆動される同一の線形2電極アレイを用いる、HEK293細胞によるレポータープラスミドDNAの発現を説明する。
図4図4は、図3で説明した結果についての、一元配置分散分析、治療群当たりn=4、を示す。
図5図5a~5dは、縦列アレイ構成を用いる、マッピングされた電場及び細胞形質転換の結果を示す。
図6図6a~6cは、交互アレイ構成を用いる、マッピングされた電場及び細胞形質転換の結果を示す。
図7図7a~7bは、1+2アレイ構成を用いる、マッピングされた電場及び細胞形質転換の結果を示す。
図8図8a~8bは、1+5アレイ構成を用いる、マッピングされた電場及び細胞形質転換の結果を示す。
図9図9a~9bは、1+8アレイ構成を用いる、マッピングされた電場及び細胞形質転換の結果を示す。
図10図10は、アノードとカソードとの間のギャップを操作することの、いくつかの効果を説明する。
図11図11は、代替システム構成のブロック図である。
図12図12a~cは、線形8電極アレイを用いる単相性及び二相性エレクトロトランスファーの比較分析の第1の例を示す。
図13図13は、線形8電極アレイを用いる単相性及び二相性エレクトロトランスファーの比較分析の第2の例を示す。
図14図14は、交互二相性パルスでパルス間隔を拡張することが遺伝子発現を増強することを説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
電場勾配の向きの変化を利用して、細胞への、ネイキッドプラスミドDNA等の分子の送達を促進するエレクトロトランスファーシステムが開示される。システム100(図1のブロック図において説明される)は、生体組織に挿入されるように構成された2以上の物理的に近接する電極のアレイ110、パルス発生器120及び制御器130を含む。パルス発生器120は、アレイ110の電極に電気的に接続され、1以上の電気パルスを印加して、2以上の電極を1以上のアノード及び1以上のカソードとして選択的に駆動して、アレイに隣接する生体組織に電場を発生させるように構成される。電極の物理的構成、電極及びアノードとカソードの選択、並びに適用される電気パルスのパラメータは、電極アレイに隣接する組織において発生する電場内の形状及び等電位線の勾配を制御する。制御器130は、第1の整形電場を提供するためにアノード及びカソードとして駆動される電極の第1の構成を用いて、第1の一連の1以上の単極性パルスを、及び第2の整形電場を提供するためにアノード及びカソードとして駆動される電極の第2の構成を用いて、第2の一連の1以上の単極性パルスを、印加するようにパルス発生器120を制御するように構成される。該整形電場並びに異なる第1及び第2の電場勾配を用いて達成される効果は、細胞の表面積の量を増大させることであり、そこで、分子は電場勾配によって刺激されて細胞に接触し、エレクトロトランスファーにより細胞に進入し得る。分子でコーティングされた細胞膜の面積を増やすと、細胞が分子を取り込む(トランスフェクション)可能性が高くなる。各極性の1のパルスのみが用いられる場合、2の異なる極性パルスの間に待機期間があると、エレクトロトランスファー効率が向上する。一実施形態においては、待機期間は15ms以上、例えば15~400ms、或いは10~600msである。2(以上)の、一連の2以上の単極性パルスが用いられる場合にも、極性変化の間に待機期間が用いられ得る。
【0013】
アレイ110は、組織への一時的な挿入のために構成され得、例えば、アレイは、治療のために組織へ挿入するためにプローブに組み込まれ、次いで取り出され得る。アレイは、線形の電極アレイとして構成することができる。代替的に、近接する電極の2次元又は3次元アレイが用いられ得る。アレイは、アノード及びカソードとして駆動する一部の電極が、多数の電極から選択されること(従って、すべてが一度に駆動されるわけではない)が可能になるように構成され得、これにより、電極及び極性の選択に基づいてアノード及びカソードの構成を変えることを可能にできる。代替的に、アレイは、2の電極(又は単一の電極として作動するように連結一体化された複数の電極)として事前構成され、アノード又はカソードとして選択的に駆動され得る。いくつかの実施形態においては、アレイは移植され得、例えば、聴覚刺激モードに加えてエレクトロトランスファーモードにおける使用のために構成され得る人工内耳アレイ、又は脳深部刺激と互換性のある生体工学電極アレイは、分子エレクトロトランスファーのためのこの動的電場整形モダリティ(dynamic electric field shaping modality)により同様に開発され得る。他のタイプの移植可能なアレイは、複数の、経時的(例えば、数週間、数ヶ月、又は数年)なエレクトロトランスファーベースの治療の適用を可能にするために、長期間にわたっての標的領域への移植のために構成され得る。かかるすべての変形は、本開示の範囲内と見なされる。
【0014】
細胞へのDNAエレクトロトランスファーは極性化していることが知られている。ネイキッドDNAを細胞に送達するのに適した電場を発生させるのに十分な電圧が印加されると、このDNAは、細胞の、カソードに面する側に蓄積する(例、図2中で実例が示される細胞膜とのDNA複合体の電気媒介形成及び遺伝子送達に関するその結果)。図2に示す模式図は、片側からのみ標的細胞に進入する、細胞によるDNAの取り込みを説明する。エレクトロトランスファー効率を改善するためには、DNAによる細胞の被覆を改善することが望ましい。従って、エレクトロポレーションパルスの極性を交互に変更すると、細胞トランスフェクションの有効性を改善することが期待される―が、本発明者らの研究により、交互パルスを用いると実際にトランスフェクション効率が低下することが実証されている。
【0015】
図3の画像310、330、350は、異なる一連のパルスを用いて駆動される同一の2電極アレイを用いる、HEK293細胞によるレポータープラスミドDNAの発現を説明する。図3の画像は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター下でレポーターをコードするネイキッドプラスミドDNAをエレクトロトランスファーした後の、HEK293細胞単層におけるmCherry蛍光レポーター発現の例である(本発明者らによって開発されたプロトタイプ電流刺激装置(特許で保護された定電流刺激装置、又は定電圧刺激装置も使用できる)及び2の近接する細長い電極―1方はアノード(+ve)として駆動され、もう1方はカソード(-ve)として駆動される―の線形アレイを用いて単相性モードで送達されるパルス列における10×100μsパルス×10mA)。適用された一連の刺激は、10パルスすべてが同一極性を持つ単相性モード320及び、5パルスが同一極性で第2の一式の5パルスが反対の極性のものである二相性モード340で適用された(二相性)。第三のパルス列構成は、正と負の交互のパルス(交互二相性)360を有した。パルス間間隔は400μsであった。DNA及びエレクトロトランスファーアレイをカバースリップ上の細胞上に配置した。パルスを送達し、次いで、カバースリップを、イメージングの前に48時間培養に戻した。この例は、二相性モード340でDNAエレクトロトランスファー効率330に有意な改善があったことを示した。図4は、一元配置分散分析、治療群当たりn=4を示す。
【0016】
図3の画像は、線形アレイエレクトロポレーションプローブを用い、クロースフィールドエレクトロトランスファーによるDNA細胞トランスフェクションの領域を示す。エレクトロポレーションは、線形電極アレイに隣接する領域で起こる。ほとんどの細胞がトランスフェクトされる領域は、線形アレイによって発生した電場が集束される領域である。310の図は、一連の単極エレクトロポレーションパルス320(単相性の一連のパルスと称される)の適用に応答してトランスフェクトされた細胞を示し、対照的に、350は、交互極性エレクトロポレーションパルス(交互二相性)を用いて駆動される同一の電極アレイを用いてトランスフェクトされた細胞を示す。驚くべきことに、この電荷平衡交互二相性モードは、単相性の結果310と比較して、DNAエレクトロトランスファー及びレポーター遺伝子発現において顕著な減少をもたらした。負電極に面する細胞の側に駆動されるDNAの効果から、交互のパルスが細胞の両側に対してDNAを駆動する効果を有し、DNAに曝露される細胞面積の増大によってトランスフェクション効率を改善することが期待される。驚くべきことに、交互の極性を用いると非常に残念な結果が得られる。
【0017】
一連のいくつかの単極性パルス、次いで反対の極性の更なる一連のいくつかの単極性パルスを用いてエレクトロトランスファーを行うと(二相性と称される)、図3の330に示される通り、トランスフェクション効率が大幅に向上する。これらの結果により、トランスフェクション効率が、DNAを細胞に向かって長時間駆動し、エレクトロトランスファーのために細胞膜との接触(接着)を維持することによって改善されることが示される。これは、図3及び4に示される通り、交互二相性の結果350と比較した単相性の結果310によって証明される。二相性の結果の有効性における更なる改善により、DNAを一方向に細胞に向かって駆動する長期間のエレクトロトランスファーの後に、反対の極性に変化させ、DNAを反対方向から細胞に向かって駆動させ、反対側をコーティングすると、トランスフェクション効率が更に向上するという証拠が提供される。
【0018】
本開示は、本発明者らが「切り替えモードエレクトロトランスファー」と呼んでいる技術を用いて、細胞へのDNAの送達の効率を改善するための方法を記述する。これは、近接する電極のアレイを用いて、アレイに隣接する制御された電場勾配を有する電場を発生させるエレクトロトランスファーの様式である。切り替えモードの操作は、第1の一連の単極性パルスを用いて、標的領域を通る、電場勾配が制御された第1の整形電場を発生させ、第2の一連の単極性パルスを用いて、第2の整形電場を発生させ、処置領域を通る電場勾配の方向を変更する。この電場勾配の変化により、分子(DNA)が異なる方向から細胞に向かって駆動され、それによって細胞の異なる領域がコーティングされる。本システムの実施形態は、いくつかの単極性パルスを用いて、トランスフェクションを可能にするためにDNA分子と細胞との間の実用的接触を確立するのに十分な期間、各整形電場を発生させ及び維持する。細胞によるDNA分子の完全なトランスフェクション又は取り込みは、一連の単極性パルスの印加中には発生しない可能性があることに注意するべきである。実用的接触の確立は、駆動するためのエレクトロトランスファー電場が停止又は方向を変えているにもかかわらず、取り込みが進行することを可能にする、細胞によるDNAの取り込みの任意の段階を包含すると理解されるべきである。これには、エンドサイトーシス等の過程による細胞原形質膜に結合したDNA(又はRNA)の取り込みが含まれ得る。
【0019】
図3において、発明者らは、遺伝子エレクトロトランスファーアレイの電極の極性がパルス列中に切り替えられる場合に、電極の連続アレイ(この例では線形アレイ)を用いる、単層モデルにおけるHEK293細胞によるレポータープラスミドDNAの発現の増強を示す概念実証データを提供した。DNA(又はRNA)のエレクトロトランスファー効率の改善を提供するのは、この切り替えの特性である。本発明者らは、特定の要件に従ってパルスの極性を切り替えることにより、DNAのエレクトロトランスファー効率における予期せぬ改善を達成できることを示した。この方法及びシステムの一実施形態においては、一連のエレクトロトランスファーパルスは、一方の極性の一連のパルスと、それに続く反対の極性の一連のパルスを含んでいた。本発明者らは、電極の正極性及び負極性間を交互に替える潜在的に明白で有利な戦略(通常、電荷回復戦略として連続電気刺激用に用いられる)が実際には逆効果であり、DNAエレクトロトランスファーの効率を低下させることを示した。従って、一連の単極電流伝達パルスとそれに続く反対極性パルスを用いる、DNAトランスファーの連続的な構築による予期せぬ効率の向上は、このシステムの重要なトランスフェクション効率の利点を提供する。
【0020】
出願人の以前の出願公開である国際公開WO2016/205895号は、電場勾配を制御し、ひいては、トランスフェクションが起こる領域を制御するためのシステムを開示する。本明細書に開示されるこの技術の現在の進展は、電場を整形するこの能力を利用して、電場勾配の方向を変えることによって、細胞の相当の領域にわたる、細胞のエレクトロトランスファーコーティングを制御する。これにより、本質的に、分子を異なる方向から細胞に向かって駆動することにより、エレクトロトランスファーのためのDNA分子による、細胞の制御された「塗装」が可能になる。更に、いくつかの単極性パルスを用いることにより、電場勾配の方向を変え、潜在的にDNA分子を細胞の表面から遠ざける前に、DNA分子と細胞の間に実用的接触が形成され得る。
【0021】
本発明のエレクトロトランスファー技術は、電極アレイに隣接する細胞を標的とし、ここで、電場は、電流源(アノード)及び電流戻り側(カソード)の組み合わせによってアレイの周りに整形され、整形電場内の勾配は、細胞のトランスフェクションが起こる領域を制御する。電場勾配の方向を変えることにより、治療DNA分子による細胞の被覆率を増大させ、その後、トランスフェクション効率が向上され得る。マップされた電場の例を図5~9に示す。これは、アレイ構成の変更及びそれによって発生した電場に基づく処置領域の変化を説明する。図5b、6a、7a、8a、及び9aは、マップされた、8電極のアレイについての異なるアノード及びカソード構成から生じる電場電位の例を示し、図5c、5d、6b、6c、7b、8b、及び9bは、各アレイ構成についてのエレクトロポレーション後に、結果として生じる細胞形質転換の分布を示す。アレイ内の8電極は、次の組み合わせでアノード及びカソードとして構成された:
縦列-並置された4のカソード、次いで並置された4のアノード、すべてのエレメントは300μmの間隔、全長5mm(図5b~dに説明されている);
交互-300μmの間隔内でカソード及びアノードを交互に配置、全長5mm(図6a-cに説明されている);
1+2-300μmの間隔内の単一のアノード及び単一のカソード(図7a~bに説明されている);
1+5-間隔が2.45mmの単一アノード及び単一カソード(図8a~bに説明されている);そして
1+8-間隔4.55mmの単一アノード及び単一カソード(図9a~bに説明されている)。
【0022】
図5b、6b、7b、8b、及び9bは、エレクトロポレーションを介した遺伝子送達に対するアレイ構成の影響を比較するために示す。すべてのアレイ構成は、一式のパラメータ:40V、10パルス、50msの持続時間、及び1パルス/秒を有する一連のパルスを用いて駆動される。すべてのアレイ構成で有意な細胞形質導入が示されたが、アレイ構成により、アノードとカソードの間の間隔、及びアノード及びカソードの数及びパターンに差異があり、形質転換効率に大きな影響があった。1+2アレイ駆動構成では、中心にアクティブ電極を備えた、直径約1mmの、細胞の球形のフィールドが得られた(図7b)。交互アレイ駆動構成は、図6b及び6cに示す通り、トランスフェクトされた細胞のフィールドに線形バイアスを発生させ、アレイの長さを延長した(約5mm;81.8±11.3GFP陽性細胞)。1+5及び1+8アレイ駆動構成では、平均数がより少ない形質転換細胞が生成され、それらは密度分布が低かった(図8b及び9b)。縦列構成のトランスフェクション効率は他のどの構成よりも大幅に高く(図5c及び5d)、パターンは4のアノード及び4のカソード間の合流点であるアレイの中点の辺りを中心とした球形であった。本発明者らによる試験により、効率的な細胞形質導入を達成するために必要な電荷送達が、アレイが、二極子(bipole)として連結一体化されるアノード及びカソード用に構成された場合(「縦列」構成)に最小であることを示した。
【0023】
図5b、6a、7a、8a及び9aは、比較のために、各アレイ構成に対してマッピングされた電場を示し、電場電位は、図5aに示される、アレイに印加された100msの4Vパルス300の終わりに測定された。図5aは、縦列アレイ構成を用いて最大4V(100msの持続時間)まで0.5V幅で記録された場電位のトレース310も示す。「縦列」構成では、「交互」構成で配線された同等の数の電極と比較して、大幅に高い変換効率が可能になった。この研究はまた、より小さな二極電極構成はより効率が低いことを示した(1+2、1+5、1+8)。「縦列」アレイ構成が細胞形質導入の予期しない効率を示す理由は、電場集束の形状に起因する(図5b)。縦列アレイ400は、アノードとカソードとの間の接合部410から辿ってゼロ位置で、最高の電場等電位線密度を示した(図5b)。対照的に、同等の数の電極を利用しているにもかかわらず、交互アレイ構成500は、アレイに沿って分布し、アレイの端510にピークを有する、より低い電場密度勾配を有していた(図6a)。「縦列」アレイのゼロポイントの辺りを中心とする細胞の球状GFP陽性フィールド(図5c及び5d;図5b中の電極4と5の間のポイント410に直交)を考えると、データは、エレクトロポレーション及びDNAの取り込みを促進するのは、電位における絶対的な幅変化ではなく、細胞をまたぐ電場勾配であることを示す。他のアレイ構成についての細胞分布は、測定された電場と同様の関連を示し、1+2>1+5>1+8でのGFP陽性細胞数の減少は、電極に対する電場の広がりと相関していた。
【0024】
アレイの周りの電場(及び特に電場内の勾配)は、形質転換された細胞の空間マッピングと密接に相関していた。従って、細胞の形質導入は、絶対電圧ではなく、細胞をまたぐ電位勾配に依存していた。これは、0.9%生理食塩水を用いる、縦列構成についての等電位線図で最も明白である。ここで、場中のゼロ領域は、電極4と5との間でアレイに直交して移動する(図5b)。場の等電位線はこの線の付近で最も急勾配であり、形質導入細胞マップに対応する球形に維持される。電位測定値の大きさは、縦列アレイの両端で最大になるが、より均一である。図7b、8b、及び9bのそれぞれ1+2、1+5、及び1+8アレイについての結果を比較することによって証明されるように、双極電極を分離する距離が増大するにつれて、場密度は減少した。
【0025】
上記の説明から、電極構成及びパルスパラメータの組み合わせを選択して、制御された電場勾配を有する整形電場が実現され得ることは明らかなはずである。これらの制御された電場を発生させるための重要な要素は、アレイ構成である。一実施形態には、例えば2次元グリッド(即ち、長方形、六角形、三角形等のグリッド構成)に配置され、電極の組み合わせを選択的に用いて様々な電極構成、及び選択された電極がアノード及びカソードとして駆動される場合の電場形状及び勾配における関連するバリエーションを効果的に提供できるように接続された、近接する電極のシートを含むアレイが想定される。例えば、一列の電極が、連結カソードとして機能する第1の一連の隣接電極及び連結アノードを機能する別の一式の隣接電極(縦列構成)で選択され、駆動され得る。次いで、最初の線に対してある角度で整列した更なる一式の電極が選択及び駆動され、電場勾配の方向が変更され得る。例えば、一式の異なる電極を選択すると、前の電場に対してある角度で電場勾配を有する、標的領域を通る電場の発生が惹起され得る。極性が単純に逆転している場合、電場は反対の電場勾配で同様の形状になる。異なる一式の電極を選択すると、相対的な電場勾配角度が変化し得る。異なる一式の電極を選択すると、電場の形状も変化し得る。任意の電極構成が、対象の電場の形状(複数可)に基づいて選択され得る。異なる一連の電極が、選択され、エレクトロトランスファーパルスを用いて駆動され、電場勾配、形状、及び極性を介して、荷電分子を細胞表面に送達するための処置領域が最も有利に標的にされ得る。
【0026】
いくつかの実施形態においては、線形の電極アレイに基づくこのトランスフェクション標的化能力が拡張され、パルスの極性及び電極アレイ内で電流を伝達する電極の組み合わせの両方がパルス列、又は複数のパルス列内で切り替えられ、集束電場が、組織内の標的細胞の周りで転換させられ得;細胞のすべての表面にDNAを効果的にペイントし;細胞への「渦エレクトロトランスファー」DNAペインティングを概念的に可能にする「切り替えモード」エレクトロトランスファー戦略が提供される。
【0027】
いくつかの実施形態においては、電極構成はまた、線形電極アレイに対するトランスフェクション領域の範囲を制御する。図5bを見ると、アレイの中央に隣接する電場勾配が最も急な電場勾配を有しており、図5c及び5dの結果は、この領域が最も多くの細胞がトランスフェクトされている場所であることを示す。場の形状は、線形に配置された細長いアノードとカソードの組み合わせに起因する(この構成では、各アノードとカソードは、線形に配置された、隣接する複数の電極を含む)。アノード及びカソードの細長い特性は、発生した電場形状、従ってトランスフェクション領域の制御に寄与する。細長いアノードとカソードの間のギャップの幅を変更すると、アレイに直交するトランスフェクション領域の範囲が変更される。ギャップを変更することにより、電場の形状、従ってトランスフェクション領域が拡大又は縮小され得る。示される例では、電極間のギャップを増大させると、電場及びトランスフェクション領域が拡大するが、ギャップを減少させると、場が制限される。この場の形状制御又はベクトル化は、この例で用いられるパルスパラメータの電極間の約5mmのギャップまで適用可能であることに注意する必要がある。このギャップの増大は、対応する電流レベルの増大と連動して実行可能であり得るが、より高い電流レベルによって惹起される潜在的な負の副作用のために、より広い領域の処置を可能にするためには、一式の更なる電極を用いることが好ましい場合がある。電場の放射状の広がりを制御することは、ベクトル化とも称される。図10は、アノードとカソードとの間のギャップを操作した場合の影響を示す。
【0028】
図10の画像1020から1050は、線形電極アレイのアノードとカソードとの間のギャップの操作によるトランスフェクション領域の拡大及び収縮を説明し、図10の例では、電極間の異なる間隔を伴う線形の2電極アレイを有する、1010に示されるタイプのプローブが用いられた。電場の操作の効果-右上の画像に示す通り、絶縁された足場上で2のプラチナイリジウム電極(2mm x 0.35mmの直径)間の間隔を減らすことによって達成され、電気パルス列は定電流、100μs x 10パルス、400μsパルス間隔、10mA+ve相)。データは、等張ポリサッカロース担体を用いて、ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞の単層に送達されたプラスミドDNA(緑色蛍光レポータータンパク質-GFP-サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター下)のエレクトロトランスファーの空間制御を示す。DNA及びエレクトロトランスファーアレイをカバースリップ上の細胞の上に配置した。パルスが送達され、次いで、カバースリップを、イメージング前に培養に48時間戻した。最高の電場強度は、2の電極間のゼロポイント付近である。最適な組換えDNA発現カセットの発現の分散及び細胞密度が得られるまで、電極が離れるにつれ、DNAエレクトロトランスファーに十分な電場が拡大する(1~4mmの電極間隔)。
【0029】
更なる実施形態においては、パルス極性の操作は、クロースフィールド電極アレイ内の電極間で切り替えることによって、電場の形状の動的な変更(例えば、電場を拡大又は縮小させること)と組み合わせられ得る。この切り替えは、一連のパルス列中、又はパルス列間で発生し得、その結果、場の極性とベクトル化の両方が標的細胞の周りで転換する。これは、DNAを細胞表面の膜に「ペイント」するのに役立つ。図10に示す通りに、電場のベクトル化を変更するための手段は、線形アレイに沿って、各長さ2mm、直径350μmの2の一次電極の間隔を変える効果によって確認され得る。
【0030】
システムの実施形態においては、アレイ、パルス発生器、及び制御器の個々の構成要素を用い得、又はこれらの機能は統合システムに統合され得る。制御器を含むシステム実施形態のブロック図が図11に示され、システム1500は、上記の通りの電極アレイ1510及び制御器1530を含む。このブロック図では、パルス発生器1520を含む制御器が示されているが、パルス発生器は、機器の別個の一部分であり得る。図示の実施形態はまた、上記の通りのアレイ構成の制御を可能にするための構成モジュール1540;プローブを介した治療剤の送達を制御するための剤送達モジュール1550;ユーザーインターフェース1560;治療パラメータ1580及び治療ログ1590等のデータを保存するためのメモリ1570等のオプションの特徴を含む。
【0031】
一実施形態においては、制御器は、システムの全機能を含み得るか、又はデータ接続を介して、専用のハードウェア構成要素を制御し得るコンピュータシステムを用いて実装される。制御器のハードウェア、ファームウェア、及びソフトウェアのあり得る任意の構成が、本発明の範囲内で想定されている。一実施形態においては、制御器機能は、専用ハードウェアデバイス、例えば、制御器機能を提供するように改変されたバージョンのパルス発生器、又は例えば、ハードウェアロジックASIC(特定用途向け集積回路)又はFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)を含む専用ハードウェアデバイス、制御器機能を実装するファームウェア及びソフトウェアを用いて実装され得る。専用システムの利点は、商用ソフトウェアプラットフォーム及びオペレーティングシステムからの独立性であり得、これは、規制当局の承認を取得し、システムの使用を意図した目的に制限するのに有利であり得る。しかしながら、この実施形態の不利な点は、システム開発及び継続的な維持費の増大、並びに技術分野における新しい技術又は開発を利用するための柔軟性の欠如であり得る。
【0032】
或いは、制御器機能は、パーソナルコンピュータ、サーバー又はタブレット等のコンピュータシステム上で実行可能なソフトウェアプログラムとして提供され得、独立したパルス発生器及び剤送達アクチュエータ等の他のオプションのハードウェアに制御命令を提供するように構成され得る。市販のコンピュータハードウェアを用いて実行可能なソフトウェアベースの制御器の実施形態においては、パルス発生器1520及び場合により構成モジュール1540及びエレクトロポレーション処置時剤送達モジュール1550を駆動するために用いるための、エレクトロポレーションのためのパラメータ1580(次いでメモリ1570に保存される)を入力するためのユーザーインターフェース1560を専門家に提供することが想定される。一実施形態においては、これは、標的処置領域パラメータ及び担体溶液パラメータを分析する;適切な電極アレイ構成(複数可)を決定する;並びに、適切な各アレイ構成について標的処置野を達成するために、上記の関係に基づいて計算された少なくとも1の一連のパルスを定義する、制御器を含み得る。剤送達が制御器によって制御可能である実施形態においては、制御器はまた、一連の処置パルスにおける剤送達作動を計算及び定義し得る。アレイ構成が制御器によって制御可能である実施形態においては、制御器はまた、構成モジュールによる実装のためにアレイ構成を定義する。アレイ構成が固定アレイ構成の選択に依存する実施形態においては、選択されたプローブアレイ構成が、専門家/外科医/臨床医によって制御器に入力され得るか、又は制御器が、プローブ選択推奨を出力し得る。アレイと一連のパルスの1超の組み合わせが治療要件を満たすのに適切であると判断される場合、あり得る組み合わせが、選択のために外科医/専門家/臨床医に出力され得る。
【0033】
制御器のいくつかの実施形態は、治療をモデル化するためのソフトウェアを提供し得る。いくつかの実施形態においては、モデリングに利用されるデータは、モデル化された治療野が患者データと併せて考慮されることを可能にするために、患者画像データ(即ち、MRI又はCTスキャン)を含み得る。例えば、モデリングを介して望ましい治療結果を安全に達成するための実行可能な又は最適な担体溶液パラメータを決定するため、或いは、利用可能な担体溶液オプションの数が限られている場合、各オプションの潜在的な結果をモデル化して、専門家/外科医/臨床医による意思決定を容易にするため、モデリングデータには、治療剤担体溶液についてのオプションも含まれ得る。
【0034】
治療の計画に関連して提供されるシステム機能は複雑であり得、高度なソフトウェアモデルを利用して、物理的治療装置を駆動するために必要なデータを決定し得ることを理解すべきである。しかし、治療を物理的に実行するために必要な実際のデータは非常に単純―定義されたアレイ構成(固定アレイの場合でさえある)、一連のタイミングパルス、及び場合により、選択した剤液についての剤送達を制御するためのシグナルであり得る。従って、制御器は、単に、物理的治療装置を駆動するためのシークエンスデータを出力し得る。
【0035】
パルス発生器1520の実施形態においては、電圧又は電流駆動モードの下で動作できる。一実施形態においては、パルス発生器は、制御器から独立した、その独自の電源を有する、単独で動作する独立したユニットである。パルス発生器は、制御器とデータ通信して、制御器が一連のパルスによりパルス発生器をプログラムすることを可能にし得る。或いは、一連のパルスは、制御器によって計算され、手動プログラミング又はデータ転送(例えば、直接接続、無線接続、又はポータブルソリッドステートメモリデバイス等の物理媒体を介して)によってパルス発生器にロードされ得、パルス発生器は、治療法送達のための制御器とは独立して動作する。パルス発生器を制御器から分離することは、一部のシステムについての安全要件であり得、特に、使い捨てのDNA(又はRNA)送達プローブを、すでに承認され、人間の臨床使用に利用できるパルス発生器を用いて操作できるようにする。一部の国では、これにより、市販の、規制当局が承認したパルス発生器の選択と組み合わせて使用するためのプローブの、独立した、規制当局の承認が可能になる場合がある。
【0036】
本システム及び方法の実施形態は、DNA治療薬の分野、ネイキッドプラスミドDNA及びRNA等の核酸、又は他の荷電分子のエレクトロトランスファーを含む分子治療の分野に好都合に適用され得る。実施形態は、製薬及びバイオテクノロジー産業において利用され得、DNAベースの治療に従事し、効率的な非ウイルスDNA送達プラットフォームを望むあらゆる産業に適用され得る。
【0037】
図12~14に、プロトタイプの試験結果の例を示す。
【実施例
【0038】
実施例1:1μg/μl濃度のmCherryレポータープラスミドのバイオニックアレイによる遺伝子エレクトロトランスファー(BaDGE)後の蛍光レポータータンパク質発現に対する電気パルス極性の影響-単相性パルス列と二相性パルス列との比較
【0039】
図12a~cは、片方の極性のみの単方向パルスの一連のパルス(図12a)及び、同数のパルスと振幅を持つが極性が変化した二相性の一連のパルス(図12b)を用いるエレクトロトランスファーの比較の実施例の結果を示す。図12中の試験結果は、HEK293細胞におけるmCherry発現に対する電極極性の切り替えの影響を示す。mCherry蛍光を、DNAエレクトロトランスファー用の8電極動物モデル人工内耳アレイを用い、共焦点顕微鏡を用いて、エレクトロトランスファーの4日後に画像化した。アレイは縦列構成で配線した(4の隣接するPt/lr電極帯をアノードとして連結し、次の4の電極をカソードとして連結した)。丸いカバースリップ(直径18mm)に、エレクトロトランスファーの約24時間前に播種し、その時点でHEK293細胞は約50%コンフルエントであった。エレクトロトランスファーは、9%スクロース、0.09%NaCl及び500uM NaOH中で、20μlのDNA(各CMVp-mCherry及びpFAR4-BDNF-NT3)が送達された後、遺伝子送達アレイを介して送達される10x40mA 100μsパルスを用いて行った。次いで、エレクトロトランスファートランスフェクトされたカバースリップを、5%ウシ胎児血清(FBS)を含有する4mlのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)細胞培養培地を含む30mmペトリ皿に入れた。単相性とは、固定極性の5パルスを指す。二相性とは、電極に片方の極性で5パルスを印加し、次いで極性を逆にして5パルスを印加することを指す。4日後、生細胞を画像化し、続いて培地の2 x 0.5mlアリコートをBDNF及びNT-3ELISAのために急速凍結した。図12aは、10パルス(各パルスは、同じ4の連結電極がアクティブで、反対側の4つがリターンである、)でトランスフェクトしたカバースリップの例を示す。図12bは、同じ4つの連結電極がアクティブで、反対側の4つをリターンとして、5パルス、続いて電極の極性を切り替えた後、5パルスでトランスフェクトしたカバースリップの例を示す。図12cは、各カバースリップからのデータがオーバーレイされた箱ひげ図を示す。境界は25%と75%のデータ境界を表し、バーは95%の分布境界を表す。実線の中心線は中央値であり、破線は平均値である。t検定による統計的比較。
【0040】
実施例2:4μg/μl濃度のmCherryレポータープラスミドのバイオニックアレイによる遺伝子エレクトロトランスファー(BaDGE)後の蛍光レポータータンパク質発現に対する電気パルス極性の影響-単相性パルス列と二相性パルス列との比較。
図13は、HEK293細胞における、核に局在するmCherryレポーターの発現に対する電極極性の切り替えの影響の例を示す。mCherry蛍光は、DNAエレクトロトランスファー用の8電極動物モデル人工内耳アレイを用いて、エレクトロトランスファーの4日後に共焦点顕微鏡により画像化した。バイオニックアレイは縦列構成で配線した(隣接するPt/Ir 4電極帯をアノードとして連結し、次の4電極をカソードとして連結した)。丸いカバースリップ(直径18mm)に、BaDGEの約24時間前にHEK293細胞を播種した。この時点で、HEK293細胞は約50%コンフルエントであった。BaDGEは、9%スクロース、0.09%NaCl及び500μM NaOHの担体溶液中で20ulのDNAをカバースリップにアプライ(4ug/ul CMVp-mCherry)した後(総プラスミドDNA濃度4μg/μl)、遺伝子送達アレイを介して送達される10 x 40mA 100μsパルスを用いて行った。次いで、エレクトロトランスファートランスフェクトしたカバースリップを、5%ウシ胎児血清(FBS)を含有する4mlのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)細胞培養培地を含む30mmペトリ皿に入れた。単相性とは、固定電極極性の全10パルスを指す。二相性とは、電極により片方の極性で5パルス印加し、次いで極性を逆にして5パルス印加することを指す。各カバースリップからのデータをオーバーレイした箱ひげ図。境界は25%及び5%のデータ境界を表し、バーは95%の分布境界を表す。実線の中心線は中央値であり、破線は平均である。マンホイットニー順位和検定による統計的比較。
【0041】
実施例3:極性が交互になるパルス間の間隔の影響-mCherryレポータープラスミドのバイオニックアレイによる遺伝子エレクトロトランスファー(BaDGE)後の駆動された蛍光レポータータンパク質発現。
【0042】
図14は、交互二相性パルスによりパルス間間隔を延長すると遺伝子発現が増強されることを示す結果のグラフを示す。この試験では、BaDGE電極の交互二相性極性を用いて(各パルス間で(+)から(-)に変化する;持続時間は10 x 4ms)、パルス間の間隔が16ms超えると、HEK293細胞のトランスフェクションが増大する(9%スクロース、0.09%NaCl及び500μM NaOHの担体溶液中の2μg/μl CMVp-mCherryレポータープラスミド(18mmカバースリップ上のHEK293細胞に適用された総体積プラスミドDNA20μl))。各条件でn=5;カバースリップ全体の合計ピクセル強度は、共焦点イメージングによるmCherry由来の蛍光(核局在)の積分を表す。Tukey検定多重対比較を伴う、順位のKruskal-Wallis一元配置分散分析。
【0043】
本発明の精神及び範囲から逸脱することなく多くの修正を行い得ることは、本発明の当業者には理解される。
【0044】
以下の特許請求の範囲及び前述の本発明の説明においては、明示的な文言又は必要な意味合いのために、文脈で別の方法が必要となる場合を除いて、「含む(comprise)」という単語又は「含む(comprises)」又は「含む(comprising)」等の変形は、包括的意味、即ち、記載された特徴の存在を特定するが、本発明の様々な実施形態における更なる特徴の存在又は追加を排除するものではない、で用いられる。
【0045】
本明細書において先行技術の刊行物が参照される場合、かかる参照は、その刊行物がオーストラリア又は他の国における当技術分野の一般的な知識の一部を形成することへの了解を構成するものではないことが理解されるべきである。
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