(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】D-プシコース3-エピメラーゼ産生菌株及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20240516BHJP
C12N 15/61 20060101ALI20240516BHJP
C12N 15/75 20060101ALI20240516BHJP
C12N 9/90 20060101ALI20240516BHJP
C12P 19/02 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/61
C12N15/75 Z
C12N9/90
C12P19/02
(21)【出願番号】P 2022569120
(86)(22)【出願日】2022-05-12
(86)【国際出願番号】 CN2022092360
(87)【国際公開番号】W WO2023097975
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】202111457416.2
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514262886
【氏名又は名称】江南大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 1800 Lihu Avenue, Bin Hu District, Wuxi, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】張涛
(72)【発明者】
【氏名】胡夢瑩
(72)【発明者】
【氏名】江波
(72)【発明者】
【氏名】李夢麗
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-535801(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0032237(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106222190(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104894047(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110904088(CN,A)
【文献】中国特許第110862979(CN,B)
【文献】特表2016-528925(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113025605(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113249287(CN,A)
【文献】国際公開第2019/144944(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第112695006(CN,A)
【文献】特開2013-066446(JP,A)
【文献】Appl. Environ. Microbiol.,2005年,Vol.71, No.7,pp.4101-4103
【文献】Biosci. Biotechnol. Biochem.,2018年,Vol.82, No.11,pp.1942-1954
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/21
C12N 15/
C12N 9/
C12P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え枯草菌であって、目的遺伝子D-プシコース3-エピメラーゼを担持した発現ベクターをアラニンラセマーゼ遺伝子ノックアウト枯草菌に導入して得られるものであり、前記発現ベクターは、
D-プシコース3-エピメラーゼ遺伝子を担持したpP43NMKプラスミド上のP43プロモーターが、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhagプロモーターに置換されているとともに、hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位がggggaggagに同時に変異しており、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.19のアラニンラセマーゼ遺伝子dalにより、pP43NMKプラスミド上の耐性遺伝子カナマイシンKanが代替されたもの、又は、
D-プシコース3-エピメラーゼ遺伝子を担持したpUB110プラスミド上のP43プロモーターが、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhagプロモーターに置換されているとともに、hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位がggggaggagに同時に変異しており、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.19のアラニンラセマーゼ遺伝子dalにより、pUB110プラスミド上の耐性遺伝子カナマイシンKan及びブレオマイシンBlmが代替されたものであることを特徴とする、組換え枯草菌。
【請求項2】
アラニンラセマーゼ遺伝子ノックアウト枯草菌1A751を発現宿主とすることを特徴とする、請求項1に記載の組換え枯草菌。
【請求項3】
アラニンラセマーゼ遺伝子ノックアウト枯草菌WB600を発現宿主とすることを特徴とする、請求項1に記載の組換え枯草菌。
【請求項4】
アラニンラセマーゼ遺伝子ノックアウト枯草菌WB800を発現宿主とすることを特徴とする、請求項1に記載の組換え枯草菌。
【請求項5】
枯草菌WB800又は枯草菌1A751を発現宿主として、D-プシコース3-エピメラーゼを発現させており、
D-プシコース3-エピメラーゼの発現ベクターは、
pP43NMKプラスミド上のP43プロモーターが、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhagプロモーターに置換されているとともに、hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位がggggaggagに同時に変異したものであることを特徴とする、組換え枯草菌。
【請求項6】
pP43NMKプラスミド上のP43プロモーターが、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhagプロモーターに置換されているとともに、hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位が同時に変異したものであり、
hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位が、gaggaggaa、ggggaggag、agggaggag、agggagggg、aaggaggag、又はaaggaggggに同時に変異していることを特徴とする
、発現ベクター。
【請求項7】
pP43NMKプラスミド上のP43プロモーターが、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhagプロモーターに置換されているとともに、hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位が、ggggaggagに同時に突然変異しており、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.19のアラニンラセマーゼ遺伝子dalにより、pP43NMKプラスミド上の耐性遺伝子カナマイシンKanが代替されたものであり、又は、
pUB110プラスミド上のP43プロモーターが、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhagプロモーターに置換されているとともに、hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位が、ggggaggagに同時に突然変異しており、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.19のアラニンラセマーゼ遺伝子dalにより、pUB110プラスミド上の耐性遺伝子カナマイシンKan及びブレオマイシンBlmが代替されたものであることを特徴とする無耐性発現ベクター。
【請求項8】
請求項6
又は7に記載の発現ベクターを含有する、組換え細胞。
【請求項9】
枯草菌WB800又は枯草菌1A751を発現宿主とすることを特徴とする、請求項
8に記載の組換え細胞。
【請求項10】
D-プシコース3-エピメラーゼを担持した請求項1~5のいずれか1項に記載の組換え枯草菌から菌体を得て、菌体からD-プシコース3-エピメラーゼを単離することを特徴とする、D-プシコース3-エピメラーゼ産生方法。
【請求項11】
D-プシコース3-エピメラーゼを担持した請求項1~5のいずれか1項に記載の組換え枯草菌をフルクトース含有反応系に添加して反応させ、反応液を得て、反応液からD-プシコースを単離することを特徴とする、D-プシコースの生産方法。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組換え枯草菌の、D-プシコース又はD-プシコースを含有する製品の製造における、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はD-プシコース3-エピメラーゼ産生菌株及びその使用に関し、生物工学の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
D-プシコース(D-allulose)はD-フルクトースのC-3位のエピマーであり、低カロリー甘味料として使用でき、メイラード反応により心地よい味(美味しさ)を生成でき、食品のゲル性を改善することができ、血糖と血中脂質レベルの低下、脂肪蓄積の減少、活性酸素(ROS)の除去などの生物調節機能を有する。
【0003】
2014年には、米国食品医薬品局の法規制により、D-プシコースが一般安全とされ、食品や栄養補助食品、医薬品製剤への添加が認められていた。そのため、D-プシコースは医薬、食品などの分野で広く応用可能な将来性がある。
【0004】
D-プシコースは、自然界に存在する量が極めて少なく、直接抽出することは現実的ではない希少糖である。また、化学合成は副生成物を生成し、分離が困難になり、生産コストを大幅に高め、しかも複雑な反応過程は過度の汚染をもたらす。そのため、現在、D-プシコースの生産には、主に生物転化法が用いられている。自然抽出法や化学合成法に比べ、生物転化法は反応条件が温和で、特異性が高く、環境に優しいなどの利点がある。生物転化法では、D-フルクトースをD-プシコースに変換することができるD-プシコース3-エピメラーゼが重要な役割を果たす。
【0005】
枯草菌は食品級微生物(GRAS)であり、工業生産に適している。また、それは遺伝背景が明確で、遺伝操作が簡単で成熟しており、規模が拡大しやすく培養しやすいなどの利点があり、D-プシコース3-エピメラーゼを発酵合成するために好適なプラットフォームである。
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1目的は目的タンパク質の発現量を向上する発現ベクターであって、pP43NMKプラスミド上のP43プロモーターをhag、ylbP、hagP43、ylbPylbP、haghagのいずれか1つのプロモーターに置換して得られたものであり、
前記プロモーターhag、ylbP、hagP43、ylbPylbP、haghagのヌクレオチド配列がそれぞれ、SEQ ID NO.2、SEQ ID NO.3、SEQ ID NO.4、SEQ ID NO.5、SEQ ID NO.6で示される、発現ベクターを提供することである。
【0007】
本発明の一実施形態では、前記目的タンパク質はD-プシコース3-エピメラーゼ又はリン酸化グリコシルエピメラーゼであり、前記D-プシコース3-エピメラーゼのアミノ酸配列はSEQ ID NO.20又はSEQ ID NO.21で示され、前記リン酸化グリコシルエピメラーゼのアミノ酸配列はSEQ ID NO.22又はSEQ ID NO.23で示される。
【0008】
本発明の一実施形態では、前記D-プシコース3-エピメラーゼをコードするヌクレオチド配列はSEQ ID NO.1で示される。
【0009】
本発明の第2目的は、pP43NMKプラスミド上のP43プロモーターが、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhagプロモーターに置換されているとともに、hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位が同時に変異している、発現ベクターを提供することである。
【0010】
本発明の一実施形態では、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhag配列上の塩基の第129位~137位のagggaggaa配列が、gaggaggaa(R2と命名する)、ggggaggag(R4と命名する)、agggaggag(R11と命名する)、agggagggg(R13と命名する)、aaggaggag(R14と命名する)、又はaaggagggg(R15と命名する)に変異している。
【0011】
本発明の第3目的は、
pP43NMKプラスミド上のP43プロモーターが、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhagプロモーターに置換されているとともに、hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位が、ggggaggagに同時に変異しており、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.19のアラニンラセマーゼ遺伝子dalにより、pP43NMKプラスミド上の耐性遺伝子カナマイシンKanが代替された、又は、pUB110プラスミド上のP43プロモーターが、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhagプロモーターに置換されているとともに、hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位が、ggggaggagに同時に変異しており、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.19のアラニンラセマーゼ遺伝子dalにより、pUB110プラスミド上の耐性遺伝子カナマイシンKan及びブレオマイシンBlmが代替されたものである無耐性発現ベクターを提供することである。
【0012】
本発明の一実施形態では、前記発現ベクターが、アラニンラセマーゼ遺伝子dalにより、耐性遺伝子カナマイシンKan及びブレオマイシンBlmを代替して、スクリーニングマーカーであるコピー可能プラスミドpUB-hag-RBS4-dpe-dalにし、アラニンラセマーゼ遺伝子dalにより、耐性遺伝子カナマイシンKanを代替して、スクリーニングマーカーであるコピー可能プラスミドpP43NMK-hag-RBS4-dpe-dalにする。
【0013】
本発明の一実施形態では、アラニンラセマーゼ遺伝子dalのヌクレオチド配列はSEQ ID NO.19で示される。
【0014】
本発明の第3目的は、上記発現ベクターを含む組換え細胞を提供することである。
【0015】
本発明の一実施形態では、前記組換え細胞は細菌又は真菌を発現宿主とする。
【0016】
本発明の一実施形態では、前記組換え細胞は枯草菌WB800又は枯草菌1A751を発現宿主とする。
【0017】
本発明の第4目的は上記ベクターを発現ベクター、枯草菌WB800又は枯草菌1A751を発現宿主として、D-プシコース3-エピメラーゼを発現させる組換え枯草菌を提供することである。
【0018】
本発明の一実施形態では、前記D-プシコース3-エピメラーゼ遺伝子をコードするヌクレオチド配列はSEQ ID NO.1で示される。
【0019】
本発明の第5目的は、組換え枯草菌であって、目的遺伝子を担持した発現ベクターをアラニンラセマーゼ遺伝子ノックアウト枯草菌に導入して得るものであり、前記発現ベクターは、
pP43NMKプラスミド上のP43プロモーターが、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhagプロモーターに置換されているとともに、hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位が、ggggaggagに同時に変異している、又は
pP43NMKプラスミド上のP43プロモーターが、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhagプロモーターに置換されているとともに、hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位が、ggggaggagに同時に変異しており、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.19のアラニンラセマーゼ遺伝子dalにより、pP43NMKプラスミド上の耐性遺伝子カナマイシンKanが代替された、又は、
pUB110プラスミド上のP43プロモーターが、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.2で示されるhagプロモーターに置換されているとともに、hagプロモーター配列上の塩基の第129位~137位が、ggggaggagに同時に変異しており、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.19のアラニンラセマーゼ遺伝子dalにより、pUB110プラスミド上の耐性遺伝子カナマイシンKan及びブレオマイシンBlmが代替されたものである、組換え枯草菌を提供することである。
【0020】
本発明の一実施形態では、前記組換え枯草菌はアラニンラセマーゼ遺伝子ノックアウト枯草菌1A751、枯草菌WB600又は枯草菌WB800を発現宿主とする。
【0021】
本発明の一実施形態では、前記発現宿主は枯草菌1A751であり、前記アラニンラセマーゼ遺伝子ノックアウト枯草菌は枯草菌1A751Δdalである。
【0022】
本発明の一実施形態では、本発明に使用される枯草菌1A751Δdal、すなわち枯草菌1A751染色体上のD-アラニンラセマーゼ遺伝子dalをノックアウトしたものは、従来、発明者ら(ラボ前期)で構築されたものである(構築方法は特許:江波、沐万孟、何偉偉、張涛.Cre/lox系統に基づく無耐性遺伝子染色体に組み込むD-プシコース3-エピメラーゼ発現組換え枯草菌の構築方法[P]、及び開示番号CN104946577Aの中国発明特許の出願文献を参照)。
【0023】
本発明の第6目的は、上記発現ベクターを用いて発現させるD-プシコース3-エピメラーゼ発現量の向上方法を提供することである。
【0024】
本発明の第7目的は、D-プシコース3-エピメラーゼを担持した組換え枯草菌から菌体を得て、菌体からD-プシコース3-エピメラーゼを単離するD-プシコース3-エピメラーゼ産生方法を提供することである。
【0025】
本発明の第8目的は、上記製造した組換えD-プシコース3-エピメラーゼを、フルクトース含有反応系に添加して反応させ、反応液を得て、反応液からD-プシコースを単離する、D-プシコースの生産方法を提供することである。
【0026】
本発明の一実施形態では、前記組換え細胞又は組換え枯草菌の発酵液において、組換えD-プシコース3-エピメラーゼの酵素活性が、少なくとも15.67U/mLである。
【0027】
本発明の第9目的は、上記D-プシコース3-エピメラーゼを担持した組換え枯草菌の、D-プシコース又はD-プシコースを含有する製品の製造における使用を提供することである。
【0028】
本発明の一実施形態では、前記製品は食品、医薬品又は化粧品である。
【発明の効果】
【0029】
有利な効果
(1)本発明は、プロモータースクリーニング及びそのRBS最適化によるD-プシコース3-エピメラーゼ発現量の向上方法を提供する。本発明によるベクターpP43NMK-hag及びpP43NMK-hag-RBS4で構築された組換え枯草菌は、目的遺伝子D-プシコース3-エピメラーゼの酵素活性を向上させ、改変後の酵素活性はそれぞれ元のpP43NMK-P43/B. Subtilis WB800の1.30倍及び1.69倍、pP43NMK-HpaII/B. Subtilis WB800の1.77倍及び2.29倍である。
(2)本発明は、一般な宿主菌よりも安全でD-プシコースの工業的生産に適している食品等級のDプシコース3-エピメラーゼを発現させた組換え枯草菌を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】各プロモーター組換え菌の振とうフラスコにおける酵素活性及びOD
600値である。
【
図2】RBS変異菌株の振とうフラスコにおける酵素活性及びOD
600値である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下の実施例に係るpP43NMKプラスミドは、武漢▲みゃお▼霊生物社(Wuhan miaolingbio bioscience & technology co.,ltd)より購入したものであり、下記の実施例に係る大腸菌(Escherichia coli)DH5αは、通用生物技術有限公司(Generalbiol)より購入したものであり、下記の実施例に係る枯草菌WB800は、NTCC典型培養物寄託センターより購入したものである。
【0032】
下記の実施例に係る枯草菌1A751Δdal、即ち枯草菌1A751の染色体上のD-アラニンラセマーゼ遺伝子dalをノックアウトしたものの構築方法は特許:江波、沐万孟、何偉偉、張涛.Cre/lox系統に基づく無耐性遺伝子染色体に組み込むD-プシコース3-エピメラーゼ発現組換え枯草菌の構築方法[P]、及び開示番号CN104946577Aの中国発明特許の出願文献を参照する。
【0033】
下記実施例に係るD-プシコース3-エピメラーゼについては、本発明では、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.1で示されるD-プシコース3-エピメラーゼを例として本発明の技術的効果を説明するが、本発明の実施例はこれらに制限されるものではなく、なお、本発明のアミノ酸配列がSEQ ID NO.20又はSEQ ID NO.21で示されるD-プシコース3-エピメラーゼ、又はコドン最適化若しくは突然変異改変を受けた配列も本発明の技術的効果を奏しうる。
【0034】
下記実施例に係る培地は以下のとおりである。
LB液体培地:トリプシン10g/L、酵母抽出物5g/L、塩化ナトリウム10g/L、pH自然。
LB固体培地:トリプシン10g/L、酵母抽出物5g/L、塩化ナトリウム10g/L、寒天粉15g/L。
発酵培地:ブドウ糖15g/L、酵母抽出物20g/L、塩化ナトリウム8g/L、リン酸水素二ナトリウム・十ニ水和物1g/L、硫酸マグネシウム7水和物1g/L、pH7.0。
【0035】
下記実施例に係る検出方法は以下のとおりである。
D-プシコース3-エピメラーゼ酵素活性の測定方法:反応系1mLにリン酸塩緩衝液(50 mM、pH7.0)で溶解した100g/LのD-フルクトース800μL、発酵液200μLを加え、55℃で10min保温した後、10min沸騰させて酵素反応を停止する。
HPLCによってD-プシコースの生成量を検出し、酵素活性を算出する。酵素活性単位の定義(U):1分あたり1μmolのD-プシコースを触媒により産生するのに必要な酵素量は1酵素活性単位とする。
酵素活性(U/mL)=反応系中に産生されたプシコース量(mg/mL)*1mL*1000/180/10/0.2。
【0036】
実施例1:各プロモーターを含有する組換え枯草菌の構築
具体的な操作ステップ:
(1)D-プシコース3-エピメラーゼ遺伝子の取得:人工合成ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.1で示される。
(2)各プロモーター遺伝子の取得:使用されるプロモーターはhag、ylbP、hagP43、ylbPylbP、haghag、amyE、aprE、gsiB、HpaII、nprE、sigX、P43hag、ylbPhag、hagylbP、ylbPP43、P43ylbP、P43P43であり、そのヌクレオチド配列はそれぞれSEQ ID NO.2~SEQ ID NO.18で示される。
シングルプロモーターでは、HpaIIがPMA5プラスミドをテンプレートとしてクローニングされたことを除き、残りのシングルプロモーターは全てB. Subtilis 168をテンプレートとしてPCR増幅を行い、デュアルプロモーターはシングルプロモーターのベクターをテンプレートとして、融合PCR(Fusion PCR)による増幅を行うことにより得ることができる。
(3)D-プシコース3-エピメラーゼの遺伝子とプロモーターの遺伝子を融合PCRにより融合した後、融合後の断片とP43プロモーター遺伝子を除去した線状化pP43NMKプラスミドとを相同組換え酵素Exnase IIで連結し、連結産物(ライゲーション産物)を得た。連結産物を大腸菌DH5αコンピテント細胞に形質転換した。形質転換した大腸菌DH5αコンピテント細胞をLB固体培地(100μg・mL-1アンピシリン含有)に塗布し、37℃で12h倒置培養した。陽性形質転換体を選択してプラスミドを抽出し、シーケンシングにより検証して正しい場合、組換えプラスミドpP43NMK-Promoter-dpeを取得した。取得した組換えプラスミドpP43NMK-Promoter-dpeをB. Subtilis WB800コンピテント細胞に導入し、形質転換産物を得た。形質転換産物をLB固体培地(100μg・mL-1カナマイシン含有)に塗布し、37℃の恒温インキュベータにて12h倒置培養し、形質転換体を得た。形質転換体についてPCR検証を行った結果、正しい場合、組換え枯草菌を取得した。
B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-ylbP -dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hagP43-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-ylbPylbP-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-haghag-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-amyE-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-aprE-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-gsiB-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-HpaII-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-nprE-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-sigX-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-P43hag-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-ylbPhag-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hagylbP-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-ylbPP43-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-P43ylbP-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-P43P43-dpeがそれぞれ調製された。
【0037】
実施例2:プロモーターを含有する組換え枯草菌の発酵によるD-プシコース3-エピメラーゼの産生
具体的なステップは以下のとおりである。
(1)実施例1で調製された組換え枯草菌をLB液体培地にそれぞれ添加し、37℃、200rpmの条件下で、12h振とう培養し、シード液を製造した。
(2)製造されたシード液を3%(v/v)の播種量で発酵培地に播種し、37℃、200rpmの条件下で、振とう培養を行い、酵素含有菌体細胞を単離した。
発酵液菌体細胞中のD-プシコース3-エピメラーゼの酵素活性をそれぞれ検出し、結果を表1及び
図1に示す。
その結果、組換え菌B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-dpeは効果が最も高く、酵素活性が19.62U/mLと高い。
よって、後の実施例では、プラスミドpP43NMK-hag-dpeをテンプレートとして、hagプロモーター上のRBS配列を変異することによって、D-プシコース3-エピメラーゼの酵素活性をさらに向上させる。
【0038】
実施例3:各RBSを含有する組換え枯草菌の構築
具体的なステップは以下のとおりである。
プラスミドpP43NMK-hag-dpeをテンプレート、RBS-F/RBS-Rをプライマーとして、one-step PCRを行い、hagプロモーター上のRBS配列を変異させ、各RBS配列を含有する線状化プラスミドを構築した。
プライマー:
RBS-F: tgccttaacaacatattcrrggaggrrcaaaacaatgaagcatggta
RBS-R: taccatgcttcattgttttgyycctccyygaatatgttgttaaggca
構築した線状化プラスミドを大腸菌DH5αコンピテント細胞に形質転換した。形質転換後の大腸菌DH5αコンピテント細胞をLB固体培地(100μg・mL-1アンピシリン含有)に塗布し、37℃で12h倒置培養した。所定量の陽性形質転換体を選択して、プラスミドを抽出し、シーケンシングにより検証して正しい場合、組換えプラスミドpP43NMK-hag-RBSn-dpeを取得し、15個の異なるRBS変異体をそれぞれ取得した。変異配列は以下のとおりである。
ggggaggaa(R1と命名する)、gaggaggaa(R2と命名する)、ggggaggga(R3と命名する)、ggggaggag(R4と命名する)、gaggagggg(R5と命名する)、gaggaggga(R6と命名する)、ggggagggg(R7と命名する)、gaggaggag(R8と命名する)、aaggaggaa(R9と命名する)、agggaggga(R10と命名する)、agggaggag(R11と命名する)、aaggaggga(R12と命名する)、agggagggg(R13と命名する)、aaggaggag(R14と命名する)、aaggagggg(R15と命名する)
組換えプラスミドpP43NMK-hag-R1-dpe、pP43NMK-hag-R2-dpe、pP43NMK-hag-R3-dpe、pP43NMK-hag-R4-dpe、pP43NMK-hag-R5-dpe、pP43NMK-hag-R6-dpe、pP43NMK-hag-R7-dpe、pP43NMK-hag-R8-dpe、pP43NMK-hag-R9-dpe、pP43NMK-hag-R10-dpe、pP43NMK-hag-R11-dpe、pP43NMK-hag-R12-dpe、pP43NMK-hag-R13-dpe、pP43NMK-hag-R14-dpe、pP43NMK-hag-R15-dpeがそれぞれ調製された。
変異前のRBS配列をR0と命名すると、組換えプラスミドはpP43NMK-hag-R0-dpeとして表現される。
取得した組換えプラスミドpP43NMK-hag-Rn-dpe及びpP43NMK-hag-R0-dpeをそれぞれB. Subtilis WB800コンピテント細胞に導入し、形質転換産物を得た。形質転換産物をLB固体培地(100μg・mL-1カナマイシン含有)に塗布し、37℃の恒温インキュベータで12h倒置培養し、形質転換体を得た。形質転換体をシーケンシングして正しい場合、組換え枯草菌を取得した。
即ち、
B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R1-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R2-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R3-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R4-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R5-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R6-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R7-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R8-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R9-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R10-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R11-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R12-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R13-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R14-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R15-dpe、B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R0-dpeがそれぞれ調製された。
【0039】
実施例4:各RBSを含有する組換え枯草菌の発酵
具体的なステップは以下のとおりである。
(1)実施例3で製造された組換え枯草菌の形質転換体をそれぞれ用いてLB固体培地(100μg・mL
-1カナマイシン含有)でストリークし、37℃の恒温インキュベータで12h倒置培養し、単一コロニーをそれぞれ得た。
(2)単一コロニーをそれぞれピックアップしてLB液体培地(100μg・mL
-1カナマイシン含有)に播種し、37℃、200r/minで12h培養し、シード液を得た。
(3)製造されたシード液を3%(v/v)の播種量で発酵培地に移し、37℃、200r/minで12h以上培養し、発酵液を得た。
(4)上記発酵液中の各組換え枯草菌で製造されたD-プシコース3-エピメラーゼの酵素活性をそれぞれ検出し、結果を表2及び
図2に示す。
その結果、組換え菌B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R4-dpeは効果が最も高く、D-プシコース3-エピメラーゼの酵素活性が25.39U/mLと高い。
さらに、組換え菌B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R2-dpeの発酵により製造されたD-プシコース3-エピメラーゼの酵素活性が、22.49U/mLである。
組換え菌B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R11-dpeの発酵により製造されたD-プシコース3-エピメラーゼの酵素活性が、24.46U/mLである。
組換え菌B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R13-dpeの発酵により製造されたD-プシコース3-エピメラーゼの酵素活性が、23.35U/mLである。
組換え菌B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R14-dpeの発酵により製造されたD-プシコース3-エピメラーゼの酵素活性が、22.64U/mLである。
組換え菌B. subtilis WB800/pP43NMK-hag-R15-dpeの発酵により製造されたD-プシコース3-エピメラーゼの酵素活性が23.35U/mLである。
【0040】
実施例5:無耐性組換えベクターの調製
具体的な操作ステップは以下のとおりである。
(1)アラニンラセマーゼ遺伝子の取得:人工合成ヌクレオチド配列がSEQ ID NO.19で示される。
(2)PUB-hag-RBS4-dpe-dalベクターの製造:
PUB-P43-dpe-dalプラスミド(構築方法は公開番号CN104894047Bの中国発明特許文献に記載されている)をテンプレートとして、PCRによってP43遺伝子を含まない線状化ベクターを増幅した。実施例3で構築されたpP43NMK-hag-R4-dpeプラスミドをテンプレートとして、PCRによってそのhag-RBS4-dpe遺伝子を増幅した。以上の線状化ベクターと目的遺伝子を高忠実度ポリメラーゼPhata Max Super-Fidelity DNA Polymeraseで相同アーム組換えの原理により連結した。
(3)pP43NMK-hag-RBS4-dpe-dalベクターの調製:
実施例3で構築したpP43NMK-hag-R4-dpeプラスミドをテンプレートとして、PCRによって耐性遺伝子カナマイシンKan以外の線状化ベクターを増幅した。以前発明者らで構築したPUB-P43-dpe-dalプラスミドをテンプレートとして、PCRによってアラニンラセマーゼ遺伝子を増幅した。以上の線状化ベクターと目的遺伝子を高忠実度ポリメラーゼPhata Max Super-Fidelity DNA Polymeraseで相同アーム組換え原理により連結した。
(4)ステップ(2)及びステップ(3)の連結時の反応系及び反応条件:
変性-アニール-最終伸長は合計25~35サイクル行った。
(5)ステップ(2)及びステップ(3)で得たPCR産物(多量体断片)を1A751Δdalコンピテント枯草菌に導入し、形質転換産物を得て、形質転換産物を、抗生物質を含まないLB固体培地に塗布し、37℃の恒温インキュベータで12h倒置培養し、形質転換体を得て、形質転換体をPCRで検証して正しい場合、無耐性組換え枯草菌:枯草菌1A751Δdal/PUB-hag-RBS4-dpe-dal、枯草菌1A751Δdal/pP43NMK-hag-RBS4-dpe-dalを得た。
【0041】
実施例6:無耐性組換え枯草菌の発酵によるD-プシコース3-エピメラーゼの製造
具体的なステップは以下のとおりである。
(1)実施例3で取得した組換え枯草菌である枯草菌1A751Δdal/PUB-hag-RBS4-dpe-dal、枯草菌1A751Δdal/pP43NMK-hag-RBS4-dpe-dalを用いてそれぞれ無耐性LB固体培地でストリークし、37℃の恒温インキュベータで12h倒置培養し、単一コロニーをそれぞれ得た。
(2)単一コロニーをそれぞれピックアップして、無耐性LB液体培地に播種し、37℃、200r/minで12h培養し、シード液を得た。
(3)製造されたシード液を3%(v/v)の播種量で無耐性発酵培地に移し、37℃、200r/minで12h以上培養し、発酵液を得た。
(4)上記各組換え枯草菌で製造されたD-プシコース3-エピメラーゼの酵素活性をそれぞれ検出し、結果を表3に示す。
その結果、無耐性組換え菌株B. subtilis 1A751-dal
-/pP43NMK-hag-RBS4-dpe-dalは酵素産生効果が最も高く、最高発酵酵素活性が24.72U/mLである。
よって、本発明は抗生物質を添加していない培地において食品等級の菌株発酵を用いてD-プシコース3-エピメラーゼを製造することができる。
【0042】
実施例7:D-プシコース3-エピメラーゼの発酵による製造
(1)プレートにおける無耐性組換え菌株B. subtilis 1A751-dal-/pP43NMK-hag-RBS4-dpe-dal単一コロニーをピックアップして、50mL(液体仕込み量10%)のLB液体培地に播種し、37℃、200r/minで12h振とう培養し、シード液を得た。
(2)発酵培地を3L発酵タンク(ファーメンター)に入れて、ステップ(1)で得たシード液を3%(v/v)の播種量で発酵培地に播種し、発酵培養し、発酵において通気量と撹拌速度を絶えず調整し、DO値を30%、発酵温度を37℃に制御した。
(3)溶存酸素が回復し始めたら、補充し、補充培地にはブドウ糖200g/L、硫酸マグネシウム7水和物5g/Lが含まれており、補充速度を40mL/hに設定した。
(4)補充過程では、酵素活性を常に検出し、酵素活性が低下し始めるまで補充した。この時に、発酵を停止し、検出したところ、得られたD-プシコース3-エピメラーゼの発酵酵素活性は、714.8U/mLである。
(5)発酵菌体を遠心分離し、検出したところ、得られたD-プシコース3-エピメラーゼを含む湿菌体の酵素活性は、13612.5U/gである。
【0043】
実施例8:D-プシコースの製造
1000mLジャケット酵素反応器に濃度45%の基質であるD-フルクトース溶液を加え、反応温度を55℃に保持し、pHを7.0に調整し、30U/gフルクトースで実施例7で製造されたD-プシコース3-エピメラーゼを含む菌体を加え、回転数100r/minで撹拌して反応させた。
反応中にサンプリングして、沸騰させて酵素を不活性化し、遠心分離して上澄み液を得て、HPLC分析によってD-プシコースの含有量を検出した。
8h反応後、反応全体が平衡の状態になり、D-プシコースの転化率は28.5%である。
【0044】
本発明は好適な実施例を以上で開示しているが、これらは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく様々な修正や変更が可能であり、このため、本発明の特許範囲は特許請求の範囲により定められるものに準じる。
【配列表】