(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】エアロゾルの含有成分の測定方法、測定装置、反応液およびその混合キット
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
G01N27/416 336B
G01N27/416 336P
G01N27/416 336N
(21)【出願番号】P 2024000658
(22)【出願日】2024-01-05
【審査請求日】2024-01-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】318004947
【氏名又は名称】株式会社ファーストスクリーニング
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】浅井 開
(72)【発明者】
【氏名】金澤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】益子 淳
(72)【発明者】
【氏名】家田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 光雄
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2353452(KR,B1)
【文献】特開2017-096727(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0159504(US,A1)
【文献】特開昭56-097863(JP,A)
【文献】特開昭58-193448(JP,A)
【文献】特表2023-534958(JP,A)
【文献】特表2007-523652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/10
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雰囲気中のエアロゾルに含まれる対象成分を測定する方法であって、
(a)前記対象成分と反応を生じさせる第1物質を含む反応液を準備する工程と、
(b)前記反応液に前記エアロゾルを取り込ませ、前記対象成分と前記第1物質とを反応させ、第2物質を生成させる工程と、
(c)前記第2物質を第3物質の存在下で酸化または還元させる工程と、
(d)前記第2物質の酸化または還元に寄与することで変化した前記第3物質を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値に基づき、前記エアロゾルにおける前記対象成分の有無を評価する工程と、を有する、
エアロゾルの含有成分の測定方法。
【請求項2】
前記対象成分が、前記エアロゾルに含まれる唾液に由来するアミラーゼであり、
前記第1物質がアミロースおよびアミロペクチンの少なくとも1つであり、
前記(b)では、前記アミラーゼを含むエアロゾルを前記反応液に取り込ませ、前記アミラーゼにより前記第1物質を加水分解させ、前記第2物質としてグルコースを生成させ、
前記(c)では、前記グルコースを前記第3物質としての酸化剤の存在下で酸化させ、
前記(d)では、前記グルコースの酸化に寄与することで変化した前記酸化剤を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値に基づき、前記エアロゾルにおける前記アミラーゼの有無を判定する工程と、を有する、
請求項1に記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【請求項3】
前記対象成分が、化学構造中にノイラミニダーゼを有する成分であり、
前記第1物質がシアリルラクトースおよびラクターゼであり、
前記(b)では、前記ノイラミニダーゼを有する成分を含むエアロゾルを前記反応液に取り込ませ、前記ノイラミニダーゼを前記シアリルラクトースによりラクトースに加水分解させるとともに、前記ラクターゼにより前記ラクトースから前記第2物質としてグルコースを生成させ、
前記(c)では、前記グルコースを前記第3物質としての酸化剤の存在下で酸化させ、
前記(d)では、前記グルコースの酸化に寄与することで変化した前記酸化剤を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値に基づき、前記エアロゾルにおける
前記ノイラミニダーゼの有無を判定する工程と、を有する、
請求項1に記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【請求項4】
前記(b)では、前記反応液を環境雰囲気に露出するように配置する、
請求項1に記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【請求項5】
前記反応液が電子メディエータをさらに含み、
前記(d)では、電子メディエータの存在下で、前記変化した第3物質を電気化学的手法により元の状態に戻す、
請求項1に記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【請求項6】
前記反応液は、前記第1物質を前記対象成分に対して過剰量となるように含む、
請求項1に記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【請求項7】
前記反応液は、前記電子メディエータを前記対象成分に対して過剰量となるように含む、
請求項5に記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【請求項8】
前記(b)は、前記第2物質の生成量が前記対象成分よりも多くなるまで行う、
請求項1に記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【請求項9】
雰囲気中のエアロゾルに含まれる対象成分を測定する装置であって、
前記対象成分と反応を生じさせる第1物質を含む反応液を収容するとともに、前記反応液に前記エアロゾルを取り込むように構成される反応部と、
前記反応液を電気化学的手法により測定する測定部と、
前記測定部での結果に基づき、前記エアロゾルにおける前記対象成分の有無を判定する判定部と、を備え、
前記反応部では、前記反応液に前記エアロゾルを取り込んだときに、前記対象成分と前記第1物質との反応により第2物質を生成させ、前記第2物質を第3物質の存在下で酸化または還元させ、
前記測定部では、前記反応液において、前記第2物質の酸化または還元に寄与することで変化した前記第3物質を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値を測定する、
エアロゾルの含有成分の測定装置。
【請求項10】
前記対象成分が、前記エアロゾルに含まれる唾液に由来するアミラーゼであり、
前記第1物質がアミロースおよびアミロペクチンの少なくとも1つであり、
前記反応部では、前記アミラーゼにより前記第1物質を加水分解させて前記第2物質としてグルコースを生成させ、前記グルコースを、前記第3物質としての酸化剤の存在下で酸化させ、
前記測定部では、前記グルコースの酸化に寄与することで変化した前記酸化剤を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値を測定し、
前記判定部では、前記電流値に基づき、前記エアロゾルにおける前記アミラーゼの有無を評価する、
請求項9に記載のエアロゾルの含有成分の測定装置。
【請求項11】
前記対象成分が、化学構造中にノイラミニダーゼを有する成分であり、
前記第1物質がシアリルラクトースおよびラクターゼであり、
前記反応部では、前記ノイラミニダーゼと前記シアリルラクトースとの反応によりラクトースを生成させるとともに、前記ラクトースと前記ラクターゼとの反応により前記第2物質としてグルコースを生成させ、前記グルコースを、前記第3物質としての酸化剤の存在下で酸化させ、
前記測定部では、前記グルコースの酸化に寄与することで変化した前記酸化剤を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値を測定し、
前記判定部では、前記電流値に基づき、前記エアロゾルにおける
前記ノイラミニダーゼの有無を評価する、
請求項9に記載のエアロゾルの含有成分の測定装置。
【請求項12】
前記反応部は、前記反応液を環境雰囲気に露出するように構成される、
請求項9に記載のエアロゾルの含有成分の測定装置。
【請求項13】
前記反応液は、電子メディエータをさらに含み、
前記測定部は、前記電子メディエータの存在下で、前記変化した第3物質を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値を測定する、
請求項9に記載のエアロゾルの含有成分の測定装置。
【請求項14】
前記反応部は、前記第2物質の生成量が前記対象成分よりも多くなるまで、前記対象成分と前記第1物質とを反応させる、
請求項9に記載のエアロゾルの含有成分の測定装置。
【請求項15】
エアロゾルに含まれるアミラーゼを測定するための反応液であって、
アミロースおよびアミロペクチンの少なくとも1つと、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、電子メディエータと、を含む、
アミラーゼ測定用反応液。
【請求項16】
エアロゾルに含まれるアミラーゼを測定するための反応液を調製する混合キットであって、
アミロースおよびアミロペクチンの少なくとも1つと、
グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、
電子メディエータと、がそれぞれ別体として収容され、混合により前記反応液として調製されるように構成される、
アミラーゼ測定用反応液の混合キット。
【請求項17】
エアロゾルに含まれる病原体を測定するための反応液であって、
前記病原体が、化学構造中にノイラミニダーゼを有するインフルエンザウイルスおよび肺炎レンサ球菌の少なくとも1つであり、
シアリルラクトースと、ラクターゼと、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、電子メディエータと、を含む、
病原体測定用反応液。
【請求項18】
エアロゾルに含まれる病原体を測定するための反応液を調製する混合キットであって、
前記病原体が、化学構造中にノイラミニダーゼを有するインフルエンザウイルスおよび肺炎レンサ球菌の少なくとも1つであり、
シアリルラクトースと、ラクターゼと、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、電子メディエータと、がそれぞれ別体として収容され、混合により前記反応液として調製されるように構成される、
病原体測定用反応液の混合キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾルの含有成分の測定方法、測定装置、反応液およびその混合キットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば換気の悪い屋内環境では人が密集することで、環境雰囲気が悪くなることがある。例えば人の呼気に由来する唾液や人の移動にともなって持ち込まれる粉塵(例えばPM2.5など)や花粉などの微粒子が環境雰囲気中に浮遊するためである。これら唾液や微粒子はエアロゾルとして環境雰囲気中に存在することになる。唾液にウイルスなどの病原体が含まれると、エアロゾルを介して感染を引き起こすことがある。微粒子は呼吸器系の病気などを引き起こすことがある。
【0003】
そのため、環境雰囲気中のエアロゾルに含まれる成分を測定することが求められている。この方法として、例えば特許文献1には、フィルタを用いて空気に含まれるエアロゾルを捕捉した後、フィルタに捕捉された成分に励起光を照射し、捕捉成分の発光を測定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の測定方法では、フィルタでエアロゾルの含有成分を捕集したとしても、そこに含まれる特定の成分を選択的に測定できないことがある。また、励起光を照射する装置や発光を観察する装置などが必要となるため、含有成分を簡易に測定できないことがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、雰囲気中のエアロゾルの含有成分を簡易かつ選択的に測定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
雰囲気中のエアロゾルに含まれる対象成分を測定する方法であって、
(a)前記対象成分と反応を生じさせる第1物質を含む反応液を準備する工程と、
(b)前記反応液に前記エアロゾルを取り込ませ、前記対象成分と前記第1物質とを反応させ、第2物質を生成させる工程と、
(c)前記第2物質を第3物質の存在下で酸化または還元させる工程と、
(d)前記第2物質の酸化または還元に寄与することで変化した前記第3物質を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値に基づき、前記エアロゾルにおける前記対象成分の有無を評価する工程と、を有する、
エアロゾルの含有成分の測定方法である。
【0008】
本発明の他の態様は、
雰囲気中のエアロゾルに含まれる対象成分を測定する装置であって、
前記対象成分と反応を生じさせる第1物質を含む反応液を収容するとともに、前記反応液に前記エアロゾルを取り込むように構成される反応部と、
前記反応液を電気化学的手法により測定する測定部と、
前記測定部での結果に基づき、前記エアロゾルにおける前記対象成分の有無を判定する判定部と、を備え、
前記反応部では、前記反応液に前記エアロゾルを取り込んだときに、前記対象成分と前記第1物質との反応により第2物質を生成させ、前記第2物質を第3物質の存在下で酸化または還元させ、
前記測定部では、前記反応液において、前記第2物質の酸化または還元に寄与することで変化した前記第3物質を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値を測定する、
エアロゾルの含有成分の測定装置である。
【0009】
本発明のさらに他の態様は、
エアロゾルに含まれるアミラーゼを測定するための反応液であって、
アミロースおよびアミロペクチンの少なくとも1つと、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、電子メディエータと、を含む、
アミラーゼ測定用反応液である。
【0010】
本発明のさらに他の態様は、
エアロゾルに含まれるアミラーゼを測定するための反応液を調製する混合キットであって、
アミロースおよびアミロペクチンの少なくとも1つと、
グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、
電子メディエータと、がそれぞれ別体として収容され、混合により前記反応液として調製されるように構成される、
アミラーゼ測定用反応液の混合キットである。
【0011】
本発明のさらに他の態様は、
エアロゾルに含まれる病原体を測定するための反応液であって、
前記病原体が、化学構造中にノイラミニダーゼを有するインフルエンザウイルスおよび肺炎レンサ球菌の少なくとも1つであり、
シアリルラクトースと、ラクターゼと、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、電子メディエータと、を含む、
病原体測定用反応液である。
【0012】
本発明のさらに他の態様は、
エアロゾルに含まれる病原体を測定するための反応液を調製する混合キットであって、
前記病原体が、化学構造中にノイラミニダーゼを有するインフルエンザウイルスおよび肺炎レンサ球菌の少なくとも1つであり、
シアリルラクトースと、ラクターゼと、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、電子メディエータと、がそれぞれ別体として収容され、混合により前記反応液として調製されるように構成される、
病原体測定用反応液の混合キットである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、雰囲気中のエアロゾルの含有成分を簡易かつ精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る測定装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態にかかる測定方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について説明する。以下、本実施形態の測定方法および測定装置の説明に先立ち、これらで使用する反応液について説明する。
【0016】
(1)反応液
本実施形態の反応液は、環境雰囲気中のエアロゾルに含まれる成分を測定するために使用される。反応液は、雰囲気中のエアロゾルを取り込み、エアロゾルの含有成分を捕集するとともに、その成分を後述の電気化学的手法により測定できるように反応させるためのものである。ここで、測定対象となる成分(対象成分)は、エアロゾルを形成し、空気中に浮遊するような成分であって、例えば唾液に由来するアミラーゼ、ウイルスなどの病原体である。
【0017】
具体的には、反応液は、対象成分と反応を生じさせる第1物質と、溶媒と、を少なくとも含んで構成される。反応液には、必要に応じて、これら成分以外にその他の添加剤が含まれることがある。以下、各成分について詳述する。
【0018】
(第1物質)
第1物質は、エアロゾル中の対象成分と反応を生じさせ、電気化学的手法により測定可能な第2物質を生成させる化合物である。第1物質は、対象成分に応じて適宜変更することができる。例えば、対象成分が唾液に由来するアミラーゼである場合、第1物質としてはアミロースおよびアミロペクチンの少なくとも1つを用いることが好ましい。アミロースやアミロペクチンは、唾液中のアミラーゼとの反応により加水分解し、第2物質としてグルコースを生成する。また例えば、対象成分が化学構造中にノイラミニダーゼを有する成分(インフルエンザウイルスや肺炎レンサ球菌など)である場合、第1物質としてはシアリルラクトースおよびラクターゼを用いることが好ましい。
【0019】
反応液における第1物質の含有量は特に限定されないが、対象成分に対して過剰量とすることが好ましい。反応液において、第1物質が過剰量に存在することで、対象成分と第1物質とをより確実に反応させることができる。また、対象成分がアミラーゼであり、第1物質がアミロースやアミロペクチンである場合、アミラーゼにより過剰量のアミロース等を繰り返し加水分解させてグルコースの生成量を増やすことができ、後述の電気化学的手法により測定する際の感度を高めることができる。
【0020】
(溶媒)
溶媒としては、エアロゾルを取り込み捕集ができ、かつ第1物質を溶存できるようなものであれば特に限定されず、例えば水等を用いることができる。好ましくは、緩衝作用を有するpH緩衝溶液を用いることが好ましい。pHの範囲は、反応させる第1物質や第2物質の種類に応じて適宜調整するとよい。
【0021】
(第3物質)
反応液は、第2物質を酸化または還元させる第3物質を含むことが好ましい。第3物質は、第2物質を酸化可能な酸化剤または還元可能な還元剤である。例えば第3物質として酸化剤を用いる場合、第2物質は第3物質により酸化されて酸化形態となる一方、第3物質は第2物質の酸化にともない電子を受け取ることで還元されて還元形態となる。逆に第3物質として還元剤を用いる場合、第2物質は第3物質により還元されて還元形態となる一方、第3物質は酸化されて酸化形態となる。本実施形態では、詳細を後述するように、還元形態または酸化形態となった第3物質について、元の状態に戻すときの、つまり、酸化または還元させるときの電気化学的な電流応答を検出する。この応答は、還元形態の酸化剤の含有量に対応する。還元形態の酸化剤の含有量は、グルコースの生成量に対応し、グルコースの生成量は、取り込まれたエアロゾル中のアミラーゼの含有量の指標となる。
【0022】
第3物質は、第2物質の種類に応じて適宜変更することができる。第3物質としては、第2物質がグルコースである場合、酸化剤を用いることが好ましく、具体的には、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つを用いることがより好ましい。第3物質の含有量は、生成する第2物質を十分量酸化または還元できるような量であれば特に限定されず、第2物質の生成量に応じて適宜変更するとよい。
【0023】
(電子メディエータ)
反応液は、電子メディエータをさらに含むことが好ましい。電子メディエータは、電気化学的手法による測定の際に酸化還元反応を媒介するように作用する。具体的には、電子メディエータは、還元形態または酸化形態の第3物質と測定装置の電極との間での電子の授受を促進することができる。電子メディエータによれば、第2物質の酸化還元に寄与した第3物質が元の状態に戻るときに生じる応答をより精度よく検出することができる。
【0024】
電子メディエータとしては、例えばフェリシアン化カリウム、p‐ベンゾキノン、p‐ベンゾキノン誘導体、酸化型フェナジンメトサルフェート、メチレンブルー、フェロセン及びフェロセン誘導体、ジクロロインドフェノール、1,10-フェナントロリン-5,6-ジオンなどの一般的な電子メディエータの少なくとも1つを用いることができる。
【0025】
電子メディエータの含有量は特に限定されないが、電気化学的手法による測定の際に応答をより精度よく検出する観点からは、対象成分の含有量に対して過剰量とすることが好ましい。
【0026】
(2)測定装置
次に、エアロゾルの含有成分の測定装置について
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る測定装置の概略構成図である。
【0027】
本実施形態の測定装置1は、反応液Sを収容する反応部10と、反応液Sを電気化学的手法により測定する測定部20と、測定結果に基づき含有成分の有無を評価する判定部30と、を備える。
【0028】
(反応部)
反応部10は、反応液Sを収容するとともに、環境雰囲気のエアロゾルを反応液Sに取り込み、反応液S中で対象成分を反応させるように構成される。反応部10には、例えば上部に開口を有する測定セルなどを用いることができる。
【0029】
反応部10では、反応液Sにエアロゾルが取り込まれたときに、エアロゾルに対象成分が含まれている場合、以下のような反応が生じる。まず、反応液S中で第1物質と対象成分とが反応し、第2物質が生成する。続いて、第2物質が第3物質により酸化または還元される。一方、第3物質は、第2物質の酸化または還元に寄与することで、還元または酸化された状態となる。
【0030】
(測定部)
測定部20は、反応液Sについて電気化学的手法により測定を行うものである。測定部20は、例えばボルタンメトリー測定を行うように構成される。具体的には、測定部20は、電極として作用電極21、対極22および参照電極23と、電位掃引部24と、電流測定部25と、を備えて構成される。
【0031】
各電極は、反応部10内の反応液Sに浸漬するように配置される。測定の際、作用電極21は、反応液Sにおいて、還元形態または酸化形態となった第3物質を酸化または還元させて、元の状態に戻す。反応液S中に電子メディエータが含まれる場合、電子メディエータを介して、第3物質を還元または酸化させる。対極22は、作用電極21とは逆反応を生じさせる。参照電極23は、作用電極21に対して電位を一定に保つための基準となるものである。
【0032】
各電極としては、還元電流を測定できれば特に限定されず従来公知のものを用いることができる。作用電極21や対極22としては、例えば、金や白金などの金属電極もしくは炭素電極などを用いることができる。参照電極23としては、例えば銀/塩化銀電極などを用いることができる。
【0033】
電位掃引部24は、各電極に接続され、例えば参照電極23に対する電位として作用電極21に印加する電圧を所定の範囲および所定の掃引速度で掃引するように構成される。具体的には、電位掃引部24は、還元形態にある第3物質を酸化により元の状態に戻す場合であれば、作用電極21の電位を正に掃引し、反対に、酸化形態にある第3物質を還元により元の状態に戻す場合であれば、作用電極21の電位を負に掃引する。
【0034】
電位掃引部24は、作用電極21で、還元形態または酸化形態にある第3物質を元の状態に戻すような電位に調整できればよく、第3物質の種類に応じて適宜変更するとよい。
【0035】
なお、電位掃引部24は、酸化還元にともなう電流応答を測定できれば掃引方法は特に限定されず、サイクリックボルタンメトリーやリニアリックボルタンメトリーなどの測定方法に応じて適宜変更するとよい。
【0036】
電流測定部25は、各電極に接続され、電位の掃引の際に作用電極21と対極22との間を流れる電流応答を測定するように構成される。例えば、反応液Sにおいて、第3物質が還元形態にある場合、還元形態から元の状態に戻るときの酸化電流値を、第3物質が酸化形態にある場合、酸化形態から元の状態に戻るときの還元電流値を取得する。
【0037】
(判定部)
判定部30は、測定部20に接続され、測定部20での結果に基づき、反応液Sに含まれる対象成分の有無を判定するように構成され、例えば、判定処理部31を備えて構成される。判定処理部31は、例えば測定部20で電流応答が検出されれば、反応液Sに対象成分が取り込まれた、つまり、環境雰囲気中に対象成分が存在していると判定する。一方、測定部20で電流応答が検出されなければ、環境雰囲気中に対象成分が存在していないと判定する。
【0038】
判定部30は、判定処理部31が、測定部20で取得した電流値の大きさに基づいて、反応液Sに取り込まれるエアロゾル中のアミラーゼを定量化できるように構成されることが好ましい。また、判定部30は、判定処理部31とともに、電流値とエアロゾルの含有量との相関を示す検量線を記憶する記憶部32をさらに備えることがより好ましい。この場合、判定処理部31は、電流値に基づき、検量線から反応液Sに含まれるアミラーゼの含有量を定量することが可能となる。
【0039】
(制御部)
制御部40は、例えばコンピュータを備え、測定部20および判定部30に接続されてこれらを制御するように構成される。具体的には、測定部20において、参照電極23に対する電位として作用電極21に印加する電圧を所定の範囲で掃引するように電位掃引部24を制御するとともに、電位の掃引の際に作用電極21と対極22との間を流れる電流を測定するように電流測定部25を制御する。また、判定部30において、測定部20で取得された電流値から反応液Sに含まれる対象成分の有無を判定するように判定処理部31を制御する。また判定部30が記憶部32を備える場合には、判定処理部31が記憶部32における検量線を参照して反応液Sに含まれる対象成分の含有量を定量するように判定処理部31を制御する。
【0040】
(3)エアロゾルの含有成分の測定方法
続いて、雰囲気中のエアロゾルに含まれる対象成分を測定する方法について
図2を用いて説明する。
図2は、本発明の一実施形態にかかる測定方法のフロー図である。以下では、対象成分としてアミラーゼを測定する場合を一例として説明する。
【0041】
(準備工程S1)
まず、アミラーゼ測定用の反応液Sを準備する。例えば、第1物質として、対象成分であるアミラーゼと反応を生じさせるアミロースと、溶媒である水、好ましくはpH緩衝液と、第3物質として、アミロースがアミラーゼとの反応により加水分解して生成するグルコースを酸化可能なグルコースオキシダーゼと、電子メディエータとしてフェリシアン化カリウムとを混合し、反応液Sを調製する。この反応液Sを反応部10に収容する。
【0042】
(取り込み工程S2)
続いて、反応液Sにエアロゾルを取り込む。このとき、エアロゾルにおけるアミラーゼの有無により以下のような反応が生じる。
【0043】
エアロゾルにアミラーゼが含まれている場合、反応液S中のアミロースやアミロペクチンがアミラーゼとの反応により加水分解し、第2物質であるグルコースが生成される。生成したグルコースは反応液S中の酸化剤により酸化される。酸化剤は、グルコースの酸化に寄与することで、還元される。一方、エアロゾルにアミラーゼが含まれていない場合、グルコースの生成は進まず、アミロースやアミロペクチンがそのまま残存することになる。
【0044】
反応液Sへのエアロゾルの取り込み方法は特に限定されないが、反応液Sを環境雰囲気に露出するように配置することが好ましい。この場合、例えば反応液Sを反応部10に収容したうえで、所定時間、露出させたまま静置するとよい。これにより、エアロゾルを反応液Sに取り込ませ、反応液S中で第2物質を生成させることができる。なお、エアロゾルの取り込みを促す観点から、環境雰囲気の空気を反応液Sに吹き込んでもよい。
【0045】
反応液Sへのエアロゾルを取り込ませる時間は特に限定されないが、取り込み時間を長くすることが好ましい。取り込み時間を長くするほど、雰囲気中のエアロゾルをより確実に反応液Sに取り込ませることができ、対象成分であるアミラーゼの取り込み量を増やすことができる。また、取り込み時間は、アミラーゼとアミロースとを反応させる時間(以下、反応時間ともいう)でもあり、この時間を長くすることで、反応液S中でアミロースやアミロペクチンを繰り返し加水分解させることができ、グルコースの生成量を増やすことができる。グルコースの生成量を増やすことにより、グルコースの酸化に寄与する酸化剤の量を増やすことができる。これにより、後述の測定工程S3にて高い感度で測定を行うことができる。取り込み時間(反応時間)は特に限定されないが、グルコースの生成量が反応液S中に取り込まれるアミラーゼの量よりも多くなるような時間とすることが好ましい。なお、取り込み時間とは、反応液Sを環境雰囲気に露出し始めてから後述の測定工程S3に供するまでの間の露出時間に対応する。
【0046】
(測定工程S3)
続いて、反応液Sについて測定部20にて電気化学的手法により測定を行う。具体的には、反応液Sに作用電極21、対極22および参照電極23を浸漬させ、電位掃引部24により、作用電極21に正電圧を印加する。これにより、作用電極21では還元形態にある酸化剤が酸化されて元の状態に戻る。このとき、電子メディエータが、還元状態にある酸化剤と作用電極21との間での電子の受け渡しを介在する。電流測定部25では、電位掃引により作用電極21で生じる酸化反応にともなって作用電極21と対極22との間に流れる酸化電流値を測定する。
【0047】
測定工程S3で取得される電流値は、単位時間あたりに反応液Sに取り込まれたエアロゾルに含まれるアミラーゼの含有量を示す指標となる。
【0048】
(判定工程S4)
次に、判定部30の判定処理部31にて、測定部20での測定結果、具体的には電流測定部25で取得された酸化電流値に基づき、反応液Sに取り込まれたアミラーゼの有無を判定する。例えば、酸化電流値が検出されれば、アミラーゼが反応液Sに取り込まれ、環境雰囲気にアミラーゼが存在していると判定する。一方、酸化電流値が検出されなければ、環境雰囲気にアミラーゼが存在していないと判定する。
【0049】
判定工程S4では、酸化電流値の閾値を設定し、その閾値に基づいて環境雰囲気の良否を判定することが好ましい。閾値に基づいて判定することにより、環境雰囲気の良否を裕度をもって判定することが可能となる。
【0050】
以上により、環境雰囲気中のエアロゾルにアミラーゼが含まれるかどうかを測定することができる。また、上述した一連の工程を時間をおいて繰り返し行うことにより、環境雰囲気の良否の経時的な変化を測定することができる。
【0051】
<本実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0052】
(a)本実施形態の測定方法によれば、まず、環境雰囲気中に浮遊するエアロゾルを反応液Sに取り込ませている。これにより、エアロゾルにアミラーゼが含まれるときに、アミラーゼを反応液Sに捕集することができる。捕集されたアミラーゼは反応液S中でアミロースなどを加水分解させ、グルコースが生成する。このグルコースは酸化剤の存在下で酸化され、酸化剤は酸化に寄与することで還元形態となる。そして、電気化学的手法により、還元形態の酸化剤を酸化させて元の状態に戻す際に生じる酸化電流値を測定する。この酸化電流値は、グルコースの酸化に寄与した酸化剤の量に応じた値となり、グルコースの生成に寄与したアミラーゼの量に応じた値となる。したがって、酸化電流値に基づき、環境雰囲気中のエアロゾルにアミラーゼが含まれているかどうかを選択的に、かつ簡易に測定することができる。
【0053】
(b)反応液Sを反応部10に収容するとともに、反応液Sを環境雰囲気に露出するように配置することが好ましい。これにより、環境雰囲気に反応液Sを静置するだけで、その雰囲気中に浮遊するエアロゾルの含有成分を測定することができる。つまり、環境雰囲気の評価をより簡易に行うことができる。
【0054】
(c)反応液Sは電子メディエータをさらに含み、酸化電流値の測定を電子メディエータの存在下で行うことが好ましい。電子メディエータによれば、酸化形態の酸化物と作用電極21との間での電子の受け渡しを促進し、作用電極21での酸化反応にともなって電極間を流れる酸化電流値をより精度よく測定することができる。
【0055】
(d)反応液Sは、アミロースやアミロペクチンを、取り込まれるアミラーゼに対して過剰量となるように含むことが好ましい。これにより、アミラーゼによりアミロースなどを繰り返し加水分解させて、グルコースの生成量を増やすことができる。この結果、測定工程S3にて感度を高め、精度よく測定を行うことができる。
【0056】
(e)反応液Sは、電子メディエータを、取り込まれるアミラーゼに対して過剰量となるように含むことが好ましい。これにより、測定工程S3にて、電子メディエータによる電子の受け渡しを促進でき、作用電極21での酸化反応にともなって電極間を流れる酸化電流値をより精度よく測定することができる。
【0057】
(f)取り込み工程S2から測定工程S3までの反応時間は、グルコースの生成量が、取り込まれるアミラーゼよりも多くなるように設定することが好ましい。エアロゾルに含まれるアミラーゼが極微量である場合、反応させる時間が過度に短いと、グルコースの生成量も極微量となり、測定工程S3で高い感度で測定を行えないことがある。この点、アミラーゼの取り込み量よりもグルコースの生成量が多くなるように、反応時間を長くすることで、測定工程S3での電流応答を増幅させて、高い感度で測定を行うことができる。
【0058】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0059】
上述の実施形態では、反応液Sに酸化剤を添加し、アミラーゼとアミロースとを反応させてグルコースを生成させると同時にグルコースの酸化を行っているが、本発明はこれに限定されない。例えば、反応液Sには酸化剤を予め添加せず、反応液Sにエアロゾルを取り込ませた後、電気化学的手法により測定を行う前に酸化剤を添加してもよい。
【0060】
上述の実施形態では、反応液Sに電子メディエータを予め添加しているが、本発明はこれに限定されない。電子メディエータは測定工程S3の際に反応液S中に存在すればよく、例えば取り込み工程S2の後、測定工程S3を行うまでの間に反応液S中に添加すればよい。
【0061】
上述の実施形態では、測定部20が3電極式の場合を説明したが、本発明はこれに限定されない。測定部20は、2電極式であってもよく、例えば作用電極と、参照電極を兼ねる対極とを備えて構成されてもよい。
【0062】
上述の実施形態では、アミロースおよびアミロペクチンの少なくとも1つの基質と、酸化剤であるグルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、電子メディエータとを予め混合した反応液Sを反応部10に収容する場合を説明したが、本発明はこれに限定されない。基質と酸化剤と電子メディエータとが混合した状態では、それぞれが反応することで反応液Sが劣化することがある。この点、例えば、基質、酸化剤および電子メディエータがそれぞれ別体として収容される、反応液Sの混合キットを使用することが好ましい。混合キットは、例えば、基質を含む溶液、酸化剤を含む溶液、そして電子メディエータを含む溶液がそれぞれ別々の容器に収容されて構成される。この混合キットによれば、任意のタイミングでそれぞれの容器から各溶液を供給し混合することで反応液Sを調製することができる。混合キットはそのまま反応部10に収容し、測定開始の段階でこれらを混合することで反応液Sとして調製するとよい。これにより、測定前の段階での反応液Sの劣化を抑制することができる。
【0063】
上述の実施形態では、対象成分として唾液に由来するアミラーゼを測定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。対象成分は、化学構造中にノイラミニダーゼを有する成分とすることもできる。このような成分としては、例えば、表面にノイラミニダーゼを有するインフルエンザウイルスや肺炎レンサ球菌などの病原体がある。これら成分の測定方法について以下に説明する。
【0064】
まず、病原体測定用反応液を準備する。この反応液は、溶媒と、第1物質であるシアリルラクトースおよびラクターゼと、第3物質であるグルコースオキシダーゼと、電子メディエータであるフェリシアン化カリウムとを混合し、調製することができる。
【0065】
この反応液を環境雰囲気に露出するように配置する。これにより、環境雰囲気に存在するエアロゾルを反応液に取り込む。このとき、エアロゾル中にインフルエンザウイルスが存在する場合、インフルエンザウイルスの表面に存在するノイラミニダーゼが、反応液中のシアリルラクトースとの反応により、ラクトースが生成する。このラクトースは、反応液中のラクターゼにより、グルコースとガラクトースとを生成する。そして、上述した実施形態と同様、グルコースオキシダーゼがグルコースの酸化に寄与することで還元され、この還元されたグルコースオキシダーゼを元の状態に戻す際に生じる酸化電電流値を測定する。この電流値に基づき、反応液にインフルエンザウイルスが取り込まれたかどうか、つまり環境雰囲気中でのインフルエンザウイルスの有無を測定することができる。このように、インフルエンザウイルスなどの化学構造中にノイラミニダーゼを含む化合物を選択的に、かつ容易に測定することができる。
【0066】
なお、病原体測定用反応液は、アミラーゼ測定用反応液と同様、予め混合した状態としてもよく、各成分を別体でそれぞれ収容し、混合キットの形態としてもよい。例えば、混合キットは、シアリルラクトースを含む溶液と、ラクターゼを含む溶液と、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つを含む溶液と、電子メディエータを含む溶液と、がそれぞれ別体として収容され、混合により上記反応液として調製されるように構成される。これにより、混合した状態での反応液の劣化を抑制することができる。
【0067】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様を付記する。
【0068】
(付記1)
雰囲気中のエアロゾルに含まれる対象成分を測定する方法であって、
(a)前記対象成分と反応を生じさせる第1物質を含む反応液を準備する工程と、
(b)前記反応液に前記エアロゾルを取り込ませ、前記対象成分と前記第1物質とを反応させ、第2物質を生成させる工程と、
(c)前記第2物質を第3物質の存在下で酸化または還元させる工程と、
(d)前記第2物質の酸化または還元に寄与することで変化した前記第3物質を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値に基づき、前記エアロゾルにおける前記対象成分の有無を評価する工程と、を有する、
エアロゾルの含有成分の測定方法。
【0069】
(付記2)
前記対象成分が、前記エアロゾルに含まれる唾液に由来するアミラーゼであり、
前記第1物質がアミロースおよびアミロペクチンの少なくとも1つであり、
前記(b)では、前記アミラーゼを含むエアロゾルを前記反応液に取り込ませ、前記アミラーゼにより前記第1物質を加水分解させ、前記第2物質としてグルコースを生成させ、
前記(c)では、前記グルコースを前記第3物質としての酸化剤の存在下で酸化させ、
前記(d)では、前記グルコースの酸化に寄与することで変化した前記酸化剤を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値に基づき、前記エアロゾルにおける前記アミラーゼの有無を判定する工程と、を有する、
付記1に記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【0070】
(付記3)
前記対象成分が、化学構造中にノイラミニダーゼを有する成分であり、
前記第1物質がシアリルラクトースおよびラクターゼであり、
前記(b)では、前記ノイラミニダーゼを有する成分を含むエアロゾルを前記反応液に取り込ませ、前記ノイラミニダーゼを前記シアリルラクトースによりラクトースに加水分解させるとともに、前記ラクターゼにより前記ラクトースから前記第2物質としてグルコースを生成させ、
前記(c)では、前記グルコースを前記第3物質としての酸化剤の存在下で酸化させ、
前記(d)では、前記グルコースの酸化に寄与することで変化した前記酸化剤を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値に基づき、前記エアロゾルにおける前記アミラーゼの有無を判定する工程と、を有する、
付記1に記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【0071】
(付記4)
前記ノイラミニダーゼを有する成分が、インフルエンザウイルスおよび肺炎レンサ球菌の少なくとも1つである、
付記3に記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【0072】
(付記5)
前記(b)では、前記反応液を環境雰囲気に露出するように配置する、
付記1~付記4のいずれか1つに記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【0073】
(付記6)
前記反応液が電子メディエータをさらに含み、
前記(d)では、電子メディエータの存在下で、前記変化した第3物質を電気化学的手法により元の状態に戻す、
付記1~付記5のいずれか1つに記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【0074】
(付記7)
前記反応液は、前記第1物質を前記対象成分に対して過剰量となるように含む、
付記1~付記6のいずれか1つに記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【0075】
(付記8)
前記反応液は、前記電子メディエータを前記対象成分に対して過剰量となるように含む。
付記6に記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【0076】
(付記9)
前記(b)は、前記第2物質の生成量が前記対象成分よりも多くなるまで行う。
付記1~付記8のいずれか1つに記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【0077】
(付記10)
前記(d)では、前記電流値の閾値を設定し、所定の閾値に基づいて環境雰囲気の良否を判定する、
付記1~付記9のいずれか1つに記載のエアロゾルの含有成分の測定方法。
【0078】
(付記11)
雰囲気中のエアロゾルに含まれる対象成分を測定する装置であって、
前記対象成分と反応を生じさせる第1物質を含む反応液を収容するとともに、前記反応液に前記エアロゾルを取り込むように構成される反応部と、
前記反応液を電気化学的手法により測定する測定部と、
前記測定部での結果に基づき、前記エアロゾルにおける前記対象成分の有無を判定する判定部と、を備え、
前記反応部では、前記反応液に前記エアロゾルを取り込んだときに、前記対象成分と前記第1物質との反応により第2物質を生成させ、前記第2物質を第3物質の存在下で酸化または還元させ、
前記測定部では、前記反応液において、前記第2物質の酸化または還元に寄与することで変化した前記第3物質を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値を測定する、
エアロゾルの含有成分の測定装置。
【0079】
(付記12)
前記対象成分が、前記エアロゾルに含まれる唾液に由来するアミラーゼであり、
前記第1物質がアミロースおよびアミロペクチンの少なくとも1つであり、
前記反応部では、前記第1物質とアミラーゼとの反応により前記第2物質としてグルコースを生成させ、前記グルコースを、前記第3物質としての酸化剤の存在下で酸化させ、
前記測定部では、前記グルコースの酸化に寄与することで変化した前記酸化剤を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値を測定し、
前記判定部では、前記電流値に基づき、前記エアロゾルにおける前記アミラーゼの有無を評価する、
付記11に記載のエアロゾルの含有成分の測定装置。
【0080】
(付記13)
前記対象成分が、化学構造中にノイラミニダーゼを有する成分であり、
前記第1物質がシアリルラクトースおよびラクターゼであり、
前記反応部では、前記ノイラミニダーゼと前記シアリルラクトースとの反応によりラクトースを生成させるとともに、前記ラクトースと前記ラクターゼとの反応により前記第2物質としてグルコースを生成させ、前記グルコースを、前記第3物質としての酸化剤の存在下で酸化させ、
前記測定部では、前記グルコースの酸化に寄与することで変化した前記酸化剤を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値を測定し、
前記判定部では、前記電流値に基づき、前記エアロゾルにおける前記アミラーゼの有無を評価する、
付記11に記載のエアロゾルの含有成分の測定装置。
【0081】
(付記14)
前記ノイラミニダーゼを有する成分が、インフルエンザウイルスおよび肺炎レンサ球菌の少なくとも1つである、
付記13に記載のエアロゾルの含有成分の測定装置。
【0082】
(付記15)
前記反応部は、前記反応液を環境雰囲気に露出するように構成される、
付記11~付記14のいずれか1つに記載のエアロゾルの含有成分の測定装置。
【0083】
(付記16)
前記反応液は、電子メディエータをさらに含み、
前記測定部は、前記電子メディエータの存在下で、前記変化した第3物質を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値を測定する。
付記11~付記15のいずれか1つに記載のエアロゾルの含有成分の測定装置。
【0084】
(付記17)
前記反応部は、前記第2物質の生成量が前記対象成分よりも多くなるまで、前記対象成分と前記第1物質とを反応させる。
付記11~付記16のいずれか1つに記載のエアロゾルの含有成分の測定装置。
【0085】
(付記18)
エアロゾルに含まれるアミラーゼを測定するための反応液であって、
アミロースおよびアミロペクチンの少なくとも1つと、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、電子メディエータと、を含む、
アミラーゼ測定用反応液。
【0086】
(付記19)
エアロゾルに含まれるアミラーゼを測定するための反応液を調製する混合キットであって、
アミロースおよびアミロペクチンの少なくとも1つと、
グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、
電子メディエータと、がそれぞれ別体として収容され、混合により前記反応液として調製されるように構成される、
アミラーゼ測定用反応液の混合キット。
【0087】
(付記20)
エアロゾルに含まれる病原体を測定するための反応液であって、
前記病原体が、化学構造中にノイラミニダーゼを有するインフルエンザウイルスおよび肺炎レンサ球菌の少なくとも1つであり、
シアリルラクトースと、ラクターゼと、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、電子メディエータと、を含む、
病原体測定用反応液。
【0088】
(付記21)
エアロゾルに含まれる病原体を測定するための反応液を調製する混合キットであって、
前記病原体が、化学構造中にノイラミニダーゼを有するインフルエンザウイルスおよび肺炎レンサ球菌の少なくとも1つであり、
シアリルラクトースと、ラクターゼと、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの少なくとも1つと、電子メディエータと、がそれぞれ別体として収容され、混合により前記反応液として調製されるように構成される、
病原体測定用反応液の混合キット。
【符号の説明】
【0089】
1 測定装置
10 反応部
20 測定部
21 作用電極
22 対極
23 参照電極
24 電位掃引部
25 電流測定部
30 判定部
31 判定処理部
32 記憶部
40 制御部
S 反応液
【要約】
【課題】雰囲気中のエアロゾルの含有成分を簡易かつ精度よく測定する。
【解決手段】雰囲気中のエアロゾルに含まれる対象成分を測定する方法であって、(a)対象成分と反応を生じさせる第1物質を含む反応液を準備する工程と、(b)反応液にエアロゾルを取り込ませ、対象成分と第1物質とを反応させ、第2物質を生成させる工程と、(c)第2物質を第3物質の存在下で酸化または還元させる工程と、(d)第2物質の酸化または還元に寄与することで変化した第3物質を電気化学的手法により元の状態に戻すことで生じる電流値に基づき、エアロゾルにおける対象成分の有無を評価する工程と、を有する、エアロゾルの含有成分の測定方法である。
【選択図】
図1