(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】成分勾配無機層を有するフィルム、その製造方法およびディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20240516BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240516BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240516BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20240516BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20240516BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240516BHJP
【FI】
C23C14/06 E
C23C14/06 P
C23C14/34 M
G09F9/00 302
H05B33/02
H05B33/10
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2022164305
(22)【出願日】2022-10-12
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】10-2021-0144833
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520287378
【氏名又は名称】エスケーマイクロワークス ソリューションズ 株式会社
【氏名又は名称原語表記】SK microworks solutions Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】112, Seonggeo-gil, Seonggeo-eup, Seobuk-gu, Cheonan-si,Chungcheongnam-do 31044, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨンウク
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジョンホ
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-104163(JP,A)
【文献】特開2006-289821(JP,A)
【文献】特開2002-197924(JP,A)
【文献】特開2014-111830(JP,A)
【文献】特開2009-234057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
C23C 14/34
G09F 9/00
H10K 59/10
H05B 33/02
H10K 50/10
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムであって、
基材層と、
前記基材層の一面上に配置される第1無機層とを含み、
前記第1無機層が、シリコンオキシカーバイド(SiO
xC
y)を含むが、厚さ方向に酸素含有率と炭素含有率とが変化し、
前記第1無機層が、
前記基材層に対向する第1面と、
前記第1面とは反対面である第2面とを有し、
前記第1面から前記第2面に到達するにつれ、酸素含有率がだんだん減少し、炭素含有率がだんだん増加し、
前記フィルムは、下記式で定義されるTxyが40%~60%である、フィルム。
Txy(%)=[(T0-T1)/T0]×100
ここで、
T0は、前記第1無機層の厚さ(nm)であり、
T1は、前記第2面から前記第1面に到達するまで厚さ方向にSIMS(secondary ion mass spectrometry)による成分分析の際に、炭素に対する酸素の原子比(x/y)が2と測定されたポイントの深さ(nm)である。
【請求項2】
前記第1面における酸素(O):炭素(C)の原子比は1.5~1.9:0.1~0.5であり、前記第2面における酸素(O):炭素(C)の原子比は0.05~0.1:0.8~0.9である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記第1無機層の第2面から第1面に到達するまで厚さ方向にSIMSによる成分分析の際に、測定深さが10nmずつ増加するにつれ、前記第2面の炭素含有量に対して4%~8%ずつ炭素含有量が減少する、請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
前記フィルムは、長さ15cmおよび幅2.54cmのサイズに裁断し、常温条件にて、前記基材層が内側にフォルディングされながら2Rの曲率半径となるように2秒当たり1回の速度で繰り返しフォルディングテストする際に、層間剥離またはクラックが発生するまでのフォルディング回数が4万回以上であり、全光線透過率が85%以上であり、
JIS-5400規格に基づいて500g荷重および0.5mm/secの条件で測定した鉛筆硬度が4H以上であり、
100℃の温水に30分間浸漬した後、ISO2409規格に基づくクロスカットテスト結果が100/95以上である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
前記フィルムは、前記第1無機層とは異なる屈折率を有する第2無機層をさらに含み、
前記第2無機層は、Li、Al、K、Ti、V、Cr、Mn、Co、Zn、Sr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、およびCsからなる群より選択された1種以上の成分が酸素と結合された無機物を含み、
前記第1無機層および前記第2無機層は、それぞれ10nm~500nmの厚さを有し、
前記第1無機層および前記第2無機層は交互に配置され、
前記フィルムの反射率が5%以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
基材層の一面上にシリコンオキシカーバイド(SiO
xC
y)を含む第1無機層を蒸着する段階を含むが、
前記第1無機層内で厚さ方向に酸素含有率および炭素含有率が変化するように形成する、請求項1に記載のフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記蒸着は、反応プラズマスパッタリングによって行われ、
ターゲットとして炭化シリコン(SiC)を用い、
反応ガスとして酸素ガスを用い、放電ガスとしてアルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、またはキセノンガスを用い、
前記反応プラズマスパッタリングは、前記基材層を連続的に移送しながら前記基材層の移送方向の第1位置および第2位置で注入する反応ガスの量を異に調節する、請求項6に記載のフィルムの製造方法。
【請求項8】
ディスプレイパネルと、
前記ディスプレイパネルの前面上に配置されるウィンドウと、
前記ウィンドウの表面上に配置される保護フィルムと、を含み、
前記保護フィルムは、
基材層と、
前記基材層の一面上に配置される第1無機層と、を含み、
前記第1無機層がシリコンオキシカーバイド(SiO
xC
y)を含むが、厚さ方向に酸素含有率および炭素含有率が変化する、ディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実現例は、成分勾配無機層を有するフィルム、その製造方法およびディスプレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ技術は、IT機器の発達に伴う需要に支えられて発展し続けており、カーブド(curved)ディスプレイ、ベンデッド(bended)ディスプレイなどの技術はすでに商用化されている。近年、大画面と携帯性とが同時に求められるモバイル機器分野において、外力に応じて柔軟に曲がったりフォルディング(folding)されたりし得る、フレキシブルディスプレイ(flexible display)装置が好まれている。特に、フォルダブル(foldable)ディスプレイ装置は、使用しないときは折りたたんで小さくして携帯性を高め、使用するときは広く広げて大画面を実現できることが大きな利点である。
【0003】
これらのフレキシブルディスプレイ装置には、透明ポリイミドフィルムまたは超薄型ガラス(UTG)をウィンドウとして適用しているが、透明ポリイミドフィルムは外部のスクラッチに脆弱で、水分や酸素に対するバリア性に足りず、超薄型ガラスは飛散防止特性に脆弱な問題がある。これにより、ウィンドウの表面に耐スクラッチ性と耐透湿性に優れた金属酸化物または金属窒化物のような無機物薄膜を備える保護フィルムが適用されている。また、最近では、ディスプレイの前面に外部光が反射して視認性を低下させることを防止するために、ディスプレイ装置の前面に適用されるフィルムの反射率を下げる表面処理技術が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、シリコンオキシド層およびインジウムスズ酸化物層を交互に積層して反射防止効果を有しつつ、表面に緻密な炭素系薄膜を蒸着して、耐スクラッチ性を与えたフィルムを開示している。しかしながら、前記フィルムは、耐スクラッチ性向上のために炭素系薄膜を別途蒸着して工程が煩わしく、透明性も低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フォルダブルディスプレイ装置のウィンドウに適用される保護フィルムに、基材との接合性と透明性に優れたSiOx薄膜を適用したり、耐スクラッチ性に優れたSiCy薄膜を適用したりすることが開発されているが、SiOx薄膜は耐スクラッチ性に足りず、SiCy薄膜は透明性に足りないという欠点がある。
【0007】
これを解決するべく、SiOx薄膜とSiCy薄膜とを組み合わせて適用するか、または酸素と炭素との比を適切に調節したSiOxCy薄膜を適用することが試みられているが、薄膜の数が多くなると、フォルディングの際に層間剥離が発生する可能性が高くなり、これまで知られているSiOxCy薄膜の場合、SiOx薄膜およびSiCy薄膜の利点を十分に発揮してはいない。
【0008】
そこで、本研究の結果、SiOxCy薄膜中の酸素比と炭素比とを厚さ方向に異に調節することにより、SiOx薄膜とSiCy薄膜との利点を効果的に提供するフィルムを実現することができた。また、このようなフィルムは、反応プラズマスパッタリングのような蒸着工程にロールツーロール方式を適用しながら、前段と後段の反応ガス注入量を異に調節する方法により、効率良く製造することができた。
【0009】
したがって、実現例の課題は、光学特性、耐スクラッチ性およびフォルディング特性に優れ、フォルダブルディスプレイ装置のウィンドウ保護に使用され得るフィルム、その製造方法およびそれを含むディスプレイ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実現例によると、基材層と、前記基材層の一面上に配置される第1無機層とを含むフィルムであって、前記第1無機層がシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)を含み、厚さ方向に酸素含有率および炭素含有率が変化する、フィルムが提供される。
【0011】
他の実現例によると、基板層の一面上にシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)を含む第1無機層を蒸着する段階を含み、前記第1無機層内で厚さ方向に酸素含有率および炭素含有率が変化するように形成する、フィルムの製造方法が提供される。
【0012】
また他の実現例によると、ディスプレイパネルと、前記ディスプレイパネルの前面上に配置されるウィンドウと、前記ウィンドウの表面上に配置される保護フィルムと、を含むディスプレイ装置であって、前記保護フィルムが前記実現例によるフィルムを含む、ディスプレイ装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
前記実現例によるフィルムは、シリコンオキシカーバイド(SiOxCy)を含む無機層の厚さ方向に、酸素含有率と炭素含有率とを異に調節することにより、SiOx薄膜とSiCy薄膜との利点を効果的に提供するとともに、これら2種の薄膜が組み合わされた従来のフィルムに比べてフォルディング耐久性に優れる。
【0014】
具体的に、シリコンオキシカーバイド(SiOxCy)を含む無機層の両面のうち、基材層との接合面に酸素含有率を高め、その反対面には炭素含有率を高めることにより、基材層との接合力と透明性とを高めながら、表面に耐スクラッチ性を与えることができ、このような無機層を単一層に実現し得る。また、前記無機層とは屈折率の異なる層を組み合わせた積層構成により、反射防止機能をも提供し得る。
【0015】
特に、前記実現例によるフィルムは、反応プラズマスパッタリングのような周知の蒸着工程にロールツーロール式を適用しながら、前段と後段の反応ガス注入量を異に調節する方法により、効率良く製造され得る。
【0016】
したがって、前記実現例によるフィルムは、フォルダブルディスプレイ装置を始め、光学特性、屋外視認性、耐スクラッチ性、およびフォルディング特性を求める様々な製品に保護フィルムなどの用途として適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、一実現例によるフィルムの断面図を示すものである。
【
図2】
図2は、他の実現例によるフィルムの断面図を示すものである。
【
図3】
図3は、一実現例によるフィルムの製造方法を示すものである。
【
図4】
図4は、他の実現例によるフィルムの製造方法を示すものである。
【
図5】
図5は、一実現例のフィルムにおける無機層の深さによるSIMS結果を示すものである。
【
図6】
図6は、フィルムサンプルに対するフォルディングテストの一例を示すものである。
【
図7】
図7は、一実現例によるディスプレイ装置の分解斜視図を示すものである。
【
図8a】
図8aは、アウトフォルディングタイプのフレキシブルディスプレイ装置を示すものである。
【
図8b】
図8bは、インフォルディングタイプのフレキシブルディスプレイ装置を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、様々な実現例および実施例を、図面を参照して具体的に説明する。
実現例を説明するにおいて、関連する公知の構成または機能に関する具体的な説明が、実現例の要旨を不明瞭にし得ると判断される場合には、その詳細な説明を省略する。また、図面における各構成要素の大きさは、説明のために誇張または省略されることがあり、実際に適用される大きさとは異なり得る。
【0019】
本明細書において、ある構成要素が他の構成要素の上/下に形成されるか、もしくは互いに連結または結合されるという記載は、これらの構成要素間に直接または他の構成要素を介して間接的に形成、連結または結合されることを全て含む。また、各構成要素の上/下に関する基準は、対象を観察する方向に応じて変わり得るものと理解されるべきである。
【0020】
本明細書において各構成要素を指す用語は、他の構成要素と区別するために使用されるものであり、実現例を限定することを意図するものではない。また、本明細書において単数の表現は、文脈上明らかに異なる意味を指さない限り、複数の表現を含む。
【0021】
本明細書において第1、第2などの用語は、様々な構成要素を説明するために使用されるものであり、前記構成要素は前記用語によって限定されるべきではない。前記用語は、ある構成要素を他の構成要素と区別する目的で使用される。
【0022】
本明細書において「含む」という記載は、特定の特性、領域、段階、工程、要素および/または成分を具体化するためのものであり、特に反する記載がない限り、他の特性、領域、段階、工程、要素および/または成分の存在や付加を除外するものではない。
【0023】
[成分勾配無機層を有するフィルム]
図1は、一実現例によるフィルムの断面図を示す。
【0024】
図1を参照すると、一実現例によるフィルム10は、基材層100と、前記基材層100の一面上に配置される第1無機層210とを含む。
【0025】
前記フィルムは、前記第1無機層を1つまたは2つ以上含み得る。
前記第1無機層は、前記基材層の一面上に形成され、シリコンオキシカーバイド(SiOxCy)を含む。
【0026】
前記シリコンオキシカーバイド(SiOxCy)においてシリコン(Si)原子は、炭素(C)および酸素(O)原子と連続的に結合したネットワーク構造を有し得る。これにより、前記第1無機層はガラス質(glassy)材料の特性を有し得る。また、前記第1無機層は、多結晶(polycrystal)構造または無定形(amorphous)構造を有し得る。
【0027】
前記シリコンオキシカーバイド(SiOxCy)の組成は、様々な方法により測定されることができ、一例としてSIMS(secondary ion mass spectrometry)によって測定され得る。なお、xおよびyは、それぞれシリコン(Si)を基準とした酸素(O)と炭素(C)との相対的な原子比に該当し、これは原子数の比または原子モルの比を意味する。
【0028】
例えば、前記シリコンオキシカーバイド(SiOxCy)において、シリコンに対する酸素の原子比(x)は0~2であり、シリコンに対する炭素の原子比(y)は0~1であり得る。また、前記第1無機層の組成(SiOxCy)において、理論的にはx=2(1-y)の関係を有し得るが、これに特に限定されない。つまり、実際の分析結果は理論値と差を有することがあり、例えばxおよびyがそれぞれ理論値と±15%以内の差、具体的に±10%以内の差、より具体的に±5%以内の差を有し得る。
【0029】
図1を参照すると、前記第1無機層210は、厚さT方向に酸素含有率および炭素含有率が変化する。前記実現例によるフィルムは、前記シリコンオキシカーバイド(SiO
xC
y)を含む第1無機層の厚さ方向に、酸素含有率と炭素含有率とを異に調節することにより、SiO
x薄膜とSiC
y薄膜との利点を効果的に提供するとともに、これら2種の薄膜が組み合わされた従来のフィルムに比べてフォルディング耐久性に優れる。
【0030】
図1を参照すると、前記第1無機層210は、基材層100に対向する第1面211と、第1面211とは反対面である第2面212とを有する。一実現例によると、シリコンオキシカーバイド(SiO
xC
y)を含む前記第1無機層において、前記第1面から前記第2面に到達するにつれ、酸素(O)含有率がだんだん減少し、炭素(C)含有率の比がだんだん増加し得る。
【0031】
これにより、前記第1面は、前記第2面よりも酸素比が高いのに対し、炭素比は低くあり、具体的に、前記第1面は、前記第1無機層において酸素比が最も高く炭素比が最も低いので、SiOxと類似の特性を示し得る。さらに、前記第2面は、前記第1面よりも炭素比が高いのに対して酸素比は低くあり、具体的に、前記第2面は、前記第1無機層において炭素比が最も高く酸素比が最も低いので、SiCyと類似の特性を示し得る。
【0032】
前記第1面におけるシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)は、シリコンに対する酸素の原子比(x)が、例えば1.0以上、1.3以上、1.5以上、または1.6以上であり、また、2.0未満、1.9以下、1.8以下、または1.7以下であり得る。さらに、前記第1面におけるシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)は、シリコンに対する炭素の原子比(y)が、例えば0以上、0越、0.01以上、0.1以上、または0.2以上であり、また0.5以下、0.4以下、または0.3以下であり得る。
【0033】
一方、前記第2面におけるシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)は、シリコンに対する酸素の原子比(x)が、例えば0以上、0.01以上、0.05以上、または0.07以上であり、また、0.5以下、0.3以下、0.2以下、または0.1以下であり得る。さらに、前記第2面におけるシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)は、シリコンに対する炭素の原子比(y)が例えば0.5以上、0.6以上、0.7以上、または0.8以上であり、また、1以下、1未満、0.95以下、または0.9以下であり得る。
【0034】
一例として、前記第1面において、シリコンオキシカーバイド(SiOxCy)の酸素(O):炭素(C)の原子比(x:y)は1.5~1.9:0.1~0.5であり、前記第2側面において、シリコンオキシカーバイド(SiOxCy)の酸素(O):炭素(C)の原子比(x:y)は、0.05~0.1:0.8~0.9であり得る。前記原子比とは、原子の個数比のことを意味し、原子モル比と同様の意味で解釈され得る。
【0035】
具体的な一例として、前記第1面におけるシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)は、Si:O:Cの原子比が1:1.5~1.9:0.1~0.5であり、前記第2面におけるシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)は、Si:O:Cの原子比が1:0.05~0.1:0.8~0.9であり得る。
【0036】
このように、前記フィルムの無機層は、第1面(基材層との接合面)の酸素比が高いため、基材層との接合力が向上して、フォルディング耐久性および透明性を高めることができ、第2面(外郭面)の炭素比が高いため、表面に耐スクラッチ性を与えることができ、このような互いに異なる2つの特性を単一層で実現し得る。
【0037】
図5は、一実現例のフィルムにおける第1無機層の深さによるSIMS結果を示す。
図5に示すように、一実現例によるフィルムの第1無機層は、厚さ方向に酸素(O)の割合(x)および炭素(C)の割合(y)がだんだん増加または減少する成分勾配を有し、具体的に、第1無機層の深さ(
図5においてx軸値)が増加するにつれ、炭素のモル含有量(
図5において実線曲線のy軸値)の変化量に対して、概ね2倍の酸素のモル含有量(
図5において破線曲線のy軸値)の変化量を示す。
【0038】
前記フィルムの第1無機層において増減変化の中間であるポイント(すなわち、炭素に対する酸素の原子比(x/y)が概ね2に達するポイント)が存在し(
図5において2つの曲線が交差する点にT1で表示される)、このようなポイントの深さ(第1無機層の厚さに対する%)は、下記式のTxyで定義され得る。下記式で定義されるTxyは、例えば、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、または50%以上であり、また、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、または50%以下であり得る。一例として、下記式で定義されるTxyは、30%~70%であり得る。具体的に、下記式で定義されるTxyは40%~60%であり得る。
Txy(%)=[(T0-T1)/T0]×100
ここで、T0は前記第1無機層の厚さ(nm)であり、T1は前記第2面から前記第1面に到達するまで厚さ方向にSIMSによる成分分析の際、炭素に対する酸素の原子比(x/y)が2と測定されたポイントの深さ(nm)である。
【0039】
Txyが前記好ましい範囲内であるとき、基材層と第1無機層との間の接合力が制御され層間剥離が起こらないので、フォルディング性に優れながらも表面硬度に優れ、耐スクラッチ性が向上することにより、フォルダブルディスプレイ装置の保護フィルムとして、より好適に実現され得る。これに対し、Txyが前記好ましい範囲から外れると、特定の成分が一方の表面に片寄られフィルムの耐久性が低調となり得る。
【0040】
また、
図5に示すように、前記第1無機層の深さに応じて、炭素および酸素の含有量がそれぞれ一定範囲の比で増加または減少し得る。
【0041】
一例として、前記第2面(外郭面)から前記第1面(基材層との接合面)に到達するまで、炭素(C)の含有量が一定範囲の比で減少し得る。具体的に、前記第1無機層の第2面から第1面に到達するまで厚さ方向にSIMSによる成分分析の際に、測定深さが10nmずつ増加するにつれ前記第2面の炭素(C)含有量に対して4%~8%ずつ炭素(C)含有量が減少し得る。
【0042】
他の例として、前記第2面(外郭面)から前記第1面(基材層との接合面)に到達するまで、酸素(O)の含有量が一定範囲の比で増加し得る。具体的に、前記第1無機層の第2面から第1面に到達するまで厚さ方向にSIMSによる成分分析の際に、測定深さが10nmずつ増加するにつれ前記第2面の酸素(O)含有量に対して4%~8%ずつ酸素(O)含有量が増加し得る。
【0043】
前記第1無機層の厚さは、5nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上、50nm以上、または100nm以上であり、さらに、1000nm以下、500nm以下、300nm以下、200nm以下、または150nm以下であり得る。一例として、前記第1無機層は10nm~500nmの厚さを有し得る。
【0044】
[第2無機層]
図2は、他の実現例によるフィルムの断面図を示す。
図2を参照すると、他の実現例によるフィルム10は、前記第1無機層210とは異なる屈折率を有する第2無機層220をさらに含む。
【0045】
前記第2無機層の屈折率は、前記第1無機層の屈折率よりも高いか、または低くあり得る。具体的に、前記第2無機層の屈折率は、前記第1無機層の屈折率よりも高くあり得る。
【0046】
前記第2無機層は、1種以上の無機成分を含むことができ、例えば、Li、Al、K、Ti、V、Cr、Mn、Co、Zn、Sr、Nb、Mo、In、Sn、SbおよびCsからなる群より選択された成分を1種以上含み得る。
【0047】
前記無機成分は、酸素と結合した酸化物の形態で前記無機層に含まれ得る。例えば、前記第2無機層は、Li、Al、K、Ti、V、Cr、Mn、Co、Zn、Sr、Nb、Mo、In、Sn、SbおよびCsからなる群より選択された1種以上の成分が酸素と結合した無機物を含み得る。具体的に、前記第2無機層はそれぞれ、Nb、Ti、Zn、Si、In、Sn、およびCsからなる群より選択された1種以上の成分が酸素と結合した無機物を含み得る。より具体的に、前記第2無機層は、酸化ニオブ(NbO、NbO2、Nb2O5)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、および酸化インジウムスズ(ITO)からなる群より選択された無機物を含み得る。
【0048】
前記第2無機層の厚さは、5nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上、50nm以上、または100nm以上であり、さらに1000nm以下、500nm以下、300nm以下、200nm以下、または150nm以下であり得る。一例として、前記第2無機層は、10nm~500nmの厚さを有し得る。
【0049】
前記実現例によるフィルムは、前記第1無機層および前記第2無機層をそれぞれ1つまたは2つ以上含み、前記第1無機層および前記第2無機層は互いに交互に配置され得る。これにより、これらの無機層の屈折率の組み合わせにより反射防止機能を与え得る。
【0050】
例えば、前記フィルムの積層構成の例示は以下の通りである。
基材層/第1無機層/第2無機層;
基材層/第1無機層/第2無機層/第1無機層;
基材層/第1無機層/第2無機層/第1無機層/第2無機層/第1無機層;および
基材層/第1無機層/第2無機層/第1無機層/第2無機層/第1無機層/第2無機層/第1無機層。
【0051】
例えば、このように前記第1無機層と前記第2無機層とが交互に配置されたフィルムの反射率は、可視光の全波長帯域において5%以下であり得る。具体的に、前記フィルムは、可視光の全波長帯域において4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下の反射率を有し得る。
【0052】
前記第1無機層および前記第2無機層は、それぞれの無機物の蒸着によって形成され、これにより前記第1無機層および前記第2無機層は無機物蒸着層であり得る。
【0053】
前記フィルムに備えられる無機層の数は、1個、2個以上、3個以上、または5個以上であり、具体的に1個~10個、2個~8個、または4個~6個であり得る。
【0054】
[基材層]
前記基材層は、前記無機層を支持する役割を果たし、製造工程中に無機物が蒸着される基材としての役割をする。
【0055】
前記基材層は、柔軟性を有するものが連続的なロールツーロール工程に有利であり、材質の面で特に限定されない。例えば、前記基材層は柔軟性を有する高分子フィルムであり得る。
【0056】
前記基材層は、高分子樹脂を含み得る。例えば、前記基材層は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミド-イミド(PAI)、およびポリエチレンイミン(PEI)からなる群より選択される1種以上を含み得る。
【0057】
前記基材層は、透明なフィルムであり得る。例えば、前記基材層の可視光線透過率は85%以上、具体的に95%以上であり得る。
【0058】
前記基材層の厚さは10μm~500μmであり、具体的に10μm~200μm、20μm~100μm、または30μm~80μmであり得る。
【0059】
また、前記フィルムは、前記基材層の他面(すなわち、第1無機層が形成された面とは反対側の面)に接着層が形成され得る。例えば、前記接着層は、光学的に透明な接着剤を含み得る。
【0060】
[フィルムの特性および用途]
前記実現例によるフィルムは、光透過率が高く耐スクラッチ性に優れ、ディスプレイ装置のウィンドウに保護フィルムとして好適である。
【0061】
前記実現例によるフィルムは、全光線透過率が85%以上であり得る。例えば、前記フィルムの光透過率は88%以上、または90%以上であり、具体的に85%~99%、90%~99%、または95%~99%であり得るが、これに限定されるものではない。
【0062】
また、前記フィルムは、JIS-5400規格に基づいて、500g荷重および0.5mm/secの条件で測定した鉛筆硬度が4H以上、または5H以上であり得る。前記鉛筆硬度測定は、前記フィルムにおいて基材層の反対面、すなわち前記第1無機層(または前記第2無機層)に対して行われ得る。
【0063】
また、前記実現例によるフィルムは、基材層と無機層との間の接合力およびフォルディング耐久性に優れ、フレキシブルディスプレイ装置、具体的にフォルダブルディスプレイ装置のウィンドウに保護フィルムとして適用され、繰り返しフォルディングの際にも優れた性能が維持され得る。
【0064】
一例として、前記フィルムは、100℃の温水に30分間浸漬した後、ISO2409規格によるクロスカットテスト結果が100/90以上(すなわち、100個の格子単位のうち90個以上の格子単位において剥片または剥離が発生しない)であり、具体的に100/95以上、または100/97以上であり得る。
【0065】
また、前記フィルムは、長さ15cmおよび幅2.54cmの大きさで裁断し、常温条件で、前記基材層が内側にフォルディングされながら2Rの曲率半径となるように2秒当たり1回の速度で繰り返しフォルディングテストをする際に、層間剥離またはクラックが発生するまでのフォルディング回数が4万回以上であり得る。例えば、前記フォルディング回数は、4万回以上、6万回以上、または8万回以上であり得る。
図6は、フィルムサンプルに対するフォルディングテストの一例を示す。
図6を参照して、フォルディング試験機3上にフィルムサンプル10aを固定し、一定のフォルディング速度(回/秒)および曲率(R)条件で繰り返しフォルディングしながら、層間剥離やクラックが発生するか否かを確認し得る。
【0066】
[フィルムの製造方法]
一実現例によるフィルムの製造方法は、基材層の一面上にシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)を含む第1無機層を蒸着する段階を含む。
【0067】
前記蒸着は、物理的蒸着によって行われ得る。具体的に、前記蒸着は、スパッタリングによって行われ得る。より具体的に、前記蒸着は、反応プラズマスパッタリング(reactive plasma sputtering)によって行われ得る。前記プラズマは、アーク放電プラズマまたはグロー放電プラズマであり得る。
【0068】
図3は、一実現例によるフィルムの製造方法を示す。
図3を参照して、基材層100をアノード(anode)またはグランド(GND)電極に取り付け、ターゲット300をカソード(cathode)電極に取り付けた後、放電ガス501を注入しながら放電出力を印加する。その後、放電ガス501がイオンと電子とに分離されたプラズマ600状態が発生する。前記放電ガスイオンがターゲット300に当たってスパッタリングすることによりターゲット物質を脱離させ、脱離したターゲット物質は反応ガスと反応して酸化物の形態で基材層の表面に蒸着されるか、または反応なしに基材層表面に蒸着される。前記カソード電極には交流式の電源が供給され、この場合、前記ターゲット300は2つ(図中破線で区切られている)に二分されて前記カソード電極に取り付けられ得る。
【0069】
前記スパッタリングにおいて、ターゲットとして炭化シリコン(SiC)を用い、反応ガスとして酸素ガスを用い、放電ガスとしてアルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、またはキセノンガスを用い得る。前記反応ガスは、例えば5sccm~20sccm、または10sccm~15sccmの量で注入し得る。また、前記放電ガスは200sccm~1000sccmの流量で注入し得る。
【0070】
一実現例によると、前記第1無機層内で厚さ方向に酸素含有率および炭素含有率が変化するように形成する。
【0071】
前記反応プラズマスパッタリングは、前記基材層を連続的に移送しながら、前記基材層の移送方向の第1位置および第2位置において、注入する反応ガスの量を異に調節し得る。
【0072】
図3を参照して、ターゲット300をスパッタリングして基材層100の一面にSiO
xC
yを含む第1無機層210を蒸着させる工程において、ターゲット300と反応する放電ガス501および反応ガス502を噴射する第1ノズル401と第2ノズル402とが、蒸着材料300を挟んで離間して位置し、前記スパッタリングの際、基材層100の一面の蒸着しようとする部位が、前記第1ノズル401に対向する位置と前記第2ノズル402に対向する位置とを順次通過するように基材層100を移送しながら、前記第1ノズル401と前記第2ノズル402とから噴射される反応ガス502の流量を互いに異に調節し得る。
【0073】
これにより、前記スパッタリングによって基材層100上に蒸着される粒子は、反応ガス502である酸素ガス(O2)と前記ターゲット300から放出されたSiCとが反応して生成された酸素比の高い粒子201と、前記反応ガスと反応しないため炭素比の高い粒子202とを含むことになる。例えば、このように酸素比の高い粒子201と炭素比の高い粒子202とは、前記第1ノズル401に対向する位置と前記第2ノズル402に対向する位置とにおいて互いに異なる割合で前記基材層100の一面に蒸着され得る。
【0074】
具体的に、前記基材層が前記第1位置および前記第2位置の順に移送され、前記第1位置で注入する反応ガスの量が、前記第2位置で注入する反応ガスの量よりも多くあり得る。
【0075】
図3に示すように、第1ノズル401は、第2ノズル402よりも反応ガス502をより多い流量で噴射し得る。例えば、前記第1ノズルは前記反応ガスを200sccm~400sccmの流量で噴射し、前記第2ノズルは前記反応ガスを0sccm~100sccmの流量で噴射し得る。この場合、第1ノズル401に対向する位置で酸素比の高い粒子201を蒸着され、第2ノズル402に対向する位置で炭素比の高い粒子202が蒸着され得る。
【0076】
図3を参照して、一例によると、第1ノズル401は反応ガス502を噴射し、第2ノズル402は反応ガスを噴射しなくて良く、この場合、前記反応ガス502は前記第1ノズル401から噴射され近傍に拡散され得る。すなわち、前記反応ガス502は、前記第1ノズル401に対向する位置で最も高い分圧を示し、前記第1ノズル401に対向する位置から離れるほどだんだん低い分圧を示し得る。これにより、前記第1ノズル401に対向する位置では、ターゲット300から離脱したSiCと反応ガス502との間の反応が最も活発に起こり、前記第2ノズル402に対向する位置では、ターゲット300から離脱したSiCと反応ガス502との間の反応が最も少なく起こり得る。
【0077】
その結果、第1ノズル401に対向する位置では、反応により生成された酸素比の高い粒子201の蒸着が最も活発に起こり、第2ノズル402に対向する位置では、未反応の炭素比の高い粒子202の蒸着が最も活発に起こり得る。
【0078】
この際、前記基材層100が前記第1ノズル401に対向する位置および前記第2ノズル402に対向する位置に順次通過しながら蒸着が行われるので、蒸着初期には前記酸素比の高い粒子201が主に蒸着され、その後だんだんと酸素比の高い粒子201の蒸着率が減少しながら、その代わりに炭素比の高い粒子202の蒸着率が徐々に増加するようになる。
【0079】
これにより、蒸着された第1無機層210は、断面において厚さ方向に基材層100に近いほど酸素含有率が大きく、逆に基材層100から離れるほど炭素含有率が増加することとなる。
【0080】
前記第1無機層は、前記基材層上に2層以上蒸着され、そのために前述した蒸着を2回以上行い得る。このために、基材層の移送経路に同一ターゲットを2つ以上順次配列してスパッタリングを行い得る。
【0081】
他の実現例によると、前記フィルムの製造方法は、前記基材層の一面上に前記第1無機層とは屈折率の異なる第2無機層を蒸着する段階をさらに含むことができ、そのために基材層の移送経路に2種のターゲットを順次配置してスパッタリングを行い得る。
【0082】
前記第1無機層および前記第2無機層をそれぞれ1つまたは2つ以上蒸着することができ、そのために使用されるターゲットは、蒸着させる無機層の種類および数に応じて用意され得る。例えば、前記スパッタリングに用いられる無機物ターゲットは1種または2種以上であり、合計1個または2個以上であり、具体的に、合計1個~10個、2個~8個、または4個~6個であり得る。
【0083】
一例として、前記フィルムの製造方法は、前記第1無機層および前記第2無機層を交互に蒸着することであり、そのために2種のターゲットが基材層の移送経路上に交互に配置され得る。
【0084】
このように、前記フィルムをスパッタリングのような蒸着方法により製造しながら、前記基材層の移送をロールツーロール(roll-to-roll)工程により行い得る。このようなロールツーロール工程により、無機多層フィルムの連続的かつ均一な品質の効率的な製造が可能である。
【0085】
図4は、ロールツーロール工程を用いたフィルムの製造装置の一例を示すものである。
図4を参照して、前記基材層100は、巻出ロール720から巻き出されロールドラム710の回転により一定の方向に移送されながらスパッタリング等により無機物蒸着を経た後、巻取ロール730に巻き取られ得る。
【0086】
具体的な一例として、ロールツーロール工程を用いた無機物蒸着装置に5つのターゲット、すなわち第1ターゲット310、第2ターゲット320、第3ターゲット330、第4ターゲット340、および第5ターゲット350が備えられ、第1ターゲット310、第3ターゲット330、および第5ターゲット350としてSiCを使用し、第2ターゲット320および第4ターゲット340として酸化ニオブ(NbO、NbO2、Nb2O5)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、および酸化インジウムスズ(ITO)からなる群より選択された物質を使用し得る。
【0087】
前記各ターゲットからスパッタリングにより蒸着される無機層の厚さは、各ターゲットが取り付けられるカソード電極に印加される電源の強さを変更して調節し得る。
【0088】
[ディスプレイ装置]
図7は、一実現例によるディスプレイ装置の分解斜視図を示す。
図7を参照して、前記ディスプレイ装置1は、ディスプレイパネル30と、前記ディスプレイパネル30の前面上に配置されるウィンドウ20と、前記ウィンドウ20の表面上に配置される保護フィルム10とを含む。
【0089】
前記ディスプレイパネル20は、液晶ディスプレイ(LCD)パネルであり得る。または、前記ディスプレイパネル20は、有機発光ディスプレイ(OLED)パネルであり得る。前記有機発光ディスプレイ装置は、前面偏光板と有機発光ディスプレイパネルとを含み得る。前記前面偏光板は、前記有機発光ディスプレイパネルの前面上に配置され得る。より具体的に、前記前面偏光板は、前記有機発光ディスプレイパネルにおいて、画像が表示される面に接着され得る。前記有機発光ディスプレイパネルは、ピクセル単位の自発光によって画像を表示する。前記有機発光ディスプレイパネルは、有機発光基板と駆動基板とを含む。前記有機発光基板は、ピクセルにそれぞれ対応する複数の有機発光ユニットを含む。前記有機発光ユニットは、それぞれ、陰極、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、および陽極を含む。前記駆動基板は、前記有機発光基板に駆動的に結合される。すなわち、前記駆動基板は、前記有機発光基板に駆動電流のような駆動信号を印加し得るように結合され得る。より具体的に、前記駆動基板は、前記有機発光ユニットにそれぞれ電流を印加して、前記有機発光基板を駆動し得る。
【0090】
前記ディスプレイ装置1の保護フィルム10には、一実現例による成分勾配無機層を有するフィルムが適用される。
【0091】
すなわち、一実現例によるディスプレイ装置は、ディスプレイパネルと、前記ディスプレイパネルの前面上に配置されるウィンドウと、前記ウィンドウの表面上に配置される保護フィルムとを含み、前記保護フィルムは、基材層と前記基材層の一面上に配置される第1無機層とを含み、前記第1無機層がシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)を含むが、厚さ方向に酸素含有率および炭素含有率が変化する。
【0092】
一実現例によるディスプレイ装置は柔軟性を有し得る。例えば、一実現例によるディスプレイ装置は、フレキシブルディスプレイ装置であり、具体的に、フォルダブルディスプレイ(foldable display)装置であり得る。より具体的に、前記フォルダブルディスプレイ装置は、フォルディングされる方向に応じてインフォルディング(in-folding)タイプまたはアウトフォルディング(out-folding)タイプであり得る。
【0093】
図8aおよび
図8bは、それぞれアウトフォルディングタイプおよびインフォルディングタイプのフレキシブルディスプレイ装置を示す。
図8bを参照すると、前記ディスプレイ装置は、フォルディングされる方向の内側に画面が位置するインフォルディングタイプのフレキシブルディスプレイ装置1aであり得る。または、
図8aを参照すると、前記ディスプレイ装置は、フォルディングされる方向の外側に画面が位置するアウトフォルディングタイプのフレキシブルディスプレイ装置1bであり得る。
図8bを参照して、インフォルディングタイプ1aの場合、内側にフォルディングされるポイントp1にかかる荷重が加わり、また
図8aを参照して、アウトフォルディングタイプ1bの場合、外側にフォルディングされるポイントp2に荷重が加わることとなる。この場合、保護フィルム10が十分な層間接着力や柔軟性を確保できないと、フォルディング時に加わる荷重によって層間剥離やクラックが発生して特性が低下しやすい。
【0094】
しかし、前記実現例によるディスプレイ装置は、保護フィルムとして成分勾配無機層を有するフィルムが適用されるため、繰り返しフォルディングの際にもクラックや層間剥離が発生しないとともに、光透過率が高く耐スクラッチ性に優れ、ウィンドウを保護し得る。また、前記保護フィルムの反射防止機能によって、装置の屋外使用時の視認性を改善し得る。
【0095】
(実施例)
以下に説明される実現例は、理解を容易にするためのものであるのみ、実現可能な範囲がこれらに限定されるものではない。
【0096】
(比較例1A.基材/SiC
y層からなるフィルムの製造)
図3のように構成されたロールツーロール式の反応プラズマスパッタリング装置を用意した。
図3を参照して、ターゲット300としてSiCを取り付け、放電ガスとしてアルゴン(Ar)ガス、および反応ガスとして酸素(O
2)ガスを注入した。基材層100として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET、U483、Toray社)をロールツーロール式により移送しながら、第1ノズル401と第2ノズル402との前面を順次通過させた。
【0097】
高真空ポンピングを3時間行い、真空度が5×10-6torrに達すると、下記表1に示すように第1ノズルおよび第2ノズルにおいていずれもアルゴンガスを300sccmの同じ流量で噴射するが、酸素ガスを噴射せずにスパッタリングを行った。その結果、基材層上に厚さ約150nmの炭化シリコン(SiCy)層が蒸着されたフィルムを得た。
【0098】
(比較例1B.基材/SiOx層からなるフィルムの製造)
前記比較例1Aと同様の手順を繰り返すが、ターゲットとしてSiを取り付け、下記表1に示すように第1ノズルおよび第2ノズルにおいていずれも酸素ガスを50sccmで噴射しながらスパッタリングを行った。その結果、基材層上に厚さ約150nmの酸化シリコン(SiOx)層が蒸着されたフィルムを得た。
【0099】
(比較例1C.基材/SiOxCy層からなるフィルムの製造)
前記比較例1Aと同様の手順を繰り返すが、下記表1に示すように、第1ノズルおよび第2ノズルにおいていずれも酸素ガスを25sccmで噴射しながらスパッタリングを行った。その結果、基材層上に厚さ約150nmのシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)層が蒸着されたフィルムを得た。
【0100】
(実施例1.基材/SiOxCy(成分勾配)層からなるフィルムの製造)
前記比較例1Aと同様の手順を繰り返すが、下記表1に示すように、アルゴンガスは第1ノズルおよび第2ノズルにおいて300sccmの同一流量で噴射するが、酸素ガスは第1ノズルでのみ100sccmで噴射し、第2ノズルでは噴射せずにスパッタリングを行った。その結果、基材層上に厚さ約150nmであり、厚さ方向に成分が勾配されたシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)層が蒸着されたフィルムを得た。
【0101】
【0102】
(比較例2.基材/SiO
2/Nb
2O
5/SiO
2/Nb
2O
5/SiO
2層からなるフィルムの製造)
図4のように構成されたロールツーロール式の反応プラズマスパッタリング装置を用意した。
図4を参照して、ロールドラム710の周りに第1ターゲット310としてSi、第2ターゲット320としてNb、第3ターゲット330としてSi、第4ターゲット340としてNb、第5ターゲット350としてSiを取り付け、順次配置した。これら5つのターゲットには、それぞれ
図3のように第1ノズルと第2ノズルとを設け、放電ガス(Ar)および反応ガス(O
2)が噴射されるようにした。基材層として、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET、U483、Toray社)をロールツーロール式により移送しながら、第1ターゲット、第2ターゲット、第3ターゲット、第4ターゲット、第5ターゲットの前面を順次通過させた。高真空ポンピングを3時間行い、真空度が5×10
-6torrに達すると、各々のターゲットの第1ノズルと第2ノズルとにおいていずれも、放電ガス(Ar)を300sccmの流量で、反応ガス(O
2)を50sccmの流量で噴射し、電源の強さを下記表2のように調節して、これらにより蒸着される無機層の厚さを調節した。その結果、基材層上に酸化シリコン(SiO
2)層が酸化ニオブ(Nb
2O
5)層と交互に、合計5層積層されたフィルムを得た。
【0103】
(実施例2.基材/SiOxCy(成分勾配)/Nb2O5/SiOxCy(成分勾配)/Nb2O5/SiOxCy(成分勾配)層からなるフィルムの製造)
前記比較例2と同様の手順を繰り返すが、第1ターゲット、第3ターゲット、第5ターゲットをSiCに替え、これらのターゲットにおいては前記実施例1と同様、第1ノズルにおいてのみ反応ガス(O2)を噴射し、第2ノズルでは反応ガス(O2)を噴射しなかった。また、各々のターゲットに印加される電源の強さを下記表2のように調節して、これらにより蒸着される無機層の厚さを調節した。
【0104】
その結果、基材層上に厚さ方向に成分が勾配されたシリコンオキシカーバイド(SiOxCy)層が酸化ニオブ(Nb2O5)層と交互に、合計5層積層されたフィルムを得た。
【0105】
【0106】
(試験例1:無機層の成分勾配測定)
成分勾配を確認するために、SIMSによりフィルムサンプルの無機層の深さ方向に成分測定を行い、酸素(O)と炭素(C)成分の比を測定した。具体的に、シリコン(Si)、酸素(O)および炭素(C)に対応するSIMS測定値に基づいて、無機層の深さによるシリコン(Si)に対する酸素(O)と炭素(C)の化学量論的な原子比を算出し、その結果を
図5に示す。
【0107】
(試験例2:全光線透過率)
フィルムサンプルの全光線透過率は、透過ヘイズメーター(transmission haze meter)を用いて測定した。その結果を下記表3および表4に示す。
【0108】
(試験例3:鉛筆硬度)
鉛筆硬度は、フィルムサンプルの無機層表面について、JIS-5400規格に基づいて500g荷重および0.5mm/secで測定した。その結果を下記表3および表4に示す。
【0109】
(試験例4:クロスカットテスト)
フィルムサンプルを100℃の温水に30分間浸漬した後、ISO2409規格に基づいて無機層の表面にクロスカットテストを行った。その結果を下記表3に示す。
【0110】
(試験例5:フォルディングテスト)
フィルムサンプルを長さ15cmおよび幅2.54cmに裁断してフォルディング試験機に取り付け、繰り返しフォルディングの際に層間剥離が発生するか否かを確認した。フォルディングテストは、2Rの曲率半径で基材層が内側にフォルディングするようにしており、2秒当たり1回のフォルディング速度で8万回まで繰り返し行った。その結果、繰り返しフォルディング後もフィルムで層間剥離やクラックが観察されない場合はOKと判定し、層間剥離またはクラックが観察される場合はNGと判定した。その結果を下記表3および表4に示す。
【0111】
【0112】
前記表3に示すように、成分勾配を有する実施例1のフィルムは、透過率が高いとともに、耐スクラッチ性、層間接合力、フォルディング耐久性にいずれも優れていた。これに対し、成分勾配を有しない比較例1A~1Cのフィルムは、これらのうち少なくとも1つの評価結果が低調であった。
【0113】
【0114】
前記表4に示すように、成分勾配を有する実施例2のフィルムは、反射防止特性に優れるとともに、成分勾配を有しない比較例2のフィルムに比べて耐スクラッチ性およびフォルディング耐久性に優れている。
【符号の説明】
【0115】
1:ディスプレイ装置
1a:インフォルディングタイプのフレキシブルディスプレイ装置
1b:アウトフォルディングタイプのフレキシブルディスプレイ装置
3:フォルディング試験機
10:(保護)フィルム
10a:フィルムサンプル
20:ウィンドウ
30:ディスプレイパネル
100:基材層
201:酸素比の高い粒子
202:炭素比の高い粒子
210:第1無機層
211:第1面
212:第2面
220:第2無機層
300:ターゲット
310:第1ターゲット
320:第2ターゲット
330:第3ターゲット
340:第4ターゲット
350:第5ターゲット
401:第1ノズル
402:第2ノズル
501:放電ガス
502:反応ガス
600:プラズマ
710:ロールドラム
720:巻出ロール
730:巻取ロール
T:第1無機層の厚さ
p1、p2:フォルディングポイント