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特許7489177発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20240516BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20240516BHJP
【FI】
C12C5/02
C12G3/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019163570
(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公開番号】P2021040502
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-09-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】蝦名 史子
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-110844(JP,A)
【文献】特開2009-077641(JP,A)
【文献】特開2003-310241(JP,A)
【文献】特開2020-080772(JP,A)
【文献】SAPPORO [オンライン], 2017.08.07 [検索日 2023.08.03], インターネット:<URL:https://web.archive.org/web/201700807215845/https://www.sapporobeer.jp/hanjo/drink-pickup/pdf/beer_cocktail.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 5/02
C12G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混濁果汁(ピューレを除く)を含有する容器詰め発酵ビールテイスト飲料(ヘルスブルッカー種のホップを使用したものを除く)であって、
前記混濁果汁の含有量が0.5~30.0%であり、
直径50μm以上の粒子が70個/10mL以上であり、直径1.2~2.0μmの粒子が96000個/10mL以下であり、
前記混濁果汁がグレープフルーツ混濁果汁である容器詰め発酵ビールテイスト飲料。
【請求項2】
透過光のL値が81以下である請求項1に記載の容器詰め発酵ビールテイスト飲料。
【請求項3】
混濁果汁(ピューレを除く)を含有する容器詰め発酵ビールテイスト飲料(ヘルスブルッカー種のホップを使用したものを除く)の製造方法であって、
前記混濁果汁の含有量を0.5~30.0%とし、直径50μm以上の粒子を70個/10mL以上とし、直径1.2~2.0μmの粒子を96000個/10mL以下とする工程を含み、
前記混濁果汁がグレープフルーツ混濁果汁である容器詰め発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
容器詰め発酵ビールテイスト飲料(ヘルスブルッカー種のホップを使用したものを除く)の濁りの安定性を優れたものとするとともに、果汁感とビール感とのバランスを優れたものとする品質向上方法であって、
発酵ビールテイスト飲料に混濁果汁(ピューレを除く)を添加し、前記混濁果汁の含有量を0.5~30.0%とし、直径50μm以上の粒子を70個/10mL以上とし、直径1.2~2.0μmの粒子を96000個/10mL以下とするとともに、
前記混濁果汁がグレープフルーツ混濁果汁である容器詰め発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲用者の多様な嗜好に応えるべく、多くの種類のビールテイスト飲料やその製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、麦芽を含有するビールテイスト飲料であって、麦芽使用比率が50%以上であり、外観最終発酵度が89%以上であり、アミノ酸濃度が、アミノ態窒素(A-N)として5~8mg/100mLである、発酵ビールテイスト飲料が記載されている。
そして、特許文献1によると、この発酵ビールテイスト飲料は、コクとキレのバランスに優れると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6295315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで、特許文献1に記載されている技術をはじめとして、発酵ビールテイスト飲料については、香味の観点に基づいて研究開発が進められてきた。
しかしながら、消費者は、飲食品を楽しむ際、香味だけではなく、外観からも視覚を通じて大きな影響を受ける。それにもかかわらず、発酵ビールテイスト飲料の外観に関してほとんど検討されてこなかった。
【0006】
このような状況において、本発明者は、まずは発酵ビールテイスト飲料の外観に焦点をあて、大半の透明な外観のものとは対称的であって、一目で消費者の印象に強く残るような「濁り」を呈する飲料の開発を検討した。
ただ、この「濁り」が瞬時になくなってしまうようなものであれば、飲料の製造後に所定期間が経過してしまうと外観上のメリットはなくなってしまう。よって、発酵ビールテイスト飲料の「濁り」のレベルは、所定期間が経過してもある程度は維持される必要がある。つまり、発酵ビールテイスト飲料は濁りの安定性に優れている必要がある。
【0007】
また、発酵ビールテイスト飲料は、外観だけではなく、当然、香味についても検討する必要がある。
そして、本発明者は、発酵ビールテイスト飲料の香味として、フルーティな果汁感を発揮させつつもビール感を失わないようなバランスのとれた香味にすることができれば、所定の消費者の嗜好に適合したものとなると考えた。
なお、アルコール飲料に対して乳化剤を添加し、「濁り」を付与する技術は存在するものの、「濁り」の安定性と香味とを両立させるような技術は存在しなかった。
【0008】
そこで、本発明は、濁りの安定性に優れるだけでなく、果汁感とビール感とのバランスに優れた発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)混濁果汁(ピューレを除く)を含有する容器詰め発酵ビールテイスト飲料(ヘルスブルッカー種のホップを使用したものを除く)であって、前記混濁果汁の含有量が0.5~30.0%であり、直径50μm以上の粒子が70個/10mL以上であり、直径1.2~2.0μmの粒子が96000個/10mL以下であり、前記混濁果汁がグレープフルーツ混濁果汁である容器詰め発酵ビールテイスト飲料。
(2)透過光のL値が81以下である前記1に記載の容器詰め発酵ビールテイスト飲料。
(3)混濁果汁(ピューレを除く)を含有する容器詰め発酵ビールテイスト飲料(ヘルスブルッカー種のホップを使用したものを除く)の製造方法であって、前記混濁果汁の含有量を0.5~30.0%とし、直径50μm以上の粒子を70個/10mL以上とし、直径1.2~2.0μmの粒子を96000個/10mL以下とする工程を含み、前記混濁果汁がグレープフルーツ混濁果汁である容器詰め発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
(4)容器詰め発酵ビールテイスト飲料(ヘルスブルッカー種のホップを使用したものを除く)の濁りの安定性を優れたものとするとともに、果汁感とビール感とのバランスを優れたものとする品質向上方法であって、発酵ビールテイスト飲料に混濁果汁(ピューレを除く)を添加し、前記混濁果汁の含有量を0.5~30.0%とし、直径50μm以上の粒子を70個/10mL以上とし、直径1.2~2.0μmの粒子を96000個/10mL以下とするとともに、前記混濁果汁がグレープフルーツ混濁果汁である容器詰め発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料によると、濁りの安定性に優れるとともに、果汁感とビール感とのバランスに優れる。
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法によると、濁りの安定性に優れるとともに、果汁感とビール感とのバランスに優れた発酵ビールテイスト飲料を製造することができる。
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法によると、発酵ビールテイスト飲料の濁りの安定性を優れたものとするとともに、果汁感とビール感とのバランスを優れたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0012】
[発酵ビールテイスト飲料]
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、混濁果汁を含有し、混濁果汁の含有量が所定範囲内となる飲料であり、混濁果汁がグレープフルーツ混濁果汁であるのが好ましく、透過光のL値が所定値以下であるのが好ましい。
ここで、発酵ビールテイスト飲料とは、発酵工程を経て製造される飲料であるとともに、ビール様(風)飲料とも呼ばれ、ビールのような味わいを奏する、つまり、ビールを飲用したような感覚を飲用者に与える飲料である。そして、発酵ビールテイスト飲料としては、例えば、酒税法(平成三十年六月二十日公布(平成三十年法律第五十九号)改正)で定義される「発泡性酒類」(ビール、発泡酒、その他の発泡性酒類)に分類されるものが挙げられる。なお、前記したその他の発泡性酒類としては、「その他の醸造酒(発泡性)(1)」(第三のビール)や「リキュール(発泡性)(1)」(新ジャンルビール)がある。
【0013】
(混濁果汁)
混濁果汁とは、果実の搾汁に清澄処理(固形成分を除去する処理:詳細には、酵素処理を施してペクチンなどの食物繊維を低分子化した後に濾過や遠心分離によって除去する処理)を施して得られる透明果汁と異なり、固形成分を含有している果汁であって、ペクチンなどの食物繊維がコロイド状をなして混濁している果汁である。
そして、混濁果汁は、含有量が所定範囲内となるように発酵ビールテイスト飲料に添加することによって、濁りの安定性を優れたものとするとともに、果汁感とビール感とのバランスを優れたものとすることができる。
なお、混濁果汁は、透明果汁とは異なり固形成分を含有していることから、製造工程の各工程などにおける当該固形成分の影響を検討する必要があるため、発酵ビールテイスト飲料への適用は難しいと一般的には考えられていた。
【0014】
混濁果汁の含有量(果汁率換算)は、0.5%以上が好ましく、0.7%以上、1.0%以上、3.0%以上、5.0%以上がより好ましい。混濁果汁の含有量が所定値以上であることによって、発酵ビールテイスト飲料の濁りの安定性を優れたものとするとともに、果汁感とビール感とのバランスを優れたものとすることができる。
混濁果汁の含有量(果汁率換算)は、30.0%以下が好ましく、25.0%以下、20.0%以下、15.0%以下、10.0%以下がより好ましい。混濁果汁の含有量が所定値以下であることによって、本発明の各効果をしっかりと発揮させることができる。
【0015】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の混濁果汁の含有量(果汁率換算)は、「含有量(果汁率換算)%(詳細には、w/v%)」=「飲料100mL中への果汁配合量(g)」×「濃縮倍率」/100mL×100により算出することとする。
ここで、「濃縮倍率」(ストレート果汁を100%としたときの果汁の相対的濃縮倍率)を算出するにあたり、JAS規格に準ずるものとし、果汁に加えられた糖類、はちみつ等の糖用屈折計示度を除くものとする。
【0016】
具体的には、JAS規格である果実飲料の日本農林規格(平成28年2月24日農林水産省告示第489号)の別表3によるとグレープフルーツの基準糖用屈折計示度は9°Bxであるから、糖用屈折計示度が18°Bxのグレープフルーツ果汁は、2倍濃縮のグレープフルーツ果汁となる。この2倍濃縮のグレープフルーツ果汁を、飲料100mL中に3g配合した場合、この飲料におけるグレープフルーツ果汁の含有量(果汁率換算)は、「3g×2(濃縮倍率)/100mL×100」によって算出することができる。
【0017】
混濁果汁は、例えば、濃縮果汁、還元果汁、ストレート果汁といった各種果汁、セミクリア果汁、コミュニテッド果汁、果実ピューレ(火を通した果実あるいは生の果実をすりつぶしたり裏ごししたりした半液体状のもの)、これらの希釈液、濃縮液、混合液などを用いることができる。
また、混濁果汁は、1種類の果実を原料としてもよいし、2種類以上の果実を原料としてもよい。
そして、混濁果汁の由来となる果実としては、食用のものであれば、いずれの果実も使用できるが、例えば、柑橘類に属する果実(適宜「柑橘類果実」という)である、グレープフルーツ、レモン、オレンジ、ライム、イヨカン、ウンシュウミカン、カボス、キシュウミカン、キノット、コウジ、サンボウカン、シトロン、ジャバラ、スダチ、ダイダイ、タチバナ、タンゴール、ナツミカン、ハッサク、ハナユズ、ヒュウガナツ、ヒラミレモン(シークヮーサー)、ブンタン、ポンカン(マンダリンオレンジ)、ユズ等や、これらの柑橘類果実以外にも、セイヨウリンゴ(いわゆるリンゴ)、エゾノコリンゴ、カイドウズミ、ハナカイドウ、イヌリンゴ(ヒメリンゴ)、マルバカイドウ、ノカイドウ、ズミ(コリンゴ、コナシ)、オオウラジロノキ、ブドウ、イチゴ、モモ、メロン、パイナップル、グァバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、ウメ、ナシ、アンズ、スモモ、キウイフルーツ、カシス、ブルーベリー、ラズベリー等が挙げられる。
なお、果汁の由来となる果実は、柑橘類果実が好ましく、グレープフルーツが特に好ましい。
【0018】
(L値:透過光)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の透過光のL値は、飲料の透過光の明度を示すが、この値が大きい状態は、透過光が明るい、つまり、飲料を透過する光が多いことから、飲料の濁りのレベルが低い状態を示している。一方、この値が小さい状態は、透過光が暗い、つまり、飲料を透過する光が少ないことから、飲料の濁りのレベルが高い状態を示している。
なお、L値とは、詳細には、物体の色を示すのに使用されるL表色系(エルスター・エースター・ビースター表色系)の明度を示す値である。そして、L表色系とは、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化された指標であり、JIS Z8781-4:2013に規定されている。
【0019】
透過光のL値は、81以下が好ましく、80以下、78以下がより好ましい。透過光のL値が所定値以下であることによって、発酵ビールテイスト飲料が呈する濁りを確実なものとすることができる。
一方、透過光のL値の下限値については、特に限定されない。
【0020】
そして、この透過光のL値は、製造から所定期間が経過した後(例えば、製造から4週間、7ヵ月経過後)の発酵ビールテイスト飲料が満たしているのが好ましい。製造から所定期間が経過した後の状態であっても透過光のL値が所定値以下(又は所定範囲内)となっていることによって、発酵ビールテイスト飲料の濁りのレベルが確実に維持される、つまり、濁りの安定性が優れたものとなる。
なお、発酵ビールテイスト飲料のL表色系の各値は、分光測色計(例えば、CM-3600D コニカミノルタ株式会社製)を用いた透明物体色測定により求めることができる。
【0021】
(粒子状態)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、混濁果汁の含有量に基づいて、飲料中の粒子分布や粒子の表面積および体積(まとめて粒子状態とする)が次のような傾向となる。
【0022】
(粒子状態:総粒子数)
発酵ビールテイスト飲料における混濁果汁の含有量が増加すると、飲料中の総粒子数が僅かに低下する。
例えば、発酵ビールテイスト飲料中の総粒子数(直径1.2μm以上の粒子の総数)は、混濁果汁の含有量が増加する(0.7%→3.4%→6.8%→20.3%)に従い、643400個/10mL以下、630000個/10mL以下、610000個/10mL以下、560000個/10mL以下へと僅かに低下する。
【0023】
(粒子状態:大きな粒子と小さな粒子)
発酵ビールテイスト飲料における混濁果汁の含有量が増加すると、飲料中の大きな粒子の数が多くなる一方、小さな粒子の数が少なくなる。
例えば、発酵ビールテイスト飲料中の大きな粒子(直径50μm以上)の数は、混濁果汁の含有量が増加する(0.7%→3.4%→6.8%→20.3%)に従い、70個/10mL以上、200個/10mL以上、400個/10mL以上、1400個/10mL以上へと増加する。
また、発酵ビールテイスト飲料中の小さな粒子(直径1.2~2.0μm)の数は、混濁果汁の含有量が増加する(0.7%→3.4%→6.8%→20.3%)に従い、96000個/10mL以下、70000個/10mL以下、60000個/10mL以下、40000個/10mL以下へと減少する。
【0024】
(粒子状態:表面積)
発酵ビールテイスト飲料における混濁果汁の含有量が増加すると、飲料中における粒子の表面積(全粒子の表面積の合計値)が大きく上昇する。
例えば、発酵ビールテイスト飲料の粒子(直径1.2μm以上の粒子)の表面積は、混濁果汁の含有量が増加する(0.7%→3.4%→6.8%→20.3%)に従い、150000000μm/10mL以上、230000000μm/10mL以上、290000000μm/10mL以上、390000000μm/10mL以上へと大きくなる。
【0025】
(粒子状態:体積)
発酵ビールテイスト飲料における混濁果汁の含有量が増加すると、飲料中における粒子の体積(全粒子の体積の合計値)が大きく上昇する。
例えば、発酵ビールテイスト飲料の粒子(直径1.2μm以上の粒子)の体積は、混濁果汁の含有量が増加する(0.7%→3.4%→6.8%→20.3%)に従い、350000000μm/10mL以上、650000000μm/10mL以上、900000000μm/10mL以上、1500000000μm/10mL以上へと大きくなる。
なお、発酵ビールテイスト飲料の各粒子状態は、製造直後の飲料をサンプリングしてガス抜きし、粒度分布測定装置(例えば、HIAC Royco Particle Counter 8000A)を用いて求めることができる。
【0026】
(アルコール)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料のアルコール度数は、特に限定されないものの、例えば、3%(v/v%)以上、4%以上、5%以上であり、15%以下、12%以下、10%以下である。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。そして、発酵ビールテイスト飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計法)に基づいて測定することができる。
【0027】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料のアルコールは、発酵由来のアルコールのみから構成されているのが好ましいが、蒸留アルコールを添加して構成されていてもよい。
蒸留アルコールとしては、焼酎、ブランデー、ウォッカ、ウイスキー、麦スピリッツ(例えば、大麦スピリッツ、小麦スピリッツ)等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられる。蒸留アルコールは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書において「スピリッツ」とは、蒸留酒であるスピリッツを指し、酒税法上のスピリッツとは異なる場合もある。
【0028】
(麦芽比率)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料が発酵原料として麦芽を用いる場合の麦芽比率は、所定値以上であるのが好ましい。
ここで、「麦芽比率」とは、詳細には、ビールテイスト飲料の製造に用いられる原料のうち水及びホップ以外のものの全重量に占める麦芽の重量の比率である。なお、麦芽とは、麦を発芽させ焙燥した後に根を除いたものである。また、麦とは、大麦、小麦、ライ麦、燕麦等であるが、大麦と小麦の併用が好ましい。そして、大麦と小麦を併用する場合、両者の合計量における小麦の割合は、濁りに関する効果を確実なものとする観点から、30%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。
【0029】
本実施形態に係る発泡ビールテイスト飲料の麦芽比率は、濁りに関する効果を確実なものとする観点から、25%(重量%)以上が好ましく、50%以上がより好ましい。
一方、本実施形態に係るビールテイスト飲料の麦芽比率の上限は、例えば、100%以下、95%以下である。
【0030】
(発泡性)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、発泡性であるのが好ましい。
そして、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の20℃におけるガス圧は、特に限定されないものの、例えば、1.0kg/cm以上、1.5kg/cm以上、2.0kg/cm以上、2.2kg/cm以上であり、5.0kg/cm以下、4.0kg/cm以下、3.0kg/cm以下である。
【0031】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、濁りに関する効果をより確実なものとするために、後記する発酵後工程においてろ過を施さない無ろ過飲料が好ましい。
【0032】
(その他)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を添加することもできる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、酢酸、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
そして、前記した各原料は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0033】
(容器詰め発酵ビールテイスト飲料)
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器に発酵ビールテイスト飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、混濁果汁の含有量が所定範囲内であることから、濁りの安定性に優れるとともに、果汁感とビール感とのバランスに優れる。
なお、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、乳化剤などの添加物を含有することなく、前記した効果を発揮することができる。
【0035】
[発酵ビールテイスト飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法について説明する。
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、混濁果汁の含有量を所定範囲内とする工程を含む。
なお、混濁果汁を添加するタイミングは、仕込工程以降であればよく、例えば、仕込工程でも、発酵工程でも、貯酒工程でもよい。
【0036】
(仕込工程)
仕込工程(発酵前工程)は、窒素源及び炭素源を含む原料を用いて発酵前液を得る工程である。具体的に仕込工程では、例えば、麦芽、麦、糖類、酵素、各種添加剤を混合して原料を糖化し、糖化液を得る。そして、糖化液を適宜ろ過して得られた清澄糖化液に、必要に応じて、ホップの添加、煮沸、冷却等を行って発酵前液を調製する。
【0037】
仕込工程において調製される発酵前液は、酵母が資化可能な窒素源及び炭素源となる原料(例えば、麦芽や麦)を含む溶液であれば特に限られない。窒素源及び炭素源は、酵母が資化可能なものであれば特に限られない。酵母が資化可能な窒素源とは、例えば、麦由来原料に含まれるアミノ酸及びペプチドのうちの少なくとも一つである。酵母が資化可能な炭素源とは、例えば、糖類や麦由来原料に含まれる糖類である。
【0038】
仕込工程で使用するホップは、特に限定されず、例えば、例えば、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスが挙げられるとともに、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。
【0039】
(発酵工程)
発酵工程は、発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行う工程である。本実施形態においては、例えば、予め温度が所定の範囲内(例えば、0~40℃の範囲)に調製された発酵前液に酵母を添加して発酵液を調製し、発酵を行う。
【0040】
発酵工程においては、さらに熟成を行うこととしてもよい(貯酒工程)。熟成は、上述のような発酵後の発酵液をさらに所定の温度で所定の時間だけ維持(貯酒)することにより行う。この熟成によって、香味を向上させることができる。
【0041】
こうして発酵工程においては、酵母により生成されたエタノール及び各種成分を含有する発酵後液を得ることができる。発酵後液に含まれるエタノールの濃度(アルコール度数)は、例えば、1~20%とすることができる。
【0042】
本実施形態においては、発酵は、上面発酵酵母を用いた上面発酵でも、下面発酵酵母を用いた下面発酵でもよいが、実施例で実際に効果を示している上面発酵が好ましい。
【0043】
(発酵後工程)
発酵後工程は、発酵後液に所定の処理を施して最終的にビールテイスト飲料を得る工程である。発酵後工程の処理としては、例えば、発酵工程により得られた発酵後液のろ過(いわゆる一次ろ過)が挙げられる。この一次ろ過により、発酵後液から不溶性の固形分や酵母を除去することができる。また、発酵後工程においては、さらに発酵後液の精密ろ過(いわゆる二次ろ過)を行ってもよい。二次ろ過により、発酵後液から雑菌や、残存する酵母を除去することができる。なお、精密ろ過に代えて、発酵後液を加熱することにより殺菌することとしてもよい。発酵後工程における一次ろ過、二次ろ過、加熱は、ビールテイスト飲料を製造する際に使用される一般的な設備で行うことができる。
ただし、本実施形態においては、濁りに関する効果をより確実なものとするために無ろ過が好ましい。
なお、発酵後工程には、前記した容器に充填する工程も含まれる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、混濁果汁の含有量を所定範囲内とする工程を含むことから、濁りの安定性に優れるとともに、果汁感とビール感とのバランスに優れた発酵ビールテイスト飲料を製造することができる。
なお、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、乳化剤などの添加物を含有させることなく、前記した効果を発揮する発酵ビールテイスト飲料を製造することができる。
【0045】
[発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法]
次に、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法を説明する。
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法は、発酵ビールテイスト飲料の濁りの安定性を優れたものとするとともに、果汁感とビール感とのバランスを優れたものとする品質向上方法であって、混濁果汁の含有量を所定範囲内とする方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「発酵ビールテイスト飲料」において説明した値と同じである。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法は、混濁果汁の含有量を所定範囲内とすることから、発酵ビールテイスト飲料の濁りの安定性を優れたものとするとともに、果汁感とビール感とのバランスを優れたものとすることができる。
なお、本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の品質向上方法は、乳化剤などの添加物を使用することなく、前記した効果を発揮することができる。
【実施例
【0047】
[実施例1]
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0048】
[サンプルの準備]
サンプル1-1~1-6は、市販のビール(麦芽比率100%(小麦麦芽50%、大麦麦芽50%)、上面発酵、無ろ過)に対して、含有量が表に示す値となるようにグレープフルーツ混濁果汁を添加し、各発酵ビールテイスト飲料を準備した。
なお、サンプル1-1~1-6のアルコール度数は、いずれも約5v/v%であり、20℃におけるガス圧は約2.0kg/cmであった。
【0049】
一方、サンプル2-1は、まず、麦芽比率が95%以上となるように麦芽(大麦麦芽:小麦麦芽=1:1)、及び、水を仕込槽に投入し、常法にしたがって糖化液を製造した。得られた糖化液をろ過して麦汁を得た。得られた麦汁にホップと表に示す含有量となるようにグレープフルーツ混濁果汁を添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。得られた発酵前液(冷麦汁)に上面発酵酵母を添加し、所定期間発酵させて無ろ過の状態の発酵ビールテイスト飲料を準備した。
なお、サンプル2-1のアルコール度数は、約6v/v%であり、20℃におけるガス圧は約2.2kg/cmであった。
【0050】
[試験内容:官能評価]
前記の方法により製造した直後の各サンプル1-1~1-6について、選抜された識別能力のあるパネル4名が下記評価基準に則って「白濁状態」に関しては0~10点の11段階評価、「とろみ感」、「果汁感(グレープフルーツらしさ)」、「ビール感(ビールらしさ)」に関しては0~5点の6段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、「白濁状態」については、サンプルを透明のグラスに注いで目視によって評価し、その他の評価は、サンプルを飲んで評価した。
【0051】
(白濁状態:評価基準)
白濁状態の評価については、「非常に白濁している」場合を10点、「全く白濁していない」場合を0点として11段階で評価した。そして、白濁状態の評価については、点数が高いものが好ましいと判断できる。
なお、白濁状態の評価については、サンプル1-1(5点)を基準として評価した。
【0052】
(とろみ感:評価基準)
とろみ感の評価については、「とろみ感が非常に強い」場合を5点、「とろみ感を全く感じない」場合を0点として6段階で評価した。そして、とろみ感の評価については、点数が高いものが好ましいと判断できる。
なお、とろみ感の評価については、サンプル1-1(0点)を基準として評価した。
【0053】
(果汁感:評価基準)
果汁感の評価については、「グレープフルーツらしい香味(果汁感)が非常に強い」場合を5点、「グレープフルーツらしい香味(果汁感)を全く感じない」場合を0点として6段階で評価した。そして、果汁感の評価については、点数が高いものが好ましいと判断できる。
なお、果汁感の評価については、サンプル1-1(0点)を基準として評価した。
【0054】
(ビール感:評価基準)
ビール感の評価については、「ビールらしい香味(ビール感)が非常に強い」場合を5点、「ビールらしい香味(ビール感)を全く感じない」場合を0点として6段階で評価した。そして、ビール感の評価については、点数が高いものが好ましいと判断できる。
なお、ビール感の評価については、サンプル1-1(5点)を基準として評価した。
【0055】
[L表色系のL値の測定]
前記の方法により製造した直後のサンプル1-1~1-6、製造から5℃で4週間保存したサンプル1-1~1-6、製造から5℃で7ヵ月間保存したサンプル2-1について、上清をサンプリングし、分光測色計(CM-3600D コニカミノルタ株式会社製)を用いた透明物体色測定によってL表色系のL値を求めた。
なお、サンプルの保存は、ガスが抜けないように密閉した容器に入れた状態で実施した。
【0056】
[粒子状態の測定]
前記の方法により製造した直後の各サンプルをガス抜きし、粒度分布測定装置(HIAC Royco Particle Counter 8000A)を用いて粒子状態の各指標を求めた。
【0057】
表1に、各サンプルの各評価結果を示す。また、表2、3に、L表色系のL値の測定値を示す。また、表4に、粒子状態の各指標の測定値を示す。
なお、表における「混濁果汁」は、最終製品の含有量(果汁率換算)である。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
(結果の検討)
表1の結果から、混濁果汁の含有量が所定範囲内であると、果汁感の点数が高くなるとともにビール感の点数も高くなることが確認できた。
具体的には、サンプル1-2~1-5は、果汁感とビール感との両者の点数が高く、両者の香味のバランスに優れるとの結果が得られ、これらの中でも、サンプル1-3~1-5は、非常に優れた結果が得られた。
なお、表1の結果によると、白濁状態の評価、とろみ感の評価については、混濁果汁の含有量が増加するに従い、点数が増加するという傾向が確認できた。
【0063】
表2の結果から、混濁果汁の含有量が所定範囲内であると、製造直後の透過光のL値が低くなるとともに、製造から4週間経過後のL値も低くなる(具体的には、サンプル1-1と比較してサンプル1-2~1-6のL値が低くなる)ことが確認できた。つまり、混濁果汁の含有量が所定範囲内であると、発酵ビールテイスト飲料が濁りを呈する状態となるだけでなく、この濁った状態を一定期間維持できる(濁りの安定性に優れる)ことが確認できた。
【0064】
表3のサンプル2-1のL値を確認すると明らかなように、混濁果汁の添加のタイミングが仕込工程であっても、製造から所定期間経過した透過光のL値が、低いまま(表2のサンプル1-4のL値とサンプル1-5のL値との間の数値)であったことから、混濁果汁の添加のタイミングは本発明の効果(濁りの安定性)には大きな影響を与えないことが確認できた。
【0065】
表4の結果から、混濁果汁の含有量の増加に伴い、小さな粒子が少なくなる一方、大きな粒子が多くなる傾向が確認できた。
ここで、濁りに影響を与えるのは、視認し易い大きな粒子であると考えられることから、表4の結果は、表1~3の結果から確認できた事項を裏付けるものと考えられる。
また、表4の結果から、混濁果汁の含有量の増加に伴い、粒子の表面積と体積とが増加する傾向が確認できた。
なお、混濁果汁の含有量の増加に伴って、小さな粒子が少なくなり、大きな粒子が多くなるという現象の作用機序は明白にはなっていないものの、混濁果汁が一種の吸着材のような働きをすることによって、無ろ過の発酵ビールテイスト飲料に浮遊する不溶成分を吸着させ、濁り、並びに、濁りの安定性を向上させているのではないかと推察される。