(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】シボ加工樹脂製食器用蓋
(51)【国際特許分類】
A47G 19/00 20060101AFI20240516BHJP
A47J 27/00 20060101ALI20240516BHJP
A47J 36/06 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
A47G19/00 D
A47G19/00 G
A47J27/00 101D
A47J36/06 Z
(21)【出願番号】P 2019223212
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000176176
【氏名又は名称】三信化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100217869
【氏名又は名称】吉田 邦久
(72)【発明者】
【氏名】高見 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】笠原 悠平
(72)【発明者】
【氏名】内田 和彦
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-082019(JP,U)
【文献】特開2006-314675(JP,A)
【文献】実開平07-005470(JP,U)
【文献】特開2002-017559(JP,A)
【文献】特開2007-037575(JP,A)
【文献】実開昭61-190942(JP,U)
【文献】特開2002-306342(JP,A)
【文献】実開昭60-070239(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 19/00
A47J 27/00
A47J 36/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上向きに凸形状をしており、その外周径は、食器の外周径とほぼ同等であり、前記食器の上に覆いかぶさるように載置して用いる樹脂製食器用蓋であって、前記樹脂製食器用蓋における
内側表面の外周径のやや内側の部分に外周に沿って下向きに突出するリブの内側部分までを含む内側表面の面積全体を100%とした場合において、前記樹脂製食器用蓋の中心から円形形状を示す80%以上の面積に親水性のシボ加工が、金型からの転写によって施されていることを特徴とする樹脂製食器用蓋。
【請求項2】
前記樹脂製食器用蓋における内側表面の面積全体を100%とした場合において、100%の面積に親水性のシボ加工が施されている、請求項1に記載された樹脂製食器用蓋。
【請求項3】
前記樹脂製食器用蓋における内側表面の面積全体を100%とした場合において、前記親水性のシボ加工が施されていない20%以下の面積に撥水性のシボ加工が施されている、請求項1に記載された樹脂製食器用蓋。
【請求項4】
前記樹脂製食器用蓋に用いられる樹脂が、メラミン樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルホン、ポリエステルポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリサルホン、ポリアミド、液晶ポリマー、ポニフェニレンサルファイド、ポリフェニルスルホン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミドから選ばれた少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載された樹脂製食器用蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学校、病院、高齢者介護施設等において、食事を提供するための食器に使用される樹脂製食器用蓋に関する。さらに詳しくは、前記樹脂製食器用蓋における内側表面において、中心部分の80%以上の面積に親水性のシボ加工が施されていることにより、再加熱時食品から蒸発する水分を食品に還元することに優れた樹脂製食器用蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
学校、病院、高齢者介護施設等において食事を提供する場合のシステムとして、加熱調理した食品を急速冷却し、チルド状態で食器へ盛り付けを行った後、食事を提供するタイミングで食器ごと、または食器を配置したトレイごと再加熱を行うニュークックチル等の調理、配膳システムがある。
【0003】
食器を覆うために使用される食器用蓋は、木製の椀、陶磁器製の碗、および樹脂製等の半球型容器等の食品を盛り付ける食器に組み合わせて用いられる蓋であり、食品にゴミやほこりが入らないための汚染防止の機能を有するが、さらに、加熱された食品から発生する水蒸気の拡散を防止し、水蒸気が凝結した後に水分として食品へ還元する機能を有する樹脂製食器用蓋が提案されている(特許文献1、2を参照)。
【0004】
前記ニュークックチル等の常温以下の温度の食品を食器へ盛り付けを行った後に再加熱する場合、再加熱時に食品中の水分が水蒸気となり拡散し、ごはん等の適度な水分を含む食品の場合に食品が乾燥したり、汁物の食品の場合に食品の濃度が高くなったりして食味が低下する。そのため、食器用蓋を用いて、可能な限り多くの水分を食品へ還元することにより、加熱調理直後の食品の食味を再現することが好ましい。しかし、前記提案された樹脂製食器用蓋では、食器用蓋の内側表面上に水滴が付着して残留してしまい、水分を食品へ還元することが不十分であるため、食味を再現することに限界がある。
【0005】
また、食器の内部表面を加工する技術として、シボ加工された樹脂製食器が提案されているが、これは食器用蓋ではなく食器に加工を行うものであり、食品から蒸発する水分を還元することには関係がない(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-017559号公報
【文献】実用新案登録第3194385号公報
【文献】特許第4683413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情を鑑み、食器に盛り付けられた常温以下の温度の食品を再加熱する場合において、食品中の水分から生じた水蒸気を効率よく水分として食品へ還元することにより、加熱調理直後の食品の食味を再現することが可能な樹脂製食器用蓋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、食器を覆うために使用される樹脂製食器用蓋であって、前記樹脂製食器用蓋における内側表面において、中心部分の80%以上の面積に親水性のシボ加工が施されていることを特徴とする樹脂製食器用蓋を提供する。
【0009】
さらに、前記樹脂製食器用蓋の態様は、樹脂製食器用蓋における内側表面において、全面に親水性のシボ加工が施されていることが好ましい。
【0010】
または、前記樹脂製食器用蓋の態様は、樹脂製食器用蓋における内側表面において、親水性のシボ加工が施されていない周辺部分の20%以下の面積に撥水性のシボ加工が施されていることが好ましい。
ここで、シボ加工について、凹凸の大きさや粗密の程度等の相違により、樹脂表面が親水性を示す場合もあれば、撥水性を示す場合もあること、および樹脂の種類により樹脂表面の親水性、疎水性の特性が異なることから、シボ加工を行っていない未加工の樹脂表面を基準の比較対照として、親水性のシボ加工か撥水性のシボ加工かを判断する。
【0011】
前記樹脂製食器用蓋の態様において、樹脂製食器用蓋に用いられる樹脂が、メラミン樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルホン、ポリエステルポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリサルホン、ポリアミド、液晶ポリマー、ポニフェニレンサルファイド、ポリフェニルスルホン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミドから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、軽量で割れにくく、形状および品質が均質なものを安価で入手できるという樹脂製食器蓋の利点を有する。
また、樹脂製食器用蓋において、前記樹脂製食器用蓋における内側表面において、中心部分の80%以上の面積に親水性のシボ加工が施されていることにより、再加熱時に食品から蒸発する水分を食品に還元することに優れた樹脂製食器用蓋である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】別態様の樹脂製食器用蓋の内側表面の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に本発明の具体例として、樹脂製食器用蓋1および食器4の断面図を示す。樹脂製食器用蓋1は上向きに凸形状をしており、その外周径は、食器4の外周径とほぼ同等であり、食器4の上に覆いかぶさるように載置して用いる。
【0015】
樹脂製食器用蓋1は下側に凹形状の内側表面2を有しており、内側表面2の外周径のやや内側の部分に外周に沿って下向きに突出するリブ3を有している。リブ3の外側の径は、食器4上端部の内側の径よりも小さく、食器4に対し、樹脂製食器用蓋1を容易に取り外しすることができると共に、載置した際にぐらつきが発生しない程度に弱く嵌合している。リブ3は加熱により食品から発生した水蒸気を樹脂製食器用蓋1および食器4により形成される空間内に封じる機能を有する。
【0016】
再加熱により食品から発生した水蒸気は内側表面との間の空間で対流しながら内側表面に接触することにより冷却され、内側表面上に微小な大きさの水滴を形成する。次に微小な大きさの水滴は周囲に存在する他の微小な大きさの水滴と接触して凝集することにより徐々に大きな水滴を形成する。その後、特定の大きさの水滴を形成した後、重力にしたがって、内側表面に沿って流れ落ちる。
【0017】
前記特定の大きさの水滴を形成する点について、一般的な樹脂が有する撥水性表面の場合、水滴の接触角が大きく、内側表面上に水滴が保持されることから、ある程度の大きさの水滴が形成されるまで内側表面に沿って流れ落ちることはない。したがって、再加熱中および再加熱後は常に一定量の水分が内側表面上に保持されていることから、喫食時に樹脂製食器用蓋を食器から除去する際に、前記水分も一緒に除去され、食品に還元されることはない。そのため、再加熱後の食品の水分含有量は、加熱調理直後のものに比較して低下しており、例えば、ごはん等の適度な水分を含む食品の場合に食品が乾燥したり、汁物の食品の場合に食品の濃度が高くなったりして食味が低下する。
【0018】
それに対し、親水性のシボ加工が施されている本発明の内側表面2の場合、水滴の接触角が小さく、内側表面2に水滴が保持されにくいことから、微小な大きさの水滴が凝集した段階で、効率よく、水分は内側表面に沿って流れ落ちる。したがって、再加熱中および再加熱後において、常に水分は食品に還元されており、喫食時に樹脂製食器用蓋を食器から除去したとしても、再加熱後の食品の水分含有量は、加熱調理直後のものとほぼ同等であるため、食味が低下することはない。
【0019】
図2は樹脂製食器用蓋1を上下逆にした際の内側表面2の斜視図である。内側表面2の中心部分の80%以上の面積に親水性のシボ加工5が施され、リブ3の内側部分等には、シボ加工5は施されていない。
ここで、本発明における内側表面とは、
図2におけるシボ加工5が施された部分およびリブ3の内側部分までを含む。さらに、内側表面の形状は限定されるものではなく、内側部分全体が単一曲率で加工されていてもよく、必要に応じて複数の曲率等を組合せて加工されていてもよい。
【0020】
図3は、
図2とは別態様の、樹脂製食器用蓋1を上下逆にした際の内側表面2の斜視図であり、内側表面2の全面(100%)に親水性のシボ加工5が施されている。
ここで、本発明は内側表面において、中心部分の80%以上の面積に親水性のシボ加工が施されていれば、周辺部分の20%以下の面積に親水性のシボ加工が施されていてもいなくても、前記親水性のシボ加工が施された部分で凝集した水分は十分に流れ落ちることができる。また、樹脂の種類等の必要に応じて、
前記周辺部分の20%以下の面積に
撥水性のシボ加工が施されていてもよい。親水性のシボ加工の面積が中心部分の80%未満であると、微小な大きさの水滴を流れ落ちる程度まで凝集させることができない場合がある。
【0021】
樹脂製食器用蓋の形状については、
図1に限定されるものではない。例えば、
図1の樹脂製食器用蓋1の外周径を大きくし、凸形状のリブ3の代わりに凹形状の溝を設けて食器4上端部と嵌合することにより、水蒸気を空間内に封じる機能を持たせてもよく、樹脂製食器用蓋1の外周径を食器4上端部の内側の径より小さくして食器4と組み合わせることにより、水蒸気を空間内に封じる機能を持たせてもよい。
本発明における樹脂製食器用蓋の形状は、食器と組み合わせることにより、水蒸気を空間内に封じる機能を有するのであればどのような形状であってもよい。
【0022】
本発明の樹脂製食器用蓋の成形方法としては、射出成型法、圧縮成形法、押出成形法等、公知の成形方法を用いることができるが、生産効率性の観点から射出成型法を用いることが好ましい。
【0023】
本発明のシボ加工は、金型表面に加工したシボ加工を成形時に転写することにより行う。ここで、金型表面にシボ加工を行う方法はエッチング法、サンドブラスト法等、公知の方法を用いることができる。
【0024】
本発明の樹脂製食器用蓋と組み合わせて用いられる食器の材質は特に限定されるものではなく、陶器、木製、竹製、ガラス製、樹脂製等、公知の材質のものを用いることができる。
【0025】
本発明に用いる再加熱の手段、方法は、スチームによる再加熱、熱風による再加熱、マイクロ波による再加熱等、公知の再加熱の手段、方法を用いることができる。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明を実施例によってより詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0027】
(実施例1および比較例1~2)
ポリエーテルサルホン製の平板形状プレートを用い、凹凸の大きさが小さく、粗密の程度が密であるシボ加工を施した実施例1、シボ加工を施していないプレートを比較対照として比較例1、凹凸の大きさが大きく、粗密の程度が粗であるシボ加工を施した比較例2を準備した。
実施例1および比較例1~2について、評価のばらつきを考慮して評価者3名を採用して、下記の方法で親水性評価試験を実施した。結果として、評価者3名とも同じ評価結果であり、評価のばらつきはなかった。
試験結果を表1に示す。実施例1は比較例1に比較して、非常に親水性の高いシボ加工であった。また、比較例2は比較例1に比較して、
撥水性のシボ加工であった。
【表1】
【0028】
<親水性評価試験>
視認性を良くするため、水性の青色インクを水で希釈した水溶液を用い、霧吹きを用いて、水平に設置した各試料の樹脂プレート上に前記水溶液を噴射し、微小な大きさの水滴を付着させる。その後、各試料の樹脂プレートを水平な状態から徐々に斜めに傾けていき、微小な水滴が周囲に存在する他の微小な水滴と接触して凝集することにより徐々に大きな水滴を形成させ、水滴の流れ落ちる様子を目視で観察する。以下の基準で判定した。
◎:非常によい。比較例1より小さな、わずかな傾きで水滴が流れ落ちる。非常に
親水性の高いシボ加工である。
○:よい。比較例1より小さな傾きで水滴が流れ落ちる。親水性のシボ加工である。
△:普通。比較例1はシボ加工を施していないため、基準の比較対照である。
×:悪い。比較例1より大きな傾きで水滴が流れ落ちる。撥水性のシボ加工である。
【0029】
(実施例2および比較例3~4)
図1に示した形状を用い、ポリエーテルサルホン製の樹脂製食器用蓋を3種類、射出成型法により製造した。3種類の異なったコア金型を用いることにより、内側表面の全面に実施例1と同一のシボ加工を施した実施例2、内側表面になにも加工していない比較例3、内側表面の全面に比較例2と同一のシボ加工を施した比較例4を準備した。
実施例2および比較例3~4について、評価のばらつきを考慮して評価者5名を採用して、下記の方法で再加熱後米飯の評価試験を実施した。
評価者5名の評価を平均した試験結果を表2に示す。実施例2は米飯の乾燥がほとんどなく、炊飯した直後の米飯とほぼ同じ食味であった。また、比較例4は米飯の食味が、シボ加工を施していない比較例3と同等であった。
【表2】
【0030】
<再加熱後米飯の評価試験>
ポリエーテルサルホン製の飯椀3個に炊飯した直後の米飯をよそった後、急速冷却し、チルド米を準備する。前記チルド米の入った飯椀の上にそれぞれ内側表面の形状が異なる3種類の樹脂製食器用蓋を載置した後、スチームによる再加熱機器を使用し、米飯を再加熱した。配膳および喫食までの時間を想定し、再加熱が終了してから30分後に樹脂製食器用蓋を除去し、試食して評価試験を実施した。以下の基準で判定した。
◎:非常によい。米飯の乾燥がほとんどなく、炊飯した直後の米飯とほぼ同じ食味で
あった。
○:よい。多少、米飯の乾燥が見られるが、比較例3より米飯の食味はよかった。
△:普通。比較例3はシボ加工を施していないため、基準の比較対照である。
または、米飯の食味が比較例3と同等であった。
×:悪い。比較例3より米飯の食味が低下した。
【符号の説明】
【0031】
1:樹脂製食器用蓋
2:樹脂製食器用蓋の内側表面
3:リブ
4:食器
5:親水性のシボ加工