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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】成形吸着体、及び浄水カートリッジ
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/20 20060101AFI20240516BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240516BHJP
【FI】
B01J20/20 D
C02F1/28 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020017604
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021122778
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】田村 尚也
(72)【発明者】
【氏名】大橋 和一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一博
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-059826(JP,A)
【文献】特開2017-200670(JP,A)
【文献】特開2016-087518(JP,A)
【文献】特開2017-136589(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0000763(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 - 20/34
C02F 1/28
C01B 5/00
C01B 32/354
C01B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状物質と、繊維状バインダーと、を含有する成形吸着体であって、
前記粒子状物質は、粒状の活性炭を含有し、
前記粒子状物質の中心粒子径D50は、24μm以上40μm以下であり、
粒子径が10μm以下の前記粒子状物質の含有率が2.3体積%以上13.1体積%以下である、成形吸着体。
但し、粒子径が10μm以下の前記粒子状物質の前記含有率は、前記粒子状物質の全量100体積%中に含まれる粒子径が10μm以下の前記粒子状物質の体積割合を意味する。
【請求項2】
前記活性炭の含有量は、23.5質量%以上98質量%以下であり、
前記繊維状バインダーの含有量は、2質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の成形吸着体。
但し、前記活性炭の含有量は、成形吸着体を100質量%とした場合の値であり、前記繊維状バインダーの含有量は、成形吸着体を100質量%とした場合の値である。
【請求項3】
前記粒子状物質は、更にゼオライト含有する、請求項1及び請求項2のいずれか一項に記載の成形吸着体。
【請求項4】
圧力損失は0.05MPa以上0.15MPa以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の成形吸着体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の成形吸着体を備える、浄水カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成形吸着体、及び浄水カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
水処理フィルターが、特許文献1で開示されている。特許文献1の水処理フィルターは、中心粒子径が30~80μmである粒状活性炭及びフィブリル化された繊維状バインダーを含む円筒状フィルターを備える。水処理フィルターの上流側である外表面の算術平均うねりが30μm以下、断面曲線の算術平均高さが35~45μmに調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/061740号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の水処理フィルターの微粒子除去性能は、必ずしも十分ではなかった。本開示は、上記課題を解決するためのものであり、微粒子除去性能を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
粒子状物質と、繊維状バインダーと、を含有する成形吸着体であって、前記粒子状物質の中心粒子径D50は、21μm以上43μm以下であり、粒子径が10μm以下の前記粒子状物質の含有率が1.7体積%以上13.7体積%以下である、成形吸着体。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】成形吸着体の構成を模式的に示す説明図である。
図2】成形吸着体を備えた浄水カートリッジの一例の正面図である。
図3図2の浄水カートリッジの断面図である。
図4】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.成形吸着体1
(1)成形吸着体1の構成
成形吸着体1は、粒子状物質3と、繊維状バインダー5と、を含有する。粒子状物質3は、吸着材として用いられるものであれば特に限定されない。粒子状物質3は、活性炭、ゼオライト、珪酸チタニウム、チタン酸ナトリウム、アルミノ珪酸塩、及び酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。図1では、粒子状物質3として、黒丸、黒四角、及び黒三角で示された第1粒子状物質3A、白丸で示された第2粒子状物質3Bが存在する例を示している。図1の矢印は水の流れを示し、符号4は、除去対象の微粒子状除去物質をしめしている。
【0008】
粒子状物質3の中心粒子径D50は、圧力損失を抑制する観点から、下限値に関して、21μm以上であり、24μm以上が好ましく、27μm以上がより好ましい。粒子状物質3の中心粒子径D50は、微粒子除去率を向上させる観点から、上限値に関して、43μm以下であり、40μm以下が好ましく、37μm以下がより好ましい。粒子状物質3の中心粒子径D50は、21μm以上43μm以下であり、24μm以上40μm以下が好ましく、27μm以上37μm以下がより好ましい。
【0009】
粒子径が10μm以下の粒子状物質3の含有率は、微粒子除去率を向上させる観点から、下限値に関して、1.7体積%以上であり、2.3体積%以上が好ましく、2.9体積%以上がより好ましい。粒子径が10μm以下の粒子状物質3の含有率は、圧力損失を抑制する観点から、上限値に関して、13.7体積%以下であり、13.1体積%以下が好ましく、12.5体積%以下がより好ましい。粒子径が10μm以下の粒子状物質3の含有率は、1.7体積%以上13.7体積%以下であり、2.3体積%以上13.1体積%以下が好ましく、2.9体積%以上12.5体積%以下がより好ましい。粒子径が10μm以下の粒子状物質3の含有率は、粒子状物質3の全量100体積%中に含まれる粒子径が10μm以下の粒子状物質3の体積割合を意味する。粒子径が10μm以下の粒子状物質3は、粒子径が0μmよりも大きい。
【0010】
粒子状物質3の中心粒子径D50、及び粒子径が10μm以下の粒子状物質3の含有率は、レーザ回折・散乱式の粒子径分布測定装置で測定できる。
【0011】
粒子状物質3が、粒状の活性炭を含有する場合には、成形吸着体1の成形性の観点から、成形吸着体1を100質量%とした場合に、活性炭の含有量が23.5質量%以上98質量%以下であり、かつ繊維状バインダー5の含有量が2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。この場合において、活性炭の含有量が35質量%以上97質量%以下であり、かつ繊維状バインダー5の含有量が3質量%以上9質量%以下であることがより好ましく、活性炭の含有量が50質量%以上96質量%以下であり、かつ繊維状バインダー5の含有量が4質量%以上8質量%以下であることが更に好ましい。
【0012】
アリゾナ砂(0.5μm-1μm)を除去対象とし、NFS規格(NSF/ANSI 42)に適合する観点から、粒子状物質3は、ゼオライトを含有することが好ましく、活性炭、及びゼオライトを含有することがより好ましい。ゼオライトの中心粒子径D50は、25μm以上33μm以下が好ましい。
【0013】
成形吸着体1の圧力損失は、0.05MPa以上0.15MPa以下であることが好ましい。この範囲内の圧力損失であると、実用的な成形吸着体1となる。圧力損失は、外径が24.4mm、内径が8.1mmで長さが90.0mmのカートリッジフィルターの濾過体積37.4mLにおいて、外周面から内周面方向に通水した時の流量2.5L/分の圧力損失を意味する。
【0014】
(2)成形吸着体1の効果
成形吸着体1は、圧力損失が低く、かつ微粒子除去率が高い。
【0015】
2.浄水カートリッジ11
浄水カートリッジ11は、成形吸着体1を備えてなる。浄水カートリッジ11の形状及び構造は、特に限定されない。浄水カートリッジ11の好適な一例を以下に説明する。
【0016】
(1)浄水カートリッジ11の構造
浄水カートリッジ11は円筒状である。浄水カートリッジ11は、中芯12と、成形吸着体1と、不織布14と、封止キャップ15,16と、を備える。中芯2は、円筒状であり、浄水カートリッジ11の最も内側に配置される。中芯2には、外側から内側に水が通過するのを許容する細孔が形成され、内部に流路20が形成される。中芯2としては、任意の材料を使用可能である。中芯2の材料としては、多孔質セラミック、多孔質金属フィルタ、硬質不織布等が挙げられる。
【0017】
成形吸着体1は、円筒状であり、中芯2の外周面上に配置される。不織布14は、成形吸着体1の外周面上に配置される。不織布14は、例えば、JIS L0222で規定された不織布を用いることができる。不織布14の原料となる繊維の種類は特に限定されない。
【0018】
封止キャップ15は、成形吸着体1の一端側を覆うことで、流路20の一方側を塞ぐ。封止キャップ16は、成形吸着体1の他端側を覆う。封止キャップ16には、流路20を流通した水が排出される排出口60が形成されている。
【0019】
(2)浄水カートリッジ11の製造方法
浄水カートリッジ11の製造方法の一例を説明する。浄水カートリッジ11の製造方法は、混合工程と、吸引成形工程と、乾燥工程と、表面研磨工程と、不織布巻き付け工程と、封止工程と、を備える。
【0020】
混合工程においては、成形吸着体1の原料となる粒子状物質、繊維状バインダー及び水等を混合することで、スラリーを得る。吸引成形工程においては、成形吸着体1を成形する。吸引成形工程においては、中芯2の流路20の一端側を、ホースを介して吸引ポンプに接続する。この際、中芯2の流路20の他端側は封止しておく。吸引ポンプに接続された中芯2を容器に溜めた上述のスラリー中に浸漬し、真空ポンプ等からなる吸引ポンプを稼働させる。スラリーのうち水が中芯2を透過し、粒子状物質、繊維状バインダーの混合物が中芯2の表面に残留して徐々に堆積することで成形吸着体1が形成される。吸引ポンプに吸引されたスラリーのうち水は、排水路を通じて排出される。吸引ポンプが稼働されることで、規定の厚さまで成形吸着体1が形成された後に、中芯2をスラリーから引き上げる。
【0021】
乾燥工程においては、吸引成形工程で成形した成形吸着体1を乾燥させる。乾燥工程において成形吸着体1を乾燥させることで、中芯2と成形吸着体1とを一体化させることができる。表面研磨工程においては、成形吸着体1の外周面を研磨する。不織布巻き付け工程においては、表面研磨工程において研磨した成形吸着体1の外周面に不織布14を巻き付ける。封止工程においては、不織布14を巻き付けた成形吸着体1の一端側に封止キャップ15を、他端側に封止キャップ16を、それぞれ装着する。
【0022】
(3)浄水カートリッジ11の効果
成形吸着体1を備えた浄水カートリッジ11は、圧力損失が低く、かつ微粒子除去率が高い。
【実施例
【0023】
以下、実施例により更に具体的に説明する。実験例6,7,8,9,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26が実施例であり、実験例1,2,3,4,5,10は比較例である。
【0024】
1.成形吸着体の作製
実験例1~実験例26の成形吸着体は、次のように作製した。表1に示す調合比にて、スラリーを調製した。各成分の詳細は以下のようである。
・バインダー:東洋紡株式会社、日本エクスラン工業(株) Bi-PUL 50 TWF(アクリロニトリルのフィブリル化繊維)
・活性炭(超極細粒):D50=10μm
・活性炭(極細粒):大阪ガスケミカル株式会社 粒状白鷺TC-50を粉砕分級したもの D50=21μm
・活性炭(細粒):大阪ガスケミカル株式会社 粒状白鷺TC-20 D50=35μm
・活性炭(中粒):大阪ガスケミカル株式会社 粒状白鷺TC-50 D50=73μm
・活性炭(粗粒):大阪ガスケミカル株式会社 粒状白鷺TC-100 D50=130μm
・鉛除去材:ゼオライト BASF Japan ATSTMMEDIA NSF/ANSI61 D50=29μm
【0025】
【表1】
【0026】
成形機に中芯たるセラミック芯材(外径φ8.1mm、内径φ5.0mm)を取り付け、スラリー中で吸引して着肉させて、成形吸着体を成形した。成形吸着体を乾燥させて研磨し、不織布を巻いてキャップを接着して、浄水カートリッジにした。カートリッジのサイズ(成形吸着体部分)は、外径φ24.4mm、内径φ8.1mm、長さ90mmとした。粒度測定はバインダーを除いたスラリーを粒子径分布測定装置で測定して求めた。粒子径分布測定装置の詳細、及び測定条件を以下に示す。この測定によって得られる測定値は、スラリー中の粒子状物質の粒子径分布である。スラリー中の粒子状物質は、乾燥後の成形吸着体においても粒径は変化しない。スラリー中の粒子状物質の粒子径分布は、乾燥後の成形吸着体の粒子状物質の粒子径分布を反映している。
レーザ回折・散乱式 粒子径分布測定装置:マイクロトラックMT3300EXII
分布:体積
溶媒:水
スケール区分:粒子径0.021μm~2000μm
チャンネル数:132
【0027】
2.浄水カートリッジの性能評価
(1)試験方法
NFS/ANSI 42 粒子除去試験 等級Iに準拠した試験を行った。分析はパーティクルカウンターを使用した。詳細には以下の手順で試験した。
(1-1)水にISO TEST DUST 12103-1 A2 fineを分散させた。0.5-1μmの粒子数は200万個程度である。
(1-2)浄水カートリッジをハウジングに取り付け、SV=4000/h(2.5L/min)で1分間通水させた。
(1-3)濾過水を採水し、粒子数(0.5-1μm)を測定した。
(2)圧力損失測定方法
(2-1)ハウジングの前後に圧力計を取り付け、浄水カートリッジを取り付けずに、2.5L/minで通水を行い、その時の前後の圧力差(圧力A)を測定した。
(2-2)ハウジングに浄水カートリッジを取り付け、SV=4000/h(2.5L/min)で10分間通水を行い、その時の前後の圧力差(圧力B)を測定した。
(2-3)圧力Aと圧力Bの差を浄水カートリッジの圧力損失とした。
【0028】
NSFでの試験は浄水カートリッジの流量が初期の50%以下に下がるまで試験を行うが、目詰まりにより除去率は徐々に上がるため、除去率の一番低い初期の濾過水のみの評価とした。
【0029】
(2)結果及び考察
結果を表1及び図4に示す。
実験例6,7,8,9,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26は、第1要件、第2要件、及び第3要件を全て満たしている。
〔第1要件〕:粒子状物質の中心粒子径D50が、21μm以上43μm以下である。
〔第2要件〕:粒子径が10μm以下の粒子状物質の含有率が1.7体積%以上13.7体積%以下である。
〔第3要件〕:成形して成形吸着体を作製可能である。
【0030】
これに対して、実験例1,2,3,4,5,10は以下の要件を満たしていない。
実験例1,2,3,4,5は、第1要件及び第2要件のいずれも満たしていない。実験例10は、成形できず、第3要件を満たしていない。
【0031】
実験例6,7,8,9,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26では、圧力損失は0.15MPa以下であり、かつ微粒子除去率が80%以上であった。これらの実験例は、性能が優れていることが確認された。実験例1,2では、圧力損失が0.15MPaよりも大きかった。実験例3,4,5では、微粒子除去率が80%未満であった。
【符号の説明】
【0032】
1…成形吸着体、2…中芯、3…粒子状物質、4…微粒子状除去物質、5…繊維状バインダー、6…封止キャップ、11…浄水カートリッジ、12…中芯、14…不織布、15…封止キャップ、16…封止キャップ、20…流路、60…排出口
図1
図2
図3
図4