(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】架橋物、積層体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/24 20060101AFI20240516BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20240516BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240516BHJP
B29C 48/00 20190101ALI20240516BHJP
B29C 48/154 20190101ALI20240516BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C08J3/24 Z CES
C08J3/24 CEY
B32B15/085 A
B32B27/32 101
B29C48/00
B29C48/154
C08F8/00
(21)【出願番号】P 2020060920
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】立石 浩一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 秀則
(72)【発明者】
【氏名】芝田 保喜
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-229443(JP,A)
【文献】特開2007-332225(JP,A)
【文献】特開2002-212238(JP,A)
【文献】特開平04-193533(JP,A)
【文献】特開平06-192494(JP,A)
【文献】特開2004-131685(JP,A)
【文献】特開昭61-148251(JP,A)
【文献】特開2014-074096(JP,A)
【文献】特開2002-210900(JP,A)
【文献】特開2015-083631(JP,A)
【文献】特開2007-30269(JP,A)
【文献】特開平7-82480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C48/00-48/96
B32B1/00-43/00
C08C19/00-19/44
C08F6/00-246/00
301/00
C08J3/00-3/28
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)を有機過酸化物(C2)で架橋した架橋物(C3)であって、
前記架橋物(C3)は、以下の測定方法(a)により測定される溶融張力が13mN以上140mN以下であり、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)中の不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量が、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)の全体を100質量%としたとき、8質量%以上30質量%以下であ
り、
JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)のメルトマスフローレート(MFR)が、10g/10分以上150g/10分以下である架橋物。
測定方法(a):前記架橋物(C3)を190℃に加熱した直径9.55mmのバレルに充填する。前記架橋物(C3)を、直径2.095mmのキャピラリーダイから、ピストン降下速度5mm/分にて、紐状に押し出す。紐状の前記架橋物(C3)を、前記キャピラリーダイの下方300mmの位置に設置したロードセル付きプーリーに通過させ、紐状の前記架橋物(C3)を巻取りロールで巻き取る。紐状の前記架橋物(C3)の巻き取り速度を初速度5.0m/分から4分後に200m/分となるように一定の割合で増加させるときに、紐状の前記架橋物(C3)が破断したときのロードセル付きプーリーにかかる荷重を溶融張力(mN)として求める。
【請求項2】
JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、前記架橋物(C3)のメルトマスフローレート(MFR)が、0.1g/10min以上30g/10min以下である請求項1に記載の架橋物。
【請求項3】
以下の測定方法(b)で測定される、架橋物(C3)の引取速度が、5m/min以上130m/min以下である請求項1または2に記載の架橋物。
測定方法(b):前記架橋物(C3)を190℃に加熱した直径9.55mmのバレルに充填する。前記架橋物(C3)を、直径2.095mmのキャピラリーダイから、ピストン降下速度5mm/分にて、紐状に押し出す。紐状の前記架橋物(C3)を、前記キャピラリーダイの下方300mmの位置に設置したロードセル付きプーリーに通過させ、紐状の前記架橋物(C3)を巻取りロールで巻き取る。紐状の前記架橋物(C3)の巻き取り速度を初速度5.0m/分から4分後に200m/分となるように一定の割合で増加させるときに、紐状の前記架橋物(C3)が破断したときの巻取り速度の値を引取速度として求める。
【請求項4】
前記架橋物(C3)の前記測定方法(a)によって求められる溶融張力の値をX(mN)、
前記架橋物(C3)の前記測定方法(b)によって求められる引取速度の値をY(m/min)とした場合に、XとYが以下の式1を満たす請求項3に記載の架橋物。
-10≦(2250×X
-1.12)-Y≦10 (1)
【請求項5】
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)100質量部に対する有機過酸化物(C2)の添加量と、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)の全体を100質量%としたときの前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)中の不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量(質量%)との比が、0.0025以上0.030以下(質量部/質量%)である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の架橋物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の架橋物を含む樹脂層(C)を少なくとも一層備える積層体。
【請求項7】
基材層(A)と、
バリア層(B)と、
前記バリア層(B)と隣接する前記樹脂層(C)を少なくとも一層と、
を備える請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
請求項7に記載の積層体において、
前記バリア層(B)が金属層であり、前記金属層を構成する金属は、銅、銀、鉄、ニッケル、クロムおよびアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含む積層体。
【請求項9】
請求項7または8に記載の積層体において、
前記基材層(A)と、前記バリア層(B)と、前記樹脂層(C)とが、この順に積層してなる積層体。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載の積層体において、
以下の測定方法(c)により測定した、前記バリア層(B)および前記樹脂層(C)との間の剥離強度が2.0N/15mm以上である積層体。
測定方法(c):前記積層体に15mm幅のスリットを入れて試験片とする。前記試験片を23℃、50%RHの環境下に1週間保管する。JIS K 7161-1に準拠して、引張試験機を用いて、引張速度300mm/minでT型剥離したときの剥離強度(N/15mm)を求める。
【請求項11】
請求項6乃至10のいずれか一項に記載の積層体の製造方法であって、
前記架橋物(C3)をフィルム状に押出成形する工程を含む積層体の製造方法。
【請求項12】
前記押出成形する工程では、前記架橋物(C3)を基材層および/またはバリア層上に押出ラミネートする、請求項11に記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の積層体の製造方法であって、
押出成形をするときの樹脂温度が260℃以上340℃以下である積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋物、積層体および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、分子鎖中に極性基を含んでいるため、強靭性、柔軟性、ガラスや金属等への接着性等に優れている。そのため、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を含む樹脂層を有する積層体は、食品包装材料、酒パック、液体紙容器、入浴剤・薬包装材料、ティーバッグ、ラミチューブ、接着フィルム等の幅広い用途で使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ポリオレフィン樹脂層、紙層、バリア層、接着性樹脂層、シール層が積層されてなる積層体を有する複合容器が開示されており、上記接着性樹脂層にエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を使用することにより、シール層と接着性樹脂層との間のデラミネーションを抑制できることが記載されている。
また、特許文献2では、非発泡樹脂層1/発泡剤含有樹脂層/非発泡樹脂層2/裏打紙の順に積層されてなる積層体を備える発泡壁紙が開示されており、上記非発泡樹脂層1にエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を使用することにより、布目絵柄の初期密着性及び表面ラビング特性に優れることが記載されている。
また、特許文献3では、透明バリア層と合成樹脂層を有する第1の基材層1、金属バリア層と合成樹脂層を有する第2の基材層2、及びシーラント層3が積層されてなる積層体を有する包装材料が開示されており、上記シーラント層にエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を使用することにより、基材層とのシール強度が高くなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-40977号公報
【文献】特開2007-196590号公報
【文献】特開2013-248743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体と他基材との層間接着性の観点では、極性基の数が増加するため、不飽和カルボン酸含有量が高い方が好ましい。しかし、不飽和カルボン酸の含有量が高いエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、その極性基の影響により高分子量体を得ることが難しく、その結果、メルトフローレート(MFR)が高くなる傾向がある。エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のMFRが高いと、押出成形加工時にネックインが大きくなり、成形性が損なわれるという問題がある。
不飽和カルボン酸の含有量が高いエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を押出成形するときにネックインが大きくなることによる成形性低下を抑制する方法の一つとして、押出成形温度を低くすることが挙げられる。しかしながら、押出成形温度を低くすることで、ネックインの増大はある程度は抑制できるものの、他基材との層間接着性が低下する傾向にあり、成形性と層間接着性はトレードオフの関係にある。したがって、成形性と層間接着性を両立させるためにはさらなる改良の余地がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を有機過酸化物で架橋することにより、不飽和カルボン酸含有量が高くても成形性に優れ、他基材との層間接着性にも優れる架橋物、積層体および上記積層体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示す架橋物、積層体および積層体の製造方法が提供される。
【0008】
[1]
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)を有機過酸化物(C2)で架橋した架橋物(C3)であって、
上記架橋物(C3)は、以下の測定方法(a)により測定される溶融張力が13mN以上140mN以下である架橋物。
測定方法(a):上記架橋物(C3)を190℃に加熱した直径9.55mmのバレルに充填する。上記架橋物(C3)を、直径2.095mmのキャピラリーダイから、ピストン降下速度5mm/分にて、紐状に押し出す。紐状の上記架橋物(C3)を、上記キャピラリーダイの下方300mmの位置に設置したロードセル付きプーリーに通過させ、紐状の上記架橋物(C3)を巻取りロールで巻き取る。紐状の上記架橋物(C3)の巻き取り速度を初速度5.0m/分から4分後に200m/分となるように一定の割合で増加させるときに、紐状の上記架橋物(C3)が破断したときのロードセル付きプーリーにかかる荷重を溶融張力(mN)として求める。
[2]
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)中の不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量が、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)の全体を100質量%としたとき、8質量%以上30質量%以下である上記[1]に記載の架橋物。
[3]
JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、上記架橋物(C3)のメルトマスフローレート(MFR)が、0.1g/10min以上30g/10min以下である上記[1]または[2]に記載の架橋物。
[4]
以下の測定方法(b)で測定される、架橋物(C3)の引取速度が、5m/min以上130m/min以下である上記[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の架橋物。
測定方法(b):上記架橋物(C3)を190℃に加熱した直径9.55mmのバレルに充填する。上記架橋物(C3)を、直径2.095mmのキャピラリーダイから、ピストン降下速度5mm/分にて、紐状に押し出す。紐状の上記架橋物(C3)を、上記キャピラリーダイの下方300mmの位置に設置したロードセル付きプーリーに通過させ、紐状の上記架橋物(C3)を巻取りロールで巻き取る。紐状の上記架橋物(C3)の巻き取り速度を初速度5.0m/分から4分後に200m/分となるように一定の割合で増加させるときに、紐状の上記架橋物(C3)が破断したときの巻取り速度の値を引取速度として求める。
[5]
上記架橋物(C3)の上記測定方法(a)によって求められる溶融張力の値をX(mN)、
上記架橋物(C3)の上記測定方法(b)によって求められる引取速度の値をY(m/min)とした場合に、XとYが以下の式1を満たす上記[4]に記載の架橋物。
-10≦(2250×X-1.12)-Y≦10 (1)
[6]
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)100質量部に対する有機過酸化物(C2)の添加量と、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)の全体を100質量%としたときの上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)中の不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量(質量%)との比が、0.0025以上0.030以下(質量部/質量%)である上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の架橋物。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の架橋物を含む樹脂層(C)を少なくとも一層備える積層体。
[8]
基材層(A)と、
バリア層(B)と、
上記バリア層(B)と隣接する上記樹脂層(C)を少なくとも一層と、
を備える上記[7]に記載の積層体。
[9]
上記[8]に記載の積層体において、
上記バリア層(B)が金属層であり、上記金属層を構成する金属は、銅、銀、鉄、ニッケル、クロムおよびアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含む積層体。
[10]
上記[8]または[9]に記載の積層体において、
上記基材層(A)と、上記バリア層(B)と、上記樹脂層(C)とが、この順に積層してなる積層体。
[11]
上記[8]乃至[10]のいずれか一つに記載の積層体において、
以下の測定方法(c)により測定した、上記バリア層(B)および上記樹脂層(C)との間の剥離強度が2.0N/15mm以上である積層体。
測定方法(c):上記積層体に15mm幅のスリットを入れて試験片とする。上記試験片を23℃、50%RHの環境下に1週間保管する。JIS K 7161-1に準拠して、引張試験機を用いて、引張速度300mm/minでT型剥離したときの剥離強度(N/15mm)を求める。
[12]
上記[7]乃至[11]のいずれか一つに記載の積層体の製造方法であって、
上記架橋物(C3)をフィルム状に押出成形する工程を含む積層体の製造方法。
[13]
上記押出成形する工程では、上記架橋物(C3)を基材層および/またはバリア層上に押出ラミネートする、上記[12]に記載の積層体の製造方法。
[14]
上記[12]または[13]に記載の積層体の製造方法であって、
押出成形をするときの樹脂温度が260℃以上340℃以下である積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成形加工が容易で、他基材との層間接着性にも優れる架橋物、積層体および上記積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る実施形態の積層体の構造の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。なお、数値範囲の「X~Y」は特に断りがなければ、X以上Y以下を表す。
【0012】
1.架橋物
本実施形態に係る架橋物(C3)は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)を有機過酸化物(C2)で架橋することで得られる。
【0013】
<エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)>
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)は、エチレンと、不飽和カルボン酸の少なくとも1種とを共重合した重合体である。エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)としては、エチレンと不飽和カルボン酸とを含む共重合体やエチレンと不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸エステルを含む共重合体を例示することができる。
【0014】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)を構成する不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2-エチルアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等が挙げられる。
これらの中でも、上記不飽和カルボン酸は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)の生産性、衛生性等の観点から、アクリル酸およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの不飽和カルボン酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態において、特に好ましいエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)は、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体である。
なお、本実施形態において、「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸、メタクリル酸またはアクリル酸とメタクリル酸を意味し、エチレン・(メタ)アクリル酸系共重合体としては、エチレン・アクリル酸共重合体またはエチレン・メタクリル酸共重合体が例示される。
【0015】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)は、エチレンと、不飽和カルボン酸の少なくとも1種と、不飽和カルボン酸エステルの少なくとも1種と、を共重合した重合体であってもよい。
不飽和カルボン酸エステルとしては、好ましくは不飽和カルボン酸の炭素原子数1~8のアルキルエステルであり、より好ましくはアクリル酸またはメタクリル酸の炭素原子数1~8のアルキルエステルである。具体的にはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等を挙げることができる。これらの不飽和エステルは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら中でも、(メタ)アクリル酸イソブチルおよび(メタ)アクリル酸n-ブチルから選択される少なくとも一種が好ましい。
【0016】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)中のエチレンから導かれる構成単位の含有量は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)の全体を100質量%としたとき、好ましくは70質量%以上92質量%以下、より好ましくは75質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは78質量%以上86質量%以下である。
エチレンから導かれる構成単位が上記下限値以上であると、得られる積層体の耐熱性や機械的強度等をより良好なものとすることができる。また、エチレンから導かれる構成単位が上記上限値以下であると得られる積層体の透明性や柔軟性、接着性等をより良好なものとすることができる。
【0017】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)中の不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)の全体を100質量%としたとき、好ましくは8質量%以上30質量%以下、より好ましくは10質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは14質量%以上22質量%以下である。
不飽和カルボン酸から導かれる構成単位が上記下限値以上であると、得られる積層体10の透明性や柔軟性、接着性等をより良好なものとすることができる。また、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位が上記上限値以下であると、架橋物(C3)の加工性をより良好なものとすることができる。
【0018】
本実施形態において、加工安定性をより向上させる観点から、JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)のメルトフローレート(MFR)は、10g/10分以上150g/10分以下であることが好ましく、15g/10分以上100g/10分以下であることがより好ましく、20g/10分以上80g/10分以下であることがさらに好ましい。
【0019】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、各重合成分を高温、高圧下でラジカル共重合することによって得ることができる。また、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)は市販されているものを用いてもよい。
【0020】
<有機過酸化物(C2)>
有機過酸化物(C2)としては、重合開始剤として使用可能な公知の有機過酸化物を用いることができる。
有機過酸化物としては、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルクミルペルオキシド、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p-クロロベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート等が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、反応性、ハンドリング性の観点から、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルクミルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルカーボネートが好ましく、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネートがより好ましい。
【0022】
有機過酸化物(C2)の添加量は、成形性、加工性、有機過酸化物の樹脂への含浸性の観点から、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上4.0質量部以下、さらに好ましくは0.01質量部以上3.5質量部以下、特に好ましくは0.02質量部以上2.5質量部以下である。
【0023】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)100質量部に対する有機過酸化物(C2)の添加量と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)の全体を100質量%としたときのエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)中の不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量(質量%)との好ましい比は、成形性、加工性、有機過酸化物の樹脂への含浸性の観点から、0.0025以上0.030以下(質量部/質量%)であり、0.0030以上0.025以下がより好ましい。
【0024】
また、架橋物(C3)には、架橋助剤を使用してもよい。架橋助剤としては、例えば、p-キノンジオキシム、p,p-ジベンゾイルキノンオキシム等のキノンオキシム類;ラウリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールアクリレート等の(メタ)アクリレート類;ジアリールフマレート、トリアリールシアヌレート等のアリール類;マレイミド、フェニールマレイミド等のマレイミド類;その他、無水マレイン酸、イタコン酸、ジビニールベンゼン、ビニールトルエン、1,2-ポリブタジエン等を挙げることができる。
架橋助剤の添加量は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)および有機過酸化物(C2)の合計100質量部に対して、好ましくは0~5重量部、さらに好ましくは0~4重量部である。
【0025】
<架橋物(C3)>
架橋物(C3)は、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)と、有機過酸化物(C2)と、を押出機に供給し、有機過酸化物(C2)の存在下で、動的に熱処理することにより得ることができる。
上記の「動的に熱処理する」とは、上記のような各成分を融解状態で混練することをいう。この混練に使用される押出機としては、二軸押出機が好ましく用いられる。その押出条件(ないし混練条件)は、次の通りである。
すなわち、L/Dが25以上で滞留時間が1分以上稼げる二軸押出機を使用し、その押出条件は、反応ゾーンの温度を、例えば140~250℃の範囲に設定することである。
上記混練は、窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガスの雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0026】
架橋物(C3)は、以下の測定方法(a)により測定される溶融張力が13mN以上140mN以下、好ましくは13mN以上130mN以下、さらに好ましくは13mN以上120mN以下である。これにより、積層体10の成形性および層間接着性のバランスをより良好にすることができる。
測定方法(a):架橋物(C3)を190℃に加熱した直径9.55mmのバレルに充填する。架橋物(C3)を、直径2.095mmのキャピラリーダイから、ピストン降下速度5mm/分にて、紐状に押し出す。紐状の架橋物(C3)を、キャピラリーダイの下方300mmの位置に設置したロードセル付きプーリーに通過させ、紐状の架橋物(C3)を巻取りロールで巻き取る。紐状の架橋物(C3)の巻き取り速度を初速度5.0m/分から4分後に200m/分となるように一定の割合で増加させるときに、紐状の架橋物(C3)が破断したときのロードセル付きプーリーにかかる荷重を溶融張力(mN)として求める。
【0027】
JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、架橋物(C3)のメルトマスフローレート(MFR)は、積層体10の成形性および層間接着性のバランスをより一層良好にする観点から、0.1g/10min以上30g/10min以下であることが好ましく、1g/10min以上30g/10min以下であることがより好ましく、5g/10min以上30g/10min以下であることがさらに好ましい。
【0028】
以下の測定方法(b)で測定される、架橋物(C3)の引取速度は、成形性をより一層良好にする観点から、5m/min以上130m/min以下であることが好ましい。
測定方法(b):架橋物(C3)を190℃に加熱した直径9.55mmのバレルに充填する。架橋物(C3)を、直径2.095mmのキャピラリーダイから、ピストン降下速度5mm/分にて、紐状に押し出す。紐状の架橋物(C3)を、キャピラリーダイの下方300mmの位置に設置したロードセル付きプーリーに通過させ、紐状の架橋物(C3)を巻取りロールで巻き取る。紐状の架橋物(C3)の巻き取り速度を初速度5.0m/分から4分後に200m/分となるように一定の割合で増加させるときに、紐状の架橋物(C3)が破断したときの巻取り速度の値を引取速度として求める。
【0029】
架橋物(C3)の測定方法(a)によって求められる溶融張力の値をX(mN)、架橋物(C3)の測定方法(b)によって求められる引取速度の値をY(m/min)とした場合に、積層体10の成形性および層間接着性のバランスをより一層良好にする観点から、XとYが以下の式1を満たすことが好ましい。
-10≦(2250×X-1.12)-Y≦10 (1)
ここで、(2250×X-1.12)-Yはより好ましくは-7以上7以下であり、さらに好ましくは、-5以上5以下である。
【0030】
以下の測定方法(d)で測定される、架橋物(C3)のスウェリング比(SR)は、50%以上170%以下であることが好ましい。SRが50%以上であれば加工性がより良好となる。また、SRが170%以下であれば層間接着性がより良好となる。
測定方法(b):メルトテンションテスターを用いて、架橋物(C3)を190℃に加熱した直径9.55mmのバレルに充填した。架橋物(C3)を、190℃の温度に保ち、キャピラリーレオメーターに取り付けられた直径2.095mmのダイスから押し出し、メルトインデキサーから流出した架橋物(C3)のストランドの径を測定し、以下の式からSRを求める。
SR=(ds-do)/do×100
dsは2160g荷重、190℃でメルトインデキサーから流出した樹脂ストランドの径、doはメルトインデキサーのオリフィス径である。
【0031】
2.積層体
図1は、本発明に係る実施形態の積層体10の構造の一例を模式的に示した断面図である。
本実施形態に係る積層体10は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)を有機過酸化物(C2)で架橋した架橋物(C3)を含む樹脂層(C)を少なくとも一層備える。
また、本実施形態に係る積層体10は、基材層(A)と、バリア層(B)と、バリア層(B)と隣接する樹脂層(C)を少なくとも一層と、を備えることが好ましい。
また、本実施形態に係る積層体10は、例えば、基材層(A)と、バリア層(B)と、樹脂層(C)とが、この順に積層している。
【0032】
本実施形態に係る積層体10によれば、バリア層(B)と積層する樹脂層として、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)を有機過酸化物(C2)で架橋した架橋物(C3)を含む樹脂層(C)を用いることによって、バリア層(B)と樹脂層(C)との層間接着性を向上させることができる。さらに、樹脂層(C)を用いることによって、押出成形時のネックインを低減することができるため、本実施形態に係る積層体10は成形加工が容易である。
以上から、本実施形態に係る積層体10は、成形性および層間接着性に優れている。
【0033】
本実施形態において、積層体10の全体の厚みは、柔軟性、機械的強度および層間接着性の性能バランスの点から、好ましくは10μm以上1000μm以下、より好ましくは20μm以上500μm以下である。
【0034】
本実施形態に係る積層体10において、柔軟性、機械的強度および層間接着性の性能バランスの点から、基材層(A)の厚みは好ましくは1μm以上500μm以下、より好ましくは5μm以上300μm以下であり、バリア層(B)の厚みは好ましくは1μm以上500μm以下、より好ましくは5μm以上300μm以下であり、樹脂層(C)の厚みは好ましくは5μm以上300μm以下、より好ましくは10μm以上100μm以下である。
【0035】
本実施形態に係る積層体10は、樹脂層(C)を1層のみ有してもよいし、2層以上有していてもよい。
【0036】
本実施形態に係る積層体10において、層構成は、例えば、基材層(A)/バリア層(B)/樹脂層(C)、基材層(A)/樹脂層(C)/バリア層(B)/樹脂層(C)、基材層(A)/樹脂層(C)/バリア層(B)/樹脂層(C)/樹脂層(C)等の構成が挙げられる。
【0037】
本実施形態に係る積層体10は、基材層(A)、バリア層(B)および樹脂層(C)のみで構成されていてもよいし、積層体10に様々な機能を付与する観点から、基材層(A)、バリア層(B)および樹脂層(C)以外の層(以下、その他の層とも呼ぶ。)を基材層(A)および/または樹脂層(C)の表層側に有していてもよい。その他の層としては、例えば、基材層、無機物層、ガスバリア層、帯電防止層、ハードコート層、接着層、反射防止層、防汚層、シーラント層、アンダーコート層、粘着層等を挙げることができる。その他の層は1層単独で有してもよいし、2層以上を組み合わせて有してもよい。
【0038】
本実施形態に係る積層体10の形状は特に限定されないが、例えば、フィルム、チューブ・ホース、テープ、シート等が挙げられる。
本実施形態に係る積層体10は特に限定されないが、例えば、食品包装材料、酒パック、液体紙容器、入浴剤・薬包装材料、ティーバッグ、ラミチューブ、接着フィルム等からなる群から選択される少なくとも一種として好適に用いることができる。
【0039】
バリア層(B)と樹脂層(C)との層間接着性をより一層良好にする観点から、以下の測定方法(c)により測定した、バリア層(B)および樹脂層(C)との間の剥離強度が1.5N/15mm以上であることが好ましく、2.0N/15mm以上であることがより好ましい。
測定方法(c):積層体に15mm幅のスリットを入れて試験片とする。試験片を23℃、50%RHの環境下に1週間保管する。JIS K 7161-1に準拠して、引張試験機を用いて、引張速度300mm/minでT型剥離したときの剥離強度(N/15mm)を求める。
引張試験機としては、例えば、(株式会社島津製作所社製、EZ-SX,100N)を用いることができる。
【0040】
以下、積層体10を構成する各層について説明する。
【0041】
<基材層(A)>
【0042】
基材層(A)は、積層体10の取り扱い性や機械的特性、導電性、断熱性、耐熱性等の特性をより良好にすることを目的として設けられる層である。基材層(A)としては、例えば、ナイロンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等のポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体フィルム、紙等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらは一軸あるいは二軸に延伸されたものであってもよい。
これらの中でも、機械的強度や耐ピンホール性等に優れていることから、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルムおよびポリオレフィンフィルムからなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、ポリエステルフィルムおよびポリオレフィンフィルムからなる群から選択される少なくとも一種がより好ましい。
基材層(A)は一層のみであっても、二層以上積層されたものであってもよい。
【0043】
基材層(A)は他の層との接着性を改良するために、表面処理を行ってもよい。具体的には、コロナ処理、プラズマ処理、アンカーコート処理、プライマーコート処理等を行ってもよい。
【0044】
<バリア層(B)>
バリア層(B)は、ポリ乳酸等の延伸フィルム、フィルム上に酸化アルミニウムや酸化ケイ素、アルミニウム等の無機化合物の薄膜を物理蒸着あるいは化学蒸着等の蒸着法により20~100nm程度の厚さに設けた無機化合物蒸着プラスチックフィルム、金属層、エチレンビニルアルコール共重合樹脂フィルム、塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム等が好ましく使用できる。必要に応じて、これらを積層して用いてもよい。
これらの中でも金属層が好ましい。金属層を構成する金属としては、銅、銀、鉄、ニッケル、クロムおよびアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属が好ましく、アルミニウムがより好ましい。
【0045】
バリア層(B)は、他の層との接着性を改良するために、表面処理を行ってもよい。具体的には、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、オゾン処理等の物理的な処理がなされていてもよい。また、公知のアンカーコート処理を施してもよい。
【0046】
<樹脂層(C)>
樹脂層(C)はバリア層(B)と隣接する。樹脂層(C)はバリア層(B)の片面のみに存在してもよいし、両面に存在してもよい。
樹脂層(C)は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)を有機過酸化物(C2)で架橋した架橋物(C3)を含む。
【0047】
3.積層体の製造方法
本実施形態に係る積層体10の製造方法は特に限定されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法を適用することができる。例えば、T-ダイ押出機あるいはインフレーション成形機等を用いる公知の方法によって行うことができる。
例えば、本実施形態に係る架橋物(C3)をフィルム状に押出成形する工程を含む製造方法が挙げられる。架橋物(C3)をフィルム状に押出成形する工程では、例えば、架橋物(C3)を基材層(A)および/またはバリア層(B)上に押出ラミネートする。
また、架橋物(C3)をフィルム状に押出成形した後、接着剤等を使用して基材層(A)および/またはバリア層(B)を貼り合わせるドライラミネート法;基材層(A)上に架橋物(C3)を押出ラミネートする方法;本実施形態に係る架橋物(C3)により構成されたフィルム上に、基材層(A)を押出ラミネートする方法等を用いることができる。
押出成形をするときの樹脂温度は、積層体10の層間接着性を向上させる観点から、260℃以上340℃以下であることが好ましい。
【0048】
本実施形態に係る積層体10の製造方法において、成形性をより一層良好にする観点から、下記の測定方法で測定される架橋物(C3)のネックインは150mm以下であることが好ましく、130mm以下であることがより好ましい。
ネックインの測定方法:架橋物(C3)を、ダイ開口500mm幅から樹脂厚みが20μm、引取速度が80m/min、ダイ開口の先端からニップロールまでの距離(エアーギャップ)が110mmの条件で、クラフト紙にラミネート押出成形したときのネックインした幅をXとした場合に、500-X(mm)にて求める。
【0049】
また、本実施形態に係る積層体10の製造方法において、成形性をより一層良好にする観点から、下記の測定方法で測定される架橋物(C3)のドローダウンは150m/min以上であることが好ましい。
ドローダウンの測定方法:架橋物(C3)を、ダイ開口500mm幅から樹脂厚みが20μm、引取速度が80m/min、ダイ開口の先端からニップロールまでの距離(エアーギャップ)が110mmの条件で、ラミネート押出成形した後、押出量を一定に固定したまま、引取速度を増加させたときに、溶融膜が破断したときの引取速度(m/min)にて求める。
【0050】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
架橋物および積層体の作製に用いた成分の詳細は以下の通りである。
【0053】
<基材層(A)>
・PET(ポリエチレンテレフタラート):東レ株式会社製、ルミラー、厚さ12μm、二軸延伸フィルム
・LDPE(低密度ポリエチレン):三井・ダウポリケミカル株式会社製、MFR(190℃、2160g荷重):3.7g/10min、密度923kg/m3
【0054】
<バリア層(B)>
・Al(アルミニウム箔):東洋アルミニウム株式会社製、厚さ7μm、軟質アルミニウム
【0055】
<エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(C1)>
EMAA1:エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含有量:85質量%、メタクリル酸含有量:15質量%、MFR(190℃、2160g荷重):25g/10分)
EMAA2:エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含有量:85質量%、メタクリル酸含有量:15質量%、MFR(190℃、2160g荷重):60g/10分)
【0056】
<有機過酸化物(C2)>
・有機過酸化物1(商品名:Luperox101、アルケマ吉富社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン)
【0057】
[実施例1]
(1)架橋物(C3)の作製
EMAA1と有機過酸化物1とを表1に示す割合でドライブレンドした後、12時間放置して有機過酸化物1をEMAA1に含浸させた。上記含浸により得られた樹脂組成物を、ペレタイザーを備えた65mmφの単軸押出機(田辺プラスチック機械株式会社製)にフィードし、下記の押出条件ないし溶融混練条件で溶融混練し、造粒して架橋物(C3)のペレットを得た。
【0058】
上記単軸押出機における押出条件は、次の通りである。
L/D:26
バレル温度(℃);C1(160)、C2(170)、C3(180)、C4(180)、C5(190)、H(190)、D(190)
スクリュー回転数:45rpm
押出量:43kg/h
滞留時間:60秒
【0059】
(2)架橋物(C3)の物性評価
1.MFR
JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定した。得られた結果を表1に示す。
【0060】
2.溶融張力
メルトテンションテスター(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、架橋物(C3)を190℃に加熱した直径9.55mmのバレルに充填した。架橋物(C3)を、直径2.095mmのキャピラリーダイから、ピストン降下速度5mm/分にて、紐状に押し出した。紐状の架橋物(C3)を、キャピラリーダイの下方300mmの位置に設置したロードセル付きプーリーを通過させ、紐状の架橋物(C3)を巻取りロールで巻き取った。紐状の架橋物(C3)の巻き取り速度を初速度5.0m/分から4分後に200m/分となるように一定に増加させたときに、紐状の架橋物(C3)が破断したときのロードセル付きプーリーにかかる荷重を溶融張力(mN)として求めた。得られた結果を表1に示す。
【0061】
3.スウェリング比(SR)
メルトテンションテスター(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、架橋物(C3)を190℃に加熱した直径9.55mmのバレルに充填した。架橋物(C3)を、190℃の温度に保ち、キャピラリーレオメーターに取り付けられた直径2.095mmのダイスから押し出し、メルトインデキサーから流出した架橋物(C3)のストランドの径を測定し、以下の式からSRを求めた。得られた結果を表1に示す。
SR=(ds-do)/do×100
dsは2160g荷重、190℃でメルトインデキサーから流出した樹脂ストランドの径、doはメルトインデキサーのオリフィス径である。
【0062】
4.引取速度
メルトテンションテスター(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、架橋物(C3)を190℃に加熱した直径9.55mmのバレルに充填した。架橋物(C3)を、190℃の温度に保ち、キャピラリーレオメーターに取り付けられた直径2.095mmのダイスから、ピストン降下速度5mm/分にて、紐状に押し出した。紐状の架橋物(C3)を、キャピラリーダイの下方300mmの位置に設置したロードセル付きプーリーを通過させ、紐状の架橋物(C3)を巻取りロールで巻き取った。紐状の架橋物(C3)の巻き取り速度を初速度5.0m/分から4分後に200m/分となるように一定に増加させたときに、紐状の架橋物(C3)が破断したときの巻取り速度の値を引取速度として求めた。得られた結果を表1に示す。
【0063】
(3)基材層とバリア層との積層体の作製
65mmφ押出機(L/D=28)を有する押出ラミネーターを使用し、PET、LDPE及びAlをダイ下温度320℃、エアーギャップ110mm、加工速度80m/分の加工条件で押出ラミネートをして、PET(12μm)/LDPE(15μm)/Al(7μm)の積層体1を作製した。PETとLDPEとの間にアンカーコート剤を使用した。
【0064】
(4)積層体1と樹脂層(C)との積層体の作製
メルトブレンドにより得られた架橋物(C3)を、65mmφ押出機(L/D=28)を有する押出ラミネーターを使用し、ダイ下温度280℃、エアーギャップ110mm、加工速度80m/分の加工条件で、積層体1のバリア層(B)であるAl面上にラミネートし、PET(12μm)/LDPE(15μm)/Al(7μm)/架橋物(30μm)の積層体2を作製した。
【0065】
(5)加工性評価
1.ネックイン
架橋物(C3)を、ダイ開口500mm幅から樹脂厚みが20μm、引取速度が80m/min、ダイ開口の先端からニップロールまでの距離(エアーギャップ)が110mmの条件で、ラミネート押出成形したときのネックインした幅をXとした場合に、500-X(mm)にて求めた。得られた結果を表1に示す。
【0066】
2.ドローダウン
架橋物(C3)を、ダイ開口500mm幅から樹脂厚みが20μm、引取速度が80m/min、ダイ開口の先端からニップロールまでの距離(エアーギャップ)が110mmの条件で、ラミネート押出成形した後、押出量を一定に固定したまま、引取速度を増加させたときに、溶融膜が破断したときの引取速度(m/min)にて求めた。得られた結果を表1に示す。
【0067】
(6)層間接着性評価
積層体2に15mm幅のスリットを入れて試験片とした。試験片を23℃、50%RHの環境下に1週間保管した。JIS K 7161-1に準拠して、引張試験機(株式会社島津製作所社製、EZ-SX,100N)を用いて、引張速度300mm/minでT型剥離したときの剥離強度(N/15mm)にて求めた。得られた結果を表1に示す。
【0068】
[実施例2~8および比較例1~3]
表1および表2に示す配合とした以外は実施例1と同様にして積層体を作製し、実施例1と同様の評価をそれぞれおこなった。得られた結果を表1および表2にそれぞれ示す。
【0069】
【0070】
【0071】
実施例の積層体は、加工可能であった。これに対し、比較例の積層体は加工できなかった。
【符号の説明】
【0072】
A 基材層
B バリア層
C 樹脂層
10 積層体