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  • 特許-ロボット制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】ロボット制御装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20240516BHJP
   B25J 9/16 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
B25J9/10 A
B25J9/16
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020069212
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021164975
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 雅幸
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-274227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーションに基づいて、ロボットの初期姿勢から目標姿勢へ至る過程の位置指令値の時系列データを生成する手段と、
前記位置指令値の時系列データに基づいて、前記ロボットを動作させる手段と、
前記ロボットの関節の摩擦パラメータを推定する手段と、
少なくとも前記摩擦パラメータ、前記目標姿勢及び前記初期姿勢を含む動作条件に紐付けて前記位置指令値の時系列データを保存する手段と、
同一の動作条件に紐付けられた位置指令値の時系列データが保存されているか否かを確認する手段と、
を有し、
同一の動作条件に紐付けられた位置指令値の時系列データが保存されている場合、保存されている位置指令値の時系列データを使用し、同一の動作条件に紐付けられた位置指令値の時系列データが保存されていない場合、現在の動作条件で位置指令値の時系列データを生成して保存し、保存された位置指令値の時系列データ群を用いてロボットを動作させる、
ことを特徴とするロボット制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のロボット制御装置であって、
複数の温度における摩擦パラメータ候補を予め保存する手段を更に有し、
予め保存された摩擦パラメータ候補の内、推定された摩擦パラメータに近い摩擦パラメータとして、静止摩擦と粘性摩擦係数が推定された摩擦パラメータより大きく、かつ、最も小さい摩擦パラメータを用いて位置指令値の時系列データ生成を行うとともに、ロボットプログラムの実行に影響のでないタイミングで、選択されなかった他の摩擦パラメータ候補を用いて、動作速度及び加速度の異なる位置指令値の時系列データを生成する、
ことを特徴とするロボット制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット駆動軸の位置指令値を生成する手段を有するロボット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
省人化の要求からロボットの需要は増しており、近年では、工作機械の内部に備え付けられたロボットが登場している。
【0003】
工作機械内部に備え付けられるロボットは、クーラントや切粉にさらされ、高いシール性能が要求されるため、特に各関節の摩擦が大きい傾向にある。
【0004】
また、ロボットに採用される減速機は一般に摩擦が大きいが、低温である場合には、減速機内部のグリス等の影響により、特に摩擦が大きくなる。
【0005】
摩擦が大きい場合にモータ速度や加速度を増加させると、トルク飽和が発生する場合がある。もしトルクが飽和してしまうと、ロボットの動作軌跡がずれ、ロボットが周辺物と衝突する可能性がある。
【0006】
そのため低温時には、常温時に比べて、各関節モータの最高速度、最高加速度を下げざるを得ない場合がある。よって、どの温度領域においてもトルク飽和を引き起こさないように、ロボットは常に低温時相当のモータ速度や加速度で動作させているのが現状である。
【0007】
特許文献1には、モータ温度が低くモータの発熱が許容される場合に、モータの許容電流を増加させることで、許容トルク及び許容回転数を増加させる手段が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-86335
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
モータの温度はトルク(つまり電流)によって上昇するのに対し、減速機の温度は回転数によって上昇する。そのため、上述の特許文献1に記載の発明では、重力負荷の高い姿勢でロボットが静止した場合等のように、モータ温度が高く、減速機の温度が低い状態からの動作開始時に、依然としてトルク飽和の可能性が残る。
【0010】
また、モータの最大電流が増えるため、アンプの容量を大きくしなければならない場合があり、その場合、コストアップにつながる。
【0011】
本発明の目的は、温度依存性のある摩擦負荷変化に応じてロボット動作を高速化させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、シミュレーションに基づいて、ロボットの初期姿勢から目標姿勢へ至る過程の位置指令値の時系列データを生成する手段と、前記位置指令値の時系列データに基づいて、前記ロボットを動作させる手段と、前記ロボットの関節の摩擦パラメータを推定する手段と、少なくとも前記摩擦パラメータ、前記目標姿勢及び前記初期姿勢を含む動作条件に紐付けて前記位置指令値の時系列データを保存する手段と、同一の動作条件に紐付けられた位置指令値の時系列データが保存されているか否かを確認する手段と、を有し、同一の動作条件に紐付けられた位置指令値の時系列データが保存されている場合、保存されている位置指令値の時系列データを使用し、同一の動作条件に紐付けられた位置指令値の時系列データが保存されていない場合、現在の動作条件で位置指令値の時系列データを生成して保存し、保存された位置指令値の時系列データ群を用いてロボットを動作させる、ことを特徴とするロボット制御装置である。
【0013】
本発明の第2の態様は、上記の第1の態様に係るロボット制御装置であって、複数の温度における摩擦パラメータ候補を予め保存する手段を更に有し、予め保存された摩擦パラメータ候補の内、推定された摩擦パラメータに近い摩擦パラメータを用いて位置指令値の時系列データ生成を行うとともに、ロボットプログラムの実行に影響のでないタイミングで、選択されなかった他の摩擦パラメータ候補を用いて、動作速度及び加速度の異なる位置指令値の時系列データを生成する、ことを特徴とするロボット制御装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、推定された摩擦パラメータに応じて、ロボット駆動軸の速度や加速度の異なる位置指令の時系列データが生成され、ロボット駆動軸が制御されるため、温度が上昇して摩擦負荷が低下した際にロボット動作速度や加速度を上げることができる。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、摩擦パラメータを除くパラメータ(初期姿勢、目標姿勢、周辺物の状態等)が同一である条件において、予め複数の摩擦パラメータによって位置指令値の時系列データが作成されるため、サイクル運転等で温度が上昇した場合に、位置指令値の時系列データの再生成に伴う待ち時間を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係るロボット制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
図2】本実施形態に係るロボット制御装置による処理を示すフローチャートである。
図3】本実施形態に係るロボット制御装置による処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るロボット制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【0018】
プログラム解釈手段1は、ロボットプログラムを解釈して、ロボット動作の目標姿勢等の情報を取得する手段である。
【0019】
位置指令生成手段2は、工作機械等のロボット周辺物とロボットとについてのシミュレーションに基づき、ロボットの各関節の位置指令値の時系列データを生成する手段である。ここでの位置指令値は、ロボットが初期姿勢から目標姿勢へ至る過程で、各関節が干渉しない指令値である。なお、位置指令値の時系列データは、ロボットの移動経路だけでなく、時間情報を持った動作軌道を示すデータである。
【0020】
位置指令保存選択手段3は、摩擦パラメータ、目標姿勢、初期姿勢、周辺物の状態等の条件に紐付けて、位置指令値の時系列データを保存し、また、任意の条件が与えられた場合に、当該条件に紐付けられた位置指令値の時系列データが保存されているか否かを確認する手段である。
【0021】
摩擦推定手段4は、トルク指令値や関節角度検出値や温度計情報等に基づいて、ロボット関節の摩擦パラメータを推定する手段である。ここでの摩擦パラメータは、静止摩擦と粘性摩擦係数である。
【0022】
摩擦推定手段4における摩擦パラメータの推定手法は限定されない。例えば、摩擦推定手段4は、ロボット動作中のトルク指令値や角度検出値を用いて、運動方程式を用いた最小二乗法等によって、摩擦パラメータを推定しても良い。
【0023】
また、工作機械内に備え付けられたロボットは、工作機械の加工中、工具等と干渉しない位置に退避させられることが多い。摩擦推定手段4は、この退避動作の一部を固定動作として定め、固定動作時の最大トルクに基づいて、事前に決められたテーブルに従って摩擦パラメータを推定しても良い。
【0024】
更に別の例として、摩擦推定手段4は、減速機に取り付けられた温度計によって温度を測定し、温度範囲毎に事前に決められたテーブルに従って摩擦パラメータを推定しても良い。
【0025】
摩擦推定手段4は、摩擦パラメータが推定できない場合や、ロボットが最後に動作してから一定の時間が経過していた場合に、予め設定された最も温度が低い場合の摩擦パラメータを推定値として定めても良い。
【0026】
ロボット動作制御手段6は、例えばドライブユニットであり、位置指令と関節角度検出値とを用いて、ロボット駆動軸の動作を制御する手段である。
【0027】
ロボット駆動手段5は、例えばサーボモータと検出器であり、ロボット動作制御手段6から与えられた電流等により、ロボットの各関節を駆動させ、角度検出値をフィードバックする手段である。
【0028】
本実施形態に係るロボット制御装置は、一例としてハードウェア資源とソフトウェアとの協働により実現される。具体的には、本実施形態に係るロボット制御装置は、図示しないCPU等のプロセッサを備えている。当該プロセッサが、図示しない記憶装置に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、本実施形態に係るロボット制御装置の各部の機能が実現される。上記プログラムは、CDやDVD等の記録媒体を経由して、又は、ネットワーク等の通信経路を経由して、記憶装置に記憶される。別の例として、本実施形態に係るロボット制御装置の各部は、例えばプロセッサや電子回路等のハードウェア資源により実現されてもよい。その実現においてメモリ等のデバイスが利用されてもよい。更に別の例として、本実施形態に係るロボット制御装置の各部は、DSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等によって実現されてもよい。
【0029】
以下、本実施形態に係るロボット制御装置による処理の一例(実施例1に係る処理)について説明する。まず、実施例1に係る処理の概要について説明し、次に、図2を参照して、実施例1に係る処理の詳細について説明する。
【0030】
第1実施例に係る処理においては、ロボット制御装置は、シミュレーションに基づいて、ロボットの初期姿勢から目標姿勢へ至る過程の位置指令値の時系列データを生成し、位置指令値の時系列データに基づいて、ロボットを動作させる。また、ロボット制御装置は、ロボットの関節の摩擦パラメータを推定する。ロボット制御装置は、少なくとも摩擦パラメータ、目標姿勢及び初期姿勢を含む動作条件に紐付けて位置指令値の時系列データを保存し、同一の動作条件に紐付けられた位置指令値の時系列データが保存されているか否かを確認する。そして、ロボット制御装置は、同一の動作条件に紐付けられた位置指令値の時系列データが保存されている場合、保存されている位置指令値の時系列データを使用し、同一の動作条件に紐付けられた位置指令値の時系列データが保存されていない場合、現在の動作条件で位置指令値の時系列データを生成して保存し、保存された位置指令値の時系列データ群を用いてロボットを動作させる。
【0031】
以下、図2を参照して、実施例1に係る処理の詳細について説明する。図2には、その処理を示すフローチャートが示されている。
【0032】
まず、プログラム解釈手段1が、ロボットプログラムを解釈し、ロボットの目標姿勢を得る(S1)。得られた目標姿勢は、位置指令保存選択手段3に与えられる。
【0033】
次に、プログラム解釈手段1は、ロボットプログラムを解釈し、ロボットの初期姿勢を得る(S2)。得られた初期姿勢は、位置指令保存選択手段3に与えられる。
【0034】
次に、位置指令保存選択手段3は、摩擦推定手段4から現時点での摩擦パラメータ推定値を取得する(S3)。
【0035】
摩擦推定手段4には、ロボットが動作する温度範囲の内、最も低い温度(例えば0℃)から最も高い温度(例えば40℃)における各摩擦パラメータと、それらの中間の温度における摩擦パラメータが複数パターン保存されている。
【0036】
摩擦推定手段4は、摩擦パラメータが算出できる場合、算出された摩擦パラメータと、予め保存されている摩擦パラメータとを比較し、算出された摩擦パラメータより大きい摩擦パラメータの内で最も小さな摩擦パラメータを選択する。摩擦推定手段4は、摩擦パラメータが算出できない場合は、予め保存されている摩擦パラメータの内、最も低温時の場合を想定した摩擦パラメータを選択する。
【0037】
次に、位置指令保存選択手段3は、少なくとも摩擦パラメータを含む条件に紐付けられた位置指令値の時系列データが保存されているか否かを確認する(S4)。そしてステップS5にて、ステップS4における確認の結果が判定される。
【0038】
ステップS5で判定した結果、既に生成済みの時系列データが保存されている場合、位置指令保存選択手段3は、生成済みの時系列データを選択する(S6)。
【0039】
ステップS5で判定した結果、生成済みの時系列データが保存されていない場合、位置指令生成手段2は、現在の条件で位置指令値の時系列データを生成する(S7)。
【0040】
また、位置指令生成手段2は、ロボットとその周辺物とが干渉しない経路を探索するとともに、トルク飽和が起きない範囲で、ロボットの速度と加速度を決定する。
【0041】
生成された位置指令値の時系列データは、少なくとも摩擦パラメータ、初期姿勢及び目標姿勢を含む動作条件に紐付けられて保存される(S8)。このようにして得られた位置指令値の時系列データを用いてロボットの動作が制御される。
【0042】
以下、本実施形態に係るロボット制御装置による処理の別の例(実施例2に係る処理)について説明する。まず、実施例2に係る処理の概要について説明し、次に、図3を参照して、実施例2に係る処理の詳細について説明する。
【0043】
実施例2に係る処理においては、ロボット制御装置は、複数の温度における摩擦パラメータ候補を予め保存する。そして、ロボット制御装置は、予め保存された摩擦パラメータ候補の内、推定された摩擦パラメータに近い摩擦パラメータを用いて位置指令値の時系列データ生成を行うとともに、ロボットプログラムの実行に影響のでないタイミングで、選択されなかった他の摩擦パラメータ候補を用いて、動作速度及び加速度の異なる位置指令値の時系列データを生成する。
【0044】
以下、図3を参照して、実施例2に係る処理の詳細について説明する。図3には、その処理を示すフローチャートが示されている。
【0045】
位置指令保存選択手段3は、保存済みの位置指令値の時系列データが、全ての摩擦パラメータ候補を用いて生成されているか確認する(S9)。つまり、位置指令保存選択手段3は、すべての摩擦パラメータ候補についての位置指令値の時系列データが生成されているか否かを確認する。具体的には、位置指令保存選択手段3は、摩擦パラメータ以外の条件が同じである、保存済みの位置指令値の時系列データの個数が、摩擦パラメータ候補の個数と一致するか確認する等の処理を行う。これらの個数が一致する場合、全ての摩擦パラメータ候補についての位置指令値の時系列データが生成されていることになる。この場合、処理は終了する。これらの個数が一致しない場合、全ての摩擦パラメータ候補についての位置指令値の時系列データが生成されていないことになる。この場合、処理はステップS10に移行する。
【0046】
次に、位置指令値の時系列データが生成中であるか否かが確認される(S10)。位置指令値の時系列データが生成中の場合(S10,Yes)、その生成が終了するまで待機する。生成中でない場合(S10,No)、位置指令生成手段2は、未使用の摩擦パラメータ候補を用いて、位置指令値の時系列データを生成する(S11)。
【0047】
次に、ロボットプログラムが実行中であり、ロボット動作が指令されたか否かが確認される(S12)。これは、ロボットプログラムの実行を優先するためである。
【0048】
ロボット動作が指令されていた場合(S12,Yes)、図2を参照して説明した前述の処理(ステップS1~S8)が実施される(S13)。ステップS13の処理の完了後、位置指令生成手段2は、中断していた位置指令値の時系列データの生成を再開する(S14)。
【0049】
次に、位置指令値の生成が完了したか否かが判断される。その生成が完了していた場合(S15,Yes)、処理はステップS9に戻り、その生成が完了していない場合(S15,No)、処理はステップS12に戻る。
【0050】
本実施形態によれば、現在の摩擦に応じた位置指令値の時系列データが生成されるため、低温時以外にロボットの速度、加速度の上限を上げることができる。
【0051】
また、一般に位置指令値の時系列データの生成には、数秒から数分の時間がかかり、リアルタイムに摩擦パラメータを反映させた位置指令値の時系列データを生成することは困難である。本実施形態によれば、バックグラウンドで、複数の摩擦条件における位置指令値の時系列データが生成されて保存される。そのため、サイクル運転や固定動作の運転において徐々に摩擦が変動した場合に、時系列データの再生成による停止の時間が発生すること無く、摩擦に応じた位置指令でロボットを動作させることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 プログラム解釈手段、2 位置指令生成手段、3 位置指令保存選択手段、4 摩擦推定手段、5 ロボット駆動手段、6 ロボット動作制御手段。
図1
図2
図3