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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】線量計およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/105 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
G01T1/105
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020090433
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021185359
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】597138508
【氏名又は名称】明昌機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107825
【弁理士】
【氏名又は名称】細見 吉生
(72)【発明者】
【氏名】前中 一介
(72)【発明者】
【氏名】宮本 修治
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良平
(72)【発明者】
【氏名】矢田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】足立 真士
(72)【発明者】
【氏名】芦田 基
(72)【発明者】
【氏名】笹倉 亜規
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-235983(JP,A)
【文献】特開平01-257941(JP,A)
【文献】特開2016-099177(JP,A)
【文献】特開2002-168787(JP,A)
【文献】特開2003-130796(JP,A)
【文献】特開2005-201662(JP,A)
【文献】特開2001-290229(JP,A)
【文献】特表2019-508708(JP,A)
【文献】特表2011-505895(JP,A)
【文献】特開2016-200595(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003003(WO,A1)
【文献】米国特許第05707548(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0284545(US,A1)
【文献】宮前英史ら,「輝尽性蛍光体と光ファイバーを用いた小型線量計の重粒子線対する応答評価」,第74回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,2013年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/40
G03B 42/00-42/08
A61B 6/00-6/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輝尽性蛍光体が内蔵された検出部とそれに接続された光ファイバーとを有する線量計であって、
パルス状に照射される放射線の量を計測するために、光ファイバーを通して輝尽性蛍光体に刺激光を供給するとともに輝尽性蛍光体から蛍光を放出させ、放出された蛍光量を読み取ることによって、輝尽性蛍光体に照射された放射線の量を計測すること、
および、照射される放射線のパルスの間であって、あるパルスとそれに続く2以上のパルスとの間にある複数の間隔のそれぞれにおいて、各パルスの照射が終了して一定のディレー時間が経過した後、次のパルスの照射が開始されるまでの間に、輝尽性蛍光体に上記刺激光を供給し、それら複数回の供給の間に、それまでに照射された放射線により輝尽性蛍光体に蓄積したエネルギーを上記蛍光として放出させ、放出された蛍光の合計量を読み取ることを特徴とする線量計。
【請求項2】
輝尽性蛍光体の特性に応じて上記刺激光の波長を設定することを特徴とする請求項1に記載の線量計。
【請求項3】
上記の検出部と光ファイバーとが、いずれも、横断面における最大寸法が1mm以下であり生体適合材料によって覆われていることを特徴とする請求項1または2に記載の線量計。
【請求項4】
輝尽性蛍光体が内蔵された検出部とそれに接続された光ファイバーとを有する線量計であって、
パルス状に照射される放射線の量を計測するために、光ファイバーを通して輝尽性蛍光体に刺激光を供給するとともに輝尽性蛍光体から蛍光を放出させ、放出された蛍光量を読み取ることによって、輝尽性蛍光体に照射された放射線の量を計測すること、
輝尽性蛍光体もしくは光ファイバーの各特性または放射線の照射状況に応じて、上記刺激光の供給条件または蛍光量の読み取り条件を設定すること、
および、上記の検出部が、表面に厚さ1μm~10μmの金皮膜をコーティングされていることを特徴とする線量計。
【請求項5】
輝尽性蛍光体が内蔵された検出部とそれに接続された光ファイバーとを有する線量計であって、
パルス状に照射される放射線の量を計測するために、光ファイバーを通して輝尽性蛍光体に刺激光を供給するとともに輝尽性蛍光体から蛍光を放出させ、放出された蛍光量を読み取ることによって、輝尽性蛍光体に照射された放射線の量を計測すること、
輝尽性蛍光体もしくは光ファイバーの各特性または放射線の照射状況に応じて、上記刺激光の供給条件または蛍光量の読み取り条件を設定すること、
および、上記の検出部が複数個接続され、または、上記の検出部内に複数個の輝尽性蛍光体が内蔵されていることを特徴とする線量計。
【請求項6】
輝尽性蛍光体が内蔵された検出部とそれに接続された光ファイバーとを含む線量計を、パルス状に照射される放射線の量を計測するために使用する線量計の制御方法であって、
光ファイバーを通して輝尽性蛍光体に刺激光を供給するとともに輝尽性蛍光体から蛍光を放出させ、放出された蛍光量を読み取ることによって、輝尽性蛍光体に照射された放射線の量を計測すること、
および、照射される放射線のパルスの間であって、あるパルスとそれに続く2以上のパルスとの間にある複数の間隔のそれぞれにおいて、各パルスの照射が終了して一定のディレー時間が経過した後、次のパルスの照射が開始されるまでの間に、輝尽性蛍光体に上記刺激光を供給し、それら複数回の供給の間に、それまでに照射された放射線により輝尽性蛍光体に蓄積したエネルギーを上記蛍光として放出させ、放出された蛍光の合計量を読み取ること
を特徴とする線量計の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療の精度を向上させること等を目的に放射線量の計測を行う線量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
難治性がんの治療において、近年、がん患部に高精度に治癒線量の放射線を照射する低侵襲の高精度定位放射線治療(以下、「定位放射線治療」という)が注目されている。腫瘍への線量を最大にしながら周辺組織への線量を低減する治療法であり、これまで適応がなかったがん疾患に対しても適応拡大が進んでいる。とくに早期肺がんや肝臓がんにおいて目覚ましい治療成績を示している。
定位放射線治療の普及にともない、照射対象とする腫瘍とその周辺組織(以下「標的」という)内の線量をリアルタイムに測定できる線量計に対するニーズが高まっている。実際の治療では、患者自身の動きや呼吸などによって照射中に標的の位置が変動するが、高線量を照射するため、その位置変動によるエラーの影響が大きいからである。
【0003】
下記の非特許文献1には、輝尽性蛍光体と光ファイバーとを組み合わせた、体内挿入可能な超小型の線量計について記載されている。輝尽性蛍光体は、放射線が照射されると照射された線量情報が素子内に蓄積される積分型の放射線検出素子であり、放射線照射を受けた後に刺激光としてのレーザー光を照射されると、照射された放射線量に比例する輝尽性蛍光を発する。
同文献1では、炭素線(重粒子線)が照射される場合の線量計測について記載されている。1秒程度の炭素線のパルス照射が約3秒周期で行われるのに対し、同文献1に記載の線量計では、放射線照射が行われないタイミングでレーザー光を照射して蛍光信号を読み出している。レーザー光と輝尽性蛍光とを光ファイバーを介して伝送することで、遠隔から信号の読み出し等を行うことができる。
輝尽性蛍光体が内蔵された検出部を小型化し光ファイバーを細くすることによってそれらが体内に挿入可能となれば、放射線照射時の線量のモニタリングをオンラインで実施することが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】宮前英史ら「輝尽性蛍光体と光ファイバーを用いた小型線量計の重粒子線対する応答評価」第74 回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集(2013秋)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献に記載された小型線量計によって放射線治療時の生体内線量測定が行えると、低侵襲としながらも定位放射線治療の精度を高め、治療成績を大幅に向上させることができると期待できる。しかし、一般に検出部を小型化すると検出感度が低下しがちであり、十分な精度の線量測定を可能にすることは容易ではない。また、上記文献1の例とは違って短周期でパルス照射が行われる場合(たとえばX線等の電磁放射線の照射による治療の際など)の線量計測をいかにして高精度に行うかも、現時点では明らかにされていない。それらは、輝尽性蛍光体の特性が十分に把握されていないこと等から検出部等の最適な構成を定めがたい現状においては、きわめて困難な課題である。
【0006】
本願発明は、輝尽性蛍光体を含む検出部等が小型のものである場合や、放射線照射のパルス周波数が高い場合等にも放射線量の計測精度を高くすることができる線量計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、輝尽性蛍光体が内蔵された検出部とそれに接続された光ファイバーとを有する線量計であって、
a) パルス状に照射される放射線の量(合計量)を計測するために、光ファイバーを通して輝尽性蛍光体に刺激光を供給するとともに輝尽性蛍光体から蛍光を放出させ、放出された蛍光量を読み取ることによって、輝尽性蛍光体に照射された放射線の量を計測すること、および、
b) 輝尽性蛍光体もしくは光ファイバーの各特性または放射線の照射状況に応じて、上記刺激光の供給条件または蛍光量の読み取り条件を設定されること
を特徴とするものである。
【0008】
上記a)の特徴を有する線量計であれば、輝尽性蛍光体に放射線が照射されたのち、光ファイバーを通してレーザー光等の刺激光を供給すると、輝尽性蛍光体が、照射された線量にほぼ比例した蛍光を放出する。輝尽性蛍光体は、放射線の照射を受けると、付与されたエネルギーに応じて多数の電子・正孔対を生成する。それらは、分離された場所にトラップされてそのままでは再結合しないが、刺激光を受けることにより電子が再励起されて正孔と再結合し、それによって蛍光を発するのである。その蛍光量を光ファイバーを通して読み取ることにより、照射された放射線の量を計測することができる。輝尽性蛍光体としては、Ia-VIIb族化合物(ハロゲン化アルカリ)またはIIa-VIb族化合物(アルカリ土類硫化物、セレン化物もしくは酸化物)を使用することができる。
ただし、がん治療等における放射線の照射状況は一定でなく、また、線量計測に最も適した輝尽性蛍光体等の種類や仕様は現状では必ずしも明らかではない。検出部が小型化された場合に十分な検出感度を確保する手段が明らかでないことを併せて考慮すると、少なくとも現在の開発段階では、放射線の照射状況を一律に定め、また、輝尽性蛍光体や光ファイバーを特定のものに限定して使用し続けることは、高精度の線量計測を行ううえで適切ではないと考えられる。
本発明の線量計は、上記b)のとおり、輝尽性蛍光体もしくは光ファイバーの各特性または放射線の照射状況に応じて、上記刺激光の供給条件または蛍光量の読み取り条件を設定される(適宜に変更されることを含む)ものである。そのため、検出部の小型化等に関連して、使用する輝尽性蛍光体や光ファイバーを変更した場合にも、また放射線の照射状況が変わった場合にも、この線量計によって精度の高い適切な線量計測を行うことができる。
【0009】
発明による上記線量計については、とくに、照射される放射線のパルスの間であって、あるパルスの照射が終了して一定のディレー時間が経過した後、次のパルスの照射が開始されるまでの間に、上記刺激光を輝尽性蛍光体に供給する(たとえば図4に示す刺激光の供給時間2msの間に供給する)のが好ましい。
がん治療等において放射線はパルス状に発せられて標的に照射されるのが通常であり、上記の文献1の記載によれば、刺激光は、放射線照射のされないタイミング(放射線のパルスの間)で輝尽性蛍光体に照射される。しかし、輝尽性蛍光体や光ファイバーによっては、放射線照射を受けたときほぼ同時に即発蛍光およびチェレンコフ光を発してテールが続くなどノイズを生じる。そのため、放射線のパルス状の照射と同時または直後に輝尽性蛍光体に刺激光を供給すると、読み取り値にそのノイズが含まれる結果、正確な線量計測が行えないことがある。文献1の例とは違ってパルス照射の間隔が10ms(ミリ秒)程度以下に短くなると、この点で刺激光照射のタイミングに注意を払う必要がある。
そのような場合、上記のとおり、あるパルスの照射が終了して一定のディレー時間が経過し次のパルスの照射が開始されるまでの間に刺激光を輝尽性蛍光体に供給し、その供給時間内に放出される蛍光の量を読み取るとよい。そうすれば、即発蛍光やチェレンコフ光等を発しやすい輝尽性蛍光体等を使用する場合にも、発明の線量計によって正確な線量計測が可能になる。ディレー時間は、輝尽性蛍光体の特性に応じて100~1000μs(μ秒)程度の範囲、たとえば400μsに設定するとよい。
【0010】
上記の線量計において、輝尽性蛍光体の種類または放射線の照射状況によっては、照射される放射線のパルスの間であって、あるパルスと次のパルスとの間の1間隔においてのみ、輝尽性蛍光体に上記刺激光を供給し、その供給の間に、それまでに照射された放射線により輝尽性蛍光体に蓄積したエネルギー(の全量またはほぼ全量)を上記蛍光として放出させ、その蛍光量を読み取ることとするのが好ましい。
輝尽性蛍光体がたとえばBaFBr:Euである場合、蛍光放出時の時定数が0.2ms(m秒)程度と小さめである。そのため、現行の一般的な放射線照射のパルス間隔においては、照射される放射線のパルスの間であって、あるパルスと次のパルスとの間の1間隔においてのみ、輝尽性蛍光体に刺激光を供給すれば足りる。すなわち、たとえば図4のように、当該1間隔のみで刺激光を供給すると、その間に、それまでに照射された放射線により輝尽性蛍光体に蓄積したエネルギーの全量を蛍光として放出させることができる。その蛍光量を読み取ることによって、照射された放射線量を計測できるわけである。
つまり、輝尽性蛍光体の蛍光放出時の時定数が大きくないか、または放射線照射のパルス間隔が長いとき、発明の線量計において刺激光の供給条件等を上記のように設定することにより、好ましい線量計測を行える。
【0011】
上記の線量計において、輝尽性蛍光体の種類や放射線の照射状況が上記と異なる場合には、照射される放射線のパルスの間であって、あるパルスとそれに続く2以上のパルスとの間にある複数の間隔のそれぞれにおいて、輝尽性蛍光体に上記刺激光を供給し、それら複数回の供給の間に、それまでに照射された放射線により輝尽性蛍光体に蓄積したエネルギー(の全量またはほぼ全量)を上記蛍光として放出させ、放出された蛍光の合計量を読み取るとよい。
輝尽性蛍光体がたとえばKCl:Euである場合、蛍光放出時の時定数が1ms程度と大きい。したがって、放射線照射のパルス間隔が相当に長い場合を除き、あるパルスと次のパルスとの間の1間隔のみにおいては、輝尽性蛍光体が全ての蓄積エネルギーを放出することができない。そのため、たとえば図5のように、あるパルスとそれに続く2以上のパルスとの間にある複数の間隔のそれぞれにおいて、輝尽性蛍光体に刺激光を供給する。それら複数回の供給の間に、それまでに照射された放射線により輝尽性蛍光体に蓄積したエネルギーの全量を上記蛍光として放出させ、放出された蛍光の合計量を読み取ることにより、照射された放射線量を計測できる。
つまり、輝尽性蛍光体の蛍光放出時の時定数が大きいか、または放射線照射のパルス間隔が短いとき、発明の線量計において刺激光の供給条件等を上記のように設定することにより、好ましい線量計測を行うことができる。
【0012】
発明による上記線量計は、輝尽性蛍光体の特性に応じて上記刺激光の波長を設定されるものであることが好ましい。
輝尽性蛍光体は、その化学的成分によって特性が異なり、蛍光を放出させやすい刺激光のピーク波長も同じではない。たとえばBaFBr:Euの刺激光ピーク波長は600nm、KCl:Euのそれは560nmである。そのため、線量計において、使用する輝尽性蛍光体に合わせて刺激光の波長を定めることができるなら、検出部の小型化にともなって蓄積エネルギーが小さくなる場合等にも、線量計測の精度を高くすることができる。
【0013】
上記の線量計において、検出部と光ファイバー(の生体内挿入部)とが、いずれも、横断面における最大寸法が1mm以下でありシリコーン等の生体適合材料によって覆われているのが好ましい。横断面における最大寸法が1mm以下とは、光ファイバーについて直径が1mm以下であり、検出部については、光軸と垂直な断面において直径1mm以内の円内に全体が収まり得ることをいう。また、生体適合材料によって覆われているというのは、当該材料でコーティングされている場合と、外側部材が当該材料で構成されている場合とを含む。
検出部と光ファイバーとがそのようなものであれば、生体内にそれらを留置するとき生体を損傷するリスクが低い。したがって、それらを生体内に留置しておいて繰り返し正確な線量計測を実施できるため、上記線量計によって放射線治療の効果を高めることが可能になる。
【0014】
さらに、上記の検出部が、表面に厚さ1μm~10μmの金皮膜をコーティングされているものであると有利である。
金は、いわゆるマーカーとして生体内に埋め込まれ、放射線治療時のターゲット(腫瘍等)に対する位置合わせのために使用されることがある。そのため、上記のように検出部が金皮膜をコーティングされていると、当該検出部に、放射線治療時の位置合わせのためのマーカーを兼ねさせることができる。検出部が金属成分を多く含むと、X線、CT、MRIの撮像時にアーチファクト(ノイズ)が生じがちであり、その一方、金の皮膜厚さが薄すぎるとマーカーとしての機能を果たせない恐れがあるが、皮膜厚さが上記の範囲内にあればそれらの不都合は生じない。
検出部が、正確な線量計測を可能にするとともに上記のとおりマーカーとしても使用できるとすれば、高精度の定位放射線治療を行ううえできわめて好ましい。
【0015】
上記の線量計が、上記検出部が複数個接続され、または、上記の検出部内に複数個の輝尽性蛍光体が内蔵されたものであるのも好ましい。
そのような線量計なら、ターゲットに照射された線量とともに、それを外れて周辺に照射された線量をも同時に計測することができる。それにより、低侵襲で高精度の定位放射線治療を行えるようにすることが可能になる。
【0016】
発明の制御方法は、輝尽性蛍光体が内蔵された検出部とそれに接続された光ファイバーとを有する線量計を、パルス状に照射される放射線の量を計測するために使用する線量計の制御方法であって、
A) 光ファイバーを通して輝尽性蛍光体に刺激光を供給するとともに輝尽性蛍光体から蛍光を放出させ、放出された蛍光量を読み取ることによって、輝尽性蛍光体に照射された放射線の量を計測すること、および、
B) 輝尽性蛍光体もしくは光ファイバーの各特性または放射線の照射状況に応じて、上記刺激光の供給条件または蛍光量の読み取り条件を設定すること
を特徴とする。
【0017】
この制御方法は、上記A)の特徴を有するため、輝尽性蛍光体に放射線が照射されたのち光ファイバーを通してレーザー光等の刺激光を供給すると、照射された線量にほぼ比例した蛍光を輝尽性蛍光体が放出する。そのため、放出された蛍光量を読み取ることによって、照射された放射線量の計測が行える。また、上記B)の特徴を有するため、使用する輝尽性蛍光体や光ファイバーを変更した場合にも、また放射線の照射状況が変わった場合にも、線量計による適切な線量計測を行うことができる。
【0018】
上記の制御方法については、とくに、照射される放射線のパルスの間であって、あるパルスの照射が終了して一定のディレー時間が経過した後、次のパルスの照射が開始されるまでの間に、上記刺激光を輝尽性蛍光体に供給すると好ましい。
そのようにすると、放射線照射を受けるとほぼ同時に即発蛍光およびチェレンコフ光等のノイズを発する輝尽性蛍光体や光ファイバーを使用する場合等にも、ノイズの影響を受けない正確な線量計測が可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の線量計によれば、検出部の小型化等に関連して使用する輝尽性蛍光体や光ファイバーを変更した場合にも、また放射線の照射状況が変わった場合にも、刺激光の供給条件等の設定によって、精度の高い適切な線量計測を行うことができる。
たとえば、あるパルスの放射線照射が終了して一定のディレー時間が経過した後、次のパルスの照射が開始されるまでの間に刺激光を輝尽性蛍光体に供給するよう設定され、照射される放射線のパルス間のどの間隔で刺激光を供給するかを設定され、または、使用する輝尽性蛍光体に合わせて刺激光の波長を設定されることにより、正確な線量計測を行うことができる。
さらには、検出部と光ファイバーとが横断面における最大寸法が1mm以下であり生体適合材料によって覆われている線量計や、検出部の表面に金皮膜をコーティングされているもの、または、検出部が複数個接続されていたり検出部内に複数個の輝尽性蛍光体が内蔵されていたりするものも、それぞれ低侵襲で高精度の定位放射線治療を可能にする。
発明による線量計の制御方法では、線量計において使用する輝尽性蛍光体や光ファイバーが変更された場合にも、また放射線の照射状況が変わった場合にも、高精度の適切な線量計測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】発明の実施例としての線量計1を示す概略の構成図である。
図2図1の線量計1における検出部10を示す縦断面図である。
図3図1の線量計1に関する機能ブロック図である。
図4】照射する放射線(X線)のパルスと、図1の線量計1において使用する刺激光のパルスと、放出される蛍光の強度(フォトマル出力)とを、時間経過とともに示すチャートである。
図5図4と同様にX線のパルスと刺激光のパルスと蛍光の強度とを示すチャートであって、図1の線量計1で他の検出部10(輝尽性蛍光体11)を使用する場合について示している。
図6図1と同様の線量計において使用できる検出部60および光ファイバー70を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1図3に、発明の実施例である線量計1の構成を示す。線量計1は、定位放射線治療を行う際に生体内に埋め込まれて線量計測をするためのもので、低侵襲とするために生体への挿入部分を小型(小径)に構成している。
【0022】
線量計1の本体全体を図1に示す。図示右方の先端部に検出部10を有し、それに光ファイバー20が接続されて端部にコネクタ21が設けられている。検出部10と光ファイバー20との外径は1mm以下であり、検出部10の全体と光ファイバー20の一部(先端寄りの部分)とが、放射線治療のために生体内に挿入され留置される。
【0023】
上記の光ファイバー20は、コネクタ21によって送受光部30と連結できるようになっている。送受光部30は、ファイバー32によって半導体レーザー31に接続されるとともに、バンドパスフィルター35を介して光電子増倍管(フォトマル)36に接続されている。送受光部30には、分岐ミラー33およびコリメーター34が光の通路に取り付けられている。
【0024】
検出部10等の構成の一例(縦断面図)を図2に示す。生体内に留置されるに適したシリコーン等の生体適合材料によって筒状のケース13が形成され、その先端部の内側に輝尽性蛍光体11が取り付けられている。輝尽性蛍光体11の手前に球状のレンズ12が設けられ、それへ向けて光ファイバー20が接続されている。また、放射線治療時の位置合わせのためのマーカーとしても検出部10を使用できるよう、ケース13の外周は厚さ5μm程度の金の皮膜14で覆われている。なお、レンズ12は、集光性を向上させる目的で設けているが、省略することもできる。
【0025】
輝尽性蛍光体11としては、BaFBr:EuやKCl:Euなど、特性の異なる種々のものを使用することができる。別の輝尽性蛍光体11、または特性の異なる他の光ファイバー20を使用する際には、図1のように検出部10と光ファイバー20(およびコネクタ21)とが一体にされたセットを、送受光部30に対してコネクタ21の部分で分離・接続する。
【0026】
検出部10に内蔵された輝尽性蛍光体11は、放射線の照射を受けたのちに刺激光としてレーザー光を受けると、照射された放射線量に比例する輝尽性蛍光を発する。図1の線量計1では、半導体レーザー31からの刺激光が、送受光部30のミラー33を透過して光ファイバー20から検出部10の輝尽性蛍光体11に達するとともに、その蛍光体11が放出する蛍光が、光ファイバー20から送受光部30に進みミラー33で反射して光電子増倍管36に至るよう構成されている。ただし、線形加速器を用いた定位放射線治療において放射線がパルス状に照射されることから、刺激光の供給等のタイミングについては放射線照射のパルスとの関係を適切化する必要がある。
【0027】
上記したタイミングの適切化等を可能とする線量計1の制御系統を図3に示している。放射線の照射に対する刺激光の供給と輝尽性蛍光の読み取りを、線量計1はつぎのような制御によって実施する。
1) 放射線治療を担うX線照射装置40から、X線照射のパルスについての時期と回数とをnカウンタ51が受け取ることとし、線量計1の制御プロセッサ50は、そのnカウンタ51に対して所定のカウント値(n)を設定するとともに、X線照射パルスの回数がそのカウント値(n)に達したときカウント値をリセットするよう設定しておく。
2) nカウンタ51においてX線照射パルスの回数が終了した(n回となった)とき、遅延設定部52が、必要に応じて所定のディレー時間を設定したうえ、パルス発生部53に刺激光供給のためのパルス発信を指令する。パルス発生部53は、遅延設定部52からの指令によってパルスを発し、それを半導体レーザー31に伝える。
3) パルス発生部53からのパルスの間、半導体レーザー31が発光し、その光を刺激光として送受光部30および光ファイバー20を通して検出部10内の輝尽性蛍光体11に供給する。
【0028】
4) 刺激光を受けることによって輝尽性蛍光体11が蛍光を発するので、その蛍光を、光ファイバー20および送受光部30を通して光電子増倍管(フォトマル)36へ送る。
5) 光電子増倍管36は、上記蛍光の強さに応じた電気信号を、スイッチ54およびA/D変換器55を介して制御プロセッサ50内のデータメモリ56へ伝える。スイッチ54は、パルス発生部53が上記パルスを発する時間に対応してONとなるものである。
6) データメモリ56へ伝えられた信号は、USB I/F57を通して計測用コンピュータへ送られ、そこで積分等の演算をされることにより蛍光量の全量に換算される。当該全量は、輝尽性蛍光体11に照射されたX線の線量に比例するものである。
【0029】
放射線照射の態様と使用する輝尽性蛍光体11、刺激光の供給条件、蛍光の読み取り条件について例を示す。
定位放射線治療におけるある装置において、放射線(X線)の照射タイミングは360pps(Pulse Per Second)であり、パルス幅は5μs、パルス間隔は2.78msである。そのケースで、輝尽性蛍光体11としてたとえばBaFBr:Euを有する検出部10を使用する。この輝尽性蛍光体11は、蛍光発光に関する時定数が0.2ms程度と比較的小さい。
【0030】
その場合、線量計1においては、図3の遅延設定部52に400μsのディレー時間を設定し、パルス発生部53が半導体レーザー31に発する刺激光パルスの幅を2msと定めている。ディレー時間を上のように設定するのは、放射線照射時の即発蛍光およびチェレンコフ光によるノイズを読取りデータに含めないためである。パルス幅を2msに設定するのは、その幅なら放射線照射のパルス間隔よりも短いので当該照射パルスと重なることを避けられるうえ、その2msの間に輝尽性蛍光体11の蛍光発光を完了させる(つまり時定数が上記のとおり小さいので、放射線照射によって蓄積したエネルギーの全量をその間に放出させる)ことができるからである。
【0031】
上記の例における、放射線(X線)のパルスと刺激光の供給パルスと蛍光の発光強度とに関するデータを、図4に示す。
図4(a)(b)のように、X線照射のパルスの回数がn回(i=n)となったとき、そのn回目の照射パルスの終了からディレー時間400μsが経過した時点で、波長が600nm程度の刺激光を、パルス状に2msだけ輝尽性蛍光体11へ供給する。輝尽性蛍光体11は、図4(c)のとおり、X線の照射パルスのたびにチェレンコフ光(および即発蛍光)を発するとともに、刺激光の供給を受けたとき、それまで(i=1~nの間)に受けたX線のエネルギーに対応する蛍光を発し、それら光の強さが光電子増倍管(フォトマル)36からの電気信号となる。上記のようにn回目のX線照射があったとき、ディレー時間をおいて輝尽性蛍光体11が刺激光を受け、図3の装置においてその刺激光照射の時間にだけスイッチ54がONとなって電気信号をデータメモリ56へ伝えることから、チェレンコフ光や即発蛍光の影響を含めずに蛍光の強さを計測することができる。光電子増倍管36を経てデータメモリ56に至った信号を演算することによって、それまでのX線の総量を知り得るわけである。輝尽性蛍光体11が上記BaFBr:Euである場合のエネルギーの放出は、刺激光を供給する2msの間に完了するため、リセットされたカウント値が再びn回に達したときも正しくX線量の計測が行える。
【0032】
放射線照射の態様が上記の例と同一であるものの、輝尽性蛍光体11として上記とは別のKCl:Euを使用する例について、データを図5に示す。
図5(a)に示すようにX線の照射が360ppsで行われ、パルス幅が5μs、パルス間隔が2.78msである点は上記の例と同じであるが、輝尽性蛍光体11として使用するKCl:Euは、刺激光として最適の波長が異なっており、また蛍光放出時の時定数に1ms程度の大きなものを含んでいる。そのため、刺激光の波長が上記の例と同じでは十分な蛍光が放出されず、また、刺激光を供給する2ms程度の時間内には、放射線照射で蓄積したエネルギーの全量を放出することが困難である。
【0033】
したがってこの第2の例では、刺激光として波長が560nm程度のものを供給する。また、X線照射パルスのカウント値がnになったときのほか、リセットされて続く2回のカウント(つまりi=n、0、1の3回)において、図5(b)のように、上記と同じくディレー時間400μsをおいて2msだけパルス状に刺激光を供給することとする。図3の制御系における操作としては、パルス発生部53の設定を一部変更するのである。
【0034】
上記により、輝尽性蛍光体11が3回にわたって発光し、それを受けた光電子増倍管(フォトマル)36から図5(c)のように電気信号が出力される。放射線照射によって輝尽性蛍光体11に蓄積したエネルギーは、1回の刺激光の供給によっては全量放出されることがないが、刺激光が3回供給される間には全量が放出される。光電子増倍管36からの図示の電気信号(図3のスイッチ54を介してデータメモリ56へ送られたもの。チェレンコフ光や即発蛍光に対応する信号を含まない)を積分等すれば、検出部10の輝尽性蛍光体11に照射されたX線量を知ることができる。
【0035】
輝尽性蛍光体11の時定数がさらに大きい場合やX線照射のパルス間隔がとくに短い場合には、刺激光を4回以上供給して輝尽発光させる必要がある。X線照射のカウント値が再びi=nとなるときまでに、輝尽性蛍光体11に蓄積したエネルギーをリセットしてやることによって、正確な線量計測が可能になるからである。
【0036】
発明による線量計またはその制御方法は、以上に示した以外の形態で構成することも可能である。たとえば、光ファイバー20として特性の異なるものを使用する際にも、刺激光の供給条件や蛍光量の読み取り条件を変更して高精度の線量計測ができるようにするのがよい。また、場合によっては、図6のように異なる構成の検出部60を線量計において使用するのも好ましい。
【0037】
図6は、上述の線量計1と同様に構成する線量計において使用できる検出部60と光ファイバー70の構成を示している。この検出部60は、シリコーン等の生体適合材料でできた帯状または棒状の部材63の先端部内側に複数の輝尽性蛍光体61を有し、各蛍光体61に光ファイバー70が接続されたものである。
このような検出部60を生体内に埋め込んで定位放射線治療を行うなら、治療のターゲットとなる部位に照射された線量と、それを外れて周辺に照射された線量とを線量計によって同時に計測することができる。そのため、低侵襲でとくに高精度の定位放射線治療を行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0038】
1 線量計
10・60 検出部
11・61 輝尽性蛍光体
20・70 光ファイバー
21 コネクター
30 送受光部
31 半導体レーザー
33 分岐ミラー
34 コリメーター
35 バンドパスフィルター
36 光電子増倍管(フォトマル)
40 X線照射装置
50 制御プロセッサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6