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  • 特許-回転機械 図1A
  • 特許-回転機械 図1B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】回転機械
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/077 20060101AFI20240516BHJP
   H02K 5/173 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
F16C35/077
H02K5/173 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020093627
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021188664
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇治
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-232254(JP,A)
【文献】特開2015-025546(JP,A)
【文献】特開平11-270569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 35/00-39/06,
43/00-43/08,
19/00-19/56,
33/30-33/66,
21/00-27/08
H02K 5/173
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、
前記軸を回転可能に支持する転がり軸受と、
前記転がり軸受が該転がり軸受の軸方向に嵌め合わされた軸受ハウジングと、
前記軸受ハウジングに対して締結されることにより、前記転がり軸受の外輪に向けて前記軸方向に押さえる押さえ部材と、
前記押さえ部材と前記外輪との間に配置されたシムと、を備え、
前記シムは、板材と、該板材よりも厚さが薄い箔材とを含み、
前記押さえ部材は、前記軸受ハウジングに締結された状態で前記外輪に対向する位置に、前記軸方向に突出したリング状の突出部を備え、
前記シムは、前記突出部と前記外輪との間に配置されていることを特徴とする回転機械。
【請求項2】
請求項に記載の回転機械において、
前記突出部は、第1の突出部と、該第1の突出部の前記外輪とは逆側に位置しており外径が該第1の突出部よりも大きい第2の突出部と、を備え、
前記シムは、前記第1の突出部の外周側に配置されており、前記第1の突出部と前記第2の突出部との外径差で生じる段差の位置まで嵌められていることを特徴とする回転機械。
【請求項3】
請求項に記載の回転機械において、
前記箔材は、前記板材の前記外輪とは逆側に配置されていることを特徴とする回転機械。
【請求項4】
軸と、
前記軸を回転可能に支持する転がり軸受と、
前記転がり軸受が該転がり軸受の軸方向に嵌め合わされた軸受ハウジングと、
前記軸受ハウジングに対して締結されることにより、前記転がり軸受の外輪に向けて前記軸方向に押さえる押さえ部材と、
前記押さえ部材と前記外輪との間に配置されたシムと、を備え、
前記シムは、板材と、該板材よりも厚さが薄い箔材とを含み、
前記外輪は、前記軸方向において、
一方は前記押さえ部材で押さえられ、
他方は前記軸受ハウジングの径方向内側に突出した突起で押さえられていることを特徴とする回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受構造を備えた回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の軸受構造を備えた回転機械の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1に記載の軸受構造では、玉軸受をハウジングに取り付ける場合、外輪が軸方向に位置決めされる。そして、外輪の軸方向の位置決め方法は、外輪の軸方向端面と接する押え板をハウジングにボルトで締結したときに外輪の軸方向に生じる隙間(アキシャル隙間)をシムで調整することで行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-369442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
玉軸受の外輪の軌道面形状を損なわないためには、一般に、前蓋(押え板)による外輪の押さえ代を0.01~0.02mm程度に調整する必要があるとされている。しかし、流通している玉軸受の軸方向の製作公差は、押さえ代に比べて10倍以上大きい。このため、1つのシムだけでアキシャル隙間を調整する場合、価格の高い厚みのあるシムを複数種類用意する必要がある。この場合、作業者が各シムを判別しづらいため作業性が悪く、また、コストも下げることができなかった。
本発明の目的は、回転機械の軸受構造で生じるアキシャル隙間を効率よく埋めることが可能な回転機械を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決する複数の手段を含む。その一例は以下の通りである。
軸と、前記軸を回転可能に支持する転がり軸受と、前記転がり軸受が該転がり軸受の軸方向に嵌め合わされた軸受ハウジングと、前記軸受ハウジングに対して締結されることにより、前記転がり軸受の外輪に向けて前記軸方向に押さえる押さえ部材と、前記押さえ部材と前記外輪との間に配置されたシムと、を備え、前記シムは、板材と、該板材よりも厚さが薄い箔材とを含み、前記押さえ部材は、前記軸受ハウジングに締結された状態で前記外輪に対向する位置に、前記軸方向に突出したリング状の突出部を備え、前記シムは、前記突出部と前記外輪との間に配置されていることを特徴とする回転機械。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、回転機械の軸受構造で生じるアキシャル隙間を効率よく埋めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本発明の一実施形態に係る回転機械の軸受構造の部分断面図である。
図1B図1Aの右方向から見た図である。
図2図1Aの要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0009】
図1Aは、本発明の一実施形態に係る回転機械100の軸受構造の部分断面図である。図1Bは、図1Aの右方向から見た図である。以下、図1A(横長)における「右」側を「前」側、「左」側を「後」側として説明する場合がある。
【0010】
図1A図1Bに示すように、本実施形態の回転機械100は、軸1、押さえ部材としての前蓋2、押さえ代調整部材としてのシム3、転がり軸受としての玉軸受4、軸受ハウジング5、および前蓋取付ボルト6を備えている。回転機械100は、本実施形態では、ポンプの場合を一例として挙げている。
【0011】
ポンプの軸1は、例えば、一端に羽根車が固定され、他端にカップリング等を介して回転駆動源が接続される。玉軸受4は、軸1を回転可能に支持する。軸受ハウジング5には、玉軸受4が該玉軸受4の軸方向(以下、単に「軸方向」ともいう)に嵌め合わされている。前蓋2は、軸受ハウジング5に対して前蓋取付ボルト6で締結されることにより、玉軸受4の外輪4aに向けてシム3を介して軸方向に押さえる。シム3は、前蓋2と玉軸受4の外輪4aとの間に配置されている。
【0012】
前蓋2は、中央に軸1が挿入される軸孔(貫通孔)21と、軸受ハウジング5の前端面51に取付けられる後端面22と、後端面22から後側に突出する突出部23とを備えている。本実施形態では、ポンプの軸1が挿入されるため、前蓋2に軸孔21が設けられているが、他の適用製品によっては、軸孔21は設けられていなくてもよい。
【0013】
突出部23は、リング状を呈しており、前蓋2が軸受ハウジング5に締結された状態で玉軸受4の外輪4aに対向する位置に、軸方向に突出している。そして、シム3は、前蓋2の突出部23と玉軸受4の外輪4aとの間に配置されている。
【0014】
図2は、図1Aの要部拡大断面図であり、前蓋2およびシム3のみを示している。
図2に示すように、本実施形態の突出部23は、第1の突出部23aと、外径が第1の突出部23aよりも大きい第2の突出部23bとを備えている。第2の突出部23bは、第1の突出部23aの前側(外輪4aとは逆側)に位置している。第1の突出部23aは先端側(後側)に位置している。第1の突出部23aと第2の突出部23bとの境界には、第1の突出部23aと第2の突出部23bとの外径差で生じる段差24がある。
【0015】
シム3は、リング状の金属部材であり、板材3aと、該板材3aよりも厚さが薄い箔材3bとを備えている。厚い板材3aの厚さ(軸方向寸法)は、1mm以上であり、例えば0.1mm間隔で複数種類用意されるのが好ましい。薄い箔材3bの厚さ(軸方向寸法)は、0.1mm以下であり、例えば0.03~0.1mmの間で複数種類用意されるのが好ましい。薄い箔材3bは、百分の一ミリのオーダーでシム3の厚さを調整するためのものである。ここで、シム3の厚さを調整することは、玉軸受4の外輪4aを軸方向に押さえる押さえ代を調整することに繋がる。
【0016】
板材3aおよび箔材3bは、第1の突出部23aの外周側に配置されており、第1の突出部23aと第2の突出部23bとの外径差で生じる段差24の位置まで嵌められている。箔材3bは、板材3aの前側(外輪4aとは逆側)に配置されている。厚い板材3aだけでシム3の厚さを調整できる場合は、薄い箔材3bは使用しなくてもよい。また、箔材3bの内周と前蓋2の第1の突出部23aの外周との隙間は、板材3aの内周と前蓋2の第1の突出部23aの外周との隙間よりも大きく設定されている。つまり、板材3aの内周は、箔材3bの内周よりも、前蓋2の第1の突出部23aの外周とぴったりした嵌め合い構造となるように設定されている。
【0017】
図1Aに示すように、玉軸受4は、外周側に位置する外輪4a、内周側に位置する内輪4b、および外輪4aと内輪4bとの間に配置される玉4cを有している。
【0018】
軸受ハウジング5は、軸1が挿入される軸孔(貫通孔)52と、玉軸受4の外輪4aの後側(図1A中左側)への移動を規制するために軸孔52の後端(図1A中左端)に配置された突起53とを備えている。軸孔52の径方向内側であって、突起53の前側(図1A中右側)に、押さえ代調整部材としてのシム3および玉軸受4が嵌め込まれる空間(孔)が形成されている。
【0019】
図1Bに示すように、前蓋取付ボルト6は、軸1の中心軸に対して点対称となるように、周方向に複数本配置される。本実施形態の場合、前蓋取付ボルト6は、4対、8本で、軸受ハウジング5と前蓋2とを締結している。なお、前蓋取付ボルト6は、軸1の中心軸に対して、必ずしも点対称でなくてもよく、例えば周方向に等角度間隔に複数本配置されていてもよい。
【0020】
次に、回転機械100の軸受構造の製造方法について説明する。
事前に、図1Aに示すように、玉軸受4のアキシャル(軸)方向の製作寸法Lを測定しておく。そして、外輪4aの押さえ代が例えば0.01~0.02mmとなるように、板材3aと箔材3bを選択しておく。つまり、軸受ハウジング5における前端面51と突起53の前端面53aとの間の軸方向の距離をAとする。また、前蓋2の後端面22とシム3の後端面3cとの間の軸方向の距離をB(図2参照)とする。このとき、L-(A-B)が0.01~0.02mmとなるようにする。ここでは、板材3aが1枚選択され、箔材3bは必要に応じて選択される。
【0021】
まず、軸受ハウジング5に対して、前側(図中右側)方向から玉軸受4を嵌め込む。そして、軸1が軸受ハウジング5内に装着された玉軸受4に支持させられる。玉軸受4の内輪4bは、ナット7の締結によって軸1に固定される。
【0022】
次に、図2に示すように、前蓋2の突出部23に対して、選択しておいたシム3を装着する。シム3は、外輪4aに対向する位置に軸方向に突出したリング状の突出部23と、外輪4aとの間に配置される。これにより、突出部23は、軸受ハウジング5の軸孔52に嵌め込むことで前蓋2を径方向の位置決めするインローとして利用できる。また、突出部23の寸法精度を上げることで、前蓋2による外輪4aの押さえ代の精度を向上させることができる。
【0023】
具体的には、前蓋2の突出部23に対して、選択しておいたシム3を箔材3b、板材3aの順に図2中左側から挿入する。これにより、板材3aおよび箔材3bを、第1の突出部23aの外周側に配置し、第1の突出部23aと第2の突出部23bとの外径差で生じる段差24の位置まで嵌めこむ。
【0024】
このように、シム3の取付けが軸受ハウジング5に対する取付けでなく、前蓋2に対する取付けとなるので、前蓋2の突出部23を上に向けて平面に置いて作業できる。このため、取付けの難しい箔材3bを容易に取り付けることが可能となる。
【0025】
また、箔材3bを取り付けた後に板材3aを取り付けることで、薄く変形しやすい箔材3bが、厚く変形しにくい板材3aと前蓋2との間で挟まれる配置となる。このため、回転機械100の製造中、玉軸受4の交換中等において、箔材3bが変形しにくい。
【0026】
また、板材3aの内周と前蓋2の第1の突出部23aの外周とをぴったりしたと嵌め合い構造としたので、前蓋2を軸受ハウジング5に取付ける際もシム3の脱落の心配がなく、箔材3bが傷つきにくくなっている。
【0027】
次に、シム3が取り付けられた前蓋2を、軸受ハウジング5に対して、前蓋取付ボルト6で締結することによって取り付ける。この際、シム3によって、玉軸受4の外輪4aは後側(図1Aの左側)へ押されることになる。
【0028】
玉軸受4の外輪4aは、軸方向において、一方は前蓋2で押さえられ、他方は軸受ハウジング5の径方向内側に突出した突起53で押さえられる。これにより、玉軸受4の外輪4aを、突起53で規制しつつ前蓋2で確実に押さえることができ、軸方向に固定することができる。
【0029】
このように本実施形態によれば、回転機械100の軸受構造で生じるアキシャル隙間を効率よく埋めることができる。
【0030】
以上、本発明について実施形態に基づいて説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、前記した実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0031】
例えば、前記した実施形態では、回転機械100は、ポンプを想定しているが、本発明は、モータ、圧縮機等の他の回転機械にも適用可能である。
また、前記した実施形態では、転がり軸受として玉軸受4が使用される例を挙げているが、例えばころ軸受が使用されてもよい。さらに、転がり軸受は、一つの支持箇所に2個使用されているが、これに限定されるものではなく、例えば1個であってもよく、3個であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 軸
2 前蓋(押さえ部材)
3 シム
3a 板材
3b 箔材
4 玉軸受(軸受)
4a 外輪
5 軸受ハウジング
53 突起
6 前蓋取付ボルト
23 突出部
23a 第1の突出部
23b 第2の突出部
24 段差
100 回転機械
図1A
図1B
図2