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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】ハニカム構造体及びガス回収装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20240516BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20240516BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20240516BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20240516BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
B01J20/18 B
B01J20/10 C
B01J20/06 A
B01J20/18 E
B01J20/28 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020096266
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021187716
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】國枝 雅文
(72)【発明者】
【氏名】樋口 達大
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-511328(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109862962(CN,A)
【文献】特開2009-227553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00-38/10
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
B01D 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセラミック粒子を含んだ壁部を備えるガス吸着用のハニカム構造体であって、
単位体積当たりの幾何学的表面積(GSA)が20~45cm/cmであり、
開口率が30~45%であり、
前記壁部のBET比表面積が100m/g以上であり、
前記ガスが、酸素、窒素、二酸化炭素、又は水であることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項2】
前記セラミック粒子は、ゼオライト、シリカ、及び、セリウム酸化物のうち少なくとも一種を構成成分に含む請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記壁部における前記セラミック粒子の含有量が70体積%以上である請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記壁部の気孔率が50%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載されたハニカム構造体を備えるガス回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体及びハニカム構造体を備えたガス回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、圧力スイング吸着(以下、「PSA」ともいう。)や温度スイング吸着(以下、「TSA」ともいう。)等の気体分離技術で特定のガスを吸着することにより、特定のガスを分離して回収するガス回収装置について記載している。ガス回収装置は、活性材料を有する自己支持構造体を用いており、自己支持構造体としてハニカム形状のモノリス基板が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/118360号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1等のガス回収装置では、ハニカム形状のモノリス基板(以下、「ハニカム構造体」ともいう。)の強度を好適に保持しつつ、ガス吸着量を増大させることによるガス回収装置のさらなる性能向上が求められている。本発明は、こうした事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハニカム構造体の強度を好適に保持しつつ、ガス吸着量を好適に増大し得るハニカム構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明のハニカム構造体は、複数のセラミック粒子を含んだ壁部を備えるガス吸着用のハニカム構造体であって、単位体積当たりの幾何学的表面積(GSA)が20~45cm/cmであり、開口率が30~45%であり、上記壁部のBET比表面積が100m/g以上であることを要旨とする。
【0006】
上記構成によれば、単位体積当たりの幾何学的表面積(GSA)が20~45cm/cmであり、開口率が30~45%であることにより、ガス吸着に要する壁部の面積を相対的に大きくすることで、吸着したガスが漏れるまでの時間を長くしつつ、壁部の体積を好適に確保することで、吸着できるガス量を増やすことができる。さらに、壁部の体積が大きいことでハニカム構造体の強度を保持することができる。また、壁部のBET比表面積が100m/g以上であることにより、ガスの吸着できる面積を増大させて、ガスの吸着量をさらに増加させることができる。そのため、ハニカム構造体の強度を好適に保持しつつ、ガス吸着量を好適に増大させることができる。
【0007】
本発明のハニカム構造体について、上記セラミック粒子は、ゼオライト、シリカ、及び、セリウム酸化物のうち少なくとも一種を構成成分に含むことが好ましい。この構成によれば、ゼオライト、シリカ、及び、セリウム酸化物は、表面積が相対的に大きい材料であるため、ガス吸着量を増大させることが容易になる。
【0008】
本発明のハニカム構造体について、上記壁部における上記セラミック粒子の含有量が70体積%以上であることが好ましい。この構成によれば、壁部に占める吸着に寄与するセラミック粒子の割合が大きくなるため、ガス吸着量を増大させることが容易になる。
【0009】
本発明のハニカム構造体について、上記壁部の気孔率が50%以下であることが好ましい。この構成によれば、壁部に占める気孔の割合を相対的に小さくして、壁部に占める吸着に寄与するセラミック粒子の割合が相対的に大きくなるため、ガス吸着量を増大させることが容易になる。さらに壁部の強度を向上させることができるため、ハニカム構造体の強度を保持することが容易になる。
【0010】
上記ハニカム構造体を備えるガス回収装置であることが好ましい。この構成によれば、上記ハニカム構造体の効果を奏するガス回収装置とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のハニカム構造体及びガス回収装置によれば、ハニカム構造体の強度を好適に保持しつつ、ガス吸着量を好適に増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ハニカム構造体の斜視図。
図2】ガス回収装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ハニカム構造体の一実施形態を説明する。
図1に示すように、本実施形態のハニカム構造体10は、円筒状の周壁11と、周壁11の内部を周壁11の軸方向に延びる複数のセルSに区画する断面ハニカム形状の区画壁12とを備えている。周壁11と区画壁12とによってハニカム構造体10の壁部が構成されている。ハニカム構造体10の壁部は、複数のセラミック粒子を含んでいる。
【0014】
ハニカム構造体10のセル構造は、GSAが20~45cm/cmであり、開口率が30~45%の範囲において、特に限定されるものではないが、例えば、区画壁12の壁厚が0.2~0.5mmであり、セル密度が1cmあたり93~248セル(600~1600cpsi)であるセル構造とすることができる。なお、cpsiは、1平方インチ当たりのセル数を意味するものとする。
【0015】
ハニカム構造体10の単位体積当たりの幾何学的表面積(以下、「GSA」ともいう。)は、20~45cm/cmである。GSAは、25~45cm/cmであることが好ましく、30~45cm/cmであることがより好ましい。ここで、GSAとは、ハニカム構造体10の区画壁12の外観上の表面積の合計値を、ハニカム構造体10の体積で除した値を意味するものとする。
【0016】
ハニカム構造体10の開口率は、30~45%である。ハニカム構造体10の開口率は、35~45%であることが好ましい。ここで、ハニカム構造体10の開口率とは、ハニカム構造体10の軸方向に直交する横断面において、ハニカム構造体10の断面積に占める、複数のセルSに由来する空間の面積の割合を意味するものとする。
【0017】
ハニカム構造体10のGSA、及び、開口率は、ハニカム構造体10のセル構造を変更することによって、調整することができる。
ハニカム構造体10の壁部のBET比表面積は、100m/g以上である。ハニカム構造体10の壁部のBET比表面積は、100~1000m/gであることが好ましく、150~600m/gであることがより好ましい。ここで、BET比表面積とは、BET法でN吸着にて測定した壁部の単位質量当たりの表面積を意味するものとする。
【0018】
ハニカム構造体10の壁部には、セラミック粒子間に気孔が形成されていてもよい。壁部の気孔率は、特に限定されないが、50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましい。壁部の気孔率は、30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましい。壁部の気孔率は、水銀圧入法(JISR1655:2003に準じる)により測定することができる。水銀圧入法の条件としては、島津製作所製、マイクロメリティックス自動ポロシメータオートポアIII9405を用いて、測定範囲は、0.006~500μmとする。100~500μmでは、0.1psiaの圧力毎に測定し、0.006~100μmでは、0.25psiaの圧力毎に測定し、その際、接触角を130°、表面張力を485mN/mとする。
【0019】
ハニカム構造体10のBET比表面積、及び、気孔率は、ハニカム構造体10の壁部を構成するセラミック粒子等の材料の種類や配合を変更することによって、調整することができる。
【0020】
ハニカム構造体10の壁部に含まれるセラミック粒子としては、特に限定されず、ハニカム構造体に用いられる公知のセラミック粒子を用いることができる。公知のセラミック粒子としては、例えば、ゼオライト、シリカ、セリウム酸化物、アルミナ、ジルコニア、マグネシア等を挙げることができる。その中でも、ゼオライト、シリカ、及び、セリウム酸化物のうち少なくとも一種を構成成分に含むことが好ましい。ゼオライト、シリカ、及び、セリウム酸化物は、表面積が相対的に大きい材料であるため、ガス吸着量を大きくすることができる。
【0021】
ここで、ゼオライト、シリカ、及び、セリウム酸化物のうち少なくとも一種を構成成分に含むとは、ハニカム構造体10の壁部が、ゼオライト、シリカ、及び、セリウム酸化物のうちのどれか一種の材料で構成された粒子を含むことを意味するものとする。また、ゼオライト、シリカ、及び、セリウム酸化物の各一次粒子のうち、二種以上が凝集した二次粒子を含んでいてもよい。
【0022】
また、ゼオライトとしては、DDR型、CHA型、LTA型、AFI型が好ましい。
セラミック粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、0.1~50μmであることが好ましく、0.5~30μmであることがより好ましい。
【0023】
セラミック粒子の平均粒子径は、公知の電子顕微鏡を用いてハニカム構造体10の壁部を観察することにより測定することができる。また、原料段階においてはレーザー回折式粒度分布計により測定することができる。
【0024】
壁部におけるセラミック粒子の含有量は、特に限定されないが、例えば、70体積%以上であることが好ましく、75体積%以上であることがより好ましい。セラミック粒子の含有量は、95体積%以下であることが好ましく、90体積%以下であることがより好ましい。
【0025】
ここで、セラミック粒子の含有量は、壁部における気孔を除いた基材部分に占めるセラミック粒子の割合(体積%)を意味するものとする。
ハニカム構造体10の壁部は、その構成成分として、セラミック粒子以外のその他成分を含有するものであってもよい。その他成分としては、例えば、無機バインダー、無機繊維、炭素質成分が挙げられる。
【0026】
無機バインダーとしては、例えば、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト、アタパルジャイト、ベントナイト、ベーマイトが挙げられる。これらは、単独で使用されてもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
壁部における無機バインダーの含有量は、特に限定されないが、例えば、1体積%以上であることが好ましく、3体積%以上であることがより好ましい。無機バインダーの含有量は、25体積%以下であることが好ましく、20体積%以下であることがより好ましい。
【0028】
無機繊維としては、例えば、シリカ-アルミナファイバー、ムライトファイバー、シリカファイバー、アルミナファイバー、ジルコニアファイバー、ガラスファイバー等が挙げられる。これらは、単独で使用されてもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
壁部における無機繊維の含有量は、特に限定されないが、例えば、1体積%以上であることが好ましく、3体積%以上であることがより好ましい。無機繊維の含有量は、25体積%以下であることが好ましく、20体積%以下であることがより好ましい。
【0030】
炭素質成分としては、例えば、後述するハニカム構造体10の製造工程において、加熱された有機分の残留物が挙げられる。有機分は、結合材として用いた有機バインダーや分散媒に含まれている。ここで、炭素質成分とは、炭素を主成分として50質量%以上含有する材料を意味するものとする。炭素質成分は、相対的に表面積が大きいため、炭素質成分をガスの吸着材としても活用することができる。
【0031】
壁部における炭素質成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。炭素質成分の含有量は、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
炭素質成分の含有量は、ハニカム構造体の一部を粉砕して、粉状試料にし、熱重量測定(TG)により、300℃~600℃の範囲での粉状試料の重量減少分(=炭素質成分)から算出することができる。粉状試料を得る際には、ハニカム構造体の内部(直径に対して50%径の内側)と外部(直径に対して50%径の外側)から、それぞれ準備し、それぞれの測定における重量減少分(=炭素質成分)を平均することが好ましい。
【0033】
ハニカム構造体10の壁部において、セラミック粒子同士は、粒子同士の間に存在する結合材によって、周壁11と区画壁12の形状を保持するように構成されていてもよい。言い換えれば、複数のセラミック粒子同士が、結合材を介して接合されていてもよい。複数のセラミック粒子同士が、結合材を介して接合されていることにより、ハニカム構造体10の強度を向上させることができる。また、無機繊維はハニカム構造体の周壁11と区画壁12の補強材として、炭素質成分は周壁11と区画壁12中の充填材としてそれぞれ機能し、ハニカム構造体10の強度を向上させることができる。
【0034】
次に、上記ハニカム構造体10の製造方法の一例について説明する。
上記ハニカム構造体10は、以下に記載する成形工程、乾燥工程、焼成工程を順に経ることにより製造される。
【0035】
(成形工程)
成形工程は、セラミック粒子と、水を主成分とする分散媒とを含有する混合物を成形して成形体を得る工程である。
【0036】
まず、セラミック粒子、及び水を主成分とする分散媒を含有する混合物を調製する。水を主成分とする分散媒は、水のみからなる分散媒、又は50体積%以上の水と有機溶剤とからなる分散媒である。有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、メタノール等のアルコールが挙げられる。また、分散媒には、上記の有機溶剤のうちの一種のみが含有されていてもよいし、二種以上が含有されていてもよい。
【0037】
混合物中における分散媒の含有量は、10~50質量%の範囲とすることが好ましい。
また、混合物には、その他成分が含有されていてもよい。その他成分としては、例えば、無機バインダー、無機繊維、有機バインダー、成形助剤、可塑剤、分散剤、潤滑剤が挙げられる。無機バインダー、無機繊維については、ハニカム構造体10の説明において記載したものと同様である。
【0038】
有機バインダーとしては、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。これらは、単独で使用されてもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
成形助剤としては、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリアルコールが挙げられる。
可塑剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系化合物が挙げられる。
【0040】
分散剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。
潤滑剤としては、例えば、グリセリンが挙げられる。
次に、上記組成の混合物を用いて、図1に示すハニカム構造体10と同形状の成形体、すなわち筒状の周壁11と、周壁11の内部を周壁11の軸方向に延びる複数のセルSに区画する断面ハニカム形状の区画壁12とを備える形状の成形体を成形する。成形体は、例えば、押し出し成形により成形することができる。
【0041】
(乾燥工程)
乾燥工程は、成形工程により得られた成形体を、乾燥機を用いて乾燥させることにより、分散媒が除去された乾燥体を得る工程である。乾燥機としては、例えば、公知の電気乾燥機やマイクロ波乾燥機を用いることができる。
【0042】
(焼成工程)
焼成工程は、乾燥工程により得られた乾燥体を焼成して、ハニカム構造体10を得る工程である。焼成工程における焼成温度は、例えば、300~600℃の範囲であることが好ましく、300~500℃の範囲であることがより好ましい。焼成工程における焼成雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気や還元雰囲気であってもよい。還元雰囲気としては、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気であってもよい。
【0043】
上記の成形工程、乾燥工程、焼成工程を経ることにより、ハニカム構造体10が得られる。
ハニカム構造体10の用途としては、ガス回収装置に用いられる吸着材である。
【0044】
以下、ガス回収装置としての圧力スイング吸着装置(以下、「PSA装置」ともいう。)について説明する。
図2に示すように、PSA装置20は、圧力付加装置21と、ガス吸着槽22と、ガス回収タンク23とを備えている。ガス吸着槽22は2つ設けられている。各ガス吸着槽22の内部に本実施形態のハニカム構造体10が配置されている。圧力付加装置21と、各ガス吸着槽22と、ガス回収タンク23の間は配管24で接続されている。
【0045】
PSA装置20を用いてガスを回収する際には、まず、圧力付加装置21で圧力を高めたガスを、2つのガス吸着槽22の一方(以下、「第1ガス吸着槽22a」ともいう。)に供給し、第1ガス吸着槽22a内のハニカム構造体10に特定のガスを吸着させる。第1ガス吸着槽22a内のハニカム構造体10が所定のガス吸着量に達したら、第1ガス吸着槽22aの圧力を下げて、ハニカム構造体10に吸着されたガスを脱離させてガス回収タンク23に回収する。その際、圧力付加装置21で圧力を高めたガスを2つのガス吸着槽22の他方(以下、「第2ガス吸着槽22b」ともいう。)に供給して、第2ガス吸着槽22b内のハニカム構造体10に特定のガスを吸着させる。第2ガス吸着槽22b内のハニカム構造体10が所定のガス吸着量に達したら、第2ガス吸着槽22bの圧力を下げて、ハニカム構造体10に吸着されたガスを脱離させてガス回収タンク23に回収する。
【0046】
圧力付加装置21から各ガス吸着槽22へのガスの供給、及び、各ガス吸着槽22からガス回収タンク23へのガスの回収は、配管24に設けられた開閉バルブ(図示省略)を用いて、配管24の流路を切り替えて行う。
【0047】
以上の操作を繰り返し行うことによって、所定のガスをガス回収タンク23に回収することができる。ガス回収タンク23に回収するガスとしては特に限定されず、例えば、酸素、窒素、二酸化炭素、水等を挙げることができる。ガス回収タンク23で回収するガスは、ハニカム構造体10に吸着されたガスであってもよいし、ハニカム構造体10に特定のガスを吸着させた際に、ハニカム構造体10に吸着されずに通過したガスであってもよい。
【0048】
また、TSA装置の場合は、PSA装置における圧力付加装置21を、ブロアーに置き換え、PSA装置におけるガス吸着槽22の周囲にヒーターを取り付け、ガス吸着槽22内に配置されたハニカム構造体をヒーターで温度を上げることにより、ハニカム構造体に吸着されたガスを脱離させガス回収タンク23に回収する。
【0049】
本実施形態の作用及び効果について記載する。
(1)複数のセラミック粒子を含んだ壁部を備えるガス吸着用のハニカム構造体であって、単位体積当たりの幾何学的表面積(GSA)が20~45cm/cmであり、開口率が30~45%である。ガス吸着に要する壁部の面積を相対的に大きくすることで、吸着したガスが漏れるまでの時間を長くしつつ、壁部の体積を好適に確保することで、吸着できるガス量を増やすことができる。さらに、壁部の体積が大きいことでハニカム構造体の強度を保持することができる。また、壁部のBET比表面積が100m/g以上であることにより、ガスの吸着できる面積を増大させて、ガスの吸着量をさらに増加させることができる。したがって、ハニカム構造体の強度を好適に保持しつつ、ガス吸着量を好適に増大させることができる。
【0050】
(2)セラミック粒子は、ゼオライト、シリカ、及び、セリウム酸化物のうち少なくとも一種を構成成分に含む。ゼオライト、シリカ、及び、セリウム酸化物は、表面積が相対的に大きい材料であるため、ガス吸着量を増大させることが容易になる。
【0051】
(3)壁部におけるセラミック粒子の含有量が70体積%以上である。したがって、壁部に占める吸着に寄与するセラミック粒子の割合が大きくなるため、ガス吸着量を増大させることが容易になる。
【0052】
(4)壁部の気孔率が50%以下である。壁部に占める気孔の割合を相対的に小さくして、壁部に占める吸着に寄与するセラミック粒子の割合が相対的に大きくなるため、ガス吸着量を増大させることが容易になる。さらに壁部の強度を向上させることができる。したがって、ハニカム構造体の強度を保持することが容易になる。
【0053】
(5)ハニカム構造体の壁部は、炭素質成分を含有している。炭素質成分は相対的に表面積が大きいため、ガスの吸着材としても活用することができる。したがって、ガスの吸着量を向上させることができる。
【0054】
(6)炭素質成分は、ハニカム構造体の製造工程において加熱された有機分の残留物である。結合材として用いた有機バインダーや分散媒が含有する有機分を炭素質成分として活用することができる。また、ハニカム構造体の全体に炭素質成分をより均一に分散させることができる。
【0055】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・本実施形態において、ハニカム構造体は、円筒状の周壁を有していたがこの態様に限定されない。ハニカム構造体の周壁は角筒状であってもよく、横断面が楕円形やオーバル形状等であってもよい。
【0056】
・本実施形態において、ハニカム構造体の壁部は、周壁と区画壁とで構成されていたが、この態様に限定されない。ハニカム構造体の壁部は区画壁のみで構成されており、周壁は、区画壁とは異なる材料で構成されていてもよい。
【0057】
・本実施形態において、壁部に含まれる炭素質成分は、ハニカム構造体の製造工程において加熱された有機分の残留物に由来していたが、この態様に限定されない。炭素質成分は、例えば、黒鉛や活性炭等の粒子であって、成形工程で用いられる混合物に含有されたものであってもよい。
【実施例
【0058】
以下、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
(実施例1)
まず、下記原料組成物を混合して混合物を調整した。
【0059】
平均粒子径5μmのゼオライト粒子(LTA型)(セラミック粒子):47.6質量%
ベーマイト(無機バインダー):6.0質量%
ガラスファイバー(無機繊維):9.5質量%
メチルセルロース(有機バインダー):5.6質量%
ソルビタン脂肪酸エステル(分散剤):1.6質量%
水(分散媒):29.7質量%
この混合物を用いて、押出成形機によって円柱状の成形体を成形した。この成形体を所定の長さに切断してハニカム成形体を作製した。ハニカム成形体を公知の減圧マイクロ波乾燥機を用いて圧力6.7kPa、25℃で5分間乾燥させた。さらに、ハニカム成形体を450℃で2時間加熱して焼成することにより、ハニカム構造体を作製した。
【0060】
得られたハニカム構造体において、壁部を構成する複数のセラミック粒子同士は、炭素質成分を含んでいた。
ハニカム構造体の壁厚は0.25mm、セル密度は171セル/cm、GSAは34.9cm/cm、開口率は44.7%、壁部のBET比表面積は452m/g、壁部の気孔率は41%であった。壁部のセラミック粒子の含有量は79.9体積%であり、炭素質成分の含有量は0.7質量%であった。
【0061】
なお、炭素質成分の含有量は、ハニカム構造体の一部を粉砕して、粉状試料にし、熱重量測定(TG)により、300℃~600℃の範囲での粉状試料の重量減少分(=炭素質成分)から算出した。
【0062】
(実施例2)
ハニカム構造体の壁厚を0.20mm、セル密度を264セル/cm、GSAを43.5cm/cm、開口率を44.9%とした点を除いて、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製し、これを実施例2のハニカム構造体とした。
【0063】
(実施例3)
ハニカム構造体の壁厚を0.25mm、セル密度を310セル/cm、GSAを38.9cm/cm、開口率を30.6%とした点を除いて、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製し、これを実施例3のハニカム構造体とした。
【0064】
(実施例4)
ハニカム構造体の壁厚を0.41mm、セル密度を93セル/cm、GSAを23.5cm/cm、開口率を37.0%とした点を除いて、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製し、これを実施例4のハニカム構造体とした。
【0065】
(比較例1)
ハニカム構造体の壁厚を0.33mm、セル密度を78セル/cm、GSAを25.0cm/cm、開口率を50.3%とした点を除いて、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製し、これを比較例1のハニカム構造体とした。
【0066】
(比較例2)
ハニカム構造体の壁厚を0.51mm、セル密度を62セル/cm、GSAを18.9cm/cm、開口率を36.0%とした点を除いて、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製し、これを比較例2のハニカム構造体とした。
【0067】
(ガス吸着量の評価)
ハニカム構造体のガス吸着量を、以下の試験で評価した。
まず、配管中にハニカム構造体を配置する。ハニカム構造体の上流側から、評価用ガスを供給して、ハニカム構造体の内部を流通させる。ハニカム構造体の下流側において、ハニカム構造体の内部を流通したガスの成分を測定する。
【0068】
評価用ガスの成分としては、二酸化炭素1%、酸素20%、窒素79%であるものを用いた。ガスの温度を約40℃とし、ガスの流量を15.6L/minとした。
評価用ガスの供給を開始した段階では、例えば、評価用ガス中の二酸化炭素はハニカム構造体に吸着されるため、ハニカム構造体の下流側における二酸化炭素の濃度は略ゼロとなる。評価用ガスの供給開始から一定時間が経過して、ハニカム構造体に吸着された二酸化炭素の吸着量が上限に達すると、それ以上、二酸化炭素が吸着されないため、ハニカム構造体の下流側において二酸化炭素の濃度が上昇する。評価用ガスの供給開始時点から、ハニカム構造体の下流側における二酸化炭素の濃度が所定の閾値である0.05%に達するまでの時間を測定して、破過時間としてハニカム構造体に吸着された二酸化炭素の吸着量を相対評価した。また、評価用ガスの供給開始時点から、ハニカム構造体の下流側における二酸化炭素の濃度が所定の閾値である1%に達するまでの時間を測定して、飽和時間としてハニカム構造体に吸着された二酸化炭素の吸着量を相対評価した。
【0069】
上記試験の結果、二酸化炭素の濃度が0.05%に達するまでの時間(破過時間)が、比較例1、2では、それぞれ236秒、325秒であったのに対し、実施例1、2、3、4では、それぞれ334秒、389秒、401秒、362秒であった。また、二酸化炭素の濃度が1%に達するまでの時間(飽和時間)が、比較例1、2では、それぞれ683秒、815秒であったのに対し、実施例1、2、3、4では、それぞれ735秒、733秒、865秒、806秒であった。特に吸着した二酸化炭素が漏れるまでの時間(破過時間)が長くなっており、二酸化炭素の吸着量が増大していることが確認された。
【0070】
(機械的強度の測定)
ハニカムフィルタの機械的強度として、以下の方法により、曲げ強度を測定した。
まず、実施例1~4及び比較例1、2で得たハニカム構造体から、3点曲げ強度測定用サンプルとして、断面を5mm×5mm、長さ40mmに切り出した部材を10本準備した。3点曲げ強度測定用サンプルの主面(サンプルの外周面のうち広い方の面)に対して垂直な方向に荷重を印加し、破壊荷重(サンプルが破壊した荷重)を測定した。10本の3点曲げ強度測定用サンプルについて破壊荷重を測定し、その平均値をそれぞれ実施例及び比較例で得たハニカム構造体の曲げ強度とした。3点曲げ強度試験は、JISR1601を参考に、インストロン5582を用い、スパン間距離:30mm、スピード0.5mm/minで行った。
【0071】
比較例1、2のハニカム構造体は、壁部の強度がそれぞれ1.4MPa、1.9MPaであり、実施例1、2、3、4では、それぞれ1.6MPa、1.6MPa、2.0MPa、1.8MPaであった。ここから実施例1~4のハニカム構造体は、比較例1のハニカム構造体に対して機械的強度が向上していることが確認された。
【符号の説明】
【0072】
10…ハニカム構造体、11…周壁、12…区画壁、S…セル。
図1
図2