(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】通信装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/46 20060101AFI20240516BHJP
G01S 3/48 20060101ALN20240516BHJP
G01S 5/12 20060101ALN20240516BHJP
【FI】
G01S13/46
G01S3/48
G01S5/12
(21)【出願番号】P 2020139211
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100140958
【氏名又は名称】伊藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100137888
【氏名又は名称】大山 夏子
(72)【発明者】
【氏名】大石 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】森 惠
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健一
(72)【発明者】
【氏名】古池 竜也
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0088869(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0267221(US,A1)
【文献】特開2019-056636(JP,A)
【文献】特開2012-068224(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0320481(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0349280(US,A1)
【文献】国際公開第2007/094064(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - G01S 7/42
G01S 13/00 - G01S 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の通信装置との間で信号を無線で送受信することが可能な複数の無線通信部と、
前記複数の前記無線通信部から選択されたひとつの前記無線通信部である代表無線通信部により信号を送信すること、前記複数の前記無線通信部の各々により信号を受信すること、及び前記無線通信部により受信された信号のうち所定の検出基準を満たす信号として検出された信号である第1到来波が処理対象として適切であるかを示す指標である信頼性パラメータに属する第1のパラメータを前記複数の前記無線通信部の少なくともいずれかについて計算すること、を含む測定処理を繰り返し実行し、
前記測定処理を繰り返す度に、前記複数の前記無線通信部から前記代表無線通信部を選択する選択処理を制御し、
前記測定処理を繰り返し実行することで得られた複数の前記第1到来波に基づいて前記他の通信装置が存在する位置を示す位置パラメータを特定する位置パラメータ特定処理を、前記第1のパラメータに基づいて制御する制御部と、
を備え
、
前記制御部は、前記代表無線通信部について計算された前記信頼性パラメータに属する第2のパラメータに基づいて、前記代表無線通信部を変更するか否かを判定することを、前記選択処理として行う、
通信装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記代表無線通信部を変更すると判定した場合、前記複数の前記無線通信部の各々について計算された前記第2のパラメータのうち、前記処理対象として最も適切であることを示す前記第2のパラメータが計算された前記無線通信部を、前記代表無線通信部として選択することを、前記選択処理として行う、
請求項
1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記第2のパラメータは、前記信頼性パラメータのうち、ひとつの前記無線通信部において検出された前記第1到来波が処理対象として適切であるかを示す指標である、
請求項
1又は
2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとは同一である、
請求項
1~3のいずれか一項に記載の通信装置。
【請求項5】
前記制御部は、複数の前記第1到来波の各々に基づいて推定された複数の前記位置パラメータに対し前記第1のパラメータに基づく統計処理を適用することで、前記位置パラメータを特定することを、前記位置パラメータ特定処理として行う、
請求項1~
4のいずれか一項に記載の通信装置。
【請求項6】
前記制御部は、所定の条件が満たされた場合、前記位置パラメータ特定処理において前記位置パラメータを特定しない、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の通信装置。
【請求項7】
前記位置パラメータは、前記代表無線通信部から前記他の通信装置までの距離、第1の所定の座標系における原点と前記他の通信装置とを結ぶ直線と座標軸とがなす角度、及び第2の所定の座標系における前記他の通信装置の座標の少なくともいずれかを含む、
請求項1~
6のいずれか一項に記載の通信装置。
【請求項8】
前記通信装置は、車両に搭載され、
前記他の通信装置は、前記車両のユーザに携帯され、
前記制御部は、前記車両の車室内及び車室外を含む複数の領域の中から前記他の通信装置が存在する領域を特定することを、前記位置パラメータ特定処理として行う、
請求項
7に記載の通信装置。
【請求項9】
他の通信装置との間で信号を無線で送受信することが可能な複数の無線通信部を備える通信装置を制御するコンピュータを、
前記複数の前記無線通信部から選択されたひとつの前記無線通信部である代表無線通信部により信号を送信すること、前記複数の前記無線通信部の各々により信号を受信すること、及び前記無線通信部により受信された信号のうち所定の検出基準を満たす信号として検出された信号である第1到来波が処理対象として適切であるかを示す指標である信頼性パラメータに属する第1のパラメータを前記複数の前記無線通信部の少なくともいずれかについて計算すること、を含む測定処理を繰り返し実行し、
前記測定処理を繰り返す度に、前記複数の前記無線通信部から前記代表無線通信部を選択する選択処理を制御し、
前記測定処理を繰り返し実行することで得られた複数の前記第1到来波に基づいて前記他の通信装置が存在する位置を示す位置パラメータを特定する位置パラメータ特定処理を、前記第1のパラメータに基づいて制御する制御部、
として機能させ
、
前記制御部は、前記代表無線通信部について計算された前記信頼性パラメータに属する第2のパラメータに基づいて、前記代表無線通信部を変更するか否かを判定することを、前記選択処理として行う、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、装置間で信号を送受信した結果に従って、一方の装置が他方の装置の位置を推定する技術が開発されている。位置特定技術の一例として、下記特許文献1には、UWB(Ultra-Wide Band)で無線通信を行うことで、UWB受信機がUWB送信機からの無線信号の入射角を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の技術は、送受信間に遮蔽物が存在する等の環境下では無線信号の入射角の推定精度が低下するにも関わらず、何ら対処がなされていないという問題があった。かかる問題への対策を含め、位置推定技術の精度をより向上させることが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、位置を推定する処理を電波伝搬環境に応じて制御することが可能な仕組みを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、他の通信装置との間で信号を無線で送受信することが可能な複数の無線通信部と、前記複数の前記無線通信部から選択されたひとつの前記無線通信部である代表無線通信部により信号を送信すること、前記複数の前記無線通信部の各々により信号を受信すること、及び前記無線通信部により受信された信号のうち所定の検出基準を満たす信号として検出された信号である第1到来波が処理対象として適切であるかを示す指標である信頼性パラメータに属する第1のパラメータを前記複数の前記無線通信部の少なくともいずれかについて計算すること、を含む測定処理を繰り返し実行し、前記測定処理を繰り返す度に、前記複数の前記無線通信部から前記代表無線通信部を選択する選択処理を制御し、前記測定処理を繰り返し実行することで得られた複数の前記第1到来波に基づいて前記他の通信装置が存在する位置を示す位置パラメータを特定する位置パラメータ特定処理を、前記第1のパラメータに基づいて制御する制御部と、を備える通信装置が提供される。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、他の通信装置との間で信号を無線で送受信することが可能な複数の無線通信部を備える通信装置を制御するコンピュータを、前記複数の前記無線通信部から選択されたひとつの前記無線通信部である代表無線通信部により信号を送信すること、前記複数の前記無線通信部の各々により信号を受信すること、及び前記無線通信部により受信された信号のうち所定の検出基準を満たす信号として検出された信号である第1到来波が処理対象として適切であるかを示す指標である信頼性パラメータに属する第1のパラメータを前記複数の前記無線通信部の少なくともいずれかについて計算すること、を含む測定処理を繰り返し実行し、前記測定処理を繰り返す度に、前記複数の前記無線通信部から前記代表無線通信部を選択する選択処理を制御し、前記測定処理を繰り返し実行することで得られた複数の前記第1到来波に基づいて前記他の通信装置が存在する位置を示す位置パラメータを特定する位置パラメータ特定処理を、前記第1のパラメータに基づいて制御する制御部、として機能させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本発明によれば、位置を推定する処理を電波伝搬環境に応じて制御することが可能な仕組みが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシステムの構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る車両に設けられる複数のアンテナの配置の一例を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る携帯機の位置パラメータの一例を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る携帯機の位置パラメータの一例を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る通信ユニットにおける信号処理の処理ブロックの一例を示す図である。
【
図6】本実施形態に係るCIRの一例を示すグラフである。
【
図7】本実施形態に係るシステムにおいて実行される測距処理の流れの一例を示すシーケンス図である。
【
図8】本実施形態に係るシステムにおいて実行される角度推定処理の流れの一例を示すシーケンス図である。
【
図9】LOS状態の無線通信部におけるCIRの一例を示すグラフである。
【
図10】NLOS状態の無線通信部におけるCIRの一例を示すグラフである。
【
図11】LOS状態の無線通信部におけるCIRの一例を示すグラフである。
【
図12】NLOS状態の無線通信部におけるCIRの一例を示すグラフである。
【
図13】複数の無線通信部におけるCIRの一例を示すグラフである。
【
図14】複数の無線通信部におけるCIRの一例を示すグラフである。
【
図15】本実施形態に係る信頼性パラメータの一例を説明するための図である。
【
図16】本実施形態に係る信頼性パラメータの一例を説明するための図である。
【
図19】本実施形態に係る車両の通信ユニットにより実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。例えば、実質的に同一の機能構成を有する複数の要素を、必要に応じて無線通信部210A、210B及び210Cのように区別する。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。例えば、無線通信部210A、210B及び210Cを特に区別する必要が無い場合には、単に無線通信部210と称する。
【0012】
<<1.構成例>>
図1は、本発明の一実施形態に係るシステム1の構成の一例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係るシステム1は、携帯機100、及び通信ユニット200を含む。本実施形態における通信ユニット200は、車両202に搭載される。車両202は、ユーザの利用対象の一例である。
【0013】
本発明には、被認証者側の通信装置と、認証者側の通信装置と、が関与する。
図1に示した例では、携帯機100が被認証者側の通信装置の一例であり、通信ユニット200が認証者側の通信装置の一例である。
【0014】
システム1においては、ユーザ(例えば、車両202のドライバー)が携帯機100を携帯して車両202に近づくと、携帯機100と車両202に搭載された通信ユニット200との間で認証のための無線通信が行われる。そして、認証が成功すると、車両202のドア錠がアンロックされたりエンジンが始動されたりして、車両202がユーザにより利用可能な状態になる。システム1は、スマートエントリーシステムとも称される。以下、各構成要素について順に説明する。
【0015】
(1)携帯機100
携帯機100は、ユーザにより携帯される任意の装置として構成される。任意の装置には、電子キー、スマートフォン、及びウェアラブル端末等が含まれる。
図1に示すように、携帯機100は、無線通信部110、記憶部120、及び制御部130を備える。
【0016】
無線通信部110は、車両202に搭載された通信ユニット200との間で、無線による通信を行う機能を有する。無線通信部110は、車両202に搭載された通信ユニット200から信号を無線で受信する。また、無線通信部110は、通信ユニット200へ信号を無線で送信する。
【0017】
無線通信部110と通信ユニット200との間の無線による通信は、例えばUWB(Ultra-Wide Band)を用いた信号によって実現される。UWBを用いた信号の無線通信において、インパルス方式を利用すれば、ナノ秒以下の非常に短いパルス幅の電波を使用することで電波の伝搬遅延時間を高精度に測定することができ、伝搬遅延時間に基づく測距を高精度に行うことができる。なお、伝搬遅延時間とは、電波を送信してから受信するまでにかかる時間である。無線通信部110は、例えば、UWBでの通信が可能な通信インタフェースとして構成される。
【0018】
なお、UWBを用いた信号は、例えば、測距用信号、角度推定用信号、及びデータ信号として送受信され得る。測距用信号とは、後述する測距処理において送受信される信号である。測距用信号は、データを格納するペイロード部分を有さないフレームフォーマットで構成されていてもよいし、ペイロード部分を有するフレームフォーマットで構成されていてもよい。角度推定用信号とは、後述する角度推定処理において送受信される信号である。角度推定用信号は、測距用信号と同様の構成を有していてもよい。データ信号は、データを格納するペイロード部分を有するフレームフォーマットで構成されることが好ましい。
【0019】
ここで、無線通信部110は、少なくとも1つのアンテナ111を有する。そして、無線通信部110は、少なくとも1つのアンテナ111を介して無線信号を送受信する。
【0020】
記憶部120は、携帯機100の動作のための各種情報を記憶する機能を有する。例えば、記憶部120は、携帯機100の動作のためのプログラム、並びに認証のためのID(identifier)、パスワード、及び認証アルゴリズム等を記憶する。記憶部120は、例えば、フラッシュメモリ等の記憶媒体、及び記憶媒体への記録再生を実行する処理装置により構成される。
【0021】
制御部130は、携帯機100における処理を実行する機能を有する。一例として、制御部130は、無線通信部110を制御して車両202の通信ユニット200との通信を行う。制御部130は、記憶部120からの情報の読み出し及び記憶部120への情報の書き込みを行う。制御部130は、車両202の通信ユニット200との間で行われる認証処理を制御する認証制御部としても機能する。制御部130は、例えばCPU(Central Processing Unit)及びマイクロプロセッサ等の電子回路によって構成される。
【0022】
(2)通信ユニット200
通信ユニット200は、車両202に対応付けて設けられる。ここでは、車両202の車室内に設置される、又は通信モジュールとして車両202に内蔵される等、通信ユニット200は車両202に搭載されるものとする。他にも、車両202の駐車場に通信ユニット200が設けられる等、車両202と通信ユニット200とが別体として構成されてもよい。その場合、通信ユニット200は、携帯機100との通信結果に基づいて、車両202に制御信号を無線送信し、車両202を遠隔で制御し得る。
図1に示すように、通信ユニット200は、複数の無線通信部210(210A~210D)、記憶部220、及び制御部230を備える。
【0023】
無線通信部210は、携帯機100の無線通信部110との間で、無線による通信を行う機能を有する。無線通信部210は、携帯機100からの信号を無線で受信する。また、無線通信部210は、携帯機100へ信号を無線で送信する。無線通信部210は、例えば、UWBでの通信が可能な通信インタフェースとして構成される。
【0024】
ここで、各々の無線通信部210は、アンテナ211を有する。そして、各々の無線通信部210は、アンテナ211を介して無線信号を送受信する。
【0025】
記憶部220は、通信ユニット200の動作のための各種情報を記憶する機能を有する。例えば、記憶部220は、通信ユニット200の動作のためのプログラム、及び認証アルゴリズム等を記憶する。記憶部220は、例えば、フラッシュメモリ等の記憶媒体、及び記憶媒体への記録再生を実行する処理装置により構成される。
【0026】
制御部230は、通信ユニット200、及び車両202に搭載された車載機器の動作全般を制御する機能を有する。一例として、制御部230は、無線通信部210を制御して携帯機100との通信を行う。制御部230は、記憶部220からの情報の読み出し及び記憶部220への情報の書き込みを行う。制御部230は、携帯機100との間で行われる認証処理を制御する認証制御部としても機能する。また、制御部230は、車両202のドア錠を制御するドアロック制御部としても機能し、ドア錠のロック及びアンロックを行う。また、制御部230は、車両202のエンジンを制御するエンジン制御部としても機能し、エンジンの始動/停止を行う。なお、車両202に備えられる動力源は、エンジンの他にモータ等であってもよい。制御部230は、例えばECU(Electronic Control Unit)等の電子回路として構成される。
【0027】
<<2.位置パラメータの推定>>
<2.1.位置パラメータ>
本実施形態に係る通信ユニット200(詳しくは、制御部230)は、携帯機100が存在する位置を示す位置パラメータを推定する、位置パラメータ推定処理を行う。以下、
図2~
図4を参照しながら、位置パラメータに関する各種定義について説明する。
【0028】
図2は、本実施形態に係る車両202に設けられる複数のアンテナ211(無線通信部210)の配置の一例を示す図である。
図2に示すように、車両202の天井部分には、4つのアンテナ211(211A-211D)が設けられている。アンテナ211Aは、車両202の前方右側に設けられる。アンテナ211Bは、車両202の前方左側に設けられる。アンテナ211Cは、車両202の後方右側に設けられる。アンテナ211Dは、車両202の後方左側に設けられる。なお、隣接するアンテナ211間の距離は、後述する角度推定用信号の搬送波の波長λの2分の1以下になるように設定される。通信ユニット200を基準とする座標系として、通信ユニット200のローカル座標系が設定される。通信ユニット200のローカル座標系の一例は、4つのアンテナ211の中心を原点とし、車両202の前後方向をX軸とし、車両202の左右方向をY軸とし、車両202の上下方向をZ軸とする座標系である。なお、X軸は、前後方向のアンテナペア(例えば、アンテナ211Aとアンテナ211C、及び211Bとアンテナ211D)を結ぶ軸に平行する。また、Y軸は、左右方向のアンテナペア(例えば、アンテナ211Aとアンテナ211B、及び211Cとアンテナ211D)を結ぶ軸に平行する。
【0029】
なお、4本のアンテナ211の配置形状は、正方形に限らず、平行四辺形、台形、矩形、及びその他の任意の形状を取り得る。もちろん、アンテナ211の数は4本に限定されない。
【0030】
図3は、本実施形態に係る携帯機100の位置パラメータの一例を示す図である。位置パラメータは、携帯機100と通信ユニット200との間の距離Rを含み得る。
図3に示す距離Rは、通信ユニット200のローカル座標系の原点から携帯機100までの距離である。距離Rは、複数の無線通信部210のうちひとつの無線通信部210と携帯機100との間で行われる、後述する測距用信号の送受信結果に基づいて、推定される。距離Rは、後述する測距用信号の送受信を行うひとつの無線通信部210から携帯機100までの距離であってもよい。
【0031】
また、位置パラメータは、
図3に示す、X軸から携帯機100までの角度α、及びY軸から携帯機100までの角度βから成る、通信ユニット200を基準とする携帯機100の角度を含み得る。角度α及びβは、第1の所定の座標系における原点と携帯機100とを結ぶ直線と当該第1の所定の座標系における座標軸とがなす角度である。例えば、第1の所定の座標系は、通信ユニット200のローカル座標系である。角度αは、原点と携帯機100とを結ぶ直線とX軸とがなす角度である。角度βは、原点と携帯機100とを結ぶ直線とY軸とがなす角度である。
【0032】
図4は、本実施形態に係る携帯機100の位置パラメータの一例を示す図である。位置パラメータは、第2の所定の座標系における携帯機100の座標を含み得る。
図4に示す、携帯機100のX軸上の座標x、Y軸上の座標y、及びZ軸上の座標zは、そのような座標の一例である。即ち、第2の所定の座標系は、通信ユニット200のローカル座標系であってもよい。他にも、第2の所定の座標系は、グローバル座標系であってもよい。
【0033】
<2.2.CIR>
(1)CIR算出処理
携帯機100及び通信ユニット200は、位置パラメータ推定処理において、位置パラメータを推定するための通信を行う。その際、携帯機100及び通信ユニット200は、CIR(Channel Impulse Response)を算出する。
【0034】
CIRとは、インパルスをシステムに入力したときの応答である。本実施形態におけるCIRは、携帯機100及び通信ユニット200の一方(以下、送信側とも称する)の無線通信部がパルスを含む信号を第1の信号として送信した場合に、他方(以下、受信側とも称する)の無線通信部により受信された、第1の信号に対応する信号である第2の信号に基づいて算出される。パルスとは、振幅の変化を含む信号である。CIRは、携帯機100と通信ユニット200との間の無線通信路の特性を示すとも言える。以下では、第1の信号を送信信号とも称し、第2の信号を受信信号とも称する。
【0035】
一例として、CIRは、送信信号と受信信号との相関を規定時間ごとにとった結果である、相関演算結果であってもよい。ここでの相関とは、送信信号と受信信号との相関を、各々の時間方向の相対位置をずらしながらとる処理である、スライディング相関であってもよい。相関演算結果は、送信信号と受信信号との相関の高さを示す相関値を、規定時間を間隔とする時刻ごとの要素として含む。規定時間は、例えば、受信側が受信信号をサンプリングする間隔である。そのため、CIRを構成する要素は、サンプリングポイントとも称される。相関値は、IQ成分を有する複素数であってもよい。また、相関値は、複素数の振幅又は位相であってもよい。また、相関値は、複素数のI成分及びQ成分の二乗和(又は振幅の二乗)である、電力であってもよい。
【0036】
CIRは、各時刻における値(以下、CIR値とも称する)を要素とする集合である、とも捉えられる。その場合、CIRは、CIR値の時系列変化である。CIRが相関演算結果である場合、CIR値は、相関値である。
【0037】
なお、携帯機100及び通信ユニット200は、時間カウンタを用いて、時刻を取得する。時間カウンタとは、所定の時間間隔(以下、カウント周期とも称する)で経過時間を示す値(以下、カウント値とも称する)をカウント(典型的には、インクリメント)するカウンタである。時間カウンタによりカウントされたカウント値、カウント周期、及びカウント開始時刻に基づいて、現在時刻が計算される。異なる装置間で、カウント周期及びカウント開始時刻が一致することは、同期しているとも称される。他方、異なる装置間で、カウント周期及びカウント開始時刻の少なくともいずれかが異なることは、同期していない又は非同期であるとも称される。携帯機100と通信ユニット200とは、同期していてもよいし、非同期であってもよい。また、複数の無線通信部210の各々は、互いに同期していてもよいし、非同期であってもよい。CIRを計算する際の上記規定時間は、時間カウンタのカウント周期の整数倍であってもよい。
【0038】
以下、送信側が携帯機100であり、受信側が通信ユニット200である場合のCIR算出処理を、
図5を参照しながら詳しく説明する。
【0039】
図5は、本実施形態に係る通信ユニット200における信号処理の処理ブロックの一例を示す図である。
図5に示すように、通信ユニット200は、発振器212、乗算器213、90度移相器214、乗算器215、LPF(Low Pass Filter)216、LPF217、相関器218、及び積算器219を含む。
【0040】
発振器212は、送信信号を搬送する搬送波の周波数と同一の周波数の信号を生成して、生成した信号を乗算器213及び90度移相器214に出力する。
【0041】
乗算器213は、アンテナ211により受信された受信信号と発振器212から出力された信号とを乗算し、乗算した結果をLPF216に出力する。LPF216は、入力された信号のうち、送信信号を搬送する搬送波の周波数以下の周波数の信号を、相関器218に出力する。相関器218に入力される信号は、受信信号の包絡線に対応する成分のうちI成分(即ち、実部)である。
【0042】
90度移相器214は、入力された信号の位相を90度遅延させて、遅延させた信号を乗算器215に出力する。乗算器215は、アンテナ211により受信された受信信号と90度移相器214から出力された信号とを乗算し、乗算した結果をLPF217に出力する。LPF217は、入力された信号のうち、送信信号を搬送する搬送波の周波数以下の周波数の信号を、相関器218に出力する。相関器218に入力される信号は、受信信号の包絡線に対応する成分のうちQ成分(即ち、虚部)である。
【0043】
相関器218は、LPF216及びLPF217から出力された、I成分及びQ成分から成る受信信号と、参照信号と、のスライディング相関をとることで、CIRを算出する。なお、ここでの参照信号とは、搬送波が乗算される前の送信信号と同一の信号である。
【0044】
積算器219は、相関器218から出力されたCIRを積算して、出力する。
【0045】
ここで、送信側は、プリアンブルを含む信号を、送信信号として送信し得る。プリアンブルとは、送受信間で既知な系列である。プリアンブルは、典型的には送信信号の先頭に配置される。プリアンブルは、ひとつ以上のプリアンブルシンボルを含む。プリアンブルシンボルとは、ひとつ以上のパルスを含むパルス配列である。パルス配列とは、時間方向に分離した複数のパルスの集合である。
【0046】
プリアンブルシンボルは、積算器219による積算の対象である。即ち、相関器218は、受信信号に含まれるひとつ以上のプリアンブルシンボルに対応する部分の各々について、当該プリアンブルシンボルに対応する部分と送信信号に含まれるプリアンブルシンボルとの相関を規定時間ごとにとることで、ひとつ以上のプリアンブルシンボルごとのCIRを算出する。そして、積算器219は、プリアンブルシンボルごとのCIRを、プリアンブルに含まれるひとつ以上のプリアンブルシンボルについて積算することで、積算後のCIRを得る。そして、積算器219は、積算後のCIRを出力する。以下では、特に言及しない限り、CIRとは積算後のCIRであるものとする。
【0047】
(2)CIRの例
積算器219から出力されるCIRの一例を、
図6に示す。
図6は、本実施形態に係るCIRの一例を示すグラフである。
図6に示したCIRは、送信側が送信信号を送信した時刻をカウント開始時刻と仮定したときのCIRである。このようなCIRは、遅延プロファイルとも称される。本グラフの横軸は、遅延時間である。遅延時間とは、送信側が送信信号を送信した時刻からの経過時間である。本グラフの縦軸は、CIR値の絶対値(例えば、振幅又は電力)である。
【0048】
CIRの形状、より詳しくはCIR値の時系列変化の形状は、CIR波形とも称される。典型的には、CIRにおいて、ゼロクロス点とゼロクロス点との間の要素の集合が、ひとつのパルスに対応する。ゼロクロス点とは、値がゼロになる要素である。ただし、ノイズがある環境ではその限りではない。例えば、基準となる水準とCIR値の時系列変化との交点間の要素の集合が、ひとつのパルスに対応すると捉えられてもよい。
図6に示したCIRには、あるパルスに対応する要素の集合21、及び他のパルスに対応する要素の集合22が、含まれている。
【0049】
集合21は、例えば、ファストパスを経由して受信側に到来した信号(例えば、パルス)に対応する。ファストパスとは、送受信間の最も短い経路を指す。ファストパスは、遮蔽物がない環境では送受信間の直線経路を指す。集合22は、例えば、ファストパス以外の経路を通って受信側に到来した信号(例えば、パルス)に対応する。このように、複数の経路を経由して到来する信号を、マルチパス波とも称する。
【0050】
(3)第1到来波の検出
受信側は、送信側から受信した無線信号のうち所定の検出基準を満たす信号を、ファストパスを経由して受信側に到達した信号として検出する。そして、受信側は、検出した信号に基づいて、位置パラメータを推定する。ファストパスを経由して受信側に到達した信号として検出された信号を、以下では第1到来波とも称する。
【0051】
受信側は、受信した無線信号のうち所定の検出基準を満たす信号を、第1到来波として検出する。所定の検出基準の一例は、CIR値(例えば、振幅又は電力)が最初に所定の閾値を超えることである。即ち、受信側は、CIRのうちCIR値が最初に所定の閾値を超えた部分に対応する信号を、第1到来波として検出してもよい。以下では、第1到来波を検出するために使用される所定の閾値を、ファストパス閾値とも称する。
【0052】
受信側が受信する信号は、直接波、遅延波、又は合成波のいずれかであり得る。直接波とは、送受信間の最短経路を経て、受信側に受信される信号である。即ち、直接波とは、ファストパスを経由して受信側に到達した信号である。遅延波とは、送受信間の最短でない経路を経て、即ち、ファストパス以外の経路を経由して受信側に到達した信号である。遅延波は、直接波よりも遅延して受信側に受信される。合成波とは、複数の異なる経路を経た複数の信号が合成された状態で受信側に受信される信号である。
【0053】
ここで注意すべきは、第1到来波として検出された信号が、必ずしも直接波であるとは限らない点である。例えば、直接波が遅延波と打ち消し合った状態で受信されると、直接波に対応する要素のCIR値が所定の閾値を下回り、直接波が第1到来波として検出されない場合がある。その場合、直接波よりも遅延して到来する遅延波又は合成波が、第1到来波として検出されてしまう。
【0054】
-第1到来波の受信時刻
受信側は、所定の検出基準が満たされた時刻を、第1到来波の受信時刻としてもよい。第1到来波の受信時刻の一例は、CIR値が最初にファストパス閾値を超えた要素に対応する時刻、即ちCIR値が最初にファストパス閾値を超えた時刻である。
【0055】
他にも、受信側は、検出した第1到来波のピークの時刻を、第1到来波の受信時刻としてもよい。その場合、第1到来波の受信時刻の一例は、CIRにおける第1到来波に対応する要素の集合のうち、CIR値としての振幅又は電力が最も高い要素に対応する時刻である。
【0056】
以下では、第1到来波の受信時刻は、CIR値が最初にファストパス閾値を超える要素に対応する時刻であるものとする。
【0057】
-第1到来波の位相
受信側は、所定の検出基準が満たされた時刻の位相を、第1到来波の位相としてもよい。第1到来波の位相の一例は、CIR値が最初にファストパス閾値を超える要素の、CIR値としての位相である。
【0058】
他にも、受信側は、検出した第1到来波のピークの位相を、第1到来波の位相としてもよい。その場合、第1到来波の受信時刻の一例は、CIRにおける第1到来波に対応する要素の集合のうち、CIR値としての振幅又は電力が最も高い要素の、CIR値としての位相である。
【0059】
以下では、第1到来波の位相は、CIR値が最初にファストパス閾値を超える要素の、CIR値としての位相であるものとする。
【0060】
-第1到来波の幅について
第1到来波に対応する要素の集合の時間方向の幅を、第1到来波の幅とも称する。一例として、第1到来波の幅は、CIRにおけるゼロクロス点とゼロクロス点との間の時間方向の幅である。他の一例として、第1到来波の幅は、基準となる水準とCIR値の時系列変化との交点間の時間方向の幅である。
【0061】
第1到来波として直接波のみが検出される場合、CIRにおける第1到来波の幅は、理想的な幅となる。第1到来波として直接波のみが検出される場合の理想的な幅は、送信信号の波形、及び受信信号処理方法等から理論計算により算出可能である。他方、第1到来波として合成波が受信される場合、CIRにおける第1到来波の幅は、理想的な幅とは異なり得る。例えば、直接波と同相の遅延波が直接波と合成された合成波が第1到来波として検出される場合、直接波に対応する部分と遅延波に対応する部分とが時間方向にずれた状態で加算され強め合うので、CIRにおける第1到来波の幅は広くなる。他方、直接波と逆相の遅延波が直接波と合成された合成波が第1到来波として検出される場合、直接波と遅延波とが互いに打ち消し合うので、CIRにおける第1到来波の幅は狭くなる。
【0062】
<2.3.位置パラメータの推定>
(1)測距
通信ユニット200は、測距処理を行う。測距処理とは、通信ユニット200と携帯機100との間の距離を推定する処理である。通信ユニット200と携帯機100との間の距離は、例えば
図3に示した距離Rである。測距処理は、測距用信号を送受信すること、及び測距用信号の伝搬遅延時間に基づいて距離Rを計算することを含む。測距用信号とは、携帯機100と通信ユニット200との間で送受信される信号のうち、測距に用いられる信号である。伝搬遅延時間とは、信号が送信されてから受信されるまでにかかる時間である。
【0063】
ここで、通信ユニット200が有する複数の無線通信部210のうち、いずれか1つの無線通信部210が、測距用信号を送受信する。測距用信号を送受信する無線通信部210を、以下ではマスタとも称する。距離Rは、マスタとして機能する無線通信部210(より正確には、アンテナ211)と携帯機100(より正確には、アンテナ111)との間の距離である。また、測距用信号を送受信する無線通信部210以外の無線通信部210を、スレーブとも称する。
【0064】
測距処理においては、通信ユニット200と携帯機100との間で複数の測距用信号が送受信され得る。複数の測距用信号のうち、一方の装置から他方の装置へ送信される測距用信号を第1の測距用信号とも称する。次に、第1の測距用信号を受信した装置から、第1の測距用信号を送信した装置へ、第1の測距用信号の応答として送信される測距用信号を、第2の測距用信号とも称する。次いで、第2の測距用信号を受信した装置から、第2の測距用信号を送信した装置へ、第2の測距用信号の応答として送信される測距用信号を、第3の測距用信号とも称する。
【0065】
以下、
図7を参照しながら、測距処理の流れの一例を説明する。
【0066】
図7は、本実施形態に係るシステム1において実行される測距処理の流れの一例を示すシーケンス図である。本シーケンスには、携帯機100及び通信ユニット200が関与する。本シーケンスでは、無線通信部210Aがマスタとして機能するものとする。
【0067】
図7に示すように、まず、携帯機100は、第1の測距用信号を送信する(ステップS102)。無線通信部210Aにより第1の測距用信号が受信されると、制御部230は、第1の測距用信号のCIRを算出する。その後、制御部230は、算出したCIRに基づいて、無線通信部210Aにおける第1の測距用信号の第1到来波を検出する(ステップS104)。
【0068】
次いで、無線通信部210Aは、第1の測距用信号の応答として第2の測距用信号を送信する(ステップS106)。携帯機100は、第2の測距用信号を受信すると、第2の測距用信号のCIRを算出する。その後、携帯機100は、算出したCIRに基づいて、第2の測距用信号の第1到来波を検出する(ステップS108)。
【0069】
次に、携帯機100は、第2の測距用信号の応答として第3の測距用信号を送信する(ステップS110)。無線通信部210Aにより第3の測距用信号が受信されると、制御部230は、第3の測距用信号のCIRを算出する。その後、制御部230は、算出したCIRに基づいて、無線通信部210Aにおける第3の測距用信号の第1到来波を検出する(ステップS112)。
【0070】
携帯機100は、第1の測距用信号の送信時刻から第2の測距用信号の受信時刻までの時間T1、及び第2の測距用信号の受信時刻から第3の測距用信号の送信時刻までの時間T2を計測する。ここで、第2の測距用信号の受信時刻とは、ステップS108において検出された、第2の測距用信号の第1到来波の受信時刻である。そして、携帯機100は、時間T1及びT2を示す情報を含む信号を送信する(ステップS114)。かかる信号は、例えば無線通信部210Aにより受信される。
【0071】
制御部230は、第1の測距用信号の受信時刻から第2の測距用信号の送信時刻までの時間T3、及び第2の測距用信号の送信時刻から第3の測距用信号の受信時刻までの時間T4を計測する。ここで、第1の測距用信号の受信時刻とは、ステップS104において検出された、第1の測距用信号の第1到来波の受信時刻である。同様に、第3の測距用信号の受信時刻とは、ステップS112において検出された、第3の測距用信号の第1到来波の受信時刻である。
【0072】
そして、制御部230は、時間T1、T2、T3、及びT4に基づいて、距離Rを推定する(ステップS116)。例えば、制御部230は、次式により伝搬遅延時間τmを推定する。
【0073】
【0074】
その後、制御部230は、推定した伝搬遅延時間τmに信号の速度を乗算することで、距離Rを推定する。
【0075】
-推定精度低下の一因
時間T1、T2、T3、及びT4の始期又は終期となる測距用信号の受信時刻は、測距用信号の第1到来波の受信時刻である。上述したように、第1到来波として検出された信号は、必ずしも直接波であるとは限らない。
【0076】
直接波よりも遅延して到来する遅延波又は合成波が第1到来波として検出された場合、直接波が第1到来波として検出される場合と比較して、第1到来波の受信時刻が変動する。その場合、伝搬遅延時間τmの推定結果が真の値(直接波が第1到来波として検出される場合の推定結果)から変動する。そして、変動した分だけ、距離Rの推定精度(以下、測距精度とも称する)は低下する。
【0077】
(2)角度推定
通信ユニット200は、角度推定処理を行う。角度推定処理とは、
図3に示した角度α及びβを推定する処理である。角度取得処理は、角度推定用信号を受信すること、及び角度推定用信号の受信結果に基づいて角度α及びβを計算することを含む。角度推定用信号とは、携帯機100と通信ユニット200との間で送受信される信号のうち、角度推定に用いられる信号である。以下、
図8を参照しながら、角度推定処理の流れの一例を説明する。
【0078】
図8は、本実施形態に係るシステム1において実行される角度推定処理の流れの一例を示すシーケンス図である。本シーケンスには、携帯機100及び通信ユニット200が関与する。
【0079】
図8に示すように、まず、携帯機100は、角度推定用信号を送信する(ステップS202)。次いで、無線通信部210A~210Dの各々により角度推定用信号が受信されると、制御部230は、無線通信部210A~210Dの各々により受信された角度推定用信号のCIRを算出する。その後、制御部230は、無線通信部210A~210Dの各々について、算出したCIRに基づいて角度推定用信号の第1到来波を検出する(ステップS204A~S204D)。次に、制御部230は、無線通信部210A~210Dの各々について、検出した第1到来波の位相を検出する(ステップS206A~S206D)。そして、制御部230は、無線通信部210A~210Dの各々について検出した第1到来波の位相に基づいて、角度α及びβを推定する(ステップS208)。
【0080】
以下、ステップS208における処理の詳細について説明する。無線通信部210Aについて検出された第1到来波の位相をPAとする。無線通信部210Bについて検出された第1到来波の位相をPBとする。無線通信部210Cについて検出された第1到来波の位相をPCとする。無線通信部210Dについて検出された第1到来波の位相をPDとする。この場合、X軸方向のアンテナアレー位相差PdAC及びPdBD、並びにY軸方向のアンテナアレー位相差PdBA及びPdDCは、それぞれ次式で表される。
【0081】
【0082】
角度α及びβは、次式により計算される。ここで、λは角度推定用信号の搬送波の波長であり、dはアンテナ211間の距離である。
【0083】
【0084】
従って、それぞれのアンテナアレー位相差に基づいて計算される角度は、それぞれ次式により表される。
【0085】
【0086】
制御部230は、上記計算された角度αAC、αBD、βDC、及びβBAに基づいて、角度α及びβを計算する。例えば、制御部230は、次式に示すように、X軸及びY軸方向で各2アレーについて計算された角度を平均することで、角度α及びβを計算する。
【0087】
【0088】
-推定精度低下の一因
以上説明したように、角度α及びβは、第1到来波の位相に基づいて計算される。上述したように、第1到来波として検出された信号は、必ずしも直接波であるとは限らない。
【0089】
つまり、第1到来波として、遅延波又は合成波が検出される場合がある。典型的には遅延波及び合成波の位相は直接波の位相と相違するので、相違した分だけ角度推定精度は低下する。
【0090】
-補足
なお、角度推定用信号は、角度推定処理の中で送受信されてもよいし、その他のタイミングで送受信されても良い。例えば、角度推定用信号は、測距処理において送受信されてもよい。具体的には、
図7に示した第3の測距用信号と、
図8に示した角度推定用信号とは、同一であってもよい。この場合、通信ユニット200は、角度推定用信号及び第2の測距用信号を兼ねるひとつの無線信号を受信することで、距離R並びに角度α及びβを計算することができる。
【0091】
(3)座標推定
制御部230は、座標推定処理を行う。座標推定処理とは、
図4に示した携帯機100の三次元座標(x,y,z)を推定する処理である、座標推定処理としては、以下の第1の計算方法及び第2の計算方法が採用され得る。
【0092】
-第1の計算方法
第1の計算方法は、測距処理及び角度推定処理の結果に基づいて、座標x、y、及びzを計算する方法である。その場合、まず、制御部230は、次式により座標x及びyを計算する。
【0093】
【0094】
ここで、距離R、並びに座標x、y及びzには、次式の関係が成り立つ。
【0095】
【0096】
制御部230は、上記関係を利用して、次式により座標zを計算する。
【0097】
【0098】
-第2の計算方法
第2の計算方法は、角度α及びβの推定を省略して、座標x、y、及びzを計算する方法である。まず、上記数式(4)(5)(6)(7)により、次式の関係が成り立つ。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
数式(12)を、cosαに関し整理して数式(9)に代入すると、次式により座標xが得られる。
【0105】
【0106】
数式(13)を、cosβに関し整理して数式(10)に代入すると、次式により座標yが得られる。
【0107】
【0108】
そして、数式(14)及び数式(15)を数式(11)に代入して整理すると、次式により座標zが得られる。
【0109】
【0110】
以上、ローカル座標系における携帯機100の座標の推定処理について説明した。ローカル座標系における携帯機100の座標と、グローバル座標系におけるローカル座標系の原点の座標とを組み合わせることで、グローバル座標系における携帯機100の座標も推定可能である。
【0111】
-推定精度低下の一因
以上説明したように、座標は、伝搬遅延時間及び位相に基づいて計算される。そして、これらは、いずれも第1到来波に基づいて推定される。従って、測距処理、及び角度推定処理と同様の理由で、座標推定精度は低下し得る。
【0112】
(4)存在領域の推定
位置パラメータは、予め定義された複数の領域のうち、携帯機100が存在する領域を含んでいてもよい。一例として、領域が通信ユニット200からの距離により定義される場合、制御部230は、測距処理により推定された距離Rに基づいて、携帯機100が存在する領域を推定する。他の一例として、領域が通信ユニット200からの角度により定義される場合、制御部230、角度推定処理により推定された角度α及びβに基づいて、携帯機100が存在する領域を推定する。他の一例として、領域が三次元座標により定義される場合、制御部230は、座標推定処理により推定された座標(x,y,z)に基づいて、携帯機100が存在する領域を推定する。
【0113】
他にも、車両202に特有の処理として、制御部230は、車両202の車室内及び車室外を含む複数の領域の中から、携帯機100が存在する領域を推定してもよい。これにより、ユーザが車室内にいる場合と車室外にいる場合とで異なるサービスを提供する等、細やかなサービスを提供することが可能となる。他にも、制御部230は、車両202から所定距離以内の領域である周辺領域、及び車両202から所定距離以上の領域である遠方領域の中から、携帯機100が存在する領域を推定してもよい。
【0114】
(5)位置パラメータの推定結果の用途
位置パラメータの推定結果は、例えば携帯機100の認証のために使用され得る。例えば、制御部230は、運転席側であって通信ユニット200からの距離が近い領域に携帯機100が存在する場合に、認証成功を判定し、ドアを解錠する。
【0115】
<<3.技術的課題>>
複数の無線通信部210には、LOS(Line of Sight)状態の無線通信部210とNLOS(Non Line of Sight)状態の無線通信部210とが混在し得る。
【0116】
LOS状態であるとは、携帯機100のアンテナ111と無線通信部210のアンテナ211との間が見通せることを指す。LOS状態であれば、直接波の受信電力が最も高いので、受信側は、直接波を第1到来波として検出することに成功する可能性が高い。
【0117】
NLOS状態であるとは、携帯機100のアンテナ111と無線通信部210のアンテナ211との間が見通せないことを指す。NLOS状態であれば、直接波の受信電力が他と比較して低くなる可能性があるので、受信側は、直接波を第1到来波として検出することに失敗する可能性がある。
【0118】
測距処理において測距用信号を送受信するマスタがNLOS状態である場合、携帯機100から到来する測距用信号のうち直接波の受信電力がノイズと比較して小さくなる。よって、直接波を第1到来波として検出することに成功したとしても、ノイズの影響で第1到来波の受信時刻がずれてしまい得る。その場合、測距精度が低下する。
【0119】
また、測距処理において測距用信号を送受信するマスタがNLOS状態である場合、マスタがLOS状態である場合と比較して直接波の受信電力が低くなり、直接波を第1到来波として検出することに失敗し得る。その場合、測距精度が低下する。
【0120】
そこで、本実施形態では、位置パラメータを推定するために行われる無線通信を繰り返す際に、直接波を第1到来波として検出することに成功する可能性が高い無線通信部210をマスタとして選択する技術を提供する。かかる構成によれば、測距精度を含む、位置パラメータの推定精度を向上させることが可能となる。
【0121】
<<4.技術的特徴>>
<4.1.特定要素の検出>
制御部230は、複数の無線通信部210について得られた複数のCIRの各々において、CIRに含まれる複数の要素のうちひとつ以上の要素である特定要素を、第1の閾値に基づいて検出する。詳しくは、制御部230は、CIR値に含まれる振幅成分が第1の閾値を超えるひとつ以上の要素を特定要素として検出することを、特定要素を第1の閾値に基づいて検出することとして行う。CIR値に含まれる振幅成分とは、振幅そのものであってもよいし、振幅を二乗することで得られる電力であってもよい。
【0122】
制御部230は、ひとつのCIRから、ひとつの特定要素を検出してもよい。その場合、ひとつのCIRから複数の特定要素を検出する場合と比較して、特定要素を検出するための演算負荷を軽減することが可能となる。
【0123】
第1の閾値は、上述したファストパス閾値であってもよい。その場合、特定要素は、第1到来波に対応する要素である。
【0124】
一例として、制御部230は、CIR値としての振幅又は電力が最初にファストパス閾値を超える要素を特定要素として検出してもよい。他の一例として、制御部230は、CIR値としての振幅又は電力が最初にファストパス閾値を超える要素を含む、第1到来波に対応する要素の集合のうち、CIR値がピークをとる要素を、特定要素として検出してもよい。
【0125】
特定要素の時刻は、第1到来波の受信時刻として、測距のために使用される。特定要素に対応する時刻を、以下では特定受信時刻とも称する場合がある。また、特定要素の位相は、第1到来波の位相として、角度推定のために使用される。よって、直接波に対応する特定要素を検出することができれば、位置パラメータの推定精度を向上させることができる。
【0126】
<4.2.信頼性パラメータ>
制御部230は、信頼性パラメータを計算する。信頼性パラメータは、検出された第1到来波(即ち、特定要素)が、処理対象として適切であるかを示す指標である。より詳しくは、信頼性パラメータは、検出された特定要素を位置パラメータ推定に使用することが適切であるかを示す指標である。複数の無線通信部210の各々について検出された複数の特定要素に関して言えば、信頼性パラメータは、検出した複数の特定要素の各々が処理対象として適切であるかを示す指標である。
【0127】
特定要素が処理対象として適切であるとは、特定要素が直接波に対応することを指す。他方、特定要素が処理対象として適切でないとは、特定要素が直接波に対応しないことを指す。つまり、信頼性パラメータは、検出された特定要素が直接波に対応することの妥当性を示す指標である、とも捉えられる。検出された特定要素が遅延波又は合成波に対応する場合、即ち、遅延波又は合成波が第1到来波として検出された場合、上述したように位置パラメータの推定精度は低下する。よって、信頼性パラメータに基づいて、位置パラメータの推定精度を評価することができる。
【0128】
信頼性パラメータは、例えば、連続値又は離散値である。信頼性パラメータは、値が高いほど特定要素が処理対象として適切であることを示し得る。同様に、信頼性パラメータは、値が低いほど特定要素が処理対象として不適切であることを示し得る。もちろん、その逆であってもよい。以下では、特定要素が処理対象として適切である度合を信頼性とも称する。そして、特定要素が処理対象として適切であることを信頼性が高いとも称し、特定要素が処理対象として不適切であることを信頼性が低いとも称する。
【0129】
制御部230は、位置パラメータ推定処理において携帯機100から送信された送信信号と、当該送信信号を複数の無線通信部210の各々が受信した受信信号と、に基づいて、特定要素を検出し、信頼性パラメータを計算する。かかる送信信号は、測距用信号であってもよいし、角度推定用信号であってもよい。一例として、かかる送信信号は、
図7に示した第3の測距用信号であって、角度推定用信号を兼ねる信号であってもよい。
【0130】
以下、信頼性パラメータの一例を説明する。
【0131】
-第1の信頼性パラメータ
信頼性パラメータは、CIRにおいてCIR値が最初にファストパス閾値を超える要素に対応する時刻と、CIRにおいてCIR値が最大となる要素に対応する時刻と、の差である、第1の信頼性パラメータを含み得る。
【0132】
CIRにおいてCIR値が最初にファストパス閾値を超える要素に対応する時刻を、以下ではファストパス判定位置とも称する。例えば、ファストパス判定位置とは、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力がファストパス閾値を最初に超えた要素に対応する時刻である。なお、ファストパス判定位置は、上述した第1到来波の受信時刻と同義である。
【0133】
CIRにおいてCIR値が最大となる要素に対応する時刻を、以下ではピークパス位置とも称する。例えば、ピークパス位置とは、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力が最大になる要素に対応する時刻である。
【0134】
以下、
図9及び
図10を参照しながら、LOS状態及びNLOS状態におけるファストパス判定位置及びピークパス位置について説明する。
【0135】
図9は、LOS状態の無線通信部210におけるCIRの一例を示すグラフである。
図10は、NLOS状態の無線通信部210におけるCIRの一例を示すグラフである。グラフの横軸は遅延時間である。縦軸はCIR値の絶対値(例えば、電力)である。
図9及び
図10に示したCIRには、直接波に対応する要素の集合21、及び遅延波に対応する要素の集合22が、含まれている。
【0136】
図9に示した例においては、集合21においてCIR値が最初にファストパス閾値TH
FPを超えるファストパス判定位置T
FPが現れる。つまり、集合21は、第1到来波に対応する。また、ピークパス位置T
PPは集合21において現れている。
【0137】
図10に示した例においては、集合21においてCIR値が最初にファストパス閾値TH
FPを超えるファストパス判定位置T
FPが現れる。つまり、集合21は、第1到来波に対応する。また、ピークパス位置T
PPは集合22において現れている。
【0138】
図9に示すように、LOS状態であれば、直接波に対応する集合21において、CIR全体のピークが現れる。他方、
図10に示すように、NLOS状態であれば、遅延波に対応する集合22において、CIR全体のピークが現れ得る。NLOS状態であれば、ファストパスの途中に遮蔽物が存在するためである。とりわけ、ファストパスの途中に人体がある場合、直接波は人体を透過する際に大きく減衰する。従って、
図9に示すLOS状態におけるファストパス判定位置T
FPとピークパス位置T
PPとの差Ptは、
図10に示すNLOS状態におけるファストパス判定位置T
FPとピークパス位置T
PPとの差Ptと比較して、小さくなる。そこで、制御部230は、差Ptが小さいほど、信頼性が高いと判定する。他方、制御部230は、差Ptが大きいほど、信頼性が低いと判定する。このように、差Ptの観点で、信頼性を評価することが可能となる。
【0139】
そこで、制御部230は、複数の無線通信部210の各々について計算された信頼性パラメータのうち、差Ptが第2の閾値よりも小さい又は差Ptが最も小さいことを示す信頼性パラメータを、最適パラメータとしてもよい。つまり、制御部230は、差Ptが第2の閾値よりも小さい無線通信部210、又は差Ptが複数の無線通信部210のうち最も小さい無線通信部210を、マスタとして選択してもよい。なお、第2の閾値の一例は、後述する閾値THXLである。かかる構成により、LOS状態である可能性が最も高い無線通信部210をマスタとして選択することが可能となる。従って、NLOS状態である無線通信部210をマスタとして選択する場合と比較して、測距精度を向上させることが可能となる。
【0140】
一例として、制御部230は、差Ptに基づいて、NLOS率RNLOSを計算してもよい。そして、NLOS率RNLOSに基づいて、マスタを選択してもよい。NLOS率RNLOSとは、無線通信部210がNLOS状態である確率を示すパラメータである。NLOS率RNLOSは、0~1までの値をとる。一例として、NLOS率RNLOSが1に近いほど、無線通信部210がNLOS状態であることを示す。他方、NLOS率RNLOSが0に近いほど、無線通信部210がLOS状態であることを示す。その場合、制御部230は、NLOS率RNLOSが最も低い無線通信部210を、マスタとして選択する。これにより、LOS状態である確率が最も高い無線通信部210を、マスタとして選択することが可能となる。
【0141】
以下、NLOS率RNLOSの計算方法の一例を説明する。例えば、制御部230は、2つの閾値THXL、及びTHXHを使用して、NLOS率RNLOSを計算してもよい。なお、THXL<THXHが成り立つものとする。
【0142】
制御部230は、差Pt≦閾値TH
XLである場合、NLOS率R
NLOSは0であると判定する。
図9に示すように、LOS状態であれば、ファストパス判定位置T
FPとピークパス位置T
PPの双方が直接波に対応する集合21に現れるためである。閾値TH
XLは、例えば、ファストパス判定位置T
FPとピークパス位置T
PPの双方が直接波に対応する集合21に現れる場合に、差Pt≦閾値TH
XLが満たされる任意の値として設定される。
【0143】
ここで、第1到来波として直接波のみが受信される場合を想定する。CIRにおいて第1到来波に対応する要素の集合のうち、どの要素のCIR値がファストパス閾値を超えるかは不明である。仮に、CIRにおいて第1到来波に対応する要素の集合のうち、時間方向の位置が最も早い要素のCIRがファストパス閾値を超えたとしても、差Ptは、第1到来波の幅の2分の1となる。上述したように、第1到来波として直接波のみが受信される場合、CIRにおける第1到来波の幅は、理想的な幅となる。よって、閾値TXXL≦第1到来波として直接波のみが検出される場合の理想的な幅の2分の1が成り立つことが、閾値THXLに関する条件の一例として挙げられる。
【0144】
制御部230は、差Pt≧閾値TH
XHである場合、NLOS率R
NLOSは1であると判定する。
図10に示すように、NLOS状態であれば、ファストパス判定位置T
FPが直接波に対応する集合21に現れる一方で、ピークパス位置T
PPが遅延波に対応する集合22に現れ得るためである。閾値TH
XHは、例えば、ファストパス判定位置T
FPとピークパス位置T
PPとが異なる集合に現れる場合に、差Pt≧閾値TH
XHが満たされる任意の値として設定される。
【0145】
制御部230は、閾値THXL<差Pt<閾値THXHが成り立つ場合、差Ptが小さいほどNLOS率RNLOSを小さく計算する。一例として、制御部230は、次式によりNLOS率RNLOSを計算してもよい。
【0146】
【0147】
-第2の信頼性パラメータ
信頼性パラメータは、CIRにおいてCIR値が最初にファストパス閾値を超える要素に対応する振幅又は電力と、CIRにおいてCIR値が最大となる要素に対応する振幅又は電力と、の比較結果である、第2の信頼性パラメータを含み得る。
【0148】
CIRにおいてCIR値が最初にファストパス閾値を超える要素に対応する振幅を、以下ではファストパス振幅とも称する。一例として、ファストパス振幅とは、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力がファストパス閾値を最初に超えた要素の振幅であってもよい。他の一例として、ファストパス振幅は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力がファストパス閾値を最初に超えた要素のひとつ以上後ろの要素の振幅であってもよい。例えば、ファストパス振幅は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力がファストパス閾値を最初に超えた要素よりも後に、最初にCIR値としての振幅又は電力がピークをとる要素の振幅であってもよい。他の一例として、ファストパス振幅は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力がファストパス閾値を最初に超えた第1の要素からひとつ以上後ろの第2の要素までのCIR面積であってもよい。なお、ここでのCIR面積とは、第1の要素から第2の要素までの、CIR値としての振幅の積分である。
【0149】
CIRにおいてCIR値が最初にファストパス閾値を超える要素に対応する電力を、以下ではファストパス電力とも称する。一例として、ファストパス電力は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力がファストパス閾値を最初に超えた要素の電力であってもよい。他の一例として、ファストパス電力は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力がファストパス閾値を最初に超えた要素のひとつ以上後ろの要素の電力であってもよい。例えば、ファストパス電力は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力がファストパス閾値を最初に超えた要素よりも後に、最初にCIR値としての振幅又は電力がピークをとる要素の電力であってもよい。他の一例として、ファストパス電力は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力がファストパス閾値を最初に超えた第1の要素からひとつ以上後ろの第2の要素までのCIR面積であってもよい。なお、ここでのCIR面積とは、第1の要素から第2の要素までの、CIR値としての電力の積分である。
【0150】
CIRにおいてCIR値が最大となる要素に対応する振幅を、以下ではピークパス振幅とも称する。一例として、ピークパス振幅とは、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力が最大となる要素の振幅であってもよい。他の一例として、ピークパス振幅は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力が最大となる要素のひとつ以上後ろの要素の振幅であってもよい。他の一例として、ピークパス振幅は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力が最大となる要素と時間方向に連続する複数の要素に係るCIR面積であってもよい。ここでのCIR面積とは、当該複数の要素の先頭の要素である第3の要素から後端の要素である第4の要素までの、CIR値としての振幅の積分である。第3の要素は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力が最大となる要素、又は当該要素からひとつ以上前の要素である。第4の要素は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力が最大となる要素、又は当該要素からひとつ以上後ろの要素である。例えば、CIR面積は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力が最大となる要素、及び当該要素の前後X個の要素から成る、2X+1個の要素に係るCIR面積であってもよい。
【0151】
CIRにおいてCIR値が最大となる要素に対応する電力を、以下ではピークパス電力とも称する。一例として、ピークパス電力とは、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力が最大となる要素の電力であってもよい。他の一例として、ピークパス電力は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力が最大となる要素のひとつ以上後ろの要素の電力であってもよい。他の一例として、ピークパス電力は、CIRにおいてCIR値としての振幅又は電力が最大となる要素と時間方向に連続する複数の要素に係るCIR面積であってもよい。ここでのCIR面積とは、当該複数の要素の先頭の要素である第3の要素から後端の要素である第4の要素までの、CIR値としての電力の積分である。
【0152】
以下、
図11及び
図12を参照しながら、LOS状態及びNLOS状態におけるファストパス電力及びピークパス電力について説明する。
図11は、LOS状態の無線通信部210におけるCIRの一例を示すグラフである。
図12は、NLOS状態の無線通信部210におけるCIRの一例を示すグラフである。グラフの横軸は遅延時間である。縦軸はCIR値の絶対値(例えば、電力)である。
図11及び
図12に示したCIRには、直接波に対応する要素の集合21、及び遅延波に対応する要素の集合22が、含まれている。
【0153】
図11に示した例においては、集合21においてCIR値が最初にファストパス閾値TH
FPを超える要素が現れる。つまり、集合21は、第1到来波に対応する。
図11に示すように、LOS状態であれば、直接波に対応する集合21において、CIR全体のピークが現れる。そのため、LOS状態である場合、ファストパス電力P
FPとピークパス電力P
PPとは、典型的には同一となる。なお、ファストパス電力P
FPとピークパス電力P
PPの各々の計算方法が異なる場合、ファストパス電力P
FPとピークパス電力P
PPとは、略同一となる。
【0154】
図12に示した例においては、集合21においてCIR値が最初にファストパス閾値TH
FPを超える要素が現れる。つまり、集合21は、第1到来波に対応する。
図12に示すように、NLOS状態であれば、遅延波に対応する集合22において、CIR全体のピークが現れ得る。NLOS状態であれば、ファストパスの途中に遮蔽物が存在するためである。とりわけ、ファストパスの途中に人体がある場合、直接波は人体を透過する際に大きく減衰する。そのため、NLOS状態である場合、ファストパス電力P
FPは、ピークパス電力P
PPよりも著しく小さくなる場合がある。
【0155】
以上から、制御部230は、ファストパス電力がピークパス電力に近いほど、信頼性が高いと判定する。他方、制御部230は、ファストパス電力がピークパス電力から遠いほど、信頼性が低いと判定する。このように、ファストパス電力P
FPとピークパス電力P
PPとの相対関係の観点で、信頼性を評価することが可能となる。なお、
図11及び
図12ではファストパス電力及びピークパス電力について説明したが、ファストパス振幅及びピークパス振幅についても同様のことが成り立つ。
【0156】
そこで、制御部230は、複数の無線通信部210の各々について計算された信頼性パラメータのうち、CIRにおいてCIR値が最初にファストパス閾値を超える要素に対応する振幅又は電力が、CIRにおいてCIR値が最大となる要素に対応する振幅又は電力に最も近いことを示す信頼性パラメータを、最適パラメータとする。一例として、制御部230は、複数の無線通信部210のうち、ファストパス振幅がピークパス振幅に最も近い無線通信部210を、マスタとして選択する。他の一例として、制御部230は、複数の無線通信部210のうち、ファストパス電力がピークパス電力に最も近い無線通信部210を、マスタとして選択する。
【0157】
具体的には、制御部230は、第2の信頼性パラメータとして、振幅比率及び電力比率の少なくともいずれかを計算してもよい。振幅比率とは、ファストパス振幅とピークパス振幅との比較結果を示すパラメータである。電力比率とは、ファストパス電力とピークパス電力との比較結果を示すパラメータである。
【0158】
以下、振幅比率及び電力比率の計算方法の一例を説明する。例えば、振幅比率及び電力比率は、以下の計算式により計算されてもよい。
振幅比率=ファストパス振幅/ピークパス振幅
振幅比率=ファストパス振幅-ピークパス振幅
電力比率=ファストパス電力/ピークパス電力
電力比率=ファストパス電力-ピークパス電力
【0159】
制御部230は、複数の無線通信部210のうち、振幅比率が最も高い、即ちファストパス振幅がピークパス振幅に最も近い無線通信部210を、マスタとして選択してもよい。若しくは、制御部230は、複数の無線通信部210のうち、電力比率が最も高い、即ちファストパス電力がピークパス電力に最も近い無線通信部210を、マスタとして選択してもよい。かかる構成により、LOS状態である確率が最も高い無線通信部210を、マスタとして選択することが可能となる。従って、NLOS状態である無線通信部210をマスタとして選択する場合と比較して、測距精度を向上させることが可能となる。
【0160】
-第3の信頼性パラメータ
信頼性パラメータは、CIRにおいてCIR値が最初にファストパス閾値を超える要素に対応する時刻である、第3の信頼性パラメータを含み得る。即ち、信頼性パラメータは、ファストパス判定位置を含んでいてもよい。
【0161】
以下、
図13を参照しながら、複数の無線通信部210におけるファストパス判定位置について説明する。
図13は、複数の無線通信部210におけるCIRの一例を示すグラフである。
図13に示すCIR20Aは、LOS状態である無線通信部210AにおけるCIRの一例を示すグラフである。
図13に示すCIR20Bは、NLOS状態である無線通信部210BにおけるCIRの一例を示すグラフである。各グラフの横軸は遅延時間である。CIR20Aの時間軸とCIR20Bの時間軸とは、同期しているものとする。縦軸はCIR値の絶対値(例えば、電力)である。
【0162】
CIR20Aには、直接波に対応する要素の集合21A、及び遅延波に対応する要素の集合22Aが、含まれている。CIR20Aにおいては、集合21AにおいてCIR値が最初にファストパス閾値THFPを超えるファストパス判定位置TFP-Aが現れる。つまり、CIR20Aにおいては、集合21Aが、第1到来波に対応する。
【0163】
CIR20Bには、直接波に対応する要素の集合21B、及び遅延波に対応する要素の集合22Bが、含まれている。CIR20Bにおいては、集合22BにおいてCIR値が最初にファストパス閾値THFPを超えるファストパス判定位置TFP-Bが現れる。つまり、CIR20Bにおいては、集合22Bが、第1到来波に対応する。
【0164】
図13に示すように、LOS状態である無線通信部210Aでは、直接波に対応する集合21Aに、ファストパス判定位置T
FP-Aが現れる。一方で、NLOS状態である無線通信部210Bでは、直接波に対応する集合21Bでなく、遅延波に対応する集合22Bにおいて、ファストパス判定位置T
FP-Bが現れ得る。つまり、ファストパス判定位置が早いことは、直接波を第1到来波として検出することに成功した可能性が高いことを示すと言える。他方、ファストパス判定位置が遅いことは、直接波を第1到来波として検出することに失敗した可能性が高いことを示すと言える。そこで、制御部230は、ファストパス判定位置が早いほど、信頼性が高いと判定する。他方、制御部230は、ファストパス判定位置が遅いほど、信頼性が低いと判定する。このように、ファストパス判定位置の観点で、信頼性を評価することが可能となる。
【0165】
そこで、制御部230は、複数の無線通信部210の各々について計算された信頼性パラメータのうち、ファストパス判定位置が最も早いことを示す信頼性パラメータを、最適パラメータとする。つまり、制御部230は、複数の無線通信部210のうち、ファストパス判定位置が最も早い無線通信部210を、マスタとして選択する。かかる構成により、直接波を第1到来波として検出することに成功した可能性が最も高い無線通信部210を、マスタとして選択することが可能となる。従って、直接波以外を第1到来波として検出してした無線通信部210をマスタとして選択した場合と比較して、測距精度を向上させることが可能となる。
【0166】
制御部230は、測距処理を繰り返し行う場合、前回の測距処理におけるマスタのファストパス判定位置とスレーブのファストパス判定位置との差に基づいて、マスタの再選択を実行するか否かを制御してもよい。例えば、制御部230は、マスタのファストパス判定位置と、複数の無線通信部210のうち最も早いファストパス判定位置との差Tdifを、次式により計算する。
【0167】
【0168】
ここで、TFP-mは、マスタにおけるファストパス判定位置である。TFP-s1、TFP-s2、及びTFP-s3は、各スレーブにおけるファストパス判定位置である。
【0169】
そして、制御部230は、Tdifが所定の閾値を超える場合に、マスタの再選択を実行してもよい。Tdifが所定の閾値を超えることは、マスタのファストパス判定位置が、複数の無線通信部210のうち最も早いファストパス判定位置よりも、所定の閾値以上も遅れていることを示している。このことは、マスタでは直接波を第1到来波として検出することに失敗した可能性が高い一方で、スレーブでは直接波を第1到来波として検出することに成功した可能性が高いことを示していると言える。従って、複数の無線通信部210のうち最もファストパス判定位置が早いスレーブをマスタとして選択し直すことで、測距精度を向上させることが可能となる。なお、所定の閾値の一例は、第1到来波として直接波のみが検出される場合の理想的な幅の2分の1である。
【0170】
-第4の信頼性パラメータ
信頼性パラメータは、無線通信部210のペアにおけるCIR波形の相関に基づいて導出される、第4の信頼性パラメータを含み得る。
【0171】
以下、
図14を参照しながら、複数の無線通信部210におけるCIR波形について説明する。
図14は、複数の無線通信部210におけるCIRの一例を示すグラフである。
図14に示すCIR20Aは、無線通信部210AにおけるCIRの一例を示すグラフである。
図14に示すCIR20Bは、無線通信部210BにおけるCIRの一例を示すグラフである。各グラフの横軸は遅延時間である。無線通信部210Aと無線通信部210Bとは、同期しているものとする。つまり、CIR20Aの時間軸とCIR20Bの時間軸とは、同期しているものとする。縦軸はCIR値の絶対値(例えば、振幅又は電力)である。
【0172】
CIR20Aには、直接波と、直接波と位相が異なる遅延波とが合成された状態で受信された、合成波に対応する要素の集合23Aが、含まれている。位相が異なる2つの波が合成されているため、集合23AのCIR波形には2つのピークが現れている。CIR20Aにおいては、集合23AにおいてCIR値が最初にファストパス閾値THFPを超える要素が現れる。つまり、CIR20Aにおいては、集合23Aが、第1到来波に対応する。
【0173】
一方で、CIR20Bには、直接波と、直接波と同位相である遅延波とが合成された状態で受信された、合成波に対応する要素の集合23Bが、含まれている。同位相である2つの波が合成されているため、集合23BのCIR波形には1つの大きなピークが現れている。CIR20Bにおいては、集合23BにおいてCIR値が最初にファストパス閾値THFPを超える要素が現れる。つまり、CIR20Bにおいては、集合23Bが、第1到来波に対応する。
【0174】
複数の無線通信部210において、直接波と遅延波とが合成された状態で受信される場合、無線通信部210間の距離が近距離であっても、直接波と遅延波との位相の関係は無線通信部210間で異なり得る。その結果、CIR20AとCIR20Bに示したように、CIR波形は異なるものとなる。つまり、無線通信部210のペアにおいてCIR波形が異なることは、無線通信部210のペアのうち少なくとも一方の無線通信部210において、合成波が受信されていることを意味する。この合成波が第1到来波として検出される場合、角度推定処理に関し上記説明したように、角度推定精度は低下する。さらに、この合成波が第1到来波として検出される場合、測距処理に関し上記説明したように、測距精度は低下する。
【0175】
そこで、第4の信頼性パラメータは、複数の無線通信部210のうち第1の無線通信部210により受信された受信信号に基づいて得られたCIRと、複数の無線通信部210のうち第1の無線通信部210と異なる第2の無線通信部210により受信された受信信号に基づいて得られたCIRと、の間の相関係数であってもよい。即ち、第4の信頼性パラメータは、第1の無線通信部210について計算されたCIR全体の波形と、第2の無線通信部210について計算されたCIR全体の波形と、の間の相関係数であってもよい。そして、制御部230は、相関係数が高いほど、信頼性が高いと判定する。他方、制御部230は、相関係数が低いほど、信頼性が低いと判定する。かかる構成により、CIR波形の相関の観点から、信頼性を評価することが可能となる。
【0176】
ここで、角度推定処理には、第1到来波の位相が使用される。そのため、第1到来波付近のCIR波形の相関に基づいて信頼性パラメータが導出されてもよい。
【0177】
そこで、第4の信頼性パラメータは、複数の無線通信部210のうち第1の無線通信部210により受信された受信信号に基づいて得られたCIRのうちCIR値が最初にファストパス閾値を超える要素を含む一部分におけるCIR値の時系列変化と、複数の無線通信部210のうち第1の無線通信部210と異なる第2の無線通信部210により受信された受信信号に基づいて得られたCIRのうちCIR値が最初にファストパス閾値を超える要素を含む一部分におけるCIR値の時系列変化と、の間の相関係数であってもよい。ここでの一部分とは、CIR値が最初にファストパス閾値を超える要素、及び時間軸方向で当該要素の前及び/又は後ろに存在する1以上の要素を含む集合である。即ち、第4の信頼性パラメータは、第1の無線通信部210について計算されたCIRのうちファストパス判定位置付近の波形と、第2の無線通信部210について計算されたCIRのうちファストパス判定位置付近の波形と、の間の相関係数であってもよい。そして、制御部230は、相関係数が高いほど、信頼性が高いと判定する。他方、制御部230は、相関係数が低いほど、信頼性が低いと判定する。かかる構成により、第1到来波付近のCIR波形の相関の観点から、信頼性を評価することが可能となる。また、かかる構成により、CIR全体の波形の相関をとる場合と比較して、計算量を削減することが可能となる。
【0178】
制御部230は、複数の無線通信部210のペアについて計算された相関係数のうち、最も高い相関係数を、最適パラメータとする。具体的には、制御部230は、複数の無線通信部210のペアについて計算された相関係数のうち、最も高い相関係数が計算されたペアに含まれる2つの無線通信部210のうち一方を、マスタとして選択する。かかる構成により、合成波を第1到来波として検出していない可能性が最も高い、即ち、直接波を第1到来波として検出することに成功した可能性が最も高い無線通信部210を、マスタとして選択することが可能となる。これにより、合成波を第1到来波として検出した場合と比較して、測距精度を向上させることが可能となる。
【0179】
なお、相関係数は、例えばピアソンの相関係数であってもよい。
【0180】
CIRは、CIR値としての振幅又は電力を、各時刻における要素として含み得る。その場合、制御部230は、2つのCIRの各々に含まれる対応する時刻における振幅又は電力同士の相関をとることで、相関係数を計算する。なお、対応する時刻とは、2つのCIRの時間軸が同期している環境下では、同一の時刻を指す。
【0181】
CIRは、CIR値としての複素数を各時刻における要素として含み得る。その場合、制御部230は、2つのCIRの各々に含まれる対応する時刻における複素数同士の相関をとることで、相関係数を計算する。複素数は、振幅成分の他に位相成分を含むので、振幅又は電力に基づいて相関係数を計算する場合と比較して、より正確に相関係数を計算することが可能となる。
【0182】
-第5の信頼性パラメータ
第5の信頼性パラメータは、第1到来波そのものが検出される対象として適切であるかを示す指標である。換言すると、第5の信頼性パラメータは、特定要素そのものが検出される対象として適切であるかを示す指標である。第1到来波が検出される対象として適切であるほど信頼性は高く、第1到来波が検出される対象として不適切であるほど信頼性は低い。
【0183】
具体的には、第5の信頼性パラメータは、ノイズの大きさを示す指標であってもよい。その場合、第5の信頼性パラメータは、第1到来波の電力及びSNR(signal-noise ratio)の少なくともいずれかに基づいて計算される。電力が高い場合ノイズの影響が小さいので、第1到来波は検出される対象として適切であることを示す第5の信頼性パラメータが計算さる。一方で、電力が低い場合ノイズの影響が大きいので、第1到来波は検出される対象として不適切であることを示す第5の信頼性パラメータが計算される。SNRが高い場合ノイズの影響が小さいので、第1到来波は検出される対象として適切であることを示す第5の信頼性パラメータが計算される。一方で、SNRが低い場合ノイズの影響が大きいので、第1到来波は検出される対象として不適切であることを示す第5の信頼性パラメータが計算される。
【0184】
第5の信頼性パラメータにより、第1到来波そのものが検出される対象として適切であるかに基づいて信頼性を評価することが可能となる。
【0185】
-第6の信頼性パラメータ
第6の信頼性パラメータは、第1到来波が合成波によるものではないことの妥当性を示す指標である。換言すると、第6の信頼性パラメータは、特定要素が合成波に対応しないことの妥当性を示す指標である。第1到来波が合成波によるものではないことの妥当性が高いほど信頼性は高く、第1到来波が合成波によるものではないことの妥当性が低いほど信頼性は低い。
【0186】
具体的には、第6の信頼性パラメータは、第1到来波の時間方向の幅、及び第1到来波における位相の状態の、少なくともいずれかに基づいて計算される。
【0187】
まず、
図15を参照しながら、第1到来波の時間方向の幅に基づいて第6の信頼性パラメータが計算される点について説明する。ここで、第1到来波の時間方向の幅とは、CIRにおける、第1到来波に対応する要素の集合の時間方向の幅であってもよい。
【0188】
図15は、本実施形態に係る信頼性パラメータの一例を説明するための図である。
図15の上段に示すように、直接波が単独で受信される場合、CIRのうち直接波に対応する要素の集合21の幅Wは、第1到来波として直接波のみが検出される場合の理想的な幅となる。ここでの幅Wとは、ひとつのパルスに対応する要素の集合の時間方向の幅である。一例として、幅Wは、ゼロクロス点とゼロクロス点との間の幅である。他の一例として、幅Wは、基準となる水準とCIR値の推移との交点間の幅である。他方、マルチパスの影響で、それぞれ異なる経路を経由して到来した複数のパルスが合成された状態で無線通信部210に受信されると、CIRのうち合成波に対応する要素の集合の幅Wは、第1到来波として直接波のみが検出される場合の理想的な幅と異なり得る。例えば、
図15の下段に示すように、直接波と同相の遅延波が直接波と合成された状態で受信されると、直接波に対応する要素の集合21と遅延波に対応する要素の集合22とが時間方向にずれた状態で加算されるので、CIRのうち合成波に対応する要素の集合23の幅Wは広くなる。他方、直接波と逆相の遅延波が直接波と合成された状態で受信されると、直接波と遅延波とが互いに打ち消し合うので、CIRのうち合成波に対応する要素の集合の幅Wは狭くなる。
【0189】
以上から、第1到来波の幅と第1到来波として直接波のみが検出される場合の理想的な幅との差分が小さいほど第1到来波が合成波によるものではないことの妥当性が高いことを示す第6の信頼性パラメータが計算される。一方で、第1到来波の幅と第1到来波として直接波のみが検出される場合の理想的な幅との差分が大きいほど第1到来波が合成波によるものではないことの妥当性が低いことを示す第6の信頼性パラメータが計算される。
【0190】
次いで、
図16を参照しながら、第1到来波における位相の状態に基づいて第6の信頼性パラメータが計算される点について説明する。ここでの、第1到来波における位相の状態とは、受信した無線信号のうち、第1到来波に対応する要素間で位相が相違する度合いであってもよい。他にも、第1到来波における位相の状態とは、CIRのうち、第1到来波に対応する要素間で位相が相違する度合いであってもよい。
【0191】
図16は、本実施形態に係る信頼性パラメータの一例を説明するための図である。
図16の上段に示すように、直接波が単独で受信される場合、CIRのうち直接波に対応する要素の集合21に属する複数の要素の各々の位相θは同一又は略同一となる(即ち、θ1≒θ2≒θ3)。なお、位相とは、CIRにおけるIQ成分がIQ平面上でI軸となす角のことである。これは、各要素で、直接波が経由した経路の距離が同一なためである。他方、
図16の下段に示すように、合成波が受信される場合、CIRのうち合成波に対応する要素の集合23に属する複数の要素の各々の位相θは異なる(即ち、θ1≠θ2≠θ3)。これは、送受信間の距離が異なるパルス、即ち位相の異なるパルスが合成されるためである。以上から、第1到来波に対応する要素間の位相の相違が小さいほど第1到来波が合成波によるものではないことの妥当性が高いことを示す第6の信頼性パラメータが計算される。一方で、第1到来波に対応する要素間の位相の相違が大きいほど、第1到来波が合成波によるものではないことの妥当性が低いことを示す第6の信頼性パラメータが計算される。
【0192】
第6の信頼性パラメータにより、第1到来波が合成波によるものではないことの妥当性に基づいて信頼性を評価することが可能となる。
【0193】
-第7の信頼性パラメータ
信頼性パラメータは、CIRにおいて特定要素よりも後に1番目にCIR値がピークをとる第1の要素に対応する時刻と、特定要素よりも後に2番目にCIR値がピークをとる第2の要素に対応する時刻と、の差である、第7の信頼性パラメータを含んでいてもよい。第7の信頼性パラメータについて、
図17及び
図18を参照しながら詳しく説明する
【0194】
図17及び
図18は、CIRの一例を示すグラフである。グラフの横軸は遅延時間である。縦軸はCIR値の絶対値(例えば、電力又は振幅)である。
【0195】
図17に示したCIRには、直接波に対応する要素の集合21、及び遅延波に対応する要素の集合22が、含まれている。集合21には、CIR値がファストパス閾値TH
FPを最初に超える要素である特定要素SP
FPが含まれる。つまり、集合21は、第1到来波に対応する。特定要素SP
FPよりも後に1番目にCIR値がピークをとる第1の要素SP
P1は、集合21に含まれる。他方、特定要素SP
FPよりも後に2番目にCIR値がピークをとる第2の要素SP
P2は、集合22に含まれる。
【0196】
図18に示したCIRには、直接波と、直接波と位相が異なる遅延波とが合成された状態で受信された、合成波に対応する要素の集合23が、含まれている。位相が異なる2つの波が合成されているため、集合23のCIR波形には2つのピークが現れている。位相が異なる2つの波が合成されているため、集合23のCIR波形には2つのピークが現れている。集合23には、CIR値がファストパス閾値TH
FPを最初に超える要素である特定要素SP
FPが含まれる。つまり、集合23は、第1到来波に対応する。特定要素SP
FPよりも後に1番目にCIR値がピークをとる第1の要素SP
P1は、集合23に含まれる。特定要素SP
FPよりも後に2番目にCIR値がピークをとる第2の要素SP
P2は、集合23に含まれる。
【0197】
直接波が第1到来波として検出される場合、
図17に示すように第1到来波のCIR波形はひとつのピークを有する波形になる。他方、合成波が第1到来波として検出される場合、
図18に示すように第1到来波のCIR波形は複数のピークを有する波形になり得る。そして、第1到来波のCIR波形がひとつのピークを有するか複数のピークを有するかは、第1の要素SP
P1に対応する時刻T
P1と第2の要素SP
P2に対応する時刻T
P2との差T
P1-P2により判定することができる。第1到来波のCIR波形がひとつのピークを有する場合には差T
P1-P2が大きくなり得るためである。また、第1到来波のCIR波形が複数のピークを有する場合には差T
P1-P2が小さくなり得るためである。
【0198】
合成波が第1到来波として検出された場合、直接波が第1到来波として検出された場合と比較して、位置パラメータの推定精度は低下する。従って、差TP1-P2が大きいほど信頼性が高いと言える。このように、差TP1-P2により、信頼性を評価することができる。差TP1-P2は、第7の信頼性パラメータである。
【0199】
-第8の信頼性パラメータ
第8の信頼性パラメータは、第1到来波が直接波によるものであることの妥当性を示す指標である。換言すると、第8の信頼性パラメータは、特定要素が直接波に対応することの妥当性を示す指標である。第1到来波が直接波によるものであることの妥当性が高いほど信頼性は高く、第1到来波が直接波によるものであることの妥当性が低いほど信頼性は低い。
【0200】
第8の信頼性パラメータは、複数の無線通信部210の各々において検出された第1到来波間の整合性に基づいて計算されてもよい。具体的には、第8の信頼性パラメータは、複数の無線通信部210の各々において検出された第1到来波の受信時刻及び電力値の少なくともいずれかに基づいて計算される。マルチパスの影響で、それぞれ異なる経路を経由して到来した複数の無線信号が合成され、互いに増幅又は相殺された状態で無線通信部210に受信され得る。そして、複数の無線通信部210の各々において、無線信号の増幅及び相殺のされ方が異なる場合、無線通信部210間で第1到来波の受信時刻及び電力値が相違し得る。アンテナ211間の距離が角度推定用信号の波長λの2分の1以下という近距離であることを考慮すれば、無線通信部210間で第1到来波の受信時刻及び電力値の差が大きいことは、第1到来波が直接波によるものであることの妥当性が低いことを意味する。
【0201】
そこで、無線通信部210間での、第1到来波の受信時刻の差が大きいほど、第1到来波が直接波によるものであることの妥当性が低いことを示す第8の信頼性パラメータが計算される。一方で、無線通信部210間での、第1到来波の受信時刻の差が小さいほど、第1到来波が直接波によるものであることの妥当性が高いことを示す第8の信頼性パラメータが計算される。また、無線通信部210間での、第1到来波の電力値の差が大きいほど、第1到来波が直接波によるものであることの妥当性が低いことを示す第8の信頼性パラメータが計算される。一方で、無線通信部210間での、第1到来波の電力値の差が小さいほど、第1到来波が直接波によるものであることの妥当性が高いことを示す第8の信頼性パラメータが計算される。
【0202】
第8の信頼性パラメータは、複数の無線通信部210により検出された第1到来波に基づき複数通り推定される、携帯機100が存在する位置を示す位置パラメータ間の整合性に基づいて計算されてもよい。ここでの位置パラメータとは、
図3に示した角度α及びβ、並びに
図4に示した座標(x,y,z)である。これらの位置パラメータは、複数の無線通信部210の組み合わせにおける、第1到来波に基づき推定される。第1到来波が直接波によるものである場合、角度α及びβ並びに座標(x,y,z)を計算するために使用される無線通信部210の組み合わせが異なっても、角度α及びβ並びに座標(x,y,z)の結果は同一又は略同一である。しかし、第1到来波が直接波によるものではない場合、異なる無線通信部210の組み合わせ同士で、角度α及びβ並びに座標(x,y,z)の結果に相違が生じ得る。
【0203】
そこで、異なる無線通信部210の組み合わせ間での位置パラメータの計算結果の相違が小さいほど、第1到来波が直接波によるものであることの妥当性が高いことを示す第8の信頼性パラメータが計算される。例えば、角度推定処理において説明した、αACとαBDとの間の誤差が小さいほど及びβDCとβBAとの間の誤差が小さいほど、第1到来波が直接波によるものであることの妥当性が高いことを示す第8の信頼性パラメータが計算される。一方で、異なる無線通信部210の組み合わせ間での位置パラメータの計算結果の相違が大きいほど、第1到来波が直接波によるものであることの妥当性が低いことを示す第8の信頼性パラメータが計算される。例えば、角度推定処理において説明した、αACとαBDとの間の誤差が大きいほど及びβDCとβBAとの間の誤差が大きいほど、第1到来波が直接波によるものであることの妥当性が低いことを示す第8の信頼性パラメータが計算される。
【0204】
第8の信頼性パラメータにより、第1到来波が直接波によるものであることの妥当性に基づいて信頼性を評価することが可能となる。
【0205】
-第9の信頼性パラメータ
第9の信頼性パラメータは、無線信号を受信した状況の妥当性を示す指標である。無線信号を受信した状況の妥当性が高いほど信頼性は高く、無線信号を受信した状況の妥当性が低いほど信頼性は低い。
【0206】
第9の信頼性パラメータは、第1到来波を複数回検出することで得られた、複数の第1到来波における、ばらつきに基づいて計算される。具体的には、第9の信頼性パラメータは、第1到来波の電力値の分散、並びに推定された位置パラメータ(距離R、角度α及びβ、並びに座標(x,y,z))の分散及び変化量といった、複数の第1到来波におけるばらつきを示す統計量に基づいて計算される。なお、位置パラメータの変化量とは、前回推定時の位置パラメータと今回推定時の位置パラメータとの差を積算したもの、又は最大値と最小値との差分等である。分散が大きいほど及び変化量が大きいほど、複数回無線信号を受信する期間での環境変化が大きいことを意味する。そこで、分散が小さいほど及び変化量が小さいほど、無線信号を受信した状況の妥当性が高いことを示す第9の信頼性パラメータが計算される。一方で、分散が大きいほど及び変化量が大きいほど、無線信号を受信した状況の妥当性が低いことを示す第9の信頼性パラメータが計算される。他にも、複数の第1到来波のばらつきを示す統計量として、第1到来波の位相差Pd、第1到来波の時間方向の幅W、第1到来波における位相θの状態、及び第1到来波のSNRの分散及び変化量が挙げられる。
【0207】
第9の信頼性パラメータにより、無線信号を受信した状況の妥当性に基づいて信頼性を評価することが可能となる。詳しくは、複数回無線信号を受信する期間での環境変化が小さいほど信頼性が高く、環境変化が大きいほど信頼性が低い、と判定することが可能となる。また、ノイズが少ない状況では信頼性が高く、ノイズが大きい状況では信頼性が低い、と判定することが可能となる。
【0208】
<4.3.位置パラメータの特定>
通信ユニット200(詳しくは、制御部230)は、測定処理を繰り返し実行する繰り返し処理を制御する。繰り返し処理において、通信ユニット200は、選択処理を制御する。そして、通信ユニット200は、繰り返し処理において得られた第1到来波(即ち、特定要素)に基づいて、位置パラメータ特定処理を行う。以下、測定処理、繰り返し処理、選択処理、及び位置パラメータ特定処理について詳しく説明する。
【0209】
(1)測定処理
測定処理は、複数の無線通信部210から選択されたひとつの無線通信部210である代表無線通信部により信号を送信することを含む。マスタは、代表無線通信部の一例である。マスタにより送信される第2の測距用信号は、代表無線通信部により送信される信号の一例である。
【0210】
測定処理は、代表無線通信部により信号を送信することの前段として、代表無線通信部により信号を受信することを含んでいてもよい。マスタにより受信される第1の測距用信号は、代表無線通信部により受信される信号の一例である。
【0211】
測定処理は、複数の無線通信部210の各々により信号を受信することを含む。第3の測距用信号を兼ねる角度推定用信号は、複数の無線通信部210の各々により受信される信号の一例である。
【0212】
これら一連の通信を、以下では位置推定用通信とも称する。
【0213】
測定処理は、位置推定用通信において無線通信部210により受信された信号のうち所定の検出基準を満たす信号として検出された信号である第1到来波が処理対象として適切であるかを示す指標である信頼性パラメータに属する第1のパラメータを、複数の無線通信部210の少なくともいずれかについて計算することを含む。上記説明した信頼性パラメータの全て、即ち第1の信頼性パラメータ~第9の信頼性パラメータは、第1のパラメータの一例である。制御部230は、複数の無線通信部210の少なくともいずれかにより受信された信号から第1到来波を検出し、検出した第1到来波についての第1のパラメータを計算する。かかる構成によれば、測定処理において検出された第1到来波が、処理対象として適切であるかを評価することが可能となる。
【0214】
なお、1度の測定処理において、位置推定用通信が1回行われてもよい。換言すると、通信ユニット200は、1度の測定処理において複数の無線通信部210の各々により無線信号(例えば、第3の測距用信号を兼ねる角度推定用信号)を受信することを1回実行してもよい。その場合、一度の測定処理により、第1到来波、及び第1のパラメータの組み合わせを1つ得ることができる。他に、一度の測定処理において、位置推定用通信が複数回行われてもよい。換言すると、通信ユニット200は、1度の測定処理において複数の無線通信部210の各々により無線信号(例えば、第3の測距用信号を兼ねる角度推定用信号)を受信することを複数回実行してもよい。その場合、一度の測定処理により、第1到来波、及び第1のパラメータの組み合わせを複数得ることができる。
【0215】
典型的には、繰り返し処理の後に、測定処理において検出された第1到来波に基づいて位置パラメータ推定処理が行われる。もちろん、測定処理において、位置パラメータ推定処理が行われてもよい。第8の信頼性パラメータ及び第9の信頼性パラメータを計算するためには、位置パラメータが使用される得るためである。
【0216】
(2)繰り返し処理
通信ユニット200は、測定処理を繰り返し実行する、繰り返し処理を行う。これにより、1度の測定処理において得られる第1到来波、及び第1のパラメータの組み合わせを、測定処理を繰り返した回数分だけ得ることができる。
【0217】
(3)選択処理
通信ユニット200は、繰り返し処理において測定処理を繰り返す度に、複数の無線通信部210から代表無線通信部を選択する選択処理を制御する。例えば、通信ユニット200は、任意の無線通信部210をマスタとして選択して、初回の測定処理を行う。2回目以降の測定処理を行う前に、通信ユニット200は、マスタを再度選択し得る。かかる構成によれば、処理対象として適切であると評価されたマスタを選択して測定処理を行うことができるので、位置パラメータの推定精度を向上させることが可能となる。
【0218】
通信ユニット200は、代表無線通信部について計算された信頼性パラメータに属する第2のパラメータに基づいて、代表無線通信部を変更するか否かを判定することを、選択処理として行う。一例として、通信ユニット200は、マスタについて計算された第2のパラメータにより示される信頼性が所定の閾値よりも低い場合に、マスタを変更すると判定してもよい。他方、通信ユニット200は、マスタについて計算された第2のパラメータにより示される信頼性が所定の閾値よりも高い場合に、マスタを変更しないと判定してもよい。他の一例として、通信ユニット200は、マスタについて計算された第2のパラメータにより示される信頼性が、いずれかのスレーブについて計算された第2のパラメータにより示される信頼性よりも低い場合に、マスタを変更すると判定してもよい。他方、通信ユニット200は、マスタについて計算された第2のパラメータにより示される信頼性が、どのスレーブについて計算された第2のパラメータにより示される信頼性よりも高い場合に、マスタを変更しないと判定してもよい。かかる構成によれば、マスタにおいて検出された第1到来波が処理対象として適切であるか否か、即ち想定される位置パラメータの推定精度に基づいて、マスタの変更要否を判定することが可能となる。
【0219】
通信ユニット200は、代表無線通信部を変更すると判定した場合、複数の無線通信部210の各々について計算された第2のパラメータのうち、処理対象として最も適切であることを示す第2のパラメータが計算された無線通信部210を、代表無線通信部として選択することを、選択処理として行う。例えば、通信ユニット200は、複数の無線通信部210の各々について計算された第2のパラメータのうち、最も信頼性が高い第2のパラメータが計算された無線通信部210を、マスタとして選択する。かかる構成によれば、検出された第1到来波が処理対象として最も適切である無線通信部210をマスタとして、次回の測定処理を行うことが可能となる。よって、位置パラメータの推定精度を向上させることが可能となる。
【0220】
第2のパラメータは、信頼性パラメータのうち、ひとつの無線通信部210において検出された第1到来波が処理対象として適切であるかを示す指標である。上記説明した信頼性パラメータのうち、第1の信頼性パラメータ~第7の信頼性パラメータは、第2のパラメータの一例である。なお、第4の信頼性パラメータのように、複数の無線通信部210について計算される信頼性パラメータについては、当該複数の無線通信部210の各々について計算された信頼性パラメータであるとみなす。かかる構成によれば、マスタについて検出された第1到来波が処理対象として適切であるか否かに基づいて、マスタの変更要否を判定することが可能となる。
【0221】
第1のパラメータと第2のパラメータとは同一であってもよい。その場合、測定処理において計算した第1のパラメータを、選択処理における第2のパラメータとして流用することができるので、処理負荷を軽減することが可能である。
【0222】
もちろん、第1のパラメータと第2のパラメータとは異なっていてもよい。その場合、選択処理において、第1のパラメータとは異なる第2のパラメータが計算される。
【0223】
(4)位置パラメータ特定処理
通信ユニット200は、測定処理を繰り返し実行することで得られた複数の第1到来波に基づいて携帯機100が存在する位置を示す位置パラメータを特定する位置パラメータ特定処理を、第1のパラメータに基づいて制御する。詳しくは、通信ユニット200は、測定処理における複数回の位置推定用通信により得られた複数の第1到来波に基づいて、携帯機100の位置パラメータを特定する。これにより、一つ一つの第1到来波に過度に依存せずに、位置パラメータを特定することが可能となる。かかる構成により、通信ユニット200は、より高い精度で携帯機100が存在する位置を特定することができる。
【0224】
通信ユニット200は、複数の第1到来波の各々に基づいて位置パラメータ推定処理により推定された複数の位置パラメータに対し第1のパラメータに基づく統計処理を適用することで、位置パラメータを特定することを、位置パラメータ特定処理として行う。詳しくは、通信ユニット200は、繰り返し処理において検出された複数の第1到来波の各々に対して位置パラメータ推定処理を行うことで、複数の位置パラメータを推定する。そして、通信ユニット200は、推定された複数の位置パラメータから、第1のパラメータに基づいて導出した代表値を、位置パラメータとして特定する。
【0225】
一例として、通信ユニット200は、最も高い信頼性を示す第1のパラメータに対応する第1到来波に基づいて推定された位置パラメータを採用することで、位置パラメータを特定してもよい。他の一例として、通信ユニット200は、推定された複数の位置パラメータに対し、第1のパラメータに基づく重み付け平均を行うことで、位置パラメータを特定してもよい。その際、高い信頼性を示す第1のパラメータに対応する第1到来波に基づいて推定された位置パラメータほど高い重み付けがなされ、その逆であるほど低い重み付けがなされる。他の一例として、通信ユニット200は、推定された複数の位置パラメータのうち、低い信頼性を示す第1のパラメータに対応する第1到来波に基づいて推定されたもの取り除いた位置パラメータに対し、平均する、又は中央値をとることで、位置パラメータを特定してもよい。なお、これらの統計処理は、組み合わせて適用されてもよい。かかる構成により、精度の高い位置パラメータを特定することが可能となる。
【0226】
通信ユニット200は、携帯機100が存在する領域を特定することを、位置特定処理として行ってもよい。通信ユニット200は、上記処理により特定された位置パラメータ(例えば、距離R、角度α及びβ、及び座標(x,y,z)の少なくともいずれか)に基づいて、携帯機100が存在する領域を特定する。一例として、通信ユニット200は、車両202の車室内及び車室外を含む複数の領域の中から、携帯機100が存在する領域を特定してもよい。これにより、ユーザが車室内にいる場合と車室外にいる場合とで異なるサービスを提供する等、細やかなサービスを提供することが可能となる。他にも、通信ユニット200は、車室外の領域を、通信ユニット200から所定距離以内の領域、及び通信ユニット200から所定距離以上の領域に細分化した上で、携帯機100が存在する領域を特定してもよい。
【0227】
特定された携帯機100が存在する領域は、例えば、携帯機100の認証のために使用される。本実施形態によれば、特定される位置パラメータの精度を向上するので、誤認証を防ぎ、セキュリティ性を向上させることが可能となる。
【0228】
なお、第1のパラメータを計算するために、測定処理において位置パラメータ推定処理が実行済である場合がある。その場合、通信ユニット200は、位置パラメータ特定処理において位置パラメータ推定処理を再度実行せず、測定処理において実行された位置パラメータ推定処理により推定された位置パラメータを流用してもよい。他方、測定処理において位置パラメータ推定処理が未実行である場合、通信ユニット200は、位置パラメータ特定処理において位置パラメータ推定処理を実行する。
【0229】
通信ユニット200は、所定の条件が満たされた場合、位置パラメータ特定処理において位置パラメータを特定しなくてもよい。かかる所定の条件を、以下では中断条件とも称する。中断条件の第1の例としては、ある程度高い信頼性(第1の閾値以上の信頼性)を示す第1のパラメータに対応する第1到来波が、測定処理において所定個得られなかったことが挙げられる。中断条件の第2の例としては、著しく低い信頼性(第2の閾値以下の信頼性)を示す第1のパラメータに対応する第1到来波が、測定処理において得られたことが挙げられる。かかる構成により、位置パラメータの特定精度が悪いことが予想される状況下では位置パラメータを特定しないことで、大幅に誤った位置パラメータが特定される事態を回避することが可能となる。
【0230】
<4.4.処理の流れ>
図19は、本実施形態に係る車両202の通信ユニット200により実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。本フローにおいては、測定処理がX回繰り返されるものとする。また、本フローにおける中断条件は、上述した中断条件の第2の例であるものとする。
【0231】
図19に示すように、まず、通信ユニット200は、位置推定用通信を行う(ステップS302)。例えば、
図7を参照しながら上記説明したように、携帯機100は、第1の測距用信号を送信する。通信ユニット200のマスタは、第1の測距用信号を受信すると、第2の測距用信号を送信する。携帯機100は、第2の測距用信号を受信すると、第3の測距用信号及び角度推定用信号を兼ねる信号を送信する。そして、複数の無線通信部210の各々は、第3の測距用信号及び角度推定用信号を兼ねる信号を受信する。携帯機100及び通信ユニット200の各々は、位置推定用通信において受信した各信号から第1到来波を検出する。さらに、通信ユニット200は、第1の測距用信号の受信時刻から第2の測距用信号の送信時刻までの時間T3、及び第2の測距用信号の送信時刻から第3の測距用信号の受信時刻までの時間T4を計測してもよい。また、携帯機100は、第1の測距用信号の送信時刻から第2の測距用信号の受信時刻までの時間T1、及び第2の測距用信号の受信時刻から第3の測距用信号の送信時刻までの時間T2を計測し、時間T1及び時間T2含む信号を送信してもよい。
【0232】
次いで、通信ユニット200は、位置推定用通信により得られた第1到来波に基づいて、信頼性パラメータに属する第1のパラメータを計算する(ステップS304)。例えば、通信ユニット200は、第1の信頼性パラメータ~第8の信頼性パラメータのいずれかを、第1のパラメータとして計算する。
【0233】
続いて、通信ユニット200は、中断条件が満たされたか否かを判定する(ステップS306)。中断条件が満たされたと判定された場合(ステップS306:YES)、通信ユニット200は、位置パラメータを特定せずに、処理を終了する。
【0234】
他方、中断条件が満たされていないと判定された場合(ステップS306:NO)、通信ユニット200は、位置推定用通信をX回行ったか否かを判定する(ステップS308)。
【0235】
位置推定用通信をX回行っていないと判定された場合(ステップS308:NO)、通信ユニット200は、マスタについて計算された信頼性パラメータに属する第2のパラメータに基づいて、マスタを変更するか否かを判定する(ステップS310)。例えば、通信ユニット200は、マスタについて計算された第2のパラメータにより示される信頼性が所定の閾値より低い場合にマスタを変更すると判定し、そうでない場合にマスタを変更しないと判定する。
【0236】
なお、通信ユニット200は、ステップS304において計算された第1のパラメータを、第2のパラメータとして流用してもよい。他にも、通信ユニット200は、第1のパラメータとは別に、第1の信頼性パラメータ~第7の信頼性パラメータのいずれかを、第2のパラメータとして計算してもよい。
【0237】
マスタを変更すると判定された場合(ステップS310:YES)、通信ユニット200は、第2のパラメータに基づいてマスタを選択する(ステップS312)。例えば、通信ユニット200は、複数の無線通信部210の各々について計算された第2のパラメータのうち、最も高い信頼性を示す第2のパラメータが計算された無線通信部210を、マスタとして選択する。その後、処理はステップS302に戻る。
【0238】
他方、マスタを変更しないと判定された場合(ステップS310:NO)、処理はステップS302に戻る。
【0239】
ステップS308において、位置推定用通信をX回行ったと判定された場合(ステップS308:YES)、通信ユニット200は、X回の位置推定用通信により得られたX個の第1到来波、及び第1のパラメータに基づいて、携帯機100の位置パラメータを特定する(ステップS314)。
【0240】
<<5.補足>
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0241】
例えば、上記実施形態において説明した複数の信頼性パラメータのうち任意の2以上の信頼性パラメータが、組み合わせて使用されてもよい。
【0242】
例えば、上記実施形態では、CIRが相関演算結果であるものと説明したが、本発明はかかる例に限定されない。一例として、CIRは、受信信号(IQ成分を有する複素数)そのものであってもよい。CIR値は、受信信号であるIQ成分を有する複素数そのものであってもよいし、受信信号の振幅又は位相であってもよいし、受信信号のI成分及びQ成分の二乗和(又は振幅の二乗)である電力であってもよい。この場合、受信側は、受信信号から第1到来波を検出する。例えば、受信側は、受信した無線信号の振幅又は電力が最初に所定の閾値を超えることを、第1到来波を検出するための所定の検出基準として用いてもよい。その場合、受信側は、受信信号のうち振幅又は受信電力が最初に所定の閾値を超えた信号(より詳しくは、サンプリングポイント)を、第1到来波として検出してもよい。
【0243】
例えば、上記実施形態では、制御部230がCIRの算出、第1到来波(換言すると、特定要素)の検出、及び位置パラメータの推定を行うものと説明したが、本発明はかかる例に限定されない。これらの処理の少なくともいずれかが、無線通信部210により実行されてもよい。例えば、複数の無線通信部210の各々において、各々が受信した受信信号に基づいてCIRの算出、及び第1到来波の検出を行ってもよい。また、位置パラメータの推定は、例えばマスタとして機能する無線通信部210により実行されてもよい。
【0244】
例えば、上記実施形態では、アンテナペアにおけるアンテナアレー位相差に基づいて角度α及びβが計算される例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。一例として、通信ユニット200は、複数のアンテナ211によりビームフォーミングを行うことで、角度α及びβを計算してもよい。その場合、通信ユニット200は、複数のアンテナ211のメインローブを全方向にわたって走査し、受信電力が最も大きい方向に携帯機100が存在すると判定し、かかる方向に基づいて角度α及びβを計算する。
【0245】
例えば、上記実施形態では、
図3を参照しながら説明したように、ローカル座標系が、アンテナペアを結ぶ軸に平行する座標軸を有する座標系であるものとして説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、ローカル座標系は、アンテナペアを結ぶ軸に平行しない座標軸を有する座標系であってもよい。また、原点は、複数のアンテナ211の中心に限定されない。本実施形態に係るローカル座標系は、通信ユニット200が有する複数のアンテナ211の配置を基準に、任意に設定されてよい。
【0246】
例えば、上記実施形態では、被認証者が携帯機100であり、認証者が通信ユニット200である例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。携帯機100及び通信ユニット200の役割は逆であってもよい。例えば、携帯機100が、位置パラメータを推定してもよい。また、携帯機100及び通信ユニット200の役割が動的に交換されてもよい。また、通信ユニット200同士で位置パラメータの特定、及びに認証が行われてもよい。
【0247】
例えば、上記実施形態では、本発明がスマートエントリーシステムに適用される例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明は、信号を送受信することで位置パラメータを推定し認証を行う任意のシステムに適用可能である。例えば、携帯機、車両、スマートフォン、ドローン、家、及び家電製品等のうち任意の2つの装置を含むペアに、本発明は適用可能である。その場合、ペアのうち一方が認証者として動作し、他方が被認証者として動作する。なお、ペアは、2つの同じ種類の装置を含んでいてもよいし、2つの異なる種類の装置を含んでいてもよい。また、無線LAN(Local Area Network)ルータがスマートフォンの位置を推定するためにも、本発明は適用可能である。
【0248】
例えば、上記実施形態では、無線通信規格としてUWBを用いるものを挙げたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、無線通信規格として、赤外線を用いるものが使用されてもよい。
【0249】
なお、本明細書において説明した各装置による一連の処理は、ソフトウェア、ハードウェア、及びソフトウェアとハードウェアとの組合せのいずれを用いて実現されてもよい。ソフトウェアを構成するプログラムは、例えば、各装置の内部又は外部に設けられる記録媒体(非一時的な媒体:non-transitory media)に予め格納される。そして、各プログラムは、例えば、コンピュータによる実行時にRAMに読み込まれ、CPUなどのプロセッサにより実行される。上記記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等である。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信されてもよい。
【0250】
また、本明細書においてフローチャートを用いて説明した処理は、必ずしも図示された順序で実行されなくてもよい。いくつかの処理ステップは、並列的に実行されてもよい。また、追加的な処理ステップが採用されてもよく、一部の処理ステップが省略されてもよい。
【符号の説明】
【0251】
1:システム、100:携帯機、110:無線通信部、111:アンテナ、120:記憶部、130:制御部、200:通信ユニット、202:車両、210:無線通信部、211:アンテナ、220:記憶部、230:制御部