(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】ブラシレスモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/50 20060101AFI20240516BHJP
H02K 3/38 20060101ALI20240516BHJP
H02K 3/46 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H02K3/50 A
H02K3/38 A
H02K3/46 B
(21)【出願番号】P 2020146428
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】白木 謙次
(72)【発明者】
【氏名】西澤 克仁
(72)【発明者】
【氏名】窪田 翔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 拓也
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-153591(JP,A)
【文献】国際公開第2019/058643(WO,A1)
【文献】特開2020-018144(JP,A)
【文献】特開2018-038129(JP,A)
【文献】特開2012-200038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/50
H02K 3/38
H02K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のステータの中央にロータが配置されるインナーロータ型のブラシレスモータであって、
前記ステータは、周方向に等間隔に分割された六つの分割コアが組み合わされて構成され、
各々の前記分割コアは、
前記ステータの円筒部分の一部を構成する円弧部と、前記円弧部の周方向中央から径方向内側へ突設された一つのティース部とを持つステータコア部と、
前記ステータコア部に取り付けられるインシュレータ部と、
前記インシュレータ部の上から前記ティース部に対し巻回されたコイルと、を有し、
前記ステータコア部を前記インシュレータ部となる樹脂でモールドしたインサート成形品であり、
前記ブラシレスモータは、前記ステータの軸方向一端側に配置され、前記ステータに設けられる三相の前記コイルを同相ごとに結線する三つのバスバーを有するバスバーユニットを備え、
前記バスバーユニットは、前記三つのバスバーのうちの二つが樹脂でインサート成形され、残りの一つが前記インサート成形されたモールドバスバーに組み付けられ、当該一つのバスバーを覆う樹脂製のバスバーカバーが取り付けられて構成され、
前記ブラシレスモータの外径は、27mm以上かつ36mm以下である
ことを特徴とする、ブラシレスモータ
。
【請求項2】
前記分割コアは、前記インシュレータ部における前記円弧部をモールドするモールド円弧部の径方向内側を向く内面に凹設され、前記コイルとなる巻線の巻き始め部が押し込まれる退避溝を有する
ことを特徴とする、請求項
1記載のブラシレスモータ。
【請求項3】
前記分割コアは、前記インシュレータ部における前記円弧部をモールドするモールド円弧部の径方向内側を向く内面の周方向両側の縁部にそれぞれ形成され、軸方向に延在する平面状のフラットカットを有する
ことを特徴とする、請求項
1又は
2記載のブラシレスモータ。
【請求項4】
前記分割コアは、前記バスバーユニットが組み付けられる土台部を有する
ことを特徴とする、請求項
1~
3の何れか1項に記載のブラシレスモータ
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーロータ型のブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
インナーロータ型のブラシレスモータ(以下、単に「モータ」ともいう)では、ティース部に巻回されたコイルを持つステータの径方向内側に、マグネットを持つロータが配され、ロータと一体回転するシャフトから出力が取り出される。従来、ブラシレスモータのステータにおいて、分割されたコア片を組み立てることでステータコアを構成したものが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、コイル巻回用の主極ティースをコア本体とは別体の分割コアとしたステータ(モータ)が開示されている。このモータでは、主極ティースにコイルボビン及びインシュレータを装着し、その上でコイルを巻回することで個別にコイルユニットを構成したのち、これをコア本体に装着している。なお、特許文献1のステータには、主極ティースに加えてコイルが巻回されない補極ティースがコア本体と一体的に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、モータの仕様(トルクや大きさ等)は、モータが搭載される装置や機器に応じて決定されることが多く、その仕様を満たすようにモータを設計する必要がある。例えば、インナーロータ型かつΦ30mm程度の小径ブラシレスモータにおいて、要求されるトルク(出力)が比較的高い場合には、コイルの線積率をいかに高めるかが重要である。この点、分割コアを採用したモータでは、一体型のステータコアを採用したモータと比較して、ティース部に対して巻線を巻回しやすいため、コイルの線積率を高めやすい。
【0006】
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、分割コアを採用した小径モータにおいて、巻線の巻きやすさ及び高トルク化を両立できるインナーロータ型のブラシレスモータを提供することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示するブラシレスモータは、円筒状のステータの中央にロータが配置されるインナーロータ型のブラシレスモータであって、前記ステータは、周方向に等間隔に分割された六つの分割コアが組み合わされて構成される。各々の前記分割コアは、前記ステータの円筒部分の一部を構成する円弧部と、前記円弧部の周方向中央から径方向内側へ突設された一つのティース部とを持つステータコア部と、前記ステータコア部に取り付けられるインシュレータ部と、前記インシュレータ部の上から前記ティース部に対し巻回されたコイルと、を有するとともに、前記ステータコア部を前記インシュレータ部となる樹脂でモールドしたインサート成形品である。また、前記ブラシレスモータは、前記ステータの軸方向一端側に配置され、前記ステータに設けられる三相の前記コイルを同相ごとに結線する三つのバスバーを有するバスバーユニットを備える。さらに、前記バスバーユニットは、前記三つのバスバーのうちの二つが樹脂でインサート成形され、残りの一つが前記インサート成形されたモールドバスバーに組み付けられ、当該一つのバスバーを覆う樹脂製のバスバーカバーが取り付けられて構成される。加えて、前記ブラシレスモータの外径は、27mm以上かつ36mm以下である。
【0008】
(2)前記分割コアは、前記インシュレータ部における前記円弧部をモールドするモールド円弧部の径方向内側を向く内面に凹設され、前記コイルとなる巻線の巻き始め部が押し込まれる退避溝を有することが好ましい。
(3)前記分割コアは、前記インシュレータ部における前記円弧部をモールドするモールド円弧部の径方向内側を向く内面の周方向両側の縁部にそれぞれ形成され、軸方向に延在する平面状のフラットカットを有することが好ましい。
【0009】
(4)前記分割コアは、前記バスバーユニットが組み付けられる土台部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
開示のブラシレスモータによれば、分割コアを採用した小径モータにおいて、巻線の巻きやすさ及び高トルク化を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るブラシレスモータを示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すブラシレスモータの分解斜視図である。
【
図3】
図1に示すブラシレスモータの軸方向に沿う断面図であり、ロータ,シャフト,小ケース板及びカバーを省略して示す。
【
図4】
図1に示すブラシレスモータのステータを構成する六つの分割コアを軸方向から視た図であり、コイルを省略して示す。
【
図5】(a)は
図4のA方向矢視図であり、(b)は
図4のB方向矢視図である。
【
図7】
図4に示す分割コアのステータコア部を構成するコア片を軸方向から視た図である。
【
図8】
図2のバスバーユニットを示す斜視図である。
【
図10】
図9に示すバスバーユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、実施形態としてのブラシレスモータについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0013】
[1.全体構成]
図1は、本実施形態に係るブラシレスモータ1(以下「モータ1」という)の斜視図であり、
図2は、モータ1の分解斜視図である。
図3は、モータ1の軸方向断面図であって後述するロータ2,シャフト20,小ケース板9及びカバー8を省略して示す。
図4~
図7はステータ3を説明するための図であり、
図8~
図10はバスバーユニット6を説明するための図である。
【0014】
図1~
図3に示すように、モータ1は、円筒状のステータ3の中央にロータ2が配置されるインナーロータ型のブラシレスモータである。本実施形態では、モータ1の外径(直径)が30mm(Φ30)であって、6溝の小径モータ1を例示する。なお、モータ1の外径は、27mm以上かつ36mm以下であればよく、Φ30に限られない。モータ1は、マグネット22を有する円柱状のロータ2と、コイル32を有するステータ3と、ロータ2と一体回転するシャフト20とを備え、モータ1の外郭をなす金属製のハウジング4内にロータ2及びステータ3を収容して構成される。
【0015】
図2に示すように、本実施形態のモータ1は、ステータ3を内蔵したハウジング4に対して軸方向に組み付けられる、バスバーユニット6と、小ケース5と、プリント基板7(以下「基板7」という)と、カバー8と、ロータ2と、小ケース板9とを備える。ステータ3は、周方向に等間隔に分割された六つの分割コア3A(
図4参照)が組み合わされて構成される。以下、ハウジング4に組み付けられる各要素を順に説明し、その後、ステータ3の構成について詳述する。
【0016】
図1及び
図2に示すように、ハウジング4は、軸方向の一端側が開口した有底筒型であり、一端側の開口には小ケース板9が固定されるとともにシャフト20が突設される。なお、本実施形態のハウジング4は、その外観形状が円筒であるが、ハウジング4の形状はこれに限られない。
【0017】
図3に示すように、ステータ3は、内径側にロータ2が配置される空間を持つ略円筒状の部品であり、ハウジング4内に固定される環状のステータコア部30と、ステータコア部30に対してインシュレータ部31を介して巻回されたコイル32とを備える。本実施形態のモータ1では、六つのコイル32が設けられる。二つのコイル32にはU相の電流が供給され、他の二つのコイル32にはV相の電流が供給され、残りの二つのコイル32にはW相の電流が供給される。
【0018】
図2,
図3及び
図8に示すように、バスバーユニット6は、ステータ3の軸方向一端側に配置される環状の部品であり、三つのバスバー60を含む。バスバー60は、ステータ3に設けられる三相のコイル32を同相ごとに結線する導電性の平板部材である。バスバーユニット6は、軸方向から視て円弧状の三つのバスバー60のうちの少なくとも一つを樹脂でモールドしたインサート成形品として設けられる。各バスバー60の端部60aは樹脂から露出して設けられる。なお、バスバーユニット6の中央には、モータ1の中心軸Cと同心の円形状の孔部6dが設けられる。
【0019】
図9はバスバーユニット6を
図8中の矢印Fの方向から視た図であり、
図10はバスバーユニット6を軸方向に直交する方向に切断した断面図である。本実施形態のバスバーユニット6は、三つのバスバー60のうちの二つ(例えばU相とV相のバスバー60)が樹脂でインサート成形されて、モールドバスバー61として設けられる。バスバーユニット6は、残り一つのバスバー60(例えばW相のバスバー60)が、
図10に示すように、モールドバスバー61に組み付けられ、
図9に示すように、この後付けのバスバー60を覆う樹脂製のバスバーカバー62が取り付けられて構成される。このように、本実施形態のバスバーユニット6は、一部組み立て式のインサート成形品である。
【0020】
図1~
図3に示すように、小ケース5は、絶縁性材料(例えば樹脂)で形成された部品であり、ハウジング4に隣接配置される有底筒状のコネクタ部51と、ステータ3の軸方向一端側に配置される筒部52と、コネクタ部51及び筒部52を繋ぐ連結部53とを一体で有する。コネクタ部51は、その外形状が略四角筒状であり、長手方向(中心軸方向)がモータ1の中心軸Cと平行になるように設けられる。なお、本実施形態のコネクタ部51の底部51aは、ハウジング4の底部とは逆側(一端側)に位置する。すなわち、ハウジング4は一端側に向けて開口し、コネクタ部51は他端側に向けて開口している。
【0021】
図3に示すように、コネクタ部51の底部51aには、複数のコネクタ端子50が底部51aを貫通して固定される。コネクタ端子50は、コネクタ部51の四つの側面部51bで囲まれた内部空間に露出して配置される。コネクタ端子50には、電源用の端子と作動信号用の端子とが含まれ、外部からの電源及び作動信号の入力を可能とする。本実施形態では、各コネクタ端子50が、コネクタ部51の底部51aに貫設された固定孔に対し開きカシメによって固定される。これにより、複数のコネクタ端子50のそれぞれを近接させた状態で簡単にコネクタ部51に固定可能である。
【0022】
図2に示すように、コネクタ部51の筒部52は、有底円筒状の外形をなし、その底部をステータ3側に向けて姿勢でハウジング4の一端側の開口近傍に収容される。筒部52の底部の中央には、モータ1の中心軸Cと同心の円形状の孔部52dが設けられる。なお、
図3に示すように、軸方向における筒部52とステータ3との間には、上記のバスバーユニット6が配置される。
【0023】
図2に示すように、コネクタ部51の連結部53は、筒部52から径方向外側に延設されてコネクタ部51に繋がる断面略コ字状の部位である。筒部52の側面部は連結部53の部分で欠成されており、筒部52の側面部で囲まれた空間と連結部53のコ字で囲まれた空間とは連通している。これらの空間には、基板7が配置される。
【0024】
図2及び
図3に示すように、基板7は、各バスバー60の端部60aと底部51aを貫通したコネクタ端子50とを電気的に接続する部品である。基板7は、ステータ3の軸方向一端側とコネクタ部51の底部51a側とに亘って配置される。基板7には、U相,V相,W相の出力線のほか、ホール信号を取り出すためのセンサ線,電源線,グランド線等を含むパターンが配置される。本実施形態の基板7は面一な平板状であり、小ケース5の一端側に配置される。
【0025】
本実施形態の基板7は、軸方向から視て、コネクタ端子50が接続される略矩形状の端子接続部7aと、中央に孔部7dを有する円環状のリング部7bと、端子接続部7a及びリング部7bを繋ぐ一直線状の接続部7cとを有する。端子接続部7aはコネクタ部51に収容され、リング部7bは筒部52に収容され、接続部7cは連結部53に収容される。なお、基板7のリング部7bには、ロータ2の回転位置を検出するホールセンサ10が取り付けられる。
【0026】
図1及び
図2に示すように、カバー8は、小ケース5に対して軸方向一端側から取り付けられる絶縁性の部品であり、小ケース5の開口を塞ぐ。カバー8は、軸方向から視た形状が、小ケース5の一端側の外形(外縁部)と略同一形状となっている。すなわち、カバー8は、コネクタ部51を覆うコネクタカバー部8aと、筒部52を覆い中央に孔部8dを有する環状部8bと、連結部53を覆う接続部8cとを有する。
【0027】
図2に示すように、ロータ2は、シャフト20と一体回転するロータコア(図示略)と、ロータコアの外周面に固定された円筒状のマグネット22と、マグネット22の一端側でシャフト20に固定されたブッシュ23と、ブッシュ23に固定されてシャフト20と一体回転するセンサマグネット24とを備える。シャフト20は、ロータ2を支持する回転軸であり、モータ1の出力(機械エネルギ)を外部に取り出す出力軸としても機能する。本実施形態のシャフト20は、ロータコア21を挟んだ二箇所に設けられた軸受を介して、ハウジング4の底部と小ケース板9とに回転自在に支持される。
【0028】
図2に示すように、本実施形態のモータ1では、ハウジング4に収容されたステータ3に対し、バスバーユニット6,小ケース5,基板7及びカバー8をこの順に取り付けていくと、バスバーユニット6の孔部6dと、小ケース5の孔部52dと、基板7の孔部7dと、カバー8の孔部8dとがすべて重なる。これらの孔部6d,52d,7d,8dには、シャフト20が挿通される。本実施形態のモータ1では、これらの孔部6d,52d,7d,8dの直径がいずれも、ロータ2の外径よりも大きい。これにより、四つの要素6,5,7,8をハウジング4に組み付けたあとで、シャフト20と一体化されたロータ2を、ハウジング4(ステータ3)に挿入することが可能である。
【0029】
図1及び
図2に示すように、小ケース板9は、カバー8の一端側に装着される金属製の部品であり、ハウジング4に固定される。本実施形態の小ケース板9は、カバー8の一端側の面に載置される平面部9aと、平面部9aから中心軸Cを中心とした有底筒状に形成された膨出部9bとを有する。この膨出部9bは、図示しない軸受を収容する部位である。
【0030】
[2.要部構成]
図4は、六つの分割コア3Aからなるステータ3を軸方向から視た図であり、コイル32を省略するとともに、ハウジング4の内周面を二点鎖線で示す。
図5(a)及び(b)は、
図4の矢印A及びBのそれぞれから分割コア3Aを視た斜視図、
図6は
図4のD-D矢視断面図であり、それぞれコイル32を省略して示す。
図7は、分割コア3Aのステータコア部30を構成するコア片30Pを軸方向から視た図である。
【0031】
図4に示すように、六つの分割コア3Aはすべて同一形状であり、組み合わされることでモータ1の中心軸Cを中心とした一つの円筒状のステータ3を構成する。各分割コア3Aは、金属製のステータコア部30と、樹脂製のインシュレータ部31と、上記のコイル32(
図3参照)とを有する。インシュレータ部31は、ステータコア部30に取り付けられる。コイル32は、分割コア3Aが組み合わされる前に(分割状態で)、インシュレータ部31の上からティース部30bに対し巻回される。
【0032】
ステータコア部30は、ステータ3の円筒部分の一部を構成する円弧部30aと、円弧部30aの周方向中央から径方向内側へ突設された一つのティース部30bと、ティース部30bの径方向内側の端部から周方向両側へ羽根状に広がる壁部30cとを有する。本実施形態のステータコア部30は、
図7に示す薄板のコア片30Pが複数積層されることで構成される。円弧部30aは、中心角60度の扇形の円弧に相当し、その周方向両端面は、隣接配置される二つの分割コア3Aの円弧部30aの各周方向端面と面接触する。ティース部30b及び壁部30cは、軸方向から視てT字状をなす。
【0033】
本実施形態の分割コア3Aは、ステータコア部30をインシュレータ部31となる樹脂でモールドしたインサート成形品である。つまり、インシュレータ部31は、ステータコア部30と一体成形されるものであって、後付け品ではない。これにより、後付けされるインシュレータと比較して、絶縁体であるインシュレータ部31を薄肉化することが可能であり、巻線の線積率の向上に寄与する。
【0034】
図4~
図6に示すように、本実施形態のインシュレータ部31は、円弧部30aをモールドするモールド円弧部31aと、ティース部30bをモールドするモールドティース部31bと、壁部30cの周囲を囲むモールド壁部31cとを有する。モールド円弧部31aは、少なくとも円弧部30aの径方向内側を向く面の全体を覆うとともに、円弧部30aの軸方向一端側及び他端側の両端面よりも一端側及び他端側のそれぞれに突出して形成される。言い換えると、モールド円弧部31aは、円弧部30aよりも軸方向寸法が大きい。モールド円弧部31aは、径方向内側から視て、軸方向に長い角丸四角形の形状に形成される。
【0035】
図4に示すように、周方向に隣接する二つの分割コア3Aは、円弧部30a及びモールド円弧部31aの周方向両端面同士を面接触させた状態で、ハウジング4の内周面に沿って収容(固定)される。すなわち、円弧部30aの一部はインシュレータ部31でモールドされず、露出して設けられる。
【0036】
図4~
図6に示すように、モールドティース部31bは、ティース部30bの全体をモールドするのに対し、モールド壁部31cは、壁部30cの径方向内側を向く面を除いて壁部30cをモールドする。言い換えると、壁部30cはインシュレータ部31でモールドされず、露出して設けられる。モールド壁部31cは、モールドティース部31bに巻回されたコイル32が径方向内側へ変位するのを防ぐ。モールド壁部31cは、径方向内側から視て、軸方向に長い長円又は角丸四角形の形状に形成される。
【0037】
本実施形態の分割コア3Aは、モールド円弧部31aの径方向内側を向く内面31dに凹設された退避溝31eを有する。退避溝31eは、コイル32となる巻線の巻き始め部が押し込まれる溝である。本実施形態の分割コア3Aでは、モールドティース部31bの軸方向一端側の位置から
図6中に矢印Eで示す方向に巻線を巻回するが、巻線が巻回されるにつれて、巻き始め部(1ターン目の巻線)が退避溝31eに押し込まれる。これにより、巻線時に巻き始め部に作用する応力を軽減できることから、太線(例えばΦ0.6線)の巻線を巻回できるようになり、高トルク化に寄与する。
【0038】
退避溝31eは、巻線の巻き始め部が位置する場所、本実施形態ではモールドティース部31bの軸方向一端側に設けられる。退避溝31eは、巻き始め部の位置から巻線を巻く方向(
図6の矢印E)に向かって溝幅(ステータコア部30の周方向寸法、
図6の横方向長さ)が狭くなる形状に形成される。これにより、巻線量の増加に伴って巻き始め部が退避溝31eに入り込みやすくなり、巻き始め部に作用する応力の低減を図れる。
【0039】
図4~
図6に示すように、本実施形態の分割コア3Aは、モールド円弧部31aの内面31dの周方向両側の縁部(エッジ)にそれぞれ形成されたフラットカット31fを有する。フラットカット31fは、各縁部において軸方向に延在する平面状の部分であり、巻線を巻回する際に巻線の引っ掛かりを回避する機能を持つ。すなわち、モールド円弧部31aの内面31d側のエッジを面取りした部分がフラットカット31fである。本実施形態の分割コア3Aでは、二つのフラットカット31fの法線方向が互いに平行であり、二つのフラットカット31fを仮想的に結んだ平面は面一となる。
【0040】
本実施形態の分割コア3Aは、バスバーユニット6が組み付けられる土台部31gを有する。土台部31gは、モールド円弧部31aの軸方向一端側の端面から一端側に突設されており、バスバーユニット6の土台嵌合部63(
図8~
図10参照)と嵌合する。本実施形態のモータ1では、土台部31gの外形状が略直方体形状であり、六つの土台嵌合部63のそれぞれが、各土台部31gが嵌合する凹みとして設けられる。
【0041】
[3.効果]
(1)上述したモータ1によれば、分割コア3Aを組み合わせる前に巻線を巻回できるため、フライヤ巻線機やスピンドル巻線機を用いて容易に巻線を巻回することができる。また、6溝6分割の分割コア3Aからステータ3が構成されるため、組み合わせたときのステータ3のバランスが良く、線積率も高めやすい。例えば、3分割の分割コアの場合、円弧部が中心角120度の扇形の円弧部分に相当するため、円弧部の周方向長さが長くなる。このため、巻線を巻回できないスペース(デッドスペース)が大きくなってしまい、線積率を高めにくい。これに対し、上述した6分割の分割コア3Aからなるステータ3を備えたモータ1によれば、巻線を巻きやすいうえに線積率を高めることができる。
【0042】
また、6溝のステータ3を適用したモータ1において、その外径が27mm未満では十分な巻線量を確保できず、トルクが不足するおそれがあるが、その外径を27mm以上にすることで、同体格の既存のブラシ付きモータよりも高いトルクを出力することができる。さらに、6分割の分割コア3Aからなるステータ3を適用したモータ1において、その外径を36mm以下にすることで、同体格の既存のブラシ付きモータよりも高いトルクを出力することができる。例えば、外径が36mmよりも大きなモータでは、ステータの分割数を9分割や12分割とした方が、6分割にするよりもより高いトルク出力を実現できる。言い換えると、6分割のステータ3を生かすことができるモータ1の外径の最大値が36mmである。
【0043】
(2)上述したモータ1では、分割コア3Aが、ステータコア部30をインシュレータ部31となる樹脂でモールドしたインサート成形品として設けられるため、インシュレータ部31を薄肉化できる。これにより、インシュレータをステータコアと別体で設けて後付けする構成と比較して、コイル32の線積率をより高めることができるため、高トルク化を達成できる。
【0044】
(3)上述したモータ1では、分割コア3Aのモールド円弧部31aに退避溝31eが設けられる。これにより、ティース部30bに巻線が巻かれていく際に、巻線の巻き始め部(1ターン目)が退避溝31eに押し込まれる。このため、コイル32の線積率をさらに高めることができ、より高トルク化を達成できる。また、巻線時には1ターン目に大きな応力が作用しうるが、巻き始め部が退避溝21eに押し込まれることで応力を和らげることができ、1ターン目の断線の懸念を解消することもできる。
【0045】
(4)上述したモータ1では、分割コア3Aのモールド円弧部31aにフラットカット31fが設けられる。上述したモータ1は、Φ27以上かつΦ36以下の小径モータであるため、分割コア3Aの曲率半径が小さい。このため、分割コア3Aに巻線を巻回するとはいえ、巻線機のノズルの挿入が難しいことがあった。これに対し、分割コア3Aにフラットカット31fを設けることによって、モールド円弧部31aの両縁部が面取りされた状態となるため、巻線の巻回時に引っ掛かることがなく、巻線の巻回のしやすさをより向上させることができる。
【0046】
(5)上述したモータ1によれば、分割コア3Aに土台部31gが設けられているため、バスバーユニット6をハウジング4内で容易に固定でき、組立性を向上させることできる。
(6)特に、上述したモータ1では、三つのバスバー60のうちの二つがインサート成形され、残りの一つが組み立て式となっているため、組立性,部品成立性,コストの三つの側面で最もバランスの良いバスバーユニット6を製造できる。
【0047】
[4.その他]
上述の実施形態で説明したモータ1の構成は一例であって、上述したものに限られない。例えば、三つのバスバー60が全て樹脂でモールドされることでバスバーユニット6が成形されてもよいし、バスバーユニット6とステータ3とが土台部31g及び土台嵌合部63によって固定される構成でなくてもよい。
【0048】
分割コア3Aの退避溝31eの位置や形状は上述したものに限られず、巻線を巻く方向や巻き始め部の位置に応じて設定すればよい。なお、退避溝31eは必須でなく省略してもよい。分割コア3Aのフラットカット31fも必須ではなく、省略してもよい。
上述した分割コア3Aは、ステータコア部30が樹脂でモールドされたインサート成形品であるが、インシュレータ部31を別体で成型したのち、ステータコア部30に取り付ける構成であってもよい。少なくとも、モータ1の外径が、27mm以上かつ36mm以下(10mm範囲以内)に収まっており、かつ、六つの分割コア3Aからなる6溝インナーブラシレスモータであれば、巻線の巻きやすさ及び高トルク化を両立できる。
【0049】
また、コネクタ部51が軸方向一端側に開口していてもよいし、径方向に向かって開口していてもよい。なお、複数のコネクタ端子50の固定方法は開きカシメに限らず、接着などの他の固定方法を採用してもよい。小ケース5(コネクタ部51)やカバー8を省略してもよい。
【0050】
小ケース板9の形状や素材も上述したものに限られない。上記のモータ1では、ハウジング4にバスバーユニット6,小ケース5,基板7及びカバー8を取り付けたあとでロータ2を挿入する構成を例示したが、ロータ2を先に挿入してからこれらの要素を組み付けてもよい。この場合、各孔部6d,52d,7d,8dの直径がロータ2の外径以下であってもよい。
【0051】
ホールセンサ10の取付位置や向きは上記のものに限られず、例えばロータ2の軸方向から回転を検出するように基板7に取り付けられていてもよいし、ホールセンサ10自体を省略してもよい。また、バスバー60が樹脂でモールドされたものでなくてもよいし、基板7が面一の平板状でなくてもよい。なお、基板7を用いずにコネクタ端子50とバスバー60の端部60aとを接続してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 モータ(ブラシレスモータ)
2 ロータ
3 ステータ
3A 分割コア
6 バスバーユニット
30 ステータコア部
30a 円弧部
30b ティース部
31 インシュレータ部
31a モールド円弧部
31d 内面
31e 退避溝
31f フラットカット
31g 土台部
32 コイル
60 バスバー
61 モールドバスバー
62 バスバーカバー