(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】紫外線発光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/32 20100101AFI20240516BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H01L33/32
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020147117
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉川 陽
(72)【発明者】
【氏名】永富 隆清
【審査官】皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087712(JP,A)
【文献】特開2019-110195(JP,A)
【文献】特開2012-119515(JP,A)
【文献】特開2009-152448(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150280(WO,A1)
【文献】特開2020-077831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/32
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを含む窒化物半導体を含む基板と、
前記基板上に配置され、AlおよびGaを含む第1導電型窒化物半導体層と、
前記第1導電型窒化物半導体層上に配置され、AlおよびGaを含む窒化物半導体を含む発光層と、
前記発光層上に配置され、前記第1導電型窒化物半導体層と異なる導電型を有する第2導電型窒化物半導体層と、
を備え、
前記第2導電型窒化物半導体層は、ドーパント原子
としてMgを含み、
前記ドーパント原子の濃度である前記ドーパント原子濃度は、前記第2導電型窒化物半導体層の厚み方向に濃度分布を有
し、
前記第2導電型窒化物半導体層の厚み方向における両端の領域である端部領域におけるMgの濃度は、3×10
20
cm
-3
以上9×10
20
cm
-3
以下であり、
前記第2導電型窒化物半導体層の厚み方向の中心領域におけるMgの濃度は、7×10
18
cm
-3
以上4×10
19
cm
-3
以下である
紫外線発光素子。
【請求項2】
前記ドーパント原子は、Mg、ZnまたはBeの少なくとも一種である
請求項
1に記載の紫外線発光素子。
【請求項3】
前記第2導電型窒化物半導体層における、前記ドーパント原子濃度が高い領域の厚さは、前記第2導電型窒化物半導体層の厚さの5%以上50%以下である
請求項1
または2に記載の紫外線発光素子。
【請求項4】
前記第2導電型窒化物半導体層の層厚は、3nm以上200nm以下である
請求項1から
3のいずれか一項に記載の紫外線発光素子。
【請求項5】
直下の層に対する前記第2導電型窒化物半導体層の被覆率は、80%以上100%以下である
請求項1から
4のいずれか一項に記載の紫外線発光素子。
【請求項6】
前記第2導電型窒化物半導体層は、Al
xGa
(1-x)N(0≦x≦0.2)で形成されている
請求項1から
5のいずれか一項に記載の紫外線発光素子。
【請求項7】
前記発光層と前記第2導電型窒化物半導体層との間に設けられた組成傾斜層を備え、
前記組成傾斜層は、Al
yGa
(1-y)N(0.1≦y≦1.0)で形成され、Al組成yは前記基板から遠ざかる方向にむかって減少する
請求項1から
6のいずれか一項に記載の紫外線発光素子。
【請求項8】
前記組成傾斜層の膜厚は、15nm以上60nm以下である
請求項
7に記載の紫外線発光素子。
【請求項9】
前記基板は、AlN単結晶基板であり、
前記第1導電型窒化物半導体層は、300nm以上750nm以下の膜厚を有するAl
zGa
(1-z)N(0.6≦z≦0.9)で形成されている
請求項1から
8のいずれか一項に記載の紫外線発光素子。
【請求項10】
前記第2導電型窒化物半導体層の面内a軸方向の格子定数が、直下の層に対して整合しており、前記ドーパント原子は格子に置換されている
請求項1から
9のいずれか一項に記載の紫外線発光素子。
【請求項11】
第1導電型窒化物半導体層は、Al
zGa
(1-z)N(0.6≦z≦0.9)で形成されており、
前記発光層の上下それぞれに、Al
pGa
(1-p)N(0.5≦p≦z)で形成された導波路層を更に備える
請求項1から
10のいずれか一項に記載の紫外線発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、紫外線発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線発光素子は、発光層のバンドギャップエネルギーを制御することにより発光波長を制御することができるとともに、寿命が長く信頼性が高くなる。そのため、紫外線発光素子は、照明、計測器用光源、殺菌用光源など様々な用途に利用されている。一般的な紫外線発光素子は、基板上に、発光層をp型窒化物半導体とn型窒化物半導体で挟んだPIN構造を有する。
【0003】
紫外線発光素子の電力変換効率(WPE:Wall Plug Efficiency)を向上させるために、紫外線発光素子の発光強度(発光出力)を向上させ、シリーズ抵抗を低下させる必要がある。このため、例えばCとMgとを含むV族ガスとIII族ガスとを交互に照射することで、紫外線発光素子を構成する窒化物半導体層として低抵抗のp型AlGaN層を得る手法が検討されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5940355号
【文献】国際公開2011-104969号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような、紫外線発光素子は、窒化物半導体層としてp型GaN層を備える紫外線発光素子と比較して抵抗が悪化したり、多重量子障壁層によりデバイス抵抗が悪化したりするため、電力変換効率が低下する。
本開示の目的は、電力変換効率の高い紫外線発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本開示の一実施形態に係る紫外線発光素子は、Alを含む窒化物半導体を含む基板と、基板上に配置され、AlおよびGaを含む第1導電型窒化物半導体層と、第1導電型窒化物半導体層上に配置され、AlおよびGaを含む窒化物半導体を含む発光層と、発光層上に配置され、第1導電型窒化物半導体層と異なる導電型を有する第2導電型窒化物半導体層と、を備え、第2導電型窒化物半導体層は、ドーパント原子を含み、ドーパント原子の濃度であるドーパント原子濃度は、第2導電型窒化物半導体層の厚み方向に濃度分布を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電力変換効率の高い紫外線発光素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第一実施形態に係る紫外線発光素子の一構成例を示す断面図である。
【
図2】本開示の第一実施形態に係る紫外線発光素子の他の構成例を示す断面図である。
【
図3】本開示の第二実施形態に係る紫外線発光素子の一構成例を示す断面図である。
【
図4】本開示の第三実施形態に係る紫外線発光素子の一構成例を示す断面図である。
【
図5】本開示の第四実施形態に係る紫外線発光素子の一構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を通じて本実施形態に係る紫外線発光素子を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
1.第一実施形態
以下、第一実施形態に係る紫外線発光素子1について、
図1を参照して説明する。
紫外線発光素子1は、紫外光を発光可能な半導体素子である。
【0011】
(1.1)紫外線発光素子の構成
図1を参照して、第一実施形態に係る紫外線発光素子1について説明する。紫外線発光素子1は、Alを含む窒化物半導体を含む基板11と、基板11上に配置され、AlおよびGaを含む第1導電型窒化物半導体層12と、第1導電型窒化物半導体層12上に配置され、AlおよびGaを含む窒化物半導体を含む発光層13と、発光層13上に配置され、第1導電型窒化物半導体層12と異なる導電型を有し、ドーパントを含む第2導電型窒化物半導体層14と、を備えている。そして、ドーパントの原子濃度は、第2導電型窒化物半導体層14の厚さ方向に濃度分布を有している。
【0012】
図1に示すように、紫外線発光素子1は、基板11、第1導電型窒化物半導体層12、発光層13および第2導電型窒化物半導体層14が順に積層されて構成されている。また、紫外線発光素子1は、第1導電型窒化物半導体層12と接続された第1電極15Aと、第2導電型窒化物半導体層14と接続された第2電極15Bとを備えている。
以下、各層について詳細に説明する。
【0013】
(基板)
基板11は、Alを含む窒化物半導体を含んでいる。Alを含む窒化物半導体は、例えばAlNである。Alを含む窒化物半導体は、AlNに限定されず、例えばAlGaNであってよい。例えば、基板11がAlN、AlGaN等の窒化物半導体単結晶基板である場合、基板11の上側に形成される窒化物半導体層との格子定数差が小さくなり、窒化物半導体層を格子整合系で成長させることで貫通転位を少なくできる。
【0014】
ここで、「基板11は…窒化物半導体を含む」という表現における「含む」とは、窒化物半導体を主に層内に含むことを意味するが、その他の元素を含む場合もこの表現に含まれる。具体的には、他の元素を少量(例えばGa(Gaが主元素でない場合)、In、As、P、またはSb等の元素を数%以下)加える等してこの層の組成に軽微な変更を加える場合についてもこの表現に含まれる。その他の層の組成の表現においても、「含む」という文言は、同様の意味を有する。また、含まれる少量元素については前述の限りではない。
【0015】
また、基板11は、ドナー不純物またはアクセプタ不純物によって、n型またはp型にドーピングされてよい。また、基板11は、AlN等の窒化物半導体と、サファイア(Al2O3)、Si、SiC、MgO、Ga2O3、ZnO、GaNまたはInNとの混晶であってもよい。
【0016】
基板11は、一例として100μm以上600μm以下の層厚を有することが好ましい。
また、面方位はc面(0001)、a面(11-20)、m面(10-10)などが挙げられるが、c面基板11がより好ましい。
【0017】
(第1導電型窒化物半導体層)
第1導電型窒化物半導体層12は、AlおよびGaを含む窒化物半導体の層である。第1導電型窒化物半導体層12は、基板11上に形成される。ここで、例えば「第1導電型窒化物半導体層12は基板11上に形成される」という表現における「上に」という文言は、基板11の上に第1導電型窒化物半導体層12が形成されることを意味する。また、基板11と第1導電型窒化物半導体層12との間に別の層がさらに存在する場合も上述の表現に含まれる。その他の層同士の関係においても、「上の」という文言は、同様の意味を有する。例えば、発光層13上に電子ブロック層を介して第2導電型窒化物半導体層14が形成される場合(変形例にて詳細に説明する)も、「第2導電型窒化物半導体層14は発光層13上に形成される」という表現に含まれる。
【0018】
第1導電型窒化物半導体層12は、例えばAzGa(1-z)N(0<z<1)により形成される。これにより、紫外領域のバンドギャップエネルギーに対応する材料を発光層13として形成する場合に、発光層13の結晶性を高め、発光効率を向上させることが可能となる。高い発光効率を実現する観点から、第1導電型窒化物半導体層12を構成する窒化物半導体は、AlNおよびGaNの混晶であることが好ましい。また、発光層13から放出された光の透過率の観点から、第1導電型窒化物半導体層12は、AzGa(1-z)N(0.6≦z≦0.9)により形成されることがより好ましい。
【0019】
第1導電型窒化物半導体層12は、P、As、Sb等のN以外のV族元素、C、H、F、O、Mg、Si等の不純物が混入していてよいが、不純物元素の種類としてはこの限りではない。
また、第1導電型窒化物半導体層12と第2導電型窒化物半導体層14とは、互いに異なる導電型を有する窒化物半導体の層である。一般に、n型半導体の方がp型半導体より結晶性に優れており、発光層13への影響が低い。そのため、第1導電型窒化物半導体層12がn型であり、第2導電型窒化物半導体層14が第1導電型窒化物半導体層12と異なるp型である事が好ましい。
【0020】
第1導電型窒化物半導体層12は、緩和の観点と膜抵抗の観点から、200nm以上800nm以下の層厚を有することが好ましく、300nm以上750nm以下の層厚を有することがより好ましく、300nm以上500nm以下であることが更に好ましい。
【0021】
(発光層)
発光層13は、AlおよびGaを含む窒化物半導体の層である。発光層13は、第1導電型窒化物半導体層12上に形成される。発光層13が含む窒化物半導体は、高い発光効率を実現する観点から例えばAlN、GaNの混晶であることが好ましい。発光層13には、Nの他に、P、As、Sb等のN以外のV族元素、C、H、F、O、Mg、Si等の不純物が混入していてよいが、不純物元素の種類としてはこの限りではない。また、発光層13は、量子井戸構造も単層構造も取り得る。高い発光効率を実現する観点から、発光層13は少なくとも1つの井戸構造を有することが好ましい。
【0022】
また、紫外線発光素子1の発光波長を紫外領域の波長(380nm以下)としたい場合には、発光層13を構成する窒化物半導体はAl、GaおよびNを含むことが好ましい。また、発光効率を高める観点から、発光層13は、Al、GaおよびNを含む量子井戸層と、AlNを含む電子バリア層(いずれも不図示)とを有する多重量子井戸構造(MQW)であることが好ましい。
【0023】
(第2導電型窒化物半導体層)
第2導電型窒化物半導体層14は、上述したように、第1導電型窒化物半導体層12と異なる導電型を有する窒化物半導体の層である。第2導電型窒化物半導体層14は、発光層13上に形成される。第2導電型窒化物半導体層14を構成する窒化物半導体は、例えばGaN、AlNまたはInNおよび、それらを含む混晶で形成される。
【0024】
第2導電型窒化物半導体層14には、ドーパント原子が含まれている。ドーパント原子
Mg、ZnまたはBeの少なくとも一種であることが好ましく、原料ガスの汎用性から、第2導電型窒化物半導体層14に含まれる不純物がMgであることがより好ましい。また、第2導電型窒化物半導体層14には、P、As、Sb等のN以外のV族元素、C、H、F、O、Si、等の不純物が混入していてもよい。
ただし、上述したように、第1導電型窒化物半導体層12の導電型がn型で、第2導電型窒化物半導体層14の導電型がp型である事が好ましい。
【0025】
第2導電型窒化物半導体層14において、ドーパント原子の濃度(以下、ドーパント原子濃度とする)は、第2窒化物半導体層14の厚み方向に濃度分布を有する。第2導電型窒化物半導体層14の厚み方向の中心領域14Aにおけるドーパント原子濃度は、第2導電型窒化物半導体層14の厚み方向の端部領域14Bにおけるドーパント原子濃度よりも低くなっていることが好ましい。ここで、端部領域14Bとは、第2導電型窒化物半導体層14の厚み方向の両端の領域をいう。これは、第2導電型窒化物半導体層14と、電極(第2電極15B)または第2導電型窒化物半導体層14の基板11側に配置される半導体層(発光層13)とのコンタクトを高めるためである。
【0026】
例えば、第2導電型窒化物半導体層14において一様にドーパント原子を分布させた状態でドーパント原子濃度を高めると、格子の乱れによる転位から電子が発生し、正孔濃度が低下してしまう。一方、第2導電型窒化物半導体層14の両方の端部領域14Bのドーパント原子濃度を中心領域14Aより高めると、第2導電型窒化物半導体層14と第2導電型窒化物半導体層14に接する層との間に疑似的なトンネルジャンクションが形成される。これにより、第2導電型窒化物半導体層14と、第2導電型窒化物半導体層14に接する層との間のコンタクト抵抗が低減する。
【0027】
コンタクト抵抗の観点から、第2導電型窒化物半導体層14の端部領域14BにおけるMgの濃度は、8×1019cm-3以上1×1021cm-3であることが好ましく、5×1020cm-3以上1×1021cm-3であることがより好ましい。また、同様に、第2導電型窒化物半導体層14の中心領域14AにおけるMgの濃度は、1×1018cm-3以上4×1019cm-3であることが好ましく、5×1018cm-3以上4×1019cm-3であることがより好ましい。Mg以外のドーパント原子の濃度についても同様である。
【0028】
また、第2導電型窒化物半導体層14におけるドーパント原子の濃度分布にも好適な範囲が存在する。ドーパント原子濃度が高い領域の厚さは、第2導電型窒化物半導体層14全体の膜厚に対して5%以上50%以下であることが好ましい。
ここで、「ドーパント原子濃度が高い領域(以下、ドーパント高濃度領域という場合がある)」とは、第2導電型窒化物半導体層14の厚さ方向において、ドーパント原子のピーク濃度が得られた点からドーパント原子濃度が50%となる点までの領域をいう。
また、第2導電型窒化物半導体層14の両方の端部領域14Bが「ドーパント原子濃度が高い領域」である場合、「ドーパント原子濃度が高い領域の膜厚」は、両方の端部領域14Bの膜厚を合計した厚さをいう。
【0029】
また、第2導電型窒化物半導体層14の層厚は、2nm以上200nm以下であることが好ましく、コンタクト抵抗と光吸収の観点から3nm以上150nmであることがより好ましい。第2導電型窒化物半導体層14の層厚が薄いほど紫外線発光素子1の発光強度が向上し、層厚が厚いほど紫外線発光素子1の発光強度が低下する。一方、第2導電型窒化物半導体層14の層厚が薄いほど紫外線発光素子1の閾値電圧が高くなり、層厚が厚いほど紫外線発光素子1の閾値電圧が低下する傾向にある。このため、第2導電型窒化物半導体層14の層厚が2nm以上200nm以下である場合、高い発光強度を維持しつつ、閾値電圧が高くなりすぎず、紫外線発光素子1のデバイス特性が総合的に向上する。
【0030】
紫外線発光素子1のI-V特性(電気特性)を良好にする観点から、直下の層に対する第2導電型窒化物半導体層14の被覆率は、80%以上100%以下であることが好ましく、90%以上100%以下であることがより好ましい。
紫外線発光素子1のp型半導体としてのキャリア注入効率を高める観点から、第2導電型窒化物半導体層14は、AlGaN(0≦x≦0.2)で形成されることが好ましい。
また、キャリア注入効率を高める観点から、第2導電型窒化物半導体層14は、直下の層からコヒーレントにエピタキシャル成長しており、直下の層と格子整合していることが好ましい。より具体的には、基板11上面に並行な面内a軸方向の格子定数が直下の層の同一方向の格子定数に一致している、すなわち直下の層に対して整合していることが好ましい。同時に、不純物として含まれる原子(例えばMg)が、GaまたはAlおよびNの格子に対して置換されていることが好ましい。
これによりキャリア注入効率が高く、I-V特性の良好な第2導電型窒化物半導体層14が得られる。
【0031】
(電極)
紫外線発光素子1は、さらに電極を備えていてもよい。電極は、n型電極およびp型電極の少なくとも1つであり得る。
n型電極は、Al、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zr等の金属、これらの混晶、または、ITOもしくはGa
2O
3等の導電性酸化物等により形成される。また、n型電極は、第1導電型窒化物半導体層12および第2導電型窒化物半導体層14のうち、導電性がn型である層とコンタクトするように形成される事が好ましい。
図1では、第1導電型窒化物半導体層12と接続された第1電極15Aがn型電極である。
【0032】
p型電極は、Ni、Au、Pt、Ag、Rh、Pd、Pt、Cu、Al、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Ir、Zr等の金属、これらの混晶、または、ITOもしくはGa
2O
3等の導電性酸化物等により形成される。また、p型電極は、第1導電型窒化物半導体層12および第2導電型窒化物半導体層14のうち、導電性がp型である層とコンタクトするように形成される事が好ましい。
図1では、第2導電型窒化物半導体層14と接続された第2電極15Bがp型電極である。
【0033】
(1.2)紫外線発光素子の変形例
上述した紫外線発光素子1Aは、基板11と第1導電型窒化物半導体層12との間に設けられたAlN層16や、発光層13と第2導電型窒化物半導体層14との間に設けられた電子ブロック層17を備えていても良い。
以下、
図2を参照して、AlN層16および電子ブロック層17について詳細に説明する。
【0034】
(AlN層)
AlN層16は、下地層の一例であり、基板11の全面に形成されている。すなわち、AlN層16は、基板11と第1導電型窒化物半導体層12との間に設けられている。
AlN層16は、基板の表面に形成されたピットや研磨痕などをリカバリーすることができる。また、第1導電型窒化物半導体層12との間の格子定数差及び熱膨張係数差が小さく、AlN層16上に欠陥の少ない窒化物半導体層を成長させることができる。また、AlN層16は、圧縮応力下で第1導電型窒化物半導体層12を成長させることができ、第1導電型窒化物半導体層12にクラックの発生を抑制することができる。このため、基板11がAlN又はAlGaN等の窒化物半導体で形成されている場合でも、欠陥の少ない窒化物半導体層をAlN層16を介して基板11の上方に成長できる。
【0035】
AlN層16には、C、B、O、H、Si、Fe、Mg等の不純物が混入されていてもよい。
基板11の形成材料としてAlNを用いた場合、AlN層16と基板11とが同一材料で形成されることから、AlN層16と基板11との境界が不明確となる。基板11がAlNで形成されている場合には、基板11が基板11とAlN層16とを構成しているものと見做してよい。
【0036】
AlN層16は、例えば数μmの厚さを有している。具体的には、AlN層16の厚さは、10nmより厚く1μmより薄いことが好ましい。AlN層16の厚さが10nmより厚い場合、基板表面のリカバリーが進み、AlNの結晶性が高くなる。また、原料コストの観点から、AlN層16の厚さが1μmより薄いことが好ましい。
【0037】
(電子ブロック層)
電子ブロック層17は、第1導電型窒化物半導体層12から注入された電子が発光層13で再結合しきれず、第2導電型窒化物半導体層14へオーバーフローしていくことを防ぐ機能を有する。例えば、電子ブロック層17は、GaN、AlNもしくはInN、またはそれらを含む混晶などにより形成される。ただし、電子ブロック層17は、電子のオーバーフローを防ぐことができればこれら材料での形成に限られない。また、電子ブロック層17には、P、As、Sb等のN以外のV族元素、C、H、F、O、Mg、Si、Be等の不純物が混入していてよい。格子整合と電子のブロック効果との観点から、電子ブロック層17は、発光層13のバンドギャップよりも大きいAlGaNで形成されることが好ましい。
【0038】
(1.3)紫外線発光素子の製造方法
本実施形態の紫外線発光素子1は、基板11上に各層を形成する工程を経て製造される。
基板11は、昇華法、ハイドライド気相成長(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)法等の気相成長法および液相成長法等の一般的な基板成長法により形成される。
【0039】
基板11上に各層を形成する工程は、例えば、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、ハイドライド気相成長(HVPE)法または有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法等で行うことができる。
ここで、基板11上に形成された各層のうち窒化物半導体の層は、例えばトリメチルアルミニウム(TMAl)を含むAl原料、例えばトリメチルガリウム(TMGa)またはトリエチルガリウム(TEGa)等を含むGa原料、例えばアンモニア(NH3)を含むN原料を用いて形成することができる。
【0040】
紫外線発光素子1は、基板11上に形成された各層に対して、不要部分をエッチングによって除去する工程を経て製造される(
図1参照)。この工程は、例えば誘導結合型プラズマ(ICP)エッチング等で行うことができる。
また、紫外線発光素子1は、電極(第1電極15A、第2電極15B)を形成する工程を経て製造され得る。この工程は、例えば電子線蒸着(EB)法によって金属を蒸着させる等の種々の方法で行うことができる。
ここで、紫外線発光素子は、上記の工程を経て各層が形成された基板11をダイシングにより個片へと分割して製造される。
【0041】
第1電極15A、第2電極15B等の電極は、抵抗加熱蒸着、電子銃蒸着またはスパッタ等により形成されるが、これら方法には限定されない。電極は、単層で形成してもよく、複数層積層して形成してもよい。また、電極は、層の形成後に酸素、窒素または空気雰囲気等で熱処理が行われてもよい。
【0042】
(1.4)紫外線発光素子の物性等の測定方法
上述した紫外線発光素子1の物性等は、以下のようにして測定することができる。
【0043】
(第2導電型窒化物半導体層の不純物濃度、ドーピング原子濃度および分布膜厚の測定)
第2導電型窒化物半導体層14に含まれる不純物濃度、ドーピング原子濃度および不純物・ドーピング原子の分布は、原子マッピングで求めることができる。原子マッピングとしては、アトムプローブトモグラフィー(APT:Atom Probe Tomography)を用いることができる。第2導電型窒化物半導体層14のAPT解析では、収束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)加工装置(東芝製)によって、観察したい多層膜部位を、先端の曲率半径が100nm程度である針状試料へ加工する。半導体多層膜表面に電極が形成されている場合は電極が形成されたままの状態で、電極が形成されていない場合はタングステンの保護膜を形成して、FIBにより針状試料へ加工する。針状試料への加工では、半導体積層体の膜の垂直方向が針状試料の軸方向になるように、かつ観察したい箇所が先端付近にくるように加工する。
【0044】
続いて、針状試料に対して電圧パルス印加、または電圧パルス印加と観察部位へのレーザーパルス照射を行う。針状試料先端から放出されたイオンを質量分析することによってイオン種を同定し、かつイオンが放出された針状試料内の位置を二次元検出器によって同定することで、針状試料内の原子の3次元分布を得る。
以上のように、APT法によって膜中の原子のマッピングを深さ方向で観察する。また、断面の深さ方向におけるラインプロファイルを抽出することによって、濃度分布の膜厚が得られる。
【0045】
APT法によって不純物またはドーピング原子の濃度、および分布膜厚を測定する方法を以下に記載する。
形成された針状試料の3Dデータに対して、深さ方向に垂直な面内方向における試料中心の50%の領域に相当する領域を除去し、複数点(例えば、任意の5点)について深さ方向のラインプロファイルを取得する。続いて、第2導電型窒化物半導体層14のドーパント高濃度領域における原子濃度のピーク値をそれぞれドーピング原子濃度とする。すなわち、第2導電型窒化物半導体層14の両端の端部領域14Bにおけるドーピング原子濃度が中心領域14Aにおけるドーピング濃度より高い場合は、第2導電型窒化物半導体層14の両端の端部領域14Bにおける原子濃度のピーク値をそれぞれドーピング原子濃度とする。
【0046】
それぞれの測定点の濃度の値に差がある場合、より高い濃度をドーパント高濃度領域(例えば端部領域14B)における厚さ方向の不純物またはドーピング原子の濃度とする。また、第2導電型窒化物半導体層14において、厚さ方向の1nmごとの濃度の変化率を取得したときに、最も低い変化率が得られる点における濃度をドーパント高濃度領域以外の領域(例えば中心領域14A)における不純物またはドーピング原子の濃度とする。端部領域14Bと中心領域14Aにおける濃度は、例えばそれぞれ任意の5点における平均値を採用する。
【0047】
次に、濃度分布膜厚について記載する。
ドーパント高濃度領域(例えば端部領域14B)においてピーク濃度が得られた点から、濃度が50%になるまでの点を、濃度が高い領域、すなわちドーパント高濃度領域とし、ドーパント高濃度領域の膜厚を特定する。この時、ドーパント高濃度領域が複数ある場合(例えば、
図1に示すように複数の端部領域14Bがある場合)には、複数のドーパント高濃度領域の膜厚の合計をドーパント高濃度領域の膜厚とする。
【0048】
(第2導電型窒化物半導体層の被覆率測定)
第2導電型窒化物半導体層14の被覆率測定には、例えば走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、FE-SEM「SU9000」)および画像処理ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社製の画像解析ソフト「A像くん」(登録商標))が用いられる。より具体的には、SEM測定時に、第2導電型窒化物半導体層14表面が露出されている箇所を50μm×50μmの測定範囲で面内における任意の3点を測定する。このとき下方検出器による反射電子像を取得することで、組成差によるコントラストが明確になったSEM画像が得られる。
【0049】
画像処理ソフトを用いて、得られたSEM画像の処理を行う。SEM画像内の平均明度に対して、明度が50%以上低い領域を、直下の層である発光層13に対して第2導電型窒化物半導体層14の被覆されていない箇所とする。被覆率は被覆されている面積の割合とし、任意の3点の平均値を第2導電型窒化物半導体層14の被覆率とする。
【0050】
(不純物濃度およびドーピング濃度の測定)
紫外線発光素子1を構成する基板11および各層に含まれるドーパントや不純物の濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定することができる。
各層に含まれるドーパントや不純物の濃度を、デバイスに加工された後にSIMSで測定する場合は、化学的なエッチングや物理研磨により電極を除去した状態で行うことができる。また、各層に含まれるドーパントや不純物の濃度は、電極が形成されていない基板11側からスパッタして測定することもできる。
具体的には、エバンス・アナリティカル・グループ(EAG)社が提供する測定条件によりSIMS測定を実施する。測定時の試料のスパッタには、14.5keVのエネルギーを有したセシウム(Cs)イオンビームを用いる。
【0051】
(層厚の測定方法)
紫外線発光素子1を構成する各層の層厚は、基板11に垂直な所定断面を切り出して、この断面を透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)により観察し、TEMの測長機能を使用することで測定できる。測定方法としては、先ず、TEMを用いて、紫外線発光素子の基板11の主面に対して垂直な断面を観察する。具体的には、例えば、紫外線発光素子1の基板11の主面に対して垂直な断面を示すTEM画像内の、基板11の主面に対して平行な方向において2μm以上の範囲を観察幅とする。この観察幅の範囲において、組成の異なる2層の界面にはコントラストが観察されるので、この界面までの厚さを、幅200nmの連続する観察領域で観察する。この200nm幅の観察領域内に含まれる各層の厚さの平均値を、上述した2μm以上の観察幅から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層の層厚を得ることができる。
【0052】
(第1導電型窒化物半導体層のAl組成の測定方法)
第1導電型窒化物半導体層12のAl組成を測定する方法としては、X線回折(XRD:X-Ray Diffraction)法による逆格子マッピング測定(RSM:Reciprocal Space Mapping)が挙げられる。具体的には、非対称面を回折面として得られる回折ピーク近傍の逆格子マッピングデータを解析することにより、下地に対する格子緩和率とAl組成が得られる。回折面としては、例えば(10-15)面や(30-24)面が挙げられる。
【0053】
(発光層のAl組成の測定方法)
X線光電分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)、および電子エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy-Loss Spectroscopy)によって測定することができる。
EELSでは、電子線が試料を透過する際に失うエネルギーを測定することで、試料の組成を分析する。具体的には、例えば、TEM観察等で使用する薄片化試料において、透過電子線の強度のエネルギー損失スペクトルを測定・解析する。そして、エネルギー損失量20eV付近に現れるピークのピーク位置が、各層の組成に応じて変化することを利用し、ピーク位置から組成を求めることができる。
上述のTEM観察による層厚算出方法と同様にして、観察幅200nmにおけるAl組成の平均値を、2μm以上の観察領域から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層のAl組成を得る。
【0054】
EDXでは、上述のTEM観察等で使用する薄片化試料において電子線によって発生する特性X線を測定・解析する。上述のTEM観察による層厚算出方法と同様にして、観察幅200nmにおけるAl組成の平均値を、2μm以上の観察領域から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層のAl組成を得る。
【0055】
XPSでは、イオンビームを用いたスパッタエッチングを行いながらXPS測定を行うことで、深さ方向の評価が可能である。イオンビームには一般的にAr+が用いられるが、XPS装置に搭載されたエッチング用イオン銃で照射できるイオンであれば、例えばArクラスターイオンなどの他のイオン種でもよい。Al、Ga、NのXPSピーク強度を測定・解析して各層のAl組成の深さ方向分布を得る。スパッタエッチングの代わりに、基板11の主面に対して垂直な断面が拡大されて露出されるように紫外線発光素子を斜め研磨して、露出断面をXPSで測ってもよい。
XPSだけでなくオージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)を用いても各層の組成を測定できる。この場合、スパッタエッチングあるいは斜め研磨により露出させた断面においてオージェ電子分光法による測定を行うことで、組成を測定できる。また、斜め研磨により露出させた断面に対するSEM-EDX測定によっても、各層の組成を測定できる。
【0056】
(窒化物半導体層の原子配列の測定)
紫外線発光素子1を構成する各層の原子配列は、高分解能TEM測定によって測定できる。上述したTEM測定時に50nmまで剥片化されたサンプルに対し、原子分解能分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、「JEM-ARM200F」(加速電圧:200kV)によって高分解能TEM測定を行う。原子配列はIII属原子と窒素原子が交互に積層された状態となっており、III族原子が垂直に配列している(すなわち、ずれがない)状態が観察されれば、格子整合していると判断できる。また、原子間に未結合原子が存在しないことで不純物としてMgが格子に置換していることが観察できる。
【0057】
(1.5)紫外線発光素子の適用分野
本実施形態に係る紫外線発光素子は、例えば、医療・ライフサイエンス分野、環境分野、産業・工業分野、生活・家電分野、農業分野、その他分野の装置に適用可能である。紫外線発光素子は、薬品または化学物質の合成・分解装置、液体・気体・固体(容器、食品、医療機器等)殺菌装置、半導体等の洗浄装置、フィルム・ガラス・金属等の表面改質装置、半導体・FPD・PCB・その他電子品製造用の露光装置、印刷・コーティング装置、接着・シール装置、フィルム・パターン・モックアップ等の転写・成形装置、紙幣・傷・血液・化学物質等の測定・検査装置に適用可能である。
【0058】
液体殺菌装置の例としては、冷蔵庫内の自動製氷装置・製氷皿および貯氷容器・製氷機用の給水タンク、冷凍庫、製氷機、加湿器、除湿器、ウォーターサーバの冷水タンク・温水タンク・流路配管、据置型浄水器、携帯型浄水器、給水器、給湯器、排水処理装置、ディスポーザ、便器の排水トラップ、洗濯機、透析用水殺菌モジュール、腹膜透析のコネクタ殺菌器、災害用貯水システム等が挙げられるが、この限りではない。
【0059】
気体殺菌装置の例としては、空気清浄器、エアコン、天井扇、床面用または寝具用の掃除機、布団乾燥機、靴乾燥機、洗濯機、衣類乾燥機、室内殺菌灯、保管庫の換気システム、靴箱、タンス等が挙げられるが、この限りではない。
【0060】
固体殺菌装置(表面殺菌装置を含む)の例としては、真空パック器、ベルトコンベヤ、医科用・歯科用・床屋用・美容院用のハンドツール殺菌装置、歯ブラシ、歯ブラシ入れ、箸箱、化粧ポーチ、排水溝のふた、便器の局部洗浄器、便器フタ等が挙げられるが、この限りではない。
【0061】
(1.6)第一実施形態の効果
第一実施形態に係る紫外線発光素子は、以下のような効果(1)~(7)を有する。
(1)紫外線発光素子1は、ドーパント原子を含み、ドーパント原子の濃度が厚み方向に濃度分布を有する第2導電型窒化物半導体層14を備えている。
これにより、紫外線発光素子1は、高い電力変換効率を有している。
【0062】
(2)紫外線発光素子1は、第2導電型窒化物半導体層14の厚み方向の中心領域14Aにおけるドーパント原子濃度が、第2導電型窒化物半導体層14の厚み方向の端部領域14Bにおけるドーパント原子濃度よりも低くなっていることが好ましい。
これにより、第2導電型窒化物半導体層14と、第2導電型窒化物半導体層14に接する層(例えば、第2電極15B、発光層13)とのコンタクトが向上し、第2導電型窒化物半導体層14に接する層との間のコンタクト抵抗を低減させて、紫外線発光素子1の電力変換効率を向上させることができる。また、紫外線発光素子1の閾値電圧を低下させ、発光強度を向上させることができる。
【0063】
(3)紫外線発光素子1は、ドーパント原子としてMg、ZnまたはBeの少なくとも一種が用いられることが好ましい。
これにより、紫外線発光素子1は、紫外線発光素子1の電力変換効率をより向上させることができ、また、紫外線発光素子1の閾値電圧を低下させ、発光強度を向上させることができる。
【0064】
(4)紫外線発光素子1は、ドーパント原子としてMgが用いられ、端部領域におけるMgの濃度が8×1019cm-3以上1×1021cm-3以下であり、中心領域におけるMgの濃度が1×1018cm-3以上4×1019cm-3以下であることが好ましい。
これにより、紫外線発光素子1は、紫外線発光素子1の電力変換効率が顕著に向上するとともに、紫外線発光素子1の閾値電圧を低下させ、発光強度を向上させることができる。
【0065】
(5)紫外線発光素子1は、ドーパント原子濃度が高い領域の厚さが、第2導電型窒化物半導体層14の厚さの5%以上50%以下であることが好ましい。
これにより、紫外線発光素子1は、紫外線発光素子1の電力変換効率が顕著に向上するとともに、紫外線発光素子1の閾値電圧を低下させ、発光強度を向上させることができる。
【0066】
(6)紫外線発光素子1は、第2導電型窒化物半導体層14の層厚が3nm以上200nm以下であることが好ましい。
これにより、紫外線発光素子1は、コンタクト抵抗および光吸収性が低下して、紫外線発光素子1の電力変換効率および発光強度が顕著に向上する。
【0067】
(7)紫外線発光素子1は、直下の層に対する第2導電型窒化物半導体層14の被覆率が80%以上100%以下となっていることが好ましい。
この場合、直下の層と第2導電型窒化物半導体層14との接触面積が向上して、電極(第2電極15B)が直下の層に直接接触する面積が低下する。これにより、リーク電流の抑制や、不連続変化が抑制され、I-V特性が向上する。
【0068】
(8)紫外線発光素子1は、第2導電型窒化物半導体層がAlxGa(1-x)N(0≦x≦0.2)で形成されていることが好ましい。
これにより、p型半導体としてのキャリア注入効率が向上するため、発光強度がより向上するとともに、I-V特性が向上し、閾値電圧が低下する。
【0069】
(9)紫外線発光素子1は、AlN単結晶で形成された基板11を備えている。
これにより、基板11の上側に形成される窒化物半導体層との格子定数差が小さくなり、基板11上に欠陥の少ない窒化物半導体層を成長させることができるため、発光強度が向上するとともに、他のデバイス特性も向上する。
【0070】
(10)紫外線発光素子1は、300nm以上750nm以下の厚さを有する第1導電型窒化物半導体層12を備えている。
これにより、第1導電型窒化物半導体層12が下地に対して格子緩和するとともに膜抵抗が減少し、発光強度が向上するとともに、他のデバイス特性も向上する。
【0071】
(11)第2導電型窒化物半導体層の面内a軸方向の格子定数が、直下の層に対して整合しており、ドーパント原子は格子に置換されている。
これにより、キャリア注入効率が高く、I-V特性の良好な第2導電型窒化物半導体層14を得ることができる。
【0072】
(12)紫外線発光素子1は、AlzGa(1-z)N(0.6≦z≦0.9)で形成された第1導電型窒化物半導体層12を備えている。
これにより、第1導電型窒化物半導体層12は、発光層13から放出された光の透過率が向上し、発光強度が向上するとともに、他のデバイス特性も向上する。
【0073】
2.第二実施形態
図3を参照して、第二実施形態に係る紫外線発光素子2について説明する。
図3に示すように、紫外線発光素子2は、基板11、第1導電型窒化物半導体層12、発光層13、第2導電型窒化物半導体層14を備えている。また、紫外線発光素子2は、第1導電型窒化物半導体層12と接続された第1電極15Aと、第2導電型窒化物半導体層14と接続された第2電極15Bと、第2導電型窒化物半導体層14上に設けられた反射電極25Cとを備えている。すなわち、紫外線発光素子2は、第2導電型窒化物半導体層14上に反射電極25Cを備える点で、第一実施形態に係る紫外線発光素子1と相違する。
【0074】
以下、反射電極25Cについて詳細に説明する。なお、基板11、第1導電型窒化物半導体層12、発光層13、第2導電型窒化物半導体層14、第1電極15Aおよび第2電極15Bは、紫外線発光素子1と同様の構成であるため説明を省略する。
【0075】
(2.1)紫外線発光素子の構成
(反射電極)
反射電極25Cは、発光層13から第2導電型窒化物半導体層14側へ放出された光を発光層13側へと反射し、紫外線発光素子2の発光強度を向上させる機能を有している。発光強度向上の観点から、反射電極25Cは、紫外光反射率が90%以上であることが好ましい。より具体的には、反射透過測定器において測定されたピーク波長265nmにおける反射電極25Cの紫外光反射率が90%以上であることが好ましい。
【0076】
反射電極25Cは、例えばAl、Ti、Pt、Rd、Ru、Ni、Rhで形成されるが、反射率を満たせばこの限りではない。反射電極25Cは、p型電極である第2電極15Bとして用いられてもよく、第2電極15B上に設けられてもよい。さらに、反射電極25Cは、第2導電型窒化物半導体層14上の第2電極15B以外の箇所に備えられてもよい。
また、反射電極にはHfO2やSiO2などの酸化物を積層した半導体多層膜分布ブラッグ反射鏡を用いてもよい。
反射電極25Cは、単層でもよく、複数層が積層されていてもよい。
【0077】
(2.2)紫外線発光素子の製造方法
反射電極25Cは、抵抗加熱蒸着、電子銃蒸着またはスパッタ等により形成されることが好ましいが、これら方法には限定されない。
【0078】
(2.3)第二実施形態の効果
第二実施形態に係る紫外線発光素子2は、第一実施形態において記載した効果に加えて以下の効果を有する。
(13)紫外線発光素子2は、第2導電型窒化物半導体層14上に設けられた反射電極25Cを備えている。
これにより、紫外線発光素子2は、発光層13から第2導電型窒化物半導体層14側へ放出された光を発光層13側へと反射し、紫外線発光素子2の発光強度を向上させることができる。
【0079】
3.第三実施形態
図4を参照して、第二実施形態に係る紫外線発光素子3について説明する。
図4に示すように、紫外線発光素子3は、基板11、第1導電型窒化物半導体層12、発光層13、組成傾斜層38および第2導電型窒化物半導体層14を備えている。また、紫外線発光素子3は、第1導電型窒化物半導体層12と接続された第1電極15Aと、第2導電型窒化物半導体層14と接続された第2電極15Bとを備えている。すなわち、紫外線発光素子3は、発光層13と第2導電型窒化物半導体層14との間に、Al組成が基板11から遠ざかる方向にむかって減少する組成傾斜層38を備える点で、第一実施形態に係る紫外線発光素子1と相違する。
【0080】
以下、組成傾斜層38について詳細に説明する。なお、基板11、第1導電型窒化物半導体層12、発光層13、第2導電型窒化物半導体層14、第1電極15Aおよび第2電極15Bは、紫外線発光素子1と同様の構成であるため説明を省略する。
【0081】
(3.1)紫外線発光素子の構成
(組成傾斜層)
組成傾斜層38は、発光層13と第2導電型窒化物半導体層14との間に設けられている。組成傾斜層38は、AlyGa(1-y)N(0.1≦y≦1.0)で形成され、基板11から遠ざかる方向に向かってAl組成yが減少している。組成傾斜層38のAl組成yは、基板11から遠ざかる方向に向かって減少している。組成傾斜層38におけるAl組成yのプロファイル(傾斜)は、連続的に減少してもよいし、断続的に減少してもよい。ここで、「断続的に減少する」とは、組成傾斜層38の膜中にAl組成yが同じになっている部分を含むことを意味する。つまり、組成傾斜層38には、基板11から遠ざかる方向にAl組成yが減少しない部分が含まれていてもよいが、増加する部分は含まれていない。
【0082】
組成傾斜層38は、分極ドーピング効果により正孔を生成させて、正孔を効率良く発光層13内の活性層に注入する作用を有する。このため、組成傾斜層38が発光層13と第2導電型窒化物半導体層14との間に設けられることで、紫外線発光素子3の発光効率を高めることができる。
組成傾斜層38の層厚は、発光効率を高める観点から、15nm以上60nm以下であることが好ましく、20nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0083】
組成傾斜層38は、発光層13と接触していてもよく、発光層13との間に別の層が存在していてもよい。また、組成傾斜層38は、第2導電型窒化物半導体層14と接触していてもよく、第2導電型窒化物半導体層14との間に別の層が存在していてもよい。
具体的には、発光層13と組成傾斜層38との間に電子ブロック層17が存在していても良い。
【0084】
ここで、本実施形態に係る紫外線発光素子3において、第2導電型窒化物半導体層14の被覆率は組成傾斜層38に対する被覆率を示す。
【0085】
(3.2)紫外線発光素子の製造方法
組成傾斜層38は、他の各層と同様に、分子線エピタキシー(MBE)法、ハイドライド気相成長(HVPE)法および有機金属気相成長(MOCVD)法等のいずれかにより形成することができる。また、導波路層49は、他の各層と同様に、例えばトリメチルアルミニウム(TMAl)を含むAl原料、例えばトリメチルガリウム(TMGa)またはトリエチルガリウム(TEGa)等を含むGa原料、例えばアンモニア(NH3)を含むN原料を用いて形成することができる。
【0086】
(3.3)紫外線発光素子の物性等の測定方法
(組成傾斜層のAl組成の測定方法)
組成傾斜層38のAl組成は、発光層13および電子ブロック層17等と同様に、X線光電分光法(XPS)、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、および電子エネルギー損失分光法(EELS)等によって測定することができる。
【0087】
(3.4)紫外線発光素子の変形例
本実施形態に係る紫外線発光素子3は、第二実施形態において説明した反射電極25Cを備えた構成(不図示)であっても良い。
【0088】
(3.5)第三実施形態の効果
第三実施形態に係る紫外線発光素子は、第一実施形態または第二実施形態において記載した効果に加えて以下の効果を有する。
(14)紫外線発光素子3は、発光層13と第2導電型窒化物半導体層14との間に設けられた組成傾斜層38を備えている。
これにより、紫外線発光素子3は、正孔を効率良く発光層13内の活性層に注入させ、紫外線発光素子3の発光効率を高めることができる。
【0089】
4.第四実施形態
図5を参照して、第四実施形態に係る紫外線発光素子4について説明する。
図5に示すように、第2紫外線発光素子は、基板11、第1導電型窒化物半導体層12、第1導波路層49A、発光層13、第2導波路層49B、第2導電型窒化物半導体層14を備えている。また、紫外線発光素子4は、第1導電型窒化物半導体層12と接続された4第1電極15Aと、第2導電型窒化物半導体層14と接続された第2電極15Bとを備えている。すなわち、紫外線発光素子4は、発光層13の上下それぞれに導波路層49(第1導波路層49Aおよび第2導波路層49B)を備える点で、第一実施形態に係る紫外線発光素子1と相違する。
【0090】
以下、導波路層49について詳細に説明する。なお、基板11、第1導電型窒化物半導体層12、発光層13、第2導電型窒化物半導体層14、第1電極15Aおよび第2電極15Bは、紫外線発光素子1と同様の構成であるため説明を省略する。
【0091】
(4.1)紫外線発光素子の構造
(導波路層)
導波路層49は、発光層13からの光を閉じ込める機能を有している。導波路層49は、光をより効率的に閉じ込める観点から、
図5に示すように、発光層13の上下に第1導波路層49Aおよび第2導波路層49Bとして配置されることが好ましい。
導波路層49は、例えばAl
pGa
(1-p)N(0.5≦p≦z)で形成されていることが好ましい。また、光閉じ込めの観点から、導波路層49のAl組成pは、第1導電型窒化物半導体層12のAl組成zより低いことが好ましい。
導波路層49には、P、As、Sb等のN以外のV族元素、C、H、F、O、Mg、Si、Be等の不純物が混入していてよい。
【0092】
(4.2)紫外線発光素子の製造方法
導波路層49は、他の各層と同様に、分子線エピタキシー(MBE)法、ハイドライド気相成長(HVPE)法および有機金属気相成長(MOCVD)法等のいずれかにより形成することができる。また、導波路層49は、他の各層と同様に、例えばトリメチルアルミニウム(TMAl)を含むAl原料、例えばトリメチルガリウム(TMGa)またはトリエチルガリウム(TEGa)等を含むGa原料、例えばアンモニア(NH3)を含むN原料を用いて形成することができる。
【0093】
(4.3)紫外線発光素子の物性等の測定方法
(導波路層のAl組成の測定方法)
導波路層49のAl組成は、発光層13および電子ブロック層17等と同様に、X線光電分光法(XPS)、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、および電子エネルギー損失分光法(EELS)等によって測定することができる。
【0094】
(4.4)紫外線発光素子の変形例
本実施形態に係る紫外線発光素子4は、発光層13の上下それぞれに設けられた導波路層49に加えて、第二実施形態において説明した反射電極25Cおよび第三実施形態において説明した組成傾斜層38の少なくとも一方を備えていても良い。この場合、組成傾斜層38は、発光層13の上部に設けられた第2導波路層49Bと、第2導電型窒化物半導体層14との間に設けられていれば良い。
【0095】
また、本実施形態に係る紫外線発光素子4は、発光層13の上下それぞれに設けられた導波路層49(第1導波路層49Aおよび第2導波路層49B)に加えて、第四実施形態に係る紫外線発光素子2と同様に組成傾斜層38を備えていても良い。この場合、組成傾斜層38は、発光層13の上部に設けられた第2導波路層49Bと、第2導電型窒化物半導体層14との間に設けられていれば良い。
【0096】
(4.5)第四実施形態の効果
第四実施形態に係る紫外線発光素子は、第一実施形態から第三実施形態において記載した効果のいずれかに加えて以下の効果を有する。
(15)紫外線発光素子4は、発光層13の上下それぞれに設けられた導波路層49(第1導波路層49Aおよび第2導波路層49B)を備えている。
これにより、紫外線発光素子4は、発光層13からの光を効率的に外部に導き、紫外線発光素子4の発光効率を高めることができる。
【実施例】
【0097】
[実施例1]
厚さが550μmのc面AlN単結晶基板に対して、有機金属気相成長(MOCVD)装置を用いて、アニール処理を行った。アニール処理は、1300℃において、NH3雰囲気中での5分間の処理と、H2雰囲気中での5分間の処理とを1セットとして、2セット実施した。
次に、ホモエピタキシャル層であるAlN層を、1200℃において、500nmの厚さで形成した。このとき、III族元素原料ガスの供給レートと窒素原料ガスの供給レートとの比率(V/III比)は、50とした。また、真空度は50mbarとした。また、AlN層の成長レートは0.5μm/hrであった。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、N原料としてアンモニア(NH3)を用いた。
【0098】
上述したように形成したAlN層上に、n型AlGaN層である第1導電型窒化物半導体層を形成した。第1導電型窒化物半導体層は、Siをドーパント不純物として用いたn型AlGaN層(Al:70%、すなわちAl0.70Ga0.30N層)とした。
第1導電型窒化物半導体層は、1080℃の温度で、真空度を50mbarに設定し、V/III比を4000とした条件で500nmの厚さで形成した。このときの第1導電型窒化物半導体層の成長レートは、0.5μm/hrであった。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。また、N原料としてアンモニア(NH3)を用いた。また、Si原料としてモノシラン(SiH4)を用いた。
【0099】
続いて、第1導電型窒化物半導体層上に発光層を形成した。発光層は、量子井戸層とバリア層とを5周期積層させた多重量子井戸構造を有するように成膜して形成した。ここで、量子井戸層は、3.0nmの厚さを有するAlGaN層(Al:52%、すなわちAl0.52Ga0.48N層)とした。また、6.0nmの厚さを有するバリア層は、AlGaN層(Al:75%、すなわちAl0.75Ga0.25N層)とした。
発光層は、真空度を50mbarに設定し、V/III比を4000とした条件で形成した。このときの量子井戸層の成長レートは0.18μm/hrであった。また、バリア層の成長レートは0.15μm/hrであった。
【0100】
続いて、発光層上に電子ブロック層を形成した。ここで、電子ブロック層は、15nmの厚さを有するAlGaN層(Al:85%、すなわちAl0.85Ga0.15N層)とした。
電子ブロック層は、真空度を50mbarに設定し、V/III比を4000とした条件で形成した。このときの電子ブロック層の成長レートは0.12μm/hrであった。
【0101】
続いて、電子ブロック層上に組成傾斜層を形成した。ここで、組成傾斜層は、35nmの厚さを有し、Al組成が75%から30%まで一様に傾斜しているAlGaN層(Al:70→30%、すなわちAl0.75Ga0.25N→Al0.3Ga0.7N層)とした。
組成傾斜層は、真空度を50mbarに設定し、V/III比を4000とした条件で形成した。
【0102】
続いて、組成傾斜層上に第2導電型窒化物半導体層を形成した。ここで、第2導電型窒化物半導体層は、10nmの厚さを有し、Mgをドーパント不純物として用いたp型GaN層(すなわちAl:0%)とした。
第2導電型窒化物半導体層は、920℃の温度で、真空度を150mbarに設定し、V/III比を3650とした条件で形成した。このときの第2導電型窒化物半導体層の成長レートは0.2μm/hrであった。
第2導電型窒化物半導体層を成膜する際に、Mgの濃度分布が生じるように成膜した。具体的には、Mg濃度が1×1020cm-3、膜厚が2nmとなるように1層目を成膜し、さらにその上にMg濃度が1×1019cm-3、膜厚が6nmとなるように2層目を成膜し、最後にMg濃度が1×1020cm-3、膜厚が2nmとなるように3層目を成膜した。これにより、総厚が10nmでMgの濃度分布が生じている第2導電型窒化物半導体層を成膜した。Mg濃度は、Mgの流量を調整し、膜厚は成膜時間を調整することで第2導電型窒化物半導体層を成膜した。
以上のようにして、AlN基板上に、窒化物半導体積層体が形成された。
【0103】
上述したようにして形成された窒化物半導体積層体を、SEMを用いて観察したところ、直下の層である組成傾斜層に対する第2導電型窒化物半導体層の表面被覆率は85%であった。最後に、高分解能TEMによる断面TEM測定を行ったところ、組成傾斜層と第2導電型窒化物半導体層とは格子整合していた。また、得られた第2導電型窒化物半導体層の一部を、APTを用いて測定したところ、第2導電型窒化物半導体層のMg濃度と膜厚は所望のものが得られていた。
【0104】
得られた窒化物半導体積層体を第2導電型窒化物半導体層側からドライエッチングすることによって、n型AlGaN層である第1導電型窒化物半導体層の一部を露出させた。露出した第1導電型窒化物半導体層上に、Ti、Al、NiおよびAuを含む合金電極(n型電極に相当)を形成した。また、p型GaN層である第2導電型窒化物半導体層上に、NiおよびAuを含む合金電極(p型電極に相当)を形成した。AlN基板を、厚さが100μmになるように裏面から研削した後、ダイシングにより窒化物半導体積層体を紫外線発光素子の個片へと分割した。
得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.8V、ピーク波長265nmにおける発光強度は44mWであった。また、このときのWPEは1.29%であった。
【0105】
[実施例2]
第2導電型窒化物半導体層における1層目および3層目のMg濃度が3×1020cm-3、表面被覆率が85%となるように第2導電型窒化物半導体層を形成した以外は、実施例1と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.6V、ピーク波長265nmにおける発光強度は45mWであった。また、このときのWPEは1.36%であった。
【0106】
[実施例3]
第2導電型窒化物半導体層における1層目および3層目のMg濃度が7×1020cm-3、表面被覆率が100%となるように第2導電型窒化物半導体層を形成した以外は実施例1と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.2V、ピーク波長265nmにおける発光強度は50mWであった。また、このときのWPEは1.61%であった。
【0107】
[実施例4]
第2導電型窒化物半導体層における1層目および3層目のMg濃度が9×1020cm-3とした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.3V、ピーク波長265nmにおける発光強度は49mWであった。また、このときのWPEは1.56%であった。
【0108】
[実施例5]
第2導電型窒化物半導体層における1層目および3層目のMg濃度が6×1019cm-3とし、表面被覆率が75%となるように第2導電型窒化物半導体層を形成した以外は実施例1と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は7.0V、ピーク波長265nmにおける発光強度は39mWであった。また、このときのWPEは1.11%であった。
【0109】
[実施例6]
第2導電型窒化物半導体層における1層目および3層目のMg濃度が3×1021cm-3となるように第2導電型窒化物半導体層を形成した以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は7.2V、ピーク波長265nmにおける発光強度は41mWであった。また、このときのWPEは1.14%であった。
【0110】
[実施例7]
第2導電型窒化物半導体層における2層目のMg濃度が3×1019cm-3となるように第2導電型窒化物半導体層を形成した以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.1V、ピーク波長265nmにおける発光強度は48mWであった。また、このときのWPEは1.57%であった。
【0111】
[実施例8]
第2導電型窒化物半導体層における2層目のMg濃度が7×1018cm-3となるように第2導電型窒化物半導体層を形成した以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.5V、ピーク波長265nmにおける発光強度は45mWであった。また、このときのWPEは1.38%であった。
【0112】
[実施例9]
第2導電型窒化物半導体層における2層目のMg濃度が3×1018cm-3となるように第2導電型窒化物半導体層を形成した以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.8V、ピーク波長265nmにおける発光強度は43mWであった。また、このときのWPEは1.26%であった。
【0113】
[実施例10]
第2導電型窒化物半導体層における2層目のMg濃度が6×1019cm-3となるように第2導電型窒化物半導体層を形成した以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は7.3V、ピーク波長265nmにおける発光強度は44mWであった。また、このときのWPEは1.21%であった。
【0114】
[実施例11]
第2導電型窒化物半導体層における1層目および3層目のMg濃度が1×1019cm-3、2層目のMg濃度が7×1020cm-3となるように第2導電型窒化物半導体層を形成した以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は7.2V、ピーク波長265nmにおける発光強度は40mWであった。また、このときのWPEは1.11%であった。
【0115】
[実施例12]
第2導電型窒化物半導体層における2層目のMg濃度が7×1017cm-3となるように第2導電型窒化物半導体層を形成した以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は7.1V、ピーク波長265nmにおける発光強度は40mWであった。また、このときのWPEは1.13%であった。
【0116】
[実施例13]
第2導電型窒化物半導体層におけるドーパント原子としてZnを用いた以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.2V、ピーク波長265nmにおける発光強度は49mWであった。また、このときのWPEは1.58%であった。
【0117】
[実施例14]
第2導電型窒化物半導体層におけるドーパント原子としてBeを用いた以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.2V、ピーク波長265nmにおける発光強度は49mWであった。また、このときのWPEは1.58%であった。
【0118】
[実施例15]
第2導電型窒化物半導体層における1層目および3層目の膜厚をそれぞれ1nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.2V、ピーク波長265nmにおける発光強度は50mWであった。また、このときのWPEは1.61%であった。
【0119】
[実施例16]
第2導電型窒化物半導体層における1層目および3層目の膜厚をそれぞれ3.5nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は7.1V、ピーク波長265nmにおける発光強度は41mWであった。また、このときのWPEは1.15%であった。
【0120】
[実施例17]
第2導電型窒化物半導体層の層厚を2nmとし、1層目および3層目の膜厚をそれぞれ0.5nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.7V、ピーク波長265nmにおける発光強度は50mWであった。また、このときのWPEは1.49%であった。
【0121】
[実施例18]
第2導電型窒化物半導体層の層厚を20nmとし、1層目および3層目の膜厚をそれぞれ3nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.0V、ピーク波長265nmにおける発光強度は43mWであった。また、このときのWPEは1.43%であった。
【0122】
[実施例19]
第2導電型窒化物半導体層の層厚を150nmとし、1層目および3層目の膜厚をそれぞれ5nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は5.9V、ピーク波長265nmにおける発光強度は40mWであった。また、このときのWPEは1.36%であった。
【0123】
[実施例20]
第2導電型窒化物半導体層の層厚を250nmとし、1層目および3層目の膜厚をそれぞれ7.5nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.3V、ピーク波長265nmにおける発光強度は35mWであった。また、このときのWPEは1.11%であった。
【0124】
[実施例21]
第2導電型窒化物半導体層におけるAl組成を10%とした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.6V、ピーク波長265nmにおける発光強度は48mWであった。また、このときのWPEは1.45%であった。
【0125】
[実施例22]
第2導電型窒化物半導体層におけるAl組成を18%とした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は7.0V、ピーク波長265nmにおける発光強度は43mWであった。また、このときのWPEは1.23%であった。
【0126】
[実施例23]
第2導電型窒化物半導体層におけるAl組成を25%とした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は7.4V、ピーク波長265nmにおける発光強度は39mWであった。また、このときのWPEは1.05%であった。
【0127】
[実施例24]
組成傾斜層を設けなかった以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は7.2V、ピーク波長265nmにおける発光強度は38mWであった。また、このときのWPEは1.06%であった。
【0128】
[実施例25]
組成傾斜層の膜厚を10nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は7.1V、ピーク波長265nmにおける発光強度は39mWであった。また、このときのWPEは1.10%であった。
【0129】
[実施例26]
組成傾斜層の膜厚を20nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.4V、ピーク波長265nmにおける発光強度は45mWであった。また、このときのWPEは1.41%であった。
【0130】
[実施例27]
組成傾斜層の膜厚を50nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.1V、ピーク波長265nmにおける発光強度は43mWであった。また、このときのWPEは1.41%であった。
【0131】
[実施例28]
組成傾斜層の膜厚を70nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.3V、ピーク波長265nmにおける発光強度は39mWであった。また、このときのWPEは1.24%であった。
【0132】
[実施例29]
第1導電型窒化物半導体層の層厚を200nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は8.5V、ピーク波長265nmにおける発光強度は50mWであった。また、このときのWPEは1.18%であった。
【0133】
[実施例30]
第1導電型窒化物半導体層の層厚を300nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は6.9V、ピーク波長265nmにおける発光強度は50mWであった。また、このときのWPEは1.45%であった。
【0134】
[実施例31]
第1導電型窒化物半導体層の層厚を800nmとした以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は5.9V、ピーク波長265nmにおける発光強度は35mWであった。また、このときのWPEは1.19%であった。
【0135】
[比較例1]
第2導電型窒化物半導体層を成膜する際に、Mgの濃度分布が生じないように成膜した。具体的には、第2導電型窒化物半導体層の全体において、Mg濃度が7×1020cm-3となり、一様に存在するように第2導電型窒化物半導体層を成膜した。これ以外は実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。
上述のようにして形成された窒化物半導体積層体を、SEMを用いて観察したところ、直下の層である組成傾斜層に対する第2導電型窒化物半導体層の表面被覆率は100%であった。最後に、高分解能TEMによる断面TEM測定を行ったところ、組成傾斜層と第2導電型窒化物半導体層とは格子整合していた。また、得られた窒化物半導体積層体の一部を、APTを用いて測定したところ、第2導電型窒化物半導体層のMg濃度と膜厚は所望のものが得られていた。
【0136】
得られた窒化物半導体積層体を第2導電型窒化物半導体層側からドライエッチングすることによって、n型AlGaN層である第1導電型窒化物半導体層の一部を露出させた。露出した第1導電型窒化物半導体層上に、Ti、Al、NiおよびAuを含む合金電極(n型電極に相当)を形成した。また、p型GaN層である第2導電型窒化物半導体層上に、NiおよびAuを含む合金電極(p型電極に相当)を形成した。AlN基板を、厚さが100μmになるように裏面から研削した後、ダイシングにより窒化物半導体積層体を紫外線発光素子の個片へと分割した。
得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は7.2V、ピーク波長265nmにおける発光強度は37mWであった。また、このときのWPEは1.03%であった。
【0137】
[比較例2]
基板を厚さが450μmのc面サファイア基板とし、サファイア基板上にMOCVD法によって成長させたAlN薄膜を設けた。また、第2導電型窒化物半導体層の形成条件を変更して、組成傾斜層に対する第2導電型窒化物半導体層の表面被覆率が65%となるように調整した以外は、実施例3と同様の方法で紫外線発光素子を形成した。
得られた紫外線発光素子を、電流500mAで駆動させて評価したところ、駆動電圧は7.3V、ピーク波長265nmにおける発光強度は22mWであった。また、このときのWPEは0.60%であった。
【0138】
以下の表1に、各実施例および比較例の構成と、評価とを示す。
【0139】
【0140】
表1に示すように、基板がAlを含む窒化物半導体であり、ドーパント原子濃度が第2導電型窒化物半導体層の厚み方向に濃度分布を有する実施例1から実施例31の各紫外線発光素子は、ドーパント原子濃度が濃度分布を有していない比較例1、基板がAlを含まない比較例2のいずれと比較しても高い発光強度を有するとともに、高いWPEを有することがわかった。また、第2導電型窒化物半導体層の厚み方向の中心領域におけるドーパント原子濃度が端部領域におけるドーパント原子濃度よりも低くなっている実施例1から実施例31の各紫外線発光素子は、このような濃度分布を有していない比較例1と比較して高い発光強度を有するとともに、高いWPEを有することがわかった。
【0141】
また、実施例3、実施例13および実施例14からわかるように、ドーパント原子がMg、ZnまたはBeの少なくとも一種であることが好ましく、特にドーパント原子がMgである場合に、発光強度およびWPEが更に向上した。そして、実施例3、実施例13,14と、実施例5,6とから、ドーパント原子濃度が8×1019cm-3から1×1021cm-3の範囲である場合、Mg濃度がこの範囲外である場合と比較して、各ダイオード特性がより向上することがわかった。
【0142】
実施例3、実施例15、実施例17から20と実施例16とから、第2導電型窒化物半導体層におけるドーパント高濃度領域の厚さが第2導電型窒化物半導体層の厚さの5%以上50%以下である場合、発光強度が向上するとともに閾値電圧の低下やWPEが向上することがわかった。
また、実施例3、実施例17から実施例19と、実施例20とから、第2導電型窒化物半導体層は薄いほど発光強度が向上し、特に3nm以上200nm以下であることでより発光強度がより向上することがわかった。
【0143】
実施例1から実施例5と、比較例2から、直下の層に対する第2窒化物半導体層の被覆率を70%以上とすることにより、発光強度が向上するとともに閾値電圧が低下し、WPEも大幅に向上することがわかった。
実施例3と実施例9とから、発光層と第2導電型窒化物半導体層との間に組成傾斜層を有する場合、組成傾斜層を有しない場合と比較して発光強度が向上するとともに、閾値電圧が低下することが確認できた。
また、実施例3、実施例25から実施例27と実施例28とから、組成傾斜層の層厚が15nm以上60nm以下である場合に発光強度がより向上するとともに、閾値電圧が低下することが確認できた。
【0144】
実施例1から実施例6と、比較例2とから、基板はAlを含むAlN等の窒化物半導体で形成されていることが好ましいことがわかった。
【0145】
本開示の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本開示が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本開示の範囲は、請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。
【符号の説明】
【0146】
1,2,3,4 紫外線発光素子
11 基板
12 第1導電型窒化物半導体層
13 発光層
14 第2導電型窒化物半導体層
15A 第1電極
15B 第2電極
16 AlN層
17 電子ブロック層
25C 反射電極
38 組成傾斜層
49 導波路層
49A 第1導波路層
49B 第2導波路層